(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載の車体側部構造において、前記傾斜部対向部が平坦部であり、前記傾斜部対向部に沿った前記接着剤の延在長さをh、圧潰される前の前記接着剤の半径をr、前記溶接部同士が当接したときに前記傾斜部と前記傾斜部対向部との間に介在する前記接着剤の、前記傾斜部対向部から前記傾斜部に向かう方向の最大厚みをTとするとき、前記Tが下記の式(1)で近似される車体側部構造。
T≒2πr2/h …(1)
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車体側部構造において、前記サイドシルインナが冷間プレスによって形成された金属組織を有するとともに、前記サイドシルスチフナが熱間プレスによって形成された金属組織を有し、且つ前記傾斜部が前記サイドシルインナに形成された車体側部構造。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車体側部構造において、前記第1フランジの前記溶接部と、前記第2フランジの前記溶接部とが、前記ドア用開口に設けられるオープニングトリムによって覆われた車体側部構造。
請求項1〜6のいずれか1項に記載の車体側部構造において、前記接着剤の、前記溶接部側の端部が、前記溶接部同士の溶接箇所よりも前記折曲部側に位置する車体側部構造。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の車体側部構造において、前記溶接部同士がスポット溶接によって接合され、且つ前記接着剤が、前記傾斜部と前記傾斜部対向部との、隣接する溶接箇所同士の間に対応する位置に塗布されてステッチ形状をなす車体側部構造。
請求項9記載の車体側部構造において、前記センタピラーは、車室側に臨むセンタピラーインナと、車外側に臨むセンタピラーアウタと、前記センタピラーインナと前記センタピラーアウタの間に配設されるセンタピラースチフナとを有し、
前記センタピラーインナは、前記センタピラースチフナに比して低強度の素材からなり、且つ下部に開口が形成されている車体側部構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術では、互いに対向する2個のフランジの一方に、残余の一方のフランジから離間するように陥没する形状の収容溝を設け、この収容溝に接着剤を収容するようにしている。この分、収容溝の内壁と、残余の一方のフランジとの距離が大きくなるので、多量の接着剤が必要となる。
【0007】
また、特許文献2記載の技術では、2個のフランジの、互いが離間することによって形成された間隙に接着剤が充填されることはない。すなわち、溶接箇所以外の接着剤は接合に関与しない。また、溶接箇所近傍の接着剤は、溶接条件によって炭化することがあり得る。この場合も、接着剤が接合に関与しなくなる。以上のような理由から、特許文献2記載の技術では、接合強度を大きくすることが容易ではない。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、接着剤の塗布量の低減を図ることが可能であるとともに、フランジ同士の接合強度を向上することが可能な車体側部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、サイドシルを含んで構成される車体側部構造において、
前記サイドシルは、車室側に臨むサイドシルインナと、車外側に臨むサイドシルアウタと、前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタの間に配設されるサイドシルスチフナとを有し、
前記サイドシルスチフナがドア用開口を画成する第1フランジを有するとともに、前記サイドシルインナが前記第1フランジに対向し且つ前記ドア用開口を画成する第2フランジを有し、
前記第1フランジ、前記第2フランジの端部のそれぞれが溶接部をなし、
