特許第6983382号(P6983382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983382
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20211206BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20211206BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F17/04 A
   H01F17/00 D
   H01F27/29 123
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-193485(P2018-193485)
(22)【出願日】2018年10月12日
(65)【公開番号】特開2020-61522(P2020-61522A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2020年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【弁理士】
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和也
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/031842(WO,A1)
【文献】 特開2018−098489(JP,A)
【文献】 特開2014−220469(JP,A)
【文献】 特開2018−035027(JP,A)
【文献】 特開平10−294218(JP,A)
【文献】 特開2000−133521(JP,A)
【文献】 特開2017−212372(JP,A)
【文献】 特開2001−044039(JP,A)
【文献】 特開2014−116396(JP,A)
【文献】 特開2015−198240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 17/00
H01F 27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、該内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の両端部に形成されて前記内部導体と電気的に接続された外部導体とを備えた積層コイル部品であって、
前記内部導体は、コイル部と引出導体部とを有すると共に、
前記部品素体は、主成分が磁性体材料で形成されると共に非磁性体材料を含んでもよい第1の領域と、該第1の領域の両端部に形成された少なくとも前記非磁性体材料を含有した第2の領域とを有し、
少なくとも前記コイル部は、前記第2の領域に接することなく前記第1の領域内に埋設され、
前記第2の領域は、前記非磁性体材料が、前記第1の領域に比べて多く含まれ、前記第2の領域における前記非磁性体材料の含有量と、前記第1の領域における前記非磁性体材料の含有量との差は、前記体積比率に換算して25vol%以上であることを特徴とする積層コイル部品。
【請求項2】
前記外部導体は、前記部品素体の端面に形成された端面部と、前記部品素体の側面に形成された側面折り返し部とを有し、
前記第2の領域は、前記部品素体の前記端面から少なくとも前記側面折り返し部の先端に架けて形成されていることを特徴とする請求項1記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記内部導体は、前記第2の領域に接することなく前記第1の領域に形成されていることを特徴とする請求項1記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記第2の領域は、一方の主面が前記外部導体に接して形成されると共に、他方の主面は前記第1の領域に接していることを特徴とする請求項3記載の積層コイル部品。
【請求項5】
前記第2の領域における前記非磁性体材料の前記含有量は、体積比率に換算して25vol%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の積層コイル部品。
【請求項6】
前記第1の領域における前記非磁性体材料の前記含有量は、体積比率に換算して75vol%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の積層コイル部品。
【請求項7】
前記非磁性体材料は、少なくともSi、及びZnを含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の積層コイル部品。
【請求項8】
前記Siに対する前記Znの含有量は、モル比換算で1.8〜2.2であることを特徴とする請求項記載の積層コイル部品。
【請求項9】
前記磁性体材料は、少なくともFe、Ni、Cu、及びZnを含有したフェライト材料を主成分としていることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の積層コイル部品。
【請求項10】
前記磁性体材料は、前記主成分100重量部に対しCoをCoに換算して0.3〜5重量部含有していることを特徴とする請求項記載の積層コイル部品。
【請求項11】
前記磁性体材料は、前記主成分100重量部に対しBiをBiに換算して0.024〜0.23重量部含有していることを特徴とする請求項又は請求項10記載の積層コイル部品。
【請求項12】
前記内部導体は、Agを主成分としていることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コイル部品に関し、より詳しくは、部品素体が磁性体材料と非磁性体材料とを含有した高周波デバイス用途に適した積層インダクタ等の積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の各種通信機器では周波数帯域の高周波化が進んでおり、斯かる高周波帯域でのノイズ信号を除去するためのデバイスとして積層コイル部品が広く使用されている。
