(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983452
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】ナマコの精子の超低温凍結保存法
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
A01N1/02
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2021-507063(P2021-507063)
(86)(22)【出願日】2020年5月19日
(65)【公表番号】特表2021-525790(P2021-525790A)
(43)【公表日】2021年9月27日
(86)【国際出願番号】CN2020090969
(87)【国際公開番号】WO2021012763
(87)【国際公開日】20210128
【審査請求日】2021年2月4日
(31)【優先権主張番号】201910653260.1
(32)【優先日】2019年7月19日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521053846
【氏名又は名称】大連海洋大学
【氏名又は名称原語表記】DALIAN OCEAN UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】常 亜青
(72)【発明者】
【氏名】湛 ▲ヤオ▼▲ヤオ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲ジャオ▼ 譚軍
(72)【発明者】
【氏名】宋 堅
(72)【発明者】
【氏名】張 偉杰
【審査官】
高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第106818708(CN,A)
【文献】
黒倉 寿, 外2名,ウニ精液の凍結保存に関する研究,水産増殖,1989年,Vol.37, No.3,pp.215-219
【文献】
太田博巳, 横井謙一,養殖対象魚の精子凍結保存方法,グローバルCOEプログラム2008〜2009(平成20〜21)年度中間成果報告書,2010年03月01日,pp.230-233
【文献】
黒倉寿,魚類精液の凍結保存,Japanese Journal of Freezing and Drying,1988年,Vol.34,pp.100-103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繁殖期のナマコを取り、ナマコの体を乾かし、腹部から解剖した後、完全な性腺を摘出し、完全な性腺の表面の体液を吸収した後、滅菌ペトリ皿に移して細かくせん断し、精液を吸い取り、300メッシュの篩絹でろ過するステップaと、
0.3mlのろ過した精液と0.3mlの凍結保存液を、2mlの凍結チューブに注入して均一に混合し、前記凍結保存液は、1リットルあたりの蒸留水に8〜15gのグルコース、7〜9gの塩化ナトリウム、0.5〜0.7gの塩化カリウム、3〜5gのトレハロース、0.05〜0.1gの無水塩化カルシウム、及び純度≧99.7%の80〜120mLのジメチルスルホキシドを加えることによって得られるステップbと、
前記凍結チューブの全体を液体窒素の表面から10〜15cmの距離で10min吊り下げ、次に、前記凍結チューブを前記液体窒素の表面に5min吊り下げ、最後に、前記凍結チューブの全体を前記液体窒素に浸して凍結保存するステップcと、
を順次に行うことを特徴とするナマコの精子の超低温凍結保存法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナマコの低温生物学及び遺伝資源の超低温凍結保存の技術分野に属し、特に、ナマコの精子の超低温凍結保存法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナマコは、棘皮動物門(Echinodermata)、遊在亜門(Eleutherozea)、ナマコ綱(Holothuroidea)に属し、世界の温帯および熱帯の海に広く分布しており、最も一般的な海の高等無脊椎動物である。ナマコ「性質が温和で高麗人参のようなものである」は、さまざまな栄養素と生物活性物質が豊富で、医食同源の滋養強壮品である。ナマコの市場需要及び産業規模が年々拡大し、野生ナマコの乱獲が日々深刻になっているにつれて、その結果、野生ナマコの資源量と遺伝資源の品質が急激に低下し、養殖ナマコの生産量低下及び遺伝資源劣化などの問題も発生している。そのため、研究者は現在、ナマコの遺伝資源の品質を高めるために、地理的に離れた南北のナマコの交雑方法が主に採用されている。しかし、南北のナマコのオスとメスが同時に成熟しないため、ナマコの交雑過程では、いずれも追熟、排卵促進などの手段が必要であり、その結果、操作が複雑でコストが高いだけでなく、追熟、排卵促進の失敗による交雑の失敗などの問題がある。
【0003】
2006年、Shaoらが発表した論文(Shao M Y , Zhang Z F, Yu L, et al. Cryopreservation of sea cucumber Apostichopus japonicus (Selenka) sperm [J]. Aquaculture Research, 2006, 37(14):1450-1457.)には、保存液を使用して、ナマコの精子を希釈してから、凍結保存を行うことが公開されている。その方法は、操作時間が1時間に達し、精子の運動性の損失が大きく、保存液の処方は、423.00mM NaCl、9.00mM KCl、9.27mM CaCl
2、22.94mM MgCl
2、22.50 mM MgSO
