(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
82b位(Kabatによる)にシステイン残基を含む抗体重鎖可変ドメイン;433位(番号付けはKabatEUインデックスによる)にシステイン残基を有する抗体CH3ドメインである多量体化ドメイン;及び抗体軽鎖可変ドメインを含む融合ポリペプチドであって、
−該抗体重鎖可変ドメインは、多量体化ドメインの一方の末端に、直接的に又は第一のペプチドリンカーを介してのいずれかで、融合し、
−該抗体軽鎖可変ドメインは、多量体化ドメインのそれぞれの他方の末端に、直接的に又は第二のペプチドリンカーを介してのいずれかで、融合し、そして
−該抗体重鎖可変ドメインは、多量体化ドメインに対するペプチド内ジスルフィド結合を有し、該ジスルフィド結合が、該重鎖可変ドメインの82b位のシステイン残基と該多量体化ドメインとしての抗体CH3ドメインの433位のシステイン残基との間に存在する、
融合ポリペプチド。
VEGF、ANG2、PDGF、及びIL−1βからなる群より選択された1つの抗原に特異的に結合する、請求項1〜3のいずれか一項記載の融合ポリペプチド、又は請求項4〜6のいずれか一項記載の抗体。
【技術分野】
【0001】
完全長抗体と比較してとりわけ低い分子量を有しかつ2つの抗原結合部位を含む新規抗体フォーマット、並びに、その使用が本明細書に記載されている。
【0002】
技術的背景
加齢黄斑変性は、工業国で50歳以上の人々に不可逆的な盲目を引き起こす、最も一般的な眼疾患である。現在の治療法は、例えば、抗体/抗体フォーマットによるVEGF阻害に基づき、4〜6週間間隔で硝子体内への反復注射を必要とする。さらに、利用可能な抗VEGF単独療法に応答しない患者もいる。すでに証明されている抗VEGF医薬品及び/又は新規標的分子に基づき、処置の有効性及び安全性を高めかつ注射頻度を低下させる目的を有する、組合せ療法に関する徹底的な研究が実施されている。
【0003】
眼から薬物の排除を駆動する因子の1つは、拡散である。薬物の拡散特性は主に、最終的にはFc受容体との結合と組み合わせた、薬物のサイズによって決定される。
【0004】
眼から排除された後、薬物は、全身循環中に認められ得る。したがって、高用量の適用及び同時に眼からの多量の薬物の排除により、全身に薬物が曝され、これにより副作用の可能性のリスクが上昇する。
【0005】
野生型の4本鎖のY形の抗体フォーマットから誘導された新規抗体フォーマットが過去に開発されている。これらのフォーマットは主に、二重特異的及び多重特異的フォーマットである。総説については、例えば、Kontermann, R., mAbs 4 (2012) 182-197を参照されたい。
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2009/0175867号において、エフェクター機能を有する一本鎖多価結合タンパク質が開示されている。国際公開公報第2014/131711号では、第二及び第三の抗原結合部分が、Fcドメインに直接的に又は免疫グロブリンヒンジ領域を通して融合している可能性がある二重特異的抗体が開示されている。国際公開公報第2011/117329号では、二重特異的で二価の抗VEGF/ANG2抗体が開示されている。国際公開公報第2009/080253号は、二価の二重特異的抗体を開示している。
【0007】
発明の要約
本明細書には、新規治療剤を作製するための基盤としての役目を果たし得る、新規で2本鎖で低分子量の二価抗体が報告されている。このような抗体は、例えば、眼科的疾患、例えば加齢黄斑変性に使用することができる。なぜなら、それは眼科適用において改善された特性を有するからである。同様にこのフォーマットは、腫瘍疾患、神経疾患(血液脳関門の通過を含む)、及び抗炎症疾患にも適用を有し得る。
【0008】
とりわけ、鎖内ジスルフィド橋の導入が、本明細書に報告されているような新規二価抗体の安定性を増加させることが判明した。より詳細には、抗体可変ドメインの1つと、抗体定常ドメインとの間への鎖内ジスルフィド結合の導入により、例えば抗体の融点の上昇によって証明されるように、この新規抗体(フォーマット)の構造的安定性が改善された。
【0009】
本明細書に報告されているような1つの態様は、
a)N末端からC末端の方向に
i)第一の結合部位の第一の部分、
ii)第一の多量体化ドメイン、及び
iii)第二の結合部位の第一の部分
を含む第一のポリペプチド、並びに
b)N末端からC末端の方向に
i)第一の結合部位の第二の部分、
ii)第二の多量体化ドメイン、及び
iii)第二の結合部位の第二の部分
を含む第二のポリペプチド
を含む(二価)抗体であり、
ここで、第一の結合ドメインの第一の部分及び第一の結合ドメインの第二の部分は一緒に第一の結合部位を形成し、第二の結合ドメインの第一の部分及び第二の結合ドメインの第二の部分は一緒に第二の結合部位を形成し、
ここで、第一の結合部位及び第二の結合部位は、互いに独立して、(異なる)エピトープ/標的/抗原に特異的に結合し、そして
ここで、第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドは、互いに多量体化ドメインを介して非共有結合又は共有結合している。
【0010】
本明細書に報告されているような1つの態様は、
a)N末端からC末端の方向に
i)第一の結合部位の第一の部分、
ii)第一の多量体化ドメイン、及び
iii)第一の結合部位の第二の部分
を含む第一のポリペプチド、並びに
b)N末端からC末端の方向に
i)第二の結合部位の第一の部分、
ii)第二の多量体化ドメイン、及び
iii)第二の結合部位の第二の部分
を含む第二のポリペプチド
を含む(二価)抗体であり、
ここで、第一の結合部位の第一の部分及び第一の結合部位の第二の部分は一緒に(機能的な)第一の結合部位を形成し、第二の結合部位の第一の部分及び第二の結合部位の第二の部分は一緒に第二の(機能的な)結合部位を形成し、
ここで、第一の結合部位及び第二の結合部位は、互いに独立して、(異なる)エピトープ/標的/抗原に特異的に結合し、そして
ここで、第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドは、互いに多量体化ドメインを介して非共有結合又は共有結合/会合している。
【0011】
1つの実施態様では、第一及び第二の多量体化ドメインは、抗体ヒンジ領域又はその変異体若しくはその断片を含まない/含有していない。
【0012】
1つの実施態様では、第一及び第二の多量体化ドメインは各々、抗体CH3ドメイン又はその変異体若しくはその断片である。1つの実施態様では、CH3ドメインはヒトCH3ドメインである。1つの好ましい実施態様では、CH3ドメインは、ヒトIgG1 CH3ドメインである。1つの実施態様では、各々の多量体化ドメインは、好ましくはヒトIgG1アイソタイプのヒトCH2−CH3ドメイン対である。
【0013】
1つの実施態様では、第一又は第二の多量体化ドメインは、抗体CH1ドメイン又はその変異体若しくはその断片であり、それぞれの他方の多量体化ドメインは、抗体CLドメイン又はその変異体若しくはその断片である。1つの実施態様では、CH1ドメイン及びCLドメインは、ヒトCH1ドメイン及びヒトCLドメインである。1つの好ましい実施態様では、CH1ドメインはヒトIgG1 CH1ドメインであり、CLドメインはヒトκ又はλCLドメインである。
【0014】
1つの実施態様では、結合部位の部分は、抗体可変ドメインである。1つの実施態様では、結合部位の第一の部分は、抗体重鎖可変ドメインであり、結合部位の第二の部分は、抗体軽鎖可変ドメインであり、又はその逆である。1つの実施態様では、
−抗体重鎖可変ドメインは、多量体化ドメインの一方の末端に(直接的に又は第一の(ペプチド)リンカーを介してのいずれかで)融合し、
−抗体軽鎖可変ドメインは、多量体化ドメインのそれぞれの他方の末端に(直接的に又は第二の(ペプチド)リンカーを介してのいずれかで)融合し、
−抗体重鎖可変ドメイン又は抗体軽鎖可変ドメインは、多量体化ドメインに対する(ペプチド内/鎖内)ジスルフィド結合を有する。
【0015】
本明細書に報告されているような1つの態様は、抗体重鎖可変ドメイン、多量体化ドメイン、及び抗体軽鎖可変ドメインを含む(組換え)融合ポリペプチドであり、
ここで、
−抗体重鎖可変ドメインは、多量体化ドメインの一方の末端に(直接的に又は第一の(ペプチド)リンカーを介してのいずれかで)融合し、
−抗体軽鎖可変ドメインは、多量体化ドメインのそれぞれの他方の末端に(直接的に又は第二の(ペプチド)リンカーを介してのいずれかで)融合し、
−抗体重鎖可変ドメイン又は抗体軽鎖可変ドメインは、多量体化ドメインに対する(ペプチド内/鎖内)ジスルフィド結合を有する。
【0016】
全ての態様の1つの実施態様では、ジスルフィド結合が、抗体重鎖可変ドメインと多量体化ドメインとの間に存在する。
【0017】
全ての態様の1つの実施態様では、重鎖可変ドメインは、82b位(Kabatによる)にシステインアミノ酸残基を含み、ジスルフィド結合が、重鎖可変ドメインの82b位のシステイン残基と多量体化ドメインとの間に存在している。
【0018】
1つの実施態様では、多量体化ドメインは、抗体CH3ドメイン、又は抗体CH1ドメイン、又は抗体CLドメイン、又はその各々の断片若しくは変異体である(に由来する)。
【0019】
全ての態様の1つの好ましい実施態様では、多量体化ドメインは、433位(番号付けはKabatEUインデックスによる)にシステインアミノ酸残基を有する抗体CH3ドメイン又はその断片若しくは変異体であり、ジスルフィド結合が、重鎖可変ドメインの82b位のシステイン残基とCH3ドメインの433位のシステイン残基との間に存在している。
【0020】
1つの実施態様では、ポリペプチド又は融合ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、抗体重鎖可変ドメイン、多量体化ドメイン、及び抗体軽鎖可変ドメインを含む。
【0021】
1つの実施態様では、ポリペプチド又は融合ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、抗体軽鎖可変ドメイン、多量体化ドメイン、及び抗体重鎖可変ドメインを含む。
【0022】
全ての態様の1つの実施態様では、抗体可変ドメインは、ペプチドリンカーを介して、多量体化ドメインのそれぞれの末端に融合している。
【0023】
本明細書に報告されているような1つの態様は、本明細書に報告されているような2つの融合ポリペプチドからなる(二価)抗体である。
【0024】
本明細書に報告されているような1つの態様は、
a)第一の抗体重鎖可変ドメイン、
第一の抗体軽鎖可変ドメイン、及び
第一の多量体化ドメイン
を含む第一のポリペプチド、並びに
b)第二の抗体重鎖可変ドメイン、
第二の抗体軽鎖可変ドメイン、及び
第二の多量体化ドメイン
を含む第二のポリペプチド
を含む(二価)抗体であり、
ここで、第一及び第二の抗体可変ドメインは、第一の(機能的な)抗原/標的結合部位を形成している(同族)VH/VL対であり、第三及び第四の抗体可変ドメインは、第二の(機能的な)抗原/標的結合部位を形成している(同族)VH/VL対であり、
ここで、第一及び第二のポリペプチドは、互いに多量体化ドメイン内で共有結合又は非共有結合し、
ただし、第一及び第二の多量体化ドメインは、免疫グロブリンヒンジ領域を含まない。
【0025】
本明細書に報告されているような1つの態様は、
a)第一の抗体重鎖可変ドメイン、
第一の抗体軽鎖可変ドメイン、及び
第一の多量体化ドメイン
を含む第一のポリペプチド、並びに
b)第二の抗体重鎖可変ドメイン、
第二の抗体軽鎖可変ドメイン、及び
第二の多量体化ドメイン
を含む第二のポリペプチド
を含む(二価)抗体であり、
ここで、第一のポリペプチドの可変ドメインは、第一の標的に特異的に結合する第一の(機能的な)結合部位を形成し、第二のポリペプチドの可変ドメインは、第二の標的に特異的に結合する第二の(機能的な)結合部位を形成し、
ここで、第一及び第二のポリペプチドは、互いに多量体化ドメイン内で/多量体化ドメインによって共有結合又は非共有結合している。
【0026】
((二価)抗体の)1つの実施態様では、
−第一及び第二の多量体化ドメインは、抗体CH3抗ドメイン又はその断片若しくは変異体であるか、あるいは、
−多量体化ドメインの一方は抗体CH1ドメイン又はその断片若しくは変異体であり、それぞれの他方の多量体化ドメインは、抗体CLドメイン又はその断片若しくは変異体である。
【0027】
((二価)抗体の)1つの実施態様では、
−一方のCH3ドメインは、T366W突然変異を有し、他方のCH3ドメインは、T366S、L368A、及びY407Vの突然変異(番号付けはKabatEUインデックスによる)を有し、
−一方のCH3ドメインはさらに、Y349C突然変異を有し、他方のCH3ドメインはさらに、E356C又はS354Cの突然変異(番号付けはKabatEUインデックスによる)を有する。
【0028】
1つの実施態様では、抗体は二重特異的抗体である。
【0029】
1つの実施態様では、融合ポリペプチド又は抗体は、VEGF、ANG2、PDGF、及びIL−1βからなる群より選択された1つの抗原に特異的に結合する。
【0030】
1つの実施態様では、抗体は、VEGF、ANG2、PDGF、及びIL−1βからなる群より互いに独立して選択された2つの抗原に特異的に結合する。
【0031】
1つの実施態様では、多量体化ドメインは又は全ての多量体化ドメインは、抗体ヒンジ領域又はその変異体若しくは断片を含まない/含有しない。
【0032】
1つの実施態様では、CH3ドメインはヒトCH3ドメインである。1つの好ましい実施態様では、CH3ドメインはヒトIgG1 CH3ドメインである。1つの実施態様では、各々の多量体化ドメインは、ヒトIgG1 CH2−CH3ドメイン対である。
【0033】
1つの実施態様では、CH1ドメインはヒトCH1ドメインであり、CLドメインはヒトCLドメインである。1つの好ましい実施態様では、CH1ドメインはヒトIgG1 CH1ドメインであり、CLドメインは、ヒトκ又はλCLドメインである。
【0034】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、各々の多量体化ドメインは、非天然システイン残基を含有している抗体CH3ドメインである。1つの実施態様では、各々のCH3ドメインは、H433C突然変異(番号付けはKabatEUインデックスによる)を含有している。1つの実施態様では、各々のポリペプチドの重鎖可変ドメイン(のN末端部分)は、フレームワーク領域3(FR3)にシステイン残基を含む。1つの実施態様では、各々のポリペプチドの重鎖可変ドメイン(のN末端部分)は、82b位(番号付けはKabatによる)にシステイン残基を含む。1つの実施態様では、第一の結合部位の第一の部分(第一の結合部位の重鎖可変ドメイン)は、82b位にシステイン残基を含み、第二の結合部位の第一の部分(第二の結合部位の重鎖可変ドメイン)は、82b位(番号付けはKabatによる)にシステイン残基を含み、各々のCH3ドメインは、433位(番号付けはKabatEUインデックスによる)にシステイン残基を含む。
【0035】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、ペプチドリンカーが、結合部位の各々の部分と、それぞれの多量体化ドメインとの間に存在する。1つの実施態様では、各々のポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、結合部位の部分、第一のペプチドリンカー、多量体化ドメイン、第二のペプチドリンカー、及び結合部位の部分を含む。1つの実施態様では、第一及び第二のペプチドリンカーは、配列番号01及び配列番号02のアミノ酸配列を有する。1つの実施態様では、第一及び第二のペプチドリンカーは、配列番号03及び配列番号04のアミノ酸配列を有する。1つの実施態様では、第一及び第二のペプチドリンカーは、配列番号05及び配列番号06のアミノ酸配列を有する。1つの実施態様では、第一及び第二のペプチドリンカーは、配列番号07及び配列番号08のアミノ酸配列を有する。
【0036】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、第一の結合部位及び第二の結合部位は各々、抗体結合部位(重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの対)である。
【0037】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、第一の結合部位の第一の部分は、抗体軽鎖可変ドメインであり、第一の結合部位の第二の部分は、抗体重鎖可変ドメインであり、第二の結合部位の第一の部分は抗体軽鎖可変ドメインであり、第二の結合部位の第二の部分は、抗体重鎖可変ドメインである。
