(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984080
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
B66C13/22 Y
B66C13/22 M
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-10838(P2018-10838)
(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公開番号】特開2019-127374(P2019-127374A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】川尻 栄作
【審査官】
今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−159998(JP,A)
【文献】
特開2006−312521(JP,A)
【文献】
特開2000−185817(JP,A)
【文献】
特開昭60−262790(JP,A)
【文献】
特開平11−209067(JP,A)
【文献】
米国特許第05127533(US,A)
【文献】
特開平7−144882(JP,A)
【文献】
特公平7−080670(JP,B2)
【文献】
国際公開第2018/211739(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102502403(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00 − 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの取扱物の情報を測域センサを用いて距離情報として取得し、測域センサのスキャン角度と距離データから、クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を算定するようにしたクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置であって、前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから取扱物までの距離及び取扱物の高さと当該取扱物を密度が一定で所定形状の立体と仮定したときの重心位置に基づいて算定することを特徴とするクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置。
【請求項2】
前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから取扱物までの距離及び取扱物の高さの1/2に基づいて算定することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置。
【請求項3】
前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから床面までの距離及び取扱物の高さの1/2に基づいて算定することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置。
【請求項4】
前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから取扱物までの距離及び取扱物の高さの2/3に基づいて算定することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置。
【請求項5】
前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから床面までの距離及び取扱物の高さの1/3に基づいて算定することを特徴とする請求項1に記載のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置に関し、例えば、手動で操作されるクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンにおいて、吊荷の搬送時に荷振れが生じることで、安全性や効率性が低下するため、種々の振れ止め制御技術が提案され、実用化されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
ところで、基本的なモデルに基づいて搬送速度パターンを決定する振れ止め制御技術においては、荷振れの周期Tを特定するために振り子長Lpを求める必要がある。
T=2π×(Lp/g)
1/2
ここで、T:荷振れ周期、Lp:振り子長、g:重力加速度である。
【0004】
この振れ止め制御に必要な振り子長Lpは、
図1に示すように、作業者13がフック05に玉掛けワイヤ14を介して取扱物09を吊り下げる場合、振り子の支点位置となる巻上装置03のワイヤロープ04の巻き出し位置から取扱物09の重心位置までの距離となる。
【0005】
しかしながら、ごみ処理場等で使用されるグラブバケット等を備えた大型の自動クレーンや、製鉄所におけるコイル搬送用の自動クレーン等と異なり、手動で操作されるクレーン等では、フック05に玉掛けワイヤ14を介して吊り下げられる取扱物09が搬送毎に変わり得るため、取扱物09の荷姿や玉掛け条件により、振り子長Lpのうちフック05から取扱物09の重心位置までの距離が、取扱物09の搬送毎に変わることとなる。
また、巻上及び巻下操作により、振り子長Lpのうち巻上装置03のワイヤロープ04の巻き出し位置からフック05までの距離も、ワイヤロープ04の巻上下時のすべり等の影響を受けて動的に変わることとなる。
【0006】
