特許第6983491号(P6983491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6983491レーザ印字用多層積層フィルム並びにそれよりなる包装体及び印字体、並びにこれらに用いられるレーザ印字用インキ組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983491
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】レーザ印字用多層積層フィルム並びにそれよりなる包装体及び印字体、並びにこれらに用いられるレーザ印字用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/28 20060101AFI20211206BHJP
   B41M 5/30 20060101ALI20211206BHJP
   B41M 5/46 20060101ALI20211206BHJP
   B41M 5/323 20060101ALI20211206BHJP
   B41M 5/26 20060101ALI20211206BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20211206BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20211206BHJP
【FI】
   B41M5/18 Q
   B41M5/18 102Z
   B41M5/26 S
   B65D65/40 D
   C09D11/03
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-74985(P2016-74985)
(22)【出願日】2016年4月4日
(65)【公開番号】特開2017-185657(P2017-185657A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年2月25日
【審判番号】不服2021-2294(P2021-2294/J1)
【審判請求日】2021年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文
(72)【発明者】
【氏名】松嵜 弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克伸
【合議体】
【審判長】 里村 利光
【審判官】 下村 一石
【審判官】 関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−126142号公報
【文献】 特開2007−55110号公報
【文献】 特開2012−131885号公報
【文献】 特開2010−47681号公報
【文献】 特開平11−105425号公報
【文献】 特開昭61−287792号公報
【文献】 特開2002−52828号公報
【文献】 特開2002−225435号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/26
B41M 5/28- 5/34
B41M 5/40- 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層、印刷層、及びシーラント層からなるレーザ印字用多層積層フィルムであって、
該印刷層は、レーザ光により印字可能なインキ組成物からなる層であり、
該レーザ光は、YAGレーザ、YVO4レーザ又はファイバレーザであり、
該インキ組成物は、少なくともチタン酸化物とバインダ樹脂とを含む白色インキからなり、
該印刷層の総厚は、インキ組成物の塗布量が乾燥後の総厚として1.5〜4.5μmであり、
該バインダ樹脂は、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂を単独で、または2種以上を混合した樹脂であって吸熱ピーク観測量の結晶性成分を含む樹脂からなり、
該白色インキは、示差走査熱量分析装置で測定される昇温時の吸熱曲線において、50〜165℃の範囲に1又はそれ以上の吸熱ピークを有し、
さらにJIS−K7121及び7122に準拠して、加熱速度10℃/分で昇温させて測定される吸熱曲線から求められるそれぞれのピーク温度(Tm)における結晶融解熱量を測定したときに、50〜165℃の範囲に観察される全吸熱ピークの結晶融解熱量の合
計(ΔHmt)が、0.1〜1000mJ/mgである、
上記レーザ印字用多層積層フィルム。
【請求項2】
前記バインダ樹脂が、結晶性成分を含むウレタン樹脂である、請求項1に記載のレーザ
印字用多層積層フィルム。
【請求項3】
前記インキ組成物が、前記白色インキに加えてさらに発色インキを含み、該発色インキ
は、レーザ光の照射により発色する発色材料とバインダ樹脂とを含む、請求項1または2に記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
【請求項4】
前記発色材料が、ビスマス系化合物を含む、請求項3に記載のレーザ印字用多層積層フ
ィルム。
【請求項5】
前記ビスマス系化合物が、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス及び硝酸ビ
スマスからなる群より選択される1種類又はそれ以上の化合物である、請求項4に記載の レーザ印字用多層積層フィルム。
【請求項6】
前記発色インキが、金属酸化物及び複合酸化物からなる群より選択される1種類又はそれ以上の化合物を含む、請求項3〜5のいずれか1項に記載のレーザ印字用多層積層フィ
ルム。
【請求項7】
前記発色インキが、銅系化合物及びモリブデン系化合物からなる群より選択される1種
類又はそれ以上の化合物を含む、請求項3〜6のいずれか1項に記載のレーザ印字用多層 積層フィルム。
【請求項8】
前記発色材料が、アンチモンドープ酸化スズを含む、請求項3〜7のいずれか1項に記
載のレーザ印字用多層積層フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザ印字用多層積層フィルムからなる包装体。
【請求項10】
