(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液体供給路における、液体の流れ方向に対して垂直な面での断面積が、前記液体回収路における、液体の流れ方向に対して垂直な面での断面積よりも大きい、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
前記共通供給流路と前記共通回収流路との圧力差に応じて前記共通供給流路の中の液体の一部が前記液体供給路から前記圧力室を経て前記液体回収路に達し前記共通回収流路に流れる、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
前記液体供給路および前記液体回収路は、前記第1の面に沿った方向に延在し、前記供給口および前記回収口は、前記第1の面に交差する方向に延在する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
前記記録素子基板の前記第2の面には、前記液体供給路および前記液体回収路の一部を形成する蓋部材が設けられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明を適用可能な各構成例、各実施形態および各実施例について説明する。ただし、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。一例として、以下の説明では、液体を吐出するエネルギーを発生する記録素子として発熱素子を使用し、熱によって圧力室内の液体に気泡を発生させて吐出口から液体を吐出させるいわゆるサーマル方式の液体吐出ヘッドを例に挙げて説明する。しかしながら、本発明が適用可能な液体吐出ヘッドはサーマル方式のものに限られるものではなく、圧電素子を使用するピエゾ方式や、その他の各種の液体吐出方式を採用する液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。なお、インク等の液体を吐出する本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置に適用可能である。さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷や半導体基板作製などの用途としても用いることができる。
【0012】
また以下の説明では、記録液(例えばインク)等の液体をタンクと液体吐出ヘッドの間で循環させる液体吐出装置において用いられる液体吐出ヘッドを説明するが、本発明に基づく液体吐出ヘッドが用いられる液体吐出装置はこれに限られるものではない。液体を循環させずに上流側と下流側とにそれぞれタンクを設け、一方のタンクから液体吐出ヘッドを介して他方のタンクへ液体を流すことで液体吐出ヘッドの圧力室内で液体を流動させる形態の液体吐出装置にも本発明を適用することができる。
【0013】
さらに、以下の説明では、液体吐出ヘッドが、被記録媒体の幅に対応した長さを有するいわゆるライン型(ページワイド型)のヘッドとして構成されているものとする。しかしながら、主走査方向及び副走査方向への走査によって被記録媒体における記録を完成させるいわゆるシリアル型の液体吐出ヘッドに対しても本発明を適用することができる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えば、黒色の記録液用及びカラーの記録液用の記録素子基板を各1つずつ搭載する構成のものがあるが、これに限られるものではない。シリアル型の液体吐出ヘッドは、数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口をオーバーラップさせるよう配置した、被記録媒体の幅よりも短い短尺のラインヘッドを作成し、それを被記録媒体に対してスキャンさせる形態のものであってもよい。
【0014】
(第1の構成例の液体吐出装置の説明)
まず、本発明に基づく液体吐出装置の一例として、吐出口から液体として記録液を吐出して被記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置1000(以下、記録装置とも称する)について説明する。
図1は第1の構成例の液体吐出装置である記録装置1000の概略構成を示している。記録装置1000は、被記録媒体2を搬送する搬送部1と、被記録媒体2の搬送方向と略直交して配置されるライン型の液体吐出ヘッド3とを備え、複数の被記録媒体2を連続もしくは間欠に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。被記録媒体2は例えばカット紙であるが、カット紙以外にも連続したロール紙などであってもよい。液体吐出ヘッド3は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の各色(以下、これらの色をまとめてCMYKとも称する)の記録液によりフルカラーでの記録が可能なものである。後述するように、液体吐出ヘッド3には、液体を液体吐出ヘッド3へ供給する供給路である液体供給手段、メインタンク及びバッファータンク(
図2参照)が流体的に接続される。液体吐出ヘッド3は、後述の
図2に示すように、大別すると、液体供給ユニット220、負圧制御ユニット230及び液体吐出ユニット300によって構成されている。液体吐出ユニット300には、複数の記録素子基板10と共通供給流路211と共通回収流路212とが設けられており、各記録素子基板10にはそれぞれ複数の記録素子が設けられている。液体吐出ヘッド300において、各記録素子基板10に対して図示矢印で示すように共通供給流路211から記録液が供給され、この記録液は共通回収流路212を介して回収されるようになっている。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。液体吐出ヘッド3内における液体経路及び電気信号経路の詳細については後述する。
【0015】
(第1の循環形態の説明)
図2は、本発明に基づく液体吐出装置に適用される循環経路構成の一形態である第1の循環形態を示している。第1の循環形態では、液体吐出ヘッド3が、高圧側の第1循環ポンプ1001、低圧側の第1循環ポンプ1002、及びバッファータンク1003などに流体的に接続している。なお
図2では、説明を簡略化するためにCMYKの各色の記録液のうちの一色の記録液が流動する経路のみを示しているが、実際には4色分の循環経路が液体吐出ヘッド3及び記録装置本体に設けられる。メインタンク1006と接続される、サブタンクとしてのバッファータンク1003は、記録液を貯留する貯留手段として機能し、タンク内部と外部とを連通する大気連通口(不図示)を有し、記録液中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファータンク1003は、補充ポンプ1005とも接続されている。補充ポンプ1005は、記録液を吐出しての記録や吸引回復等、液体吐出ヘッドの吐出口から記録液を吐出(排出)することによって液体吐出ヘッド3で液体が消費された際に、消費された記録液分をメインタンク1006からバッファータンク1003へ移送する。
【0016】
液体移送手段としての2つの第1循環ポンプ1001,1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファータンク1003へ流す役割を有する。第1循環ポンプ1001,1002としては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプを用いることが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態のポンプであっても用いることができる。液体吐出ヘッド300の駆動時には高圧側の第1循環ポンプ1001及び低圧側の第1循環ポンプ1002によって、それぞれ、共通供給流路211及び共通回収流路212内をある一定流量で記録液が流れる。この流量としては、液体吐出ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が、被記録媒体2上での記録品質に影響しない程度以上に設定することが好ましい。もっとも、過度に大きな流量を設定すると、液体吐出ユニット300内の流路の圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり過ぎて記録画像での濃度ムラが生じてしまう。このため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら、流量を設定することが好ましい。記録液が循環する経路のうち、高圧側の第1循環ポンプ1001を含む方の経路はこの液体吐出装置での第1の循環系を構成し、低圧側の第1循環ポンプ1002を含む方の経路はこの液体吐出装置での第2の循環系を構成する。
【0017】
バッファータンク1003から液体吐出ヘッド3に向けて記録液を供給する経路には第2循環ポンプ1004が設けられており、負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との間の経路に設けられている。負圧制御ユニット230は、記録を行う時にデューティの差によって循環系の流量が変動した場合でも、負圧制御ユニット230よりも下流側(すなわち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持する機能を有する。負圧制御ユニット230は、それぞれ異なる制御圧が設定されている2つの圧力調整機構を備えている。これら2つの圧力調整機構としては、それ自身よりも下流の圧力を、所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような機構を用いてもよい。一例として、いわゆる減圧レギュレーターと同様の機構のものを採用することができる。圧力調整機構として減圧レギュレーターを用いる場合には、
