特許第6983748号(P6983748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983748
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】分子検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20211206BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 29/036 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   G01N5/02 A
   G01N27/00 K
   G01N27/02 Z
   G01N29/036
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-235513(P2018-235513)
(22)【出願日】2018年12月17日
(65)【公開番号】特開2020-98113(P2020-98113A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2020年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真常 泰
(72)【発明者】
【氏名】李 永芳
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩久
(72)【発明者】
【氏名】中井 豊
(72)【発明者】
【氏名】吉村 玲子
【審査官】 野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/006587(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/136556(WO,A1)
【文献】 特開2010−117184(JP,A)
【文献】 特開2017−156346(JP,A)
【文献】 特開2011−203008(JP,A)
【文献】 特開平05−281177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00−9/36
G01N 27/00
G01N 27/02
G01N 29/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と第2の面とを有する圧電体と、前記第1の面に電気的に接続された第1の電極と、前記第2の面に電気的に接続された第2の電極と、前記第2の面に電気的に接続されるともに前記第2の電極と電気的に分離された第3の電極と、を有する振動子と、
前記第2の電極の少なくとも一部と前記第3の電極の少なくとも一部とを覆い、対象分子との相互作用により前記振動子の振動周波数を変化させる感応膜と、
変化した前記振動周波数を検出する検出電極と、
を備える検出素子を具備し、
前記第2の電極および前記第3の電極は、前記圧電体を駆動して前記振動子を振動させるための駆動電極としての機能を有する、分子検出装置。
【請求項2】
第1の面と第2の面とを有する圧電体と、前記第1の面に設けられた第1の電極と、前記第2の面に設けられた第2の電極と、前記第2の面に設けられるとともに前記第2の電極と離間する第3の電極と、を有する振動子と、
前記第2の電極の少なくとも一部と前記第3の電極の少なくとも一部とを覆い、対象分子との相互作用により前記振動子の振動周波数を変化させる感応膜と、
前記第2の面に設けられるとともに前記第2の電極および前記第3の電極と離間し、変化した前記振動周波数を検出する検出電極と、
を備える検出素子を具備し、
前記第2の電極および前記第3の電極は、前記圧電体を駆動して前記振動子を振動させるための駆動電極としての機能を有する、分子検出装置。
【請求項3】
前記第2の電極および前記第3の電極は、前記感応膜のインピーダンスを計測するための機能電極としての機能を有する、請求項1または請求項2に記載の分子検出装置。
【請求項4】
前記第2の電極および前記第3の電極は、互いに対向する櫛歯形状、および連続して屈曲する形状、の少なくとも一つの形状を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の分子検出装置。
【請求項5】
前記検出素子は、前記第2の面に設けられるととともに前記第2の電極および前記第3の電極と離間する第4の電極をさらに備え、
前記第4の電極は、前記第2の面と前記感応膜との間で連続して屈曲する形状を有する、請求項1または請求項2に記載の分子検出装置。
【請求項6】
前記検出素子は、
前記第2の面に設けられるとともに前記第2の電極および前記第3の電極と離間する第4の電極と、
前記第2の面に設けられるとともに前記第2の電極ないし前記第4の電極と離間する第5の電極と、
をさらに備え、
前記第4の電極および前記第5の電極のそれぞれは、前記第2の面と前記感応膜との間で互いに対向する櫛歯形状および連続して屈曲する形状の少なくとも一つの形状を有する、請求項1または請求項2に記載の分子検出装置。
【請求項7】
前記第4の電極および前記第5の電極は、前記感応膜のインピーダンスを計測するための機能電極としての機能を有する、請求項6に記載の分子検出装置。
【請求項8】
前記第3の電極ないし前記第5の電極の少なくとも一つは、前記感応膜を加熱して前記感応膜に付着または吸着する分子を脱離させるヒータとしての機能を有する、請求項4ないし請求項6のいずれか一項に記載の分子検出装置。
【請求項9】
前記感応膜は、金属有機構造体を有する、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の分子検出装置。
【請求項10】
前記金属有機構造体は、配位不飽和な金属サイトを含む、請求項9に記載の分子検出装置。
【請求項11】
前記金属有機構造体は、HKUST−1を有する、請求項10に記載の分子検出装置。
【請求項12】
前記振動子の振動周波数の計測を制御する周波数計測制御回路と、
前記感応膜のインピーダンスの計測を制御するインピーダンス計測制御回路と、
前記感応膜の加熱を制御する加熱制御回路と、
前記検出素子と前記インピーダンス計測制御回路との接続、前記検出素子と前記周波数計測制御回路との接続、および前記検出素子と前記加熱制御回路との接続、を切り替えるスイッチング回路と、
を備える制御部をさらに具備する、請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の分子検出装置。
【請求項13】
