(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記血液および/または前記透析液の少なくとも1つのパラメータを測定する工程をさらに含んでなり、当該パラメータが、pH、二酸化炭素、分圧、重炭酸イオン(HCO3−)の濃度、緩衝能およびデオキシヘモグロビンの濃度または飽和度(HHb)およびオキシヘモグロビンの飽和度(O2Hb)のうち1つ以上から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の透析システム。
前記被験体が、肺不全を患っている被験体、呼吸性アシドーシスを患っている被験体、代謝性アシドーシスを患っている被験体、腎不全を患っている被験体、心血管疾患を患っている被験体、またはこれら2つ以上の組み合わせを患っている被験体から選択される、請求項8〜16のいずれか一項に記載の透析液。
【背景技術】
【0002】
緒言
血液中の代謝物輸送
ヒトまたは動物が生存するためには、全組織の十分な酸素化が重要である。分子状二原子酸素O
2は、全ての好気性生物の内呼吸に必須である。赤血球細胞(赤血球)は、肺で酸素を取り込み、酸素を身体全体に運ぶ役割を担う。肺の中の酸素に結合する赤血球細胞中の化学物質は、ヘモグロビンタンパク質であり、特に、ヘモグロビンのヘム部分である。
【0003】
代謝の結果として、ヒトまたは動物の身体は、二酸化炭素、H
+イオンおよび他の代謝物を生成する。一般的に、脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内で、代謝の結果として、二酸化炭素が末梢組織で作られる。末梢組織の毛細血管において、組織で作られた二酸化炭素が、その分圧勾配の低い方へと拡散し、血液、主に赤血球の中へと拡散する。脊椎動物の体内において、二酸化炭素が血液中に運ばれる3つの主な様式がある。(a)溶解したCO
2(二酸化炭素は、血液中に酸素よりもかなり可溶性である)、(b)血液タンパク質(例えば、ヘモグロビン)および血漿タンパク質へ結合したもの、(c)重炭酸イオンとH
+イオンのイオン対の形態。休息時に、成人は、1分あたり約10mmolのCO
2を生成する。さらに、1分ごとに約8mmolのH
+イオンが赤血球で作られる(約15000mmol/日)。成人の血液量(5L)に基づいて計算すると、1分あたり、血液5Lに10mmolのCO
2、すなわち、血液1Lあたり2mmolのH
+イオンが保持される。
【0004】
腎臓は、典型的には、約100mmolのH
+イオン/日の除去を担う。
【0005】
分子レベルで、タンパク質に結合した二酸化炭素(b)は、血液タンパク質(例えば、ヘモグロビン)のアミノ基と会合することによって血液タンパク質(例えば、ヘモグロビンおよび血漿タンパク質)に可逆的に結合し、カルバミノタンパク質、例えば、カルバミノヘモグロビンを生成する。したがって、二酸化炭素は、典型的には、酸素のように鉄には結合しないが、ヘモグロビンタンパク質のアミノ基および他の血液タンパク質(特に、血漿タンパク質)のポリペプチド鎖上のアミノ基に結合する。重炭酸イオン(c)は、二酸化炭素に由来するが、赤血球細胞(赤血球)に入った後、水と合わさって炭酸(H
2CO
3)を生成する。この反応は、主に炭酸脱水酵素によって触媒され、この酵素は、特に、赤血球細胞中に見出される。この酵素は、体内の肺内皮および他の部位にも見出される。次いで、炭酸が解離し、重炭酸イオン(HCO
3−)と水素カチオンを生成する。
【化1】
【0006】
この反応の反応物(遊離体および生成物)は、上の式中、矢印によって定性的に示されている通り、動的平衡状態で存在する。1つ以上の反応物を(in vivoまたはin vitroで)添加または除去すると、ルシャトリエの原理によって、平衡に従って反応がシフトする。炭酸脱水酵素は、厳格に言うと、この反応自体を行うには必要ではない。しかし、効率的な変換にとって重要である。
【0007】
酸素、二酸化炭素およびH
+イオンが、主に血液中に運ばれ、周囲の空気との気体交換(酸素、二酸化炭素、水)が肺で起こる。
【0008】
ヒトまたは動物の体内で、血液などの流体は、狭いpH範囲に維持されなければならず、例えば、ヒトの体内では、好ましくはpH7.35〜7.45の範囲、すなわち、わずかにアルカリ性に維持されなければならない。血液に運ばれた代謝物、例えば、二酸化炭素(CO
2)は、血液pHに影響を与えることがある。
【0009】
代謝活性の結果として、ヒトまたは動物の身体は、二酸化炭素だけではなく、酸性有機分子も生成する。酸性有機分子は、さらなるH
+イオン源である。H
+イオンが存在すると、血液pHに影響を与える。しかし、ヒトまたは動物の体内で、血液などの流体は、狭いpH範囲に維持されなければならず、例えば、ヒトの体内では、pH7.35〜7.45の範囲、すなわち、わずかにアルカリ性に維持されなければならない。したがって、血液を緩衝化することが重要である。被験体が、過剰量のH
+イオンに関連する状態を患っている場合、血液の緩衝能は、通常は、血液をこのpH範囲に維持するには不十分である。
【0010】
一般的に、水素カチオンは、炭酸が水素カチオンと重炭酸イオンに解離するときに生成し、血中のタンパク質、特に赤血球中のタンパク質に結合する能力を有する。主な細胞内水素カチオン受容体、または水素カチオンに結合するための緩衝物は、ヘモグロビンタンパク質である。ヘモグロビンと、これと比較すると程度は低いが血漿タンパク質は、血液のpH(例えば、過剰な水素カチオン)を緩衝化することができる。水素カチオンの緩衝化は、血液が組織の毛細血管を通り抜けるときの血液のpH変化を最小限にする。しかし、緩衝能は、制限がないわけではないため、アシドーシスが起こる可能性がある。水素カチオンは、主に、ヘモグロビンのヒスチジン側鎖に結合する。
【0011】
重炭酸イオンは、生理学的なpH緩衝系にとって重要な生化学的役割を果たす。健康な脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内で、(a)約5%の二酸化炭素が、変化せずに運ばれ、血漿に溶解され、(b)約10%の二酸化炭素が、血液のタンパク質、特にヘモグロビンおよび血漿のタンパク質に結合して運ばれ、(c)二酸化炭素の大部分が、重炭酸イオンおよび水素カチオンの形態で運ばれる。水素カチオンは、主にタンパク質に結合する。
【0012】
健康なヒトまたは動物の身体の呼吸系臓器である肺において、二酸化炭素が放出され、それにより、CO
2の分圧(pCO
2)が下がる。(ヒト)被験体の動脈血中のpCO
2の正常値は、35〜45mmHgの範囲である。45mmHgを超えるpCO
2は、本明細書で「高pCO
2」または「増加したpCO
2」と呼ばれる。低換気は、高pCO
2の考えられる原因の1つである。被験体の動脈血中のpCO
2が45mmHgより高い場合、被験体は、pCO
2を下げるために治療を必要とする場合がある。
【0013】
アシドーシスという用語は、哺乳動物の体内の酸性度の増加を指す。アシドーシスは、被験体の体液、特定的には血漿、さらに特定的には動脈血の血漿のpHを測定することによって決定することができる。哺乳動物、特にヒトにおいて、アシドーシスは、動脈血の血漿のpHが7.35未満であることを特徴とする。6.8を下回る血液pH値は、通常、ヒトまたは動物の身体は耐えられない。この範囲を外れるpHは、通常、不可逆的な細胞損傷を引き起こすからである。したがって、アシドーシスは、動脈血の血漿のpHが6.8から7.35未満であることを特徴とする。
【0014】
一般的に、アシドーシスを患う被験体は、血漿中の酸性度の分子原因に基づき、呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスの2つの主なサブグループに分けることができる。代謝性アシドーシスは、分子レベルで、酸性有機分子の量の増加によって引き起こされ、代謝活性が増加した結果として有機酸(例えば、乳酸)の生成が増えることによって引き起こされるか、および/または腎臓による酸を排泄する能力の撹乱によって引き起こされる。呼吸性アシドーシスは、分子レベルで、換気が減ったこと(低換気)に起因する血液中の二酸化炭素の蓄積から生じる。呼吸性アシドーシスは、通常、肺の機能障害によって引き起こされる。頭部損傷、薬物(特に、麻酔薬および鎮静薬)および中枢神経系の異常、例えば脳腫瘍も、同様にこの状態の原因となり得る。慢性代謝性アルカローシスに対する代償性反応として起こる場合もある。呼吸性アシドーシスが続く場合、例えば、末期肺気腫および筋ジストロフィーなどの肺機能を損なう疾病の場合には、このような代償性機構(すなわち、体外での重炭酸イオンの注入)は、代償されない呼吸性アシドーシスに関連する二酸化炭素の蓄積を効率的にくい止めることができない。このような状況下で、肺補助の使用に適応があるとされる場合がある。
【0015】
実際に、両方の状態の症状を示す患者が存在する。所与の被験体は、(i)代謝性アシドーシス、または(ii)呼吸性アシドーシス、または(iii)代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシスの組み合わせのいずれか1つを患っていてもよい。
【0016】
肺補助のための従来技術のシステム
医学における主要な躍進の1つは、呼吸不全を患う被験体のための機械換気の発明および後の使用であった。ドイツでは、毎年24万人を超える被験体が、機械換気されており、平均治療期間は10日間である。これらの被験体の平均死亡率は、35%である。別の臓器機能不全が呼吸不全と共に起こる場合、死亡率は、75%まで上がる可能性がある。
【0017】
機械換気は、自発呼吸を機械的に補助するか、または自発呼吸を置き換える方法(すなわち、肺補助方法)である。機械換気は、機械(人工呼吸器)を含んでいてもよく、または看護師または医師などの医療従事者によって呼吸が補助されてもよい。いずれの場合でも、機械換気は、被験体の身体を貫通する装置(「侵襲性の機械換気」)を含む場合があり、すなわち、口を通って貫通する(例えば、気管内チューブ)または皮膚を通って貫通する(例えば、気管切開チューブ)のいずれかを含む場合がある。機械換気には、気体(例えば、空気)が気管に押し出される陽圧換気と、例えば、患者の胸部を低圧チャンバに入れることによって、胸部を膨らませ、これにより空気を患者の肺に吸い込ませる陰圧換気の2つの主な態様がある。機械換気の全ての良い影響の他に、望ましくない欠点もある。望ましくない結果としては、限定されないが、内部臓器(例えば、肝臓)の血液灌流が30%まで減少すること、血圧の低下、腹腔内圧力の上昇、腎臓の排泄機能の低下、人工呼吸器関連肺傷害(VILI)、気圧外傷、量外傷、無気肺および炎症性肺傷害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、集中治療室(ICU)で治療された鎮静状態の被験体の呼吸困難、約48時間の換気後の離脱が挙げられるだろう(例えば、Larsen and Ziegenfuβ、Beatmung、Springer、Berlin Heidelberg、2013;およびSchmidtら、Intensive Care Med.、vol.40、pp.1−10、2014を参照)。
【0018】
機械換気の望ましくない結果の一部は、体外での肺補助システムによって対処することができる。これらのシステムは、体外での血液の酸素化、または体外の血液の二酸化炭素除去を目的とする。今日、体外の膜酸素化(ECMO)は、体外の肺補助の最も一般的な治療の1つであり、肺を補助するか、または肺の機能に置き換わるために用いられる。血液は、身体から除去され、気相(酸素、または酸素を含む気体混合物)から血液を分離する膜(短期間処理の場合には多孔性膜、または長期間処理の場合には非多孔性膜)を有する装置に導入され、血液の酸素化が可能になる。ECMO中の体外の血液の流量は、約7l/分までの心拍出量と同様であり、このシステムにポンプを含ませることによって、ECMOを心臓補助と組み合わせることも可能である(ECLS、体外の生命維持)。膜の酸素化に代わる例として、US 6,344,489 B1号(Wayne State University)およびUS 6,607,698 B1号(Therox/Wayne State University)に記載されるように、例えば、酸素で(超)飽和した液体を用いることによって、体外の血液に酸素を直接的に導入することができる。しかし、体外の液体導入は、典型的には、血液の体積を増やす。したがって、気体を豊富に含む血液をヒトまたは動物の身体に再び導入する前に、体積を減らすことが必要である。気体が飽和した液体または気体が超飽和した液体の導入は、気泡生成のリスクを高める。しかし、一般的に、気泡、特に酸素の気泡の存在は、血液タンパク質の望ましくない変性を引き起こすことがあり、したがって、これらの方法およびシステムの適用は、気泡生成を最小限にするために、最大限の注意が必要とされる。または、血液は、直接的に酸素化されてもよく、すなわち、気体交換膜を用いずに、例えば、気泡型酸素化装置によって酸素を血液に注入することによって酸素化されてもよい。この方法は、望ましくない泡の生成およびガス塞栓のリスクと関係がある。この方法は、アシドーシスを治療するには適していない。
【0019】
従来技術の方法の中には、速い血液流量、特に、速いスイープガス流に依存するものがある。しかし、これにより、血管側面でガス塞栓が生じる場合がある。治療法として、動脈フィルターが予測され得る。しかし、これにより、異物反応のリスクが高まる。
【0020】
肺機能が不完全な被験体を酸素化のみによって治療しても、肺機能を完全に置き換えることはできない。主に、体外での二酸化炭素除去方法(ECCO
2R)のためのシステムおよび方法が開発されてきた。このような処理は、例えば、呼吸性アシドーシスの場合に適応があるとされる場合がある。Bakerら、J.Intens.Care Soc.13:232−236(2012)にまとめられているように、ECCO
2Rシステムは、典型的には、気体交換膜の使用に依存し、この膜を通り、二酸化炭素が体外の血液から出て、気体チャンバに拡散する。この文献によれば、AV−ECCO
2Rシステム(Novalung、ドイツ)は、今日までに最も広く使用されているECCO
2R技術である。このシステムは、気体透過性膜を有し、膜の片側に「スイープガス」として気体(酸素、または酸素を含む気体混合物)を含む体外の回路に血液を接触させることに依存し、これによって、二酸化炭素の気体が膜を通過し、スイープガスの流れによって、この気体を気体チャンバから除去することができる。例えば、WO2010/091867 A1号(Novalung)は、3つのチャンバを有するシステムにおいて生体液を処理するための装置を記載する。第1のチャンバは、血液などの生体液を受け入れるのに適しており、第2のチャンバは、気体を透過するが、液体を透過しない膜によって、第1のチャンバから分離され、場合により、酸素などの気体を受け入れることができる。膜の気体透過性に起因して、二酸化炭素の気体は、第1のチャンバから第2のチャンバへと拡散することができ(したがって、ECCO
2Rを与え)、場合により、酸素の気体は、第2のチャンバから第1のチャンバへと拡散することができ、したがって、体外の肺補助が提供される。低分子(例えば水)は、液体透過性膜を通り、第1のチャンバから第3のチャンバへと除去することができる。この3つのチャンバを有するシステムは、比較的複雑であり、不都合なほどに高い流れ抵抗と伴う場合がある。さらに、Respiratory Dialysis(登録商標)(Alung Technologies)が市販されている。この方法は、透析液の代わりに、スイープガスに依存する。この方法は、血液の酸−塩基バランスおよび/または電解質ホメオスタシスを調節するのには適しておらず、従来の透析装置には適していない(Coveら、Critical Care 2012、16:232)。
【0021】
一般的に、血液の酸素化と血液の二酸化炭素除去の効率は、両方とも血液の流量に依存し、以下のことが成り立つ。血液の流量が大きいほど、全被験体(例えば、患者)の酸素化が良くなり、血液の流量が小さいほど、血液からの二酸化炭素の除去(ECCO
2R)が良くなる。典型的には、高速(ECMOに適している)は、2400ml/分を超えるものを指し、中速(ECMOおよびECCO
2Rの両方に適している)は、800〜2400ml/分を指し、低速(ECCO
2Rに適している)は、800ml/分より低いものを指す。技術常識のECCO
2Rの場合、ECMOより低い血液の流量(すなわち、約2l/分以下)が適している。このような血液の流量は、例えば、一般的に使用されるpECLA(ポンプを用いない体外の肺補助)で実現される。
【0022】
液体呼吸は、従来技術の常識における肺補助の代替的な形態である。この方法では、生物(例えば、ヒト)が、TLV(全液体換気)またはPLV(部分液体換気)の方法において呼気ではなく酸素を豊富に含む液体(例えば、ペルフルオロカーボン)を吸い込み、これにより、PFC(ペルフルオロカーボン)を含有する液体が、酸素および二酸化炭素などの呼気を運ぶために機械的な人工呼吸器によって肺に満たされる(Lachmannら、Intensivmed.und Notfallmed.、vol.34、pp.513−526(1997)。液体呼吸のための応用の標準的な態様は、まだ確立されていない。
【0023】
従来技術の常識において、被験体の血液を体外の回路に抜き取ることは、肺補助(酸素化および/またはCO
2除去)の目的のためだけではなく、または他の臓器(例えば、肝臓または腎臓)を補助する目的のためにも実施される。このような方法は、典型的には、半透膜を介し、血液を透析液に接触させることを含み、これにより、望ましくない物質を濃度勾配に沿って血液から透析液へと移動し、場合により、反対方向への望ましい物質の移動が可能になる。これらの従来技術のシステムは、他の目的(すなわち、腎臓補助および/または肝臓の補助)に向けられている。例えば、腎臓補助のための透析は、慢性腎不全(CRF)から生じ得るアシドーシスの場合に適応があるとされる場合がある。WO 03/094998 A1号(HepaWash)は、血液からタンパク質に結合した物質(特に毒素)を除去するための装置および方法を記載し、これは肝臓透析のための透析液に適した吸収剤液に依存し、透析液はアルブミンを含み、場合により、カフェインを含んでいてもよく、両方ともアルブミンに対して毒素を結合させる目的のためのものである。しかし、これらの従来技術の方法は、二酸化炭素(CO
2)、水素カチオン(H
+)および炭酸水素イオン(HCO
3-)の効率的な除去には向けられておらず、血液の酸素化にも向けられていない。したがって、このような方法は、肺の機能不全を置き換えるためには適合されない。特に、このような方法は、血液を酸素化するため、また、血液から二酸化炭素を除去するためには適合されない。
【発明を実施するための形態】
【0057】
上述の目的は、本発明の過程および方法によって対処される。それによって、従来技術の方法または過程の課題が克服される。特に、本願発明者らは、肺補助のために気相に依存する体外での肺補助のための従来の方法またはプロセスを上回る利点が、体外での肺補助のための方法において液体透析流体(透析液)を使用することによって達成することができることを発見した。この方法によって、血液を効率的に酸素化し、血液から二酸化炭素を除去し、および/または血液pHを所望な値または正常値に調節し、および/または血液中の重炭酸イオンの濃度を調節する(上げるか、または下げる)ことができる。したがって、この方法は、個々の被験体の必要性に基づき、効率的で汎用性のある肺補助を可能にし、さらなる臓器を補助することができる。
【0058】
本願発明者らは、本発明の液体/液体透析方法において、ホールデイン効果および/またはボーア効果を利用することができることを発見した。しかし、本発明は、特定の選択した効果またはこれらいずれかの効果を説明するための特定の理論に限定されない。より一般的に言えば、本発明は、特に、血液を本明細書に定義する透析液と接触させたときに、ヘモグロビンに対する特定の物質の結合を所望なように利用することができ、血液が本明細書に記載する通りに間接的または直接的に酸素化されるという発見に基づく。
【0059】
それぞれの効果を、身体の外で系統的に、すなわち、本発明の血液酸素化のための方法において、血液から代謝物を除去するために利用することができる。これにより、従来の方法よりも効率的な体外での肺補助が可能になる。
【0060】
ホールデイン効果は、脊椎動物の体内で起こる現象であると既に記載されている。本明細書では、従来技術と同様に、ホールデイン効果は、一般的に、ヘモグロビンに対するヘモグロビン配位子、特に、酸素、二酸化炭素および水素カチオン(H
+)の結合親和性が一定ではなく、すなわち、全ての条件で同一ではなく、その結果、一般的に言えば、配位子がヘモグロビンから放出されるか、またはヘモグロビンに結合した状態になると、別の配位子についての結合親和性が増加または減少し得るという現象を指す。健康な脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内では、末梢組織で、特に、末梢組織の毛細血管(酸素がヘモグロビンから放出される場所)で、肺(酸素がヘモグロビンに結合した状態になる場所)で、ホールデイン効果が観察される。本発明をさらに説明するために、ホールデイン効果は、一般的に、以下の通り、健康なヒトまたは動物の体内の(1)末梢組織で、および(2)肺で起こる現象の具体例の記載によって本明細書で説明される。
【0061】
(1)一般的に、脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内で、代謝活性の結果として、二酸化炭素が末梢組織で作られる。末梢組織の毛細血管において、組織で作られた二酸化炭素が、その分圧勾配の低い方へと拡散し、血液、主に赤血球の中へと拡散する。上述の通り、二酸化炭素は、炭酸および重炭酸イオン/水素カチオン対との動的平衡状態で存在する。次いで、水素カチオンは、血中のタンパク質、特に赤血球中のタンパク質に結合することができる。主な細胞内水素カチオン受容体、または水素カチオンに結合するための緩衝物は、ヘモグロビンタンパク質である。水素カチオンは、主に、ヘモグロビンのヒスチジン側鎖に結合する。酸素がヘモグロビンのヘムから放出されると、すなわち、オキシヘモグロビンが脱酸素化された状態になると、水素カチオンに対するヘモグロビンの親和性が増加する。したがって、この段階で、ヘモグロビンは、さらに強塩基になるか、またはさらに弱酸になり、水素カチオンを緩衝化するために利用可能な部位が多くなる。言い換えると、デオキシヘモグロビンは、オキシヘモグロビンよりもプロトンに対する親和性が高い。したがって、水素カチオンは、酸素を放出すると、ヘモグロビン(デオキシヘモグロビン)に結合した状態になる。ルシャトリエの原理によって、ヘモグロビンに対する水素カチオンの結合、したがって、血液からの遊離水素カチオンの消滅によって、
