特許第6984327号(P6984327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984327
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】ボールネジ装置及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20211206BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20211206BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
   F16H25/24 B
   B62D5/04
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-213901(P2017-213901)
(22)【出願日】2017年11月6日
(65)【公開番号】特開2019-86067(P2019-86067A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】中山 琢也
(72)【発明者】
【氏名】小川 敬祐
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0266702(US,A1)
【文献】 特開2010−184662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に外周転動溝が螺旋状に形成されたボールネジ軸と、前記ボールネジ軸に対して径方向外側に同軸上に配置され、前記ボールネジ軸に対して相対回転できるように筒状に形成され、内周面に内周転動溝が螺旋状に形成されたボールネジナットと、前記外周転動溝と前記内周転動溝とで囲まれた転動路を転動可能なボールと、前記転動路の一端と他端とを連通して前記ボールを無限循環させる循環路と、を備えるボールネジ装置であって、
前記ボールネジナットは、
前記内周転動溝の少なくとも一部と前記循環路の少なくとも一部とがそれぞれ形成され、径方向に貫通するデフレクタ取付孔が設けられたナット本体部と、
前記デフレクタ取付孔に径方向外側から挿入されて固定され、前記ナット本体部の前記内周転動溝と前記循環路とを連通して前記ボールを通過させる通過路が形成されたデフレクタと、
を有し、
前記通過路は、全長に亘って、前記デフレクタの側面に開口する開放溝により形成され、
前記デフレクタは、
前記デフレクタを前記デフレクタ取付孔へ挿入する方向において、前記開放溝に対して径方向内側に位置する内径側部位と、前記開放溝に対して径方向外側に位置する外径側部位と、を有し、
前記デフレクタを前記デフレクタ取付孔への挿入方向に向けて投影した際に前記内径側部位の占める領域の前記開放溝側の外縁位置が前記外径側部位の占める領域の前記開放溝側の外縁位置に対して内側に収まるように形成されている、ボールネジ装置。
【請求項2】
前記内径側部位の、前記ボールネジナットの軸方向における幅は、前記外径側部位の、前記ボールネジナットの軸方向における幅に比して小さい、請求項1に記載のボールネジ装置。
【請求項3】
前記デフレクタ取付孔は、前記外径側部位の軸方向の幅に相当しかつ前記内径側部位の軸方向の幅に比して大きい孔幅を有している、請求項2に記載のボールネジ装置。
【請求項4】
前記外径側部位は、前記デフレクタ取付孔に圧入される圧入部を有し
前記圧入部は、前記デフレクタ取付孔に締まり嵌めされている、請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールネジ装置。
【請求項5】
前記圧入部は、前記開放溝が形成された側面に設けられている、請求項4に記載のボールネジ装置。
【請求項6】
前記圧入部は、前記デフレクタの周方向両端部に設けられていると共に、前記開放溝が形成された側面に一箇所以上設けられている、請求項4又は5に記載のボールネジ装置。
【請求項7】
前記圧入部は、前記外径側部位における他部位に対して軸方向に突出する突出部に設けられている、請求項4乃至6の何れか一項に記載のボールネジ装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載のボールネジ装置を備えるステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールネジ装置及びステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デフレクタ方式のボールネジ装置が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。ボールネジ装置は、車両の転舵輪を転舵させるステアリング装置などに用いられる装置である。特許文献1及び2記載のボールネジ装置は、ボールネジ軸と、ボールネジナットと、を備えている。ボールネジ軸は、車幅方向に延在する、車幅方向への移動により転舵輪の向きを変えるラックシャフトである。ボールネジ軸の外周面には、外周転動溝が螺旋状に形成されている。ボールネジナットは、ボールネジ軸に対して径方向外側に同軸上に配置されており、ボールネジ軸に対して相対回転できるように筒状に形成されている。ボールネジナットの内周面には、内周転動溝が螺旋状に形成されている。ボールネジ軸とボールネジナットとの間には、ボールネジ軸の外周転動溝とボールネジナットの内周転動溝とで囲まれる、ボールが転動し得る転動路が形成されている。
【0003】
ボールネジナットは、ナット本体部と、デフレクタと、を有している。ナット本体部には、内周転動溝の少なくとも一部が形成されている。また、ナット本体部には、径方向に貫通するデフレクタ取付孔が二箇所、互いに軸方向に離間して設けられている。ナット本体部の二箇所のデフレクタ取付孔の間には、軸方向に延びてボールが転動し得る循環路が形成されている。デフレクタは、二箇所のデフレクタ取付孔に対応して二個設けられている。二個のデフレクタはそれぞれ、対応のデフレクタ取付孔に径方向外側から挿入されて固定される。各デフレクタには、ナット本体部の転動路と循環路とを連通する通過路が形成されている。デフレクタの通過路は、デフレクタ取付孔へのデフレクタの固定状態において転動路と循環路との間でボールを通過させる通路である。
【0004】
デフレクタの外壁には、通過路を開口させる開放溝が形成されている。開放溝は、少なくともボールネジナットの軸方向に向いた側面に形成されている。特許文献1記載のボールネジ装置の如くデフレクタの側面に開放溝が形成されている構造では、その開放溝を形成するための、デフレクタの開放溝よりもボールネジナットの径方向内側に位置する内径側部位と、デフレクタの開放溝よりもボールネジナットの径方向外側に位置する外径側部位と、が存在することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−45394号公報
