(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、所定処理を指示する処理指令を受けたときに、前記ウォーミングアップ動作を開始し、前記媒体の表面温度が前記所定の温度範囲まで上昇したと検出したとき、前記ウォーミングアップ動作を終了し、所定処理を開始することを特徴とする請求項1に記載の媒体処理装置。
前記ウォーミングアップ動作における前記媒体の搬送は、前記所定処理における前記媒体の搬送速度に対応する速度での前記媒体の搬送を含むことを特徴とする請求項2に記載の媒体処理装置。
前記制御部は、前記温度センサーにより検出される前記媒体の表面温度が前記所定の温度範囲より低い特定温度以上であるときに、前記ウォーミングアップ動作における前記媒体の搬送を行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の媒体処理装置。
前記制御部は、前記ウォーミングアップ動作の開始から所定時間を経過すると、前記ウォーミングアップ動作における前記媒体の搬送を行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の媒体処理装置。
前記制御部は、前記ウォーミングアップ動作における前記媒体の搬送で、所定のタイミングで前記加熱領域の上流側端部に位置する当該媒体の領域を、前記加熱領域よりも下流側の位置まで搬送することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の媒体処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、媒体処理装置を備えた印刷装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。印刷装置は、例えば、液体の一例であるインクを吐出して用紙等の媒体に印刷するインクジェット式のプリンターである。
【0030】
図1に示すように、印刷装置(媒体処理装置)11は、媒体99に液体(例えばインク)を吐出して媒体99に印刷する印刷ユニット20と、印刷ユニット20による印刷済みの媒体99を処理対象とする乾燥装置40とを備える。本例の印刷装置11が扱うインクは、例えば染料インク又は顔料インクからなり、溶媒又は分散媒として例えば水等の蒸発可能な液体成分を含む。印刷装置11は、媒体99を搬送経路に沿って案内可能に支持する支持面13と、媒体99を支持面13に沿って搬送する搬送部の一例としての搬送機構14と、を備える。搬送機構14は、印刷済みの媒体99を支持する搬送台31を備える。搬送台31は、印刷ユニット20に対して搬送方向Yの下流側の位置に配置される。乾燥装置40は、搬送台31上を搬送される媒体99の搬送経路を挟んで搬送台31と対向する位置に配置される。
【0031】
印刷ユニット20は、搬送される媒体99に向かって液体(例えばインク)を吐出して印刷する印刷部の一例としての印刷機構21と、支持面13のうち水平な部分を形成するとともに印刷機構21と対向する箇所で媒体99を支持する支持台19(例えばプラテン)とを備える。印刷機構21は、支持台19と対向する側が開口する収容体12内に収容される。
【0032】
媒体99は、例えば、長尺状のロール紙である。搬送機構14は、印刷前の長尺状の媒体99が円筒状に巻き重ねられたロール体R1を回転可能に支持する第1回転軸15と、印刷済みの媒体99がロール状に巻き取られたロール体R2を支持する第2回転軸16とを有する。第1回転軸15は、媒体99が搬送される搬送経路の上流側の位置に配置され、第2回転軸16は搬送経路の下流側の位置に配置される。給送モーター73(
図2参照)を動力源として第1回転軸15が回転駆動することにより、搬送機構14はロール体R1から媒体99を繰り出す。また、搬送機構14は、巻取モーター74(
図2参照)を動力源として第2回転軸16を回転駆動させることにより媒体99をロール体R2として巻き取る。
【0033】
