(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の方法において、前記重油は、重質原油、油砂瀝青、製油所プロセスからの残留物、ビスブレーカ底部物、少なくとも343℃(650°F)の公称沸点を有する常圧塔底物、少なくとも524℃(975°F)の公称沸点を有する減圧塔底物、高温分離器からの残油、残留ピッチ、溶媒脱アスファルト化による生成物、または減圧残油のうちの少なくとも1つを有する、方法。
請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法において、前記改良された沸騰床反応器によって生成され、前記1若しくはそれ以上の揮発性留分から分離された前記改善された底部生成物は、初期品質の前記初期底部生成物の初期粘度に対して、少なくとも25%、または少なくとも40%減少した粘度を有する、方法。
請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法において、前記改良された沸騰床反応器によって生成され、前記1若しくはそれ以上の揮発性留分から分離された前記改善された底部生成物は、初期品質の前記初期底部生成物の初期API比重に対して、少なくとも0.1度、または少なくとも0.5度、または少なくとも1度増加したAPI比重を有する、方法。
請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法において、前記改良された沸騰床反応器によって生成され、前記1若しくはそれ以上の揮発性留分から分離された前記改善された底部生成物は、初期品質の前記初期底部生成物の初期アスファルテン含有量に対して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%減少したアスファルテン含有量を有する、方法。
請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法において、前記改良された沸騰床反応器によって生成され、前記1若しくはそれ以上の揮発性留分から分離された前記改善された底部生成物は、初期品質の前記初期底部生成物の初期残留炭素含有量に対して、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%減少した残留炭素含有量を有する、方法。
請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法において、前記改良された沸騰床反応器によって生成され、前記1若しくはそれ以上の揮発性留分から分離された前記改善された底部生成物は、初期品質の前記初期底部生成物の初期硫黄含有量に対して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%減少した硫黄含有量を有する、方法。
請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法において、前記改良された沸騰床反応器によって生成され、前記1若しくはそれ以上の揮発性留分から分離された前記改善された底部生成物は、初期品質の前記初期底部生成物の初期沈降物含有量に対して、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%減少した沈降物含有量を有する、方法。
請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法において、前記分散金属硫化物触媒粒子は、1μm未満のサイズ、または500nm未満のサイズ、または100nm未満のサイズ、または25nm未満のサイズ、または10nm未満のサイズである、方法。
請求項11に記載の方法において、前記分散金属硫化物触媒粒子は、触媒前駆体から前記重油中においてその場で形成されるものであり、前記方法はさらに、前記触媒前駆体を希釈剤炭化水素と混合して希釈された前駆体混合物を形成する工程と、前記希釈された前駆体混合物を前記重油と混合して調整された重油を形成する工程と、前記調整された重油を加熱して前記触媒前駆体を分解し、かつその場で前記分散金属硫化物触媒粒子を形成する工程とを有するものである、方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.序論と定義
本発明は、沸騰床水素処理システムにおいて二元触媒システムを用いて、重油から転化された炭化水素転化生成物および改善された品質の減圧残油生成物を生成する方法およびシステムに関する。この方法およびシステムは、固体担持(すなわち不均一な)触媒と、十分に分散した(すなわち均質な)触媒粒子とからなるを有する2元触媒システムを用いるものに関する。前記二元触媒システムは、通常ならば固体担持沸騰床触媒から成る単一の触媒を用いた沸騰床水素処理システムを改良するのに用いることができる。
【0021】
例示として、改善された品質の残油生成物を含む重油の転化生成物を生成するように沸騰床水素処理システムを改良する方法は、(1)不均一触媒を用いて重油を水素処理し初期品質の減圧残油生成物を含む転化生成物を生成するように沸騰床反応器を稼動する工程と、(2)その後、分散金属硫化物触媒粒子と不均一触媒とからなるを有する2元触媒システムを用いて稼動するように沸騰床反応器を改良する工程と、(3)前記沸騰床反応器を初期的に稼働する時よりも改善された品質の減圧残油生成物を含む転化生成物を生成するように前記改良された沸騰床反応器を稼働する工程とを有する。
【0022】
「重油原料」という用語は、重質原油、油砂瀝青、精製処理で残ったバレル底部および残留物(例えばビスブレーカ底部物)、並びに、多量の高沸騰炭化水素留分を含有し、および/または、不均一触媒を不活性化および/もしくはコークス前駆体および沈降物の形成を生じ若しくはもたらす多量のアスファルテンを含むその他の任意の低品質材料を指す。重油原料の例としては、これらに限られないが、ロイドミンスター重油、コールド湖瀝青、アサバスカ瀝青、常圧塔底、減圧塔底、残留物(または「残油」("resid"))、残油ピッチ、溶媒脱アスファルト化で得られた減圧残油(例えば、ウラルVR、アラブミディウムVR、アサバスカVR、コールド湖VR、マヤVR、チチミンVRなど)、脱アスファルト化の副産物として得られるアスファルト液体、並びに、原油、タール砂由来の瀝青、液化石炭、シェール油、又は、蒸留し高温分離し溶媒抽出等をするコールタール原料などを扱った後に残る不揮発液体留分が挙げられる。更なる例として、常圧塔底は少なくとも343℃(650°F)の公称沸点を有し得るが、カットポイントは製油所間で異なり380℃(716°F)の高さに達する場合もあることが理解されている。減圧塔底は少なくとも524℃(975°F)の公称沸点を有し得るが、カットポイントは製油所間で異なり538℃(1000°F)または565℃(1050°F)の高さに達する場合もあることが理解されている。
【0023】
「アスファルテン」という用語は、重油原料中の材料を指し、典型的には、例えばプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、およびヘプタンなどのパラフィン系溶媒に不溶なものである。アスファルテンは、硫黄、窒素、酸素、及び金属などのヘテロ原子によって結び付けられた縮合環化合物の層を含み得る。アスファルテンは、80〜1200個の炭素原子を有する広範囲の複雑な化合物を広く含むことができ、溶媒技術によって決定されるように1200〜16900の範囲の分子量を占める。原油中の約80〜90%の金属はより高濃度の非金属ヘテロ原子と共にアスファルテン留分に含まれ、それにより原油中のその他の炭化水素よりもアスファルテン分子の親水性が高く疎水性が低くなる。
図1に、A.G. BridgeおよびChevronの同僚等によって明らかにされたアスファルテン分子の仮説的構造を示す。一般的に、アスファルテンは不溶性物質法の結果に基づいて典型的には定義されるが、アスファルテンについての1以上の定義を用いることができる。具体的には、一般的に用いられているアスファルテンの定義は、ヘプタン不溶性物質からトルエン不溶性物質を引いたものである(すなわち、アスファルテンはトルエン中で可溶であり、トルエン中で不溶な沈降物および残留物はアスファルテンとして計算されない)。このような様式で定義されたアスファルテンは、"C
7アスファルテン"として参照し得る。しかしながら、同等の信頼性を有する代替の定義として、ヘプタン不溶性物質からトルエン不溶性物質を引いたものが測定され"C
5アスファルテン"として一般的に参照されるものが用いられてもよい。本発明の例では、C
7アスファルテンの定義が用いられているが、C
5アスファルテンの定義も容易に代用することができる。
【0024】
"水素化分解"および"水素転換"という用語は、重油原料の沸点範囲を低下させることを主目的とする処理であって、その原料の大部分が元の原料の沸点範囲よりも低い沸点範囲の生成物に転化される処理を示す。水素化分解または水素転化は一般的に、大きな炭化水素分子を、より少ない数の炭素原子およびより高い水素/炭素比を有する小さな分子断片へと分裂させることに関する。水素化分解が生じるメカニズムは典型的には、熱断片化中における炭化水素遊離基の形成を含み、水素による遊離基端または部分のキャッピングを伴う。水素原子又は水素基は水素化分解中に炭化水素遊離基と反応するが、これは活性触媒部位で、又は活性触媒部位によって生じ得る。
【0025】
「水素化精製(hydrotreating)」という用語は、硫黄、窒素、酸素、ハロゲン化合物、微量金属などの不純物を原料から取り除き、オルフィンを飽和させ、および/または、それら自体を反応させるよりもそれらを水素と反応させることにより炭化水素遊離基を安定させることを主目的とする操作を指す。当該主目的は、原料の沸点範囲を変えるものではない。水素化精製は多くの場合、固定床反応器を用いて行われるが、その他の水素処理反応器が水素化精製に用いられてもよく、例えば沸騰床水素化精製器が挙げられる。
【0026】
当然、「水素化分解」または「水素転化」も、原料からの硫黄および窒素の除去、およびオルフィン飽和、並びに水素化精製に一般的に付随するその他の反応に関与しうる。「水素処理(hydroprocessing)」および「水素転化」は、広く「水素化分解」および「水素化精製(hydrotreating)」プロセスの双方を指し、スペクトルの対向端および当該スペクトルに沿うその間のすべてのものを定義する。
【0027】
「水素化分解反応器」という用語は、その中において、水素および水素化分解触媒の存在下で原料を水素化分解する(すなわち、沸点範囲を低下させる)ことを主目的とする任意の容器を指す。水素化分解反応器は、重油原料および水素が導入される注入ポートおよび改良された原料または材料が抜き取られる排出ポートと、大きな炭化水素分子からより小さな分子への断片化を生じさせるために炭化水素遊離基を形成する十分な熱エネルギーとを有することを特徴とする。水素化分解反応器の例としては、これに限られないが、スラリー相反応器(すなわち、気体―液体の2相系)、沸騰床反応器(すなわち、気体―液体―固体の3相系)、固定床反応器(すなわち、典型的には、重油へ同時に、ただし可能性としては向流的に流れる水素により、固体不均一触媒の固定床を下方に浸透するまたは上方に流れる液体供給を含む3相系)が挙げられる。
【0028】