【化4】
の反応が右にシフトする。さらに、脱酸素化されたヘモグロビンは、水素カチオンに結合しやすくなり、したがって、重炭酸イオンを生成しやすくなる。重炭酸イオンの生成によって、血液が二酸化炭素を保持する能力が高まる。
【0062】
(2)一般的に、健康なヒトまたは動物の肺において、酸素が、ヘモグロビンのヘムと結合した状態になる(すなわち、デオキシヘモグロビンが酸素化された状態になる)と、ホールデイン効果は、上の反応の逆を担う。簡単に言うと、ヘモグロビンの酸素化は、ヘモグロビンからの水素カチオンの解離を促進し、重炭酸イオン緩衝物の平衡が、CO
2を生成する方にシフトする。その結果、赤血球からCO
2が放出される。呼吸上皮において、二酸化炭素は、その分圧勾配の低い方へと、呼吸面から環境へと拡散する。この拡散と、その結果起こる細胞内二酸化炭素張力の減少は、重炭酸イオンと二酸化炭素の反応に不均衡を生じさせ、これにより、重炭酸イオンが脱水され、二酸化炭素になる(典型的には、赤血球中の炭酸脱水酵素によって補助される)。この反応に必要な水素カチオンは、ヘモグロビンから放出される。したがって、酸素と結合すると、水素カチオンは、ヘモグロビンから放出される。解離した水素カチオンが重炭酸イオン(HCO
3−)と反応して炭酸(H
2CO
3)を生成し、この炭酸が、典型的には赤血球中に存在する炭酸脱水酵素によって補助されてさらに反応し、水とCO
2になり、ヘモグロビンに対する酸素の結合によって、重炭酸イオン緩衝物の平衡がCO
2を生成する方にシフトしやすくなる。次いで、健康な脊椎動物(ヒトまたは動物)の肺において、典型的にはヘモグロビンの酸素化の結果として、CO
2が赤血球細胞から放出される。
【0063】
事実としての、ヘモグロビンに対する酸素の結合親和性がpH(したがって水素カチオンの濃度)および二酸化炭素の分圧(pCO
2)によって影響を受けるということは、また、ボーア効果と呼ばれる。
【0064】
したがって、一般的に、デオキシヘモグロビンは、オキシヘモグロビンよりも多くの水素カチオンと結合することができる(水素カチオンに対する親和性が高い)。この分子のこの現象の理由は、デオキシヘモグロビンの水素受容体部分が、ヒスチジン側鎖のイミダゾールと同様に、同じデオキシヘモグロビンの水素受容体部分または等価なデオキシヘモグロビンの水素受容体部分よりも多く水素カチオンに結合することができる(水素カチオンに結合する親和性が高い)という事実にあることが広く受け入れられている。特定の理論によって限定されることを望まないが、酸素の結合または放出の間にグロビンペプチド鎖の電子構造が変わり、これによって水素カチオン親和性が変化すると考えられる。ヘモグロビンの脱酸素化を可能にするこの現象は、ヘモグロビンに対する水素カチオンの解離を促進し、重炭酸イオン緩衝物の平衡を重炭酸イオン(HCO
3−)が生成する方にシフトさせる。その結果、血液のCO
2輸送能が高まり、その逆も起こり、「ホールデイン効果」と呼ばれる。ホールデイン効果に起因して、脱酸素化されたヘモグロビン(デオキシヘモグロビン)は、酸素化されたヘモグロビン(オキシヘモグロビン)よりもH
+イオンを中和(緩衝化)する能力が高い。健康な脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内では、ホールデイン効果は、遊離H
+または血液pHの変化を最小限にすることによってCO
2の輸送を容易にするのに重要な機構である。
【0065】
本発明では、ホールデイン効果を利用することができ、その結果、酸素化と、二酸化炭素の除去は、互いに高め合う様式で影響する。しかし、本発明は、ヒトまたは動物の身体の外側でのホールデイン効果の利益を使用する。体外での肺補助のための本発明の方法は、二酸化炭素の除去と血液の酸素化という両方の機能を含み、これらは完全な肺補助に必要である。さらに、二酸化炭素除去ユニットと血液酸素化ユニットは、本発明の方法では、空間的に分離されている。
【0066】
本発明によって、少なくとも1つの望ましくない物質を血液から除去することができ、望ましくない物質は、二酸化炭素(CO
2)、水素カチオン(H
+)、炭酸水素イオン(HCO
3-)からなる群から選択される。少なくとも1つの望ましくない物質を血液から除去するために、本発明の方法は、気体交換膜(すなわち、少なくとも片方の側に血液、他の側に気相を有する膜)を必要としない。その代わりに、望ましくない物質の除去は、半透膜の両側に液体(すなわち、片方の側に血液、それぞれの他の側に透析液)を有する半透膜を通って行われる。本発明によって、酸素化と、少なくとも1つの望ましくない物質の除去を別個に制御し、調整することができる。さらに、本発明によって、血液の特定の二酸化炭素除去速度、酸素化速度または(過)酸素化速度を調節し、血液pHを所望のレベルに調節することができる。
【0067】
本発明は、血液pHを安定化し、血液pHを所望な値または正常値に調節することも可能にする。典型的には、血液pHの所望な値または正常値は、pH7.35〜7.45、好ましくは7.36〜7.44、より好ましくは7.37〜7.43、より好ましくは7.38〜7.42、より好ましくは7.39〜7.41の範囲、最も好ましくは約7.40である。より一般的に、pH6.8〜pH8.0の範囲の血液pHが許容されるだろう。
【0068】
したがって、その最も広い意味で、本発明は、(i)血液を、半透膜によって分離された透析液にさらす工程を含み、透析液が、本明細書に定義する特性または好ましい特性を有する、血液を酸素化する方法、および(b)(i)装置の第1のチャンバに血液を導入し、前記装置が、第1のチャンバと第2のチャンバとを備えており、第1のチャンバと第2のチャンバが、半透膜によって分離されている工程と、(ii)前記装置の第2のチャンバに透析液を導入する工程とを含み、透析液が第2のチャンバに導入される、血液を酸素化する方法を提供する。本記載において、第1のチャンバとの用語は、一般的に、血液を受け入れるように構成されているか、または血液を受け入れるのに適したチャンバを指すために用いられ、第2のチャンバとの用語は、一般的に、透析液を受け入れるように構成されているか、または透析液を受け入れるのに適したチャンバを指すために用いられる。典型的には、第1のチャンバと第2のチャンバは、本明細書で定義される半透膜によって互いに分離される。典型的には、第1のチャンバと第2のチャンバに直接的な接続(配管など)は存在しない。したがって、半透膜を通り抜けることが可能な物質のみが、第1のチャンバから第2のチャンバへと、および/または第2のチャンバから第1のチャンバへと移動することができる。
【0069】
血液および透析液は、水性流体である。水性との用語は、一般的に、水または水を含有する流体を指すために本明細書で用いられ、特に、限定されないが、その液体状態を指す。水性との用語は、水を含む流体、特に、液体または液相を指すために本明細書で用いられる。典型的には、水性液は、50%(体積/体積)を超える水を含み、親水性である。血液および透析液は、このような水性流体である。
【0070】
特に、血液の体外での酸素化を可能にする体外での肺補助のための方法が本明細書で提供され、この方法は、以下の工程:
(i)酸素を血液および/または透析液に導入し、
ここで、透析液は、pHがpH6.8〜pH11の範囲であることを特徴とし、透析液は、アルブミン、好ましくは10〜60g/lのアルブミンを含み、
これによって、酸素を豊富に含む血液および/または酸素を豊富に含む透析液を生成する工程と、
(ii)前記血液を、半透膜によって分離された前記透析液にさらす工程
を特徴とする。
【0071】
理想的には、工程(i)は、工程(ii)の前に行う。または、工程(i)と(ii)を同時に行うことも可能である。いずれにせよ、血液または透析液のいずれか、または血液と透析液の両方が、工程(i)で酸素富化される。透析液の酸素富化の場合には、透析液から血液への正味の酸素移動が、接触させる工程の間に半透膜を通って起こる。接触させる工程は、さらに、血液から透析液への直接的な望ましくない物質の除去を可能にする。
【0072】
いずれにしても、工程(ii)では、血液の流れと、透析液の流れは、好ましくは対向流モードで実現されない。すなわち、血液と透析液は、互いに反対方向には流れない。言い換えると、透析液と血液が本発明の装置を同じ方向に流れることが好ましい(並流)。血液を37℃未満の温度まで冷却するときは、並流モードが特に好ましい。
【0073】
血液を透析液と酸素に同時に接触させる場合には、例えば、本発明の装置が、血液を受け入れるための第1のチャンバおよび透析液を受け入れるための第2のチャンバに加え、酸素(例えば、酸素気体、酸素を含む気体状混合物または酸素を豊富に含む液体)を受け入れるための第3のチャンバを備えており、その結果、第3のチャンバと第1のチャンバが気体透過性膜を介して互いに接触している場合には、酸素は、好ましくは、第1のチャンバに対して対向流モードで第3のチャンバを流れる。
【0074】
本発明と、従来技術の気体系の体外での二酸化炭素除去方法(ECCO
2R)の基本的な違いは、本発明が透析液を使用することである。
【0075】
本願発明者らは、本発明の方法が、血液の酸素化、体外での二酸化炭素除去、重炭酸イオンのレベル調節の目的に特に適していることを発見した。これらの目標は、個別の医薬で、すなわち、個々の患者の必要性に応じて達成することができる。本発明は、ヒトまたは動物の身体の外側でヘモグロビンの酸素親和性を高めるか、または低下させることが可能なため、以下に記載する通り、本発明の限定の範囲内で条件を変えることによって、個々の患者の必要性に合うように酸素の取り込みを調節することができる。特に、本発明の好ましい実施形態および有利な実施形態は、本明細書および添付の特許請求の範囲に与えられる。(a)本発明のフレームワークの範囲内で適切な透析液を使用することによって、(b)血液を酸素化し、それによって、望ましくない物質を血液から除去することによって、炭酸イオンの血漿濃度、重炭酸イオンの血漿濃度、血漿中の炭酸イオンと重炭酸イオンの比率を調節することも可能である。例えば、血漿中の炭酸イオンと重炭酸イオンの比率は、pHに依存し、適切なpHの透析液を選択することによって影響を与えることができる。
【0076】
血液
脊椎動物(ヒトまたは動物)の身体において、血液は、血液細胞と血液血漿(「血漿」とも呼ばれる)で構成され、その結果、血液細胞は血漿に懸濁している。脊椎動物の体内では、血漿の主要な構成要素は水であり、血液細胞の主要な種類は、赤血球である。本発明の方法は、ヒトまたは動物、好ましくは脊椎動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトからの全ての種類の血液に適用されるのに適している。
【0077】
血液についての言及が、第1のチャンバ、または透析ユニット、または透析器の観点で、または任意の他の体外という観点でなされるときはいつでも、必ずしもヒトまたは動物の身体から採取される純粋な血液を意味する必要はない。いくつかの実施形態では、血液という用語は、ヒトまたは動物の身体から採取された血液と、許容範囲の量の許容される添加剤の混合物を指していてもよい。血液の機能が顕著に悪い影響を受けないのであれば、添加剤は許容される。添加剤の量は、添加剤の添加によって、ヒトまたは動物の身体から採取される血液の顕著な体積増加が生じない場合には許容範囲であり、そのため、血液の体積増加は、50%を超えず、好ましくは40%を超えず、30%を超えず、20%を超えず、10%を超えず、5%を超えない。
【0078】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、排他的にin vitroでの活性だけに関する。代替的な実施形態では、この方法は、以下に詳細に記載する通り、生きている被験体の医学的な必要性に対処するように探求される。これらの代替的な実施形態では、半透膜を介する血液と透析液との接触もin vitroで(すなわち、ヒトまたは動物の身体の外側で)起こるか、または体外で起こる。さらに、ヒトまたは動物の身体との相互作用は、以下に記載されるように起こる。
【0079】
血液および/または透析液の酸素富化
本発明の方法は、本発明に従って酸素を血液および/または透析液に導入する工程を含む。
【0080】
酸素が透析液に導入される場合、典型的には、血液を、半透膜によって分離された透析液にさらす工程の前に、またはこの工程と並行して、酸素が透析液に導入される。これにより、透析液から血液への酸素の少なくとも一部の正味の移動が起こる。
【0081】
酸素富化に付される血液は、典型的には、酸素含有量が低い血液である。このような血液は、脱酸素化された血液と呼ばれる。脱酸素化された血液は、典型的には、ヒトまたは動物被験体の静脈に由来する。
【0082】
酸素を(上述の脱酸素化された)血液および/または透析液に導入する工程の後に、半透膜を介し、血液と透析液を接触させる工程が行われるか、またはこれらが同時に行われることで、酸素などの低分子を、半透膜を通って移動させることができる。酸素化工程(酸素を脱酸素化された血液に導入、または酸素を透析液に導入)のいずれかの位置によって、酸素化された血液(すなわち、酸素濃度が高い血液)が得られるだろう。言い換えると、酸素を脱酸素化された血液に導入するために、血液の「直接的な」酸素化が提供される。酸素を透析液に導入するために、血液の「間接的な」酸素化が提供される。いずれにしても、酸素が導入される少なくとも1つの部位が、典型的には、例えば透析液または血液の流路に沿って提供される。
【0083】
透析液に酸素を導入し(血液に直接的にではなく)、その後に酸素を豊富に含む透析液を、半透膜によって分離された血液にさらすことによる間接的な血液酸素化のために、本明細書に記載する通り、酸素の拡散が濃度勾配によって促されるため、酸素を用いた血液の過飽和は通常不可能である。酸素を用いた血液の過飽和は、多くの場合に望まれる。酸素を豊富に含む透析液を対流輸送する場合には、酸素を用いた血液の過飽和が可能である。
【0084】
一般的に、酸素は、多くの異なる様式で血液および/または透析液に導入することができる。その好ましい例を、以下にさらに詳細に記載する。
【0085】
しかし、血液に導入される酸素(すなわち、「直接的な」酸素化)は、気体状酸素ではないことが好ましい。好ましくは、「気体状」酸素は、気相での酸素を反映するが、気体状酸素を含有する液体または固体(例えば、溶解した状態/相でのもの)を反映しないと理解される。特に、本明細書に記載の方法の工程(i)において、酸素が血液に導入され、血液に導入される酸素は、気体状酸素ではないことが好ましい。より好ましくは、「気体状」酸素は、気体状酸素の気泡を含む液体を含むことも理解される。
【0086】
酸素が透析液に導入されることも好ましい。例えば、溶解させるために、気体状酸素が透析液に導入されてもよい。これらの指標によって、血液と気体との直接的な接触が避けられる。血液と気体が直接的に接触すると、気泡を生じる場合があり、これが血液の乱れ(例えば泡の生成)を引き起こす場合があり、ガス塞栓を引き起こす場合さえある。さらに、血液と気体の直接的な接触によって、凝固および/または炎症反応が起こる場合もある。したがって、血液と気体との直接的な接触は、好ましくは避けられる。しかし、本発明の方法では、血液は、気体状酸素を含む液体と接触してもよい。言い換えると、気体状酸素を、液体、特に、酸素を豊富に含む液体に溶解させてもよい。
【0087】
したがって、血液および/または透析流体に導入される酸素が、液体酸素(以下に説明する通り、以下の選択肢(2)を参照)または酸素を豊富に含む液体(以下に説明する通り、例えば、以下の選択肢(1)および(6)を参照)および/または固体(以下に説明する通り、以下の選択肢(5)を参照)によって導入されることが好ましい。特に、「酸素を豊富に含む」液体は、分子状酸素が溶解した(均一な)液体および/または気泡(気体状の性質の「溶解した」泡)を含む液体を含むと理解されてもよい。より好ましくは、「酸素を豊富に含む」液体は、分子状酸素が溶解した均一な液相、すなわち、気泡(気体状の性質の「溶解した」泡)を含まない均一な液相を意味する。酸素の導入に関し、いずれの場合でも、導入は、以下のいずれかによって達成することができる。
(1)溶解した酸素を含む液体を、それぞれ血液および/または透析液へ導入(好ましくは注入)。液体は、酸素飽和または酸素過飽和であってもよい。
(2)液体酸素を、それぞれ血液および/または透析液へ、好ましくは透析液へ導入(好ましくは注入)。
(3)酸素を、酸素透過性膜を通り、それぞれ血液および/または透析液へ導入。
(4)気体状酸素を、それぞれ血液および/または透析液へ導入(好ましくは注入)。導入は、例えば、気泡型酸素化装置によって実行することができる。
(5)酸素を含有する固体の導入。このような固体は、固体が液体に導入されると酸素を放出することができる、固定化された酸素を含む。適切な酸素を含有する固体としては、例えば、キセロゲルおよびリオゲル、または凍結した気体を豊富に含む液体が挙げられる。このような酸素を含有する固体を、血液および/または透析液に導入することができる。
(6)酸素を豊富に含む液体の対流輸送。
【0088】
ここで、注入とは、一般的に、流体(場合によっては、液体または気体)の別の流体へ(すなわち、透析液または血液へ)の導入を指す。
【0089】
実施形態のいくつかの態様(1)〜(6)を以下に記載する。
【0090】
選択肢(1)の場合、使用される液体は、水、逆浸透水、NaCl水溶液、例えば、緩衝化生理食塩水、グルコース溶液、透析液、ペルフルオロカーボンおよび油であってもよい。酸素は、液体に溶解していてもよく、またはそれぞれの液体に最大溶解性より過剰に存在していてもよく(液体から酸素で超飽和した液体が生じる)、または酸素は、液体に溶解した酸素結合性物質に結合した状態で存在していてもよい。この実施形態の場合、PFC(ペルフルオロカーボン)が特に適している。したがって、PFCに結合した酸素を含む、PFCを含有する液体を導入することができる。
【0091】
任意のこのような液体の(特に血液への)導入によって酸素化する場合、ヘモグロビンと酸素の望ましい接触が達成され、ガス塞栓のリスクを避けることができる。一般的に、液体への酸素の溶解性は、圧力、温度および塩分濃度に依存する(Weiss(1970)、Deep Sea Res.Oceanogr.Abstr.、vol.17、no.4、pp.721−735)。これらのパラメータの変動によって、所望な酸素化度の酸素を豊富に含む液体を調製し、提供することができる。その後、血液および/または透析液を酸素化するために、この液体を使用することができる。大きな酸素分圧を有する、酸素で超飽和した液体または酸素で過飽和した液体を使用することができる。このような液体は、高圧で、典型的には、蒸気圧より顕著に高い圧力で調製される。この目的のために、このような酸素で超飽和された液体を低圧(例えば大気圧)で放出する間の気泡の生成を避けるために、酸素で超飽和された液体を、1つ以上のキャピラリーに通してもよい。適切なキャピラリーは、内径(ID)が0.012〜1000μmであり、長さが0.1mm〜1100mmである。典型的には、キャピラリーの一方の末端では高圧であり、キャピラリーの他の末端では低圧である。任意のキャピラリーは、その内径、長さ、圧力差および液体の関数として、酸素で超飽和された液体の特定の流量を有するため、いくつかのキャピラリーを並行して用いることによって、合計流量を上げることができる。流量、したがって酸素化は、好ましくは、酸素を豊富に含む液体の圧力を変えることによって調節することができる。このことは、それぞれの液体に溶解した酸素の濃度に影響を与える。液体への酸素の溶解性は、好ましくは、気体の圧力を上げることによって、温度を上げるか、または下げることによって、使用する気体のイオン濃度とイオン化を下げることによって増加する。さらに、選択肢(1)の場合、特に、酸素を豊富に含む液体が血液に直接的に導入される場合には、典型的には、体外での血液の体積が増える。典型的には、処理されるヒトまたは動物の血液の合計量が増えることは望ましくない。したがって、このような状況では、その後に血液の体積を減少させることが望ましい。したがって、このような状況では、血液を被験体に再び導入する前の任意の段階で血液の体積を減少させることが典型的には実施される。血液の体積の減少は、例えば、濾過によって達成することができる。それによって、ヒトまたは動物被験体を液体で富化しないこと、すなわち、ヒトまたは動物被験体を過剰に水和せず、または過剰に水を加えないことが可能である。長期間の処理の間、このことは特に重要である。
【0092】
選択肢(2)の場合、好ましくは、液体酸素が透析液に直接的に導入される。このような導入が透析液の冷却の一因となることが考えられる。このような実施形態では、このことが好ましい場合がある。酸素は、1つ以上の微細な管またはキャピラリーを通って流れてもよい。
【0093】
選択肢(3)、すなわち、酸素透過性膜を介した酸素の導入の場合、酸素は、典型的には、気体状の形態である。これにより、酸素気体の拡散は、濃度勾配によって促されるため、酸素を用いた血液の過飽和は通常は想定されない。
【0094】
選択肢(4)の場合、酸素を血液に直接的に導入することによって、血液を酸素化することも可能である。酸素は、純粋な酸素、または酸素を含む気体混合物(例えば、空気)として導入される。このような態様の血液酸素化は、典型的には、気泡型酸素化装置によって実現される。酸素の微細な気泡(マイクロ/ナノ気泡)を導入および/または作成することによって、それぞれの液体を酸素で富化および/または(超)飽和することも可能である。このような微細な気泡は、好ましくは、多孔性材料によって作られてもよい。酸素がヘモグロビンに結合するため、H
+イオンがヘモグロビンから放出され、重炭酸イオンと反応して二酸化炭素を生成する。このような二酸化炭素は、半透膜を介し、血液と透析液を接触させる工程によって除去されてもよい。直接的な酸素化は、好ましくは、このような状況では、上述の接触させる工程の前に行われる。これに代えて、またはこれに加えて、酸素化された血液から望ましくない二酸化炭素の気泡を除去するために、気泡捕捉部を予測することができる。しかし、気泡は、除去する前に、血液の乱れ(例えば泡の生成)を引き起こす場合があるため、これはあまり好ましくない場合がある。残った気泡は、ヒトまたは動物被験体に導入されると、ガス塞栓を引き起こす場合さえある。
【0095】
