特許第6983696号(P6983696)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983696
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】トナーバインダー及びトナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20211206BHJP
   C08G 63/127 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   G03G9/087 331
   C08G63/127
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-42604(P2018-42604)
(22)【出願日】2018年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-151629(P2018-151629A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2017-47307(P2017-47307)
(32)【優先日】2017年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 真一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 康弘
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/128872(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/046445(WO,A1)
【文献】 特開2013−178504(JP,A)
【文献】 特開2008−056915(JP,A)
【文献】 特開2010−256892(JP,A)
【文献】 特開2005−091883(JP,A)
【文献】 特開2010−160234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/097
C08G 63/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)とを構成原料として反応してなるポリエステル樹脂(A)を含有してなるトナーバインダーであって、(A)が、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有し、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70〜100モル%含有し、かつ下記関係式(1)を満たすポリエステル樹脂であり、
ポリオール成分(x)が芳香族ジオール成分を含有し、芳香族ジオールがビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物であり、
ポリエステル樹脂(A)の酸価が5〜13mgKOH/gであり、ポリエステル樹脂(A)の水酸基価が14〜36mgKOH/gであるトナーバインダー。
Q(60)=α×酸価+β (1)
[60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布(体積平均粒子径と個数平均粒子径の比)Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量である。Dnは前記粒子の個数平均粒子径(μm)である。酸価(mgKOH/g)は、(A)の酸価である。α値が−1.0〜−0.8であり、β値が−25〜−20である。]
【請求項2】
ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)とを構成原料として反応してなるポリエステル樹脂(A)を含有してなるトナーバインダーであって、(A)が、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有し、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70モル%以上100モル%未満、及び3以上のカルボキシル基を有する芳香族ポリカルボン酸成分(y2)を0モル%を超えて10モル%以下含有し、かつ下記関係式(1)を満たすポリエステル樹脂であり、
ポリオール成分(x)が芳香族ジオール成分を含有し、芳香族ジオールがビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物であり、
ポリエステル樹脂(A)の酸価が5〜13mgKOH/gであり、ポリエステル樹脂(A)の水酸基価が14〜36mgKOH/gであるトナーバインダー。
Q(60)=α×酸価+β (1)
[60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布(体積平均粒子径と個数平均粒子径の比)Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量である。Dnは前記粒子の個数平均粒子径(μm)である。酸価(mgKOH/g)は、(A)の酸価である。α値が−1.0〜−0.8であり、β値が−25〜−20である。]
【請求項3】
芳香族ポリカルボン酸成分(y2)が、トリメリット酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及びこれらの酸のアルキル基の炭素数が1〜4であるアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のトナーバインダー。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)が下記関係式(2)で定義される帯電変化量(%)が−20〜20%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のトナーバインダー。
【数1】
[60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量である。600秒撹拌帯電量Q(600)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による600秒撹拌帯電量である。]
【請求項5】
ポリエステル樹脂(A)が、構成原料としてポリオール成分(x)の総モル数に基づいて芳香族ジオール成分を70〜100モル%含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のトナーバインダー。
【請求項6】
芳香族ジカルボン酸成分(y1)が、テレフタル酸及び/又はアルキル基の炭素数が1〜5であるテレフタル酸アルキルエステルである請求項1〜5のいずれか1項に記載のトナーバインダー。
【請求項7】
ポリエステル樹脂(A)のフロー軟化点が80〜160℃である請求項1〜6のいずれか1項に記載のトナーバインダー。
【請求項8】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が40〜80℃である請求項1〜7のいずれか1項に記載のトナーバインダー。
【請求項9】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリエステル樹脂(A)のテトラヒドロフラン可溶分のピークトップ分子量が2000〜50000である請求項1〜8のいずれか1項に記載のトナーバインダー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のトナーバインダーと着色剤とを含有するトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーバインダー及びトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の複写機・プリンターのデジタル化、カラー化、複合化、高速化、高画質化が急速に進む中、更に、省エネ、高信頼性、環境安定性についてもこれまで以上に要求が高まってきている。
電子写真方式は、帯電、露光、現像、転写、定着、クリーニング、除電の各工程から構成されるプロセスと、感光体、現像剤(トナー)に代表される材料技術からなる。各プロセス技術と材料技術はカールソンによる発明から現在にいたるまで、さまざまな改良が重ねられてきた。トナーに要求される特性は、帯電特性、紛体特性、熱特性、色特性など多岐にわたる。中でもトナーの移動を制御する帯電特性は、トナー開発において、省エネ、高信頼性、環境安定性に対応する上で重要なキー技術である。
例えば、省エネ対応としては、ごく短時間の摩擦によって、所望のトナー帯電量を得るためにトナーの帯電立ち上がり性の向上が必要である。また、高信頼性対応としては、現像部位におけるトナー帯電量が常にプロセスで許容された設定範囲内に入るように安定したトナーの帯電量制御が求められている。更に、湿度の高い条件ではトナー帯電量が低下して白地の部分にトナーが現像されたり、乾燥時はオーバーチャージにより画質濃度が低下するなどの不具合が発生するため、環境安定性対応として、夏場の高温高湿や冬場の低温低湿などの環境差によるトナーの帯電量変化をなくすことが求められている。トナー産業においては、このように帯電特性が高度に制御された高品質なトナーの開発が急務となっている。