「水素化分解温度」という用語は、重油原料の十分な水素化分解を引き起こすのに必要な最低温度を指す。一般に、水素化分解温度は、好ましくは約399℃(750°F)〜約460℃(860°F)の範囲内に、より好ましくは約418℃(785°F)〜約443℃(830°F)の範囲に、もっとも好ましくは約421℃(790°F)〜約440℃(825°F)の範囲に収まることとなる。
【0029】
「気体―液体スラリー相水素化分解反応器」という用語は、連続した液相と、当該液相内に気泡の「スラリー」を形成する気体分散相とを含む水素処理反応器を指す。前記液相は典型的には、低濃度の分散金属硫化物触媒を含む炭化水素原料を有し、気相は典型的には、水素ガス、硫化水素、および気化した低沸点炭化水素生成物を有する。前記液相は任意選択的に水素供与体溶媒を含むことができる。「気体―液体―固体三相スラリー水素化分解反応器」という用語は、固体触媒が液体および気体と共に使用される場合に用いられる。前記気体には、水素、硫化水素、および気化した低沸点炭化水素生成物が含まれ得る。「スラリー相反応器」とは、広く両方の種類の反応器(例えば、分散金属硫化物触媒粒子を伴うもの、ミクロンサイズ又はそれより大きい微粒子触媒を伴うもの、および両方を含むもの)を指す。
【0030】
「固体不均一触媒」、「不均一触媒」、および「担持触媒」という用語は、沸騰床および固定床水素処理システムにおいて典型的に使用される触媒をいい、主に、水素化分解、水素転化、水素化脱金属、および/または水素化精製のために設計された触媒が含まれる。不均一触媒は典型的には、(i)表面積が大きく相互接続された流路又は孔を有する触媒担体と、(ii)前記流路または孔内に分散するコバルト、ニッケル、タングステン、およびモリブデンの硫化物のような微細な活性触媒粒子とを有する。前記担体の孔は典型的には、前記不均一触媒の機構的健全性を維持し、また前記反応器において分解され過度に微細なものが形成されるのを防止するため、大きさが限定される。不均一触媒は、円筒形状のペレット、円筒形状の押出物、例えば三葉状、リング状、鞍状などのその他の形状、または球状の固体として生産することができる。
【0031】
「分散金属硫化物触媒粒子(dispersed metal sulfide catalyst particles)」および「分散触媒」という用語は、1μm未満、例えば約500nm未満の直径、または約250nm未満の直径、または100nm未満の直径、または約50nm未満の直径、または約25nm未満の直径、または約10nm未満の直径、または約5nm未満の直径の粒子サイズを有する触媒粒子を指す。「分散金属硫化物触媒粒子」という用語には、分子触媒化合物または分子分散触媒化合物が含まれてもよい。前記"分散金属硫化物触媒粒子"という用語は、1μmより大きな金属硫化物粒子および金属硫化物粒子凝集体を除く。
【0032】
「分子分散触媒」という用語は、炭化水素原料または適切な希釈剤中でその他の触媒化合物若しくは分子から基本的に「溶解」または解離させられる触媒化合物を指す。それには、少数の触媒分子(例えば15個以下の分子)が互いに結合したものを含む非常に小さな触媒粒子が含まれてよい。
【0033】
「残留触媒粒子」という用語は、1つの容器から他の容器へ(例えば水素処理反応器から分離器および/またはその他の水素処理反応器へ)移す時に改良された材料と共に残る触媒粒子を指す。
【0034】
「調整済み原料」という用語は触媒前駆体が併合され十分に混合された炭化水素原料をいい、それにより、触媒前駆体の分解および活性触媒の形成時に、前記原料中においてその場で形成された分散金属硫化物触媒粒子を触媒が有することとなる。
【0035】
「改良する」、「改良している」、「改良された」という用語は、水素処理の対象になっている若しくは対象となる原料、または結果物または生成物を説明するために用いられている場合、原料の分子量の減少、原料の沸点範囲の減少、原料の比重の減少、アスファルテンの濃度の低下、炭化水素遊離基の濃度の低下、および/または、例えば硫黄、窒素、酸素、ハロゲンおよび/または金属などの不純物の量の減少のうちの1若しくはそれ以上を指す。
【0036】
「酷度(severity)」という用語は、水素処理中に重油に投入されるエネルギー量をいい、多くの場合、温度暴露期間と共に水素処理反応器の稼働温度に関係する(すなわち、温度が高いほど酷度が高いことと関連し、温度が低いほど酷度が低いことと関連する)。酷度が高いと一般的に水素処理反応器によって生成される転化生成物の量が増加するが、当該転化生成物には望ましい生成物と望ましくない転化製生物との両方が含まれる。望ましい転化生成物としては、分子量、沸点、および比重が低下した炭化水素が挙げられ、それには、ナフサ、ディーゼル、ジェット燃料、灯油、ワックス、燃料油などの最終生成物が含まれ得る。その他の望ましい転化生成物としては、従来式の精製および/または蒸留プロセスを用いてさらに処理することができるより高沸点の炭化水素が挙げられる。望ましくない転化生成物としては、コークス、沈降物、金属、並びに、水素処理装置、例えば反応器の内部構成要素、分離器、フィルタ、パイプ、塔、熱交換器および不均一触媒などに堆積して汚損を引き起こす可能性のあるその他の固体材料が挙げられる。望ましくない転化生成物は、また、蒸留後に残る未転化の残油、例えば常圧塔底(「ATB」)または減圧塔底(「VTB」)を指すこともできる。望ましくない転化生成物を最小限に抑えることにより、装置の汚染、および装置の清掃に必要な停止が低減される。しかしながら、下流分離装置を適切に機能させ、および/または、コークス、沈降物、金属、および、装置に堆積して汚染する可能性があるが当該残りの残油により輸送可能なその他の固体物質を収容する液体輸送媒体を提供するため、未転化の残油が所望な量あってもよい。
【0037】
未転化の残油はまた、有用な生成物、例えば燃料油および道路建設用のアスファルト等であってもよい。残油が燃料油に用いられる場合、燃料の品質は、粘度、比重、アスファルテン含有量、炭素含有量、硫黄含有量、および沈降物等の1若しくはそれ以上の特性によって測定することができ、それぞれの値が低いものほど一般的により品質の高い燃料油に対応する。例えば、燃料油用に設計される減圧残油は、粘度が低い場合ほど(例えば、流動して取り扱われるためにカッターストック(例えば、減圧軽油またはサイクルオイル)の必要性が少なくなることから)より品質が高くなる。同様に、減圧残油における硫黄含有量の減少により、最大硫黄含有量の規格を満たすより高価なカッターストックを用いた希釈剤の必要性が少なくなる。アスファルテン、沈降物、および/または炭素含有量の減少は、燃料油の安定性を改善することができる。
【0038】
温度に加えて、「酷度」は、「転化」および「スループット」の一方または両方に関連し得る。酷度の上昇が、転化の増加および/またはスループットの増大若しくは低下を引き起こすかどうかは、重油原料の品質および/または水素処理システム全体の物質収支に依存する。例えば、より多くの量の供給材料を変換し、および/またはより多くの量の材料を下流装置に供給することが望まれる場合、酷度の上昇は、必ずしも留分転化率を増加させることなく主にスループットの増大を引き起し得る。これには残油留分(ATBおよび/またはVTB)が燃料油として販売される場合が含まれ、スループットを増大させずに転化率を増大させると、この生成物の量が減る可能性がある。残油留分に対する改良された材料の割合の増加が望まれる場合、スループットを必ずしも増大させることなく転化率を主に増加させることが望ましいことがある。水素処理反応器に導入される重油の品質が変動する場合、残油留分に対する改良された材料の割合、および/または生成される最終生成物の所望の絶対量を維持するため、転化率およびスループットのいずれか一方または両方を選択的に増加または低下させることが望ましい。
【0039】
「転化率」および「留分転化率」という用語は、百分率で表されることが多く、低沸点および/または低分子量物質に有利に転化される重油の割合を指す。転化率は、定義されたカット点よりも低い沸点で生成物に転化された初期の残油含有量(すなわち、定義された残油カット点よりも高い沸点を有する成分)のパーセンテージとして表される。残油カットポイントの定義は様々であり、通常524℃(975°F)、538℃(1000°F)、565℃(1050°F)などを含むことができる。これは、定義されたカット点よりも高い沸点を有する成分の濃度を決定するために、供給物流若しくは生成物流の蒸留分析により測定することができる。留分転化率は、(F−P)/Fとして表される。ここで、Fは併合された供給物流中の残油量であり、Pは併合された生成物流中の残油量である。供給物および生成物の残油含有量はともに同じカットポイントの定義に基づいている。残油量は、多くの場合、定義されたカット点よりも高い沸点を有する成分の質量に基づいて定義されるが、体積またはモルでの定義もまた用いられてよい。
【0040】
「スループット」という用語は、時間の関数として水素処理反応器に導入される供給材料の量を指す。これはまた、水素処理反応器から除去される転化生成物の総量に関係し、当該総量には望ましい生成物と望ましくない生成物の合わせた量が含まれる。スループットは、1日あたりのバレルなどの容積基準で、または時間当たりのメトリックトンなどの質量基準で表すことができる。一般的な使用法では、スループットは、重油原料自体(例えば、減圧塔底部など)のみの質量若しくは容積供給速度として定義される。この定義は通常、希釈剤、または水素転化ユニットへの供給物全体に含まれることがあるその他の成分の量を含まないが、それら他の成分を含む定義が用いられてもよい。
【0041】
「沈降物」という用語は、液体流中で形成され沈殿し得る固体を指す。沈降物としては、転化後に沈殿する無機物、コークス、または不溶性アスファルテンが挙げられる。石油生成物中の沈降物は、ISO 10307およびASTM D4870の一部として公開されている残留燃料油における全沈降物のためのIP−375熱濾過試験手順を用いて測定される。その他の試験には、IP−390沈殿試験およびシェール熱濾過試験が含まれる。沈降物は、処理および取り扱い中に固体を形成する性質を有するオイル成分に関係する。これらの固体形成成分は、水素転化処理において複数の望ましくない影響を及すが、当該影響には生成物の品質劣化や機器の汚染に関する稼働性上の問題が含まれる。沈降物の厳密な定義は沈降物試験における固形物の測定に基づいているが、この用語は、実際の固形物としては油中に存在しないがある条件下では固体形成に寄与する油自体の固体形成成分を指すものとして広義に用いられるのが一般的である点に留意すべきである。
【0042】
「汚染」という用語は、処理を妨害する望ましくない相(汚染物質)の形成を指す。汚染物質は、通常、処理装置内に沈殿し集まる炭素質物質または固体である。装置の汚染は、装置の停止、装置の性能の低下、熱交換器または加熱器における汚れの付着による断熱効果に起因したエネルギー損失の増加、装置清掃のためのメンテナンス費用の増加、精留塔の効率の低下、および不均一触媒の反応度の低下の結果、生成物の損失をもたらす。
【0043】
II.沸騰床水素処理反応器およびシステム
図2A〜2Dは、重油などの炭化水素原料を水素処理するのに用いられる沸騰床水素処理反応器およびシステムの非限定的な例を概略的に示したものであり、当該反応器およびシステムは本発明において二元触媒を用いるように改良され得る。この例示的な沸騰床水素処理反応器およびシステムは、段間分離、一体化された水素化精製および/または一体化された水素化分解を含むことができることを理解されよう。