前記感応膜への分子の付着または吸着による前記振動周波数の変化を示すデータ、前記インピーダンスを示すデータ、および前記感応膜からの分子の脱離による前記振動周波数の変化を示すデータからなる群より選択される少なくとも一つのデータに基づいて、前記対象分子の種類および濃度からなる群より選択される少なくとも一つを検出する解析部をさらに具備する、請求項12に記載の分子検出装置。
【請求項14】
複数の前記検出素子を具備し、
前記解析部は、前記複数の検出素子のそれぞれにおける、前記感応膜への分子の付着または吸着による前記振動周波数の変化を示すデータ、前記インピーダンスを示すデータ、および前記感応膜からの分子の脱離による前記振動周波数の変化を示すデータからなる群より選択される少なくとも一つのデータに基づいて、前記対象分子の種類および濃度からなる群より選択される少なくとも一つを検出する、請求項13に記載の分子検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、分子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
におい(ガス)センサによるセンシング技術は、空気中のにおいを数値化できることから、臭気判定や大気中の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の計測、空気清浄器の性能確認、装置類のトラブル検知等に広く利用されている。
【0003】
近年では、これまで犬の嗅覚に頼っていた爆薬類の検知や麻薬・覚せい剤の検知への関心、また、呼気による特定の病気診断等への関心が高まっており、においセンサやガスセンサの高性能化が望まれている。
【0004】
従来のガスセンシング方法としては、水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)、光イオン化検出器(Photo−lonization Detector:PID)、赤外線式ガス分析計(Non−Dispersive Infra−Red:NDIR)等の機器が挙げられる。これらの装置は、携帯性、可燃ガスを用いる危険性、測定に用いる光源の寿命や価格、物質の認識性等に課題があった。そこで、処理装置への組み込みや作業現場での測定に有利な小型センサの開発が進められている。
【0005】
におい(ガス)センサに求められる性能としては、感度、選択性、簡便性、迅速性、信頼性、安定性等が挙げられる。小型センサの代表である半導体式ガスセンサは、多孔質酸化スズ(SnO)に吸着した酸素が還元性物質で消費される際に発生する電気抵抗等の電気的性質変化を利用してガス濃度を測ることができるセンサが提案されている。しかしながら、従来用いられてきた酸化物半導体センサは、例えば検出感度および検出精度が低いというという問題点を有していた。検出精度としては、例えば検出ガスの種類の検出精度や濃度の検出精度等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開2018/0202961
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Christos Sapsanis et al., Sensors 2015, 15, 18153−18166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、対象分子の検出感度および検出精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の分子検出装置は、第1の面と第2の面とを有する圧電体と、第1の面に電気的に接続された第1の電極と、第2の面に電気的に接続された第2の電極と、第2の面に電気的に接続されるとともに第2の電極と離間する第3の電極と、を有する振動子と、第2の電極の少なくとも一部と第3の電極の少なくとも一部とを覆い、対象分子との相互作用により振動子の振動周波数を変化させる感応膜と、変化した振動周波数を検出する検出電極と、を備える検出素子を具備する。第2の電極および第3の電極は、圧電体を駆動して振動子を振動させるための駆動電極としての機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】検出素子の構造例を示す上面図である。
図2図1の線分A−A’における断面図である。
図3図1の線分B−B’における断面図である。
図4】分子検出装置の構成例を示すブロック図である。
図5】制御部の構成例を示すブロック図である。
図6】検出素子の他の構造例を示す上面図である。
図7図6の線分A−A’における断面図である。
図8】検出素子の他の構造例を示す上面図である。
図9図8の線分A−A’における断面図である。
図10】電極344、電極345の構造例を示す図である。
図11】検出素子の他の構造例を示す上面図である。
図12図11の線分A−A’における断面図である。
図13】電極341、電極342の構造例を示す図である。
図14】対象分子の検出方法例を説明するためのフローチャートである。
図15】検出方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
図16】周波数計測ステップS1−2における時間と振動周波数の変化量ΔFとの関係を示す図である。
図17】加熱ステップS1−4における時間と振動周波数の変化量ΔFとの関係を示す図である。
図18】検出方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
図19】検出方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0012】
(第1の実施形態)
実施形態の分子検出装置に用いられる検出素子の構成例について説明する。図1は、検出素子30の構造例を示す上面図であり、図2は、図1の線分A−A’における断面図であり、図3図1の線分B−B’における断面図である。
【0013】
検出素子30は、圧電体32と電極33と電極341と電極342とを有する振動子35と、電極36と、感応膜37と、を備える。圧電体32、電極33、電極341、電極342、電極36、および感応膜37は、例えば基体31に積層されている。検出素子30は、例えば少なくとも1ヶ所が固定され、梁状であってもよい。
【0014】
基体31は、例えばシリコン、ガラス、樹脂等を用いて形成される。基体31は、検出素子30を支持する支持体としての機能を有する。
【0015】
圧電体32は、面32aと、面32aの反対側の面32bと、を有する。圧電体32は、所定の電圧が印加されることにより変形する。よって、例えば交流電圧を印加して圧電体32を伸縮させることにより検出素子30を振動させることができる。圧電体32は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、亜鉛ニオブ酸鉛−チタン酸鉛固溶体(PZN−PT)、マンガン酸ニオブ酸鉛−チタン酸ジルコン酸鉛固溶体(PMnN−PZT)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)等を用いて形成される。
