(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983671
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】不溶化材および不溶化材の選別方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
B09C1/08ZAB
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-4735(P2018-4735)
(22)【出願日】2018年1月16日
(65)【公開番号】特開2019-122910(P2019-122910A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2020年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−196829(JP,A)
【文献】
特開2017−113703(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104275346(CN,A)
【文献】
特開2017−006911(JP,A)
【文献】
米国特許第05252003(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/08
C09K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀、シアン、六価クロム、ふっ素、及びほう素からなる群より選ばれる一種以上を不溶化するための不溶化材の製造方法であって、
海水から水酸化マグネシウムを抽出する抽出工程と、
抽出した上記水酸化マグネシウムを加熱して、酸化マグネシウムを90質量%以上の含有率で含む不溶化材を得る加熱工程を含み、
上記不溶化材は、水と上記不溶化材を、20℃の環境下で上記水と上記不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、「ASTM C1702−17」に記載された水和熱の測定方法に準拠して測定される、144時間経過した場合における積算熱量が、125〜900J/gであるものであることを特徴とする不溶化材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の不溶化材の製造方法によって、不溶化材を得た後、上記不溶化材を、汚染土壌に添加し、混合することを特徴とする汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項3】
上記汚染土壌に含まれるフッ素を不溶化する請求項2に記載の汚染土壌の不溶化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶化材および不溶化材の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場、事業所、産業廃棄物処理場の跡地などにおいて、土壌がひ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀、シアン、六価クロム、ふっ素、または、ほう素(以下、「重金属等」ともいう。)で汚染されていることが、しばしば報告されている。土壌汚染対策法においては、上述した9種類を重金属類と定めている。土壌が重金属等で汚染されると、その汚染が地下水にまで広がり、人体や穀物等にまで影響を及ぼすという安全衛生上の問題がある。また、土壌の汚染濃度が環境基準値を超える場合には、跡地をそのまま利用することができない等の問題もある。
【0003】
汚染土壌中の重金属等を不溶化して、これら重金属等が土壌から溶出するのを抑制するための技術が種々提案されている。
重金属等の溶出を抑制することができる不溶化材として、特許文献1には、軽焼マグネシアを主成分とする不溶化材であって、上記不溶化材の全量100質量%中、フォルステライトの含有率が6.0質量%以下であり、かつ、ふっ素(F)の含有率が0.045質量%以下であることを特徴とする不溶化材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−113703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム塩を含む不溶化材を用いて、重金属等によって汚染された土壌の不溶化処理を行なった際に、不溶化材に使用されている原料の種類、品質や、不溶化材の粒度等の影響によって、重金属等の不溶化の効果が十分に発揮されない場合がある。
本発明の目的は、不溶化性に優れた不溶化材、及び、不溶化性に優れた不溶化材を選別する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水とマグネシウム塩を含む不溶化材を、20℃の環境下で水と該不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、144時間経過した場合における積算熱量が特定の値である不溶化材、及び、該不溶化材を選別する方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1]マグネシウム塩を含む不溶化材であって、水と上記不溶化材を、20℃の環境下で水と上記不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、144時間経過した場合における積算熱量が、125〜900
J/gであることを特徴とする不溶化材。
[2]マグネシウム塩を含む不溶化材の選別方法であって、水と上記不溶化材を、20℃の環境下で水と上記不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、144時間経過した場合における積算熱量が、125〜900
J/gである不溶化材を、不溶化性に優れた不溶化材として選別することを特徴とする不溶化材の選別方法。
[3] 前記[1]に記載の不溶化材を、汚染土壌に添加し、混合することを特徴とする汚染土壌の不溶化処理方法。
[4] 上記汚染土壌に含まれるフッ素を不溶化する前記[3]に記載の汚染土壌の不溶化処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不溶化材は、不溶化性(重金属等に汚染された土壌に添加し、混合することで、土壌中の重金属等を不溶化して、重金属等の溶出を抑えることができる性能)に優れている。
また、本発明の不溶化材の選別方法によれば、実際に不溶化材を土壌に添加し、混合して、重金属等(例えば、ふっ素)の溶出量を測定することなく、不溶化性に優れた不溶化材を選別することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の不溶化材は、マグネシウム塩を含む不溶化材であって、水と上記不溶化材を、20℃の環境下で水と上記不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、144時間経過した場合における積算熱量が、125〜900
J/gであるものである。
マグネシウム塩の例としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、優れた不溶化性を有する観点から、酸化マグネシウムが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
