特許第6984350号(P6984350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984350下水道管渠内水位予測装置及び下水道管渠内水位予測プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984350
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】下水道管渠内水位予測装置及び下水道管渠内水位予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20120101AFI20211206BHJP
   E03F 1/00 20060101ALI20211206BHJP
   E03F 3/04 20060101ALI20211206BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20211206BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20211206BHJP
   G06N 3/08 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   G06Q10/04
   E03F1/00 Z
   E03F3/04 A
   G01W1/14 Z
   G06Q50/06
   !G06N3/08 140
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-227582(P2017-227582)
(22)【出願日】2017年11月28日
(65)【公開番号】特開2019-96255(P2019-96255A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】深井 寛修
【審査官】 牧 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−088373(JP,A)
【文献】 特開2007−226450(JP,A)
【文献】 特開2008−184782(JP,A)
【文献】 特開2017−174053(JP,A)
【文献】 特開2003−027567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
G16H 10/00 − 80/00
G01W 1/14
E03F 3/04
E03F 1/00
G06N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象地点を含む地域の時刻の異なるメッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群を畳み込みニューラルネットワークでの畳み込み処理の適用可能な形式に変換することにより当該予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する当該畳み込みニューラルネットワークに供される予測用入力データを作成する予測入力データ生成部と、
前記予測用入力データと前記予測対象地点の近傍測定点の下水道管渠内水位データとから前記畳み込みニューラルネットワークにより当該予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する水位予測値算出部と、
を備え、
前記水位予測値算出部は、
前記予測入力データ生成部から供された畳み込み処理の適用可能な形式に変換された時刻の異なる降水量データの実況値及び予測値に対して畳み込み処理を実行する畳み込み処理部と、
この畳み込み処理部から供された前記メッシュ降水量の実況値及び予測値の畳み込み処理結果を示す領域に対し、最大となる領域のメッシュ値を抽出するMaxPooling処理を行うMaxPooling処理部と、
このMaxPooling処理部で得られた前記メッシュ値のデータを前記近傍測定点の下水道管渠内水位データと共に前記畳み込みニューラルネットワークの入力層に供して、当該畳み込みニューラルネットワークの出力層から当該予測対象地点の水位予測値を出力する予測処理部と、
を備えたことを特徴とする下水道管渠内水位予測装置。
【請求項2】
前記出力層のニューロンである水位予測値前記予測入力データ生成部から供された管渠内水位実況値との誤差を最小化するバックプロパゲーション処理により当該畳み込みニューラルネットワークのモデルパラメータを更新するモデルパラメータ更新部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の下水道管渠内水位予測装置。
【請求項3】
