特許第6983514号(P6983514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6983514反射防止膜、光学部材及び光学部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983514
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】反射防止膜、光学部材及び光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20211206BHJP
【FI】
   G02B1/111
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-14845(P2017-14845)
(22)【出願日】2017年1月30日
(65)【公開番号】特開2017-138593(P2017-138593A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-17544(P2016-17544)
(32)【優先日】2016年2月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】亀野 優
(72)【発明者】
【氏名】槇野 憲治
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−526530(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/044402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 − 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上に反射防止膜とを有する光学部材であって、
前記反射防止膜は、表面に棘状の突起を有する複数の中空粒子を含み、屈折率が1.08以上1.14以下であることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記反射防止膜において、2000nm2以上の粒子間ボイドの数が1個/μm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記光学部材は、レンズ又はプリズムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記中空粒子の個数平均粒径が、20nm以上210nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項5】
前記棘状の突起が酸化ケイ素で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項6】
前記棘状の突起の高さが3nm以上20nm以下であり、前記棘状の突起が粒子表面に占める割合が3%以上30%以下であり、
前記反射防止膜は、前記中空粒子を50体積%以上68体積%以下の割合で有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項7】
表面に棘状の突起形状を有する中空粒子を有する反射防止膜であって、
屈折率が1.08以上1.14以下であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項8】
前記反射防止膜において、2000nm2以上の粒子間ボイドの数が1個/μm2以下であることを特徴とする請求項に記載の反射防止膜。
【請求項9】
前記中空粒子の個数平均粒径が、20nm以上210nm以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載の反射防止膜。
【請求項10】
前記棘状の突起が酸化ケイ素で形成されていることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項11】
前記棘状の突起の高さが3nm以上20nm以下であり、前記棘状の突起が粒子表面に占める割合が3%以上30%以下であり、
前記反射防止膜は、前記中空粒子を50体積%以上68体積%以下の割合で有していることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光の散乱が少なく、屈折率の低い反射防止膜、光学部材および光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部材の光入出射界面での反射を抑えるために、屈折率の異なる光学膜を数十から数百nmの厚みで単層あるいは複数層を積層した反射防止膜を形成することが知られている。これらの反射防止膜を形成するためには、蒸着、スパッタリングに代表される乾式成膜法やディップコート、スピンコートのような湿式成膜法が用いられる。
