特許第6984055号(P6984055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984055リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984055
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20211206BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20211206BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20211206BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20211206BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20211206BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20211206BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01M10/54
   C22B1/00 101
   C22B23/00 101
   C22B1/02
   C22B7/00 C
   B09B5/00 AZAB
   B09B3/00 303Z
【請求項の数】15
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2021-29400(P2021-29400)
(22)【出願日】2021年2月26日
(65)【公開番号】特開2021-141060(P2021-141060A)
(43)【公開日】2021年9月16日
【審査請求日】2021年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2020-38373(P2020-38373)
(32)【優先日】2020年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】本間 善弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 千尋
(72)【発明者】
【氏名】山下 正峻
(72)【発明者】
【氏名】劉 佳浩
【審査官】 宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−199774(JP,A)
【文献】 特開平07−207349(JP,A)
【文献】 特開平06−322452(JP,A)
【文献】 特開平10−074539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
B09C1/00−1/10
C22B1/00−61/00
H01M10/52−10/667
H01M50/20−50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト及びニッケルの少なくとも1種の元素と、マンガンとを含むリチウムイオン二次電池又はその正極材を処理して、コバルト及びニッケルの少なくとも1種を含む有価金属を濃縮する、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法であって、
前記リチウムイオン二次電池又はその正極材を600℃〜1200℃に加熱する熱処理工程と、
前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕し分級する破砕分級工程と、
前記破砕分級工程で得られた細粒産物を再度700℃以上1100℃以下に加熱し、マンガンを酸化状態のままコバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を形成させる再熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン二次電池における負極材がカーボンを含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項3】
前記再熱処理工程で得られた再熱処理物から、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物を選別して回収する選別工程を含む、請求項1から2のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項4】
前記選別工程で、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物と、マンガンが濃縮した産物とを回収する、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項5】
前記選別工程が、磁性、粒径、及び比重の少なくともいずれかの違いを利用した分離を行う工程である、請求項3から4のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項6】
前記熱処理工程において、リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含むケースに収容されており、加熱時にケース由来のアルミニウムを分離する、請求項1から5のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項7】
前記破砕分級工程において、衝撃、せん断又は圧縮による破砕を行い、篩目0.1mm〜2.4mmの篩を用いて分級を行う、請求項1から6のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項8】
前記再熱処理工程において、前記コバルト及びニッケルの少なくとも1種の金属を含む粒塊における、累積50%体積粒子径D50が1μm以上である、請求項1から7のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項9】
前記選別工程が磁力選別工程であり、磁力選別工程の磁石の磁束密度が0.01テスラ以上2テスラ以下である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項10】
前記磁力選別工程が湿式磁力選別であり、適用するスラリーに対し、分散剤を50mg/L以上添加する、請求項9に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項11】
前記湿式磁力選別で適用するスラリーに対し、超音波による粒子分散処理を行う、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項12】
前記熱処理工程及び前記再熱処理工程の少なくとも1つの工程において、還元成分を添加して還元雰囲気を形成する、請求項1から11のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項13】
前記熱処理工程又は前記再熱処理工程で、熱処理時間の一部の時間を空気雰囲気又は酸化雰囲気で加熱し、熱処理物又は再熱処理物の還元成分の品位を低減する、請求項1から12のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項14】
前記再熱処理工程の後、且つ前記選別工程の前に熱処理物を再度破砕する再破砕工程を行う、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【請求項15】
前記破砕分級工程で得られた前記細粒産物に対し、磁力を用いた磁力選別工程を行い、前記磁力選別工程で得られた磁着物に対して前記再熱処理工程を行う、請求項1から14のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、高起電力の二次電池であり、パソコン、電気自動車、携帯機器などの二次電池として使用されている。例えば、リチウムイオン二次電池の正極には、コバルトやニッケルなどの有価金属が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、三元系正極活物質(LiNiCoMn(x+y+z=1))などとして使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、今後も使用の拡大が予想されていることから、製造過程で発生した不良品や使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池からコバルトやニッケルなどの有価金属を濃縮することが、資源リサイクルの観点から望まれている。
【0004】
例えば、リチウムイオン二次電池の廃材から有価金属を回収する技術として、二次電池廃材を酸素含有ガス気流中300〜500℃で加熱し金属箔を分離除去して回収し、回収物を再度酸素含有ガス気流中500〜650℃で加熱して燃焼性物質を除去することで正極材用途の金属化合物として回収する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、熱分解処理を二段階で行い、第一段階の金属箔から電極材料を剥離させるまでは電極材料中のグラファイトの分解を極力抑制し、また、金属箔を分離除去した後の第二段階ではグラファイトの分解を行うことにより、回収される金属化合物についてその粒径が大きくなる焼結現象を可及的に抑制している。
【0005】
また、例えば、アルミニウム筐体で包み込まれたリチウムイオン電池を低温条件400〜550℃で加熱し、破砕分級された篩下の電池粉末を高温条件550〜700℃で加熱することにより、アルミニウムを有効に除去し、また、コバルト等の有価金属を磁選や浮選に適した形態に変化させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術は、正極材用途の金属化合物として、回収した電極材料をそのまま再利用することが目的であるため、ニッケルやコバルトを金属として回収することには一切着目していない。
また、特許文献2に記載の技術は、コバルト酸リチウムなどのコバルト系の正極材を用いた電池を対象として、アルミニウム、アルミン酸リチウム、銅、酸化銅、炭素などの混合物からコバルトを分離することを目的としており、3元系の正極材(LiNiCoMn(x+y+z=1))などのコバルト、ニッケル、マンガンを含む酸化物から、マンガンを熱処理及び物理的な選別により分離することについては言及されていなかった。
【0007】
リチウムイオン二次電池からコバルトおよびニッケルを濃縮する技術として、例えば、電極材料を酸素存在下で焼成し、焼成体を無機酸に浸出することでコバルトと銅およびアルミニウムを分離濃縮する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術では、コバルトとアルミニウムを無機酸に浸出させて銅を分離できる。また無機酸のpH調整によってコバルトとアルミニウムを分離できる。
【0008】
また、例えば、リチウム、マンガン、ニッケル、およびコバルトからなる金属群Aと、銅、アルミニウムおよび鉄からなる金属群Bとを含有する金属混合水溶液に対して2段の溶媒抽出工程を行い金属B群およびマンガンをリチウムとニッケルとコバルトから分離する技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、例えば、廃リチウムイオン二次電池を350℃〜550℃の過熱蒸気で熱分解し、破砕、分級を行い正極材料に含まれる有価金属を濃縮する技術が提案されている(例えば、特許文献5参照)。これにより、リチウムイオン二次電池に含まれる有機物を金属の酸化およびダイオキシン類の発生を抑制しながら低コストで熱分解が可能であるとともに、筐体および正極集電体に含まれるアルミニウム(融点660℃)を溶融させず、正極材料に含まれる有価金属を濃縮できる。
【0010】
しかしながら、上述したような特許文献3に記載の技術においては、例えば、無機酸のろ過やpH調整などの煩雑な工程が必要になるという問題があった。