【0038】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、第一の結合部位の第一の部分は、抗体軽鎖可変ドメインであり、第一の結合部位の第二の部分は、抗体重鎖可変ドメインであり、第二の結合部位の第一の部分は、抗体重鎖可変ドメインであり、第二の結合部位の第二の部分は、抗体軽鎖可変ドメインである。
【0039】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、第一の結合部位の第一の部分は、抗体重鎖可変ドメインであり、第一の結合部位の第二の部分は、抗体軽鎖可変ドメインであり、第二の結合部位の第一の部分は抗体重鎖可変ドメインであり、第二の結合部位の第二の部分は抗体軽鎖可変ドメインである。
【0040】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、抗体軽鎖及び/又は重鎖可変ドメインは、完全長抗体可変ドメインである。完全長抗体可変ドメインは、以下のサブドメインを含む(N末端からC末端の方向に):FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4。
【0041】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、抗体軽鎖及び/又は重鎖可変ドメインは、短い抗体可変ドメインである。短い抗体可変ドメインは、少なくとも以下のサブドメインを含む(N末端からC末端の方向に):CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3。短い抗体可変ドメインはさらに、サブドメインFR1(C末端断片)及び/又はFR4(N末端断片)の断片を含み得る。1つの実施態様では、短い抗体可変ドメインは、2〜6個のC末端アミノ酸残基が不在/欠失している、完全長抗体可変ドメインである(すなわち、FR4サブドメインの2〜6個のC末端アミノ酸残基が存在していない)。
【0042】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、多量体化ドメインは、抗体CH3ドメインに由来する。1つの実施態様では、多量体化ドメインは、抗体CH3ドメイン又はその変異体若しくはその断片である。1つの好ましい実施態様では、一方のCH3ドメインは、T366Wの突然変異を含有し、他方のCH3ドメインは、T366S、L368A、及びY407Vの突然変異(番号付けはKabatEUインデックスによる)を含有している。別の実施態様では、一方のCH3ドメインはさらに、Y349C突然変異を含有し、他方のCH3ドメインはさらに、E356C又はS354Cの突然変異(番号付けはKabatEUインデックスによる)を含有している。
【0043】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、多量体化ドメインは、抗体CH1ドメイン−CLドメイン対から誘導されたドメイン対である。1つの好ましい実施態様では、一方の多量体化ドメインは、抗体CH1ドメイン又はその変異体であり、それぞれの他方の多量体化ドメインは抗体CLドメイン又はその変異体である。
【0044】
本明細書に報告されているような全ての態様の1つの実施態様では、抗体は二重特異的抗体である。
【0045】
本明細書に記載の全ての態様の1つの実施態様では、抗体は、VEGF、ANG2、PDGF、及びIL−1βを含む群から選択された抗原の1つに特異的に結合する。
【0046】
本明細書に記載の全ての態様の1つの実施態様では、抗体は、VEGF、ANG2、PDGF、及びIL−1βを含む群から選択された2つの抗原に特異的に結合する。
【0047】
本明細書に記載の全ての態様の1つの実施態様では、抗体は、VEGF及びANG2、又はVEGF及びPDGF、又はVEGF及びIL−1βの抗原に特異的に結合する。
【0048】
本明細書に報告されているような1つの態様は、医薬品としての使用のための本明細書に報告されているような(二価)抗体である。
【0049】
本明細書に報告されているような1つの態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体を含有している医薬製剤である。
【0050】
1つの実施態様では、医薬製剤は、眼血管疾患の処置に使用するためのものである。
【0051】
1つの実施態様では、眼血管疾患は、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症である。
【0052】
本明細書に報告されているような1つの態様は、医薬品の生産のための本明細書に報告されているような(二価)抗体の使用である。
【0053】
本明細書に報告されているような1つの態様は、医薬品として使用するための本明細書に報告されているような(二価)抗体である。
【0054】
1つの実施態様では、使用は、眼血管疾患の処置のためである。
【0055】
1つの実施態様では、眼血管疾患は、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症である。
【0056】
本明細書に報告されているような1つの態様は、医薬品の製造における本明細書に報告されているような(二価)抗体の使用である。
【0057】
1つの実施態様では、使用は、眼血管疾患の処置用医薬品の製造のためである。
【0058】
1つの実施態様では、眼血管疾患は、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症である。
【0059】
本明細書に報告されているような1つの態様は、眼血管疾患の処置のための本明細書に報告されているような(二価)抗体である。
【0060】
1つの実施態様では、眼血管疾患は、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症である。
【0061】
本明細書に報告されているような1つの態様は、眼血管疾患の処置に使用するための本明細書に報告されているような(二価)抗体である。
【0062】
1つの実施態様では、眼血管疾患は、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症である。
【0063】
本明細書に報告されているような1つの態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体をこのような処置を必要とする患者に投与することによる、眼血管疾患に罹患している患者の処置法である。
【0064】
1つの実施態様では、眼血管疾患は、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症である。
【0065】
本明細書に報告されているような1つの態様は、有効量の本明細書に報告されているような抗体を投与する工程を含む、眼血管疾患を有する個体の処置法である。
【0066】
本明細書に報告されているような1つの態様は、血管新生を抑制するために有効量の本明細書に報告されているような抗体を個体に投与する工程を含む、個体の眼における血管新生を抑制する方法である。
【0067】
発明の詳細な説明
加齢黄斑変性に対する新規な治療剤を作製するための基本的なフォーマットとしてとりわけ使用され得、一般的に眼科のための改善された特性を有する、新規抗体フォーマットが本明細書において報告されている。
【0068】
本明細書において報告する抗体フォーマット、すなわちオフタボディ(Ophthabody)は、伝統的な4本鎖の完全長抗体と比較して低い分子量を有する新規な二価で二重特異的な結合分子であり、他の低分子量の抗体フォーマットと比較して改善された特性を有する。
【0069】
I.定義
本明細書において、全ての抗体定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、CH3)のアミノ酸の位置は、Kabatの番号付け体系に従って示され(Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))、番号付けは、「Kabatによる番号付け」と称される。特に、Kabatの番号付け体系(Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)の647〜660頁参照)は、κ及びλアイソタイプの抗体軽鎖定常ドメイン(CL)の番号付けに使用され、KabatEU番号付けインデックスは、抗体重鎖の定常ドメインのために使用される(661〜723頁参照;CH1、ヒンジ、CH2、及びCH3)。
【0070】
本明細書に使用されているような「含んでいる」という用語は、「からなる」という用語を含むことをここに明白に記載する。したがって、「含んでいる」という用語を含有している全ての態様及び実施態様は同様に、「からなる」という用語を用いて開示される。
【0071】
「約」という用語は、その後に続く数値の+/−20%の範囲を示す。1つの実施態様では、約という用語は、その後に続く数値の+/−10%の範囲を示す。1つの実施態様では、約という用語は、その後に続く数値の+/−5%の範囲を示す。
【0072】
本明細書における「抗体」という用語は最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体、三重特異的抗体)、及び所望の抗原結合活性及び/又はプロテインA結合活性及び/又はFcRn結合活性を示す限りにおいて抗体断片を含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0073】
「抗体結合部位」という用語は、抗原との結合に関与する抗体のアミノ酸残基を示す。一般的には、これは、抗体重鎖可変ドメインと抗体軽鎖可変ドメインとの対である。抗体の抗原結合部位は、「超可変領域」すなわち「HVR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」すなわち「FR」領域は、本明細書において定義されているような超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。それ故、抗体の軽鎖及び重鎖の可変ドメインは、N末端からC末端に、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の領域(免疫グロブリンのフレームワーク)を含む。特に、重鎖のCDR3領域は、抗原との結合に最も寄与しかつ抗体を規定する領域である。
【0074】
「(抗原に)結合している」という用語は、抗体を表面に結合させたインビトロアッセイ、1つの実施態様では結合アッセイにおける、抗体のその抗原に対する結合を示し、抗体への抗原の結合は、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。結合は、10
−8M以下、いくつかの実施態様では10
−13〜10
−8M、いくつかの実施態様では10
−13〜10
−9Mの結合親和性(K
D)を意味する。
【0075】
結合は、ビアコアアッセイ(GEヘルスケアバイオセンサー(GE Healthcare Biosensor)社、ウプサラ、スウェーデン)によって調べることができる。結合親和性は、k
a項(抗体/抗原複合体に由来する抗体の会合速度定数)、k
d項(解離定数)、及びK
D項(k
d/k
a)によって定義される。
【0076】
本明細書において使用する「結合部位」という用語は、標的に対して結合特異性を示す2つの別々のドメインを含む、任意のタンパク質性の実体を示す。例えば、抗体結合部位は、少なくとも3つのHVRを含み、例えば天然に存在する抗体、すなわち慣用的な抗体の場合には、6つのHVRを含む。
【0077】
「ヒトIgG1 CH1ドメイン」という用語は、およそ118位(EU)から215位(EU)(KabatによるEU番号付け体系)まで伸びている、抗体重鎖ポリペプチドの部分を示す。1つの実施態様では、CH1ドメインは、配列番号25:
【化1】
のアミノ酸配列を有する。
【0078】
「ヒトIgG1 CH2ドメイン」という用語は、およそ231位(EU)から340位(EU)(KabatによるEU番号付け体系)まで伸びている、抗体重鎖ポリペプチドの部分を示す。1つの実施態様では、CH2ドメインは、配列番号23:
【化2】
のアミノ酸配列を有する。
【0079】
「ヒトIgG1 CH3ドメイン」という用語は、およそ341位(EU)から445位(EU)まで伸びている、抗体重鎖ポリペプチドの部分を示す。1つの実施態様では、CH3ドメインは、配列番号24:
【化3】
のアミノ酸配列を有する。
【0080】
「ヒトκCLドメイン」という用語は、およそ108位から214位(Kabat及びKabatEUインデックス)まで伸びている、抗体軽鎖ポリペプチドの部分を示す。1つの実施態様では、CLドメインは、配列番号21:
【化4】
のアミノ酸配列を有する。
【0081】
「ヒトλCLドメイン」という用語は、およそ108位から215位(Kabatによる)まで伸びている、抗体重鎖ポリペプチドの部分を示す。1つの実施態様では、CLドメインは、配列番号22:
【化5】
のアミノ酸配列を有する。
【0082】
抗体の「クラス」は、その重鎖によって保有される定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。5つの主要なクラスの抗体が存在し(IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IgA
1、及びIgA
2へとさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0083】
「同族VH/VL対」という用語は、抗原に特異的に結合する抗体結合部位を一緒に形成する、抗体重鎖可変ドメインと抗体軽鎖可変ドメインの対を示す。同族VH/VL対の抗体重鎖可変ドメイン及び抗体軽鎖可変ドメインは、単一の抗体に由来する。この単一の抗体は、例えば、単一の抗体分泌B細胞から単離され得るか、あるいは、単一のヒト若しくはヒト化抗体から、又はファージディスプレイから得ることができる。
【0084】
「フレームワーク」すなわち「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは一般的に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4からなる。したがって、HVR配列及びFR配列は一般的に、VH(又はVL)において以下の順序で出現する:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4。
【0085】
「完全長抗体」という用語は、天然抗体構造と実質的に類似した構造を有するか、又は本明細書に定義されているようなFc領域を含有している重鎖を有する抗体を示す。完全長抗体は、さらなるドメイン、例えば、完全長抗体の鎖の1つ以上にコンジュゲートさせたscFv又はscFabを含み得る。完全長抗体という用語はまた、これらのコンジュゲートも包含する。
【0086】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養液」という用語は互換的に使用され、外来性核酸が導入されている細胞(このような細胞の子孫も含む)を指す。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、これは初回形質転換細胞及び継代数に関係なくそれから誘導された子孫も含む。子孫は、親細胞に対して核酸含有物において完全に同一でなくてもよく、突然変異を含有していてもよい。初回形質転換細胞についてスクリーニングされた又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する子孫の突然変異体も本明細書に含まれる。
【0087】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基及びヒトFRに由来するアミノ酸残基を含む、キメラ抗体を指す。特定の実施態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、HVR(例えばCDR)の全て又は実質的に全てが、非ヒト抗体のそれに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のそれに対応する。ヒト化抗体は場合により、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含み得る。抗体、例えば非ヒト抗体の「ヒト化形」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0088】
本明細書において使用する「超可変領域」すなわち「HVR」という用語は、超可変的な配列(「相補性決定領域」すなわち「CDR」)でありかつ構造的に規定されたループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は、抗原と接触する残基(「抗原との接触部」)を含有している、抗体可変ドメインの各々の領域を指す。一般的には、抗体は、6つのHVRを含む;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)。本明細書に示されているようなHVRは