【0016】
電極33は、例えば面32aに電気的に接続される。電極33は、例えば面32aに接して設けられる。電極33は、圧電体32を駆動して振動子35を振動させるための駆動電極としての機能を有する。電極33としては、例えばPt、Au、Mo、W、Al等の金属材料を用いて形成される。
【0017】
電極341は、面32bに電気的に接続される。電極341は、例えば面32bに接して設けられる。電極341は、圧電体32を駆動して振動子35を振動させるための駆動電極としての機能を有する。電極341は、感応膜37のインピーダンスを計測するための機能電極としての機能を有していてもよい。さらに、電極341は、感応膜37を加熱するためのヒータとしての機能を有していてもよい。
【0018】
電極34は、面32bに電気的に接続される。電極342は、例えば面32bに接して設けられるとともに電極341と離間する。電極342は、例えば電極341と電気的に分離される。電極342は、圧電体32を駆動して振動子35を振動させるための駆動電極としての機能を有する。電極342は、感応膜37のインピーダンスを計測するための機能電極としての機能を有していてもよい。電極342は、感応膜37を加熱して感応膜37に付着または吸着する分子を脱離させるためのヒータとしての機能を有していてもよい。
【0019】
電極36は、変化した振動周波数を検出する検出電極としての機能を有する。電極36は、面32aまたは面32bに電気的に接続される。電極36は、例えば面32bに接して設けられるとともに電極341および電極342と離間する。電極36は、電極341および電極342と電気的に分離される。これに限定されず、電極36は、面32aに接して設けられるとともに電極33と離間していてもよい。このとき、電極36は、電極33と電気的に分離される。
【0020】
電極341、電極342、および電極36は、例えばPt、Au、Mo、W、Al等の金属材料を用いて形成される。なお、同一の導電膜をパターニングすることにより電極341、電極342、および電極36を同時に形成してもよい。
【0021】
感応膜37は、電極341の少なくとも一部と電極342の少なくとも一部とを覆う。感応膜37は、電極341の側面の少なくとも一部、電極342の側面の少なくとも一部、および面32bにおける電極341と電極342との間の領域に接して設けられていてもよい。
【0022】
感応膜37は、対象分子との相互作用により振動子35の振動周波数を変化させる。感応膜37は、例えば質量を有する対象分子が付着または吸着することにより振動子35の振動周波数を変化させる。感応膜37は、露出面を有し、露出面は電極341および電極342に接していない。これにより、感応膜37上に電極341および電極342を形成する場合よりも対象分子と相互作用可能な領域の体積を増やすことができる。
【0023】
感応膜37は、例えばポリマーや生体膜等の有機材料、金属酸化物等の無機微粒子、金属ナノ粒子、活性炭、ゼオライト、有機金属錯体、金属有機構造体(Metal Organic Framework:MOF)等、特定の分子を選択的に付着・吸着しやすい材料を用いて形成される。
【0024】
MOFは、金属と有機配位子が配位ネットワークを形成することにより、活性炭やゼオライトの表面積をはるかに超える大きな表面積を有する三次元ミクロポーラス材料であり、ガス吸着や分離技術、センサや触媒などへの応用が期待されている。MOFは、対象分子の数がごくわずかである場合でも、対象分子を取り込み、濃縮できる。よって、MOFを感応膜37に用いることにより対象分子の検出感度を向上させることができる。また、MOFは金属種や有機配位子の種類、サイズを容易にカスタマイズできるため、対象分子に対する選択性を付与することができ、対象分子の検出精度を向上させることができる。
【0025】
対象分子が常温常圧で気体である分子の場合、MOFは、配位不飽和な金属サイトを有することが好ましい。配位不飽和とは、金属イオンがその配位状態に少なくとも一つの空きサイトを有する状態であり、このようなサイトにガス分子が強く相互作用する。このような配位不飽和サイトを金属ノードとして有するMOFの例としては、HKUST−1、MIL−100(Cr,Fe)、MIL−101(Cr,Fe)、UIO−66、UIO−67、CPO−27(Co,Fe,Mg,Ni)等が挙げられる。金属ノードは、他の分子と相互作用可能な金属サイトである。
【0026】
MOFの骨格である金属ノードとは別に、有機配位子自体が配位不飽和な金属サイトを有する場合、MOFの骨格である金属ノードは必ずしも配位不飽和である必要はない。例えば架橋性配位化合物を用いたMOF等が挙げられる。このような有機配位子の例として、ビピリジン誘導体が挙げられる。例えば、2,2’−ビピリジン−5,5’−ジカルボン酸(hbpydc)とAlCl・6HOから得られるAl(OH)(bpydc)(MOF−253)は、PdClやCuBFとの反応で、PdあるいはCuがビピリジンに配位し、不飽和で活性な金属サイトを持つMOFとなる。
【0027】
次に、分子検出装置の構成例について説明する。図4は、実施形態の分子検出装置の構成例を示すブロック図である。図4に示す分子検出装置は、捕集部2と、検出部3と、排出部4と、制御部5と、解析部6と、を具備する。
【0028】
捕集部2は、対象分子11aを含む流体1を捕集する。流体1は、液体または気体である。捕集部2は、流体1の捕集口を有し、流路を介してポンプに接続されている。捕集部2は、ポンプを駆動させることにより捕集口から流体1を捕集して検出部3に送る。捕集部2は、流体1中に含まれる微粒子等の不純物を除去するフィルタを備えていてもよい。なお、ポンプの代わりにバルブを設け、バルブの開閉により流体1の導入の開始および停止を制御してもよい。
【0029】
流体1は、対象分子11aの分子量に類似する分子量や分子構造に類似する分子構造等を有する物質を不純物として含んでいる場合がある。また、空気中に漂う対象分子11aは、におい成分や微粒子等の様々な夾雑物11bや水分11cと混ざった状態で存在することが多い。このような点から、流体1は、予めフィルタ装置等で前処理した後に、分子検出装置に送ってもよい。対象分子11aとしては、水分、揮発性有機化合物(ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ペンタン、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、フロン類、ホルムアルデヒド、フルフラール等)、カビ臭の原因となるゲオスミンや2−メチルイソボルネオール、その他、キセノン、クリプトンなどの希ガス類、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫化水素、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等、常温常圧で気体状の物質、2,4,6−トリニトロトルエン、ジニトロトルエン等の火薬、爆薬類、メタンフェタミン、アンフェタミン等の不正薬物が挙げられる。