前記第1フランジ又は前記第2フランジの少なくともいずれか一方は、折曲部を介して前記溶接部に連なり、且つ前記溶接部から離間するにつれて前記第2フランジ又は前記第1フランジの残余の一方から離間する方向に傾斜した傾斜部を有し、
前記第1フランジの前記溶接部と、前記第2フランジの前記溶接部とが溶接によって接合され、
且つ前記傾斜部と、前記第2フランジ又は前記第1フランジの残余の一方の、前記傾斜部に対向する傾斜部対向部とが、接着剤を介して接合された車体側部構造が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サイドシルを構成するサイドシルインナの第1フランジ、サイドシルスチフナの第2フランジの一部を溶接によって互いに接合するとともに、第1フランジ又は第2フランジに傾斜部を形成し、該傾斜部と、これに対向する傾斜部対向部とを、接着剤を介して接合するようにしている。
【0011】
傾斜部と傾斜部対向部との離間距離は、溝と、該溝に対向する部位との離間距離に比して小さい。すなわち、傾斜部と傾斜部対向部とが十分に近接する。従って、傾斜部と傾斜部対向部の間に充填すべき接着剤が少量となる。このため、接着剤の塗布量の低減を図ることができる。
【0012】
また、接着量が低減することから、傾斜部よりも溶接部側に接着剤が展延することは容易ではない。このため、溶接部同士の間に接着剤が侵入することが抑制される。従って、溶接が接着剤によって阻害されることが防止される。これにより、溶接部同士の接合強度が向上する。そして、溶接による接合と、傾斜部と傾斜部対向部の間に充填された接着剤を介する接合とにより、第1フランジと第2フランジを強固に接合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車体側部構造につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下における前後左右は、四輪自動車の運転席に着座した乗員の前後左右に対応する。また、「車幅方向」は「左右方向」と同義である。
【0015】
図1は、四輪自動車を構成する車体10の右側方下部を車室側から示す要部拡大側面図である。この場合、車体10はサイドシル12とセンタピラー14を備える。特に図示していないが、左側方下部においても同様の構成であることは勿論である。
【0016】
サイドシル12は、ドア用開口16の下方において、車体10の前後方向に沿って延在する長尺物である。一方、センタピラー14は車体10の前後方向略中間に設けられ、ドア用開口16を前ドア用開口20、後ドア用開口22の2個に区分する。サイドシル12の上端部やセンタピラー14の前端部によって、前ドア用開口20の縁部が画成される。また、サイドシル12の上端部やセンタピラー14の後端部によって、後ドア用開口22の縁部が画成される。
【0017】
前ドア用開口20、後ドア用開口22の各縁部には、
図2に示すオープニングトリム24が設けられる。このオープニングトリム24が、ドア(図示せず)の車室側内面に当接する。なお、参照符号26は、サイドシル12の後端に連なるリアピラーである。
【0018】
図2は、
図1中のII−II線矢視断面図である。本実施の形態において、サイドシル12は、車室に臨むサイドシルインナ30と、車外に臨むサイドシルアウタ32と、これらサイドシルインナ30とサイドシルアウタ32の間に配設されるサイドシルスチフナ34とを有する。この中のサイドシルスチフナ34は、下方に向かって延在する第1下フランジ36と、上方に向かって延在する第1上フランジ38(第1フランジ)と、第1下フランジ36と第1上フランジ38の間に介在し、車外に向かって膨出するスチフナ本体40とを有する。サイドシルスチフナ34の縦断面は、第1下フランジ36、スチフナ本体40及び第1上フランジ38により、いわゆるハット形状をなす。
【0019】
図3は、サイドシル12の上部の要部拡大断面図である。この場合、第1上フランジ38は、スチフナ本体40の上水平部から略90°折曲されるようにして立ち上がった平坦部として形成されている。第1上フランジ38は、第1溶接部42と傾斜部対向部44に区分される。第1溶接部42は、溶接によってサイドシルインナ30に接合される部位であり、傾斜部対向部44は、サイドシルインナ30の傾斜部46(後述)に対向する部位である。なお、上水平部と第1上フランジ38の間の折曲部は、丸みを帯びた湾曲部として形成されている。