図2に示すように、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の上流側を第2循環ポンプ1004によって加圧するようにすることが好ましい。このようにするとバッファータンク1003の液体吐出ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファータンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。第2循環ポンプ1004としては、液体吐出ヘッド3の駆動時に使用する記録液の循環流量の範囲内において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が使用可能である。また第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクを設けることもできる。
【0018】
負圧制御ユニット230内の2つ圧力調整機構のうち、相対的に高圧が設定されている圧力調整機構(
図2においてHで表示)は、液体供給ユニット220内を経由して液体吐出ユニット300内の共通供給流路211に接続されている。同様に相対的に低圧が設定されている圧力調整機構(
図2においてLで表示)は、液体供給ユニット220内を経由して液体吐出ユニット300内の共通回収流路212に接続されている。液体吐出ユニット300には、共通供給流路211及び共通回収流路212のほかに、各記録素子基板10とそれぞれ連通する個別供給流路213及び個別回収流路214が設けられている。記録素子基板ごとに設けられる個別供給流路213及び個別回収流路214を総称して個別流路と称する。個別流路は、共通供給流路211から分岐して共通回収流路212に合流するように設けられてこれらと連通している。したがって、記録液など液体の一部が共通供給流路211から記録素子基板10の内部流路を通過して共通回収流路212へと流れる流れ(
図2の白抜きの矢印)が発生する。これは、共通供給流路211には高圧側の圧力調整機構Hが、共通回収流路212には低圧側の圧力調整機構Lがそれぞれ接続されているため、共通供給流路211と共通回収流路213の間に差圧が生じるからである。
【0019】
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211及び共通回収流路212内をそれぞれ通過するように液体を流しつつ、一部の液体が各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211および共通回収流路212の流れで記録素子基板10の外部へ排出することができる。また、液体吐出ヘッド3による記録を行っている際に、記録を行っていない吐出口や圧力室においても記録液の流れを生じさせることができるので、その部位において記録液の溶媒成分の蒸発に起因して記録液の粘度が高まることを抑制することができる。また、増粘した記録液や記録液中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、上述した液体吐出ヘッド3を用いることにより、高速かつ高品位での記録を行うことが可能となる。
【0020】
(第2の循環形態の説明)
図3は、本発明に基づく液体吐出装置に適用される循環経路構成のうち、上述した第1の循環形態とは異なる循環形態である第2の循環形態を示している。第2の循環形態の第1の循環形態との主な相違点は、負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が、いずれも、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の設定圧を中心として一定範囲内の変動で制御する機構であることである。このような圧力調整機構は、いわゆる背圧レギュレーターと同じ作用の機構部品として構成することができる。また、第2循環ポンプ1004が負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用し、高圧側及び低圧側の第1循環ポンプ1001,1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている。これに伴って、負圧制御ユニット230は液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている。
【0021】
第2の循環形態において負圧制御ユニット230は、液体吐出ヘッド3により記録を行う際に記録デューティの変化によって生じる流量の変動があっても、自身の上流側の圧力変動を、予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定にするように作動する。ここでは負圧制御ユニット230の上流側は、液体吐出ユニット300側となる。
図3に示すように、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の下流側を加圧することが好ましい。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファータンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファータンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクを設けてもよい。
【0022】
第1の循環形態での場合と同様に、
図3に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。高圧設定側(
図3においてHと記載)及び低圧設定側の圧力調整機構(
図3においてLと記載)は、それぞれ、液体供給ユニット220内を経由して液体吐出ユニット300内の共通供給流路211及び共通回収流路212に接続されている。これら2つの圧力調整機構により共通供給流路211の圧力を共通回収流路212の圧力より相対的に高くすることで、共通供給流路211から個別流路及び各記録素子基板10の内部流路を介して共通回収流路212へと流れる記録液の流れが発生する。記録液の流れは
図3において白抜きの矢印で示されている。このように第2の循環形態では、液体吐出ユニット300内では第1の循環形態と同様の記録液の流れ状態が得られるが、第1の循環経路の場合とは異なる2つの利点がある。
【0023】
第1の利点は、第2の循環形態では負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物が液体吐出ヘッド3へ流入する懸念が少ないことである。
【0024】
第2の利点は、第2の循環形態では、バッファータンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1の循環形態の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211及び共通回収流路212内の流量の合計をAとする。Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整を行う場合に液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口から記録液を吐出する場合(全吐時)の吐出流量をFと定義する。そうすると、
図2に示す第1の循環形態の場合(
図2)では、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量がAとなるので、全吐時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量の最大値はA+Fとなる。一方で
図3に示す第2の循環形態の場合、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量は流量Aである。そして、全吐時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は流量Fとなる。そうすると、第2の循環形態の場合、高圧側及び低圧側の第1循環ポンプ1001,1002の設定流量の合計値、すなわち必要供給流量の最大値はAまたはFの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、第2の循環形態における必要供給量の最大値(AまたはF)は、第1の循環形態における必要供給流量の最大値(A+F)よりも必ず小さくなる。そのため第2の循環形態の場合、適用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡便な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりすることができ、記録装置本体のコストを低減できる。この利点は、AまたはFの値が比較的大きくなるライン型ヘッドであるほど大きくなり、ライン型ヘッドの中でも長手方向に長いヘッドほど有益である。
【0025】