(a)アミノ酸残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、91〜96(L3)、26〜32(H1)、53〜55(H2)、及び96〜101(H3)に存在している超可変ループ(Chothia, C. and Lesk, A.M., J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917);
(b)アミノ酸残基24〜34(L1)、50〜56(L2)、89〜97(L3)、31〜35b(H1)、50〜65(H2)、及び95〜102(H3)に存在しているCDR(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242);
(c)アミノ酸残基27c〜36(L1)、46〜55(L2)、89〜96(L3)、30〜35b(H1)、47〜58(H2)、及び93〜101(H3)に存在している抗原との接触部(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));並びに
(d)HVRアミノ酸残基46〜56(L2)、47〜56(L2)、48〜56(L2)、49〜56(L2)、26〜35(H1)、26〜35b(H1)、49〜65(H2)、93〜102(H3)及び94〜102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組合せ
を含む。
【0089】
1つの実施態様では、HVR残基は、本明細書の何処か他の場所で同定されたものを含む。
【0090】
特記しない限り、HVR残基及び可変ドメイン内の他の残基(例えばFR残基)は、本明細書においてKabatEUインデックス番号付け体系(Kabat et al.、同上)に従って番号付けされる。
【0091】
「個体」又は「被験者」は哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えばヒト及びヒト以外の霊長類、例えばサル)、ウサギ、及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)が挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施態様では、個体又は被験者はヒトである。
【0092】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から分離された抗体である。いくつかの実施態様では、抗体は、例えば電気泳動(例えばSDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー又はイオン交換クロマトグラフィー若しくは逆相HPLC)によって決定したところ、95%又は99%以上の純度まで精製されている。抗体の純度の評価法の総説については、例えば、Flatman, S. et al., J. Chrom. B 848 (2007) 79-87を参照されたい。
【0093】
「単離された」核酸は、その天然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸としては、核酸分子を通常含有している細胞に含有されている核酸分子が挙げられるが、該核酸分子は染色体外に又はその天然の染色体の位置とは異なる染色体の位置に存在している。
【0094】
本明細書において使用する「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に相同な抗体の個体群から得られた抗体を指し、すなわち、個体群に含まれる個々の抗体は、例えば天然に生じる突然変異を含有しているか又はモノクローナル抗体調製物の作製中に生じる変異抗体候補を除いて(このような変異体は一般的に少数存在する)、同一である及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対して指向される異なる抗体を典型的には含む、ポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に相同な抗体個体群から得られた抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の生成を必要とするものと解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含有しているトランスジェニック動物を利用した方法を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製され得、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法及び他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0095】
「眼血管疾患」という用語は、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児網膜症、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、黄斑変性、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、網膜血管腫増殖、黄斑部毛細血管拡張症、虚血性網膜症、虹彩血管新生、眼内血管新生、角膜血管新生、網膜血管新生、脈絡膜血管新生、及び網膜変性などの眼内新生血管症候群を含むがこれらに限定されない(例えば、Garner, A., Vascular diseases, In: Pathobiology of ocular disease, A dynamic approach, Garner, A., and Klintworth, G.K., (eds.), 2nd edition, Marcel Dekker, New York (1994), pp. 1625-1710を参照)。
【0096】
「医薬製剤」という用語は、その中に含有される活性成分の生物学的活性が効果的であることを可能とするような剤形であり、製剤が投与されるであろう被験者に対して許容できない程に毒性である追加の成分を全く含有していない調製物を指す。
【0097】
「薬学的に許容される担体」は、被験者に対して無毒性である、活性成分以外の、医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体としては、緩衝剤、賦形剤、安定化剤、又は保存剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0098】
本明細書において使用する「ペプチドリンカー」という用語は、1つの実施態様では合成起源である、アミノ酸配列を有するペプチドを示す。「ペプチドリンカー」は、直鎖のアミノ酸残基を示す。この直鎖のアミノ酸残基は、1〜30残基の長さを有する。
【0099】
1つの実施態様では、ペプチドリンカーは、グリシン残基、グルタミン残基、及び/又はセリン残基が豊富である。これらの残基は、例えば、GS、GGS、GGGS、及びGGGGSなどの5個までのアミノ酸の小さな反復単位で整列している。小さな反復単位は、1〜5回繰り返されていてもよい。多量体単位のアミノ末端及び/又はカルボキシル末端に、6個までの追加の任意の天然アミノ酸が付加されていてもよい。
【0100】
ペプチドリンカーは1つの実施態様では、30個までの長さのアミノ酸残基を有する、1つの実施態様では5〜20個の長さのアミノ酸残基を有するアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの実施態様では、ペプチドリンカーは(GxS)nであり、ここでG=グリシン、S=セリン、(x=3、n=2、3、4又は5)又は(x=4、n=2、3、又は4)であり、1つの実施態様ではx=3、n=2であり、1つの実施態様ではx=4、n=2である。このペプチドリンカーはそれにも関わらず、その末端の一方又は両方に追加のグリシン残基及び/又はセリン残基を含み得る。
【0101】
他の合成ペプチドリンカーは、10〜20回繰り返される単一のアミノ残基から構成され、アミノ末端及び/又はカルボキシル末端に6個までの追加の任意の天然アミノ酸を含んでいてもよい。
【0102】
GSの豊富な合成ペプチドリンカーの他にも、天然ペプチドリンカー、例えばヒトP糖タンパク質のIgGヒンジリンカー、ヒト複製タンパク質AのC末端リンカー、副甲状腺ホルモン関連タンパク質のリンカーも使用してもよい。
【0103】
全てのペプチドリンカーは核酸分子によってコードされ得、それ故、組換え発現させることができる。リンカーはそれ自体がペプチドであるので、リンカーによって接続されたポリペプチドは、2つのアミノ酸間で形成されたペプチド結合を介してリンカーに接続されている。
【0104】
「組換え」又は「組換え産生された」という用語は、組換え手段によって調製されるか、発現されるか、作製されるか、又は単離されるポリペプチドを示す。これは、NS0若しくはCHO細胞などの宿主細胞から又はトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離されたポリペプチド、あるいは、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現させたポリペプチドを含む。
【0105】
本明細書において使用する「処置」(及びその文法上の変化形、例えば「処置する」又は「処置している」)は、処置される個体の自然経過を改変させようとする試みの中での臨床的介入を指し、予防のため又は臨床的病的状態の経過中のいずれかに実施され得る。望ましい処置効果としては、疾患の発生又は再発の予防、症状の軽減、疾患のあらゆる直接的又は間接的な病的結果の減少、転移の予防、疾患進行速度の減少、疾患状態の回復又は緩和、及び寛解又は改善された予後が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施態様では、本明細書において報告されているような抗体又はFc領域融合ポリペプチドは、疾患の発症を遅延させるために又は疾患の進行を緩徐化するために使用される。
【0106】
本出願に使用される「価」という用語は、(抗体)分子内の具体的な結合部位の数の存在を示す。したがって、「二価」、「四価」及び「六価」という用語は、(抗体)分子におけるそれぞれ2つの結合部位、4つの結合部位、及び6つの結合部位の存在を示す。本明細書に報告されているような二重特異的抗体は、1つの好ましい実施態様では「二価」である。
【0107】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体とその抗原との結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は一般的に類似した構造を有し、各ドメインは、4つのフレームワーク領域(FR)及び3つの超可変領域(HVR)を含む(例えば、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y. (2007), page 91を参照)。単一のVHドメイン又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体を、抗原に結合する抗体に由来するVHドメイン又はVLドメインを使用して単離し、これによりそれぞれ相補的VLドメイン又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングし得る。例えば、Portolano, S. et al., J. Immunol. 150 (1993) 880-887; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628を参照されたい。
【0108】
本明細書において使用する「ベクター」という用語は、それが連結されている別の核酸を増幅させることのできる核酸分子を指す。該用語は、自己複製している核酸構造としてのベクター、並びに、それが導入されている宿主細胞のゲノムに取り込まれたベクターを含む。特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている核酸の発現を指令することができる。このようなベクターは本明細書において「発現ベクター」と称される。
【0109】
II.硝子体液/硝子体
眼の大半の空間を充填するマトリックスは、硝子体液/硝子体として示される。
【0110】
ヒトの硝子体液は、水晶体と網膜との間に位置する眼の後方区画を充填する透明な水溶液である。それは眼球の容積の約80%を占め、99%の水分を含むが、コラーゲン線維ネットワーク及び大きなヒアルロン酸分子に因り生誕時にはゲル様構造を有する。その容積は約4〜5mlである(Beauthier, J.P., (2008) Quelques aspects biochimiques de l’e ´volution post mortem. In: De Boeck Universite ´ [Ed]. Traite ´ de me ´de- cine le ´gale. Bruxelles: 715-725)。硝子体液は、無機塩、糖、及びアスコルビン酸をはじめとする、いくつかの低分子量の溶質を含有している。ヒト硝子体におけるタンパク質総濃度は、約1200μg/mlであり、その中でコラーゲンは180μg/mlを占める(例えば、Aretz, S., et al., Prot. Sci. 11 (2013) 22; Theocharis, A.D., et al., Biochim. 84 (2002) 1237-1243を参照)。主にアルブミン(60〜70%)からなる、0.5mg/mLという健康な硝子体液の平均タンパク質濃度が、Angi, M., et al.(Hindawi Publishing Corporation, Mediators of Inflammation, Volume 2012, Article ID 148039)によって報告されている。さらに、そこには、硝子体液の成分が、グロブリン、凝固タンパク質、補体因子、及び低分子量タンパク質であることが報告されている(Ulrich, J.N., et al., Clin. Exp. Ophthalmol. 36 (2008) 431-436)。毛様体は、後眼部への水性流体の拡散、限外ろ過、及び能動輸送により、定常的な流体交換を提供する(Bishop, P.N., Eye, 16 (2002) 454-460)。局所的な分泌(例えば糖タンパク質)、血液からのろ過(例えばアルブミン)、又は周辺組織からの拡散によりタンパク質が硝子体に蓄積し得る(Wu, C.W., Am. J. Ophthalmol., 137 (2004) 655-661)。硝子体と網膜内層との間の近密な接触のために、網膜の生理学的及び病理学的状態は、プロテオームと硝子体液の生化学的特性との両方に影響を及ぼす。
【0111】
III.黄斑変性
眼科は、眼疾患及びその処置に関する医学の一部門である。眼科の分野においては、罹患したヒトの視力に大きな影響を及ぼし、頻繁に盲目に至る、数多くの深刻な疾患が存在する。糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、及び加齢黄斑変性(AMD)に、ドイツだけでほぼ500万人が罹患し、罹患者数は増え続けている([1])。AMDは、世界中で3番目に多い眼疾患である。それは視力の深刻な障害をもたらし、症例の8.7%は全盲にさえ至る([2]、[3])。工業国では、それは50歳以上のヒトにおいて最も多い眼疾患であり、不可逆的な盲目を引き起こす([4]、[5])。1億9600万人の人々が、2020年までにAMDに罹患するだろうと推定されている([6])。
【0112】
AMDは、慢性的に進行する疾患であり、これはいくつかの段階に分類され得る。初期の段階では、加齢の過程、及び網膜色素上皮とブルッフ膜(これは脈絡膜(脈絡組織)と網膜色素上皮の間の境界膜を示す)との間の網膜下(腺)への異化産物の沈着物に因る、網膜色素上皮(RPE)の変化が起こる。進行すると、AMDの2つの後期段階が発生し得る。特定の段階で、該疾患により、地図状萎縮とも称される、緩徐に進行性のドライ型AMDが起こり得る。これにより、最も鮮明な視力の点である「黄斑(yellow spot)」(ラテン語:黄斑(macula lutea)におけるRPEの分解、及び、脈絡膜における血管の破壊が起こる。あまり頻繁に起こらない段階は、急速に進行するウェット型AMDであり、これは、網膜下空間における新生血管の内部増殖である、脈絡膜血管新生によって特徴付けられる。これにより、血漿及び血液が周辺組織へと回避する([4]、[7])。ドライ型AMD及びウェット型AMDのどちらによっても光受容体の死滅が起こり、中心視力の低下が引き起こされる。
【0113】
疑われている様々なAMDの原因がある。ブルッフ膜、網膜色素上皮、及び光受容体の非特異的な加齢に関連した変化に加えて、主に酸化ストレス、補体系の機能異常、局所的炎症、網膜への毒素の蓄積を伴うリソソームによる分解の減少、及び血管内皮増殖因子(VEGF)の過剰発現の発生が考察されている。上昇したVEGF濃度が、脈絡膜血管新生を有する患者の房水及び網膜に検出されている。さらに、数多くのインビボモデルが、脈絡膜血管新生の発症とVEGF発現との間の関係を示している([4])。
