特許第6984086号(P6984086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984086
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】発酵海藻エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20211206BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20211206BHJP
【FI】
   A23L17/60 Z
   A23L33/105
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-91457(P2017-91457)
(22)【出願日】2017年4月13日
(65)【公開番号】特開2018-174904(P2018-174904A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−254960(JP,A)
【文献】 特開2007−097500(JP,A)
【文献】 特開平03−061475(JP,A)
【文献】 特開2005−006511(JP,A)
【文献】 特開昭63−027496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻1重量部に対して0.5〜10重量部の水分含量で、海藻を酵母で5分間〜12時間発酵させた後、アルコール溶液中で抽出することを特徴とする発酵海藻エキスの製造方法。
【請求項2】
10〜80重量%アルコール溶液中で抽出することを特徴とする、請求項1記載の発酵海藻エキスの製造方法。
【請求項3】
発酵海藻エキス中の酢酸濃度が500ppm以下である、請求項1又は2の何れか1項に記載の発酵海藻エキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法により得られる発酵海藻エキスであって、酢酸濃度が500ppm以下である発酵海藻エキス。
【請求項5】
請求項4記載の発酵海藻エキスを含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵海藻エキス及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻は、古くから世界中で食用として利用されており、これまでに海藻を原料として海藻エキスを調製する方法について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1では、粉砕した節類及び/又は海藻類を原料とし、抽出溶媒としてアルコール溶液を用いてエキスを製造する方法において、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なるアルコール溶液を用いて抽出を行い、各濃度で抽出されたエキスを混合することを特徴とするエキスの製造方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、海藻の少なくとも1部が、食用菌の作用により発酵してなることを特徴とする海藻食品が開示されており、食用菌を用いて1〜5日程度、特に2〜3日程度発酵させ、得られた海藻食品はそのまま喫食することが記載されている。
【0004】
しかしながら、これまでに、酵母により発酵させた海藻からアルコール溶液を用いて抽出することによって、優れた風味を有する発酵海藻エキスが得られることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−20558号公報
【特許文献2】特開平04−258273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、風味力価が高く、海藻特有の風味が強いと共に、酵母臭は抑えた発酵海藻エキス及びその製造方法、並びに発酵海藻エキスを含む飲食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、海藻を酵母で発酵させた後、アルコール溶液中で抽出することで、風味力価が高く、海藻特有の風味が強いと共に、酵母臭を抑えた発酵海藻エキスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]の態様に関する。
[1]海藻を酵母で発酵させた後、アルコール溶液中で抽出することを特徴とする発酵海藻エキスの製造方法。
[2]発酵時間が24時間未満である、[1]記載の発酵海藻エキスの製造方法。
[3]発酵時の水分含量が、海藻1重量部に対して0.5〜10重量部である、[1]又は[2]に記載の発酵海藻エキスの製造方法。
[4]10〜80重量%アルコール溶液中で抽出することを特徴とする、[1]〜[3]の何れかに記載の発酵海藻エキスの製造方法。
[5]発酵海藻エキス中の発酵由来の酢酸濃度が500ppm以下である、[1]〜[4]の何れかに記載の発酵海藻エキスの製造方法。
[6][1]〜[5]の何れかに記載の製造方法により得られる発酵海藻エキスであって、発酵由来の酢酸濃度が500ppm以下である発酵海藻エキス。
[7][6]記載の発酵海藻エキスを含む飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、風味力価が高く、海藻特有の風味が強いと共に、酵母臭を抑えた、優れた風味及び呈味を有する発酵海藻エキスを提供できる。また、簡便に該発酵海藻エキスを製造できる製造方法を提供できる。さらに、該発酵海藻エキスを添加することで、特有の風味を付与でき、風味良好な飲食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に記載の発酵海藻エキスは、海藻を酵母で発酵させた後、アルコール溶液で抽出して得られる抽出物であれば特に限定されず、例えば海藻と水とを含む混合物に酵母を接種し、発酵させた後、アルコールを添加して抽出することで発酵海藻エキスを得られる。