しかしながら一方で、第1の循環形態の方が第2の循環形態に対して有利になる点もある。第2の循環形態では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、記録デューティの低い画像であるほど、各吐出口に高い負圧が印加された状態となる。このため、特に共通供給流路211及び共通回収流路212の流路幅を小さくしてヘッド幅を小さくした場合、ムラの見えやすい低デューティ画像において吐出口に高い負圧が印加されるためにサテライト滴の影響が大きくなるおそれがある。ここで共通供給流路211及び共通回収流路212の流路幅とは、液体の流れ方向と直交する方向の長さであり、ヘッド幅とは、液体吐出ヘッド3の短手方向の長さである。一方、第1の循環形態の場合、高い負圧が吐出口に印加されるのは高デューティ画像形成時であるため、仮にサテライト滴が発生しても記録された画像では視認されにくく、画像への影響は小さいという利点が生ずる。これら2つの循環形態の選択では、液体吐出ヘッド3及び記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、及び液体吐出ヘッド3内の流路抵抗)に照らして、好ましいものを選べばよい。
【0026】
(液体吐出ヘッド構成の説明)
次に、液体吐出ヘッド3の構成について、
図4を用いて説明する。
図4の(a)は、液体吐出ヘッド3において吐出口が形成された面の側から見た斜視図であり、(b)は(a)とは反対方向から見た斜視図である。液体吐出ヘッド3は、それぞれがシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の4色の記録液を吐出可能な記録素子基板10が直線上に15個配列(インラインに配置)されたライン型の液体吐出ヘッドである。
図4(a)に示すように、液体吐出ヘッド3は、15個の記録素子基板10とフレキシブル配線基板40と電気配線基板90とを備えている。電気配線基板90には信号入力端子91及び電力供給端子92が設けられており、信号入力端子91及び電力供給端子92は、電気配線基板90及びフレキシブル配線基板40を介して各記録素子基板10に電気的に接続されている。信号入力端子91及び電力供給端子92は、記録装置1000の制御回路に対して電気的に接続されるものであり、それぞれ、吐出駆動信号及び吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号出力端子91及び電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくできる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時または液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部の数を少なくすることができる。
図4(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、例えば
図2あるいは
図3に示したような記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりCMYKの各色の記録液が記録装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3内を通った記録液が記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色の記録液は、記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
【0027】
図5は、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットをその機能ごとに分割して示している。液体吐出ヘッド3は筺体80を備えており、この筺体80に対して液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220及び電気配線基板90が取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(
図2〜4参照)が設けられている。液体供給ユニット220の内部には、供給される記録液中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(
図2、
図3参照)が設けられている。図示したものでは1つの液体吐出ヘッドに対して2つの液体供給ユニット220と2つの負圧制御ユニット230が設けられている。2つの液体供給ユニット220には、それぞれに2色分ずつのフィルタ221が設けられている。フィルタ221を通過した記録液は、それぞれの色に対応して供給ユニット220上に配置された負圧制御ユニット230へ供給される。負圧制御ユニット230は圧力調整機構を有し、圧力調整機構の内部に設けられる弁やバネ部材などの作用により、液体の流量の変動に伴って生じる記録装置1000の供給系内(液体吐出ヘッド3の上流側の供給系)の圧損変化を大幅に減衰させることができる。これにより負圧制御ユニット230は、その圧力制御ユニットよりも下流側(液体吐出ユニット300側)の負圧変化をある一定範囲内で安定化させることが可能である。上述したように、負圧制御ユニット230では、各色ごとに2つの圧力調整機構が設けられており、色ごとの2つの圧力調整機構の制御圧力は異なる値に設定されている。高圧側の圧力調整機構は液体吐出ユニット300内の共通供給流路211に連通し、低圧側の圧力調整機構は共通回収流路212に連通している。
【0028】
筐体80は、液体吐出ユニット支持部81及び電気配線基板支持部82とから構成され、液体吐出ユニット300及び電気配線基板90を支持するとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を確保している。電気配線基板支持部82は、電気配線基板90を支持するためのものであって、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めによって固定されている。液体吐出ユニット支持部81は、液体吐出ユニット300の反りや変形を矯正して複数の記録素子基板10の相対位置精度を確保する役割を有し、それにより記録物におけるスジやムラを抑制する。そのため液体吐出ユニット支持部81は、十分な剛性を有することが好ましく、その材質としては、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。液体吐出ユニット支持部81の長手方向の両端部には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。液体供給ユニット220から供給される記録液などの液体は、ジョイントゴム100を介して液体吐出ユニット300を構成する後述する第3流路部材70へと導かれる。
【0029】
液体吐出ユニット300は、複数個の吐出モジュール200と流路構成部材210とからなり、液体吐出ユニット300の被記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。
図5に示すようにカバー部材130は、長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材であり、開口131からは吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10及び封止材110(
図9参照)が露出している。開口131の周囲の枠部は、液体吐出ヘッド3の吐出口が形成されている面を記録待機時にキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口形成面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
【0030】
次に液体吐出ユニット300に含まれる流路構成部材210の構成について説明する。流路構成部材210は、液体供給ユニット220から供給された記録液などの液体を各吐出モジュール200へと分配し、また吐出モジュール200から還流する液体を液体供給ユニット220へと戻すためのものである。
図5に示すように、流路構成部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60及び第3流路部材70をこの順で積層したものであり、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されている。これにより流路構成部材210の反りや変形が抑制されている。
【0031】
図6(a)〜(f)は、第1乃至第3流路部材50,60,70の表面と裏面とを示している。
図6(a)は、第1流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、これに対して
図6(f)は、第3流路部材70の、液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示している。
図6(b)は、第1流路部材50の、第2流路部材60との当接面を示し、これに対応して
図6(c)は、第2流路部材60の、第1流路部材50との当接面を示している。同様に
図6(d)は、第2流路部材60の、第3流路部材70との当接面を示し、
図6(e)は、第3流路部材70の、第2流路部材60との当接面を示している。