【特許文献2】特開2010−71411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の如くボールネジナットのデフレクタをナット本体部に組み付けるうえでは、デフレクタを、ナット本体部に形成されたデフレクタ取付孔に径方向外側から挿入することが必要である。デフレクタが、ナット本体部のデフレクタ取付孔に挿入される際、ナット本体部におけるデフレクタ取付孔の入口エッジ或いはデフレクタ取付孔と循環路との境界エッジに接触すると、そのデフレクタがそのナット本体部のエッジにより削れることで、バリが発生する。このバリの発生は、特に、デフレクタがデフレクタ取付孔に圧入固定される構造で顕著である。そして、このバリがデフレクタの開放溝を通じて通過路や循環路などに入り込むと、ボールネジ装置でのボールの転動が阻害されて、トルク変動や耐久性低下が招来してしまう。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、デフレクタ取付孔へのデフレクタの挿入に伴って発生するバリが開放溝を通じて通過路内に入り込むのを防止することが可能なボールネジ装置及びステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るボールネジ装置は、外周面に外周転動溝が螺旋状に形成されたボールネジ軸と、前記ボールネジ軸に対して径方向外側に同軸上に配置され、前記ボールネジ軸に対して相対回転できるように筒状に形成され、内周面に内周転動溝が螺旋状に形成されたボールネジナットと、前記外周転動溝と前記内周転動溝とで囲まれた転動路を転動可能なボールと、前記転動路の一端と他端とを連通して前記ボールを無限循環させる循環路と、を備えるボールネジ装置であって、前記ボールネジナットは、前記内周転動溝の少なくとも一部と前記循環路の少なくとも一部とがそれぞれ形成され、径方向に貫通するデフレクタ取付孔が設けられたナット本体部と、前記デフレクタ取付孔に径方向外側から挿入されて固定され、前記ナット本体部の前記内周転動溝と前記循環路とを連通して前記ボールを通過させる通過路が形成されたデフレクタと、を有し、前記通過路は、全長に亘って、前記デフレクタの側面に開口する開放溝により形成され、前記デフレクタは、前記デフレクタを前記デフレクタ取付孔へ挿入する方向において、前記開放溝に対して径方向内側に位置する内径側部位と、前記開放溝に対して径方向外側に位置する外径側部位と、を有し、前記デフレクタを前記デフレクタ取付孔への挿入方向に向けて投影した際に前記内径側部位の占める領域の前記開放溝側の外縁位置が前記外径側部位の占める領域の前記開放溝側の外縁位置に対して内側に収まるように形成されている。
【0009】
この構成によれば、デフレクタ取付孔にデフレクタが挿入される過程において、デフレクタの内径側部位がナット本体部の入口肩部に対して対向するタイミングでは、その内径側部位と入口肩部との間に隙間が形成されるので、その内径側部位が入口肩部に当接して削れることは回避され、バリの発生は回避される。また、デフレクタの外径側部位がナット本体部の入口肩部に対して対向するタイミングでは、その外径側部位が入口肩部のエッジで削れることがあるが、この際に発生したバリは、デフレクタの開放溝内に進入することはなく、デフレクタの径方向外側の空間に排出される。従って、ボールネジナットのデフレクタ取付孔へのデフレクタの挿入に伴って発生するバリが開放溝を通じて通過路内に入り込むのを防止することができる。
【0010】
また、本発明に係るステアリング装置は、上記のボールネジ装置を備える。この構成によれば、ボールネジ装置のデフレクタの通過路へのバリの進入を防止したステアリング装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の全体構成図である。
図2】実施形態のステアリング装置が備えるボールネジ装置を含む部分の断面図である。
図3】実施形態のボールネジ装置が備えるボールネジナットを径方向外側から見た際の図である。
図4】実施形態のボールネジナットが有するデフレクタ取付孔を径方向外側から見た際の図である。
図5】実施形態のボールネジナットが有するデフレクタの斜視図である。
図6】実施形態のデフレクタの側面図である。
図7】実施形態のボールネジナットを図3に示す直線VII−VIIで切断した際の断面図である。
図8】実施形態のデフレクタを図6に示す直線VIII−VIIIで切断した際の断面図である。
図9】実施形態のデフレクタを図6に示す直線IX−IXで切断した際の断面図である。
図10】実施形態のデフレクタをナット本体部のデフレクタ取付孔に挿入する初期の状態を表した図である。
図11】実施形態のデフレクタをナット本体部のデフレクタ取付孔に挿入完了した状態を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るボールネジ装置を備えるステアリング装置の構成について、図1図11を参照して説明する。
ステアリング装置は、転舵シャフトであるラックシャフトをそのラックシャフトの延びる軸方向に沿って移動させることにより、そのラックシャフトの両端それぞれに連結されている転舵輪を転舵させる装置である。ステアリング装置1は、運転者の操舵トルクを補助トルクによって補助することが可能である。尚、ボールネジ装置は、四輪操舵装置や後輪操舵装置,ステアバイワイヤ装置などに適用可能である。
【0013】
(1.ステアリング装置の構成)
本実施形態のステアリング装置1は、図1に示す如く、ステアリングシャフト10を備えている。ステアリングシャフト10の一端部には、車両運転者による回転操作可能なステアリングホイール11が連結されている。ステアリングシャフト10は、車体に支持されたラックハウジング20に回転可能に保持されており、ステアリングホイール11の回転に伴って回転する。ステアリングシャフト10の他端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン12が形成されている。
【0014】
ステアリング装置1は、車幅方向すなわち軸方向Aに延在する転舵シャフトであるラックシャフト13を備えている。ラックシャフト13の何れか一端に偏った箇所には、上記ピニオン12と共にラックアンドピニオン機構を構成するラック14が形成されている。ステアリングシャフト10のピニオン12とラックシャフト13のラック14とは、互いに噛合している。ステアリングシャフト10は、車両運転者による回転操作(すなわち、ステアリング操作)によってステアリングホイール11に加わったトルクをラックシャフト13に伝達する。ステアリングシャフト10の回転は、上記のラックアンドピニオン機構によりラックシャフト13の軸方向Aへの直線移動に変換される。ラックシャフト13は、ステアリングシャフト10の回転に伴って軸方向Aに移動する。
【0015】
