(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のポリイミド溶液を、基材表面に塗布後、200℃以下の温度で乾燥することにより多孔質ポリイミド被膜を形成する工程を含む多孔質ポリイミドフィルムの製造方法。
気孔率が20体積%以上、90体積%以下、平均気孔径が10nm以上、5000nm以下の多孔質ポリイミドフィルムであって、前記ポリイミドが、主鎖中にオキシアルキレン成分、シロキサン成分、アルキレン成分から選ばれる少なくとも一つの成分を含むポリイミドであり、前記ポリイミドのモノマー組成が、下記(1)〜(3)の少なくともひとつを満たすことを特徴とする多孔質ポリイミドフィルム。
(1)TA−1またはDA−1の使用量が1〜20モル%である。
(2)TA−2またはDA−2の使用量が1〜20モル%である。
(3)TA−3またはDA−3の使用量が1〜20モル%である。
ここで、TA−1はオキシアルキレン成分を有するテトラカルボン酸二無水物、DA−1はオキシアルキレン成分を有するジアミン、TA−2はシロキサン成分を有するテトラカルボン酸二無水物、DA−2はシロキサン成分を有するジアミン、TA−3はアルキレン成分を有するテトラカルボン酸二無水物、DA−3はアルキレン成分を有するジアミンを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明では、主鎖中にオキシアルキレン成分、シロキサン成分、アルキレン成分から選ばれる少なくとも一つの成分を含むPI溶液を用いる。ここで、PIは、主鎖にイミド結合を有する耐熱性高分子であり、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等をいう。この溶液は、例えば、溶媒中で、モノマ成分であるジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合させてPAA溶液とした後、溶媒中で、熱的または化学的に脱水イミド化することにより得られる。ここで用いられる溶媒は、PIに対し、良溶媒となる溶媒を用いることが好ましい。 PIに対する良溶媒とは、25℃において、PIに対する溶解度が1質量%以上の溶媒をいい、アミド系溶媒や尿素系溶媒が好ましく用いられる。アミド系溶媒の具体例としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP 沸点:202℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF 沸点:153℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc 沸点:166℃)等が挙げられる。また、尿素系溶媒の具体例としては、例えば、テトラメチル尿素(TMU 沸点:177℃)、ジメチルエチレン尿素(沸点:220℃)が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、NMPおよびDMAcが好ましい。このようにして得られるPIは、エーテル系溶媒が貧溶媒となるポリイミドであることが必要である。なお、この重合溶媒には、エーテル系溶媒等PIに対する貧溶媒を配合した混合溶媒を用いてもよい。この貧溶媒については後述する。
【0012】
PAAは、主鎖中にオキシアルキレン成分、シロキサン成分、アルキレン成分から選ばれる少なくとも一つの成分を含む。このようにすることにより、脱水イミド化して得られるPIの主鎖中に、オキシアルキレン成分、シロキサン成分、アルキレン成分から選ばれる少なくとも一つの成分を含ませることができる。
【0013】
オキシアルキレン成分としては、具体的には、オキシエチレン成分、オキシプロピレン成分、オキシブチレン成分等が挙げられる。 オキシアルキレン成分を含むPAAは、例えば、オキシアルキレン成分を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、「TA−1」と略記することがある)および/またはオキシアルキレン成分を有するジアミン(以下、「DA−1」と略記することがある)と、オキシアルキレン成分を有しないテトラカルボン酸二無水物(以下、「TA」と略記することがある)およびオキシアルキレン成分を有しないジアミン(以下、「DA」と略記することがある)とを共重合させることにより得られる共重合PAA(以下、「PAA−1」と略記することがある)である。
【0014】
シロキサン成分含むPAAは、例えば、シロキサン成分を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、「TA−2」と略記することがある)および/またはシロキサン成分を有するジアミン(以下、「DA−2」と略記することがある)と、TAおよびDAとを共重合させることにより得られる共重合PAA(以下、「PAA−2」と略記することがある)である。
【0015】
アルキレン成分含むPAAは、例えば、アルキレン成分を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、「TA−3」と略記することがある)および/またはアルキレン成分を有するジアミン(以下、「DA−3」と略記することがある)と、TAおよびDAとを共重合させることにより得られる共重合PAA(以下、「PAA−3」と略記することがある)である。
【0016】
PAA−1、PAA−2、PAA−3は、2種類以上混合して用いることもできる。
【0017】
PAA−1溶液としては、TA−1および/またはDA−1と、TAおよびDAとを、テトラカルボン酸二無水物の合計とジアミンの合計が略等モルになるように配合し、それを前記混合溶媒中、10〜70℃の温度で重合反応させて得られる溶液を用いることができる。ここで、TA−1またはDA−1の使用量としては、1〜20モル%とすることが好ましく、2〜15モル%とすることがより好ましい。前記モル%は、以下の式に従って算出された値をいう。
TA−1の使用量(モル%)=(TA−1のモル数/(TA−1のモル数+TAのモル数))×100
DA−1の使用量(モル%)=(DA−1のモル数/(DA−1のモル数+DAのモル数))×100
【0018】