また、特許文献4に記載の技術では、例えば、コバルトとニッケルとリチウムからマンガンを分離するために溶媒抽出を利用するため、抽出剤コストや設備導入コストが過大となる問題があった。
また、特許文献5に記載の技術では、例えば、アルミニウムと銅は高い濃縮率で分離できるものの、コバルトやニッケルは金属化されておらず、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属は混合の化合物として濃縮するのみであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−348782号公報
【特許文献2】特開2017−37807号公報
【特許文献3】特開2019−169309号公報
【特許文献4】特許第5706457号公報
【特許文献5】国際公開第2012/169073号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、使用済みのリチウムイオン二次電池又は使用済みのリチウムイオン二次電池の正極材、又はそれらの製造工程スクラップなどを対象として、コバルト及びニッケルが濃縮された金属分が容易に得られ、他の電池構成成分、特に正極活物質としてコバルトとニッケルとマンガンを含む複合酸化物からコバルト及びニッケル、更にはマンガンを容易に分離しやすくなる、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らが、鋭意検討を重ねた結果、リチウムイオン二次電池に含まれる正極活物質としてのコバルト及びニッケルは、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウムを含む酸化物形態で存在しているが、熱力学的理論計算に基づき特定条件の熱処理を行うことによって、酸化物のコバルト及びニッケルを金属(メタル)に変化させると共に、マンガン等は酸化物のままで存在させることにより、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)金属分が効率よく得られることを知見した。
【0014】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> コバルト及びニッケルの少なくとも1種の元素を含むリチウムイオン二次電池又はその正極材を処理して、コバルト及びニッケルの少なくとも1種を含む有価金属を濃縮する、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法であって、
前記リチウムイオン二次電池又はその正極材を熱処理し、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を形成させる熱処理工程、
を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<2> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池又はその正極材を、還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で熱処理する、<1>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<3> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池を、熱処理温度以上の融点を有するケースに収容された状態で熱処理する、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<4> 前記ケースが、前記リチウムイオン二次電池のパック、モジュール、又はセルにおける外装ケースである、<3>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<5> 前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池又はその正極材に含まれるコバルト及びニッケルの少なくとも1種の全質量%に対して、炭素が10質量%以上存在する状態で熱処理を行う、<1>〜<4>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<6> 前記炭素がリチウムイオン二次電池の負極材由来の炭素を含む、<5>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<7> 前記熱処理工程により得た、前記リチウムイオン二次電池又はその正極材の熱処理物を破砕する破砕工程と、
前記破砕工程により得た前記熱処理物の破砕物から、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物を選別して回収する選別工程と、
を更に含む、<1>〜<6>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<8> 前記選別工程が、
前記破砕工程で得られた前記破砕物に対し、篩目0.1mm〜2.4mmの篩を用いて分級を行い、粗粒産物と細粒産物と分級する第1選別工程と、
前記第1選別工程で得られた細粒産物に対し、磁性、粒径、及び比重の少なくともいずれかの違いを利用した分離を行う第2選別工程と、
を含む、<7>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<9> 前記第1選別工程で得られた前記細粒産物を、更に微粉砕する微粉砕工程を含み、
前記微粉砕工程で得られた微粉砕物に対し、前記第2選別工程を行う、<8>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<10> 前記微粉砕物の累積50%体積粒子径D50が75μm以下である、<9>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<11> 前記選別工程が磁力選別工程であり、磁力選別工程の磁石の磁束密度が0.01テスラ以上2テスラ以下である、<7>〜<10>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<12> 前記磁力選別工程が湿式磁力選別である、<11>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<13> 前記湿式磁力選別で適用するスラリーに対し、分散剤を50mg/L以上添加する、<12>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<14> 前記湿式磁力選別で適用するスラリーに対し、超音波による粒子分散処理を行う、<12>又は<13>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<15> 前記熱処理工程において、熱処理を750℃以上1200℃以下で1時間以上行う、<1>〜<14>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<16> コバルト及びニッケルの少なくとも1種の元素を含むリチウムイオン二次電池又はその正極材を処理して、コバルト及びニッケルの少なくとも1種を含む有価金属を濃縮する、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法であって、
前記リチウムイオン二次電池又はその正極材を600℃〜1200℃に加熱する熱処理工程と、
前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕し分級する破砕分級工程と、
前記破砕分級工程で得られた細粒産物を再度300℃〜1200℃に加熱し、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を形成させる再熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<17> 前記リチウムイオン二次電池における負極材がカーボンを含む、<16>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<18> 前記再熱処理工程で得られた再熱処理物から、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物を選別して回収する選別工程を含むことを特徴とする、<16>又は<17>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<19> 前記選別工程で、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物と、マンガンが濃縮した産物とを回収することを特徴とする、<18>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<20> 前記選別工程が、磁性、粒径、及び比重の少なくともいずれかの違いを利用した分離を行う工程である、<18>又は<19>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<21> 前記熱処理工程において、リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含むケースに収容されており、加熱時にケース由来のアルミニウムを分離する、<16>〜<20>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<22> 前記破砕分級工程において、衝撃、せん断又は圧縮による破砕を行い、篩目0.1mm〜2.4mmの篩を用いて分級を行う、<16>〜<21>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<23> 前記再熱処理工程において、前記コバルト及びニッケルの少なくとも1種の金属を含む粒塊における、累積50%体積粒子径D50が1μm以上である、<16>〜<22>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<24> 前記選別工程が磁力選別工程であり、磁力選別工程の磁石の磁束密度が0.01テスラ以上2テスラ以下である、<18>〜<23>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<25> 前記磁力選別工程が湿式磁力選別であり、適用するスラリーに対し、分散剤を50mg/L以上添加する、<24>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<26> 前記湿式磁力選別で適用するスラリーに対し、超音波による粒子分散処理を行う、<25>に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<27> 前記熱処理工程及び前記再熱処理工程の少なくとも1つの工程において、還元成分を添加して還元雰囲気を形成する、<16>〜<26>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<28> 前記熱処理工程又は前記再熱処理工程で、熱処理時間の一部の時間を空気雰囲気又は酸化雰囲気で加熱し、熱処理物又は再熱処理物の還元成分の品位を低減することを特徴とする、<16>〜<27>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<29> 前記再熱処理工程の後、且つ前記選別工程の前に熱処理物を再度破砕する再破砕工程を行う、<18>〜<28>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
<30> 前記破砕分級工程で得られた前記細粒産物に対し、磁力を用いた磁力選別工程を行い、前記磁力選別工程で得られた磁着物に対して前記再熱処理工程を行う、請求項<16>〜<29>のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の実施形態によると、リチウムイオン二次電池又はその正極材を熱処理し、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を形成させるため、コバルトやニッケルが濃縮された金属分が容易に得られ、他の電池構成成分と容易に分離しやすくなる、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法を提供することができる。