前記畳み込み処理部は、前記メッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群の各時刻に対応するデータが時間チャネルの対応するチャネルに入力されることを特徴とする請求項1または2に記載の下水道管渠内水位予測装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の下水道管渠内水位予測装置としてコンピュータを機能させることを特徴とする下水道管渠内水位予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道管渠内水位の予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の集中豪雨による被害の多発や都市型水害の発生が頻繁に起きる状況への対策として、下水道管渠内水位の予測技術の開発が進められている。下水道管渠内水位の予測技術としては、例えば、特許文献1,2の予測技術が知られている。
【0003】
特許文献1の予測法は、予測対象地域の現在と過去の降雨量に基づき予測された将来の降雨量と、当該対象地域の地理的なデータと家屋状況及び土地利用状況のデータとに基づき算出された下水道管渠内の雨水の流出量とから、下水道管渠内の水位を予測する。
【0004】
特許文献2の予測法は、学習により重み付けされたニューラルネットワークにおいて、入力層のデータとしてレーダ雨量観測メッシュの積算雨量の時系列データが与えられると、出力層のデータとして雨水流入量を出力する。この積算雨量から予測される雨水流入量は一定時間毎の値として出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−298063号公報
【特許文献2】特開平5−134715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の予測法は、白地図,デジタルマップ,測量図や家屋状況データ、土地利用状況のデータ等、様々なデータの入力を前提とする。地上に降った雨が地表面から下水道管に流入して下水道管内の流下を経て予測対象地点に至るまでのプロセスは複雑かつ広範囲に及ぶので、設定すべき情報が莫大となり、水位の予測モデルの構築に要する時間とコストは膨大なものとなる。
【0007】
特許文献2の予測法は、時刻の異なるメッシュ降水量が入力されるニューラルネットワークにより雨水流入量を予測する。時刻及びメッシュ毎に入力ユニットを1つずつ用意して1対1で対応させている。この場合、メッシュ間の位置関係は情報として失われ、予測精度がメッシュサイズに依存する可能性がある。具体的には、メッシュサイズを小さく設定した場合、メッシュ降水量の局所的な位置的分布の違いに過度に影響を受ける可能性がある。一方、メッシュサイズを大きく設定した場合、広範囲で降水量分布は平均化され、水位の予測に重要な情報が失われる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の事情を鑑み、下水道管渠内水位の予測にあたり、予測モデル構築の時間とコストを抑えながら、空間方向および時間方向、双方向の変化を適切に特徴量化した高精度な予測を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の一態様は、下水道管渠内水位予測装置であって、予測対象地点を含む地域の時刻の異なるメッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群を畳み込みニューラルネットワークでの畳み込み処理の適用可能な形式に変換することにより当該予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する当該畳み込みニューラルネットワークに供される予測用入力データを作成する予測入力データ生成部と、前記予測用入力データと前記予測対象地点の近傍測定点の下水道管渠内水位データとから前記畳み込みニューラルネットワークにより当該予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する水位予測値算出部と備える。
【0010】
本発明の一態様は、前記下水道管渠内水位予測装置において、下水道管渠内水位データ及び降水量データに基づき前記畳み込みニューラルネットワークの学習に供される学習用入力データを生成する学習入力データ生成部と、前記学習用入力データに基づき前記畳み込みニューラルネットワークのモデルパラメータを更新するモデルパラメータ更新部とをさらに備える。
【0011】
本発明の一態様は、前記下水道管渠内水位予測装置において、前記モデルパラメータ更新部は、前記畳み込みニューラルネットワークから出力される水位予測値と当該畳み込みニューラルネットワークに入力される下水道管渠内水位データとの誤差を最小化するバックプロパゲーション処理により前記モデルパラメータを更新する。
【0012】