レトルト処理用である、請求項9に記載の包装体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザ印字用多層積層フィルム又は請求項9また
は10に記載の包装体に、YAGレーザ、YVO4レーザ又はファイバレーザのレーザ光を照射して印字画像を形成する印字体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザにより印字できるレーザ印字用多層積層フィルム並びにそれよりなる包装体及び印字体、並びにこれらに用いられるレーザ印字用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、YAGレーザ、YVO4レーザ等のレーザ光を照射することにより、フィルム上に印字することが知られている。そして、これらのレーザにより印字できるレーザ印字用多層積層フィルムとしては、レーザ光照射により変色する特殊インキを中間層(発色層)として使用するフィルムが知られている(特許文献1)。
【0003】
これらの特殊インキは非常に高価であるため、基材上の印字したい部分のみに、該特殊インキ層を予め設けることが行われているが、その場において位置合わせが難しく、印字位置を容易に変更することができない。また、印字線が細く、読み取り難いという欠点がある。
一方、通常のインキも、レーザ光の照射により若干変色することが分かっている。したがって、このような通常インキを中間層(発色層)として使用することも知られている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、この方法においては、強力なレーザ光の照射によって中間層を気化させて、基材を破断することなく変形させることにより印字部を形成するものである。すなわち、十分な視認性を得るために、レーザ照射部分の中間層が、その深さ方向(フィルムの一方の表面から他方の表面に向かう方向)の全厚さにわたって、全て蒸散するまでレーザ出力を高める必要がある。したがって、強力なレーザ光の照射によって、ベースとなるフィルムに穴が開くなどの問題がある。また、強力なレーザ光を照射する必要があることから印字スピードが遅いという問題がある。
【0005】
一方、多層積層フィルムの層間ラミネート強度を弱めて、中間層の上下での層間剥離を起こし易くすると、印字線が太くなって視認性が高まることが見出されているが、このような多層積層フィルムは、その用途が限定されるため、より汎用性の高いレーザ印字用フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−55110号公報
【特許文献2】特開2007−217048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多種多様な用途に適用可能な包装材料において、付加情報を印刷する上での従来の問題を解決するために、レーザ光照射により変色する特殊インキを必須とせず、安価な材料から容易に製造可能であり、印字位置の変更が容易であって、且つ、ベースとなるフィルムにダメージを与えない程度の低出力のレーザ光を照射することによって、視認性の高い印字線が得られる、レーザ印字用多層積層フィルム、並びにそれよりなる包装体及び印字体、並びにこれらに用いられるレーザ印字用インキ組成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々研究の結果、レーザ印字用印刷インキとして、結晶性成分を含む白
色インキが優れた性質を示し、これを基材層上に印刷することにより、層間のラミネート強度を弱める必要なしに、またレーザ光の出力を高める必要なしに、視認性の高い鮮明な印字画像が形成できることを初めて見出した。
すなわち、少なくとも、基材層、印刷層、及びシーラント層からなるレーザ印字用多層積層フィルムであって、該印刷層は、レーザ光により印字可能なインキ組成物からなる層であり、該インキ組成物は、少なくともチタン酸化物とバインダ樹脂とを含む白色インキを含み、該バインダ樹脂は、結晶性成分を含む上記レーザ印字用多層積層フィルムが、上記の目的を達成することを見出したものである。
【0009】
そして、本発明は、以下の点を特徴とする。
(1)少なくとも、基材層、印刷層、及びシーラント層からなるレーザ印字用多層積層フィルムであって、該印刷層は、レーザ光により印字可能なインキ組成物からなる層であり、該インキ組成物は、少なくともチタン酸化物とバインダ樹脂とを含む白色インキからなり、該バインダ樹脂は、結晶性成分を含む、上記レーザ印字用多層積層フィルム。
(2)前記白色インキが、示差走査熱量分析装置で測定される昇温時の吸熱曲線において、少なくとも1つの吸熱ピークを有する、上記(1)に記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(3)前記少なくとも1つの吸熱ピークのピーク温度が、50〜165℃の範囲である、上記(2)に記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(4)前記バインダ樹脂が、結晶性成分を含むウレタンアクリレートである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(5)前記インキ組成物が、前記白色インキに加えてさらに発色インキを含み、該発色インキは、レーザ光の照射により発色する発色材料とバインダ樹脂とを含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
【0010】
(6)前記発色材料が、ビスマス系化合物を含む、上記(5)に記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(7)前記ビスマス系化合物が、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス及び硝酸ビスマスからなる群より選択される1種類又はそれ以上の化合物である、上記(6)に記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(8)前記発色インキが、金属酸化物及び複合酸化物からなる群より選択される1種類又はそれ以上の化合物を含む、上記(5)〜(7)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(9)前記発色インキが、銅系化合物及びモリブデン系化合物からなる群より選択される1種類又はそれ以上の化合物を含む、上記(5)〜(8)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(10)前記発色材料が、アンチモンドープ酸化スズを含む、上記(5)〜(9)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルム。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルムからなる包装体。