【0003】
この種の積層コイル部品では、良好な高周波特性を得るためには、高いインピーダンスZを得ることが重要であるが、高周波帯域でのインピーダンスZはコイルを形成する内部導体の対向電極間の浮遊容量の影響を受ける。したがって、所望の高インピーダンスを得るためには浮遊容量を低減する必要があり、このため浮遊容量を抑制しようとした積層コイル部品用のフェライト材料が、従来より盛んに研究・開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、磁性体材料と非磁性体材料とを含有する複合フェライト組成物であって、前記磁性体材料と前記非磁性体材料との混合比率が、20wt%:80wt%〜80wt%:20wt%であり、前記磁性体材料がNi−Cu−Zn系フェライトであり、前記非磁性体材料の主成分が少なくともZn、CuおよびSiの酸化物を含有し、前記非磁性体材料の副成分がホウケイ酸ガラスを含有する複合フェライト組成物が提案されている。
【0005】
この特許文献1では、Ni−Cu−Zn系フェライト材料からなる磁性体材料と一般式a(bZnO・cMgO・dCuO)・SiO(ただし、a=1.5〜2.4、b=0.2〜0.98、d=0.02〜0.15、b+c+d=1.00)で表される非磁性体材料とを所定の混合比率となるように調製した複合フェライト組成物を使用し、該複合フェライト組成物でセラミック層を形成し、該セラミック層に内部導体を埋設させ、これにより積層コイル部品(複合電子部品)を得ている。
【0006】
この特許文献1では、上述した複合フェライト組成物でセラミック層を形成することにより、セラミック層を低誘電率化し、焼結性を向上させると共に内部導体の対向電極間で発生する浮遊容量を抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−220469号公報(請求項1、段落[0016]〜[0021]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、セラミック層を磁性体材料と非磁性体材料の複合材料で形成しているため、浮遊容量は低減できるものの、透磁率の低下を招いてインピーダンスZが低下し、所望の高インピーダンスを有する良好な高周波特性を確保できなくなるおそれがある。
【0009】
また、上述した浮遊容量は内部導体の対向電極間のみならず、内部導体と外部導体との間でも発生する。この場合、部品素体を磁性体材料のみで形成した場合であっても、内部導体と外部導体との距離を離間させることにより、浮遊容量の低減化は可能と考えられるが、積層コイル部品の小型化の要請に反する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、浮遊容量を抑制することができ、高周波特性が良好で高いインピーダンスを得ることができる高周波デバイス用途に好適な積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、主成分が磁性体材料で形成されると共に非磁性体材料を含んでもよい第1の領域と、少なくとも非磁性体材料を含有した第2の領域とに部品素体を区分し、第2の領域を第1の領域の両端に形成すると共に、第2の領域に含まれる非磁性体材料の体積比率に換算した含有量(以下、「体積含有量」という。)を第1の領域よりも多くし、前記第2の領域における前記非磁性体材料の体積含有量と、前記第1の領域における前記非磁性体材料の体積含有量との差を25vol%以上とすることにより、外部導体と内部導体との間に発生する浮遊容量を抑制でき、これにより実用的に満足し得る程度に浮遊容量を低減できると共に透磁率の低下を抑制することができて大きなインダクタンスを確保することができ、高周波特性が良好で高いインピーダンスZを有する積層コイル部品を得ることができるという知見を得た。そして、前記内部導体のコイル部を前記第2の領域に接することなく前記第1の領域に埋設することにより、浮遊容量を低減しつつ、透磁率が低下するのを抑制できて大きなインダクタンスを確保でき、高周波特性が良好でかつ高いインピーダンスを得ることが可能となる。特に、第2の領域における非磁性体材料の体積含有量と、第1の領域における非磁性体材料の体積含有量との差を25vol%以上とすることにより、第2の領域における非磁性体材料の体積含有量が第1の領域に比べて十分に多くなることから、第1の領域で大きなインダクタンスと高いインピーダンスを確保しつつ、第2の領域で浮遊容量を効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る積層コイル部品は、内部導体と、該内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の両端部に形成されて前記内部導体と電気的に接続された外部導体とを備えた積層コイル部品であって、前記内部導体は、コイル部と引出導体部とを有すると共に、前記部品素体は、主成分が磁性体材料で形成されると共に非磁性体材料を含んでもよい第1の領域と、該第1の領域の両端部に形成された少なくとも前記非磁性体材料を含有した第2の領域とを有し、少なくとも前記コイル部は、前記第2の領域に接することなく前記第1の領域内に埋設され、前記第2の領域は、前記非磁性体材料が、前記第1の領域に比べて多く含まれ、前記第2の領域における前記非磁性体材料の含有量と、前記第1の領域における前記非磁性体材料の含有量との差は、前記体積比率に換算して25vol%以上であることを特徴としている。
【0013】
尚、第2の領域よりも少ない範囲で第1の領域に非磁性体材料を含有した場合は、本発明の効果を損なうことなく直流重畳特性を良好にすることができる。
【0014】