また、搬送機構14は、媒体99の搬送経路の、第1回転軸15と第2回転軸16との間の位置に、媒体99に接した状態で回転する搬送ローラー17を有する。搬送ローラー17は、搬送方向Yに印刷機構21と対向する印刷領域PAより上流側に配置される。搬送ローラー17は、搬送モーター72(
図2参照)を動力源として印刷機構21の印刷動作に合わせて回転駆動され、媒体99を搬送方向Yに搬送する。
【0034】
なお、本実施形態では、支持面13に沿って搬送される媒体99の搬送経路に沿う方向を、「搬送方向Y」と呼ぶ。このため、搬送方向Yは、
図1に実線の矢印で示すように、搬送経路上の位置に応じて変化する。例えば、印刷領域PAでは搬送方向Yは水平方向である。また、例えば、印刷領域PAより下流側で、媒体99がロール体R2に巻き取られるまでの搬送領域では、搬送方向Yは下流側ほど鉛直下方に傾斜する斜め方向である。
【0035】
ここで、支持面13は、搬送方向Yにおける搬送ローラー17より上流側でロール体R1から繰り出された媒体99を支持する第1支持面13Aと、搬送方向Yにおいて印刷領域PAを含み、搬送ローラー17より下流側で媒体99を支持する第2支持面13Bと、印刷領域PAよりも下流側で媒体99を支持する第3支持面13Cと、を有する。第2支持面13Bは、搬送ローラー17より下流側で媒体99を支持する支持台19の上面(鉛直上方側の面)である。第3支持面13Cは、印刷済みの媒体99を支持する搬送台31の上面である。搬送台31は、印刷領域PAと、とロール体R2を支持する第2回転軸16と、の間の搬送経路上の区間に配置される。乾燥装置40は、搬送台31に支持される印刷済みの媒体99を加熱して乾燥させる。
【0036】
図1に示すように、印刷機構21は、液体(例えばインク)を吐出する印刷ヘッド22を有する。印刷ヘッド22は、吐出した液体を媒体99に付着(着弾)させることで媒体99に印刷する。印刷機構21は、一例としてシリアル印刷方式であり、印刷ヘッド22を保持するキャリッジ23と、キャリッジ23の移動を案内するガイド軸24とを有する。印刷ヘッド22は、媒体99の搬送方向Yと交差(例えば直交)する幅方向X(例えば走査方向)にキャリッジ23と共に往復移動しながらインクを吐出する。そして、印刷ヘッド22が幅方向Xに移動して1走査分の印刷が行われる印字動作と、媒体99を次の印刷位置まで搬送する搬送動作とが繰返し行われることにより、媒体99に画像等の印刷が施される。なお、印刷機構21は、ライン印刷方式であってもよい。ライン印刷方式の印刷機構21は、媒体99の幅全域を一度に印刷可能に液体を吐出する長尺状の印刷ヘッド22を有する。そして、搬送機構14により一定速度で搬送中の媒体99に対して印刷ヘッド22から液体を一斉に吐出して媒体99に画像等を印刷する。
【0037】
図1に示す乾燥装置40は、印刷ユニット20による印刷を終えて液体が付着した媒体99を熱処理により乾燥させる。印刷装置11は、前述のように、印刷済みの媒体99を支持する搬送台31を備え、乾燥装置40は、搬送台31の第3支持面13C(搬送面)に沿って搬送中の印刷済みの媒体99を加熱して乾燥させる。搬送台31は、印刷済みの媒体99を支持する第3支持面13C(以下、単に「支持面13C」ともいう。)を含む支持面部材32と、支持面部材32をその幅方向Xの両端部で支持する左右一対のサイドフレーム33(
図1では一方のみ図示)とを有する。支持面部材32は、一対のサイドフレーム33により、支持面13Cが下流側ほど鉛直下方になる下り勾配の斜面を形成する
図1に示す斜めの姿勢で支持されている。支持面部材32は、印刷装置11で使用される媒体99の最大幅よりも幅方向Xに広く、かつ乾燥装置40(
図1参照)が加熱する加熱領域HAよりも搬送方向Yに長い。
【0038】
