特許第6983378号(P6983378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983378
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20211206BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20211206BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20211206BHJP
【FI】
   B29C64/40
   B33Y10/00
   B29C64/112
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-209742(P2017-209742)
(22)【出願日】2017年10月30日
(65)【公開番号】特開2019-81296(P2019-81296A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2020年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千草
(72)【発明者】
【氏名】石田 方哉
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 郷志
(72)【発明者】
【氏名】平田 嵩貴
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−255839(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/121587(WO,A1)
【文献】 特開2010−155889(JP,A)
【文献】 特開2013−067121(JP,A)
【文献】 特開2014−083744(JP,A)
【文献】 米国特許第08798512(US,B2)
【文献】 特許第6033510(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 − 64/40
B33Y 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形物を形成するモデル材(A)と、造形時に前記モデル材(A)の形状を支持するサポート材(B)とから形成された粗造形物を形成する粗造形物形成工程を有し、
前記サポート材(B)が、溶解性サポート材(B−1)からなる部分と、水もしくはイソプロパノールに対して膨潤性である膨潤性サポート材(B−2)からなる部分とを有し、
前記サポート材(B)のうち、前記モデル材(A)と接する部分の少なくとも一部が前記溶解性サポート材(B−1)である、
三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
前記溶解性サポート材(B−1)が、熱により、又は、溶剤に浸漬することにより溶解するものである、
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
前記膨潤性サポート材(B−2)が、溶剤に浸漬することにより10%以上膨潤するものである、
請求項1又は2に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
前記粗造形物形成工程が、前記モデル材(A)となる光硬化性組成物(a)と、前記サポート材(B)となる光硬化性組成物(b)と、をインクジェット方式により吐出することにより前記粗造形物の断面パターンを形成する吐出工程と、光照射により前記断面パターンを構成する各組成物を硬化させる工程と、を繰り返し行うものであり、
前記サポート材(B)となる光硬化性組成物(b)のうち、前記モデル材(A)となる光硬化性組成物(a)と接する部分の少なくとも一部が前記溶解性サポート材(B−1)となる光硬化性組成物(b−1)である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
前記溶解性サポート材(B−1)となる光硬化性組成物(b−1)が、
SP値が9以上16以下であり、分子量が200以下である単官能(メタ)アクリルアミド化合物と、光重合開始剤と、を含有し、
単官能(メタ)アクリルアミド化合物(A)の含有量が、放射線硬化型組成物全体(100質量%)に対して、50質量%以上99質量%以下である、
請求項4に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元の形状データをもとに、樹脂粒子や金属粒子などを融着させること又は樹脂組成物を硬化させること等により、薄膜状に積み重ねて目的の立体造形物を得る三次元造形技術が知られている。そのなかで、樹脂組成物を硬化させる方法としては、インクジェット方式により光硬化性樹脂組成物の微小液滴をノズルから所定パターンを描画するように吐出する工程と、紫外線などの放射線を照射して、吐出した光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程とを繰り返し、立体造形物を形成する方法が知られている。
【0003】
このような造形法において、複雑な形状の立体造形物を形成する場合には、立体造形物が形成された後に除去される支持体を造形物と一緒に造形することが行われている。例えば、特許文献1には、サポート材として十分な硬度と剛性を有し、高精度でサポートすることが可能であり、また、造形後に効率よく除去でき、かつ仕上げ工程を不要とした立体造形物の製造方法を提供することを目的として、造形物を形成するモデル材(A)と、造形時にモデル材(A)の形状を支持するサポート材(B)から形成された粗造形物を水又はイソプロパノールである洗浄液に浸漬し、サポート材(B)が10%以上の膨潤率で膨潤することにより、膨潤率が1%以下であるモデル材(A)との界面から剥離し、立体造形物を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号WO16/125816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1に記載のように外力を加えることなくモデル材からサポート材を除去する方法ではサポート材の占める体積が大きいほど除去に時間を要し、三次元造形物の製造方法全体のスループットの低下を招くという問題がある。また、超音波振動や洗浄液の流れ(ウォータージェット)などの外力を加えることにより、サポート部を除去する方法も知られているが、依然としてサポート部の除去に時間がかかるという課題が解決されているとは言い難く、さらに外力を加える方法においては、造形物の表面に損傷を与えたり、造形物の細かい部分が破損されるという新たな問題が生じる。