また、本発明の第2の実施形態によると、所定温度での熱処理後に破砕分級を行い、再度熱処理を行うこととしたため、コバルトやニッケルが濃縮された金属分が容易に得られ、他の電池構成成分と容易に分離しやすくなる、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法を提供することができる。
言い換えると、本発明によると、使用済みのリチウムイオン二次電池又は使用済みのリチウムイオン二次電池の正極材、又はそれらの工程スクラップなどを対象として、コバルト及びニッケルが濃縮された金属分が容易に得られ、他の電池構成成分、特に正極活物質としてコバルトとニッケルとマンガンを含む複合酸化物からコバルト及びニッケル、更にはマンガンを容易に分離しやすくなる、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施例において、コバルトとニッケルとマンガンを含む三元系のリチウムイオン二次電池を熱処理し、破砕し、篩分して得られた細粒産物(正極材を含む)の一部の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ株式会社製、TM4000Plus)写真である。本願の図面のSEM写真は全て同様の装置を用いて撮影した。
図2図2は、本発明の実施例において、コバルトとニッケルとマンガンを含む三元系のリチウムイオン二次電池を熱処理し、破砕し、篩分して得られた細粒産物(正極材を含む)の一部の他の一例を示すSEM写真である。
図3A図3Aは、本発明の実施例において、コバルトとニッケルとマンガンを含む三元系のリチウムイオン二次電池を熱処理し、破砕し、篩分して得られた細粒産物(正極材を含む)を、炭素を含む状態で、1000℃で再熱処理したものの一部の一例を示すSEM写真である。
図3B図3Bは、本発明の実施例において、コバルトとニッケルとマンガンを含む三元系のリチウムイオン二次電池を熱処理し、破砕し、篩分して得られた細粒産物(正極材を含む)を、炭素を含む状態で、1000℃で再熱処理したものの一例における、粒塊のEDS(エネルギー分散型X線分光器、オックスフォード社製AZtecone)による元素ピークを示す図である。本発明の図面のEDSによる元素ピークは全て同様の装置を用いて得た。
図3C図3Cは、本発明の実施例において、コバルトとニッケルとマンガンを含む三元系のリチウムイオン二次電池を熱処理し、破砕し、篩分して得られた細粒産物(正極材を含む)を、炭素を含む状態で、1000℃で再熱処理したものの一例における、マンガンの酸化物のEDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素ピークを示す図である。
図3D図3Dは、本発明の実施例において、2時間の再熱処理中、1時間経過後の粒塊形成の様子を示すSEM写真である。
図4A図4Aは、本発明の実施例において、湿式磁力選別前の細粒産物の一例のSEM写真である。
図4B図4Bは、本発明の実施例において、湿式磁力選別前の細粒産物の一例におけるEDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素ピークを示す図である。
図4C図4Cは、本発明の実施例において、湿式磁力選別前の細粒産物の一例におけるEDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素ピークを示す図である。
図5A図5Aは、本発明の実施例において、湿式磁力選別後の細粒産物の一例のSEM写真である。
図5B図5Bは、本発明の実施例において、湿式磁力選別後の細粒産物の一例におけるEDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素ピークを示す図である。
図5C図5Cは、本発明の実施例において、湿式磁力選別後の細粒産物の一例におけるEDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素ピークを示す図である。
図6A図6Aは、本発明の実施例において、金属と酸化物の塊である粒子を微粉砕したものの一例を撮影したSEM写真である。
図6B図6Bは、本発明の実施例において、図6Aにおけるコバルトとニッケルが金属化した粒子aの一部を採取しEDS(エネルギー分散型X線分光器)で元素分析を行って得た元素ピークを示す図である。
図6C図6Cは、本発明の実施例において、図6Aにおけるコバルトとニッケルが金属化した粒子aの一部を採取しEDS(エネルギー分散型X線分光器)で元素分析を行って得た元素ピークを示す図である。
図7図7は、参考例1において、コバルトとニッケルのメタルが形成されずに、正極材酸化物形態のままであることを示すX線回折ピークの一例を示す図である。
図8図8は、参考例2において、コバルトとニッケルのメタルが形成されずに、正極材酸化物形態のままであることを示すX線回折ピークの一例を示す図である。
図9図9は、熱処理の温度についての検討を行うための、炭素と三元系正極材の重量比を3:7に混合したものについての熱重量示差熱分析装置による分析の結果の一例を示す図である。
図10図10は、再熱処理の温度についての検討を行うための、リチウムイオン二次電池に熱処理、破砕、及び分級を行って得た細粒産物についての熱重量示差熱分析装置による分析の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の実施形態におけるリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法では、当該リチウムイオン二次電池又はその正極材を熱処理し、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を形成させる熱処理工程を行うことにより、コバルト及びニッケルの少なくとも1種を金属化し、コバルトやニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価金属の粒塊を形成する。
このように、本発明の第1の実施形態においては、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の元素を構成成分に含むリチウムイオン二次電池またはその正極材から、コバルト及びニッケルの少なくとも1種を濃縮した有価物を得る。コバルト及びニッケルの少なくとも1種は、熱処理することによって金属化され、その後、破砕工程と選別工程とを行うことによって、コバルト及びニッケルと、他の電池構成成分とが選別され、コバルトおよびニッケルの濃度を更に高めた(濃縮した)有価物が得られる。
また、本発明の第1の実施形態においては、熱処理を還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で行うことが好ましい。本発明の第1の実施形態においては、熱処理を還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で行うことにより、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を、より形成させやすくなる。
【0018】
ここで、金属化とは、コバルト及びニッケルを含む酸化物等の化合物や、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNiCoAl(x+y+z=1)として存在していたコバルト又はニッケルが、金属(メタル)に変化することを意味し、金属化は粒子として全部が金属化するものもあれば、一部が金属化するものもあり、特に純物質である必要はない。このように、コバルト又はニッケルが金属化することは、コバルト又はニッケルの金属に近い比重、磁着性を有する状態となっていることを意味する。また、金属化したコバルト又はニッケルは、コバルト、ニッケルの合金状態であってもよい。
【0019】
本発明の第2の実施形態におけるリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法では、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の元素を含むリチウムイオン二次電池又はその正極材に、熱処理工程、破砕分級工程及び再熱処理工程を行うことで、コバルト及びニッケルの少なくとも1種を金属化し、コバルトやニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価金属の粒塊を形成する。前記熱処理工程では、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウムを含む酸化物形態で存在している正極材を、リチウムイオン二次電池セルやモジュールやパックの部材に包含された状態で熱処理する。この熱処理を行うことによって、リチウムイオン二次電池中のカーボンの燃焼消費を抑制しつつ効率的にコバルト及びニッケルのメタルを形成できる。このコバルト及びニッケルのメタルは、マンガンなどの酸化物粒子と凝集粒子を形成している。
前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕分級すると細粒産物には主にコバルト、ニッケル、マンガン、炭素が含まれる。これらの粉体に対して再熱処理を行うことで、前記熱処理工程で生成した微細なコバルト及びニッケルのメタルを核として、コバルト及びニッケルがより大きい粒塊に成長し(コバルト及びニッケルの微細メタルと凝集体を形成するコバルト及びニッケルの酸化物の還元が進行して前記微細メタルの粒径を増加させる)、また粒塊同士が溶融・結合することでさらに粒塊の粒径が増加する。この結果、元来凝集体を形成していたマンガンなどの酸化物と明確な固−固界面を形成する。これにより選別・濃縮がしやすくなる。
このように、第2の実施形態では、前記熱処理工程においてコバルト及びニッケルのメタルが形成され、このメタルを破砕分級工程においてコバルト及びニッケルとマンガンとを分離し、再熱処理工程においてメタル化したコバルト及びニッケルの粒塊を成長させて、より大きな粒塊を形成することができる。このため、第2の実施形態では、コバルト及びニッケルを、メタル化した大きな粒塊を得ることができるので、メタル化したコバルト及びニッケルを、より回収しやすくすることができる。
【0020】
この再熱処理工程は粉体に対して行うことから、コバルト及びニッケルの微細メタル及び酸化物とカーボンの接触効率が向上し前記粒塊形成が可能となる。この再熱処理は前記粒塊形成のほかにカーボンの燃焼も生じ、再熱処理後物のカーボン品位を低減できる。
仮に前工程の熱処理を600℃未満で行った場合は、この熱処理でコバルト及びニッケルの微細メタルが形成されにくいため、再熱処理時にコバルト及びニッケルの粒塊成長の核が無い状態で熱処理を行うことになり、コバルト及びニッケル粒塊が形成される前にカーボンが燃焼消費されコバルト及びニッケルを十分な大きさの粒塊にできない。またコバルト及びニッケルとマンガン等が酸化物を形成したままであり物理選別でコバルトおよびニッケルをマンガンから分離しがたい状態で存在し、また十分な磁性も付与できない。
【0021】
本発明の第2の実施形態においては、コバルト及びニッケルの少なくとも1種は、熱処理工程及び再熱処理工程の少なくとも一方において、少なくとも燃焼時間の一部を、空気雰囲気又は酸化雰囲気で行うことで、得られる熱処理物の還元成分の品位を低減できる。即ち、熱処理物に含まれる還元成分が消費されるので、後述する細粒産物への還元成分の混入を回避できる。
【0022】
(第1の実施形態)
以下では、まず、上述した本発明の第1の実施形態として、熱処理工程を行うことにより、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属を濃縮する形態について説明する。
【0023】
<熱処理工程>