また、本発明の積層コイル部品は、前記外部導体が、前記部品素体の端面に形成された端面部と、前記部品素体の側面に形成された側面折り返し部とを有し、前記第2の領域は、前記部品素体の端面から少なくとも前記側面折り返し部の先端に架けて形成されているのが好ましい。
【0015】
これにより第2の領域は少なくとも外部導体と接する領域に形成されることから、第2の領域での比誘電率を低下させることができ、外部導体と内部導体との間で発生する浮遊容量を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の積層コイル部品は、前記内部導体は、前記第2の領域に接することなく前記第1の領域に形成されるのも好ましい。
【0019】
この場合は、コイル部のみならず引出導体部も第1の領域に形成されることとなり、したがって第2の領域には内部導体が存在しないことから、上述と略同様、浮遊容量の低減化と所望の大きなインダクタンスを確保することができ、高周波特性が良好でかつ高いインピーダンスを有する積層コイル部品を得ることが可能となる。
【0020】
この場合、前記第2の領域は、一方の主面が前記外部導体に接して形成されると共に、他方の主面は前記第1の領域に接しているのが好ましい。
【0021】
これにより非磁性体材料を含有した第2の領域は、内部導体と接する位置まで拡がることから、外部導体と内部導体との間で発生する浮遊容量をより一層抑制することが可能となる。
【0024】
さらに、本発明の積層コイル部品は、前記第2の領域における前記非磁性体材料の前記体積含有量は、25vol%以上であるのが好ましい。
【0025】
これにより第2の領域は、非磁性体材料を十分に含有していることから、第2の領域の低誘電率化が可能となり、外部導体と内部導体との間で発生し得る浮遊容量を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の積層コイル部品は、前記第1の領域における前記非磁性体材料の前記体積含有量は、75vol%以下であるのが好ましい。
【0027】
これにより第1の領域は、磁気特性に影響を与えない程度に非磁性体材料が含有されていることから、透磁率の低下が抑制されて大きなインダクタンスを確保でき、高周波特性が良好で高いインピーダンスを有する積層コイル部品を得ることができる。
【0029】
また、本発明の積層コイル部品は、前記非磁性体材料が、少なくともSi、及びZnを含有しているのが好ましく、これにより大気雰囲気下、良好な焼結性を確保することができる。
【0030】
さらに、本発明の積層コイル部品は、前記Siに対する前記Znの含有量が、モル比換算で1.8〜2.2であるのが好ましい。
【0031】
また、本発明の積層コイル部品は、前記磁性体材料は、少なくともFe、Ni、Cu、及びZnを含有したフェライト材料を主成分とするのが好ましく、斯かる磁性体材料を使用することにより、透磁率等の磁気特性が良好な積層コイル部品を得ることができる。
【0032】
また、本発明の積層コイル部品は、前記磁性体材料が、前記主成分100重量部に対しCoをCoに換算して0.3〜5重量部含有しているのが好ましく、これによりより一層良好な高周波特性を得ることができる。
【0033】
さらに、本発明の積層コイル部品は、前記磁性体材料が、前記主成分100重量部に対しBiをBiに換算して0.024〜0.23重量部含有しているのが好ましく、これにより焼結性を向上させることができる。
【0034】
また、本発明の積層コイル部品は、前記内部導体が、Agを主成分としているのが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の積層コイル部品によれば、内部導体と、該内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の両端部に形成されて前記内部導体と電気的に接続された外部導体とを備えた積層コイル部品であって、前記内部導体は、コイル部と引出導体部とを有すると共に、前記部品素体は、主成分が磁性体材料で形成されると共に非磁性体材料を含んでもよい第1の領域と、該第1の領域の両端部に形成された少なくとも前記非磁性体材料を含有した第2の領域とを有し、少なくとも前記コイル部は、前記第2の領域に接することなく前記第1の領域内に埋設され、前記第2の領域は、前記非磁性体材料が、前記第1の領域に比べて多く含まれ、前記第2の領域における前記非磁性体材料の含有量と、前記第1の領域における前記非磁性体材料の含有量との差は、前記体積比率に換算して25vol%以上であるので、外部導体と内部導体との間で発生し得る浮遊容量を抑制することができることから、実用的に満足し得る程度に浮遊容量を低減できると共に透磁率の低下が抑制されて大きなインダクタンスを確保することができ、高周波特性が良好で高いインピーダンスを有する積層コイル部品を得ることができる。特に、第2の領域における非磁性体材料の体積含有量と、第1の領域における非磁性体材料の体積含有量との差が25vol%以上であるので、第2の領域における非磁性体材料の体積含有量が第1の領域に比べて十分に多くなることから、第1の領域で大きなインダクタンスと高いインピーダンスを確保しつつ、第2の領域で浮遊容量を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る積層コイル部品の一実施の形態(第1の実施の形態)を模式的に示す斜視図である。
図2図1のA−A矢視断面図である。
図3】上記第1の実施の形態に係る部品素体の分解斜視図である。
図4】本発明に係る積層コイル部品の第2の実施の形態を模式的に示す断面図である。
図5】上記第2の実施の形態に係る部品素体の分解斜視図である。
図6】試料番号2に含有されるFe元素のマッピング分析を示す図である。
図7】試料番号2に含有されるSi元素のマッピング分析を示す図である。
図8】試料番号1〜5のインピーダンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0038】