4、及び10mM Hepes緩衝液+15%ジメチルスルホキシドである。Hepes緩衝液は、高価であるだけでなく、可視光に曝されると、一定の生物学的毒性を持つ過酸化水素を生成し、精子の保存時間は短く(1時間)、解凍後、精子の寿命は僅か1200sであるので、生産に使用するのが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、先行技術における上記の技術的問題を解決するために、ナマコの精子の超低温凍結保存法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の技術的解決手段は以下のとおりである。
【0006】
ナマコの精子の超低温凍結保存法であって、
繁殖期のナマコを取り、ナマコの体を乾かし、腹部から解剖した後、完全な性腺を摘出し、完全な性腺の表面の体液を吸収した後、滅菌ペトリ皿内に移して細かくせん断し、精液を吸い取り、300メッシュの篩絹でろ過するステップaと、
ろ過した精液と凍結保存液を1:1〜2の体積比で凍結チューブに注入して均一に混合し、前記凍結保存液は、1リットルあたりの蒸留水に8〜15gのグルコース、7〜9gの塩化ナトリウム、0.5〜0.7gの塩化カリウム、3〜5gのトレハロース、0.05〜0.1gの無水塩化カルシウム、及び純度≧99.7%の80〜120mLのジメチルスルホキシドを加えることによって得られるステップbと、
凍結チューブを液体窒素の表面から10〜15cmの距離で10min吊り下げ、次に、凍結チューブを液体窒素の表面に5min吊り下げ、最後に、凍結チューブを液体窒素に浸して凍結保存するステップcと、
を順次に行うことを特徴とする。
【0007】
本発明の操作時間が短い(15〜20min)ため、精子の運動性の損失が大きいという問題を回避し、使用した保存液は低コストで無毒であり、保存時間が長く(精子を17日間凍結保存する)、精子の最大生存率は19.00±4.00%に達し、寿命は2817.33sに達し、解凍蘇生した精子の受精率は83.72〜83.74%に達することができ、卵割率(2〜4細胞期以上統計)は77.67〜87.05%に達し、受精後20時間で、測定された胚盤胞の孵化率は56.47〜65.00%であり、ナマコの人工繁殖、交雑育種及び遺伝資源の保存などの方面に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
a.大連海洋大学農業農村部北方海水増養殖重点実験室で飼育した雄ナマコを利用し、体長は20〜25cmであり、体重は450〜650gである。2019年5月の繁殖期に、ナマコを水から取り出し、ナマコの表面を乾かし(海水が精子を活性化させることを回避する)、性腺を切断しないように、滅菌消毒したはさみでナマコを腹部から解剖し、ピンセットで完全な性腺を摘出し、滅菌ろ紙で性腺の表面の体腔液を吸収し、滅菌ペトリ皿内に移し、性腺を細かくせん断し、5mlの注射器で吸い取り、300メッシュの篩絹(高温で消毒し、60℃で乾燥させる)で注入口を包んでろ過し、ろ過の過程において、体腔液と海水の混入を回避し、ろ過した精子を50mlの遠心分離管に集め、一時的に氷塊のある保温ボックスに入れ、
b.ピペットを利用して、ろ過した精液と凍結保存液をそれぞれ300μl吸い取り、2mlの滅菌凍結保存チューブに加えて均一に混合し、前記凍結保存液は、1リットルあたりの蒸留水に12gのグルコース、7gの塩化ナトリウム、0.7gの塩化カリウム、5gのトレハロース、0.1gの無水塩化カルシウム、及び純度≧99.7%の80〜120mLのジメチルスルホキシドを加えることによって得られ、
c.凍結チューブを液体窒素の表面から15cmの距離で10min吊り下げ、次に、凍結チューブを液体窒素の表面に5min吊り下げ、最後に、凍結チューブを液体窒素に浸して凍結(−196℃)保存する。
【0009】
実験:
精子の運動性試験:ステップaでろ過した少量の精液を取り、スライドガラスに塗布し、海水を1滴滴下して活性化させ、顕微鏡で精子の運動性を観察し、統計分析によると、精子の運動性が85.55±5.00%であることを示した。
【0010】
凍結精子の解凍及び運動性試験:ステップcの凍結チューブを液体窒素から取り出し、液体窒素の表面で30s平衡化した後、すぐに30℃の恒温水浴に入れて解凍し、完全に溶解するまで解凍中に凍結チューブを連続的に振とうする。17日間凍結保存した精子を解凍し、精子の運動性を観察して統計する。解凍した精液を少量取り、スライドガラスに塗布し、海水を1滴滴下して活性化させ、顕微鏡で精子の運動性を観察した。統計分析により、精子の運動性が解凍後に最大で19.00±4.00%に達することができ、寿命が2817.33sであることが分かった。
【0011】
凍結精子の解凍活性化後の受精試験:解凍後の17日間凍結保存した精子を卵を含む海水(卵子の密度13〜26顆/ml)に注入し、従来の方法により、海水を1時間ごとに上下に撹拌し、精子と卵子の結合を促進し、受精を完了する。受精後4時間で、卵子を300メッシュの篩絹で洗浄し、余分な精子を除去し、受精卵を21〜22℃の海水に入れ、孵化する。統計分析によると、解凍蘇生した精子の受精率が83.72〜83.74%に達することができ、卵割率(2〜4細胞期以上統計)が77.67〜87.05%に達し、受精後20時間で、測定された胚盤胞の孵化率が56.47〜65.00%であることを示した。
【0012】
魚類、ウニ、貝類に関連する従来の凍結保存液との比較:本発明の実施例における凍結保存液を魚類の精子の凍結保存液に置き換え、他のステップを変更せずに、ナマコの精子を48時間凍結保存し、解凍後のナマコの精子の運動性は低く(最大:11±2.33%)、かつ解凍後の精子の寿命は短く(539s)、本発明の実施例における凍結保存液をそれぞれウニと貝類の精子の凍結保存液に置き換え、他のステップを変更せずに、ナマコの精子を48時間凍結保存し、解凍後のナマコの精子の運動性はほぼゼロである。これは、魚類、ウニ及び貝類の凍結保存液がナマコの精子の凍結保存に適用されないことを示している。