特許第6983730号(P6983730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983730
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】障害物検知装置および障害物検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/931 20200101AFI20211206BHJP
   G01S 13/86 20060101ALI20211206BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20211206BHJP
   B61L 23/00 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   G01S13/931
   G01S13/86
   B60L3/00 B
   B61L23/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-126503(P2018-126503)
(22)【出願日】2018年7月3日
(65)【公開番号】特開2020-8295(P2020-8295A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2020年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有賀 由実
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−034793(JP,A)
【文献】 特表2016−525487(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0010734(KR,A)
【文献】 米国特許第05786750(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
B60L 3/00
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の前方へ発射した電波の反射波により当該前方にある物体までの距離と方向とを検出するレーダと、
前記列車の前方の温度を検出する温度センサと、
前記列車の前方に障害物があることを判断する判断部と
を備え、
前記判断部は、前記レーダが検出した前記物体の検知レベルと前記列車の走行路線上前方の既存の検知レベルとの差分が第1の閾値未満である場合には、当該差分および前記温度センサが検出した前記物体の温度信号に基づいて、前記物体が障害物であるか否かを判断し、前記差分が前記第1の閾値以上である場合には、前記温度信号に拘らず前記物体を障害物と判断する
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の障害物検知装置であって、
前記判断部は、前記温度信号が所定の温度以上である場合に、前記差分が前記第1の閾値より小さい第2の閾値以上であれば、前記物体を障害物と判断する
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の障害物検知装置であって、
前記既存の検知レベルは、前記列車に搭載したまたは地上設備に設けたデータベースから取得する
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の障害物検知装置であって、
前記判断部は、前記障害物を判断すると、当該障害物までの距離に応じてブレーキ制御を行うための制御指令を出力する
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の障害物検知装置であって、
前記判断部は、前記障害物を判断すると、前記列車の乗務員に対する警報を報知する指令を出力する
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項6】
請求項に記載の障害物検知装置であって、
前記判断部は、前記障害物を判断すると、さらに前記列車外へ警笛を鳴らす指令を出力する
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項7】
レーダを用いて列車の前方にある物体までの距離と方向とを検出する第1のステップと、
前記レーダが検出した前記物体の検知レベルと前記列車の走行路線上前方の既存の検知レベルとの差分を算出する第2のステップと、
前記差分が第1の閾値以上であれば前記物体を障害物と判断する第3のステップと、
温度センサを用いて前記列車の前方の温度を検出する第4のステップと、
前記温度センサが検出した前記物体の温度信号が所定の温度以上である場合に、前記差分が前記第1の閾値より小さい第2の閾値以上であれば前記物体を障害物と判断する第5のステップと
を有する障害物検知方法。
【請求項8】
請求項7に記載の障害物検知方法であって、
前記障害物と判断した前記物体までの距離を検知し当該距離に応じて前記列車のブレーキ制御を行う第6のステップ
をさらに有する障害物検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物検知装置および障害物検知方法に関し、特に、列車走行時における人物等を含めた障害物の検知に好適である。