【0044】
図2Aは、C−E Lummusによって開発されたLC精製水素化分解システムで用いられる沸騰床水素処理反応器10を概略的に示す。沸騰床反応器10は、底部近くに原料14および加圧された水素ガス16が導入される注入ポート12と、頂部に水素処理された材料20が抜き取られる排出ポート18とを含む。
【0045】
反応器10は不均一触媒24を有する膨張触媒領域22をさらに含み、不均一触媒24は、沸騰床反応器10における液体炭化水素および気体(気泡25として概略的に示される)の上方移動によって重力に抗して膨張した状態または流動した状態で維持される。膨張触媒領域22の下端は分配器グリッドプレート26によって画定され、分配器グリッドプレート26は、沸騰床反応器10の底部と分配器グリッドプレート26との間に位置する下部不均一触媒不含領域28から膨張触媒領域22を分離する。分配器グリッドプレート26は、水素ガスおよび炭化水素を前記反応器にわたって均等に分配するように構成され、不均一触媒24が重力によって下部不均一系触媒不含領域28に落下するのを防止する。膨張触媒領域22の上端は、重力による前記下方向の力が、沸騰床反応器10において上方移動する原料及び気体の上昇力と同等若しくはそれを超過し始める高さにあり、不均一触媒24の膨張または分離が所与のレベルに達するようなっている。膨張触媒領域22の上は、上部不均一触媒不含領域30である。
【0046】
沸騰床反応器10内の炭化水素およびその他の物質は、沸騰床反応器10の中央に位置し沸騰ポンプ34と当該沸騰床反応器10の底部で接続された再循環流路32によって、上部不均一触媒不含領域30から下部不均一触媒不含領域28へ連続的に再循環される。再循環流路32の頂部は漏斗形状の再循環カップ36が設けられてなり、当該再循環カップ36を通じて上部不均一触媒不含領域30から原料を引き込む。再循環流路32を通って下方に取り込まれた材料は、分配器グリッドプレート26を通って上方に進み、膨張触媒領域22に入るものであり、そこにおいて、注入ポート12を介して沸騰床反応器10に入り添加された新鮮な原料14および水素ガス16と混合される。沸騰床反応器10を通って上方へ進む混合された材料を連続的に循環させることは、不均一触媒24を膨張触媒領域22内で膨張状態若しくは流動状態に保ち、チャネリングを最小にし、反応速度を制御し、また、発熱水素化反応によって放出される熱を安全なレベルに保つのに役立つ。
【0047】
新鮮な不均一触媒24は、沸騰床反応器10の頂部を貫通し膨張触媒領域22へ直接通じる触媒注入管38を介して、沸騰床反応器10内、例えば膨張触媒領域22内に導入される。使用された不均一触媒は、膨張触媒領域22の下端部から分配器グリッドプレート26および沸騰床反応器10の底部を貫通する触媒抜取管40を介して、膨張触媒領域22から抜き取られる。触媒抜取管40は、十分に使用された触媒と、部分的に使用されたが活性のある触媒と、新しく添加された触媒とを区別することができないため、ランダムに分布した不均一触媒24が典型的には「使用済み」触媒として沸騰床反応器10から抜き取られることを理解されよう。
【0048】
沸騰床反応器10から抜き取られた改良後の材料20は、分離器42(例えば、高温分離器、段間圧力差分離器、または常圧若塔しくは減圧塔などの蒸留塔)に導入されてよい。分離器42は、不揮発性留分48から1若しくはそれ以上の揮発性留分46を分離する。
【0049】
図2Bは、Hydrocarbon Research Incorporatedによって開発され、現在Axensによってライセンスされている水素―オイル水素化分解システムで用いられる沸騰床反応器110を概略的に示す。沸騰床反応器110は、重油原料114および加圧水素ガス116が導入される注入ポート112と、改良後の材料120が抜き取られる排出ポート118とを含む。不均一触媒124を有する膨張触媒領域122は、反応器110の底部と分配器グリッドプレート126間の下部触媒不含領域128から膨張触媒領域122を分離する分配器グリッドプレート126と、膨張触媒領域122と上部触媒不含領域130間の近似境界を画定する上端部129とによって拘束されている。点線の境界線131は、不均一触媒124の膨張状態または流動状態ではないときの近似レベルを概略的に示す。
【0050】
材料は、沸騰ポンプ134に接続された再循環流路132によって反応器110内で連続的に再循環される。当該沸騰ポンプ134は反応器110の外側に配置されている。材料は、上部触媒不含領域130から漏斗形状の再循環カップ136を通して引き込まれる。再循環カップ136は螺旋形状になっており、これは、再利用される材料132から水素気泡125を分離して沸騰ポンプ134のキャビテーションを防止するのに役立つ。再利用される材料132は、下部触媒不含領域128に入り、新鮮な原料116および水素ガス118と混合され、その混合物は分配器グリッドプレート126を上方に通過して膨張触媒領域122へ入る。新鮮な触媒124は、触媒注入管136を介して膨張触媒領域122に導入され、使用済み触媒124は触媒抜出管140を介して膨張触媒領域122から抜き取られる。
【0051】
水素―オイル沸騰床反応器110とLC−精製沸騰床反応器10との間の主な違いは、沸騰ポンプの位置にある。水素―オイル反応器110内の沸騰ポンプ134は、反応チャンバの外部に配置される。再循環原料は、反応器110底部で再循環ポート141を介して導入される。再循環ポート141は分配器143を含み、当該分配器143は下部触媒不含領域128を通して材料を均一に分配するのを補助する。改良された材料120は分離機142に送られることが示されているが、当該分離機142は不揮発性留分148から1若しくはそれ以上の揮発性留分146を分離する。
【0052】
図2Cは、複数の沸騰床反応器を有する沸騰床水素処理システム200を概略的に示す。水素処理システム200は、その一例にLC−精製水素処理ユニットがあるが、原料214を改良するための直列の3つの沸騰床反応器210を含むことができる。原料214は、水素ガス216と共に第1の沸騰床反応器210aに導入されるが、これら原料214および水素ガス216の双方は、当該反応器に入る前にそれぞれの加熱器に通される。第1の沸騰床反応器210aからの改良された材料220aは、追加の水素ガス216と共に第2の沸騰床反応器210bに導入される。第2の沸騰床反応器210bからの改良された材料220bは、追加の水素ガス216と共に第3の沸騰床反応器210cに導入される。
【0053】
液体炭化水素と残留した分散金属硫化物触媒粒子とを含む不揮発性成分から低沸点留分およびガスを除去するために、第1と第2の反応器210a、210b間および/または第2と第3の反応器210b、210c間に、1又はそれ以上の段間分離器を任意選択的に介在させることができることを理解されたい。価値の高い燃料生成物ではあるがアスファルテンの貧溶媒である、ヘキサンおよびヘプタンなどの低級アルカンを除去することが望ましい場合がある。複数の反応器間で揮発性物質を除去することは、価値の高い生成物の生産性を高め、下流の反応器に供給される炭化水素液体留分中におけるアスファルテンの溶解度を増加させる。両方とも、水素処理システム全体の効率を高める。
【0054】
第3の沸騰床反応器210cからの改良された材料220cは、揮発性留分と不揮発性留分とを分離する高温分離器242aに送られる。揮発性留分246aは、第1の沸騰床反応器210aに導入される前に水素ガス216を予熱する熱交換器250を通過する。幾分冷却された揮発性留分246aは中間温度分離器242bに送られる。中間温度分離器242bは、熱交換器250による冷却の結果として形成され得られる液体留分248bから残りの揮発性留分246bを分離する。残りの揮発性留分246bは下流の低温分離器246cへ送られ、気体留分252cと脱気された液体留分248cとにさらに分離される。
【0055】
高温分離器242aからの液体留分248aは、中間温度分離器242bからの液体留分248bと共に、低圧分離器242dに送られる。低圧分離器242dは、脱気された液体留分248dから水素リッチガス252dを分離する。脱気された液体留分248dは、その後、低温分離器242cからの脱気された液体留分248cと混合され、生成物に分別される。低温分離器242cからの気体留分252cは、オフガス、パージガス、および水素ガス216に精製される。水素ガス216は、圧縮され、補給された水素ガス216aと混合されてから、熱交換器250を通過して第1の沸騰床反応器210aに原料216と共に導入され、或いは第2および第3の沸騰床反応器210bおよび210bに直接導入される。
【0056】
図2Dは、
図2Cに図示されたシステムと同様に、複数の沸騰床反応器を有する沸騰床水素処理システム200を概略的に示すものだが、段間分離器221が第2および第3の反応器210b、210c間に介在していることが示されている。図示するように、第2段反応器210bからの流出物は段間分離器221に入るが、当該段階分離器221は高圧、高温分離器とすることができる。分離器221からの液体留分は、ライン216からの再利用される水素の一部と併合される。段間分離器221からの蒸気留分は第3段反応器210cを迂回し、第3段反応器210cからの流出物と混合され、その後、高圧高温分離器242aに入る。
【0057】
これにより、最初の2つの反応器の段階で形成された、より軽くより飽和した成分は、第3段反応器210cを迂回可能になる。この利点は、(1)第3段反応器の蒸気負荷が減少し、残りの重質成分を転化させるための第3段反応器の容積利用率が増加すること、(2)第3段反応器210cにおいてアスファルテンを不安定化させ得る「反溶媒」成分(飽和物)の濃度が低下することである。
【0058】
好ましい実施形態では、水素処理システムは、水素処理の酷度の低い形態である単なる水素化精製ではなく、水素化分解反応を促進するように構成され稼働される。水素化分解は、より大きな炭化水素分子の分子量の減少および/または芳香族化合物の開環のような炭素−炭素分子結合の破壊を伴う。一方、水素化精製は、主として不飽和炭化水素の水素化を含み、炭素−炭素分子結合の破壊が最小限であるか又は全くない。単なる水素化精製反応よりも水素化分解反応を促進するために、水素処理反応器は、好ましくは約750°F(399℃)〜約860°F(460℃)の範囲の温度で、より好ましくは約780°F(416°C)〜約830°F(443°C)の範囲の温度で稼働され、好ましくは約1000psig(6.9MPa)〜約3000psig(20.7MPa)の範囲の圧力で、より好ましくは約1500psig(10.3MPa)〜約2500psig(17.2MPa)の範囲の圧力で稼働され、また好ましくは約0.05hr
−1〜約0.45hr
−1の範囲の空間速度(例えば、1時間当たりの反応器容積に対する供給容積の比として定義される液体毎時空間速度(Liquid Hourly Space Velocity)またはLHSVで、より好ましくは約0.15hr
−1〜約0.35hr
