(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983960
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】信号処理装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/524 20060101AFI20211206BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20211206BHJP
G01S 7/292 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
G01S13/524
G01S13/95
G01S7/292 200
【請求項の数】23
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-132405(P2020-132405)
(22)【出願日】2020年8月4日
(62)【分割の表示】特願2019-568113(P2019-568113)の分割
【原出願日】2019年6月14日
(65)【公開番号】特開2020-177031(P2020-177031A)
(43)【公開日】2020年10月29日
【審査請求日】2020年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-147534(P2018-147534)
(32)【優先日】2018年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒巻 洋
(72)【発明者】
【氏名】柿元 生也
(72)【発明者】
【氏名】松田 知也
(72)【発明者】
【氏名】中溝 尚道
【審査官】
東 治企
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第07589666(US,B2)
【文献】
特開2013−205268(JP,A)
【文献】
特開2006−292476(JP,A)
【文献】
特開2012−018154(JP,A)
【文献】
特開2002−257933(JP,A)
【文献】
SIGGIA, A.D. et al.,“Gaussian model adaptive processing (GMAP) for improved ground clutter cancellation and moment calculation",PROCEEDING OF ERAD [online],2004年,Pages 67-73,http://copernicus.org/erad/2004/online/ERAD04_P_67.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射された前記パルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルを信号処理する信号処理装置において、
前記ドップラスペクトルから地形エコーを推定する地形エコー推定部と、
前記ドップラスペクトルから目標エコーの連続する候補点を抽出する候補点抽出部と、
前記地形エコー推定部に推定され、前記ドップラスペクトルから除去される前記地形エコーのスペクトルの複数の除去点と前記候補点との位置関係を判定する判定部と、
周波数軸方向における前記除去点と前記候補点との位置関係から、前記地形エコーのスペクトルの除去を行うことで前記目標エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出する補間点抽出部とを備え、
前記候補点抽出部は、予め定められた連続性に従って、前記ドップラスペクトル上の予め定められたノイズレベルよりも電力が高い点を前記連続する候補点として抽出し、
目標エコー復元部をさらに備え、
前記目標エコー復元部は、前記補間点の位置における前記目標エコーのスペクトルを復元する、信号処理装置。
【請求項2】
パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射された前記パルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルを信号処理する信号処理装置において、
前記ドップラスペクトルから地形エコーを推定する地形エコー推定部と、
前記ドップラスペクトルから目標エコーの連続する候補点を抽出する候補点抽出部と、
前記地形エコー推定部に推定され、前記ドップラスペクトルから除去される前記地形エコーのスペクトルの複数の除去点と前記候補点との位置関係を判定する判定部と、
周波数軸方向における前記除去点と前記候補点との位置関係から、前記地形エコーのスペクトルの除去を行うことで前記目標エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出する補間点抽出部とを備え、
前記候補点抽出部は、前記ドップラスペクトル上の予め定められたノイズレベルよりも電力が高い点を前記ドップラスペクトルから前記連続する候補点として抽出し、
目標エコー復元部をさらに備え、
前記目標エコー復元部は、前記補間点の位置における前記目標エコーのスペクトルを復元し、
前記候補点抽出部は、前記周波数軸方向において前記候補点が周波数軸方向に予め設定された連続性に対して不連続のとき、又は、前記候補点が予め設定された数よりも多いときは、前記ドップラスペクトルのノイズレベルを上げて、前記候補点を抽出する、信号処理装置。
【請求項3】
前記目標エコー復元部は、前記周波数軸方向において前記候補点と前記候補点の間に、前記除去点が存在するときは、前記除去点を挟んだ前記候補点の連なり全体の中点が、前記目標エコーのスペクトルの最大値となる点として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記目標エコー復元部は、前記周波数軸方向において前記候補点の連なりと前記除去点の連なりとが連続して存在しているとき、前記候補点の連なりの中で、最大値のものを前記目標エコーのスペクトルの最大値として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記目標エコー復元部は、前記周波数軸方向において前記候補点の間に、前記除去点が存在し、かつ、前記周波数軸方向において前記除去点を挟んだ前記候補点の連なり全体の中点が、前記候補点の一つのときは、前記中点となる前記候補点のスペクトル点を、前記目標エコーのスペクトルの最大値となる点として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記目標エコー復元部は、前記周波数軸方向において前記候補点の連なりと前記除去点の連なりとが連続して存在し、かつ、前記周波数軸方向において前記候補点の連なり及び前記除去点の連なりによる連なり全体の中点が、前記候補点の一つのときは、前記中点となる前記候補点のスペクトル点を、前記目標エコーのスペクトルの最大値となる点として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記候補点抽出部は、前記周波数軸方向において前記除去点と前記候補点とが連続していないとき、又は、前記ドップラスペクトルのノイズレベルを上げた後と上げる前とを比較して、前記候補点の出現の仕方が変化しないときは、前記候補点が無いと判定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
