特許第6983580号(P6983580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983580
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】搬送装置、及び、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 5/22 20060101AFI20211206BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20211206BHJP
   G03G 15/10 20060101ALI20211206BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   B65H5/22 C
   G03G15/20 505
   G03G15/10
   G03G15/00 460
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-163470(P2017-163470)
(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公開番号】特開2019-38680(P2019-38680A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 智治
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280321(JP,A)
【文献】 特開2010−155457(JP,A)
【文献】 特開2012−111616(JP,A)
【文献】 特開2009−057207(JP,A)
【文献】 特開昭51−018072(JP,A)
【文献】 特開2016−198882(JP,A)
【文献】 特開2016−132233(JP,A)
【文献】 特開2016−94291(JP,A)
【文献】 特開2015−196577(JP,A)
【文献】 特開2010−116262(JP,A)
【文献】 特開2002−211788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/00
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の穴を有するエンドレスベルトであって、記録材を搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトの内周面と接触し、前記搬送ベルトを張架するローラと、
前記搬送ベルトにより搬送される記録材を前記搬送ベルトの内側から吸引する吸引部と、
を有する搬送装置であって、
前記吸引部は、
吸引室と、
前記吸引室のエアーを吸引するファンと、
前記搬送ベルトの内周面側に向かって開いている開口部と、前記開口部よりも開口面積が小さい開口であって前記吸引室と連通する連通口と、を有する複数の凹部と、
を有し、
前記吸引室と連通している複数の前記連通口の総開口面積をα(単位:mm)、前記搬送ベルトの複数の穴のうち、前記吸引室と連通している前記複数の凹部が有する複数の前記開口部上に位置する前記搬送ベルトの穴の総開口面積をβ(単位:mm)、とするとき、前記吸引室と連通している複数の前記連通口は、α/β<0.01の関係を満たし、
前記凹部は、記録材の搬送方向と直交する幅方向において、複数設けられており、前記凹部は、前記搬送装置により搬送され得るすべての記録材が通過し得る第1領域に設けられた第1の凹部と、前記幅方向において前記第1領域よりも外側で、前記搬送装置により搬送される記録材が通過し得る第2領域に設けられた第2の凹部と、を含み、前記第1の凹部は、前記第2の凹部よりも前記幅方向における開口幅が大きいことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記連通口の開口幅は、1.0mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記搬送ベルト上に被搬送物がない状態で前記ファンが前記吸引室を吸引する場合、前記吸引室は、前記凹部よりも200Pa以上低い圧力となることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記吸引室と連通している前記複数の凹部の前記開口部の総開口面積をγ(単位:mm)、とするとき、前記吸引室と連通している複数の前記連通口は、α/γ<0.01の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項5】
記録材の搬送方向における前記複数の凹部の開口幅は、3.0mm以上30.0mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項6】
複数の穴を有するエンドレスベルトであって、記録材を搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトの内周面と接触し、前記搬送ベルトを張架するローラと、
前記搬送ベルトにより搬送される記録材を前記搬送ベルトの内側から吸引する吸引部と、
を有する搬送装置であって、
前記吸引部は、
吸引室と、
前記吸引室のエアーを吸引するファンと、
前記搬送ベルトの内周面側の開口部と、前記開口部よりも開口面積が小さい開口であって前記吸引室と連通する連通口と、を形成する複数の凹部と、
を有し、
前記吸引室と接続している複数の前記連通口の総開口面積をα(単位:mm)、前記吸引室と接続している前記複数の凹部の前記開口部の総開口面積をγ(単位:mm)、とするとき、前記吸引室と接続している複数の前記連通口は、α/γ<0.01の関係を満たし、
前記凹部は、記録材の搬送方向と直交する幅方向において、複数設けられており、前記凹部は、前記搬送装置により搬送され得るすべての記録材が通過し得る第1領域に設けられた第1の凹部と、前記幅方向において前記第1領域よりも外側で、前記搬送装置により搬送される記録材が通過し得る第2領域に設けられた第2の凹部と、を含み、前記第1の凹部は、前記第2の凹部よりも前記幅方向における開口幅が大きいことを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