【0114】
VEGFは、現在のAMD療法の主要な着目点である([7])。VEGFの阻害は、疾患の進行を停止し得るか又は少なくとも遅延し得る([8])。これは一般的に、硝子体への月1回のVEGF阻害剤の硝子体内(硝子体内への)注射を必要とする。利用可能な療法により時々、患者の状況は大きく改善されたが、新規な最適化された治療法が依然として非常に必要とされている。
【0115】
現在の臨床研究は、VEGF及び他の血管新生増殖因子、例えばアンジオポエチン−2(ANG2)を阻害する分子に焦点が当てられている。研究によりまた、抗VEGF療法の起こり得る副作用である、体内における出血リスクの上昇も示される。
【0116】
IV.硝子体内半減期
医薬品の硝子体内半減期、及びそれによる硝子体内注射回数は、とりわけ、眼における医薬品の拡散特性及びその安定性によって決定される。
【0117】
拡散特性は、主に、分子の分子量及び水力学的半径によって規定される。これらは、眼から全身循環中への分子の移動速度に影響を及ぼす。これは特に、血液網膜関門がもはや完全にインタクトではない、AMD患者にとって関連がある。眼における滞留時間は、より高い分子量を有する分子が注射されれば長いであろうが、同時に、医薬品への全身曝露の時間も増加するだろう。これは、副作用の発症を促進する可能性がある。全身曝露期間は、主に注射された分子の分子量の関数である。60kDa未満の分子量を有する分子は、腎臓を介して迅速に排泄され;より大きな分子は、全身循環中でより長い時間を費やす。最も効率的なろ過は、30kDa未満の分子量で観察される([10])。
【0118】
熱的安定性は、化合物がどれだけ長く、インビボ条件下で正しく折り畳まれた状態で留まるかどうかを決定する。その熱的安定性のみが異なる2つの分子の半減期を比較することにより、より高い熱的安定性を有する分子が、より長い時間におよびその活性を維持することが示されるだろう。
【0119】
硝子体内における半減期が長ければ、より頻度の少ない注射が必要とされ、全身循環中の半減期が短ければ、少ない全身曝露が起こり得、両方を組み合わせれば、増加した効力及び低減された副作用が期待される。
【0120】
長い硝子体内半減期は、
−高い分子量(IgG、例えばPEGを、ディアボディ、Fabなどのより小さなフォーマットに付加)、
−標的に対する高い親和性及び結合力(より低い有効薬物濃度により、より頻度の少ない投薬が行なわれる)、
−37℃での高い熱的安定性、
−硝子体液及び血液網膜関門(BRB)を横断する分子の拡散の減少、
−最適な荷電又はpI
によって達成され得る。
【0121】
急速な全身クリアランスは、
−FcRnへの結合を低減させるために、Fc領域を工学操作すること、
−(より)低い分子量(Fab、ディアボディ、DARPIN)、
−低い投薬用量(用量は親和性にも依存する)
によって達成され得る。
【0122】
薬物の硝子体内半減期及び持続性は、とりわけ、例えば薬物の水力学的半径の増加(これにより、眼からの拡散を減速させる)、その標的に対する薬物の高い親和性(これにより、薬物−標的複合体の解離は低減する)、眼における高い(熱的)分解安定性、及び注射可能な高用量などの様々な手段によって増加させることができる。
【0123】
持続性に影響を及ぼすと考えられる主な因子は、用量(適用可能な用量の増加により、確実に持続性が増す)、半減期(半減期の延長により、確実に持続性が増す)、及び標的に対する親和性(K
Dによって示される)(親和性の増加により、確実に持続性が増す)である。
【0124】
V.抗体フォーマット
一価の単一特異的な抗原結合断片(Fab)は、完全な軽鎖、並びに、重鎖のVHドメイン及びCH1ドメインを含む。Fabは、約50kDaの分子量を有する。
【0125】
一価の単一特異的な一本鎖可変断片(scFv)は、VLドメイン及びVHドメイン及びその間に可動性リンカーを含む、単一ポリペプチド鎖である。scFvの分子量は約28kDaである。
【0126】
約50kDaの分子量を有するディアボディは、scFvに由来する二価の二重特異的な分子フォーマットである。
【0127】
完全長モノクローナル抗体(約150kDaの分子量)より少ない分子量を有する断片は、組織へのより良好な浸透を示す。しかしながら、これらの分子の全身半減期は、他の因子の中でもとりわけ、低い分子量が原因で大きく減少する。ディアボディ及びscFvの両方共が、短い全身半減期を有する。なぜなら、それらは腎ろ過閾値未満であるからである([11]、[12]、[13])。
【0128】
様々な分子特性が、眼科の分野において重要である。一方で、できるだけ多くの分子を眼に導入するためには高い投薬量レベルが望ましい。これは重要である。なぜなら、現在、50μLの容量しか、硝子体内に注射することができないからである。また、全身循環からの迅速な排除も望ましい。さらに、抗原に対する高い親和性及び硝子体内半減期も重要である。
【0129】
VI.本明細書に記載のような抗体フォーマット
本明細書に報告されているような(二価)抗体は、「オフタボディ」と呼ばれる新規抗体フォーマットである。それは、Fab断片よりも僅かにより高い分子量を有し、それ故、おそらく、幾分より長い硝子体内半減期を有するだろう。他方でそれは依然として、腎臓を介して全身循環から迅速に除去されるのに十分なほどに小さくあるべきである。高い熱的安定性と組み合わせた低分子量及び分子構造により、改善された特性が得られる。この理論に束縛されるものではないが、IgGと比較してより低い分子量により、組織への浸透も改善され得る。
【0130】
オフタボディは、2本の異なるポリペプチド鎖から作製される。それらの各々は3つのドメインを含み、これは、互いに直接的にコンジュゲートしていても、又はペプチドリンカーを介してコンジュゲートしていてもよい。各ポリペプチドのN末端ドメイン及びC末端ドメイン又は該ポリペプチドの対応するドメインは、結合部位を形成する。したがって、オフタボディは、2つの結合部位を有し、すなわちそれは二価である。それ故、オフタボディは、単一特異的又は二重特異的であり得る。各鎖の第三ドメイン及び中央ドメインは、多量体化ドメインである。このドメインを介して2つのポリペプチドが互いに会合している。このような多量体化ドメインは、例えば、ロイシンジッパードメイン、ヘリックス−ループ−ヘリックスドメイン、PB1ドメイン、CH1−CLドメイン対、及びCH3ドメイン対であり得る([14])。どの場合でも二量体化ドメインは、抗体ヒンジ領域ポリペプチドの対ではない。
【0131】
【表1】
【0132】
一例において、アンジオポエチン−2が抗原1として選択され、VEGFが抗原2として選択された。本明細書において報告されたオフタボディフォーマットの様々な抗体変異体が設計され、その結果、7つの異なるタンパク質が得られ、タンパク質Iは、基本の変異体を示す。
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
HA(アンジオポエチン2に特異的に結合する第一ポリペプチド)とKV(VEGFに特異的に結合する第二ポリペプチド)の対応する対は、それらのCH3ドメインを介して互いに会合し、オフタボディを形成する。変異体VIIでは、追加のシステイン残基を導入することにより、安定化した鎖内ジスルフィド橋が形成された。ジスルフィド橋が、1つのポリペプチド内におけるN末端ドメインと多量体化ドメインとの間で形成されている。同様に、C末端ドメインと多量体化ドメインとの間にも工学操作してもよい。
【0138】
ルシフェラーゼアッセイ(レポーター遺伝子アッセイ)を使用して、オフタボディ変異体がどのように良好に、VEGFによってトリガーされたシグナルカスケードを妨げるかを決定するために試験を実施した(EC50=半数効果濃度;最大効果の50%に到達する濃度)。
【0139】
【表6】
【0140】
キナーゼ受容体活性化アッセイを使用して、オフタボディ変異体がどのように良好に、ANG2によってトリガーされた抗原受容体の自己リン酸化を妨げるかを決定するために試験を実施した(EC
50=半数効果濃度;最大効果の50%に到達する濃度)。
【0141】
【表7】
【0142】
全てのオフタボディ変異体は、両方の抗原に同時に結合することができる。
【0143】
様々な抗体の熱的安定性は、凝集開始温度(T
agg)及び融点(T
m)を決定することによって評価された(以下の表を参照)。オフタボディ構築物と同じVH配列及びVL配列を使用した、scFv−CH3−ミニボディ、ディアボディ、及び直列型ジ−scFvについてのそれぞれの数値も決定した。
【0144】
【表8】
【0145】
ジスルフィドの安定化されたオフタボディは、増加した熱的安定性を有することが分かる。
【0146】
全てのオフタボディ変異体は、良好な結果で作製された。
【0147】
【表9】
【0148】
文献の引用
【表10】
【0149】
VII.生成
本明細書に報告されているような(二価)抗体は、組換え手段によって生成される。したがって、本明細書に報告されているような1つの態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体をコードしている核酸であり、さらなる態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体をコードしている核酸を含む細胞である。組換え産生のための方法は、最先端の技術分野において広く知られており、原核細胞及び真核細胞におけるタンパク質の発現、続いて、(二価)抗体の単離、及び通常は薬学的に許容できる純度までの精製を含む。宿主細胞における前記のような(二価)抗体の発現のために、それぞれの(改変された)軽鎖及び重鎖をコードしている核酸を、標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。発現を、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母細胞、又は大腸菌(E.coli)細胞のような適切な原核宿主細胞又は真核宿主細胞において実施し、(二価)抗体を、細胞(培養上清又は溶解後の細胞)から回収する。抗体の一般的な組換え産生法は最先端の技術分野において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202, Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282, Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160、及びWerner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説論文に記載されている。抗体はまた、例えば、米国特許第4,816,567号に記載のような組換え法及び製剤を使用して産生されてもよい。
【0150】
1つの実施態様では、本明細書に記載のような(二価)抗体をコードしている単離された核酸(群)が提供される。このような核酸は、(二価)抗体の第一のポリペプチドを含むアミノ酸配列及び/又は第二のポリペプチドを含むアミノ酸配列をコードし得る。さらなる実施態様では、このような核酸を含む1つ以上のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。さらなる実施態様では、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。1つのこのような実施態様では、宿主細胞は、(1)(二価)抗体の第一のポリペプチドを含むアミノ酸配列及び(二価)抗体の第二のポリペプチドを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)(二価)抗体の第一のポリペプチドを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一のベクターと、(二価)抗体の第二のポリペプチドを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、それを用いて形質転換されている)。1つの実施態様では、宿主細胞は、真核細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ球系細胞(例えばY0細胞、NS0細胞、Sp20細胞)である。1つの実施態様では、本明細書に報告されているような(二価)抗体を作製する方法が提供され、該方法は、上記に提供されているような(二価)抗体をコードしている核酸を含む宿主細胞を、(二価)抗体の発現に適した条件下で培養し、場合により、宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から(二価)抗体を回収する工程を含む。
【0151】
したがって、本明細書に報告されているような1つの態様は、
a)(二価)抗体をコードしている核酸分子を含む1つ以上のベクターを用いて宿主細胞を形質転換する工程、
b)宿主細胞を、(二価)抗体の合成を可能とする条件下で培養する工程、及び
c)培養液から(二価)抗体を回収する工程
を含む、本明細書に報告されているような(二価)抗体の調製法である。
【0152】
1つの実施態様では、c)の下での回収工程は、Fc領域特異的捕捉試薬の使用を含む。1つの実施態様では、Fc領域特異的捕捉試薬は、結合そして溶出の様式で使用される。このようなFc領域特異的捕捉試薬の例は、例えば、ブドウ球菌プロテインAに基づいたアフィニティクロマトグラフィー材料である。
【0153】
(二価)抗体は、例えばアフィニティクロマトグラフィー(プロテインA−セファロース)、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、又は透析などの慣用的な免疫グロブリン精製手順によって、培養培地から適切に分離される。
【0154】
モノクローナル抗体結合部位をコードしているDNA及びRNAは、慣用的な手順を使用して容易に単離及びシークエンスされる。B細胞又はハイブリドーマ細胞は、このようなDNA及びRNAの入手源としての役目を果たし得る。一旦単離されると、DNAを発現ベクターに挿入し得、これを次いで、さもなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しないHEK293細胞、CHO細胞、又は骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトすることにより、宿主細胞における組換えモノクローナル(二価)抗体の合成が得られる。
【0155】
本明細書に報告されているような分子のいくつかは、異なって改変されているFc領域を含むことによって単離/精製し易さを提供し、改変の少なくとも1つにより、i)(ブドウ球菌)プロテインAに対する分子の異なる親和性、及びii)ヒトFcRnに対する分子の異なる親和性がもたらされ、該分子は、プロテインAに対するその親和性に基づき、破壊された細胞から、培地から、又は分子の混合物から単離することができる。
【0156】
細胞性成分又は他の混入物、例えば他の細胞内核酸又はタンパク質を排除するために、(二価)抗体の精製が、アルカリ/SDSによる処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、及び当技術分野において周知であるその他の技術をはじめとする標準的な技術によって実施される(例えば、Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照)。微生物タンパク質を用いてのアフィニティクロマトグラフィー(例えばプロテインA又はプロテインGアフィニティクロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば陽イオン交換クロマトグラフィー(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換クロマトグラフィー(アミノエチル樹脂)及び混合型の交換クロマトグラフィー)、チオ親和性吸着(例えばβ−メルカプトエタノール及び他のSHリガンドを用いての)、疎水性相互作用クロマトグラフィー又は芳香族吸着クロマトグラフィー(例えばフェニル−セファロース、アザアレン親和性樹脂、又はm−アミノフェニルボロン酸を用いての)、金属キレート親和性クロマトグラフィー(例えばNi(II)及びCu(II)親和性材料を用いての)、サイズ排除クロマトグラフィー、及び電気泳動法(例えばゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)などの、タンパク質の精製のための様々な方法が確立され、広く使用されている。
【0157】