【0030】
捕集部2で捕集された流体1は、流路中の検出部3に送られる。検出部3は、流路中に配置される。検出部3は、検出素子30を備える。なお、検出部3は、複数の検出素子30を備えていてもよい。複数の検出素子30は、互いに異なる感応膜37を備えることが好ましい。これにより、検出するためのデータの種類を増やすことができるため、対象分子11aの検出精度を向上させることができる。
【0031】
排出部4は、検出部3から流体1を排出する機能を有する。排出部4は、流体1の排出口を有し、流路を介してポンプに接続されている。排出部4は、ポンプを駆動させることにより検出部3の流体1を吸引して排出口から流体1を排出する。
【0032】
制御部5は、例えば電極33、電極341、電極342、および電極36に電気的に接続される。図5は制御部5の構成例を示すブロック図である。図5に示す制御部5は、振動子35の振動周波数の計測を制御する周波数計測制御回路51と、感応膜37のインピーダンスの計測を制御するインピーダンス計測制御回路52と、感応膜37の加熱を制御する加熱制御回路53と、検出素子30と周波数計測制御回路51との接続、検出素子30とインピーダンス計測制御回路52との接続、および検出素子30と加熱制御回路53との接続を切り替えるスイッチング回路54と、を備える。周波数計測制御回路51、インピーダンス計測制御回路52、加熱制御回路53、およびスイッチング回路54のそれぞれは、例えばプロセッサ等からの制御信号により制御される。
【0033】
周波数計測制御回路51は、電極33と電極341および電極342との間への第1の電圧の印加を制御する。周波数計測制御回路51は、例えば電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させる。第1の電圧は、例えば交流電圧である。周波数計測制御回路51は、第1の電圧を印加するための電源と、振動周波数を計測する測定器と、を有する。
【0034】
インピーダンス計測制御回路52は、電極341と電極342との間への第2の電圧の印加を制御する。インピーダンス計測制御回路52は、例えば電極341と電極342との間に第2の電圧を印加して感応膜37のインピーダンスを計測する。第2の電圧は、例えば直流電圧または交流電圧である。インピーダンス計測制御回路52は、第2の電圧を印加するための電源と、インピーダンスを計測する測定器と、を有する。
【0035】
加熱制御回路53は、電極341および電極342への第3の電圧の印加を制御する。加熱制御回路53は、例えば電極341および電極342に第3の電圧を印加することにより感応膜37を加熱して感応膜37に付着または吸着する対象分子11aを脱離させる。第3の電圧は、例えば直流電圧または交流電圧である。加熱制御回路53は、例えば第3の電圧を印加するための電源を有する。加熱温度は、例えば第3の電圧の値を制御することにより調整される。
【0036】
スイッチング回路54は、電極33、電極341、電極342、および電極36と周波数計測制御回路51との接続、電極33、電極341、電極342、および電極36とインピーダンス計測制御回路52との接続、電極33、電極341、電極342、および電極36と加熱制御回路53との接続を切り替える。スイッチング回路54は、例えば複数のスイッチを有する。
【0037】
解析部6は、感応膜37への分子の付着または吸着による振動子35の振動周波数の変化を示すデータ、感応膜37のインピーダンスの変化を示すデータ、および感応膜37からの分子の脱離による上記振動周波数の変化を示すデータからなる群より選択される少なくとも一つのデータに基づいて、対象分子11aの種類および濃度からなる群より選択される少なくとも一つを検出する。複数の検出素子30を備える場合、複数の検出素子30のそれぞれにおける、感応膜37への分子の付着または吸着による振動子35の振動周波数の変化を示すデータ、感応膜37のインピーダンスの変化を示すデータ、および感応膜37からの分子の脱離による上記振動周波数の変化を示すデータからなる群より選択される少なくとも一つのデータに基づいて、対象分子11aの種類および濃度からなる群より選択される少なくとも一つを検出する。解析部6は、計測されたデータを処理する信号処理部61と、処理されたデータに基づいて対象分子11aの種類および濃度の少なくとも一つを分析する分析部62と、を備える。
【0038】
以上のように、本実施形態の分子検出装置は、振動子35の駆動電極として電極341、342を設けることにより、感応膜37のインピーダンスを測定する機能や、感応膜37に付着または吸着する分子を脱離させるためのヒータとしての機能を駆動電極に付与することができる。これにより、検出素子30において、感応膜37による分子の吸着または脱離に応じた振動子の振動周波数の変化、分子の極性、誘電率、大気中であれば湿度に対応するインピーダンスの変化を測定するとともに加熱により感応膜37に付着または吸着する分子の脱離を促進することができる。また、電極341および電極342を設けることにより駆動電極と感応膜37との接触面積が増加し、感応膜37と対象分子との相互作用を生じやすくすることができる。さらに、電極341および電極342は、同一面に形成できるため、同一工程で形成することができ、工程数の増加を抑制することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
検出素子30の構造は、図1ないし図3に示す構造に限定されない。図6は、検出素子30の他の構造例を示す上面図であり、図7は、図6の線分A−A’における断面図である。なお、図1ないし図3と共通する部分については、図1ないし図3の説明を適宜援用することができる。
【0040】
図6および図7に示す検出素子30は、図1ないし図3に示す検出素子30と比較して電極343をさらに備える点が異なる。なお、便宜のため、図6では感応膜37を点線で示す。
【0041】
電極343は、面32bに電気的に接続されるとともに電極341および電極342と電気的に分離される。電極343は、例えば面32bに接して設けられるとともに電極341および電極342と離間する。電極343は、スイッチング回路54に電気的に接続されるとともに電極341および電極342と電気的に分離する。電極343は、例えば感応膜37を加熱して感応膜に付着または吸着する分子を脱離させるヒータとしての機能を有する。
【0042】