ここで、ワイヤロープ04の巻き出し位置からフック05までの距離は、巻上装置03の回転部に備えられた角速度計やエンコーダによって自動的に測定することができる反面、フック05から取扱物09の重心位置までの距離は、自動的に測定することができなかった。
【0007】
このため、従来は、ワイヤロープ04の巻き出し位置からフック05までの距離を振り子長Lpとして用いることで振れ止め制御を行うようにしていたが、不正確な振り子長Lpに基づいて決定した搬送速度パターンでは、荷振れを十分に抑制できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−183686号公報
【特許文献2】特開平7−300294号公報
【特許文献3】特開平8−324962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来のクレーンの振れ止め制御における問題点に鑑み、簡易な設備構成で、振り子長を適切に測定することによって、正確に荷振れを抑制することができるクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置は、クレーンの取扱物の情報を測域センサを用いて距離情報として取得し、測域センサのスキャン角度と距離データから、クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を算定することを特徴とする。
ここで、「測域センサ」(Laser Range Scanner 又は 3D Scanner)とは、空間の物理的な形状データを出力することができる走査型の光波距離計をいう。
【0011】
この場合において、前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから取扱物までの距離及び取扱物の高さに基づいて算定することができる。
【0012】
また、前記クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長を、測域センサによって測定した測域センサから取扱物までの距離及び取扱物の高さの1/2に基づいて算定したり、測域センサによって測定した測域センサから床面までの距離及び取扱物の高さの1/2に基づいて算定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置によれば、簡易な設備構成で、リアルタイムの振り子長を適切に測定することができ、この振り子長を振れ止め制御装置に送信することによって、正確に荷振れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置を適用した天井クレーンの一実施例を示すイメージ図(測域センサの取付図)である。
【
図4】測域センサから床面までの距離の測定方法の説明図である。
【
図5】測域センサから取扱物までの距離の測定方法の説明図である。
【
図7】本発明に係るクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置を適用した天井クレーンの制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に、本発明に係るクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置を天井クレーンに適用した一実施例を示す。
この天井クレーン01は、天井クレーン01にクラブ02が上架されており、取扱物09をワイヤロープ04を使用して上げ下げする巻上装置03が設置されている。
クラブ02には、取扱物09を検知するための測域センサ23が設置されている。
【0017】
ここで、クレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置は、汎用の天井クレーンに適用することができ、天井クレーン01には、汎用の天井クレーンが備える、例えば、天井クレーン01の走行位置を把握するための走行レーザ距離計27、横行位置を把握するための横行レーザ距離計28等の機器を備えるようにしている。
【0018】
また、測域センサ23は、Laser Range Scanner 又は 3D Scannerとも呼ばれ、空間の物理的な形状データを出力することができる走査型の光波距離計をいい、「光検出と測距」又は「レーザ画像検出と測距」とも呼ばれる「LIDAR」(Light Detection and Ranging 又は Laser Imaging Detection and Rangingの略語。光を用いたリモートセンシング技術の一つで、パルス状に発光するレーザ照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の形状や性質を分析する装置。)、例えば、北陽電機社製の「UTM−30LX−EW」を好適に使用することができる。
この測域センサ23は、半円状に光を出して反射光が戻ってくるまでの時間を測定し、測域センサから対象までの各角度における距離を測定する。
【0019】
図7は、このクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置を天井クレーンに適用した概略制御構成図である。
クレーン01は3方向の動作が可能となっており、巻上下動作を行う巻上モータ32、巻上モータの速度制御を行う巻上インバータ31、横行動作を行う横行モータ34、横行モータの速度制御を行う横行インバータ33、走行動作を行う走行モータ36、走行モータの速度制御を行う走行インバータ35からなる。
取扱物09を検知するための測域センサ23は、演算装置としての形状認識パソコン29に接続されている。
そして、この測域センサ23は、モータコントローラ25によって制御されるステッピングモータ24を用いてスキャニングの角度が変えられるようになっている。