TA−1の具体例としては、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)、ジエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、トリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、テトラエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、ジエチレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、トリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、テトラエチレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ジプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、トリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、テトラプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、ジプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、トリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、テトラプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド、ポリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリットアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、TMEGが好ましい。
【0019】
TAの具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、および3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、BPDA、ODPA、BTDAが好ましい。
【0020】
DA−1の具体例としては、エチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、プロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ジプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、トリプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、テトラプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、ポリエチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル(PEGME)、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテル(PPGME)が好ましい。これらの化合物は市販品を利用することができる。
【0021】
DAの具体例としては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3′−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルメタン3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。 これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、BAPPが好ましい。
【0022】
PAA−2溶液としては、TA−2および/またはDA−2と、TAおよびDAとを、テトラカルボン酸二無水物の合計とジアミンの合計が略等モルになるように配合し、それを前記混合溶媒中、10〜70℃の温度で重合反応させて得られる溶液を用いることができる。ここで、TA−2またはDA−2の使用量としては、1〜20モル%とすることが好ましく、2〜15モル%とすることがより好ましい。前記モル%は、以下の式に従って算出された値をいう。
TA−2の使用量(モル%)=(TA−2のモル数/(TA−2のモル数+TAのモル数))×100
DA−2の使用量(モル%)=(DA−2のモル数/(DA−2のモル数+DAのモル数))×100
【0023】
TA−2の具体例としては、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラメチルシロキサン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラエチルシロキサン二無水物、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマ等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。 両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマとしては、信越化学社製、「X22−168AS」(数平均分子量1,000)、同「X22−168A」(数平均分子量2,000)、同「X22−168B」(数平均分子量3,200)、同「X22−168−P5−8」(数平均分子量4,200)、ゲレスト社製、「DMS−Z21」(数平均分子量600〜800)等の市販品を用いることができる。これらTA−2の中で、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマが好ましい。
【0024】
DA−2の具体例としては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等、および下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかで、下記一般式(1)において、R1およびR2がトリメチレン基、R3、R4、R5およびR6がメチル基、nは3〜100であるもの(以下、「DASM」と略記することがある)が好ましく、数平均分子量が、300〜5000のものがより好ましい。DASMは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。DASMとしては、信越化学社製、KF8010(数平均分子量860)、同X22−161A(数平均分子量1,600)、同X22−161B(数平均分子量3,000)、同KF8012(数平均分子量4,400)、東レダウコーニング製、BY16−835U(数平均分子量900)、チッソ社製、サイラプレーンFM3311(数平均分子量1000)等の市販品を用いることができる。これらDA−2の中で、DASMが好ましい。