本発明の一態様は、前記下水道管渠内水位予測装置において、前記水位予測値算出部は、前記メッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群の各時刻に対応するデータを時間チャネルの対応するチャネルに入力して畳み込み処理を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様は、前記下水道管渠内水位予測装置において、前記水位予測値算出部は、前記メッシュ降水量の実況値及び予測値の畳み込み処理結果を示す領域に対し、最大となる領域のメッシュ値を抽出するMaxPooling処理を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様は、コンピュータが実行する下水道管渠内水位予測方法であって、予測対象地点を含む地域の時刻の異なるメッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群を畳み込みニューラルネットワークでの畳み込み処理の適用可能な形式に変換することにより当該予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する当該畳み込みニューラルネットワークに供される予測用入力データを作成する予測入力データを作成する過程と、前記予測用入力データと前記予測対象地点の近傍測定点の下水道管渠内水位データとから前記畳み込みニューラルネットワークにより当該予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する過程とを有する。
【0015】
本発明の一態様は、前記下水道管渠内水位予測装置としてコンピュータを機能させる下水道管渠内水位予測プログラムまたは前記下水道管渠内水位予測方法をコンピュータに実行させる下水道管渠内水位予測プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によれば、下水道管渠内水位の予測にあたり、予測モデル構築の時間とコストを抑えながら、空間方向および時間方向、双方向の変化を適切に特徴量化した高精度な予測を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の下水道管渠内水位予測装置の態様例を示すブロック構成図。
図2】畳み込みニューラルネットワークによる下水道管渠内水位の予測過程の説明図。
図3図2の予測過程での畳み込み処理の具体例の説明図。
図4図2の予測過程でのMaxPooling処理の具体例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1に示された実施形態の下水道管渠内水位予測装置10は、予測対象地点のメッシュ降水量と複数地点の管渠内水位に基づき図2に例示の畳み込みニューラルネットワーク100により予測対象地点の下水道管渠内水位を予測する。特に、大雨などの異常水位時に地下街への早期情報発信を行うなどの都市部における防災情報の一つとして利用することを想定したものである。
【0020】
(下水道管渠内水位予測装置10の構成例)
下水道管渠内水位予測装置10は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協動により以下の機能部を実装する。
【0021】
データ蓄積部11は、下水道管渠内水位データ及び降水量データ(メッシュ降水量実況値,メッシュ降水量予測値)を蓄積(保存)する。
【0022】
学習入力データ生成部12は、データ蓄積部11から引き出された下水道管渠内水位データ及び降水量データに基づき畳み込みニューラルネットワーク100の学習に供される学習用入力データを生成する。
【0023】
学習パラメータ記憶部13は、畳み込みニューラルネットワーク100のモデルパラメータ(ニューラルネットワークの重み係数)とこのモデルパラメータを更新するための学習パラメータ(当該重み係数のパラメータ)とを蓄積する。
【0024】
モデルパラメータ更新部14は、学習入力データ生成部12にて生成された学習用入力データと学習パラメータ記憶部13から引き出したモデルパラメータと前記学習パラメータとに基づき畳み込みニューラルネットワーク100のモデルパラメータを更新する。この更新には、畳み込みニューラルネットワーク100から出力される水位予測値と当該ニューラルネットワークに入力される下水道管渠内水位データとの誤差を最小化するバックプロパゲーション処理が適用される。そして、この更新されたモデルパラメータは学習パラメータ記憶部13に保存される。
【0025】
予測入力データ生成部15は、データ蓄積部11に蓄積された降水量データから畳み込みニューラルネットワーク100の予測に必要な予測用入力データを生成する。すなわち、予測対象地点を含む地域の時刻の異なるメッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群を畳み込みニューラルネットワーク100での畳み込み処理の適用可能な形式に変換することにより、畳み込みニューラルネットワーク100に供される予測用入力データを作成する予測入力データを作成する。
【0026】