選択肢(3)および(6)は、組み合わせて実現することができる。したがって、血液または透析液は、酸素を豊富に含む液体を対流輸送によって膜を通って流すことによって、酸素富化されてもよい。酸素を豊富に含む液体が透析物であり、膜を通って流す工程が、半透膜によって血液と透析液を接触させる工程と同時に行われることが可能である。
【0096】
膜を介した血液の酸素化(選択肢(3)を含む)、本発明の方法の工程(ii)で、半透膜を通したあらかじめ酸素化された透析液による血液への酸素の導入、または血液の酸素化が行われる場合はいつでも、それぞれの膜を介して血液と接触する酸素を豊富に含む流体(例えば透析液)の酸素濃度または酸素分圧は、好ましくは既知である。透析液の酸素濃度は、好ましくは、0〜0.42mol/kgの濃度に調節可能である。この目的のために、好ましくは、酸素分圧を上げることが可能である。酸素濃度は、酸素分圧および流体の特性(例えば、流体の温度および塩分濃度/イオン濃度)に依存して決定することができる。いずれにしても、本発明の方法で血液と接触する透析液および/または血液以外の任意の酸素を豊富に含む液体(例えば、血漿)の酸素濃度は、好ましくは、少なくとも血漿の望ましい酸素濃度と同じくらい高い。それにより、血液からそれぞれの他の液体への酸素の正味の再拡散が避けられる。
【0097】
全ての実施形態(すなわち、(1)〜(6)のいずれか)の場合、酸素の導入は、好ましくは、半透膜を介し、透析液と血液を接触させる工程の前に(すなわち、透析液を透析のための装置に流す前に)実現される。これに代えて、またはこれに加えて、酸素の導入は、半透膜を介し、透析液と血液を接触させる工程と並行して実現される。この場合に、上の(3)に係る酸素透過性膜を通る酸素の導入が最も好ましい。このような実施形態の場合、別個の(第3の)チャンバが、好ましくは、透析のための装置に提供されてもよい。この第3のチャンバは、少なくとも1つの半透膜によって、第2のチャンバ(透析液チャンバ)および/または第1のチャンバ(血液チャンバ)から分離される。並行した接触の場合、本発明の装置は、好ましくは、血液を受け入れるための第1のチャンバおよび透析液を受け入れるための第2のチャンバに加え、酸素(例えば、酸素気体、酸素を含む気体状混合物、酸素を豊富に含む液体または液体に溶解した酸素)を受け入れるための第3のチャンバを備えている。それにより、第3のチャンバと第1のチャンバが気体透過性膜を介して互いに接触している。
【0098】
一般的に、血液の酸素飽和度が既知である場合、血液を所望の飽和レベルまで酸素化することが可能である。気体状酸素を用いた血液の過飽和は、好ましくは避けられるべきである。
【0099】
好ましくは、血液がヒトまたは動物被験体の静脈から除去されたら、血液の合計酸素含有量[ml/dl]および/またはヘモグロビンに結合した酸素の量および/または血液の酸素飽和度が測定される。
【0100】
血液のヘモグロビン濃度は、通常、グラム/デシリットル[g/dl]単位で与えられる。血液のヘモグロビン濃度[g/dl]を測定することによって、体外での血液回路中の血液のオキシヘモグロビンの飽和レベル[%]および酸素分圧[mmHg]を、酸素を添加するための装置または透析のための装置に入る前に測定することによって、血液の合計酸素含有量[ml/dl]を以下の式に従って計算することができる。
【化5】
【0101】
好ましくは、血液の合計酸素含有量[ml/dl]は、ヒトまたは動物被験体に血液が再び導入される前に測定される。このようなプロセスによって、本発明の性能をダブルチェックし、被験体に確実に酸素化された血液を提供することが可能になる。
【0102】
半透膜を介し、透析液を血液と接触させる前および/または後に、透析液の合計酸素含有量[ml/dl]を測定することも可能である。
【0103】
血液の目標酸素レベル[ml/dl]を達成する制御を容易にするために、体外での血液への酸素の導入が調節されるべきであり、すなわち、好ましくは、体外での血液の流量になるように調節されるべきである。酸素が透析液に導入される場合、透析液の流量と、導入される酸素の量が調節されるべきであり、すなわち、好ましくは、体外での血液の流量になるように調節されるべきである。
【0104】
代替法として、または上述のいずれかに加えて、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程の後の工程で、上の(1)から(6)に記載される任意の手段によって、酸素を血液に導入することも可能である。しかし、この段階で導入される酸素は、透析液と接触しない。したがって、体外での設定においてホールデイン効果を利用することができない。したがって、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程の前の工程での酸素の導入がきわめて好ましい。したがって、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程の後の(すなわち、この工程より後の)工程での血液への酸素の導入は、典型的には、まったく予期されないか、または追加の測定としてのみ予期される(すなわち、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程の前の工程に加えて予期される導入に加えて)。このさらなる実施形態では、酸素は、少なくとも2つの部位で、すなわち、血液/透析液の接触工程の前の工程と、血液/透析液の接触工程の後の工程で導入される。
【0105】
以下に詳細に記載する通り、少なくとも1つの望ましくない物質は、典型的には、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程で、血液から除去される。透析液または血液、または透析液と血液の両方に添加される酸素の存在は、ホールデイン効果に起因して、血液から透析液への望ましくない物質の効率的な移動に寄与する。
【0106】
本発明の実施形態において、血液または透析液の酸素化が可能な位置を
図2に示す。簡単に言うと、酸素を豊富に含む透析液は、半透膜を介した血液の接触の前に調製することができ(
図2の10番の位置での酸素の導入、実施例3も参照)、または、酸素を豊富に含む血液は、半透膜を介した透析液の接触の前に調製することができる(
図2の12番の位置での酸素の導入)。上述の通り、上述の接触させる工程の後の酸素の導入が可能であるが、好ましくは、それは唯一の酸素化部位としてではない。
【0107】
好ましくは、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程の間、気泡(例えば、酸素の気泡)が存在しない。これが好ましいことの分子の理由は、上述の膜を介した膜透過性物質の交換は、典型的には、気泡が存在しない状態の方が効率的だからである。透析液に酸素を導入するために、透析液が、酸素を導入する工程で、しかし、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程の前に、少なくとも1つの気泡捕捉部を通って流れるか、または少なくとも1つの気泡捕捉部に沿って流れることが好ましい。この場合、気泡捕捉部は、適切には、体外での血液の流路の中の、酸素が透析液に導入される場所の背後(後ろ)であるが、透析のための装置の前側(前)である所定位置に配置される。一方、典型的には、酸素は血液に十分に溶解するか、または血液に十分に迅速に溶解するため、血液に酸素を導入するために、気泡捕捉部は、なくてもよい場合がある。
【0108】
これに代えて、またはこれに加えて、血液は、好ましくは、血液が患者に再び導入される前に、少なくとも1つの気泡捕捉部を通って流れるか、または少なくとも1つの気泡捕捉部に沿って流れる。このような状況で、気泡捕捉部は、適切には、体外での血液の流路の、透析のための装置の後の部位に配置され、酸素が導入される部位を超えて(後に)も配置される。
【0109】
好ましくは、工程(i)において、酸素が透析液に導入される(すなわち、「間接的な」酸素化が好ましい)。より好ましくは、工程(i)において、酸素は、血液に導入されない。
【0110】
したがって、さらなる態様では、本発明は、
(i)酸素を透析液に導入する工程(i)を含む、透析液を酸素化するための方法を提供し、
ここで、透析液は、pHがpH6.8〜pH11の範囲であり、透析液は、アルブミン、好ましくは10〜60g/lのアルブミンを含み、
これによって、酸素を豊富に含む透析液を生成する。
【0111】
酸素を透析液に導入する種々の好ましい選択肢を上に記載している。例えば、酸素は、液体酸素によって(上に説明した通り、上の選択肢(2)を参照)、または酸素を豊富に含む液体によって(上に説明した通り、例えば、上の選択肢(1)および(6)を参照)、および/または固体によって(上に説明した通り、例えば上の選択肢(5)を参照)、透析流体に導入されることが望ましい。
【0112】
好ましくは、本発明の透析液を酸素化するこのような方法は、さらに、工程(i)の後に工程(ii)を含み、工程(ii)では、酸素化された透析液が、第2のチャンバを通って流れ、それによって、第2のチャンバに入り、第2のチャンバを通り、第2のチャンバを出て、第2のチャンバは、半透膜によって第1のチャンバから分離されている。半透膜、第1のチャンバおよび第2のチャンバ、およびこれらの好ましい実施形態を、以下にさらに詳細に記載する(特に、「半透膜」および「半透膜を備える装置」について言及する段落で)。好ましくは、第1のチャンバ、半透膜および第2のチャンバは、1つの装置に含まれ、この装置が、透析ユニットまたは透析器である。ここでも、透析ユニットまたは透析単位、およびこれらの好ましい実施形態を、以下にさらに詳細に記載する(特に、「半透膜を備える装置」について言及する段落で)。好ましくは、工程(i)は、透析液が前記装置に入る前に、装置の外側の部位で行われ、その結果、透析液が、酸素を豊富に含む形態で装置に入る。このことは、特に、透析液が上述の装置(例えば、透析器)の外側で酸素化されることを意味する。好ましくは、上述の装置(例えば、透析器)に入る透析流体が酸素化される。
【0113】
上述の通り、また、本発明の透析液を酸素化するための方法という観点で、工程(i)において、酸素が、以下:
(1)酸素を豊富に含む(好ましくは酸素飽和または酸素過飽和した)液体の注入(上述の選択肢(1)を参照)、
(2)液体酸素の注入(上述の選択肢(2)を参照)、
(3)酸素透過性膜を通って酸素の導入(上述の選択肢(3)を参照)、
(4)気体状酸素の注入(上述の選択肢(4)を参照)、
(5)酸素を含有する固体、例えば、キセロゲルおよびリオゲルまたは凍結した酸素を豊富に含む液体の導入(上述の選択肢(5)を参照)、および
(6)酸素を豊富に含む液体の対流輸送(上述の選択肢(6)を参照)
のいずれか1つ以上によって前記透析液に導入されることが好ましい。
【0114】
好ましくは、前記透析液は、アルブミンに加え、以下にさらに詳細に記載する通り、少なくとも1つのpKa値が7.0〜11.0の範囲であることを特徴とする1種類以上の緩衝剤を含み、前記1種類以上の緩衝剤が、好ましくは、以下にさらに詳細に記載する通り、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris、THAM)および炭酸イオン/重炭酸イオンからなる群から選択される。
【0115】
好ましくは、透析液は、以下にさらに詳細に記載する通り、H
+イオンに対する緩衝能が12mmol/l以上である。
【0116】
透析液は、以下にさらに詳細に記載する通り、pHがpH8.0〜pH9.0の範囲であることを特徴とすることも好ましい。
【0117】
好ましくは、透析液は、以下にさらに詳細に記載する通り、2,3−ジホスホグリセレート(2,3−DPG)を含む。透析液が、以下にさらに詳細に記載する通り、10〜40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオン(炭酸イオン濃度と重炭酸イオン濃度の合計量)を含むことも好ましい。好ましくは、以下にさらに詳細に記載する通り、透析液は、5〜20mmol/lのTrisを含む。
【0118】
好ましくは、本発明の透析液を酸素化するための方法では、第2のチャンバから出た透析液が、少なくとも1つの処理工程(iii)に付される。本方法が、上述の工程(ii)を含む場合、処理工程(iii)は、好ましくは、工程(ii)の後に続く。このような「処理工程」を、以下にさらに詳細に記載する。例えば、このような「処理工程」は、以下の部分工程:
(a’)透析液の流れを第1の流れと第2の流れに分離する工程と、
(b’)透析液の第1の流れに酸性流体を添加する工程と、
(c’)透析液の酸性化された第1の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(d’)透析液の第2の流れにアルカリ性流体を添加する工程と、
(e’)透析液のアルカリ性化された第2の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(f’)透析液の第1の流れと第2の流れを合わせる工程
のうち1つ以上、好ましくは全てを含んでいてもよい。
このような処理工程を説明する例示的な実施形態は、
図2A〜2Dによって含まれる。
【0119】
好ましくは、工程(iii)の後、透析液は、第2のチャンバに再び入る(リサイクルされる)。
【0120】
少なくとも1つの処理工程(iii)が、以下にさらに詳細に記載する通り、(1)吸着体にさらすこと、(2)膜(好ましくは半透膜)との接触、好ましくは、二酸化炭素を除去するための接触、および/または(3)酸性pHおよび/または塩基性pHにさらすことから選択されることも好ましい。
【0121】
好ましくは、前記処理工程(iii)は、二酸化炭素を生成するために透析液を酸性pHへと酸性化することと、場合により、その後の二酸化炭素の除去を含む。
【0122】
さらに、本発明の透析液を酸性化するための方法は、以下にさらに詳細に記載する通り、透析液の少なくとも1つのパラメータを測定する工程をさらに含み、このパラメータが、pH、二酸化炭素、分圧、酸素の分圧、重炭酸イオン(HCO
3−)の濃度、緩衝能、デオキシヘモグロビンの濃度または飽和度(HHb)およびオキシヘモグロビンの飽和度(O
2Hb)のうち1つ以上から選択されることも好ましい。より好ましくは、本発明の透析液を酸性化するための方法は、以下にさらに詳細に記載する通り、さらに、透析液の少なくとも1つのパラメータを測定する工程をさらに含み、このパラメータが、pH、二酸化炭素、分圧、酸素の分圧、重炭酸イオン(HCO
3−)の濃度、緩衝能およびデオキシヘモグロビンのうち1つ以上から選択される。
【0123】
好ましくは、透析液に含まれるアルブミンは、以下にさらに詳細に記載する通り、ヒト血清アルブミンおよび/またはウシ血清アルブミンから選択される。
【0124】
以下にさらに詳細に記載する通り、透析液が、1.7mmol/lより多いカルシウム(Ca
2+)イオン、好ましくは2〜4mmol/lのカルシウム(Ca
2+)イオン、より好ましくは2.4〜2.6mmol/lのカルシウムイオンを含むことも好ましい。
【0125】
好ましくは、以下にさらに詳細に記載する通り、透析液のpHおよび/または緩衝能が、透析液が第2のチャンバに再び導入される前に調節される。
【0126】
好ましくは、本発明の透析液を酸性化するための方法は、さらに、
(a)透析液の流れを第1の流れと第2の流れに分離する工程と、
(b)透析液の第1の流れに酸性流体を添加する工程と、
(c)透析液の酸性化された第1の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(d)透析液の第2の流れにアルカリ性流体を添加する工程と、
(e)透析液のアルカリ性化された第2の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(f)透析液の第1の流れと第2の流れを合わせる工程とを含む。
【0127】
これらのさらなる工程を以下にさらに詳細に記載し、特に、「リサイクル」および「酸/塩基処理」について言及する段落で記載する。したがって、その好ましい実施形態を以下に記載し、特に、「リサイクル」および「酸/塩基処理」について言及する段落で記載する。これに加えて、上述の工程(a)〜(f)およびその好ましい実施形態は、WO 2009/071103 A1号にも記載される。
【0128】
好ましくは、工程(a)〜(f)は、工程(i)の前に行われる。言い換えると、透析液は、好ましくは、酸性流体またはアルカリ性流体で処理した後に酸素化される。
【0129】
工程(a)〜(f)が工程(ii)の後に、すなわち、透析液が透析器を通った後に行われることも好ましい。好ましい例では、透析流体は、リサイクル/再生され、したがって、透析器を複数回通過することができる(いわゆる複数回通過の透析)。この場合、透析流体をリサイクル/再生するために行われる工程(a)〜(f)の後に工程(i)が行われる、すなわち、リサイクル/再生の後に透析液が酸素化されることが好ましい。その後、リサイクルおよび再生された透析流体が、透析器を流れる(工程(ii))。
【0130】
上述の通り、工程(a)〜(f)は、好ましくは、処理工程(iii)の部分工程として行われるが、特に、処理工程(iii)とは独立して行われてもよい。
【0131】
さらに、本発明の方法は、酸性化された透析液の流れが、第1の解毒ユニットおよび第2の解毒ユニットに交互に供給され、一方、アルカリ性化された透析液の流れが、第2の解毒ユニットおよび第1の解毒ユニットに交互に供給されるように複数の切替弁を周期的に切り替えることをさらに含むことも好ましい。詳細な記載およびその好ましい実施形態は、WO 2009/071103 A1号で与えられている。
【0132】
本方法は、例えば、以下に記載され、および/またはWO 2009/071103 A1号に記載される通り、さらに、
− 酸性化された透析物の温度を制御すること、
− 酸性化に起因した沈殿によって毒素を除去すること、
− アルカリ性化された透析物の温度を制御すること、
− アルカリ性化に起因した沈殿によって毒素を除去することのうち、1つ以上を含むことも好ましい。
【0133】
透析液
本発明の透析液は、水溶液、すなわち、水を含む液体である。本発明に適した透析液は、pHがpH6.8〜pH11の範囲であり、アルブミンが存在することを特徴とする。アルブミンの適切な濃度は、10〜60g/l(すなわち、1〜6g/100ml)である。本明細書では、g/lおよびg/100mlは、体積(アルブミンを含有する液体の最終的な体積)あたりのグラム数を指す。
【0134】
これらの条件は、本明細書では「フレームワーク条件」とも呼ばれる。このフレームワークの中で、以下に記載する通り、さらに具体的な条件を適切に選択してもよい。
【0135】
上に定義した通り、透析液は、pHがpH6.8〜pH11の範囲であり、アルブミン、好ましくは10〜60g/lのアルブミンを含むことを特徴とする。一般的に、アルブミンは、水性液体を緩衝化する能力を有し、アルブミンの特定のアミノ酸残基(例えば、ヒスチジンのイミダゾール基、システインのチオール基)が重要であると考えられ(Caironiら、Blood Transfus.、2009;7(4):259−267)、さらに高いpH値では、リシン側鎖およびN末端のアミノ基が、緩衝化に寄与し得る。しかし、アルブミンの緩衝能は、従来から血液中で探求されている(ヒトまたは動物の体内で天然に起こる)が、体外での肺補助のためのアルブミンを含有する液体の適合性は、当該技術分野では認識されておらず、探求されていない。
【0136】
本発明では、アルブミンは、好ましくは、ヒトまたは動物の血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン、動物アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン)、または遺伝子操作されたアルブミン、またはこれら任意の1つ以上の混合物である。アルブミンと、少なくとも1つのさらなる担体物質とを含む混合物も可能である。いかなる場合でも、本明細書で明記されるアルブミン濃度は、1種類のアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)が使用されるか、またはさまざまな種類のアルブミンの混合物が使用されるかによらず、アルブミンの合計濃度を指す。本発明で使用される透析液は、10〜60g/lのアルブミン、好ましくは10〜40g/lのアルブミン、好ましくは15〜30g/lのアルブミン、好ましくは20〜25g/lのアルブミン、最も好ましくは30g/lまたは約30g/lのアルブミンを含む。アルブミン濃度は、%値として示すこともできる。すなわち、2g/100mlのアルブミンは、約2%のアルブミン(重量/体積)に対応する。アルブミンは、本発明の透析液中の第2の緩衝剤である。透析液中のアルブミンは、その緩衝能に寄与し、カルバミノ基の形態で炭酸イオンに結合する。アルブミンが液体(例えば、血液)を適切に緩衝化することができるpH範囲は、例えば、生化学の教科書から当該技術分野でよく知られている。透析液中にアルブミンが存在すると、タンパク質に結合した物質の血液からの除去が容易になる。水素カチオン、二酸化炭素および毒素などの化合物に吸着し、または結合する特性という観点で、アルブミンは、さらに一般的に、吸着体または吸着体分子とも呼ぶことができる。
【0137】
上述の種類の望ましくない物質に結合するためのアルブミンの適合性、したがって、体外の肺補助および血液pHの調節のための方法への適合性に加え、本発明のように、透析液中にアルブミンが存在すると、タンパク質に結合した毒素の除去がさらに可能になるか、または改良される。この目的のために、透析液中に存在するアルブミンの能力を探求することができる。一般的に、アルブミンは、結合していない毒素に結合することが知られており、この特性は、アルブミンが透析液中に存在するときに利用することができ、したがって、半透膜を通り抜け、血液から透析液へと移動する毒素の結合を可能にする。この方法は、「アルブミン透析」と呼ばれる(例えば、その全体が本明細書に参考として組み込まれるWO 2009/071103 A1号を参照)。
【0138】
一般的に、透析液は、血液と接触させる工程で、酸素を豊富に含む状態であることが好ましい。透析液の酸素富化は、本明細書に記載する任意の手段によって達成することができる。
【0139】
透析液は、典型的には、水を含む。典型的には、透析液の50%(体積/体積)より多く、60%(体積/体積)より多く、70%(体積/体積)より多く、80%(体積/体積)より多く、または90%(体積/体積)より多くが水である。他の水混和性液体も、透析液に含まれていてもよい。
【0140】
