(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1又は複数のウェイトを複数の配置パターンで配置可能な打具に対し、プレイヤーに適した前記配置パターンである推奨パターンを決定するのに用いられるフィッティング装置であって、
前記プレイヤーによるテストスイング中の前記打具の運動を計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記複数の配置パターンに含まれる少なくとも1つの特定の配置パターンに対し、仮想スイング中の前記打具の挙動をシミュレーションするシミュレーション部と、
前記仮想スイング中の前記打具の挙動に基づいて、前記推奨パターンを決定する配置決定部と、
を備え、
前記推奨パターンは、前記仮想スイング中に前記打具と衝突するボールのサイドスピンを抑えるように前記打具が挙動する配置パターンであるか、前記打具と前記ボールとが衝突する直前において、前記打具が前記ボールと衝突する部分の速度が大きくなる配置パターンである、
フィッティング装置。
前記シミュレーション部は、前記計測データに基づいて、前記特定の配置パターンでの前記仮想スイング中の前記打具の変形を解析し、前記変形の解析の結果に基づいて、前記特定の配置パターンでの前記仮想スイング中の前記打具の挙動をシミュレーションする、
請求項1に記載のフィッティング装置。
前記シミュレーション部は、前記計測データに加え、前記特定の配置パターンでの前記打具の仕様情報に基づいて、前記特定の配置パターンでの前記仮想スイング中の前記打具の挙動をシミュレーションする、
請求項1または2に記載のフィッティング装置。
前記シミュレーション部は、前記計測データに基づいて、前記テストスイング中の前記打具の挙動をシミュレーションし、前記テストスイング中の前記打具の挙動に基づいて、前記特定の配置パターンでの前記仮想スイング中の前記打具の挙動をシミュレーションする、
請求項1から3のいずれかに記載のフィッティング装置。
1又は複数のウェイトを複数の配置パターンで配置可能な打具に対し、プレイヤーに適した前記配置パターンである推奨パターンを決定するのに用いられるフィッティングプログラムであって、
前記プレイヤーによるテストスイング中の前記打具の運動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記複数の配置パターンに含まれる少なくとも1つの特定の配置パターンに対する、仮想スイング中の前記打具の挙動をシミュレーションするステップと、
前記仮想スイング中の前記打具の挙動に基づいて、前記推奨パターンを決定するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記推奨パターンは、前記仮想スイング中に前記打具と衝突するボールのサイドスピンを抑えるように前記打具が挙動する配置パターンであるか、前記打具と前記ボールとが衝突する直前において、前記打具が前記ボールと衝突する部分の速度が大きくなる配置パターンである、
フィッティングプログラム。
1又は複数のウェイトを複数の配置パターンで配置可能な打具に対し、プレイヤーに適した前記配置パターンである推奨パターンを決定するためのフィッティング方法であって、
前記プレイヤーによるテストスイング中の前記打具の運動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記複数の配置パターンに含まれる少なくとも1つの特定の配置パターンに対する、仮想スイング中の前記打具の挙動をシミュレーションするステップと、
前記仮想スイング中の前記打具の挙動に基づいて、前記推奨パターンを決定するステップと
を含み、
前記推奨パターンは、前記仮想スイング中に前記打具と衝突するボールのサイドスピンを抑えるように前記打具が挙動する配置パターンであるか、前記打具と前記ボールとが衝突する直前において、前記打具が前記ボールと衝突する部分の速度が大きくなる配置パターンである、
フィッティング方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るフィッティング装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0020】
<1.フィッティングシステムの概要>
図1及び
図2に、本発明の一実施形態に係るフィッティング装置1を含むフィッティングシステム100の全体構成図を示す。フィッティングシステム100は、複数のウェイトW1,W2を複数の配置パターンで配置可能なヘッド53を有するゴルフクラブ5に対し、ゴルファー7に適した配置パターン(以下、推奨パターンということがある)を決定するのを支援するためのシステムである。フィッティング装置1は、ゴルファー7によるテストスイング中のゴルフクラブ5の運動を計測した計測データに基づいて、様々なウェイトW1,W2の配置パターンに対する、仮想スイング中のゴルフクラブ5の挙動をシミュレーションする。そして、以上のシミュレーションの結果に基づいて、推奨パターンが決定される。以上の計測は、計測機器2により行われ、計測機器2は、フィッティング装置1とともにフィッティングシステム100を構成する。
【0021】
以下、ゴルフクラブ5、計測機器2及びフィッティング装置1の構成について説明した後、フィッティングシステム100によるフィッティング方法について説明する。
【0022】
<2.各部の詳細>
<2−1.ゴルフクラブの構成>
図3に示すとおり、ゴルフクラブ5は、一般的なゴルフクラブと同様、シャフト52と、シャフト52の一端に設けられたヘッド53と、シャフト52の他端に設けられたグリップ51とから構成される。ただし、ヘッド53には、ウェイトW1,W2を複数の配置パターンで配置可能である(
図4参照)。ゴルフクラブ5は、ヘッド53に対するウェイトW1,W2の着脱により、ヘッド53の重量や重心位置、慣性モーメント等の仕様を調整可能なように構成されている。
【0023】
図4は、ヘッド53の底面を形成するソール53a側から視たヘッド53の斜視図である。ソール53aには、ウェイトポートWP1,WP2が形成されており、ウェイトポートWP1,WP2は、それぞれウェイト、ウェイトW1,W2を受け取るように構成されている。
図4に示すとおり、本実施形態のヘッド53は、ウッド型、より具体的にはドライバー型であるが、ヘッド53は、ユーティリティ型、アイアン型、パター型等とすることができる。
【0024】
図4には、ウェイトW1をウェイトポートWP1に装着するための装着機構M1の分解図が示されている。同図に示すように、装着機構M1は、ウェイトW1及びウェイトポートWP1の他、ソケット60を有する。ウェイトポートWP1は、ヘッド53の外面において凹部を形成しており、ソケット60が当該凹部内に収容される。ソケット60は、本体部60a及び底面部60bを有しており、ウェイトポートW1に接着剤を用いて固定される。本体部60aは、筒状であり、中央に貫通孔64が形成されている。そして、ウェイトW1をこの貫通孔64に差し込み、所定量だけ回転させると、ウェイトW1がウェイトポートWP1内のソケット60に固定される。一方、逆に回転させると、この固定状態が解除され、ウェイトW1をウェイトポートWP1内のソケット60から取り外すことができる。従って、ウェイトW1は、ウェイトポートWP1に対し着脱自在である。なお、ウェイトW2も、同様の装着機構M1により、ウェイトポートW2に対し着脱自在である。
【0025】