【0003】
反射防止膜の最表層に用いられる材料としては、屈折率が低く、透明な材料であるシリカやフッ化マグネシウム、フッ化カルシウムのような無機材料やシリコーン樹脂や非晶質のフッ素樹脂に代表される有機材料を用いることが知られている。
【0004】
また、反射率を低く抑えるために、空気の屈折率1.0を利用する低屈折膜を反射防止膜に用いることが知られている。シリカやフッ化マグネシウムの層内に空隙を形成することによって屈折率を下げることが可能である。
【0005】
特許文献1には、球状のシリカ系中空粒子と、粒子間を架橋するためのバインダーを混合した塗料を成膜した反射防止膜が開示しされている。
【0006】
特許文献2には、シリカ系中空粒子を成膜した後にバインダー溶液を成膜するプロセスを採用することによって、粒子を整列させ粒子間の空隙を減らすことで、反射防止膜の屈折率(nd)を1.25程度まで小さくした低屈折率反射防止膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−233611号公報
【特許文献2】特開2013−41275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の低屈折率反射防止膜において、屈折率をより小さくするためには、バインダーの量をできるだけ少なくすることが有効である。また、バインダーの量が少ない、もしくはバインダーを有さない反射防止膜の場合、更に屈折率を小さくするためには、粒子間に空隙を大きくすることが有効である。しかしながら通常のシリカ粒子を接触させた状態で整列して配置した場合、粒子間の距離は、粒子の外周の直径とほぼ等しくなってしまう。また、シリカ粒子を整列させずに配置した場合は、粒子間に大きな空隙が形成されることとなり、光学的な散乱が大きくなってしまう。
【0009】
本発明の目的は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、シリカ粒子のような低屈折率の微粒子有する反射防止膜において、光散乱を抑制するとともにその屈折率がより小さい反射防止膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学部材は、基材と、前記基材の上に反射防止膜とを有する光学部材であって、前記反射防止膜は、表面に棘状の突起を有する複数の中空粒子を含み、屈折率が1.08以上1.14以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の反射防止膜は、表面に棘状の突起形状を有する中空粒子を有する反射防
止膜であって、屈折率が1.08以上1.14以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、棘形状の微小突起を表面に有する中空粒子を有して、屈折率が低く散乱が少ない反射防止膜及び光学部材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の反射防止膜の断面模式図である。
図2】表面に突起がない粒子を用いた場合の反射防止膜の断面図である。
図3】本発明の反射防止膜で用いる中空粒子の断面模式図である。
図4】実施例1で得られる反射防止膜の断面画像であるである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(光学部材)
本発明の光学部材は、光学フィルム、レンズ、プリズム等に用いることができる。
【0016】
図1は、本発明の光学部材1を示す模式図である。
【0017】
光学部材1は、基材2上に反射防止膜3が形成されている。
【0018】
基材2としては、プラスチックやガラスを用いることができる。
【0019】
(反射防止膜)
図1に示すように、反射防止膜3は、表面に棘状の微小突起を有する中空粒子4を有する。表面に棘状の微小突起を有する中空粒子4を配列すると、棘状の突起により、中空粒子4の球状部同士が接触することが阻害されるため、粒子間にわずかなサイズの空隙5を持たせた状態で中空粒子4を配置することができる。したがって、表面に棘状の突起形状を有する中空粒子4を有する反射防止膜3は、コーティングした際に粒子の配列性を大きく乱すことなく反射防止膜全体における空気の含有量を増やすことができる。そのため、棘状の突起サイズを適宜選択することにより、屈折率が小さく散乱が少ない反射防止膜3を作製することができる。