二価抗体をコードしているベクターのクローニング又は発現に適した宿主細胞としては、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞が挙げられる。例えば、(二価)抗体は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合には細菌内で産生されてもよい。細菌内でのポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、米国特許第5,789,199号及び米国特許第5,840,523号を参照されたい(E.coliにおける抗体断片の発現を記載した、Charlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2003), pp. 245-254も参照されたい)。発現後、(二価)抗体は、可溶性画分内の細菌細胞ペーストから単離され得、さらに精製され得る。
【0158】
原核細胞に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物、例えば、そのグリコシル化パターンが「ヒト化」されて、その結果、部分的な又は完全なヒトグリコシル化パターンを有する(二価)抗体が産生されるような真菌株及び酵母株が、(二価)抗体をコードしているベクターに適したクローニング宿主又は発現宿主である。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414; and Li, H. et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照されたい。
【0159】
グリコシル化(二価)抗体の発現に適した宿主細胞も、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)から得られる。無脊椎動物の例としては、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。特にヨウトガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために昆虫細胞と共に使用され得る、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0160】
植物細胞培養液も宿主として使用され得る。例えば、米国特許第5,959,177号、米国特許第6,040,498号、米国特許第6,420,548号、米国特許第7,125,978号、及び米国特許第6,417,429号(トランスジェニック植物における抗体の産生のためのプランチボディーズ(PLANTIBODIES)(商標)技術を記載している)を参照されたい。
【0161】
脊椎動物細胞も宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中での増殖に適応させた哺乳動物細胞株も有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換させたサル腎臓CV1株(COS−7);ヒト胚腎臓株(例えばGraham, F.L., et al., J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74に記載のようなHEK293細胞又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えばMather, J.P., Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252に記載のようなTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(HepG2);マウス乳房腫瘍(MMT060562);例えばMather, J.P., et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68に記載のようなTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばDHFR
−CHO細胞(Urlaub, G., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220);及び骨髄腫細胞株、例えばY0、NS0及びSp2/0が挙げられる。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2004), pp. 255-268を参照されたい。
【0162】
VIII.医薬製剤
本明細書に報告されているような(二価)抗体は、価値ある有効性/安全性プロファイルを有し得、それぞれの療法を必要としている患者にとって利点を提供し得る。
【0163】
1つの態様では、医薬品としての使用のための本明細書に報告されているような(二価)抗体が提供される。
【0164】
さらなる態様では、本発明は、医薬品の製造又は調製における(二価)抗体の使用を提供する。任意の実施態様による「個体」はヒトであってもよい。
【0165】
さらなる態様では、本発明は、例えば本明細書で概略が示されている治療法のいずれかに使用するための、本明細書において提供される(二価)抗体のいずれかを含む医薬製剤を提供する。1つの実施態様では、医薬製剤は、本明細書において提供される(二価)抗体のいずれか及び薬学的に許容される担体を含む。
【0166】
本明細書に報告されているような1つの態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体を含む医薬製剤である。
【0167】
本明細書に記載のような(二価)抗体の医薬製剤は、所望の純度を有するこのような(二価)抗体を、1つ以上の任意選択の薬学的に許容される担体(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980))と混合することによって、凍結乾燥製剤又は水性液剤の剤形で調製される。薬学的に許容される担体は、一般的に、使用される用量及び濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、これには、緩衝液、例えばリン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸及びメチオニン;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコール、又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルパラベン又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリ(ビニルピロリドン);アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジン;単糖、二糖、及び他の糖質、例えばグルコース、マンノース、又はデキストリン;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロース、又はソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えばZn−タンパク質錯体);並びに/あるいは、非イオン性界面活性剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書における例示的な薬学的に許容される担体としてはさらに、間質薬物分散剤、例えば可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばヒト可溶性PH−20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrhuPH20(ヒレネックス(HYLENEX)(登録商標)、バクスターインターナショナル社)が挙げられる。rhuPH20をはじめとする、特定の例示的なsHASEGP及び使用法は、米国特許出願公開第2005/0260186号及び米国特許出願公開第2006/0104968号に記載されている。1つの態様では、sHASEGPを、コンドロイチナーゼなどの1つ以上の追加のグリコサミノグリカナーゼと配合する。
【0168】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤としては、米国特許第6,171,586号及び国際公開公報第2006/044908号に記載されたものが挙げられ、後者の製剤は、ヒスチジン−酢酸塩緩衝液を含む。
【0169】
活性成分は、例えばコアセルベーション技術によって又は界面重合によって調製されたマイクロカプセルに、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子、及びナノカプセル)に、又はマクロエマルションに封入され得る。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.)(1980)に記載されている。
【0170】
持続放出調製物を調製してもよい。持続放出調製物の適切な例としては、(二価)抗体を含有している半透過性の固形疎水性ポリマーマトリックスが挙げられ、該マトリックスは、例えばフィルムなどの造形品又はマイクロカプセルの形である。
【0171】
インビボでの投与に使用しようとする製剤は一般的に無菌である。滅菌は、例えば、滅菌ろ過膜を通してのろ過によって容易に達成され得る。
【0172】
本明細書に報告されているような別の態様は、医薬製剤の製造のための本明細書に報告されているような(二価)抗体の使用である。本明細書に報告されているようなさらなる態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体を含む医薬製剤の製造法である。別の態様では、例えば薬学的な担体と一緒に製剤化された本明細書に報告されているような(二価)抗体を含有している医薬製剤などの製剤が提供される。
【0173】
本発明の製剤は、当技術分野において公知である様々な方法によって投与され得る。当業者には理解されるであろうように、投与経路及び/又は投与様式は、所望の結果に応じて変更されるだろう。特定の投与経路によって本明細書に報告されているような(二価)抗体を投与するために、(二価)抗体をその不活化を防ぐための材料でコーティングするか又は(二価)抗体を該材料と共投与することが必要であり得る。例えば、適切な担体、例えばリポソーム又は希釈剤中の(二価)抗体が、被験者に投与され得る。薬学的に許容される希釈剤としては、食塩水及び緩衝水溶液が挙げられる。薬学的担体としては、無菌水溶液又は分散液、及び無菌注射溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野において公知である。
【0174】
多くの可能な送達様式が使用され得、これには、眼内適用又は局所適用が含まれるがこれらに限定されない。1つの実施態様では、適用は、眼内にであり、これには、結膜下への注射、前房内への注射、耳側輪部を介した前眼房への注射、角膜実質への注射、角膜内への注射、網膜下への注射、眼房水への注射、テノン下への注射、又は持続送達装置、硝子体内への注射(硝子体の前部、中央部、又は後部への注射)が挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施態様では、適用は局所的であり、これには、角膜への点眼液が挙げられるがこれに限定されない。
【0175】
1つの実施態様では、本明細書に報告されているような(二価)抗体又は医薬製剤は、硝子体内への適用を介して、例えば硝子体内への注射を介して投与される。これは、当技術分野において公知である標準的な手順に従って実施され得る(例えば、Ritter et al., J. Clin. Invest. 116 (2006) 3266-3276, Russelakis-Carneiro et al., Neuropathol. Appl. Neurobiol. 25 (1999) 196-206、及びWray et al., Arch. Neurol. 33 (1976) 183-185を参照)。
【0176】
いくつかの実施態様では、本明細書に報告されているような治療キットは、本明細書に記載の医薬製剤に存在する1用量以上の(二価)抗体、医薬製剤の硝子体内への注射に適した器具、及び注射を実施するのに適した被験者及びプロトコールを詳述した説明書を含有し得る。これらの実施態様では、製剤は典型的には、硝子体内への注射を介した処置の必要な被験者に投与される。これは、当技術分野において公知である標準的な手順に従って実施され得る(例えば、Ritter et al., J. Clin. Invest. 116 (2006) 3266-3276, Russelakis-Carneiro et al., Neuropathol. Appl. Neurobiol. 25 (1999) 196-206、及びWray et al., Arch. Neurol. 33 (1976) 183-185を参照)。
【0177】
製剤はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などの補助剤も含有し得る。微生物の存在の防御は、上記の滅菌手順によって、並びに様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの包含の両方によって確実となり得る。また、等張剤、例えば糖、塩化ナトリウムなどを製剤に含めることも望ましくあり得る。
【0178】
さらに、注射可能な医薬剤形の延長吸収が、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤の包含によってもたらされ得る。
【0179】
選択された投与経路に関係なく、適切な水和形で使用され得る本明細書に報告されているような(二価)抗体及び/又は本明細書に報告されているような医薬製剤は、当業者には公知である慣用的な方法によって薬学的に許容される剤形へと製剤化される。
【0180】
本明細書に報告されているような医薬製剤中の活性成分の実際の用量レベルは、患者に毒性を及ぼすことなく、特定の患者、特定の製剤、及び特定の投与様式にとって望ましい治療応答を達成するのに有効な活性成分の量を得るために変更されてもよい。選択された用量レベルは、使用される具体的な製剤の活性、投与経路、投与時刻、使用される具体的な化合物の排泄速度、処置期間、使用される具体的な製剤と併用して使用される他の薬物、化合物、及び/又は材料、処置される患者の年齢、性別、体重、容態、全般的な健康状態、及び病歴、並びに医学分野において周知である同様な因子をはじめとする様々な薬物動態的因子に依存するだろう。
【0181】
製剤は無菌でなければならず、製剤がシリンジによって送達可能である程度に流動性でなければならない。水に加えて、担体は好ましくは、等張緩衝化食塩水溶液である。
【0182】
適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール又はソルビトール、及び塩化ナトリウムを製剤に含めることが好ましい。
【0183】
製剤は、結膜下投与のための活性薬剤を含む眼用デポ製剤を含み得る。眼用デポ製剤は、実質的に純粋な活性薬剤、例えば本明細書に報告されているような二重特異的抗体の微粒子を含む。本明細書に報告されているような二重特異的抗体を含む微粒子を、生体適合性の薬学的に許容されるポリマー又は液体封入剤に包埋してもよい。デポ製剤は、より長期間にわたり全て又は実質的に全ての活性材料を放出するように適応されていてもよい。ポリマー又は液体マトリックス(存在する場合)は、十分に分解されて、投与部位から全て又は実質的に全ての活性薬剤の放出後に輸送されるように適応されていてもよい。デポ製剤は、薬学的に許容されるポリマーと溶解又は分散させた活性薬剤とを含む、液体製剤であってもよい。注射時に、ポリマーは、例えばゲル化又は沈降によって、注射部位で貯蔵を形成する。
【0184】
本明細書に報告されているような別の態様は、眼血管疾患の処置に使用するための本明細書に報告されているような(二価)抗体である。
【0185】
本明細書に報告されているような別の態様は、眼血管疾患の処置に使用するための本明細書に報告されているような医薬製剤である。
【0186】
本明細書に報告されているような別の態様は、眼血管疾患の処置用の医薬品の製造のための本明細書に報告されているような(二価)抗体の使用である。
【0187】
本明細書に報告されているような別の態様は、本明細書に報告されているような(二価)抗体をこのような処置を必要とする患者に投与することによる、眼血管疾患に罹患している患者の処置法である。
【0188】
IX.治療法
本明細書において提供される(二価)抗体のいずれかを、治療法に使用し得る。
【0189】
特定の実施態様では、処置法に使用するための(二価)抗体が提供される。上記のいずれかの実施態様による「個体」は1つの好ましい実施態様ではヒトである。
【0190】
特定の実施態様では、処置法に使用するための(二価)抗体が提供される。実施態様のいずれかによる「個体」は、1つの実施態様ではヒトである。
【0191】