本実施形態では、ウェイトW1は、3g、4g、5g、6g、7g、8g、9g、10g及び11gの多種類のウェイトの中から選択することができる。ウェイトW2についても同様である。ウェイトポートWP1,WP2に対するウェイトW1,W2の配置パターンは、ウェイトW1の重量のバリエーションの数×ウェイトW2の重量のバリエーションの数だけ、定義される。
【0026】
図4に示すように、ウェイトポートWP1,WP2は、トゥ−ヒール方向に間隔を空けて配置されている。ウェイトポートWP1は、ヘッド53にウェイトW1,W2がいずれも装着されていない状態(未装着状態ということがある)の重心位置よりも、よりトゥ側に配置されている。一方、ウェイトポートWP2は、未装着状態の重心位置よりもヒール側に配置されている。従って、ウェイトポートWP1に装着されるウェイトW1を重くすることにより、ヘッド53の重心位置をトゥ側に移動させることができる。逆に、ウェイトポートWP2に装着されるウェイトW2を重くすることにより、ヘッド53の重心位置をヒール側に移動させることができる。
【0027】
なお、上述したウェイトの数、重量のバリエーション及び装着機構等、ウェイトに関連する各種構成は一例であり、ヘッド53の重量や重心位置、慣性モーメント等の仕様を調整可能な限り任意に構成することができる。例えば、ウェイトポートの数、ひいてはヘッド53に同時に装着可能なウェイトの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、1つのウェイトポートに装着可能なウェイトの質量のバリエーションの数は、1種類であってもよい。また、ウェイトW1,W2の重量のバリエーションは、互いに異なっていてもよい。また、ウェイトの装着機構は、ネジ式とすることができる。また、ウェイトの装着箇所は、ソール53aに限られず、例えば、ヘッド53の上面を構成するクラウンとすることもできる。また、ソール53a及びクラウンの両方にウェイトを配置可能とすることもでき、この場合、ヘッド53の上下方向の重心位置を調整することができる。同様に、ソール53a及びクラウンの少なくとも一方において、フェース−バック方向に間隔を空けてウェイトを配置可能とする場合には、ヘッド53のフェース−バック方向の重心位置を調整することができる。
【0028】
<2−2.計測機器>
本実施形態に係る計測機器2は、慣性センサユニット4と、距離画像センサ21とから構成される。以下、順に説明する。
【0029】
<2−2−1.慣性センサユニット>
慣性センサユニット4は、
図1に示すとおり、ゴルフクラブ5のグリップ51におけるヘッド53と反対側の端部であるグリップエンド51aに取り付けられており、グリップエンド51aの運動を計測する。慣性センサユニット4は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係る慣性センサユニット4には、加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43が搭載されている。また、慣性センサユニット4には、これらのセンサ41〜43から出力されるセンサデータを、通信線17を介してフィッティング装置1等の外部のデバイスに送信するための通信装置40も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置40は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にフィッティング装置1に接続するようにしてもよい。
【0031】
加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43はそれぞれ、グリップエンド51aを原点とするxyz局所座標系における加速度、角速度及び地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ41は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップエンド51aの加速度a
x,a
y,a
zを計測する。角速度センサ42は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップエンド51aの角速度ω
x,ω
y,ω
zを計測する。地磁気センサ43は、グリップエンド51aにおけるx軸、y軸及びz軸方向の地磁気m
x,m
y,m
zを計測する。これらの加速度、角速度及び地磁気に関するセンサデータ(計測データ)は、所定の短いサンプリング周期の時系列データとして取得される。なお、xyz局所座標系は、
図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト52の延びる方向に一致し、ヘッド53からグリップ51に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ5のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース−バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ−ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。
【0032】
ゴルフスイングは、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、
図5(A)に示すとおり、ヘッド53をボール近くに配置した静止状態を意味し、トップとは、
図5(B)に示すとおり、アドレスからゴルフクラブ5をテイクバックし、最もヘッド53が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、
図5(C)に示すとおり、トップからゴルフクラブ5が振り下ろされ、ヘッド53がボールと衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、
図5(D)に示すとおり、インパクト後、ゴルフクラブ5を前方へ振り抜いた状態を意味する。また、一般に、アドレスの前には、ゴルファー7はワッグル動作を行う。ワッグル動作とは、ゴルファー7がアドレスの位置を決定するために、概ね手75でグリップ51を把持した位置を中心としてヘッド53を回転させるかの如く、ゴルフクラブ5を左右に揺らす動きを言う(
図6参照)。本実施形態の説明では、特に断らない限り、ゴルフスイングにはワッグル動作が含まれるものとする。
【0033】
本実施形態では、加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43からのセンサデータは、通信装置40を介してリアルタイムにフィッティング装置1に送信される。しかしながら、例えば、慣性センサユニット4内の記憶装置にセンサデータを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置からセンサデータを取り出して、フィッティング装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0034】
<2−1−2.距離画像センサ>
距離画像センサ21は、ゴルファー7がゴルフクラブ5を試打する様子を二次元画像として撮影するとともに、被写体までの距離を測定する測距機能を有するカメラである。従って、距離画像センサ21は、時系列の二次元画像とともに、時系列の深度画像を出力することができる。なお、ここでいう二次元画像とは、撮影空間の像をカメラの光軸に直交する平面内へ投影した画像である。また、深度画像とは、カメラの光軸方向の被写体の奥行きのデータを、二次元画像と略同じ撮像範囲内の画素に割り当てた画像である。本実施形態では、距離画像センサ21は、ゴルファー7を正面側から撮影すべく、ゴルファー7の前方に設置される。