水位予測値算出部16は、予測入力データ生成部15からの予測用入力データから、畳み込みニューラルネットワーク100により予測対象地点の管渠内水位を予測する(S3)。水位予測値算出部16は、以下に述べる畳み込み処理部101、MaxPooling処理部102及び予測処理部103を実装する。また、畳み込みニューラルネットワーク100は、学習パラメータ記憶部13から引き出したモデルパラメータを利用する。
【0027】
(水位予測の説明)
図2の下水道管渠内水位予測のモデルは畳み込みニューラルネットワーク100による予測モデルである。先ず、時刻の異なる降水量データの実況値及び予測値が、畳み込み処理部101による畳み込み処理、さらに、MaxPooling処理部102によるMaxPooling処理に供される。そして、このMaxPooling処理部102から供されたデータが予測処理部103による水位予測に供されることにより予測対象地点の管渠内水位が予測される。
【0028】
以下、予測対象地点の管渠内水位の予測過程(S1〜S3)について詳細に説明する。
【0029】
S1:畳み込み処理部101は、予測入力データ生成部15から供された畳み込み処理の適用可能な形式に変換された時刻の異なる降水量データの実況値及び予測値に対して畳み込み処理を実行する。
【0030】
図3を参照して畳み込み処理の具体例について説明する。畳み込み処理は入力データに対して一定サイズごと重み付き和をとる処理である。このときの重み係数のことをフィルタと称する。このフィルタのサイズがF×Fの場合、フィルタを少しずつ移動させながらF×Fメッシュ毎に重み付き和をとる処理が、入力データ(前記引き出された降水量データの実況値及び予測値)の全体に行き渡るまで繰り返し実行される。
【0031】
予測対象地点を含む一定サイズM×Mの現在時刻から一定時刻前までのメッシュ降水量実況値と一定時刻先までのメッシュ降水量予測値とを合わせたD時刻分の降水量のデータxkl(c)(1≦k≦M,1≦l≦M,1≦c≦D)に対し、サイズF×FのN個のフィルタwst(f,c)(1≦f≦N,1≦s≦F,1≦t≦F,1≦c≦D)が適用される。これにより、図3に示されたように、データxkl(c)(1≦k≦M,1≦l≦M,1≦c≦D)はサイズL×LのN個のデータaij(f)(1≦i≦L,1≦j≦L,1≦f≦N)までに圧縮される。データxkl(c)とデータaij(f)の関係は以下の式(1)により示される。
【0032】
【数1】
【0033】
式(1)において、β(f)はフィルタwst(f,c)ごとに定義されるバイアスであり、フィルタwst(f,c)間の値の大小を調整するものである。また、同式においては、時間方向(1≦c≦D)について和をとっており、位置方向としては、M×MからL×Lに圧縮される。よって、このS1の段階で時間的及び空間的方向の双方について集約された情報が得られる。
【0034】
S2:MaxPooling処理部102は、前記メッシュ降水量の実況値及び予測値の畳み込み処理結果を示す領域に対し、最大となる領域のメッシュ値を抽出するMaxPooling処理を行う。ここでは、データaij(f)(1≦i≦L,1≦j≦L,1≦f≦N)に対してMaxPooling処理によりK×Kメッシュにまでデータを圧縮する。
【0035】
MaxPooling処理は、単純に一定範囲内に含まれるメッシュの値の中で最大の値を抽出する処理である。最大値を探索する一定範囲のサイズをE×E、探索範囲の遷移するストライドの大きさをEと定義し、MaxPooling処理により、データbuv(f)(1≦u≦K,1≦v≦K,1≦f≦N)が得られる場合、データaij(f)とデータbuv(f)の関係は以下の式(2)により示される。
【0036】
【数2】
【0037】
図4を参照してMaxPooling処理の具体例について説明する。図示の事例はE=3とした場合の例である。S1から供されたメッシュ降水量データであるデータaij(f)の局所的な降雨のばらつきがMaxPooling処理により吸収され、降水量の局所的な分布の違いに頑強な予測が可能となる。
【0038】
以上のS2で得られたK×K×N個のデータbuv(f)(1≦u≦K,1≦v≦K,1≦f≦N)は、予測対象地点の近傍測定点の下水道管渠内水位データと共に、以下のS3でのニューラルネットワークによる予測対象地点の水位予測に供される。
【0039】
S3:予測処理部103は、S2で得られたデータbuv(f)をデータ蓄積部11から引き出された予測対象地点の近傍測定点の下水道管渠内水位データと共に畳み込みニューラルネットワーク100の入力層104に供する。そして、この畳み込みニューラルネットワーク100の出力層106から予測対象地点の水位予測値を出力する。
【0040】
