(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983392
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】溝形成具および溝形成具を備える転圧機械
(51)【国際特許分類】
E01C 19/34 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
E01C19/34 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-84984(P2017-84984)
(22)【出願日】2017年4月24日
(65)【公開番号】特開2018-184703(P2018-184703A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520061594
【氏名又は名称】有限会社阿部工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100155882
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154678
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 博子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勉
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特表昭61−500367(JP,A)
【文献】
実開昭58−156706(JP,U)
【文献】
実開昭51−102903(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0127190(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/00−19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を発生させる起振手段を備える転圧機械に取付可能な溝形成具であって、
前記溝形成具は、前記転圧機械に対向する取付面と、前記取付面に対向する転圧面とを有する形成具本体を備え、
前記形成具本体は、前記転圧面に設けた凸部と、前記取付面から起立するブレードとを備え、
前記ブレードは、前記転圧機械の進行方向に対して傾斜することを特徴とする溝形成具。
【請求項2】
前記形成具本体の先端に位置する先鋭部をさらに備え、
前記先鋭部は、前記本体に隣接する近位部と、その反対側に位置する遠位部とを有し、
少なくとも前記遠位部が前記転圧面よりも前記取付面の反対側へと突出することを特徴とする請求項1記載の溝形成具。
【請求項3】
振動を発生させる起振手段を備える機械本体と、前記起振手段によって発生された振動が伝達される転圧板とを有する転圧機械であって、
前記転圧機械に取付可能な溝形成具を備え、
前記溝形成具は、前記転圧機械に対向する取付面と、前記取付面に対向する転圧面とを有する形成具本体を備え、
前記形成具本体は、前記転圧面に設けた凸部と、前記取付面から起立するブレードとを備え、
前記ブレードは、前記転圧機械の進行方向に対して傾斜することを特徴とする転圧機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、砕石やアスファルト合材等の土木材料に溝を形成するための溝形成具およびこの溝形成具を備える転圧機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、砕石やアスファルト合材等の土木材料を締め固めるためのランマやプレートコンパクタ等の転圧機械が知られている。転圧機械の本体には、地面に対向するように転圧板が取り付けられる。本体には起振機構が設けられ、転圧板を振動させることにより、地面に敷設された砕石やアスファルト合材等の表面を振動・打撃してこれらを締め固める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5056380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の転圧機械においては、砕石やアスファルト合材等の敷設面を転圧し、平坦にすることを目的としている。しかし、敷設場所によっては敷設面に排水のための溝等を設けることが望ましい場合がある。このような場合には、別途コンクリート側溝を設置しなければならず、その分の費用の増大と作業時間の増大を招いていた。
【0005】
