(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983465
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】シート防水構造の改修構造およびシート防水構造の改修方法
(51)【国際特許分類】
E04D 5/14 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
E04D5/14 D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-11149(P2016-11149)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2017-128988(P2017-128988A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010010
【氏名又は名称】ロンシール工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】進藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】志塚 勝英
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−080212(JP,A)
【文献】
特開2002−227364(JP,A)
【文献】
特開2001−032464(JP,A)
【文献】
特開2013−036321(JP,A)
【文献】
特開2000−064521(JP,A)
【文献】
米国特許第04747241(US,A)
【文献】
リベットルーフ防水 改修施工図例集,日本,日本リベットルーフ防水工事業協同組合,1997年05月15日,p.309
【文献】
リベットルーフ防水 改修施工図例集,日本,日本リベットルーフ防水工事業協同組合,1997年05月15日,p.311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/14
E04G 23/02−23/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平場と立上がりを有する下地の前記平場の下地に、側端部が前記立上がりの下地に沿うように固定された固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修構造であって、
前記既存固定片の上に配置された改修用固定片と、
前記改修用固定片により固定された改修用防水シートと、
前記改修用固定片を貫通し前記下地に打ち込まれた複数の固定具と、
を備え、
前記改修用固定片が、前記立上がりの下地を覆う立上がり部分を備えた断面L字状をなして、前記既存固定片と重なる重なり部分(前記立上がり部分を除く)と、前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分(前記立上がり部分を含む)とを有し、
前記両端の残余部分に前記固定具が貫通されている
シート防水構造の改修構造。
【請求項2】
平場と立上がりを有する下地の前記平場の下地に、側端部が前記立上がりの下地に沿うように固定された固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修方法であって、
前記既存固定片の上に改修用固定片を載置して前記改修用固定片が、前記立上がりの下地を覆う立上がり部分を備えた断面L字状をなして、前記既存固定片と重なる重なり部分(前記立上がり部分を除く)と前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分(前記立上がり部分を含む)とを有するよう配置し、
前記両端の残余部分において前記改修用固定片の上から複数の固定具を前記下地に打ち込み前記改修用固定片を前記下地に固定し、
前記改修用固定片および前記既存防水シートの上に改修用防水シートを敷設し、
前記改修用固定片の上面と前記改修用防水シートの下面とを接合することを特徴とする
シート防水構造の改修方法。
【請求項3】
平場と立上がりを有する下地の前記平場の下地に、側端部が前記立上がりの下地に沿うように固定された固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修方法であって、
前記既存防水シートの上に改修用防水シートを敷設し、
前記既存固定片の上部に位置する前記改修用防水シート上に改修用固定片を載置して前記改修用固定片が、前記立上がりの下地を覆う立上がり部分を備えた断面L字状をなして、前記既存固定片と重なる重なり部分(前記立上がり部分を除く)と前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分(前記立上がり部分を含む)とを有するよう配置し、