除去点処理部をさらに備え、
前記除去点処理部は、前記候補点抽出部が前記候補点は無いと判定したとき、前記除去点のレベルを零又は前記ドップラスペクトルのノイズレベルに置き換える、請求項7に記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記信号処理装置は、前記候補点、前記除去点、前記補間点及び復元された前記目標エコーのスペクトルのうち、少なくとも一つを外部へ出力する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記目標エコーのスペクトル及び前記地形エコーのスペクトルは、同じ分布関数の形状を有し、
前記分布関数はガウス関数であり、前記目標エコーは気象エコーである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項11】
パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射された前記パルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルのうち、同じ分布関数の形状である目標エコーのスペクトル及び地形エコーのスペクトルから、前記分布関数を用いて前記地形エコーを除去した前記ドップラスペクトルを信号処理する信号処理方法において、
前記地形エコーのスペクトルが除去された前記ドップラスペクトルから、前記目標エコーのスペクトルの連続する候補点を抽出する候補点抽出ステップと、
前記ドップラスペクトルから除去される前記地形エコーのスペクトルの複数の除去点と前記候補点との位置関係を判定する位置関係判定ステップと、
周波数軸方向における前記除去点と前記候補点との位置関係から、前記地形エコーのスペクトルの除去を行うことで前記目標エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出する補間点抽出ステップとを備え、
前記候補点抽出ステップは、予め定められた連続性に従って、前記ドップラスペクトル上の予め定められたノイズレベルよりも電力が高い点を前記連続する候補点として抽出し、
補間点復元ステップをさらに備え、
前記補間点復元ステップは、前記補間点の位置における前記目標エコーのスペクトルを復元する、信号処理方法。
【請求項12】
パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射された前記パルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルのうち、同じ分布関数の形状である目標エコーのスペクトル及び地形エコーのスペクトルから、前記分布関数を用いて前記地形エコーを除去した前記ドップラスペクトルを信号処理する信号処理方法において、
前記地形エコーのスペクトルが除去された前記ドップラスペクトルから、前記目標エコーのスペクトルの連続する候補点を抽出する候補点抽出ステップと、
前記ドップラスペクトルから除去される前記地形エコーのスペクトルの複数の除去点と前記候補点との位置関係を判定する位置関係判定ステップと、
周波数軸方向における前記除去点と前記候補点との位置関係から、前記地形エコーのスペクトルの除去を行うことで前記目標エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出する補間点抽出ステップとを備え、
前記候補点抽出ステップは、前記ドップラスペクトル上の予め定められたノイズレベルよりも電力が高い点を前記ドップラスペクトルから前記連続する候補点として抽出し、
補間点復元ステップをさらに備え、
前記補間点復元ステップは、前記補間点の位置における前記目標エコーのスペクトルを復元し、
前記候補点抽出ステップは、前記周波数軸方向において前記候補点が周波数軸方向に予め設定された連続性に対して不連続のとき、又は、前記候補点が予め設定された数よりも多いときは、前記ドップラスペクトルのノイズレベルを上げて、前記候補点を抽出する、信号処理方法。
【請求項13】
前記候補点抽出ステップは、前記周波数軸方向において前記候補点が周波数軸方向に予め設定された連続性に対して不連続のとき、又は、前記候補点が予め設定された数よりも多いときは、前記ドップラスペクトルのノイズレベルを上げて、前記候補点を抽出する、請求項11に記載の信号処理方法。
【請求項14】
前記補間点復元ステップは、前記周波数軸方向において前記候補点と前記候補点の間に、前記除去点が存在するときは、前記除去点を挟んだ前記候補点の連なり全体の中点が、前記目標エコーのスペクトルの最大値となる点として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項15】
除去点処理ステップをさらに備え、
前記除去点処理ステップは、復元された前記目標エコーのスペクトル以外の部分の前記除去点のレベルを零又は前記ドップラスペクトルのノイズレベルに置き換える、請求項11〜14のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項16】
前記補間点復元ステップは、前記周波数軸方向において前記候補点の連なりと前記除去点の連なりとが連続して存在しているとき、前記候補点の連なりの中で、最大値のものを前記目標エコーのスペクトルの最大値として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項11〜15のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項17】
前記補間点復元ステップは、前記周波数軸方向において前記候補点の間に、前記除去点が存在し、かつ、前記周波数軸方向において前記除去点を挟んだ前記候補点の連なり全体の中点が、前記候補点の一つのときは、前記中点となる前記候補点のスペクトル点を、前記目標エコーのスペクトルの最大値となる点として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項11〜16のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項18】