【0020】
この場合、サイドシルスチフナ34は熱間プレスによって作製されている。熱間プレスに際し、サイドシルスチフナ34の金属組織中では再結晶化が起こる。このため、サイドシルスチフナ34は、金属粒が微細であり且つ略均質である金属組織を有する。また、鍛流線が形成されるので、引っ張り強さ等の機械的諸特性が優れる。
【0021】
一方、サイドシルインナ30は、
図2に示すように、下方に向かって延在する第2下フランジ50と、上方に向かって延在する第2上フランジ52(第2フランジ)と、第2下フランジ50と第2上フランジ52の間に介在し、車室に向かって膨出するインナ本体54とを有する。第2下フランジ50、インナ本体54及び第2上フランジ52によって構成されるサイドシルインナ30の縦断面は、いわゆるハット形状をなす。ただし、サイドシルインナ30(ないしインナ本体54)の膨出方向は、サイドシルスチフナ34(ないしスチフナ本体40)の膨出方向と逆である。
【0022】
図1に示すように、サイドシルインナ30は、センタピラー14よりも前方からセンタピラー14の直下にわたって延在する前側部位56と、該前側部位56の軸線と同一軸線上に延在する後側部位58とを有する。後側部位58の前端は、前側部位56の後端に接合されている。後側部位58は、前側部位56に比して低強度の素材で形成される。前側部位56、後側部位58の素材としては、それぞれ、高張力鋼板、亜鉛メッキ鋼板が例示される。
【0023】
この場合、サイドシルインナ30は、前側部位56と後側部位58が接合された後、冷間プレスによって作製されている。このため、サイドシルインナ30はサイドシルスチフナ34に比して容易に変形する。また、冷間プレスでは寸法精度に優れた加工品を得ることができるので、後述する第2溶接部62と傾斜部46との交差角度(傾斜部46の傾斜角度)βが低角度であっても、そのバラツキを小さくすることができる。すなわち、傾斜角度βが略揃ったサイドシルインナ30を歩留まりよく量産することが可能となる。特に、強度が比較的小さい素材からなる後側部位58では、冷間プレス時に傾斜部46を形成することが容易である。
【0024】
第2下フランジ50の、第1下フランジ36に対向する面は、第1下フランジ36の、第2下フランジ50に対向する面に対し略全体にわたって重ね合わせられ、この状態で、これらの面同士が、例えば、スポット溶接によって接合されている。なお、接合は、接着剤と溶接を併用する、いわゆるウェルドボンドであってもよい。
【0025】
第2上フランジ52と、インナ本体54の上水平部との交差角度αは、90°を超える鈍角である。このため、第2上フランジ52は、上方に向かうに従って第1上フランジ38に近接するように傾斜する。すなわち、第2上フランジ52は傾斜部46を有する。
【0026】
第2上フランジ52は、傾斜部46が第1上フランジ38に向かう途中で鉛直上方に向かうように折曲されている。すなわち、第2上フランジ52には折曲部60が形成されている。第2上フランジ52は、この折曲部60を境界として、第2溶接部62と前記傾斜部46に区分される。換言すれば、傾斜部46は折曲部60を介して第2溶接部62に連なり、且つ第2溶接部62から離間するにつれて第1上フランジ38から離間するように傾斜している。
【0027】
従って、傾斜部46と、第1上フランジ38において傾斜部46に対向する傾斜部対向部44との間には、若干のクリアランスが形成される。このクリアランスには、エポキシ系樹脂やアクリル酸2−ヒドロキシプロピル(HPA)等、公知の高粘度構造用接着剤である接着剤64が充填される。すなわち、傾斜部46と傾斜部対向部44は、高粘度の接着剤64を介して接合される。クリアランスに充填された接着剤64は、車体10の前後方向に沿った正面視(又は背面視)で、略直角三角形形状をなす。
【0028】