電極343は、例えば面32bと感応膜37との間で連続して屈曲するサーペンタイン形状を有する。電極343と感応膜37との接触面積を増やすことにより、感応膜37を加熱し易くすることができる。電極343は、例えば電極341および電極342に適用可能な材料を用いて形成される。なお、同一の導電膜をパターニングすることにより電極341ないし電極343を同時に形成してもよい。
【0043】
(第3の実施形態)
図8は、検出素子30の他の構造例を示す上面図であり、図9は、図8の線分A−A’における断面図である。なお、図1ないし図3と共通する部分については、図1ないし図3の説明を適宜援用することができる。
【0044】
図8および図9に示す検出素子30は、図1ないし図3に示す検出素子30と比較して電極344および電極345をさらに備える点が異なる。なお、便宜のため、図8では感応膜37を点線で示す。
【0045】
電極344は、面32bに電気的に接続されるとともに電極341および電極342と電気的に分離される。電極344は、例えば面32bに接して設けられるとともに電極341および電極342と離間する。電極344は、スイッチング回路54に電気的に接続されるとともに電極341および電極342と電気的に分離する。電極344は、感応膜37のインピーダンスを計測するための機能電極としての機能、および感応膜37を加熱して感応膜に付着または吸着する分子を脱離させるヒータとしての機能を有していてもよい。
【0046】
電極345は、面32bに電気的に接続されるとともに電極341ないし電極344と電気的に分離される。電極345は、例えば面32bに接して設けられるとともに電極341ないし電極344と離間する。よって、電極345は、スイッチング回路54に電気的に接続されるとともに電極341ないし電極344と電気的に分離する。電極345は、感応膜37のインピーダンスを計測するための機能電極としての機能、および感応膜37を加熱して感応膜に付着または吸着する分子を脱離させるヒータとしての機能を有していてもよい。
【0047】
電極344および電極345は、例えば面32bと感応膜37との間で互いに対向する櫛歯形状を有する。電極344および電極345と感応膜37との接触面積を増やすことにより、例えば感応膜37のインピーダンスを測定し易くするとともに感応膜37を加熱し易くすることができる。電極344、345は、例えば電極341、342に適用可能な材料を用いて形成される。
【0048】
図10は、電極344および電極345の構造例を示す図である。図10に示す電極344および電極345のそれぞれは、例えば面32bと感応膜37との間で連続して屈曲してサーペンタイン形状を形成するとともに互いに対向する櫛歯形状を形成する。電極344および電極345と感応膜37との接触面積を増やすことにより、例えば感応膜37のインピーダンスを測定し易くするとともに感応膜37を加熱し易くすることができる。
【0049】
電極344および電極345は、例えばスイッチング回路54におけるスイッチSW1およびスイッチSW2をオン状態にすることにより加熱制御回路53の直流電源DC1および直流電源DC2に接続され、直流電圧が供給されて加熱される。また、電極344および電極345は、例えばスイッチング回路54におけるスイッチSW3、スイッチSW4、スイッチSW5をオン状態にすることによりインピーダンス計測制御回路52の交流電源ACに接続され、交流電圧が供給されて感応膜37のインピーダンスを測定することができる。
【0050】
(第4の実施形態)
図11は、検出素子30の他の構造例を示す上面図であり、図12は、図11の線分A−A’における断面図である。なお、図1ないし図3と共通する部分については、図1ないし図3の説明を適宜援用することができる。
【0051】
図11および図12に示す検出素子30は、図1ないし図3に示す検出素子30と比較して電極341および電極342が面32bと感応膜37との間で互いに対向する櫛歯形状を有する点が異なる。なお、便宜のため、図11では感応膜37を点線で示す。
【0052】
電極341および電極342と感応膜37との接触面積を増やすことにより、例えば感応膜37のインピーダンスを測定し易くするとともに感応膜37を加熱し易くすることができる。
【0053】
図13は、電極341および電極342の構造例を示す図である。図10に示す電極341および電極342のそれぞれは、例えば面32bと感応膜37との間で連続して屈曲してサーペンタイン形状を形成するとともに互いに対向する櫛歯形状を形成する。電極341および電極342と感応膜37との接触面積を増やすことにより、例えば感応膜37のインピーダンスを測定し易くするとともに感応膜37を加熱し易くすることができる。
【0054】
電極341および電極342は、例えばスイッチング回路54におけるスイッチSW1およびスイッチSW2をオン状態にすることにより加熱制御回路53の直流電源DC1および直流電源DC2にそれぞれ接続され、直流電圧が供給されて加熱される。また、電極341および電極342は、例えばスイッチング回路54におけるスイッチSW3、スイッチSW4、スイッチSW5をオン状態にすることによりインピーダンス計測制御回路52の交流電源ACに接続され、交流電圧が供給されて感応膜37のインピーダンスを測定することができる。
【0055】
次に、実施形態の分子検出装置を用いた、対象分子11aの検出方法例について説明する。図14は、検出方法例を説明するためのフローチャートである。
【0056】
検出方法例は、図14に示すように、感応膜初期化および初期値取得ステップS1−1と、流体導入ステップS1−2と、吸着による周波数変化計測ステップS1−3と、流体排出ステップS1−4と、脱離による周波数変化計測ステップS1−5と、対象分子解析ステップS1−6と、を具備する。この例は、検出素子30が例えば図1ないし図3に示す構造、または図11ないし図13に示す構造の場合に適用可能であり、振動子35を駆動させるための駆動電極がヒータを兼ねる。
【0057】
感応膜初期化および初期値取得ステップS1−1では、まずスイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の初期振動周波数を計測する。次にスイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51との接続を解除し、検出素子30と加熱制御回路53とを接続し、電極341および電極342に第3の電圧を印加することにより感応膜37を加熱して感応膜37に付着または吸着する分子を脱離させる。このとき、温度センサ(図示しない)を別途設けて所定の温度になるよう制御してもよい。所定の時間経過後にスイッチング回路54により検出素子30と加熱制御回路53との接続を解除し、加熱を停止する。次にスイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の振動周波数を計測し、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。振動周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で計測を終了し、初期化が完了する。