トナーは、トナーバインダー、顔料、ワックス、電荷制御剤(CCA:Charge Control Agent)、外添剤から構成されている。トナーバインダーはトナーの主成分であり、80〜90%の重量を占める。トナーは、一般に摩擦により帯電させるためそのトナーの表面性を如何に制御するかが重要であり、トナーの主成分であるトナーバインダーが帯電特性に果たす役割は大きい。
トナーバインダーとしては、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが使用されている。中でも、近年の省エネに対する強い要求から、より低温で定着可能なポリエステル樹脂の開発が活発である。ポリエステル樹脂の特徴としては分子中にカルボン酸基と水酸基を有していることがあげられ、これらの官能基は分子中及び分子間で水素結合し、樹脂の見かけの分子量を高くし耐オフセット性、機械的強度を向上させる。帯電特性は、スチレン系樹脂と比較して帯電立ち上がり性は速く良好だが、高温高湿環境下での帯電量変化が大きいなどの課題があり、検討が必要である。
【0003】
従来技術として、ポリエステル樹脂の帯電特性(飽和帯電量、帯電立ち上がり性及び帯電安定性)の制御因子としては、酸価、芳香族環濃度及び吸湿性などがある。
<酸価>
ポリエステル樹脂の帯電は、分子中に存在する酸基の量(酸価)に影響を受ける。一般に酸価が高い方が負帯電性が高く、帯電の立ち上がりも速い。しかし、高温高湿環境下においては、酸価の高いポリエステル樹脂の帯電量変化は大きく、酸価の制御だけでは、帯電量と帯電量変化の両立が困難である。
<芳香族環濃度>
ポリエステル樹脂中の芳香族環濃度が上昇すれば、帯電量は高くなり、帯電立ち上がり性も向上する。例えば、特許文献1には、帯電立ち上がり性及び耐久性を向上させるために、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸の量を規定したトナーが開示されており、効果は得られているが、まだまだ十分とは言えず、さらなる改善が望まれている。
特許文献2にも芳香族環濃度を規定したトナーが開示されているが、飽和帯電量、帯電立ち上がり性及び帯電安定性のすべてを満足することはできていない。
<吸湿性>
吸湿性が高いと高温高湿環境下での帯電量変化が大きくなる。吸湿性を改善するために、特許文献3には、1価のカルボン酸及び/又は1価のアルコール成分を共重合することで、ポリエステル樹脂の末端官能基数を制御したトナーバインダーが開示されている。ある程度の効果は得られているものの、さらなる性能向上が望まれている。
特許文献4には、1価の芳香族アルコールの(ポリ)アルキレングリコールモノアリールエーテルを特定量含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸を重縮合することで、ポリエステル末端に芳香環を導入してポリエステルを疎水化した例が開示されているが、帯電立ち上がり性と帯電安定性はある程度改善されているものの、飽和帯電量については十分ではない。
帯電特性である飽和帯電量、帯電立ち上がり性及び帯電安定性をすべて同時に両立させることがトナー開発における大きな課題となっており、早急に解決が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−33606号公報
【特許文献2】特開2016−80861号公報
【特許文献3】特開平6−263854号公報
【特許文献4】特開2016−218392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、帯電特性(飽和帯電量、帯電立ち上がり性及び帯電安定性)に優れたトナーバインダー及びトナーバインダーを含有するトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)とを構成原料として反応してなるポリエステル樹脂(A)を含有してなるトナーバインダーであって、(A)が、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有し、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70〜100モル%含有し、かつ下記関係式(1)を満たすポリエステル樹脂であるトナーバインダー;上記のトナーバインダー及び着色剤を含有するトナーである。
Q(60)=α×酸価+β (1)
[但し、関係式中、60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ 粒子径分布(体積平均粒子径と個数平均粒子径の比)Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量である。Dnは前記粒子の個数平均粒子径(μm)である。酸価(mgKOH/g)は、(A)の酸価である。α値が−1.0〜−0.8であり、β値が−25〜−20である。]
また本発明は、
ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)とを構成原料として反応してなるポリエステル樹脂(A)を含有してなるトナーバインダーであって、(A)が、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有し、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70モル%以上100モル%未満、及び3以上のカルボキシル基を有する芳香族ポリカルボン酸成分(y2)を0モル%を超えて10モル%以下含有し、かつ下記関係式(1)を満たすポリエステル樹脂であるトナーバインダー
及び着色剤を含有するトナーである。
Q(60)=α×酸価+β (1)
[60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布(体積平均粒子径と個数平均粒子径の比)Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量である。Dnは前記粒子の個数平均粒子径(μm)である。酸価(mgKOH/g)は、(A)の酸価である。α値が−1.0〜−0.8であり、β値が−25〜−20である。]
【発明の効果】
【0007】
本発明により、帯電特性(飽和帯電量、帯電立ち上がり性及び帯電安定性)に優れたトナーバインダー及びトナーバインダーを含有するトナーを提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳述する。
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は、ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)を反応(重縮合)して得られ、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有し、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70〜100モル%含有し、かつ後述する関係式(1)を満足すれば、その他の樹脂組成は特に限定されない。
また、本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は、ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)を反応(重縮合)して得られ、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有し、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70モル%以上100モル%未満、及び3以上のカルボキシル基を有する芳香族ポリカルボン酸成分(y2)を0モル%を超えて10モル%以下含有し、かつ後述する関係式(1)を満足すれば、その他の樹脂組成は特に限定されない。
また、ポリエステル樹脂(A)は1種類でもいいし、2種類以上のポリエステル樹脂の混合物でもよく、例えば線形ポリエステル樹脂と非線形ポリエステル樹脂の組み合わせでもよい。
【0009】
ポリオール成分(x)としては、ジオール及び3〜8価又はそれ以上のポリオールが挙げられ、ポリカルボン酸成分(y)としては、ジカルボン酸及び3〜6価又はそれ以上のポリカルボン酸が挙げられる。