熱処理工程は、リチウムイオン二次電池(Lithium ion battery;LIB)又はその正極材を、還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で熱処理し、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の有価金属を含む粒塊を形成させる工程である。
熱処理工程における熱処理温度としては、例えば、600℃以上1,200℃以下が好ましく、700℃以上1,200℃以下がより好ましく、750℃以上1,100℃以下がさらに好ましい。
熱処理温度を600℃以上とすることにより、コバルト及びニッケルの金属化を効率的に進めることができ、熱処理温度を1,200℃以下とすることにより、熱処理に必要なエネルギー及びコストを抑制することができる。
【0024】
熱処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30分間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。熱処理時間はコバルトおよびニッケルが金属化する所望の温度まで到達する熱処理時間であればよく、保持時間は金属化が進む時間が確保できればよい。熱処理時間が好ましい範囲内であると、熱処理にかかるコストの点で有利である。
したがって、熱処理を750℃以上1200℃以下で1時間以上行うことが好ましい。
【0025】
熱処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理炉を用いて行う方法などが挙げられる。熱処理炉としては、例えば、マッフル等のバッチ式炉、トンネル炉、ロータリーキルン、流動床炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0026】
熱処理は、空気雰囲気又は酸化雰囲気で行うことができるが、還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で行うこともできる。
還元雰囲気としては、例えば、水素、一酸化炭素などが存在する低酸素濃度の雰囲気が挙げられる。具体的には、酸素濃度が15%以下の雰囲気に調整することができる。
不活性雰囲気としては、例えば、窒素又はアルゴンからなる雰囲気などが挙げられる。コバルトやニッケルを金属化して濃縮された粒塊を得やすくするためには、更に還元成分を添加することができる。
このように、本発明においては、不活性雰囲気下で熱処理を行う場合、還元剤が存在する条件で熱処理を行うことが好ましい。こうすることにより、コバルト及びニッケルの金属化を効率的に進めることができる。
還元剤としては、例えば、炭素、水素、一酸化炭素、炭化水素ガス、炭化水素化合物が挙げられる。また、還元剤としての炭素は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極材由来の炭素を利用することができる。還元成分は、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の含有量に対して、質量比で0.1%以上となる添加量が好ましい。つまり、本発明においては、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池又はその正極材に含まれるコバルト及びニッケルの少なくとも1種の全質量%に対して、炭素が10質量%以上存在する状態で熱処理を行うことが好ましい。
【0027】
ここで、空気中で、コバルト及びニッケルを含む酸化物等の化合物や、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNiCoAl(x+y+z=1)等を熱処理しただけでは、コバルトやニッケルが金属化する反応は進みにくい。
しかし、酸素濃度がある程度高くとも、高温であれば金属化が進みやすくなり、金属化した粒子が大きくなる傾向にある。この場合、熱処理温度は上述のように750℃〜1200℃が好ましい。
また、酸素濃度がある程度高くとも、例えば、還元剤が十分に存在していれば(還元雰囲気とすることができれば)金属化が進みやすくなる。
【0028】
低酸素濃度の雰囲気(低酸素雰囲気)の実現方法として、例えば、リチウムイオン二次電池又はその正極材を酸素遮蔽容器に収容し熱処理してもよい。
酸素遮蔽容器の材質としては、燃焼温度、内圧への耐久性があれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、高い融点を有する鉄、ステンレス鋼などが挙げられる。リチウムイオン二次電池は、内部の電解液燃焼によりガスを放出し、ガス圧が上昇するため、酸素遮蔽容器には開口部を設けることが好ましい。この場合、前記開口部の開口面積が、前記開口部が設けられている前記容器の表面積に対する割合である開口率は12.5%以下が好ましく、6.3%以下がより好ましい。
開口率を12.5%以下とすることにより、コバルト及びニッケルにおける焙焼による酸化を抑制することができ、コバルト及びニッケルをより効率的に金属化することができる。
【0029】
また、リチウムイオン二次電池パック、モジュール、又はセルの外装ケースごと熱処理することにより、酸素を遮蔽し、コバルトやニッケルの金属化をより進行させることができる。つまり、本発明においては、酸素遮蔽容器として、例えば、リチウムイオン二次電池のパック、モジュール、又はセルにおける外装ケースを用いることができる。
このように、本発明では、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池を、熱処理温度以上の融点を有するケースに収容された状態で熱処理することが好ましく、当該ケースとしては、リチウムイオン二次電池のパック、モジュール、又はセルにおける外装ケースを好適に用いることができる。
【0030】
また、金属化したコバルト及びニッケルの累積50%体積粒子径D50は1μm以上であることが好ましく、1μm以上5,000μm以下がより好ましい。累積50%体積粒子径D50は1μm以上であると、その後の選別工程での分離・濃縮がしやすいという利点がある。
累積50%体積粒子径D50は、例えば、粒度分布計などにより測定することができる。
【0031】
次に、上述の熱処理後は、金属化されたコバルトやニッケルと、その他の成分とが混合された熱処理物(LIB熱処理物)が得られるが、濃縮目的の有価物であるコバルトやニッケルを単離するため破砕工程、選別工程を行うことが好ましい。これにより、コバルトやニッケルと、他の電池構成成分(マンガン、アルミニウム、リチウム、銅、鉄、炭素など)とを容易に選別することが可能な状態とすることができる。
【0032】
<破砕工程>
上記熱処理工程を行った後、熱処理で得られた熱処理物を破砕する破砕工程を行うことが好ましい。言い換えると、本発明では、熱処理工程により得た、リチウムイオン二次電池又はその正極材の熱処理物を破砕する破砕工程を更に含むことが好ましい。
【0033】
破砕工程における破砕方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。衝撃により破砕を行う方法としては、回転する打撃板により投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法や、回転する打撃子(ビーター)により熱処理物を叩く方法が挙げられ、例えば、ハンマークラッシャーやチェーンクラッシャーなどにより行うことができる。また、セラミックや鉄などのボールやロッドにより熱処理物を叩く方法が挙げられ、ボールミルやロッドミルなどにより行うことができる。また、圧縮による破砕方法としては、刃幅、刃渡りの短い二軸粉砕機で破砕することにより行うことができる。
【0034】
衝撃及び圧縮により、活物質および集電体の破砕を促進し、一方、集電体中の銅は、形態が著しく変化しにくく、箔状などの形態で存在する。この破砕により、コバルトおよびニッケルを含む正極活物質と、筐体である鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅の集電体などにそれぞれが分離する。選別工程においてこれら正極活物質と、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅の集電体とを効率的に選別できる状態の破砕物を得られる。
また、この破砕工程により、上述の金属化されたコバルトやニッケルと、その他の成分とが混合された熱処理物(LIB熱処理物)からコバルトやニッケルの濃縮物が単離された状態となり、それらは2.4mm以下となっていることが好ましい。
【0035】
破砕工程における破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池1kgあたりの破砕時間は0.1秒間以上30分間以下が好ましく、0.2秒間以上10分間以下がより好ましく、0.3秒間以上5分間以下が特に好ましい。破砕時間を1秒間以上30分間以下とすることにより、分級により適した大きさに破砕することができる。
【0036】
<選別工程>
上記破砕工程を行った後、前記破砕工程で得られた破砕物から、コバルト及びニッケルと、マンガン酸化物又はアルミニウム酸化物を含む他の正極活物質構成成分とを選別する選別工程を行うことが好ましい。言い換えると、本発明では、破砕工程により得た熱処理物の破砕物から、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物を選別して回収する選別工程を含むことが好ましい。
また、選別工程としては、破砕物から、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかが濃縮した産物を選別して回収可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下に示す、第1選別工程と第2選別工程とを含むことが好ましい。
【0037】
<<第1選別工程>>
第1選別工程は、破砕工程で得られた破砕物を、粗粒産物と細粒産物と分級する工程である。分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩、湿式振動テーブル、エアーテーブルなどが挙げられる。
【0038】
第1選別工程における篩目(分級点)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.1mm以上2.4mm以下が好ましく、0.6mm以上2.4mm以下がより好ましい。
分級点を2.4mm以下とすることにより、細粒産物中へ外装容器由来及び銅集電体の金属の混入を抑制でき、活物質由来のコバルト及びニッケルとの分離成績を向上させることができる。また、篩目を0.1mm以上とすることにより、細粒産物への活物質由来のコバルト及びニッケルの回収率を向上させることができる。
また、分級方法として篩を用いたときに、篩上に解砕促進物、例えば、ステンレス球やアルミナボールを載せて篩うことにより、大きな破砕物に付着している小さな破砕物を、大きな破砕物から分離させることで、大きな破砕物と小さな破砕物とにより効率良く分離することができる。なお、鉄は主に粗粒産物に含まれることとなる。
破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕及び分級工程(破砕及び分級)として行ってもよい。
【0039】
<<第2選別工程>>
第2選別工程は、第1選別工程で得られた細粒産物に対し、磁性、粒径、及び比重の少なくともいずれかの違いを利用した分離を行う工程である。第2選別工程を行うことにより、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価金属を得ることができる。
【0040】
<<磁性の違いを利用した第2選別工程(磁力選別)>>
コバルトやニッケルが金属単体で磁着することを利用して、第1選別工程で得られた細粒産物に対し、湿式または乾式の磁選工程(乾式磁選または湿式磁選)を行うことができる。これより、磁着物として金属化(メタル化)したコバルト、ニッケルが濃縮された有価物を濃縮できる。非磁着物としては、マンガン、アルミニウム、リチウム、銅、及び炭素が濃縮された産物を濃縮できる。