図1に示すように、乾燥装置40は、加熱機構41と、加熱機構41を収容する筐体42と、筐体42内において加熱機構41を囲む経路で循環する気流の通路となる送気路46と、送気路46を通る経路で気流を発生させる送風機47とを備える。加熱機構41は、支持面13Cと対向する位置に配置され、支持面13Cに支持された媒体99を加熱する。加熱機構41は、加熱源となる発熱体43を有する。発熱体43は、例えばヒーター管である。発熱体43は、支持面13Cと対向する位置に搬送方向Yに間隔を開けて複数(
図1の例では2つ)配置される。発熱体43に対して支持面13C側と反対側の位置には、凹曲面状の反射面を有する反射板44が配置される。支持面13Cと反対側に向かう発熱体43の熱は反射板44によりその大部分が支持面13Cに向かって反射される。これにより、発熱体43からの輻射の大部分が支持面13Cに向かう。なお、以下の明細書では、搬送方向Yの上流側に位置する発熱体43を第1の発熱体43A、搬送方向Yの下流側に位置する発熱体43を第2の発熱体43Bと呼ぶ場合がある。第2の発熱体43Bは、搬送方向Yにおいて最も下流側に位置する発熱体である。
【0039】
筐体42内に形成される送気路46は、外気を取り込む吸気口46aと支持面13Cに向けて開口する吹出口46bとを有する。加熱機構41は、搬送方向Yにおいて、吸気口46aと吹出口46bとの間に位置する。本例では、加熱機構41よりも搬送方向Yの下流側の位置に吸気口46aが配置され、加熱機構41よりも搬送方向Yの上流側の位置に吹出口46bが配置される。
【0040】
送風機47は、送気路46内に配置されたファン48を有する。送風機47は、
図1に実線の矢印AFで示す方向に気流を発生させられる向き(送風方向)に配置され、吸気口46aから送気路46内に取り込まれる気体を吹出口46bに向けて流動させる。吹出口46bにつながる送気路46の、ファン48より下流側の部分は、流路が狭められる形状である。また、送気路46のファン48より下流側の部分は、支持面13Cに対して斜め下流側へ向かって気流を吹き付け可能な角度で傾斜する状態で延設される。これにより、吹出口46bから吹き出した気流が、支持面13C上の媒体99の表面(印刷面)に沿って搬送方向Yに流れる。なお、乾燥装置40の幅方向Xの長さによっては、ファン48による送風量にばらつきが生じる虞があるため、ファン48は幅方向Xに複数並べて配置されてもよい。
【0041】
加熱機構41は、筐体42における吹出口46bと吸気口46aとの間の範囲でかつ支持面13Cに対向する部分に配置される
図1に示す金網49を有する。発熱体43の熱は金網49越しに支持面13C上の媒体99に伝えられる。また、金網49により、吹出口46bから吸気口46aに向かう気流が支持面13Cに沿って流れるように誘導される。こうすることで吹出口46bから吹き出した気流が、加熱機構41が発熱体43によって加熱する加熱領域HAを、搬送方向Yに沿って流れる。
【0042】
このため、加熱領域HAでは、発熱体43からの輻射熱と気流とにより、媒体99の表面に吐出されたインクに含有される液体の蒸発が促進される。また、媒体99の表面近傍に蒸気が滞留し飽和蒸気圧に近い拡散層が形成されると、媒体99からの液体の蒸発が阻害される。本例においては、媒体99の表面近傍の蒸気が気流によって吹き払われるので、媒体99から液体を連続的に蒸発させることができる。また、加熱領域HAでは、発熱体43からの輻射熱及び気流により、支持面13Cを有する支持面部材32が加熱される。このため、媒体99は加熱領域HAにおいて発熱体43からの輻射熱及び気流に加え、支持面13Cから伝達される熱によっても加熱される。
【0043】
また、乾燥装置40内には、加熱領域HAにおける媒体99の表面温度(以下、「媒体表面温度」ともいう。)を検出する温度センサー50が取り付けられる。本例の温度センサー50は、対象物から離れた位置からその表面温度を検出可能な非接触式のセンサーである。温度センサー50は、例えば赤外線センサーである。温度センサー50は、筐体42内における送気路46よりも内側の位置に、