前記連通口の開口幅は、1.0mm以上であることを特徴とする請求項に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記搬送ベルト上に被搬送物がない状態で前記ファンが前記吸引室を吸引する場合、前記吸引室は、前記凹部よりも200Pa以上低い圧力となることを特徴とする請求項又はのいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項9】
記録材の搬送方向における前記複数の凹部の開口幅は、3.0mm以上30.0mm以下であることを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
記録材を搬送する搬送装置、及び、その搬送装置が用いられる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置内における記録材の搬送方法の1つとして、記録材を搬送ベルトの内側から吸引しながら搬送する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、回転駆動される搬送ベルトに記録材を吸着させて搬送するので、搬送される記録材の平面性を確保しながら搬送することができる。
【0003】
特許文献1には、記録材を搬送する搬送ベルトの内側に位置するプラテンの上面に長溝部が設けられており、その長溝部の底面に小孔部が設けられている構成が開示されている。小孔部はプラテンの内外を貫通する開口部に繋がっている。特許文献1の構成では、吸引ファンがプラテン内を吸引することにより、小孔部に負圧が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−249060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、搬送ベルトが記録材を搬送しているか否かによらず、吸引ファンがプラテン内を吸引することで小孔部及び長溝部に負圧が発生する構成である。そのため、搬送ベルトの内周面がプラテンの上面と接触する構成では、搬送ベルトは、その内周面がプラテンの上面に常に吸引されながら回転する。すなわち、搬送ベルトは回転によりプラテンの上面に対し摺動する。そのため、長期間に亘って、搬送ベルトが回転すると、プラテンの上面との摺動摩擦により搬送ベルトの摩耗に繋がる恐れがあった。特に、記録材の平面性と搬送性を一定に保つために、より大きな負圧で吸着させる場合には、摺動摩擦が大きくなる恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、搬送ベルトの摩耗を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、
複数の穴を有するエンドレスベルトであって、記録材を搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトの内周面と接触し、前記搬送ベルトを張架するローラと、
前記搬送ベルトにより搬送される記録材を前記搬送ベルトの内側から吸引する吸引部と、
を有する搬送装置であって、
前記吸引部は、
吸引室と、
前記吸引室のエアーを吸引するファンと、
前記搬送ベルトの内周面側に向かって開いている開口部と、前記開口部よりも開口面積が小さい開口であって前記吸引室と連通する連通口と、を有する複数の凹部と、
を有し、
前記吸引室と連通している複数の前記連通口の総開口面積をα(単位:mm)、前記搬送ベルトの複数の穴のうち、前記吸引室と連通している前記複数の凹部が有する複数の前記開口部上に位置する前記搬送ベルトの穴の総開口面積をβ(単位:mm)、とするとき、前記吸引室と連通している複数の前記連通口は、α/β<0.01の関係を満たし、
前記凹部は、記録材の搬送方向と直交する幅方向において、複数設けられており、前記凹部は、前記搬送装置により搬送され得るすべての記録材が通過し得る第1領域に設けられた第1の凹部と、前記幅方向において前記第1領域よりも外側で、前記搬送装置により搬送される記録材が通過し得る第2領域に設けられた第2の凹部と、を含み、前記第1の凹部は、前記第2の凹部よりも前記幅方向における開口幅が大きいことを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、
複数の穴を有するエンドレスベルトであって、記録材を搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトの内周面と接触し、前記搬送ベルトを張架するローラと、
前記搬送ベルトにより搬送される記録材を前記搬送ベルトの内側から吸引する吸引部と、
を有する搬送装置であって、
前記吸引部は、
吸引室と、
前記吸引室のエアーを吸引するファンと、
前記搬送ベルトの内周面側の開口部と、前記開口部よりも開口面積が小さい開口であって前記吸引室と連通する連通口と、を形成する複数の凹部と、
を有し、
前記吸引室と接続している複数の前記連通口の総開口面積をα(単位:mm)、前記吸引室と接続している前記複数の凹部の前記開口部の総開口面積をγ(単位:mm)、とするとき、前記吸引室と接続している複数の前記連通口は、α/γ<0.01の関係を満たし、
前記凹部は、記録材の搬送方向と直交する幅方向において、複数設けられており、前記凹部は、前記搬送装置により搬送され得るすべての記録材が通過し得る第1領域に設けられた第1の凹部と、前記幅方向において前記第1領域よりも外側で、前記搬送装置により搬送される記録材が通過し得る第2領域に設けられた第2の凹部と、を含み、前記第1の凹部は、前記第2の凹部よりも前記幅方向における開口幅が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸引室と連通している複数の連通口の総開口面積が十分に小さいので、搬送ベルト上に記録材がない場合に搬送ベルトが吸引される力を抑制することができ、搬送ベルトの摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】搬送装置の構成を説明する斜視図である。
図2】平面板の構成を説明する図である。
図3】搬送ベルトに設けられる吸引穴の構成を説明する模式図である。