【0035】
本実施形態で使用される距離画像センサ21は、二次元画像を赤外線画像(以下、IR画像という)として撮影する。また、深度画像は、赤外線を用いたタイムオブフライト方式やドットパターン投影方式等の方法により得られる。従って、
図2に示すように、距離画像センサ21は、赤外線を前方に向けて発光するIR発光部21aと、IR発光部21aから照射され、被写体に反射して戻ってきた赤外線を受光するIR受光部21bとを有する。IR受光部21bは、光学系及び撮像素子等を有するカメラである。IR発光部21a及びIR受光部21bは、同じ筐体21f内に収容され、筐体21fの前方に配置されている。
【0036】
距離画像センサ21には、距離画像センサ21の動作全体を制御するCPU21cの他、撮影されたIR画像及び深度画像の画像データ(計測データ)を少なくとも一時的に記憶するメモリ21dが内蔵されている。距離画像センサ21の動作を制御する制御プログラムは、メモリ21d内に格納されている。また、距離画像センサ21には、通信部21eも内蔵されており、通信部21eは、有線又は無線の通信線17を介して、撮影された画像データをフィッティング装置1等の外部のデバイスへと出力することができる。本実施形態では、CPU21c及びメモリ21dも、IR発光部21a及びIR受光部21bとともに、筐体21f内に収納されている。なお、フィッティング装置1への画像データの受け渡しは、必ずしも通信部21eを介して行う必要はない。例えば、メモリ21dが着脱式であれば、これを筐体21f内から取り外し、フィッティング装置1のリーダー(後述する通信部15に対応)に挿入する等して、フィッティング装置1で画像データを読み出すことができる。
【0037】
本実施形態では、距離画像センサ21により赤外線撮影が行われ、撮影されたIR画像に基づいて、グリップエンド51aの挙動が解析される。従って、
図1及び
図3には特に示されないが、距離画像センサ21によるグリップエンド51aの運動の計測が容易となるように、グリップエンド51aには、赤外線を効率的に反射する反射シートがマーカーとして貼付される。また、シャフト52にも、同様の赤外線の反射シートがマーカーとして貼付される。
【0038】
<2−2.フィッティング装置>
フィッティング装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォンとして実現される。
図2に示すとおり、フィッティング装置1は、コンピュータで読み取り可能なCD−ROM等の記録媒体30から、或いはインターネット等の通信回線を介して、フィッティングプログラム6を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。フィッティングプログラム6は、計測機器2から送られてくる計測データに基づいて、ゴルフスイングを解析するためのソフトウェアであり、フィッティング装置1に後述する動作を実行させる。フィッティングプログラム6は、推奨パターンを決定する機能を有する。
【0039】
フィッティング装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11〜15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析結果(本実施形態では、推奨パターンを含む)等をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファー7自身やそのインストラクター等、ゴルフスイングの解析結果を必要とする者の総称である。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、フィッティング装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0040】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、フィッティングプログラム6が格納されている他、計測機器2から送られてくる計測データが保存される。また、記憶部13内には、クラブ仕様データベース80が格納されている。クラブ仕様データベース80の詳細については、後述する。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内のフィッティングプログラム6を読み出して実行することにより、仮想的に取得部14a、シミュレーション部14b、配置決定部14c及び表示制御部14dとして動作する。各部14a〜14dの動作の詳細については、後述する。通信部15は、計測機器2等の外部のデバイスとの間でデータを送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0041】
<3.フィッティング方法>
以下、
図7を参照しつつ、ゴルファー7に対する推奨パターンを決定するフィッティング方法について説明する。
【0042】
まず、ステップS1では、ゴルファー7により、上述の慣性センサユニット4付きゴルフクラブ5がテストスイングされる。このテストスイング中のゴルフクラブ5の運動は、計測機器2により計測される。より具体的には、慣性センサユニット4により、グリップエンド51aのxyz局所座標系における3軸方向の加速度a
x,a
y,a
z、角速度ω
x,ω
y,ω
z及び地磁気m
x,m
y,m
zに関するセンサデータ(計測データ)が取得され、通信装置40を介してフィッティング装置1に送信される。一方、フィッティング装置1側では、取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともワッグル動作の期間、及びその後のアドレスからフィニッシュまでの期間の時系列のセンサデータが収集される。
【0043】
また、ステップS1では、慣性センサユニット4による計測と同時に、距離画像センサ21により、ゴルファー7の正面側からゴルフクラブ5がスイングされる様子を捉えた画像データ(計測データ)が取得され、通信部21eを介してフィッティング装置1に送信される。一方、フィッティング装置1側では、取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともワッグル動作の期間、及びその後のアドレスからフィニッシュまでの期間の時系列の画像データが収集される。なお、ここでいう画像データには、IR画像及び深度画像を含む2系統の画像データが含まれる。
【0044】
続くステップS2では、シミュレーション部14bが、記憶部23内に格納されている計測データに基づいて、テストスイング中のゴルフクラブ5の回転中心Cを算出する。多くの場合、ゴルファー7は、
図6に示すように、ゴルフクラブ5の端部付近を把持してゴルフクラブ5をスイングする。そのため、従来、ゴルフスイングを解析するためのシミュレーションモデルでは、ゴルフクラブ5はグリップエンド51aを中心として回転するものと仮定される。しかしながら、実際には、ゴルフクラブ5における回転中心Cは、グリップエンド51aではなく、ゴルフクラブ5においてゴルファー7がまさに把持する把持位置の近傍にくることが多い。従来、このようなゴルフクラブ5の真の回転中心は考慮されてこなかったが、これを把握することは、より正確なシミュレーションに寄与し得る。このグリップ51上の把持位置は、ゴルファー7に特有である。よって、回転中心Cは、同じゴルファー7による異なるゴルフスイング間で、概ね一定であると仮定することができ、ゴルファー7がゴルフスイングを行うときの特徴(以下、ゴルファー特性という)を表す解析パラメータとして使用される。