−1の範囲の空間速度で稼働される。水素化分解と水素化精製との違いは、また、残油存転化率によっても表すことができる(水素化分解は、高沸点の炭化水素からより低沸点の炭化水素への実質的な転化をもたらすが、水素化精製では当該転化はない)。本明細書に開示される水素処理システムは、約40%〜約90%の範囲、好ましくは約55%〜約80%の範囲の残油転化率をもたらすことができる。好ましい転化率範囲は、典型的には、異なる原料間で処理の難易度が違ってくるために原料の種類に依存する。典型的には、本明細書に開示するような二元触媒システムを用いるように改良するのに先立って沸騰床反応器を稼働しているのと比べて、少なくとも約5%高い、好ましくは少なくとも約10%高い転化率となる。
【0059】
III.沸騰床水素処理反応器の改良
図3A、
図3B、
図3Cおよび
図3Dは、二元触媒システムを用い、(例えば、粘度の低下、比重の低下、アスファルテン含有量の減少、炭素含有量の減少、硫黄含有量の減少、および沈降物含有量の減少のうちの1若しくはそれ以上によって測定される)改善された品質の減圧残油生成物を生成するように沸騰床反応器を改良する例示的な方法を示すフローダイアグラムである。
【0060】
図3Aは、方法であって、(1)不均一触媒を用いて初期条件で重油を水素処理するように沸騰床反応器を初期的に稼働し、初期品質の減圧残油を生成する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床反応器に添加して、不均一触媒と前記分散金属硫化物触媒粒子とを含む二元触媒システムを有する改良された反応器を形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用いて前記改良された沸騰床反応器を同等又はより高い酷度で稼働し、初期条件で稼働している時よりも改善された品質の減圧残油生成物を生成する工程とを有する方法を示すフローダイアグラムである。
【0061】
いくつかの実施形態において、沸騰床反応器を初期条件で初期稼働する際に用いられる不均一触媒は、沸騰床反応器において典型的に用いられている市販の触媒である。効率を最大化するために、反応器の初期条件は、沈降物の形成および汚染が許容可能なレベル内に保たれる反応器酷度とすることが有利である。二元触媒システムを用いるように沸騰反応器を改良することなく反応器酷度を上昇させると、過度の沈降物形成および望ましくない装置の汚染がもたらされることがあり、それは通常ならば水素処理反応器およびその関連設備、例えばパイプ、塔、加熱器、不均一触媒および/または分離装置などのより頻繁な停止および清掃を必要とするはずである。
【0062】
同様またはより厳しい酷度で沸騰床反応器を稼働しながらも、生成される減圧残油の品質を改善するために、前記沸騰床反応器は、不均一触媒と分散金属硫化物触媒粒子とを有する二元触媒システムを用いるように改良される。改善された品質の減圧残油生成物は、粘度の低下、比重の低下、アスファルテン含有量減少、炭素含有量の減少、硫黄含有量の減少、および沈降物の減少のうちの1若しくはそれ以上によって特徴付けられる。
【0063】
図3Bは、方法であって、(1)不均一触媒を用いて初期条件で重油を水素処理するように沸騰床反応器を初期的に稼働し、初期品質の減圧残油を生成する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床反応器に添加して、不均一触媒と前記分散金属硫化物触媒粒子とを含む二元触媒システムを有する改良された反応器を形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用いて前記改良された沸騰床反応器を同等又はより高いスループットで稼働し、初期条件で稼働している時よりも改善された品質の減圧残油生成物を生成する工程とを有する方法を示すフローダイアグラムである。
【0064】
図3Cは、方法であって、(1)不均一触媒を用いて初期条件で重油を水素処理するように沸騰床反応器を初期的に稼働し、初期品質の減圧残油を生成する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床反応器に添加して、不均一触媒と前記分散金属硫化物触媒粒子とを含む二元触媒システムを有する改良された反応器を形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用いて前記改良された沸騰床反応器を同等又はより高い転化率で稼働し、初期条件で稼働している時よりも改善された品質の減圧残油生成物を生成する工程とを有する方法を示すフローダイアグラムである。
図3Dは、方法であって、(1)不均一触媒を用いて初期条件で重油を水素処理するように沸騰床反応器を初期的に稼働し、初期品質の減圧残油を生成する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床反応器に添加して、不均一触媒と前記分散金属硫化物触媒粒子とを含む二元触媒システムを有する改良された反応器を形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用いて前記改良された沸騰床反応器を同等又はより高い酷度、スループットおよび/または転化率で稼働し、初期条件で稼働している時よりも改善された品質の減圧残油生成物を生成する工程とを有する方法を示すフローダイアグラムである。
【0065】
前記分散金属硫化物触媒粒子は、別々に生成され、その後、二元触媒システムを形成するときに沸騰床反応器に添加されてもよい。代替的に、または加えて、前記分散金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部は、沸騰床反応器内の重油中でその場で生成され得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、分散金属硫化物触媒粒子は、有利には、重油原料全体の中でその場で形成される。これは、まず触媒前駆体を重油原料全体と混合して調整された原料を形成し、その後、その調整済み原料を加熱して前記触媒前駆体を分解することによって達成することができ、これにより、触媒金属が、重油中および/または重油に添加された硫黄および/または硫黄含有分子と反応して前記分散金属硫化物触媒粒子が形成される。
【0067】
前記触媒前駆体は、油溶性であってよく、また、約100℃(212°F)〜約350℃(662°F)の範囲、または約150℃(302°F)〜約300℃(572°F)の範囲、または約175℃(347°F)〜約250℃(482°F)の範囲の分解温度を有するものであってよい。例示的な触媒前駆体としては、適切な混合条件下で重油原料と混合した場合に実質的な分解を回避するのに十分な高さの分解温度または範囲を有する、有機金属錯体若しくは化合物、より具体的には油溶性化合物または遷移金属と有機酸の錯体が挙げられる。触媒前駆体を炭化水素油希釈剤と混合する場合、当該希釈剤を前記触媒前駆体の顕著な分解が起こる温度以下に維持することが有利である。当業者は、本開示に従い、前記分散金属硫化物触媒粒子の形成前に、実質的な分解を伴うことなく選択された前駆体組成物の均質な混合をもたらす混合温度プロファイルを選択することができる。
【0068】
例示的な触媒前駆体としては、2−エチルヘキサン酸モリブデン、オクタン酸モリブデン、ナフテン酸モリブデン、ナフテン酸バナジウム、オクタン酸バナジウム、ヘキサカルボニルモリブデン、ヘキサカルボニルバナジウム、およびペンタカルボニル鉄が挙げられるが、これらに限定されない。その他の触媒前駆体としては、複数のカチオン性モリブデン原子と少なくとも8個の炭素原子を有する複数のカルボキシレートアニオンとを有するモリブデン塩が挙げられ、それは(a)芳香族、(b)脂環式、または(c)分枝状、不飽和および脂肪族の少なくとも1つである。一例として、各カルボキシレートアニオンは、8〜17個の炭素原子または11〜15個の炭素原子を有してよい。前記カテゴリーの少なくとも1つに適合するカルボキシレートアニオンの例としては、3−シクロペンチルプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸、ビフェニル−2−カルボン酸、4−ヘプチル安息香酸、5−フェニル吉草酸、ゲラン酸(3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン酸)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるカルボン酸から生成されるカルボキシレートアニオンが挙げられる。
【0069】
その他の実施形態では、油溶性で熱的に安定なモリブデン触媒前駆体化合物の生成に使用するためのカルボキシレートアニオンは、3−シクロペンチルプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸、ビフェニル−2−カルボン酸、4−ヘプチル安息香酸、5−フェニル吉草酸、ゲラン酸(3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン酸)、10−ウンデセン酸、ドデカン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるカルボン酸から生成されるものである。前述のカルボン酸から生成されたカルボキシレートアニオンを用いて生成されたモリブデン触媒前駆体は改善された熱安定性を有することが見出された。
【0070】
より高い熱安定性を有する触媒前駆体は、210℃より高い、約225℃より高い、約230℃より高い、約240℃より高い、約275℃より高い、または約290℃より高い第1の分解温度を有することができる。このような触媒前駆体は、250℃より高い、または約260℃より高い、または約270℃より高い、または約280℃より高い、または約290℃より高い、または約330℃より高いピーク分解温度を有することができる。
【0071】
当業者は、本開示に従い、前記分散金属硫化物触媒粒子を形成する前に、実質的な分解を伴うことなく選択された前駆体組成物の均質な混合をもたらす混合温度プロファイルを選択することができる。
【0072】
触媒前駆体組成物を重油原料と直接混合することは本発明の範囲内であるが、そのような場合には、当該前駆体組成物の実質的な分解前に原料中で前記前駆組成物を十分に混合するのに十分な時間、前記組成物を混合するように注意しなければならない。例えば、Cyrらの米国特許第5,578,197号は、その開示が参照により組み込まれるが、得られた混合物が反応容器において加熱されて触媒化合物を形成し水素化分解をもたらす前に、2−エチルヘキサン酸モリブデンがビチューメン減圧塔残留物と24時間混合される方法が記載されている(第10欄、第4〜43行参照)。24時間の混合は試験環境下では十分に許容され得るが、そのような長い混合時間はある種の工業的稼働においては非常に費用がかかる。加熱して活性触媒を形成する前に重油中で触媒前駆体を確実に十分に混合するために、調整済み原料を加熱する前に一連の混合工程が異なる混合装置によって行われる。これらは、1若しくはそれ以上の低剪断インライン混合器と、それに続く1若しくはそれ以上の高剪断混合器と、それに続くサージ容器および周辺ポンプシステムと、それに続き供給流を水素処理反応器に導入する前に加圧する1若しくはそれ以上の多段高圧ポンプとを含んでもよい。
【0073】
いくつかの実施形態において、調整済み原料は、重油内においてその場で分散金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部を形成するために、水素処理反応器に入れられる前に加熱装置で予熱される。その他の実施形態では、前記調整済み原料は、重油内においてその場で分散金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部を形成するために、水素処理反応器内で加熱またはさらに加熱される。
