特許第6984218号(P6984218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984218二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984218
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20211206BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20211206BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20211206BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20211206BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20211206BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20211206BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20211206BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20211206BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
   C08K3/04
   C08L67/00
   C08J3/20 B
   B29C48/305
   B29C48/88
   B29C55/12
   B29K67:00
   B29L7:00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-151300(P2017-151300)
(22)【出願日】2017年8月4日
(65)【公開番号】特開2019-26816(P2019-26816A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】舩冨 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田端 久敬
(72)【発明者】
【氏名】森下 健太
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−132989(JP,A)
【文献】 特開2016−160403(JP,A)
【文献】 特開平08−281794(JP,A)
【文献】 特開2010−083906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00−5/02; 5/12−5/22
B29C55/00−55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを含有する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、前記二軸配向ポリエステルフィルムにおけるカーボンブラックの含有量が二軸配向ポリエステルフィルム全体に対して4重量%以上13重量%以下であり、フィルム長手方向の厚みムラが1%以上10%以下であり、前記カーボンブラックを含有する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法において、カーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物を、溶融混練押出機を用いて溶融混練して口金から溶融押出し、キャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを得る工程を有し、前記口金の口金リップ間隙(KL)が0.5mm以上5.0mm以下であり、前記口金リップ間隙(KL)と口金より押し出された未延伸フィルムの厚み(MT)(mm)との比で表されるドラフト比(KL/MT)が10以上20以下である、二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの溶融粘度が200Pa・s以上350Pa・s以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
【請求項3】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片側の表面の色調L値が30以下である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
【請求項4】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片側の表面の表面粗さSRaが40nm以上150nm以下である請求項1から3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
【請求項5】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚みが3μm以上45μm以下である請求項1から4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性、遮光性を両立した二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械特性、熱特性、電気特性、耐薬品性、成形性などに優れるため、様々な用途に用いられている。そのポリエステル樹脂をフィルム化したポリエステルフィルム、中でも二軸方向に延伸して分子配向させた二軸配向ポリエステルフィルムは、光学装置の遮光部材、太陽電池バックシート、電気絶縁材料、感熱転写用途、工程紙などの各種工業材料として幅広く用いられている。これらの用途のうち、光学装置の遮光部材、特に携帯電話、スマートフォン、カメラ、ビデオカメラの遮光部材用途においては、遮光性が重要である。装置の小型化、軽量化に伴い、それに用いる遮光部材には、遮光性だけでなく、小型化、軽量化が求められている。最近では、シャッターや絞りなどの光学装置の遮光部材として、従来の金属に代わり、小型化、軽量化および低コスト化を目的として、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルムが用いられることが多くなってきた。