本発明は、望ましくない物質を除去するための方法だけではなく、上述の目的に適した透析液自体を除去するための方法を提供する。本明細書に記載される任意および全ての特定の透析液が、本発明の発明特定事項である。
【0141】
透析液に含まれる緩衝剤
本願発明者らは、透析液の使用(従来のCO
2除去システムのスイープガスとは対照的に)が、透析液のpHを許容されるpH範囲内に維持するのに適していることを発見した。
【0142】
好ましくは、アルブミンは、透析液中に存在する唯一の緩衝剤ではない。適切には、透析液は、少なくとも1種類の追加の緩衝剤を含み、緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が7.0〜11.0の範囲にあることを特徴とする。一般的に緩衝化された透析液の使用、特に、本発明の具体的な透析液の使用によって、血液にとって有害ではないpH範囲で二酸化炭素の除去を行うことができ、一方、イオンに対する透析液の実際の能力は、緩衝剤を含まなかった場合と比較して、かなり高い。上述の少なくとも1種類の緩衝剤は、透析液の緩衝能を与えるか、またはこれに寄与する。
【0143】
透析液に含まれる適切な緩衝剤としては、特に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris、THAM)および炭酸イオン/重炭酸イオンのいずれか1つ以上が挙げられる。
【0144】
− 重炭酸イオンは、酸性度(pKa)が10.3であることを特徴とする(共役塩基は炭酸イオン)。したがって、重炭酸イオンを含有する水溶液中、溶液のpHに依存して、炭酸イオンも同様に存在してもよい。便宜上、「炭酸イオン/重炭酸イオン」という表現は、本明細書では、重炭酸イオンと、その対応する塩基である炭酸イオンの両方を指すために使用される。「炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度」または「(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度」などは、本明細書では、炭酸イオンと重炭酸イオンの合計濃度を指す。例えば、「20mMの炭酸イオン/重炭酸イオン」は、重炭酸イオンとその対応する塩基である炭酸イオンの合計濃度が20mMの組成物を指す。重炭酸イオンと炭酸イオンの比率は、典型的には、組成物のpHによって示されるだろう。
【0145】
炭酸イオン/重炭酸イオンは、適切な追加の緩衝剤である。炭酸イオン/重炭酸イオン対は、生理学的なpH緩衝系を与えることが知られている。重炭酸イオンを含有し、アルブミンを含まない透析液は、当該技術分野で既に記載されている。
【0146】
重炭酸イオンおよび水素カチオンと、水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、正確な意味では、本記載で定義される透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、本明細書に記載する透析ユニットの第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。炭酸イオン/重炭酸イオンの適切な合計濃度(両物質を合わせた濃度)は、0〜40mmol/lである。透析液中に炭酸イオン/重炭酸イオンが存在することは、透析液の緩衝能に寄与する。しかし、炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が低いほど、血液からのCO
2の除去が良好になる。したがって、炭酸イオン/重炭酸イオンを含まない透析液、または炭酸イオン/重炭酸イオンを添加しない透析液を使用することが望ましい場合がある。重炭酸イオンが液体(例えば、血液)を適切に緩衝化することができるpH範囲は、例えば、生化学の教科書から当該技術分野でよく知られている。本発明の透析液が調製されるとき、重炭酸イオンは、任意の塩(例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなど)の形態で添加されてもよく、または場合により炭酸脱水酵素存在下、二酸化炭素を導入し、所望な場合、適切な塩基(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)の添加によってpHを調節することによって間接的に添加されてもよく、水酸化ナトリウムがきわめて好ましい。塩の形態で添加する場合には、重炭酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウムがきわめて好ましい。または、カリウム塩、またはカリウム塩とナトリウム塩の混合物を使用してもよい。高いpH(例えば、pH11まで)で透析液に添加するのに特に有用な塩は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムである。一般的に、透析液中の好ましい(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、本発明の方法において第2のチャンバに入る段階について言及すると、0(例えば1)〜40mmol/l、好ましくは10〜35mmol/l、より好ましくは15〜30mmol/lの範囲、最も好ましくは20または約20〜30mmol/lである。これらが一般的な好ましい範囲および部分範囲であることを注記することが重要である。具体的な目的のために、例えば、具体的な患者サブグループ由来の血液を処理するために、以下に記載する通り、代替的な異なる範囲または部分的に外れた範囲が好ましい場合がある。代替的な適切な(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、0〜40mmol/l、または0mmol/lより多く40mmol/lまで、好ましくは5〜35mmol/l、好ましくは10〜30mmol/l、より好ましくは15〜25mmol/lの範囲、最も好ましくは25mmol/lまたは約25mmol/lである。透析液がリサイクルされる場合、第2チャンバに透析液が入る前に、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が決定され、所望な場合には調節される。一般的に、40mmol/lを超える(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、あり得る副作用の観点から望ましくない。
【0147】
− トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは、通常は、「Tris」と呼ばれる。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは、「THAM」としても知られる。Trisは、式(HOCH
2)
3CNH
2を有する有機化合物である。Trisの酸性度(pKa)は、8.07である。Trisは、非毒性であり、アシドーシスをin vivoで治療するために以前から使用されている(例えば、Kalletら、Am.J.of Resp.and Crit.Care Med.161:1149−1153;Hosteら、J.Nephrol.18:303−7)。Trisを含む水溶液中、溶液のpHに依存して、対応する塩基が同様に存在してもよい。便宜上、「Tris」という表現は、本明細書では、その内容が他の意味を示さない限り、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、その対応する塩基の両方を指すために使用される。例えば、「20mMのTris」は、Trisとその対応する塩基の合計濃度が20mMの組成物を指す。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、その対応する塩基の比率は、組成物のpHによって示されるだろう。Trisおよびその共役塩基と、水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、正確な意味では、本記載で定義される透析液のTrisの濃度は、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、本明細書に記載する透析ユニットの第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。適切なTris濃度は、0〜40mmol/l、または0mmol/lより大きく、30mmol/lまで、好ましくは5〜25mmol/l、好ましくは10〜20mmol/lの範囲、より好ましくは約15mmol/lである。代替的な適切なTris濃度は、0〜38mmol/l、または0〜20mmol/lの範囲である。
【0148】
− 水溶性タンパク質は、アルブミンに加え、少なくとも1つのイミダゾール(ヒスチジン側)鎖および/または少なくとも1つのアミノ基(リシン)側鎖または少なくとも1つのスルフヒドリル(システイン)側鎖を有する場合、本発明の目的に適している。これらの側鎖は、典型的には、pKa値が7.0〜11.0の範囲である。少なくとも10g/lのタンパク質が、本発明の透析液の範囲内のpH(例えば、pH8.0)を有する水溶液に可溶性である場合、タンパク質は、水溶性の定義に入る。本発明の観点できわめて好ましい水溶性タンパク質は、以下に定義されるアルブミンである。好ましくは、アルブミンに加え、炭酸イオン/重炭酸イオンまたはTrisのいずれかが存在する。本発明の好ましい透析液は、(i)炭酸イオン/重炭酸イオンと(ii)アルブミンの両方、または(i)Trisと(ii)アルブミンの両方を含む。特に、透析液に炭酸イオン/重炭酸イオンが添加されない(すなわち、透析液中の炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が0mmol/lまたはほぼ0mmol/lである)場合、透析液中にTrisとアルブミンの両方が存在することが好ましい。または、Trisは、透析液中に含まれる唯一の緩衝剤である。
【0149】
上の範囲および濃度のTris、炭酸イオン/重炭酸イオンとアルブミンは、全て本発明で組み合わせられる。本発明の好ましい透析液は、(i)炭酸イオン/重炭酸イオンと(ii)アルブミンの両方、または(i)Trisと(ii)アルブミンの両方を含む。代替的な好ましい透析液は、唯一の緩衝液としてTrisを含み、すなわち、添加された炭酸イオン/重炭酸イオンまたはアルブミンを含有しない。
【0150】
本発明は、特に、アルブミンの緩衝能を利用することができるため、炭酸イオンを含有する透析液の従来の使用と比較して有利である。
【0151】
本発明に有用な第1の特定の透析液は、0〜40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオン(好ましくは10〜40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオン)と、10〜60g/lのアルブミン(すなわち、1〜6g/100mlのアルブミン)とを含み、pHがpH7.75〜pH11.0、好ましくはpH8.0〜pH10.0、より好ましくはpH8.0〜pH9.0の範囲である。好ましい炭酸イオン/重炭酸イオン濃度は、上に明記した通りである。
【0152】
本発明に有用な第2の特定の透析液は、0〜40mmol/lのTris(好ましくは1〜20mmol/lのTris)と、10〜60g/lのアルブミン(すなわち、1〜6g/100mlのアルブミン)とを含み、pHがpH7.75〜pH11.0、好ましくはpH8.0〜pH10.0、より好ましくはpH8.0〜pH9.0の範囲である。好ましいTris濃度は、上に明記した通りである。
【0153】
場合により、他の無機または有機の緩衝剤が存在する。好ましくは、このような緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が7.0〜9.0の範囲である。より好ましくは、それぞれのpKa値が7.0〜9.0の範囲である2種類または3種類のこのような緩衝剤が使用されてもよい。適切な追加の有機緩衝剤としては、タンパク質、特に水溶性タンパク質、またはアミノ酸、またはTrisが挙げられ、適切な追加の有機緩衝化分子としては、HPO
42-/H
2PO
4-が挙げられる。
【0154】
H+イオンに対する緩衝能
適切には、本発明で使用される透析液は、H
+イオンに対する緩衝能が高く、例えば、H
+イオンに対する緩衝能が12mmol/l H
+イオン以上である。12mmol/l H
+イオン以上のH
+イオンに対する緩衝能は、典型的には、血漿の緩衝化(pH7.45;実施例1を参照)を超える緩衝能である。したがって、本発明では、透析液の緩衝能は、典型的には、血漿の緩衝化(pH7.45)を超える。言い換えると、透析液の緩衝能は、典型的には、緩衝能が12mmol/l H
+イオン以上である。
【0155】
本発明の観点で、「H
+イオンに対する緩衝能」または単に「緩衝能」は、所与の液体がH
+イオンの添加を緩衝化する能力を表す抽象的な値である。「H
+イオンに対する緩衝能」との用語は、それぞれの液体(水溶液)の固有の特性である。血漿も、このような液体である。血漿の緩衝能の決定は、遠心分離工程を必要とする。遠心分離によって、血小板を含む血液細胞がペレット化し、上澄みが血漿と呼ばれる。このような遠心分離を実施例1に記載する。血液を遠心分離するのに適した条件、したがって、血漿を調製するのに適した条件は、当該技術分野で知られている。
【0156】
正確には、「H
+イオンに対する緩衝能」という用語は、6.5より低いpHに達することなく、特定の量のH
+イオンを緩衝化する能力を指す。「6.5より低いpHに達することなく」は、適切に混合した液体のpHがpH6.5より小さな値に達しないことを意味する。したがって、緩衝能の実際の評価には、十分に混合することが重要である。したがって、本明細書で使用される場合、本発明の透析液の観点では、「H
+イオンに対する緩衝能」という用語は、単にpHが6.5以上の液体に使用することができる。本明細書で定義される場合、pHが6.5の溶液は、H
+イオンに対する緩衝能がゼロmmol/l(0mmol/l)であろう。本発明の透析液は、典型的には、すなわち、本明細書で定義される場合、6.5より大きなpHを有し、したがって、H
+イオンに対する緩衝能を有する。好ましくは、緩衝能は、12mmol/l H
+イオン以上である。より好ましいのは、これより大きな緩衝能であり、すなわち、H
+イオンに対する緩衝能が、12mmol/l以上、14mmol/l以上、16mmol/l以上、18mmol/l以上、20mmol/l以上、22mmol/l以上、24mmol/l以上、26mmol/l以上、28mmol/l以上、30mmol/l以上、32mmol/l以上、34mmol/l以上、36mmol/l以上、38mmol/l以上、40mmol/l以上、42mmol/l以上、44mmol/l以上、46mmol/l以上、48mmol/l以上、50mmol/l以上である。したがって、本発明の透析液は、典型的には、H
+イオンに対する緩衝能が12mmol/l以上、例えば、12mmol/lより大きい。好ましい緩衝能は、12〜50mmol/l、12mmol/lより大きく40mmol/lまで、13〜30mmol/l、14〜25mmol/l、15〜24mmol/l、16〜23mmol/l、17〜22mmol/l、18〜21mmol/l、19〜20mmol/lの範囲にある。
【0157】
緩衝能は、単にそれぞれの液体のpHに依存するのではなく、液体の組成(前記液体中の緩衝剤化合物の存在および濃度)によって影響を受ける。
【0158】
H
+イオンに対する緩衝能は、「mmol/l」単位での数値として示される。本発明によれば、H
+イオンに対する緩衝能(mmol/l単位での緩衝能)は、以下の4工程のアッセイによって決定される。
【0159】
1.導入部分の注釈として、このアッセイは、pHが本発明の透析液のpH範囲である、すなわち、pH6.8〜pH11.0、またはその部分範囲にある所与の液体(透析液または透析液候補物質)のH
+イオンに対する緩衝能を決定するのに適している。したがって、第1の工程では、所与の液体が、この範囲内のpHを有するかどうかを試験する。そうなっていない場合には、所与の液体は、本発明の透析液ではない(さらなる試験の必要はない)。しかし、そうなっている場合には、所与の液体の緩衝能は、以下の工程2および3によって決定される。
【0160】
2.この液体に対し、HClを用いた滴定を行う。特に、0.1M HClを添加し、溶液を撹拌して確実に混合し、pHを連続して監視し、滴定を行った液体のpHが実際に最終値のpH6.5に達したら、滴定を止める。言い換えると、pHが6.5に達したら滴定を止める。pH6.5に達するまでに添加したHClの量に基づき、緩衝能(mmol/l単位でのH
+イオン)を計算する。HClが強酸であり、共通の一般的な知識によれば、水溶液中で完全に溶解するため、このことが可能である。したがって、0.1M HCl(0.1mol/l)は、0.1mol/lの溶解したCl
−イオンと、0.1mol/lの溶解したH
+イオンを含む。所与の液体が滴定によってpH6.5に達するのに必要なHClの体積に基づき、この体積の透析液によって緩衝化されるH
+イオンの量を計算することができる。このアッセイに使用される所与の液体の量が1リットルである場合、1リットルの透析液によって緩衝化されるH
+イオンの量(mmol/l単位での緩衝能)が直接得られる。このアッセイに使用される所与の液体の定義される量が1リットルより多いか、または1リットルより少ない場合、1リットルの透析液によって緩衝化可能なH
+イオンの量(mmol/l単位での緩衝能)は、単純な算数計算によって得ることができる。
【0161】
3.工程2で決定される緩衝能(mmol/l)をリファレンス値と比較する。適切なリファレンス値は、10mmol/l、11mmol/l、12mmol/l、13mmol/l、14mmol/lであり、ここで、12mmmol/lがきわめて好ましい。または、リファレンス値は、ヒトまたは動物(ブタ、マウス)の血液の緩衝能によって表される。この場合には、血漿の緩衝能は、上の工程2に記載する通りに決定される。
【0162】
4.所与の溶液の緩衝能(mmol/l)がリファレンス値(mmol/l)を超える場合、所与の溶液は、本発明の緩衝能を有すると判定される。
【0163】
緩衝能を決定するためのアッセイでは、全てのpH測定および滴定は、室温で行われる(全ての溶液および装置の温度、周囲温度)。上のアッセイは、直接的であり、本明細書の助言および共通の一般的な知識に基づいて最小限の努力をすれば当業者が行うことができる。これにより、所与の溶液の緩衝能は、過度な負荷なく、容易に、信頼性高く決定することができる。
【0164】
緩衝能決定の一例は、本発明で定義される通り、以下の実施例1に与えられる。この実施例に示されるように、pHが7.45の血漿は、典型的には、緩衝能が12mmol/lである。
【0165】
しかし、他の供給源(他の種および他の個人)由来の血漿が異なる緩衝能を有することは考えられる。他の想定可能な血漿の緩衝能は、3〜30mmol/l、好ましくは4〜25mmol/l、好ましくは5〜20mmol/l、好ましくは6〜19mmol/l、好ましくは7〜18mmol/l、好ましくは8〜17mmol/l、好ましくは9〜16mmol/l、好ましくは10〜15mmol/l、好ましくは11〜14mmol/l、好ましくは12〜13mmol/lの範囲である。
【0166】
本発明の透析液が、典型的には、血漿の緩衝能を超える緩衝能を有することが好ましい。個人(例えば、患者)の血液が本発明の過程または方法で処理される場合、H
+イオンに対する緩衝能は、好ましくは、この個人(例えば、患者)の血液の緩衝能を超えるように選択される。
【0167】
透析液のpH
透析液の好ましいpH範囲としては、pH8.0〜pH10.5、pH8.0〜pH10.0、pH8.0〜pH9.5、好ましくはpH8.0〜pH9.0が挙げられる。このようなpH値では、透析液に含まれるアルブミンを不安定化することなく、H
+(プロトン)を除去することができる。
【0168】
したがって、透析液中に存在する少なくとも1種類の緩衝剤の少なくとも1つのpKa値は、pH7.0〜pH11.0、pH8.0〜10.5、8.0〜10.0、8.0〜9.5、好ましくは8.0〜9.0の範囲である。1種類より多い緩衝剤が存在する場合、それぞれのpKa値が上の範囲または部分範囲にあることが好ましい。少なくとも1種類の緩衝剤が、1つより多いpKa値を有する場合、少なくとも1つのpKa値、好ましくは、1つより多いpKa値は、上の範囲または部分範囲にある。少なくとも1つのpKa値が7.0〜11.0の範囲にある任意の緩衝剤は、所望なpH範囲で緩衝化するのに理論的に適している。しかし、本発明の観点で、緩衝剤は、透析を受けるヒトまたは動物に非毒性であるか、または望ましくない副作用を生じないように選択されなければならない。特に適切な緩衝剤は、炭酸イオン/重炭酸イオン系、Trisおよび水溶性タンパク質(好ましくはアルブミン)であり、全て本明細書で上に定義した通りである。透析液の別の適切なpH値は、pH7.75〜pH9.0の範囲である。一般的に、好ましいpH値は、pH7.75〜pH9.0、好ましくはpH8.0〜pH9.0、好ましくはpH8.1〜pH8.9、好ましくはpH8.2〜pH8.8、好ましくはpH8.3〜pH8.7、より好ましくはpH8.4〜pH8.6の範囲であり、最も好ましくはpH8.5またはpH8.5付近である。これらは一般的な好ましい範囲および部分範囲であることを注記することが重要である。具体的な目的のために、例えば、具体的な患者サブグループ由来の血液を処理するために、以下に記載する通り、代替的な異なる範囲または部分的に外れた範囲が好ましい場合がある。pHは、本明細書で想定される範囲内の緩衝物質、例えば、重炭酸イオンおよびヘモグロビンの量または濃度によって調節することができ、および/または酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムの添加によって調節することができる。
【0169】
重炭酸イオンおよび水素カチオン、および水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、透析液のpHは、血液を透析液と接触させる処理工程の間ずっと一定のままであるとは限らない。したがって、正確な意味では、本記載で定義される透析液のpHは、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、本明細書に記載する透析ユニットの第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。
【0170】