ポリオール成分(x)として、ジオールとしては、炭素数2〜36のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール及び1,12−ドデカンジオール等);炭素数4〜36のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等);炭素数6〜36の脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水素添加ビスフェノールA等);上記脂環式ジオールの(ポリ)オキシアルキレン〔アルキレン基の炭素数2〜4(オキシエチレン及びオキシプロピレン等)以下のポリオキシアルキレン基も同じ〕エーテル〔オキシアルキレン単位(以下AO単位と略記)の数1〜30〕;2価フェノール〔単環2価フェノール(例えばハイドロキノン)、ビスフェノール類のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜30);等が挙げられる。
3〜8価又はそれ以上のポリオールとしては、炭素数3〜36の3〜8価又はそれ以上の脂肪族多価アルコール(アルカンポリオール及びその分子内又は分子間脱水物、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセリン及びジペンタエリスリトール);糖類及びそのエステル化物、例えばショ糖及びメチルグルコシド);上記脂肪族多価アルコールの(ポリ)オキシアルキレンエーテル(AO単位の数1〜30);トリスフェノール類(トリスフェノールPA等)のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜30);ノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等、平均重合度3〜60)のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜30)等が挙げられる。
【0010】
ビスフェノール類のポリオキシアルキレンエーテルは、ビスフェノール類にアルキレンオキサイド(以下AOと略記)を付加して得られる。ビスフェノール類としては、下記一般式(1)で示されるものが挙げられる。
OH−Ar−X−Ar−OH (1)
[式中、Xは炭素数1〜3のアルキレン基、−SO−、−O−、−S−、又は直接結合、Arは、ハロゲン若しくは炭素数1〜30のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基を表す。]
具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、トリクロロビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、ジブロモビスフェノールF、2−メチルビスフェノールA、2,6−ジメチルビスフェノールA及び2,2’−ジエチルビスフェノールFが挙げられ、これらは2種以上を併用することもできる。これらビスフェノール類に付加するAOとしては、炭素数が2〜4のものが好ましく、具体的には、エチレンオキサイド(以下EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下POと略記)、1,2−、2,3−、1,3−又はiso−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(以下THFと記載)及びこれらの2種以上の併用が挙げられる。これらの中で好ましくはEO及び/又はPOである。AOの付加モル数は、好ましくは2〜30モル、更に好ましくは2〜10モルである。
ビスフェノール類のポリオキシアルキレンエーテルのうち、トナーの定着性・帯電特性の観点から好ましいものは、ビスフェノールAのEO及び/又はPO付加物(平均付加モル数2〜4、特に2〜3)である。
【0011】
ポリオール成分(x)のうち、トナーとして用いたときの低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から好ましいものは、炭素数2〜12のアルキレングリコール、ビスフェノール類のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜30)、3〜8価又はそれ以上の脂肪族多価アルコール、及びノボラック樹脂のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜30)であり、保存安定性の観点から更に好ましいものは、炭素数2〜10のアルキレングリコール、ビスフェノール類のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜5)、ノボラック樹脂のポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜30)であり、特に好ましくは、炭素数2〜6のアルキレングリコール、ビスフェノールAのポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜5)であり、最も好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールAのポリオキシアルキレンエーテル(AO単位の数2〜3)である。
【0012】
ポリオール成分(x)としては、帯電性(飽和帯電量、帯電立ち上がり性、帯電安定性)の観点から芳香族ジオールをポリオール成分(x)の総モル数に基づいて70モル%以上含有することが好ましく、80モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することが更に好ましい。
【0013】
芳香族ジオールとしては、ビスフェノールA構造を有するポリオキシアルキレンエーテルが好ましく、帯電特性が良好となるだけでなく樹脂強度も上がり、トナーとしての耐久性も良好となる。
ポリオール成分(x)としては、1種類でも、2種類以上の原料を併用してもよい。
【0014】
ポリカルボン酸成分(y)として、ジカルボン酸としては、炭素数2〜50のアルカンジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、レパルギン酸及びセバシン酸等)、炭素数4〜50のアルケンジカルボン酸(ドデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸及びグルタコン酸等)、炭素数8〜36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、不飽和カルボン酸のビニル重合体[数平均分子量(以下Mnと記載、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による):450〜10,000](α−オレフィン/マレイン酸共重合体等)等が挙げられる。
3〜6価又はそれ以上のポリカルボン酸としては、炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、炭素数6〜36の脂肪族トリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸等)、不飽和カルボン酸のビニル重合体[Mn:450〜10,000](スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、及びスチレン/フマル酸共重合体等)等が挙げられる。
ポリカルボン酸成分(y)として、これらのポリカルボン酸の、無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル(メチルエステル、エチルエステル及びイソプロピルエステル等)を用いてもよい。
【0015】
これらのポリカルボン酸成分(y)のうち、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から好ましいものは、炭素数2〜50のアルカンジカルボン酸、炭素数4〜50のアルケンジカルボン酸、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、及び炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸であり、保存安定性の観点から更に好ましくは、アジピン酸、炭素数16〜50のアルケニルコハク酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの併用であり、特に好ましくは、アジピン酸、テレフタル酸、トリメリット酸及びこれらの併用である。これらの酸の無水物や低級アルキル(例えば、アルキル基の炭素数が1〜4等)エステルも、同様に好ましい。
【0016】
芳香族ジカルボン酸成分(y1)としては、テレフタル酸及び/又はアルキル基の炭素数が1〜4であるテレフタル酸アルキルエステルが好ましく、飽和帯電量、帯電立ち上がり性及び帯電安定性を共に良好とすることができ、更に樹脂強度も上がり、耐ブロッキング性が良好となる。
【0017】
ポリカルボン酸成分(y)としては、構成原料としてポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香族ポリカルボン酸成分を80〜100モル%含有する。80モル%未満であると、帯電特性が良好でない。
また、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70〜100モル%含有する。70モル%未満であると、帯電特性が良好でない。