図6の(d)と(e)に示す面で第2流路部材60と第3流路部材70とを接合することにより、それぞれの流路部材60,70に形成される共通流路溝62,71によって、これら流路部材60,70の長手方向に延在する8本の共通流路が形成される。これによりCMYKの各色ごとの共通供給流路211と共通回収流路212の組が流路構成部材210内に形成される(
図7参照)。第3流路部材70の連通口72は、ジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には連通口61が複数形成されており、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、連通口51を介して、複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により第1流路部材50の短手方向の中央側へ流路を集約することが可能となる。なお以下の説明で、記録液の色ごとに分けて共通供給流路211を示すときは符号211の代わりに符号211a〜211dを使用し、色ごとに分けて共通回収流路212を示すときは符号212の代わりに符号212a〜212dを使用する。同様に、記録液の色ごとに分けて個別供給流路213を示すときは符号213の代わりに符号213a〜213dを使用し、色ごとに分けて個別回収流路214を示すときは符号214の代わりに符号214a〜214dを使用する。
【0032】
流路構成部材210を構成する第1乃至第3流路部材50,60,70は、記録液などの液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。その材質としては例えば、アルミナや、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)を母材としてシリカ微粒子やファイバーなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)を好適に用いることができる。流路構成部材210の形成方法としては、3つの流路部材50,60,70を積層させて互いに接着してもよいし、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
【0033】
次に、
図7を用いて流路構成部材210内の各流路の接続関係について説明する。
図7は、第1乃至第3流路部材50,60,70を接合して形成される流路構成部材210の内部の流路を第1の流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大してみた透視図である。
図7において一点鎖線で囲まれた領域は、記録素子基板10の配置位置に対応している。流路構成部材210には、色ごとに液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211a〜211d及び共通回収流路212a〜212dが設けられている。各色の共通供給流路211a〜211dには、個別流路溝52によって形成される複数の個別供給流路213a〜213dがそれぞれ連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212a〜212dには、個別流路溝52によって形成される複数の個別回収流路214a〜214dがそれぞれ連通口61を介して接続されている。このような流路構成により、各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路構成部材210の中央部に対応して設けられた記録素子基板10に対して記録液を集約することができる。また記録素子基板10から個別回収流路214を介して、各共通回収流路212に記録液を回収することができる。
【0034】
図8は、
図7のE−E線における流路構成部材210及び吐出モジュール200の断面構成を示している。図示するように、それぞれの個別回収流路214a,214cは、連通口51を介して、吐出モジュール200と連通している。
図8では個別回収流路214a,214cのみ図示しているが、別の断面においては、
図7に示すように個別供給流路213と吐出モジュール200とが連通している。各吐出モジュール200に含まれる支持部材30及び記録素子基板10には、第1流路部材50からの記録液を記録素子基板10に設けられている記録素子15(
図10参照)に供給するための流路が形成されている。さらに支持部材30及び記録素子基板10には、記録素子15に供給した液体の一部または全部を第1流路部材50に回収(還流)するための流路も形成されている。各色の共通供給流路211は、対応する色の負圧制御ユニット230の高圧側の圧力調整機構に対して液体供給ユニット220を介して接続されている。同様に共通回収流路212は、対応する色の負圧制御ユニット230の低圧側の圧力調整機構に対して液体供給ユニット220を介して接続されている。負圧制御ユニット230内のこれらの圧力調整機構により、共通供給流路211と共通回収流路212との間に差圧(圧力差)を生じさせるようになっている。このため、
図7及び
図8に示したように各流路を接続した液体吐出ヘッド3内では、各色ごとに、共通供給流路211→個別供給流路213→記録素子基板10→個別回収流路214→共通回収流路212へと順に流れる流れが発生する。
【0035】
(吐出モジュールの説明)
次に、吐出モジュール200について説明する。
図9(a)は吐出モジュール200の斜視図であり、
図9(b)はその分解図である。吐出モジュール200の製造方法としては、まず、記録素子基板10及びフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気的に接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止材110で覆って封止する。フレキシブル配線基板40での記録素子基板10とは反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(
図5参照)と電気的に接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路構成部材210とを流体的に連通させる流路連通部材であるため、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。支持部材30の材質としては、例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
【0036】
(記録素子基板の構造の説明)
次に、記録素子基板10の構成について説明する。
図10(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図であり、
図10(b)は
図10(a)のAで示した部分の拡大図であり、
図10(c)は
図10(a)の裏面にあたる側の平面図である。
図10(a)に示すように、記録素子基板10は、複数の吐出口13が列をなして形成された吐出口形成部材12を有する。吐出口形成部材12には、記録液の色であるCMYKの4色にそれぞれ対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。
図10(b)に示すように、各吐出口13に対応した位置には液体を熱エネルギーにより発泡させるための発熱素子である記録素子15が配置されている。隔壁22により、記録素子15を内部に備える圧力室23が区画されている。記録素子15は記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、
図10(a)に示す端子16と電気的に接続されている。記録素子15は、記録装置1000の制御回路から電気配線基板90(
図5)及びフレキシブル配線基板40(
図9)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱し、圧力室23の液体を沸騰させ、この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。
図10(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18及び液体回収路19は、記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に延びた流路であり、それぞれ供給口17a及び回収口17bを介して吐出口13と連通している。
【0037】
図10(c)及び
図11に示すように、記録素子基板10の、吐出口13が形成される面の裏面にはシート状の蓋部材20が積層されており、蓋部材20には、後述する液体供給路18及び液体回収路19に連通する開口21が複数設けられている。ここで示した例では、1本の液体供給路18に対して3個、1本の液体回収路19に対して2個の開口21が蓋部材20に設けられている。
図10(b)に示すように蓋部材20のそれぞれの開口21は、
図6(a)に示した複数の連通口51と連通している。
図11に示すように蓋部材20は、記録素子基板10の基板11に形成される液体供給路18及び液体回収路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。蓋部材20は、記録液などの液体に対して十分な耐食性を有している材料から構成されることが好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このため蓋部材20の材質として感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソグラフィ―プロセスによって開口21を設けることが好ましい。このように蓋部材20は開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄いことが望ましく、感光性の樹脂フィルムで構成されることが望ましい。