傾斜角度(交差角度)βは、0°超〜12°以下であることが好ましい。0°であると傾斜部46が形成されない。また、12°以下に設定することにより、接着剤64が第1溶接部42と第2溶接部62の間に侵入することが抑制される。その結果として、接着剤64を介しての接合強度が十分なものとなる。
【0029】
第2溶接部62は、第1上フランジ38の第1溶接部42に対向する。第1溶接部42と第2溶接部62は、スポット溶接によって接合される。
図1には、スポット溶接による溶接箇所66を「●」で示している。この
図1から理解されるように、スポット溶接は、サイドシル12の前後方向に沿う複数箇所に実施される。従って、溶接箇所66はサイドシル12の前後方向に沿って点在する。隣接する溶接箇所66同士の大部分は、略等間隔で離間する。
【0030】
本実施の形態において、接着剤64は、傾斜部46と傾斜部対向部44との、隣接する溶接箇所66同士の間に対応する位置に塗布される。換言すれば、接着剤64は、隣接する溶接箇所66同士の間の下方に塗布されることにより、溶接箇所66を回避している。このため、接着剤64の塗布箇所は、
図1に示すようにステッチ形状をなす。接着剤64がこのように塗布されることによっても、第1溶接部42と第2溶接部62の間に接着剤64が侵入することが抑制される。
【0031】
第1上フランジ38と第2上フランジ52が接合される前、接着剤64は、傾斜部対向部44又は傾斜部46に塗布される(後述)。接着剤64は、第1上フランジ38と第2上フランジ52が接合の際に互いに接近されることに伴って圧潰される。ここで、接着剤64は高粘度であるので、第1溶接部42と第2溶接部62の間のような狭小空間に侵入するように展延することは困難である。すなわち、圧潰に伴って展延する接着剤64は、第1溶接部42と第2溶接部62によって堰き止められる。このことも、第1溶接部42と第2溶接部62の間に接着剤64が侵入することを抑制する。そして、この堰き止めにより、接着剤64の第1溶接部42、第2溶接部62側の端部が、溶接箇所66よりも折曲部60側に位置する。
【0032】
傾斜部対向部44に沿った接着剤64の延在長さをh、傾斜部対向部44から傾斜部46に向かう方向の接着剤64の最大厚みをTとするとき、Tは下記の式(1)で近似される。なお、式(1)中のrは、圧潰される前の接着剤64の半径を表す。
T≒2πr
2/h …(1)
【0033】
また、hは下記の式(2)で近似される。
h≒(4/3)πr
2 …(2)
式(1)、(2)については後述する。
【0034】
センタピラー14は、
図1中のIV−IV線矢視断面図である
図4に示すように、車室側に臨むセンタピラーインナ70と、車外側に臨むセンタピラーアウタ72と、これらセンタピラーインナ70とセンタピラーアウタ72の間に配設されるセンタピラースチフナ74とを有する。これらの引っ張り強度は、センタピラーアウタ72、センタピラーインナ70、センタピラースチフナ74の順で大きくなる。すなわち、センタピラーアウタ72の引っ張り強度は3部材の中で最低であり、センタピラースチフナ74の引っ張り強度は3部材の中で最高である。なお、3部材の素材としては、引っ張り強度が異なる鋼板等が例示される。
【0035】
略ハット形状をなすセンタピラーアウタ72は、引っ張り強度が比較的小さい反面、延性に富む鋼板等からなる。このため、プレス成形によって、乗員が視認する意匠面の見栄えが良好なセンタピラーアウタ72を得ることができる。引っ張り強度が最大であるセンタピラースチフナ74も、センタピラーアウタ72と同様に略ハット形状をなす。
【0036】
センタピラーインナ70は、略平板形状をなす。また、サイドシル12に近接する下部には、
図4及び
図5に示す開口76が形成されている。
【0037】
本実施の形態に係る車体側部構造は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき説明する。
【0038】
サイドシル12を得るには、サイドシルインナ30の前側部位56と後側部位58を接合する。この接合を、スポット溶接で行うようにしてもよい。
【0039】