(12)レトルト処理用である、上記(11)に記載の包装体。
(13)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のレーザ印字用多層積層フィルム又は上記(11)もしくは(12)に記載の包装体に、YAGレーザ、YVO4レーザ又はファイバレーザのレーザ光の照射により形成された印字画像を有する印字体。
(14)少なくとも、チタン酸化物と、結晶性成分を含むバインダ樹脂とからなる、レーザ印字用インキ組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレーザ印字用多層積層フィルムは、レーザ印字のための特殊インキを用いる必要がなく、包装フィルムの印刷模様層を印刷する時の下地として汎用的に使用されている白色インキを、レーザ光により印字可能な印刷層を形成するためのインキ組成物として用いることができる。したがって、安価な材料から製造することができ、また、フィルム製造工程において、レーザ印字のためのさらなる層を設ける必要がない。
また、白色インキは、従来のレーザ印字のための特殊インキに比べて安価であるため、印字を施したい部分だけでなく、白色インキの本来の用途に即して、基材上の全面又は広範囲に、例えば絵柄印刷層の下地等を兼ねて印刷することもできる。これにより、印字時の位置合わせが不要であり、印字位置を変更することも可能である。
特に、結晶性成分を含む白色インキは、レーザ光を基材層側から照射すると、基材層と印刷層との界面に沿って炭化による変色域を形成する傾向があり、且つ、発色が明瞭であることが、この度見出された。そのため、本発明のフィルムは、レーザ出力を高める必要なしに、また、フィルムのラミネート強度を弱める必要なしに、鮮明な印字画像を形成することができる。
【0012】
さらに、本発明の印字体は、レーザ印字画像が、そのフィルム表面ではなく、内部、すなわち基材層とシーラント層との間に施される。したがって、この画像は、耐摩耗性に優れることから擦れ等による消失を効果的に防止することができ、且つ、その付加情報の変更を防止することができる。
これらの利点から、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムは、多種多様な包装用途、例えばレトルト包材のような過酷な加工処理が施される包装材料としても好適に使用することができ、製造年月日、メーカー、品名、賞味期限、生産地等の可変情報をレーザ印字画像として印字することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のレーザ印字用多層積層フィルムの層構成について、その一例を示す概略的断面図である。
図2】本発明のレーザ印字用多層積層フィルムの層構成について、別の一例を示す概略的断面図である。
図3】本発明のレーザ印字用多層積層フィルムの層構成について、別の一例を示す概略的断面図である。
図4】本発明の図1に示すレーザ印字用多層積層フィルムを使用し、これにレーザ光を照射してレーザ印字画像を形成した印字体の層構成について、その一例を示す概略的断面図である。
図5】実施例で用いた白色インキAのDSC吸熱曲線のグラフである。
図6】比較例で用いた白色インキBのDSC吸熱曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るレーザ印字用多層積層フィルム、並びにそれを用いた包装体及び印字体の層構成について例示して、図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムの層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
図1に示されるように、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムは、基材層1、印刷層2及びシーラント層3からなる構成を基本とする。ここで、印刷層2は、レーザ光により印字可能なインキ組成物を、基材層1上に、全面に又は部分的に印刷してなる層であって、レーザ光を照射することによって、炭化して発色する層である。
【0016】
別の態様においては、図2に示されるように、印刷層2は、それぞれ同じか又は異なるインキ組成物からなる印刷層を、2層又はそれ以上積層した構成であってもよい。
ここで、印刷層2を形成するインキ組成物は、少なくともチタン酸化物と、結晶性成分を含むバインダ樹脂とを含む白色インキである。
また、印字画像の視認性をさらに高めるために、シーラント層3と印刷層2との間に、白インキを印刷してなる下地層を設けてもよい。ここで、下地となる白インキは、結晶性
成分を含んでも含まなくてもよい。
【0017】
さらに別の態様においては、図3に示されるように、シーラント層3と印刷層2との間に、バリア層4を設けてもよい。ここで、バリア層4は、例えばガスバリア性フィルム、アルミニウム箔、及び延伸ポリアミド系樹脂フィルム等であってよく、これらを任意の積層方法、例えばドライラミネート法等により積層することができる。
必要に応じて、各フィルムの表面に、積層前に所望の表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を施すことができる。
またさらに、印刷層とバリア層又はシーラント層との間に、例えば、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層等を設けてもよい。
【0018】