【0045】
具体的には、シミュレーション部14bは、記憶部23内に格納されている計測データの中から、アドレスの前に行われるワッグル動作時のセンサデータ(以下、ワッグルデータという)を抽出する。続いて、シミュレーション部14bは、ワッグルデータに基づいて、テストスイング中のゴルフクラブ5の回転中心Cを算出する。以下、
図6を参照しつつ、回転中心Cを算出するアルゴリズムについて説明する。
【0046】
ゴルフスイング時、ゴルファー7は手75でグリップ51を把持して、ゴルフクラブ5に回転を含む運動を与える。
図6に示すとおり、ワッグル動作時のゴルフクラブ5の運動は、主として回転中心C周りの回転運動となり、並進成分は殆ど発生しない。そして、ワッグル動作中、ゴルフクラブ5の動きは、回転中心Cにおいて最小化される。従って、本実施形態では、ゴルフクラブ5において動きが最小化される位置、より具体的には、ゴルフクラブ5において加速度の大きさがゼロとなる位置が、回転中心Cの位置として算出される。
【0047】
ここで、xyz局所座標系におけるゴルフクラブ5上の任意の点の座標をhと表す。なお、xyz局所座標系のz軸は、ゴルフクラブ5の長手方向に沿って定義されるため、h=(0,0,h
z)と表すことができる。また、hは、xyz局所座標系の原点であるグリップエンド51aに対する相対位置を表しており、そのz成分のh
zは、グリップエンド51aから回転中心Cまでの距離を表す。このとき、ゴルフクラブ5上の座標hの点の加速度は、以下の式に従って表される。ただし、a
s=(a
x,a
y,a
z)、ω
s=(ω
x,ω
y,ω
z)であり、[G]は、xyz局所座標系から慣性座標系への座標変換行列である。また、チルダは、テンソルを表す。
【数1】
【0048】
そして、数1の加速度の大きさが最小化される、すなわち、ゼロとなるのは、以下の式が成り立つときである。
【数2】
【0049】
シミュレーション部14bは、数2の式に、ワッグルデータに含まれる加速度a
s及び角速度ω
sの値を代入することにより、hを算出する。なお、hは、1つのタイミングにおける加速度a
s及び角速度ω
sのデータセットがあれば算出可能である。しかしながら、本実施形態では、精度を向上させる観点から、ワッグル動作中の複数のタイミングでの加速度a
s及び角速度ω
sのデータセットに対してhを算出し、これらが平均される。或いは、数2の左辺の式をワッグル動作の期間で積分し、これが0となるようなhを算出してもよい。
【0050】
ゴルフスイングは、並進運動及び回転運動が複雑に組み合わされて構成される。本実施形態では、並進運動の影響が小さく、主として回転運動を含む運動時のデータに着目することにより、並進運動及び回転運動を分離し、回転運動の回転中心Cを精度よく導出することができる。
【0051】
続くステップS3では、シミュレーション部14bは、回転中心Cに基づいて、記憶部23内に格納されている計測データを補正する。本実施形態において補正の対象となる計測データは、アドレスからフィニッシュまでの加速度a
x,a
y,a
zのセンサデータである。慣性センサユニット4により計測されるグリップエンド51aにおける加速度a
x,a
y,a
zには、慣性センサユニット4の位置が回転中心Cから距離h
zだけオフセットしているため、回転中心C周りの回転成分が含まれる。この回転成分は、回転中心C周りの回転に伴って慣性センサユニット4の位置に発生する角速度及び角加速度の影響による加速度である。シミュレーション部14bは、回転中心Cに基づいてこの回転成分(数2の左辺の第2項)を算出し、これをa
sから除去することにより、グリップエンド51aにおける補正後の加速度a
s’=(a
x’,a
y’,a
z’)のデータを算出する。
【数3】
【0052】
図8は、本発明者らが実際に行ったシミュレーションにより導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。より具体的には、xyz局所座標系での加速度の時系列データを慣性座標系での値に変換した後、変換後の加速度の時系列データを2回積分することにより、ゴルフスイング中のグリップエンドの位置を表す時系列データを算出した。
図8中の「補正前」のグラフは、ステップS3の補正を行わず、加速度a
s及び角速度ω
sの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフであり、「補正後」のグラフは、ステップS3の補正後の加速度a
s’及び角速度ω
sの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。これらのグラフを比較すると分かるように、補正前のグラフはギザギザしており、同グラフには角速度及び角加速度によるものと思われるノイズが確認されるが、補正後のグラフからはこのようなノイズが除去されていることが分かる。
【0053】
続くステップS4では、シミュレーション部14bは、ステップS3で補正された計測データに基づいて、テストスイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢を算出する。グリップ51の姿勢は、地面に対して固定されている慣性座標系の中でのxyz局所座標系の向きにより表すことができる。従って、本実施形態では、グリップ51の姿勢として、慣性座標系をxyz局所座標系に変換するための姿勢行列[S]が導出される。
【数4】
【0054】
姿勢行列[S]の9つの成分の意味は、以下のとおりである。
成分c1:慣性座標系の第1軸と、xyz局所座標系の第1軸とのなす角度の余弦
成分c2:慣性座標系の第2軸と、xyz局所座標系の第1軸とのなす角度の余弦
成分c3:慣性座標系の第3軸と、xyz局所座標系の第1軸とのなす角度の余弦
成分c4:慣性座標系の第1軸と、xyz局所座標系の第2軸とのなす角度の余弦
成分c5:慣性座標系の第2軸と、xyz局所座標系の第2軸とのなす角度の余弦
成分c6:慣性座標系の第3軸と、xyz局所座標系の第2軸とのなす角度の余弦
成分c7:慣性座標系の第1軸と、xyz局所座標系の第3軸とのなす角度の余弦
成分c8:慣性座標系の第2軸と、xyz局所座標系の第3軸とのなす角度の余弦
成分c9:慣性座標系の第3軸と、xyz局所座標系の第3軸とのなす角度の余弦
ここで、ベクトル(c1,c2,c3)は、xyz局所座標系の第1軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(c4,c5,c6)は、xyz局所座標系の第2軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(c7,c8,c9)は、xyz局所座標系の第3軸方向の単位ベクトルを表している。
【0055】
ステップS4では、姿勢行列[S]は、少なくともアドレスからインパクトまでの期間において時系列に算出される。また、姿勢行列[S]は、時系列の加速度、角速度及び地磁気のデータを含むセンサデータに基づいて算出される。なお、このようなセンサデータに基づいて、グリップの姿勢を表す姿勢行列[S]を導出する方法は、様々知られているため、ここでは詳細な説明を省略するが、必要であれば、同出願人らによる特開2016−2429号公報や特開2016−2430号公報等に記載の方法に従うことができる。また、地磁気のデータを用いずに、センサデータのうち加速度及び角速度のデータのみを用いて姿勢行列[S]を導出することもできるが、このような方法も様々知られているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
