特許第6983778号(P6983778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6983778フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンのコポリマー及びフッ素化エラストマーを含むフルオロポリマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983778
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンのコポリマー及びフッ素化エラストマーを含むフルオロポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20211206BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20211206BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C08L27/16
   H01L29/28 280
   H01L29/28 100A
   C08J5/18CEW
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-527860(P2018-527860)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公表番号】特表2018-536742(P2018-536742A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】EP2016078885
(87)【国際公開番号】WO2017093145
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】15197088.6
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マラーニ, アレッシオ
(72)【発明者】
【氏名】ペドローリ, フランチェスコ
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−261730(JP,A)
【文献】 特開昭59−126452(JP,A)
【文献】 特表2014−505134(JP,A)
【文献】 特開2000−230096(JP,A)
【文献】 特開昭62−001744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00− 101/14
C08K 3/00− 13/08
C08F 6/00− 246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)90重量%〜99重量%、好ましくは95重量%〜98.5重量%の少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F)]であって、
−前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、55モル%〜83モル%、好ましくは60モル%〜81モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
−前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、17モル%〜45モル%、好ましくは19モル%〜40モル%のトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位と、
を含む、フルオロポリマー[ポリマー(F)]と、
(B)1重量%〜10重量%、好ましくは1.5重量%〜5重量%の少なくとも1つの(パー)フルオロエラストマー[エラストマー(F)]と、
を含む、組成物[組成物(C)]であって、
エラストマー(F)が、VDF系コポリマーであり、VDFが、
(a’)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びヘキサフルオロイソブチレンなどの、C−Cパーフルオロオレフィン;
(b’)フッ化ビニル(VF)、式CH=CH−R(式中、Rは、C−Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなどの水素含有C−Cフルオロオレフィン;
(c’)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC−Cクロロ−及び/又はブロモ−及び/又はヨード−フルオロオレフィン;
(d’)式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C−C(パー)フルオロアルキル基、例えば、CF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e’)式CF=CFOX(式中、Xは、C−C12オキシアルキル基、又は1つ以上のカテナリー酸素原子を含むC−C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ−2−プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(f’)式:
(式中、Rf3、f4、f5、f6はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、フッ素原子、場合により1つ以上の酸素原子を含む、C−Cフルオロ−又はパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば、−CF、−C、−C、−OCF、−OCFCFOCFである)の(パー)フルオロジオキソール;
(g’)式CFX=CXOCFOR”
(式中、R”は、C−C直鎖型又は分岐型(パー)フルオロアルキル基、C−C環状(パー)フルオロアルキル基、及び、1〜3のカテナリー酸素原子を含むC−C直鎖型又は分岐型(パー)フルオロオキシアルキル基から選択され、X=F、Hであり;好ましくはXは、Fであり、R”は、−CFCF(MOVE1)、−CFCFOCF(MOVE2)、又は−CF(MOVE3)である)の(パー)フルオロメトキシビニルエーテル(MOVE);並びに
(h’)C−C非フッ素化オレフィン(OI)、例えば、エチレン及びプロピレン、からなる群から選択される少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーと共重合される、組成物[組成物(C)]
【請求項2】
(A)90重量%〜99重量%、好ましくは95重量%〜98.5重量%の少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F)]であって、
−前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、40モル%〜82モル%、好ましくは56モル%〜77モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
−前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、17モル%〜45モル%、好ましくは19モル%〜40モル%のトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位と、
−前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、1モル%〜15モル%、好ましくは4モル%〜10モル%のVDF及びTrFEとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位と、
を含む、フルオロポリマー[ポリマー(F)]と、
(B)1重量%〜10重量%、好ましくは1.5重量%〜5重量%の少なくとも1つの(パー)フルオロエラストマー[エラストマー(F)]と、
を含む、組成物[組成物(C)]であって、
エラストマー(F)が、VDF系コポリマーであり、VDFが、
(a’)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びヘキサフルオロイソブチレンなどの、C−Cパーフルオロオレフィン;
(b’)フッ化ビニル(VF)、式CH=CH−R(式中、Rは、C−Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなどの水素含有C−Cフルオロオレフィン;
(c’)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC−Cクロロ−及び/又はブロモ−及び/又はヨード−フルオロオレフィン;
(d’)式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C−C(パー)フルオロアルキル基、例えば、CF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e’)式CF=CFOX(式中、Xは、C−C12オキシアルキル基、又は1つ以上のカテナリー酸素原子を含むC−C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ−2−プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(f’)式:
(式中、Rf3、f4、f5、f6はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、フッ素原子、場合により1つ以上の酸素原子を含む、C−Cフルオロ−又はパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば、−CF、−C、−C、−OCF、−OCFCFOCFである)の(パー)フルオロジオキソール;
(g’)式CFX=CXOCFOR”
(式中、R”は、C−C直鎖型又は分岐型(パー)フルオロアルキル基、C−C環状(パー)フルオロアルキル基、及び、1〜3のカテナリー酸素原子を含むC−C直鎖型又は分岐型(パー)フルオロオキシアルキル基から選択され、X=F、Hであり;好ましくはXは、Fであり、R”は、−CFCF(MOVE1)、−CFCFOCF(MOVE2)、又は−CF(MOVE3)である)の(パー)フルオロメトキシビニルエーテル(MOVE);並びに
(h’)C−C非フッ素化オレフィン(OI)、例えば、エチレン及びプロピレン、からなる群から選択される少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーと共重合される、組成物[組成物(C)]
【請求項3】
ポリマー(F)が、式(I):
(式中、R、R及びRはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、水素原子、又はC−C炭化水素基であり、Rは、水素原子、又は少なくとも1つの水酸基を含むC−C炭化水素基である)の(メタ)アクリルモノマーからなる群から選択される少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含む、請求項1又は2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
ポリマー(F)が、前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、0.01モル%〜10モル%、好ましくは0.03モル%〜6モル%の、式(I)の少なくとも1つの(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含む、請求項3に記載の組成物(C)。
【請求項5】
ポリマー(F)が、式−CFH及び/又は−CFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分岐を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
ポリマー(F)が、フッ化ビニリデン(VDF)繰り返し単位のKg当たり少なくとも30ミリモル、好ましくはVDF繰り返し単位のKg当たり少なくとも40ミリモルの量で、式−CFH及び/又はCFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分枝を含むポリマー(F)[ポリマー(F−B)]である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
エラストマー(F)が、10℃未満、好ましくは5℃未満、より好ましくは0℃未満のガラス転移温度(T)を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
架橋剤及び架橋開始剤からなる群から選択される1つ以上の添加剤を更に含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項9】
液体媒体[媒体(L)]を更に含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物(C)を含むフルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物(C)をフィルムに加工することを含む、請求項10に記載のフィルム(F)の製造のためのプロセス。
【請求項12】
請求項11に記載のプロセスであって、
(i)基材を提供する工程と、
(ii)請求項に記載の組成物(C)を提供する工程と、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(C)を、工程(i)で提供された基材の少なくとも1つの表面に対して塗布し、これにより、湿潤フィルムを提供する工程と、
(iv)工程(iii)で提供された湿潤フィルムを乾燥させて、これにより、前記フルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]を提供する工程と、
を含む、プロセス。
【請求項13】
請求項10に記載の少なくとも1つのフィルム(F)を含む電気又は電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年11月30日出願の欧州特許出願第15197088.6号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フルオロポリマー組成物、前述のフルオロポリマー組成物の製造のためのプロセス、及び様々な用途における前述のフルオロポリマー組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
トリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマーは、その加工の容易さ、化学的不活性、並びに魅力的な強誘電特性、圧電特性、焦電特性、フェロリラクサ特性、及び誘電特性のために、電気及び電子デバイスの双方の製造において広範に使用されてきた。
【0004】
特に、それらの高い誘電率及び魅力的なフェロリラクサ特性のために、トリフルオロエチレン(TrFE)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ターポリマーが、薄膜トランジスタ(TFT)デバイスの製造に使用されている。
【0005】
周知のように、圧電性という用語は、電気的エネルギーを機械的エネルギーと交換する材料の能力及びその逆の能力を意味し、この電気機械的応答は、変形又は圧力振動中の寸法変化と本質的に関係していると考えられる。直接の圧電効果(応力がかけられるときの電気の発生)を示す材料はまた逆の圧電効果(電場がかけられるときの応力及び/又は歪みの発生)も示すという点において、圧電効果は可逆的である。
【0006】
強誘電性は、材料の特性であって、これによって材料が、その方向を外部電場の印加によって等価状態間で切り替えることができる、自発的電気分極を示す特性である。
【0007】
焦電気性は、加熱又は冷却時に電位を発生させる、特定の材料の能力である。実際に、温度におけるこの変化の結果として、正及び負の電荷は、移行によって反対の端部に移動し(即ち、その材料は分極した状態になり)、それ故に電位が確立される。
【0008】
フェロリラクサは、電気活性材料の特性であり、これにより、電気活性材料は、電場が印加されたときに大きな変位を示すが、作動中は力の伝達がない。
【0009】
良好な誘電特性を有する材料が、当技術分野で知られている。
【0010】
例えば、米国特許出願公開第2014/0001453号明細書(CHOら)2014年1月2日では、VDF−TrFEポリマーが、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、及びポリイミドから選択される非晶質ポリマーと混合される、有機絶縁層を含む薄膜トランジスタ(TFT)デバイスを開示している。
【0011】
しかしながら、高誘電率材料は、典型的には、不十分な絶縁性能を被る。
【0012】
また今日、有機薄膜トランジスタ(OTFT)デバイスなどの膜電子デバイスの小型化の観点から、信頼性があり安定した電子デバイスを製造するための重要な電気的パラメータの1つは、漏れ電流を低減することである。漏れ電流は、導体におけるゲート誘電材料の絶縁の有効性の指標となり得る。低レベルの漏れ電流は、高い電力効率と寿命を有するデバイスを構築することを可能にする。逆に、高レベルの漏れ電流は、機器の正常動作を妨げる電圧を発生させる可能性がある。
【0013】
従って、高誘電材料は、高性能の電気及び電子デバイスを製造するために更に望ましいものとなっている。
【0014】
更に、現在、溶液系のプロセスを伴うより低いコストの製造技術の開発が要求されている。従って、これらの技術では、出発材料としてフッ素化ポリマーの安定で均一な溶液を提供することが依然として重要である。
【0015】
上記に鑑みて、液相で容易に処理することができ、これにより、電気又は電子デバイスに適切に使用される高誘電率及び低い漏れ電流を有する均一なフィルムを提供することができるフルオロポリマー組成物の当技術分野における必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0016】
ここで、本発明の組成物は、液体媒体に有利に溶解することができ、これにより、容易に処理することができる安定で均一な溶液を提供し、これにより、電気又は電子デバイスを含む様々な用途における使用に適した良好な機械的特性を有する均一なフィルムを提供することが見出された。
【0017】
また驚くべきことに、本発明のフィルムは、高い誘電特性を維持しながら優れた電気絶縁特性を有することが見出された。
【0018】
特に、本発明のフィルムは、低い漏れ電流に対応する高い電気抵抗率を有利に有することが見出された。
【0019】
ポリマー(F)が、その強誘電特性及び/又は圧電特性及び/又は焦電特性及び/又はフェロリラクサ特性を有利に保持するために、トリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位を17モル%〜45モル%含むことが必須である。
【0020】