図1は、本発明に係る積層コイル部品の一実施の形態(第1の実施の形態)を模式的に示す斜視図であり、図2図1のA−A矢視断面図である。
【0039】
この積層コイル部品は、内部導体1と、該内部導体1を内蔵した部品素体2と、部品素体2の両端部に形成された外部導体3a、3bとから構成され、内部導体1が横巻き構造とされている。
【0040】
内部導体1は、螺旋状に巻回されたコイル部4と、該コイル部4の両端に形成された引出導体部5a、5bとを有している。外部導体3a、3bは、部品素体2の端面に形成された端面部6a、6bと、部品素体2の側面に形成された側面折り返し部7a、7bとを有し、一方の端面部6aは一方の引出導体部5aと電気的に接続され、他方の端面部6bは他方の引出導体部5bと電気的に接続されている。
【0041】
また、部品素体2は、主成分が磁性体材料で形成された第1の領域8と、該第1の領域8の両端部に形成された少なくとも非磁性体材料を含有した第2の領域9a、9bとを有している。
【0042】
そして、前記コイル部4は第1の領域8内に埋設されている。これにより第1の領域8は主成分が磁性体材料で形成されていることから、透磁率が低下するのを抑制することができ、特許文献1のような従来技術に比べ、大きなインダクタンスを確保できて良好な高周波特性を得ることができ、かつ高いインピーダンスZを得ることができる。
【0043】
第2の領域9a、9bは、部品素体2の端面から少なくとも側面折り返し部7a、7bの先端に架けて形成されている。つまり、第2の領域9a、9bは、少なくとも側面折り返し部7a、7bの長さBを有するように形成されており、コイル部4内に入り込まない程度に側面折り返し部7a、7bの長さBよりも長く形成してもよい。
【0044】
このように非磁性体材料を含有した第2の領域9a、9bは、少なくとも外部導体3a、3bと接するような形態で形成されることから、第2の領域9a、9bの比誘電率を低下させることができ、外部導体と内部導体との間で発生する浮遊容量を効果的に抑制することが可能となる。
【0045】
第1の領域8は、主成分が磁性体材料で形成されているのであれば、非磁性体材料を含んでいてもよく、第2の領域9a、9bは少なくとも非磁性体材料を含有していればよく、磁性体材料を含んでいてもよい。特に、第1の領域8に適量の非磁性体材料を含有している場合は、直流重畳特性の向上に寄与することができる。ただし、この場合であっても、第2の領域9a、9bにおける非磁性体材料の体積含有量が、第1の領域8における非磁性体材料の体積含有量よりも多くなるように、第1及び第2の領域8、9a、9bの各領域における磁性体材料及び非磁性体材料の体積含有量は調整される。
【0046】
第1及び第2の領域8、9a、9bにおける非磁性体材料及び磁性体材料の含有量は、上述したように第2の領域9a、9bの非磁性体材料の体積含有量が、第1の領域8に比べ多ければ特に限定されるものではないが、第2の領域9a、9bにおける非磁性体材料の体積含有量と、第1の領域8における非磁性体材料の体積含有量との差が25vol%以上であるのが好ましい。これにより第2の領域9a、9bにおける非磁性体材料の体積含有量は第1の領域8に比べて十分に多くなることから、第1の領域8で大きなインダクタンスと高いインピーダンスを確保しつつ、第2の領域9a、9bで浮遊容量を効果的に抑制することができる。
【0047】
また、第2の領域9a、9bにおける非磁性体材料の体積含有量は、25vol%以上、好ましくは50vol%以上、より好ましくは70vol%以上がよい。これにより第2の領域9a、9bは、非磁性体材料を十分に含有していることから、第2の領域9a、9bの低誘電率化が可能となり、外部導体と内部導体との間で発生し得る浮遊容量を抑制することができる。
【0048】
さらに、第1の領域8は、上述したように非磁性体材料を含んでいてもよいが、その場合であっても、非磁性体材料の体積含有量は75vol%以下が好ましい。すなわち、第1の領域8に非磁性体材料を含有させることにより、上述したように良好な直流重畳特性を得ることができるが、非磁性体材料を過度に含有させると、透磁率の低下を招くおそれがある。
【0049】
したがって、第1の領域8に非磁性体材料を含有させる場合であっても、磁気特性に影響を与えないように前記非磁性体材料の体積含有量を75vol%以下とするのが好ましく、これにより直流重畳特性を良好にしつつ、透磁率の低下を抑制することができ、高周波特性が良好で高いインピーダンスを有する積層コイル部品を得ることができる。
【0050】
非磁性体材料としては、特に限定されるものではないが、良好な焼結性を得る観点からは少なくともSi、Znを含有した酸化物を使用するのが好ましく、一般式(A)で示されるケイ酸亜鉛系化合物を好んで使用することができる。
【0051】
aZnO・SiO …(A)
ここで、定数aは化学量論的には「2」であるが、1.8〜2.2の範囲で適宜設定することができる。また、一般式(A)中のZnの一部を必要に応じMg、Cu等で置換してもよい。
【0052】
磁性体材料についても、特に限定されるものではなく、例えばNi系、Ni−Cu系、Ni−Cu−Zn系等のフェライト材料を使用することができるが、良好な磁気特性の発現が可能なNi−Cu−Zn系フェライト材料を好んで使用することができる。
【0053】
尚、Ni−Cu−Zn系フェライト材料を使用する場合、各構成元素の配合比率は特に限定されるものではないが、より良好な磁気特性を確保する観点からは、FeがFeに換算して40〜49.5mol%、ZnがZnOに換算して5〜35mol%、CuがCuOに換算して6〜13mol%、残部がNiとなるように配合されたものを好んで使用することができる。
【0054】
また、Co、Bi、Sn、Mn等を磁性体材料中に適量含有させるのも好ましい。特に、Ni−Cu−Zn系フェライト材料を使用する場合、主成分100重量部に対し、CoをCoに換算して0.3〜5重量部含有させた場合は高周波特性をより一層向上させることができる。また、前記主成分100重量部に対し、BiをBiに換算して0.024〜0.23重量部含有させた場合は、更なる焼結性の向上が可能となる。ここで、前記主成分とは、Ni−Cu−Zn系フェライト材料を構成するFe、Zn、Cu、Niの各酸化物の総量をいう。