次に、サイドシルインナ30を冷間プレスで作製するとともに、サイドシルスチフナ34を熱間プレスで作製する。冷間プレスにより、傾斜部46の傾斜角度(傾斜部46と第2溶接部62との交差角度)βが低角度であっても、そのバラツキが抑制されたサイドシルインナ30を量産することができる。また、サイドシルスチフナ34として、機械的諸特性に優れたものが得られる。なお、サイドシルアウタ32は、熱間プレス又は冷間プレスのいずれで作製してもよい。
【0040】
次に、接着剤64を塗布する。サイドシル12については、サイドシルインナ30に形成された折曲部60の直下に、接着剤64をサイドシル12の延在方向(車体10の前後方向)に沿って複数個の直線形状に塗布する。折曲部60から下方、すなわち、傾斜部46は第1上フランジ38に当接することはない。従って、折曲部60を目標として接着剤64を塗布することにより、第1溶接部42と第2溶接部62から接着剤64を隔たらせることが容易となる。
【0041】
なお、塗布された接着剤64は、
図6に示すように、該接着剤64を車幅方向に沿って切断したとき、円形状に近似し得る。このとき、すなわち、圧潰される前の接着剤64の半径をrとする。接着剤64の断面積は、πr
2を計算して求められる。
【0042】
さらに、例えば、サイドシルスチフナ34の第1下フランジ36、第1上フランジ38と、サイドシルインナ30の第2下フランジ50、第2上フランジ52とで、センタピラーインナ70を挟持する。また、センタピラースチフナ74の下端を、サイドシルアウタ32の、車外に向かって膨出した部位に当接させる。センタピラーアウタ72の下端は、その車室側内面が、センタピラースチフナ74の車外側外面に当接する。
【0043】
そして、サイドシルスチフナ34とサイドシルインナ30を、
図7A〜
図7Cに示すように、第1溶接部42と第2溶接部62が互いに当接するまで接近させる。この接近に伴い、接着剤64が圧潰される。第1溶接部42と第2溶接部62が互いに当接したとき、圧潰されたクリアランス内の接着剤64の形状は、直角三角形に近似される。この直角三角形の高さをh、底辺をTとすると、
図7Cにおける接着剤64の断面積は、(1/2)×T×hを計算して求められる。
【0044】
図7Cにおいて、接着剤64が第1溶接部42と第2溶接部62の間に侵入することなく、全量が傾斜部46と傾斜部対向部44との間に流動したと仮定する。この場合、
図6に示される円の断面積と、
図7Cにおける直角三角形の断面積は等しい。すなわち、πr
2=(1/2)×T×hが成り立つ。これを変形すると、下記の式(3)が導出される。
T=2πr
2/h …(3)
【0045】
ここで、本発明者の鋭意検討によれば、接着剤64による接合強度を十分に確保するには、Tを1.5mm以内とすることが好ましい。式(3)にT=1.5を代入すると、h=(4/3)πr
2となる。すなわち、式(2)が導き出される。
【0046】
接着剤64の塗布は、ロボットに設けられた塗布ガンによってなされる。ロボットにはティーチングが予め施されており、塗布時の接着剤64の直径は略均等である。実測によって求められたrは約1.3mmであり、式(3)にT=1.5、r=1.3mmを代入すると、h=7[mm]となる。
【0047】
さらに、傾斜部対向部44と傾斜部46の交差角度(折曲部60の傾斜角度)をβとすると、βとT、hとの間には、下記の式(4)の関係が成り立つ。
tanβ=T/h …(4)
h=7mm、T=1.5mmを式(4)に代入すると、tanβの値は約0.21である。この値に基づいてβを求めると、約12°となる。従って、βを12°以下とすることにより、接着剤64による接合強度が十分に確保される。
【0048】
このように、折曲部60の傾斜角度βは、塗布ガンから塗布される接着剤64の半径や、傾斜部対向部44と傾斜部46との、接着剤64による接合強度が十分に確保される最大離間距離に基づいて設定することができる。そして、これにより過剰量の接着剤64が第2上フランジ52に塗布されることが回避される。このことと、接着剤64が高粘度であることとが相俟って、接着剤64が第1溶接部42と第2溶接部62の間に侵入することを抑制することができる。また、接着剤64が過剰に塗布されることが回避されることから、接着剤64の塗布量の低減を図ることができる。
