【0016】
(3)分散液
分散液は、釉薬を所定の水溶液で分散した液である。水溶液には、水溶性の熔融材が溶解している。分散液は、成形体に塗布されるものであるから、本明細書においては「塗布物」ともいう。
釉薬は、タイルに用いるものであれば、特に限定されず、幅広く用いることができる。例えば、長石、粘土、ガラスフリット、石灰石、珪石、滑石等を混合した釉薬を用いることができる。
釉薬は、分散剤を含有していてもよい。
熔融材は、水溶性であれば特に限定されず、種々の熔融材を用いることができる。
例えば、熔融材は、ナトリウムの塩、カリウムの塩、カルシウムの塩、マグネシウムの塩、亜鉛の塩、ホウ酸、及びホウ酸の塩からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物であることが好ましい。これらの熔融材を用いることで、タイルの防汚性が高くなる。なお、ホウ酸、ホウ酸の塩は、タイルの表面の親水性を高めるため、より防汚機能を高める効果がある。また、タイルにデジタル加飾(インクジェット加飾)をする場合は、インクの発色に影響の少ないカリウムの塩が有用である。
熔融材は、ナトリウムの炭酸塩、ナトリウムの有機酸塩、カリウムの炭酸塩、カリウムの有機酸塩、カルシウムの有機酸塩、マグネシウムの有機酸塩、亜鉛の有機酸塩、ホウ酸のナトリウム塩、及びホウ酸のカリウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物であることが特に好ましい。これらの熔融材を用いることで、タイルの防汚性が高くなる。また、これらの熔融材は、焼成時に窯内で腐食性ガスを生じないから望ましい。なお、ナトリウムの有機酸塩、カリウムの有機酸塩、カルシウムの有機酸塩、マグネシウムの有機酸塩、亜鉛の有機酸塩、における有機酸としては、特に限定はされないが、クエン酸、アスコルビン酸、酢酸、酒石酸など人体に無害なものが製造上好ましい。
熔融材として、水に溶解した場合にアルカリ性を示す塩を用いる場合には、分散液中に、酸を含有させることが好ましい。酸を含有させることで、アルカリが中和される。酸としては特に限定されず、窯内での腐食性ガスが発生しない観点から、有機酸を用いることが好ましい。有機酸の中でも、溶解度が高い、安価で入手しやすい、刺激臭がなく人体に無害などの観点から、クエン酸を用いることが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により更に具体的に説明する。実験例1、2、5、6は比較例に該当し、実験例3、4は実施例に該当する。
【0028】
1.タイルの作製
(1)タイル原料を成形した成形体(素地)の準備
試験に使用した素地は一般的な迅速焼成無釉素地で、長石、陶石、粘土等からなる。
無釉素地は着色のため、ケイ酸ジルコニウムや各種顔料を配合することもあるが、本実験では、顔料は配合しなかった。原料を水と分散剤とともにボールミルで細磨したのち、ミルより出し、スプレードライヤーで顆粒状に乾燥して、タイル原料(坏土)を得た。
このタイル原料の含水率は約6%程度である。このタイル原料を一軸油圧プレスで110mm角に成形して成形体を得た。そして、成形体を乾燥させた。
【0029】
(2)元釉薬の作製
元釉薬は以下の組成とし、ポットミルで24時間細磨した。
元釉薬組成
カリウム長石 70重量部
蛙目粘土 15重量部
石灰石 15重量部
水 60重量部
ポリカルボン酸ナトリウム系分散剤 水を除く固形分に対して0.2wt%
【0030】
(3)分散液(塗布物)の調製
実験例2〜6では、表1に記載の分散液を使用した。実験例1は分散液を使用してない。各分散液は、下記の表1の配合比で、薬さじを用いて混合して調製した。なお、下記表1における単位は、重量部である。
クエン酸は炭酸カリウムの中和のため使用した。また、表1中、「CMC1.8%溶液」とは、カルボキシメチルセルロースの1.8wt%の水溶液を意味する。分散液の成分として、カルボキシメチルセルロースの水溶液を用いることで、沈殿を抑え分散液の粘度がスプレーコーティングに適したものとなり、表面に比較的均質な釉薬層を備えたタイルとすることができる。
【0031】
【表1】
【0032】
(4)塗布方法
塗布はスプレーガンを用いて、分散液の塗布量が0.03g/cm
2になるように塗布した。この時素地は60℃に加熱したものを用いた。
【0033】
(5)焼成
塗布の終わった素地は120℃で30分乾燥したのち、ローラーハースキルンで焼成した。最高温度1191℃とし、焼成時間は53分とした。このようにして実験例1〜6のタイルを得た。なお、いずれのタイルも無釉品の風合いが残されていた。
【0034】
2.防汚性の評価試験(1)
墨汚れ試験を行った。
(1)事前色差測定