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、サポート部の除去効率に優れ、かつ、造形物に損傷を与え難い三次元造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、サポート材として溶解性サポート材(B−1)と膨潤性サポート材(B−2)とを用い、かつ、溶解性サポート材(B−1)を所定の箇所に配することにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の三次元造形物の製造方法は、造形物を形成するモデル材(A)と、造形時に前記モデル材(A)の形状を支持するサポート材(B)とから形成された粗造形物を形成する粗造形物形成工程とを有し、前記サポート材(B)が、溶解性サポート材(B−1)からなる部分と、水もしくはイソプロパノールに対して膨潤性である膨潤性サポート材(B−2)からなる部分とを有し、前記サポート材(B)のうち、前記モデル材(A)と接する部分の少なくとも一部が前記溶解性サポート材(B−1)である方法である。このように、モデル材(A)との界面の少なくとも一部に溶解性サポート材(B−1)を配置し、それ以外の部分に膨潤性サポート材(B−2)を配することで、造形物のサイズが大きく、サポート部の体積が大きい場合であったとしても、モデル材(A)の界面に存在する溶解性サポート材(B−1)が溶解することにより膨潤性サポート材(B−2)を一気に取り除くことが可能となり、除去時間の短縮が達成される。また、造形物のサイズが小さく、細かい部分がある場合にも、造形物に圧力をかけることなく水溶性サポート材(B−1)を容易に除去することができる。さらに、溶解性サポート材(B−1)の使用量が少なくて済むため、溶解させるための溶剤量を減らすことができ、廃棄性の観点においても有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】目的とする造形物の一例を示す図である。
図2】本実施形態の三次元造形物の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートの両方を意味する。
【0011】
〔三次元造形物の製造方法〕
本実施形態の三次元造形物の製造方法は、造形物を形成するモデル材(A)と、造形時にモデル材(A)の形状を支持するサポート材(B)とから形成された粗造形物を形成する粗造形物形成工程を有し、サポート材(B)が、溶解性サポート材(B−1)からなる部分と膨潤性サポート材(B−2)からなる部分とを有し、サポート材(B)のうち、モデル材(A)と接する部分の少なくとも一部が溶解性サポート材(B−1)である。
【0012】
〔粗造形物形成工程〕
粗造形物形成工程は、造形物を形成するモデル材(A)と、造形時にモデル材(A)の形状を支持するサポート材(B)とから形成された粗造形物を形成する工程である。図1に目的とする造形物の一例を示し、図2に本実施形態の三次元造形物の製造方法の一例を示す。三次元の形状データをもとに造形物の断面パターンを薄膜状に積み重ねて目的の立体造形物を得る三次元造形技術において、図1のような本体部11と突出部12とを有するような造形物10を製造する場合、まずは基材30上に本体部11となるモデル材11aと突出部12の下方に配されるサポート材12aからなる断面パターンを形成する(図2(a))。そして、断面パターンを徐々に積み重ね(図2(b))、最終的にモデル材11aとその形状(突出部12)を支持するサポート材12aとから形成された粗造形物10aを得る(図2(c))。そして、最後にサポート材12aを除去することで、造形物10が得られる(図2(d)〜(e))。
【0013】
本実施形態においては、サポート材(B)として、溶解性サポート材(B−1)と膨潤性サポート材(B−2)とを用い、溶解性サポート材(B−1)がモデル材(A)と接するように粗造形物を形成する。なお、溶解性サポート材(B−1)は、モデル材(A)の表面の一部と接していればよいが、その接面積は多いほど好ましい。特に、溶解性サポート材(B−1)は、造形物の細部を構成するモデル材(A)と接するように配されることが好ましく、また、膨潤性サポート材(B−2)は、その除去の容易性から、造形物の主に外側部分のサポート材として用いられることが好ましい。これにより、膨潤性サポート材の除去容易性を確保しつつも、微細構造を持つ造形物の場合において、膨潤性サポート材がその微細構造部分で膨潤し、結果として造形物が破損することを抑制できる。
【0014】
粗造形物形成工程は、モデル材(A)となる光硬化性組成物(a)と、サポート材(B)となる光硬化性組成物(b)と、をインクジェット方式により吐出することにより粗造形物の断面パターンを形成する吐出工程と、光照射により断面パターンを構成する各組成物を硬化させる工程と、を繰り返し行うものであることが好ましい。この際、サポート材(B)となる光硬化性組成物(b)のうち、モデル材(A)となる光硬化性組成物(a)と接する部分の少なくとも一部が溶解性サポート材(B−1)となる光硬化性組成物(b−1)である。但し、粗造形物形成工程はこれに制限されるものではなく、光硬化性組成物(a)及び(b)に代えて熱硬化性組成物を用いてもよいし、樹脂粒子に対して硬化性樹脂を付与し、硬化させることで断面パターンを形成するものであってもよい。以下、モデル材(A)及びモデル材(A)となる光硬化性組成物(a)と、サポート材(B)及びサポート材(B)となる光硬化性組成物(b)について説明する。なお、断面パターンとは、例えば、CADデータなどに基づき、所望の立体造形物の形状を、複数に分割した断面形状をいう。