図4】搬送・吸引吸着動作を説明する模式図である。
図5】吸引力と開口比の相関を説明する図である。
図6】画像形成装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。以下では、記録材の搬送装置に関し、紫外線により硬化する液体現像剤を用いる電子写真方式の画像形成装置に適用する場合を例に説明する。より具体的には、記録材上に電子写真方式で形成された液体現像剤による画像を、紫外線により定着する定着部に適用する場合を例に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明を実施形態に記載されたものだけに限定するものではない。たとえば、以下で説明する記録材搬送装置は、乾式トナーを用いた電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置(複写機及びレーザービームプリンターを含む)、或いはインクジェット方式の画像形成装置に適用可能である。
【0013】
〔実施例1〕
(画像形成装置)
図6は、画像形成装置の構成の一例を示す模式図である。画像形成装置100は、記録材16上にトナーと紫外線硬化型の液体キャリアとを含む液体現像剤を用いて電子写真方式により未定着の液体現像剤による画像を形成する画像形成部10を備える。さらに、画像形成装置100は、記録材16上に形成された未定着の画像15を紫外線の照射により記録材16上に定着する定着部11を備える。
【0014】
ここで、記録材16は、画像形成装置100によって液体現像剤による画像が形成され得るシート状の媒体であり、例えば、普通紙、コート紙、はがきや封筒などの記録材を含む。また、例えば、記録材16はOHPシートやフィルムであっても良い。便宜上、記録材16の扱いを、通紙、給紙、排紙、通紙部、非通紙部など紙に纏わる用語を用いて説明するが記録材は紙に限定されるものではない。
【0015】
カセット25は、画像形成に使用する記録材16を収容する収容部である。カセット25に収容された記録材16は、送り機構2によって画像形成部10へと給送される。送り機構2は、例えば給紙ローラであり、カセット25内の記録材16を搬送路26へ送り出す。尚、収容部は、複数のカセットを有する構成としても良いし、トレイ状(例えば、手差しトレイ)であっても良い。
【0016】
送り機構2によってカセット25から給送される記録材16は、搬送路26を通って画像形成部10に供給される。より具体的には、画像保持部材1と転写手段4の当接部に供給される。記録材16は、画像保持部材1と転写手段4の当接部にて、転写手段4によって画像保持部材1の外周面上の画像が転写された後、搬送路を通って定着部11へと搬送される。
【0017】
画像形成部10は、電子写真方式により液体現像剤を用いて記録材16上に液体現像剤の画像15を形成する。液体現像剤は、紫外線により硬化する紫外線硬化剤(硬化剤)を含む液体キャリアと、トナーと、を含む。
【0018】
画像形成部10は、直接転写方式であってもよいし、中間転写体を有する中間転写方式であってもよい。
【0019】
直接転写方式である場合、画像保持部材1は、感光体としての感光ドラムである。本実施例における画像保持部材1は、厚みが3mm、外径84mmのアルミニウム製シリンダー(感光ドラム)の表面に有機感光体表層を持ち、長辺の幅(記録材の搬送方向と略直交する方向の長さ)が370mmである。画像保持部材1は、画像保持部材1の駆動手段(不図示)としての駆動モータによって、中心支軸を中心に図6中の矢印R2方向に回転駆動される。電子写真方式の画像形成手段(不図示)は、画像保持部材1を一様の表面電位に帯電する帯電部、露光により潜像を形成する露光部、液体現像剤を用いて潜像を現像する現像部を備えており、画像保持部材1の外周面上に画像を形成する。画像保持部材1に形成された液体現像剤の画像15は、転写手段4としての転写ローラにより記録材16上に転写される。ここで、記録材16上には、未定着の画像15として、トナーと共に紫外線硬化型の液体キャリアも転写される。
【0020】
尚、本例において画像形成部10は電子写真方式の直接転写方式の構成としたが、記録材16への画像形成方法はこれに限らない。例えば、画像保持部材1を中間転写ベルトとする中間転写方式の構成としても良い。具体的には、画像形成手段(不図示)が液体現像剤を用いて感光ドラム上に形成した液体現像剤の画像15を1次転写ローラが中間転写体に1次転写し、転写手段4は2次転写ローラとして中間転写体上の画像15を記録材16に転写する。
【0021】
画像形成部10にて液体現像剤の画像15が形成された記録材16は、搬送路27を通って、定着部11に搬送される。定着部11は、赤外線照射装置(赤外線照射部)13と紫外線照射装置(紫外線照射部)12と搬送装置30を含む。赤外線照射装置13は、記録材16上の液体現像剤による画像15に赤外線を照射することにより、液体現像剤を加熱する。紫外線照射装置12は、記録材16上の液体現像剤による画像15に紫外線を照射することにより、液体現像剤中の紫外線硬化剤を硬化させる。すなわち、紫外線照射装置12は、紫外線で記録材16上の液体キャリアを硬化させることにより、液体現像剤の画像15を記録材16に定着する。
【0022】
定着部11にて定着処理された記録材16は、排出搬送路28を通過して機外に排出される。
【0023】
(搬送装置の全体的な構成)
定着部11は、未定着の液体現像剤の画像15を担持する記録材16を搬送する搬送装置30を備える。
【0024】
搬送装置30は、画像形成部10により未定着の液体現像剤の画像15が形成された記録材16が赤外線照射位置及び紫外線照射位置を通過するように、記録材16を搬送する。ここで、赤外線照射位置とは、記録材16の搬送方向の位置分布で見たときに、赤外線照射装置13のピーク照度の90%以上の照度を有する領域の中心となる位置を指す。また、紫外線照射位置とは、記録材16の搬送方向の位置分布で見たときに、紫外線照射装置12による最大の照度(ピーク照度)となる位置を指す。
【0025】
搬送装置30は、記録材16を吸引しながら搬送する吸引搬送装置である。
【0026】