タイルの表面の色差を測定し、Lab値を記録した。この測定には、コニカミノルタ社CR−410を使用した。以下に示す事後色差測定においても同様の機器を用いた。
【0035】
(2)墨塗り
市販墨汁(呉竹社 いろいろぼくてき)を原液のまま刷毛で表面に塗った(
図1参照)。
図1において、No.1〜No.6は、それぞれ実験例1〜6のタイルを示す。以下の図面においても同様である。
【0036】
(3)焼き付け
墨塗りをしたタイルを105℃の乾燥器で3時間焼き付けた。
【0037】
(4)洗浄
焼き付け後のタイルを、流水の下、市販の亀の子タワシ(亀の子束子1号(株式会社亀の子束子西尾商店))を使って3分間表面を洗浄した。各タイルの洗浄後の状態を
図2に示す。
図2に示されるように、実験例1のタイルに比べて、実験例2〜6のタイルは墨が洗浄後に落ちていることが確認された。
【0038】
(5)事後色差測定
事前測定同様、洗浄後に、色差計で各タイルの色差を測定した。そして、〔1〕墨汁で汚す前である「事前」と、〔2〕墨汁で汚し、その後洗浄した後である「事後」と、の色差を△Eで求めた。△Eが小さいほど洗浄性が良く防汚性能に優れることになる。
結果を表2に示す。釉薬及び熔融材を含有する分散液を用いた実験例3、4は、△Eが非常に小さく、防汚性能が特に優れていた。分散液を使用してない実験例1は、防汚性能が低いことが確認された。釉薬のみを含有する分散液を用いた実験例2は、実験例1よりも防汚性能に優れるものの、実験例3、4の防汚性能には及ばなかった。熔融材のみを含有する分散液を用いた実験例5、6は、実験例1よりも防汚性能に優れるものの、実験例3、4の防汚性能には及ばなかった。
【0039】
【表2】
【0040】
3.防汚性の評価試験(2)
マジック除去性評価を行った。
(1)油性ペンによる文字の書き込み
各タイル表面にマジック(油性ペン:ゼブラハイマッキ−油性)でS字を書いた(
図3参照)。
【0041】
(2)水の吹きかけ
S字が書かれた各タイル表面に、アトマイザーで少量の水を吹きかけ、研磨剤の入っていないナイロンたわしで文字を擦った。
【0042】
(3)評価
目視にてタイル表面のマジックの取れ方を観察した。
図4にナイロンたわしで擦った後の各タイルの状態を示す。
図4から以下のことが確認できた。
・実験例1:マジックの跡がはっきり残り、マジックが除去できない。
・実験例2:マジックは、かなり薄くなるが、マジックの跡が残った。
・実験例3:マジックは、ほとんど除去できた。
マジックは、うっすらと痕跡が視認できる程度である。
・実験例4:マジックは、ほとんど除去できた。
マジックは、うっすらと痕跡が視認できる程度である。
・実験例5:マジックは、ある程度除去できるが、マジックの跡がはっきり残った。
・実験例6:マジックは、ある程度除去できるが、マジックの跡がはっきり残った。
以上の評価結果から、釉薬及び熔融材を含有する分散液を用いると、防汚性が非常に高いことが確認された。
【0043】
4.SEMによる観察、及びEPMA面分析
実験例3のタイルについて、SEMによる観察、及びEPMA面分析を行った。タイルの断面をSEMによる観察したところ、基材層と、基材層の表面に形成された釉層が観察された。そして、同じ断面をEPMA面分析したところ、基材層のうち釉層の近傍には、ホウ酸塩に由来するホウ素が確認された。すなわち、基材層にホウ酸塩が浸み込んでいることが確認できた。浸み込み深さは、基材層の表面から少なくとも1μmであった。すなわち、基材層の表面から1μmの深さの部位では、ホウ酸塩に由来するホウ素が確認された。
なお、SEM写真及びEPMA面分析については、カラー写真を参考資料として物件提出書により提出する。この参考資料において赤線は、基材層と釉層の境界を示している。EPMA面分析の結果では、色の薄い部分(青から水色部分)がホウ素の存在を意味している。この結果を見ると、色の薄い部分は、釉層のみならず、前記境界を越えて基材層まで広がっていることが分かる。すなわち、基材層にまでホウ酸塩が浸み込んでいることが確認できる。
【0044】
5.ホウ酸の湿式分析
実験例3のタイルについて、ホウ酸の湿式分析を行った。ブロムクレゾールパープル中和滴定法を用いた。分析にあたり、タイルの上層、下層をそれぞれ1mmずつ除去して、表面と裏面の分析をした。タイルの上層(表面)には、B
2O
3が0.1wt%存在することが確認された。一方、下層(裏面)では、B
2O
3は検出されなかった。
【0045】
6.実施例の効果
本実施例のタイルによれば、無釉品の風合いを残したまま施釉品並みの防汚性を付与できる。
【0046】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。