ラックシャフト13の軸方向両端部には、ボールジョイント15を介してタイロッド16が揺動可能に連結されている。タイロッド16には、ナックルアーム17を介して転舵輪18が連結されている。転舵輪18は、ラックシャフト13の軸方向Aへの移動により転舵される。この転舵輪18の転舵により車両は左右に操舵される。
【0016】
ステアリング装置1は、電動モータを駆動源として、車両運転者がステアリングホイール11を回転操作するときの操舵トルクを補助する補助トルクを発生することが可能である。ステアリング装置1は、電動モータ30と、駆動力伝達装置40と、ボールネジ装置50と、を備えている。ステアリング装置1は、電動モータ30の発生した補助トルクを、駆動力伝達装置40を介してギヤ装置としてのボールネジ装置50に伝達すると共に、そのボールネジ装置50によってラックシャフト13を軸方向Aに直線移動させる力に変換する。この変換により、ラックシャフト13に転舵輪18の転舵を補助する補助トルクが付与される。ステアリング装置1は、いわゆるラックパラレル型の電動パワーステアリング装置である。
【0017】
ラックハウジング20は、略筒状に形成された軸方向Aに延在するハウジングであって、ラックシャフト13を軸方向Aに移動可能に覆って保持している。ラックハウジング20は、ラックシャフト13が挿通される挿通孔20aを有している。ラックシャフト13は、軸方向Aへ移動可能にラックハウジング20に挿通されて保持されている。ラックハウジング20は、アルミニウムなどにより形成されている。ラックハウジング20は、ラックシャフト13の外径に比して僅かに大きな内径を有する小径部21と、小径部21の内径に比して大きな内径を有する大径部22と、を有している。
【0018】
小径部21には、ステアリングシャフト10が挿通されるステアリングシャフト挿通部23が一体的に形成されている。大径部22には、駆動力伝達装置40が収容されると共に、ボールネジ装置50が収容される。大径部22には、主に後述のボールネジナット及び転動ボールを内包するボールネジ室24が形成されている。大径部22は、ラックハウジング20の略軸方向中央部に配置されている。尚、ラックハウジング20は、大径部22にボールネジ装置50のボールネジナットと駆動力伝達装置40とを容易に収容できるように軸方向Aに分離可能であってよい。
【0019】
電動モータ30は、ラックハウジング20の大径部22近傍に固定されるケース31に収容されている。電動モータ30は、その出力軸がラックシャフト13の軸方向Aに対して平行となるように配置されている。電動モータ30は、電子制御装置(ECU)32に電気的に接続されている。ECU32は、ステアリングシャフト10の操舵トルクに相当する捩れ量に基づいて電動モータ30に発生させるべき補助トルクを演算し、その補助トルクを発生させるための指令を電動モータ30に対して行う。電動モータ30は、ECU32からの指令に従って補助トルクを発生する。電動モータ30の発生した補助トルクは、駆動力伝達装置40に伝達される。
【0020】
駆動力伝達装置40は、図2に示す如く、駆動プーリ41と、従動プーリ42と、歯付ベルト43と、を有している。駆動プーリ41は、電動モータ30の出力軸に取り付け固定されている。駆動プーリ41は、外歯を有するように形成されている。従動プーリ42は、ボールネジ装置50の後述のボールネジナットに取り付け固定されている。従動プーリ42は、外歯を有するように形成されている。歯付ベルト43は、帯状かつ環状に形成されている。歯付ベルト43は、駆動プーリ41の外歯及び従動プーリ42の外歯に噛合可能な内歯を有している。駆動力伝達装置40は、電動モータ30が発生した補助トルクを、駆動プーリ41から歯付ベルト43を介して従動プーリ42へ伝達する。
【0021】
電動モータ30から駆動力伝達装置40に補助トルクが伝達されると、ボールネジ装置50のボールネジナットがラックハウジング20の大径部22に対して後述のボールベアリングを介して支持されながら回転駆動されることで、複数の転動ボールを介してラックシャフト13が軸方向Aに移動される。
【0022】
上記のステアリング装置1において、ステアリングホイール11が回転操作されると、その操舵トルクがステアリングシャフト10に伝達され、ピニオン12とラック14とからなるラックアンドピニオン機構を介してラックシャフト13が軸方向Aに移動される。また、ステアリングシャフト10に入力された入力トルクは、トルクセンサなどを用いて検出される。電動モータ30の出力は、ステアリングシャフト10の入力トルク及び電動モータ30の回転位置などに基づいて制御される。電動モータ30は、ECU32からの指令に従って補助トルクを発生する。電動モータ30が補助トルクを発生すると、その補助トルクが駆動力伝達装置40を介してボールネジ装置50に伝達されて、ラックシャフト13を軸方向Aに移動させる駆動力に変換される。
【0023】
ラックシャフト13が軸方向Aに移動されると、ボールジョイント15、タイロッド16、及びナックルアーム17を介して転舵輪18の向きが変更される。従って、ステアリング装置1によれば、運転者によるステアリングシャフト10への操舵トルクと共に、その操舵トルクに応じた電動モータ30による補助トルクをラックシャフト13に付与して、そのラックシャフト13を軸方向Aに移動させることができるので、運転者がステアリングホイール11を操作する際に必要な操舵力を軽減することができる。
【0024】
(2.ボールネジ装置の構成)
ボールネジ装置50は、ボールネジ軸60と、ボールネジナット70と、転動ボール51と、を備えている。ボールネジ軸60は、ラックシャフト13のうちボールネジ部が設けられた部位のことである。ボールネジ軸60の外周面には、外周転動溝61が螺旋状に形成されている。外周転動溝61は、断面形状が略半円状となる溝である。外周転動溝61は、ボールネジ軸60の外周面にボールネジ軸60の軸中心を中心にして複数回巻かれて螺旋状に延びている。外周転動溝61は、ボールネジ軸60のラック14とは異なる位置に設けられている。
【0025】
ボールネジナット70は、円筒状に形成された軸方向Aに延在する円筒部材であって、ラックシャフト13と同軸に配置されている。ボールネジナット70の軸方向Aの一端側(図2における左側)は、ラックハウジング20の大径部22の内周面にボールベアリング52を介して回転可能に支持されている。また、ボールネジナット70の軸方向Aの他端側(図2における右側)には、従動プーリ42が取り付け固定されている。
【0026】
ボールネジナット70の内周面には、内周転動溝71が螺旋状に形成されている。内周転動溝71は、断面形状が略半円状となる溝である。内周転動溝71は、ボールネジナット70の内周面にボールネジナット70の軸中心を中心にして複数回巻かれて螺旋状に延びている。ボールネジ軸60の外周転動溝61とボールネジナット70の内周転動溝71とは、径方向に対向して配置されている。外周転動溝61と内周転動溝71との間には、外周転動溝61と内周転動溝71とで囲まれる転動路53が形成されている。転動路53は、転動ボール51が転動可能となるように形成されている。転動路53には、複数の転動ボール51が配列されている。ボールネジ軸60の外周転動溝61とボールネジナット70の内周転動溝71とは、複数の転動ボール51を介して螺合している。