【0055】
第1及び第2の領域8、9a、9bに含有される非磁性体材料の体積含有量は、後述する実施例で示すように、部品素体2の断面を走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope ; 以下、「STEM」という。)等で観察し、磁性体材料及び非磁性体材料のそれぞれにのみ含まれる構成元素をマッピング分析し、該マッピング分析で得られた観察領域中の非磁性体材料の面積比率に基づいて算出することができる。例えば、磁性体材料をNi−Cu−Zn系フェライト材料で形成し、非磁性体材料を少なくともZn、Siを含有したケイ酸亜鉛系化合物で形成した場合、Fe元素は非磁性体材料に含まれず磁性体材料にのみ含まれる元素であり、Si元素は磁性体材料には含まれず非磁性体材料にのみ含まれる元素である。したがって、Fe元素とSi元素とをSTEM等で観察しながらマッピング分析を行うと、両者には重なる領域が存在せず、別箇の異なる領域に存在することから、第1及び第2の領域8、9a、9bでの各観察領域におけるSi元素の占める面積比率が、非磁性体材料の面積比率となる。そして、このようにして算出されたSi元素の面積比率は、部品素体2を作製する際に秤量された非磁性体材料の体積含有量と略一致することを本発明者らが確認したことから、マッピング分析して得られた面積比率は非磁性体材料の体積含有量と見做すことができる。すなわち非磁性体材料の体積含有量は、前記面積比率に基づいて求めることができる。
【0056】
尚、部品素体断面の観察領域については、縦20〜100μm、横20〜100μmとし、斯かる領域を3箇所程度観察しておのおの面積比率を算出し、その平均値を面積比率とすることができる。
【0057】
内部導体1を形成する材料は、特に限定されるものではなく、良導電性を有するAg、Ag−Pd、Cu、Ni等を使用することができるが、通常は大気雰囲気下で安定して焼成処理を行うことができるAgを好んで使用することができる。
【0058】
また、外部導体3a、3bについても特に限定されるものではないが、通常はAg、例えばガラス成分を含有したAgを下地導体とし、耐熱性やはんだ付け性等を考慮し、下地導体にNiやSn等の皮膜が形成されている。
【0059】
このように本積層コイル部品は、内部導体1と、内部導体1を内蔵した部品素体2と、部品素体2の両端部に形成されて内部導体1と電気的に接続された外部導体とを備えた積層コイル部品であって、部品素体2は、主成分が磁性体材料で形成されると共に非磁性体材料を含んでもよい第1の領域8と、第1の領域8の両端部に形成された少なくとも前記非磁性体材料を含有した第2の領域9a、9bとを有し、第2の領域9a、9bは、非磁性体材料の体積含有量が、第1の領域8に比べ多いので、外部導体3a、3bと内部導体1との間で発生する浮遊容量を抑制することができ、実用的に満足し得る程度に浮遊容量を低減することができる。そして、磁性体材料を主成分とする第1の領域8では透磁率の低下が抑制されることから、大きなインダクタンスを確保することができて良好な高周波特性を得ることができ、かつ高いインピーダンスを得ることが可能となる。
【0060】
次に、上記積層コイル部品の製造方法を詳述する。
【0061】
まず、出発原料としてFe、ZnO、CuO、NiO、必要に応じてBi、Co等の磁性体素原料、ZnO、SiO等の非磁性体素原料を用意する。そして、上記磁性体素原料を所定量秤量し、これら秤量物をPSZ(部分安定化ジルコニア)ボール等の粉砕媒体と共にポットミルに投入し、湿式で十分に混合し、粉砕した後、乾燥し、その後700℃程度の温度で2時間程度仮焼し、これにより磁性体材料を作製する。
【0062】
次いで、上記非磁性体素原料を所定量秤量し、これら秤量物を上述と同様の方法・手順で湿式で十分に混合し、粉砕した後、乾燥し、その後、1100℃程度の温度で2時間程度仮焼し、これにより非磁性体材料を作製する。
【0063】
また、Ag等を主成分とする導電性ペーストを用意する。
【0064】
次に、これら磁性体粉末、非磁性体粉末、及び導電性ペーストを使用し、部品素体2を作製する。
【0065】
図3は、部品素体2となる生の積層体の分解斜視図である。
【0066】
尚、この図3では、説明の都合上、1個の積層体のみを示しているが、通常はPET(ポリエチレンフタレート)等のベースフィルム上に積層体ブロックを形成し、ダイサー等の切断具を使用して積層ブロックを縦横に切断して個片化し、これにより1個の積層体ブロックから多数の積層体が得られる。
【0067】
まず、焼成後に第1の領域8となる複数枚の第1のシート11及び焼成後に第2の領域9a、9bとなる複数枚の第2のシート12を作製する。この図3では、第1のシート11として5枚の第1のシート11a〜11eを図示し、第2のシート12として4枚の第2のシート12a〜12dを図示している。
【0068】
第1のシート11は、具体的には、以下の方法で作製することができる。
【0069】
まず、焼成後の非磁性体材料の体積含有量が第2のシート12よりも少なくなるように、例えば非磁性体材料の体積含有量の差が第2のシート12に対し焼成後で25vol%以上となるように磁性体粉末及非磁性体粉末をそれぞれ秤量する。
【0070】
次に、この秤量物を所定量の水系アクリルバインダ、および分散剤を添加し、粉砕媒体と共にポットミルに投入し、湿式で十分に混合粉砕して第1のスラリーを得る。次いで、ドクターブレード法等の成形加工法を使用し、第1のスラリーを成形加工してシート状とし、これを矩形に打ち抜いて、厚さ10〜25μmの第1のシート11(11a〜11e)を作製する。
【0071】
また、第2のシート12は以下の方法で作製することができる。
【0072】