【0038】
次に、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。
図11は、
図10(a)におけるB−B面での記録素子基板10及び蓋部材20の断面を示している。記録素子基板10では、シリコン(Si)基板により形成される基板11と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材12とが積層されており、基板11の裏面には蓋部材20が接合されている。基板11の一方の面側には記録素子15が形成されており(
図10参照)、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する液体供給路18及び液体回収路19を構成する溝が形成されている。基板11と蓋部材20とによって形成される液体供給路18及び液体回収路19は、それぞれ、流路構成部材210内の共通供給流路211及び共通回収流路212と接続されており、液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じている。第1流路部材50には個別供給流路213及び個別回収流路214が形成されているが、個別供給流路213は液体供給路18と共通供給流路211とを接続し、個別回収流路214は液体回収路19と共通回収流路212とを接続する。液体吐出ヘッド3の複数の吐出口13から液体を吐出し記録を行っている際に吐出動作を行っていない吐出口においては、この差圧によって、液体供給路18内の液体は、供給口17a→圧力室23→回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる。この流れは
図11において矢印Cで示されている。この流れによって、記録を休止している吐出口13や圧力室23において、吐出口13からの溶媒の気化によって生じた増粘した記録液や、泡・異物などを液体回収路19へ回収することができる。また吐出口13や圧力室23での記録液の増粘を抑制することができる。液体回収路19へ回収された記録液などの液体は、蓋部材20の開口21及び支持部材30の液体連通口31(
図9(b)参照)を通じて、流路構成部材210内の連通口51、個別回収流路214、共通回収流路212の順に回収される。この回収された液体は、最終的には記録装置1000の供給経路へと回収される。
【0039】
結局、記録装置1000の本体から液体吐出ヘッド3へ供給される記録液などの液体は、下記の順に流動し、供給および回収される。液体は、まず液体供給ユニット220の液体接続部111から液体吐出ヘッド3の内部に流入する。そしてこの液体は、ジョイントゴム100、第3流路部材70に設けられた連通口72及び共通流路溝71、第2流路部材60に設けられた共通流路溝62及び連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52及び連通口51の順に供給される。その後、液体は、支持部材30に設けられた液体連通口31、蓋部材に設けられた開口21、基板11に設けられた液体供給路18及び供給口17aを順に介して圧力室23に供給される。圧力室23に供給された液体のうち、吐出口13から吐出されなかった液体は、基板11に設けられた回収口17b及び液体回収路19、蓋部材に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後、液体は、第1流路部材に設けられた連通口51及び個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61及び共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71及び連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。そして、液体供給ユニット220に設けられた液体接続部111から液体吐出ヘッド3の外部へ液体が流動する。
図2に示す第1の循環形態を採用した場合には、液体接続部111から流入した液体は負圧制御ユニット230を経由した後にジョイントゴム100に供給される。一方、
図3に示す第2の循環形態を採用した場合には、圧力室23から回収された液体は、ジョイントゴム100を通過した後、負圧制御ユニット230を介して液体接続部111から液体吐出ヘッド3の外部へ流動する。
【0040】
なお、液体吐出ユニット300の共通供給流路211の一端から流入した全ての液体が個別供給流路213aを経由して圧力室23に供給されるわけではない。
図2及び
図3に示すように、個別供給流路213aに流入することなく、共通供給流路211の他端から液体供給ユニット220に流動する液体もある。このように記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備えることで、微細で流抵抗の大きい流路を備える記録素子基板10を備える場合であっても、液体の循環流の逆流を抑制することができる。このようにして液体吐出ヘッド3では、圧力室や吐出口近傍部の液体の増粘を抑制できるので、吐出よれや不吐を抑制でき、結果として高画質な記録を行うことができる。
【0041】
(記録素子基板間の位置関係の説明)
上述したように液体吐出ヘッド3は複数の吐出モジュール200を備えている。
図12は隣接する2つの吐出モジュール200における、記録素子基板10の隣接部を部分的に拡大して示している。
図10に示すように、ここでは略平行四辺形の記録素子基板10を用いるものとする。
図12に示すように、各記録素子基板10において吐出口13が配列される各吐出口列14a〜14dは、被記録媒体の搬送方向Lに対し一定角度傾くように配置されている。これによって記録素子基板10同士の隣接部における吐出口列は、少なくとも1つの吐出口が被記録媒体の搬送方向Lにオーバーラップするようになっている。
図12に示したものでは、線D上の2つの吐出口13が互いにオーバーラップする関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合であっても、相互にオーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像における黒色のすじや白抜け部分を目立たなくすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなくインラインに配置したときも、
図12のような構成により、液体吐出ヘッド3の被記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えつつ、記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことができる。なお、ここでは記録素子基板10の輪郭形状は略平行四辺形であるが、これに限られるものではなく、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板10を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
【0042】
(第2の構成例の液体吐出装置の説明)
本発明を適用できる液体吐出装置は、上述した第1の構成例のものに限られるものではない。以下、本発明に基づく液体吐出装置の第2の構成例であるインクジェット記録装置1000(以下、記録装置とも称する)について説明する。
図13は第2の構成例の液体吐出装置である記録装置1000の概略構成を示している。以下の説明では、主として第1の構成例と異なる部分のみを説明し、第1の構成例と同様の部分については説明を省略する。
【0043】
図13に示す記録装置1000は、CMYKの各色にそれぞれ対応した単色用の液体吐出ヘッド3を4つ並列配置させることで、被記録媒体2に対してフルカラー記録を行う点が第1の構成例のものとは異なっている。第1の構成例では、1色の記録液あたりに使用できる吐出口列数が1列であったのに対し、この第2の構成例において1色あたりに使用できる吐出口列数を複数(後述の
図20(a)に示す例では20列)とすることができる。このため、記録データを複数の吐出口列に適宜振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。さらに、不吐になる吐出口があったとしても、その吐出口に対して被記録媒体の搬送方向Lに対応する位置にある、他列の吐出口から補間的に吐出を行うことで信頼性が向上する。したがって第2の構成例の記録装置1000は、商業印刷などの分野において使用するのに好適である。第1の構成例と同様に、各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファータンク1003及びメインタンク1006が流体的に接続される。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。第2の構成例においても、第1の構成例と同様に、
図2及び
図3にそれぞれ示した第1及び第2の循環形態のいずれをも用いることができる。