図1に一点鎖線で示す矢印方向を指向する姿勢角で支持される。温度センサー50は、媒体99上の被検出領域における媒体表面温度を検出する。本例の温度センサー50は、加熱領域HAにおいて、搬送方向Yにおける温度分布中で最高温度の位置を被検出領域とする。温度センサー50の検出光の通り道は、反射板44及び金網49に形成された各開口(図示略)を通じて確保される。なお、温度センサー50は、赤外線センサー以外の非接触式センサーでもよい。
【0044】
次に、
図2を参照して印刷装置11の電気的構成について説明する。
図2に示すように、印刷装置11は制御部60(コントローラー)を備える。制御部60には、入力系として、入力部61と、乾燥装置40の温度を検出可能な温度センサー50と、印刷領域PAよりも搬送方向Yの上流側に位置する搬送経路上の所定位置で媒体99を検知可能な媒体センサー51と、媒体99の搬送量に比例する数のパルスを含むパルス信号を出力するエンコーダー52とが電気的に接続される。制御部60は、入力部61からの印刷ジョブ、温度センサー50の検出信号、媒体センサー51の検出信号、及びエンコーダー52からのパルス信号を、不図示の入力インターフェイスを介して入力する。
【0045】
また、制御部60には、出力系として、複数の駆動回路(図示せず)を介して、発熱体43、ファン48の動力源であるファンモーター71、搬送ローラー17の動力源である搬送モーター72、第1回転軸15の動力源である給送モーター73、第2回転軸16の動力源である巻取モーター74及び印刷ヘッド22が電気的に接続される。また、印刷装置11がシリアルプリンターである本例では、キャリッジ23の動力源であるキャリッジモーターが駆動回路(いずれも図示略)を介して制御部60に電気的に接続される。
【0046】
図2に示す制御部60は、CPUと、ASIC(Application Specific Integrated Circuit(特定用途向けIC))と、RAM及び不揮発性メモリー(いずれも図示略)等からなる記憶部81(メモリー)とを備える。CPUは、記憶部81に記憶された制御プログラムを実行することにより、印刷制御を含む各種の制御を司る。制御プログラムには、
図2に示すプログラムPRが含まれている。プログラムPRは、印刷装置11の電源投入後、最初の印刷動作を開始する前に、乾燥装置40を媒体99の乾燥に使用される所定の温度範囲内の目標温度に昇温するまで加熱するウォーミングアップ動作を行うための温度調整シーケンスを実行させるプログラムである。このプログラムPRは、例えば
図10にフローチャートで示されるプログラムを含む。制御部60は、電源投入後、入力部61から最初の印刷ジョブなど最初の印刷指令を受け付けると、記憶部81から読み出したプログラムPRを実行することにより温度調整シーケンスを行う。そして、制御部60は、この温度調整シーケンスにより温度センサー50が検出する媒体表面温度が所定の温度範囲で示される目標温度に昇温するまで乾燥装置40を予備加熱するウォーミングアップ動作を行う。
【0047】
また、制御部60は、温度調整シーケンスで使用する第1カウンター82及び第2カウンター83を備える。第1カウンター82は、媒体99の搬送経路上の位置(搬送位置)を把握するための計数処理を行う。また、第2カウンター83は、ウォーミングアップ動作において媒体99の搬送を開始する条件に待機時間が設定されている場合、その待機時間を計時する計時処理を行う。
【0048】
制御部60は、印刷ジョブ(印刷指令)を受け付ける。印刷ジョブ(印刷指令)は、ユーザーが印刷装置11と有線又は無線で通信可能に接続されたホスト装置(図示略)又は印刷装置11が備える操作パネル(図示略)を操作することで、指令される。印刷ジョブには、印刷制御に必要な各種のコマンドと、ユーザーにより指定された印刷モード等の印刷条件に係る印刷条件情報と、印刷画像データとが含まれる。制御部60は、ホスト装置から受け付けた印刷ジョブ中の印刷条件情報に基づき印刷モードを把握する。
【0049】