【0020】
本発明と異なり、基材2上に表面に棘状の微小突起を有さない中空粒子14を有する反射防止膜13を有する光学部材11は、図2に示すように、本発明の反射防止膜3と比較して空隙15が少なく、屈折率が高く反射防止性能が低い。
【0021】
本発明の反射防止膜3は、中空粒子4の空間充填率は50体積%以上68体積%以下が好ましい。中空粒子4の空間充填率が50体積%未満だと、粒子間の空隙が大きくなり、光散乱が増大する。また、中空粒子4の空間充填率が68体積を超えると、空隙が少なく前述の図2にしめした反射防止膜と比べて、実質的な屈折率を低くすることができない。なお、図2に示したように単一の真球粒子が最密充填されたとき(完全に整列した状態)の理論的最大充填率は74.1%である。
【0022】
粒子の空間充填率(F)は、下記の(式1)により求める事ができる。(式1)において(a)は微粒子の平均粒子径であり、動的光散乱法(DLS)によって求める事ができる。また、(b)は粒子の平均重心間距離であり、膜表面を走査電子顕微鏡で観察して得られた画像から、image Pro PLUS(メディアサイバネティクス社製)などの市販の画像処理ソフトで用いて画像処理をすることで求めることができる。ただし、粒子の平均重心間距離(b)は、近接する6つの粒子との距離の平均とし、少なくとも20個以上の粒子に対して計算を行い、平均した値を用いる。
F={2×(4/3)π×(a/2)}/{(24√2)×(b/2)} (式1)
【0023】
反射防止膜3は、強度を上げるため10体積%以下のバインダーを含んでいても良く、より好ましくは5体積%以下含んでいても良い。しかし、反射防止膜3の屈折率を下げるためにはバインダーを含まないことが好ましい。
【0024】
本発明の反射防止膜3は、中空粒子4と空隙5によって屈折率を下げられるので、屈折率が1.1.08以上1.14以下とすることができる。
【0025】
(中空粒子)
図3は、本発明の表面に棘状の微小突起の棘部31を有する中空粒子4の模式図である。本明細書において、棘とは、中空粒子表面32において、接線に対して少なくとも45度以上傾斜した方向に延びた針状のものをいう。
【0026】
棘の形状は、走査型電子顕微鏡、あるいは走査透過型電子顕微鏡で観察することができる。まず、50万倍に拡大した上で粒子の反射画像を撮影し、少なくとも粒子数が10個となるように複数枚の画像を撮影する。各々の画像をImage Pro Plus(メディアサイバネティクス社製)を用いてコントラストを適宜処理する。そして、粒子表面の接線に対して45度以上傾斜した方向に延びる棘状の突起について、棘の突起の粒子表面の長さ33、棘の高さ34、及び棘状の突起が粒子表面に占める割合を求める。全撮影画像内に存在する10個以上の中空粒子の表面に対して計算し、粒子数で平均した結果の棘の高さ及び粒子の外周に対する棘の突起が占める割合を棘の構造として規定する。
棘の高さは、3nm以上20nm以下が好ましい。3nmより小さい場合、成膜時に粒子間距離が狭くなり、反射防止膜3の屈折率が中空粒子4の屈折率に近づくため好ましくない。また、棘の高さが20nmより大きいと、粒子間に空隙が増え、散乱が大きくなる。
【0027】
また、棘状の突起が粒子表面に占める割合が3%以上30%以下であることが好ましい。棘状の突起が粒子表面に占める割合が3%未満であると、中空粒子4間に空隙を設けることができない。また、棘状の突起が粒子表面に占める割合が30%を超えると、棘状の突起が粒子表面に占める割合が大きくなり屈折率が大きくなり反射防止性能が低下する。
【0028】
棘の高さ及び棘状の突起が粒子表面に占める割合は、溶液のpH、シェル材料の量、反応温度等で調整することができる。
【0029】
中空粒子4は、棘部を除いた形状の個数平均粒径が20nm以上210nm以下であることが好ましい。中空粒子の個数平均粒径が210nmより大きい場合には、反射防止膜3の光散乱が大きくなる。
【0030】
中空粒子4は、低屈折率の材料が好ましく、SiO、MgF、フッ素、シリコーンなどの有機樹脂を用いることができる、これらの中で、SiO、MgF用いることが好ましく、粒子の製造が容易であるSiOがより好ましい。
【0031】
中空粒子の製法上、粒子が界面活性剤やポリマー等の有機物を介し、液中で粒子の集合体を形成する場合がある。このときの集合体とは、粒子同士が硬く凝集しているわけではなく、柔らかい鎖のような状態を指す。この集合体サイズを制御することによって、粒子間の空隙サイズ及び集合体間の空隙サイズを制御することが可能である。その結果、膜の屈折率が低く、かつ、散乱がさらに低減された反射防止膜を形成することが可能となる。集合体のサイズが大きいと成膜時に集合体同士の間に大きなボイドが発生してしまい、従来並みの散乱特性となるため、この鎖のサイズは平均で20nm以上250nm以下がより好ましい。