【0027】
ボールネジナット70は、図3に示す如く、ナット本体部80と、デフレクタ90と、を有している。ナット本体部80は、円筒状のボールネジナット70の本体をなす部位である。ボールネジナット70の内周転動溝71の少なくとも一部(大部分)は、ナット本体部80の内周面に形成されている。
【0028】
ナット本体部80は、図3及び図4に示す如く、デフレクタ取付孔81を有している。デフレクタ取付孔81は、ナット本体部80の外周面と内周転動溝71が形成された内周面との間で径方向に貫通する貫通孔である。デフレクタ取付孔81は、ナット本体部80にデフレクタ90を取り付け固定(具体的には、圧入)するための取付孔である。デフレクタ90は、ナット本体部80の径方向外側からデフレクタ取付孔81に挿入されてナット本体部80に圧入される。以下、デフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入方向を挿入方向Dとする(図7参照)。
【0029】
デフレクタ取付孔81は、ナット本体部80に二箇所設けられている。以下適宜、二箇所のデフレクタ取付孔81をデフレクタ取付孔81−1,81−2とする。一対のデフレクタ取付孔81−1,81−2は、互いに軸方向Aにおいて所定間隔を隔てて配置されている。一対のデフレクタ取付孔81−1,81−2の軸方向Aの所定間隔は、ナット本体部80に螺旋状に形成された内周転動溝71の所定複数列を跨ぐのに必要な距離である。
【0030】
デフレクタ取付孔81−1,81−2はそれぞれ、ナット本体部80の周方向Cに延びるように形成されている。デフレクタ取付孔81−1,81−2はそれぞれ、圧入孔部82と、ガイド孔部83と、支持面84と、を有している。圧入孔部82は、ボールネジナット70の径方向の外周面側に形成されている。ガイド孔部83は、ボールネジナット70の径方向の内周面側に形成されており、圧入孔部82に対して径方向内側に隣接して形成されている。支持面84は、圧入孔部82とガイド孔部83との段差部に形成される面である。
【0031】
圧入孔部82は、デフレクタ90の後述の外周部を収容しつつ圧入固定するための部位である。圧入孔部82は、デフレクタ90の外周部の形状に倣って、デフレクタ90の挿入方向Dに直交する断面の形状が、角部が曲面となる略長方形状となるように形成されている。圧入孔部82は、軸方向Aに向いて互いに平行に対向する一対の軸方向側面82a1,82a2と、周方向Cに向いて互いに平行に対向する一対の周方向側面82c1,82c2と、を有している。軸方向側面82a1,82a2は、周方向C及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されている。周方向側面82c1,82c2は、軸方向A及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されている。軸方向側面82a1,82a2と周方向側面82c1,82c2とは、互いに直交しており、曲面が形成されるように角部端部で交差するように接続されている。
【0032】
一方の軸方向側面82a1は、軸方向Aに凹んだ凹部82bを有している。凹部82bは、軸方向側面82a1の周方向C両端部それぞれに設けられている。尚、凹部82bは、他方の軸方向側面82a2にも設けられていてもよい。但し、デフレクタ90の誤組み付け防止等のため、凹部82bは軸方向側面82a1と軸方向側面82a2とで非対称になるように形成されていることが望ましい。
【0033】
凹部82bは、径方向すなわちデフレクタ90の挿入方向Dに延在しかつ内面が周方向Cで曲面となるように溝形状(例えば、半円柱状)に形成されている。凹部82bは、ナット本体部80の外周面に開口し、その外周面から挿入方向Dに所定深さまで延在している。凹部82bは、デフレクタ90の後述の突出部に係合可能かつその突出部を挿入方向Dに向けて案内可能に形成されている。尚、凹部82bを形成する軸方向側面82a1は、周方向側面82c1,82c2に一体化されるようにそれらの周方向側面82c1,82c2と連続した面であってよい。
【0034】
ガイド孔部83は、デフレクタ90の後述の内周部を収容するための部位である。ガイド孔部83は、デフレクタ90の内周部の形状に倣って、デフレクタ90の挿入方向Dに直交する断面の形状が、角部が曲面となる略長方形状となるように形成されている。ガイド孔部83は、軸方向Aの孔幅が圧入孔部82の軸方向Aの孔幅に略一致しかつ周方向Cの孔幅が圧入孔部82の周方向Cの孔幅に比して小さくなるように形成されている。
【0035】
ガイド孔部83は、軸方向Aに向いて互いに平行に対向する一対の軸方向側面83a1,83a2と、周方向Cに向いて互いに平行に対向する一対の周方向側面83c1,83c2と、を有している。軸方向側面83a1,83a2は、周方向C及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されており、圧入孔部82の軸方向側面82a1,82a2に対して段差無く同一面をなしている。周方向側面83c1,83c2は、軸方向A及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されている。軸方向側面83a1,83a2と周方向側面83c1,83c2とは、互いに直交しており、曲面が形成されるように角部端部で交差して接続されている。
【0036】
支持面84は、デフレクタ取付孔81に挿入されたデフレクタ90の挿入方向Dにおける位置決めを行うための面である。支持面84は、圧入孔部82の周方向側面82c1とガイド孔部83の周方向側面83c1との境界に位置する段差部に形成される、法線が径方向外側に向いた面である。支持面84は、デフレクタ取付孔81の周方向C両側それぞれに設けられている。尚、支持面84は、凹部82bの底面を含んでいてもよい。
【0037】
ナット本体部80は、また、循環路85を有している。循環路85は、一対のデフレクタ取付孔81−1,81−2の間に設けられた通路である。循環路85は、ボールネジナット70の軸方向Aに略一致する方向に沿って延在している。循環路85は、ナット本体部80をデフレクタ取付孔81−1とデフレクタ取付孔81−2との間で貫通するようにトンネル状に形成されている。すなわち、循環路85の一端は、デフレクタ取付孔81−1の軸方向側面82a1,83a1に開口し、かつ、循環路85の他端は、デフレクタ取付孔81−2の軸方向側面82a1,83a1に開口している。循環路85は、転動ボール51の直径と同じ路幅或いはその直径に比して僅かに大きな路幅(内径)を有するように形成されている。
【0038】