この発明は、低価格かつ短時間で敷設面に溝を形成することができる溝形成具およびこの溝形成具を備える転圧機械を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の発明および第2の発明を有する。
第1の発明は、振動を発生させる起振手段を備える転圧機械に取付可能な溝形成具であって、前記溝形成具は、前記転圧機械に対向する取付面と、前記取付面に対向する転圧面とを有する形成具本体を備え、
前記形成具本体は、前記転圧面に設けた凸部と、前記取付面から起立するブレードとを備え、前記ブレードは、前記転圧機械の進行方向に対して傾斜することを特徴とする。
【0008】
第1の発明における前記形成具本体の先端に位置する先鋭部をさらに備え、前記先鋭部は、前記本体に隣接する近位部と、その反対側に位置する遠位部とを有し、少なくとも前記遠位部が前記転圧面よりも前記取付面の反対側へと突出するものであってもよい。
【0009】
第2の発明は、振動を発生させる起振手段を備える機械本体と、前記起振手段によって発生された振動が伝達される転圧板とを有する転圧機械であって、前記転圧機械に取付可能な溝形成具を備え、前記溝形成具は、前記転圧機械に対向する取付面と、前記取付面に対向する転圧面とを有する形成具本体を備え、
前記形成具本体は、前記転圧面に設けた凸部と、前記取付面から起立するブレードとを備え、前記ブレードは、前記転圧機械の進行方向に対して傾斜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溝形成具の転圧面には凸部を設けるので、別途コンクリート側溝等を用いる必要がなく、低価格かつ短時間で敷設面に溝を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る溝形成具を備える転圧機械の側面図。
【
図2】この発明の実施形態にかかる溝形成具の平面図。
【
図4】この発明の第2の実施形態にかかる
図3と同様の図。
【
図5】この発明の第3の実施形態にかかる溝形成具の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、この発明の第1の実施形態における溝形成具2を備える転圧機械1の一例を示したものである。転圧機械1として、機械本体11と転圧板12とを有するプレートコンパクタを例に説明する。
図2および
図3は転圧機械1を省略したものであり、溝形成具2のみを示している。
【0013】
転圧機械1は、機械本体11に図示しない起振手段を備え、転圧機械1の駆動により、起振手段からの振動が転圧板12に伝えられるとともに、転圧機械1が図面左側へと進行する。通常、転圧板12は平らなので、進行しながら振動することによって、地面を平らに締め固めることができる。一般的に、転圧機械1は砕石の転圧およびアスファルト合材の転圧のいずれにおいても同一のものを用いることができる。
【0014】
転圧板12は、機械本体11に対向する上面13と、その反対側の下面14とを有し、下面14が平らにされている。溝形成具2は、転圧機械1の転圧板12に取付けることができる。溝形成具2は、転圧板12に対向する取付面21と、取付面21に対向する転圧面22とを有する形成具本体20を備える。形成具本体20において、転圧機械1の進行方向に延びる方向を横方向Xとし、これに直交する方向を縦方向Yとする。形成具本体20は、横方向Xの寸法が縦方向Yの寸法よりも大きい。形成具本体20の転圧面22には、地面に向かって隆起する凸部23A,23Bを設ける。
【0015】
この実施形態において、横方向Xに離間して凸部23Aと、凸部23Bとを設ける。
凸部23Aおよび凸部23Bの横方向Xにおける端部は、それぞれ閉鎖され、その内部に砕石等の土木材料が侵入しないようにしている。凸部23Aおよび凸部23B間において、転圧面22は平らであり、実質的にこの面は地面とは接触せず、この面において転圧することはない。
【0016】
図3を参照すれば、凸部23Aの断面は、取付面21が平らで、転圧面22が弧を描き、全体として半円形である。凸部23Bも凸部23Aと同様の形状を有する。
【0017】
溝形成具2は、形成具本体20の取付面21から地面とは反対側、すなわち転圧機械1側に起立するブレード30を備える。すなわち、ブレード30は、取付面21から転圧機械1側に向かってほぼ垂直に延びる板状部材であって、転圧機械1の進行方向、すなわち溝形成具2の横方向Xに対して傾斜する。
【0018】
特に