【0032】
(光学部材の製造方法)
反射防止膜3は、表面に棘状の微小突起を複数有する中空粒子4を有する塗料を製造した後、その塗料をコーティングすることによって得られる。
【0033】
中空粒子4を製造する製造工程は、水中でコア粒子を製造するための第一工程、コア粒子の表面に棘状の突起を有するシェルを形成する第二工程、コアを除去することによって表面に棘形状の突起を保持したまま中空粒子を製造する第三工程、を有する。本発明の光学部材1の製造方法は、第三工程までで得られた中空粒子4を含む塗料を調整する第四工程と、その後、塗料を塗布して成膜する第五工程を有する。第一工程から第五工程について、下記に、詳細に説明する。
【0034】
[第一工程]
有機粒子から成るコア粒子を合成する手法としては、比較的粒子サイズの揃った100nm以下のラテックス粒子が得られる乳化重合を用いることが好ましい。乳化重合の際のモノマーとしては、スチレン、アクリル酸エステル、酢酸ビニル等を用いることが好ましいが、水中での安定性を考慮し、酸素原子の含まれないスチレン等のモノマーを用いることがより好ましい。
【0035】
乳化重合に用いる界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩のような、水溶性のカチオン界面活性剤が好ましい。具体的には、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。
【0036】
重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤が好ましい。さらには、反応が安定的に進行するように、界面活性剤と同じカチオン型の水溶性重合開始剤が望ましい。例としては、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩、2,2’’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、が挙げられる。これらの開始剤は、10時間半減期温度が重合時の温度条件よりも高くなるように適宜選定される。
【0037】
コア粒子のサイズは、10nm以上200nm以下であることが好ましい。10nm未満の場合、平均粒子サイズに対するサイズばらつきが大きくなるため好ましくない。200nmより大きい場合、第五工程で得られる反射防止膜による光散乱が発生するため好ましくない。
【0038】
粒子径は、動的光散乱測定装置ゼータサイザーナノZS(マルバーン製、以下DLS)により、数平均粒子径として測定できる。
【0039】
また、第二工程で用いるシェル材料は、強酸性の場合を除き一般的にゼータ電位がマイナスとなる。表面にマイナス電位のシェル材料を吸着させるためには、コアの電位は+30mV以上であることが好ましい。ゼータ電位は、粒子径を測定する際に用いたDLSにより測定できる。
【0040】
[第二工程]
第二工程では、第一工程で得られるコア粒子の表面にシェルを形成し、表面に棘状の突起を有するコアシェル粒子を製造する。形成されるシェルの無機成分は、RySiOz(Rは炭化水素基、0≦y≦1、1≦z≦2)で示されることが好ましい。このRySiOz成分はケイ素アルコキシドの加水分解縮合により得ることができる。例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシランに代表されるテトラアルコキシシランや、メチルトリメトキシシランやメチルトリエトキシシランに代表されるアルキルトリアルコキシシラン、またそれらを混合したものを用いることができる。
【0041】
これらのケイ素アルコキシドの加水分解は、棘形状が形成されやすいよう、酸性条件下で反応を進めることが好ましい。一般的には、アルコキシドの加水分解の初期において、その反応機構から、酸性下で二次元的または異方的にオリゴマーが成長し、塩基性下で三次元的ないし等方的にオリゴマーが成長することが知られている。例えば、コア粒子のない水溶液でケイ素アルコキシドの加水分解重合を行うと、酸性下では異方的にオリゴマーが成長した楕円やフィラー形状の粒子が得られ、塩基性下では等方的にオリゴマーが成長した真球状粒子が得られる。そのため、塩基性条件でコアシェル粒子を製造すると、オリゴマーが等方的に成長してしまい、表面が平滑なシェル形状となるため好ましくない。
【0042】