また本発明のフィルムは、高い容量に対応した高い誘電率を有利に有することが見出された。
【0021】
第1の例において、本発明は、
(A)−フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
−前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、17モル%〜45モル%、好ましくは19モル%〜40モル%のトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位と、
−場合により、前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、1モル%〜15モル%、好ましくは4モル%〜10モル%のVDF及びTrFEとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位と、
を含む少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F)]であって、
フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位が、総繰り返し単位の100モル%までの補完である、少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F)]と、
(B)少なくとも1つの(パー)フルオロエラストマー[エラストマー(F)]と、
を含む組成物[組成物(C)]に関する。
【0022】
組成物(C)は、有利には、
(A)90重量%〜99重量%、好ましくは95重量%〜98.5重量%の少なくとも1つのポリマー(F)と、
(B)1重量%〜10重量%、好ましくは1.5重量%〜5重量%の少なくとも1つの(パー)フルオロエラストマー[エラストマー(F)]と、
を含む。
【0023】
本発明の組成物(C)は、典型的には液体媒体[媒体(L)]を更に含む。
【0024】
本発明の目的において、「液体媒体[媒体(L)]」という用語は、大気圧下において20℃で液体状態において1つ以上の化合物を含む媒体を意味することを意図する。
【0025】
媒体(L)の性質は、ポリマー(F)を溶解するのに適していれば特に限定されない。
【0026】
媒体(L)は、典型的には、1つ以上の有機溶媒を含む。
【0027】
本発明の目的において、「有機溶媒」という用語は、その通常の意味で使用される、即ち、別の化合物(溶質)を溶解して分子レベルで均一に分散した混合物を形成することができる有機化合物を意味する。溶質がポリマー(F)などのポリマーである場合、得られる混合物が透明であり、系内で相分離が見られない場合、溶媒に溶解したポリマーの溶液を意味することは、一般的な慣行である。相分離は、溶液がポリマー凝集体の形成のために混濁する又は曇る、或いは、溶液がゲルに変わる、「雲り点」として多くの場合に称される、点であると見なされる。
【0028】
「ゲル」という用語は、本明細書において、その通常の意味で使用される、即ち、流動しない物質を意味する。
【0029】
適切な有機溶媒の非限定的な例は、
−より具体的には、特に、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、又はシクロヘキサンなどのパラフィンを含む脂肪族炭化水素、並びに、ナフタレン及び芳香族炭化水素、より具体的には、特に、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、アルキルベンゼンの混合物からなる石油留分などの、芳香族炭化水素、
−より具体的には、特に、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロエタンなどの過塩素化炭化水素を含む、脂肪族又は芳香族ハロゲン化炭化水素、
−ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、トリクロロエチレン、1−クロロブタン、1,2−ジクロロブタン、モノクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、又は異なるクロロベンゼンの混合物などの部分塩素化炭化水素、
−脂肪族、脂環式又は芳香族エーテルオキシド、より具体的には、ジエチルオキシド、ジプロピルオキシド、ジイソプロピルオキシド、ジブチルオキシド、メチルテルチオブチルエーテル、ジペンチルオキシド、ジイソペンチルオキシド、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ベンジルオキシド;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、
−グリコールエーテル、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、
−グリコールエーテルエステル、例えば、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
−アルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ジアセトンアルコール、
−ケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、
−直鎖型又は環状エステル、例えば、メチルアセトアセテート、ジメチルフタレート、γ−ブチロラクトン、
−直鎖型又は環状カルボキサミド、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、
−有機カーボネート、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、
−リン酸エステル、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、並びに、
−尿素、例えば、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素からなる群から選択される。
【0030】
組成物(C)が媒体(L)を更に含む実施形態の場合、媒体(L)は、好ましくは、化学物質安全性分類(CMR溶媒)に従って、発癌性、突然変異性、又は生殖毒性として認定される有機溶媒を含まず、より具体的には、媒体(L)は、有利には、NMP、DMF、及びDMACを実質的に含まない。
【0031】
第2の例において、本発明は、前述で定義された組成物(C)を含むフルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]に関する。
【0032】
第3の例において、本発明は、本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスに関し、前述のプロセスは、前述で定義された組成物(C)をフィルムに加工することを含む。
【0033】
組成物(C)が更に媒体(L)を含む場合、本発明のフィルム(F)は、典型的には、
(i)基材を提供する工程と、
(ii)前述で定義された組成物[組成物(C)]を提供する工程であって、前述の組成物は液体媒体[媒体(L)]を更に含む工程と、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(C)を、工程(i)で提供された基材の少なくとも1つの表面に対して塗布し、これにより、湿潤フィルムを提供する工程と、
(iv)工程(iii)で提供された湿潤フィルムを乾燥させて、これにより、フルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]を提供する工程と、を含むプロセスによって得られることができる。
【0034】
本発明のプロセスによって得られることができるフィルム(F)は、有利には、様々な用途に適切に使用される良好な機械的特性を有する均一なフルオロポリマーフィルムであることが判明した。
【0035】
本発明の目的において、「フィルム」という用語は、その長さ又はその幅よりも小さい厚さを有する平らな片の材料を意味することを意図する。
【0036】
本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスの工程(i)では、基材は、典型的には非多孔質基材である。
【0037】
「非多孔質基材」という用語は、有限寸法の孔を含まない高密度基材を、本明細書では意味することを意図する。
【0038】
本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスの工程(iii)では、組成物(C)は、典型的には、キャスティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレーディング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティング、スクリーン印刷、ブラシ、スキージー、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、及び真空コーティングからなる群から選択される加工技術を用いることによって、工程(i)で提供された基材の少なくとも1つの表面に対して塗布される。
【0039】
本発明のフィルム(F)を製造するためのプロセスの工程(iv)では、工程(iii)で得られた湿潤フィルムは、典型的には50℃〜200℃からなる温度で、好ましくは65℃〜150℃からなる温度で乾燥される。
【0040】
乾燥は、大気圧下又は真空下で行うことができる。或いは、乾燥は、手が加えられた雰囲気下で、例えば、典型的には特には水分が除かれた(0.001%v/v未満の水蒸気含量)不活性ガス下で行うことができる。