図2を参照すれば、形成具本体20は、縦方向Yの寸法を二分する中心線3を有し、この実施形態においてブレード30は、ブレード支持板33に取付けられるとともに中心線3に対して対称な第1ブレード31と第2ブレード32とを備える。第1ブレード31および第2ブレード32は、その先端31A,32Aにおいて互いに接触し、後端31B,32Bに向かってその離間距離が大きくなるように傾斜する。すなわち、第1ブレード31および第2ブレード32は、いわゆる切妻形状を有する。第1ブレード31および第2ブレード32は、その後端31B,32Bが転圧機械1の縦方向Yに延出する程度の寸法であることが好ましい。また、後端31B,32Bにおいて、その一部が中心線3に対してほぼ平行に延びる。
【0019】
形成具本体20は、その先端20Aに位置する先鋭部40を備える。先鋭部40は、形成具本体20に隣接する近位部41と、その反対側に位置する遠位部42とを有し、少なくとも遠位部42が転圧面よりも取付面21の反対側へと突出する(
図1参照)。すなわち、遠位部42は、凸部23の図面下端よりも地面側へと突出する。先鋭部40は、形成具本体20の横方向Xにおける寸法よりもその寸法が小さい。
【0020】
上記のような溝形成具2は、締結手段50によって転圧機械1の転圧板12に取付けられる。締結手段50としてボルトおよびナットを用いることができ、転圧板12の下面14と形成具本体20の取付面21とを対向させ、これらを固定する。より具体的には、進行方向前方すなわち
図1および2における横方向Xの左側には、ボルトの軸よりもわずかに大きい径を有する二つの軸穴24と、進行方向後方すなわち横方向Xの右側には、ボルトの軸が横方向Xに摺動可能な二つの長穴25とが形成される。長穴25を形成することによって、取付位置の調整が可能となり、サイズの異なる種類の転圧板12に溝形成具2を取付けることができる。
【0021】
上記のような溝形成具2において、形成具本体20、凸部23A、凸部23B、ブレード30、先鋭部40の材料として、例えば鉄などの金属を用いることができる。
【0022】
上記のような溝形成具2を備える転圧機械1の使用例について説明する。例えば地面にアスファルトを敷く場合、砕石を敷いて転圧した後、その上にアスファルトを敷いてさらに転圧する。この実施形態において、地面に砕石を敷いたら、溝形成具2を取付けない転圧機械1を用い、砕石を事前転圧する。すなわち、転圧機械1の転圧板12を砕石に対向させ、これを転圧し、敷設面を平らにする。このように砕石を平らに転圧した後、転圧機械1の転圧板12に溝形成具2を取付け、転圧機械1を駆動して敷設面を再走行させることによって、敷設面に溝を形成する。なお、転圧機械1の転圧開始位置には凸部23A、23Bに対応する位置にこれらが収まる溝を予め形成することが望ましい。また、事前転圧には転圧機械1以外のローラ等を用いることもできる。
【0023】
形成具本体20には、先鋭部40が設けられるから、上記のように転圧機械1を走行させると、転圧された砕石を先鋭部40がほぐしながら進行方向に進む。ほぐされた砕石は、先鋭部40の上方へと持ち上げられ第1ブレード31および第2ブレード32に沿って、その縦方向Y両側へと移動する。したがって、第1ブレード31および第2ブレード32に沿って不要な砕石を円滑に移動させることができる。第1ブレード31および第2ブレード32の後端31B,32Bが転圧機械1の外側に位置するので、砕石は転圧機械1の進行方向両外側へと排出され、転圧機械1の進行の妨げになることがない。なお、転圧機械1の両外側へと排出された砕石またはブレードに付着した砕石は、ある程度溜まったら取り除くことが望ましい。
【0024】
この実施形態においてブレード30は、第1ブレード31および第2ブレード32を備えるが、これが一つのブレードのみで構成されていてもよい。すなわち、いわゆる片持ち形状であってもよい。その場合であっても、ほぐされた砕石が円滑に排出されるように、形成具本体20の中心線3に対して傾斜するように配置するのが好ましい。
【0025】
さらに、転圧機械1を進行させると、ほぐされた砕石部分に形成具本体20の凸部23Aが位置し転圧される。すなわち、敷設面は凸部23Aと同じ形状に転圧され、敷設面には凹部が成形される。進行方向前方の凸部23Aで転圧した後、さらに後方の凸部23Bで転圧する。このように横方向X離間して凸部を設けることによって、敷設面は二回転圧されることとなり、確実に敷設表面に凹部を形成することができる。また、このように凸部を離間して設けることによって、離間しないひとつの凸部を設ける場合に比べて転圧面積を小さくすることができ、それぞれの凸部23A,23Bの接地圧を大きくすることができる。
【0026】
凸部23A,23Bにおいて、取付面21から凸部23Bの先端までの寸法D2を、取付面21から凸部23Aの先端までの寸法D1よりも大きくすることができる。このように後方の凸部23Bの寸法D2を大きくすることによって、後方の凸部23Bでの圧力をより大きくすることができる。なお、この実施形態において横方向Xに離間して2つの凸部23A,23Bを設けているが、この数に限定するものではない。凸部はひとつだけでもよいし、3つ以上設けてもよい。