また、磁性の違いを利用した第2選別工程(磁力選別)は、例えば、上述した第1の実施形態における磁力選別工程と同様とすることができる。したがって、磁性の違いを利用した第2選別工程としては、例えば、湿式磁選工程とすることが好ましい。また、磁力選別で用いる磁石の磁束密度は0.01テスラ以上2テスラ以下であることが好ましい。磁束密度が0.02テスラ以上2テスラ以下の磁石を用いて磁力選別を行うことによって、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物を得ることができる。
【0041】
例えば、三元系正極活物質(LiNiCoMn(x+y+z=1))の場合は、破砕工程、および第1選別工程で得られた細粒産物を磁力選別することで、コバルト及びニッケルと、マンガンとを分離し、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物が得られる。
磁力選別は、湿式磁力選別であることが好ましい。これは、乾式磁力選別の場合に生じる粒子間の水分による架橋凝集を抑制でき、粒子の分離性が向上し、より高純度のコバルトおよびニッケルが得られやすいためである。
前記湿式磁力選別においては、適用するスラリーに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することによって、コバルトおよびニッケルと他の電池構成成分との分離を促進できる。分散剤の添加量は50mg/L以上であることが好ましい。
湿式磁力選別を適用するスラリーに対し、超音波による粒子分散処理を行うことが好ましい。この超音波による粒子分散処理を行うことにより、コバルトおよびニッケルと他の電池構成成分との分離を促進できる。
【0042】
<<粒径、比重を利用した第2選別工程(粒径、比重選別)>>
第1選別工程で得られた細粒産物に対して、さらに粒径により分級して選別することや、比重選別を行うことで、金属化(メタル化)したコバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物が得られる。
粒径、比重を利用した第2選別工程(粒径、比重選別)は、例えば、上述した第1の実施形態において、分級方法及び比重選別方法、又はそれらの複合的原理を利用した装置として例示した各種の装置を用いて行うことができる。
分級方法及び比重選別方法、又はそれらの複合的原理を利用した装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、乾式サイクロン、ターボクラシファイア、エアロファインクラシファイア、マイクロンクラシファイア、エルボージェット分級機、クリフィスCF、静電選別装置等の乾式微粒分級装置、ハイドロサイクロン、ファルコンコンセントレーター、ネルソンコンセントレーター、マルチグラビティセパレーター、ラボラトリーミネラルセパレーター、バナーバートレスクロスベルト、ケルシージグ、オルタージグ、アイクラシファイア、直立筒状湿式分級機等の湿式微粒分級装置などが挙げられる。
なお、目的とするコバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物を得ることができれば特に制限はなく、目的に応じて上記装置を適宜組合せて使用できる。
【0043】
例えば、三元系正極活物質(LiNiCoMn(x+y+z=1))の場合は、破砕工程、第1選別工程で得られた細粒産物を、コバルト及びニッケルの粒子と、マンガン酸化物粒子の比重差を利用して選別する方法、両者の粒径の違いを利用して分級する方法によっても、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物を得ることができる。
【0044】
なお、上述の磁力選別や比重による選別、粒径の違いを利用した選別、又はこれらの組み合わせによる様々な選別により、コバルト及びニッケルと、マンガン酸化物とが選別できるだけでなく、他の電池構成成分であるアルミニウム、リチウム、銅、鉄、炭素とも分離できる。
【0045】
<微粉砕工程>
また、本発明では、第2選別工程の前、言い換えると、第1選別工程で得られた細粒産物に対して、微粉砕工程を更に行うことが好ましい。つまり、本発明においては、第1選別工程で得られた細粒産物を、更に微粉砕する微粉砕工程を含み、微粉砕工程で得られた微粉砕物に対し、前記第2選別工程を行うことが好ましい。
これにより、コバルト及びニッケルが金属化(メタル化)した粒子と、他の電池構成成分とが凝集又は混在した塊状となることを抑制することができるため、コバルト及びニッケルの金属とマンガン酸化物との単体分離がより高精度となる。
微粉砕機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライターなどが利用できる。
【0046】
微粉砕工程で得られた微粉砕物の累積50%体積粒子径D50は、75μm以下が好ましく、0.1μm以上75μm以下がより好ましく、0.5μm以上53μm以下がさらに好ましい。累積50%体積粒子径D50を75μm以下に微粉砕することによって、コバルトやニッケルの金属と他構成物の単体分離を促進できる。
微粉砕物の累積50%体積粒子径D50を0.1μm以上とすることにより、粒子間の水分による架橋や静電気的付着力によりコバルト及びニッケルと、他の電池構成成分との凝集が生じ、両者の分離性が低下してしまうことを防止できる。
累積50%体積粒子径D50は、例えば、粒度分布計などにより測定することができる。
【0047】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有価物の回収工程、有価物の精製工程などが挙げられる。
【0048】
(第2の実施形態)
以下では、上述した本発明の第2の実施形態として、熱処理工程と、破砕分級工程と、再熱処理工程とを行うことにより、リチウムイオン二次電池に含まれる有価金属を濃縮する形態について説明する。
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態における熱処理工程及び再熱処理工程以外の工程については、第1の実施形態と同様とすることも可能であるため、必要に応じて説明を省略することがある。
【0049】
<熱処理工程>
熱処理工程では、リチウムイオン二次電池又はその正極材を600℃〜1200℃に加熱する。
熱処理温度は、電極材が熱分解される観点から、700℃〜1200℃で加熱するのが好ましく、750℃〜1100℃が更に好ましい。熱処理温度が600℃未満であると、主目的であるコバルトとニッケルが金属化する反応が進みにくい。また、筐体由来のアルミニウムを溶融して分離することが困難となり、破砕工程の負荷が大きくなる。熱処理温度が1200℃を超えると、エネルギー及び経済的観点から、コストの増大を招く。また、1200℃を超えると、別の問題として、銅箔が溶融し、銅箔が回収しにくくなるという問題がある。
【0050】
熱処理時間としては、溶融したアルミニウムが分離できれば、適宜選択することができ、30分間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。熱処理時間は、得られる熱処理物に還元成分が残存しないようになる熱処理時間であることが好ましい。熱処理にかかるコストの観点からは、750℃〜1100℃で1時間以上の加熱を行うことがよい。
【0051】
熱処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理炉を用いて行う方法などが挙げられる。熱処理炉としては、例えば、マッフル等のバッチ式炉、トンネル炉、ロータリーキルン、流動床炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0052】
熱処理は、空気雰囲気又は酸化雰囲気で行うことができるが、還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で行うこともできる。
還元雰囲気としては、例えば、水素、一酸化炭素などが存在する低酸素濃度の雰囲気が挙げられる。具体的には、酸素濃度が15%以下の雰囲気に調整することができる。
不活性雰囲気としては、例えば、窒素又はアルゴンからなる雰囲気などが挙げられる。コバルトやニッケルを金属化して濃縮された粒塊を得やすくするためには、更に還元成分を添加することができる。
このように、本発明においては、不活性雰囲気下で熱処理を行う場合、還元剤が存在する条件で熱処理を行うことが好ましい。こうすることにより、コバルト及びニッケルの金属化を効率的に進めることができる。
還元剤としては、例えば、炭素、水素、一酸化炭素、炭化水素ガス、炭化水素化合物が挙げられる。また、還元剤としての炭素は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極材由来の炭素を利用することができる。還元成分は、コバルト及びニッケルの少なくとも1種の含有量に対して、質量比で0.1%以上となる添加量が好ましい。つまり、本発明においては、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池又はその正極材に含まれるコバルト及びニッケルの少なくとも1種の全質量%に対して、炭素が10質量%以上存在する状態で熱処理を行うことが好ましい。
【0053】
一般に、空気中で、コバルト及びニッケルを含む酸化物等の化合物や、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNiCoAl(x+y+z=1)等を熱処理しただけでは、コバルトやニッケルが金属化する反応は進みにくい。
但し、空気中であっても、負極材料の炭素が還元成分として作用することで金属化が進みやすくなることもある。さらに、加熱温度を600〜1200℃とする高温域での熱処理では金属化が進みやすくなり、金属化したサイズの小さい粒塊が得られる場合がある。
【0054】
また、リチウムイオン二次電池の外装ケースがアルミニウム製又はアルミニウムを含むときは、後工程でコバルトやニッケルを濃縮する観点から、熱処理で溶融される外装ケース由来のアルミニウムを分離しておくことが好ましい。
【0055】
<破砕分級工程>
次に、前記熱処理工程後は、熱処理物(LIB熱処理物)が得られる。この熱処理物には、コバルトやニッケルなどの有価金属、他の電池構成成分(マンガン、アルミニウム、リチウム、銅、鉄、炭素など)が主として含まれる。
そこで、濃縮目的の有価金属であるコバルトやニッケルを分離するため、前記LIB熱処理物を破砕し分級する破砕分級工程を行う。
【0056】
まず、破砕方法としては、上述した第1の実施形態の破砕工程における破砕方法と同様のものを用いることができる。
なお、熱処理工程で金属化されたコバルトやニッケルを含む粒塊が形成されている場合には、破砕方法は粒塊と他の電池構成成分とを解砕する程度の破砕を行えばよい。本発明では、例えば、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライターなどの破砕方法を適宜利用できる。
【0057】
破砕時間としては、上述した第1の実施形態の破砕工程における破砕時間と同様とすることができる。
【0058】
次に、分級を行うことにより、前記破砕で得られた破砕物を構成する、コバルトやニッケルを含む細粒産物と、外装ケース構成成分や他の電極構成成分を含む粗粒産物とを分ける。
選別方法としては、篩目(分級点)を、例えば、0.1mm〜2.4mmとして選別することが好ましく、分級点は0.6mm〜2.4mmがより好ましい。
分級点を2.4mm以下とすることにより、細粒産物中へ外装容器由来及び銅集電体の金属の混入を抑制でき、活物質由来のコバルト及びニッケルとの分離成績を向上させることができる。また、篩目を0.1mm以上とすることにより、細粒産物への活物質由来のコバルト及びニッケルの回収率を向上させることができる。
【0059】