【0074】
いくつかの実施形態では、分散金属硫化物触媒粒子は多段階プロセスで形成することができる。例えば、油溶性触媒前駆体組成物を炭化水素希釈剤と予混合して希釈された前駆体混合物を形成することができる。適切な炭化水素希釈剤の例として、これに限られないが、減圧軽油(通常、360〜524℃(680〜975°F)の公称沸点を有する)、デカント油またはサイクル油(通常、360〜550℃(680−1022°F)の公称沸点を有する)、及び軽油(通常、200〜360℃(392〜680°F)の公称沸点を有する)、重油原料の一部、並びに通常約200℃より高い温度で沸騰するその他の炭化水素が挙げられる。
【0075】
希釈された前駆体混合物を生成するために使用される炭化水素油希釈剤に対する触媒前駆体の比は、約1:500〜約1:1の範囲、または約1:150〜約1:2の範囲、または約1:100〜約1:5の範囲(例えば、1:100、1:50、1:30、または1:10)である。
【0076】
希釈された前駆体混合物中の触媒金属(例えば、モリブデン)の量は、好ましくは、希釈された前駆体混合物の重量に対し、約100ppm〜約7000ppmの範囲、より好ましくは、約300ppm〜約4000ppmの範囲である。
【0077】
触媒前駆体は、触媒前駆体組成物のかなりの部分が分解する温度を下回る温度で炭化水素希釈剤と有利に混合される。希釈された前駆体混合物を形成するため、混合は、約25℃(77°F)〜約250℃(482°F)の範囲、または約50℃(122°F)〜約200℃(392°F)の範囲、または約75℃(167°F)〜約150℃(302°F)の範囲の温度で行われる。希釈された前駆体混合物が形成される温度は、触媒前駆体の分解温度および/または利用されるその他の特性、および/もしくは炭化水素希釈剤の粘度などの特性に依存しうる。
【0078】
触媒前駆体は、炭化水素油希釈剤と、好ましくは、約0.1秒〜約5分間、または約0.5秒〜約3分間、または約1秒〜約1分間の範囲の時間混合される。実際の混合時間は、少なくとも部分的には、温度(すなわち、流体の粘度に影響する)および混合強度に依存する。混合強度は、少なくとも部分的には、例えばインライン静的混合器の段階数に依存する。
【0079】
触媒前駆体を炭化水素希釈剤と予混合して希釈された前駆体混合物を形成することは、その後に重油原料と混合される際に、特に大規模な工業運営で必要とされる比較的短い時間で、触媒前駆体を原料中に十分かつ均質に混合するのに大いに役立つ。希釈された前駆体混合物を形成する工程は、(1)より極性の高い触媒前駆体とより疎水性の高い重油原料との間の溶解度の差を低減または排除すること、(2)触媒前駆体と重油原料との間のレオロジーの差を低減または排除すること、および/または(3)触媒前駆体分子を分解して、重油原料中でより容易に分散させられる炭化水素希釈剤内に溶質を形成することによって、混合時間全体を短縮する。
【0080】
次いで、希釈された前駆体混合物は、重油原料と併合され、触媒前駆体を原料全体に分散させるのに十分な時間および様式で混合されて、調整済み原料を形成する。当該調整済み原料では、熱分解および活性金属硫化物触媒粒子の形成に先立って、触媒前駆体が重油中で十分に混合される。重油原料中で触媒前駆体を十分に混合するために、希釈された前駆体混合物および重油原料は、有利には、約0.1秒〜約5分間、または約0.5秒〜約5分間、または約0.5秒〜約3分間、または約1秒〜約3分間混合される。混合処理の強力度および/または剪断エネルギーを増大させることは一般的に十分な混合をもたらすのに必要となる時間を短縮する。
【0081】
触媒前駆体および/または希釈された前駆体混合物と重油との十分な混合をもたらすのに使用可能な混合装置の例としては、これらに限られないが、高剪断混合、例えばプロペラ又タービン羽根車を用いて容器内で作られる混合;または複数のインライン静的混合器;インライン高剪断混合器と組み合わされた複数のインライン静的混合器;サージ容器が続くインライン高剪断混合器と組み合わせた複数のインライン静的混合器;1若しくはそれ以上の多段遠心ポンプが続く上記のものの組み合わせが挙げられる。
【0082】
いくつかの実施形態では、複数のチャンバを有する高エネルギーポンプを用いてバッチ式混合ではなく連続式混合を実施することができ、その中で触媒前駆体組成物および重油原料はポンプ輸送プロセス自体の一環として撹拌され混合される。前述の混合装置はまた、触媒前駆体を炭化水素希釈剤と混合して触媒前駆体混合物を形成する、上述した予混合処理に用いることができる。
【0083】
室温で固体または極度に粘稠な重油原料の場合、そのような原料を加熱して軟化させ十分に低い粘度を有する原料を生成することにより、油溶性触媒前駆体が原料組成物内へ良好に混合されるようにすることが有利である。一般的に、重油原料の粘度を低下させることは原料内で油溶性前駆体組成物を十分かつ均質に混合するのに必要となる時間を短縮する。
【0084】
重油原料と、触媒前駆体および/または希釈された前駆体混合物は、調整済み原料を生じさせるため、有利には、約25℃(77°F)〜約350℃(662°F)の範囲、約50℃(122°F)〜約300℃(572°F)の範囲、または約75℃(167°F)〜約250℃(482°F)の範囲の温度で加熱される。
【0085】
最初に希釈された前駆体混合物を形成することなく直接的に触媒前駆体を重油原料と混合する場合、触媒前駆体組成物の大半が分解される温度より低い温度で触媒前駆体と重油原料を混合することが有利である。しかしながら、触媒前駆体を炭化水素希釈剤と予混合して希釈された前駆体混合物を形成する場合、後にそれは重油原料と混合されるが、重油原料が触媒前駆体の分解温度以上になることが許容され得る。これは、炭化水素希釈剤が、個々の触媒前駆体分子を遮蔽し、それらが凝集してより大きな粒子を形成することを防止し、混合中の重油の熱から触媒前駆体分子を一時的に隔離し、かつ分解して金属を遊離させる前に重油原料全体への十分かつ迅速な触媒前駆体分子の分散を促進するためである。さらに、重油中の硫黄含有分子から硫化水素を遊離させて金属硫化物触媒粒子を形成させるために原料の更なる加熱が必要な場合がある。このようにして、触媒前駆体の斬新的な希釈は、重油原料内で高レベルの分散を可能にし、原料が触媒前駆体の分解温度を超える温度であっても、高い分散性の金属硫化物触媒粒子の形成をもたらす。
【0086】
触媒前駆体を重油全体に十分に混合して調整済み原料を得た後、この組成物を加熱することにより、触媒前駆体の分解が引き起こされ、そこから触媒金属が遊離し、それが重油内の、および/または重油に添加された硫黄と反応して活性金属硫化物触媒粒子を形成する。触媒前駆体からの金属は最初に金属酸化物を形成し、その後、重油中の硫黄と反応して、最終的な活性触媒を形成する金属硫化化合物を生じる。重油原料が十分または過剰に硫黄を含む場合、硫黄をそこから遊離させるのに十分な温度で重油原料を加熱することにより、最終的な活性触媒をその場で形成することができる。いくつかの場合では、前駆体組成物が分解する温度で硫黄を遊離させることができる。その他の場合では、より高い温度にするため、更なる加熱が必要となる可能性がある。
【0087】
触媒前駆体が重油全体に十分に混合されている場合、遊離した金属イオンの少なくとも大半は、他の金属イオンから十分に保護または遮蔽され、それにより、それらが硫黄と金属硫化化合物を形成する反応をすると、金属分子分散触媒が形成される。いつかの状況下では、微量の凝集が起こり、コロイドサイズの触媒粒子を生じる場合がある。しかしながら、触媒前駆体の熱分解に先立ち、原料全体に触媒前駆体を十分に混合する処理をすることで、コロイド粒子よりも個々の触媒分子が生成されると考えられる。触媒前駆体が十分に混合されずに単純にブレンドされる場合、触媒前駆体は原料と典型的には、ミクロンサイズ以上の大きな凝集金属硫化化合物の形成を引き起こす。
【0088】
分散金属硫化物触媒粒子を形成するために、調整済み原料は、約275℃(527°F)〜約450℃(842°F)の範囲、または約310℃(590°F)〜約430℃(806°F)の範囲、または約330℃(626°F)〜約410℃(770°F)の範囲の温度にまで加熱される。
【0089】
分散金属硫化物触媒粒子により提供される触媒金属の初期濃度は、重油原料の重量に対し、約1ppm〜約500ppmの範囲、または約5ppm〜約300ppmの範囲、または約10ppm〜約100ppmの範囲とすることができる。触媒は、揮発性留分が残油留分から除去されるにつれて、より濃縮され得る。
【0090】
重油原料に顕著な量のアスファルテン分子が含まれる場合、分散金属硫化物触媒粒子は、選択的にアスファルテン分子と結びつき、またはアスファルテン分子に非常に近接したままとなりうる。アスファルテン分子は一般的に重油中に含まれるその他の炭化水素より親水性が高く疎水性が低いため、アスファルテン分子は金属硫化物触媒粒子に対してより大きな親和性を有することができる。金属硫化物触媒粒子は親水性が非常に高い傾向にあるため、その個々の粒子または分子は重油原料内でより親水性の高い部分または分子の方へ移動する傾向にある。
【0091】
金属硫化物触媒粒子が有する高い極性の性質により、金属硫化物触媒粒子はアスファルテン分子と結び付き又は結び付くことが可能になる一方、極性の高い触媒化合物と疎水性を有する重油との間は一般的に非相溶性であり、活性触媒粒子の分解および形成に先立ち、前述した重油中での触媒前駆体組成物の均質または十分な混合が必要となる。金属触媒化合物は極性が高いため、それらを重油中に直接添加しても効果的に重油中に分散させることができない。実用面では、より小さな活性触媒粒子を形成することにより、より多くの数の触媒粒子が得られ、重油全体にわたってより均一に分布した触媒配置をもたらす。
【0092】
IV.改良された沸騰床反応器
図4は、本明細書に開示される方法およびシステムで用いられる改良された沸騰床水素処理システム400の一例を概略的に示す。沸騰床水素処理システム400は、改良された沸騰床反応器430と、高温分離器404(または蒸留塔のようなその他の分離器)とを含む。改良された沸騰床反応器430を形成するために、触媒前駆体402がまず1若しくはそれ以上の混合器406中で炭化水素希釈剤404と予混合されて、触媒前駆体混合物409を形成する。触媒前駆体混合物409は原料408に添加され、1若しくはそれ以上の混合器410において原料と混合されて、調整済み原料411を形成する。調整済み原料は周辺ポンプ414を伴うサージ容器412に供給されて、調整済み原料内において触媒前駆体の更なる混合および分散がもたらされる。
【0093】
サージ容器412からの調整済み原料は、1若しくはそれ以上のポンプ416によって加圧され、予熱器418を通過し、加圧された水素ガス420と共に、沸騰床反応器430の底部又はその近くに位置する注入ポート436を介して沸騰床反応器430に供給される。沸騰床反応器430内の重油材料426は、触媒粒子424として概略的に示された分散金属硫化物触媒粒子を含有する。
【0094】