図4に示されるように、本発明の印字体は、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムに、YAGレーザ、YVO4レーザ又はファイバレーザを基材層側から照射することにより製造されるものであって、印刷層の表面に、炭化したインキ組成物が広がった印字部を有する。
【0019】
(基材層)
本発明において、基材層は、その使用目的、用途等に応じた任意の樹脂フィルムを使用することができる。
具体的には、基本素材となり、更に、印字後は、表面保護層を構成し、かつ、レーザ印字画像等を透視し得るものであることから、機械的、物理的、化学的等において優れた強度を有し、耐突き刺し性等に優れ、その他、耐熱性、防湿性、透明性等に優れた樹脂フィルムを使用することができる。
【0020】
本発明において、このような樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、各種ナイロン樹脂等のポリアミド樹脂、セルロース樹脂等の各種の樹脂フィルムから選択することができる。
なお、上記の各種の樹脂1種ないしそれ以上を使用し、製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離型性、難燃性、抗菌性、電機的特性、強度、ラミネート強度、その他等を改良、改質する目的で、種々の配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
【0021】
上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、その他等を使用することができ、更に、改質用樹脂等も使用することができる。
【0022】
また、必要に応じて、いずれかの表面に、積層前に所望の表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を施すことができる。
また、印刷層と基材層との間に、例えば、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層等を設けてもよい。
上記の樹脂フィルムとしては、未延伸フィルム、あるいは、一軸方向又は二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれでも使用することができる。
【0023】
本発明において、上記の各種の樹脂フィルムとしては、例えば、上記の各種の樹脂1種
類ないしそれ以上を使用し、押出法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の製膜法を用いて、上記の各種の樹脂を単独で製膜化する方法、更には2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法により、各種の樹脂のフィルムを製造し、更に、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して一軸方向又は二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれのものでも使用することができる。
【0024】
また、本発明において、その樹脂フィルムの厚さとしては、強度、耐突き刺し性等について、必要最低限に保持され得る厚さであればよく、厚すぎると、コストを上昇するという欠点もあり、逆に、薄すぎると、強度、耐突き刺し性等が抵下して好ましくないものである。
本発明においては、上記のような理由から、10〜100μm、好ましくは10〜50μmが望ましい。
本発明において、基材層を形成する樹脂フィルムとしては、PETフィルム、PETフィルムに透明蒸着層を形成したもの、及び、各種ナイロンフィルム等を特に好適に用いることができる。これらの樹脂フィルムは、特に包装材料としての用途において、安定性、加工性、コスト、耐熱性及び耐薬品性等の面で優れており、また、後述の印刷層として使用されるインキ組成物を積層する際に、該印刷層との好ましい密着性を得ることができる。
【0025】
(印刷層)
本発明において、印刷層は、レーザ光により印字可能なインキ組成物を、基材層をなす樹脂フィルム上に印刷や塗布等により積層して設けられる層である。
ここで、該インキ組成物は、チタン酸化物(白色顔料)及びバインダ樹脂を含む白色インキからなり、その意味では、汎用の印刷下地層として用いられているインキである。
【0026】
本発明においては、汎用の白色インキの中でも特に、結晶性成分を含むバインダ樹脂を用いた白色インキが使用される。これにより、レーザ印字用印刷インキとして優れた性質、すなわち、基材層に対して高い密着性を示しながら、一方で、レーザ照射により、基材層との界面に沿って明瞭な変色域を形成する傾向を示す。また、レーザのエネルギーを吸収して結晶性成分が軟化(融解)することにより、基材層へのダメージが緩和され、基材表面におけるピンホールの発生等を防ぐことができる。
【0027】
一般的に、白色インキは、非晶性樹脂のみからなるバインダ樹脂を用いることが多く、示差走査熱量計(DSC)による吸熱曲線において、非晶性樹脂のガラス転移による緩やかなカーブのみが観測され、吸熱ピークが観察されないことが多い。しかしながら、バインダ樹脂中に、吸熱ピークが観測されるのに十分な量の結晶性樹脂が存在すると、上述のレーザ印字用印刷インキとしての好適な性質を発揮する。
【0028】
本発明において、バインダ樹脂としては、白色インキのバインダとして従来公知の樹脂、具体的には、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で、または2種以上混合して使用される。特に、明瞭な印字画像を形成し、且つ、ポリエステルフィルムやポリアミドフィルム等の各種基材フィルムと良好な密着性を示す点において、結晶性成分を含むウレタンアクリレートが好適に用いられる。
【0029】
バインダ樹脂中の結晶性成分の量としては、示差走査熱量計による測定時に、昇温時の吸熱曲線において、少なくとも1つの吸熱ピークを形成するのに十分な量であればよい。
より詳細には、本発明において好適に用いられる白色インキは、DSC吸熱曲線において、50〜165℃の範囲に、1又はそれ以上の吸熱ピークを有する。
また、好ましくは、それぞれのピーク温度(Tm)における結晶融解熱量(ΔHm〔単