【0003】
樹脂フィルムに遮光性を付与する方法としては、カーボンブラックを添加することが一般的である。しかしながら、樹脂フィルムに遮光性を付与するために大量のカーボンブラックを添加すると、樹脂フィルムの機械特性が低下するだけでなく、製膜工程でのロール巻替え工程でフィルム破断が発生し、連続生産性が低下する問題がある。また、樹脂フィルムへの遮光性はフィルム厚みが増す程高めることが可能になるが、近年、遮光部材の小型化、軽量化が進められる中では、遮光性を有するフィルムの厚みはより薄いことが求められる。そのような中で、フィルム厚みが薄くても遮光性、機械強度を保持でき、シャッターや絞りなどとして好適な遮光性ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−56871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の遮光性ポリエステルフィルムは、相対的に極限粘度が高いポリエステル樹脂を用い、かつ、添加するカーボンブラックのフィルム中の平均二次粒子径とその含有量を適宜に選択することによって、カーボンブラックを高濃度に均一分散させ、フィルム厚みが薄くても高い遮光性を有し、かつ、良好な機械強度を保持できる。しかしながら、カーボンブラックを大量に含有させる必要があるため、静電印加性が低下してキャスト起因の長周期での厚みムラが大きくなるという課題が発生する。
【0006】
そこで本発明の課題は上記した従来技術の問題点を解決し、加工性、遮光性を両立した二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
(1)カーボンブラックを含有する二軸配向ポリエステルフィルムであって、カーボンブラックの含有量が二軸配向ポリエステルフィルム全体に対して4重量%以上13重量%以下であり、フィルム長手方向の厚みムラが1%以上10%以下である二軸配向ポリエステルフィルム。
(2)前記二軸配向ポリエステルフィルムの溶融粘度が200Pa・s以上350Pa・s以下であること。
(3)少なくとも片側の表面の色調L値が30以下であること。
(4)少なくとも片側の表面の表面粗さSRaが40nm以上150nm以下であること。
(5)厚みが3μm以上45μm以下であること。
(6)カーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物を、溶融混練押出機を用いて溶融混練して口金から溶融押出し、キャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを得る工程を有する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、前記口金の口金リップ間隙(KL)が0.5mm以上5.0mm以下であり、前記口金リップ間隙(KL)と口金より押し出された未延伸フィルムの厚み(MT)(mm)との比で表されるドラフト比(KL/MT)が10以上35以下である前記(1)から(5)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、高度な遮光性と連続生産性を両立するため、携帯電話、スマートフォン、カメラ、ビデオカメラ、複写機、現像機などの各種光学装置の遮光部材や粘着材料の基材として好適に用いることができる。前記用途でフィルムが用いられる際、フィルム上に粘着材料を塗布して粘着層を形成し、テープ材料として用いられるのがより好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中にカーボンブラックを含み、カーボンブラックの含有量が二軸配向ポリエステルフィルム全体に対して4重量%以上13重量%以下である必要がある。カーボンブラックの含有量が二軸配向ポリエステルフィルム全体に対して4重量%未満の場合、高度な遮光性を得られなくなることがある。一方、カーボンブラックの含有量が二軸配向ポリエステルフィルム全体に対して13重量%を超える場合、溶融比抵抗が低下するため、厚みムラが大きくなったり、フィルムの機械特性、特に引張破断強度が低下して、製膜工程でのロール巻替え工程でフィルム破断が発生したり、引き裂き伝播抵抗が低下して、製膜工程でのロール巻替え工程やスリット工程において、カッター刃をフィルムに入れた際にフィルムの裂けが伝播したりして、連続生産性を確保することができなくなる。より好ましくは5.5重量%以上12重量%以下であり、さらに好ましくは7重量%以上11重量%以下である。
【0010】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは長手方向の厚みムラが1%以上10%以下であることが必要である。前述したとおり、二軸配向ポリエステルフィルムにカーボンブラックを大量に含有させると、静電印加性が低下し、キャスト起因の長周期での厚みムラが大きくなるという現象が発生する。本発明者らが鋭意検討したところ、この現象により発生する厚みムラは、二軸配向ポリエステルフィルムの溶融粘度を所定の範囲としつつ、二軸配向ポリエステルフィルムを製造する際のキャスト条件を制御することで大きく低減されることを明らかにした。厚みムラを上記範囲とすることで、遮光テープなどの粘着材料の基材として用いる場合、フィルムに塗布した粘着材を塗布・乾燥する工程において、シワの発生がなく平面性を維持する点で好ましい。より好ましくは1%以上8%以下であり、さらに好ましくは1%以上6%以下である。なお、二軸配向ポリエステルフィルムの溶融粘度や、二軸配向ポリエステルフィルムを製造する際のキャスト条件については後述する。