本明細書に報告されているような(二価)抗体は、優良医療規範に準じた様式で製剤化、用量化、及び投与されるだろう。この脈絡において考慮される因子としては、処置される具体的な障害、処置される具体的な哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与法、投与計画、及び医療従事者には公知の他の因子が挙げられる。(二価)抗体は、問題となっている障害を予防又は治療するために現在使用されている1つ以上の薬剤と共に製剤化される必要はないが、場合によりそれと共に製剤化される。このような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する(二価)抗体の量、障害又は処置の種類、及び上記に考察された他の因子に依存する。これらは一般的に、本明細書に記載のものと同じ用量及び同じ投与経路で、又は本明細書に記載の用量の約1〜99%で、又は経験的に/臨床的に適切であると決定された任意の用量及び任意の経路によって使用される。
【0192】
疾患の予防又は治療のために、本明細書に報告されているような(二価)抗体の(単独で又は1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用する場合の)適切な用量は、処置される予定の疾患の種類、(二価)抗体の種類、疾患の重症度及び経過、(二価)抗体が予防目的で投与されるか又は治療目的で投与されるか、以前の療法、患者の病歴、並びに(二価)抗体に対する応答、並びに担当医の判断に依存するだろう。(二価)抗体は、一度に又は一連の処置におよび患者に適切に投与される。このような用量は、断続的に、例えば毎週又は3週間毎に(例えば、患者が、約2〜約20、又は例えば約6用量の抗体を受けるように)投与されてもよい。初回により高い負荷量を投与し、続いて1回以上のより低用量を投与してもよい。この療法の進展は、慣用的な技術及びアッセイによって容易にモニタリングされる。
【0193】
X.製品
本明細書に報告されているような別の態様では、上記の障害の治療、予防及び/又は診断に有用な材料を含有している製品が提供される。製品は、容器と、容器の上又は容器と共に付随しているラベル又は添付文書とを含む。適切な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、静注液バッグなどが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器は製剤を保持し、この製剤は単独であるか、あるいは容態を治療、予防及び/又は診断するのに有効な別の製剤と配合されている。製剤中の少なくとも1つの活性薬剤は、本明細書に報告されているような(二価)抗体である。ラベル又は添付文書は、該製剤が、選択された容態の処置のために使用されることを示す。さらに、製品は、(a)第一容器(この中に製剤が含有されている)(ここでの製剤は本明細書に報告されているような(二価)抗体を含む);及び(b)第二の容器(この中に製剤が含有されている)(ここでの製剤はさらに他の治療剤を含む)を含み得る。本明細書に報告されているようなこの実施態様における製品は、該製剤を特定の容態を処置するために使用することができることを示した添付文書をさらに含み得る。代替的に又は追加的に、製品はさらに、薬学的に許容される緩衝液を含む第二(又は第三)の容器を含み得る。それはさらに、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジをはじめとする、商業的見地及びユーザーの見地から望ましい他の材料も含み得る。
【0194】
XI.改変
さらなる態様では、上記のいずれかの実施態様による(二価)抗体は、以下の第1〜5章に記載のように、特色のいずれかを単独で又は組み合わせて取り込み得る。
【0195】
1.抗体の親和性
特定の実施態様では、本明細書において提供される(二価)抗体は、その標的のいずれかに対して100nM以下、10nM以下(例えば10
−7M以下、例えば10
−7M〜10
−13M、例えば10
−8M〜10
−13M)の平衡解離定数(K
D)を有する。
【0196】
1つの実施態様では、K
Dは、ビアコア(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。例えば、ビアコア(登録商標)2000又はビアコア(登録商標)3000(GEヘルスケア社、ピスケータウェイ、NJ州)を使用したアッセイは、25℃で約10レスポンスユニット(RU)で固定された抗原CM5チップを用いて実施される。1つの実施態様では、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、GEヘルスケア社)を、業者の説明書に従ってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて活性化する。抗原を10mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)を用いて5μg/mL(約0.2μM)へと希釈し、その後、5μL/分の流速で注入して、約10レスポンスユニット(RU)の結合したタンパク質を達成した。抗原を注入した後、1Mのエタノールアミンを注入して、反応していない基をブロックする。反応速度の測定のために、0.05%ポリソルベート20(TWEEN−20(商標))界面活性剤(PBST)を含むPBS中のFabの2倍連続希釈液(0.78nM〜500nM)を、約25μL/分の流速で25℃で注入する。会合速度(k
on)及び解離速度(k
off)を、会合センサーグラム及び解離センサーグラムを同時にあてはめることによって、単純な1:1のラングミュア結合モデル(ビアコア(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して計算する。平衡解離定数(K
D)はk
off/k
on比として計算される(例えば、Chen, Y. et al., J. Mol. Biol. 293 (1999) 865-881を参照)。会合速度が、上記の表面プラズモン共鳴アッセイによって10
6M
−1s
−1を超える場合、会合速度は、撹拌キュベットを有するストップフローを備えた分光光度計(アビブ・インストルメンツ社)又は8000シリーズのSLM−AMINCO(商標)分光光度計(サーモスペクトロニック社)などの分光光度計で測定されるような、漸増濃度の抗原の存在下、PBS(pH7.2)中の20nMの抗−抗原抗体(Fab形)の25℃における蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmのバンドバス)の増加又は減少を測定する蛍光消光技術を使用することによって決定され得る。
【0197】
2.キメラ結合部位及びヒト化結合部位
特定の実施態様では、本明細書において提供される(二価)抗体は、キメラ抗体又はヒト化抗体の1つ又は2つの抗体結合部位を含む。
【0198】
特定のキメラ抗体が、例えば、米国特許第4,816,567号;及びMorrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はヒト以外の霊長類、例えばサル由来の可変領域)とヒト定常領域とを含む。さらなる例では、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のそれとは変化している「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0199】
特定の実施態様では、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する免疫原性を低減させるためにヒト化されているが、非ヒト親抗体の特異性及び親和性を保持している。一般的には、ヒト化抗体は、HVR、例えばCDR(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来している、1つ以上の可変ドメインを含む。ヒト化抗体は場合により、ヒト定常領域の少なくとも一部分も含むだろう。いくつかの実施態様では、ヒト化抗体におけるいくつかのFR残基を、非ヒト抗体(例えば、HVR残基の由来する抗体)に由来する対応する残基を用いて置換することにより、例えば抗体の特異性又は親和性は回復又は改善する。
【0200】
ヒト化抗体及びそれらの作製法は、例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633に論評され、さらに例えば、Riechmann, I., et al., Nature 332 (1988) 323-329; Queen, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033;米国特許第5,821,337号、米国特許第7,527,791号、米国特許第6,982,321号、及び米国特許第7,087,409号; Kashmiri, S.V., et al., Methods 36 (2005) 25-34(特異性を決定する領域(SDR)の移植を記載); Padlan, E.A., Mol. Immunol. 28 (1991) 489-498 (「表面再構成」を記載); Dall’Acqua, W.F. et al., Methods 36 (2005) 43-60 (「FRシャッフル」を記載); Osbourn, J. et al., Methods 36 (2005) 61-68;及びKlimka, A. et al., Br. J. Cancer 83 (2000) 252-260(FRシャッフルに対する「誘導選択」アプローチを記載)に記載されている。
【0201】
ヒト化のために使用され得るヒトフレームワーク領域としては、「ベストフィット」法を使用して選択されたフレームワーク領域(例えば、Sims, M.J., et al., J. Immunol. 151 (1993) 2296-2308を参照);ヒト抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の特定の亜群の共通配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;及びPresta, L.G., et al., J. Immunol. 151 (1993) 2623-2632を参照);ヒト成熟(体細胞の突然変異した)フレームワーク領域又はヒト生殖系列フレームワーク領域(例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633を参照);及びFRライブラリーをスクリーニングすることから得られたフレームワーク領域(例えば、Baca, M. et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 10678-10684及びRosok, M.J. et al., J. Biol. Chem. 271 (19969 22611-22618を参照)が挙げられがこれらに限定されない。
【0202】
3.ヒト抗体結合部位
特定の実施態様では、本明細書において提供される(二価)抗体は、ヒト抗体の1つ又は2つの抗体結合部位を含む。
【0203】
ヒト抗体は、当技術分野において公知である様々な技術を使用して作製され得る。ヒト抗体は一般的に、van Dijk, M.A. and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Pharmacol. 5 (2001) 368-374及びLonberg, N., Curr. Opin. Immunol. 20 (2008) 450-459に記載されている。
【0204】
ヒト抗体は、抗原による攻撃に応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されているトランスジェニック動物に免疫源を投与することによって調製され得る。このような動物は典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座を置き換えているか、又は染色体外に存在するか、又は動物の染色体に無作為に組み込まれている、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含有している。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg, N., Nat. Biotech. 23 (2005) 1117-1125を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載した米国特許第6,075,181号及び米国特許第6,150,584号;HuMAB(登録商標)技術を記載した米国特許第5,770,429号;K−M MOUSE(登録商標)技術を記載した米国特許第7,041,870号;及びVEROCIMOUSE(登録商標)技術を記載した米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。このような動物によって生成されたインタクトな抗体に由来するヒト可変領域を、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによってさらに改変してもよい。
【0205】
ヒト抗体はまた、ハイブリドーマに基づいた方法によって作製されてもよい。ヒトモノクローナル抗体の作製のためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記載されている(例えばKozbor, D., J. Immunol. 133 (1984) 3001-3005; Brodeur, B.R., et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York (1987), pp. 51-63;及びBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して作製されたヒト抗体はまた、Li, J.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006) 3557-3562にも記載されている。追加の方法としては、例えば米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載)及びNi, J., Xiandai Mianyixue 26 (2006) 265-268(ヒト−ヒトハイブリドーマを記載)に記載されている方法が挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers, H.P. and Brandlein, S., Histology and Histopathology 20 (2005) 927-937及びVollmers, H.P. and Brandlein, S., Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27 (2005) 185-191にも記載されている。
【0206】
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって作製され得る。次いで、このような可変ドメイン配列を、所望のヒト定常ドメインと組み合わせてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術は、以下に記載されている。
【0207】
4.ライブラリーから得られた抗体結合部位
本明細書に報告されているような(二価)抗体は、所望の活性又は活性群を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離された抗体の1つ又は2つの抗体結合部位を含み得る。
【0208】
例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、所望の結合特徴を有する抗体についてこのようなライブラリーをスクリーニングするための様々な方法が当技術分野において公知である。このような方法は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al., Methods in Molecular Biology 178 (2001) 1-37に記載され、例えば、the McCafferty, J. et al., Nature348 (1990) 552-554; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628; Marks, J.D. et al., J. Mol. Biol. 222 (1992) 581-597; Marks, J.D. and Bradbury, A., Methods in Molecular Biology 248 (2003) 161-175; Sidhu, S.S. et al., J. Mol. Biol. 338 (2004) 299-310; Lee, C.V. et al., J. Mol. Biol. 340 (2004) 1073-1093; Fellouse, F.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (2004) 12467-12472;及びLee, C.V. et al., J. Immunol. Methods 284 (2004) 119-132にさらに記載されている。