前記両端の残余部分において前記改修用固定片の上から複数の固定具を前記下地に打ち込み前記改修用固定片および前記改修用防水シートを前記下地に固定することを特徴とする
シート防水構造の改修方法。
【請求項4】
平場と立上がりを有する下地の前記平場の周縁を除く前記平場の下地に決められた固定ピッチで固定された複数の固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修構造であって、
前記既存固定片の上に配置された改修用固定片と、
前記改修用固定片により固定された改修用防水シートと、
前記改修用固定片を貫通し前記下地に打ち込まれた複数の固定具と、
を備え、
前記改修用固定片が前記既存固定片と重なる重なり部分と前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分とを有し、
前記残余部分に前記固定具が貫通されている
シート防水構造の改修構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート防水構造の改修構造および改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の屋上や屋根、外壁などの防水構造において防水シートを敷設することが行われている。防水シートの施工方法としては接着工法と機械的固定工法(絶縁工法)とがあり、下地の調整や乾燥を待つ必要がない機械的固定工法が、工期が短縮できることから多く採用されている。
【0003】
機械的固定工法には、先付け工法と後付け工法とがある。先付け工法は、防水シートを敷設する下地上に予め上面が熱可塑性樹脂やホットメルト接着剤などの熱溶着層を被覆した鋼板等からなる固定片をビスなどの固定具により下地に固定しておき、その上から防水シートを下地上に敷設して該防水シートの上から誘導加熱装置により固定片を加熱し、固定片と防水シートとを固定するという施工方法である。後付け工法は、まず下地上に防水シートを敷設した後に押さえ金具などの固定片をビスなどの固定具で下地に固定し、固定片およびその周囲の防水シートの上に増し張りシートを被せて接着固定する方法である。防水シートを下地に固定するためには複数の固定片が使用されるが、風圧に耐えられる十分な固定耐力を持つよう、固定片間の固定ピッチを決めて設計されている。
【0004】
シート防水構造では防水シートが長期使用により経年劣化するため、新規の防水シートによる改修が必要となる。上記のような機械的固定工法により防水シートが施工された既存の防水構造を改修する場合、既存の固定片や防水シートを残したまま改修することが行われている。特許文献1には既設防水シートが絶縁工法により敷設施工されたシート防水構造物の改修方法であって、改修用接合片を既存の接合片である第1接合片同士の間の所定位置に分散させ配置して既存防水シート上に固定し、その上から改修用防水シートを敷設して改修用接合片に接着する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4056634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしこの場合においては、既存の接合片の固定位置からずらして改修用接合片を配置するため、改修用接合片の固定位置を新たに位置決めするためには墨出しなどの位置決め作業を行なう必要があり、その分の手間がかかるといった問題があった。また2回目の改修においては既存の接合片と1回目の改修用接合片を避けて2回目の改修用接合片を配置しなければならず、より位置決めが困難となる。
【0007】
本発明はこのような問題を解消し、機械的固定工法により防水シートが施工された既存のシート防水構造を改修する場合において、固定片の位置決めが容易に行うことができるシート防水構造の改修構造およびシート防水構造の改修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段の概要は、既存のシート防水構造の固定片とほぼ同位置に改修用固定片を設置固定することによる。すなわち既存固定片と同位置に改修用固定片を設置固定することで固定片の位置決めを新たに行なう必要をなくしたものである。
【0009】
具体的には、平場と立上がりを有する下地の前記平場の下地に
、側端部が前記立上がりの下地に沿うように固定された固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修構造であって、前記既存固定片の上に配置された改修用固定片と、前記改修用固定片により固定された改修用防水シートと、前記改修用固定片を貫通し前記下地に打ち込まれた複数の固定具と、を備え、前記改修用固定片が