あるいは、ポリカルボン酸成分(y)の総モル数に基づいて芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)を70モル%以上100モル%未満、及び3以上のカルボキシル基を有する芳香族ポリカルボン酸成分(y2)を0モル%を超えて10モル%以下含有する。(y1)が70モル%未満であると帯電特性が良好でなく、(y2)が10モル%を超えると、耐ホットオフセット性と低温定着性の両立が難しい。
(y2)の含有量は、好ましくは0.1〜9モル%、更に好ましくは0.1〜8モル%である。
【0018】
芳香族ポリカルボン酸成分(y2)としては、帯電特性の観点からトリメリット酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及びこれらの酸のアルキル基の炭素数が1〜4であるアルキルエステルが好ましい。
ポリカルボン酸成分(y)としては、1種類でも、2種類以上の原料を併用してもよい。
【0019】
ポリエステル樹脂の吸湿性を制御するために、アルコール成分には1価のモノアルコールが、カルボン酸成分には1価のモノカルボン酸が適宜含有されていてもよい。
【0020】
1価のモノアルコールとしては、脂肪族モノアルコール、及び芳香族モノアルコール等が挙げられる。
脂肪族モノアルコールとしては、鎖式飽和モノアルコール及び鎖式不飽和モノアルコール等が挙げられる。
【0021】
鎖式飽和モノアルコールとしては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐の鎖式飽和モノアルコール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、ヘキサノール、4−メチル−1−ペンタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、ヘプタノール、3−エチル−3−ペンタノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノナノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、デカノール、ウンデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール及びステアリルアルコール等)、及び炭素数1〜30の直鎖又は分岐の鎖式飽和モノアルコールに炭素数2〜4のAO(EO、PO及びBO)を付加したもの(付加モル数1〜20モル)等が挙げられる。
【0022】
鎖式不飽和モノアルコールとしては、炭素数2〜30の直鎖又は分岐の鎖式不飽和モノアルコール(アリルアルコール、2−ブテン−1−オール、2−ペンテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2−ヘプテン−1−オール、2−オクテン−1−オール、2−ノネン−1−オール、2−デセン−1−オール、2−ドデセノール、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール及びリノレイルアルコール等)、及び炭素数1〜30の直鎖又は分岐の鎖式不飽和モノアルコールに炭素数2〜4のAO(EO、PO及びBO)を付加したもの(付加モル数1〜20モル)等が挙げられる。
【0023】
芳香族モノアルコールとしては、炭素数6〜30の芳香族モノアルコール(フェノール、エチルフェノール、イソブチルフェノール、ペンチルフェノール、オクチルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール及びベンジルアルコール等)、及び炭素数6〜30の芳香族モノアルコールに炭素数2〜4のAO(EO、PO及びBO)を付加したもの(付加モル数1〜20モル)等が挙げられる。
【0024】
1価のモノカルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸及び芳香族モノカルボン酸が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸としては、鎖式飽和モノカルボン酸、鎖式不飽和モノカルボン酸及び脂環式モノカルボン酸等が挙げられる。
鎖式飽和モノカルボン酸としては、炭素数2〜30の直鎖又は分岐の鎖式飽和モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−エチルヘキサン酸、カプロン酸 、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルク
ロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸等)等が挙げられる。
鎖式不飽和モノカルボン酸としては、炭素数3〜30の直鎖又は分岐の鎖式不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、エレオステアリン酸、8,11−イコサジエン酸、5,8,11−イコサトリエン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、ドコサペンタエン酸、エライジン酸、エルカ酸及びネルボン酸等)等が挙げられる。
脂環式モノカルボン酸としては、炭素数4〜14の脂環式モノカルボン酸(シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸及びシクロヘプタンカルボン酸等)等が挙げられる。
芳香族モノカルボン酸としては、炭素数7〜36の芳香族モノカルボン酸が挙げられ、具体的には、安息香酸、ビニル安息香酸、トルイル酸、ジメチル安息香酸、t−ブチル安息香酸、クミン酸、ナフトエ酸、ビフェニルモノカルボン酸及びフロ酸等が挙げられる。
モノカルボン酸のうち、低温定着性及び耐湿熱保存安定性の観点から好ましいのは、芳香族モノカルボン酸であり、更に好ましいのは、安息香酸、t−ブチル安息香酸及びナフトエ酸である。
【0025】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の酸価は、帯電安定性及び吸湿性の観点から好ましくは5〜30mgKOH/gであり、更に好ましくは6〜25mgKOH/g、特に好ましくは7〜20mgKOH/gである。
【0026】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の水酸基価は、トナーの耐オフセット性の観点から、好ましくは0〜60mgKOH/g、更に好ましくは0〜40mgKOH/g、特に好ましくは0〜30mgKOH/g、最も好ましくは0〜20mgKOH/gである。
【0027】
なお、本発明における酸価及び水酸基価は、JIS K0070(1992年版)に規定の方法で測定することができる。
【0028】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のフロー軟化点(以下Tmと略記)は耐オフセット性と低温定着性の両立の観点から、好ましくは80〜160℃、更に好ましくは85〜150℃、特更に好ましくは90〜140℃である。
【0029】
本発明におけるTmは、以下の方法で測定することができる。
<Tmの測定方法>
高化式フローテスター{例えば、(株)島津製作所製、CFT−500D}を用いて、1gの測定試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出して、「プランジャー降下量(流れ値)」と「温度」とのグラフを描き、プランジャーの降下量の最大値の1/2に対応する温度をグラフから読み取り、この値(測定試料の半分が流出したときの温度)をTmとする。
【0030】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(以下Tgと略記)は、耐ブロッキング性と低温定着性の観点から、好ましくは40〜80℃、更に好ましくは50〜70℃、特に好ましくは55〜65℃である。
なお、本発明におけるTgは、セイコーインスツル(株)製DSC20、SSC/580を用いて、ASTM D3418−82に規定の方法(DSC法)で測定することができる。
【0031】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のTHF可溶分のピークトップ分子量(以下Mpと記載する場合もある)は、トナーの耐久性と低温定着性の両立の観点から、2,000〜50,000が好ましく、更に好ましくは4,000〜20,000である。
なお、Mpとは、得られたクロマトグラム上の最大のピーク高さを示す分子量を意味する。
【0032】
本発明におけるポリエステル樹脂の分子量[Mp、Mn、重量平均分子量(以下Mwと記載)]は、GPCを用いて以下の条件で測定することができる。
装置(一例) :HLC−8120〔東ソー(株)製〕
カラム(一例):TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%のTHF溶液