シェルが形成されたコアシェル粒子のゼータ電位は+15mV以上であることが好ましい。+15mV未満では粒子同士の斥力が弱くなるために粒子同士が凝集しやすく、実質的に大きなサイズの凝集粒子として液中で分散する。そのため、塗料を塗布して成膜後の塗料成膜工程後に膜により発生する散乱値が大きくなってしまう。また、中空でないシリカ粒子を別途作成し、ゼータ電位が−15mV以上となるようなpHを予め測定しておき、そのpHにおいて、コアの周囲にシェルを合成することが好ましい。これにより、コアを除去した際の中空粒子の分散性を確保することができる。コアシェル粒子の表面電位は、コア材料、シェル材料、pH等で調整することができる。
【0043】
第2工程では、pH3以上pH6以下の条件で反応させることにより、コアシェル粒子のゼータ電位は+15mV以上とすることが可能となる。pH3未満ではオリゴマーの成長が二次元的に進みすぎるために、棘のサイズは大きくなる。しかし、コア表面に付着した異方形状オリゴマーの嵩高さが原因となって、オリゴマー同士の結合点が少なくなり、シェルとしての強度が低下するため好ましくない。pH7を超えると表面が棘状のコア/シェル粒子が生成しない。pH調整剤としては、塩酸、リン酸、シュウ酸、硫酸が主に挙げられるが、汎用の酸性水溶液を用いることができる。
【0044】
コア/シェル型粒子は、棘部を除いた形状の個数平均粒径が20nm以上210nm以下であることが好ましい。コア/シェル型粒子の個数平均粒径が210nmより大きい場合、第五工程で得られる反射防止膜による光散乱が大きくなる。
【0045】
コア/シェル粒子の平均粒子径は第一工程と同様にDLSで測定できる。
【0046】
[第三工程]
第三工程では、第二工程で得られたコアシェル粒子からコアを取り出し、中空粒子を形成する。コアを取り出す方法には限定されないが、例えば、シランカップリング剤等でコアを疎水化した上でトルエン等の芳香族有機溶媒と一緒に抽出する既存の方法(特開2014−34488)が挙げられる。カチオン性の有機コア成分がアニオン性の中空粒子とイオン的な相互作用が強い場合は、中空粒子の精製が困難となるため、粒子とポリマーが両方溶解しやすい非プロトン性極性溶媒等の有機溶剤を使用するのが好ましい。
【0047】
[第四工程]
第四工程では、成膜に適した中空粒子塗料とするために、中空粒子及び溶媒以外の成分を除去する。除去する方法としては、濾過、遠心分離、イオン交換、限外濾過等が挙げられる。これらにより、第三工程までに使用した界面活性剤、開始剤、pH調整剤等の成分を除去できる。DLSによって、コアシェル粒子のサイズより大きな粒子径が確認できる場合、中空粒子は集合体を形成している。この場合、成膜後の反射防止膜の散乱を減らすために、集合体のサイズが250nm以下となるまで、不要成分を除去することが好ましい。また、蒸留等により、成膜に適した溶媒に適宜変更する。これにより、表面に棘状突起を有する中空粒子4と溶媒から成る、純度の高い中空粒子塗料を得ることが可能である。中空粒子の平均粒子径は、第一、第二工程と同様にDLSを用いて測定できる。
【0048】
[第五工程]
第四工程で得られた中空粒子塗料をコーティングすることによって、低屈折率の反射防止膜を得ることができる。揮発性の有機溶媒を用いてコーティングした場合、反射防止膜は中空シリカ粒子のみから成り、粒子の外側は空気であるため、膜の屈折率を大幅に低下させることができる。また、得られた反射防止膜の上に、さらに材料を成膜することが可能である。例えば、シリカオリゴマーを用いた場合、屈折率は上昇するものの、膜としての強度改善が期待できる。
【0049】
コーティング方法としては、スピンコート、バーコート、ディップコートなどの溶液塗布が簡便、低コストであり好ましい。また、本発明の製造方法で得られる中空粒子をスパッタ法や蒸着法といった方法で成膜し、反射防止膜として用いることも可能である。
【0050】
このような反射防止膜を、プラスチックやガラスといった透明材料上に形成することによって、表面の反射率を大幅に低減した光学素子を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下の実施例・比較例では、下記の方法で測定および評価を行った。
【0053】
(粒子径の測定)
粒度分布計(ゼータサイザーナノZS、マルバーン製)を用い、ガラス製セルに約1mlの溶液を入れて25℃で測定した。
【0054】
(棘の高さの測定および棘状の突起が粒子表面に占める割合の算出)
棘の形状は、下記の手順で測定した。
【0055】
1.走査透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製、HD2300[製品名])を用いて100万倍の倍率で得られた粒子の反射像を複数撮影した。