、前記立上がりの下地を覆う立上がり部分を備えた断面L字状をなして、前記既存固定片と重なる重なり部分(
前記立上がり部分を除く)と、前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分(
前記立上がり部分を含む)とを有し、前記両端の残余部分に前記固定具が貫通されているシート防水構造の改修構造である。
上記改修構造によれば改修用固定片が既存固定片と重なる重なり部分を有しており、改修用固定片を既存固定片とほぼ同位置に配置しているため新たな位置決め作業が必要ない。また改修用固定片は既存固定片と重なる重なり部分を除く残余部分を有しており、改修用固定片をビスなどの固定具で下地に固定する際にこの残余部分に固定具が打ち込まれることで既存固定片を介さず下地に直接固定することができ、これにより既存固定片と下地との固定強度が弱くなっていても改修用固定片を確実に下地に固定できる。
【0010】
さらに、平場と立上がりを有する下地の前記平場の下地に
、側端部が前記立上がりの下地に沿うように固定された固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修方法であって、前記既存固定片の上に改修用固定片を載置して前記改修用固定片が
、前記立上がりの下地を覆う立上がり部分を備えた断面L字状をなして、前記既存固定片と重なる重なり部分(
前記立上がり部分を除く)と前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分(
前記立上がり部分を含む)とを有するよう配置し、前記両端の残余部分において前記改修用固定片の上から複数の固定具を前記下地に打ち込み前記改修用固定片を前記下地に固定し、前記改修用固定片および前記既存防水シートの上に改修用防水シートを敷設し、前記改修用固定片の上面と前記改修用防水シートの下面とを接合することを特徴とするシート防水構造の改修方法である。このような改修方法を採用することで改修用固定片の位置決めを容易に行うことができ、改修用固定片を確実に下地に固定することができる。また本改修方法により得られた改修構造は外観にも優れたものとなる。
【0011】
またさらに、平場と立上がりを有する下地の前記平場の下地に
、側端部が前記立上がりの下地に沿うように固定された固定片である既存固定片により防水シートである既存防水シートが固定されているシート防水構造の改修方法であって、前記既存防水シートの上に改修用防水シートを敷設し、前記既存固定片の上部に位置する前記改修用防水シート上に改修用固定片を載置して前記改修用固定片が
、前記立上がりの下地を覆う立上がり部分を備えた断面L字状をなして、前記既存固定片と重なる重なり部分(
前記立上がり部分を除く)と前記重なり部分を挟んだ両端に前記重なり部分を除いた残余部分(
前記立上がり部分を含む)とを有するよう配置し、前記両端の残余部分において前記改修用固定片の上から複数の固定具を前記下地に打ち込み前記改修用固定片および前記改修用防水シートを前記下地に固定することを特徴とするシート防水構造の改修方法である。このような改修方法を採用することで改修用固定片の位置決めを容易に行うことができ、改修用固定片を確実に下地に固定することができる。また本改修方法により得られた改修構造は改修用防水シートの固定強度に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば既存のシート防水構造の既存固定片とほぼ同じ位置に改修用固定片を重ねて配置すればよいため、改修時に改修用固定片の位置決めを行なうために新たに墨出し作業を行なう必要なく、改修工事の作業性が向上する。また、改修用固定片は既存固定片を介さず直接下地に固定されるため、既存固定片と下地との固定強度が弱くなっていても既存固定片を確実に下地に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】シート防水構造の改修構造の第一実施形態の断面図である。
【
図2】シート防水構造の改修構造の第二実施形態の断面図である。
【
図4】シート防水構造の改修構造の第三実施形態の断面図である。
【
図5】シート防水構造の改修構造の第四実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
本発明のシート防水構造の改修構造および改修方法は、機械的固定工法により下地に防水シートが施工された既存のシート防水構造の改修に関するものである。
図6は建築物の屋上に機械的固定工法の先付け工法により防水シートが施工されている既存のシート防水構造を示したものである。下地4,4´はそれぞれ平場Gと立上がりWである。