【0044】
(液体吐出ヘッド構造の説明)
第2の構成例での液体吐出ヘッド3の構造について、
図14を用いて説明する。
図14の(a)は、液体吐出ヘッド3において吐出口が形成された面の側から見た斜視図であり、(b)は(a)とは反対方向から見た斜視図である。液体吐出ヘッド3は、その長手方向に直線状に配列される16個の記録素子基板10を備えており、単一の色の記録液での記録が可能なインクジェット式のライン型(ページワイド型)液体吐出ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、第1の構成例と同様に、液体接続部111、信号入力端子91及び電力供給端子92を備える。しかしながらこの液体吐出ヘッド3は、第1の構成例のものと比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド3の両側に信号出力端子91及び電力供給端子92が配置されている。これは記録素子基板10に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減のためである。
【0045】
図15は、第2の構成例の液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットをその機能ごとに分割して示している。各ユニット及び部材の役割や液体吐出ヘッド3内での液体流通の順は、基本的には第1の構成例でのものと同様であるが、第2の構成例では液体吐出ヘッド3の剛性を担保する機能が異なっている。第1の構成例では主として液体吐出ユニット支持部81によって液体吐出ヘッド剛性を担保していたが、第2の構成例の液体吐出ヘッドでは、液体吐出ユニット300に含まれる第2流路部材60によって液体吐出ヘッドの剛性を担保している。第2の構成例での液体吐出ユニット支持部81は、第2流路部材60の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット300は記録装置1000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド3の位置決めを行う。負圧制御ユニット230を備える液体供給ユニット220と電気配線基板90とが、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。第2の構成例では、各負圧制御ユニット230ごとに2通りの圧力の制御を行うようにはなっていない。2つの負圧制御ユニット230の一方に対して高圧側の負圧制御ユニットとして相対的に高い負圧で圧力を制御するようが設定なされ、他方に対して低圧側の負圧制御ユニットとして相対的に低い負圧で圧力を制御するようが設定なされている。
図15に示すように液体吐出ヘッド3の長手方向の両端部に、それぞれ、高圧側と低圧側の負圧制御ユニット230を設置した場合、液体吐出ヘッド3の長手方向に延在する共通供給流路211と共通回収流路212とにおける液体の流れが互いに対向する。このようにすると、共通供給流路211と共通回収流路212との間での熱交換が促進されて、これらの共通流路内における温度差が低減されるころになる。したがって、共通供給流路211及び共通回収流路212に沿って複数設けられる各記録素子基板10における温度差が付きにくくなり、温度差による記録ムラが生じにくくなるという利点がある。
【0046】
次に液体吐出ユニット300の流路構成部材210の詳細について説明する。
図15に示すように流路構成部材210は、第1流路部材50及び第2流路部材60を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された記録液などの液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路構成部材210は、吐出モジュール200から還流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための回収流路部材として機能する。流路構成部材210の第2流路部材60は、内部に共通供給流路211及び共通回収流路212が形成された部材であるとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2流路部材60の材質としては、記録液などの液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましく、具体的にはステンレス鋼やチタン(Ti)、アルミナなどを好ましく用いることができる。
【0047】
次に、
図16を用いて、第1流路部材50及び第2流路部材60の詳細を説明する。
図16(a)は、第1流路部材50の、吐出モジュール200が取り付けられる側の面を示し、
図16(b)は、その裏面であって、第2流路部材60と当接される側の面を示している。第1の構成例とは異なり、第2の構成例における第1流路部材50は、各吐出モジュール200ごとに対応した複数の部材を隣接して配列したものである。このように分割した構造を採用することで、このようなモジュールを複数配列することにより、液体吐出ヘッド3に要求される長さに対応することができるようになる。この構成は、例えば、JIS(日本工業規格)B2サイズ及びそれ以上の寸法に対応した長さの比較的長い液体吐出ヘッドに特に好適に適用できる。
図16(a)に示すように、第1流路部材50の連通口51は吐出モジュール200と流体的に連通し、
図16(b)に示すように、第1流路部材50の個別連通口53は第2流路部材60の連通口61と流体的に連通する。
図16(c)は、第2流路部材60の、第1流路部材50と当接される側の面を示し、
図16(d)は、第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、
図16(e)は、第2流路部材60の、液体供給ユニット220と当接する側の面を示している。第2流路部材60の流路や連通口の機能は、第1の構成例での1色分の記録液に対するものと同様である。第2流路部材60の共通流路溝71は、その一方が
図17に示す共通供給流路211であり、他方が共通回収流路212であり、それぞれ、液体吐出ヘッド3長手方向に沿って一端側から他端側に液体が供給される。この構成例では、第1の構成例とは異なり、共通供給流路211と共通回収流路212での液体の流れる方向は、液体吐出ヘッド3の長手方向に沿って互いに反対方向である。
【0048】
図17は、記録素子基板10と流路構成部材210との間での各流路の接続関係を示している。
図16に示したように、流路構成部材210内には、液体吐出ヘッド3の長手方向に延びる一組の共通供給流路211及び共通回収流路212が設けられている。第2流路部材60の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と位置を合わせて接続されており、第2流路部材60の連通口72から共通供給流路211を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。同様に、第2流路部材60の連通口72から共通回収流路212を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路も形成されている。
【0049】
図18は、
図17のF−F線における断面を示している。この図に示したように、共通供給流路211は、連通口61、個別連通口53及び連通口51を介して、吐出モジュール200へ接続されている。
図18では不図示であるが、別の断面においては、共通回収流路212が同様の経路で吐出モジュール200へ接続されていることは、
図17を参照すれば明らかである。第1の構成例と同様に、各吐出モジュール200及び記録素子基板10には、各吐出口13の形成個所である圧力室23に連通する流路が形成されている。供給した液体の一部または全部は、この流路によって、吐出動作を休止している吐出口13に対応する圧力室23を通過して還流できるようになっている。また第1の構成例と同様に、共通供給流路211は高圧側の負圧制御ユニット230と、共通回収流路212は低圧側の負圧制御ユニット230と、それぞれ液体供給ユニット220を介して接続されている。このため、これらの負圧制御ユニット230によって生じる差圧によって、共通供給流路211から記録素子基板10の圧力室23を通過して共通回収流路212へと流れる流れが発生する。
【0050】
(吐出モジュールの説明)
次に、第2の構成例での吐出モジュール200を説明する。
図19(a)は吐出モジュール200の斜視図であり、
図19(b)はその分解図である。第1の構成例との差異は、記録素子基板10の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板10の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置され、それに電気接続されるフレキシブル配線基板40も1つの記録素子基板10あたり2枚配置される点である。これは、記録素子基板10に設けられる吐出口列数が例えば20列あり、第1の構成例の4列よりも大幅に増加しているためである。すなわち、端子16から、吐出口列に対応して設けられる記録素子15までの最大距離を短く抑制して、記録素子基板10内の配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することを目的としている。また支持部材30の液体連通口31は、記録素子基板10に設けられる全吐出口列を跨るように開口している。その他の点は、第1の構成例におけるものと同様である。