血液をさらし始める(第2のチャンバに入る)ときに、常に透析液を所望のpHに維持することは必要ではない。特に、透析液がリサイクルされる場合には、以下に記載する通り、pHおよび(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、時間経過に伴って変動してもよい。しかし、第2のチャンバに入る段階で、透析液は、特定のpHおよび重炭酸イオン/アルブミン濃度と一致するように調節される。例えば、透析液が第2のチャンバに入る前に、少なくとも1つのpH測定装置によってpHを測定することができる。場合により、pHは、少なくとも1つのpH測定装置によってさらに測定することができる。
【0171】
透析液のさらなる構成要素
一般的に、上述の態様に加え、本発明の生理学的な目的に適した透析液は、好ましくは、所望な電解質、栄養分および緩衝物を十分な濃度で含み、その結果、患者の血液中のレベルを、例えば、正常な生理学的な値になるように調節することができるか、または任意の他の望ましい値または所定の値に調節することができる。本発明の透析液の任意構成要素としては、電解質が挙げられ、好ましくは、糖類および/または塩類(アニオン/カチオン/双性イオン)から選択される。典型的なカチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンおよびナトリウムイオンが挙げられる。典型的なアニオンとしては、塩素アニオン、HCO
3−、H
2CO
3、HPO
42−、H
2PO
4−が挙げられる。典型的な双性イオンとしては、アミノ酸(例えば、ヒスチジン)およびペプチド、または有機酸の塩が挙げられる。
【0172】
好ましくは、透析液は、酢酸が添加されておらず、酢酸イオンが添加されていない。好ましくは、透析液中の酢酸を合わせた濃度は、4mmol/l未満、3mmol/l未満、2mmol/l未満、1mmol/l未満、最も好ましくは0mmol/lである。
【0173】
透析液は、血液に移動するための他の膜透過性低分子、所望な場合、例えば、グルコースも含んでいてもよい。
【0174】
一般的に、透析液は、低い含有量または無視可能な含有量の溶解した二酸化炭素および窒素を含むことも好ましい。
【0175】
好ましくは、透析液は、カルシウム(Ca
2+)イオンを含む。遊離カルシウムイオンのみを含む従来技術の透析液とは対照的に、本発明の透析液は、典型的には、カルシウムイオンがアルブミンに少なくとも部分的に結合していることを特徴とする。一般的に、さらに高いpH値では、さらに多くのカルシウムがアルブミンに結合し、血液との交換に利用可能な量が少なくなる。したがって、本発明のアルブミンを含有する透析液中の全カルシウムは、技術常識の透析液から知られているカルシウム濃度よりも高濃度のカルシウムを含む。特に、アルブミンを含有する透析液のカルシウムイオン濃度は、1.7mmol/l以上である。利用可能な十分な遊離カルシウムを与えるために、すなわち、血液中の遊離カルシウムイオン濃度を下げないために、このことが望ましい(実施例2を参照)。
【0176】
好ましくは、透析液は、2〜4mmol/lのカルシウム(Ca
2+)イオン、より好ましくは2.4〜2.6mmol/lのカルシウムイオンを含む。カルシウムイオンは、任意の適切な塩の形態で、例えば、塩化カルシウムの形態で添加することができる。透析液にカルシウムを添加することは、血液もカルシウムを含むため、有益である。透析液中にカルシウムが存在することで、血液から透析液へのカルシウムイオンの望ましくない正味の流れ(漏れ)を防ぐ。カルシウムイオンは、非常に塩基性のpHで沈殿し得ることが知られている。カルシウムの存在は、半透膜を介して血液と接触するときに透析液の最大pH値が9.0であるという点で、本発明に適合しない。透析液のpHが10を超える場合、カルシウムイオン(およびその他)などの一部のイオンは、通常は不溶性になる。したがって、透析液のpHが9を超える場合、カルシウムイオン(および/または他の不溶性イオン)が存在しないことが好ましい。患者が、このようなイオンの欠乏状態にならないために、透析液のpHがこの範囲にある場合には、患者の血液に直接的に注入すべきである。
【0177】
好ましくは、透析液は、透析される血液のモル浸透圧濃度と実質的に同じモル浸透圧濃度であることを特徴とする。
【0178】
上述のことに加え、炭酸脱水酵素を透析液に加えてもよく、または炭酸脱水酵素が透析液中に存在していてもよい。炭酸脱水酵素は、二酸化炭素から重炭酸イオン(HCO
3−)とH
+イオンへの可逆的な反応を促進する酵素である。炭酸脱水酵素を体外の血液回路に添加してもよい。第1または第2のチャンバの内側表面を炭酸脱水酵素でコーティングすることも可能である。
【0179】
場合により、透析液は、2,3−ジホスホグリセレート(2,3−DPG、または2,3−ビスホスホグリセリン酸、2,3−BPGとしても知られる)を含む。2,3−DPGは、脱酸素化されたヘモグロビンの酸素に対する親和性を下げることによって、脱酸素化されたヘモグロビンのβサブユニットと相互作用することが知られており、そのため、残存するヘモグロビンに結合した酸素分子の放出をアロステリックに促進し、それにより、最も必要とする組織付近でRBCが酸素を放出する能力を高める。したがって、2,3−DPGは、アロステリックエフェクターである。赤血球中の2,3−DPGの濃度は、通常、約4〜5mmol/lである。本発明の透析液では、2,3−DPGの濃度は、その目的に応じて、0〜4mmol/l、4〜5mmol/l、または5mmol/lより高くてもよい。2,3−DPGを透析液に加えてもよい理由の1つは、2,3−DPGが血液から透析液へと拡散するのを防ぐために、血液からの正味の2,3−DPGの消失を避けるためである。アシドーシス患者の治療は、典型的には、2,3−DPGの添加を必要とする。
【0180】
血液に含まれる望ましくない物質;望ましくない物質の除去
本発明の方法によって、少なくとも1つの望ましくない物質を血液から除去することができる。最も広い意味で、除去される少なくとも1つの望ましくない物質は、代謝活性から得られる物質である。好ましくは、少なくとも1つの望ましくない物質は、二酸化炭素(CO
2)、水素カチオン(H
+)、炭酸水素イオン(HCO
3-)、炭酸(H
2CO
3)、およびこれらのいずれかの溶媒和物、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。水生環境(例えば、水溶液または水性懸濁物、例えば、血液または透析液)では、これらの望ましくない物質は、以下の平衡式によって表される通り、互いに関連していることが知られている。
【化6】
【0181】
この反応の反応物(遊離体および生成物)は、上の式中、矢印によって定性的に示されている通り、動的平衡状態で存在する。炭酸の解離(H
2CO
3 ⇔ CO
2 + H
2O)は、典型的には、赤血球に存在する炭酸脱水酵素によって触媒されるか、または補助される。動的平衡の一般的な原理に従って、ある反応物を除去すると、ルシャトリエの原理によって、反応がシフトする。従来技術のECCO
2Rシステムは、気体交換膜の使用に依存し、この膜を通り、反応物である二酸化炭素が体外の血液から気体チャンバへと拡散する。対照的に、本発明によって、少なくとも1つの望ましくない物質を、ある液体(血液)から別の液体(透析液)へと直接的に除去することができる。したがって、本発明は、気体状の望ましくない物質(例えばCO
2)の除去に限定されず、望ましくない物質を気相に移動させる必要はない。したがって、二酸化炭素が、本発明の方法で気相に運ばれないことが想定される。
【0182】
一般的に、CO
2が血液に運ばれる形態の1つは、カルバミノ基の形態であり、二酸化炭素は、血液中のタンパク質、主にヘモグロビンの末端アミノ基に接続する(このとき、カルバミノヘモグロビンと呼ばれる)。一般的に、カルバミノ基の生成は迅速であり、可逆的であり、酵素による触媒作用を必要としないことを理解されたい。したがって、透析液への拡散の結果、その周囲で二酸化炭素の濃度が下がると、カルバミノ形態での二酸化炭素も、血液タンパク質(例えば、ヘモグロビン)のアミノ基から迅速に放出され、その結果、ルシャトリエの原理に従って、新しい平衡が確立される。上述のように、カルバミノヘモグロビンと、溶解した二酸化炭素は、重炭酸イオン(HCO
3−)/H
+イオン対とも平衡状態にあるが、H
2CO
3を介する迅速な変換は、炭酸脱水酵素を必要とする。炭酸脱水酵素は、天然で赤血球に存在する。
【0183】
したがって、本発明では、(i)カルバミノヘモグロビンの形態でのタンパク質(ヘモグロビン)に結合したCO
2、(ii)遊離CO
2および(iii)重炭酸イオン(HCO
3−)/H
+といった血液中に存在する炭酸イオンの3種類全ての主要な形態を、半透膜を通って直接的または間接的に除去することができる。遊離CO
2と重炭酸イオンが、濃度勾配に沿って半透膜を通過して透析液に入りこむことができるが、例えば、透析液への拡散の結果として遊離CO
2の濃度が下がると、ヘモグロビンに結合したCO
2が優先的にヘモグロビンから放出されるようになり、その結果、ルシャトリエの原理に従って、血液中に存在する3種類の主な形態(輸送形態)の新しい平衡が確立される。重要なことに、本発明では、二酸化炭素輸送の異なる分子部分は、除去されるために気相に運ばれる必要はない。したがって、血液と気体の接触は必要ではなく、好ましくは予期されない。本発明によって、完全に血液から全ての主要な輸送形態の二酸化炭素を液体媒体中で除去することができる。透析液および血液の重炭酸イオン(HCO
3−)の濃度に依存して、重炭酸イオンは、半透膜の片側で透析液の濃度勾配に沿って、半透膜の他方の側で血液の濃度勾配に沿って、血液から除去することができる。
【0184】
本発明の観点では、これらの望ましくない物質は、濃度勾配によって透析液に移動することによって直接的に除去することができる(直接的な除去)。これに代えて、またはこれに加えて、望ましくない物質は、透析液から血液に運ばれる物質との反応によって間接的に除去することができ、これも、血液から望ましくない物質の正味の除去が得られる(間接的な除去)。例えば、水素カチオンは、透析液から血液へとOH
−イオンを運ぶことによって、血液から間接的に除去することができ、本発明で使用される透析液のpHが、典型的には、治療される血液のpHよりもアルカリ性であるため、これが達成される。他の望ましくない物質、例えば、炭酸、炭酸イオン、炭酸水素イオンも、透析液から血液へと物質を運ぶことと、重炭酸イオンの平衡に対する影響によって、間接的に除去することができる。
【0185】
二酸化炭素を気相で除去する従来技術のシステムとは対象的に、本発明は、液体に可溶性の物質を除去することができる。これらの物質には、水に可溶性である限り、任意の種類のイオンが含まれ、特に、水素カチオンおよび重炭酸イオンが挙げられる。したがって、本発明は、従来技術のECCO
2R方法よりも血液からのさらに完全な、したがって、さらに効率的な代謝物の除去を可能にする。本発明の二酸化炭素除去の機構によって、溶解した気体をある液相から別の液相へと拡散することができる。
【0186】
2つのチャンバを備える透析ユニットまたは透析装置は、以下に詳細に記載されるが、適切には、本発明の方法で使用することができる。第1のチャンバは、血液を受け入れるのに適している。第1のチャンバは、適切には、入口(血液が入るためのもの)と出口(血液が出るためのもの)を有する。
【0187】
血液は、透析ユニットが本発明の方法に使用される場合、pHがpH7.35〜7.45、好ましくは7.36〜7.44、より好ましくは7.37〜7.43、より好ましくは7.38〜7.42、より好ましくは7.39〜7.41の範囲、最も好ましくは約7.40になったときに第1のチャンバ(出口)を出ることが望ましい。
【0188】
好ましくは、血液は、第1のチャンバ(出口)を出た後、ヒトまたは動物の体に戻される。適切な配管および接続は、当該技術分野で知られており、本発明の観点で使用することができる。
【0189】
場合により、血液から気泡(もしあれば)を、すなわち、第1のチャンバ(出口)から出た後、ヒトまたは動物の体に血液を再び導入する前の段階で、除去することが予期される。この目的のために、1つまたは少なくとも1つの気泡捕捉部を第1のチャンバの背後に配置してもよい。これは、この方法の少なくとも一部の間に、血液も気体または気体が飽和した液体または気体が超飽和した液体にさらされるときに、特に適している。
【0190】
血液からの二酸化炭素除去の態様
二酸化炭素の除去は、肺補助の代替としてだけではなく、本質的に気泡を含まない血液を維持するために適応とされる。理論上は、溶解した酸素を血液に導入するが、二酸化炭素の除去を行わないと、二酸化炭素の気泡の生成および/または血液中の溶解した二酸化炭素濃度の増加および/または血液pHの低下の可能性が高まるだろう。本発明の方法では、二酸化炭素の除去は、酸素化と共に予期され、それによって、このような望ましくない副作用が避けられる。
【0191】
pCO
2の増加は、ヘモグロビンの酸素親和性を下げ、そのため、本発明の透析回路中、可能な限り血液から二酸化炭素を除去すると、ヘモグロビンの酸素親和性が上がる。しかし、pCO
2変化の効果は、pCO
2の40mmHgの変化が、P
50を約10mmHg pO
2しかシフトさせないため、それほど大きくはない。もっと大きな影響は、pH変化に反映されるH
+イオンの変化である。血液中のpHの上昇によって、酸素に対するヘモグロビンの合計結合能が増加する。血液pHの上昇は、本発明では、OH
−イオンを透析液または血液に導入することによって達成される。
【0192】
血液からの水素カチオン除去の態様
透析液のpHおよび緩衝能に起因して、接触させる工程の間に、H
+イオンを血液から除去することができる。血液から遊離H
+イオンを除去することに起因して、さらなるH
+イオンがヘモグロビンから解離し、これも除去される。さらに、半透膜を介して血液と透析液を接触させる工程で利用されるホールデイン効果に起因して、ヘモグロビンに結合したH
+イオンを除去すると、ヘモグロビンに対する酸素の結合親和性が上がる。
【0193】
この目的のために、接触させる工程の前の工程で、またはこの工程と同時に、酸素を豊富に含む液体を血液および/または透析液に導入することが有利である。酸素が存在すると、ヘモグロビンに結合したH
+イオンの放出が向上し、血液からのH
+イオンの除去を容易にする。オキシヘモグロビン(O
2Hb)とH
+が結合したデオキシヘモグロビン(HHb)の比率は、酸素またはH
+イオンの濃度に関係があるだけではなく、pHにも依存する。したがって、血液のpHシフトを導入すると、ヘモグロビンに結合するH
+イオンに影響を与えることがある。次いで、血液のpHが、血液と透析液を接触させる工程で影響を受けることがある。このことは、透析液のpHおよび緩衝能を調節することによって、本発明のフレームワークの範囲内で適切に達成される。
【0194】
血液を特定のpHに調節するという目的に対する透析液の適合
血液からのCO
2および/または重炭酸イオンの除去および血液の酸素化を含め、体外での肺補助における機能以外に、本発明の方法によって、血液のpHを所望なレベルに調節することもできる。これは、例えば、酸性血液、例えば、アシドーシス患者由来の血液の治療に適している。血液pHを、pH6.8〜pH8.5内の所定の値または所定の範囲に調節することが望ましい。この範囲からはずれた血液pH値は、望ましくない副作用、例えば、血液タンパク質の変性および/または血液構成要素の沈殿という観点で望ましくない。一般的に、血液pH値または範囲を調節するとは、第1のチャンバから出る段階で、血液が上述の調節された値または範囲であることを特徴とすることを意味する。
【0195】
健康なヒト被験体の生理学的な血液は、典型的には、pHが7.35〜7.45の範囲、すなわち、7.40付近であるため、いくつかの実施形態では、血液pHを、この範囲を包含する範囲または値、すなわち、7〜8.5、7.0〜7.8、7.2〜7.6または7.3〜7.5に調節することが望ましい。好ましい実施形態では、血液pHを、健康なヒト被験体の生理学的な血液の値に近い値にすることを意図する場合、血液pHを、pH7.35〜7.45、好ましくは7.36〜7.44、より好ましくは7.37〜7.43、より好ましくは7.38〜7.42、より好ましくは7.39〜7.41の範囲内の値または範囲、最も好ましくは7.40付近に調節することが望ましい。
【0196】
以下に詳細に記載する通り、本発明は、アシドーシスを患う被験体(アシドーシス患者)、すなわち、代謝性アシドーシスおよび/または呼吸性アシドーシスを患う被験体を治療するのに特に適している。アシドーシス患者由来の血液を治療することに向けられるか、またはこの治療することに適した本発明の実施形態では、血液pHを、7.40より高いアルカリ性の値または範囲、7.40より高く8.0まで、7.5〜7.9または7.6〜7.8、好ましくはpH7.65〜7.75の範囲の値または範囲、例えば、7.7に調節することが望ましいだろう。
【0197】
本発明の方法における血液pHの調節は、使用される透析液の緩衝能のため、また、H
+イオンおよびOH
−イオンの半透膜透過性のために、技術的に実行可能である。したがって、緩衝化された透析液を用いることによって、血液のpH調節を達成することができる。H
+イオンおよびOH
−イオンは、半透膜を通り抜けることができ、それぞれの濃度勾配に沿って通り抜けるだろう。
【0198】
任意の特定の理論に束縛されることを望まないが、主に本発明の透析液の優れた緩衝能という観点で、H
+イオンが血液から除去されることが理解される。これに加えて、半透膜の片側または両側で、透析液によって与えられるOH
−イオンと反応させることによって少量のH
+イオンが除去されると考えられる。血液から二酸化炭素だけではなく、H
+イオンも(OH
−イオンとの反応によって)除去することで、血液の酸−塩基バランスを調節することができる。本発明で使用される透析液は、必要性(例えば、透析の治療を受ける患者の必要性)に基づいて調節することができる。したがって、本発明は、二酸化炭素の優先的な除去、または血液pHの優先的な調節、またはその両方が可能である。この汎用性は、それぞれ互いに独立して、本明細書に定義される一般的な範囲内で透析液のpHを調節し、透析液中の緩衝物質(特にアルブミンおよび重炭酸イオン)の濃度を調節することが可能であることによって与えられる。
【0199】
血液を特定の値まで酸素化するという目的に対する透析液の適合
ヘモグロビンの酸素親和性は、温度、pCO
2、pHおよび2,3−ジホスホグリセレート(2,3−DPG、または2,3−ビスホスホグリセリン酸、2,3−BPGとしても知られる)の濃度に依存するため、これら任意の1つ以上のパラメータを調整し、本発明の所望な酸素化度を達成することができる。これら4つのパラメータは、それぞれ独立して調節することができる。これにより、酸素の取り込みまたは運搬を促すこともでき、これは、集中治療室(ICU)内の被験体にとって必要な場合がある。例えば、標準的な血液状態(pH7.4、37℃、2,3−DPG 13μmol/g Hb、pCO
2 40mmHg)で、P
50(ヘモグロビン飽和度50%を意味する)は、pO
2 27mmHgで達成される。
【0200】
血液の温度は、第1のチャンバを通って流れるときに、血液の構成要素が変性せず、血液が液体のままであれば、特に限定されない。適切な温度は、1.2℃〜45℃の範囲、例えば、37℃である。好ましくは、血液の温度は、下げられる。これは、好ましくは、透析のための装置の中で透析液を冷却することによって、および/または体外での血液回路中の別の外部および/または内部の冷却ユニットによって、および/または1.2℃から37℃未満の温度の溶液を体外での血液回路に導入することによって達成することができる。血液の温度が20℃(20ケルビン)まで変化すると、P
50が30mmHg pO
2まで変化し得ることが知られている。
【0201】
さらに高い温度(例えば、37℃)では、ヘモグロビンの酸素親和性は、比較的低い。一般的に、血液の温度が20℃(20ケルビン)まで変化すると、P
50が30mmHg pO
2まで変化し得ることが知られている。ヘモグロビンの酸素親和性の増加を達成するために、本発明の酸素を導入する体外での工程で、血液の温度を直接的に、または間接的に下げることができる。好ましい実施形態では、本発明の方法は、本発明の少なくとも一部が37℃未満の温度、好ましくは4℃〜20℃で行われるように実施される。温度の間接的な低下は、例えば、透析液の温度を下げることによって、またはお体外での血液回路中の別の外部および/または内部の冷却ユニットによって、および/または1.2℃から37℃未満の温度の溶液を血液または透析液に導入することによって達成することができる。適切には、半透膜を介して透析液と接触させる工程での血液の温度は、1.2〜37℃、例えば、5〜35℃、10〜30℃、15〜25℃、または約17℃または約20℃である。好ましくは、冷却は、以下のように行われる。
(a)工程(i)は、37℃未満の酸素を豊富に含む液体または液体酸素が血液に注入されることを特徴とし、
(b)工程(ii)は、血液と接触させる透析液が、30℃未満、例えば、28℃未満、好ましくは26℃未満、24℃未満、22℃未満、20℃未満の温度を有することを特徴とする。
【0202】
本発明では、2,3−DPGは、治療される被験体の血液中の濃度と同じか、またはもっと高い濃度で含まれていてもよい。これにより、ヘモグロビンの酸素親和性を調節することができる。または、本発明の透析液は、それより低い濃度、すなわち、血液より低い濃度の2,3−DPGを含む。これにより、2,3−DPGを血液から除去することができ、酸素解離曲線を左にシフトさせ、P
50がpO
2 18mmHgまで下がる。
【0203】
本発明で使用される透析液の一般的な汎用性という観点で、すなわち、血液pHを調節するための適合性および肺補助のための適合性、およびこれらの組み合わせという観点で、透析液は、具体的に、または主に特定の目的に対処するように設計することができる。例えば、透析液は、血液pHを調節するという目的、または肺補助を提供するという目的のために選択されてもよい。この観点で、透析液の設計および適合という用語は、相互に置き換え可能に用いられ、半透膜を介して血液にさらす直前の(すなわち、第2のチャンバに入る段階の)透析液を指す。
【0204】
例えば、治療される被験体が、血液の低い酸素化だけではなく、呼吸性アシドーシスを患う場合には、典型的には、pHを調節することが望ましいだろう。pHを調節することは、二酸化炭素を直接的または間接的に除去することによって、本発明において達成することができる。これにより、さらに、ホールデイン効果という観点で、ヘモグロビンの酸素結合性が上がる。本発明で使用される透析液は、本明細書に記載する透析液の一般的なフレームワークの範囲内で、このような目的に適合させることができる。