【0011】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも片側の表面が、後述する測定方法により求められる色調L値が30以下であることが好ましい。色調L値は、色の明るさ(明度)を表す指標であり、値が大きいと明るい(明度が高い)ことを表し、値が低いと暗い(明度が低い)ことを表す。より好ましくは10以上27以下であり、さら好ましくは15以上25以下である。色調L値が30を超える場合、光学装置の遮光部材や遮光性工程紙として用いるのに好適な暗さが得られなくなる場合がある。色調L値は、フィルム表面の表面粗さやポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量によって調整することができる。ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量を多くするほど、また、フィルムの表面の表面粗さが小さいほど、色調L値は小さくなる。
【0012】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、高度な遮光性を得る観点から、後述する測定方法により求められる光学濃度が3.0以上であることが好ましい。光学濃度は、光の透過量を表す指標であり、値が大きいと光の透過率が小さいことを表し、値が小さいと光の透過率が大きいことを表す。光学濃度は、光の透過率を表す指標であるため、測定対象の光路距離(測定対象がフィルムである場合はフィルム厚み)に大きく依存する。すなわち、光路距離が長いほど(フィルム厚みが厚いほど)光学濃度は高くなる傾向にある。したがって、フィルム厚みが薄いフィルムにおいて光学濃度が高いフィルムを得るには、厚みあたりの光の減衰率が高いフィルムとする必要がある。より好ましくは、5.0以上、さらに好ましくは、7.0以上である。光学濃度は、フィルムの厚みだけでなく、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量によって調整することができる。ただし、前述のとおり、カーボンブラックの含有量を多くしすぎると、機械特性、連続生産性が低下する。光学濃度が3.5未満の場合、遮光性が不十分となり、光学的機能を発揮できなくなることがある。光学濃度の上限は特に限定されないが、光学濃度が8.0を超えるフィルムは遮光性が十分である。
【0013】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム全体の厚みが3μm以上300μm以下であることが好ましく、3μm以上45μm以下であることがより好ましく、6μm以上35μm以下であることがさらに好ましい。フィルム全体の厚みを前述の範囲とすることで、光学装置の遮光部材として用いる際に、遮光性、小型化、軽量化および低コスト化のいずれも良好となる。フィルム全体厚みが3μm未満では、フィルムの機械特性が十分でなく、生産性が劣り、生産効率を低下させてしまう場合がある。一方、フィルム全体厚みが45μmを超える場合、薄膜化、軽量化という要求特性を満足させることができない場合がある。
【0014】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムに高度な遮光性を付与するためにカーボンブラックを含有させることが必要である。カーボンブラックの種類としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラックなどを用いることができる。本発明の二軸配向ポリエステルフィルム中に含有されるカーボンブラックは、公知の種類のものを用いることができるが、フィルム中に分散させた時にカーボンブラックの平均二次粒子径が0.1μm以上3.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.2μm以上2.6μm以下である。平均二次粒子径が小さい場合、摺動性が悪化することがある。平均二次粒子径が大きい場合、フィルム中に斑が発生し、引張強度、製膜性が悪化することがある。カーボンブラックの平均二次粒子径を0.1μm以上3.0μm以下とすることで、摺動性、引張破断強度、製膜性に優れたポリエステルフィルムとすることができる。ここで、本発明で言う「平均二次粒子径」とは、数平均粒子径のことを指す。
【0015】
本発明において、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中にカーボンブラックを含有せしめる方法としては、特に制限されるものではない。例えば、重合前(ポリエステル原料を重合する前にカーボンブラックを添加)、重合中(ポリエステル原料の重合時に添加)、重合後(ポリエステル原料の重合反応を完了せしめた後に添加)のいずれの段階で添加・含有せしめてもよい。重合後のポリエステル樹脂を押出機の中で溶融させ、カーボンブラックを添加して、分散せしめてコンパウンド化したペレット(以降、重合後のポリエステル樹脂を押出機の中で溶融させ、カーボンブラックを添加して、分散せしめてコンパウンド化したペレットをカーボンブラックマスターと呼ぶ場合がある)を、ポリエステルフィルムの原料として用いる方法が好ましい。
【0016】
なお、ポリエステル樹脂にカーボンブラックを溶融混練する装置としては、一軸押出機であっても、二軸以上の押出機であっても良いが、二軸押出機などのせん断応力が高い高せん断混合機を用いる方法が好ましい。また、分散不良物を低減させる(カーボンブラックの平均粒子径を小さくする)観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましい。二軸押出機を用いる場合、溶融混練部は220℃〜300℃の温度範囲が好ましい。より好ましい温度範囲は230℃〜290℃である。そのときのポリマーの滞留時間は60〜300秒の範囲であることが好ましい。また、二軸のスクリュー回転数を100〜500回転/分とすることが好ましく、さらに好ましくは200〜300回転/分の範囲である。スクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、高いせん断応力が付加され易く、カーボンブラック粒子の分散性を向上することが可能となり、また、せん断応力がかかり過ぎることにより起こるポリエステルの分解反応を抑制することができる。また、二軸押出機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率(L/D)は20〜60の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50の範囲である。