【0056】
2.ランダムに30個以上の粒子を抽出し、Photoshop(Adobe社製)のような画像処理ソフトで2値化した。
【0057】
3.粒子表面を測定し、表面に対して垂直方向の高さが3nm以上20nm以下の凹凸を棘とみなした。
【0058】
棘状の突起が粒子表面に占める割合は、下記のように求めた。
【0059】
4.上記2.で得られた画像内の各粒子について、前記棘の領域を除いた形状の断面積及び重心を求め、前記断面積と同じ面積の真円の外周長をA、重心を中心とする真円を特定する。また、前記棘の形状は、前記真円からから突き出た形状となるように特定する。その時、前記真円の外周において、前記棘が付き出ていると重なる部分の長さをBとした。棘状の突起が粒子表面に占める割合は、B/Aとして算出した。
【0060】
(溶液中のpHの測定)
水溶液のpHの測定には、堀場製作所製のD−71Sを用いた。
【0061】
(屈折率の測定)
シリコンウエハ上に成膜した薄膜を用い、分光エリプソメータ(VASE、J・A・Woolam製)で、波長380nmから800nmまで屈折率を測定した。その際、薄膜に対してはCauchyモデルを適用し、フィッティングを行った。得られた屈折率の550nmの値を本実施例の屈折率として表記した。
【0062】
(中空粒子膜のボイドサイズ及び密度の測定)
中空粒子膜中のボイドサイズ及び密度は、下記の手順で算出した。
【0063】
1.走査型電子顕微鏡(Philips社製、XL30[製品名])を用いて10万倍の倍率で得られた粒子の反射像を1枚撮影した。
【0064】
2.Photoshop(Adobe社製)のような画像処理ソフトで、最表面に粒子が存在する領域としない領域を2値化した。
【0065】
3.粒子が存在しない2000nm2以上の空間をボイドとみなし、1μm2あたりのボイドの個数を求めた。
【0066】
(散乱の測定)
成膜した薄膜に対し、照度4000ルクスの光量を垂直に照射した状態で、後方45°の角度からカメラで撮影し、得られた画像から基板の映る範囲の700×700ピクセルの範囲を指定し、画像処理ソフトで解析した際の輝度値を散乱値とした。
【0067】
光源には、150Wのハロゲンファイバー照明装置(PHL−150C)を用い、ハロゲンファイバー照明装置で発せられた光をロッドホモジナイザ(RHO−13S−E2)に通し、虹彩絞りで照度を4000ルクスになるように光量を調節した。撮影に用いたカメラは、カメラレンズ(Compact−Macro Lens EF 50mm)を装着したカメラ(Canon EOS40D)を用い、シャッタースピード10秒、絞りF10、ISO400の条件で撮影した。画像処理ソフトにはPhotoshop(Adobe社製)を用いた。
【0068】
<実施例1>
事前にテトラエトキシシラン(キシダ化学製)2gをpH8.0の水に加えて24時間撹拌し、シリカ微粒子を合成した。この微粒子のゼータ電位を測定したところ、表1のような値となった。
【0069】
【表1】
【0070】
[第一工程]
スチレンを用いてコア粒子となるポリスチレン重合体を合成した。まず、反応容器内に水240gと0.01g/ml濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウム水溶液(シグマアルドリッチ社製、以下、CTAB)5gを入れた後、窒素を充満して80℃に加熱した。加熱後、特級スチレン(キシダ化学製)2mlを加えて5分撹拌し、さらにスチレンの重合開始剤である0.1g/ml濃度の2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩水溶液(以下、AIBA)を10ml加え、4時間攪拌を行った。室温まで冷却した後、この混合液1ccを用いてDLSによる数平均粒子径を測定したところ、27.4nmであった。
【0071】
[第二工程]
第一工程で得られたコア粒子分散液245gがpH4.5となるように塩酸(キシダ化学製)を添加した。このとき、コア粒子のゼータ電位を測定すると、+47mVであった。その後、テトラエトキシシラン(キシダ化学製)を2g混合して撹拌を行い、コアシェル粒子の分散液を調製した。50時間後、1ccを取り出し、DLSで粒子径及びゼータ電位を測定したところ、32.2nm、+27mVであった。また、走査型電子顕微鏡で粒子を観察したところ、表面に棘を有するコアシェル型の粒子を確認することができた。
【0072】
[第三工程]
第二工程で得られたコアシェル粒子分散液240gに対し、n−オクチルジメチルクロロシラン(東京化成製)を5gとトルエン50gを加え、2時間撹拌を行った。24時間静置し、水層とトルエン層に分離した。