分級には、例えば、振動篩、JIS Z8801の標準篩、湿式振動テーブル、エアーテーブル、乾式サイクロン、ターボクラシファイア、エアロファインクラシファイア、マイクロンクラシファイア、エルボージェット分級機、クリフィスCF、静電選別装置等の乾式微粒分級装置、ハイドロサイクロン、ファルコンコンセントレーター、ネルソンコンセントレーター、マルチグラビティセパレーター、ラボラトリーミネラルセパレーター、バナーバートレスクロスベルト、ケルシージグ、オルタージグ、アイクラシファイア、直立筒状湿式分級機等の湿式微粒分級装置などを用いることができる。
【0060】
また、分級方法として篩を用いたときに、篩上に解砕促進物、例えば、ステンレス球やアルミナボールを載せて篩うことにより、大きな破砕物に付着している小さな破砕物を、大きな破砕物から分離させることで、大きな破砕物と小さな破砕物とにより効率良く分離することができる。なお、鉄は主に粗粒産物に含まれることとなる。
破砕分級工程は、例えば、破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する工程として行ってもよい。
【0061】
また、破砕分級工程で得られた細粒産物に対し、磁力を用いた磁力選別工程を行い、磁力選別工程で得られた磁着物に対して再熱処理工程を行うことが好ましい。言い換えると、細粒産物を磁選して、得られた磁着物に対して後の再熱処理工程を行うことが好ましい。
こうすることにより、磁着物であるコバルトやニッケルの存在率が高まり、再熱処理工程で粒塊が形成されやすくなる。
【0062】
<再熱処理工程>
次に、再熱処理工程では、前記破砕分級工程で得られた細粒産物を、加熱する。加熱温度は300℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上1100℃以下がより好ましく、750℃以上1050℃以下が特に好ましい。
これにより、細粒産物に含まれる金属化したコバルトやニッケルの粒塊が形成される。再熱処理の温度は高いほど金属化した粒塊が形成される反応が進みやすい。300℃未満では前記粒塊が形成されず、1200℃を超えると、マンガンが溶融し、前記粒塊に目的物以外が巻き込まれてしまう。
また、再熱処理工程においては、例えば、前工程である破砕分級工程を経て、細粒産物としてコバルト及びニッケルとマンガンを含む粉体を回収し、必要に応じて還元剤として作用する炭素(負極材由来)を含めて、再度熱処理を行う。このため、コバルト及びニッケルとマンガンを含む酸化物粒子と、還元剤である炭素粒子の接触がより密となり、還元反応が起こりやすくなる。その結果、より金属化反応と粒塊形成が起こりやすい。これに対して、当初に行う熱処理工程では、電池の構成として、還元剤として作用する負極と、還元対象となるコバルト及びニッケルを含む正極材がセパレーターを介して層状に配置されているため、これら各種の粉体化、コバルトやニッケルの金属化は進行するが、各種の粉体同士の接触は起こりにくく、粒塊形成の反応が進みにくい。また、一部のリチウムイオン二次電池においては、正極材に導電助剤として炭素が添加されており、これが還元反応に寄与するが、細粒産物としてコバルト及びニッケルとマンガンを含む粉体を回収し、必要に応じて還元剤として作用する炭素(負極材由来)を含めて、再度熱処理を行う方が、接触が起こりやすくなり(接触確率が高くなり)、より金属化反応や粒塊形成が起こりやすくなる。
【0063】
ここで、再熱処理で形成される金属化したコバルトやニッケルを含む粒塊は、累積50%体積粒子径D50が1μm以上であることが好ましく、5μm〜1000μmがより好ましい。このような大きさであれば、有価金属としてコバルトやニッケルが濃縮された粒塊を効率よく回収できる。累積50%体積粒子径D50は1μm以上であると、その後の選別工程での分離・濃縮がしやすいという利点がある。累積50%体積粒子径D50は、例えば、粒度分布計などにより測定することができる。
具体的には、細粒産物に含まれる粒塊前駆体の大きさが0.01〜1μmであり、再熱処理により得られる粒塊の大きさが1〜100μmであることが好ましい。
【0064】
前記再熱処理工程の加熱時間としては、コバルトやニッケルの粒塊が大きく成長できれば、適宜選択することができ、20分間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。熱処理時間は、得られる熱処理物に還元成分が残存しないようになる加熱時間であることが好ましい。
【0065】
また、前記再熱処理に用いる雰囲気としては、上述した熱処理工程と同様に、コバルトやニッケルの金属化、粒塊形成の観点からは、還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で行うことが好ましい。更に、再熱処理においては、一部の時間を空気雰囲気又は酸化雰囲気で加熱することが好ましい。これにより、熱処理物に含まれる還元成分が消費されるので、細粒産物への混入を回避できる。
【0066】
また、前記再熱処理工程の後には、選別工程を行うことが好ましい。これにより、再熱処理物から、コバルト及びニッケル、又はこれらのいずれか一方が濃縮された粒塊を分けて回収できる。一方、この粒塊以外としては、マンガンが濃縮した産物を回収することができる。
代表的には、コバルトやニッケルが金属単体で磁着することを利用して、湿式又は乾式の磁力選別工程(乾式磁選又は湿式磁選)を行うことができる。
これにより、再熱処理工程で細粒産物から形成されたコバルトやニッケルが金属化(メタル化)したコバルトやニッケルを含む粒塊は、磁着物として回収できる。非磁着物としては、マンガン、アルミニウム、リチウム、銅及び炭素が回収できる。
また、磁力選別で用いる磁石の磁束密度は0.01テスラ以上2テスラ以下であることが好ましい。磁束密度がこの範囲の磁石を用いて磁力選別を行うことによって、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価金属の粒塊を分離できる。
【0067】
例えば、三元系正極活物質(LiNiCoMn(x+y+z=1))の場合は、破砕分級工程の篩下で得られた細粒産物を再熱処理した熱処理物を磁力選別することで、コバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)粒塊を磁着物として回収できる。
磁力選別は、湿式磁力選別であることが好ましい。これは、乾式磁力選別の場合に生じる粒子間の水分による架橋凝集を抑制でき、粒子の分離性が向上し、より高純度のコバルト及びニッケルが得られやすいためである。
前記湿式磁力選別においては、適用するスラリーに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することによって、コバルト及びニッケルと他の電池構成成分との分離を促進できる。分散剤の添加量は50mg/L以上であることが好ましい。
また、前記湿式磁力選別を適用するスラリーに対し、超音波による粒子分散処理を行うこともできる。この超音波による粒子分散処理を行うことにより、コバルト及びニッケルと他の電池構成成分との分離を促進できる。
【0068】
前記磁力選別の代わりに、さらに粒径により分級することや、比重選別を行うことで、金属化(メタル化)したコバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物が得られる。
分級方法及び比重選別方法、又はそれらの複合的原理を利用した装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、乾式サイクロン、ターボクラシファイア、エアロファインクラシファイア、マイクロンクラシファイア、エルボージェット分級機、クリフィスCF、静電選別装置等の乾式微粒分級装置、ハイドロサイクロン、ファルコンコンセントレーター、ネルソンコンセントレーター、マルチグラビティセパレーター、ラボラトリーミネラルセパレーター、バナーバートレスクロスベルト、ケルシージグ、オルタージグ、アイクラシファイア、直立筒状湿式分級機等の湿式微粒分級装置などが挙げられる。
なお、目的とするコバルト及びニッケルの濃度を高めた(濃縮した)有価物を得ることができれば特に制限はなく、目的に応じて上記装置を適宜組合せて使用できる。
【0069】
前記選別工程の前には、細粒産物を再熱処理した熱処理物を再度破砕することもできる。
これにより、金属化(メタル化)したコバルト又はニッケルを含む粒塊と、他の電池構成成分とが凝集又は混在した塊状となることを低減することができる。また、コバルト又はニッケルは金属(メタル)であるため再破砕による細粒化し難く、マンガンなどの酸化物は再破砕で細粒化し易いため、コバルト又はニッケル以外の不純物を選択粉砕できる。したがって、再破砕物に対し分級や比重選別や磁力選別などの物理選別をすることで、コバルトやニッケルを粗粒産物や重産物や磁着物に濃縮でき、細粒となったマンガン等の酸化物を細粒産物や軽産物や非磁着物に分離できる。そして、例えば、磁力選別であれば、コバルト及びニッケルの金属とマンガン酸化物等との分離がより高精度となる。
前記再破砕は、コバルト及びニッケルが金属化(メタル化)した粒塊を保持しつつ、他の電池構成成分との混在状態が解砕される破砕であればよく、目的に応じた破砕機を適宜選択することができる。破砕機としては、例えば、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライターなどが利用できる。
【0070】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有価金属の回収工程、有価金属の精製工程などが挙げられる。
【0071】
上述した本発明のリチウムイオン二次電池に含まれる有価金属の濃縮方法において、対象となる原料の一例について以下に示す。
【0072】
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池であり、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質及び有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレーター及び電解液を収容する電池ケースである外装容器とを備えた電池セル、それを複数連結したモジュール、モジュールを容器に収納した電池パックなどが挙げられる。
【0073】
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
【0074】
<正極、正極集電体、及び正極活物質>
正極としては、正極集電体上に正極材を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0075】
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。
【0076】
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、希少有価金属を含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。希少有価金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、コバルト、ニッケルのいずれかが少なくとも含まれることが好ましい。
【0077】
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNiCoAl(x+y+z=1)、又はこれらの複合物などが挙げられる。
【0078】
<負極、負極集電体、及び負極活物質>
負極としては、負極集電体上に負極材を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
【0079】
負極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、負極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む負極材などが挙げられる。
【0080】
負極活物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物、有機物、有機物の炭化物等の炭素材料、チタネイト、シリコン、又はこれらの複合物などが挙げられる。
負極活物質としての炭素材料は、熱処理中に還元剤として働き、コバルト及びニッケルの金属化を促進することができる。