【0017】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの層構成は特に限定されず、単層であっても積層であってもよい。積層構成の場合、例えば、A層/B層、A層/B層/A層、A層/C層/B層などである。
【0018】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも片側の表面の表面粗さSRaが40nm以上150nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、55nm以上130nm以下である。少なくとも片側の表面の表面粗さSRaを前述の範囲にすると、フィルムの離型性が向上し、遮光性工程紙として用いる際の離型不良が発生しない。表面粗さSRaは、フィルム表面を有する層に含有する粒子の粒径、含有量によって調整することができる。フィルム表面を有する層に含有する粒子の粒径を大きくするほど、また、粒子の含有量を多くするほど、表面粗さSRaは大きくなる。
【0019】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、溶融比抵抗が1.0×10Ω・cm以上5.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、3.0×10Ω・cm以上5.0×10Ω・cmである。溶融比抵抗が1.0×10Ω・cmを下回ると溶融した樹脂原料をキャスティングドラムなどの回転冷却体上にシート状溶融樹脂として吐出し、ワイヤー状電極などで静電印加により回転冷却体に密着させて冷却固化し、未延伸フィルムを得る工程で、静電印加した電荷が回転冷却体に密着するまで保持されず、回転冷却体に十分に密着しないため、フィルムの厚みムラが大きくなることがある。一方、溶融比抵抗が5.0×10Ω・cmを超えるとフィルムの表面に十分に静電印加されず、回転冷却体に十分に密着しないため、フィルムの厚みムラが大きくなることがある。溶融比抵抗はポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物全体に対するカーボンブラックおよびポリエステル樹脂Bの含有量によって調整することが出来る。ポリエステルフィルムを構成する樹脂組成物全体に対するカーボンブラックの含有量を多くするほど溶融比抵抗は低くなる。一方、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物全体に対するポリエステル樹脂Bの含有量を多くするほど、溶融比抵抗は高くなる。例えば、ポリエステル樹脂Bを含まないポリエチレンテレフタレートからなるポリエステルフィルムに、カーボンブラックを多量に含有せしめると、溶融比抵抗が低下するため、厚みムラが大きくなることがあるが、カーボンブラック、ポリエステル樹脂Bの含有量を調整することで、溶融比抵抗を好適な値とすることができる。
【0020】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは前記二軸配向ポリエステルフィルムの溶融粘度が200Pa・s以上350Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度が200Pa・s未満の場合、ポリエステル樹脂の流動性が高すぎるため、キャスティングドラムなどの回転冷却体上にシート状溶融樹脂として吐出する際、ポリマーの脈動により厚みムラが大きくなる場合がある。一方、溶融粘度が350Pa・sを超えると静電印加性が低下して厚みムラがより大きくなる場合がある。また、キャスティングドラムなどの回転冷却体上にシート状溶融樹脂として吐出する際、ポリマーの脈動により厚みムラが大きくなる。より好ましくは220Pa・s以上330Pa・s以下であり、さらに好ましくは240Pa・s以上310Pa・s以下である。
【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、カーボンブラック以外の遮光剤が二軸配向ポリエステルフィルム全体に対して1重量%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。本発明において、遮光剤とは、樹脂に添加することにより樹脂の遮光性を向上させる機能を有する化合物や樹脂をあらわす。カーボンブラック以外の遮光剤を追加添加すると、フィルムの色調が変化したり、材料コストや樹脂原料の回収性が悪化することがある。遮光剤としては、具体的には、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ、チタンブラックなどが例示される。
【0022】
次に、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの好ましい製造方法の一例を以下に説明するが、本発明はかかる例によって制限されるものではない。
【0023】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、カーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物を、溶融混練押出機を用いて溶融混練して口金から溶融押出し、キャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを得る工程を有する製造方法によって得られることが好ましい。ここで、厚みムラの制御や加工性の観点から、溶融状態のポリマーを口金から押し出す場合のドラフト比(=口金リップ間隙KL(mm)/未延伸フィルム厚みMT(mm))は10以上35以下であることが好ましい。ドラフト比が10未満の場合は、静電印加した電荷が消失し、静電印加性が低下して厚みムラがより大きくなる。一方、35を越える場合は、十分に電荷が印加されず、静電印加性が悪化して厚みムラがより大きくなる。この時、口金リップ間隔KLは0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。口金リップ間隔KL(mm)は0.5mm未満の場合、口金スジと呼ばれるスジ状の欠点が発生し、品質の低下につながるばかりか、ひどい場合には大きな欠点となり製品として採用できず、生産性の低下にもつながる場合がある。一方、5.0mmを越える場合は、キャスティングドラムなどの回転冷却体上にシート状溶融樹脂として吐出する際、ポリマーの脈動により厚みムラが大きくなる場合がある。