図6は一般的な機械的固定工法の先付け工法によるシート防水構造の一例を示したものであり、平場Gは既存防水シート6で覆われている。平場Gの周縁を除く中央部分は円盤状の既存固定片5が固定具7により下地4に固定されており、既存固定片5の上面と既存防水シート6の下面が接着剤等で固定されている。平場Gの周縁である立上がりWとの境界付近には長尺平板状の既存固定片5´が固定具7´により下地4に固定され、既存固定片5´の上面と既存防水シート6の下面が接着剤等で固定されている。
【0017】
図1により本発明のシート防水構造の改修構造について説明する。
図1の既存固定片5は下地4に固定具7で固定されている。既存防水シート6は既存固定片5の上に配置され、既存防水シート6の下面と既存固定片5の上面とが接着固定されている。そして既存固定片5の上には既存防水シート6を介して改修用固定片1が配置され、固定具3により下地4に固定されている。改修用固定片1は既存固定片5と重なる重なり部分11とその両端に重なり部分11を除いた残余部分12を有し、固定具3はこの残余部分12の上側より既存固定片5を避けて下地4に向けて打ち込まれている。改修用防水シート2は改修用固定片1の上に配置され、改修用防水シート2の下面と改修用固定片1の上面とが接着固定されている。
【0018】
ここで改修用固定片1は下地4に対して既存固定片5とほぼ同位置に配置されていることが好ましい。既存固定片5はその設置時にその固定ピッチが計算され設置されているため、これとほぼ同位置に改修用固定片1が配置されることで、新たに設置位置の位置決めを行なうことなく、改修用固定片1に固定される改修用防水シート2についても十分な固定強度を得ることができる。
【0019】
改修用固定片1について
図3を用いて説明する。
改修用固定片1は基本的に平板からなり、下地に固定されている既存固定片の上に重ねて配置したときに、既存固定片と重なる重なり部分11と重なり部分11を除いた残余部分12を有することを特徴とする。
図3は既存固定片の上に改修用固定片1を配置したとき、上側から見た平面図を示したものである。図中点線で示された円形のものは、既存固定片の外周を示すものである。
【0020】
改修用固定片1の形状は平板状のものであればよく、(3−1)のような円形や(3−2)のような楕円形の円盤状や、(3−3),(3−4)のような矩形の板状など、その他形状を取り得る。改修用固定片1は既存固定片と重ねたとき、(3−1),(3−3)のように既存固定片の周囲全体に既存固定片と重なる重なり部分11を除いた残余部分12を有してもよく、また(3−2),(3−4)のように既存固定片の周囲の一部に残余部分12を有してもよい。改修用固定片1の外周は既存固定片と重ねたとき、少なくともその一部が既存固定片の外周の外側に有していればよく、(3−4)のように改修用固定片1の外周の一部が既存固定片の外周の外側に有していてもよい。(3−1),(3−3)のように既存固定片の周囲全体に残余部分12を有している場合、すなわち改修用固定片1の外周が既存固定片と重ねたときその全体が既存固定片の外周の外側に有している場合は、固定具3を打ち込むスペースが広いため固定具3の打ち込み本数を増やすことができ、そうすることで改修用固定片1の下地への固定強度の向上が図れる。
【0021】
続いてシート防水構造の改修構造の具体的な実施形態について図を用いて説明する。
【0022】
シート防水構造の改修構造の第一実施形態について
図1を用いて説明する。
図1の既存固定片5aは上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)円盤状の鋼板である。コンクリートである下地4aに金属ビスである固定具7aで固定されている。既存防水シート6aは塩化ビニル系樹脂製の防水シートであり、既存固定片5aの上面と既存防水シート6aの下面とが溶着固定されている。そして既存固定片5aの上には既存防水シート6aを介して上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)鋼板である改修用固定片1aが配置され、金属ビスである固定具3aにより下地4aに固定されている。改修用固定片1aは既存固定片5aと重なる重なり部分11とその周囲に重なり部分11を除いた残余部分12を有し、固定具3aはこの残余部分12の上側より下地4aに向けて打ち込まれている。改修用固定片1aおよび既存防水シート6aの上にわたって塩化ビニル系樹脂製の防水シートである改修用防水シート2aが配置され、改修用固定片1aの上面と改修用防水シート2aの下面とが溶着固定されている。
【0023】
シート防水構造の改修構造の第二実施形態について
図2を用いて説明する。