まず、焼成後の非磁性体材料の体積含有量が第1のシート11よりも多くなるように、例えば非磁性体材料の体積含有量の差が第1のシート11に対し焼成後で25vol%以上となるように磁性体粉末及非磁性体粉末をそれぞれ秤量する。
【0073】
次に、第1のシート11の作製手順と同様、この秤量物を所定量の水系アクリルバインダ、および分散剤を添加し、PSZボール等の粉砕媒体と共にポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、第2のスラリーを得る。次いで、ドクターブレード法等の成形加工法を使用し、第2のスラリーを成形加工してシート状とし、これを矩形に打ち抜くことにより、厚さ10〜25μmの複数枚の第2のシート12(12a〜12d)を作製する。ここで、第2のシート12は、好ましくは焼成後の第2の領域9a、9bが少なくとも外部導体3a、3bの側面折り返し部7a、7bの長さに相当する厚みとなるような枚数に作製される。
【0074】
そしてこの後、各第1のシート11(11a〜11e)及び各第2のシート12(12a〜12d)にレーザ照射等を行って所定箇所にビアホールを形成する。
【0075】
次いで、第1のシート11a〜11e及び第2のシート12a、12dの表面に導電性ペーストをスクリーン印刷法等で塗布し、乾燥させて所定パターンの導電層15a〜15e、16a、16bを形成すると共に、ビアホールに導電性ペーストを充填し、ビア導体13a〜13j及び14a〜14dを形成する。
【0076】
次いで、導電層15a〜15eがビア導体13a〜13jを介して螺旋状となるように第1のシート11a〜11eを積層し、さらにその両端を第2のシート12a〜12dで狭持し、加熱しながら加圧して圧着し、これにより積層体を作製する。
【0077】
次いで、この積層体を匣(さや)に入れ、大気雰囲気下、300〜500℃の温度で脱バインダ処理を行ない、その後、900〜920℃の温度で2〜15時間焼成処理を行い、焼結体表面をバレル研磨して角部をR形状とし、これにより部品素体2が作製される。
【0078】
そしてその後、部品素体2の両端部に導電性ペーストを塗布し、焼付処理を行ってAg等からなる下地導体を作製し、さらこの下地導体に電解めっき等を行ってNi皮膜及びSn皮膜を順次作製し、これにより外部導体3a、3bが形成され、内部導体1が横巻き構造の積層コイル部品が得られる。
【0079】
このように本積層コイル部品はシート工法を適用することにより容易に得ることができる。
【0080】
図4は、本発明に係る積層コイル部品の第2の実施の形態を模式的に示す断面図であって、上記第1の実施の形態では内部導体1が横巻き構造であったが、本第2の実施の形態では内部導体21が縦巻き構造とされている。
【0081】
すなわち、本積層コイル部品は、第1の実施の形態と同様、内部導体21と、該内部導体21を内蔵した部品素体22と、部品素体22の両端部に形成された外部導体23a、23bとから構成されている。内部導体21は、螺旋状に巻回されたコイル部24と、該コイル部24の両端に形成された引出導体部25a、25bとを有している。また、外部導体23a、23bは、部品素体22の端面に形成された端面部26a、26bと、部品素体22の側面に形成された側面折り返し部27a、27bとを有し、一方の端面部26aは一方の引出導体部25aと電気的に接続され、他方の端面部26bは他方の引出導体部25bと電気的に接続されている。
【0082】
部品素体22は、主成分が磁性体材料で形成された第1の領域28と、該第1の領域28の両端部に形成された少なくとも非磁性体材料を含有した第2の領域29a、29bとを有している。
【0083】
そして、本第2の実施の形態では、内部導体21を形成するコイル部24及び引出導体部25a、25bの双方が第1の領域28内に埋設されるように形成されている。すなわち、本第2の実施の形態では、コイル部24のみならず引出導体部25a、25bも第1の領域28内に埋設され、第2の領域29a、29bには内部導体が存在しないことから、第1の実施の形態と同様、外部導体23a、23bと内部導体21との間で発生する浮遊容量を十分に抑制することができる。そして、磁性体材料を主成分とする第1の領域28では透磁率の低下が抑制されることから、大きなインダクタンスを確保することができて良好な高周波特性を得ることができ、かつ高いインピーダンスを得ることが可能となる。
【0084】
尚、上記第2の実施の形態では、内部導体21が第1の領域28内に埋設されているが、第2の領域29a、29bで浮遊容量をより効果的に低減化させる観点からは、内部導体21の全体を第1の領域28に埋設させずに、第2の領域29a、29bの他方の主面が内部導体21と接するように形成するのも好ましい。この場合は、非磁性体材料を含有した第2の領域29a、29bが、内部導体21と接する位置まで拡がることから、外部導体23a、23bと内部導体21との間で発生する浮遊容量をより一層抑制することが可能になる。
【0085】
上記第2の実施の形態に係る積層コイル部品も、第1の実施の形態と同様、シート工法を適用して容易に製造することができる。
【0086】
すなわち、第1の実施の形態と同様の方法・手順で磁性体材料及び非磁性体材料を作製し、導電性ペーストを用意する。
【0087】
次に、これら磁性体粉末、非磁性体粉末、及び導電性ペーストを使用し、部品素体22を作製する。
【0088】
図5は、部品素体22となる生の積層体の分解斜視図である。
【0089】
まず、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、焼成後に第1の領域28となる第1のシート31a〜31i及び焼成後に第2の領域29a、29bとなる第2のシート32a、32bを作製する。
【0090】
そして、第1のシート31b〜31gにレーザ照射等を行って所定箇所にビアホールを形成する。
【0091】