以上のとおり、センサデータのみからでも姿勢行列[S]を算出可能であるが、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、ステップS1で取得された画像データも参照して、姿勢行列[S]が算出される。すなわち、ステップS1で取得されたセンサデータ(ステップS3で補正されたセンサデータ)も、画像データも、ゴルフクラブ5の同じ動作を捉えたものである。よって、センサデータ及び画像データの両方を用いて、姿勢行列[S]を含む所定の目的関数を定義し、これを最小化又は最大化するような最適解として、姿勢行列[S]を導出することができる。例えば、特開2017−119102号公報に記載の方法に従うことができる。
【0057】
続くステップS5では、シミュレーション部14bは、ステップS3で補正された計測データに基づいて、テストスイング中の各時刻におけるxyz局所座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の加速度、角速度及び角加速度を導出する。具体的には、グリップ51のxyz局所座標系における加速度は、ステップS3で補正された加速度センサ41の出力値から重力成分をキャンセルすることにより導出される。グリップ51のxyz局所座標系における角速度は、角速度センサ42の出力値に一致する。グリップ51のxyz局所座標系における角加速度は、角速度センサ42の出力値を微分することにより算出される。グリップ51のxyz局所座標系における加速度、角速度及び角加速度の値も、少なくともアドレスからインパクトまでの期間において時系列に算出される。
【0058】
以上のとおり、センサデータのみからでも、グリップ51のxyz局所座標系における加速度、角速度及び角加速度の値を算出可能であるが、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、姿勢行列[S]の場合と同様に、ステップS1で取得された画像データも参照して最適解が導出される。ここでも、例えば、特開2017−119102号公報に記載の方法に従うことができる。
【0059】
続くステップS6では、シミュレーション部14bは、ステップS1で取得された計測データに基づいて、テストスイング中にゴルファー7がグリップ51を把持する把持力の強さを判定する。ゴルフスイング中、グリップ51は、ゴルファー7に把持されるが、固定端のように硬く把持されるのではなく、柔軟な手の動きを伴うように把持される。従って、このような柔軟な把持条件を把握することは、より正確なシミュレーションに寄与し得る。この把持条件を決定する把持力の強さは、ゴルファー7に特有である。よって、把持力の強さは、同じゴルファー7による異なるゴルフスイング間で、概ね一定であると仮定することができ、ゴルファー特性を表す解析パラメータとして使用される。
【0060】
以下、把持力の強さを判定するためのアルゴリズムについて説明する。本発明者らは、以下に説明する実験を行い、使用者が打具を使用するときの打具の挙動を表す時系列データに基づいて、使用者が打具を把持する把持力の強さを判定することが可能であるという知見を得た。
【0061】
本実験では、ゴルファーにゴルフスイングを行わせた。このとき、上述したゴルフクラブ5のような、グリップエンドに慣性センサが取り付けられたゴルフクラブが使用された。
図9Aに、把持力の強いゴルファー(以下、強力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ω
zの時系列データの一例を示す。また、
図9Bに、強力ゴルファーよりも把持力の弱いゴルファー(以下、弱力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ω
zの時系列データの一例を示す。把持力の強弱は、グリップに圧力センサが取り付けられたゴルフクラブをゴルファーに把持させてスイングさせ、このときの圧力の値を測定することにより判断され得るが、目視でも凡その判断が可能である。
図9A及び
図9Bの横軸のゼロは、インパクトのタイミングを表している。
【0062】
本発明者らは、強力ゴルファー及び弱力ゴルファーによるゴルフスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データを多数蓄積してゆく中で、このようなスイングデータには、ゴルファーの把持力の強弱に応じて特有の波形が出現することを発見した。より具体的には、
図9Aに示すように、強力ゴルファーによりスイングされたゴルフクラブの動きを表す波形は比較的滑らかであるのに対し、弱力ゴルファーによる同様の波形には小刻みの山が観測された。すなわち、弱力ゴルファーの波形には、強力ゴルファーの波形よりも高周波成分が多く含まれるという知見を得た。
【0063】
以上の知見をより正確に確認するべく、周波数分析を行った。
図10A及び
図10Bは、それぞれ
図9A及び
図9Bの時系列データをバンドパスフィルタ(5〜20Hzの帯域を抽出するもの)に通した後、周波数解析した周波数スペクトルのグラフである。同図からは、弱力ゴルファーの周波数スペクトルには7〜10Hz付近にピークが出現するが、強力ゴルファーの周波数スペクトルにはそのようなピークは出現しない。
【0064】
以上の実験から、スイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データに含まれる周波数成分の大きさは、ゴルフクラブを把持する把持力の強さに応じて変化することが分かった。従って、スイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データを取得し、これに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定すれば、把持力の強さを判定することができるという知見を得た。これは、ゴルファーの把持力の強さに応じて、打具の振動の特性が変化するからであると考えられる。
【0065】
なお、
図11A及び
図11Bは、同一ゴルファーに意図的に把持力を変化させてゴルフスイングを行わせたときの結果を示しており、
図11Aが意図的に強く把持させた場合を、
図11Bが意図的に弱く把持させた場合を示している。この実験の場合も、把持力が弱い場合の角速度ω
zの周波数スペクトルには、7〜10Hz付近に大きなピークが存在するが、把持力が強い場合の角速度ω
zの周波数スペクトルには、同様の大きなピークは存在しない。よって、以上の知見の確からしさがさらに確認された。
【0066】
また、
図9A及び
図9Bに戻ると、主としてインパクト−2秒からインパクト−0.5秒の期間に高周波成分が確認される。この期間は、アドレスからトップまでのバックスイングの期間に相当する。すなわち、バックスイング中のようにゴルフフクラブを振り上げるときは、トップ以後のゴルフクラブを振り下ろすときに比べて、比較的ゆっくりとゴルフクラブが運動しているため、ゴルファーの把持力が小さいことの影響がより顕著に表れるためと考えられる。また、動きが速いときには、把持力が大きくなり易くなるため、ゆっくりの挙動の方が、ゴルファー間の差分が出やすい。よって、打具の動きが比較的ゆっくりとなる期間のデータに注目すれば、より正確な解析が可能になると考えられる。