重油原料408は、その中に、これに限られないが、重質原油、油砂瀝青、原油からのバレル留分の底部、常圧塔底、減圧塔底、コールタール、液化石炭、およびその他の残油留分の1若しくはそれ以上を含む任意の所望の化石燃料の原料および/または留分であってよい。いくつかの実施形態では、重油原料408は、かなりの割合で高沸点炭化水素(すなわち公称上343℃(650°F)以上、より具体的には、公称上約524℃(975°F)以上)および/またはアスファルテンを含みうる。アスファルテンは炭素に対する水素の割合が比較的低い複合炭化水素分子であるが、これは、パラフィン系側鎖を伴う相当数の縮合芳香族およびナフテン環を有するためである(
図1参照)。縮合芳香族およびナフテン環からなる複数の層は、硫黄または窒素のようなヘテロ原子、並びに/または、ポリメチレン架橋、チオエーテル結合、およびバナジウムおよびニッケル錯体によって共に保持される。アスファルテン留分もまた、原油または残りの減圧残油よりも高い含有量で硫黄および窒素を含有し、また、より高濃度の炭素形成化合物(すなわち、コークス前駆体および沈降物を形成する)を含有する。
【0095】
沸騰床反応器430は、不均一触媒444を有する膨張触媒領域442をさらに含む。下部不均一触媒不含領域448は膨張触媒領域442の下に位置し、上部不均一触媒不含領域450は膨張触媒領域442の上に位置する。分散金属硫化物触媒粒子424は、膨張触媒領域442と不均一触媒不含領域448、450、452とを含む沸騰床反応器430内の材料426全体に分散されており、それによって、二元触媒システムを含むように改良するのに先立ち、沸騰床反応器の触媒不含領域を構成する範囲内において改良する反応を促進することができる。
【0096】
単なる水素化反応よりも水素化分解を促進するために、水素処理反応器は、好ましくは約750°F(399℃)〜約860°F(460℃)の範囲の温度で、より好ましくは約780°F(416°C)〜約830°F(443°C)の範囲の温度で稼働され、好ましくは約1000psig(6.9MPa)〜約3000psig(20.7MPa)の範囲の圧力で、より好ましくは約1500psig(10.3MPa)〜約2500psig(17.2MPa)の範囲の圧力で稼働され、また好ましくは約0.05hr
−1〜約0.45hr
−1の範囲の空間速度(LHSV)で、より好ましくは約0.15hr
−1〜約0.35hr
−1の範囲の空間速度で稼働される。水素化分解と水素化精製との間の違いは、残油転化率によっても表すことができる(水素化分解は高沸点の炭化水素からより低沸点の炭化水素への実質的な転化をもたらすが、水素化精製では当該転化は起こらない)。本明細書に開示される水素処理システムは、約40%〜約90%の範囲、好ましくは約55%〜約80%の範囲の残油転化率をもたらすことができる。好ましい転化率の範囲は、典型的には、異なる原料間で処理の難易度が違ってくるために、原料の種類に依存する。典型的には、本明細書に開示する二元触媒システムを用いるように改良する前に沸騰床反応器を稼働しているのと比べて、少なくとも約5%高い、好ましくは少なくとも約10%高い転化率となる。
【0097】
沸騰床反応器430内の材料426は、沸騰ポンプ454に接続された再循環流路452によって、上部不均一触媒不含領域450から下部不均一触媒不含領域448へ連続的に再循環される。再循環流路452の頂部には漏斗形状の再循環カップ456が設けられてなり、当該再循環カップ456を通じて上部不均一触媒不含領域450から材料426が引き込まれる。再利用される材料426は、新鮮な調整済み原料411および水素ガス420と混合される。
【0098】
新鮮な不均一触媒444は触媒入口管458を介して沸騰床反応器430反応器に導入され、使用済み不均一触媒444は触媒抜取管460を通して回収される。触媒抜取管460は、十分に使用された触媒と、部分的に使用されたが活性のある触媒と、新しく添加された触媒とを区別することができないが、分散金属硫化物触媒粒子424の存在は、膨張触媒領域442、再循環流路452、および下部および上部不均一触媒不含領域448、450内で、更なる触媒の活性化をもたらす。不均一触媒444の外側における炭化水素への水素の追加は、しばしば不均一触媒を失活させる原因となる沈降物およびコークス前駆体の形成を最小限にする。
【0099】
沸騰床反応器430は、頂部またはその付近に排出ポート438をさらに含み、当該排出ポート438を介して転化された材料440が抜き取られる。転化された材料440は高温分離器又は蒸留塔404内へ導入される。高温分離器または蒸留塔404は1若しくはそれ以上の揮発性留分405を残油留分407から分離する。当該揮発性留分は高温分離器404の頂部から回収され、残油留分407は高温分離器または蒸留塔404の底部から回収される。残油留分407には触媒粒子424として概略的に示す残留金属硫化物触媒粒子が含まれる。所望であれば、残油留分407の少なくとも一部を沸騰床反応器430に戻して、供給材料の一部を形成し、追加の金属硫化物触媒粒子を供給することができる。代替的に、残油留分407は、別の沸騰床反応器などの下流処理装置を用いてさらに処理することができる。この場合、分離器404は段間分離器とすることができる。
【0100】
いくつかの実施形態において、改善された品質の減圧残油生成物を生成する間に、改良された沸騰床反応器を同様のまたはそれ以上の酷度および/またはスループットで稼働することにより、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて装置の汚染度が同等以下となる。一般的に、減圧残油生成物の品質の改善は、粘度、アスファルテン含有量、炭素含有量、沈降物含有量、窒素含有量、および硫黄含有量のうちの1若しくはそれ以上を減少させることによって装置の汚染を低減することができる。
【0101】
V.改善された品質の減圧残油
本明細書に開示されるように、二元触媒システムを用いるように沸騰床水素処理システムを改良することは、重油を改良し、より軽くより価値の高い留分を除去した後に残る減圧残油の品質を実質的に改善し得る。改善された品質の減圧残油生成物は、粘度、比重(増加したAPI比重)、アスファルテン含有量、炭素含有量、硫黄含有量、および沈降物含有量の1若しくはそれ以上の減少によって特徴付けられる。
【0102】
いくつかの実施形態では、改善された品質の減圧残油生成物は、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、または70%の粘度の低下(例えば、300°Fでのブルックフィールド粘度によって測定される)によって特徴付けられる。
【0103】
いくつかの実施形態では、改善された品質の減圧残油生成物は、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて、少なくとも5%、7.5%、10%、12.5%、15%、20%、25%、または30%のアスファルテン含有量の減少によって特徴付けられる。
【0104】
いくつかの実施形態では、改善された品質の減圧残油生成物は、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて、少なくとも2%、4%、6%、8%、10%、12.5%、15%、または20%の微小残留炭素含有量の減少(例えば、MCR含有量によって測定される)によって特徴付けられる。
【0105】
いくつかの実施形態では、改善された品質の減圧残油生成物は、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて、少なくとも5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、30%、または35%の硫黄含有量の減少によって特徴付けられる。
【0106】
いくつかの実施形態では、改良された品質の減圧残油生成物は、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて、少なくとも0.4、0.6、0.8、1.0、1.3、1.6、2.0、2.5、または3.0の°API比重の増加として表すことができる密度の減少によって特徴付けられる。
【0107】
いくつかの実施形態では、改善された品質の減圧残油生成物は、沸騰床反応器を初期的に稼働する時と比べて、少なくとも2%、4%、6%、8%、10%、12.5%、15%、または20%の沈降物含有量の減少によって特徴付けられる。
【0108】
一般的に、減圧残油生成物は、(1)燃料油、(2)溶媒脱アスファルト化、(3)コーキング、(4)発電プラント燃料、および/または(5)部分酸化(例えば、水素を発生させるためのガス化)に用いられる。減圧残油生成物に許容される汚染物質量の制限のために、本明細書に開示される二元触媒系水素処理システムを用いてその品質を改善することにより、減圧残油を規格内にするのに必要とされる高価なカッターストックの量を減らすことができる。それはまた、水素処理システム全体の効率的な稼働のためにその他の場所でカッターストックが必要とされるプロセス全体の負担も軽減する。
【0109】
沸騰床ユニットからの結果物は、非二元触媒稼働と比べて少なくとも同等以上の転化生成物の生成速度を維持しながらも、二元触媒システムの使用を通じて改良された品質で底部生成物(すなわち、減圧塔底、VTB、燃料油)が生成されることを示している。
【0110】
さらに、二元触媒システムを用いるように沸騰床を改良すると、転化生成物の生成速度が上昇して初期条件を実質的に上回る場合でも底部生成物は少なくとも同等の品質に保たれる。通常ならば二元触媒システムを用いないと品質が低下するはずである。
【0111】
所与の沸騰床システムでは、転化生成物の生成速度は、減圧塔底生成物の品質に関する最小要件によって制限され得る。その他の事項は同じ場合(通常、反応器の温度、スループットおよび残油転化率の増加の組み合わせによって)生成速度が増加するにつれて、底部生成物の品質は低下し、ある時点で底部生成物の販売または使用を統制する要件または規格を下回ることとなる。これが発生すると、底部生成物の販売による価値の損失のため、製油所全体の稼働において経済面で悪影響を受ける。その結果、製油所は、許容可能な品質の底部生成物が確実に生成されるように、沸騰床システムの動作を調整することとなる。二元触媒システムの使用により管理者は経済的な実行可能性を維持することができる。
【0112】
二元触媒システムでは、二元触媒システムを用いない比較可能な条件下で予想されるものと比較して、底部生成物の品質が改善される。これにより、沸騰床管理者はユニット稼働において柔軟性を高めることができる。例えば、沸騰床ユニットを、底部品質の正味の改善をもたらすような様式で稼働させることができる。これは、より付加価値の高い使用上の材料の規格を満たすことにより、底部生成物をより高い価格で販売することができるという点で経済的な利点をもたらす。あるいは、沸騰床ユニットは、少なくとも同等の底部品質を維持しながら、転化生成物の生成速度をより高くすることができる。これは、底部生成物の市場性に悪影響を及ぼすことなく、価値の高い転化生成物(ナフサ、ディーゼル、減圧軽油)の販売を増加させることによって経済的な利点をもたらす。
【0113】
転化生成物の生成速度は「反応器酷度」の増加によって高めることができる。当該「反応器酷度」とは、反応器の温度と、スループットと、反応器全体の性能を決める残油転化率との組み合わせである。反応器酷度の増加、したがって生成速度の増加は、(a)一定のスループットでの温度/転化率の上昇、(b)一定の転化率でのスループット/温度の上昇、並びに(c)スループット、温度、および転化率の上昇などの条件変化の様々な組合せによって達成することができる。