図2の既存固定片5aは上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)円盤状の鋼板である。コンクリートである下地4aに金属ビスである固定具7aで固定されている。既存防水シート6aは塩化ビニル系樹脂製の防水シートであり、既存固定片5aの上面と既存防水シート6aの下面とが溶着固定されている。既存防水シート6aの上にわたって塩化ビニル系樹脂製の防水シートである改修用防水シート2aが配置され、既存防水シート6aおよび改修用防水シート2aを介して既存固定片5aの上に上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)鋼板である改修用固定片1aが配置されて金属ビスである固定具3aにより下地4aに固定されている。改修用固定片1aは既存固定片5aと重なる重なり部分11とその周囲に重なり部分11を除いた残余部分12を有し、固定具3aはこの残余部分12の上側より下地4aに向けて打ち込まれている。改修用固定片1aおよび改修用防水シート2aの上にわたって塩化ビニル系樹脂製の防水シートである増し張りシート8aが配置され、改修用固定片1aの上面と増し張りシート8aの下面とが溶着固定され、増し張りシート8aの端部はシーリング9により処理されている。
【0024】
シート防水構造の改修構造の第三実施形態について
図4を用いて説明する。
図4の既存固定片5bは上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)長尺平板状の鋼板である。既存固定片5bはコンクリートである平場の下地4a上に長手片側端部が立上がりの下地4´aに沿うように配置され、金属ビスである固定具7aで固定されている。既存防水シート6aは塩化ビニル系樹脂製の防水シートであり、既存固定片5bの上面と既存防水シート6aの下面とが溶着固定されている。立上がりの下地4´aには既存防水シート6´aが固定され、その下端部分は既存防水シート6aに溶着され、端部はシーリング9により処理されている。そして既存固定片5bの上には既存防水シート6aおよび6´aを介して上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)長尺平板状の鋼板である改修用固定片1bが配置され、金属ビスである固定具3aにより下地4aに固定されている。改修用固定片1bは既存固定片5bよりやや幅広に形成されており、改修用固定片1bは既存固定片5bと重なる重なり部分11とその周囲に重なり部分11を除いた残余部分12を有し、固定具3aはこの残余部分12の上側より下地4aに向けて打ち込まれている。改修用固定片1bおよび既存防水シート6aの上にわたって塩化ビニル系樹脂製の防水シートである改修用防水シート2aが配置され、改修用固定片1bの上面と改修用防水シート2aの下面とが溶着固定され、立上がりの既存防水シート6´aの外側に改修用防水シート2´aが固定され、その下端部分は改修用防水シート2aに溶着され、端部がシーリング材9により処理されている。
【0025】
シート防水構造の改修構造の第四実施形態について
図5を用いて説明する。
図5の既存固定片5bは上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)長尺平板状の鋼板である。既存固定片5bはコンクリートである平場の下地4a上に長手片側端部が立上がりの下地4´aに沿うように配置され、金属ビスである固定具7aで固定されている。既存防水シート6aは塩化ビニル系樹脂製の防水シートであり、既存固定片5bの上面と既存防水シート6aの下面とが溶着固定されている。立上がりの下地4´aには既存防水シート6´aが固定され、その下端部分は既存防水シート6aに溶着され、端部はシーリング9により処理されている。そして既存固定片5bの上には既存防水シート6aおよび6´aを介して表面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)長尺の断面L字形状の平板鋼板である改修用固定片1cが、そのL字の立上がり部分が立上がりの下地4´aに当接するように配置され、金属ビスである固定具3aにより平場の下地4aおよび立上がりの下地4´aに固定されている。改修用固定片1cのL字の水平部分は既存固定片5bよりやや幅広に形成されており、改修用固定片1cは既存固定片5bと重なる重なり部分11とその周囲に重なり部分11を除いた残余部分12を有し、固定具3aはこの残余部分12の上側より平場の下地4aに向けて打ち込まれている。改修用固定片1cのL字の立上がり部分もまた残余部分12であり、固定具3aはこの残余部分12の外側より立上がりの下地4´aに向けて打ち込まれている。改修用固定片1cおよび既存防水シート6aの上にわたって塩化ビニル系樹脂製の防水シートである改修用防水シート2aが配置され、改修用固定片1cの表面と改修用防水シート2aの下面とが溶着固定され、立上がりの既存防水シート6´aの外側に改修用防水シート2´aが固定され、その下端部分は改修用固定片1cの立上がり部分と改修用防水シート2aに溶着され、端部がシーリング材9により処理されている。