【0067】
以上の知見に基づいて、ステップS6では、ゴルファー7の把持力の強さが判定される。具体的には、シミュレーション部14bは、記憶部23内に格納されている計測データ(本実施形態では、ω
zのセンサデータ)に、所定の周波数成分のみを通過させるバンドパスフィルタを適用する。ここでいう所定の周波数成分とは、ゴルファー7の把持力の強さに関する特徴が顕著に出現する所定の周波数帯域における波の成分であり、本実施形態では、把持力が弱い場合の特徴が顕著に現れる5〜20Hzの帯域における波の成分である。なお、参考のため、
図9Bには、5〜20Hzの周波数成分を通過させるバンドパスフィルタの適用後の波形が破線で示されている。
【0068】
続いて、シミュレーション部14bは、バンドパスフィルタの通過後の計測データ(本実施形態では、ω
zのセンサデータ)から、バックスイング時のゴルフクラブ5(より正確には、グリップエンド51a)の動きを表す時系列データを抽出する。上述した実験の結果から分かるように、ゴルファー7の把持力の弱い場合には、バックスイング時の時系列データに高周波成分の波形が顕著に出現する。従って、バックスイング時の時系列データを切り出すことにより、以後の分析において把持力の強さをより正確に判定することができる。なお、バックスイングとは、アドレスからトップまでの動きを言うが、バックスイング時の時系列データとしては、アドレスの少し前又は少し後からトップの少し前又は少し後までの時系列データが抽出されてもよい。なお、バックスイング時のセンサデータを抽出した後、これにバンドパスフィルタに適用することもできる。
【0069】
続いて、シミュレーション部14bは、以上のとおり抽出されたバックスイング時の時系列データを周波数解析する。より具体的には、以上の時系列データを高速フーリエ変換し、周波数スペクトルを導出する。そして、この周波数スペクトルを積分することにより、以上の時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさDを特定する。なお、バンドパスフィルタを経ていることにより、ここでの積分値は、バンドパスフィルタが通過させる所定の周波数帯域における波の成分の大きさを表す値となる。
【0070】
続いて、シミュレーション部14bは、所定の周波数成分の大きさDに応じて、ゴルファー7の把持力の強さを判定する。より具体的には、ここでいう所定の周波数帯域は、把持力の強弱の差が顕著に現れる傾向にある7〜10Hzを含むため、大きさD(積分値)は、把持力の強弱を的確に表すことができる。従って、所定の周波数成分の大きさDを所定の閾値と比較し、Dが所定の閾値以下であれば、把持力が強いと判定し、所定の閾値よりも大きければ、把持力が弱いと判定する。ここで使用される閾値は、多数の実験を通して予め定められ、記憶部23内に格納されているものとする。
【0071】
続くステップS7では、シミュレーション部14bは、テストスイング中の各時刻におけるシャフト52の変形を解析する。本実施形態に係るシャフト52の変形の解析モデルは、有限要素法に従うモデルである。グリップ51及びシャフト52は多段円筒梁要素と仮定され、ヘッド53は剛体と仮定される。
図12に示すように、グリップ51及びシャフト52は、それぞれ長手方向に沿って複数の微小な要素に分割される。本実施形態では、グリップ51と、シャフト52において最もグリップ51近傍の要素とは、物理領域とされ、残りの領域は、弾性変形領域とされる。
【0072】
また、本解析モデルでは、ゴルファー7の柔軟な把持条件を表現するために、
図12に示すように、グリップ51をバネモデルでモデル化して、シャフト52の変形が解析される。バネモデルにおいて、以上の把持条件は、グリップ51に対応する要素のバネ定数で表現される。バネ定数は、ゴルファー7がグリップ51を把持する把持力の強さを表すゴルファー特性である。また、一般的に、把持力の強さは、スイング期間中において一定ではなく、アドレスからトップまでは比較的小さく、トップ以降のダウンスイング中は比較的大きい。そのため、本バネモデルでは、バネ定数は、アドレスからトップまでは一定値であり、トップからインパクトまでは線形的に上昇するものと仮定される。よって、本バネモデルにおいて、バネ定数は、アドレス時(より詳細には、アドレスからトップまで)のx、y及びz方向の成分ka
x,ka
y,ka
zと、インパクト時のx、y及びz方向の成分ki
x,ki
y,ki
zとにより表される。バネ定数ka
x,ka
y,ka
z,ki
x,ki
y,ki
zは、本解析モデルの解析パラメータとなる。
【0073】
本実施形態に係るシャフト52の変形の解析モデルの基本的な考え方は、「クラブヘッドの慣性がシャフト挙動に及ぼす影響」(松本賢太、他5名,スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2015講演論文集,B−34(USB memory),2015年10月)にも示されている。従って、本解析モデルは、上記文献を参照することで、より詳細に理解することができる。
【0074】
ステップS7では、シミュレーション部14bは、ステップS6での把持力の強さに応じて、ゴルファー7によるグリップ51の把持条件を表すバネ定数ka
x,ka
y,ka
z,ki
x,ki
y,ki
zを決定する。本実施形態では、把持力が強い、すなわち、より硬い把持状態と、把持力が弱い、すなわち、より柔軟な把持状態とに対応するバネ定数ka
x,ka
y,ka
z,ki
x,ki
y,ki
zがそれぞれ予め定められており、ステップS6の結果に従って、適切なバネ定数ka
x,ka
y,ka
z,ki
x,ki
y,ki
zが選択される。そして、シミュレーション部14bは、このバネ定数ka
x,ka
y,ka
z,ki
x,ki
y,ki
zを上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。また、シミュレーション部14bは、グリップ51の挙動を表すパラメータとして、ステップS4,S5で導出されたテストスイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢、加速度、角速度及び角加速度を、上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。さらに、シミュレーション部14bは、ステップS1でスイングされたゴルフクラブ5の仕様情報も、上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。これにより、グリップ51及びシャフト52の各要素の変形量が算出される。
【0075】
なお、このとき、解析モデルに入力されるゴルフクラブ5の仕様情報は、クラブ仕様データベース80を参照することにより取得される。クラブ仕様データベース80は、シャフト52、ヘッド53及びグリップ51を含む、ゴルフクラブ5の様々な部品の種類を識別する型番等の情報(以下、部品ID情報という)に関連付けて、当該種類の部品の仕様情報が格納されている。ヘッド53については、重量、重心位置及び慣性モーメントに関する仕様情報が格納されており、その他、ヘッド53の形状のデータ(ヘッド53の設計時のCADデータ)等に関する仕様情報も格納されている。また、上記のとおり、ウェイトW1,W2の配置パターンが変更されると、ヘッド53の重量、重心位置及び慣性モーメント等の仕様も変化する。よって、クラブ仕様データベース80内には、ウェイトW1,W2の配置パターン毎に、各種仕様情報が整理されて格納されている。