【0015】
(モデル材(A))
モデル材(A)は、造形物を形成するものであり、除去工程において粗造形物から除去されないものである。モデル材(A)となる光硬化性組成物(a)は、重合性化合物と、光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、着色剤、溶剤、及びレベリング剤等を含有してもよい。
【0016】
(重合性化合物)
重合性化合物としては、特に制限されないが、例えば、重合性不飽和結合を有するモノマー又はオリゴマーが挙げられる。このような重合性化合物のなかでも、ビニルエーテル骨格を有する(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートモノマー、及び芳香環骨格を有する(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。なお、重合性化合物は1種を単独で用いても、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ビニルエーテル骨格含有(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの化合物は、公知の方法に準じて調製してもよく、市販品を用いてもよい。
【0018】
脂肪族エーテル骨格含有(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えば、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート)、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体のジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、より強靭な塗膜が得られ、低粘度である観点から、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートであることが好ましく、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0019】
芳香環骨格含有(メタ)アクリレートモノマーとしては、芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0020】
重合性化合物は、これらの中でも、光重合開始剤の溶解性を良好なものとすることができ、重合性化合物のSP値を低下できる観点から、芳香環骨格含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを含有することが好ましく、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレートを含有することがより好ましい。
【0021】
光硬化性組成物(a)に含まれる重合性化合物のSP値は、剥離性向上の観点から、光硬化性組成物(b)に含まれる重合性化合物のSP値よりも低いことが好ましい。より詳細には、光硬化性組成物(a)に含まれる重合性化合物のSP値と光硬化性組成物(b)に含まれる重合性化合物のSP値との差は、好ましくは0.2〜1.5、より好ましくは0.3〜1.0、さらに好ましくは0.4〜0.8である。
【0022】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記光重合性化合物の重合を開始できるものであれば特に制限されないが、例えば、例えば、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤は1種を単独で用いても、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオフェニル基含有化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、及びチオキサントン化合物が挙げられる。これらの中でも、放射線硬化型組成物の硬化性を良好にできる観点から、アシルフォスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物の少なくとも一方であることが好ましい。
【0024】
アシルフォスフィン化合物としては、特に制限されないが、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリエチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、及び2,4,6−トリフェニルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどのモノアシルフォスフィンオキサイド化合物;ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどのビスアシルフォスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
【0025】
チオキサントン化合物としては、アシルフォスフィンオキサイドへの増感性の向上、及び重合性化合物に対する溶解性の向上の観点から、2,4−ジエチルオキサントンが好ましい。
【0026】
(着色剤)
着色剤としては、顔料及び染料(例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料など)が挙げられる。このなかでも、耐光性が良好である観点から、顔料であることが好ましい。なお、顔料としては、無機顔料及び有機顔料を用いることができ、カラーインデックスが付されている公知のものを用いることができる。また、カラーインデックスが付されていないものであっても、公知の顔料であれば用いることが可能である。
【0027】
(溶剤)