具体的には、搬送装置30は、多数の吸引穴31a(図3)が設けられた無端状の搬送ベルト(エンドレスベルト)31と、この搬送ベルト31を張架する駆動ローラ35および従動ローラ36、37、38とを備えている。尚、図1では、図の簡略化のために搬送ベルト31に設けられている穴の一部が省略されているが、搬送ベルト31には、周方向の全体的に穴31aが分布している。本実施例における搬送ベルト31は、幅が350mm、周長は900mmである。
【0027】
また、搬送装置30は、駆動ローラ35を介して搬送ベルト31を回動させる駆動モータ(不図示)を備える。搬送ベルト31は、駆動モータの駆動により図6に示される矢印R2の方向に回動する。
【0028】
搬送装置30は、この搬送ベルト31によって搬送される記録材16を、搬送ベルト31に形成された多数の吸引穴31aを介して搬送ベルト31の周面に吸着させるための吸引部を有する。吸引部は、吸引ファン34を有する。吸引部は、搬送ベルト31の内側から搬送ベルト31上の記録材16を吸引する。即ち、吸引ファン34は、搬送ベルト31の上面側から搬送ベルト31の内側に向かう方向に空気を吸い込むことにより、記録材16を搬送ベルト31の上面に吸着する。搬送装置30は、記録材16を搬送ベルト31上に吸着させながら、記録材16を搬送する。これにより、記録材16上の未定着の液体現像剤の画像15に接触せずに記録材16を搬送することができる。
【0029】
図1を用いて、定着部11における搬送装置30の構成を詳細に説明する。図1は、搬送装置30の断面斜視図である。
【0030】
尚、以下の説明において、搬送装置30における上下方向とは、記録材16の搬送面と直交する方向を指すものとする。すなわち、搬送装置30の部材における上面とは、上下方向において記録材16を担持する側の面を指し、搬送装置30の部材における下面とは、上下方向において上面と反対側の面を指す。また、以下の説明において、幅方向とは、記録材の搬送面において記録材16の搬送方向と直交する方向である。
【0031】
搬送装置30は、搬送ベルト31を駆動する駆動ローラ35と搬送ベルト31に対し従動回転する従動ローラ36、37、38、駆動ローラ35の駆動源である駆動モータ(不図示)とそれらを保持する枠体を有する。また、搬送装置30は、吸引溝50を擁する平面板32と吸引台座33と吸引台座33に連結される吸引ファン34が設けられている。平面板32と吸引台座33は、搬送ベルト31の内側に位置する。吸引ファン34は、図1に示すように搬送ベルト31の外側に位置してもよい。
【0032】
平面板32は、駆動ローラ35と従動ローラ36間に配置され、搬送ベルト31は平面板32の上面(接触面)を摺擦するように回動する。平面板32の下方には吸引台座33が配置されている。平面板32は、吸引台座33の天板である。平面板32の下面と吸引台座33で形成される空間D(吸引室)は、吸引ファン34によりエアーが吸引される。吸引ファン34のエアー吸引により、空間Dは、搬送ベルト31上に被搬送物があるか否かに依らず、負圧となる。平面板32と吸引台座33の間は、その境界部分がエアー漏れを防ぐ弾性部材でシールされている。
【0033】
尚、本実施例では、吸引台座33が2つの部屋に仕切られている構成とした。即ち、平面板32と吸引台座33は2つの空間Dを形成している。これらの空間Dは、互いに独立しており、連通していない。それぞれの空間Dに対して1つずつ吸引ファン34が設けられている。しかしながら、平面板32と吸引台座33が形成する空間Dの数は、2つに限限定されるものではない。たとえば、平面板32と吸引台座33は1つの空間Dを形成する構成とし、1つの吸引ファン34が空間Dを吸引する構成としてもよいし、2つ以上の吸引ファンで1つの空間Dを吸引する構成としてもよい。
【0034】
搬送ベルト31には、吸引ファン34による吸引エアーが流れるための吸引穴31aが複数設けられており、搬送装置30により搬送される記録材16がその吸引穴31aを塞ぐことによって記録材16が搬送ベルト31に吸着される。
【0035】
次に、図2を用いて平面板32について説明する。図2(a)は、平面板32の断面斜視図である。図2(b)は、図2(a)中に図示している丸部の拡大図である。
【0036】
記録材16の搬送方向において、搬送ベルト31と摺擦する平面板32の表面には、図2に示すように多数の吸引溝(凹部)50が細かく連続的に並んで設けられている。
【0037】
空間Dは、平面板32に設けられている連通孔52と開口部51とによって吸引台座33及び平面板32の外部と連通している。吸引溝50は、連通孔52と開口部51の間の空間を形成している。
【0038】
図2では、平面板32の上部における吸引溝50のエッジ(稜線、縁)の部分を、符号51で示している。この符号51で示される部分は、搬送ベルト31の内周面側に向けた吸引溝50の開口を形成しているので、開口部51と称する。開口部51は、幅方向に長い長方形の開口を形成している。
【0039】
それぞれの吸引溝50の底面には、平面板32を貫通する連通孔(連通口)52が設けられている。本実施例では、各吸引溝50に1つの連通孔52が設けられている。平面板32の下側の面と吸引台座33により形成されている空間D(吸引室)と、平面板32の吸引溝50と、が連通孔52により空間的に接続されている。
【0040】
尚、1つの吸引溝50に対して複数の連通孔52を設ける構成としても良いが、後述する開口面積比の条件と連通孔52の目詰まりの観点から、連通孔52は各吸引溝50に対して各1個である事が望ましい。
【0041】
平面板32の下側の面と吸引台座33により形成されている空間D(吸引室)に繋がる連通孔52は、1つの空間Dに対して十分に小さい。これにより、平面板32の下側の面と吸引台座33により形成されている空間D(吸引室)には、搬送ベルト31上に記録材16が存在するか否かによらず、吸引ファン34を動作させることにより所定の負圧を発生させることができる。ここで、負圧とは、基準圧よりも低い圧力のことである。負圧をP、基準圧をP、絶対圧をPとすると、負圧Pの大きさは、その差圧の絶対値である。即ち、負圧|P|=|P−P|である。
【0042】
記録材16を安定的に搬送するために、搬送装置30には十分な吸引力が求められる。
【0043】