位mJ/mg〕)を測定したときに、50〜165℃の範囲に観察される全吸熱ピークの結晶融解熱量の合計(ΔHmt)が、0.1〜1000mJ/mgであり、より好ましくは、1〜100mJ/mgである。結晶融解熱量の合計(ΔHmt)が0.1mJ/mg未満であると、白色インキ中の結晶量が不足するため、基材と印刷層とのラミネート強度によっては、線幅が細く発色の薄い印字画像となり、視認性が損なわれ得る。一方、結晶融解熱量の合計(ΔHmt)が1000mJ/mgを超えると、結晶量が多過ぎることにより、インキの塗膜が硬くなり好ましくない。
【0030】
本発明において、示差走査熱量測定における吸熱ピーク温度(Tm)は、JIS−K7121及び7122に準拠して、加熱速度10℃/分で昇温させて測定される吸熱曲線から求められる。また、結晶融解熱量(ΔHm)は、吸熱ピーク面積から求められる。
白色インキ中の結晶性成分量は、白色インキ中のバインダ樹脂の割合等に応じて、バインダ樹脂の原料モノマーの種類を選択することにより、また、重合度や結晶性オリゴマーの混入量を制御することにより、また、ミキシング工程における発熱の制御、並びに、重合工程における加熱及び冷却により、当業者が適宜調整することができる。例えば、本発明においてバインダ樹脂として好適に用いられるウレタンアクリレートについては、原料(アルコール、アクリレート及びイソシアネート)の一部に、立体障害の小さな分子鎖を有する化合物を用いること等によって、結晶性成分の割合を高めることができる。
【0031】
本発明において、白色インキ中のチタン酸化物の含有量は、5〜90質量%の範囲で用いることができ、20〜50質量%含有することが好ましい。チタン酸化物の含有量が、5質量%未満では、レーザ光の照射により基材層と印刷層との間に十分な変色域を形成し難くなり、鮮明な印字が得られ難くなる。90質量%以上となると、白色インキのチタン酸化物の含有量が多くなりすぎ、基材層との十分な密着性が付与できない。
白色インキ中のバインダ樹脂の含有量は、5〜50質量%の範囲で用いることが好ましい。5質量%未満では、インキ全体に対する結晶性成分の割合が少なく、基材との十分な密着性が低下し、レーザ光の照射により基材層と印刷層との剥がれが生じやすく、鮮明な印字が得られ難い。50質量%以上となると、変色域の形成がし難くなり、かつ白色インキの金属酸化物の含有量が少なく、レーザ光の照射により十分な変色域が形成し難くなる。
【0032】
必要に応じて、白色インキ中に、任意の添加剤を添加してもよい。この例としては、滑材、ブロッキング防止剤、充填剤、硬化剤等を添加することが挙げられる。その他、顔料分散剤、消泡剤、レベリング剤、ワックス、シランカップリング剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤、可塑剤、難燃剤、顕色剤等の各種添加剤を添加することもできる。これら添加剤は、特に印刷適性、印刷効果等の改善を目的に使用され、その種類、使用量は、印刷方法、印刷基材、印刷条件により適宜選択できる。
【0033】
本発明において、印刷層を形成するインキ組成物は、上記白色インキに加えて、必要に応じて、さらに、バインダ樹脂とレーザ光の照射により発色する発色材料とからなる発色インキを含むものであってよい。
このようなバインダ樹脂としては、従来公知の樹脂、具体的には、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。
【0034】
また、発色材料としては、顔料、染料、顔料以外の無機化合物等が挙げられる。具体的には、各種有機顔料、珪藻土、タルク、クレー等の無機顔料、ロイコ染料、ビスマス、鉄、亜鉛、アンチモン、スズ、ニッケル、銅、モリブデン等の金属単体、これらの金属塩、金属水酸化物、金属酸化物等が挙げられる。積層フィルムの用途との関連で、耐熱水性の観点からは、無機化合物を用いることが望ましい。
【0035】
特に、ビスマス系化合物、例えば酸化ビスマス、硝酸ビスマス、オキシ硝酸ビスマス等の硝酸ビスマス系、塩化ビスマス等のハロゲン化ビスマス系、オキシ塩化ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、クエン酸ビスマス、水酸化ビスマス、チタン酸ビスマス、次炭酸ビスマス等は、低出力のレーザ光により発色する発色材料として好ましい。なかでも、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス及び硝酸ビスマスは特に好適に使用される。
【0036】
また、アンチモンドープ酸化スズは、淡い色相であって、且つ、レーザ光の照射により良好な発色を示すため、白色インキとの併用において好適に用いることができる。
【0037】
発色インキ中の発色材料の含有量は、1〜50質量%であり、より好ましくは1〜30質量%である。発色材料の含有量が少な過ぎると、発色を補う効果が得られない。逆に多過ぎると、発色材料の増量に見合った視認性の向上は得られず、むしろ、コストアップや印刷層自体の着色を導くため、好ましくない。
発色インキは、バインダ樹脂及び発色材料に加えてさらに、発色効率を挙げるための1種又はそれ以上の無機化合物を含んでもよい。このような無機化合物としては、金属酸化物、例えば、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化ネオジム、マイカ、ゼオライト、カオリナイト、銅系化合物、モリブデン系化合物、銅・モリブデン複合酸化物、銅・タングステン化合物、金属塩等が挙げられる。
【0038】
銅系化合物としては、例えば、銅、酸化銅、ハロゲン化銅、ギ酸、クエン酸、サリチル酸、ラウリル酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸銅、リン酸銅、ヒドロキシリン酸銅等を好適に用いることができる。
モリブデン系化合物として、モリブデン、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、塩化モリブデン、モリブデン酸金属(金属:K、Zn、Ca、Ni、ビスマス、Mg等)を好適に用いることができる。
金属塩として、硫酸、硝酸、シュウ酸、炭酸等の酸とバリウム、コバルト、マグネシウム、ニッケル、鉄等の金属との塩を用いることができる。