溶液注入量 : 100μl
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)〔東ソー(株)製〕12点(分子量 500 1,050 2,800 5,970 9,100 18,100 37,900 96,400 190,000 355,000 1,090,000 2,890,000)
また、分子量の測定は、ポリエステル樹脂をTHFに溶解し、不溶解分をグラスフィルターでろ別したものを試料溶液とする。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂(A)のSP値〔ソルビリティー パラメーター:(cal/cm1/2〕は、好ましくは9.5〜11.5、更に好ましくは10.0〜11.0である。SP値が上記範囲では、帯電特性、特に飽和帯電量が良好となる。
なお、本発明におけるポリエステル樹脂のSP値は、Fedorsらが提案した下記の文献に記載の方法によって計算されるものである。
「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(147〜154頁)」
【0034】
本発明のポリエステル樹脂(A)の吸湿性は、(A)を40℃、相対湿度90%の条件下で20時間保管した後の(A)中の水分含有量で評価する。(A)の重量に基づき10000ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは9500ppm以下であり、特に好ましくは9000ppm以下である。
【0035】
本発明における(A)の水分量は、カールフィッシャー水分測定装置[例えば、商品名:AQV−200(平沼産業製)]を用いて測定される値である。
【0036】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布(体積平均粒子径と個数平均粒子径の比)Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、帯電特性(飽和帯電量)の観点から、次の関係式(1)を満たす必要がある。Dnは前記粒子の個数平均粒子径(μm)である。
Q(60)=α×酸価+β (1)
[酸価(mgKOH/g)は、(A)の酸価であり、α値は、−1.0〜−0.8であり、β値は、−25〜−20である。]
【0037】
α値は、(A)の酸価、水酸基価及びSP値を上げることでα値の絶対値を大きくすることができる。特に架橋剤由来の酸価を増やすとその効果は大きい。一方β値は、(A)を構成する芳香族ポリカルボン酸の含有量、芳香環のパラ位に2個のカルボキシル基を有する芳香族ジカルボン酸成分(y1)の含有量を上げる、また吸湿性を下げることでβ値の絶対値を大きくすることができる。特に(y1)の含有量を上げる効果は大きい。吸湿性は、(A)の末端官能基数(=酸価+水酸基価)で調整することが可能である。末端官能基数は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]/[COOH]及び、モノアルコールやモノカルボン酸による末端封鎖で制御でき、末端官能基数を大きくすると吸湿性は高くなり、逆に小さくすると吸湿性は低くなる。
関係式(1)を満たさない場合、例えば、トナーの帯電の絶対量が小さくなった場合、トナー飛散によるカブリが発生するなどして画質低下が起こる場合がある。逆に、トナーの帯電の絶対量が大きくなった場合、オーバーチャージによる画質濃度低下が起こる場合がある。何れにしても、関係式(1)を満たさないと、現像不良や転写効率の悪化などの不具合が起こる可能性が高くなる。
【0038】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ 粒子径分布Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)、600秒撹拌帯電量Q(600)(μC/g)は、トナー信頼性の観点から次の関係式(2)で定義された帯電変化量(%)が好ましくは−20〜20%(±20%以下)である。
【数1】
[60秒撹拌帯電量Q(60)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による60秒撹拌帯電量である。600秒撹拌帯電量Q(600)(μC/g)は、(A)を体積平均粒子径(Dv)が5〜8μmかつ粒子径分布Dv/Dn=1.3の粒子にしたものの温度23℃、湿度50%の環境内でブローオフ法による600秒撹拌帯電量である。]
【0039】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、トナーバインダーの重量に基づいて、帯電特性の観点から、好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上である。
本発明のトナーバインダー中には、ポリエステル樹脂(A)以外に、その特性を損なわない範囲で、トナーバインダーとして一般に用いられる他の樹脂を含有してもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、Mwが1000〜100万のビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂が挙げられる。他の樹脂は、(A)とブレンドしてもよいし、一部反応させてもよい。他の樹脂の含有量は、トナーバインダーの重量に基づいて、好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。
【0040】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)は、公知のポリエステル製造法と同様にして製造することができる。例えば、ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)とを、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150〜280℃、更に好ましくは170〜260℃、特に好ましくは180〜240℃、最も好ましくは200〜230℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、特に好ましくは2〜40時間である。
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。エステル化触媒の例には、スズ含有触媒(例えばジブチルスズオキシド)、三酸化アンチモン、チタン含有触媒[例えばチタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、テレフタル酸チタン、テレフタル酸チタンアルコキシド、特開2006−243715号公報に記載の触媒〔チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムモノヒドロキシトリス(トリエタノールアミネート)、及びそれらの分子内重縮合物等〕、及び特開2007−11307号公報に記載の触媒(チタントリブトキシテレフタレート、チタントリイソプロポキシテレフタレート、及びチタンジイソプロポキシジテレフタレート等)]、ジルコニウム含有触媒(例えば酢酸ジルコニル)、及び酢酸亜鉛等が挙げられる。これらの中で好ましくはチタン含有触媒である。反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
ポリオール成分(x)とポリカルボン酸成分(y)との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]/[COOH]として、好ましくは2/1〜1/2、更に好ましくは1.5/1〜1/1.3、特に好ましくは1.4/1〜1/1.2である。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂(A)の微粒子の製造方法としては、公知の粉砕法等が挙げられる。例えば、まず、ラボミル等で粗粉砕し、次いでジェットミル粉砕機等を用いて微粒子化して、更に分級することにより、体積平均粒子径(Dv)が好ましくは5〜8μmかつ粒子径分布Dv/Dn=1.3の粒子として製造することができる。なお、体積平均粒子径(Dv)と個数平均粒子径(Dn)はコールターカウンター[例えば、商品名:マルチサイザーIII(コールター社製)]を用いて測定することができる。
【0042】
本発明における帯電量Qは、以下のブローオフ法で測定することができる。
マグロールであるところの、ロールミルの容器下部にマグネットを取り付け、マグネットの磁力により容器内の磁性キャリアに負荷を与えながら撹拌することが可能な密閉容器からなる撹拌装置を用意する。該撹拌装の密閉容器に前記(A)の樹脂微粒子0.25g、磁性キャリア5gを投入し、温度23℃、湿度50%の雰囲気下で1時間以上静置させたのち、撹拌装置にセットして回転数280rpmで60秒撹拌する。撹拌後の混合紛体0.2gを目開き20μmステンレス金網がセットされたブローオフ粉体帯電量測定装置に装填し、ブロー圧10KPa,吸引圧5KPaの条件で、残存鉄粉の帯電量を測定し、定法により樹脂粒子の帯電量を算出し、これをQ(60)とする。また、上記撹拌時間を600秒にしたものをQ(600)とする。