吸引力が不十分であると、記録材16の搬送性が安定しない。具体的には、記録材16のバタつきにより定着部11内でジャムが発生したり、カールしている記録材16の未定着の画像15が定着部11内の部材を接触することにより画像が乱れたりする恐れがある。
【0044】
これらを鑑み、定着部11における搬送装置30は、200Pa以上の吸引力を備えることが好ましい。
【0045】
本実施例では、搬送ベルト31上に被搬送物が存在しない状態において、吸引ファン34を動作させることにより、空間Dに、200Pa以上の負圧(即ち、|P|≧200Pa)を発生させる。ここで、基準圧は、吸引溝50内の圧とする。すなわち、空間D内の絶対圧は、基準圧である吸引溝50内の圧力よりも、200Pa低い。
【0046】
尚、より詳細には、連通孔52のわずかなエアーフローの影響をできるだけ受けない位置、すなわち、吸引溝50内において連通孔52からもっとも離れた点の圧を基準圧とする。また、本実施例では、後述するように、吸引部は、大きさの異なる吸引溝50を備える。この場合、空間Dと連通している吸引溝50のうち、最も開口部51が大きい吸引溝50での圧を基準圧とする。
【0047】
後述するように、本実施例の吸引部は、連通孔52の総開口面積に対して、開口部51の総開口面積が十分に大きい。これにより、吸引溝50内の圧は、搬送ベルト31上の空間の気圧とほぼ等しくなる。すなわち、仮に画像形成装置100内の内圧が大気圧と等しい場合、基準圧はほぼ大気圧である。
【0048】
一方、搬送ベルト31が記録材16を搬送する場合には、搬送ベルト31上の記録材16が搬送ベルト31の吸引穴31aを塞ぐ。これにより、記録材16が担持されている領域の下に位置する吸引溝50が閉空間となり、吸引溝50にも所定の負圧(ここでは、空間Dと同じ圧、即ち、負圧|P|=200Pa)が働く。これによって、搬送ベルト31上の記録材16に吸引力を作用させることができる。
【0049】
吸引溝50は、幅方向にも複数に分けて設けられている。本実施例では、平面板32の幅方向における中心線に対して対称となるように、複数の吸引溝50が設けられている。幅方向において中央部に設けられている吸引溝50の幅方向の溝長さが長く、幅方向においてその外側(両端部)には、幅方向の長さが短い吸引溝50が複数(図2では3個)連続して設けられている。本実施例では、幅方向における平面板32の中心が搬送される記録材16の幅方向の中心と略一致するように、記録材16は搬送される(中央基準通紙)。
【0050】
吸引溝50に所定の負圧(本例では、負圧|P|=200Pa)を発生させるためには、搬送される記録材16により搬送ベルト31の吸引穴31aが塞がれることによって、吸引溝50が閉空間になることが必要である。そこで、幅方向のサイズが異なる様々な記録材16に対応できるように、吸引溝50は、幅方向に複数に分けて設けられている。
【0051】
ここで、幅方向において、幅方向の溝長さ(開口幅)が最も大きい吸引溝50(図2における吸引溝50x)は、最小通紙領域内に設けられている。ここで、最小通紙領域とは、搬送装置30により搬送され得る全ての記録材が搬送ベルト31にて搬送される際に通過しうる領域を指す。これによって、幅方向のサイズが最小の記録材が搬送される際にも、最小幅の記録材に対し、吸引力を発生させることができるとともに、吸引溝50の数を少なくできる。1つの吸引溝50には、少なくとも1つの連通孔52が必要であることから、吸引溝50の数を減らすことで、十分に小さい連通孔52の総開口面積αを実現できる。
【0052】
また、記録材16の幅方向端部をより確実に吸着できるよう、外側(両端部)に位置する吸引溝50の幅方向の長さは、中央部の吸引溝50の幅方向の長さよりも短く設計されている。具体的には、最小通紙領域より外側、即ち、最小幅サイズの記録材の搬送時に非通紙部となる領域に対応する吸引溝50(図2における吸引溝50y)は、吸引溝50xよりも幅方向の溝長さを短くする。幅方向のサイズが最小の記録材の搬送時に非通紙部となる領域には、中央部よりも幅方向の溝長さが短い吸引溝50を複数設け、様々な記録材16の幅サイズに対応させる。
【0053】
尚、本実施例では、幅方向において吸引溝50を8個並べる構成を例に説明したが、幅方向において設ける吸引溝50の個数はこれに限られるものではない。
【0054】
尚、吸引溝50は、幅方向において、画像形成装置100において通紙可能な記録材16の少なくとも最大の幅方向のサイズ分の長さを設けることが好ましい。
【0055】
また、搬送装置30により搬送され得る記録材とは、画像形成装置100にて通紙可能な記録材を指す。画像形成装置100は、操作者が使用する記録材のサイズ(幅方向のサイズを含む)が入力される入力部200を有する。たとえば、入力部200とは、ユーザーインターフェースとしての操作部である。画像形成装置100において、幅方向のサイズが最小の記録材とは、この入力部200に入力可能(あるいは入力を受け付け可能)な最小の幅方向のサイズである。また、最大の幅方向のサイズとは、この入力部200に入力可能(あるいは入力を受け付け可能)な最大の幅方向のサイズである。
【0056】
ここで、平面板32、吸引台座33、吸引ファン34、吸引溝50、連通孔52が吸引部として機能する。
【0057】
本実施例では、平面板32は、金属製(たとえば、SUS)である。
【0058】
(搬送ベルトの材質)
本実施例の搬送ベルト31は、主成分がカーボンブラックを含有したEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)であり、カーボンブラック、架硫剤、劣化防止剤などを副成分として含む。カーボンブラックを含有する目的は紫外線の照射熱を効率よく吸収するためであり、カーボンブラックを含有していない搬送ベルトよりも効率よく加熱される。搬送ベルト31の主成分は、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムでも良く、またカーボンブラックの代わり又はカーボンブラックに追加して、活性炭、ナノカーボン、グラファイト等の炭素原子から構成される固体材料(炭素材料)を含有させる構成としても良い。更には、搬送ベルトを帯電し難くして記録材16の分離不良を防ぐ観点から、搬送ベルト31の体積抵抗率は1010(Ω・cm)未満であることが望ましい。搬送ベルト31をゴムベルトとする場合には、駆動、従動の各張架ローラを、幅方向における中央部の軸径が幅方向における両端部の軸径よりも大きいクラウン形状とすると好ましい。ゴムベルトの伸縮性を利用して自動調芯されるので、搬送ベルト31が幅方向において中央部に保持される。