【0049】
接着剤64を介して傾斜部対向部44と傾斜部46が接合されることにより、サイドシルスチフナ34とサイドシルインナ30が仮組立される。さらに、サイドシルスチフナ34を覆うようにしてサイドシルアウタ32が並列される。この際、サイドシルアウタ32のフランジの上部と、第1上フランジ38の第1溶接部42を含む上部と、第2上フランジ52の第2溶接部62を含む上部とが重畳される。このようにして重畳された3個のフランジに対し、図示しないロボットに設けられた溶接ガンを介して、スポット溶接が行われる。
【0050】
前記ロボットには、ティーチングが予め施されている。ロボットは、サイドシル12の延在方向(車体10の前後方向)に沿って溶接ガンを移動させ、複数回のスポット溶接を行う。溶接箇所66は、接着剤64の、互いに隣接する塗布箇所同士の間である。換言すれば、接着剤64は、互いに隣接する溶接箇所66同士の間に位置することになる(
図1参照)。従って、接着剤64が第1溶接部42と第2溶接部62の間に侵入することが抑制される。接着剤64が侵入したとしても、溶接箇所66によって堰き止められるので、その端部は、溶接箇所66よりも折曲部60側に位置する。
【0051】
すなわち、接着剤64が多量に存在する部分に溶接がなされることはない。このため、溶接が接着剤64に阻害されることが回避される。すなわち、第1溶接部42と第2溶接部62が溶接によって強固に接合される。
【0052】
このように、本実施の形態によれば、傾斜部46と傾斜部対向部44との間のクリアランス内に十分に充填された接着剤64と、第1溶接部42と第2溶接部62に施された溶接とにより、第1上フランジ38と第2上フランジ52を強固に接合することができる。しかも、接着剤64を過剰に塗布することが防止されることから、接着剤64の塗布量の低減を図ることができる。
【0053】
サイドシル12とセンタピラー14の、前ドア用開口20、後ドア用開口22を画成する端部は、オープニングトリム24で覆われる。すなわち、第1上フランジ38や第2上フランジ52、サイドシルアウタ32のフランジ、さらには、溶接箇所66等がオープニングトリム24内に隠される。このため、車体10の意匠性が良好となる。なお、オープニングトリム24は、ドアと車体10の間をシールする。
【0054】
このような車体側部構造を備える車体10が四輪自動車として走行する際、側部に何らかの障害物が当接することがあり得る。すなわち、車体側部に大荷重が加わる。
【0055】
障害物がセンタピラー14やその近傍に当接したときには、センタピラーインナ70の開口76を起点とし、センタピラースチフナ74が折れ曲がるように変形する。この変形により、衝撃エネルギが緩和される。すなわち、変形がさらに広がることが抑制される。
【0056】
また、この車体側部構造では、サイドシルインナ30の前側部位56が後側部位58に比して高強度に設定されている。従って、障害物の当接によってセンタピラー14に大荷重が加わると、前側部位56では変形が起こり難くなる一方、後側部位58が容易に変形する。ここで、後側部位58は、後ドア用開口22の下部に位置している。すなわち、この場合、乗員の居住空間から隔たった箇所で変形を起こさせ、これにより衝撃エネルギを緩和することができる。
【0057】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、
図8に示すように、傾斜部46をサイドシルスチフナ34に設け、サイドシルインナ30の第2上フランジ52を平坦部として形成するようにしてもよい。なお、この
図8では、理解を容易にするべく、
図1〜
図3、
図6、
図7A〜
図7Cに示される構成要素と同一、又は対応する構成要素に対し、同一の参照符号を付している。
【0059】
また、上記したサイドシル12の構成は、センタピラー14が設けられていない車体においても採用することが可能である。