【0041】
乾燥温度は、本発明のフィルム(F)からの1つ以上の有機溶媒の蒸発による除去を行うように選択される。
【0042】
フィルム(F)は、典型的には、任意の有機溶媒を含まない。
【0043】
フィルム(F)は、有利には100nm〜100μmからなる厚さを有する。
【0044】
フィルム(F)の厚さは、反射測定法、形状測定法、走査型電子顕微鏡法、及び原子間力顕微鏡法などの任意の適切な技術に従って測定することができる。
【0045】
組成物(C)は、1つ以上の添加剤を更に含むことができる。
【0046】
添加剤の選択は、媒体(L)におけるポリマー(F)の溶解性を妨げない限り、特に限定されない。
【0047】
適切な添加剤の非限定的な例としては、特に、顔料、UV吸収剤、架橋剤、架橋開始剤、セラミック、ガラス、シリカ、導電性金属粒子、半導電性酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン、コア−シェル粒子、カプセル化粒子、導電性塩、シリコン系粒子などの有機及び無機充填剤が挙げられる。
【0048】
組成物(C)が1つ以上の添加剤を更に含む場合、これによって提供されるフィルム(F)は、典型的には、少なくとも1つの添加剤を更に含む組成物(C)を含む。
【0049】
組成物(C)が、架橋剤及び架橋開始剤からなる群から選択される1つ以上の添加剤を更に含む場合、これによって提供されるフィルム(F)は、有利には、架橋性フルオロポリマーフィルム[フィルム(FC)]であり、これは、典型的には、架橋剤及び架橋開始剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含む組成物(C)を含む。
【0050】
架橋剤は、典型的には、式:
−O−C(O)−C(R)=CR
(式中、R、R、及びRはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、水素原子、又はC〜C炭化水素基である)の末端基を含むポリ(メタ)アクリル化合物[化合物(PMA)]である。
【0051】
化合物(PMA)は、より好ましくは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリス[2−(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド付加トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(アクリロオキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートからなる群から選択される。
【0052】
架橋開始剤は、光開始剤[開始剤(PI)]又は熱開始剤[開始剤(TI)]であることができる。
【0053】
光開始剤[開始剤(PI)]は、典型的には、アルファ−ヒドロキシケトン、フェニルグリオキシレート、ベンジルジメチルケタール、アルファ−アミノケトン及びビスアシルホスフィンからなる群から選択される。
【0054】
アルファ−ヒドロキシケトンの中に、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン及び2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノンを挙げることができる。
【0055】
フェニルグリオキシレートの中に、ベンゾイルギ酸メチル、オキシ−フェニル−酢酸2−[2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステル及びオキシ−フェニル−酢酸2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルを挙げることができる。
【0056】
ベンジルジメチルケタールの中に、アルファ,アルファ−ジメトキシ−アルファ−フェニルアセトフェノンを挙げることができる。
【0057】
アルファ−アミノケトンの中に、2−ベンジル2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−(4−モルホリニル)−1−プロパノンを挙げることができる。
【0058】
ビスアシルホスフィンの中に、ジフェニル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィンオキシドを挙げることができる。
【0059】
開始剤(PI)の中で、室温で液体であるものが好ましい。
【0060】
特に良好な結果を与えるクラスの開始剤(PI)は、アルファ−ヒドロキシケトンのもの、具体的には2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンであった。
【0061】
組成物(C)における開始剤(PI)の量は、特に制限されない。一般的には、これは、組成物(C)の総重量に対して、0.01重量%〜10重量%からなる量で使用されるであろう。本発明の実施形態によれば、組成物(C)は、組成物(C)の総重量に対して、3重量%〜7重量%からなる量で少なくとも1つの開始剤(PI)を含む。
【0062】
熱開始剤[開始剤(TI)]は、典型的には、有機過酸化物からなる群から選択される。
【0063】
架橋性フルオロポリマーフィルム[フィルム(FC)]は、典型的には、UV照射下のUV処理、又は熱処理のいずれかにより架橋される。
【0064】
本発明の目的のために、「UV照射」という用語は、可視光の波長よりも短い、しかし軟X線よりも長い波長の電磁放射を意味することを意図する。これは、近UV(380〜200nm波長;省略形:NUV)、遠又は真空UV(200〜10nm;省略形:FUV又はVUV)、及び極UV(1〜31nm;省略形:EUV又はXUV)に細分することができる。200nm〜380nmの波長を有するNUVが、本発明のプロセスにおいて好ましい。単色照射又は多色照射のいずれかを用いることができる。
【0065】
UV照射は、任意の適切なUV照射源によって本発明の架橋プロセスで提供することができる。
【0066】
熱処理は、典型的には、60℃〜150℃、好ましくは100℃〜135℃からなる温度で実施される。
【0067】
架橋性フルオロポリマーフィルム[フィルム(FC)]は、パターン化架橋性フルオロポリマーフィルム[フィルム(FCp)]であることができる。
【0068】
本発明の目的のために、「パターン化架橋性フルオロポリマーフィルム[フィルム(FCp)]」という用語は、どのようなパターン形状でも有するフルオロポリマーフィルムを意味することを意図する。
【0069】
第4の例では、本発明は、本発明の少なくとも1つのフルオロポリマーフィルム[フィルム(F)]を含む電気又は電子デバイスに関する。
【0070】
適切な電子機器の非限定的な例としては、変換器、センサー、アクチュエータ、強誘電性メモリ及び電気機器で作動するキャパシタが挙げられる。
【0071】
本発明の目的のために、「(パー)フッ素化モノマー」という用語は、少なくとも1つのフッ素原子を含むエチレン性不飽和モノマーを意味することを意図する。
【0072】
ポリマー(F)は、前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、1モル%〜15モル%、好ましくは4モル%〜10モル%の、以下からなる群から選択される少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含むことができる:
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びヘキサフルオロイソブチレンなどのC〜Cパーフルオロオレフィン;
(b)式CH=CH−Rf0(式中、Rf0は、C〜Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(c)クロロフルオロエチレン(CFE)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC〜Cクロロ−及び/又はブロモ−及び/又はヨード−フルオロオレフィン;
(d)式CF=CFOR(式中、Rは、C〜C(パー)フルオロアルキル基、例えば、CF(PMVE)、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
(e)式CF=CFOX(式中、Xは、1つ以上のエーテル基を含むC〜C12オキシアルキル基、又はC〜C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ−2−プロポキシ−プロピル基である)の(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(f)式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C〜C(パー)フルオロアルキル基、例えば、−CF、−C、−C、又は、1つ以上のエーテル基を含むC〜C(パー)フルオロオキシアルキル基、例えば、−C−O−CFである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
(g)式CF=CFOY(式中、Yは、C〜C12アルキル基、又は(パー)フルオロアルキル基、C〜C12オキシアルキル基、及び1つ以上のエーテル基を含むC〜C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、Yは、その酸、酸ハライド又は塩形態で、カルボン酸又はスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(h)式:
(式中、Rf3、f4、f5及びRf6はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立してフッ素原子、場合により1つ以上の酸素原子を含む、C〜Cフルオロ−又はパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば−CF、−C、−C、−OCF、−OCFCFOCFである)の(パー)フルオロジオキソール。
【0073】
本発明の第1の実施形態によれば、ポリマー(F)は、
−前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、55モル%〜83モル%、好ましくは60モル%〜81モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
−前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、17モル%〜45モル%、好ましくは19モル%〜40モル%のトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位と、を含む。
【0074】
本発明の第2の実施形態によれば、ポリマー(F)は、
−前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、40モル%〜82モル%、好ましくは56モル%〜77モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
−前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、17モル%〜45モル%、好ましくは19モル%〜40モル%のトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位と、
−前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、1モル%〜15モル%、好ましくは4モル%〜10モル%の、VDF及びTrFEとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位と、を含む。
【0075】
ポリマー(F)は、少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含むことができる。
【0076】
本発明の目的のために、「水素化モノマー」という用語は、少なくとも1つの水素原子を含み、フッ素原子を含まないエチレン性不飽和モノマーを、本明細書では意味することを意図する。
【0077】
ポリマー(F)は、典型的には、式(I)の(メタ)アクリルモノマー、及び式(II):
(式中、R、R及びRはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、水素原子、又はC〜C炭化水素基であり、Rは、水素原子、又は少なくとも1つの水酸基を含むC〜C炭化水素基であり、R’は、少なくとも1つの水酸基を含むC〜C炭化水素基である)のビニルエーテルモノマーからなる群から選択される少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含む。
【0078】
ポリマー(F)は、典型的には、前述のポリマー(F)の繰り返し単位の総モル量に対して、0.01モル%〜10モル%、好ましくは0.03モル%〜6モル%の、式(I)の(メタ)アクリルモノマー、及び式(II):
(式中、R、R及びRはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、水素原子、又はC〜C炭化水素基であり、Rは、水素原子、又は少なくとも1つの水酸基を含むC〜C炭化水素基であり、R’は、少なくとも1つの水酸基を含むC〜C炭化水素基である)のビニルエーテルモノマーからなる群から選択される少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返しを更に含む。
【0079】
水素化モノマーは、好ましくは、前述で定義した式(I)の(メタ)アクリルモノマーである。
【0080】
(メタ)アクリルモノマーは、より好ましくは、式(I−A):
(式中、R’及びR’はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、水素原子、又はC〜C炭化水素基であり、好ましくは、R’及びR’は、水素原子であり、R’は、水素原子であり、R’’は、水素原子、又は少なくとも1つの水酸基を含むC〜C炭化水素基である)からなる。
【0081】
式(I)の(メタ)アクリルモノマーの非限定的な例としては、特に、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0082】
式(I)の(メタ)アクリルモノマーは、更に好ましくは、
−式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
−式:
のいずれかの2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
−式:
のアクリル酸(AA)、
−及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0083】
式(I)の(メタ)アクリルモノマーは、更に好ましくは、アクリル酸(AA)又はヒドロキシエチルアクリレート(HEA)である。
【0084】
ポリマー(F)は、好ましくは、本発明の第2の実施形態によるものから選択される。
【0085】
ポリマー(F)は、非晶質又は半結晶性であることができる。
【0086】
「非晶質」とう用語は、ASTM D−3418−08に従って測定された、5J/g未満の、好ましくは3J/g未満の、より好ましくは2J/g未満の融解熱を有するポリマー(F)を、本明細書では意味することを意図する。
【0087】
「半結晶性」という用語は、ASTM D3418−08に従って測定した、10J/g〜90J/g、好ましくは30J/g〜60J/g、より好ましくは35J/g〜55J/gの融解熱を有するポリマー(F)を、本明細書では意味することを意図する。
【0088】
ポリマー(F)は、典型的には、ASTM D3418に従って測定した、10J/g〜80J/g、好ましくは10J/g〜60J/g、より好ましくは10J/g〜55J/gの融解熱を有する。
【0089】
ポリマー(F)は、典型的には、ASTM D1238(230℃、5Kg)に従って測定した、多くとも500g/10分、好ましくは多くとも200g/10分、より好ましくは多くとも50g/10分のメルトフローインデックスを有する。
【0090】
ポリマー(F)は、典型的には、ASTM D1238(230℃、5Kg)に従って測定した、少なくとも0.1g/10分、好ましくは少なくとも1g/10分、より好ましくは少なくとも1.5g/10分のメルトフローインデックスを有する。
【0091】
ポリマー(F)は、水性懸濁重合又は水性乳化重合により製造することができる。
【0092】
ポリマー(F)は、好ましくは、重合媒体において、少なくとも1つのラジカル開始剤の存在下で、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、場合によりVDF及びTrFEとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマー、場合により少なくとも1つの水素化モノマーの水性乳化重合によって製造され、重合媒体は、
−水、
−少なくとも1つの界面活性剤、及び
−場合により、少なくとも1つの非官能性パーフルオロポリエーテル油を含む。
【0093】
重合圧力は、典型的には、10バール〜45バール、好ましくは15バール〜40バール、より好ましくは20バール〜35バールの範囲である。
【0094】
当業者は、とりわけ使用されるラジカル開始剤を考慮して重合温度を選ぶことになろう。重合温度は、一般的には、80℃〜140℃、好ましくは95℃〜130℃からなる範囲で選択される。
【0095】
上に詳述された乳化重合プロセスは、当技術分野で記載されてきた(例えば、米国特許第4990283号明細書(AUSIMONT SPA(IT))1991年2月5日、米国特許第5498680号明細書(AUSIMONT SPA)1996年3月12日及び米国特許第6103843号明細書(AUSIMONT SPA)2000年8月15日を参照)。
【0096】
ポリマー(F)が水性懸濁重合によって製造される場合、重合媒体は、典型的には、ポリマー(F)を含む水性スラリーをもたらし、これから、前述のポリマー(F)が、前述の水性スラリーの濃縮及び/又は凝固によって回収され、次いで乾燥に供される。
【0097】
ポリマー(F)が水性乳化重合によって製造される場合、重合媒体は、典型的には、ポリマー(F)及び少なくとも1つの界面活性剤を含む水性ラテックスをもたらし、これから、前述のポリマー(F)は、前述の水性ラテックスの濃縮及び/又は凝固によって回収され、次いで乾燥に供される。
【0098】
乾燥は、典型的には、適切な加熱装置、一般的には、電気オーブン又は対流オーブンにて行われる。乾燥は、典型的には、300℃まで、好ましくは200℃まで、より好ましくは100℃までの温度で行われる。乾燥は、典型的には、1〜60時間、好ましくは10〜50時間の期間で行われる。
【0099】
ポリマー(F)は、典型的には、粒子の形態で重合媒体によって回収される。ポリマー(F)は、通常、フレーク、ロッド、糸状粒子、及びこれらの混合物などの粒子の形態で重合媒体によって回収される。