次いで、第1のシート31b〜31hの表面に導電性ペーストをスクリーン印刷法等で塗布し、乾燥させて所定パターンの導電層33a〜33gを形成すると共に、ビアホールに導電性ペーストを充填し、ビア導体34a〜34fを形成する。
【0092】
次いで、導電層33a〜33gがビア導体34a〜34fを介して螺旋状となるように第1のシート31a〜31iを積層し、さらにその両端を第2のシート32a、32bで狭持し、加熱しながら加圧して圧着し、これにより積層体を作製する。
【0093】
次いで、この積層体を匣(さや)に入れ、第1の実施の形態と同様、脱バインダ処理、焼成処理等を順次行い、部品素体22を作製し、その後外部導体23a、23bを形成し、これにより内部導体21が縦巻き構造とされた積層コイル部品が得られる。
【0094】
このように本積層コイル部品も第1の実施の形態と同様、シート工法を使用して容易に得ることができる。
【0095】
また、上記第2の実施の形態では、導電層33a、33gが形成された第1のシート31b、31hの上面又は下面に第1のシート31a、31iを配しているが、焼成後の内部導体22が第2の領域29a、29bと接するように形成する場合は、上記第1のシート31a、31i、31hに代えて非磁性体材料を含有した複数枚の第2のシートを配することにより、積層体を形成することができる。
【0096】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本発明は、第2の領域9a、9b、29a、29bが少なくとも非磁性体材料を含有し、その体積含有量が第1の領域28に含まれ得る非磁性体材料よりも多ければよく、上述した各体積含有量の数値は好ましい範囲を示したものであり、これらの数値に限定されるものではない。
【0097】
また、磁性体材料及び非磁性体材料についても例示であり、特性に影響を与えない範囲での不可避不純物の混入は許容される。
【0098】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0099】
磁性体材料のみからなる第1の領域と、非磁性体材料と磁性体材料との混合比率を異ならせた第2の領域とを有する内部導体が横巻き構造の積層コイル部品、及び第2の領域と同一の組成成分を有する円板状試料をそれぞれ作製し、特性を評価した。
【0100】
[磁性体材料及び非磁性体材料の作製]
まず、磁性体素原料として主成分を形成するFe、ZnO、CuO、NiO、及び副成分を形成するBi、Coを用意した。そして、Feが48mol%、ZnOが20.0mol%、CuOが9.0mol%,NiOが23.0mol%となるように主成分原料を秤量し、さらに主成分100重量部に対し0.15重量部のBi、2.0重量部のCoを秤量した。そして、これら秤量物をPSZボールと共にポットミルに投入して湿式で十分に混合し、粉砕した後、乾燥し、その後、700℃の温度で2時間仮焼し、これにより磁性体材料を作製した。
【0101】
また、非磁性体素原料としてZnO、SiOを用意した。そして、ZnO:SiO=2:1となるようにZnO及びSiOをそれぞれ秤量し、これら秤量物をPSZボールと共にポットミルに投入して湿式で十分に混合し、粉砕した後、乾燥し、その後、1100℃の温度で2時間仮焼し、これにより非磁性体材料を作製した。
【0102】
[第1及び第2のシートの作製]
上記作製された磁性体材料に所定量の水系アクリルバインダ、および分散剤を添加し、PSZボールと共にポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、第1のスラリーを作製した。次いで、ドクターブレード法を使用し、第1のスラリーを成形加工してシート状とし、これを矩形に打ち抜くことにより、厚さ25μmの第1のシートを作製した。
【0103】
次いで、非磁性体材料の体積含有量が0、25、50、75、100vol%となるように、上記非磁性体材料及び磁性体材料を秤量し、所定量の水系アクリルバインダ、および分散剤を添加し、PSZボールと共にポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、第2のスラリーを作製した。次いで、ドクターブレード法を使用し、第2のスラリーを成形加工してシート状とし、これを矩形に打ち抜くことにより、厚さ25μmの試料番号1〜5の第2のシートを作製した。
【0104】
[試料の作製]
<積層コイル部品の作製>
第1及び第2のシートの各々にレーザ照射を行って所定箇所にビアホールを形成した。
【0105】
次いで、第1のシートの表面に導電性ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥させ、焼成後にコイル部となる導電層を形成すると共に、ビアホールに導電性ペーストを充填し、ビア導体を形成した。
【0106】
また、第2のシートのうち、最端部の第2のシートの表面に導電性ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥させ、焼成後に引出導体部となる導電層を形成すると共に、ビアホールに導電性ペーストを充填し、ビア導体を形成した。
【0107】
次いで、ビア導体を介して導電層が螺旋状になるように第1のシートを積層し、次いで、外部導体の側面折り返し部の長さに相当する積層枚数の第2のシートを導電層が最端面に位置するように配して前記第1のシートを狭持し、加熱しながら加圧して積層体を作製した。そして、この積層体を匣(さや)に入れ、920℃の温度で5時間焼成し、その後、焼結体表面をバレル研磨して角部にR形状とし、これにより部品素体を得た。
【0108】
その後、導電性ペーストを部品素体の端面部に塗布し、800℃の温度で焼き付けて下地導体を作製し、該下地導体に電解めっきを行ってNi皮膜、Sn皮膜を順次形成して外部導体を作製し、これにより試料番号1〜5の横巻き構造の積層コイル部品(試料)を得た。尚、各積層コイル部品の外形寸法は長さLが1.0mm、幅Wが0.5mm、厚みTが0.5mmであり、コイルの巻き数は30ターンであった。
【0109】