デフレクタ90は、ナット本体部80のデフレクタ取付孔81に挿入されて固定される駒部材である。以下、デフレクタ90の説明中に記載される方向は、ボールネジナット70のナット本体部80の軸方向A、径方向、及び周方向Cとそれぞれ同じ方向とする。デフレクタ90は、図5に示す如く、製造が容易であるいわゆる開放溝型のデフレクタである。デフレクタ90は、ナット本体部80の材料に比して軟らかい金属材料(例えば亜鉛などの金属)により構成されている。デフレクタ90は、例えばダイカスト方式により金型に溶融金属を流し込むことにより成形される。デフレクタ90は、二箇所のデフレクタ取付孔81に対応して二個設けられている(図3参照)。以下適宜、二個のデフレクタ90のうち、デフレクタ取付孔81−1に挿入されるデフレクタ90をデフレクタ90−1とし、デフレクタ取付孔81−2に挿入されるデフレクタ90をデフレクタ90−2とする。
【0039】
デフレクタ90は、デフレクタ取付孔81の圧入孔部82に対応する外周部91と、デフレクタ取付孔81のガイド孔部83に対応する内周部92と、を有している。外周部91は、圧入孔部82の形状に倣って、デフレクタ90の挿入方向Dに直交する断面の形状が、角部が曲面となる略長方形状となるように形成されている。また、内周部92は、ガイド孔部83の形状に倣って、デフレクタ90の挿入方向Dに直交する断面の形状が、角部が曲面となる略長方形状となるように形成されている。
【0040】
外周部91は、軸方向Aに向いて互いに平行に対向する一対の軸方向側面91a1,91a2と、周方向Cに向いて互いに平行に対向する一対の周方向側面91c1,91c2と、を有している。軸方向側面91a1,91a2は、周方向C及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されている。周方向側面91c1,91c2は、軸方向A及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されている。軸方向側面91a1,91a2と周方向側面91c1,91c2とは、互いに直交しており、曲面が形成されるように角部端部で交差するように接続されている。
【0041】
デフレクタ90がデフレクタ取付孔81に収容された状態において、外周部91の軸方向側面91a1,91a2は、圧入孔部82の軸方向側面82a1,82a2に対向していると共に、周方向側面91c1,91c2は、圧入孔部82の周方向側面82c1,82c2に対向している。
【0042】
一方の軸方向側面91a1は、圧入孔部82の凹部82bの形状と対をなす形状に形成された、軸方向Aに突出する突出部91bを有している。突出部91bは、軸方向側面91a1の周方向C両端部それぞれに設けられている。尚、突出部91bは、圧入孔部82の他方の軸方向側面82a2にも凹部82bが設けられている構造では、他方の軸方向側面91a2にも設けられる。突出部91bは、径方向すなわちデフレクタ90の挿入方向Dに延在しかつ外面が周方向Cで曲面となるように突形状(例えば、半円柱状)に形成されている。突出部91bは、挿入方向Dにおいてデフレクタ90の外周面からナット本体部80の支持面84に当接する深さまで延在している。突出部91bの外面(すなわち、軸方向端面)は、デフレクタ取付孔81の圧入孔部82の凹部82bの内面(すなわち、軸方向端面)に係合可能かつ案内可能に形成されている。
【0043】
内周部92は、軸方向Aの幅Wiが外周部91の軸方向Aの幅Woに比して小さくかつ周方向Cの幅が外周部91の周方向Cの幅に比して小さくなるように形成されている。内周部92は、軸方向Aに向いて互いに平行に対向する一対の軸方向側面92a1,92a2と、周方向Cに向いて互いに平行に対向する一対の周方向側面92c1,92c2と、を有している。軸方向側面92a1,92a2は、周方向C及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されており、外周部91の軸方向側面91a1,91a2に対して上記の突出部91bを除いて段差無く同一面をなしている。周方向側面92c1,92c2は、軸方向A及び径方向の双方を含む面内に平面状又は湾曲面状に広がるように形成されている。軸方向側面92a1,92a2と周方向側面92c1,92c2とは、互いに直交しており、曲面が形成されるように角部端部で交差して接続されている。
【0044】
デフレクタ90がデフレクタ取付孔81に収容された状態において、内周部92の軸方向側面92a1,92a2は、ガイド孔部83の軸方向側面83a1,83a2に対向していると共に、周方向側面92c1,92c2は、ガイド孔部83の周方向側面83c1,83c2に対向している。
【0045】
デフレクタ90は、また、外周部91(具体的には、周方向側面91c1,91c2)と内周部92(具体的には、周方向側面92c1,92c2)との境界に位置する段差部に形成される被支持面93を有している。被支持面93は、その法線が径方向内側に向いた面である。被支持面93は、デフレクタ90がデフレクタ取付孔81に挿入された際にナット本体部80の支持面84に当接してデフレクタ90の挿入方向Dにおける位置を規制するための面である。
【0046】
デフレクタ90には、転動ボール51が通過可能な通過路94が形成されている。通過路94は、ナット本体部80の内周転動溝71と循環路85とを連通して、転動路53と循環路85との間で転動ボール51を通過させる連通路である。通過路94の一端は、デフレクタ90の径方向内面に開口している。また、通過路94の他端は、デフレクタ90の軸方向側面(具体的には、外周部91の軸方向側面91a1及び内周部92の軸方向側面92a1)に開口している。通過路94は、転動ボール51の直径と同じ路幅或いはその直径に比して僅かに大きな路幅を有するように形成されている。
【0047】
通過路94は、デフレクタ90内において、転動路53と循環路85との間で転動ボール51をスムースに通過させるように湾曲或いは屈曲して延びるように形成されている。具体的には、通過路94における転動路53との接続部近傍は、ボールネジナット70の径方向内側にある螺旋状の転動路53が延びる方向に沿って延びつつ径方向外側へ延びるように形成されている。通過路94における循環路85との接続部近傍は、循環路85が延びる軸方向Aに沿って延びるように形成されている。また、通過路94は、デフレクタ90の内部で両端の接続部同士を繋ぐように湾曲或いは屈曲している。
【0048】
デフレクタ90の一方の軸方向側面91a1,92a1には、通過路94をその軸方向側面91a1,92a1に開口させる開放溝95が形成されている。開放溝95は、通過路94の一端と転動路53との接続部と、通過路94の他端と循環路85との接続部と、の間に亘って連続的に設けられた溝である。開放溝95は、図6及び図7に示す如く、デフレクタ90を軸方向Aから見た場合に、デフレクタ90の径方向内面側から径方向外方へボールネジナット70の軸中心を中心にして周方向Cへ延びるように形成されている。通過路94及び開放溝95は、図8及び図9に示す如く、断面形状が略半円状になるように形成されている。開放溝95は、転動ボール51の直径と同じ溝幅或いはその直径に比して僅かに大きな溝幅を有するように形成されている。