【0058】
流体導入ステップS1−2では、捕集部2から検出部3に流体1を導入する。流体1に含まれる対象分子11aは、検出素子30における感応膜37に付着または吸着する。
【0059】
吸着による周波数変化計測ステップS1−3では、スイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の振動周波数を計測する。
【0060】
吸着による周波数変化計測ステップS1−3では、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。振動周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの振動周波数の変化量または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たすまで振動周波数の測定を継続する。これにより、感応膜37に吸着または付着した物質の脱離を確認することができる。
【0061】
流体排出ステップS1−4では、排出部4を介して流体1を排出する。
【0062】
脱離による周波数変化計測ステップS1−5では、感応膜初期化および初期値取得ステップS1−1と同様の方法で加熱と振動周波数計測を繰り返し、所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で計測を終了する。
【0063】
対象分子解析ステップS1−6では、感応膜初期化および初期値取得ステップS1−1、吸着による周波数変化計測ステップS1−3、脱離による周波数変化計測ステップS1−5等で計測した振動周波数の変化を示すデータを信号処理部61において処理し、処理されたデータから分析部62において対象分子11aの種類および濃度からなる群より選ばれる少なくとも一つを解析する。複数の検出素子30が例えばマトリクス状に配置されている場合は、それぞれの検出素子30から得られる情報を総合して解析し、対象分子11aの種類とその濃度の推定精度を向上させることができる。
【0064】
図15は、検出方法の他の例を説明するためのフローチャートである。検出方法の他の例は、図15に示すように、感応膜初期化および初期値取得ステップS2−1と、流体導入ステップS2−2と、吸着による周波数変化計測ステップS2−3と、流体排出ステップS2−4と、脱離による周波数変化計測ステップS2−5と、対象分子解析ステップS2−6と、を具備する。この例は、検出素子30が例えば図6および図7に示す構造または図8ないし図10に示す構造の場合に適用可能であり、振動子35を駆動させるための駆動電極とヒータとしての機能を有する電極が独立しており、加熱と振動周波数計測を同時に行う。
【0065】
感応膜初期化および初期値取得ステップS2−1では、まずスイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の初期振動周波数計測を開始する。次にスイッチング回路54により検出素子30と加熱制御回路53とを接続し、電極343ないし345に第3の電圧を印加することにより感応膜37を加熱して感応膜37に付着または吸着する分子を脱離させる。このとき、温度センサ(図示しない)を別途設けて所定の温度になるよう制御してもよい。このように加熱しながら周波数計測し、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で加熱を停止し、計測を終了する。
【0066】
流体導入ステップS2−2では、捕集部2から検出部3に流体1を導入する。流体1に含まれる対象分子11aは、検出素子30における感応膜37に付着または吸着する。
【0067】
吸着による周波数変化計測ステップS2−3では、スイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の振動周波数を計測する。振動子35の振動周波数は、電極36を用いて計測することができる。
【0068】
図16は、吸着による周波数変化計測ステップS2−3における時間と振動周波数の変化量ΔFとの関係を示す図である。振動周波数の変化量ΔFは、時間が経過するにつれて分子が付着または吸着するため増加し、その後飽和する。このときの傾きは分子の吸着速度に対応する。また、振動周波数の初期値と飽和値との差は分子の総吸着量に対応する。
【0069】
吸着による周波数変化計測ステップS2−3では、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たすまで周波数の測定を継続する。
【0070】
流体排出ステップS2−4では、排出部4を介して流体1を排出する。
【0071】
脱離による周波数変化計測ステップS2−5では、感応膜初期化および初期値取得ステップS2−1と同様の方法で加熱しながら振動周波数の変化を計測し、所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で計測を終了する。
【0072】
図17は、脱離による周波数変化計測ステップS2−5における時間と振動周波数の変化量ΔFとの関係を示す図である。振動周波数の変化量ΔFは、時間が経過するにつれて分子が脱離するため減少し、その後飽和する。このときの傾きは分子の脱離速度に対応する。図17では、脱離速度A、B、Cの三段階の速度で分子が脱離していることがわかる。複数の分子が共存する場合、感応膜37との相互作用の強さによって脱離速度に差が生じるためである。このような脱離速度の違いに関するデータを得る事は分子種の識別精度向上に役立つ。また、振動周波数の初期値と飽和値との差は分子の総脱離量に対応する。
【0073】
対象分子解析ステップS2−6では、感応膜初期化および初期値取得ステップS1−1、吸着による周波数変化計測ステップS1−3、脱離による周波数変化計測ステップS1−5等で計測した振動周波数の変化を示すデータを信号処理部61において処理し、処理されたデータから分析部62において対象分子11aの種類および濃度からなる群より選ばれる少なくとも一つを解析する。複数の検出素子30が例えばマトリクス状に配置されている場合は、それぞれの検出素子30から得られる情報を総合して解析し、対象分子11aの種類とその濃度の推定精度を向上させることができる。
【0074】
本検出方法例では、感応膜37を加熱しながら振動子35の振動周波数を測定することにより感応膜37からの分子の脱離による振動周波数の変化を示すデータを用いて対象分子11aを検出することができる。これにより、対象分子11aの検出精度を向上させることができる。
【0075】