【0059】
尚、本実施例で示す搬送ベルト31の材質は、一例であり、他の材料であってもよい。
【0060】
(搬送ベルトの穴)
図3に、本実施例における搬送ベルト31の形状の模式図を示す。幅方向における搬送ベルト31の長さであるベルト幅Wは、画像形成装置100において通紙可能な記録材16の最大の幅方向のサイズ以上である。すなわち、搬送装置30が搬送する記録材16のサイズの最大幅以上である。幅方向において、搬送される記録材16の全体が一様に搬送ベルト31に吸引吸着可能にするためである。
【0061】
搬送ベルト31には、B=φ4の吸引穴31aが、搬送方向(図3中の基準線)に対してG=45°傾いてE=11mm、F=11mmの間隔でベルト幅一杯に満遍なく開けられている。
【0062】
(搬送装置の吸引搬送動作)
図4を用いて、記録材16が搬送ベルト31によって吸引搬送される様子を詳細に説明する。図4は、搬送装置30の模式的断面である。搬送装置30の全体的な構成については図1〜3を用いて上述した通りである。
【0063】
尚、図4では、説明の便宜上、搬送装置30を模式的に簡略化して表している。従って、図1〜3と図4との間で形状が異なる場合があるが、符号が同じものに関しては、図1〜3と同じ部品である。たとえば、吸引ファン34の配置が図1図4で異なるが、図4は模式的に示したものであり、本実施例での実際の配置は図1に示すとおりである。また例えば、図4における搬送ベルト31の吸引穴31aの幅や分布も図1、3と異なるが、図4に示すのは簡略化したものである。また、図4(a)〜(d)の間では符号を省略している箇所があるが、図4において同じ形状の構成は、同じ部材である。
【0064】
図4は、搬送ベルト31が記録材16を担持する前の状態(図4(a))から、徐々に記録材16が搬送ベルト31上に移動していく様子(図4(b)〜(d))を示している。(a)〜(d)へと記録材16が移動するのに伴って、記録材16が搬送ベルト31に吸着される面積が大きくなっていく。
【0065】
図4(a)に示すAは平面板32の連通孔52の直径、Bは搬送ベルト31の吸引穴31aの直径、Cは平面板32に設けられている吸引溝50の開口部51の搬送方向の幅の大きさである。矢印R1は記録材16の搬送方向を示し、矢印R2は搬送ベルト31の回転方向である。平面板32の下面と吸引台座33により形成される空間Dは、連通孔52によって吸引溝50とつながっている。
【0066】
吸引部において、空間Dは連通孔52によって吸引溝50とつながっているが、吸引ファン34による吸引によって空間Dは所定の負圧(本実施例では、負圧200Pa)に保たれる。
【0067】
一方で、連通孔52の大きさは、搬送ベルト31の吸引穴31aの大きさ(又は、吸引溝50の開口部51の大きさ)よりも十分に小さい。詳細な大きさの関係については、後述するが、これにより、搬送ベルト31上の記録材16により搬送ベルト31の吸引穴31aが覆われ、吸引溝50が閉空間となる毎に、順次、記録材16に実質的な吸引力を発生させる構成にすることができる。
【0068】
搬送ベルト31上に被搬送物がない状態では、吸引溝50には、吸引ファン34による所定の負圧が作用しない。搬送ベルト31上の記録材16によって吸引溝50が閉空間となることで、吸引溝50に吸引ファン34による所定の負圧が作用する。
【0069】
すなわち、搬送ベルト31上に記録材16がないときの吸引溝50内の圧力をPx(単位:Pa)とすると、搬送ベルト31上の記録材16により閉空間となった吸引溝50内Pyは、Pxよりも200Pa以上小さい圧となる。
【0070】
以下、図4の説明では、搬送装置30の周囲が大気圧である場合を例に説明する。
【0071】
図4(a)では、記録材16がまだ搬送装置30に達していない。このとき、平面板32の全ての吸引溝50には、吸引ファン34による負圧が実質的に作用しておらず、平面板32の全ての吸引溝50は、大気圧である。なぜならば、開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31aは塞がれておらず、吸引溝50は開放されているからである。
【0072】
図4(b)では、吸引溝50aが搬送ベルト31上の記録材16に覆われている。これにより、吸引溝50が閉空間となり、吸引溝50a内の空気は連通孔52から吸引されて吸引台座33の空間Dと同圧となる(即ち、吸引力が実質的に作用する)。そして記録材16は、搬送ベルト31に吸引吸着される。吸引吸着力は、吸引溝50aでのみ発生しており、吸引溝50b〜50dはまだ大気圧のままである。
【0073】
図4(c)では、記録材16が更に搬送されて、吸引溝50aに続いて吸引溝50bも記録材16により覆われている。そして、吸引溝50bにおいても吸引溝50aと同様に吸引吸着力が発生し、記録材16を搬送ベルト31に吸引吸着する。吸引溝50c〜50dは、まだ大気圧のままである。
【0074】
図4(d)は、全ての吸引溝50が記録材16に覆われている。この時、全ての吸引溝50a〜50dにおいて吸引力が発生しており、記録材16は全面吸着している。
【0075】
このように、記録材16が吸引溝50を覆った時点で吸引溝50に吸引吸着力が発生する。すなわち、搬送ベルト31により記録材16が搬送方向に搬送されるにつれて、閉空間が形成された吸引溝50に順々に吸引ファン34による実質的な吸引力が作用する。よって記録材16は、搬送装置30による搬送に伴って、吸引溝50の搬送方向における開口幅毎に、徐々に記録材16における吸着面積が拡大されるように、順次搬送ベルト31に吸着されていくのである。
【0076】
ここで本実施例の搬送装置30を、図4に示すように、吸引溝50が記録材16により覆われる毎に順次吸引力を発生させる構成とするのは、搬送ベルト31と平面板32との間での摺動摩擦を抑制し、搬送ベルト31の摩耗を抑制するためである。
【0077】
上述したように、搬送装置30にて記録材16を安定的に搬送するために、搬送ベルト31上の記録材16に対する吸引力は200Pa以上にすることが求められる。
【0078】