前記補間点復元ステップは、前記周波数軸方向において前記候補点の連なりと前記除去点の連なりとが連続して存在し、かつ、前記周波数軸方向において前記候補点の連なり及び前記除去点の連なりによる連なり全体の中点が、前記候補点の一つのときは、前記中点となる前記候補点のスペクトル点を、前記目標エコーのスペクトルの最大値となる点として、前記目標エコーのスペクトルを復元する、請求項11〜17のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項19】
前記候補点抽出ステップは、前記周波数軸方向に予め設定された距離の間隔で位置関係を判定し、前記除去点と前記候補点とが連続しているかどうかを判定する、請求項11〜18のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【請求項20】
前記候補点抽出ステップは、前記周波数軸方向において前記除去点と前記候補点とが連続していないときは、前記候補点が無いと判定する、請求項19に記載の信号処理方法。
【請求項21】
前記候補点抽出ステップは、前記ドップラスペクトルのノイズレベルを上げた後と上げる前とを比較して、前記候補点の出現の仕方が変化しないときは、前記候補点が無いと判定する、請求項12又は13に記載の信号処理方法。
【請求項22】
前記候補点抽出ステップは、前記候補点が無いと判定したとき、前記除去点のレベルを零又は前記ドップラスペクトルのノイズレベルに置き換える、請求項20又は21に記載の信号処理方法。
【請求項23】
前記分布関数はガウス関数であり、前記目標エコーは気象エコーである、請求項11〜22のいずれか1項に記載の信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔に存在する目標や物体の距離及び速度を計測するために電磁波や音波などの波動を用いる観測装置(計測装置)の信号処理を行う信号処理装置及び信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、遠隔に存在する目標や物体の距離及び速度を計測するものとして、電磁波や音波などの波動を用いた観測装置(計測装置)がある。このような観測装置(計測装置)においては、レーダ装置、ライダー(光波レーダ)装置、ソーダ(音波レーダ)装置などを使ったパルスドップラの技術が知られている。パルスドップラの技術には、基本掃引周期外(距離計測範囲の外)エコーを使用するもの又は除去するものがある。以降は、レーダ装置(特に、パルスドップラレーダ装置)を観測装置の例として説明を行なうが、本願に係る信号処理装置及び信号処理方法の適用は、レーダ装置に限らない。また、パルスドップラの技術は、目標物を降水粒子(雨粒)とする気象レーダ装置などの観測装置(計測装置)にも使用されている。気象レーダ装置は、空間にパルス状の電磁波を放射するとともに、空間内の目標物である気象粒子(降水粒子)で散乱された反射波を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより、対象の位置や、強度(電力)、ドップラ速度、スペクトル幅等を計測するものである。
【0003】
このように観測装置(計測装置)を使って、遠隔に存在する目標や物体の距離及び速度を計測するための観測方法(計測方法)は、送信波にパルス変調を施し、パルスの送受信間の時間差から距離を算出するものである。また、パルス繰り返し周期でサンプルされた受信信号に周波数解析を施すことにより、目標のドップラ周波数(ドップラ速度)を算出することができる。また、観測装置(計測装置)は、不要波を除去することで、目標を精度良く計測することができる。
【0004】
例えば、気象レーダ装置においては、3次元空間を高速かつ高密度に計測する要求があるが、水平に近い仰角で計測させると、多かれ少なかれ地形エコーが受信される。また仰角が、ある程度大きい場合でもサイドローブが近距離の地形に捉えられることがある。地形エコーが混入するとドップラスペクトル上には地形と降水による二つのピークが出現し、地形エコーは降水(気象エコー)のドップラ速度を見かけ上ゼロ方向にシフトさせるだけでなく、一般に突出した電力を持つことから強度(電力)すなわち雨量強度も過大評価させる。そのため、地形エコーを除去する必要がある。地形エコーを除去する処理は、一般に、MTI(Moving Target Indicator)と呼ばれる。
【0005】
地形エコーの信号は、ドップラ速度が0付近の低周波域に集中していることから、時系列位相差信号の低周波ろ過フィルタを用いて除去する手法(例えば、非特許文献1参照)や、ドップラスペクトル上でドップラ速度0付近を除去し、さらにその除去域を周辺の信号で補間することで地形エコーとともに抑圧されたドップラ速度0付近の気象エコーの回復を図る手法(例えば、非特許文献1参照)がある。
【0006】
また、地形エコーの除去及び気象エコーの復元を行う手法として、地形エコー及び気象エコーがドップラスペクトル上では共にガウス分布形状を成していることを利用し、ガウス分布当てはめ(以降、ガウシアンフィッティングと呼ぶ)を用いるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,589,666号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】石原正仁、ドップラー気象レーダー、気象研究ノート第200号、日本気象学会、pp.30−31、2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示される方法は、地形エコーや気象エコーの元となるガウシアン形状は一般に、振幅、平均、分散(標準偏差)といった3つのパラメータで規定されるため、3つのパラメータを調整しながら最適化(最小2乗誤差最小化)を図るガウシアンフィッティングは演算量、演算時間が長いという課題がある。このように、受信信号から導出されたドップラスペクトルのうち、同じ分布関数の形状である目標エコー(気象エコー)のスペクトル及び地形エコーのスペクトルから、分布関数を用いて地形エコーを除去する場合、低演算量(演算時間)であればあるほどよい。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解消するためになされたもので、パラメータの探索空間を狭めて、目標エコー(気象エコー)を復元するための補間点を短時間で抽出することができる信号処理装置及び信号処理方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る信号処理装置及び信号処理方法は、パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射された前記パルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルから地形エコーのスペクトルを除去し、前記地形エコーのスペクトルが除去された前記ドップラスペクトルから、前記目標エコーのスペクトルの複数の候補点を抽出し、前記ドップラスペクトルから除去される前記地形エコーのスペクトルの複数の除去点と前記候補点との位置関係を判定し、周波数軸方向における前記除去点と前記候補点との位置関係から、前記地形エコーのスペクトルの除去を行うことで前記目標エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、地形エコーのスペクトルの除去点と目標エコーのスペクトルの候補点との位置関係から、目標エコーを復元するための補間点を抽出することができる信号処理装置及び信号処理方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施の形態1及び2に係る信号処理装置を適用した気象レーダ装置の機能ブロック図である。