溶剤としては、特に制限されないが、例えば、水や水溶性有機溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、低級アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、及び2−メチル−2−プロパノール)、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びトリプロピレングリコール)、グリセリン、アセチン類(例えば、モノアセチン、ジアセチン、及びトリアセチン)、グリコール類の誘導体(例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジエチルエーテル)、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオジグリコール、及びスルホランが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
(レベリング剤)
レベリング剤(界面活性剤)をさらに含んでもよい。レベリング剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製商品名)を挙げることができる。
【0029】
(溶解性サポート材(B−1))
溶解性サポート材(B−1)は、熱により、又は、溶剤に浸漬することにより溶解するものであることが好ましい。本実施形態において熱により溶解するとは、溶解性サポート材の融点が、好ましくは90℃以下であることをいい、より好ましくは40〜80℃であることをいい、さらに好ましくは50〜70℃であることをいう。また、溶剤に浸漬することにより溶解するとは、溶解性サポート材を25℃の溶剤に浸漬してから完全に溶解するまでの時間が、好ましくは6時間以下であることをいい、より好ましくは4時間以下であることをいい、さらに好ましくは2時間以下であることをいう。なお、溶剤としてはイオン交換水もしくはイソプロパノールを使用することができる。
【0030】
熱により溶解する溶解性サポート材(B−1)としては、特に制限されないが、例えば、ウレタンワックス、水素化ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックス、及び脂肪酸アミドワックスが挙げられる。また、このような溶解性サポート材(B−1)を構成するための組成物は、これらワックス材を含み、必要に応じて、溶剤及びレベリング剤等を含有してもよい。なお、溶解性は、樹脂の選択により調製することができる。
【0031】
また、溶剤に浸漬することにより溶解する溶解性サポート材(B−1)としては、特に制限されないが、例えば、溶剤、特に水への親和性の観点から、比較的SP値の高い重合性化合物と、光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物(b−1)の硬化物を用いることができる。光硬化性組成物(b−1)は、必要に応じて、溶剤及びレベリング剤等を含有してもよい。光重合開始剤としては、モデル材(A)で記載したものと同様のものを用いることができる。
【0032】
このような重合性化合物としては、特に制限されないが、例えば、SP値が9以上16以下であり、分子量が200以下である単官能(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。単官能(メタ)アクリルアミド化合物の含有量は、溶解性の観点から、光硬化性組成物(b−1)の総量に対して、50質量%以上99質量%以下が好ましい。
【0033】
単官能(メタ)アクリルアミド化合物の分子量は、200以下であり、好ましくは180以下であり、より好ましくは150以下である。分子量が200以下であることにより、除去容易性がより向上する傾向にある。
【0034】
また、単官能(メタ)アクリルアミド化合物のSP値は、9以上16以下であり、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは12以下である。SP値が上記範囲内にあることにより、浸水による除去性がより向上する。なお、本明細書にいう「SP値」は、smallの推算法により算出される。
【0035】
単官能(メタ)アクリルアミド化合物としては、特に制限されないが、例えば、下記式(I)で表されるものが挙げられる。
【化1】
(一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、R1及びR2は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、水酸基を有する炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシアルキル基(例えば、炭素原子数1〜2のアルコキシ基を有する炭素原子数1〜4のアルキル基)、アミノ基を有する炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜2のN−アルキルアミノ基を有する炭素原子数1〜4のアルキル基、又は炭素原子数1〜4のN,N−ジアルキルアミノ基を有する炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
このような単官能(メタ)アクリルアミド化合物としては、特に制限されないが、例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミドのようなN−アルキル(メタ)アクリルアミド;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミドのようなN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミドのようなN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−アミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアミノメチル(メタ)アクリルアミドのようなN−アミノアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミドのようなN,N−ジアルコキシ(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。これらの化合物の中でもN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0037】