【0049】
デフレクタ90は、軸方向Aの外側から一方の軸方向側面91a1,92a1を見た場合に開放溝95を径方向で挟んで2つの部位に分かれるように形成されている。デフレクタ90の開放溝95は、径方向に分かれた2つの部位で挟まれている。以下、デフレクタ90における開放溝95に対して径方向外側に位置する部位(図6において梨地で示す領域)を外径側部位96と、また、デフレクタ90における開放溝95に対して径方向内側に位置する部位(図6において網掛けで示す領域)を内径側部位97と、それぞれ称す。外径側部位96と内径側部位97とは、断面形状が略半円状となる開放溝95を挟んでいる。
【0050】
一対のデフレクタ90−1,90−2は、開放溝95が設けられた軸方向側面91a1,92a1同士が軸方向Aで対向するようにナット本体部80のデフレクタ取付孔81−1,81−2に配置される。一対のデフレクタ90−1,90−2がデフレクタ取付孔81−1,81−2に挿入されて固定された状態では、一方のデフレクタ90−1の通過路94と他方のデフレクタ90−2の通過路94とが循環路85を介して互いに接続される。この場合、循環路85は、ボールネジ軸60とボールネジナット70との間に形成された転動路53の所定二点間である一端と他端とを連通して転動ボール51を無限循環させることが可能である。
【0051】
デフレクタ90は、転動路53内に位置する転動ボール51を径方向内面の開口孔を通じて掬い上げ、通過路94を介して循環路85へ導く導入機能を有する。また、デフレクタ90は、循環路85内に位置する転動ボール51を軸方向側面91a1,92a1の開口孔(具体的には、開放溝95の一部)を通じて通過路94に導入し、その後、転動路53へ排出する排出機能を有する。
【0052】
各デフレクタ90はそれぞれ、上記の導入機能及び排出機能の双方を有する。また、一方向への操舵が行われることでボールネジ軸60が軸方向Aの一方へストロークしたときは、一対のデフレクタ90のうち一方のデフレクタ90−1が導入機能を、かつ、他方のデフレクタ90−2が排出機能を、それぞれ同時に発揮する。また、他方向への操舵が行われることでボールネジ軸60が軸方向Aの他方へストロークしたときは、他方のデフレクタ90−2が導入機能を、かつ、一方のデフレクタ90−1が排出機能を、それぞれ同時に発揮する。
【0053】
デフレクタ90は、ナット本体部80への組み付け時、デフレクタ取付孔81に径方向外側から挿入される。このデフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入は、両者の形状同士が合致する向きに、具体的には、デフレクタ90の突出部91bがデフレクタ取付孔81の凹部82bに嵌るように行われる。デフレクタ90は、被支持面93がナット本体部80の支持面84に当接した位置を挿入方向Dの所望位置として位置決めされて、そのデフレクタ取付孔81に収容される。
【0054】
上記の如く、デフレクタ90がデフレクタ取付孔81に挿入されて収容された状態では、外周部91の軸方向側面91a1,91a2がデフレクタ取付孔81の圧入孔部82の軸方向側面82a1,82a2に対向しかつ外周部91の周方向側面91c1,91c2がデフレクタ取付孔81の圧入孔部82の周方向側面82c1,82c2に対向すると共に、内周部92の軸方向側面92a1,92a2がデフレクタ取付孔81のガイド孔部83の軸方向側面83a1,83a2に対向しかつ内周部92の周方向側面92c1,92c2がデフレクタ取付孔81のガイド孔部83の周方向側面83c1,83c2に対向する。
【0055】
デフレクタ90は、外周部91の軸方向側面91a1,91a2及び周方向側面91c1,91c2のうち少なくとも軸方向側面91a1,91a2の一部(例えば、図6において斜線で示す領域)が圧入孔部82の軸方向側面82a1,82a2及び周方向側面82c1,82c2に対して締め代を有するように形成されている。以下、デフレクタ90の外周部91の締め代を有する部位を圧入部98と称す。デフレクタ90の外周部91の圧入部98が設けられた軸方向側面91a1と軸方向側面91a2との幅Wo(max)は、圧入前は、デフレクタ取付孔81の圧入孔部82の軸方向側面82a1と軸方向側面82a2との距離である孔幅Lよりも大きく、圧入後は、その孔幅Lと略一致する。
【0056】
圧入部98は、少なくとも周方向C両側の突出部91bそれぞれの一部の外面に設けられていることが好ましい。また、圧入部98は、上記の外径側部位96に設けられていてもよいが、上記の内径側部位97には設けられていない。尚、図6においては、二箇所の圧入部98のうち左側の突出部91bに設けられた圧入部98は、外径側部位96に設けられているが、右側の突出部91bに設けられた圧入部98は、外径側部位96に設けられておらずかつ内径側部位97にも設けられていない。デフレクタ90は、圧入部98でデフレクタ取付孔81に圧入されて締り嵌めされる。
【0057】
デフレクタ90は、外周部91の軸方向側面91a1,91a2及び周方向側面91c1,91c2のうち圧入部98以外の部位(以下、非圧入部99と称す。)が、圧入孔部82の軸方向側面82a1,82a2及び周方向側面82c1,82c2に対してほとんど隙間無く嵌合するように形成されている。デフレクタ90の外周部91の非圧入部99が設けられた軸方向側面91a1と軸方向側面91a2との幅Woは、デフレクタ取付孔81の圧入孔部82の軸方向側面82a1と軸方向側面82a2との距離である孔幅Lとほとんど同じである。デフレクタ90の非圧入部99は、デフレクタ取付孔81に中間嵌めされる。
【0058】
デフレクタ90は、内周部92の軸方向側面92a1,92a2及び周方向側面92c1,92c2がガイド孔部83の軸方向側面83a1,83a2及び周方向側面83c1,83c2に対して隙間を有するように形成されている。デフレクタ90の内周部92の軸方向側面92a1と軸方向側面92a2との幅は、デフレクタ取付孔81のガイド孔部83の軸方向側面83a1と軸方向側面83a2との距離である孔幅よりも小さい。上記した内径側部位97の全域は、内周部92に含まれる。また、上記した外径側部位96は、外周部91及び内周部92に含まれる。デフレクタ90は、内周部92においてデフレクタ取付孔81に隙間嵌めされる。デフレクタ90の内周部92は、デフレクタ90がデフレクタ取付孔81に挿入方向Dへ挿入される際、外周部91がデフレクタ取付孔81に圧入される前からその圧入が完了するまでの間において、ガイド孔部83との間でガイドされる。
【0059】
ボールネジナット70の外周面には、ボールベアリング52及び従動プーリ42が組み付けられる。ボールベアリング52及び従動プーリ42は、この組み付け後、ナット本体部80のデフレクタ取付孔81に挿入されたデフレクタ90が径方向外側へ抜けるのを阻止する抜け止め機能を有する。