【0043】
本発明のトナーは、本発明のトナーバインダー及び着色剤を含有する。
【0044】
着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料、顔料等のすべてを使用することができる。具体的には、カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ピグメントイエロー、インドファーストオレンジ、イルガシンレッド、パラニトロアニリンレッド、トルイジンレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンB及びオイルピンクOP等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性金属の粉末若しくはマグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。
【0045】
本発明のトナーには、トナーバインダー及び着色剤に加えて、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤等からなる群から選ばれる1種以上の添加剤を含有させてもよい。
【0046】
離型剤としては、融点が50〜170℃のものが好ましく、ポリオレフィンワックス、天然ワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数30〜50の脂肪族アルコール、炭素数30〜50の脂肪酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
ポリオレフィンワックスとしては、オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、1−ドデセン、1−オクタデセン及びこれらの混合物等)の(共)重合体[(共)重合により得られるもの及び熱減成型ポリオレフィンを含む]、オレフィンの(共)重合体の酸素及び/又はオゾンによる酸化物、オレフィンの(共)重合体のマレイン酸変性物[例えばマレイン酸及びそのエステル化物(無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル及びマレイン酸ジメチル等)変性物]、並びにオレフィンと不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等]及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数1〜18)エステル及びマレイン酸アルキル(アルキルの炭素数1〜18)エステル等]等との共重合体等が挙げられる。
【0047】
天然ワックスとしては、例えばカルナウバワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス及びライスワックスが挙げられる。
フィッシャートロプシュワックスとしては、石油系フィッシャートロプシュワックス(シューマン・サゾール社製パラフリントH1、パラフリントH1N4及びパラフリントC105等)、天然ガス系フィッシャートロプシュワックス(シェルMDS社製FT100等)及びこれらフィッシャートロプシュワックスを分別結晶化等の方法で精製したもの[日本精蝋(株)製MDP−7000及びMDP−7010等]等が挙げられる。
炭素数30〜50の脂肪族アルコールとしては、例えばトリアコンタノールが挙げられる。
炭素数30〜50の脂肪酸としては、例えばトリアコンタン酸が挙げられる。
【0048】
荷電制御剤としては、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン樹脂、イミダゾール環含有化合物、4級アンモニウム塩基含有ポリマー、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有ポリマー、含フッ素系ポリマー、ハロゲン置換芳香環含有ポリマー等が挙げられる。
【0049】
流動化剤としては、コロイダルシリカ、アルミナ粉末、酸化チタン粉末、炭酸カルシウム粉末等が挙げられる。
【0050】
本発明のトナーを構成する各成分の含有率は、以下の通りである。
本発明のトナー中のトナーバインダーの含有率は、トナーの重量に基づいて、好ましくは30〜97重量%、更に好ましくは40〜95重量%、特に好ましくは45〜92重量%である。
本発明のトナー中の着色剤の含有率は、トナーの重量に基づいて、好ましくは0.05〜60重量%、更に好ましくは0.1〜55重量%、特に好ましくは0.5〜50重量%である。
本発明のトナー中の離型剤の含有率は、トナーの重量に基づいて、好ましくは0〜30重量%、更に好ましくは0.5〜20重量%、特に好ましくは1〜10重量%である。
本発明のトナー中の荷電制御剤の含有率は、トナーの重量に基づいて、好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.5〜7.5重量%である。
本発明のトナー中の流動化剤の含有率は、トナーの重量に基づいて、好ましくは0〜10重量%、更に好ましくは0〜5重量%、特に好ましくは0.1〜4重量%である。
また、添加剤の合計含有量は、トナーの重量に基づいて、好ましくは3〜70重量%、更に好ましくは4〜58重量%、特に好ましくは5〜50重量%である。
トナーの組成比が上記の範囲であることで帯電特性が良好なものを容易に得ることができる。
【0051】
本発明のトナーの製造方法としては、公知の混練粉砕法等が挙げられる。例えば、流動化剤を除く上記のトナーを構成する成分を乾式ブレンドした後、溶融混練し、その後粗粉砕し、最終的にジェットミル粉砕機等を用いて微粒子化して、更に分級することにより、体積平均粒径(D50)が好ましくは5〜20μmの微粒子とした後、流動化剤を混合して製造することができる。なお、粒径(D50)はコールターカウンター[例えば、商品名:マルチサイザーIII(コールター社製)]を用いて測定することができる。
【0052】
本発明のトナーは、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト及び樹脂(アクリル樹脂、シリコーン樹脂等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリア粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。[トナー/キャリア粒子]の合計重量を100とした場合、トナーとキャリア粒子との重量比[トナー/キャリア粒子]は、好ましくは[1/99〜100/0]である。また、キャリア粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
【0053】
本発明のトナーは、複写機、プリンター等により支持体(紙、ポリエステルフィルム等、好ましくは紙)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法、フラッシュ定着方法等が適用できる。
【実施例】
【0054】
以下実施例、比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお実施例1、8、13及び20は、それぞれ、参考例1、2、3及び4である。
【0055】
<実施例1>[トナーバインダー(TB−1)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)210重量部(32.6モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)547重量部(76.2モル%)、テレフタル酸214重量部(70モル%)、イソフタル酸92重量部(30モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−1)を含有するトナーバインダー(TB−1)を得た。
ポリエステル樹脂(A−1)の酸価は15、Tgは57℃、Tmは99℃、ピークトップ分子量Mpは6200だった。
【0056】
<実施例2>[トナーバインダー(TB−2)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)174重量部(27.2モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)584重量部(81.7モル%)、テレフタル酸244重量部(80モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃まで0.5〜2.5kPaの減圧下で昇温しながら、生成する水を留去しながら反応させ、酸価が2未満になった時点で、イソフタル酸61重量部(20モル%)を入れ、更に0.5〜2.5kPaの減圧下で4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−2)を含有するトナーバインダー(TB−2)を得た。