【0073】
[第四工程]
第三工程で得られる水層を抽出した後、MWCO100,000の限外濾過膜に繰り返し透過させ、水溶性の不純物を水分子と同時に除去しながら、イソプロピルアルコールを添加した。また、限外濾過により、濃縮も行い、全量が30ccとなったところで限外濾過を停止した。得られた溶液0.3gを乾燥し、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、表面に棘形状を有する中空粒子を確認することができた。また、50万倍に拡大した画像を5枚撮影し、粒子23個に対して棘の平均高さと、棘状の突起が粒子表面に占める割合を画像処理により求めたところ、それぞれ7nm及び20%となった。
【0074】
[第五工程]
第四工程で得られた30ccのイソプロピルアルコール溶媒の中空粒子塗料をBK−7上ガラス上にスピンコートを用いて成膜した。この単層膜の屈折率を測定すると、1.11であり、散乱値は19となった。また、ダイヤモンドカッターで基材を切断し、走査型電子顕微鏡を用いて断面を観察したところ、図4に示すように膜厚123nmの粒子積層膜を観察することができた。表面の観察画像を用いて粒子の充填率を計算したところ、70%であった。この充填率を用いた場合、計算上膜の屈折率は1.14であったので、屈折率が0.03低下可能なことが確認できた。
【0075】
実施例の粒子と反射防止膜の物性は表2に記載する通りだった。
【0076】
<実施例2>
[第一工程〜第二工程]
pHを3.0に調製する以外は、実施例1と同様にして行い、表面に棘を有する33.5nmのコアシェル型粒子を得ることができた。また、ゼータ電位を測定したところ、+30mVであった。
【0077】
[第三工程〜第四工程]
実施例1と同様にして行ったところ、棘の平均高さが12nmで、棘状の突起が粒子表面に占める割合が25%の中空粒子を確認することができた。
【0078】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.12で散乱値が20であった。表面の観察画像を用いて粒子の充填率を計算したところ、65%であった。この充填率から予想される屈折率は1.15となったため、0.03屈折率の低下を確認することができた。
【0079】
<実施例3>
[第一工程〜第二工程]
pHを5.5に調製する以外は、実施例1と同様にして行い、表面に棘を有する33.6nmのコアシェル型粒子を得ることができた。
【0080】
[第三工程〜第四工程]
実施例1と同様にして行ったところ、棘の平均高さが5nmで、棘状の突起が粒子表面に占める割合が10%の中空粒子を確認することができた。
【0081】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.11で、散乱値が20であった。表面の観察画像を用いて粒子の充填率を計算したところ、68%であった。この充填率から予想される屈折率は1.14となったため、0.03屈折率の低下を確認することができた。
【0082】
<実施例4>
[第一工程〜第二工程]
pHを6.0に調製する以外は、実施例1と同様にして行い、表面に棘を有する33.4nmのコアシェル型粒子を得ることができた。また、ゼータ電位を測定したところ、+17mVであった。
【0083】
[第三工程〜第四工程]
実施例1と同様にして行ったところ、棘の平均高さが4nmで、棘状の突起が粒子表面に占める割合が9%の中空粒子を確認することができた。
【0084】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.11で、散乱値が21であった。表面の観察画像を用いて粒子の充填率を計算したところ、67%となった。この充填率から予想される屈折率は1.14となったため、0.03屈折率の低下を確認することができた。
【0085】
<実施例5>
[第一工程〜第二工程]
実施例1と同様に行った。
【0086】
[第三工程]
第二工程で得られたコアシェル粒子分散液240gに対し、テトラヒドロフラン(THF)240gを加え、1時間撹拌を行った。
【0087】
[第四工程]
第三工程で得られた水とTHFの混合液をMWCO100,000の限外濾過膜に繰り返し透過させ、水溶性の不純物を水分子と同時に除去しながら、イソプロピルアルコールを添加した。また、限外濾過により、濃縮も行い、全量が30ccとなったところで限外濾過を停止した。このとき、DLSを用いて中空粒子の集合体のサイズを測定したところ、348nmであっため、集合体のサイズが229nmとなるまでさらに限外濾過を行った。