【
図2】この発明の実施の形態1に係る信号処理方法のフローチャートである。
【
図3】この発明の実施の形態1に係る信号処理方法のフローチャートである。
【
図4】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における受信信号のドップラスペクトルの構成を示す模式図である。
【
図5】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去、目標エコー(気象エコー)復元を説明する模式図である。
【
図6】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去点と目標エコー(気象エコー)候補点との関係を示す模式図である。
【
図7】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去点と目標エコー(気象エコー)候補点との関係を示す模式図である。
【
図8】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去点と目標エコー(気象エコー)候補点との関係を示す模式図である。
【
図9】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去点と目標エコー(気象エコー)候補点との関係を示す模式図である。
【
図10】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去点と目標エコー(気象エコー)候補点との関係を示す模式図である。
【
図11】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法における地形エコー除去点と目標エコー(気象エコー)候補点との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願は、パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射されたパルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルを信号処理する信号処理装置と、パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射されたパルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルのうち、同じ分布関数の形状である目標エコーのスペクトル及び地形エコーのスペクトルから、分布関数を用いて地形エコーを除去したドップラスペクトルを信号処理する信号処理方法とに関するものである。実施の形態では、信号処理装置及び信号処理方法を適用する観測装置(計測装置)が気象レーダ装置の場合を例示的に説明する。そのため、目標エコーは気象エコーとなる。また、分布関数はガウス関数であるものを例示的に説明する。つまり、本願は、気象エコーの復元にも利用可能で、多くの地形エコー除去手法でも採用されているスペクトル上でのガウシアンフィッティングによる地形エコー除去に適用が好ましいものである。
【0015】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法については
図1から
図11を用いて説明する。特に、実施の形態1に係る信号処理方法については
図2及び
図3を用いて説明する。
図1は、実施の形態1に係る信号処理装置を適用した気象レーダ装置(観測装置、計測装置)の機能ブロック図である。
図1とは異なる機能ブロックの構成でも本願は実施できる。つまり、
図1に示すものは、一例のブロック構成である。本願の図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する場合がある。
【0016】
図1において、実施の形態1に係る信号処理装置を適用した気象レーダ装置は、送信部1、送受切替部2、空中線部3(アンテナ部3)、受信部4、信号処理部5(信号処理部5は、本願に係る信号処理装置に相当)を備えている。これらが、実施の形態1に係る気象レーダ装置といえる。換言すると、実施の形態1に係る観測装置(計測装置)は、送信部1、送受切替部2、空中線部3(アンテナ部3)又は光スキャナ部3或いは音波スピーカ部3、受信部4、信号処理部5(本願に係る信号処理装置)を備えているといえる。空中線部3(アンテナ部3)又は光スキャナ部3或いは音波スピーカ部3は、波動送出・受入部3といえる。このような波動送出・受入部3は送受が別体でもよい。
【0017】
図1において、送信部1は、送信波の元となる基準信号を発生し、基準信号にパルス変調、送信ごとに初期位相が変化するような位相変調、周波数変換、増幅を行うものである。送受切替部2は、送信部1で生成された送信波であるパルス波動を空中線部3へと出力するとともに、空中線部3から受信波を取り込むものである。空中線部3は、パルス波動を送信波として空間に放射するとともに、空間中に存在する物体で反射されて到来した電波(反射波動)を受信波(反射波)として取得するものである。受信部4は、空中線部3で受信して送受切替部2を経由した受信波を取り込み、周波数変換、増幅した後、受信波を検波することにより受信信号(パルス波動の反射波の受信信号)を生成し信号処理部5へ送るものである。
【0018】
図1において、信号処理装置5は、実施の形態1に係る信号処理装置である。信号処理装置5は、スペクトル算出部7、地形エコー抑圧部8、気象エコー復元部11(目標エコー復元部11)、スペクトルパラメータ推定部15(目標エコー復元部15)を有している。スペクトル算出部7及びスペクトルパラメータ推定部15(目標エコー復元部15)の少なくとも一方を信号処理装置5の外部に設けてもよい。