【背景技術】
【0002】
列車走行に対する障害物を検知する技術として、特許文献1には、レーダ技術を用いた障害物検知装置及び方法が提案されている。この文献には、「列車に搭載されたレーダの出力信号を読み込み、列車が走行しているときのレーダの出力信号と記憶手段に記憶された障害物が存在しないときの基準信号との差分に基づいて、レーダの探索範囲に障害物が存在するか否かを判定する」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-34793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、障害物と見なすための差分の閾値を上げると、車両より小さな障害物が存在した場合に障害物としての検知が不可能である。逆に、差分の閾値を下げると、ノイズによる差分が含まれてくるため、列車走行に影響の無い物体まで障害物と検知する恐れがある。
そこで、本発明に係る障害物検知装置及び障害物検知方法は、障害物の認識率を向上させ、特に人物等については誤認識なく安全性を確保させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る障害物検知装置は、列車の前方へ発射した電波の反射波により当該前方にある物体までの距離と方向とを検出するレーダと、列車の前方の温度を検出する温度センサと、列車の前方に障害物があることを判断する判断部とを備え、判断部は、レーダが検出した物体の検知レベルと列車の走行路線上前方の既存の検知レベルとの差分が第1の閾値未満である場合には、当該差分および温度センサが検出した物体の温度信号に基づいて、物体が障害物であるか否かを判断し、前記差分が第1の閾値以上である場合には、温度信号に拘らず物体を障害物と判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、列車走行時に支障を来たす障害物の認識率を向上させ、特に人物等については誤認識なく安全性を確保させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る障害物検知装置の構成の一例を示す図である。
図2】列車に搭載するレーダ検知器および温度センサの設置位置の一例を示す図である。
図3】レーダ検知器および温度センサによる検知データの一例とデータベースからの読み込みデータとの照合の一例を示す図である。
図4】路線上前方の既存の検知データのデータベースを作成するための試験走行時におけるフローチャートを示す図である。
図5】列車走行時における障害物の検知および衝突を回避するためのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0009】
図1は、本発明に係る障害物検知装置の構成の一例を示す図である。
レーダ検知器1は、列車の進行方向の線路上に存在する物体に対して、その物体までの距離およびその物体の方向を測定して、測定信号をCPU3に入力する。
【0010】
温度センサ2は、列車の進行方向の線路上に存在する物体の温度を測定して、測定信号をCPU3に入力する。ここで、温度センサ2は、赤外カメラであってもよい。
【0011】
CPU3は、レーダ検知器1からの距離および方向の検出信号並びに温度センサ2からの温度検出信号をそれぞれ入力データとして、線路上に障害物がない平常時の場合のデータ、すなわち走行路線上前方の既存情報のデータを格納するデータベース4からの読み込みデータとデータ照合を行う。
【0012】
データベース4は、列車11の車両内に搭載する場合、または、地上設備の方に設け、無線設備等を介してデータ通信を行う形態でもよい。そして、データベース4には、少なくとも列車が走行する路線上前方の既存情報が格納されているものである。
【0013】
CPU3による上記データ照合の結果により障害物と判定された場合には、CPU3は、障害物までの距離に応じて、列車のブレーキに関する制御を行うブレーキ制御装置5に対して制御指令を出力する。それと共に、CPU3は、警報器6に対して運転士等の乗務員に対する警報を報知させる指令を出力する。また併せて、CPU3は、列車11に具備する警笛(図示せず)を使用して列車外部へ向かって警笛を鳴らす指令を出力してもよい。
【0014】
また、CPU3は、現在位置確認装置7から入力する現在位置情報により次駅への到着を判断する。この現在位置確認装置7による現在位置情報の取得には、GPS情報の他、無線装置からの現在位置情報やキロ程情報等を用いてもよい。
【0015】
図2は、列車11に搭載するレーダ検知器1および温度センサ2の設置位置の一例を示す図である。図では、レーダ検知器1および温度センサ2を、列車11の前面に設置する例を示しているが、この設置位置に限定されるものではない。
【0016】
図3は、レーダ検知器1および温度センサ2による検知データの一例とデータベース4からの読み込みデータとの照合の一例を示す図である。
レーダ検知器1のみで障害物の検知を行った検知データ(図3の(a))と、データベース4からの読み込みデータ(図3の(b))との差分を検出し、差分が閾値Aを上回った場合に障害物と判定する(図3の(c))。
【0017】