吸引部により記録材16に200Pa以上の吸引力が働くとき、搬送ベルト31にも同等の吸引力が働く。したがって、搬送ベルト31上に記録材16が存在しない場合にも、常に搬送ベルト31に200Pa以上の吸引力が働き続けると、搬送ベルト31の内周面が常に平面板32の上面と200Pa以上の吸引力を受けながら摺擦され続ける。吸引ファン34の吸引動作中に搬送ベルト31上に記録材16が存在しない場合とは、たとえば、連続通紙での紙間である。また、例えば、画像形成装置100が画像形成を開始可能な状態で、吸引ファン34を動作させながら搬送ベルト31を回転させつつ画像形成命令を待つスタンバイ状態である。
【0079】
そこで、本実施例の搬送装置30は、搬送ベルト31上に記録材16がない場合には、吸引溝50に実質的な吸引力を作用させない構成とすることで、搬送ベルト31の摩耗を抑制する。
【0080】
(吸引装置の詳細な構成1)
搬送ベルト31上に記録材16がない場合には、吸引溝50に実質的な吸引力を作用させない搬送装置30の構成について説明する。
【0081】
具体的には、1つの空間Dと連結するように空いている複数の連通孔52の総開口面積(α)を、この空間Dと連結している複数の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31の総開口面積(β)に対して十分小さくする。即ち、α<βである。より詳細には、1つの空間Dと連結するように空いている複数の連通孔52の総開口面積αは、この空間Dと連結している複数の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31aの総開口面積βに対して、1.0%未満である。即ち、α/β<0.01である。尚、α、βの単位は、mmである。
【0082】
尚、たとえば、1つの空間Dと連結する連通孔52が100個空いており、これらの連通孔52は1つの吸引溝50に1つずつ設けられている(即ち、100個の吸引溝50がある)とする。1つの連通孔52の孔径がAであり、その開口面積をX(mm)とする。100個の連通孔52の開口面積は、どれも同じとする。このとき、総開口面積α=100×Xである。また、この100個の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31aの総開口面積がβである。
【0083】
仮に、吸引溝50の開口部51や、開口部51上の搬送ベルト31の吸引穴31aの大きさが連通孔52と同程度とする場合、次のようになる。すなわち、空間D内を|P|=200Pa以上の負圧にするために吸引ファン34によるエアーの吸引動作を行うと、吸引溝50も|P|=200Pa以上の負圧になってしまう。なぜならば、吸引溝50や吸引穴31aと同程度に大きい連通孔52を介して搬送ベルト31上の記録材16に十分な吸引力を作用させるためには、記録材16の有無に依らず、吸引溝50に200Pa以上の負圧を作用させなければならないからである。このような構成では、搬送ベルト31の摺動摩擦を抑制することができない。したがって、開口部51や、開口部51上の搬送ベルト31の吸引穴31aは、連通孔52に対して十分に大きい方が好ましい。
【0084】
一方で、記録材16の搬送時に、吸引溝50が記録材16により覆われることで吸引溝50に瞬時に200Paの吸引力を発生させるためには、記録材16が搬送ベルト31上にない状態で、空間D内を負圧|P|=200Pa以上にしておくことが求められる。連通孔52の開口面積が大きいと、空間D内に200Pa以上の負圧を発生させるために吸引ファンによるエアー流量(吸引量)を多くしなければならない。大きなエアー流量を要する構成では、吸引ファン34の大型化や吸引ファン34による消費電力の増大に繋がる。したがって、空間Dに対し、連通孔52は、十分に小さい方が好ましい。
【0085】
尚、本実施例では、1つの空間Dと連通している吸引溝50の開口部51の総開口面積をγ(単位:mm)とするとき、β<γである。ゆえに、本実施例では、搬送ベルト31上の記録材16の有無に応じた吸引溝50内の圧力は、空間Dと連結している複数の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31の総開口面積(β)が支配的に決めている。
【0086】
(吸引装置の詳細な構成2)
次に、より最適な吸引装置の構成について説明する。
【0087】
まず、連通孔52の大きさについて説明する。連通孔52の1つ1つの開口面積が小さすぎると、ゴミ等の異物によって穴が目詰まりする恐れがある。したがって、連通孔52の最小開口幅は、1.0mm以上が望ましい。本実施例では、一例としてφ1.1mmである。
【0088】
ここで、連通孔52の開口幅とは、連通孔52において、最も開口径が小さい径を指すものとする。たとえば、楕円である場合には、短軸の長さが、開口幅(最小開口幅)である。
【0089】
次に、吸引溝50の搬送方向の幅Cについて説明する。以下の理由により、吸引溝50の搬送方向の幅Cは、3.0mm以上30.0mm以下であることが望ましい。本実施例では、一例として、C幅は5.0mmである。
【0090】
前述の様に、実質的な吸引吸着力は吸引溝50が搬送ベルト31上の記録材16によって閉空間となることで発生する。記録材16の先端が搬送ベルト31上に掛かり始めてから、その掛かり量(搬送方向の長さ)が小さい時から確実に吸着させるために、吸引溝50の搬送方向の幅Cは、30.0mm以下とする。
【0091】
尚、記録材16の搬送に関する信頼性を上げる観点からは、幅Cは小さければ小さいほど良い。特にカールした記録材や厚紙を確実に搬送ベルトに吸引吸着する為には、吸引溝50の搬送方向の幅Cを小さくして吸引溝50の密閉状態を素早く完成させると良い。また、吸引溝幅Cが小さい事は、カール補正能力も上がり吸着紙の平面性が良くなるという効果もある。
【0092】
一方、吸引溝50で吸着力を発生させるためには、連通孔52は1つの吸引溝50に対して少なくとも1つ必要である。吸引溝50の幅Cを狭くしすぎると、平面板32に設けられる連通孔52の総数が増える。より少ないエアー流量で空間Dを所定の負圧に維持するためには、相対的に連通孔52の一つひとつの開口面積を小さくしなければならない。
【0093】