図1では、スペクトル算出部7及びスペクトルパラメータ推定部15の両方が信号処理装置5の点線で囲った部分の外部にある場合を例示している。また、信号処理装置5は、後述する気象エコー候補点(候補点と呼ぶ)、地形エコー点(除去点と呼ぶ)、補間点及び復元された目標エコーのスペクトルのうち、少なくとも一つを外部へ出力する。表示部6は、信号処理装置5から出力された候補点、除去点、補間点及び復元された目標エコーを表示する例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置である。表示部6は、後述する信号処理部5(スペクトルパラメータ推定部15)から入力されたスペクトルパラメータを予め定められた方法で表示するようにしもてよい。
【0019】
図1において、スペクトル算出部7は、受信部4で生成された受信信号にフーリエ変換を施し、ドップラスペクトルを生成する。地形エコー抑圧部8は、地形エコー推定部9及び地形エコー除去部10を有する。地形エコー推定部9は、反射されたパルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルから地形エコーを推定するものである。地形エコー推定部9による推定は、スペクトル算出部7で生成されたドップラスペクトルに対して、地形エコーのスペクトル分布をフィッティングにより推定することが好ましい。地形エコー除去部10は、地形エコー推定部9で推定された地形エコーのスペクトル分布に含まれるドップラスペクトルの点を除去する。
【0020】
図1において、気象エコー復元部11(目標エコー復元部11)は、気象エコー候補点抽出部12(候補点抽出部12)、気象エコークラッタ重畳判定部13(判定部13)及び気象エコー再現部14(目標エコー再現部14)を有している。気象エコー候補点抽出部12(候補点抽出部12)は、ドップラスペクトルから気象エコーの複数の候補点を抽出するものである。気象エコー候補点抽出部12による抽出は、地形エコー抑圧部8(地形エコー除去部10)から出力された地形エコー除去後のドップラスペクトルを入力とし、予め定められたイズレベル以上のスペクトル点を気象エコーの候補点として抽出することが好ましい。
【0021】
図1において、気象エコークラッタ重畳判定部13(判定部13)は地形エコー推定部9に推定され、ドップラスペクトルから除去される地形エコーのスペクトルの複数の除去点と複数の候補点との位置関係を判定するものである。気象エコークラッタ重畳判定部13による位置関係の判定は、地形エコー推定部9で推定された除去点と気象エコー候補点抽出部12で抽出された候補点を入力として、両者が重畳・隣接しているか否かを判定することが好ましい。
【0022】
図1において、気象エコー再現部14は、気象エコークラッタ重畳判定部13から出力された気象エコークラッタ位置情報(除去点の位置情報)に基づき、気象エコー(スペクトル)を再現する必要がある場合には候補点を用いてフィッティングにより、気象エコースペクトルを再現する。再現する必要がない場合には、除去点を0又は予め定められたノイズレベルの値に置き換えるものである。気象エコー再現部14(目標エコー再現部14)は、補間点抽出部14a及び除去点処理部14bを有している。補間点抽出部14aは、除去点と候補点との位置関係から、地形エコーのスペクトルの除去を行うことで気象エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出するものである。除去点処理部14bは、候補点抽出部12が候補点は無いと判定したとき、除去点のレベルを零又はドップラスペクトルのノイズレベルに置き換えるものである。実施の形態1に係る信号処理装置は、補間点抽出部14aによる補間点の抽出までの動作だけのものも含む。
【0023】
図1において、スペクトルパラメータ推定部15(目標エコー復元部15)は、気象エコー復元部11(気象エコー再現部14)から入力されたドップラスペクトルから気象エコースペクトルを検出し、そのスペクトルパラメータである強度(電力)、ドップラ速度、スペクトル幅を推定により算出するものである。つまり、スペクトルパラメータ推定部15は、補間点の位置における気象エコー(目標エコー)のスペクトルを復元するものである。詳しくは、スペクトルパラメータ推定部15は、候補点と除去点との位置関係から、地形エコーによって抑圧された補間点を復元するものである。
【0024】
ここで、
図2を用いて実施の形態1に係る信号処理方法のステップ(処理、処理ステップ、ST)を説明する。実施の形態1に係る信号処理方法は、実施の形態1に係る信号処理装置(信号処理部5)の処理に関するものである。
図2(b)は、実施の形態1に係る信号処理方法のステップにおいて、スペクトルパラメータ推定部15及び除去点処理部14bの処理もステップ(ST103及びST103)に加えたものである。本願の図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する場合がある。
【0025】
図2(a)において、候補点抽出ステップ(ST101)は、パルス波動が繰り返し空間に送信され、反射されたパルス波動の反射波の受信信号から導出されたドップラスペクトルのうち、同じ分布関数の形状である気象エコーのスペクトル及び地形エコーのスペクトルから、分布関数を用いて地形エコーのスペクトルが除去されたドップラスペクトルから、気象エコーのスペクトルの複数の候補点を抽出するステップである。候補点は、除去点から抽出するため、除去点がない場合は終了する。つまり、除去点がない場合は、地形エコーによる気象エコーの抑圧が無い状態であるので復元する必要はない。また、除去点があった場合でも、候補点がない場合は終了する。つまり、候補点がない場合は、地形エコーはあるが、地形エコーによる気象エコーの抑圧が無い状態であるので復元する必要はない。
【0026】
図2(a)において、位置関係判定ステップ(ST102)は、ドップラスペクトルから除去される地形エコーのスペクトルの複数の除去点と複数の候補点との位置関係を判定するステップである。除去点と候補点とが隣接していない場合は終了する。つまり、地形エコーはあるが、地形エコーによる気象エコーの抑圧が無い状態であるので復元する必要はない。補間点抽出ステップ(ST103)は、除去点と候補点との位置関係から、地形エコーのスペクトルの除去を行うことで気象エコーのスペクトルが欠ける点を、補間点として抽出するステップである。
【0027】
図2(b)において、補間点復元ステップ(ST103)は、補間点の位置における目標エコーのスペクトルを復元するステップである。除去点処理ステップ(ST104)は、候補点がない場合に除去点のレベルを零又はドップラスペクトルのノイズレベルに置き換えるステップである。また、除去点処理ステップ(ST104)は、復元された目標エコーのスペクトル以外の部分、又は、復元されるべき目標エコーのスペクトル以外の部分の除去点のレベルを零又はドップラスペクトルのノイズレベルに置き換えるステップである。
【0028】