【0024】
キャスティングドラムなどの回転冷却体上にシート状溶融樹脂として吐出し次いで、口金から表面温度10℃以上60℃以下に温度制御したキャスティングドラムなどの回転冷却体上にシート状溶融樹脂として吐出し、上記記載のワイヤー状電極などで静電印加により回転冷却体に密着させて冷却固化し、未延伸フィルムを得る。
【0025】
このようにして得られた未延伸フィルムは、縦方向および横方向に二軸延伸して分子配向させて、必要最適な厚みのフィルムに成形される。延伸方法としては、逐次二軸延伸方式、あるいは、同時二軸延伸方式を用いることができる。例えば逐次二軸延伸方式の場合、未延伸フィルムを70〜120℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわち製膜工程におけるフィルムの進行方向)に2〜5倍延伸し、20〜30℃のロール群で冷却する。次いで、フィルムの両端部をクリップで把持しながらテンター装置に導き、90〜150℃に加熱した雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に2〜5倍延伸する。このようにして得られた二軸延伸フィルムは、結晶配向を完了させて、平面性や熱寸法安定性を付与するために、テンター装置内にて150〜240℃で1〜30秒間の熱処理工程を経て、均一に冷却後、室温まで冷却し、ワインダーで巻き取り、二軸配向ポリエステルフィルムを得る。なお、熱処理工程中に、必要に応じて長手方向および/または幅方向に3〜12%の弛緩処理を施してもよい。
【0026】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、高度な遮光性と連続生産性を両立するため、携帯電話、スマートフォン、カメラ、ビデオカメラ、複写機、現像機などの各種光学装置の遮光部材や粘着材料の基材として好適に用いることができる。前記用途でフィルムが用いられる際、フィルム上に粘着材料を塗布して粘着層を形成し、テープ材料として用いられるのがより好適である。また、太陽電池バックシートなどの部材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。以下では実施例4、8を参考実施例4、8と読み替えるものとする。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0028】
(1)ポリエステル樹脂の組成
二軸配向ポリエステルフィルム0.1gをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H−NMRおよび13C−NMRを用いて各モノマー残基成分の含有量を定量した。また、必要に応じてGPC(東ソー社製 HLC−8020)による分取操作を行い構成ポリマーを単離したのち、H−NMRおよび13C−NMR測定を行うことにより各モノマー残基成分の含有量を特定した。二軸配向ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し評価した。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により組成を算出した。
【0029】
(2)溶融粘度
JIS K7199(1999)に準拠した下記装置にて、280℃の溶融粘度を評価した。5回測定し、その平均を溶融粘度とした。
・測定装置 :キャピログラフ1D(株)東洋精機製作所
・キャピラリー長さ:10mm
・キャピラリー径:1mm
・キャピラリー温度:280℃
・予熱時間(キャピラリー内に測定サンプルを充填してから測定を開始するまでの時間):6分間
・剪断速度:100[1/s]
・サンプル量:30g
・サンプル前処理:真空度0.2kPa以下で180℃3時間乾燥したものを用いた。
【0030】
(3)フィルム厚み
フィルム全体の厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、その平均値から求めた。
【0031】
(4)カーボンブラックの含有量
JIS K6813(2002年)に基づき、以下のように求める。試料を秤量し、重さをm1とする。秤量した試料を試料ボートに乗せ、あらかじめ550℃に加熱した円筒形電気炉にて窒素雰囲気下において45分間加熱する。窒素雰囲気下で試料ボートを10分間放冷した後、デシケータに移して室温まで放冷後、重さを秤量し、m2とする。その後、試料ボートをマッフル炉に入れ、900℃にてカーボンブラックの痕跡が無くなるまで灰化する。デシケータ内で室温まで試料ボートを冷却し、重さを秤量してm3とする。
【0032】

カーボンブラックの含有量(重量%)は以下の(a)式で算出する。この試行を5回行い、算術平均を以て含有量(重量%)とする。
(a)(m2−m3)/m1×100
(5)色調L値
JIS Z8722(2000年)に基づき、分光式色差計(日本電色工業製SE−2000、光源 ハロゲンランプ 12V4A、0°〜−45°後分光方式)を用いて、色調L値を反射法により測定した。測定は温度23℃、湿度65%の雰囲気中で行った。フィルムの任意の5点の測定値の平均値を色調L値とした。
【0033】
(6)光学濃度
測定対象のポリエステルフィルムを任意に5点サンプリングし、旧JIS K7605に準拠して、各サンプルにおける光学濃度を下記の方法にて測定した。得られた5点の光学濃度の測定値の平均値を光学濃度とした。
【0034】
<光学濃度測定方法>
光学濃度計(株式会社システムロード製、DD8)を用い、試料に垂直透過光束を照射して、試料が無い状態との比をlog(対数)で表したものを光学濃度とした。光束幅は直径1mmの円形、もしくは、それ以上の広さのものとした。