【0026】
以上、シート防水構造の改修構造の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。続いて各構成について例を挙げ説明する。
【0027】
改修用固定片1および既存固定片5は板状の部材であり、固定具3を打ち込むため厚み方向に貫通した孔を備えていることが好ましく、孔の周囲には固定具の頭が収容されるための座くりが設けられていることが好ましい。改修用固定片1および既存固定片5の厚みは0.5mm〜2.0mm程度で、形状は正方形または長方形をした矩形状のプレート状や、円形または楕円形状のディスク状、長尺状など任意である。改修用固定片1および既存固定片5は金属製、硬質合成樹脂製、木製等が用いられる。中でも強度や耐久性の点から金属製が好ましい。金属製の固定用ディスクを構成する鋼鈑の材質としては、ステンレス板や、亜鉛・アルミニウム・マグネシウムメッキまたは亜鉛メッキ等の防錆処理が施された鋼板など、多湿状態でも錆びにくい鋼鈑が好適に使用される。
【0028】
改修用固定片1および既存固定片5はその表面に接着層を有する構造とすることができ、これにより改修用固定片1および既存固定片5は改修用防水シート2や既存防水シート6、増し張りシート8との接着が可能となり好ましい形態である。接着層としてはアクリル系、ウレタン系、エポキシ系、ニトリルゴム系、スチレン‐ブタジエンゴム系などの各種接着剤や、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂被覆層、またポリ塩化ビニル系樹脂やアクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂の組成物を溶剤に溶解したシール材などを用いることができる。前述の実施形態では改修用固定片1および既存固定片5の上面に熱可塑性樹脂被覆層である塩化ビニル系樹脂の被覆層が積層一体化されている。接合強度を考慮すると、改修用防水シート2や既存防水シート6、増し張りシート8とこの熱可塑性樹脂被覆層の材質は同種のものを用いるのが好ましく、改修用防水シート2、既存防水シート6、増し張りシート8が塩化ビニル系樹脂製である場合には、改修用固定片1および既存固定片5の熱可塑性樹脂被覆層も塩化ビニル系樹脂からなることが好ましい。また接着層は改修用固定片1および既存固定片5の上面に予め設けるだけでなく、施工時に新たに設けてもよい。
【0029】
改修用防水シート2、既存防水シート6、および増し張りシート8としては熱可塑性樹脂製防水シートが好ましく使用され、塩化ビニル樹脂系、ポリオレフィン系、アクリル系等を使用することができる。
改修用防水シート2、既存防水シート6、および増し張りシート8は熱可塑性樹脂層の単層でも良いが、寸法安定性、引張強度に優れるという点からガラスクロス、ガラス不織布、ポリエステルクロス、ポリエステル不織布等の基材層を積層した複層品が好ましい。基材層は最下層に設けても良いが熱可塑性樹脂層の中間に設けても良い。また熱可塑性樹脂層は一層であっても、複数の層であってもよく、それぞれの層の組成を異なるものとしてもよい。
【0030】
固定具3および固定具7は下地4に改修用固定片1および既存固定片5を固定するためのものであり、ビスやボルト、釘など下地4に打ち込むことのできるものであり、金属製のビスが好適に用いることができる。材質としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼等の鋼材などが使用できる。また、改修用固定片1や既存固定片5の上面から頭部がはみ出ないように、ビスのビス頭の形状は皿、平、なべがよく、ドライバーやレンチで掛ける座面の窪み形状は十字穴、六角穴、四角穴が好ましい。
【0031】
下地4は建築物の屋上、ベランダ、バルコニー等の躯体であり、コンクリート下地、金属下地、軽量発泡コンクリート(ALC)、鋼材、木質材等が用いられる。また、下地4の上に無機質板、モルタル材層等の他の層を積層しても良い。前述の実施形態では下地4はコンクリート下地である。
【0032】
続いてシート防水構造の改修方法について説明する。
【0033】
図1を用いて第一の改修方法について説明する。
図1のような下地4に既存防水シート6が既存固定片5および固定具7により固定された既存の防水シート構造を改修する方法として、まず初めに改修用固定片1を既存防水シート6を介して既存固定片5の上に配置する。次に既存固定片5と改修用固定片1とが重ならない位置、すなわち改修用固定片1の残余部分12の上から固定具3を下地4に打ち込み、改修用固定片1を下地4に固定する。続いて改修用固定片1と既存防水シート6の上にわたって改修用防水シート2を敷設し、改修用固定片1の上面と改修用防水シート2の下面とを接合する。