次に、実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法の好適な構成を
図3のフローチャートを用いて説明する。すなわち、実施の形態1に係る信号処理装置の主要部である信号処理部5内の地形エコー抑圧部8及び気象エコー復元部11の好適な動作説明をする。
図4から
図11は、地形エコー抑圧部8及び気象エコー復元部11の詳細な処理を補足するものである。
図4から
図11においては、横軸がドップラスペクトルの周波数軸方向(周波数方向、ドップラ方向、速度方向)を示しており、縦軸がドップラスペクトルの電力軸方向(電力方向)を示している。
【0029】
図1に示す地形エコー抑圧部8及び気象エコー復元部11の原理は、地形エコースペクトル及び気象エコースペクトルが各々ガウシアン型のスペクトル形状を持ち、スペクトル算出部7から出力された受信信号のスペクトルが式(1)のように表すことができるという仮定に基づくものである。
【0031】
式(1)において、S(ν)は受信信号のスペクトル全体を表し、式(1)第一項は地形エコー成分であり、S
Cは地形エコー(ピーク)電力、σ
Cは地形エコースペクトル幅を表し、式(1)第二項は気象エコー成分であり、S
Wは気象エコー(ピーク)電力、ν
Wは気象エコー(平均)ドップラ速度(なお、地形エコーは平均ドップラ速度が0付近であるため表記していない)、σ
Wは気象エコースペクトル幅を表し、式(1)第三項ηは雑音電力(成分)を表している。
【0032】
図4は、受信信号のスペクトルを模式的に表したものである。
図4(a)はスペクトル全体を、
図4(b)は地形エコー成分を、
図4(c)は気象エコー成分を、
図4(d)は雑音成分を、それぞれ示す。なお、Vnはナイキスト速度である。また、
図5は、地形エコー及び気象エコーをガウシアン型のスペクトルでモデル化し、地形エコーは推定・除去(抑圧)するプロセスを、気象エコーは推定・再現(復元)するプロセスを表したものである。
【0033】
図5(a)は、
図4(a)に対応するものでスペクトル全体を示している。このとき、地形エコーのスペクトル及び気象エコーのスペクトルは、同図の通り太実線で示したガウシアン型にモデル化し、ノイズレベルも同図太実線のように一定値としている。
図5(b)は、地形エコースペクトル(同図破線)に含まれるスペクトル点を除去した状況を示し、除去点には同図の通り×印を付している。
図5(c)はノイズレベル以上の点(候補点)を抽出し、候補点に合わせて気象エコーのスペクトルを設定し、除去点の位置のスペクトル点を、新たに補間した状況を示している。同図において、白丸が気象エコースペクトルの候補点で、黒丸が補間点である。
【0034】
図3のフローチャートにおいて、まず、スペクトル(全体)に対して、地形エコースペクトルを設定する(ST1)。ここで、地形エコーは地面や山からの反射であり、環境条件によって大きく変わることは少ない。よって、スペクトル幅σ
Cは予め定められた固定値とすることができる。地形エコースペクトルにおける未知パラメータはピーク電力S
Cのみとなるが、この値は元のスペクトルのドップラ速度0点の値又はドップラ速度0近傍の数点の平均値とすることができる。以上のように、地形エコースペクトルに対してはフィッティング(探索)することなく設定することができる。
【0035】
次に、ST1で設定した地形エコースペクトルに含まれるスペクトル点を除去する(ST2、
図5(b))。ここで、除去点の有無を調べ(ST3)、地形エコースペクトルに含まれるスペクトル点、すなわち、除去点がない場合は、地形エコーが存在しないということであり、地形エコー抑圧及び気象エコー復元をせずに終了する。ST3において除去点がある場合は、次に、気象エコー候補点を抽出する(ST4)。この候補点は予め定められたノイズレベルよりも電力が高い点である。ここで、候補点の有無を調べる(ST5)。ST3、ST4、ST5が
図2に示すST101に相当する。
【0036】
ST5の処理において、候補点がない場合は、気象エコーがない、すなわち、除去点を気象エコースペクトルで補間する必要がないことを意味しており、除去点をノイズレベルの点又は零で補間する(ST6)。ST6が
図2に示すST105に相当する。つまり、気象エコー候補点抽出部12による候補点抽出ステップ(ST101)にて、候補点が無いと判定したとき、除去点のレベルを零又はドップラスペクトルのノイズレベルに置き換えている。なお、候補点が周波数(速度)方向にまばら(不連続)に、又は、多数出現する場合は設定したノイズレベルが低いことを意味しているためノイズレベルの調整(上昇)を行う。つまり、気象エコー候補点抽出部12による候補点抽出ステップ(ST101)にて、候補点が周波数軸方向(周波数方向、ドップラ方向、速度方向)に予め設定された連続性に対して不連続のとき、又は、候補点が予め設定された数よりも多いときは、ドップラスペクトルのノイズレベルを上げて、候補点を抽出する。
【0037】
候補点がまばら(不連続)に出現しているか否かを調べるには、例えば、候補点の周波数(速度)軸(図面では横軸)上の最大最小点を抽出し、最大最小区間のスペクトルのサンプル点の個数と、出現した候補点の数を比較し、ほぼ同数であれば連続的、サンプル点の方が2倍以上多い場合は不連続と判定することができる。また、多数出現しているか否かを調べるには、候補点の個数に対して閾値を設け、当該閾値との比較により判定することができる。ノイズレベル調整の結果、候補点の出現の仕方が変わらなければ、ノイズの変動幅が大きい、又は、スペクトルそのものが異常と判定し、ST6へ移行する。つまり、気象エコー候補点抽出部12による候補点抽出ステップ(ST101)にて、ドップラスペクトルのノイズレベルを上げた後と上げる前とを比較して、候補点の出現の仕方が変化しないときは、候補点が無いと判定して、ST6へ移行する。
【0038】
ST5において候補点がある場合は、次に、除去点と候補点の周波数(速度)軸上の距離を算出する(ST7)。
図6(a)はスペクトル全体、
図6(b)は周波数(速度)軸上の除去点と候補点の位置関係を示す例である。
図6(b)の例では、除去点と候補点とは隣接しており、距離は1(サンプル点)である。除去点と候補点の距離を算出するには、例えば、除去点群の中の最大点と候補点群の中の最小点の距離、及び、除去点群の中の最小点と候補点群の中の最大点の距離のうち、小さい方を採用することで算出することができる。但し、
図8に示すように候補点が除去点を包含するように広く分布する場合も考えられる。この場合は、候補点の最大点が除去点の最大点よりも大きく、かつ、候補点の最小点が除去点の最小点よりも小さい条件による抽出することができる。候補点間及び除去点間(サンプル点間)のピッチや抽出した補間点間のピッチは、予め定められたピッチである。このピッチにおいて、候補点の連なりと除去点の連なりとが隣り合う場合、又は、候補点と除去点とが隣り合う場合を、候補点の連なりと除去点の連なりとが連続する、又は、候補点と除去点とが連続するという。