また、形状認識パソコン29はクレーンコントローラ30に接続されている。
【0020】
取扱物09を検知する測域センサ23は、クレーン作業エリアを俯瞰することができるように下向きに設置されている。
この測域センサ23を用いてクレーン作業エリアにある取扱物09の荷姿を測定する。
【0021】
まず、
図4に示すように、操業開始時に床面の状態の測定を行い、測域センサ23から投光された直下の光80によって、床面までの距離51を測定し、測定結果を形状認識パソコン29に記録する。
なお、測域センサ23から床面までの距離51は、通常変動しないため、予め規定値として、形状認識パソコン29に記録しておくこともできる。
【0022】
次に、
図5に示すように、取扱物09を荷役する場合に測域センサ23から投光された直下の光80によって、取扱物09となる物体までの距離52を測定し、測定結果を形状認識パソコン29に記録する。
ここで、測域センサ23は、測域センサ23から投光される光80、81のスキャン角度と距離データから、取扱物09の形状(縦・横・高さ)を測定するようにしているため、仮に測域センサ23が取扱物09となる物体の真上に位置しない場合であっても、取扱物09となる物体までの距離52や取扱物09の形状(縦・横・高さ)、特に、取扱物09となる物体の高さhを算定することができる。
【0023】
図2に示すように、密度の一定な立方体(又は直方体)の重心位置は、立方体(又は直方体)の高さをhとするとh/2となる。
また、
図3に示すように、密度の一定な四角錐体の重心位置は、四角錐体の高さをhとするとh/4となる。
【0024】
そして、測域センサ23は、測域センサ23から投光される光80、81のスキャン角度と距離データから、取扱物09の形状(縦・横・高さ)を測定するようにしているため、平行な平面で物体を輪切りにして各々重心を求め、各々の重心間の位置から再計算して物体の重心を求めることも可能であるが、クレーンで取り扱う物体は立方体(又は直方体)に近く、形状が大きく異なる四角錐体でもh/4の位置であり、説明を簡単化するため取扱物09のh/2の点を重心として使用することとする。
【0025】
上記の簡略化が振り子長に及ぼす影響を具体例で求めると、フック05までの長さ8m、玉掛けワイヤ14の長さ2m、取扱物09の高さ2mであり、取扱物09が立方体(又は直方体)として重心位置をh/2で計算すると、振り子長Lpは10mとなる。同様に四角錐体の場合の重心位置であるh/4で計算すると、振り子長Lpは10.5mとなる。誤差は5%であるが実用の範囲内である。
フック05までの長さを振り子長として用いる従来方式では、誤差は20%となり、精度の良い振れ止めを実現するのは困難である。
【0026】
このように、形状認識パソコン29は、取扱物09の高さhを「距離51−距離52」で求める。また、取扱物09の重心は取扱物09の1/2の高さとして算定する。
【0027】
図6に示すように、形状認識パソコン29は上記の結果により振り子長Lpを算定する。
巻上開始時の振り子長Lpは、「距離52+取扱物09の高さhの1/2」として求める。
なお、この巻上開始時の振り子長Lpは、床面までの距離51から取扱物09の高さhの1/2を減算して、すなわち、「距離51−取扱物09の高さhの1/2」として求めることもできる。
ここで、振り子長Lpを求めるに当たっては、形状認識パソコン29により、測域センサ23の設置位置と、振り子の支点位置となる巻上装置03のワイヤロープ04の巻き出し位置との距離を補正値として加算することもできる。
【0028】
天井クレーン01が巻上動作をした場合、取扱物09との距離52は変化していくが、計算式としては同じで、逐次、取扱物09までの距離を測定していくことにより、最適な振り子長Lpを算定することができ、最適な振れ止め制御を実現することができる。
【0029】
このように、このクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置によれば、簡易な設備構成で、リアルタイムの振り子長Lpを適切に測定することができ、この振り子長Lpを振れ止め制御装置に送信することによって、正確に荷振れを抑制することができる。
【0030】
なお、この天井クレーン01には、作業エリア安全確認装置として、カメラ21と赤外線投光器22が、演算装置としての人検知パソコン26に接続されている。
【0031】
以上、本発明のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のクレーンの振れ止め制御に用いる振り子長の測定装置は、振り子長を適切に測定することによって、荷振れを抑制することができることから、手動で操作されるクレーンのほか、種々の用途で使用されるクレーンの用途に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
01 クレーン(天井クレーン)
02 クラブ
03 巻上装置
04 ワイヤロープ
05 フック
09 取扱物(物体)
13 作業者
14 玉掛けワイヤ
21 カメラ
22 赤外線投光器
23 測域センサ
24 ステッピングモータ
25 モータコントローラ
26 演算装置(人検知パソコン)
27 走行レーザ距離計
28 横行レーザ距離計
29 演算装置(形状認識パソコン)
30 クレーンコントローラ
31 巻上インバータ
32 巻上モータ
33 横行インバータ
34 横行モータ
35 走行インバータ
36 走行モータ
38 無線機
51 測域センサから床面までの距離
52 測域センサから物体までの距離
80 測域センサから投光された光
81 測域センサから投光された光
h 取扱物の高さ
Lp 振り子長