【0025】
【化1】
(ただし、式中nは1以上の整数を示す。また、R1およびR2は、それぞれ同一または異なった、低級アルキレン基またはフェニレン基を示し、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ同一または異なった、低級アルキル基、フェニル基またはフェノキシ基を示す。)
【0026】
PAA−3溶液としては、TA−3および/またはDA−3と、TAおよびDAとを、テトラカルボン酸二無水物の合計とジアミンの合計が略等モルになるように配合し、それを前記混合溶媒中、10〜70℃の温度で重合反応させて得られる溶液を用いることができる。ここで、TA−3またはDA−3の使用量としては、1〜20モル%とすることが好ましく、2〜15モル%とすることがより好ましい。前記モル%は、以下の式に従って算出された値をいう。
TA−3の使用量(モル%)=(TA−3のモル数/(TA−3のモル数+TAのモル数))×100
DA−3の使用量(モル%)=(DA−3のモル数/(DA−3のモル数+DAのモル数))×100
【0027】
TA−3の具体例としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、HPMDAが好ましい。
【0028】
DA−3の具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、ダイマジアミン(DDA)等の脂肪族ジアミンが挙げられる。 これら脂肪族ジアミン類は、単独、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DDAが好ましい。DDAは、コグニスジャパン社製、商品名「バーサミン551」、「バーサミン552」、クローダ社製、商品名「プリアミン1074」、「プリアミン1075」等の市販品を用いることができる。
【0029】
PAA溶液における濃度は、3〜45質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0030】
PAA溶液の30℃における粘度は0.01〜100Pa・sの範囲が好ましく、0.1〜50Pa・sがより好ましい。
【0031】
PI溶液は、前記PAA溶液を、公知の方法を用いて、溶液中で熱的または化学的にイミド化することにより得られるが、経済性の観点から、熱的にイミド化することが好ましい。熱的にイミド化するには、100℃〜200℃程度の温度で、イミド化により生成する水を反応系外に除去しつつ反応を行うことが好ましい。 この方法としては、PAA溶液にトルエン、キシレン等の溶媒を加え、これらの溶媒と水との共沸を利用して水を系外に除去する方法やPAA溶液中に窒素ガスをバブリングすることにより水を除去する方法等を用いることができる。また、化学的にイミド化するには、PAA溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミドや無水酢酸等の脱水剤を加えてイミド化すればよい。
【0032】
前記イミド化反応において、PAAのイミド化は、実質的に完結されるが、一部、イミド化されていない部分が残っていてもよい。イミド化が完結しているかどうかは、例えば、特許5825651号公報や特許2903704号公報に記載されているように、赤外吸収スペクトルのイミド基に基づく吸収を確認することにより行うことができる。
【0033】
前記のようにして得られた、PI溶液(PIに対する良溶媒を含む)に、PIに対する貧溶媒を配合して混合溶媒とすることにより、本発明のPI溶液とすることができる。ここで、貧溶媒とは、25℃において、PIに対する溶解度が1質量%未満の溶媒をいう。貧溶媒は、良溶媒よりも高沸点であることが好ましい。また、その沸点差は、5℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
【0034】
貧溶媒としては、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等が用いられ、エーテル系溶媒が好ましく用いられる。アルコール系溶媒の具体例としては、例えば、エチレングリコール(沸点:197℃)、デカノール(沸点:233℃)等を挙げることができる。エステル系溶媒の具体例としては、こはく酸ジメチル(沸点200℃)、こはく酸ジエチル(沸点218℃)、グルタル酸ジメチル(沸点210〜215℃)、グルタル酸ジエチル(沸点237℃)、アジピン酸ジメチル(沸点215〜225℃)、アジピン酸ジエチル(沸点245℃)、エチルカルビネートアセテート(ECA:沸点218℃)、ブチルカルビネートアセテート(BCA:沸点247℃)等を挙げることができる。エーテル系溶媒の具体例としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:162℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:216℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:275℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、トリエチレングリコール(沸点:287℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:215℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:175℃)等の溶媒を挙げることができる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)およびテトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)が好ましい。