ここで、印刷モードには、印刷品質よりも印刷速度を優先する高速印刷モードと、印刷速度よりも印刷品質を優先する高精細印刷モード(低速印刷モード)と、これらの中間の印刷速度及び印刷品質が設定された普通印刷モード(中速印刷モード)とが含まれる。印刷モードは、媒体99の搬送速度を規定する印刷条件情報の1つである。制御部60は、印刷モードを基に、受け付けた印刷ジョブに基づく印刷処理における媒体99の搬送速度を取得する。
【0050】
図2に示すエンコーダー52は、搬送モーター72の回転量、すなわち搬送ローラー17により搬送される媒体99の搬送量に比例する数のパルスを含むパルス信号を出力する。制御部60は、エンコーダー52から入力したパルス信号を基に例えばパルスエッジの数を計数する第1カウンター82を備える。第1カウンター82は、印刷領域PAよりも搬送方向Yの上流側の所定位置にある媒体センサー51が、媒体99の下流側先端を検知したときの検知信号を入力すると、リセットされる。制御部60は、エンコーダー52から入力される例えば位相の異なるA相,B相のパルス信号を基に媒体99が搬送されている向き(搬送向き)が、媒体99の搬送方向Yの下流側(正方向)であるか、上流側(逆方向)であるかを判定する。そして、制御部60は、搬送向きが下流側であれば、第1カウンター82の計数値を「1」ずつ加算し、搬送向きが上流側であれば、第1カウンター82の計数値を「1」ずつ減算する計数処理を行う。制御部60は、媒体99の先端が媒体センサー51の被検知位置に達したときの位置を基準(例えば原点)とする媒体99の搬送経路上の搬送位置を、第1カウンター82の計数値から把握する。なお、第1カウンター82は、一例としてASICが内蔵する電子回路により実現されるが、ソフトウェアにより構成されてもよい。
【0051】
また、制御部60は、発熱体43を通電する電流値を制御して発熱体43の加熱温度を制御する。また、制御部60は、ファンモーター71の回転速度を制御する。また、制御部60は、搬送系の各モーター72〜74の回転方向及び回転速度を制御する。さらに制御部60は、印刷ジョブに含まれる印刷画像データを出力し、印刷ヘッド22に液体(例えばインク)を吐出させて媒体99上に印刷画像データに基づく画像等を印刷させる。
【0052】
次に、
図3を参照して乾燥装置40の加熱領域HAにおける温度分布について説明する。
図3に示すグラフにおいて、横軸が媒体99における搬送方向Yの位置を示す搬送位置であり、縦軸が媒体表面温度Tsである。なお、横軸は、
図3において左方向が搬送方向Yになっている。
【0053】
また、
図3に示すグラフにおいて、搬送位置H1は第1の発熱体43Aと対向する位置であり、搬送位置H2は第2の発熱体43Bと対向する位置である。また、加熱領域HAの上流端位置が加熱開始位置Hin(搬入位置)、加熱領域HAの下流端位置が加熱終了位置Hout(搬出位置)である。
【0054】
図3に示すように、加熱領域HAにおける温度分布は、2つの発熱体43A,43Bと対向する2つの搬送位置H1,H2に2つの温度ピークを有する。加熱開始位置Hinから加熱が開始された媒体99の媒体表面温度Tsは、まず第1の発熱体43Aと対向する搬送位置H1で1つ目の温度ピークになり、続いて第2の発熱体43Bと対向する搬送位置H2で2つ目の温度ピークになる。搬送位置H2では、第1の発熱体43Aで加熱された領域が更に第2の発熱体43Bにより加熱されるため、2つ目の温度ピークは1つ目の温度ピークよりも高温である。このため、加熱領域HA内の媒体表面温度Tsは、搬送位置H2で最高温度となる。
【0055】
温度センサー50の被検出領域(読取位置)は、第2の発熱体43Bと対向する搬送位置H2であり、温度センサー50は媒体99の最高表面温度を媒体表面温度Tsとして検出する。そして、乾燥装置40は、最高温度である媒体表面温度Tsが目標温度Tpとなるように制御部60により温度制御される。
【0056】
また、