【0088】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.09で、散乱値が16であった。また、中空粒子膜のボイド密度を測定したところ、粒子が存在しない2000nm2以上のボイド空間は1個/μm2となった。
【0089】
<実施例6>
[第一工程〜第三工程]
実施例5と同様に行った。
【0090】
[第四工程]
実施例5と同様に1度目の限外濾過を行った後、中空粒子集合体のサイズを159nmとなるまで2度目の限外濾過を行った。
【0091】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.10で、散乱値が8.5であった。また、中空粒子膜のボイド密度を測定したところ、粒子が存在しない2000nm2以上のボイド空間は確認できなかった。
【0092】
<比較例1>
[第一工程〜第二工程]
実施例1と同様の第一工程を実施した後、第二工程でpH6.5に調製し、ケイ素アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(東京化成製)2gを混合して撹拌したところ、3時間撹拌したところで粒子同士の凝集が目視で確認できた。走査透過型電子顕微鏡を用いて1粒子のサイズを見積もったところ、約33nmであったが、表面に棘は確認できなかった。凝集した粒子のゼータ電位を測定したところ、+7mVであった。
【0093】
[第三工程〜第四工程]
実施例1と同様にし、得られた粒子を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、棘を有さない中空粒子の凝集体を確認した。
【0094】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.22で散乱値が75であった。
【0095】
<比較例2>
[第一工程〜第二工程]
第二工程でpH8.0に調製する以外は、比較例1と同様にして行い、コアシェル粒子を合成したところ、5時間撹拌したところで粒子同士の凝集が目視で確認できた。走査透過型電子顕微鏡を用いて1粒子のサイズを見積もったところ、約33nmであった。粒子の表面に棘は確認できなかった。凝集した粒子のゼータ電位を測定したところ、+4mVであった。
【0096】
[第三工程〜第四工程]
実施例1と同様にし、得られた粒子を走査型電子顕微鏡で観察したところ、棘を有さない中空粒子の凝集体を確認した。
【0097】
[第五工程]
実施例1と同様にして、中空粒子の成膜を行ったところ、膜の屈折率が1.21で、散乱値は82であった。
【0098】
<比較例3>
[第一工程〜第二工程]
第二工程でpHを2.0に調製する以外は、比較例1と同様にして行い、表面に棘を有する31.9nmのコアシェル型粒子を得ることができた。また、ゼータ電位を測定したところ、+32mVであった。棘の形状を測定したところ、棘の平均高さが22nmで、と棘状の突起が粒子表面に占める割合35%であった。
【0099】
[第三工程]
実施例1と同様にして得られた水層及びトルエン層の両方から0.3gずつ取り出して、乾燥させ、走査型電子顕微鏡で観察したところ、中空粒子は観察できなかった。
【0100】
<比較例4>
日揮触媒化成製の20wt%濃度の中空シリカ粒子塗料(スルーリア1110)を用いて検討を行った。まず、粒子を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、棘を有さない中空粒子を確認した。この粒子塗料を5重量%となるようにイソプロピルアルコールで希釈し、スピンコートで成膜を行った。得られた膜の屈折率及び散乱を測定したところ、屈折率が1.19、散乱が22であった。走査型電子顕微鏡を用いて撮影した画像の中から任意の粒子20個を取り出し、二次元の空洞とシリカの割合よりこの中空粒子の屈折率を見積もったところ、1.258となった。また、充填率が70%となったため、膜の屈折率の計算値は1.19となり、実測値と同じ値となった。
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の反射防止膜は、光の入出射面での界面反射光量を抑制する機能を有する光学素子、例えばカメラやビデオカメラをはじめとする撮像機器、もしくは液晶プロジェクターや電子写真機器の光走査装置をはじめとする投影機器に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 光学部材
2 基材
3 反射防止膜
4 表面に棘状の突起形状を有する中空粒子
5 空隙
31 棘部
32 中空粒子のシェル
33 棘の突起の粒子表面の長さ
34 棘の高さ
図1
図2
図3
図4