【0039】
次に、除去点と候補点の距離(位置関係)を用いて隣接(連続)か否かを判定する(ST8)。ST7、ST8が
図2に示すST102に相当する。隣接していない場合は除去点に気象エコーのスペクトルが重畳することはない、すなわち、気象エコースペクトルのフィッティングは不要と考えられることから(
図7(a)(b))、除去点をノイズレベルで、補間し(ST6)、終了する。なお、候補点の値域が除去点の値域を包含する場合も隣接と判定する。つまり、気象エコー候補点抽出部12による候補点抽出ステップ(ST101)にて、周波数軸方向に予め設定された距離の間隔で位置関係を判定し、除去点と候補点とが連続しているかどうかを判定する。そして、気象エコー候補点抽出部12による候補点抽出ステップ(ST101)は、除去点と候補点とが連続していないときは、候補点が無いと判定する。
【0040】
ST8において、隣接している場合(
図7(c))は、補間点として抽出できるので、それらの補間点から、気象エコースペクトルの再現、すなわち、フィッティングによるパラメータ探索を行う(ST9)。ST9が
図2に示すST103に相当する。なお、除去点と候補点の位置関係によって、探索するパラメータの種類や探索方法を変えることができる。
図8は、候補点の値域が除去点の値域を包含するような位置関係の場合である。この場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wは候補点の中央に存在すると考えられ、ν
Wの探索範囲を例えば候補点群の中点±1速度ビンとすることができる。
図8(a)に示す白抜きの矢印は、候補点の中央が気象エコースペクトルのピーク(ドップラ速度)の位置を指している。
【0041】
図9は、候補点が除去点の上側又は下側一方にのみ存在する場合である。この場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータの存在範囲は、除去点と候補点を合わせた点の中央から、候補点の値域の中央までと考えられ、この範囲でパラメータを探索する。
【0042】
図10は、
図8と同様に候補点の値域が除去点の値域を包含する場合で、特に、除去点と候補点を合わせたサンプル点の中央が候補点群内にある場合である。この場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wは、除去点と候補点を合わせたサンプル点の中央であり、かつ、S
Wもそのスペクトル点の値と考えることができる。よって、ν
Wの探索範囲を例えば候補点群の中点±1速度ビンに、S
Wはそのスペクトル点又は隣接するスペクトル点の平均値とすることができる。
図10(a)に示す白抜きの矢印は、候補点の中央が気象エコースペクトルのピーク(ドップラ速度)かつピーク電力の位置を指している。
【0043】
図11は、
図9と同様に候補点が除去点の片側一方にのみ存在する場合で、特に、除去点と候補点を合わせたサンプル点の中央が候補点群内にある場合である。この場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wは、候補点の最大点の位置であり、かつ、S
Wもそのスペクトル点(最大点)の値と考えることができる。
図11(a)に示す白抜きの矢印は、候補点の最大点が気象エコースペクトルのピーク(ドップラ速度)かつピーク電力の位置を指している。
【0044】
ST8の結果、ST9(ST103)及びST10(ST104)における気象エコースペクトルのパラメータ探索において、スペクトル幅σ
Wは、例えばドップラスペクトルのサンプル点の刻み幅とすることができる。ST9における気象エコースペクトルのパラメータ探索の終了条件は、例えば、探索回数の上限を予め設定して定められた回数とする、又は、候補点と設定した気象エコースペクトルと対応する点との2乗誤差が最小とすることを条件とすることができる。最後に、除去点をST9で求めた気象エコースペクトルの該当する点を用いて補間する(ST10)。
【0045】
よって、実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、地形エコー抑圧部8によって除去されたスペクトル上の点と、除去されたスペクトル上の点を除き、かつ、予め定められた閾値以上の電力を持つ点が、周波数軸方向において隣接する場合にのみ、気象エコー復元部11において気象エコー復元を行うものである。詳しくは次の通りである。
【0046】
実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、候補点の値域が除去点の値域を包含するような位置関係の場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wは候補点の中央に設定するため、探索空間を削減でき、演算量(時間)を低減することができる。つまり、スペクトルパラメータ推定部15が(補間点復元ステップ,ST103にて)、周波数軸方向において候補点と候補点の間に、除去点が存在するときは、除去点を挟んだ候補点の連なり全体の中点が、気象エコーのスペクトルの最大値となる点として、値が未知の補間点を含めて、気象エコーのスペクトルを復元する。
【0047】
すなわち、気象エコークラッタ重畳判定部13(位置関係判定ステップ,ST102)において、地形エコー除去部10の処理後に残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の値域が、地形エコー除去部10の処理後に除去されたスペクトル上の点の値域を包含する場合は、気象エコー復元部11(補間点復元ステップ,ST103)において、残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の中央を気象エコースペクトルのピーク位置として気象エコー復元を行っている。
【0048】
実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、候補点が除去点の上側又は下側一方にのみ存在する場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wの存在範囲を、除去点と候補点を合わせた点の中央から、候補点の値域の中央までに限定するため、探索空間を削減でき、演算量(時間)を低減することができる。つまり、スペクトルパラメータ推定部15が(補間点復元ステップ,ST103にて)、周波数軸方向において候補点の連なりと除去点の連なりとが連続して存在しているとき、候補点の連なりの中で、最大値のものを気象エコーのスペクトルの最大値として、値が未知の補間点を含めて、気象エコーのスペクトルを復元する。
【0049】