ポリエステル樹脂(A−2)の酸価は13、Tgは55℃、Tmは95℃、ピークトップ分子量Mpは6100だった。
【0057】
<実施例3>[トナーバインダー(TB−3)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)139重量部(21.8モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)621重量部(87.1モル%)、テレフタル酸304重量部(100モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−3)を含有するトナーバインダー(TB−3)を得た。
ポリエステル樹脂(A−3)の酸価は10、Tgは59℃、Tmは100℃、ピークトップ分子量Mpは5900だった。
【0058】
<実施例4>[トナーバインダー(TB−4)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)212重量部(32.7モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)553重量部(76.2モル%)、テレフタル酸278重量部(90モル%)、フマル酸22部(10モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−4)を含有するトナーバインダー(TB−4)を得た。
ポリエステル樹脂(A−4)の酸価は10、Tgは55℃、Tmは96℃、ピークトップ分子量Mpは5800だった。
【0059】
<実施例5>[トナーバインダー(TB−5)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)34重量部(5.4モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)719重量部(102.4モル%)、テレフタル酸239重量部(77.7モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃まで0.5〜2.5kPaの減圧下で昇温しながら、生成する水を留去しながら反応させ、酸価が2未満になった時点で、イソフタル酸60重量部(19.4モル%)、無水トリメリット酸10重量部(2.9モル%)を入れ、更に0.5〜2.5kPaの減圧下で4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−5)を含有するトナーバインダー(TB−5)を得た。
ポリエステル樹脂(A−5)の酸価は10、Tgは61℃、Tmは110℃、ピークトップ分子量Mpは11000だった。
【0060】
<実施例6>[トナーバインダー(TB−6)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)757重量部(118.4モル%)、テレフタル酸218部(73モル%)、イソフタル酸55重量部(18.3モル%)、無水トリメリット酸30重量部(8.8モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−6)を含有するトナーバインダー(TB−6)を得た。
ポリエステル樹脂(A−6)の酸価は9、Tgは60℃、Tmは120℃、ピークトップ分子量Mpは12000だった。
【0061】
<実施例7>[トナーバインダー(TB−7)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)69重量部(11.8モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)697重量部(106.5モル%)、テレフタル酸222重量部(73モル%)、イソフタル酸28重量部(9.1モル%)、フマル酸19重量部(9.1モル%)、無水トリメリット酸30重量部(8.8モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−7)を含有するトナーバインダー(TB−7)を得た。
ポリエステル樹脂(A−7)の酸価は10、Tgは64℃、Tmは130℃、ピークトップ分子量Mpは11700だった。
【0062】
<実施例8>[トナーバインダー(TB−8)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)140重量部(23.7モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)626重量部(94.7モル%)、テレフタル酸226重量部(73モル%)、フマル酸39重量部(18.3モル%)、無水トリメリット酸31重量部(8.8モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−8)を含有するトナーバインダー(TB−8)を得た。
ポリエステル樹脂(A−8)の酸価は15、Tgは62℃、Tmは138℃、ピークトップ分子量Mpは10600だった。
【0063】
<実施例9>[トナーバインダー(TB−9)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)761重量部(118.4モル%)、テレフタル酸2219重量部(74.6モル%)、イソフタル酸55重量部(18.7モル%)、無水ピロメリット酸26重量部(6.7モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が10になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−9)を含有するトナーバインダー(TB−9)を得た。
ポリエステル樹脂(A−9)の酸価は10、Tgは61℃、Tmは119℃、ピークトップ分子量Mpは10700だった。
【0064】
<実施例10>[トナーバインダー(TB−10)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)624重量部(94.8モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)78重量部(10.5モル%)、テレフタル酸225重量部(71.5モル%)、ドデセニル無水コハク酸101重量部(20.0モル%)、無水トリメリット酸31重量部(8.5モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が10になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−10)を含有するトナーバインダー(TB−10)を得た。
ポリエステル樹脂(A−10)の酸価は10、Tgは59℃、Tmは120℃、ピークトップ分子量Mpは9800だった。
【0065】
<実施例11>[トナーバインダー(TB−11)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)726重量部(106.5モル%)、テレフタル酸232重量部(73.0モル%)、イソフタル酸58重量部(18.3モル%)、無水トリメリット酸32重量部(8.8モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、1,2−プロピレングリコール15重量部(11.8モル%)を入れ1時間反応させた後、0.5〜2.5kPaの減圧下に1時間反応させ、酸価が11になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−11)を含有するトナーバインダー(TB−11)を得た。
ポリエステル樹脂(A−11)の酸価は11、Tgは60℃、Tmは117℃、ピークトップ分子量Mpは10200だった。
【0066】
<実施例12>[トナーバインダー(TB−12)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)757重量部(118.4モル%)、テレフタル酸109重量部(36.5モル%)、ジメチルテレフタル酸127重量部(36.5モル%)、イソフタル酸55重量部(18.3モル%)、無水トリメリット酸31重量部(8.8モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が11になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(A−12)を含有するトナーバインダー(TB−12)を得た。
ポリエステル樹脂(A−12)の酸価は10、Tgは60℃、Tmは118℃、ピークトップ分子量Mpは10500だった。
【0067】
<比較例1>[トナーバインダー(RTB−1)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)281重量部(43.1モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)471重量部(64.7モル%)、テレフタル酸31重量部(10モル%)、イソフタル酸279重量部(90モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(RA−1)を含有するトナーバインダー(RTB−1)を得た。