【0051】
(記録素子基板の構造の説明)
次に、第2の構成例での記録素子基板10の構成について説明する。
図20(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図であり、
図20(b)は液体供給路18及び液体回収路19が形成されている部分を示す図であり、
図20(c)は
図20(a)の裏面にあたる側の平面図である。ここで
図20(b)は、
図20(c)において記録素子基板10の裏面側に設けられている蓋部材20を除去した状態を示している。
図20(b)に示すように、記録素子基板10の裏面側には、吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19とが交互に設けられている。吐出口列数は第1の構成例よりも大幅に増加しているものの、第1の構成例との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板10の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。各吐出口列ごとに一組の液体供給路18及び液体回収路19が設けられていること、蓋部材20に、支持部材30の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は第1の構成例のものと同様である。
【0052】
以下、上述した液体吐出ヘッドあるいは液体吐出装置において、吐出特性にばらつきを生じさせず、また、高温の液体が圧力室に逆流することによる過昇温を抑制できる、本発明に基づく構成について説明する。
図21は本発明の実施の一形態の液体吐出ヘッドにおける液体吐出ユニット300の部分を示している。本実施形態の液体吐出ヘッドにおいて、筐体80、電気配線基板90及び液体供給ユニット220などの構成は
図1乃至
図20において説明したものと同様であるから、以下では説明を省略する。負圧の制御については、後述するように、負圧制御ユニットを設けるのではなく水頭圧を使用している。ここでは、説明の簡単のため、液体吐出ヘッドには、同色の記録液を吐出する2列の吐出口列が形成されるものとする。
【0053】
図21に示した液体吐出ユニット300では、上述したものと同様に、流路構成部材210に対して複数の支持部材30が接合し、さらに、支持部材30ごとに記録素子基板10が接合している。
図22は、液体吐出ユニット300の詳細を示す分解斜視図であり、支持部材30及び記録素子基板10からなる吐出モジュールを示している。
図22では、説明のため、記録素子基板10を構成する基板11をその厚さ方向で2つに分割して示している。分割された一方は、
図22(a)として、吐出口形成部材12と接合した状態で示され、他方は、
図22(b)において、液体供給路18及び液体回収路19が露出して状態で示されている。
図22(c)は蓋部材20を示し、
図22(d)は支持部材30を示している。
【0054】
本実施形態において支持部材30は、流路構成部材210に対して記録素子基板10を支持するとともに、記録液などの液体を流路構成部材210から記録素子基板10に対して分配する機能を有する。記録素子基板10において吐出口13が形成される面の反対側の面には上述のものと同様に蓋部材20が設けられているが、この蓋部材20は、支持部材30の成型精度が良好である場合には、支持部材30と一体的に形成されるようにしてもよい。蓋部材20には、記録支持基板10内の液体供給路18及び液体回収路19に連通し、支持部材30から記録素子基板10への液体流路のピッチを変換する機能を有する微細な開口が複数設けられている。ここではこれらの開口のうち液体供給路18に連通する開口を供給側開口21aと呼び、液体回収路19に連通する開口を回収側開口21bと呼ぶ。
図21に示したものでは、液体吐出ヘッドに設けられる全ての記録素子基板10に対して1つの流路構成部材210が設けられているが、複数の流路構成部材を設けて各流路構成部材が1または数個の記録素子基板10に対応するようにしてもよい。また、記録素子基板10ごとに支持部材30を設けているが、数個の記録素子基板10に対して1つの支持部材30を設けるようにしてもよい。
【0055】
支持部材30には、吐出口列の延びる方向とは直交する方向に延びるスリット状の供給側の分配流路318及び回収側の分配流路319が形成されている。供給側及び回収側の分配流路318,319は、
図9や
図19に示す構成における液体連通口31に対応するものである。供給側の分配流路318は、液体を流路構成部材210内の共通供給流路211から記録素子基板10に分配し供給する経路にあって、共通供給流路211に連通する。同様に回収側の分配流路319は、液体を記録素子基板10から流路構成部材210内の共通回収流路212に回収する経路にあって、共通回収流路212に連通する。蓋部材20に設けられる供給側開口21aは、供給側の分配流路318と液体供給路18が交差する位置においてこれらが連通するように設けられている。同様に回収側開口21bは、回収側の分配流路319と液体回収路19が交差する位置においてこれらが連通するように設けられている。液体供給路18及び液体回収路19は、基板11において、吐出口13の形成面とは反対側の面に、吐出口列の延びる方向に延びる相互に平行な溝として形成されている。
【0056】
図23は、記録素子基板10の詳細を説明する分解斜視図である。
図23において、(a)は吐出口13が形成されている部分を示し、(b)は圧力室23、供給口17a及び回収口17bが形成されている部分を示し、(c)は液体供給路18及び液体回収路19が形成された基板11を示している。ここでは、説明のため、1列分の吐出口列のみが描かれている。
図24は、圧力室23及び吐出口13を説明するものであって、(a)は吐出口13から記録素子基板10の内部を見た状態を示す平面図であり、(b)は(a)のA−A線での断面図である。以下、
図22乃至
図24を用いて、本実施形態での液体吐出ヘッドについて説明する。
図23及び
図24に示すように、吐出口13に対向するように基板11の表面に記録素子15が設けられており、吐出口13と記録素子15とによって挟まれた領域が圧力室23となっている。基板11には複数の記録素子15が設けられているが、隣接する記録素子15の間には隔壁22が設けられており、圧力室23の間を隔てている。したがって、1つの圧力室23には1つの記録素子15と1つの吐出口13とが対応することになる。供給口17a及び回収口17bは、それぞれ、基板11の反対側の面に形成されている溝状の液体供給路18及び液体回収路19に連通している。
【0057】
図22(c)に示すように、蓋部材20には、液体供給路18に連通する複数の供給側開口21aが列をなして形成され、液体回収路19に連通する複数の回収側開口21bが列をなして形成されている。上述したように支持部材30には、供給側開口21a及び回収側開口21bにそれぞれ連通するスリット状の供給側及び回収側の分配流路318,319が形成されている。これらは、それぞれ流路構成部材210に形成された共通供給流路211及び共通回収流路212に連通する。以下の説明では、供給側の分配流路318には蓋部材20の供給側開口21aも含まれ、回収側の分配流路319には回収側開口21bも含まれるものとする。
【0058】
以下、本実施形態の液体吐出ヘッドにおける記録液などの液体の流れを説明する。液体吐出ヘッドにおける液体の流れを説明する前に、
図25を用いて本実施形態における液体吐出装置の構成の概要を説明する。液体吐出ヘッド3には、高圧側の流入口307a及び流出口310aと低圧側の流入口307b及び流出口310bが設けられている。液体吐出ヘッド3において、流入口307aと流出口310aとの間に共通供給流路211が接続され、流入口307bと流出口310bとの間に共通回収流路212が接続されている。流入口307a,307bはそれぞれ大気に連通するバッファータンク308a,308bに直接接続されている。一方、流出口310a,310bは、それぞれ、定流量ポンプ311a,311bを介してバッファータンク308a,308bに接続されている。バッファータンク308a,308bは、いずれも液体(ここでは記録液)を貯留する貯留手段として機能するものである。この液体吐出装置では、バッファータンク308a,308bのそれぞれごとに液体が循環する経路が形成され、これらの経路は、後述するように、それぞれ、共通供給流路211及び共通回収流路212に接続している。そこで、共通供給流路211に接続する経路をこの液体吐出装置における第1の循環系と呼び、共通回収流路212に接続する経路を第2の循環系と呼ぶ。
【0059】
バッファータンク308a,308bに対して液体を供給するためのメインタンク314が設けられている。メインタンク314とバッファータンク308aの間にはポンプ312a及び弁313aが直列に設けられ、メインタンク314とバッファータンク308bの間にはポンプ312b及び弁313bが直列に設けられている。バッファータンク308a,308bには、それぞれ、液面水位センサ309a,309bが取り付けられており、センサ信号をもとにコントローラ315がポンプ312a,312bと弁313a,313bを制御する。このコントローラ315による制御により、流入口307a,307bの間の圧力差を所望な値にコントロールでき、