【0081】
<外装容器>
リチウムイオン二次電池の外装容器(筐体)の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、樹脂(プラスチック)、ステンレス製、鉄製、その他の合金製などが挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
処理の対象とする原料(対象試料)として、使用済みの車載用リチウムイオン二次電池の電池パック295kgを準備した。この電池に含まれる正極材は、三元系正極活物質であり、組成は(LiNiCoMn(x+y+z=1)、x=0.33、y=0.33、z=0.33)である。負極活物質は、炭素である。酸素遮蔽容器として前記電池パックの鉄製の外装ケースを用いた。
これをそのままの状態で(まるごと)、バーナー式固定床炉(工業用炉)を用いて、750℃で1時間熱処理した。この熱処理物をハンマークラッシャー(槙野株式会社製、HC−20)を用いて破砕し、その後、1.2mmの振動篩で分級を行うことにより、篩下の細粒産物を60kg回収した。なお、細粒産物の組成を分析したところ、細粒産物の組成は、コバルト12質量%、ニッケル12質量%、マンガン11質量%であった。
この細粒産物の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を図1及び図2に示す。図1においては、円で囲った領域の内、明るく(白く)点状に見える部分が、コバルトとニッケルが金属化したものである。図1に示すように、この時点で正極材粒子表面において、コバルトとニッケルが金属化した細粒が確認できる。また、この時点では、コバルト及びニッケルの金属化した粒子径は小さく、1μmに満たない粒子がほとんどである。また、図2は、図1とは別の視野で撮影した粗粒産物のSEMの写真であり、点線で囲った領域にコバルトとニッケルが金属化したものが分布しており、実線で囲った領域にマンガン酸化物が分布している。図1及び図2に示すように、細粒産物においては、コバルト及びニッケルの粒子が、マンガン酸化物と分離した粒子として存在していることを確認できた。
なお、実施例1においては、バーナー式固定床炉の炉内は酸化雰囲気となるが、酸素遮蔽容器として、電池パックの鉄製の外装ケースをそのまま用いると共に、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられた炭素が還元剤として作用するため外装ケース内部の雰囲気は還元雰囲気となる。ここで、実施例1においては、還元剤としての炭素の量はリチウムイオン二次電池に含まれるコバルト及びニッケルの全量に対し、炭素が135質量%存在する状態で熱処理を行った。
【0084】
次に、得られた細粒産物の一部を採取し、雰囲気を還元雰囲気(容器に入れ、蓋をし、還元剤として負極活物質由来の炭素が存在する状態)として、1000℃で1時間熱処理(再熱処理)を行うことにより、再熱処理物を得た。細粒産物に含まれる炭素の量は、リチウムイオン二次電池に含まれるコバルト及びニッケルの全量に対し、炭素が135質量%存在する状態で熱処理を行った。この結果、細粒産物に含まれていたコバルト及びニッケルが金属化(メタル化)した細粒が粒塊となっていることを確認した。
すなわち、図3Aの走査型電子顕微鏡(SEM)の写真に示す、明るく白色に見える領域(実線)と灰色に見える領域(点線)とのそれぞれに対して一部を採取し、EDS(エネルギー分散型X線分光器)で元素分析を行った。
その結果、実線で囲った領域は、図3Bに示すようにスペクトル179で得られたピークから、コバルト及びニッケルが多く含まれることがわかった。一方、点線で囲った領域は、図3Cに示すようにスペクトル180で得られたピークから、マンガンと酸素が多く含まれることがわかった。
このように、図3Aにおいて実線で囲った領域においては、コバルトとニッケルを主とした金属化した粒塊が形成されており、図3Aにおいて点線で囲った領域においては、マンガンと酸素によるマンガンの酸化物が形成されていることがわかる。また、図3Aに示した電子顕微鏡像においては、粒塊が1〜10μm程度の塊に成長していることがわかる。
なお、図3Dに熱処理1時間後の状態を観察したSEM写真を示す。1時間の熱処理でも粒塊が形成されていることを確認できた。
【0085】
次に、再熱処理を行うことにより得た再熱処理物に対して、ドラム型磁選機(日本エリーズマグネチックス株式会社製、WDL8ラボモデル)を用いて、磁束密度:1500G(0.15テスラ)、ドラム回転数30rpm、固液比10%、スラリー供給速度2L/minで湿式磁選を行い、磁着物と非磁着物スラリーを回収した。また、再熱処理物に対する湿式磁選においては、再熱処理物のスラリーに分散剤を、炭素の量に対して6%程度となるように添加した上で、超音波による粒子分散処理を行った。
この結果、磁着物として金属化したコバルト及びニッケルを含む粒塊が得られた。非磁着物には、マンガンの酸化物などが分離されていることを確認した。
【0086】
図4Aには、湿式磁力選別前の細粒産物の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。図4Aにおいては、実線で囲った領域がコバルト及びニッケルの粒塊であり、点線で囲った領域がマンガンの酸化物であることを確認した。
即ち、図4Aの電子顕微鏡像に示す、明るくより白色に見える領域(実線)と灰色に暗く見える領域(点線)とのそれぞれに対して一部を採取し、EDSで元素分析を行った。
その結果、実線で囲った領域は、図4Bに示すようにスペクトル171で得られたピークから、コバルト及びニッケルの粒塊であることがわかった。一方、点線で囲った領域は、図4Cに示すようにスペクトル173で得られたピークから、マンガン酸化物であることがわかった。なお、電子顕微鏡像の点線領域より更に暗い粒子は炭素であると推察できる。
【0087】
図5Aには、湿式磁力選別後の細粒産物の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。図5Aにおいては、実線で囲った領域がコバルト及びニッケルの粒塊であり、点線で囲った領域がマンガンの酸化物であることを確認した。
即ち、図5Aの電子顕微鏡像に示す、明るくより白色に見える領域(実線)と灰色に暗く見える領域(点線)とのそれぞれに対して一部を採取し、EDSで元素分析を行った。
その結果、実線で囲った領域は、図5Bに示すようにスペクトル136で得られたピークから、コバルト及びニッケルの粒塊であることがわかった。一方、点線で囲った領域は、図5Cに示すようにスペクトル135で得られたピークから、マンガン酸化物であることがわかった。なお、電子顕微鏡像の点線領域より更に暗い粒子は炭素であると推察できる。
【0088】
以上より、図4Aに示すように、磁力選別前の細粒にはコバルト及びニッケルの粒塊とマンガンの酸化物が、ともに同じ程度の頻度で見られることに対し、図5Aに示すように、磁力選別後はマンガンの酸化物の割合が減少し、コバルト及びニッケルの粒塊の割合が磁力選別前と比較して増加していることがわかる。
【0089】
このように、本発明の実施例1では、リチウムイオン二次電池から、金属化されたコバルトやニッケルを濃縮できた。
【0090】
(実施例2)
実施例2では、再熱処理後の産物を更に粉砕(微粉砕)し、その後に更に湿式磁選を実施した以外は実施例1と同様にして、コバルトとニッケルの濃縮物を得た。
より具体的には、実施例2では、細粒産物における金属と酸化物の塊である粒子を、振動ミル(レッチェ社製、RS200)を用いて微粉砕した。微粉砕した微粉砕物の累積50%体積粒子径D50は、3.9μmであった。
微粉砕を行うことにより、コバルトやニッケルの金属と、マンガン酸化物とを、更に正確に単体分離することができた。この場合の単体分離とは、コバルト及びニッケルの金属粒子と、マンガンの酸化物粒子がそれぞれ単独で分かれて存在する状態を意味する。
【0091】
細粒産物における金属と酸化物の塊である粒子を微粉砕したものの一例を撮影したSEM写真を図6Aに示す。図6Aにおいて、点線で囲った領域にコバルトとニッケルが金属化した粒子aが分布しており、実線で囲った領域にマンガン酸化物の粒子bが分布している。
図6Bは、図6Aにおけるコバルトとニッケルが金属化した粒子aの一部を採取し、EDSで元素分析を行った結果を示す図である。図6Cは、図6Aにおけるマンガン酸化物の粒子bの一部を採取し、EDS(エネルギー分散型X線分光器)で元素分析を行った結果を示す図である。
図6B及び図6Cに示すように、コバルトとニッケルが金属化した粒子aには、コバルト及びニッケルが濃縮され、マンガン酸化物の粒子bには、マンガンの酸化物が濃縮されていることが確認できた。
なお、実施例2においては、実施例1と同様にして、ドラム型磁選機を用いて湿式磁選を行い、磁着物と非磁着物スラリーを回収して、磁着物として金属化したコバルト及びニッケルを含む粒塊を回収し、非磁着物としてマンガンの酸化物などを回収した。
【0092】
(実施例3)
実施例3では、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池の電池パックの熱処理、破砕、篩分を実施し、篩下に細粒産物を得た。次に、実施例3では、得られた細粒産物に対して実施例1と同様の条件で湿式磁選(1回目、再熱処理の前の湿式磁選)を行うことにより磁着物を得た。そして、実施例3では、得られた磁着物を実施例1と同様の条件で再熱処理し、再熱処理で得た熱処理物に対して、更に湿式磁選(2回目、実施例1及び2における湿式磁選に対応)を実施して磁着物を得た。ここで、この2回目の湿式磁選においては、実施例1と同様の条件でドラム型磁選機を用いて、磁着物と非磁着物スラリーを選別した。なお、得られた磁着物を分析したところ、磁着物にはコバルト及びニッケルが濃縮していた。
実施例3における、2回目の湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。
【0093】
(実施例4)
実施例4では、再熱処理の温度を850℃とし、実施例2と同様の条件で再熱処理物を微粉砕した以外は、実施例3と同様にして、コバルト及びニッケルの濃縮物(2回目の湿式磁選における磁着物)を得た。実施例4における、2回目の湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。
実施例3における2回目の湿式磁選による磁着物と、実施例4における2回目の湿式磁選による磁着物の状態をSEMにより観察して比較したところ、実施例3では再熱処理により成長したコバルト、ニッケルの粒塊とマンガンの酸化物が凝集して存在している部分が多少観察された。これに対し、実施例4では、再熱処理後の産物を解砕することで、物理的なコバルト及びニッケルのメタルとマンガン酸化物との凝集状態をより十分に解消できた。このことから、実施例4では、実施例3よりも、湿式磁選におけるコバルト及びニッケルとマンガンとの分離性が更に向上していることがわかった。つまり、実施例4では、実施例3と比べて、磁着物側にコバルト及びニッケルをより多く回収し、非磁着物側により多くのマンガンを回収することができた。
【0094】
(実施例5〜7)
実施例5〜7では、再熱処理の温度(850℃又は1000℃)と再熱処理の時間(1時間又は4時間)を、表1に示す温度と時間の条件に変更した以外は、実施例4と同様にして、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。実施例5〜7における、2回目の湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。実施例5〜7の結果から、再熱処理は、温度が高く熱処理時間を長くすることがより好ましいことがわかった。
【0095】
(実施例8及び9)