【0039】
発色インキ中のこれらの無機化合物の含有量は、好ましくは5〜65重量%である。5重量%より少ないとその効果が得られない。逆に、65重量%を越えると、無機化合物の増加によりコストアップや、印刷層の強度低下を導くこと等から好ましくない。
【0040】
また、本発明において、印刷層は、それぞれ同じかまたは異なるインキ組成物からなる印刷層を、2層またはそれ以上積層した構成であってもよい。
印刷層の総厚としては、インキ組成物の塗布量が、乾燥後の総厚として1.5〜4.5μ、より好ましくは2.7〜3.3μであることが好ましい。これよりも印刷層が厚いと、フィルムがレーザ照射によるダメージを受け易くなる。逆に、これよりも薄いと、印字画像が不明瞭になり易い。
【0041】
(シーラント層)
本発明において、シーラント層は、シーラント層として慣用の熱可塑性樹脂からなる層、または該樹脂のフィルムからなる層である。
該熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等の樹脂を、単独で、または2種又はそれ以上を混合して使用することができる。該シーラント層を形成する熱可塑性樹脂中には、滑剤、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、
着色剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0042】
包装材料としての用途において、内容品と接する最内層となるため、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィンが好適に使用される。
シーラント層の層厚は、レーザ印字用多層積層フィルムの用途に応じて適宜に設定することができるが、好ましくは3〜100μmであり、更に好ましくは5〜80μmである。
【0043】
必要に応じて、印刷層とシーラント層との間に、例えば、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層等を設けてもよい。また、シーラント層を積層する前に、任意の表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を施すことができる。
【0044】
シーラント層の積層方法は、特に限定されないが、シーラント層を形成する熱可塑性樹脂を、印刷層上に押出コーティングすることにより積層することができる。また、該熱可塑性樹脂からなるフィルムを、ドライラミネートまたはサンドイッチラミネート法等により積層してもよい。
【0045】
ドライラミネート用接着剤としては、ウレタン系接着剤、ビニル系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤等を用いることができる。また、サンドイッチラミネート用接着性樹脂としては、任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0046】
本発明においては、レーザ印字用多層積層フィルムの用途に応じて、印刷層とシーラント層との間に、任意の機能層、例えばガスバリア性フィルム、アルミニウム箔、及び延伸ポリアミド系樹脂フィルム等を任意の積層方法、例えばドライラミネート法等により設けてもよい。
【0047】
(レーザ光による印字)
本発明において、印字は、YAG(イットリウム(Y)・アルミニウム(A)・ガーネット(G))レーザ光線(波長=1064nm)、YVO4(イットリウム・バナデート)レーザ光線(波長=1064nm)、又はファイバレーザ光線(例えば、波長=1090nm)を用いて行うことが好ましい。これらのレーザは、透明体を透過する性質を有し、その性質を利用し、さらに、印字時の煙等の発生が抑えられ、また、発色濃度やフィルムに与える影響等を調整することができる。その結果、レーザ印字画像を形成しても穴あき等がない極めて鮮明なレーザ印字画像を形成することができる。
【0048】
これらのレーザを、基材層側から照射することにより、低出力で、フィルムに与えるダメージを最小限に抑えつつ、印刷層のインキ組成物をガス化及び炭化させて、基材層と印刷層との間に空隙を形成し、印刷層表面に、レーザ印字画像を効率よく形成することができる。
【0049】
本発明において、このような印字を行うパルス条件としては、例えば、YVO4レーザ機(キーエンス MD−V9600)にて平均出力0.8〜5W、より好ましくは1.2〜2W、Qスイッチ周波数10〜30KHz、スキャンスピード300〜4000mm/s、より好ましくは1500〜4000mm/sのパルス条件が使用される。この条件下で印字を行うことにより、レーザ印字用多層積層フィルムに穴をあけることなく、高速印字が可能であり、且つ、明瞭な印字画像が得られる。
【0050】
(レーザ光による印字体)
本発明のレーザ印字用多層積層フィルムへの印字工程において、レーザの平均出力を低く設定しても、または、スキャンスピードを速く設定しても、鮮明な印字画像、例えば太くて明瞭な文字を印字することができる。
【0051】
本発明の印字体において、レーザのスポット照射により、基材層と印刷層との間に形成される変色域の直径は、望ましくは40μm〜1mm、より好ましくは400μm〜1mm、さらに好ましくは500μm〜1mmである。この変色域に炭化したインキ成分が広がって、明瞭な印字画像が得られる。変色域の直径がこれよりも小さいと、印字画像の欠損や、線幅の細りが発生し、視認性を欠く。逆にこれよりも大きいと、画像がつぶれる等
のため好ましくない。
【0052】
本発明において、レーザ印字画像は、文字、数字、記号、図柄等を含むが、これらに限定されない。
また、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムに印字して得られる印字体は、各種包装材料、ラベル類、カード類等に適用することができる。特に、本発明のフィルムは、優れたレーザ印字適性だけでなく、良好な層間ラミネート強度を有するため、高温高圧処理に付されるレトルト包材としても、好適に使用することができる。
本発明のレーザ印字用多層積層フィルムにおいて、印刷層は、印刷下地として機能する白色インキからなってよい。したがって、該印刷層を下地として、レーザ印字を施さない部分に、所望のカラー印刷層を設けることもできる。