【0205】
透析液および血液の重炭酸イオン(HCO
3−)の濃度に依存して、重炭酸イオンは、半透膜の片側で透析液の濃度勾配に沿って、半透膜の他方の側で血液の濃度勾配に沿って、血液から除去することができる。言い換えると、透析液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が、血液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度より低ければ、重炭酸イオンは、濃度勾配に沿って血液から透析液へと除去されるだろう。血液からの重炭酸イオンの除去が望ましくないか、または適応ではない場合、透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、血液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度より低くないように選択される。「低くない」は、この観点では、等しいか、または高いこと、例えば、わずかに高いことを意味するが、典型的には、ほぼ等しいか、または等しいことを意味する。
【0206】
一般的に言えば、呼吸性アシドーシスを患う被験体由来の血液を処理するために調節された透析液は、重炭酸イオンを好ましくは0〜40mmol/l、または5〜40mmol/l、または10〜40mmol/lの範囲の濃度で含む。このような目的のための(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度の好ましい実施形態としては、15〜35mmol/l、20〜30mmol/l、または(約)25mmol/lが挙げられる。
【0207】
半透膜
本発明では、血液から透析液への少なくとも1つの望ましくない物質の移動は、半透膜を通って起こる。本発明の接触させる工程で透析液からの血液を分離する膜は、酸素、二酸化炭素および液体に透過性であるものが適している。この膜は、分離面または接触面を形成し、この膜を通り、化合物の移動が可能である。この膜は、液体、特に、水および水溶液を透過可能である。この膜は、理想的には、酸素、二酸化炭素、重炭酸イオン、H
+イオンおよび液体を透過可能である。血液を受け入れるための第1のチャンバと、透析液を受け入れるための第2のチャンバとを備える装置では、半透膜は、第1のチャンバと第2のチャンバを分離するように配置される。このことにより、第1のチャンバから第2のチャンバへ、または第2のチャンバから第1のチャンバへの膜透過性物質の移動が可能になる。典型的には、膜透過性である限り、このような物質は、濃度勾配に沿って優先的に移動するだろう。
【0208】
半透膜は、アルブミンの大きさまたは特性を有するタンパク質を透過しない。しかし、重炭酸イオンおよび水素カチオンと、水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、透析液のpHは、血液を透析液と接触させる処理工程の間ずっと一定のままであるとは限らない。したがって、正確な意味では、本明細書で定義される透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンのpHおよび濃度は、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、すなわち、第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。言い換えると、透析液は、第2のチャンバに入るとき、pHがpH6.8〜pH11.0の範囲(または本明細書で定義される通り、その任意の好ましい値または部分範囲)である。
【0209】
半透膜を通る物質の移動は、受動的である(すなわち、濃度勾配に沿う)が、例えば、これらの液体の一定の流れがそれぞれのチャンバを通ること、また、場合により、撹拌し、振り混ぜ、圧力勾配(対流を引き起こす)または他の適切な機械的な運動によって、血液/および/または透析液は、優先的に移動する。このような機械的な運動は、半透膜表面に物質が効率的にさらされることに寄与し、そのため、半透膜を通る移動効率に寄与すると考えられる。
【0210】
半透膜と2つのチャンバを備える装置
本発明に適した装置は、血液を受け入れるのに適した第1のチャンバと、透析液を受け入れるのに適した第2のチャンバとを備えている。第1のチャンバと第2のチャンバは、少なくとも1つの半透膜によって分離されている。
【0211】
適切には、第1のチャンバは、複数の第1のチャンバに分割される。複数とは、1より多い任意の整数を指す。したがって、典型的には、複数の第1のチャンバが装置に存在する。好ましくは、それぞれの第1のチャンバが、半透膜によって分離された第2のチャンバと接触している。前記第1のチャンバは、好ましくは、キャピラリーの形態で存在する。これにより、半透膜によって透析液と接触しつつ、血液がキャピラリーを通って流れることができる。
【0212】
場合により、複数の第2のチャンバが装置に存在する。好ましくは、それぞれの第2のチャンバが、半透膜を介して第1のチャンバと接触している。
【0213】
装置において、(複数の)第2のチャンバの合計体積と(複数の)第1のチャンバの合計体積との比率は、10:1〜1:10の範囲であってもよい。好ましくは、(複数の)第2のチャンバの合計体積は、(複数の)第1のチャンバの合計体積より大きい。好ましい比率は、約2:1である。
【0214】
典型的には、本発明に適した装置では、半透膜の露出した表面積は、0.01m
2〜6m
2の範囲であってもよい。2つの透析ユニットが並列で使用される場合、6m
2までの(合わせた)表面積が、典型的には存在する。2つの透析ユニットのこのような並列の使用は、本発明の一実施形態で想定される。典型的には、任意の1つの透析ユニットの露出した表面積は、0.01m
2〜3m
2、例えば、0.1m
2〜2.2m
2の範囲である。一般的に、これらの範囲の下側部分の表面積は、子供の治療に特に適している。露出した表面積とは、片側で第1のチャンバにさらされ、同時に他方の側で第2のチャンバにさらされる半透膜の面積を指す。両チャンバに同時にさらされないが、例えば、固定手段で固定されているか、または他のさらされない手段で固定されている膜の任意の追加の領域は、露出した表面積の一部とは考えない。本発明の方法は、同じ透析ユニットで、または1つより多い透析ユニットで、1つより多いこのような膜を使用することも可能である。1つより多い透析ユニットが使用される場合、このような1つより多い透析ユニットは、それぞれの体外の血液の流れから、直列で、または並列で存在していてもよい。好ましくは、透析のための2つの装置が存在し、それぞれ、上に開示した露出した表面積を有する。
【0215】
したがって、本発明の方法は、二酸化炭素および他の化合物、例えば、水素カチオンおよび重炭酸イオンを移動させ、(透析膜を通って)透析液へと流すことができる。したがって、本発明の方法は、CO
2除去に適している。これにより、従来の方法よりも、血液からの代謝物(例えばCO
2)のさらに効率的な除去が可能になる。
【0216】
カルバミノヘモグロビンと、溶解した二酸化炭素は、重炭酸イオン(HCO
3−)/H
+イオン対と平衡状態にあるが、迅速な変換は、炭酸脱水酵素を必要とする。場合により、半透膜は、炭酸脱水酵素活性を含む。このことは、血液に面する側および/または透析液に面する側で、膜を炭酸脱水酵素でコーティングすることによって達成することができる。
【0217】
適切には、あるチャンバが、半透膜の片側に提供され、すなわち、第1のチャンバが半透膜の片側に提供され、第2のチャンバが、半透膜の他の側に提供される。言い換えると、適切には、2つの区画を含み、半透膜によって分離された装置が使用される。好ましくは、第1のチャンバ、半透膜および第2のチャンバは、1つの装置に含まれる。したがって、血液は、第1のチャンバ中に存在し、透析液は、第2のチャンバ中に存在し、これらチャンバは、前記半透膜によって分離される。半透膜が炭酸脱水酵素でコーティングされていることも可能である。
【0218】
適切には、複数の第1のチャンバが存在し、それぞれが半透膜を介して第2にチャンバと接触している。このような複数の第1のチャンバが、キャピラリーの形態を有していてもよい。したがって、この実施形態の方法では、血液は、キャピラリーを通って流れる。
【0219】
静置システムに本発明の方法を使用することは不可能ではない。このような状況では、血液が第1のチャンバ中に常に存在し、すなわち、このチャンバを流れる(入る、中を流れる、出ていく)ことがない。透析液も、第2のチャンバ中の常に存在し、すなわち、流れる(このチャンバを入る、中を流れる、出ていく)ことがない。しかし、半静置状態または非静置状態の実施形態が好ましい。非静置状態の実施形態では、血液は、第1のチャンバを通って流れ、その結果、第1のチャンバに入り、第1のチャンバを通り、第1のチャンバを出て、透析液は、第2のチャンバを通って流れ、その結果、第2のチャンバに入り、第2のチャンバを通り、第2のチャンバを出る。これらの液体の1つのみがそれぞれのチャンバを通って流れ、他方の液体は、それぞれの他のチャンバ中に常に存在し、すなわち、それぞれの他のチャンバを通って、このそれぞれの他のチャンバを流れる(入る、中を流れる、出ていく)ことがない実施形態は、半静置状態と呼ばれる。したがって、好ましくは、本発明の方法において、血液は、第1のチャンバを通って流れ、透析液は、同時に、第2のチャンバを通って流れる。したがって、血液が血液コンパートメント(第1のチャンバ)を通って流れ、透析液が透析液コンパートメント(第2のチャンバ)を通って流れることが好ましい。
【0220】
本発明の方法によって、従来技術のような気体の流れ(スイープガス)を必要とすることなく、CO
2を含む上に定義した1つ以上の望ましくない物質を効率的に除去することができる。特に、望ましくないCO
2を気相に移動させることが望ましくはなく、必要でもない。典型的には、本発明で使用される透析ユニットは、膜(例えば、気体交換膜)を介して血液と接触する気体(スイープガス)を有するチャンバを備えていない。
【0221】
適切には、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備える装置が、透析ユニットであり、場合により、透析器に含まれる。透析ユニットは、本明細書に定義する第1のチャンバと、本明細書に定義する第2のチャンバと、半透膜と、流体(例えば、血液)が第1のチャンバ(入口および出口)に入り、また、第1のチャンバから除去するための手段と、流体(例えば、透析液)が第2のチャンバ(入口および出口)に入り、また、第2のチャンバから除去するための手段とを備えるユニットである。したがって、第1のチャンバは、入口と出口を有し、第2のチャンバは、入口と出口を有する。したがって、本発明では、透析ユニットは、生物学的流体回路の一部である生物学的流体コンパートメント(第1のチャンバ)と、透析液回路の一部である透析液コンパートメント(第2のチャンバ)と、生物学的流体コンパートメントと透析液コンパートメントを分離する半透膜とを備えている。透析ユニットが使用される場合、血液は第1のチャンバを通って流れ、透析液は第2のチャンバを通って流れる。
【0222】
または、装置は、透析、濾過または透析濾過のための装置である。
【0223】
好ましくは、本発明の方法の間、第2のチャンバは、気相を実質的に含まず、すなわち、液相において、実質的に透析液のみで満たされている。したがって、血液の気体接触は完全に除外されてもよく、または最小限に限定され、例えば、気泡捕捉部または同様の装置の環境下で必要であってもよい。
【0224】
本発明で使用される半透膜は、水および水に溶解した無機分子が透過可能である限り、特に限定されない。本発明の適切な半透膜は、半透膜を通って少なくとも1つの望ましくない物質を運ぶことができる。例えば、膜は、例えば血液透析のために現在使用されている従来の半透膜の中から選択することができる。しかし、現時点で透析のために使用されるものよりも大きな孔を有する膜を考慮することも考えることができる。膜を通る拡散は、場合により、濾過による対流輸送によって補助されてもよい。
【0225】
透析器は、上述の透析ユニットと、さらに、上述の第1および第2のチャンバに流体が入るため、また、上述の第1および第2のチャンバから流体を除去するためのそれぞれの手段とそれぞれ接続する配管(入口および出口)とを備えている。第1のチャンバ(入口および出口)に接続する配管は、ヒトまたは動物の血液系と接続するのに適している。透析器は、本質的に、透析膜によって分離される2つのチャンバを備えており、それぞれに、使用される流体のための配管システムが接続されている。場合により、第2のチャンバ(入口および出口)に接続する配管は、再生ユニットに接続するのに適している。後者の設定により、本明細書で以下に記載する通り、また、両方ともその全体が本明細書に参考として組み込まれるWO 03/094998 A1号およびWO 2009/071103 A1号において、透析液の再生(再循環、リサイクル)が可能になる。本発明で使用される透析器は、特に限定されず、例えば、血液透析に現在使用されている従来の透析器であってもよい。特定の実施形態では、本明細書に記載する通り、血液を酸素化するための手段と共に、HepaWash(登録商標)システム(実施例2)を本発明で使用することができる。
【0226】
所望な場合、血液から液体を除去することが可能である。例えば、(もし、液体が全く導入されていない場合には)本発明の方法の工程(i)および(ii)の間に導入されたのと同じ体積または実質的に同様の体積を血液から除去することが可能である。または、所望な場合には、さらに多くの液体を除去することが可能である。
【0227】
透析ユニット
好ましくは、透析のための2つの装置、または2つの透析ユニットが並列で使用される。これにより、露出した膜の表面積を大きくすることができ、したがって、半透膜を通る1つ以上の望ましくない物質のさらに効率的な交換が可能になる。
【0228】
さらなる方法の特徴およびパラメータ
以下のさらなる特徴およびパラメータは、透析ユニット(すなわち、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備える装置)と接続して使用するのに適している。
【0229】
透析器の従来の構成要素、例えば、マノメーター、空気検出器、ヘパリンポンプなどの圧送装置、血液ポンプなどは、本発明の手段または装置の一部を形成する。
【0230】
単回使用
第2のチャンバ(出口)から出た後に、透析液を捨ててもよい。このような実施形態は、「単回使用」または「単回通過」方法と呼ばれる。単回使用の実施形態は、本質的に本方法の全持続時間の間、(第2のチャンバの入口への)新しい透析液の添加を必要とする。
【0231】
単回使用は、本発明の観点で可能である。しかし、以下に記載するリサイクルを使用する実施形態ほど簡便ではない。したがって、単回使用は、本発明の観点であまり好ましくはない。
【0232】
リサイクル
単回使用とは対照的に、透析液をリサイクルすることもできる(「リサイクル」または「複数回使用」または「複数回通過」)。この目的のために、第2のチャンバ(出口)から出た透析液(「使用された透析液」)が集められ、第2のチャンバ(入口)に戻される。アルブミンは、比較的高価である。したがって、一般的に、アルブミンを含有する透析液をリサイクルすることが望ましい。言い換えると、リサイクルによって、大きなコスト削減を得ることができる。
【0233】
リサイクルによって、4000ml/分までの高い透析液の流量も可能になる。
【0234】
典型的には、透析液のリサイクルは、透析液の洗浄または再生を必要とする。このような洗浄または再生は、第2のチャンバに再び入る前に、透析液(すなわち、使用された透析液)から望ましくない物質を除去するために、少なくとも1種類の処理工程によって達成される。前記工程は、第2のチャンバの外側で、すなわち、血液接触の部位とは異なる部位で起こる。前記少なくとも1つの処理工程は、(i)吸着体および/または(ii)透析濾過および/または(iii)酸性pHおよび/または塩基性pHにさらすこと、(iv)および/または透過性膜または半透膜(すなわち、第1のチャンバと第2のチャンバを分離する透析ユニット内に配置されるものとは異なる膜)にさらすことから選択される。前記吸着体は、通常、アルブミンとは異なる物体である。すなわち、アルブミンを含有する透析物の場合、前記吸着体は、さらなる吸着体または追加の吸着体である。特に適切な実施形態では、前記吸着体は、ナトリウムイオン(Na
+)および/または塩素イオン(Cl
−)に結合することができる。
【0235】
このような任意の1つ以上の処理工程は、直列または並列で(すなわち、透析液を分けて)行われてもよい。半透膜によって分離された血液にさらされた後、すなわち、第2のチャンバから出た後、透析液を処理または精製することを予期することができる。透析液を処理または精製するのに適した手段は、1つ以上の吸着体ユニット、1つ以上のpH変更ユニットおよび/または1つ以上の透析濾過ユニットを含む。このようなユニットは、相互に排他的ではなく、直列または並列で存在していてもよい。特に、本発明の透析液のリサイクルは、透析液のpHが、第1のチャンバに(再び)導入するときに、本明細書に定義する本発明の観点で望ましい特性と一致するように、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度および/またはpHの調節も必要とする場合があり、したがって、これらを伴う場合がある。(再び)導入するとは、リサイクルの後の導入を指す。
【0236】
流量
血液は、第1のチャンバを通って流れ、透析液は、第2のチャンバを通って流れる。血液および透析液の流量または速度は、一定であるか、または時間経過に伴って変動(変化)するように選択されてもよい。
【0237】
血液の酸素化と、二酸化炭素の除去は、両方とも血液の流量に依存するため、通常、流量の適合が望ましい。以下のことが成り立つ。血液の流量が大きいほど、治療される被験体の酸素化が良くなり、血液の流量が小さいほど、血液からの二酸化炭素の除去が良くなる。
【0238】
血液の流量は、典型的には、50ml/分〜7000ml/分の範囲に調節される。
【0239】
本発明では、流量は、一般的に限定されない。例えば、血液は、低速の流量(800ml/分未満、好ましくは100〜800ml/分)、中速の流量(800〜2400ml/分)または高速の流量(2400ml/分を超える)で、第1のチャンバを通って流れることが可能である。血液の流量は、典型的には、制御され、調整され、処理条件および透析液に合わせて調節されてもよい。
【0240】
一つの実施形態では、低速が最も好ましい。
【0241】
別の実施形態では、中速が最も好ましい。
【0242】
一般的に、低速および/または中速の処理は、高速よりも操作者にとって取り扱いが容易であり、患者にとって危険が少ない。これに加えて、本発明の方法が中速の流量で行われる場合、追加の肺保護換気(LPV)は、なくてもよい。このことは、通常は追加のLPVを必要とする当該技術常識の中速装置と比較して、主な利点である。本発明の中速の流量で、液相への望ましくない物質(例えば二酸化炭素)の移動と、(酸素を用いて血液を超飽和するための)血液への過剰な酸素の導入可能性に起因して、高速の酸素化が可能である。本発明の特定事項以外の方法において、過剰の酸素が、ヘモグロビンに結合したH
+イオンの放出を引き起こし、遊離した二酸化炭素の気体が生じるだろう。このことは、ガス塞栓の危険性を生じさせる場合があり、または、二酸化炭素の溶解性は酸素より約20倍高いため、溶解した二酸化炭素が、治療される被験体に戻る逆移動を引き起こす場合がある。これらの検討事項の観点で、より安全な取り扱いのため、本発明では中速の流量の血液が有利である。中速の流量では、さらなる換気装置を必要とすることなく、肺を、本発明で100%まで補助することができる。このことは、体外での肺補助のための従来技術の中速のシステムを上回る顕著な改善である。このような従来技術の中速のシステムは、第1に、通常は肺保護換気(LPV)と組み合わせて使用する必要があるため、欠点がある。しかし、機械換気法は、血小板の活性化、炎症、血餅形成の危険性と関係があり、これにより死亡の可能性がある(Assmannら、Zeitschrift fur Herz−,Thorax− und Gefaβchirurgie、vol.23、no.4、pp.229−234、2009年7月)。従来技術のシステムとLPVを組み合わせる別の欠点は、病院および介護事業所でのスタッフおよび収容可能な空間に制限があることである。しかし、保護換気と体外での肺補助の組み合わせは、並列する少なくとも2つの装置を必要とするだろう。これとは対照的に、本発明の方法は、有利には、並列するLPVを必要とせずに行われる。言い換えると、従来技術の中速装置では一般的な追加の肺保護換気(LPV)は、なくてもよい。
【0243】
高速の流量も、本発明で可能である。しかし、高速のシステムのための血液流量を得るために、もっと大きな血管の挿管が必要であり、これは専門家によって行われる必要があり、特定の健康上のリスクと関係がある。これが、中速の流量が本発明では有利であると考えられる理由の1つである。
【0244】
血液の流量を管理するか、または制御するために、ポンプが与えられてもよい。
【0245】
典型的には、透析液の流量を管理するか、または制御するために、ポンプが与えられる。
【0246】
本発明の方法では、透析液の流量は、10ml/分〜11000ml/分(すなわち、0.1667ml/h〜183.333ml/h)の範囲であってもよい。より典型的には、透析液の流量は、遅い透析液の流量(1〜2l/h)および通常の透析液の流量(25〜60l/h)/透析器、および中間の流量(2l/hより大きく、25l/h未満)から選択される。したがって、所望なように流量を適合させることができる。透析液の流量が高いほど、一般的に、重炭酸イオン/炭酸イオンの効率的な移動が可能になる。
【0247】
一般的に、血液の流量が透析液の流量より遅いことが好ましい。それによって、効率的な血液の処理を達成することができる。
【0248】
透析ユニットでは、すなわち、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備える装置では、血液および透析液は、好ましくは、対向流では運ばれてない(すなわち、好ましくは、並流で運ばれる)。しかし、一般的に、血液および透析液を、同じ方向または対向流で透析のための装置を通って流してもよいことを想定可能である。