【0027】
上記のように転圧機械1を進行させることによって、敷設表面には凹部が連続して形成され、これを排水溝として用いることができる。転圧機械1を進行させるだけで排水溝を作ることができるので、作業が容易かつ短時間である。また、一度転圧された敷設面は、硬く締め固められているから、例えば手作業で掘り起こそうとした場合には、重労働になるが、この発明の溝形成具2を用いることによって軽減される。さらに、別途コンクリート側溝等を用いる必要がないので、その分の費用を削減することができる。
【0028】
上記において、砕石における転圧および溝形成について説明したが、アスファルトの転圧および溝形成でも同様である。ただし、凸部23A、23Bの大きさは、砕石用溝形成具のそれよりも小さくすることが望ましい。このように凸部23A、23Bの大きさを変えることによって、崩れにくく見た目にも美しい均一な溝を形成することができる。
【0029】
この実施形態において、転圧機械1の進行方向前方に締結手段50を支持する軸穴24を設け、後方に長穴25を設けているが、これらが逆の場合であってもよい。ただし、長穴25に先鋭部40でほぐされた砕石やアスファルト等が入ってしまう可能性を考慮すれば、先鋭部40からの離間距離の長い後方に長穴25を取付けることが望ましい。
【0030】
この実施形態では、溝形成具2を取付けた転圧機械1で転圧する前に、溝形成具2を取付けない転圧機械1で事前転圧をおこない転圧面を平らにしているが、これは必須の工程ではない。特にアスファルトにおける溝形成では、事前転圧することなく溝形成具2を取付けた転圧機械1で転圧することが好ましい。事前転圧することによって、溝の形成が困難になる可能性があるからである。
【0031】
図4は、第2の実施形態における溝形成具2を示したものであって、凸部23A,23Bの断面形状が第1の実施形態と異なる。この実施形態において、凸部23A,23Bの形状は略台形となるようにしている。すなわち、取付面21を下底とし、転圧面22で上底および脚を形成するような略台形とすることができる。このような略台形の形状は、そのほとんどが直線的であるので凸部23A,23Bの形成時における加工が容易であるというメリットを有する。
【0032】
図5は、第3の実施形態における溝形成具2を示したものであって、アスファルト用の散水手段60を備えるものである。散水手段60は、形成具本体20の取付面21に設けられた散水ホース接続部61と、散水ホース接続部61から供給された水を貯水する貯水タンク62と、貯水タンク62から敷設面に散水する散水孔63とを備える。
【0033】
散水ホース接続部61は、ブレード30よりも進行方向後方に位置し、先鋭部40によってほぐされたアスファルトが衝突しないようにしている。一般的に転圧機械1は散水用ホースを備えているから、この散水用ホースを散水ホース接続部61に接続することによって貯水タンク62に水を供給することができる。貯水タンク62は、中空にした形成具本体20の内部に設けることができる。散水孔63は、形成具本体20の先端20Aに削孔処理することにより形成することができる。
【0034】
上記のように散水手段60を備えることによって、アスファルト片が溝形成具2に付着するのを予防することができる。また、転圧機械1が備える散水手段と一部兼ねることができるので、別途設ける場合に比べて低コストおよび低スペースの実現が可能である。
【0035】
この実施形態において、先鋭部40の近位部41と遠位部42とは、その高さがほぼ等しい。第1の実施形態では、遠位部42が近位部41に比べて図面下方に下がっているが、この実施形態のようにこれらの高さが等しくてもよい。
ブレード30は、溝形成具2の形成具本体20に対する離間距離を調整可能とすることができる。例えば、形成具本体20に対してブレード30をボルトおよびナットで固定し、ナットの固定位置によってブレード30の位置を調整するようにすることもできる。このようにブレード30の位置を調整可能とすることによって、ブレード30の下端で砕石やアスファルト合材の表面を均すようにすることもできる。
【符号の説明】
【0036】
1 転圧機械
2 溝形成具
11 機械本体
12 転圧板
20 形成具本体
20A 先端
21 取付面
22 転圧面
23A 凸部
23B 凸部
30 ブレード
31 第1ブレード
32 第2ブレード
40 先鋭部
41 近位縁
42 遠位縁
60 散水手段
61 散水ホース接続部
62 貯水タンク
63 散水孔