図18は、検出方法の他の例を説明するためのフローチャートである。検出方法の他の例は、図18に示すように、感応膜初期化および初期値取得ステップS3−1と、感応膜のインピーダンス計測ステップS3−2と、流体導入ステップS3−3と、吸着による周波数変化計測ステップS3−4と、流体排出ステップS3−5と、脱離による周波数変化計測ステップS3−6と、を具備する。この例は、検出素子30が例えば図8ないし図10に示す構造の場合に適用可能である。
【0076】
感応膜初期化および初期値取得ステップS3−1では、感応膜初期化および初期値取得ステップS2−1と同様に、まずスイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の初期振動周波数計測を開始する。次にスイッチング回路54により検出素子30と加熱制御回路53とを接続し、電極343ないし345に第3の電圧を印加することにより感応膜37を加熱して感応膜37に付着または吸着する分子を脱離させる。このとき、温度センサ(図示しない)を別途設けて所定の温度になるよう制御してもよい。このように加熱しながら周波数計測し、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で加熱を停止し、計測を終了する。
【0077】
感応膜37のインピーダンス計測ステップS3−2では、スイッチング回路54により検出素子30とインピーダンス計測制御回路52とを接続し、電極344と電極345との間に第2の電圧を印加して感応膜37のインピーダンスを測定する。インピーダンス計測ステップS2−2では、所定時間経過した場合に計測を終了する。所定時間経過していない場合にはインピーダンスの測定を継続する。
【0078】
感応膜37のインピーダンスの変化は吸着分子の比誘電率が大きく影響すると考えられる。水は比誘電率が80と非常に高く、最も検出しやすい分子であるが、これ以外でも、例えばエタノールの比誘電率24を筆頭に、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基など極性基(あるいは官能基)を有する分子は比誘電率が大きい。これに対し、炭化水素系の分子はヘキサンの1.9に代表されるように低誘電率となる傾向がある。ただし、分子の吸着による容量変化は当然その吸着量に依存するため、振動数変化による吸着量変化の情報と併せることにより、対象分子の検出精度や検出感度を向上させることができる。
【0079】
感応膜37を有する検出素子の課題として、例えば感応膜37への水分の吸着による対象分子11aの検出感度の低下や、誤検出が挙げられる。これに対し、例えば検出素子上に形成された感応膜の上下に電極を形成し、インピーダンスを計測することにより湿度を見積もり、検出素子により得られるデータの補正を行うことが考えられる。
【0080】
しかしながら、上記構成では感応膜の上面が電極で被覆されてしまい、対象分子の付着または吸着を阻害してしまうおそれがある。一方、検出素子30の構成では、感応膜37は電極341、342の上部に形成されており、感応膜37の上面に電極を形成する必要が無いため、対象分子11aの付着または吸着は阻害されない。
【0081】
流体導入ステップS3−3では、捕集部2から検出部3に流体1を導入する。流体1に含まれる対象分子11aは、検出素子30における感応膜37に付着または吸着する。
【0082】
吸着による周波数変化計測ステップS3−4では、スイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の振動周波数を計測する。振動子35の振動周波数は、電極36を用いて計測することができる。
【0083】
吸着による周波数変化計測ステップS3−4では、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たすまで周波数の測定を継続する。
【0084】
流体排出ステップS3−5では、排出部4を介して流体1を排出する。
【0085】
脱離による周波数変化計測ステップS3−6では、感応膜初期化および初期値取得ステップS3−1と同様の方法で電極344と電極345との間に第3の電圧を印加して感応膜37を加熱しながら振動周波数の変化を計測し、所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で計測を終了する。
【0086】
対象分子解析ステップS3−7では、感応膜のインピーダンス計測ステップS3−2において計測したインピーダンスを示すデータ、吸着による周波数変化計測ステップS3−4、脱離による周波数変化計測ステップS3−6において計測した振動周波数の変化を示すデータを信号処理部61において処理し、処理されたデータから分析部62において対象分子11aの種類および濃度からなる群より選ばれる少なくとも一つを分析する。
【0087】
本検出方法例では、流体1を導入する前に感応膜37のインピーダンスを測定することにより感応膜37への水分等の付着によるインピーダンスの変化を示すデータを用いて対象分子11aを検出することができる。例えば、測定環境が大気の場合、湿度の測定が可能となる。これにより、対象分子11aの検出感度および検出精度を向上させることができる。
【0088】
図19は、検出方法の他の例を説明するためのフローチャートである。検出方法の他の例は、図19に示すように、感応膜初期化および初期値取得ステップS4−1と、流体導入ステップS4−2と、吸着による周波数変化計測ステップS4−3と、感応膜のインピーダンス計測ステップS4−4と、流体排出ステップS4−5と、脱離による周波数変化計測ステップS4−6と、対象分子解析ステップS4−7とを具備する。この例は、検出素子30が例えば図8ないし図10に示す構造の場合に適用可能である。
【0089】
感応膜初期化および初期値取得ステップS4−1では、感応膜初期化および初期値取得ステップS3−1と同様に、まずスイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の初期振動周波数計測を開始する。次にスイッチング回路54により検出素子30と加熱制御回路53とを接続し、電極343ないし345に第3の電圧を印加することにより感応膜37を加熱して感応膜37に付着または吸着する分子を脱離させる。このとき、温度センサ(図示しない)を別途設けて所定の温度になるよう制御してもよい。このように加熱しながら周波数計測し、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で加熱を停止し、計測を終了する。
【0090】
流体導入ステップS4−2では、捕集部2から検出部3に流体1を導入する。流体1に含まれる対象分子11aは、検出素子30における感応膜37に付着または吸着する。
【0091】