【0249】
透析液からのCO2の除去
本発明の方法の好ましい実施形態では、二酸化炭素および/または炭酸および/またはその解離生成物(H
+/HCO
3−)を透析液から除去する可能性が予期される(
図2Cの15番)。これは、理想的には、別個の工程で予期され、すなわち、透析液が第2のチャンバ(出口)を出た後の工程で予期される。これらの目的のための手段は、適切なものであれば、特に限定されない。この処理のために、二酸化炭素および/または炭酸および/またはその解離生成物(H
+/HCO
3−)は、脱気(減圧、加熱または冷却、超音波、膜脱気、不活性気体による置換、還元剤の添加、凍結−ポンプ−解凍サイクル、pH低下、遠心分離力、または脱気添加剤の添加)、濾過、吸着または化学結合によって透析液から適切に除去される。例えば、上述の除去は、脱気(減圧、加熱または冷却、超音波、膜脱気、不活性気体による置換、還元剤の添加、凍結−ポンプ−解凍サイクル、pH低下、遠心分離力、または脱気添加剤の添加)、濾過、吸着または化学結合および/またはこれらの測定の組み合わせによって達成することができる。理想的には、第2のチャンバから透析液が出た後に、二酸化炭素および/または炭酸および/または炭酸水素イオンの濃度を測定し、および/または透析液中のpHを測定することが可能である。上述の二酸化炭素および/または炭酸および/またはその解離生成物の除去は、以下に記載する通り、透析液がリサイクルされる実施形態に特に適している。
【0250】
特に適切な実施形態では、本発明の方法は、二酸化炭素を生成し、二酸化炭素透過性膜を通り、気泡捕捉部によって透析液から二酸化炭素を除去するために、リサイクルが、透析液を酸性pHへと酸性化することを含むように行われる。適切には、膜は、気体透過性であり、二酸化炭素は、気相で除去される。
【0251】
酸/塩基処理
アルブミンは市販されているが、比較的高価である。したがって、アルブミン系の透析液は、高い処理コストが発生することがある。従来技術では、アルブミン含有透析液のリサイクルは、肝臓透析の場合について、例えば、WO 03/094998 A1号に記載されており、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。この特許出願に記載する通り、アルブミンを、結合した物質(例えば毒素)に対する担体タンパク質(例えばアルブミン)の結合親和性が、特定の測定値(例えば、pHの変化)によって影響を受け得るという原理に基づき、リサイクルすることができる。アルブミンを含む透析液のpHを選択的に下げ、その後に上げる(またはその逆)ことによって、透析(拡散)または濾過(対流)によって、または両方法の組み合わせ(本明細書で以下、透析濾過と呼ばれる)によって、結合した物質を効率的に除去することができる。一般的に、透析濾過は、構成要素(塩、小さなタンパク質、溶媒などの透過性分子)が透過可能なフィルターを用いることによって、分子の大きさに基づく溶液の上述の構成要素の除去または分離を伴う希釈方法である。このような構成要素の透析濾過による除去によって、その後のアルブミンのリサイクルが可能になる。従来技術に記載する通り、2つの並列する透析液の流れ(すなわち、並列する酸性流路とアルカリ性流路)を有する透析再生ユニットで、アルブミンを効率的に再生することができる(WO 09/071103 A1号)。WO 09/071103 A1号に記載される方法および装置(例えば、透析液再生ユニット、透析ユニット)も、本発明の方法でアルブミンを含有する透析液をリサイクルするのに適している。したがって、WO 09/071103 A1号は、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0252】
変更したpHで透析液を処理する(洗浄する、再生する)工程によって、例えばアルブミンに結合した毒素を除去することができる。前記毒素を効率的に除去するために、本発明の実施形態の透析液再生ユニットは、並列で操作する2つの流路を備えている。再生される透析液は、2つの流路に分けられ、この2つの流路を通って運ばれる。第1の流路では、酸性流体が(酸性流体供給ユニットから)透析液に添加される。酸性溶液に可溶性の毒素の場合、溶液中の遊離毒素の濃度は高くなる。酸性流体供給ユニットの下流に配置される解毒ユニットでは、遊離毒素は、第1の流路に流れる酸性化された透析液から除去される。透析液に酸性流体を添加することによって、酸可溶性の毒素の除去が可能になる。さらに、pHを下げることによって、アルカリ可溶性の毒素は、例えば、沈殿し、それによって、透析液の流体から除去されてもよい。第1の流路に平行に延びる第2の流路では、アルカリ性流体が(アルカリ性流体供給ユニットから)第2の流路に流れる透析液に添加される。pHの上昇に起因して、遊離アルカリ可溶性の毒素の濃度が上がり、したがって、アルカリ可溶性の毒素の除去が可能になる。これらの毒素は、さらなる解毒ユニットによって除去され、さらなる解毒ユニットは、アルカリ性流体供給ユニットの下流に配置される。さらなる解毒ユニットは、第2の流路に流れるアルカリ性化された透析液から毒素を除去するように適合されている。さらに、pHを上げることによって、酸可溶性の毒素は、例えば、沈殿し、それによって透析液の流体から除去されてもよい。酸性流路とアルカリ性流路を並列して与えることによって、酸可溶性の毒素とアルカリ可溶性の毒素が、両方とも(さらに)効率的に透析液から除去されるだろう。したがって、本発明の実施形態の透析液再生ユニットは、タンパク質に結合する毒素を効率的に除去することができる。「毒素」との用語は、本明細書で非常に広く理解され、通常は直接的には(健康上の問題を引き起こす)毒素と呼ばれないもの(例えば、薬物、電解質、H
+、ホルモン、脂肪、ビタミン、気体、ビリルビンなどの代謝変性生成物)であっても、全てのタンパク質に結合した物質を包含する。酸処理ユニットと塩基処理ユニット(合わせて「pH処理ユニット」(または解毒ユニット))の下流で、第1の流路から再生された酸性化された透析液が、第2の流路から再生されたアルカリ性化された透析液と合わせられてもよく、ここで、第1の流路からの酸性化された透析液と、第2の流路からのアルカリ性化された透析液は、互いに少なくとも部分的に中和されてもよい。したがって、第1の流路からの酸性化された透析液の流れと、第2の流路からのアルカリ性化された透析液の流れとを合わせることによって、生理学的なpH値での再生された透析液の流れが得られるだろう。
【0253】
好ましい実施形態によれば、第1の供給ユニットによって添加される酸性流体は、塩酸、硫酸、酢酸のうち少なくとも1つを含む。好ましい実施形態では、第1の供給ユニットは、第1の流路中の透析液のpHを1〜7、好ましくは2.5〜5.5のpHに調節するように適合される。
【0254】
好ましくは、第2の供給ユニットによって添加されるアルカリ性流体は、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液のうち少なくとも1つを含む。好ましい実施形態では、第2の供給ユニットは、第2の流路中の透析液のpHを7〜13、好ましくは8〜13、より好ましくは8〜11の範囲のpHに調節するように適合される。
【0255】
さらに好ましくは、酸性流体とアルカリ性流体は、中和中に「生理学的な」中和生成物が作られるように選択される。例えば、特定の濃度の生成した中和生成物は、それぞれの生物学的流体に何らかの形ですでに存在し得る。例えば、塩酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、酸性化された流れとアルカリ性化された流れとを中和することによって、ある量のNaClが生成する。NaClは、典型的には、例えば、血液または血清などの生物学的流体中にも存在する。
【0256】
好ましい実施形態によれば、第1の流路中の透析液のpHを下げることによって、遊離毒素および遊離担体物質に対する毒素−担体複合体の濃度比が、透析液中の毒素の少なくとも一部について、遊離毒素が増える方にシフトし、それによって、透析液中の遊離毒素の濃度が高くなる。第1の流路中の透析液のpHを下げることによって、酸可溶性の毒素(例えば、マグネシウムまたは銅)の溶解性が上がり、一方、担体物質に対する酸可溶性の毒素の結合親和性が低下する。したがって、溶液中の遊離毒素の濃度が上がる。
【0257】
さらに好ましくは、解毒ユニットは、前記遊離毒素を少なくとも部分的に除去するために適合される。遊離毒素の濃度が大きくなることに起因して、前記毒素は、速い速度で除去されるだろう。
【0258】
さらに、第1の流路中の透析液のpH値を下げることによって、アルカリ可溶性の毒素の一部が例えば沈殿し、それによって透析液の流体から除去されてもよい。
【0259】
好ましい実施形態では、第2の流路中の透析液のpHを上げることによって、遊離毒素および遊離担体物質に対する毒素−担体複合体の濃度比が、透析液中の毒素の少なくとも一部について、遊離毒素が増える方にシフトし、それによって、透析液中の遊離毒素の濃度が高くなる。第2の流路中の透析液のpHを上げることによって、アルカリ可溶性の物質(例えば、ビリルビンなど)の溶解性が上がり、一方、担体物質に対するアルカリ可溶性の毒素の結合親和性が低下する。したがって、溶液中の遊離毒素の濃度が上がる。
【0260】
好ましくは、さらなる解毒ユニットは、前記遊離毒素を少なくとも部分的に除去するために適合される。遊離毒素の濃度が大きくなることに起因して、前記毒素は、速い速度で除去されるだろう。
【0261】
さらに、第2の流路中の透析液のpH値を上げることによって、酸可溶性の毒素の一部が例えば沈殿し、それによって透析液の流体から除去されてもよい。
【0262】
さらに好ましい実施形態によれば、透析液の温度を上げることによって、遊離毒素および遊離担体物質に対する毒素−担体複合体の濃度比が、透析液中の毒素の少なくとも一部について、遊離毒素が増える方にシフトし、それによって、透析液中の遊離毒素の濃度が高くなる。したがって、遊離毒素は、解毒ユニットによって、速い速度で除去されるだろう。
【0263】
アルブミンを含有する透析液をリサイクルするさらなる態様は、図面における説明を含め、その全体が本明細書に参考として組み込まれるWO 2009/071103 A1合に記載されている。WO 2009/071103 A1号に記載される知見に加え、アルブミンも、本発明の透析液の優れた緩衝能に寄与する。
【0264】
吸着体の処理/吸着
電解質(例えば、カチオン、例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオンおよびカルシウムカチオン、またはアニオン、例えば、塩素アニオン、炭酸アニオンまたは重炭酸アニオン)などの過剰な物質または望ましくない物質を抽出または除去するために、吸着体を透析液と接触させてもよい。一般的に、吸着体は、患者の血液中に存在する少なくとも1つの望ましくない物質(例えば、尿素、尿酸、電解質、ナトリウムカチオン、カルシウムカチオンまたはカリウムカチオン、塩素アニオン)を吸着することができる。典型的には、吸着体は、吸着体ユニット中に、すなわち、透析液がその中を通過する静置ユニット中に存在する。透析液から除去されるべき物質の少なくとも1つに結合する能力を有する限り、吸着体の種類または組成または材料は特に限定されない。異なる種類の吸着体が、当該技術分野で知られている。吸着体の適切な選択によって、本方法は、実際の必要性、例えば、個々の患者の必要性に合うように調節することができる。吸着体は、特に、リサイクルする実施形態、すなわち、透析液をリサイクルすることを意図しているときに有用である。
【0265】
透析液の再生の態様
過剰な物質または望ましくない物質は、膜(すなわち、透過性膜または半透膜)を通り、透析液(使用された透析液)から除去することができる。例えば、透析液に溶解した気体および/または溶質/イオンは、このような膜処理によって除去することができる。好ましい実施形態では、二酸化炭素は、気体として、または液体に溶解している状態で除去される。二酸化炭素を除去する特に適切な1つの様式は、透析液を、二酸化炭素を透過可能な膜と接触させることからなる。透析液は、特定の圧力p
1を有し、前記膜の他の側での流体(液体または気体)の圧力p
2はこれより低く、すなわち、p
2<p
1である。使用された透析液からCO
2を除去する目的は、CO
2の分圧が、前記膜の他の側での流体中で低い場合に、達成することもでき、またはこれに代えて達成することもできる。同様に、この膜の他の側での流体(液体)中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が、使用された透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度より低ければ、使用された透析液を、重炭酸イオンを透過可能な膜と接触させることによって、濃度勾配に沿って、炭酸水素イオンを除去することができる。いずれにせよ、使用される膜は、アルブミンを透過可能ではない。このことは、適切な孔径を有する膜を選択することによって実現することができる。このような膜処理は、特に、リサイクルする実施形態で有用である。
【0266】
医学用途
上述の通り、医学的な目的のために本発明の方法を探求することが可能であり、望ましい。手術または治療によるヒトまたは動物の体の処理に向けられた活動、特に、生きている被験体の状態を予防または改善することを目的とする活動、すなわち、医学的な目的に役立つ活動は、医学的な方法または医学的な使用と呼ばれてもよい。一般的に、方法および過程という用語は、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。しかし、時に、方法という用語は、特に、医学的な方法を指すために使用される。本発明の医学的な方法は、血液から望ましくない物質を除去するための上述の方法の任意の態様および全ての態様を含んでいてもよい。特に、本発明は、このような治療を必要とする患者由来の血液を体外で処理する方法を提供する。体外の血液は、本明細書に記載する透析方法に供され、すなわち、一般的に言えば、半透膜によって分離された透析液にさらされる。この目的のために、血液が被験体から除去され、本発明の方法に供され、適切には、被験体に戻される。一般的に、このような方法では、患者から静脈血が除去され、本発明の方法の第1のチャンバに入る。これにより、本発明に記載する任意の態様および全ての態様において、本発明の方法で血液を処理することができる。その後、血液(「処理された血液」)は、第1のチャンバを出て、患者に戻すことができる。処理された血液は、最も典型的には、患者の静脈に入るが、これに代えて、動脈に戻すこともできる。しかし、動脈に戻すのは、適切には、血液に酸素化も行われる方法に限定される。処理した患者の血液を体内に戻すまでに、体から患者の血液を抜くことの方法から拡張されるこれら全ての態様は、本明細書に記載する全ての適応症のための医学的な方法に共通する。
【0267】
本発明の知見によって、治療によるヒトまたは動物の体の処理における探求が可能になる(一般的に、医学的な使用と呼ばれる)。具体的には、それぞれの患者の実際の必要性に合うように、本発明の医学的な使用をカスタマイズすることが可能である。実際に、本質的に気体交換は、肺を有する有機体に限定されないが、えらを有する有機体(例えば、魚)でも同等に起こり、本発明の医学的な使用は、肺の補助という目標に、すなわち、肺を有する有機体(例えば、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)における特定の状態を治療または予防することに集中している。したがって、えら、および/またはえらを有する有機体は、本明細書で詳細には記載されない。
【0268】
好ましくは、この医学的な方法では、透析液は、血液、すなわち、透析ユニットで透析される種(例えば、ヒト)の血液のモル浸透圧濃度と実質的に同じモル浸透圧濃度であることを特徴とする。
【0269】
場合により、本発明の方法は、典型的には、体外での血液処理に適しており、侵襲性の工程を含まず(または少なくとも必ずしも含まず)、および/または体に対する実質的な物理的介入を表す工程を含まず、および/または専門的な医学的専門技術を実行することを必要とする工程を含まず、および/または専門的な注意および技術を用いて実行してもかなりの健康上のリスクを伴う工程を含まない。好ましくは、本発明の方法は、体に対する実質的な物理的介入を表し、専門的な医学的専門技術を実行することを必要とし、必要な専門的な注意および技術を用いて実行してもかなりの健康上のリスクを伴う侵襲性の工程を含まない。例えば、本発明の方法は、場合により、透析システムと、ヒトまたは動物の体とを接続および/または切断する侵襲性の工程を含まない。別の例では、体外の装置を、生きている被験体の静脈血に接触させること、したがって、それぞれの医学的な方法は、かなりの健康上のリスクを伴わない。
【0270】
本発明の医学的な方法は、呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、肺不全または肺障害、腎不全、多臓器不全、およびこれら任意の1つ以上の組み合わせから選択される少なくとも1つの状態を治療するのに有用であるか、または適切である。この方法は、治療される状態、または特に治療される個人(個別の医薬)に合うように構成されてもよい。以下の章は、これらの状態の治療について記載するが、それぞれの予防方法も、本発明に等しく包含される。
【0271】
これら全ての治療方法は、被験体から静脈血を除去することによって、体外の血液を得ることと、本発明の方法の観点で記載する通り、体外の血液をさらし、半透膜を介し、本明細書に記載する透析液に接触させることによって、処理された血液を得ることと、処理された血液を同じ被験体に、好ましくは、被験体の静脈に、それほど好ましくない実施形態では、被験体の動脈に戻すこととを含む。特定の構成を以下に記載する。
【0272】
肺不全または肺障害の治療
本発明の方法は、急性または慢性の呼吸不全(肺不全)を患う患者を治療するのに適している。肺不全を患っているが、典型的には、他の臓器不全(例えば腎不全または肝不全)を患っていない被験体は、呼吸性アシドーシスが進行するか、または呼吸性アシドーシスが進行するリスクを有する。これは、二酸化炭素の除去が、健康な被験体ほど効率的には起こらないか、または全く起こらないためである。この患者群としては、喘息、低換気、肺疾患、例えば、肺癌、喫煙および他の空気中の毒素または粒子の曝露と関連する合併症、または筋ジストロフィー、または肺気腫、特に末期肺気腫を患う患者が挙げられる。このような肺疾患を患う多くの患者は、完全に機能する腎臓(全腎機能)を有している。本発明は、体外での酸素化と、少なくとも1つの望ましくない物質、例えば、二酸化炭素または重炭酸イオンまたは水素カチオンの体外での除去を可能にする。したがって、本発明は、肺の全補助を提供し、特に、この患者群に適している。
【0273】
透析液は、捨てられるか、または好ましくは、リサイクルされる。後者のリサイクルされる場合には、透析液を膜処理に供することが好ましい。膜処理によって、二酸化炭素および/または重炭酸イオンおよび/または炭酸イオンおよび/または炭酸が除去されてもよく、または部分的に除去されてもよい。これにより、透析液のリサイクルが可能になる。二酸化炭素を除去するために、膜処理は、好ましくは、低いpHで、すなわち、透析物を酸性化した後に行われる。
【0274】
肺不全/腎不全の組み合わせの治療
肺とは異なり、腎臓は、体液のpHを維持することに重要な役割をはたす。健康なヒトまたは動物被験体では、腎臓は、炭酸イオン/重炭酸イオンの比率の制御と、血液pHの制御において、肺と協働する。したがって、一般的に、腎臓は、血漿のpHを制御することによって、健康な個人の酸−塩基ホメオスタシスを維持するのに重要な役割をはたす。主な機能としては、尿からの重炭酸イオンの再吸収、水素カチオンの尿への排泄が挙げられる。これらの腎臓の機能は、酸−塩基バランスを維持するのに重要であり、血液pHの制御にも寄与する。
【0275】
腎代替療法(RRT)は、このような被験体を治療するための現在の集中治療環境/集中治療室(ICU)で広く用いられている。集中治療室にいる被験体(ICU被験体)では、既に感染しやすい個人において、術後状態で、また、介入研究の後に、多臓器機能不全症候群(MODS)の一部として急性腎不全(ARF)が頻繁に起こる。一般的に、ICU被験体は、連続的な腎代替療法(CRRT)、肝臓透析および機械換気などの異なる臓器補助を必要とする。このような被験体において、従来から腎不全、肝不全および肺不全を治療するための少なくとも3つの異なる装置を必要とする当該技術分野の技術常識(または、肝不全を治療するための装置に加え、腎不全/肺不全を治療するための3つのチャンバの組み合わせを有する装置PrismaLung
TM、DE 10 2009 008601 A1号;WO 2010/091867 A1号;NovaLung)とは対照的に、本発明は、顕著な向上を与える。
【0276】
腎臓の適切な機能は、腎不全を患う患者では損なわれる。気体の交換のみが可能であり、腎臓を補助しない従来の体外での肺補助(例えばECMO)とは対照的に、本発明は、腎不全の治療および多臓器不全の治療も可能である。したがって、本発明によって、特に、急性または慢性の腎臓(腎)機能不全、または慢性腎不全(CRF)を患う被験体を治療することができる。本発明は、腎臓癌などの腎疾患を患う患者、および中毒および特定の医薬への曝露に関連する合併症を患う患者を治療することもできる。
【0277】
多臓器不全(例えば、肺および腎臓の不全)を治療するために、本発明は、肺不全を治療する装置と、腎不全を治療する装置の2つの別個の装置の代わりに、たった1個の単一装置を使用するため、従来技術を上回るさらなる利点を提供する。この単一装置は、本発明の方法において、血液と、半透膜によって分離された透析液を接触させるための第1および第2のチャンバを備えている。
【0278】