【0011】
海藻は、昆布、ワカメ、モズク、ヒジキ、ハバノリ等の褐藻類、アオサ、アオノリ、ヒトエグサ等の緑藻類、アサクサノリ、スサビノリ、トサカノリ等の紅藻類を挙げることができ、その産地や等級は限定されない。また、海藻は、生鮮のものであっても、乾燥したものであってもよい。さらに、海藻は、そのままの形状で用いてもよく、細切処理又は粉砕処理して用いてもよい。
【0012】
酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(S.bayanus)、サッカロマイセス・パストリアヌス(S.pastorianus)等のサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属、キャンディダ・ウチリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)等のクルイベロマイセス属等に属する菌が例示でき、単独で使用してもよく、2以上の菌を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
発酵は、海藻と水とを含む混合物に酵母を接種して発酵させてもよく、酵母を公知の方法で培養した培養物と海藻とを混合して発酵させてもよい。本発明の発酵海藻エキスが得られれば特に限定されないが、発酵開始時に、海藻1gに対して酵母を1×10〜1×1010cfu含むのが好ましく、5×10〜5×10cfu含むのがより好ましく、1×10〜1×10cfu含むのがさらに好ましい。
【0014】
発酵条件は、通気又は撹拌するのが好ましく、発酵時の水分含量は、海藻1重量部に対して0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜5重量部がさらに好ましく、海藻に対して該水分含量になるように水を用いればよい。発酵温度は10〜50℃が好ましく、20〜45℃がより好ましい。また、発酵時間は、得られるエキスの酵母臭が強くなく、海藻特有の風味を損なわない範囲であれば特に限定されないが、24時間未満が好ましく、5分間〜20時間がより好ましく、10分間〜16時間がさらに好ましく、20分間〜12時間が特に好ましい。短時間で発酵させることにより、海藻特有の風味を損なうことなく、発酵による風味を適度に付与することができ、風味力価が高い発酵海藻エキスを得ることができる。数日単位の発酵日数では発酵時間が長過ぎ、酵母臭が強くなり、海藻特有の風味も損なわれ、好ましくない。
【0015】
発酵後の抽出は、一般的な方法で行えばよく、抽出溶液としてアルコール溶液を用い、抽出溶液中で海藻発酵物を処理して本発明の発酵海藻エキスが得られれば特に限定されない。抽出溶液中のアルコール濃度は、10〜80重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましく、30〜60重量%がさらに好ましく、発酵後にアルコールを添加して、終濃度として該アルコール濃度にすればよい。アルコールとしてはエタノールが好ましい。抽出溶液と海藻との比率は特に限定されないが、海藻1重量部に対して抽出溶液が1〜20重量部が好ましく、2〜15重量部がより好ましく、3〜10重量部がさらに好ましい。抽出温度は、10〜120℃が好ましく、15〜100℃がより好ましく、20〜90℃がさらに好ましい。抽出時間は、1分間〜12時間が好ましく、2分間〜6時間がより好ましく、5分間〜3時間がさらに好ましい。抽出は、常圧条件下、加圧条件下の何れでもよく、還流抽出でもよい。抽出後に固液分離するのが好ましく、不織布によるろ過、遠心分離等により海藻原料を含む混合物から液部を回収できる。
【0016】
上記に記載の方法により本発明の発酵海藻エキスを製造することができる。本発明の発酵海藻エキスは、発酵海藻エキス中の発酵由来の酢酸濃度が500ppm以下であるのが好ましく、400ppm以下であるのがより好ましく、300ppm以下であるのがさらに好ましい。発酵由来の酢酸濃度は酵母臭と相関しており、酢酸濃度が高過ぎると酵母臭が強く、海藻特有の風味が損なわれ、本発明の発酵海藻エキスが得られない。発酵海藻エキスは、さらに、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等を行い、乾燥品として利用してもよい。
【0017】
本発明の発酵海藻エキスは、優れた風味及び呈味を有しているため各種調味料や飲食品に利用できる。各調味料や飲食品に添加することにより、海藻特有の風味が付与された風味良好な製品を製造できる。添加量は良好な官能が得られれば特に限定されないが、好ましくは0.1〜20%、より好ましくは0.5〜15%、さらに好ましくは1.0〜10%である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0019】
[実施例1]
水道水50gに、昆布(乾燥粉砕物)25gを加えて混合した後、乾燥酵母(サッカロマイセス・セレビシエ、6×10cfu/g)2.5gを接種して35℃で30分間(実施例1−1)、1時間(実施例1−2)、3時間(実施例1−3)又は12時間(実施例1−4)発酵させた。次に、95%エタノール50gを加えて、20℃で30分間抽出した後、遠心分離(2000×G、5分間)して液部を回収することで、各発酵昆布エキス82g(実施品1−1〜1−4)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0020】
[比較例1]