【0053】
(包装体)
上記のレーザ印字用多層積層フィルムからなる包装体は、該フィルムからなる積層材を使用して、この積層材を二つ折にし、そのシーラント層の面を対向させて重ね合わせ、その端部をヒートシールして筒状の包装体を形成し、次いで底部をシールして内容物を充填し、さらに天部をシールすることにより、製造することができる。
【0054】
その製袋方法としては、上記のような積層材を、折り曲げるかあるいは重ね合わせて、その内層の面を対向させ、さらにその周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の包装用積層レトルト体を製造することができる。上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を制限するものではない。
本実施例及び比較例においては、以下に示す配合の白色インキ、発色インキ及び硬化剤を使用した。
【0056】
<白色インキ>
● 白色インキA(実施例):酸化チタン40質量%、結晶性ウレタンアクリレート10質量%、混合溶剤50質量%。DSC吸熱曲線において、55〜80℃の間に2点の吸熱ピーク(実測値:60.4℃及び74.7℃)を示し、それぞれの結晶融解熱量は、2.85mJ/mg及び0.77mJ/mgであった。DSC吸熱曲線のグラフを図5に示す。
● 白色インキB(比較例):酸化チタン40質量%、非晶性ウレタンアクリレート10質量%、混合溶剤50質量%。DSC吸熱曲線において、非晶性樹脂のガラス転移による緩やかなカーブのみが観測され、吸熱ピークは観察されなかった。DSC吸熱曲線のグラフを図6に示す。
● 白色インキC(比較例):酸化チタン50質量%、非晶性ウレタンアクリレート10質量%、混合溶剤40質量%。DSC吸熱曲線において、非晶性樹脂のガラス転移による緩やかなカーブのみが観測され、吸熱ピークは観察されなかった。
なお、混合溶剤としては、メチルエチルケトン:酢酸n−プロピル:イソプロピルアルコール=3:5:2(質量比)を用いた。
【0057】
<発色インキ>
● 発色インキA:ウレタン系バインダ樹脂中に酸化ビスマス5質量%及び酸化チタン15質量%を含む。
● 発色インキB:ウレタン系バインダ樹脂中にアンチモンドープ酸化スズ10質量%を含む。
【0058】
<硬化剤>
● 硬化剤:イソシアネート系硬化剤
【0059】
[実施例1]
厚さ15μmの延伸ナイロンフィルムのコロナ処理面上に、グラビア印刷機を用いて、インキ組成物(白色インキA)を塗布厚み3μm(乾燥時)となるように塗布し、印刷層を設けた。
次いで、該印刷層上に、2液硬化型ウレタン接着剤(塗布量3g/m2(乾燥時))を介して、厚さ60μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネートして、シーラント層を設け、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
この積層フィルムの層構成は、基材層(延伸ナイロンフィルム)/印刷層/接着剤/シーラント層(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム)である。
【0060】
[実施例2]
インキ組成物として、白色インキAを100質量部に対し、硬化剤3質量部をブレンドした以外は、実施例1と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0061】
[実施例3]
厚さ15μmの延伸ナイロンフィルムのコロナ処理面上に、グラビア印刷機を用いて、インキ組成物(白色インキA)を塗布厚み1.5μm(乾燥時)となるように塗布して印刷層を設けた後、さらに、白色インキAを塗布厚み1.5μm(乾燥時)となるように塗布して、下地層を設けた。
次いで、該下地層上に、2液硬化型ウレタン接着剤(塗布量3g/m2(乾燥時))を介して、厚さ60μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネートして、シーラント層を設け、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0062】
[実施例4]
インキ組成物として、白色インキAを100質量部に対し、硬化剤3質量部をブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0063】
[実施例5]
インキ組成物として、白色インキAを95質量部に対し、発色インキAを5質量部ブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0064】
[実施例6]
インキ組成物として、白色インキAを95質量部に対し、発色インキAを5質量部及び
硬化剤3質量部をブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0065】
[実施例7]
インキ組成物として、白色インキAを80質量部に対し、発色インキAを20質量部ブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0066】
[実施例8]
インキ組成物として、白色インキAを80質量部に対し、発色インキAを20質量部及び硬化剤3質量部をブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0067】
[実施例9]
インキ組成物として、白色インキAを95質量部に対し、発色インキBを5質量部ブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0068】
[実施例10]
インキ組成物として、白色インキAを95質量部に対し、発色インキBを5質量部及び硬化剤3質量部をブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0069】
[実施例11]
インキ組成物として、白色インキAを80質量部に対し、発色インキBを20質量部ブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0070】
[実施例12]