また、光硬化性組成物(b−1)は、上記以外の重合性化合物を含有してもよい。その他の重合性化合物としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートオリゴマー;ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0038】
(膨潤性サポート材(B−2))
膨潤性サポート材(B−2)は、溶剤に浸漬することにより10%以上膨潤するものであることが好ましい。本実施形態における膨潤率は、50mm×20mm×1mmの膨潤性サポート材を、25℃の溶剤に24時間浸漬し、浸漬前後の膨潤性サポート材の長辺の長さから下記式により求め膨潤率を算出することにより求めることができる。なお、洗浄液としてはイオン交換水もしくはイソプロパノールを使用することができる。
膨潤率(%)=(浸漬後の硬化物の長さ−浸漬前の硬化物の長さ)/浸漬前の硬化物の長さ×100
【0039】
膨潤性サポート材の膨潤率は、好ましくは50〜500%であり、より好ましくは75〜400%であり、さらに好ましくは100〜300%である。膨潤率が上記範囲にあることにより、モデル材とサポート材の膨張収縮の差により生じた内部及び溶剤の選択により調整することができる。
【0040】
膨潤性サポート材(B−2)としては、特に制限されないが、例えば、重合性化合物と、光重合開始剤とを含有する光硬化性組成物(b−2)の硬化物を用いることができる。光硬化性組成物(b−2)は、必要に応じて、溶剤及びレベリング剤等を含有してもよい。光重合開始剤としては、モデル材(A)で記載したものと同様のものを用いることができる。
【0041】
このような重合性化合物としては、特に制限されないが、エチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリオールと、1分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリアミドとの付加反応で得られるポリエチレングリコール骨格を有するウレタンアクリルアミド;アクリルアミドが挙げられる。
【0042】
上記ウレタンアクリルアミドの含有量は、光硬化性組成物(b−2)の総量に対して、好ましくは0.5〜5.0質量%であり、より好ましくは0.5質量%である。また、上記アクリルアミドの含有量は、光硬化性組成物(b−2)の総量に対して、好ましくは0〜50.0質量%である。
【0043】
〔除去工程〕
除去工程は、粗造形物からサポート材(B)を除去して造形物を得る工程である。サポート材(B)の除去方法としては、特に制限されないが、例えば、洗浄液を用いてサポート部を洗浄する方法が挙げられる。洗浄液としては、特に制限されないが、例えば、水;芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、アルキレングリコール類、ポリアルキレングリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、カルボン酸エステル類の有機溶剤等が挙げられる。このなかでも、モデル材(A)を溶解しないこと、また三次元造形物から剥離したサポート材が洗浄液と分離し易いこと、また、安全性の面から、洗浄液は水もしくはイソプロパノール、エタノールが好ましい。さらに、より溶解性が低く、安全性が高い水が特に好ましい。
【0044】
洗浄液には、必要に応じて各種添加剤を使用できる。添加剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、無機酸、有機酸、アルカリ金属水酸化物、アミン系化合物、無機酸塩、有機酸塩などが挙げられる。これら添加剤の添加量は、本発明におけるモデル材(A)やサポート材(B)が発現する特性に悪影響を与えない程度であれば特に限定されず、洗浄液に対して20質量%以下の範囲が好ましい。
【0045】
〔造形装置〕
本実施形態の造形装置は、上記三次元造形物の製造方法に用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、例えば、粗造形物を造形するためのステージと、ステージ上に各組成物を吐出可能な吐出手段と、吐出手段をステージに対して平行な平面上に移動可能な移動手段と、各組成物を硬化させるための放射線源とを少なくとも備えた装置が挙げられる。上記造形装置は、光硬化性組成物(a)、光硬化性組成物(b−1)、及び光硬化性組成物(b−2)をインクジェット方式で吐出するためのノズルを有していてもよい。この際、同一のノズルから、光硬化性組成物(a)、光硬化性組成物(b−1)、及び光硬化性組成物(b−2)を吐出できるようにしても、別々のノズルから、光硬化性組成物(a)、光硬化性組成物(b−1)、及び光硬化性組成物(b−2)を吐出できるようにしてもよい。
【0046】
また、上記造形装置は、光照射により断面パターンを構成する各組成物を硬化させるための光源を有していてもよい。光源が発する光の種類としては、光重合開始剤が分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生できればよく、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などが挙げられ、好ましくは紫外線である。このような光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザダイオード(UV−LD)が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
10…造形物、10a…粗造形物、11…本体部、11a…モデル材、12…突出部、12a…サポート材、30…基材
図1
図2