【0035】
混合溶媒中における貧溶媒の配合量としては、混合溶媒質量に対し、20〜95質量%とすることが好ましく、50〜90質量%とすることがより好ましい。このようにすることにより、基材への塗布後の乾燥工程において、効率よく相分離が起こり、高い気孔率を有する多孔質PI被膜を得ることができる。
【0036】
PI溶液には、必要に応じて、各種界面活性剤やシランカップリング剤のような公知の添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。また、必要に応じて、PI溶液に、PI以外の他の高分子を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0037】
PI溶液を、基材の表面に塗布し、常圧または減圧で、乾燥することにより、多孔質PIフィルムを形成させることができる。その後、基材から多孔質PIフィルムを剥離して多孔質PIフィルム単体とすることができる。また、基材上に形成された多孔質PIフィルムは、基材から剥離することなく、基材と積層一体化して使用することもできる。
【0038】
前記乾燥工程は、塗膜に含まれる溶媒を揮発させることにより相分離を誘起させて多孔質PI被膜を形成させる工程であり、乾燥温度としては、200℃以下とすることが好ましく、120℃以上、180℃以下とすることがより好ましい。
【0039】
前記基材としては、例えば、金属箔、金属線、ガラス板、プラスチックフィルム、各種織物、各種不織布等が挙げられ、前記金属としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム等を用いることができる。これらは、多孔質であっても非多孔質であってもよい。この基材への塗液の塗布方法としては、ディップコータ、バーコータ、スピンコータ、ダイコータ、スプレーコータ等を用い、連続式またはバッチ式で塗布することができる。
【0040】
多孔質PIフィルムの厚みは通常1〜800μm程度であり、10〜500μm程度が好ましい。
【0041】
多孔質PIフィルムの気孔率は、20体積%以上、90体積%以下であり、30体積%以上、85体積%以下が好ましく、40体積%以上、80体積%以下であることがより好ましい。 なお、気孔率は以下の式を用いて算出された値を用いることができる。
気孔率(体積%)= 100−100×(W/D)/(S×T)
式中のSは多孔質PIフィルムの面積、Tはその厚み、Wはその質量、Dは対応する非多孔質PIフィルムの密度を示す。気孔率をこのような範囲とすることにより、PIフィルム固有の優れた力学的特性と耐熱性とを確保することができる。
【0042】
多孔質PIフィルムの平均気孔径は、10nm以上、5000nm以下であり、20nm以上、3000nm以下が好ましい。平均気孔径は、多孔質PIフィルム断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を倍率1000〜20000倍で取得し、市販の画像処理ソフトにより、気孔部分とPI部分とに分離して解析することにより確認することができる。平均気孔径をこのような範囲とすることにより、通気性、誘電特性等、多孔質PIフィルム固有の優れた特性を確保することができる。なお、多孔質PIフィルムの気孔は、連続気孔であっても、独立気孔であってもよい。
【0043】
多孔質PIフィルムを構成するPIのTgは、150℃以上であることが好ましく、200℃以上がより好ましい。Tgをこのようにすることにより、良好な耐熱性を確保することができる。 なお、Tgは、DSC(示差熱分析)で測定した値を用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、BAPP(DA):0.90モル、PPGME(DA−1):0.10モル (分子量2000:ハンツマン社製ジェファーミンD2000)、NMPを投入して攪拌し、ジアミンをNMPに溶解した。この溶液をジャケットで30℃以下に冷却しながら、BPDA(TA):1.0モルを徐々に加えた後、40℃で5時間重合反応させ、オキシプロピレン成分を導入した共重合PAA溶液を得た。この溶液にキシレンを加え、140℃に加熱して、PAAのイミド化による発生する水を共沸により反応系外に除去しつつ反応を進め、固形分濃度が25質量%のPI溶液を得た。このPIは実質的にイミド化が完了していることを赤外吸収スペクトルの測定により確認した。 この溶液に、PIの貧溶媒であるG4を加え、溶媒組成をNMP/G4=50/50(質量比)とした固形分濃度が14質量%のPI溶液を得た。このPI液を、アルミニウム箔(厚み:150μm)上に、ドクターブレードを用いて塗布し、130℃で20分乾燥し、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−1)を得た。P−1の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、54%、1200nmであった。
また、得られた積層体を200℃で1時間熱処理し、多孔質PIフィルム(P−1)表面の電気抵抗値を測定したところ、電気抵抗値は、処理前と殆ど変化しておらず、良好な耐熱性が確認された。
【0046】
〔実施例2〕
ジアミンとして、「BAPP(DA):0.90モル、DASM(DA−2):0.10モル (数平均分子量860:信越化学社製 KF−8010)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約70μmの多孔質PIフィルム(P−2)を得た。P−2の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、58%、1500nmであった。
【0047】
〔実施例3〕
ジアミンとして、「BAPP(DA):0.90モル、DASM(DA−2):0.10モル (数平均分子量860:信越化学社製 KF−8010)を用い、溶媒組成をNMP/G4=45/55(質量比)としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約80μmの多孔質PIフィルム(P−3)を得た。P−3の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、65%、1200nmであった。
【0048】
〔実施例4〕