ポリエステル樹脂(RA−1)の酸価は13、Tgは57℃、Tmは99℃、ピークトップ分子量Mpは6200だった。
【0068】
<比較例2>[トナーバインダー(RTB−2)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)209重量部(32.3モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)546重量部(75.5モル%)、テレフタル酸154重量部(50モル%)、イソフタル酸154重量部(50モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(RA−2)を含有するトナーバインダー(RTB−2)を得た。
ポリエステル樹脂(RA−2)の酸価は10、Tgは58℃、Tmは100℃、ピークトップ分子量Mpは6500だった。
【0069】
<比較例3>[トナーバインダー(RTB−3)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)130重量部(18.6モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)581重量部(74.2モル%)、トリメチロールプロパン23重量部(8.4モル%)、テレフタル酸33重量部(10モル%)、イソフタル酸300重量部(90モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(RA−3)を含有するトナーバインダー(RTB−3)を得た。
ポリエステル樹脂(RA−3)の酸価は9、Tgは61℃、Tmは118℃、ピークトップ分子量Mpは10500だった。
【0070】
<比較例4>[トナーバインダー(RTB−4)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)300重量部(40.7モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)428重量部(51.8モル%)、トリメチロールプロパン24重量部(8.3モル%)、テレフタル酸25重量部(7モル%)、イソフタル酸221重量部(63モル%)、フマル酸74重量部(30モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(RA−4)を含有するトナーバインダー(RTB−4)を得た。
ポリエステル樹脂(RA−4)の酸価は10、Tgは60℃、Tmは120℃、ピークトップ分子量Mpは11000だった。
【0071】
<比較例5>[トナーバインダー(RTB−5)]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−2P)126重量部(16.8モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業製ハイマーBP−3P)564重量部(67.3モル%)、トリメチロールプロパン24重量部(8.4モル%)、テレフタル酸36重量部(10モル%)、イソフタル酸321重量部(90モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)2.5重量部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。更に、0.5〜2.5kPaの減圧下に4時間反応させ、酸価が15未満になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(RA−5)を含有するトナーバインダー(RTB−5)を得た。
ポリエステル樹脂(RA−5)の酸価は20、Tgは59℃、Tmは119℃、ピークトップ分子量Mpは10800だった。
【0072】
【表1】
実施例及び比較例で得られたトナーバインダーについて、組成及び物性を表1に示す。
【0073】
<実施例13〜25、比較例6〜10>
上記製造例で得られたポリエステル樹脂(A−1)〜(A−12)及び比較製造例で得られたポリエステル樹脂(RA−1)〜(RA−5)を用いて、トナーバインダー(T−1)〜(T−13)及びトナーバインダー(RTB−1)〜(RTB−5)を、表2の配合比(重量部)に従い配合(カーボンブラックMA−100[三菱化学(株)製]、ポリオレフィンワックス[三洋化成工業(株)製のビスコール550P]、荷電制御剤T−77[保土谷化学(製)])し、以下の方法でトナー化した。
まず、ヘンシェルミキサー[日本コークス工業(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、ラボプラストミルMODEL4M150[東洋精機(株)製]で150℃で混練した。ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS−I]で分級し、粒径D50が8μmのトナー粒子を得た。ついで、トナー粒子100重量部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5重量部をサンプルミルにて混合して、本発明のトナー(T−1)〜(T−13)、及び比較用のトナー(RT−1)〜(RT−5)を得た。
【0074】
実施例及び比較例で得られたトナーについて、下記方法で、飽和帯電量、帯電立ち上がり性、帯電安定性、耐ブロッキング性、低温定着性及び耐ホットオフセット性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
<飽和帯電量>
トナー0.25gとフェライトキャリア(パウダーテック社製、F−150)5gとを
マグロール用の密閉容器に入れ、これを温度23℃、湿度50%の雰囲気下で1時間以上調湿した後、容器をマグロールの撹拌装置にセットし、280rpm×60秒間撹拌し、試料とした。次いで、容器から試料を取り出して、トナーの帯電量Q(60)(μC/g)を測定し、これを飽和帯電量の指標とした。
測定にはブローオフ帯電量測定装置[東芝ケミカル(株)製]を用いた。
[判定基準]
○:30μC/g以上
△:25〜30μC/g未満
×:25μC/g未満
【0077】
<帯電立ち上がり性>
上記飽和帯電量の測定において、撹拌時間を30秒間に変更した以外は、同様の操作を行い測定したトナーの帯電量をQ(30)(μC/g)とし、この初期帯電量を帯電立ち上がり性の指標とした。
[判定基準]
○:20μC/g以上
△:15〜20μC/g未満
×:15μC/g未満
【0078】
<帯電安定性>
上記飽和帯電量の測定において、調湿条件を(1)温度23℃、湿度50%から(2)温度40℃、湿度85%に変更した以外は、同様の操作を行い、トナーの帯電量(μC/g)を測定した。
調湿条件(2)での帯電量と調湿条件(1)での帯電量との比[Q(40℃、85%)/Q(23℃、50%)]を計算し、これを帯電安定性の指標とした。
[判定基準]
○:0.5以上
△:0.3以上0.5未満
×:0.3未満
【0079】
<耐熱保存性>
上記のトナーを45℃の雰囲気で24時間静置し、ブロッキングの程度を目視で判断し、下記判定基準で耐熱保存性を評価した。
[判定基準]
○:ブロッキングが発生していない。
△:一部にブロッキングが発生している。
×:全体にブロッキングが発生している。
【0080】
<低温定着性>
上記のトナーを用いて、市販プリンター(HP製レーザープリンター)を用いて現像した未定着画像を、市販複写機(AR5030;シャープ製)の定着機を用いて評価した。
定着画像をパットで擦った後の、マクベス反射濃度計RD−191(マクベス社製)を用いて測定した画像濃度の残存率が70%未満となるまで定着ロール温度を5℃刻みで下げた。画像濃度の残存率が70%以上となる最低の定着ロール温度をもって最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れることを意味する。
【0081】
<耐ホットオフセット性>
上記の低温定着性の評価方法と同様に定着評価し、定着画像へのホットオフセットの有無を目視評価した。定着ロール温度を5℃刻みで上げ、ホットオフセットが発生した定着ロール温度をもってホットオフセット発生温度とした。なお、測定用に使用した定着機の保護のため、190℃まで評価を実施し、ホットオフセットが発生しなかったものを「>190℃」とした。ホットオフセット発生温度が高いほど、耐ホットオフセット性に優れることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のトナーバインダー及びトナーは、帯電特性(飽和帯電量、帯電立ち上がり性、帯電安定性)に優れ、かつ、耐ブロッキング性、低温定着性及び耐ホットオフセット性に優れる。電子写真、静電記録、静電印刷等に用いる静電荷像現像用トナー及びトナーバインダーとして好適に使用できる。