連通孔52の最小開口幅は1.0mm以上が望ましいことを踏まえると、吸引溝50の搬送方向の幅Cは、3.0mm以上であることが望ましい。
【0094】
尚、其々の形状については、吸引溝50は吸引面積を大きくする観点から幅方向に長い長方形である事が望ましく、搬送ベルトの吸引穴31aと連通孔52は、加工のし易さから丸穴であることが望ましい。
【0095】
(吸引ファンのエアー流量)
図5は、縦軸に吸引力、横軸に開口面積比を示しており、吸引ファン34によるエアー流量と吸引力の関係を示している。
【0096】
図5の横軸は、1つの空間Dと連結している複数の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31の総開口面積(β)に対する、この空間Dと連結する複数の連通孔52の総開口面積(α)の割合をパーセンテージで表している。即ち、α/βをパーセンテージで表している。α、βの単位は、mmである。
【0097】
図5の縦軸は、記録材16が搬送ベルト31上にない状態で空間D内に作用する負圧の絶対値である。搬送ベルト31上の記録材16により吸引溝50が閉空間となる場合、記録材16には、縦軸の値に相当する吸引吸着力が付与される。
【0098】
図5の曲線は、吸引ファン34によるエアー流量である。すなわち、図5のグラフは、吸引ファン34による吸引エアーの流量と吸引力の関係を示している。尚、図5のグラフの凡例は流速で示しているが、エアー流量を、単位面積当たりのエアー流量で比較しているためである。
【0099】
図5の横軸の開口面積比が大きいということは、連通孔52の総開口面積が搬送ベルト31の吸引穴31の総開口面積に近づくことを意味する。すなわち、記録材16を安定して搬送するのに十分な負圧を空間D内に作用させるためには、開口面積比(α/β)が小さい場合と比べて、エアー流量の大きな吸引ファンが必要となる。言い換えると、開口面積比(α/β)が小さい場合、吸引ファンにより吸引されるエアー流量が少なくても、記録材16を安定して搬送するのに十分な負圧を空間D内に作用させることができるので、小型のファンを採用することができる。特に、連通孔52の総開口面積αを小さくすることで、より小型のファンを採用することができる。
【0100】
さらに、上述したように、開口面積比(α/β)が十分に小さいと、搬送ベルト31上に記録材16がない間は、吸引溝50に実質的な吸引力を作用しないので、搬送ベルト31の摩耗を抑制することができる。
【0101】
また、1つの空間Dと連通している吸引溝50の開口部51の総開口面積をγ(単位:mm)とするとき、α/γ<0.01とすると、さらに確実に、搬送ベルト31の摩耗を抑制することができる。
【0102】
ここで、図5の矢印Jは、搬送ベルト31の摺動摩擦を十分に抑制できる開口面積比として、1.0%未満(即ち、α/β<0.01)である範囲を示している。
【0103】
また、図5の矢印Hは、搬送ベルト31上の記録材16を安定して搬送するためにより好ましい値として、空間Dを絶対値が200Pa以上の負圧である範囲を示している。記録材16が搬送ベルト31上にない状態で、空間Dを絶対値が200Pa以上の負圧にしておくことで、搬送装置30は、記録材16を200Pa以上の吸引力で吸引しながら搬送することができる。これにより、より確実に搬送される記録材16のバタつきを抑制することができる。
【0104】
すなわち、矢印H、Jの両方で示される領域は、記録材16の搬送安定性と搬送ベルト31の摺動摩擦の抑制を両立できる領域である。
【0105】
一例として、本実施例の搬送装置30は、図5において矢印Kで示される領域に位置する。記録材16に対して5g/cmの吸着力を得る設定としている。具体的には、開口面積比を0.4〜0.5%、吸引力500Paとし、吸引ファン34によるエアー風量を0.63m/min、吸引溝50の搬送方向の幅C=5.0mm、連通孔52の直径A=φ1.1mmとした。
【0106】
〔実施例2〕
実施例1では、1つの空間Dと連結している複数の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31の総開口面積(β)が1つの空間Dと連通している吸引溝50の開口部51の総開口面積(γ)よりも小さい(即ち、β<γ)場合を説明した。そのため、実施例1では、開口面積比がα/βで表される。
【0107】
しかしながら、1つの空間Dと連通している吸引溝50の開口部51の総開口面積(γ)が、搬送ベルトの吸引穴31aの総開口面積(β)以下である場合(γ≦βである場合)には、開口面積比はα/γをパーセンテージで表す値になる。すなわち、γ≦βである場合には、α<γ、より好ましくはα/γ<0.01とすることで、搬送ベルト31の摩耗を抑制することができる。
【0108】
実施例1において、「1つの空間Dと連結している複数の吸引溝50の開口部51上に位置する搬送ベルト31の吸引穴31の総開口面積(β)」を「1つの空間Dと連通している吸引溝50の開口部51の総開口面積(γ)」と読み替えることで理解される。図5のグラフに係る説明も、βをγと読み替えて理解すればよい。
【0109】
その他の構成は、実施例1と同様であるから説明を省略する。
【0110】
〔その他の構成〕
尚、実施例1、2では、搬送装置30を、電子写真の画像形成装置100において定着部11に適用する場合を例に説明したが、インクジェット方式の画像形成装置に適用してもよい。
【0111】
特に、インクが空間移動するインクジェット方式オン画像形成装置においては、記録材16が搬送ベルト31上でバタついたり、搬送ベルト31に対する記録材16の位置がずれたりすると、インクの滴下位置がずれるため、画質を悪化させてしまう。上述した搬送装置30で搬送することにより、より安定的に記録材16を搬送することができる。すなわち、記録材16のバタつきや、搬送ベルト31上で記録材16が滑る事による記録材16の位置ズレを抑制することができる。
【符号の説明】
【0112】
16 記録材
30 搬送装置
31 搬送ベルト
31a 吸引穴
32 平面板
33 吸引台座
34 吸引ファン
35 駆動ローラ
36 従動ローラ
37 従動ローラ
38 従動ローラ
50 吸引溝
51 開口部
D 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6