【0076】
ユーザは、ステップS1のテストスイングに用いられたゴルフクラブ5(以下、テストクラブということがある)の部品を特定する部品ID情報、並びにテストクラブにおけるウェイトW1,W2の配置パターンを、入力部12を介して入力する。シミュレーション部14bは、ユーザにより入力されたこれらの情報をキーにクラブ仕様データベース80を検索することにより、解析モデルに入力されるゴルフクラブ5の仕様情報を取得する。
【0077】
続くステップS8では、シミュレーション部14bは、ステップS7で算出されたグリップ51及びシャフト52の各要素の変形量に基づいて、テストスイングの結果として生じるテストクラブの所定の挙動(以下、結果値という)を導出する。本実施形態での結果値は、ヘッド53の挙動に関するものであり、より具体的には、インパクト直前のフェース角FA及び軌道角PATHである。
【0078】
ステップS8の実行時においては、これまでのステップにより、テストスイング中の各時刻におけるテストクラブの各要素の変形量等が導出されている。従って、シミュレーション部14bは、この情報に基づいて、テストスイング中の各時刻におけるシャフト52上の最もヘッド53側の要素(以下、最終要素という)の挙動を導出する。そして、この最終要素の挙動、並びにテストクラブのヘッド53の形状のデータから、テストスイング中の各時刻におけるヘッド53の様々な注目点(ヘッド53の重心を含む)の位置を算出する。テストクラブのヘッド53の形状のデータは、例えば、クラブ仕様データベース80から取得される。そして、シミュレーション部14bは、これらの時系列のヘッド53の様々な注目点の位置に基づいて、上述したようなヘッド53の挙動を導出する。
【0079】
続くステップS9では、シミュレーション部14bは、ステップS8で導出されたヘッド53の挙動が適切であるかを判定する。本実施形態では、フェース角FAと軌道角PATHとの差の絶対値が閾値以上であるか否かが判定される。この差の大きさが大きいことは、サイドスピンが大きいことを意味するため、この差の大きさを抑えるようなゴルフクラブ5をゴルファー7にフィッティングすることが重要となる。そのため、|FA−PATH|≧閾値である場合には、ステップS10に進む。一方、|FA−PATH|<閾値の場合には、ステップS13に進み、解析結果を出力する。
【0080】
ステップS10及びその後のステップS11では、シミュレーション部14bは、テストクラブとは異なるウェイトW1,W2の様々な配置パターンに対し、そのような配置パターンでのウェイトW1,W2を有するゴルフクラブ5がスイングされたと仮定した場合のスイング(以下、仮想スイングということがある)をシミュレーションする。本実施形態では、スイングされるゴルフクラブ5の配置パターンが異なろうとも、同じゴルファー7によるスイングは概ね一定であるとの前提の下、仮想スイングのシミュレーションが行われる。すなわち、仮想スイングのシミュレーションは、仮想スイング時のゴルフクラブ5の各種挙動がテストスイング時のそれと一致するとの前提の下、これまでのテストスイング中のゴルフクラブ5の挙動の解析結果に基づいて行われる。
【0081】
具体的には、シミュレーション部14bは、ステップS10において、仮想スイング中のゴルフクラブ5の変形(以下、仮想変形ということがある)を解析する。ここでの解析は、ステップS7と同様に実行される。すなわち、ステップS4,S5で導出されたグリップ51の挙動(姿勢、加速度、角速度及び各加速度)に加え、ステップS6で判定された把持力の強さ(バネ定数)を、ステップS7の解析モデルに代入する。また、シミュレーション部14bは、仮想スイングに用いられるゴルフクラブ5(以下、仮想クラブということがある)の仕様情報も、上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。これにより、仮想スイング中のグリップ51及びシャフト52の各要素の変形量が算出される。すなわち、仮想変形が特定される。
【0082】
本実施形態の仮想クラブは、ステップS1のテストクラブと、ウェイトW1,W2の配置パターン以外は同じである。より具体的には、ヘッド53、シャフト52及びグリップ51等の各部品の型番は、両クラブで共通しているが、ヘッド53におけるウェイトW1,W2の配置パターンは異なる。また、本実施形態では、両クラブ間でウェイトW1,W2の配置パターンは変更されるものの、ヘッド53の重量は同じである。例えば、テストクラブにおいて(W1,W2)=(7g,7g)であれば、(W1,W2)=(3g,11g)、(4g,10g)、(5g,9g)、(6g,8g)、(11g,3g)、(10g,4g)、(9g,5g)及び(8g,6g)の8本の仮想クラブが設定される。
【0083】
ステップS10において解析モデルに入力される仮想クラブの仕様情報も、ステップS7と同様に、クラブ仕様データベース80を参照することにより取得される。シミュレーション部14bは、ユーザにより入力されたテストクラブの配置パターンに基づいて、テストクラブとヘッド53の重量が同じとなる、1又は複数の配置パターンを特定する。そして、特定された配置パターンと、ユーザにより入力されたその他の情報をキーにクラブ仕様データベース80を検索することにより、解析モデルに入力される仮想クラブの仕様情報を取得する。仮想変形は、仮想クラブ毎にシミュレーションされる。
【0084】
続くステップS11では、シミュレーション部14bは、ステップS10による仮想スイングの変形の解析結果に基づいて、仮想スイング毎に、ステップS8と同様の方法により、仮想スイングの結果として生じる結果値を導出する。すなわち、インパクト直前のフェース角FA及び軌道角PATHが導出される。
【0085】
続くステップS12では、配置決定部14cが、ステップS11で導出された仮想スイングによる結果値に基づいて、ゴルファー7に適した配置パターンである推奨パターンを決定する。具体的には、仮想クラブの配置パターンの中で、テストスイング時よりもフェース角FAと軌道角PATHとの差の絶対値が小さくなっている配置パターンを特定し、それを推奨パターンとする。なお、配置パターンが複数ある場合には、例えば、最も小さいものを選択することができる。
【0086】
続くステップS13では、表示制御部14dが、以上の解析結果を表示部11上に表示する。なお、解析結果の出力の態様は、表示に限らず、音声出力等により行うこともできる。ステップS10〜S12を経てステップS13が実行される場合、ここでいう解析結果には、推奨パターンが含まれる。また、テストクラブの配置パターンでの|FA−PATH|の値と、推奨パターンでの|FA−PATH|の値も、参考情報として表示することができる。これにより、ユーザは、ウェイトW1,W2の配置パターンをどのように変更すれば、どのような変化が得られるのかをより良く理解することができる。また、推奨パターンに限らず、シミュレーションを行った全ての配置パターンでの|FA−PATH|の値を、参考情報として表示することもできる。
【0087】
一方、ステップS10〜S12を経ずにステップS13が実行される場合には、解析結果として、テストクラブにおける配置パターンが推奨パターンとなる旨を示す情報等が表示される。また、テストクラブの配置パターンでの|FA−PATH|の値も、参考情報として表示することができる。
【0088】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0089】
<4−1>