しかし、線路上に立ち入った物体の検知信号が障害物と認定する閾値を下回るレベルの信号であった場合に、障害物として検知することができない。また、閾値のレベルを下げると、列車走行に影響の無いノイズ信号を障害物と見なしてしまう恐れがある。
【0018】
そこで、温度センサ2の測定データ(図3の(d))も併せて照合することにより、一定の物体認識温度を超える物体が存在する場合には、物体認識温度を超えた物体に対して、レーダ検知器1からの検知データとデータベース4上の既存の検知データとの差分をとり、閾値B(B<A)を上回る値であれば障害物と認識する(図3の(e))。これにより、線路上に立ち入った人物等に対しても誤りなく検出し、列車走行に支障を来たす障害物の検出率延いては安全性を向上させることができる。
【0019】
図4は、走行路線上前方の既存の検知データのデータベースを作成するための試験走行時におけるフローチャートを示す図である。
図4に示すフローチャートの各ステップの動作態様は、以下のとおりである。
【0020】
ステップ001(S001):走行路線上前方の建造物を含む物体の既存の検知データから成るデータベースを作成するために、列車11は、走行路線上にてレーダ検知器1を起動状態にして走行を開始する。
ステップ002(S002):レーダ検知器1は、走行路線上前方の物体情報を所定の路線において検知する。
【0021】
ステップ003(S003):所定の路線走行後に、CPU3は、ステップ002(S002)で検知し収集したデータを、データベース4へ集約して保存する。
ステップ004(S004):上記ステップ001(S001)〜ステップ003(S003)の処理フローを複数回行って試験走行を終了し、確定したデータによりデータベース4を作成する。
【0022】
図5は、列車走行時における障害物の検知および衝突を回避するためのフローチャートを示す図である。
図5に示すフローチャートの各ステップの動作態様は、以下のとおりである。
【0023】
ステップ101(S101):列車11は、レーダ検知器1および温度センサ2を起動状態にして駅を出発し、線路上を走行する。
【0024】
ステップ102(S102):CPU3は、キロ程やGPS等を使って現在位置確認装置7からの現在位置情報を確認し、特定の場所を通過したら次駅到着と見なし、ステップ103(S103)に進む。通過していない場合、S104に進む。
【0025】
ステップ103(S103):CPU3は、ホーム上の人物は障害物として検知しないので、障害物の検知処理を停止する。
ステップ104(S104):レーダ検知器1は、線路上の物体情報を検知する。
【0026】
ステップ105(S105):CPU3は、ステップ104(S104)でレーダ検知器1が検知した線路上のデータと、データベース4上に記録された同位置の既存の検知データとを照合する。
【0027】
ステップ106(S106):CPU3は、ステップ105(S105)で照合したデータの差分が閾値A以上の場合には、ステップ111(S111)に進む。閾値A未満の場合には、ステップ107(S107)に進む。
【0028】
ステップ107(S107):温度センサ2により、列車進行方向の温度を検知する。
ステップ108(S108):CPU3は、検知温度が物体として認識される一定の温度以上の場合、ステップ109(S109)に進む。一定の温度未満の場合、ステップ102(S102)へ戻る(図に示す「D」の流れ)。
【0029】
ステップ109(S109):CPU3は、検知温度が一定の温度以上である物体に対し、その物体の位置におけるレーダ検知器1で検知したデータとデータベース4上に記録された既存の検知データとを照合する。
【0030】
ステップ110(S110):CPU3は、ステップ109(S109)で照合したデータの差分が、閾値B(B<A)以上の場合、ステップ111(S111)に進む(図に示す「E」の流れ)。閾値B未満の場合、ステップ102(S102)へ戻る(図に示す「D」の流れ)。
【0031】
ステップ111(S111):CPU3は、レーダ検知器1を使用して検知した障害物までの距離を測定し、この測定した距離に応じてブレーキ制御装置5に対して制御指令を出力し、ブレーキ制御を行う。また、CPU3は、警報器6に対して指令を出力し、前方に障害物があることを知らせる警報を運転手等の乗務員に報知し、必要に応じて、図示しない警笛に対しても指令を出力し、列車外へ警笛を鳴らしてもよい。
【0032】
ステップ112(S112):CPU3は、検知した障害物が列車の進行方向において検知されなくなった場合には、ステップ113(S113)に進む。一方で、CPU3は、検知した障害物がまだ依然として列車前方の線路上で検知されている場合には、ステップ114(S114)に進む。
【0033】
ステップ113(S113):CPU3は、ブレーキ制御装置5に対する制御指令を解除し、障害物があることを知らせる警報および警笛のための指令も解除し、ステップ102(S102)へ戻る(図に示す「D」の流れ)。
【0034】
ステップ114(S114):CPU3は、ブレーキ制御装置5に対する制御指令を継続する形でステップ112(S112)に戻る(図に示す「F」の流れ)。
【符号の説明】
【0035】
1…レーダ検知器、2…温度センサ、3…CPU、4…データベース、
5…ブレーキ制御装置、6…警報器、7…現在位置確認装置、11…列車
図1
図2
図3
図4
図5