水道水50gに、昆布(乾燥粉砕物)25gを加えて混合した後、35℃で1時間保持した。次に、95%エタノール50gを加えて、20℃で30分間抽出した後、遠心分離(2000×G、5分間)して液部を回収することで、昆布エキス83g(比較品1)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0021】
[比較例2]
発酵時間を24時間とし、それ以外は実施例1と同様に処理して、発酵昆布エキス80g(比較品2)を得た。
【0022】
[評価試験1]
実施品1−1〜1−4及び比較品1、2の酢酸濃度について、ガスクロマトグラフィー(以下GC)を用いて酢酸濃度を測定し、結果を表1に示した。
<GCの測定条件>
・検出器:FID(250℃)
・カラム:InertCap Pure−WAX
(ID:0.25mm×30m、df:0.25μm、GLサイエンス株式会社製)
・カラム温度:40℃(5分間保持)→10℃/分で昇温→250℃(3分間保持)
・キャリアーガス:ヘリウム(100kPa)、1.3ml/分
・注入温度:250℃
・内部標準物質:シクロヘキサノール
・検体:試料を、常法に従ってジエチルエーテル抽出した。
【0023】
[評価試験2]
(官能評価)
実施品1−1〜1−4及び比較品1、2について、官能評価を実施した。なお、官能評価は、各実施品又は比較品2gをそれぞれ熱湯98gで希釈したものを検体として、風味力価、海藻特有の風味及び酵母臭について評価し、表1に示した。風味力価及び海藻特有の風味の評価は、「強い」:○、「弱い」:×とした。酵母臭の評価は、「弱い」:○、「強い」:×とした。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示すとおり、実施品1−1〜1−4の発酵昆布エキスは、比較品1の昆布エキスに比べて、風味力価が高く、好ましいものであった。また、比較例2の発酵昆布エキスは、酢酸濃度が高く、酵母臭が強く感じられるとともに昆布特有の風味が損なわれており、好ましい風味ではなかった。発酵時間と共に酢酸濃度が高くなり、適切な発酵時間を超えると酢酸濃度が高くなり過ぎるとともに酵母臭が強くなり、本発明の発酵海藻エキスが得られないことが分かった。
【0026】
[実施例2]
水道水50gに、昆布(乾燥粉砕物)25gを加えて混合した後、乾燥酵母(サッカロマイセス・セレビシエ、6×10cfu/g)2.5gを接種して35℃で1時間発酵させた。次に、40%エタノール水溶液50gを加えて、80℃で30分間還流抽出した後、40℃まで冷却し、不織布を用いて固液分離することで、発酵昆布エキス67g(実施品2)を得た。なお、エタノールの終濃度は20%だった。
【0027】
[実施例3]
液体培地(水道水:97%、グルコース:2%、酵母エキス:1%)に、サッカロマイセス・セレビシエ NBRC2346株を接種し、30℃で20時間振盪培養して得た酵母培養液(1×10cfu/g)50gに、昆布(乾燥粉砕物)25gを加えて混合し、30℃で1時間発酵させた。次に、95%エタノール50gを加えて、80℃で30分間還流抽出した後、40℃まで冷却し、不織布を用いて固液分離することで、発酵昆布エキス78g(実施品3)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0028】
[実施例4]
液体培地(水道水:97%、グルコース:2%、酵母エキス:1%)に、キャンディダ・ウチリス NBRC619株を接種し、30℃で20時間振盪培養して得た酵母培養液(3×10cfu/g)50gに、昆布(乾燥粉砕物)25gを加えて混合し、30℃で1時間発酵させた。次に、95%エタノール50gを加えて、80℃で30分間還流抽出した後、40℃まで冷却し、不織布を用いて固液分離することで、発酵昆布エキス77g(実施品4)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0029】
[比較例3]
液体培地(水道水:97%、グルコース:2%、酵母エキス:1%)50gに、昆布(乾燥粉砕物)25gを加えて混合し、30℃で1時間保持した。次に、95%エタノール50gを加えて、80℃で30分間還流抽出した後、40℃まで冷却し、不織布を用いて固液分離することで、昆布エキス78g(比較品3)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0030】
[評価試験3]
実施品2〜4及び比較品3について、前記評価試験1及び2と同様に評価試験を実施し、結果を表2に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すとおり、実施例2〜4の発酵昆布エキスは、比較例3の昆布エキスに比べて、風味力価が高く、好ましいものであった。
【0033】
[実施例5]
水道水50gに、アオサ(乾燥粉砕物)10g、グルコース1gを加えて混合した後、乾燥酵母(サッカロマイセス・セレビシエ、6×10cfu/g)2.5gを接種して35℃で1時間発酵させた。次に、95%エタノール50gを加えて、80℃で30分間還流抽出した後、不織布を用いて固液分離することで、発酵アオサエキス82g(実施品5)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0034】
[比較例4]
水道水50gに、アオサ(乾燥粉砕物)10g、グルコース1gを加えて混合した後、35℃で1時間保持した。次に、95%エタノール50gを加えて、80℃で30分間還流抽出した後、不織布を用いて固液分離することで、アオサエキス81g(比較品4)を得た。なお、エタノールの終濃度は48%だった。
【0035】
[評価試験3]
実施品5及び比較品4について、前記評価試験1及び2と同様に評価試験を実施し、結果を表3に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
表3に示すとおり、実施例4の発酵アオサエキスは、比較例4のアオサエキスに比べて、風味力価が高く、好ましいものであった。