【0100】
重合媒体によって回収されたポリマー(F)粒子は、溶融加工技術によって更に加工されることができ、これによってペレットが得られる。
【0101】
ポリマー(F)は、粒子の形態で、又はペレットの形態で使用することができる。
【0102】
ポリマー(F)は、好ましくは、フレーク、ロッド、糸状粒子、及びこれらの混合物などの粒子の形態で使用される。
【0103】
ポリマー(F)の粒径は、特に限定されない。当業者は、媒体(L)における溶解の時間を適切に調整するために、ポリマー(F)の適切な粒径を選択するであろう。
【0104】
ポリマー(F)は、有利には、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、場合によりVDF及びTrFEとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマー、場合により少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返し単位の直鎖型配列を含む直鎖型ポリマー[ポリマー(F)]である。
【0105】
従って、ポリマー(F)は、典型的には、グラフトポリマーと区別できる。
【0106】
ポリマー(F)は、有利には、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、場合によりVDF及びTrFEとは異なる少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマー、場合により少なくとも1つの水素化モノマーに由来するランダムに分布した繰り返し単位の直鎖型配列を含むランダムポリマー[ポリマー(F)]である。
【0107】
従って、ポリマー(F)は、典型的には、ブロックポリマーと区別できる。
【0108】
ポリマー(F)は、典型的には、ここで以下のスキーム:
に示されるラジカル重合の際の鎖内移動(バックバイティング(back−biting))から通常生じる、式−CFH及び/又は−CFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分岐を含む。
【0109】
本発明の第1の実施形態によれば、ポリマー(F)は、フッ化ビニリデン(VDF)繰り返し単位のKg当たり30ミリモル未満、好ましくはVDF繰り返し単位のKg当たり20ミリモル未満の量で、式−CFH及び/又は−CFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分枝を含む[ポリマー(F−A)]。
【0110】
本発明のこの第1の実施形態によるポリマー(F−A)は、典型的には、フッ化ビニリデン(VDF)繰り返し単位のKg当たり少なくとも2ミリモル、好ましくはVDF繰り返し単位のKg当たり少なくとも5ミリモルの量で、式−CFH及び/又は−CFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分枝を含む。
【0111】
本発明の第2の実施形態によれば、ポリマー(F)は、フッ化ビニリデン(VDF)繰り返し単位のKg当たり少なくとも30ミリモル、好ましくはVDF繰り返し単位のKg当たり少なくとも40ミリモルの量で、式−CFH及び/又は−CFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分枝を含む[ポリマー(F−B)]。
【0112】
本発明のこの第2の実施形態によるポリマー(F−B)は、典型的には、フッ化ビニリデン(VDF)繰り返し単位のKg当たり多くとも120ミリモル、好ましくはVDF繰り返し単位のKg当たり多くとも100ミリモルの量で、式−CF及び/又は−CFCHの末端基を含む1つ以上の鎖分枝を含む。
【0113】
本発明の目的のために、(パー)フルオロエラストマー[エラストマー(F)]という用語は、真のエラストマーを得るための基礎成分として作用するフルオロポリマー樹脂を意味することを意図し、前述のフルオロポリマー樹脂は、10重量%超、好ましくは30重量%超の、少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位、及び場合により少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返し単位を含む。
【0114】
真のエラストマーは、それらの固有の長さの2倍まで、室温で、引き伸ばすことができ、そして5分間張力下にそれらを保持した後にそれらが解放されてしまうとすぐに、同時にそれらの最初の長さの10%以内に戻る材料とASTM,Special Technical Bulletin,No.184標準によって定義されている。
【0115】
エラストマー(F)は、エチレン、プロピレン及び1−ブテン、ジエンモノマー及びスチレンモノマーなどの、水素化α−オレフィンからなる群から選択される少なくとも1つの水素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含むことができる。
【0116】
ポリマー(F)は、典型的には非晶質である。「非晶質」という用語は、ASTM D−3418−08に従って測定された、5J/g未満、好ましくは3J/g未満、より好ましくは2J/g未満の融解熱を有するポリマー(F)を、本明細書では意味することを意図する。
【0117】
エラストマー(F)は、典型的には、室温より低いガラス転移温度(T)を有する。ほとんどの場合、エラストマー(F)は、有利には、10℃未満、好ましくは5℃未満、より好ましくは0℃未満のTを有する。
【0118】
(1)VDFが、以下からなる群から選択される少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーと共重合される、VDF系コポリマー:
(a’)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びヘキサフルオロイソブチレンなどの、C〜Cパーフルオロオレフィン;
(b’)フッ化ビニル(VF)、式CH=CH−R(式中、Rは、C〜Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなどの水素含有C〜Cオレフィン;
(c’)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などの、C〜Cクロロ−及び/又はブロモ−及び/又はヨード−フルオロオレフィン;
(d’)式CF=CFOR(式中、Rf1は、C〜C(パー)フルオロアルキル基、例えば、CF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e’)式CF=CFOX(式中、Xは、C〜C12オキシアルキル基、又は1つ以上のカテナリー酸素原子を含むC〜C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ−2−プロポキシ−プロピル基である)の(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(f’)式:
(式中、Rf3、f4、f5及びRf6はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、、独立して、フッ素原子、場合により1つ以上の酸素原子を含む、C〜Cフルオロ−又はパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば、−CF、−C、−C、−OCF、−OCFCFOCFである)の(パー)フルオロジオキソール;
(g’)式:CFX=CXOCFOR’’
(式中、R’’は、C〜C直鎖型又は分岐型(パー)フルオロアルキル基、C〜C環状(パー)フルオロアルキル基、及び1〜3のカテナリー酸素原子を含むC〜C直鎖型又は分岐型(パー)フルオロオキシアルキル基から選択され、X=F、Hであり;好ましくはXは、Fであり、R’’は、−CFCF(MOVE1)、−CFCFOCF(MOVE2)、又はCF(MOVE3)である)の(パー)フルオロメトキシビニルエーテル(以降、MOVE);
(h’)C〜C非フッ素化オレフィン(OI)、例えば、エチレン及びプロピレン;
並びに、
(2)TFEが、前述で定義されたクラス(c’)、(d’)、(e’)、(g’)、(h’)、及び以下から選択される少なくとも1つの(パー)フッ素化モノマーと共重合されたTFE系コポリマー:
(i’)シアニド基を含むパーフルオロビニルエーテル、からなる群から、エラストマー(F)は、好ましくは選択される。
【0119】
前述で言及されたエラストマー(F)の中で、VDF系コポリマーが好ましい。
【0120】
場合により、またエラストマー(F)は、式:
(式中、R、R、R、R、R、及びRは、互いに等しく又は異なり、H原子及びC〜Cアルキル基からなる群から選択され、Zは、場合により1つ以上の酸素原子を含み、好ましくは少なくとも部分的にフッ素化された、直鎖型又は分岐型C〜C18アルキレン又はシクロアルキレン基、或いは、例えば、欧州特許出願公開第661304A号明細書(AUSIMONT SPA)1995年7月5日に記載などの、(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)のビス−オレフィン[ビス−オレフィン(OF)]に由来する繰り返し単位を含むことができる。
【0121】
ビス−オレフィン(OF)は、好ましくは、式(OF−1)、式(OF−2)及び式(OF−3)のいずれかのものからなる群からなる群から選択される:
(OF−1)