【0034】
ここで先述の改修構造の第一実施形態の場合を例とすると、コンクリートである下地4aに金属ビスである固定具3aを打ち込み改修用固定片1aを固定するのであるが、この場合予め既存の防水シート構造および下地4aにドリル等で下穴を開けておくことができる。また金属ビスである固定具3aの下地4aへの固定強度の向上のため、下地4aに開けた下穴にアンカープラグを挿入してから固定具3aを止めつけることもできる。
上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)鋼板である改修用固定片1aの上面と塩化ビニル系樹脂製の防水シートである改修用防水シート2aの下面とを接合する方法としては、誘導加熱による加熱溶着を行うことができる。その他の接合方法としては改修用固定片1aの上面および改修用防水シート2aの下面にテトラヒドロフランなど溶解性のある溶剤を塗付して圧着する溶剤溶着や、その他接着剤による接着などが挙げられる。
また塩化ビニル系樹脂製の既存防水シート6aと塩化ビニル系樹脂製の改修用防水シート2aとが接触することによる可塑剤等の配合成分の移行を防ぐため、改修用固定片1aを固定する前に予め既存防水シート6aの上に発泡ポリエチレンシートなどの絶縁シートを敷設することもできる。
【0035】
図2を用いて第二の改修方法について説明する。
図2のような下地4に既存防水シート6が既存固定片5および固定具7により固定された既存の防水シート構造を改修する方法として、まず初めに既存防水シート6の上に改修用防水シート2を敷設する。次に改修用固定片1を既存防水シート6と改修用防水シート2とを介して既存固定片5の上に配置する。続いて既存固定片5と改修用固定片1とが重ならない位置、すなわち改修用固定片1の残余部分12の上から固定具3を下地4に打ち込み、改修用固定片1を下地4に固定する。
固定具3の打ち込み部分からの漏水を防ぐため、改修用固定片1と改修用防水シート2の上にわたってさらに増し張りシート8を敷設することが好ましい。増し張りシート8の端部には水密性を高めるためシーリング9を塗付して端部処理をするとより好ましい。
【0036】
ここで先述の改修構造の第二実施形態の場合を例とすると、コンクリートである下地4aに金属ビスである固定具3aを打ち込み改修用固定片1aを固定するのであるが、この場合予め既存の防水シート構造および下地4aにドリル等で下穴を開けておくことができる。また金属ビスである固定具3aの下地4aへの固定強度の向上のため、下地4aに開けた下穴にアンカープラグを挿入してから固定具3aを止めつけることもできる。
上面に塩化ビニル系樹脂が被覆された(図示なし)鋼板である改修用固定片1aおよび塩化ビニル系樹脂製の防水シートである改修用防水シート2aの上面と、塩化ビニル系樹脂製の防水シートである増し張りシート8aの下面とを接合する方法としては、改修用固定片1aおよび改修用防水シート2aの上面と増し張りシート8a下面にテトラヒドロフランなど溶解性のある溶剤を塗付して圧着する溶剤溶着を行うことができる。また先の誘導加熱による熱溶着と溶剤溶着とを組み合わせてもよい。またその他接着剤等により接合してもよい。
また塩化ビニル系樹脂製の既存防水シート6aと塩化ビニル系樹脂製の改修用防水シート2aとが接触することによる可塑剤等の配合成分の移行を防ぐため、改修用防水シート2aを敷設する前に予め既存防水シート6aの上に発泡ポリエチレンシートなどの絶縁シートを敷設することもできる。
【0037】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば後付け工法による既存の防水シート構造の改修にも適用することができる。またこの他にも本発明の技術的思想内においてさまざまな形態をとり得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のシート防水構造の改修構造および改修方法によれば、機械的固定工法により防水シートが施工された既存のシート防水構造を改修する場合において、新たに墨出しなどの位置決め作業を行なうことなく固定片の位置決めが容易に行うことができるため、機械的固定工法による既存シート防水構造の改修に好適に利用できる。また2回目以降の改修にも対応することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 改修用固定片
11 重なり部分
12 残余部分
2,2´ 改修用防水シート
3 固定具
4,4´ 下地
G 平場
W 立上がり
5,5´ 既存固定片
6,6´ 既存防水シート
7,7´ 固定具
8 増し張りシート
9 シーリング