本発明では、条件(第2のチャンバに入る透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度、第1のチャンバから出る血液のpH、第1のチャンバを出る血液の重炭酸イオンの濃度)は、呼吸性アシドーシスまたは代謝性アシドーシスのいずれかについて本明細書に記載した条件の中から、好ましくは、代謝性アシドーシスについて本明細書に記載した条件の中から適切に選択される。さらに、患者の血液中に存在する少なくとも1つの望ましくない物質(例えば、尿素、尿酸、電解質、ナトリウムカチオン、カルシウムカチオンまたはカリウムカチオン、塩素アニオン)に結合するか、または吸着するのに適した吸着体を含むことが好ましい。例えば、腎不全を患う患者では、典型的には、腎臓が、血液中のナトリウムカチオン、カルシウムカチオンまたはカリウムカチオンおよび/または塩素アニオンを含む溶質の生理学的な濃度または望ましい濃度を維持することができない。これらの不足は、本発明によって対処される。特に、透析液は、それぞれの溶質の望ましいレベルを維持するために具体的に適合させることができる。この目的のために、透析液は、治療される被験体の血液中のそれぞれの溶質の濃度を(i)上げることが望ましいか、または(ii)下げることが望ましいかに依存して、それぞれの溶質の望ましい血中濃度よりも(i)多いか、または(ii)少ないそれぞれの溶質を含む。本発明は、汎用性の高い腎臓補助を提供する。例えば、血液からの過剰な重炭酸イオンの除去において腎臓を補助することが望ましい場合には、透析液は、好ましくは、添加される重炭酸イオンを含まないように選択される。好ましくは、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、5mmol/l未満であり、より好ましくは、0mmol/lである。さらなる例では、(例えば、アシドーシスを治療するために)血液pHの制御において腎臓を補助することが望ましい場合には、透析液は、好ましくは、そのpHおよび/または緩衝能がこのような目標に適合するように選択される。例えば、pHは、pH8.0〜11.0の範囲であってもよく、および/またはH
+イオンに対する緩衝能は、12mmol/l以上であってもよい。アシドーシスを治療するさらなる態様を以下に記載する。
【0279】
腎不全/肝不全/肺不全の組み合わせの治療
本発明は、肺不全および/または腎不全に加え、急性または慢性の肝不全を患う被験体を治療することもできる。本発明の典型的な治療は、体外での毒素除去を伴う。このような被験体を治療するために、WO 2009/071103 A1号および/またはWO 03/094998 A1号に記載される方法、またはHepa Wash社(ミュンヘン、ドイツ)から利用可能な方法を、透析液が本発明またはその任意の実施形態のフレームワークの透析液に適合するように改変することができる。このような方法では、アルブミンは、二重の機能または相乗的な機能を有する。アルブミンは、毒素に結合する(肝機能不全に対処する)だけではなく、炭酸イオンと共に透析液も緩衝化する(肺機能不全に対処する)。このことは、WO 2009/071103 A1号および/またはWO 03/094998 A1号に記載される機能性に加え、肺補助を行い、および/または血液pHを生理学的なレベルまたは他の望ましいレベルに修正することができることを意味する。この治療は、1個の単一装置において、二酸化炭素の除去と血液の酸素化を含め、腎臓透析、肝臓透析および肺補助を組み合わせることができる。
【0280】
腎不全を治療するために上に記載した改変または構成(例えば、吸着体の存在)も、この実施形態で適切に使用される。
【0281】
呼吸性アシドーシスの治療
本発明の方法は、急性または慢性の呼吸性アシドーシスを患う患者を治療するのに適している。患者群としては、低換気、肺腫瘍、喘息、筋ジストロフィーまたは肺気腫、特に末期肺気腫を患う被験体が挙げられる。呼吸性アシドーシスを患う被験体を治療するために、透析液は、第2のチャンバに入る段階で、適切には、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を0〜40mmol/lの範囲で含有する。実際に、呼吸性アシドーシスのために、好ましい(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度は、可能な限り低く、すなわち、0mmol/l、または0mmol/lより大きい。部分範囲は、1〜35mmol/l、2〜30mmol/l、3〜25mmol/l、4〜20mmol/l、5〜15mmol/l、例えば、10mmol/lを含む。
【0282】
一般的に、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、上の範囲または部分範囲の下限だと、望ましくない物質、例えば重炭酸イオン、CO
2および炭酸イオンを血液から効率的に除去し、または抜き取ることができる。
【0283】
呼吸性アシドーシスの治療は、血液pHの調節を必要とする。したがって、この患者群を治療するための透析液は、適切には、本明細書に定義する通り、緩衝能が少なくとも12mmol/lになるように調節される。血液の酸素化と合わせたアシドーシス患者の治療は、典型的には、上述の通り、透析液への2,3−DPGの添加を必要とする。これは、アシドーシス患者が、典型的には、健康な被験体よりも2,3−DPGの産生が少ないからである。
【0284】
透析液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が低い(例えば、0mmol/lまたは0〜10mmol/l)場合、十分な量の透析液中の他の緩衝剤、典型的には、アルブミンと、場合によりTrisによって、主に、望ましい緩衝能が適切に与えられる。特に、透析液に炭酸イオン/重炭酸イオンが添加されない(すなわち、透析液中の炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が0mmol/lまたはほぼ0mmol/lである)場合、透析液中にTrisとアルブミンの両方が存在することが好ましい。これらの緩衝剤の濃度は、その緩衝能が血漿の緩衝能を超えるように選択される。これにより、血液pHの効率的な調節が可能になる。
【0285】
一連の治療にわたって、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を上げることも可能である。これにより、個々の必要性(個別の医薬)に治療を適合させることができる。
【0286】
半透膜を介してこのような透析液にさらされた後、血液は、典型的には、pHが7.40以上の範囲、例えば、7.40より高いが8.0以下、例えば、pH7.5〜7.9、またはpH7.6〜7.8、またはpH7.65〜7.75、例えば、7.7である。このような血液が、被験体に戻される。
【0287】
呼吸性アシドーシスを患う被験体(すなわち、肺での非効率的な除去に起因して、体液中に過剰な溶解したCO
2)では、腎臓は、多量の重炭酸イオンの生成によって、ある程度(例えば3週間)遅れて反応することが多いことが知られている。本発明によって、疾患の全経過の間、すなわち、主に体液から過剰なCO
2の除去が望ましい初期段階から、体液から過剰な重炭酸イオンの(さらなる)除去が望ましい末期段階まで、呼吸性アシドーシスを患う被験体を治療することができる。さらに、体液からの過剰なH
+イオンの除去は、この疾患の全ての段階で可能である。一連の治療の間、医師は、本明細書に与えられる助言に基づき、透析液の組成およびpHを変えることができる。一連の治療の間、本発明の範囲内(0〜40mmol/l)で、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を徐々に上げることも可能である。
【0288】
本発明の方法の酸素化工程は、ヘモグロビンからのH
+イオンとCO
2の放出に寄与する。この分子の理由は、上述の通り、ホールデイン効果の体外での利用である。したがって、ホールデイン効果に起因して、酸素化工程によって、血液からのこれらの望ましくない物質の除去が非常に効率的になる。このことは、従来技術の方法を上回る主な改善である。
【0289】
代謝性アシドーシスの治療
本発明は、代謝性アシドーシスを治療する方法も含む。代謝性アシドーシスは、分子レベルで、酸性有機分子の量の増加によって引き起こされ、代謝活性が増加した結果として有機酸(例えば、乳酸)の生成が増えることによって引き起こされるか、および/または腎臓による酸を排泄する能力の撹乱によって引き起こされる。慢性腎不全(CRF)における代謝性アシドーシスは、不揮発性酸を排泄する能力が低下し、重炭酸イオンの腎臓での合成が減り、それによって体内の水素カチオンが増加した結果である。これに限定されないが、有機酸は、例えば、タンパク質異化のアミノ酸残基に由来している場合があり、または飢餓状態の間または糖尿病性アシドーシスにおけるケト酸の蓄積(ケトーシス)に由来している場合がある。多くの場合に、罹患した体は、呼吸によって代謝性アシドーシスを補おうとする(呼吸性代償)が、不揮発性代謝物は、この経路によって排泄されず、罹患した被験体は、呼吸器不全を引き起こす極度疲労のリスクがある。本発明は、解決策を提供する。予防的な指標として、または治療的な指標として、すなわち、代謝性アシドーシスが重篤であり、もはや肺によって十分に補うことができない場合、本発明の方法による治療に適応があるとされる場合がある。
【0290】
代謝性アシドーシスを患う被験体の治療のために、高いpH、例えば、pH8.0〜11.0、好ましくはpH8.0〜9.0の透析液が望ましい。透析液の緩衝能は、血漿の緩衝能よりも高い。透析液の高いpHと、透析液の高い緩衝能を組み合わせると、血液pHを効率的に調節し、血液から重炭酸イオン、CO
2および炭酸イオンといった物質の正味の流れ(添加または除去)を最小限にすることできる。特に、この流れを、標準的な透析方法と比較して増やすことができる。
【0291】
血液の酸素化と合わせたアシドーシス患者の治療は、典型的には、上述の通り、透析液への2,3−DPGの添加を必要とする。これは、アシドーシス患者が、典型的には、健康な被験体よりも2,3−DPGの産生が少ないからである。このような透析液を、半透膜を通してさらした後、血液は、典型的には、血液pHを、ある範囲またはこの範囲を包含する値、すなわち、7.0〜7.8、7.2〜7.6または7.3〜7.5、7.35〜7.45、最も好ましくは正確に7.40または約7.40に調節するために望ましい範囲のpHを有する。
【0292】
正常な肺機能を有し、急性または慢性の代謝性アシドーシスを患う被験体を治療するために、透析液は、第2のチャンバに入る段階で、適切には、追加の緩衝剤として炭酸イオンを含む。適切な(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度は、20〜40mmol/l、好ましくは25〜35mmol/lの範囲、より好ましくは、正確に30mmol/lまたは約30mmol/lである。
【0293】
本発明は、呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスの組み合わせを特徴とする状態の治療も可能にする。透析液、特に、透析液中のpHおよび(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を、個々の必要性に合わせて調節することができるため、このことが可能である。
【0294】
しかし、急性または慢性の代謝性アシドーシスを患っているが、肺機能も不完全であることを特徴とする被験体サブグループを治療するために、透析液は、好ましくは、添加された炭酸イオン/重炭酸イオンを含有しない。この種の患者に適した透析液は、適切には、0〜5mmol/lの範囲(好ましくは0mmol/l)の濃度の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンを含む。緩衝能は、アルブミンのみによって与えられるか、または上に規定した濃度範囲内のアルブミンとさらなる適切な非炭酸イオン/非重炭酸イオン緩衝剤(例えばTris)によって与えられる。例えば、透析液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が、患者の血液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度と同じである場合、正味の炭酸イオン/重炭酸イオンの移動(すなわち、除去)は予想されないだろう。
【0295】
臓器の機能不全の組み合わせの治療と心血管疾患の治療
多くの場合、肺不全および/または肺での不十分な気体交換を患う被験体は、別の臓器の機能不全も患っている。本発明の方法は、このような被験体を治療するのにも適しており、したがって、これらの臓器を補助する。
【0296】
特に、心血管疾患を患う被験体では、特に、心臓の機能が損なわれており、そのため、血流が不十分な被験体では、肺への血液の輸送が非効率であることが多い。したがって、このような心血管状態を患うと、心血管状態の結果として、肺での不十分な気体交換、すなわち、肺での不十分な二酸化炭素の放出および/または肺での不十分な血液の酸素化も患う。
【0297】
本発明は、この結果(肺での不十分な気体交換)だけではなく、その理由(心血管疾患、例えば、損なわれた心臓の機能と、不十分な血流)も治療することができる。このことは、治療される被験体の静脈から血液を抜き、この血液を本発明の体外での肺補助に供し、血液を第1のチャンバを通って圧送することによって血液を被験体の動脈に戻すことによって、達成される。この目的のために、第1のチャンバの前または第1のチャンバの後にポンプが提供される。ポンプは、血液を体外での回路を通るように動き、したがって、心臓の損なわれた機能を少なくとも部分的に置き換える。
【0298】
上の観点で、本発明は、さらなる態様では、肺不全、呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、腎不全、心血管疾患、またはこれらの任意の組み合わせから選択される疾患の治療および/または予防における使用のための透析液を提供し、ここで、透析液は、
(i)アルブミン、好ましくは10〜60g/lのアルブミンを含み、
(ii)pHがpH6.8〜pH11の範囲であり、
(iii)酸素化されている。
【0299】
本発明の使用のためのこのような透析液の好ましい実施形態は、上述の透析液の好ましい実施形態および上述の過程および/または方法の好ましい実施形態に対応する。例えば、このような透析液は、好ましくは、本明細書に記載する透析液を酸素化するための方法によって酸素化される。
【0300】
好ましくは、「酸素化された」透析液は、溶解した酸素を含む。より好ましくは、「酸素化された」透析液中の溶解した酸素の量は、通常の条件で(すなわち、温度293.15K、圧力14.696psiで)、水中の溶解した酸素の量を超える。
【0301】
さらに、本発明は、ヒトまたは動物被験体を、療法によって治療する方法での使用のための透析液であって、
透析液は、pHがpH6.8〜pH11の範囲であり、透析液は、アルブミン、好ましくは10〜60g/lのアルブミンを含み、
前記使用は、好ましくは、
(i)前記被験体の静脈または動脈から血液を抜く工程と、
(ii)血液を、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法に供し、これによって透析液を使用する工程と、
前記被験体の動脈または静脈に血液を再び導入する工程とを含む、透析液も提供する。より好ましくは、透析液は、酸素化されている。
【実施例】
【0302】
以下の実施例は、例示の目的のために与えられる。これらの実施例は、本発明を限定しない。
【0303】
実施例1:1種類以上の緩衝剤を含む溶液の緩衝能
1種類以上の緩衝剤を含む種々の水溶液の緩衝能を実験的に試験した。これらの水溶液は、例示的な液体であり、その緩衝能は、本発明の透析液(透析物)または比較の目的のための透析液(透析物)に対応する。
【0304】
1A:液体の調製
これらの例示的な液体を、一般的に、以下のように調製した。
【0305】
本発明の例示的な透析液と、リファレンス液を調製するために、純水(浸透品質)を基剤として使用し、本発明の1種類以上の緩衝剤(アルブミンおよび/または重炭酸ナトリウム(「ソーダ」)および/またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris/THAM)を添加した。特に、アルブミン(以下に示す濃度で)および/または重炭酸イオン(以下に示す濃度で)および/またはTris(以下に示す濃度で)を水に溶解した。その後に、または同時に、pHを以下に示す値に調節した。必要な場合、アルブミンの添加とpH調節は、同時に行うことができる。ある場合に、アルブミンは、以下の表に示される所望なpH値またはその値付近でさらに迅速に溶解する。全ての緩衝剤が溶解した後に、任意の速度でpHをチェックし、必要な場合には、調節する。pH調節は、典型的には、酸性濃縮物(HCl水溶液)を添加することによって、および/または塩基性濃縮物(NaOH水溶液)を添加することによって行われる。
【0306】
比較のために、緩衝剤(アルブミン、炭酸イオン/重炭酸イオン、Tris)を添加しない溶液を調製した。これらの溶液のpHは、以下の表に示されるように、それぞれ7.45および9に調節された。
【0307】
さらなる比較のために、従来技術に記載される範囲内で、2種類の酢酸イオンを含有し、さらに重炭酸ナトリウムを含有する例示的な液体を調製した。詳細については、以下の表を参照。
【0308】
さらに、4種類の排他的なTrisを含有する例示的な液体を調製した。この目的のために、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン)の2種類の溶液を調製した。
− Tris 38mmol/l:溶解後の初期pH:pH10.45。
− Tris 20mmol/l:溶解後の初期pH:pH10.14。
【0309】
以下の表に示す通り、以下の表に示されるpH値(それぞれpH7.45またはpH9.0)に達するまで、HCl(0.1Mまたは0.2M)を添加した。それによって、Trisを含有する例示的な液体を調製した。
【0310】
例示的な液体を調製したとき、炭酸イオン(例えば、炭酸ナトリウム)を添加しなかった。しかし、pHの関数として、炭酸イオンと重炭酸イオンが動的平衡状態で存在することを理解されたい。したがって、特定の量の重炭酸イオン(例えば、20mmol/l)を添加し、特定のpH(例えば、pH9)に調節することによって作られた例示的な液体は、特定の合わせた重炭酸イオンおよび炭酸イオンの濃度を含むだろう(例えば、この場合には20mmol/l)。
【0311】
詳細には、以下の例示的な液体を調製した。
【表1】
【0312】
図1において、これら全ての液体を「透析物」と呼ぶ。それぞれの緩衝剤およびpHを示している。
【0313】
リファレンス(内部標準)として、血液血漿(「血漿」)の緩衝能を決定した。この目的のために、ブタ血液を以下のように試験した。第1に、重炭酸イオン濃度およびpHを決定し、平均重炭酸イオン濃度が24.2mmol/lであり、pHが7.45であることがわかった。第2に、細胞を含まない上澄みを得るために、前記血液を遠心分離処理した。細胞を含まない上澄みを血漿と呼んだ。
【0314】
図1において、これを「血液血漿」と呼ぶ。
【0315】
1B:緩衝能の決定
セクション1Aに記載した全ての液体(セクション1Aの第1表の液体、セクション1Aに記載される血漿)のH
+イオンに対する緩衝能を実験的に試験した。この目的のために、全ての液体(比較例の液体と、本発明の例示的な液体と、血漿)を、HClを用いた滴定に供した。特に、0.1M HClを加え、pHを連続的に監視し、確実に混合するために溶液を撹拌し、pHが最終値であるpH6.5に達したら滴定を終了した。言い換えると、pHが6.5の値に達したら滴定を止めた。pH6.5に達するまでに添加されたHClの量に基づき、緩衝能(mmol/l単位でのH
+イオン)を計算した。
【0316】
このアッセイによって決定された緩衝能を
図1に示す。
【0317】
血漿の緩衝能は、12.00mmol/l H
+イオンであると決定された。
【0318】
このアッセイで決定される場合、本発明の例示的な液体(第1表のNo3〜8に与えられる)は、血漿の緩衝能よりも優れた緩衝能(単位mmol/l)を特徴とすることが好ましい。
【0319】
したがって、本発明の透析液は、特に、本発明の透析液が正常なヒト血液のpHより高いpHを有する実施形態では、優れた緩衝能を与える。
【0320】
実施例2:カルシウム濃度
カルシウム(Ca
2+イオン)を含む透析液を使用し、透析液のpHをpH7.45〜pH9の範囲で変えた(
図3を参照)。透析液を、半透膜を介し、血液と接触させた。血液中のカルシウム濃度を決定した。
図3からわかるように、透析液中のカルシウム濃度が1.70mmol/lを超える場合であっても、血液中のカルシウムイオン濃度は、1.00〜1.70mmol/lの所望な範囲に維持される。このことは、本発明の透析液中のカルシウムイオン濃度が、適切に1.70mmol/lを超える範囲であることを示す。
【0321】
実施例3:血液の酸素化
5リットルのヘパリン化したブタ血液を、血液の流量200ml/分で、体外での血液回路モデル(Hepa Wash LK2001透析装置)に連続して圧送して流した。模式的に示すと、この血液を第1のチャンバ(
図2Aに1番で表される)に流した。この血液を、半透膜を介し、透析液と接触させた。
【0322】
血液をリサイクルした。しかし、肺補助を必要とする患者由来の脱酸素化された血液を模倣するために、また、第1のチャンバに入る血液のヘモグロビンの酸素飽和度を一定に保つために、血液を連続的に脱酸素化した。これにより、第1のチャンバに入る血液が約60〜70%の酸素飽和度(O
2Hb pre)を有することを確実にした(
図4を参照)。
【0323】
透析液は、pHが7.45であった。透析液の流量を1000ml/分に設定した。模式的に示すと、透析液を第2のチャンバに流した(
図2Aに2番で表される)。第2のチャンバに入る透析液は、以下のような構成であった。
【表2】
【0324】
酸素化のために、透析液が第2のチャンバに入る前に(
図2Aに12番によって模式的に表される位置で)、酸素を豊富に含む浸透水を常に透析液に流して開始した。酸素の濃度と初期速度を調節し、目標オキシヘモグロビン飽和度である約99%を達成した。浸透水の酸素富化は、本明細書に記載する方法のいずれか1つによって達成することができる。特定の場合には、浸透水の酸素富化は、高圧状態で酸素にさらし、その後、
図2Aに12番で模式的に表される位置で、このように富化された浸透水をキャピラリーを通って透析液に放出することによって達成された。
【0325】
図4は、この実験の成功を示す。
ヘモグロビンの酸素飽和度(単位%)を測定した(
図4にO
2Hb[%]として示される)。
O
2Hb pre:血液が第1のチャンバに入る前に測定されたヘモグロビンの酸素飽和度。
O
2Hb post:血液が第1のチャンバから出た後に測定されたヘモグロビンの酸素飽和度。
【0326】
この実施例は、本発明の方法によって、血液の非常に効率的で連続した酸素化が可能なことを示す。
図4に示される通り、第1のチャンバから出ていく血液のヘモグロビンの酸素飽和度は、一定して95%より高く、典型的には、ほぼ99%であった。