(式中、jは、2〜10、好ましくは4〜8からなる整数であり、且つ、R1、R2、R3、R4は、互いに等しく又は異なり、H、F、C1〜5アルキル基、及び(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される);
(OF−2)
(式中、Aはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、出現毎に、独立して、F、Cl及びHからなる群から選択され、Bはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、出現毎に、独立して、F、Cl、H及びORからなる群から選択され、Rは、部分的に、実質的に、又は完全にフッ素化又は塩素化されることができる分枝型又は直鎖型アルキル基であり、Eは、場合によりフッ素化された、エーテル結合で挿入されることができる2〜10の炭素原子を有する二価の基であり;好ましくは、Eは、−(CF−基であり、mは3〜5からなる整数であり;(OF−2)タイプの好ましいビス−オレフィンは、FC=CF−O−(CF−O−CF=CFである);
(OF−3)
(式中、E、A、及びBは、前述で定義された同一の意味を有し、R5、R6、R7は、互いに等しく又は異なり、H、F、C〜Cアルキル基、及び(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される)。
【0122】
本発明の目的に適切なエラストマー(F)の具体的な組成の中で、以下の組成(モル%)に言及することができる:
(I)フッ化ビニリデン(VDF)35〜85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10〜45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0〜30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0〜15%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(II)フッ化ビニリデン(VDF)50〜80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)5〜50%、テトラフルオロエチレン(TFE)0〜20%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(III)フッ化ビニリデン(VDF)20〜30%、C〜C非フッ素化オレフィン(OI)10〜30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び/又はパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)18〜27%、テトラフルオロエチレン(TFE)10〜30%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(IV)テトラフルオロエチレン(TFE)50〜80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)20〜50%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(V)テトラフルオロエチレン(TFE)45〜65%、C〜C非フッ素化オレフィン(OI)20〜55%、フッ化ビニリデン0〜30%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(VI)テトラフルオロエチレン(TFE)32〜60モル%、C〜C非フッ素化オレフィン(OI)10〜40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)20〜40%、フルオロビニルエーテル(MOVE)0〜30%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(VII)テトラフルオロエチレン(TFE)33〜75%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)15〜45%、フッ化ビニリデン(VDF)5〜30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0〜30%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%;
(VIII)フッ化ビニリデン(VDF)35〜85%、フルオロビニルエーテル(MOVE)5〜40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0〜30%、テトラフルオロエチレン(TFE)0〜40%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0〜30%、ビス−オレフィン(OF);
(IX)テトラフルオロエチレン(TFE)20〜70%、フルオロビニルエーテル(MOVE)30〜80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0〜50%、ビス−オレフィン(OF)0〜5%。
【0123】
特定の実施形態によると、エラストマー(F)は、ヨウ素及び/又は臭素硬化部位を含む。ヨウ素硬化部位は、硬化速度を最大にするために選択されたものである。これらの実施形態によるエラストマー(F)は、有利には、過酸化物硬化、又は過酸化物剤を伴う任意の混合硬化技術に適切である。
【0124】
許容可能な反応度を保証するために、エラストマー(F)におけるヨウ素及び/又は臭素の含有量が、前述のエラストマー(F)の総重量に対して、有利には、少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.15重量%でなければならないということが一般的に理解されている。
【0125】
一方、副反応及び/又は熱安定性における不利な影響を回避するために、前述のエラストマー(F)の総重量に対して、2重量%を超えない、より具体的には1重量%を超えない、又は更には0.5重量%を超えないヨウ素及び/又は臭素の量が一般的に選択されるものである。
【0126】
これらの硬化部位は全て、エラストマー(F)ポリマー鎖の主鎖に結合されたペンダント基として含まれることができ、或いは、前述のポリマー鎖の末端基として含まれることができる。
【0127】
第1の実施形態によると、ヨウ素及び/又は臭素硬化部位は、エラストマー(F)ポリマー鎖の主鎖に結合されたペンダント基として含まれ、この実施形態によるエラストマー(F)は、典型的には、以下から選択される臭素化及び/又はヨウ素化硬化部位コモノマーに由来する繰り返し単位を含む:
−例えば、米国特許第4035565号明細書(DU PONT)1977年7月12日に記載のブロモトリフルオロエチレン又はブロモテトラフルオロブテン、或いは米国特許第4694045号明細書(DU PONT)1987年9月15日に開示されている他の化合物ブロモ及び/又はヨードα−オレフィンなどの、2〜10の炭素原子を含むブロモ及び/又はヨードα−オレフィン;
−ヨード及び/又はブロモフルオロアルキルビニルエーテル(特に、米国特許第4745165号明細書(AUSIMONT SPA)1988年5月17日、米国特許第4564662号明細書(MINNESOTA MINING&MFG[US])1986年1月14日、及び欧州特許出願公開第199138A号明細書(DAIKIN IND LTD)1986年10月29日の特許に記載の通り)。
【0128】
この実施形態によるエラストマー(F)は、一般的には、前述のエラストマー(F)の全てのその他の繰り返し単位の100モル当たり0.05〜5モルの量で臭素化及び/又はヨウ素化硬化部位モノマーに由来する繰り返し単位を含み、こうして前述のヨウ素及び/又は臭素重量含有量を有利に保証する。
【0129】
第2の好ましい実施形態によると、ヨウ素/及び又は臭素硬化部位は、エラストマー(F)ポリマー鎖の末端基として含まれ、この実施形態によるエラストマー(F)は、一般的には、ヨウ化及び/又は臭素化連鎖移動剤のいずれかのフルオロエラストマー製造の際に重合媒体に添加することによって得られる。
【0130】
適切な連鎖移動剤は、典型的には、式R(I)(Br)(式中、Rは、1〜8の炭素原子を含む(パー)フルオロアルキル又は(パー)フルオロクロロアルキルであり、一方、x及びyは、0〜2の整数であるが、但し、1≦x+y≦2である(例えば、米国特許第4243770号明細書(DAIKIN IND LTD)1981年1月6日、及び米国特許第4943622号明細書(NIPPON MEKTRON KK)1990年7月24日を参照))のものであり;且つ
−特に米国特許第5173553号明細書(AUSIMONT SRL)1992年12月22日の特許に特に記載のアルカリ金属又はアルカリ土類金属ヨウ化物及び/又は臭化物。
【0131】
エラストマー(F)は、乳化重合又はミクロ乳化重合、懸濁重合又はミクロ懸濁重合、バルク重合及び溶液重合などの、任意の公知の方法によって調製することができる。
【0132】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が、用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0133】
本発明は、ここで、以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、実施例の目的は、例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0134】
原材料