【0060】
(3.デフレクタとデフレクタ取付孔との関係)
本実施形態のボールネジ装置50において、ボールネジナット70のデフレクタ90とナット本体部80との組み付け時、デフレクタ90は、ナット本体部80の径方向外側から径方向内側(すなわち挿入方向D)へ向けて移動されることで、ナット本体部80のデフレクタ取付孔81に挿入される。デフレクタ90は、開放溝95に対して径方向内側に位置する内径側部位97と、開放溝95に対して径方向外側に位置する外径側部位96と、が以下の位置関係になるように形成されている。
【0061】
すなわち、デフレクタ90は、径方向外側からデフレクタ取付孔81への挿入方向Dに向けて投影された際に内径側部位97の占める領域が外径側部位96の占める領域から外側(具体的には、ボールネジナット70の軸方向外側)へはみ出さないように形成されている。すなわち、デフレクタ90は、デフレクタ90の挿入方向Dへの投影視において、内径側部位97の占める領域の開放溝95側の外縁の位置が、外径側部位96の占める領域内(具体的には、その外径側部位96の占める領域の開放溝95側の外縁の位置に対して内側(すなわち、ボールネジナット70の軸方向Aの領域内側))に収まるように形成されている。
【0062】
デフレクタ90がデフレクタ取付孔81に挿入されて収容される過程において、まず、図10に示す如く、デフレクタ90の軸方向側面91a1,92a1の内径側部位97が、デフレクタ取付孔81の圧入孔部82の開口部にあるナット本体部80の入口肩部80aに対して対向するタイミングがある。そしてその後、デフレクタ90の開放溝95がそのナット本体部80の入口肩部80aに対して対向する。
【0063】
デフレクタ90の内径側部位97には、デフレクタ取付孔81の圧入孔部82に対して締め代を有する圧入部98が設けられていない。デフレクタ90において、内径側部位97の全域が含まれる内周部92の軸方向側面92a1,92a2及び周方向側面92c1,92c2は、ガイド孔部83の軸方向側面83a1,83a2及び周方向側面83c1,83c2に対して隙間を有するように形成されている。ガイド孔部83の軸方向側面83a1,83a2は、圧入孔部82の軸方向側面82a1,82a2に対して段差無く同一面をなしている。内周部92の軸方向Aの幅Wiは、外周部91の軸方向Aの幅Woに比して小さく、圧入孔部82の軸方向側面82a1と軸方向側面82a2との距離である孔幅Lに比して小さい。このため、上記したデフレクタ90の内径側部位97がナット本体部80の入口肩部80aに対して対向するタイミングでは、デフレクタ90の内径側部位97とナット本体部80の入口肩部80aとの間に隙間Sが形成される。
【0064】
かかる構造では、ボールネジナット70のデフレクタ90とナット本体部80との組み付け時、デフレクタ90の内径側部位97がナット本体部80の入口肩部80aで隙間無く圧入されることは無く、その内径側部位97がその入口肩部80aのエッジで削れることは回避される。内径側部位97がナット本体部80の入口肩部80aに対向した際に削れなければ、デフレクタ90の削れに起因したバリの発生は無いので、その後、ナット本体部80の入口肩部80aに開放溝95が対向したときにデフレクタ90の削れによるバリがその開放溝95内に進入する事態は生じない。
【0065】
また、上記の如くデフレクタ90の開放溝95がナット本体部80の入口肩部80aに対向した後、図11に示す如く、デフレクタ90の外径側部位96がナット本体部80の入口肩部80aに対して対向する。外周部91の軸方向Aの幅Woは、圧入孔部82の軸方向側面82a1と軸方向側面82a2との距離である孔幅Lに比して僅かに小さく乃至は僅かに大きい。また、外周部91の圧入部98の軸方向Aの幅Wo(max)は、圧入孔部82の軸方向側面82a1の凹部82bの底面と軸方向側面82a2との距離である孔幅L(max)に比して大きい。圧入部98の少なくとも一部が外径側部位96に含まれる場合は、上記したデフレクタ90の外径側部位96がナット本体部80の入口肩部80aに対して対向したときに圧入部98がナット本体部80の入口肩部80aで隙間無く圧入されるので、その外径側部位96がその入口肩部80aのエッジで削れることがある。この場合は、デフレクタ90の削れに起因してバリが発生するが、このバリは、デフレクタ90の開放溝95内に進入することはなく、デフレクタ90の外部に排出される。
【0066】
ボールネジナット70において、デフレクタ90の圧入部98がナット本体部80の入口肩部80aで圧入されてデフレクタ90とナット本体部80とが所望の位置関係に達すると、それらのデフレクタ90とナット本体部80との組み付けが完了する。
【0067】
従って、本実施形態のボールネジ装置50によれば、ボールネジナット70のデフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入に伴って発生するバリが開放溝95を通じて通過路94内に入り込むのを防止することができる。このため、ボールネジ装置50のデフレクタ90の通過路94やナット本体部80の循環路85などで、バリの存在に起因して転動ボール51の転動が阻害されるのを防止することができるので、ボールネジ装置50のトルク変動を抑えることが可能であると共に、ボールネジ装置50の耐久性を向上させることが可能である。
【0068】
また、上記の如く、デフレクタ90の外周部91の軸方向Aの幅Woは、圧入孔部82の軸方向側面82a1と軸方向側面82a2との距離である孔幅Lに比して僅かに小さく乃至は僅かに大きい。また、外周部91の圧入部98の軸方向Aの幅Wo(max)は、圧入孔部82の軸方向側面82a1の凹部82bの底面と軸方向側面82a2との距離である孔幅L(max)に比して大きい。この構造では、デフレクタ90とナット本体部80との組み付けが完了した後、デフレクタ90の外周部91がデフレクタ取付孔81に中間嵌めされ或いは締り嵌めされる。このため、デフレクタ90内の開放溝95が大きな隙間を介して径方向外側の空間に連通することは回避される。
【0069】
従って、デフレクタ90とナット本体部80との組み付け完了後、異物が外部からデフレクタ90内の開放溝95に進入するのを防止することができる。これにより、デフレクタ90の通過路94への異物進入に起因する転動ボール51の転動阻害を防止することができるので、ボールネジ装置50のトルク変動を抑えることが可能であると共に、ボールネジ装置50の耐久性を向上させることが可能である。
【0070】
(4.ボールネジ装置及びステアリング装置の作用効果)