図3に示すグラフにおいて、上限温度TLは、媒体99に熱ダメージを与えない限界の加熱温度である。目標温度Tp(最高温度)は、上限温度TL未満の値に設定される。目標温度Tpは、媒体99の材質に応じた上限温度TLを基にそれ未満の温度に設定される。例えば媒体99が用紙である場合、上限温度TLは例えば100〜120℃の範囲内の所定値(一例として110℃)とされ、目標温度Tpは例えば80〜100℃の範囲内の所定値(一例として90℃)に設定される。
【0057】
また、媒体99が加熱領域HAを通過する際の媒体表面温度Tsの昇温プロファイルは、媒体99の搬送速度に依存する。乾燥装置40の出力が同じでも、媒体99の搬送速度が違えば、被検出領域H2における媒体表面温度Tsは異なる。このため、温度センサー50を用いて、被検出領域H2における媒体99上の領域の表面温度(媒体表面温度Ts)を検出することで、制御部60は、媒体99の搬送速度に関わらず、媒体表面温度Tsを目標温度Tpにするように、乾燥装置40を温度制御することが可能である。よって、制御部60は、媒体99の搬送速度が異なっても、媒体表面温度Tsを目標温度Tpに揃えられる。
【0058】
ここで、後述するウォーミングアップ動作において、媒体99を下流側へ向かう搬送(正搬送)と上流側へ向かう搬送(逆搬送)とを含む往復搬送を行うと、媒体99上の同じ領域が加熱領域HAに滞留する総時間が長くなり、媒体99上の温度センサー50の検出対象とならない一部の領域が目標温度Tpを超えることが起こりうる。しかし、媒体99の表面温度が上限温度TL以下であれば、媒体99が熱ダメージを受ける虞は低減される。このため、ウォーミングアップ動作で媒体99が加熱領域HAに滞留する総時間が長くなっても、ウォーミングアップ動作の対象として使用される媒体99の下流側先端部分(例えば50〜200cmの範囲内の値)の表面温度が一時的にでも上限温度TLを超えなければ、媒体99は熱ダメージによる損傷は防止できる。この点を考慮して、媒体99の加熱対象領域の全域で表面温度が上限温度TLを超えないことを条件とし、媒体99を往復搬送させる範囲(往復搬送長さ)及び総加熱時間などを設定している。例えば媒体99の表面に温度測定用の熱電対を搬送方向Yに位置の異なる複数箇所に取着した媒体99を正逆搬送し、媒体99の表面温度が複数の測定点の全てで上限温度TLを超えない搬送条件(往復搬送長さ及び総加熱時間等)を割り出し、その割り出した搬送条件を満たす範囲内でウォーミングアップ動作における媒体99の搬送制御を行う。
【0059】
図2に示す制御部60は、温度センサー50の検出信号に基づく媒体表面温度Ts(検出温度)が、目標温度に昇温して所定の温度範囲内の値に安定するまで、乾燥装置40を温度制御により予備加熱するウォーミングアップ動作を行う。ここで、所定の温度範囲は、目標温度Tpに対する許容値αを用いて「Tp±α℃」に設定されている。制御部60は、温度センサー50の検出温度(媒体表面温度Ts)が、この所定の温度範囲(Tp±α℃)内に所定時間(例えば2〜20秒の範囲内の値)以上に亘り留まれば、媒体99の表面温度Tsが目標温度に達したと判断する。制御部60は、この所定時間を測定するための計時用のカウンター(図示略)も備えている。
【0060】
次に、
図4〜
図9を参照して、ウォーミングアップ動作について説明する。
図4は、印刷開始前にユーザーが媒体99をセットするセット位置を示す。ユーザーは、ロール体R1(
図1参照)から引き出した媒体99を、搬送ローラー17を経由させる。そして、ユーザーは、搬送台31の支持面13Cに沿って乾燥装置40の加熱領域HAよりも所定長さだけ下流側となるセット位置Aに媒体99の下流側の端部99a(先端)が位置するようにセットする。なお、セット位置Aは、媒体99上の領域が温度センサー50の被検出領域にあり媒体表面温度Tsを検出可能な位置であればよい。例えば
図4に示すセット位置Aと被検出領域H2との間の位置にセット位置を設定してもよい。なお、ユーザーが印刷指示を行うと、その印刷指令を受け付けた制御部60が、媒体99の下流側の端部99aがセット位置Aに達するまで媒体99を搬送させる構成とすれば、ユーザーは、媒体99の下流側の端部99aが乾燥装置40よりも上流側に位置する状態に、媒体99をセットすることもできる。