図1乃至
図20で示した液体吐出ヘッドにおける負圧制御ユニットと同等の機能が実現される。流入口307a,307bの間の圧力差は、圧力室23内で記録液が約数mm/s〜数十mm/sの流速で流れるように設定される。
【0060】
図26は、共通供給流路211及び共通回収流路212側から見た図として、共通供給流路211、共通回収流路212及び各分配流路318,319における液体の流れを矢印によって示している。
図26(a)で示すように、圧力室23内を循環する液体の流れは、共通供給流路211から供給側の分配流路318を介して、圧力室23内を循環し、回収側の分配流路318を介して共通回収流路212に排出されるものとなっている。このように圧力室23に対して液体が循環している待機状態で記録素子15が駆動されて記録状態となると、
図26(b)に示すように、吐出口13からの吐出のために、液体の流れは供給口17a及び回収口17bから圧力室23へ向かうものとなる。このとき、循環により圧力室23をいったん通過して吐出側の分配流路319に流れた液体も吐出口13に向かって流れ、吐出される。その結果、吐出側の分配流路319内の液体の量が減少するが、その現象を補うために、共通回収流路212から排出側の分配流路319に液体が供給される。
【0061】
ところで、液体吐出ヘッドでは、駆動に伴うヘッドの温度変化を抑制し良好な記録品質を維持するために、記録素子基板10を一定温度に昇温して温度制御することが行われている。液体吐出ヘッドの温度を上げて制御された状態では、記録素子基板10内の各流路を流れる際に液体が温められ、回収側の分配流路319にも温められた液体が流入する。液体吐出ヘッドが記録動作に入ると、前述したように、回収側の分配流路319からは循環時に温められた液体が吐出口13に供給されるため、吐出口近傍の温度が上昇する。連続的に吐出する状態が続くと、回収側の分配流路319内の加温された液体が吐出により徐々に記録素子基板10から排出され、加温されていない液体が回収側の分配流路319から供給されていく。このため、回収側の分配流路319内の液体の温度は低下し、吐出口13の近傍の温度も徐々に低下し、定常時の温度に至る。
【0062】
本発明ではこの現象を抑制するために、記録素子基板10の基板11において溝状に形成される液体回収路19の流抵抗を液体供給路18の流抵抗より大きくする。ここで圧力室23に供給される液体の量を考える。以下の説明において、供給口17a及び液体供給路18による合成流抵抗をR
inとし、回収口17b及び液体回収路19による合成流抵抗をR
outとする。全ての吐出口から液体を吐出する全吐出状態での吐出量を流量換算でQとし、非吐出時に圧力室23を通って循環している液体の流量をqとする。このとき、液体吐出ヘッドの駆動状態が非吐出から吐出に変化したときに、吐出時に液体回収路19から圧力室23に供給される液体の流量Q
outは、下記の式(1)で示される。
【0063】
【数1】
式(1)から、液体回収路19の流抵抗を液体供給路18の流抵抗より大きくする構成をとれば、吐出時に液体回収路19から圧力室23に供給される液体の量が減少する。よって、液体吐出ヘッドの駆動状態の変化に伴う、液体回収路19内の液体の逆流を低減することができ、一時的に圧力室23内の液体の温度が過剰に高くなることを抑制でき、記録品位を高く保つことが可能となる。液体回収路19の流抵抗を液体供給路18の流抵抗より大きくするためには、例えば、液体供給路18における液体の流れ方向に対して垂直な面での断面積を、液体回収路19における液体の流れ方向に対して垂直な面での断面積よりも大きくすればよい。
【0064】
以下、いくつかの実施例と比較例とに基づいて本実施形態の液体吐出ヘッドをさらに説明する。
図27は実施例1での記録素子基板10の基板11の、液体供給路18の流れ方向に直交する断面を模式的に示しており、
図28は比較例1としての記録素子基板10の断面を模式的に示している。
【0065】
(実施例1及び比較例1)
実施例1として、
図27に示すように、流路の幅を変えることにより、液体回収路19の流路断面積を液体供給路18の流路断面積の3分の1にした記録素子基板10を作製した。これにより、回収口17b及び液体回収路19の合成流抵抗が、供給口17a及び液体供給路18の合成流抵抗と比較して、4倍程度大きくなっている。
比較例1として、
図28に示すように、流路の幅と深さとを同じにすることにより、液体回収路19の流路断面積を液体供給路18の流路断面積と等しくした記録素子基板10を作製した。
ここでは、幅30μm、高さ15μmの圧力室23内を流速10mm/秒で液体を流すために、バッファータンク308a,308b間の圧力差は300Pa程度に設定した。液体吐出ヘッドに供給される液体として、インクジェット記録用の記録液を用いた。供給される記録液の温度を35℃に制御し、圧力室23の近傍に配置された温度センサ(不図示)の全てが60℃となるように記録素子基板10の温度制御を行い、液体吐出ヘッドでの温度分布を平衡状態とした。このような平衡状態から、実施例1及び比較例1のそれぞれの記録素子基板を有する液体吐出ヘッドを、吐出量が5×10
-15m
3、駆動周波数が8000Hzで駆動し、圧力室23内の記録液の平均温度の時間変化を求めた。結果を
図29に示す。実施例1を実線、比較例1を点線で示す。
【0066】
比較例1では、圧力差により循環している記録液流量の4倍程度の記録液が吐出されるため、液体回収路19内の高温の記録液が圧力室23に逆流してくることになり、一時的に圧力室23内の記録液が過剰に高くなっている。一方、実施例1では、回収口17b及び液体回収路19の合成流抵抗が、供給口17a及び液体供給路18の合成流抵抗と比較して4倍程度大きくなっているため、式(1)から、液体回収路19から逆流する高温の記録液の流量が、5分の2程度に低減する。これにより、実施例1では、比較例1と比較して、圧力室23内の記録液の温度上昇が抑制されている。
このように、基板11に形成される液体回収路19の形状を変更して流抵抗を大きくすることにより、圧力室23内の液体の温度上昇が抑制されることとなり、記録品位が高い液体吐出ヘッドを作製することが可能となる。本実施例では、液体供給路18の流抵抗を液体回収流路の4倍程度大きくしたが、本発明はこれに限られず、
供給口と液体供給路の合成流抵抗>回収口と液体回収路の合成流抵抗
の関係を満たす条件であれば良い。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、供給口17a及び液体供給路18の合成流抵抗と、回収口17b及び液体回収路19の合成流抵抗と、吐出量Qと、非吐出時に圧力室23を通って循環する液体の流量qとの関係に着目した。そしてこれらの量が後述の式(4)を満たすようにして、液体回収路19から逆流する高温の液体の流量を大幅に低減している。なお、ここでの吐出量Qとは、液体吐出ヘッド3に含まれる全ての吐出口13から吐出される液滴量の総和を示す。
【0068】
式(1)より、吐出時に液体回収路19から圧力室23に供給される液体の流量が実質的になくなる、つまり逆流しないための条件は、下記の式(2)の条件となる。
【0069】
【数2】
しかし、非吐出時に、吐出するよりも多量の液体が圧力室23を通って循環すると、圧力損失による流路内の圧力分布が大きくなり吐出特性のばらつきが生じる場合がある。このため、下記の式(3)で示すように、液体の循環量を、吐出する液体の流量より小さくすることが必要となる。
【0070】
【数3】
したがって式(2)及び式(3)より、液体回収路19から逆流する高温の液体の流量を大幅に低減し、圧力損失による吐出特性のばらつきを回避する条件として、下記の式((4)が成立することが必要であることが分かる。
【0071】
【数4】
実施例2では、
図27に示した実施例1と同様の液体吐出ユニット300を用いた。そして式(4)の条件を満たすように、液体を圧力室23内に流速60mm/秒で流すこととし、この流速を達成するためにバッファータンク308a,308b間の圧力差を1800Pa程度に設定した。そして、実施例1と同じ条件で温度分布が平衡となっている状態から、実施例2及び比較例1のそれぞれの記録素子基板を有する液体吐出ヘッドを、吐出量が5×10
-15m
3、駆動周波数が8000Hzで駆動した。そしてこの駆動時における圧力室23内の記録液の平均温度の時間変化を求めた。結果を
図30に、実施例2を実線、比較例を点線で示す。
実施例2では、非吐出時に圧力室23を通って循環している液体の流量が、式(4)の条件を満たしているため、液体回収路19から逆流する高温の液体の流量が、ほとんどない。また比較例1では、非吐出時に圧力室23を通って循環している液体の流量qが、式(4)の右辺の値の半分程度であり、式(4)の条件を満たしていない。
図30から明らかなように、実施例2では、比較例1と比較して、また実施例1と比較しても、圧力室23内の液体の温度上昇が抑制されており、記録品位が高い液体吐出ヘッドを作製することが可能である。
【0072】
以上説明した本実施形態では、高圧側と低圧側の負圧を発生させるために水頭差を利用したが、負圧を発生して制御する手段はこれに限られるものではなく、
図1乃至
図20で示したような負圧制御ユニットを用いてもよい。また圧力室23内の温度変化による吐出特性変化を抑制するために圧力室23の近傍の温度を監視し、圧力室23内の液体の温度を設定範囲内に保っているが、他の加温手段を用いる場合も本発明は有効である。