【0035】
(7)表面粗さSRa(nm)
光干渉型顕微鏡(菱化システム製、VertScan2.0)を用い、観察モード=Phaseモード、フィルタ=520nm、ScanRange=105nmにて表面形態観察し、フィルム表面の3次元中心線平均粗さ(SRa)を求めた。測定は1水準につき3回行い、その平均値から求めた。なお、測定条件は、測定面積:1.25mm×0.9mm、カットオフ値:0.08mmとして任意の面を測定した。
【0036】
(8)フィルムの遮光性
上記(6)光学濃度により、以下の基準で評価した。S〜Bが良好であり、その中でもSが最も優れている。
S:光学濃度が7.0以上
A:光学濃度が5.0以上7.0未満
B:光学濃度が3.0以上5.0未満
C:光学濃度が3.0未満。
【0037】
(9)厚みムラ
アンリツ株式会社製フィルムシックネステスター「KG601A」および電子マイクロメータ「K306C」を用い、ポリエステルフィルムの縦方向に30mm幅、10m長にサンプリングしたポリエステルフィルムを搬送速度3m/minで連続的に厚みを測定した。10m長での厚み最大値Tmax(μm)と、最小値Tmin(μm)から、次式で
R=Tmax−Tmin
Rを求め、Rと10m長の平均厚みTave(μm)から、次式により厚みムラを求めた。
厚みムラ(%)=(R/Tave)×100。
【0038】
(10)フィルムの加工性
フィルム上にアクリル系粘着材料を塗布し、190℃で10秒間乾燥し、厚み5μmの透明な粘着層を形成した。得られた粘着層付きのフィルムを、蛍光灯下で粘着層側からフィルム外観を観察し、以下の基準で評価した。B以上を合格とした。
A:フィルム基材がシワなく平面性を維持しており外観がきれい。
B:フィルム基材に若干シワがみられ平面性が損なわれているが外観がきれい。
【0039】
C:フィルム基材に大きなシワがみられ平面性が損なわれている、あるいは、フィルム基材と粘着材の界面に剥離がみられ、外観の改善が必要。
【0040】
[使用したポリエステル樹脂A]
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールの混合物に、ジメチルテレフタレートに対して、酢酸カルシウム0.09重量%と三酸化アンチモン0.03重量%とを添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。次いで、得られたエステル交換反応生成物に、原料であるジメチルテレフタレートに対して、酢酸リチウム0.15重量%とリン酸トリメチル0.21重量%とを添加した後、重合反応槽に移行し、次いで加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常法により重合し、極限粘度0.54dl/gのポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)を得た。得られたPETポリマーを、回転型真空重合装置を用いて1mmHg以下の減圧下、225℃の温度で35時間加熱処理し、融点255℃、極限粘度0.73dl/gのポリエステル樹脂A得た。
【0041】
[使用したポリエステル樹脂B]
上記同様の方法でイソフタル酸を添加することでポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合物(PET−I)を得てポリエステル樹脂Bとして使用した。
【0042】
[使用したカーボンブラックマスター]
ポリエステル樹脂Aが80重量%とカーボンブラックとして三菱化学製のファーネスブラック(#3030B)が20重量%を、ニーディングパドル混練部を設けた真空ベント付き同方向回転式二軸混練押出機(L/D=40)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分、スクリュー回転数の変動率4%、290℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにチップ状にカッティングして、極限粘度0.58dl/gのカーボンブラックマスターを得た。
【0043】
(実施例1)
ポリエステル樹脂A、ポリエステル樹脂B、カーボンブラックマスターをそれぞれ、180℃の温度で2時間真空乾燥せしめた。次いで、窒素雰囲気下、表1に示す割合でブレンド後、押出機に供給した。押出機で溶融したポリマーを温度290℃に設定したフィルターで濾過した後、温度280℃に設定したTダイの口金から溶融押出して表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを得た。この時のドラフト比は20とした。
この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、90℃の温度でフィルムの縦方向に3.2倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、ステンターに導き、延伸温度95℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸し、熱処理を225℃で8秒間行い、フィルム厚み20μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの評価結果を表1、表2に示す。
【0044】
(実施例2〜11、比較例1〜8)
各原料の含有量、および、製造条件を、表1、表2のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。結果を表1、表2に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、高度な遮光性と連続生産性を両立するため、携帯電話、スマートフォン、カメラ、ビデオカメラ、複写機、現像機などの各種光学装置の遮光部材や粘着材料の基材として好適に用いることができる。前記用途でフィルムが用いられる際、フィルム上に粘着材料を塗布して粘着層を形成し、テープ材料として用いられるのがより好適である。また、太陽電池バックシートなどの部材としても好適に用いることができる。