【0209】
特定のファージディスプレイ法では、VH遺伝子及びVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングされ、ファージライブラリーにおいて無作為に組み替えられ、これをその後、Winter, G., et al., Ann. Rev. Immunol. 12 (1994) 433-455に記載のように抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは典型的には、一本鎖Fv(scFv)断片として又はFab断片としてのいずれかで抗体断片を提示する。免疫化源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要性を伴うことなく、免疫源に対して高親和性の抗体を提供する。あるいは、ナイーブなレパートリーを(例えばヒトから)クローニングすることにより、Griffiths, A.D., et al., EMBO J. 12 (1993) 725-734に記載のような免疫化を全く伴うことなく、多種多様な非自己抗原及びまた自己抗原に対する単一の抗体入手源を提供してもよい。最後に、幹細胞から再編成されていないV遺伝子区域を、高度に可変的なCDR3領域をコードしかつHoogenboom, H.R. and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388に記載のようなインビトロでの再編成を達成するための無作為な配列を含有しているPCRプライマーを使用してクローニングすることによって、ナイーブライブラリーを合成で作製してもよい。ヒト抗体ファージライブラリーを記載した特許公開としては、例えば、米国特許第5,750,373号及び米国特許出願公開第2005/0079574号、米国特許出願公開第2005/0119455号、米国特許出願公開第2005/0266000号、米国特許出願公開第2007/0117126号、米国特許出願公開第2007/0160598号、米国特許出願公開第2007/0237764号、米国特許出願公開第2007/0292936号、及び米国特許出願公開第2009/0002360号が挙げられる。
【0210】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体断片であると考えられる。
【0211】
5.二価抗体変異体
特定の実施態様では、本明細書において提供される(二価)抗体のアミノ酸配列変異体が考えられる。例えば、(二価)抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望ましくあり得る。(二価)抗体のアミノ酸配列変異体は、適切な改変を、(二価)抗体をコードしているヌクレオチド配列に導入することによって、又はペプチド合成によって調製され得る。このような改変としては、例えば、(二価)抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、及び/又は該残基への挿入、及び/又は該残基の置換を含む。最終構築物に到達するために、欠失、挿入、及び置換の任意の組合せを行ない得、ただし、最終構築物は所望の特徴、例えば抗原との結合を有する。
【0212】
a)置換変異体、挿入変異体、及び欠失変異体
特定の実施態様では、1つ以上のアミノ酸置換を有する(二価)抗体変異体が提供される。置換突然変異誘発のための関心対象の部位としてはHVR及びFRが挙げられる。保存的置換は、以下の表に「好ましい置換」の表題で示されている。より実質的な変化が、「例示的な置換」の表題で以下の表において、及びアミノ酸側鎖クラスに言及して以下にさらに記載されているように提供されている。アミノ酸置換を、関心対象の(二価)抗体に導入し得、そして産物を所望の活性、例えば保持された/改善された抗原との結合、低減された免疫原性、又は改善されたADCC若しくはCDCについてスクリーニングし得る。
【0213】
【表11】
【0214】
アミノ酸は、共通した側鎖の特性に従って分類され得る:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu:
(4)塩基性:His、Lys、Arg:
(5)側鎖の方向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0215】
非保存的置換は、これらのクラスの中の1つのメンバーを、別のクラスのものと交換することを含む。
【0216】
ある種類の置換変異体は、親(二価)抗体(例えばヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基を置換することを含む。一般的には、さらなる研究のために選択された結果として得られた変異体(群)は、親抗体(二価)抗体と比較して特定の生物学的特性(例えば増加した親和性、低減した免疫原性)の改変(例えば改善)を有し、及び/又は、親抗体の実質的に保持された特定の生物学的特性を有するだろう。例示的な置換変異体は、親和性成熟(二価)抗体であり、これは例えば本明細書に記載の技術などのファージディスプレイに基づいた親和性成熟技術を使用して慣用的に作製され得る。簡潔に言えば、1つ以上のHVR残基を突然変異させ、変異(二価)抗体をファージ上に提示させ、特定の生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。
【0217】
改変(例えば置換)は、例えば(二価)抗体親和性を改善させるためにHVRにおいて行なわれ得る。このような改変は、HVRの「ホットスポット」、すなわち体細胞成熟過程の最中に高い頻度で突然変異を受けるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury, P.S., Methods Mol. Biol. 207 (2008) 179-196を参照)、及び/又は抗原と接触する残基において行なわれ得、結果として得られた変異VH又はVLを結合親和性について試験する。二次ライブラリーの構築及びそれからの再選択による親和性成熟が、例えば、Hoogenboom, H.R. et al. in Methods in Molecular Biology 178 (2002) 1-37に記載されている。親和性成熟のいくつかの実施態様では、成熟のために選択された可変遺伝子に多様性が様々な方法のいずれかによって導入される(例えば、エラープローンPCR、鎖シャフリング、又はオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発)。次いで、二次ライブラリーを作製する。次いで、ライブラリーをスクリーニングして、所望の親和性を有する任意の(二価)抗体変異体を同定する。多様性を導入するための別の方法は、HVRに向けられたアプローチを含み、いくつかのHVR残基(例えば一度に4〜6個の残基)を無作為化する。抗原との結合に関与するHVR残基を、例えばアラニン走査突然変異誘発又はモデル化を使用して具体的に同定し得る。CDR−H3及びCDR−L3が特に標的化されることが多い。
【0218】
特定の実施態様では、置換、挿入、又は欠失は、このような改変が(二価)抗体の抗原に結合する能力を実質的に低減させない限りにおいて1つ以上のHVR内で起こり得る。例えば、結合親和性を実質的に低減させない保存的改変(例えば、本明細書に提供されているような保存的置換)がHVRにおいて行なわれ得る。このような改変は、例えば、HVR内の抗原接触残基の外であり得る。上記に提供された変異VH配列及びVL配列の特定の実施態様では、各HVRは改変されていないか、又は1つ以下、2つ以下、又は3つ以下のアミノ酸置換を含有する。
【0219】
突然変異誘発のために標的化され得る(二価)抗体の残基又は領域の同定のための有用な方法は、Cunningham, B.C. and Wells, J.A., Science 244 (1989) 1081-1085によって記載のような「アラニン走査突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基の一残基又はグループ(例えば、荷電した残基、例えばarg、asp、his、lys、及びglu)を同定し、中性アミノ酸又は負に荷電したアミノ酸(例えばアラニン又はポリアラニン)によって置換することにより、(二価)抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうかを決定する。さらなる置換を、最初の置換に対して機能的感受性を示すアミノ酸の位置に導入してもよい。代替的に又は追加的に、(二価)抗体と抗原との間の接触点を同定するための抗原−(二価)抗体複合体の結晶構造を使用してもよい。このような接触残基及び隣接残基を、置換のための候補として標的化又は排除し得る。変異体をスクリーニングして、それらが所望の特性を含有しているかどうかを決定し得る。
【0220】
アミノ酸配列の挿入は、1残基から100以上の残基を含有しているポリペプチドまでの長さのアミノ末端及び/又はカルボキシル末端への融合物、並びに、単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する(二価)抗体が挙げられる。(二価)抗体分子の他の挿入変異体としては、酵素(例えば抗体酵素を用いたプロドラッグ療法のための)又はポリペプチドに対する(二価)抗体のN末端又はC末端への融合が挙げられる。
【0221】
b)グリコシル化変異体
特定の実施態様では、本明細書において提供される(二価)抗体は、(二価)抗体がグリコシル化される程度を増加又は減少させるために改変される。(二価)抗体へのグルコシル化部位の付加又は欠失は、1つ以上のグリコシル化部位が作られるか又は除去されるようにアミノ酸配列を改変することによって慣用的に成し遂げられ得る。
【0222】
いくつかの実施態様では、本明細書に報告されているような抗体におけるオリゴ糖の改変が、特定の改善された特性を有する抗体変異体を作製するために行なわれ得る。
【0223】
哺乳動物細胞によって産生される天然抗体は典型的には、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN結合によって一般的に付着している分岐した二分岐のオリゴ糖を含む。例えば、Wright, A. and Morrison, S.L., TIBTECH 15 (1997) 26-32を参照されたい。オリゴ糖は、様々な糖質、例えばマンノース、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、並びに、GlcNAcに付着したフコースを、二分岐のオリゴ糖構造の「幹」に含み得る。
【0224】
二分されたオリゴ糖(例えば(二価)抗体に付着した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている)を有する抗体変異体がさらに提供される。このような(二価)抗体変異体は、低減したフコシル化及び/又は改善されたADCC機能を有し得る。
【0225】
抗体変異体の例は、例えば国際公開公報第2003/011878号;米国特許第6,602,684号;米国特許出願公開第2005/0123546号に記載されている。Fc領域に付着したオリゴ糖に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も提供される。このような抗体変異体は、改善されたCDC機能を有し得る。このような抗体変異体は、例えば、国際公開公報第1997/30087号;国際公開公報第1998/58964号;国際公開公報第1999/22764号に記載されている。
【0226】
c)多量体化ドメイン変異体
特定の実施態様では、1つ以上のさらなるアミノ酸改変を、本明細書において提供されている(二価)抗体の多量体化ドメイン(群)に導入し得、これにより、多量体化ドメイン変異体を生成し得る。該変異体は、1つ以上のアミノ酸の位置においてアミノ酸改変(例えば置換/突然変異)を含む少なくとも1つのヒトCH3ドメイン配列(例えばヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のCH3ドメイン)を含み得る。
【0227】
特定の実施態様では、本発明は、いくつかのエフェクター機能を有しているが全てのエフェクター機能を有しているわけではない(二価)抗体変異体を考え、これは、インビボにおける(二価)抗体の半減期は重要であるが特定のエフェクター機能(例えばCDC及びADCC)は不必要であるか又は有害であるような適用にとって望ましい候補となる。インビトロ及び/又はインビボでの細胞障害性アッセイを実施することにより、CDC及び/又はADCCの活性の減少/枯渇を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実施することにより、抗体がFcγRへの結合を欠失しているが(したがってADCC活性を欠失している可能性がある)、FcRnへの結合能は保持していることを確実にし得る。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現しているが、一方、単球はFcγRI、RcγRII及びFcγRIIIを発現している。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492の464頁の表3に要約されている。関心対象の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えばHellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;及びHellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502参照);米国特許第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を使用し得る(例えば、フローサイトメトリーのためのACTI(商標)非放射性細胞障害性アッセイ(セルテクノロジー社、マウンテンビュー、CA州);及びサイトトックス(CytoTox)96(登録商標)非放射性細胞障害性アッセイ(プロメガ社、マジソン、MI州)を参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的に又は追加的に、関心対象の分子のADCC活性を、インビボにおいて、例えばClynes, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 652-656に開示されているような動物モデルにおいて評価し得る。C1q結合アッセイも実施することにより、抗体がC1qに結合することができず、したがってCDC活性を欠失していることを確認し得る。例えば、国際公開公報第2006/029879号及び国際公開公報第2005/100402号におけるC1q及びC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施し得る(例えば、Gazzano-Santoro, H. et al., J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171; Cragg, M.S. et al., Blood 101 (2003) 1045-1052;及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照)。FcRnへの結合及びインビボでのクリアランス/半減期の決定も、当技術分野において公知の方法を使用して実施され得る(例えば、Petkova, S.B. et al., Int. Immunol. 18 (2006) 1759-1769を参照)。
【0228】
低減したエフェクター機能を有する二価抗体としては、238、265、269、270、297、327、及び329の残基(存在する場合)(番号付けはKabatEUインデックスによる;米国特許第6,737,056号参照)の1つ以上の置換を有する抗体が挙げられる。このような変異体としては、アミノ酸の265位、269位、270位、297位、及び327位(存在する場合)(番号付けはKabatEUインデックスによる)の2つ以上において置換を有する変異体、例えば、265及び297の残基がアラニンへと置換した(存在する場合)(番号付けはKabatEUインデックスによる;米国特許第7,332,581号参照)いわゆる「DANA」Fc領域突然変異体が挙げられる。
【0229】
FcRに対する結合が改善された又は減少した特定の抗体変異体が記載されている(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開公報第2004/056312号、及びShields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照)。
【0230】