上記実施形態では、ゴルフクラブの挙動が解析されたが、上述のアルゴリズムは、テニスラケット、ベースボールバット等、その他のスポーツ用の打具の解析にも適用することもできるし、非スポーツ用途の打具の解析にも適用することができる。
【0090】
<4−2>
上記実施形態では、配置決定部14cにより推奨パターンの決定が行われたが、この工程をユーザが実施してもよい。この場合、例えば、ステップS8及びS11で導出されたテストスイング中及び仮想スイング中のヘッド53の挙動(フェース角FA及び軌道角PATH)を、テストクラブ及び仮想クラブの配置パターンに対応付けて、ステップS13で出力するようにする。そして、これを受けて、ユーザは、各配置パターンに対して|FA−PATH|の値を計算し、当該値がテストクラブよりも小さくなるような仮想クラブの配置パターンを特定し、推奨パターンとすればよい。
【0091】
<4−3>
テストクラブは、ウェイトを装着できないタイプのクラブであってもよい。
【0092】
<4−4>
上記実施形態では、仮想クラブは、テストクラブと同じ重量とされたが、テストクラブとは重量が異なる配置パターンで、仮想クラブを定義してもよい。ただし、両クラブの重量が一致している方が、ゴルファー7によるスイングが安定し、テストスイングと仮想スイングとが一致し易い。従って、テストクラブの重量と同じ又は所定の誤差範囲内に収まるような重量を有するゴルフクラブが、仮想クラブとして選択されることが好ましい。
【0093】
<4−5>
ウェイトの配置箇所はヘッドに限られず、ヘッドに代えて又は加えて、ゴルフクラブにおけるヘッド以外の箇所にウェイトを配置可能としてもよい。例えば、グリップにウェイトを配置可能とすることもできる。この場合、グリップにウェイトを配置した配置パターンでの仮想スイングをシミュレーションすることにより、シミュレーション結果に基づいて、グリップに配置されるべきウェイトの重量を決定することができる。グリップに配置するウェイトが重くなれば、カウンターバランス(手元重心)のゴルフクラブが構成され、逆の場合には、手先重心のゴルフクラブが構成される。ヘッド及びグリップにおけるウェイトの推奨パターンを決定することにより、ゴルフクラブ全体の重量調整及びバランス調整が可能となる。
【0094】
また、少なくともヘッドにウェイトが装着される場合において、ヘッドに対するウェイトの装着機構は特に限定されない。例えば、上記実施形態で述べたような着脱式ではなく、
図13に示すようなスライド式であってもよい。
図13の例では、ヘッド53のソール53aにトゥ−ヒール方向に延びるスライド溝71(ウェイトポートWP3)が形成されており、このスライド溝71内に同じくトゥ−ヒール方向に延びるスライドレール72が配置されている。そして、ウェイトW3が、スライドレール72に沿ってスライド溝71内をトゥ−ヒール方向に移動できるように構成されている。ウェイトW3は、例えば、ネジ73及び図示されないナット部材等を介して、スライドレール72に沿って連続的又は段階的に様々な位置で固定することができる。このようなスライド式のウェイトの装着機構は、ソール53a以外の部位、例えば、クラウンに形成することもできる。また、トゥ−ヒール方向に限らず任意の方向に、例えば、上下方向又はフェース−バック方向に延びるスライド溝71及びスライドレール72を形成することもできる。
【0095】
以上のような連続的な配置パターンを有するゴルフクラブ5が用いられる場合には、クラブ仕様データベース80内に予め配置パターン毎の仕様情報を格納しておくのではなく、テストクラブ及び仮想クラブに対して、選択されている配置パターンに基づいて、都度、重心位置や慣性モーメント等の仕様情報を計算するようにしてもよい。なお、勿論、上記実施形態のような不連続な配置パターンを有するゴルフクラブ5についても、同様のことが言える。
【0096】
また、例えば、ヘッドは、上述した慣性センサのような計測機器又はウェイトのいずれかを選択的に装着できるタイプのものとすることができる。この場合、テストスイング中にはヘッドに計測機器を取り付けておき、計測機器により計測データを取得する。そして、仮想スイングのシミュレーションにより推奨パターンが決定された後、当該計測機器を推奨パターンに従ってウェイトに付け替えることにより、ゴルファーに適したゴルフクラブを構成することができる。
【0097】
<4−6>
上記実施形態では、ステップS8,S11において、フィッティングを行う基準となる指標として、フェース角FA及び軌道角PATHが算出された。しかしながら、この指標は一例であり、フィッティングは、その他の様々な指標に基づいて行うことができる。例えば、シャフトの変形の解析結果に基づいて、結果値としてインパクト直前のヘッド速度HSを算出するようにしてもよい。この場合、例えば、ヘッド速度HSが大きくなる配置パターンを決定し、推奨パターンとすることができる。
【0098】
<4−7>
計測機器2の構成は、上述したものに限られない。例えば、距離画像センサを省略することもできるし、慣性センサユニット省略することもできる。また、複数の方向に複数台の距離画像センサを配置することもできる。また、計測機器2として、様々な位置に配置された多数のカメラを備える高精細三次元撮影システムを用いることもできる。
【0099】
<4−8>
上記実施形態では、回転中心Cを算出するための計測データは、ワッグルデータとされたが、これに限られない。例えば、ゴルファー7にゴルフクラブ5を把持させ、並進運動を与えず、回転運動のみを与えることを意識させながらゴルフクラブをスイングさせ、このとき取得される計測データを回転中心Cの算出に用いることもできる。
【0100】
<4−9>
上記実施形態では、ゴルファー7の把持状態を解析するための計測データは、慣性センサユニットから出力される角速度ω
zの時系列データとされたが、角速度ω
x,ω
yや加速度a
x,a
y,a
z、地磁気m
x,m
y,m
z等の時系列データを用いることもできる。また、慣性センサユニットによる計測データに限らず、例えば、カメラにより撮影される時系列画像から角速度ω
z等の時系列データを取得し、これに基づいて把持状態を解析してもよい。
【0101】
<4−10>
上記実施形態では、所定の周波数成分の大きさDが、周波数スペクトルを所定の周波数帯域において積分することにより特定された。しかしながら、所定の周波数成分の大きさDを、所定の周波数帯におけるスペクトルパワーの最大値としてもよいし、特定の周波数のスペクトルパワーの値としてもよい。また、これに代えて又は加えて、上記実施形態では、計測データをバンドパスフィルタに通すことにより、所定の周波数成分の大きさDが特定された。しかしながら、バンドパスフィルタに通すことなく計測データを周波数解析した後、その結果から所定の周波数成分の大きさDを特定してもよい。また、上記実施形態では、所定の周波数成分の大きさDが、周波数解析を行うことにより特定された。しかしながら、注目している所定の周波数成分又は所定の周波数成分以外の成分を通過させるバンドパスフィルタに計測データを通した後、これを元の計測データの波と比較し、元の波とバンドパスフィルタ通過後の波の変化の度合いを、所定の周波数成分の大きさDとすることもできる。
【0102】
<4−11>
上記実施形態のステップS3では、加速度a
x,a
y,a
zのデータが補正されたが、勿論、これに代えて又は加えて、角速度ω
x,ω
y,ω
zのデータを補正することもできる。
【0103】
<4−12>
上記実施形態では、把持力の強さが、強い又は弱いの2段階で現わされたが、3段階以上で判定することもできるし、数値で判定することもできる。