吸着による周波数変化計測ステップS4−3では、スイッチング回路54により検出素子30と周波数計測制御回路51とを接続し、電極33と電極341および電極342との間に第1の電圧を印加することにより振動子35を振動させて振動子35の振動周波数を計測する。振動子35の振動周波数は、電極36を用いて計測することができる。
【0092】
吸着による周波数変化計測ステップS4−3では、例えば振動周波数の初期値と飽和値との差を振動周波数の変化を示すデータとして取得する。なお、振動周波数の初期値に対する飽和値の比を振動周波数の変化を示すデータとして取得してもよい。周波数が所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たすまで周波数の測定を継続する。
【0093】
感応膜37のインピーダンス計測ステップS4−4ではスイッチング回路54により検出素子30とインピーダンス計測制御回路52とを接続し、電極344と電極345との間に第2の電圧を印加して感応膜37のインピーダンスを測定する。インピーダンス計測ステップS4−4では、所定時間経過した場合に計測を終了する。所定時間経過していない場合にはインピーダンスの測定を継続する。
【0094】
流体排出ステップS4−5では、排出部4を介して流体1を排出する。
【0095】
脱離による周波数変化計測ステップS4−6では、感応膜初期化および初期値取得ステップS4−1と同様の方法で電極344と電極345との間に第3の電圧を印加して感応膜37を加熱しながら振動周波数の変化を計測し、所定の判定条件、例えば、単位時間あたりの周波数変化値または変化率が閾値以下となるなどの条件を満たした時点で計測を終了する。
【0096】
対象分子解析ステップS4−7では、感応膜のインピーダンス計測ステップS4−4において計測したインピーダンスを示すデータ、吸着による周波数変化計測ステップS4−3、脱離による周波数変化計測ステップS4−6において計測した振動周波数の変化を示すデータを信号処理部61において処理し、処理されたデータから分析部62において対象分子11aの種類および濃度からなる群より選ばれる少なくとも一つを分析する。
【0097】
本検出方法例では、流体1を導入した後に感応膜37のインピーダンスを測定することにより対象分子11aによるインピーダンスの変化を示すデータを用いて対象分子11aを検出することができる。これにより、対象分子11aの検出精度を向上させることができる。
【実施例】
【0098】
(実施例1)
図6に示す構造の検出素子30を備える分子検出装置を作製した。電極341、342は金電極である。面32bの約100um角のエリアにHKUST−1を有する感応膜37を形成した。シグマアルドリッチ社製HKUST−1粉末(Basolite(登録商標) C 300)を用い、10mg/ml純水分散液を調製した。産業用のインクジェット装置を用い、前述のエリアに上記分散液を数滴塗布し、60℃のオーブンで3時間乾燥した。
【0099】
エチレンガスを窒素ガスで希釈して10ppmに調整した混合ガスをサンプリングバッグに封入し、サンプルガスを形成した。このサンプリングバッグを分子検出装置に接続し、ポンプで吸引してサンプルガスを検出部3に導入した。その後、図15に示すフローチャートに従って対象分子11aを検出した。
【0100】
10ppmのエチレンガスによって、振動子35の振動周波数の変化量は50Hzであった。感応膜37の加熱およびサンプルガス排出後の振動周波数の単位時間当たりの変化量が閾値以下であったため、感応膜37に吸着した分子が脱離したと判断し、計測を終了した。本実施例によりサンプルガスにおける10ppmのエチレンガスを検出することができた。
【0101】
(実施例2)
図8ないし図9に示す構造の検出素子30を有する検出装置を作製した。電極341ないし電極345は金電極である。面32bの約100um角のエリアにHKUST−1を有する感応膜37を形成した。
【0102】
アセチレンガスを大気で希釈し、10ppmに調整した混合ガスをサンプリングバッグに封入し、サンプルガスとした。このサンプリングバッグを検出装置に接続し、ポンプで吸引してサンプルガスを検出部3に導入した。その後、図18に示すフローチャートに従って、対象分子11aを検出した。
【0103】
流体1の導入前にインピーダンス測定を行った結果、測定環境(20℃)における相対湿度は約40%RHとわかった。次に流体1を導入してエチレンガス吸着による振動子35の振動周波数の変化を示すデータを取得した。振動子35の振動周波数の変化量と大気中のエチレン濃度の関係は大気の湿度によって異なるため、事前に補正用テーブルを取得しておき、インピーダンス測定によって得た40%RHの相対湿度を示すデータを用いた関係式からエチレン濃度を見積もった。感応膜37の加熱およびサンプルガス排出後の振動周波数の単位時間当たりの変化量が閾値以下であったため、感応膜37に吸着した分子が脱離したと判断し、計測を終了した。本実施例によりサンプルガスにおける10ppmのアセチレンガスを検出することができた。
【0104】
(実施例3)
図11ないし図13に示す構造の検出素子30を有する検出装置を用いた。電極341、342は金電極である。面32bの約100um角のエリアにHKUST−1を有する感応膜37を形成した。
【0105】
エチレンガスを窒素ガスで希釈し、10ppmに調整した混合ガスをサンプリングバッグに封入し、サンプルガスとした。このサンプリングバッグを検出装置に接続し、ポンプで吸引してサンプルガスを検出部3に導入した。その後、図19に示すフローチャートに従って対象分子11aを検出した。
【0106】
流体1を導入してエチレンガス吸着による振動子35の振動周波数の変化を示すデータを取得した。次にインピーダンス測定を行い、エチレン以外の極性分子(水、一酸化炭素など)の吸着ではないことを確認した。感応膜37の加熱およびサンプルガス排出後の単位時間当たりの振動周波数の変化量が閾値以下であったため、感応膜37に吸着した分子が脱離したと判断し、計測を終了した。本実施例によりサンプルガスにおける10ppmのエチレンガスを検出することができた。
【0107】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0108】
1…流体、2…捕集部、3…検出部、4…排出部、5…制御部、6…解析部、11a…対象分子、11b…夾雑物、11c…水分、30…検出素子、31…基体、32…圧電体、32a…面、32b…面、33…電極、341…電極、342…電極、343…電極、344…電極、345…電極、35…振動子、36…電極、37…感応膜、51…周波数計測制御回路、52…インピーダンス計測制御回路、53…加熱制御回路、54…スイッチング回路、61…信号処理部、62…分析部。
図1
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