国際公開第2012/084579号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)2012年06月28日の実施例4による手順に従って調製されたポリマー(F−1):VDF(65.95モル%)−TrFE(27.48モル%)−CTFE(6.50モル%)−AA(0.07モル%)。
【0135】
国際公開第2012/084579号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)2012年06月28日の実施例1による手順に従って調製されたポリマー(F−2)。VDF(75.61モル%)−TrFE(24.27モル%)−AA(0.12モル%)。
【0136】
国際公開第2015/169836号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)2015年11月12日のポリマー(F−7)の製造手順に従って調製されたポリマー(F−3)。VDF(63モル%)−TrFE(28モル%)−CTFE(9モル%)。
【0137】
国際公開第2015/169836号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)2015年11月12日のポリマー(F−2)の製造手順に従って調製されたポリマー(F−4)。VDF(75モル%)−TrFE(25モル%)。
【0138】
フルオロエラストマー(F−a):TECNOFLON(登録商標)N215フルオロエラストマーは、121℃(ASTM D 1646)での10のムーニー粘度ML(1+10)、66重量%のフッ素含有量、及び約−17℃のT(ASTM D 1329)を有するイオン硬化性VDF−HFPポリマーである。
【0139】
フルオロエラストマー(F−b):TECNOFLON(登録商標)N60 HSフルオロエラストマーは、121℃(ASTM D 1646)での27のムーニー粘度ML(1+10)、66重量%のフッ素含有量、及び約−17℃のT(ASTM D 1329)を有するイオン硬化性VDF−HFPポリマーである。
【0140】
フルオロエラストマー(F−c):TECNOFLON(登録商標)PL 458フルオロエラストマーは、121℃(ASTM D 1646)での29のムーニー粘度ML(1+10)、66重量%のフッ素含有量、及び約−24℃のT(ASTM D 1329)を有する過酸化物硬化性VDF−TFE−PMVEポリマーである。
【0141】
フルオロエラストマー(F−d):TECNOFLON(登録商標)P 457は、121℃(ASTM D 1646)での21のムーニー粘度ML(1+10)、67重量%のフッ素含有量、及び約−15℃のT(ASTM D 1329)を有する過酸化物硬化性VDF−HFP−TFEポリマーである。
【0142】
PMMA:メタクリルコポリマー
【0143】
フルオロポリマーフィルムの製造
フィルムは、ドクターブレード又はスピンコーティングによって得ることができる。ドクターブレード:ドクターブレード塗布のために適切な溶媒を使用して得られた溶液を、Elcometer自動フィルムアプリケータ(モデル4380)に配置されたガラス基材に対して充填し、これによりポリマー層で被覆されたガラス基材を得た。次いで、基材を真空下で100℃で2時間乾燥させた。試料それぞれについて、インクジェット印刷技術により、商標名ORGACON(登録商標)で、Agfa−Gevaertにより購入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)を導電性材料として使用して、ポリマー層の両側に、1cm×1cmの12のパターンを、電極として印刷した。試料の厚さを、Mitutoyoマイクロメーターを用いて測定した。
スピンコーティング:溶液を、Laurell WS−650 LITE SERIESスピンコーターに充填し、2000rpmの速度でシリコンウェハー基材に対してスピンコートして、基材としてのシリコンウェハーに非常に薄いポリマー層を得た。こうして得られたポリマー層を、20分間、85℃で乾燥させた。それぞれの実施例について、シリコンウェハーにおける2つのポリマーフィルムを調製した。これにより得られた試料は、全て均一であり、完全に光学的に透明であった。試料の厚さを、Filmetrics F20ユニットを用いて測定した。
【0144】
フルオロポリマーフィルムの誘電率の決定
誘電率[k]の値は、ピエゾテスト(Piezotest)によって提供されたピエゾメーターシステムによる誘電容量の直接測定から導かれた。容量値は、全て110Hzで測定した。また測定を用いて、電極の電気均一性及び電気導電性を確認した。
【0145】
フルオロポリマーフィルムの電気抵抗率の決定
電気抵抗の決定は、Radiant Technologies Inc.Precisionテスターを用いて行った。バイアス電圧を試料に印加し、これらの試料の厚さに渡る電流強度を測定した。電気抵抗率の値は、試料の厚さ及びそれらの活性面積に対して標準化されたバイアス電圧及び電流強度の比から導かれた。表1に示す電気抵抗率値は、8000ms後にとられた値を示す。
【0146】
実施例1
ポリマー(F−1)と、前述の組成物の総重量に対して3重量%のフルオロエラストマー(F−a)を含む組成物を用いて一般手順に従って、フルオロポリマーフィルムを作製した。
【0147】
実施例2
フルオロエラストマー(F−a)の代わりにフルオロエラストマー(F−b)を使用した以外は、実施例1での詳細と同じ手順を行った。
【0148】
実施例3
フルオロエラストマー(F−a)の代わりにフルオロエラストマー(F−c)を使用した以外は、実施例1での詳細と同じ手順を行った。
【0149】
実施例4
フルオロエラストマー(F−a)の代わりにフルオロエラストマー(F−d)を使用した以外は、実施例1での詳細と同じ手順を行った。
【0150】
実施例5
ポリマー(F−1)の代わりにポリマー(F−2)を使用した以外は、実施例1での詳細と同じ手順を行った。
【0151】
実施例6
ポリマー(F−1)の代わりにポリマー(F−3)を使用した以外は、実施例1での詳細と同じ手順を行った。
【0152】
実施例7
ポリマー(F−1)の代わりにポリマー(F−4)を使用した以外は、実施例1での詳細と同じ手順を行った。
【0153】
比較例1
ポリマー(F−1)のみを含む組成物を使用した以外は、実施例1と同じ手順を行った。
【0154】
比較例2
フルオロエラストマー(F−a)を、前述の組成物の総重量に対して、3重量%の量でPMMAで置き換えた組成物を使用した以外は、実施例1と同じ手順を行った。
【0155】
比較例3
フルオロエラストマー(F−a)を、前述の組成物の総重量に対して、6重量%の量でPMMAで置き換えた組成物を使用した以外は、実施例1と同じ手順を行った。
【0156】
比較例4
ポリマー(F−2)のみを含む組成物を使用した以外は、実施例1と同じ手順を行った。
【0157】
比較例5
ポリマー(F−3)のみを含む組成物を使用した以外は、実施例1と同じ手順を行った。
【0158】
比較例6
ポリマー(F−4)のみを含む組成物を使用した以外は、実施例1と同じ手順を行った。
【0159】
以下の表1に示すように、本発明による実施例1〜4のいずれかによって得られたフルオロポリマーフィルムはそれぞれ、比較例1による純粋なポリマー(F−1)から作製されるフルオロポリマーフィルムの誘電率値に近い高い誘電率値を有利に有する。
【0160】
本発明による実施例1〜4のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムはそれぞれ、比較例2及び3のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムの誘電率値と比較してより高い誘電率値を有利に有する。
【0161】
以下の表1に示すように、本発明による実施例1〜4のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムはそれぞれ、比較例2及び3のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムの抵抗率値に近い高い抵抗率値を有利に有する。
【0162】
本発明による実施例1〜4のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムはそれぞれ、比較例1による純粋なポリマー(F−1)から作製されるフルオロポリマーフィルムの抵抗率値と比較してより高い抵抗率値を有利に有する。
【0163】
更に、以下の表1に示すように、本発明による実施例5〜7のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムはそれぞれ、それぞれ比較例4〜6による純粋なポリマー(F−2)、ポリマー(F−3)、及びポリマー(F−4)それぞれから作製されるフルオロポリマーフィルムの誘電率値に近い高い誘電率値を有利に有する。
【0164】
本発明による実施例5〜7のいずれかにより得られたフルオロポリマーフィルムはそれぞれ、それぞれ比較例4〜6による純粋なポリマー(F−2)、ポリマー(F−3)、及びポリマー(F−4)それぞれから作製されるフルオロポリマーフィルムの抵抗率値と比較してより高い抵抗率値を有利に有する。
【0165】
【0166】
本発明による組成物(C)は、フルオロポリマーフィルムの製造のためのプロセスにおいて有利に使用されることができ、これにより、良好な機械的特性を示しながら高誘電率及び低い漏れ電流を有利に有する均一なフルオロポリマーフィルムを与え、電気又は電子デバイスを含む様々な用途に適切に使用される。