【0114】
減圧塔底生成物の粘度は、cP(センチポアズ)の単位で測定される場合が多い。二元触媒の使用による粘度変化の大きさは、重油原料の種類および沸騰床稼働条件を含む複数の因子に依存する。転化生成物の生成速度が等しい条件下では、二元触媒は減圧塔底部の粘度を次のように低下させることが示されている:
‐ウラル減圧残油原料の場合、40〜50%;
‐アラブミディウム減圧残油原料の場合、30〜50%;
‐アサバスカ減圧残油原料の場合、60〜70%;
‐マヤ常圧残油原料の場合、40〜50%。
【0115】
VTB生成物のAPI比重は、度合いとしてAPI比重(°)が測定される。API比重は、材料の比重と、化学式:SG(60F)=141.5/(API比重+13.1.5)という関係がある。VTB生成物は、高密度、低API比重であり、比重はゼロに近いか、またはゼロ未満である。転化生成物の生成速度が等しい条件下では、二元触媒システムは、減圧塔底のAPI比重を次のように増加させることが示されている:
‐アラブミディウム減圧残油原料の場合、〜1°API
‐アサバスカ減圧残油原料の場合、最大10°API;
‐マヤ常圧残油原料の場合、〜0.2°API。
【0116】
アスファルテン含有量は、重量パーセント含有量で測定することができ、ヘプタン不溶分とトルエン不溶分との差として定義することができる。このように定義されたアスファルテンは、一般に「C
7アスファルテン」と言われる。別の定義としては、ペンタン不溶分からトルエン不溶分を引いたものが挙げられ、一般に「C
5アスファルテン」と言われる。以下の実施例では、C
7アスファルテンの定義が用いられる。
【0117】
転化生成物の生成速度が等しい条件下では、二元触媒システムはVTB生成物のアスファルテン含有量を次のように減少させることが示されている:
‐ウラル減圧残油原料の場合、15〜20%(相対);
‐アラブミディウム減圧残油原料の場合、少なくとも30〜40%(相対);
‐アサバスカ減圧残油原料の場合、〜50%(相対)。
【0118】
残留炭素含有量は、微小残留炭素(microcarbon residue:MCR)またはコンラドソン残留炭素(Conradson carbon residue:CCR)法による重量パーセント含有量で測定される。転化生成物の生成速度が等しい条件下では、二元触媒システムはVTB生成物のMCR含有量を以下のように減少させることが示されている:
‐ウラル減圧残油原料の場合、10〜15%(相対);
‐アサバスカ減圧残油原料の場合、〜30%(相対)。
【0119】
硫黄含有量は、重量パーセント含有量で測定される。転化生成物の生成速度が等しい条件下では、二元触媒システムはVTB生成物の硫黄含有量を次のように減少させることが示されている:
‐ウラル減圧残油原料の場合、〜30%(相対);
‐アラブミディウム減圧残油原料の場合、25−30%(相的);
‐アサバスカ減圧残油原料の場合、最大40%(相対)。
【0120】
VI.実験研究及び結果
以下の試験的研究は、重油を水素処理する際に、不均一触媒と分散金属硫化物触媒粒子と有する二元触媒システムを用いるように沸騰床反応器を改良することの効果および利点を実証するものである。具体的には、この試験的研究は、本発明の利用によって達成することができる減圧残油生成物の品質の改善を実証する。この試験のために
図5のようにパイロットプラントが設計された。
図5に概略的に示すように、直列に接続された2つの沸騰床反応器512,512'を備えたパイロットプラント500を用いて、重油原料を処理する際に不均一触媒を単独で用いる場合と、不均一系触媒を分散金属硫化物(すなわち、分散二硫化モリブデン触媒粒子)と組み合わせたものを有する二元触媒システムを用いる場合の差を判定した。
【0121】
以下の試験的研究のために、重質減圧軽油を炭化水素希釈剤として用いた。調整済み原料中への分散触媒の目標通りの投入を達成するために、前駆体混合物は、一定量の触媒前駆体を一定量の炭化水素希釈剤と混合して触媒前駆体混合物を形成し、次いで一定量の触媒前駆体混合物を一定量の重油原料と混合することによって調製した。具体例として、(この場合、投入は金属濃度に基づいて表されるが)調整済み原料に30ppmの分散金属硫化物触媒を目標投入する1試験研究のため、触媒前駆体混合物を3000ppmの金属濃度で調製した。
【0122】
実際の試験における原料および稼働条件は、以下でより詳細に特定する。不均一触媒は沸騰反応器で一般的に用いられている市販の触媒である。分散金属硫化物触媒を用いない比較試験用に、希釈された前駆体混合物を用いる場合と同じ割合で炭化水素希釈剤(重質減圧軽油)を重油原料に添加した。これにより、二元触媒システムを用いる試験と不均一(沸騰床)触媒のみを用いる試験との間でバックグラウンド組成が同じであることが保証され、それにより試験結果を直接比較することが可能となった。
【0123】
パイロットプラント500は、より具体的には、炭化水素希釈剤および触媒前駆体(例えば、2−エチルヘキサン酸モリブデン)から構成される前駆体混合物と重油原料(501としてまとめて示す)とを混合して調整済み原料を形成するために、高せん断混合容器502を備えていた。適切な混合は、触媒前駆体を炭化水素希釈剤と予めブレンドして前駆体混合物を形成することによって達成することができる。
【0124】
調整済み原料は、サージ容器および周辺ポンプと同様に、ポンプ504によって再循環され混合容器502内に戻される。高精度移送式ポンプ506は、再循環ループから調整済み原料を引き込み、それを反応器圧力に向けて加圧する。水素ガス508が加圧された原料に供給され、得られた混合物は、第1の沸騰床反応器512への導入に先立って予熱器510を通過する。予熱器510により、調整済み原料中の触媒前駆体の少なくとも一部が分解され、当該原料中においてその場で活性触媒粒子が形成される。
【0125】
各沸騰床反応器512,512'は、約3000mlの公称内容積を有してよく、またメッシュワイヤガード514を含み、不均一触媒が反応器内に保たれるようにすることができる。各反応器はまた、再循環ラインおよび再循環ポンプ513を備えており、それにより反応器において不均一触媒床を膨張させるのに必要な流速がもたらされる。両反応器および各再循環ラインはすべて特定の反応器温度で維持されており、当該両反応器および各再循環ラインの合計容積は、システムの熱反応容積であると考えることができ、液体毎時空間速度の計算(LHSV)に用いることができる。これらの実施例において、「LHSV」は、1時間当たりに反応器に供給される減圧残油原料の体積を熱反応体積で割ったもので定義される。
【0126】
各反応器内の触媒の沈降高さは下側の点線516によって概略的に示されており、使用中の膨張した触媒床は上側の点線518によって概略的に示されている。循環ポンプ513は、処理された材料を反応器512の頂部から底部に向かって再循環させ、材料の上方への定常的な流れや触媒床の膨張を維持する。
【0127】
第1の反応器512からの改良された材料は、追加の水素520とともに第2の反応器512'に移送されて、更に水素処理される。第2の再循環ポンプ513'は、処理された材料を第2の反応器512'の頂部から底部に再循環させ、材料の上方への定常的な流れや触媒床の膨張を維持する。
【0128】
第2の反応器512'からのさらに改良された材料は高温分離器522に導入されて、低沸点炭化水素生成物の蒸気およびガス524が、未転化の重油を有する液体留分526から分離される。炭化水素生成物の蒸気およびガス524は冷却され、低温分離器528に送られ、そこにおいて、ガス530および転化炭化水素生成物に分離される。当該転化炭化水素生成物は分離器塔頂物532として回収される。高温分離器522からの液体留分526は、分離器底部物534として回収されるが、これは分析に用いることができる。
【0129】
実施例1〜6
実施例1〜6を上述のパイロットプラントで実施し、不均一触媒のみで稼働される沸騰床システムと比較して、改善された品質の減圧残油生成物を生成するように二元触媒システムを用いて改良された沸騰床反応器の能力を試験した。この一組の実施例において、重油原料は、1000°F(538℃)の公称カットポイントを有するウラル減圧残油(Ural VR)とした。上記のように、調整済み原料は、一定量の触媒前駆体混合物を一定量の重油原料と混合することによって調製して、最終的な調整済み原料が必要量の分散触媒を含有するようにした。この例外として分散触媒を用いない試験があり、その場合では、触媒前駆体混合物の代わりに同じ割合で重質減圧軽油を用いた。
【0130】
調整済み原料は、
図5のパイロットプラントシステムに供給され、当該パイロットプラントシステムは特定のパラメータを用いて稼働された。実施例1〜6のそれぞれに用いたパラメータおよび対応する減圧残油生成物の品質結果を表3に示す。
【0132】
実施例1および2は、不均一触媒を用いて、本発明における二元触媒システムを用いるように改良される前の沸騰床反応器をシミュレートした。実施例3〜6は、実施例1および2と同じ不均一触媒と、分散硫化モリブデン触媒粒子とからなる二元触媒システムを用いた。原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、当該分散触媒によって提供されるモリブデン金属(Mo)の重量百万分率(ppm)での濃度として測定した。実施例1および2の原料には分散触媒は含まれず(0ppmMo)、実施例3および4の原料には30ppmMoの濃度で分散触媒が含まれ、実施例5および6の原料にはより高い50ppmMoの濃度で分散触媒は含まれた。
【0133】
実施例1〜6の各々について、パイロットユニットの稼働を5日間維持した。各サンプル試験の最後の3日間に、定常状態における稼働データと生成物サンプルを採取した。減圧残油生成物の品質を決定するために、試験が定常状態にある間に分離器底部生成物のサンプルを集め、ASTM D−1160法を用いて実験室蒸留を行い減圧残油生成物のサンプルを得た。実施例1〜6では、減圧残油生成物は1000°F(538℃)の公称カットポイントに基づいていた。
【0134】
実施例1はベースラインの試験であり、当試験においてウラルVRを789°F(421℃)の温度および0.24hr
−1の空間速度で水素処理した結果、残油転化率(1000°F +、%に基づく)は60%となった。実施例2では、温度は801°F(427℃)であり、その結果、残油転化率は68%となった。実施例3および4は、30ppmMoの濃度の分散触媒を有する本発明の二元触媒システムを用いたことを除いて、それぞれ実施例1および2と同じパラメータで稼働された。同様に、実施例5および6では、同じパラメータの組み合わせが採用されたが、分散触媒の濃度がより高い濃度50ppmMoであった。
【0135】
実施例3〜6の二元触媒システムは、実施例1および2のベースラインの試験と比較して、減圧残油生成物の品質において有意な改善をもたらした。これは
図6に図式的に示されているが、この図は、実施例1〜6の減圧残油生成物のブルックフィールド粘度(300°Fで測定)の表を示す。比較の補助のため、結果は残油転化率の関数としてプロットされ、それにより当該結果が等しい転化率で比較できるようになっている。実施例1〜6において試験された残油転化率の全範囲にわたり、二元触媒システムを用いた場合に生成物粘度について有意な改善(減少)がある。