ジアミンとして、「BAPP(DA):0.80モル、DDA(DA−3):0.20モル (クローダ社製 プリアミン1075」を用い、溶媒組成をNMP/G4=40/60(質量比)としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−4)を得た。P−4の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、59%、1700nmであった。
【0049】
〔実施例5〕
重合溶媒をDMAcとしたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−5)を得た。P−5の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、57%、2100nmであった。
【0050】
〔実施例6〕
テトラカルボン酸二無水物として、「BPDA(TA):0.40モル、ODPA(TA):0.40モル、TMEG(TA−1):0.2モル」を用い、ジアミンとしてBAPP(DA):1.0モルを用い、溶媒組成をNMP/G4=45/55(質量比)としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−6)を得た。P−6の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、59%、1500nmであった。
【0051】
〔実施例7〕
テトラカルボン酸二無水物として、「BPDA(TA):0.80モル、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマ(TA−2):0.20モル (数平均分子量1,000:信越化学社製X22−168AS)」を用い、ジアミンとしてBAPP(DA):1.0モルを用い、溶媒組成をNMP/G4=40/60(質量比)としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−7)を得た。P−7の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、52%、2500nmであった。
【0052】
〔実施例8〕
テトラカルボン酸二無水物として、「BPDA(TA):0.75モル、HPMDA(TA−3):0.25モル 」を用い、ジアミンとしてBAPP(DA):1.0モルを用い、溶媒組成をNMP/G4=35/65(質量比)としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−8)を得た。P−8の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、51%、2700nmであった。
【0053】
〔実施例9〕
ジアミンを「BAPP(DA):0.93モル、PPGME(DA−1):0.07モル としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−9)を得た。P−9の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、53%、2800nmであった。
【0054】
〔実施例10〕
ジアミンを「BAPP(DA):0.85モル、DASM(DA−2):0.15モル」としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−10)を得た。P−10の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、51%、2900nmであった。
【0055】
〔実施例11〕
ジアミンを「BAPP(DA):0.85モル、DDA(DA−3):0.15モル」としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−11)を得た。P−11の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、51%、2200nmであった。
【0056】
〔実施例12〕
ジアミンを「BAPP(DA):0.40モル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(DA):0.40モル、PPGME(DA−1):0.20モル としたこと以外は、実施例1と同様に行い、アルミ箔上に積層された厚み約50μmの多孔質PIフィルム(P−12)を得た。P−12の気孔率、平均気孔径は、それぞれ、61%、1900nmであった。
【0057】
〔比較例1〕
ジアミンとして、「BAPP(DA−2):0.995モル、PPGME(DA−1):0.005モル」を用いたこと以外は、実施例1と同様にPI溶液を得ようとしたが、均一なPI溶液とすることはできなかった。
【0058】
〔比較例2〕
ジアミンとして、「BAPP(DA−2):0.995モル、DASM(DA−2):0.005モル」を用いたこと以外は、実施例1と同様にPI溶液を得ようとしたが、均一なPI溶液とすることはできなかった。
【0059】
〔比較例3〕
ジアミンとして、「BAPP(DA−2):0.995モル、DDA(DA−3):0.005モル」を用いたこと以外は、実施例1と同様にPI溶液を得ようとしたが、均一なPI溶液とすることはできなかった。
【0060】
〔比較例4〕
貧溶媒であるG4を加えなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、厚み約40μmのPIフィルムを得たが、このフィルム中に気孔は形成されていなかった。
【0061】
〔比較例5〕
貧溶媒であるG4を加えなかったこと以外は、実施例2と同様に行い、厚み約40μmのPIフィルムを得たが、このフィルム中に気孔は形成されていなかった。
【0062】
〔比較例6〕
貧溶媒であるG4を加えなかったこと以外は、実施例3と同様に行い、厚み約40μmのPIフィルムを得たが、このフィルム中に気孔は形成されていなかった。
【0063】
実施例で示したように、本発明のPI溶液から得られる多孔質PIフィルムP−1〜12は、平均気孔径が5000nm以下の気孔が均一に形成されていることが判る。 これに対し、比較例4〜6で示したように、貧溶媒であるG4を含有しないPI溶液からは、多孔質PIフィルムは得られないことが判る。