畳み込みニューラルネットワーク100の重み係数の学習はモデルパラメータ更新部14により実行される。この学習の過程では、出力層106のニューロンである水位予測値と予測入力データ生成部15から供された管渠内水位実況値との誤差を最小化するバックプロパゲーション処理が実行される。通常、誤差としては最小二乗誤差が使用されることが多いが、クロスエントロピー若しくはその他の誤差関数を使用してもよい。これにより、例えば、メッシュ降水量データに適用するフィルタの重み係数並びに予測対象地点の近傍測定点の水位に対する重み係数や入力層104と中間層105と間,中間層105間,中間層105と出力層106と間のニューロンの重み係数が算出される。これら重み係数が畳み込みニューラルネットワーク100のモデルパラメータとなる。そして、このモデルパラメータは畳み込みニューラルネットワーク100の新たなモデルパラメータとして学習パラメータ記憶部13に格納される。
【0041】
(本実施形態の効果)
以上のように、下水道管渠内水位予測装置10は、時刻の異なるメッシュ降水量の実況値及び予測値に対して畳み込みを適用し、これを予測対象地点の近傍の測定点水位と共に、ニューラルネットワークに入力することにより、下水道管渠内の水位を予測する。
【0042】
予測対象地点を含む一定範囲のメッシュ降水量と対象地点周辺の下水道管渠内水位をそのまま入力するだけで予測モデルが自動に構築されるので、流出解析的手法において前提となる下水管路の敷設状況などの土木情報の入力は不要となる。したがって、予測モデル構築の時間とコストを大幅に削減できる。
【0043】
特許文献2の予測法は、ニューラルネットワークを用いているが、メッシュ1つ1つの値を入力として利用しており、メッシュサイズの設定に予測精度が大きく依存する。
【0044】
これに対し、下水道管渠内水位予測装置10は、降水量の分布に対し畳み込み処理を適用しているので、メッシュサイズの設定に堅牢な予測を行える。
【0045】
畳み込み処理は、入力データに対し、どの部分を強調しどの部分を平滑化すべきかなどの重み係数を表すフィルタと重み付き和を採る処理である。畳み込みニューラルネットワークでは、学習時に、このフィルタをデータに基づいて最適に決定する。ある特定部分だけを強調すべきなのか、全体的に平滑化して扱うべきなのかなどは、周辺メッシュの値を考慮しながらデータに基づいて最適に決定される。したがって、メッシュ1つ1つの値を入力として利用したときのように、メッシュサイズを必要以上に小さくしすぎて特定のメッシュ値の影響を過度に受ける、もしくは逆にメッシュサイズを大きくとり過ぎて情報が平均化され過ぎるといった問題を回避できる。
【0046】
入力となる降水量データは空間方向だけでなく、時間的にも変化に富むが、本態様においては、時刻の異なる降水量データ群に対する畳み込み処理において、通常の画像処理において色を扱う処理部分に時間の概念を対応付けることにより、さらに高精度な予測を可能とする。
【0047】
通常の画像処理において畳み込みニューラルネットワークをカラー画像に適用させる際、通常、入力は三原色(赤、緑、青)に分解し、各色情報が入力されるカラーチャネルが用意されるが、本態様においては、前記色情報の入力部分は時系列情報処理に利用される。
【0048】
すなわち、カラーチャネル部分に各時系列のメッシュ降水量情報を入力し時間チャネルとする。より具体的には、時間チャネル部分にはデータ蓄積部11に保存された前記メッシュ降水量の実況値及び予測値のデータ群の各時刻に対応するデータが時間チャネルの対応するチャネルに入力される。これにより、空間的方向および時間的方向の双方向に対して情報を集約した特徴量が得られる。したがって、時間的にも空間的にも多様な降水量分布の移動パターンに対応可能となり、より高精度な予測が可能となる。さらに、上述のMaxPooling処理により、入力するメッシュ降水量の局所的な降水量のばらつきが吸収されるので、局所的な降水量の分布の違いに頑強な予測を行うことが可能となる。
【0049】
以上のように本実施形態の下水道管渠内水位予測装置10及び下水道管渠内水位予測方法によれば、予測モデル構築の時間とコストを抑えながら、空間方向および時間方向、双方向の変化を適切に特徴量化した高精度な予測が可能となる。
【0050】
(本発明の他の態様例)
本発明の他の態様としては、コンピュータを下水道管渠内水位予測装置10として機能させるまたは上述の管渠内水位予測の過程をコンピュータに実行させる下水道管渠内水位予測プログラムが挙げられる。このプログラムはコンピュータが読み取り可能な周知の記録媒体またはインターネット等のネットワークを介して提供できる。
【0051】
尚、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲内で様々な態様で実施が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…下水道管渠内水位予測装置
11…データ蓄積部
12…学習入力データ生成部
13…学習パラメータ記憶部
14…モデルパラメータ更新部
15…予測入力データ生成部
16…水位予測値算出部
100…畳み込みニューラルネットワーク
101…畳み込み処理部
102…MaxPooling処理部
103…予測処理部
104…入力層
105…中間層
106…出力層
図1
図2
図3
図4