【0136】
図7は、減圧残油生成物の硫黄含有量の結果を示す。この場合も、硫黄含有量が二元触媒システムの使用によって有意に減少している。
【0137】
減圧残油生成物のアスファルテン含有量も二元触媒システムの使用により
図8に示すように減少している。アスファルテン含有量は、C
7アスファルテンに基づいて定義され、これは、ヘプタン不溶分とトルエン不溶分との間の差として計算される。ここで、上記反応は、その改善のほとんどが30ppmの分散触媒の使用により達成されている点において、いくらか粘度および硫黄含有量と異なる。
【0138】
同様の挙動が、微小残留炭素(MCR)法によって測定される残留炭素含有量について見られる。これらの結果は
図9に示されているが、同図には30ppmの分散触媒の使用で有意な減少が示されている。
【0139】
実施例7〜13
実施例7〜13は、重油原料が、主にアラブミディウム減圧残油(アラブミディウムVR)を主成分とする製油所供給混合であること、また1000°F(538℃)の公称カットポイントを伴うことを除いて、実施例1〜6と同じ装置および方法を用いて実施された。整済み重油原料の調製方法は、実施例1〜6について記載した方法と同様であった。
【0140】
調整済み原料は
図5のパイロットプラントシステムに供給され、当該パイロットプラントシステムは特定のパラメータを用いて稼働された。実施例7〜13のそれぞれに用いたパラメータおよび対応する減圧残油生成物の品質結果を表4に示す。
【0142】
実施例7および8は、不均一触媒を用いて、本発明における二元触媒システムを用いるように改良される前の沸騰床反応器をシミュレートした。実施例9〜13は、実施例7および8と同じ不均一触媒と、分散硫化モリブデン触媒粒子とからなる二元触媒システムを用いた。原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、当該分散触媒によって提供されるモリブデン金属(Mo)の重量百万分率(ppm)での濃度として測定した。実施例7および8の原料には分散触媒は含まれず(0ppmMo)、実施例9および10の原料には30ppmMoの濃度で分散触媒が含まれ、実施例11〜13の原料にはより高い50ppmMoの濃度で分散触媒が含まれていた。
【0143】
実施例1〜6と同様に、実施例7〜13についてパイロットユニットの稼働を5日間維持し、各サンプル試験の最後の3日間に、定常状態における稼働データと生成物サンプルを採取した。減圧残油生成物の品質を決定するために、試験が定常状態にある間に分離器底部生成物のサンプルを集め、ASTM D−1160法を用いて実験室蒸留を行い減圧残油生成物のサンプルを得た。実施例7〜13では、減圧残油生成物は、1000°F(538℃)の公称カットポイントに基づいていた。
【0144】
実施例7および8はベースラインの試験であり、当試験においてアラブミディウムVRを主成分とする原料をそれぞれ815°F(435℃)および803°F(428℃)の温度および0.25hr
−1の空間速度で水素処理した結果、残油転化率(1000°F+、%に基づく)はそれぞれ81%及び73%となった。実施例9および10は、30ppmMoの濃度の分散触媒を有する本発明の二元触媒システムを用いたことを除いて、実施例7および8とそれぞれ同じ温度及び空間速度ならびに同等の残油転化率で稼働された。実施例11および12は、実施例7と同じパラメータを用い、また実施例13では、実施例8と類似するが、分散触媒の濃度がより高い濃度50ppmMoであった。
【0145】
実施例9〜13の二元触媒システムは、実施例7および8のベースラインの試験と比較して、減圧残油生成物の品質について有意な改善をもたらした。これは
図10に図式的に示されているが、この図は、1000°F+減圧残油生成物カットの°API比重を示す。各API比重の結果間において残存転化率範囲の下端で相対的に小さな差異がみられるが、二元触媒システムを用いた場合(実施例9、11、および12)に減圧残油生成物のAPI比重(すなわち、密度または比重の減少)について高い残油転化率で有意な増加がある。
【0146】
図11は、実施例7〜13における減圧残油の硫黄含有量の結果を示す。二元触媒システムの使用により硫黄含有量が減少し、試験された残油転化率範囲全体にわたり減少が達成された。
【0147】
図12は、減圧残油生成物カットのブルックフィールド粘度(300°Fで測定)の結果を示す。二元触媒システムの使用により粘度が有意に低下し、その改善は高い残油転化率で特に顕著であった。この場合、30ppmの分散触媒で有意な改善が達成された。
【0148】
実施例14〜19
実施例14〜19は、重油原料が975°F(524℃)の公称カットポイントを有するアサバスカ減圧残油(アサバスカVR)であったことを除いて、実施例1〜6と同じ装置および方法を用いて実施された。調整済み重油原料の調製方法は、実施例1〜6について記載した方法と同様であった。
【0149】
調整済み原料は、特定のパラメータを用いて操作される
図5のパイロットプラントシステムに供給された。実施例14〜19のそれぞれに用いたパラメータおよび対応する減圧残油生成物の品質結果を表5に示す。
【0151】
実施例14〜16は、不均一触媒を用いて、本発明における二元触媒システムを用いるように改良される前の沸騰床反応器をシミュレートした。実施例17〜19は、実施例14〜16と同じ不均一触媒と、分散硫化モリブデン触媒粒子とからなる二元触媒システムを用いた。原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、当該分散触媒によって提供されるモリブデン金属(Mo)の重量百万分率(ppm)での濃度として測定した。実施例14〜16の原料には分散触媒は含まれず(0ppmMo)、実施例17〜19の原料にはより高い50ppmMoの濃度で分散触媒は含まれた。
【0152】
実施例14および17では、6日間稼働し、試験の最後の3日間に、定常状態のデータとサンプルを採取した。残りの試験は、より短い期間で稼働した。実施例15および18では約3日間稼働し、最後の2日間に稼働データおよびサンプルを採取した。実施例17および19では約2日間のみ稼働し、データおよびサンプルを最終日に採取した。
【0153】
先の実施例と同様に、各試験からの減圧残油生成物の品質は、試験が定常状態にある間に分離器底部生成物のサンプルを採取し、ASTM D−1160方法を用いて実験室蒸留にかけ、減圧残油生成物のサンプルを得ることによって決定された。実施例14〜19では、減圧残油生成物は975°F(524℃)の公称カットポイントに基づいていた。
【0154】
実施例14〜16はベースラインの試験であり、当試験において、アサバスカVR原料をそれぞれ798°F(425.5℃)、814°F(434℃)および824°F(440℃)の温度および0.28hr
−1の空間速度で水素処理した結果、残油転化率(975°F+、%に基づく)はそれぞれ、72%、80%、および87%となった。実施例17〜19では、50ppmMoの濃度の分散触媒を伴う本発明の二元触媒システムを用いたことを除いて、実施例14〜16とそれぞれ同じ温度及び空間速度ならびに同等の残油転化率で稼働された。
【0155】
実施例17〜19の二元触媒システムは、アサバスカVR原料の実施例14〜16のベースライン試験と比較して、減圧残油生成物の品質において有意な改善をもたらした。
【0156】
図13は、975°F+減圧残油生成物カットのAPI比重の結果を示す。二元触媒システムの使用により、生成物の比重が有意に増加し(すなわち、生成物密度または比重が低下し)、より高い残油転化率でより大きな程度の改善を伴う。
【0157】
同様に、
図14は、減圧残油生成物の硫黄含有量の結果を示す。この場合もまた、二元触媒システムの使用による有意な改善(すなわち、硫黄含有量の減少)があり、改善度は残油転化率の増加とともに増加する。
【0158】
図15は、266°F(130℃)で測定した減圧残油のブルックフィールド粘度の結果を示す。粘度データは実施例14および15については利用できないので、この図では実施例16〜19のみを示す。このデータは、二元触媒システムの使用による生成物粘度の顕著な改善を示す。
【0159】
図16は、減圧残油カットのヘプタン不溶分(HI)含有量の結果を示す。ヘプタン不溶分はC
7アスファルテン含有量に類似している。粘度データと同様に、HI結果は実施例14および15については利用できない。実施例16〜19の結果は、二元触媒システムの使用によるHI含有量の有意な減少を示す。
【0160】
図17は、微小残留炭素(MCR)法によって測定した減圧残油生成物カットの残留炭素含有量の結果を示す。この場合も、実施例14および15についてのデータは利用できないが、実施例16〜19の結果は、二元触媒システムの使用によるMCR含有量の有意な減少を示す。
【0161】
実施例20〜21
実施例20および21は、典型的な減圧残油を燃料油の規格に適合させるのに必要な硫黄含有量およびカッターストックの量に関して、減圧残油の品質を改善することに付随する利点の更なる比較および説明を提供する。実施例20は、不均一系触媒を用いる従来式の沸騰床水素処理システムを稼働してウラル減圧残油(ウラルVR)原料から減圧塔底(VTB)生成物を生成する場合の実際の結果に基づく。実施例21は、不均一触媒および分散金属硫化物触媒粒子を含む二元触媒システムを用いて改良された沸騰床水素処理システムを稼働してウラルVR原料から改善された品質の減圧塔底(VTB)生成物を生成する場合の実際の結果に基づく。比較結果を表6に示す。
【0163】
実施例20および21から、本発明の二元触媒システムを用いることにより、規定の燃料油硫留分の基準に沿ってVTBをもたらすのに必要なカッターストックの量を減らすことができることが分かる。この場合、カッターストックの減少率は88%であった。カッターストックは定義上高品位留分であるため、VTBよりも販売価値が高い。燃料油を規格範囲内に収めるために必要なカッターストックの量を減らすことは、大幅なコスト削減を意味する。それはまた、水素処理システム全体の効率的な稼働のためにカッターストックが必要とされるプロセス全体の負担を軽減する。
【0164】
実施例20および21は、2つの実施例間において残油転化率の増加についての有意性/利益を強調するものである。実施例21は、残油転化率および底部生成物の品位の両方がより高いことから、カッターストックの必要量につき倍の利点がある。カッターストックの減少の一部は、(より高い残油転化率のために)VTB生成物量の全体的な減少によってもたらされ、また一部は、生成されるVTBのより高い品質によってもたらされる。両場合において、VTB生成物を希釈するのに必要とされるカッターストック量が減少する。
【0165】
本発明は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、その他の特定の態様で実施することができる。上記実施形態は、あらゆる点において例示的なものであって限定的なものではないと考えるべきである。したがって、本発明の範囲は前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲と均等の意味および範囲内に入るすべての変更がその範囲に含まれるべきである。