すなわち、気象エコークラッタ重畳判定部13(位置関係判定ステップ,ST102)において、地形エコー除去部10の処理後に残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点が、地形エコー除去部10の処理後に除去されたスペクトル上の点よりも高いドップラ速度領域のみに存在する、又は、低いドップラ速度領域にのみ存在する場合は、残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点のドップラ速度上の中央から、気象エコー復元部11(補間点復元ステップ,ST103)において、地形エコー除去部10の処理後に除去されたスペクトル上の点と残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点とを合わせたスペクトル点の中央までの間を探索範囲として気象エコー復元を行っている。
【0050】
実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、候補点の値域が除去点の値域を包含する場合で、特に、除去点と候補点を合わせたサンプル点の中央が候補点群内にある場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wを、除去点と候補点を合わせたサンプル点の中央とし、かつ、S
Wをそのスペクトル点の値とするため、探索空間を削減でき、演算量(時間)を低減することができる。つまり、スペクトルパラメータ推定部15が(補間点復元ステップ,ST103にて)、周波数軸方向において候補点の間に、除去点が存在し、かつ、周波数軸方向において除去点を挟んだ候補点の連なり全体の中点が、候補点の一つのときは、中点となる候補点のスペクトル点を、気象エコーのスペクトルの最大値となる点として、値が未知の補間点を含めて、気象エコーのスペクトルを復元する。
【0051】
すなわち、気象エコークラッタ重畳判定部13(位置関係判定ステップ,ST102)において、地形エコー除去部10の処理後に残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の値域が、地形エコー除去部10の処理後に除去されたスペクトル上の点の値域を包含する場合で、かつ、残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の中央が除去点の値域外にある場合は、気象エコー復元部11(補間点復元ステップ,ST103)において地形エコー除去部10の処理後に残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の中央の点の値を気象エコーのスペクトルのピークとして気象エコー復元を行っている。
【0052】
実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、候補点が除去点の片側一方にのみ存在する場合で、特に、除去点と候補点を合わせたサンプル点の中央が候補点群内にある場合は、気象エコースペクトルの未知パラメータν
Wを、候補点の最大点の位置とし、かつ、S
Wをそのスペクトル点(最大点)の値とすることから、探索空間を削減でき、演算量(時間)を低減することができる。つまり、スペクトルパラメータ推定部15が(補間点復元ステップ,ST103にて)、周波数軸方向において候補点の連なりと除去点の連なりとが連続して存在し、かつ、周波数軸方向において候補点の連なり及び除去点の連なりによる連なり全体の中点が、候補点の一つのときは、中点となる候補点のスペクトル点を、気象エコーのスペクトルの最大値となる点として、値が未知の補間点を含めて、気象エコーのスペクトルを復元する。
【0053】
すなわち、気象エコークラッタ重畳判定部13(位置関係判定ステップ,ST102)において、地形エコー除去部10の処理後に残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点が、地形エコー除去部10の処理後に除去されたスペクトル上の点よりも高いドップラ速度領域のみに存在する、又は、低いドップラ速度領域にのみ存在し、かつ、残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の中央が除去点の値域外にある場合は、残存点中に気象エコーのピークが存在することから、気象エコー復元部11(補間点復元ステップ,ST103)において、地形エコー除去部10の処理後に残存する予め定められた電力以上のスペクトル上の点の最大の点の値を気象エコーのスペクトルのピークとして気象エコー復元を行っている。
【0054】
実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、これらの気象エコークラッタ重畳判定部13(位置関係判定ステップ,ST102)の動作(処理)を併用してもよい。つまり、候補点及び除去点の条件によって、気象エコーのスペクトルを復元する動作(処理)を選択すればよい。つまり、同じタイミングで取得できた受信信号から得られた複数の気象エコーごとに、気象エコークラッタ重畳判定部13(位置関係判定ステップ,ST102)の動作(処理)を選択すればよい。
【0055】
以上のように、実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法では、周波数軸方向における除去点と候補点の距離(位置関係)を用いて補間点を抽出するので、演算量(時間)を低減することができる。すなわち、周波数軸方向において除去点と候補点が隣接する場合にのみ、スペクトルパラメータを探索することから、全探索と比較し演算量(時間)を低減することができる。
【0056】
さらに、実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法では、補間点が抽出できるので、地形エコーと気象エコー(目標)のドップラスペクトル上での位相関係により、パラメータの探索範囲を絞ることが可能で、低演算量で(高速に)地形エコーの除去及び気象エコーの復元を行うことができる。換言すると、実施の形態1に係る信号処理装置及び信号処理方法は、地形エコーの除去及び気象エコー(目標エコー)の復元を行うことができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
1 送信部、2 送受信切替部、3 空中線部(アンテナ部、波動送出・受入部)、4 受信部、5 信号処理部、6 表示部、7 スペクトル算出部、8 地形エコー抑圧部、9 地形エコー推定部、10 地形エコー除去部、11 気象エコー復元部(目標エコー復元部)、12 気象エコー候補点抽出部(候補点抽出部)、13 気象エコークラッタ重畳判定部(判定部)、14 気象エコー再現部(目標エコー再現部)、14a 補間点抽出部、14b 除去点処理部、15 スペクトルパラメータ推定部(目標エコー復元部)。