実施例8では、篩下の細粒産物に対して再熱処理を行わなかった以外は、実施例4と同様にして、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例9では、篩下の細粒産物に対して再熱処理と振動ミルによる微粉砕との両方を行わない以外は、実施例4と同様にして、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例8及び9における、2回目の磁力選別により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び磁力選別によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。実施例4、8及び9の結果から、コバルト及びニッケルの磁着物への回収率や品位は、再熱処理を実施することで更に向上することが確認できた。また、振動ミル等による微粉砕も、コバルト及びニッケルの磁着物への回収率や品位向上に効果があることが確認できた。以上の結果から、本発明においては、再熱処理と微粉砕を合わせて行うことがより好ましいことを確認できた。
【0096】
(実施例10)
実施例10では、リチウムイオン二次電池における正極材製品そのものや、リチウムイオン二次電池の製造工程で排出されるロットアウト正極材においても、上述した実施例と同様の手法により、コバルト及びニッケルを濃縮し、マンガンを分離できることを確認するため、正極材(リチウムイオン二次電池で使用される三元系正極材の試薬(LiNiCoMn(x+y+z=1)、x=0.33、y=0.33、z=0.33))を対象として処理を行った。
実施例10においては、まず、上記の正極材に対して炭素を加え、還元性雰囲気(容器に入れた後、蓋をして、還元剤としての炭素が存在する状態)で1000℃、1時間で熱処理(実施例1〜10における再熱処理に対応)を行った。実施例10において、熱処理を行った後の正極材を確認したところ、コバルトとニッケルはメタルの粒塊を形成していることが確認できた。
そして、実施例10では、熱処理を行った後の正極材に対して、実施例2と同様にして、湿式磁選(ドラム型磁選機を用いた、磁着物と非磁着物スラリーの選別)を行った。続いて、得られた磁着物を観察したところ、コバルト及びニッケルが濃縮されていることを確認できた。
【0097】
(実施例11〜14)
実施例11〜14においては、正極材にLMO(マンガン酸リチウムを用いたマンガン系正極材料)を用いたリチウムイオン二次電池パックを処理の対象とした。
また、実施例11では、リチウムイオン二次電池パックの熱処理後の破砕物の篩下に選別された細粒産物に対する湿式磁選(実施例9における1回目の湿式磁選)を行わずに、更に、再熱処理を行って得た再熱処理物に対する湿式磁選を行う際に、超音波による粒子分散処理と、分散剤の添加を行わなかった以外は、実施例9と同様にしてコバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例12では、リチウムイオン二次電池パックの熱処理後の破砕物の篩下に選別された細粒産物に対する湿式磁選(実施例9における1回目の湿式磁選)を行わずに、更に、再熱処理を行って得た再熱処理物に対する湿式磁選を行う際に、超音波による粒子分散処理を行わなかった以外は、実施例9と同様にしてコバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例13では、リチウムイオン二次電池パックの熱処理後の破砕物の篩下に選別された細粒産物に対する湿式磁選(実施例9における1回目の湿式磁選)を行わずに、更に、再熱処理を行って得た再熱処理物に対する湿式磁選を行う際に、分散剤を添加しなかった以外は、実施例9と同様にしてコバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例14では、リチウムイオン二次電池パックの熱処理後の破砕物の篩下に選別された細粒産物に対する湿式磁選(実施例9における1回目の湿式磁選)を行わない以外は、実施例9と同様にしてコバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
【0098】
実施例11〜14の結果から、超音波による粒子分散処理及び分散剤の添加のそれぞれが、湿式磁選により得られるコバルト及びニッケルの品位に与える影響を評価した。実施例11〜14における、湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。この結果から、湿式磁選により得られるコバルト及びニッケルの品位を高めるためには、超音波及び分散剤を併用することがより好ましいことが確認できた。
【0099】
(実施例15)
実施例15では、熱処理を行って得た熱処理物に対して破砕及び分級を行って得た、破砕物の篩下に選別された細粒産物を、実施例8と同様の条件で振動ミルにより微粉砕した以外は、実施例14と同様にして、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例15における、湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。実施例15においては、実施例14と比較して、磁着物におけるコバルトとニッケルの品位がより向上した。
【0100】
(実施例16)
実施例16では、正極材にLMOを用いたリチウムイオン二次電池パックを処理の対象とし、リチウムイオン二次電池パックの熱処理後の破砕物の篩下に選別された細粒産物に対する湿式磁選(実施例7における1回目の湿式磁選)を行わなかった以外は、実施例7と同様にして、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例16における、湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。実施例16においては、コバルト、ニッケルの品位は実施例11〜15と比較して、最も高くなった。この結果から、実施例7と同様に、還元雰囲気で再熱処理を行い、その後振動ミルによる微粉砕を行った後に、微粉砕した熱処理物に対して、超音波による粒子分散処理をすると共に分散剤を利用した湿式磁選を行うことにより、コバルト及びニッケルの濃縮を行うことが好ましいことがわかった。
【0101】
(実施例17及び18)
実施例17では、正極材にLMOを用いたリチウムイオン二次電池パックを、実施例1と同様の条件で熱処理及び破砕し、破砕の際に発生したコバルト及びニッケルを含むダストを集塵したものを振動ミルにより微粉砕し、その後に実施例1と同様にして湿式磁選を行い、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
また、実施例18では、正極材にLMOを用いたリチウムイオン二次電池パックを、実施例1と同様の条件で熱処理及び破砕し、破砕の際に発生したコバルト及びニッケルを含むダストを集塵したものを、再熱処理の時間を4時間として再熱処理を行った以外は実施例2と同様にして再熱処理以降の処理を実施し、コバルト及びニッケルの濃縮物を得た。
実施例17及び18における、湿式磁選により得た磁着物と非磁着物の、コバルト、ニッケル、マンガンの品位、及び湿式磁選によるコバルト、ニッケル、マンガンの回収率を表1に示す。これらの結果から、破砕の際に発生した集塵物においても、コバルト、ニッケルの金属が含有されており、これらを濃縮することができることが確認できた。また、再熱処理によりコバルトおよびニッケルの粒塊を大きくでき、コバルト及びニッケルをより濃縮できることが確認できた。
【0102】
(参考例1)
参考例1では、熱処理を酸化雰囲気で行った以外は実施例10と同様の処理を行い、コバルト及びニッケルのメタルが生成されているか否かを確認した。熱処理後の細粒産物をX線回折装置(株式会社リガク製、UltimaIV)により確認したところ、LiNiCoMn(x+y+z=1)、x=0.33、y=0.33、z=0.33)のピークのみが確認され、コバルト及びニッケルの金属のピークは確認されなかった。つまり、コバルト及びニッケルは酸化されており、酸化物のままであり、メタルの粒塊が形成されておらず、磁力による選別ができないことが確認された。
図7に、参考例1において、コバルトとニッケルのメタルが形成されずに、正極材酸化物形態のままであることを示すX線回折ピーク(スペクトル)を示す。
【0103】
(参考例2)
参考例2では、熱処理の際の熱処理温度を550℃とした以外は実施例10と同様の処理を行い、コバルト及びニッケルのメタルが生成されているか否かを確認した。熱処理後の細粒産物をX線回折装置(株式会社リガク製、UltimaIV)により確認したところ、LiNiCoMn(x+y+z=1)、x=0.33、y=0.33、z=0.33)のピークと炭素のピークが確認され、コバルト及びニッケルの金属のピークは確認されなかった。つまり、メタルの粒塊は形成されていない(又はほぼ形成されない)状態であり、磁力による選別ができないことが確認された。
図8に、参考例2において、コバルトとニッケルのメタルが形成されずに、正極材酸化物形態のままであることを示すX線回折ピーク(スペクトル)を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
また、下記の表2〜5では、各実施例の処理の条件等についてまとめたものを示す。
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
(熱処理の温度についての検討)
電池パックの熱処理温度について、750℃から1200℃において、コバルト及びニッケルのメタルが生成されることを熱重量示差熱分析装置(株式会社リガク製)で確認した。
具体的には、炭素と三元系正極材(コバルト、ニッケル、マンガンのモル比が1:1:1)の重量比を3:7に混合したものを熱重量示差熱分析装置で分析した。測定条件としては、窒素雰囲気、昇温速度20℃/分として測定した。
【0110】
図9に、熱処理の温度についての検討を行うための、炭素と三元系正極材の重量比を3:7に混合したものについての熱重量示差熱分析装置による分析の結果を示す。図7においては、縦軸に、質量の変化(Weight:TG曲線)と温度差(Heat Flow;DTA曲線)とを示し、横軸は温度を示す。
図9に示す例においては、400℃付近から吸熱が始まり、750℃付近から重量減少が起きていることがわかる。重量減少と吸熱反応が同時に起きている状態は、還元反応に特徴的なものである。このことから、分析の対象とした正極材試薬の炭素による還元反応が起きていることが示唆される。この例において起きていると考えられる反応としては、以下の反応が考えられる。
2LiMO+C → LiO+2MO+CO
MO+C → M+CO
(ここで、Mは、コバルト、ニッケル、マンガンの複合物、又はいずれかの単体)
このことから、炭素との接触による還元反応を利用してコバルト、ニッケルの金属化を進めるためには、750℃以上で熱処理することが好ましいと考えられる。
【0111】
(再熱処理の温度についての検討)
次に、コバルトとニッケルの金属化が起こる再熱処理の温度について、上記の熱重量示差熱分析装置において検証した。この検証においては、試料(対象)としてのリチウムイオン二次電池に対して、熱処理、破砕、篩分(分級)を行った後の篩下に選別された細粒産物を得て、熱重量示差熱分析装置に供した。このときの測定雰囲気は、上述した実施例と同様に、蓋による還元雰囲気を想定して、完全に空気が無い条件ではなく、積極的に酸素を供給することはしないものの、試料周囲には酸素が存在し、粉体として炭素が共存していることで還元雰囲気となる状態として、空気雰囲気での測定とした。昇温速度は20℃/分とした。
【0112】
図10に、再熱処理の温度についての検討を行うための、リチウムイオン二次電池に熱処理、破砕、及び分級を行って得た細粒産物についての熱重量示差熱分析装置による分析の結果を示す。
図10に示すように、300℃を過ぎた辺りから、重量減少と発熱反応が起きており、炭素が燃焼することが確認された。このとき、燃焼に伴い発生するCO(一酸化炭素)により、コバルト、ニッケル化合物が還元され、金属化反応が進んだ。この例において起きていると考えられる反応としては、以下の反応が考えられる。
2C+O → 2CO
MO+CO → M+CO
(ここで、Mは、コバルト、ニッケル、マンガンの複合物、又はいずれかの単体)
このことから、300℃以上で再熱処理を行うことが好ましいと考えられる。

図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10