酸化マグネシウムの例としては、炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムのいずれか一方または両方を含む固形原料を、好ましくは600〜1,300℃の温度で焼成することによって得ることができる軽焼マグネシア等が挙げられる。
炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムのいずれか一方または両方を含む固形原料としては、マグネサイト、ドロマイト、及びブルーサイト等の鉱物や、海水中のマグネシウム成分を消石灰等のアルカリで沈澱させて得た水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは、塊状物でもよいし、粉粒状物でもよい。
また、焼成温度(加熱温度)は、好ましくは600〜1,300℃、より好ましくは750〜1,100℃、特に好ましくは800〜1,000℃である。該温度が600℃以上であると、軽焼マグネシアの生成の効率が向上する点で好ましい。該温度が1,300℃以下であると、重金属類等の不溶化の効果が向上する点で好ましい。
焼成時間(加熱時間)は、固形原料の仕込み量や粒度等によって異なるが、通常、30分間〜5時間である。
【0010】
不溶化材中のマグネシウム塩の含有率は、不溶化性の向上の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは28質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上、特に好ましくは45質量%以上である。
不溶化材は、必要に応じて、添加材を含んでいてもよい。添加材の例としては、炭酸カルシウム、高炉スラグ、第二リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、及びゼオライト等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不溶化材が添加材を含むことによって、不溶化材の不溶化性をより向上させることができる。
なお、不溶化材は、上述した積算熱量が過度に大きくなることを防ぐ観点から、生石灰やセメント等の水と混合することによって急激な発熱が起こる原料を含まない、あるいは、該原料の含有率が5質量%以下であるものが好ましい。
【0011】
上述した不溶化材は、水と不溶化材を、20℃の環境下で水と不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、144時間経過した場合における積算熱量が、125〜900
J/g、好ましくは130〜850
J/g、より好ましくは140〜800
J/g、さらに好ましくは180〜750
J/g、特に好ましくは200〜700
J/gである。該積算熱量が125
J/g未満であると、不溶化材の不溶化性が低下する。該積算熱量が900
J/gを超える不溶化材は、製造、保管、及び運搬の取扱いが困難となる。
また、上記積算熱量の測定方法の例としては、「ASTM C1702−17」に記載された水和熱の測定方法に準拠して、水と不溶化材の混合物の熱量(水和熱)を測定し、該熱量を積算する方法等が挙げられる。
【0012】
本発明の不溶化材を、不溶化処理の対象となる汚染土壌(重金属等で汚染された土壌)に添加し、混合することで、汚染土壌中の重金属等(汚染物質)を不溶化して、重金属等の溶出を抑制することができる。 本発明において、不溶化の対象となる重金属等とは、例えば、ひ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀、シアン、六価クロム、ふっ素、および、ほう素からなる群より選ばれる一種以上である。中でも、ふっ素は、本発明の効果をより大きく発揮する点で好ましい。 汚染土壌1m
3に対する不溶化材の添加量は、対象となる汚染土壌の性状、施工条件、不溶化処理後の汚染土壌に求められる重金属等の溶出量の上限値(基準値)等によっても異なるが、好ましくは20〜300kg、より好ましくは25〜200kg、特に好ましくは30〜150kgである。該量が20kg以上であれば、重金属等の溶出をより抑制することができる。該量が300kg以下であれば、コストの増大を防ぐことができる。
不溶化材の添加および混合方法としては、対象となる土壌に不溶化材を粉体のまま添加し、混合するドライ添加や、不溶化材に水を加えてスラリーとし、該スラリーを添加し、混合するスラリー添加が挙げられる。スラリー添加の場合の水/不溶化材の質量比は、好ましくは0.6〜1.5、より好ましくは0.8〜1.2である。
【0013】
水と、マグネシウム塩を含む不溶化材を、20℃の環境下で水と該不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、144時間経過した場合における積算熱量を測定し、該積算熱量が125〜900
J/gであれば、上記不溶化材は、不溶化性に優れたものであると判断することができる。このように、不溶化材の積算熱量を測定することで、複数の種類の不溶化材から、不溶化性に優れた不溶化材を選別することができる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[不溶化材A〜 H]
マグネシウム塩を含む不溶化材として、各不溶化材中のマグネシウム塩(酸化マグネシウム)の含有率が、表1に示す値である不溶化材A〜Hを使用した。不溶化材A〜Hに含まれる、マグネシウム塩以外の成分としては、主に、CaO、Fe
2O
3、SiO
2等が挙げられる。ただし、不溶化材A〜Hには、生石灰やセメント等の水と混合することによって急激な発熱が起こる原料は含まれていない。
なお、不溶化材A〜Hはその成分や、粒度がそれぞれ異なるものである。また、不溶化材E、Fは、海水から抽出した水酸化マグネシウムを乾燥・加熱して得られたマグネシウム塩を使用したもので、他の不溶化材(A、B、C、D、G、H)の粒度よりも、粒度を細かくしたものである。
【0015】
[実施例1〜6、比較例1〜2]
水と、表1に示す種類の不溶化材を、20℃の環境下で、水と不溶化材の質量比が1:1となる量で混合した後、「ASTM C1702−17」に記載された水和熱の測定方法に準拠して、水と不溶化材の混合物(スラリー)の熱量(水和熱)を測定し、144時間経過後までの積算熱量を測定した。
熱量の測定は、伝導型熱量計(東京理工舎社製、商品名「MMC−5116」)用いて、混合物(スラリー)の熱量を測定し、得られた発熱速度曲線を0時間から144時間の範囲で時間積分したものを、144時間経過した場合の積算熱量とした。
【0016】
環境庁告示第18号「土壌溶出量調査に係る測定方法を定める件」に記載されている方法に準拠して測定されたふっ素の溶出量が6.6mg/リットルである汚染土壌に、表1に示す種類の不溶化材を50kg/m
3となる量で添加し、ミキサーを用いて混合した後、7日間静置した。静置後の土壌について、環境庁告示第18号「土壌溶出量調査に係る測定方法を定める件」に記載されている方法に準拠してふっ素の溶出量を測定した。
結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
表1から、本発明の不溶化材(実施例1〜6)は、土壌からのふっ素の溶出量を、6.6mg/リットルから、1.7mg/リットル以下にすることができ、不溶化性に優れていることがわかる。
一方、比較例1〜2において使用した不溶化材G〜H(144時間経過した場合の積算熱量:77〜109
J/g)は、本発明の不溶化材A〜Fと比較して、不溶化性に劣る(土壌からのふっ素の溶出量:2.5〜3.1mg/リットル)ことがわかる。