<円板状試料の作製>
試料番号1〜5の各第2のシートをそれぞれ複数枚積層し、加熱しながら加圧して積層体を作製した。そして、これに打ち抜き加工を行った後、920℃で5時間焼成し、これにより円板状素体を作製し、次いで、この円板状素体の両主面にIn−Ga合金を塗布して電極を形成し、これにより試料番号1〜5の円板状試料を作製した。この円板状試料の外形寸法は、直径10mm、厚み1mmであった。
【0110】
[特性評価]
試料番号1〜5の各積層コイル部品を使用し、第1及び第2の領域におけるFe元素及びSi元素の占める面積比率を求めた。
【0111】
具体的には、第2の領域におけるFe元素及びSi元素の面積比率を以下の方法で求めた。
【0112】
まず、長さL及び幅Wで規定されるLW面が表面に露出するように試料の周りを樹脂で固めた。そして、研磨機を用いて部品本体の略中央部分まで研磨した。
【0113】
次いで、部品素体の端面と該端面に対向するコイル部の略中央部分、及びW方向の略中央部分について、縦50μm、横50μmの観察領域を3箇所抽出し、STEM(日立ハイテクノロジーズ社製、HD-2300A)を使用し、Fe元素及びSi元素のマッピング分析を行った。その結果、Fe元素とSi元素とは重なることはなく、異なる場所に存在することを確認した。そして、3箇所の観察領域についてSi元素が占める面積を求め、その平均値を面積比率とした。
【0114】
その結果、Si元素の面積比率は、試料作成時に秤量した非磁性体材料の体積含有量と略一致したことから、前記Si元素の面積比率は、非磁性体材料の体積含有量と見做すこととした。
【0115】
図6及び図7は、マッピング分析の一例を示す図であり、図6は試料番号2におけるFe元素のマッピング分析、図7は試料番号2におけるSi元素のマッピング分析をそれぞれ示している。
【0116】
この図6及び図7からも明らかなように、Fe元素は磁性体材料中に含まれ、Siは非磁性体材料中に含まれるため、上述したようにマッピング分析を行っても両者は重なることはなく、異なる場所に存在している。そして図7から3個の観察領域における面積比率の平均値を求めたところ、約25%であった。すなわち、Si元素の面積比率は非磁性体材料の体積含有量にほぼ相当することから、前記面積比率は第2の領域の非磁性体材料の体積含有量と見做せることが分かった。
【0117】
尚、第1の領域についても、上述と同様の方法・手順で各試料のL方向、W方向の略中央部の3箇所を観察領域としてFe元素、Si元素のマッピング分析を行ったが、本実施例では第1の領域にはSi元素が含まれていないことから、マッピング分析でもSi元素の存在が認められず、したがって磁性体材料がほぼ100vol%であることが確認された。
【0118】
次に、上記試料番号1〜5の各積層コイル部品について、インピーダンスアナライザー(アジレント・テクノロジー社製、4991A)を使用し、温度20±1℃、測定周波数1MHz〜3GHz、測定電圧50mVrmsの測定条件でインピーダンスZを測定した。
【0119】
また、上述した試料番号1〜5の各円板状試料について、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製、4284A)を使用し、測定周波数1MHzで静電容量を測定し、該静電容量と試料寸法とから比誘電率εrを求めた。
【0120】
表1は、第1及び第2の領域における非磁性体材料及び磁性体材料の各体積含有量、及び各領域における非磁性体材料の含有量差、及び測定結果を示している。
【0121】
【表1】
【0122】
試料番号1では、第1及び第2の領域のいずれの領域にも非磁性体材料が含有されておらず、部品素体が磁性体材料のみで形成されているため、比誘電率εrが15.0と大きく、インピーダンスZは1636Ωと低くなった。
【0123】
これに対し試料番号2〜5は、前記第2の領域における非磁性体材料の体積含有量が、第1の領域に比べて多いので、比誘電率εrが13.0以下に低下した。このように比誘電率εrが低下していることから、外部導体と内部導体との間で発生する浮遊容量も抑制できるものと思われる。また、インピーダンスZは1646Ω以上となり、試料番号1に比べ高いインピーダンスを得ることができることが分かった。
【0124】
さらに、試料番号2〜5から明らかなように、第2の領域の非磁性体材料の体積含有量が増加するのに伴い、また第2の領域と第1の領域との間の非磁性体材料の体積含有量の差が大きくなるのに伴い、比誘電率εrが低下している。そして、このように比誘電率が低下することから、浮遊容量もより効果的に抑制できると考えられ、インピーダンスも高くなることが分かった。
【0125】
また、本実施例の結果から、第2の領域の非磁性体材料の体積含有量、及び第2の領域と第1の領域との間の非磁性体材料の体積含有量の差が25vol%以上であり、第1の領域では磁性体材料の体積含有量が100vol%であり、これらの範囲で良好な結果が得られることが分かった。
【0126】
図8は本実施例のインピーダンス特性を示す図であり、横軸が非磁性体材料の体積含有量(vol%)、縦軸がインピーダンスZ(Ω)を示している。
【0127】
この図8から明らかなように第2の領域の非磁性体材料の体積含有量が増加するのに伴い、より高いインピーダンスが得られことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
浮遊容量を抑制でき高周波特性が良好で高いインピーダンスが得られる高周波デバイス用途に好適な積層コイル部品を得ることができる。
【符号の説明】
【0129】
1、21 内部導体
2、22 部品素体
3a、3b、23a、23b 外部導体
4、24 コイル部
5a、5b、25a、25b 引出導体部
6a、6b 端面部
7a、7b 側面折り返し部
8、28 第1の領域
9a、9b、29a、29b 第2の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8