特定の実施態様では、(二価)抗体変異体は、ADCCを改善させる1つ以上のアミノ酸置換、例えばFc領域の298位、333位及び/又は334位(EUによる残基の番号付け)において置換を有するCH3ドメインを含む。
【0231】
いくつかの実施態様では、米国特許第6,194,551号、国際公開公報第99/51642号、及びIdusogie, E.E. et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184に記載のような、改変された(すなわち改善された又は減少した)C1qへの結合及び/又は補体依存性細胞障害性(CDC)をもたらす改変が行なわれる。
【0232】
半減期が延長されかつ母体から胎児へのIgGの移動に関与する新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合の改善された抗体(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117 (1976) 587-593, and Kim, J.K. et al., J. Immunol. 24 (1994) 2429-243)が、米国特許出願公開第2005/0014934号に記載されている。そのような抗体は、その中に1つ以上の置換基を有するFc領域を含み、これはFcRnに対するFc領域の結合を改善させる。このようなFc領域変異体としては、Fc領域の残基(238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434)の1つ以上における置換、例えばFc領域の残基434の置換(米国特許第7,371,826号)を有するものが挙げられる。
【0233】
また、Fc領域変異体の他の例に関する、Duncan, A.R. and Winter, G., Nature 322 (1988) 738-740;米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;及び国際公開公報第94/29351号も参照されたい。
【0234】
d)ヘテロ二量体化
ヘテロ二量体化を強化するためのCH3改変のためのいくつかのアプローチが存在し、これは、例えば国際公開公報第96/27011号、国際公開公報第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開公報第2007/110205号、国際公開公報第2007/147901号、国際公開公報第2009/089004号、国際公開公報第2010/129304号、国際公開公報第2011/90754号、国際公開公報第2011/143545号、国際公開公報第2012058768号、国際公開公報第2013157954号、国際公開公報第2013096291号に十分に記載されている。典型的には、全てのこのようなアプローチにおいて、第一のCH3ドメイン及び第二のCH3ドメインは両方共に相補的に工学操作されることにより、各CH3ドメイン(又はそれを含む重鎖)はもはや自分自身とホモ二量体化することができないが、相補的に工学操作された他方のCH3ドメインとヘテロ二量体化するようになる(よって、第一のCH3ドメインと第二のCH3ドメインはヘテロ二量体化し、2つの第一のCHドメイン間又は2つの第二のCH3ドメイン間のホモ二量体は形成されない)。改善された重鎖へテロ二量体化のためのこれらの異なるアプローチは、軽鎖誤対合すなわちベンスジョーンズ型副産物を減少させる、本発明による(二価)抗体における重鎖−軽鎖改変(1つの結合アームにおけるVH及びVLの交換/置換、並びに、CH1/CL界面に逆の荷電を有する荷電アミノ酸の置換の導入)と組み合わせた、異なる選択肢であるとと考えられる。
【0235】
本発明の1つの実施態様では、本発明による前記(二価)抗体のCH3ドメインは、「ノブ・イントゥ・ホール」技術によって改変され得、これは、例えば国際公開公報第96/027011号、Ridgway, J.B., et al., Protein Eng. 9 (1996) 617-621;及びMerchant, A.M., et al., Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681;国際公開公報第98/050431号においていくつかの例を用いて詳述されている。この方法では2つのCH3ドメインの相互作用表面を改変させることにより、これらの2つのCH3ドメインを含有している両方の重鎖のヘテロ二量体化は増加する。(2本の重鎖の)2つのCH3ドメインの各々は「ノブ」であり得、他方は「ホール」である。ジスルフィド橋の導入はさらにヘテロ二量体を安定化させ(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、収量を増加させる。
【0236】
したがって、本発明の1つの実施態様では、前記(二価)抗体は(各々のポリペプチドにCH3ドメインを含み、そして)さらに
(二価)抗体の第一のポリペプチドの第一のCH3ドメイン及び(二価)抗体の第二のポリペプチドの第二のCH3ドメインは各々、CH3ドメイン間の元来の界面を含む界面において遭遇することを特徴とし、
該界面は、(二価)抗体の形成を促進するように改変され、ここでの改変は、
i)一方のポリペプチドのCH3ドメインが改変され、よって、(二価)抗体内の一方のポリペプチドのCH3ドメインの元来の界面に遭遇する他方のポリペプチドのCH3ドメインの元来の界面内において、アミノ酸残基を、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換することにより、一方のポリペプチドのCH3ドメインの界面内に突起が作られ、これは他方のポリペプチドのCH3ドメインの界面内の空洞に配置することができ、そして
ii)他方のポリペプチドのCH3ドメインが改変され、よって、(二価)抗体内の第一のCH3ドメインの元来の界面に遭遇した第二のCH3ドメインの元来の界面内において、アミノ酸残基を、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換することにより、第二のCH3ドメインの界面内に空洞が作られ、この中に第一のCH3ドメインの界面内の突起を配置することができる。
【0237】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸配残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0238】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸配残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0239】
本発明の1つの態様では、両方のCH3ドメイン間においてジスルフィド橋を形成することができるように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてのシステイン(C)を導入することによって、両方のCH3ドメインはさらに改変される。
【0240】
1つの好ましい実施態様では、前記(二価)抗体は、「ノブ鎖」の第一のCH3ドメインにアミノ酸T366W突然変異、及び「ホール鎖」の第二のCH3ドメインにアミノ酸T366S、L368A、Y407Vの突然変異を含む。例えばアミノ酸Y349C突然変異を「ホール鎖」のCH3ドメインに、アミノ酸E356C突然変異又はアミノ酸S354C突然変異を「ノブ鎖」のCH3ドメインに導入することによって、CH3ドメイン間に追加の鎖間ジスルフィド橋を使用することもできる(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681)。
【0241】
1つの実施態様では、前記(二価)抗体(これは、各重鎖にCH3ドメインを含む)は、2つのCH3ドメインの一方にアミノ酸S354C、T366Wの突然変異、及び2つのCH3ドメインの他方にアミノ酸Y349C、T366S、L368A、Y407Vの突然変異を含む(一方のCH3ドメインにおける追加のアミノ酸S354C突然変異と、他方のCH3ドメインにおける追加のアミノ酸Y349C突然変異は、鎖間ジスルフィド橋を形成している)(番号付けはKabatによる)。
【0242】
ヘテロ二量体化を強化するためのCH3改変のための他の技術も本発明の代替選択肢として考えられ、例えば、国際公開公報第96/27011号、国際公開公報第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開公報第2007/110205号、国際公開公報第2007/147901号、国際公開公報第2009/089004号、国際公開公報第2010/129304号、国際公開公報第2011/90754号、国際公開公報第2011/143545号、国際公開公報第2012/058768号、国際公開公報第2013/157954号、国際公開公報第2013/096291に記載されている。
【0243】
1つの実施態様では、欧州特許第1870459A1号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。このアプローチは、両方のポリペプチド間のCH3ドメイン/CH3ドメイン界面の特定のアミノ酸位置おける逆の電荷を有する荷電アミノ酸の置換/突然変異の導入に基づく。前記(二価)抗体の1つの好ましい実施態様は、(二価)抗体の第一のCH3ドメインにおけるアミノ酸R409D;K370Eの突然変異、及び(二価)抗体の第二のCH3ドメインにおけるアミノ酸D399K;E357Kの突然変異(番号付けはKabatEUインデックスによる)である。
【0244】
別の実施態様では、前記(二価)抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるアミノ酸T366W突然変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるアミノ酸T366S、L368A、Y407Vの突然変異、並びに「ノブ鎖」のCH3ドメインにおける追加のアミノ酸R409D;K370Eの突然変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるアミノ酸D399K;E357Kの突然変異を含む。
【0245】
別の実施態様では、前記(二価)抗体は、2つのCH3ドメインの一方にアミノ酸S354C、T366Wの突然変異、及び2つのCH3ドメインの他方にアミノ酸Y349C、T366S、L368A、Y407Vの突然変異を含むか、又は、前記(二価)抗体は、2つのCH3ドメインの一方にアミノ酸Y349C、T366Wの突然変異、及び2つのCH3ドメインの他方にアミノ酸S354C、T366S、L368A、Y407Vの突然変異、並びにさらに、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるアミノ酸R409D;K370の突然変異、及び「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるアミノ酸D399K;E357Kの突然変異を含む。
【0246】
1つの実施態様では、国際公開公報第2013/157953号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。1つの実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸T366K突然変異を含み、第二のCH3ドメインポリペプチドはアミノ酸L351D突然変異を含む。さらなる実施態様では、第一のCH3ドメインはさらなるアミノ酸L351K突然変異を含む。さらなる実施態様では、第二のCH3ドメインはさらに、Y349E、Y349D、及びL368E(好ましくはL368E)から選択されたアミノ酸突然変異を含む。
【0247】
1つの実施態様では、国際公開公報第2012/058768号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。1つの実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸L351Y、Y407Aの突然変異を含み、第二のCH3ドメインはアミノ酸T366A、K409Fの突然変異を含む。さらなる実施態様では、第二のCH3ドメインは、例えばa)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E又はT411W、b)D399R、D399W、D399Y、又はD399K、c)S400E、S400D、S400R又はS400K、F405I、F405M、F405T、F405S、F405V又はF405W、N390R、N390K又はN390D、K392V、K392M、K392R、K392L、K392F又はK392Eから選択された、T411位、D399位、S400位、F405位、N390位又はK392位におけるさらなるアミノ酸突然変異を含む。さらなる実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸L351Y、Y407Aの突然変異を含み、第二のCH3ドメインはアミノ酸T366V、K409Fの突然変異を含む。さらなる実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸Y407A突然変異を含み、第二のCH3ドメインはアミノ酸T366A、K409Fの突然変異を含む。さらなる実施態様では、第二のCH3ドメインはさらなるアミノ酸K392E、T411E、D399R、及びS400Rの突然変異を含む。
【0248】
1つの実施態様では、国際公開公報第2011/143545号に記載のヘテロ二量体化アプローチ、例えば、368及び409からなる群より選択された位置におけるアミノ酸の改変を代替的に使用してもよい。
【0249】
1つの実施態様では、これもまた上記のノブ・イントゥ・ホール技術を使用する国際公開公報第2011/090762号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。1つの実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸T366W突然変異を含み、第二のCH3ドメインはアミノ酸Y407A突然変異を含む。1つの実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸T366Y突然変異を含み、第二のCH3ドメインはアミノ酸Y407T突然変異を含む。
【0250】
1つの実施態様では、多量体化ドメインはIgG2アイソタイプであり、国際公開公報第2010/129304号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。
【0251】
1つの実施態様では、国際公開公報第2009/089004号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。1つの実施態様では、第一のCH3ドメインは、負に荷電したアミノ酸を用いてのアミノ酸K392又はN392の置換(例えばグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)、好ましくはK392D又はN392D)を含み、第二のCH3ドメインは、正に荷電したアミノ酸を用いてのアミノ酸D399、E356、D356、又はE357の置換(例えばリジン(K)又はアルギニン(R)、好ましくはD399K、E356K、D356K、又はE357K、より好ましくはD399K及びE356K)を含む。さらなる実施態様では、第一のCH3ドメインはさらに、負に荷電したアミノ酸を用いてのアミノ酸K409又はR409の置換(例えば、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)、好ましくはK409D又はR409D)を含む。さらなる実施態様では、第一のCH3ドメインはさらに又は代替的には、負に荷電したアミノ酸を用いてのアミノ酸K439及び/又はK370の置換(例えばグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D))を含む。
【0252】
1つの実施態様では、国際公開公報第2007/147901号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。1つの実施態様では、第一のCH3ドメインはアミノ酸K253E、D282K、及びK322Dの突然変異を含み、第二のCH3ドメインはアミノ酸D239K、E240K及びK292Dの突然変異を含む。
【0253】
1つの実施態様では、国際公開公報第2007/110205号に記載のヘテロ二量体化アプローチを代替的に使用してもよい。
【0254】
以下の実施例、配列及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示されている。本発明の精神から逸脱することなく示された手順に改変を行ない得ることが理解される。