本実施形態のボールネジ装置50は、外周面に外周転動溝61が螺旋状に形成されたボールネジ軸60と、ボールネジ軸60に対して径方向外側に同軸上に配置され、ボールネジ軸60に対して相対回転できるように筒状に形成され、内周面に内周転動溝71が螺旋状に形成されたボールネジナット70と、外周転動溝61と内周転動溝71とで囲まれた転動路53を転動可能な転動ボール51と、転動路53の一端と他端とを連通して転動ボール51を無限循環させる循環路85と、を備える。ボールネジナット70は、内周転動溝71の少なくとも一部と循環路85の少なくとも一部とがそれぞれ形成され、径方向に貫通するデフレクタ取付孔81が設けられたナット本体部80と、デフレクタ取付孔81に径方向外側から挿入されて固定され、ナット本体部80の内周転動溝71と循環路85とを連通して転動ボール51を通過させる通過路94が形成され、側面に通過路94を開口させる開放溝95が形成されたデフレクタ90と、を有する。デフレクタ90は、開放溝95に対して径方向内側に位置する内径側部位97と、開放溝95に対して径方向外側に位置する外径側部位96と、を有し、デフレクタ90をデフレクタ取付孔81への挿入方向Dに向けて投影した際に内径側部位97の占める領域の開放溝95側の外縁位置が外径側部位96の占める領域の開放溝95側の外縁位置に対して領域内側に収まるように形成されている。
【0071】
この構成によれば、デフレクタ取付孔81にデフレクタ90が挿入される過程において、デフレクタ90の内径側部位97がナット本体部80の入口肩部80aに対して対向するタイミングでは、その内径側部位97と入口肩部80aとの間に隙間Sが形成されるので、その内径側部位97が入口肩部80aに当接して削れることは回避され、バリの発生は回避される。また、デフレクタ90の外径側部位96がナット本体部80の入口肩部80aに対して対向するタイミングでは、その外径側部位96が入口肩部80aのエッジで削れることがあるが、この際に発生したバリは、デフレクタ90の開放溝95内に進入することはなく、デフレクタ90の径方向外側の空間に排出される。従って、ボールネジナット70のデフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入に伴って発生するバリが開放溝95を通じて通過路94内に入り込むのを防止することができる。
【0072】
ボールネジ装置50において、内径側部位97の軸方向Aにおける幅Wiは、外径側部位96の軸方向Aにおける幅Woに比して小さい。この構成によれば、デフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入時、内径側部位97が、外径側部位96に対応するナット本体部80の入口肩部80aに対して対向するタイミングでその入口肩部80aのエッジで削れることは回避される。従って、ボールネジナット70のデフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の内径側部位97の挿入に伴ってバリが発生するのを防止することができる。
【0073】
ボールネジ装置50において、デフレクタ取付孔81は、外径側部位96の軸方向Aの幅Woに相当しかつ内径側部位97の軸方向Aの幅Wiに比して大きい孔幅Lを有している。この構成によれば、デフレクタ90の内径側部位97がナット本体部80のデフレクタ取付孔81に挿入される際にそのデフレクタ取付孔81のエッジで削れることは回避される。従って、ボールネジナット70のデフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の内径側部位97の挿入に伴ってバリが発生するのを防止することができる。
【0074】
ボールネジ装置50において、外径側部位96は、デフレクタ取付孔81に圧入される圧入部98を有している。この構成によれば、デフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入時、デフレクタ90の圧入部98がデフレクタ取付孔81への圧入によってナット本体部80の入口肩部80aのエッジで削れても、発生したバリがデフレクタ90の径方向外側の空間へ排出される。従って、ボールネジナット70のデフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の挿入に伴って発生するバリが開放溝95を通じて通過路94内に入り込むのを防止することができる。
【0075】
ボールネジ装置50において、圧入部98は、開放溝95が形成された側面に設けられている。また、圧入部98は、デフレクタ90の周方向両端部に設けられていると共に、開放溝95が形成された側面に一箇所以上設けられている。この構成によれば、デフレクタ90をその外径側部位96の周方向両端部でデフレクタ取付孔81に圧入することができるので、デフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の固定を確実に行うことができる。また、圧入部98での圧入時にデフレクタ90全体が軸方向Aに挟持されるため、デフレクタ90の外周部91とナット本体部80の入口肩部80aとの係り代を減らすことができ、発生するバリ量を抑えることができる。
【0076】
ボールネジ装置50において、圧入部98は、外径側部位96における他部位(非圧入部99)に対して軸方向Aに突出する突出部91bに設けられている。この構成によれば、デフレクタ90を突出部91bでデフレクタ取付孔81に圧入することができるので、デフレクタ取付孔81へのデフレクタ90の固定を確実に行うことができる。また、発生するバリ量が比較的多い圧入部98を開放溝95から遠ざけることができるので、開放溝95にバリが進入するリスクを減らすことができる。
【0077】
また、ボールネジ装置50は、ステアリング装置1に設けられる。この構成によれば、ボールネジ装置50のデフレクタ90の通過路94へのバリの進入を防止したステアリング装置1を実現することができる。
【0078】
(5.変形形態)
ところで、上記の実施形態においては、デフレクタ90をナット本体部80のデフレクタ取付孔81に固定するうえで、デフレクタ90をデフレクタ取付孔81に圧入することとした。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、デフレクタ90をデフレクタ取付孔81に挿入した後、カシメによってデフレクタ90をデフレクタ取付孔81に固定することとしてもよい。
【0079】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1:ステアリング装置、50:ボールネジ装置、51:転動ボール、53:転動路、60:ボールネジ軸、61:外周転動溝、70:ボールネジナット、71:内周転動溝、80:ナット本体部、81,81−1,81−2:デフレクタ取付孔、82a1,82a2,83a1,83a2:軸方向側面、85:循環路、90,90−1,90−2:デフレクタ、91a1,91a2,92a1,92a2:軸方向側面、94:通過路、95:開放溝、96:外径側部位、97:内径側部位、98:圧入部、99:非圧入部。
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