インキ組成物として、白色インキAを80質量部に対し、発色インキBを20質量部及び硬化剤3質量部をブレンドした以外は、実施例3と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0071】
[実施例13〜24]
基材層として厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを用いた以外は、実施例1〜12と同様にして、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを製造した。
【0072】
[実施例25〜26]
基材層として厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを使用し、このコロナ処理面上に、グラビア印刷機を用いて、実施例1〜2と同様にしてインキ組成物を塗布し、印刷層を設けた。
次いで、該印刷層上に、2液硬化型ウレタン接着剤(塗布量3g/m2(乾燥時))を介して、厚さ7μmのアルミニウム箔(バリア層)及び厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(シーラント層)を順次積層し、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
この積層フィルムの層構成は、基材層(PETフィルム)/印刷層/接着剤/バリア層(アルミニウム箔)/シーラント層(無延伸ポリプロピレンフィルム)である。
【0073】
[実施例27〜36]
基材層として厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを使用し、このコロナ処理面上に
、グラビア印刷機を用いて、実施例3〜12と同様にしてインキ組成物及び白色インキAを塗布し、印刷層及び下地層を設けた。
次いで、該下地層上に、2液硬化型ウレタン接着剤(塗布量3g/m2(乾燥時))を介して、厚さ7μmのアルミニウム箔(バリア層)及び厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(シーラント層)を順次積層し、本発明のレーザ印字用多層積層フィルムを得た。
この積層フィルムの層構成は、基材層(PETフィルム)/印刷層/下地層/接着剤/バリア層(アルミニウム箔)/シーラント層(無延伸ポリプロピレンフィルム)である。
【0074】
[比較例1〜6]
インキ組成物として、白色インキBを使用した以外は、実施例1、2、13、14、25及び26と同様にして、レーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0075】
[比較例7〜12]
インキ組成物として、白色インキCを使用した以外は、実施例1、2、13、14、25及び26と同様にして、レーザ印字用多層積層フィルムを得た。
【0076】
[評価]
上記実施例1〜36及び比較例1〜12で得られた多層積層フィルムについて、下記試験により、ラミネート強度、印字線の視認性、耐ピンホール性、及びレトルト適性を評価した。
【0077】
<ラミネート強度>
基材層と印刷層との間のラミネート強度を、JIS K 6854に従って、引張試験装置(テンシロン)を用いて引張速度50mm/分、90度方向、試料幅15mmで測定した。
【0078】
<印字線の視認性>
各多層積層フィルムに、下記条件下で、基材層側からファイバレーザ光(レーザパワー30%及び60%)を照射し、レーザ印字線を形成して印字体を得た。得られた印字線について、着色線幅及び着色濃度を観察した。
(ファイバレーザ照射条件)
実施例1〜12、比較例1〜2及び7〜8(基材が延伸ナイロンフィルム):ファイバレーザ機(パナソニックデバイスSUNX(株)製 LP−Z250、波長1060nm)、スキャンスピード2000mm/分、印字パルス周期40μs
実施例13〜36、比較例3〜6及び9〜12(基材がPETフィルム):ファイバレーザ機(パナソニックデバイスSUNX(株)製 LP−Z250、波長1060nm)、スキャンスピード9000mm/分、印字パルス周期20μs
【0079】
<耐ピンホール性>
実施例26、28、30、32、34及び36、並びに比較例6及び12の多層積層フィルムについて、上記ファイバレーザで、レーザパワー30%で印字した印字表面に、エージレスシールチェック液をスプレー塗布し、表面の染色液をふき取った後、印字部への液の染み込みの有無を調べた。
【0080】
<レトルト適性>
実施例26、28、30、32、34及び36、並びに比較例6及び12の多層積層フ
ィルムをそれぞれ2枚用意し、シーラント層同士を重ね合せて製袋後、このパウチ表面に、上記ファイバレーザで、レーザパワー30%でレーザ光を照射し、レーザ印字線を形成した。水を封入後、このパウチを、121℃で30分間のレトルト加熱処理に付した。加熱処理後のパウチの外観について、印字部及びその周辺において、層間剥離によるフィルムの浮きが生じていないかを観察した。また、加熱処理後のパウチから幅15mmの短冊状の試験片を切り出し、上記と同様にして、基材層と印刷層との間のラミネート強度をした。
【0081】
結果を以下の表1〜2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
実施例の多層積層フィルムは、レーザパワー30%及び60%のいずれによっても、濃くくっきりとした印字画像が形成された。また、レーザ照射による基材フィルムのダメージも起きず、ピンホールの発生は確認されなかった。さらに、レトルト処理後も十分なラミネート強度を維持しており、印字部及びその周辺部において、フィルムの浮きや層間剥離は見られなかった。
これに対し、比較例の多層積層フィルムは、印字濃度が薄く線幅が細いか、または、印字部周辺に浮きが発生し、視認性に劣るものであった。あるいは、十分なラミネート強度が得られないために、レトルト処理により、基材層とアルミニウム箔との間で層間剥離が観察された。
【符号の説明】
【0085】
1.基材層
2、2a、2b.印刷層
3.シーラント層
4.バリア層
5.印字部
A.変色域の直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6