【0061】
制御部60は、乾燥装置40を温度制御して媒体表面温度Tsを所定の温度範囲まで上昇させるウォーミングアップ動作を開始し、このウォーミングアップ動作において温度センサー50による被検出領域H2に媒体99上の領域が位置する所定の範囲RAで媒体99を搬送させる。すなわち、ウォーミングアップ動作において媒体99の下流側の端部99aが、温度センサー50による被検出領域H2より下流側に位置する所定の範囲RA(
図7参照)で、媒体99を搬送させる。媒体99の下流側の端部99aが被検出領域H2より下流側に位置する所定の範囲では、被検出領域H2に媒体99が常に位置し、温度センサー50は媒体99を常に検出可能である。
【0062】
制御部60は、印刷処理を指示する印刷指令(印刷ジョブ等)を受けたときに、ウォーミングアップ動作を開始する。制御部60は、温度センサー50の検出温度を基に媒体表面温度Tsが所定の温度範囲まで上昇したと検出したとき、ウォーミングアップ動作を終了する。また、制御部60は、ウォーミングアップ動作を終了した後、乾燥装置40の出力を所定の範囲に維持した状態で、媒体99の下流側の端部99aを加熱領域HAより上流側に搬送させる。詳しくは、制御部60は、媒体99をその下流側の端部99aが
図8に示す印刷開始位置P1に達するまで上流側に搬送させる。そして、制御部60は、媒体99を、加熱領域HAよりも上流側の所定位置の一例としての印刷開始位置P1に端部99aを位置させるまで搬送すると、所定処理の一例として印刷処理を開始する。
【0063】
また、制御部60によりウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が開始される条件(媒体搬送開始条件)が予め設定されてもよい。媒体搬送開始条件の設定方法には、例えば、次の2つがある。1つは、温度センサー50により検出される媒体表面温度Tsを媒体搬送開始条件として設定する方法である。この場合、ウォーミングアップ動作による目標温度である所定の温度範囲より低い特定温度Tcが予め設定され、制御部60は、媒体表面温度Tsが特定温度Tc以上であるときに、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を開始する。また、他の1つは、ウォーミングアップ動作の開始からの経過時間を媒体搬送開始条件として設定する方法である。この場合、制御部60は、ウォーミングアップ動作の開始から所定時間が経過した後に、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を開始する。
【0064】
また、制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送として、少なくとも、印刷指令(印刷ジョブ等)に基づく速度での搬送を行うことが望ましい。すなわち、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送のうち、1回の搬送は、印刷指令(印刷ジョブ等)で指定された印刷モードでの印刷処理に適用される媒体99の搬送速度に対応する速度での搬送であることが好ましい。本例では、制御部60は、印刷ジョブで指定された印刷モードでの搬送速度と同じ搬送速度での媒体99の搬送を行う。詳しくは、印刷ジョブで指定された印刷モードが高速印刷モードであるときは、制御部60は高速印刷モードに対応する搬送速度Vhで媒体99を搬送する。また、印刷ジョブで指定された印刷モードが普通印刷モードであるときは、制御部60は普通印刷モードに対応する搬送速度Vmで媒体99を搬送する。さらに印刷ジョブで指定された印刷モードが高精細印刷モードであるときは、制御部60は高精細印刷モードに対応する搬送速度Vlで媒体99を搬送する。ここで、各搬送速度Vh,Vm,Vlは、Vh>Vm>Vlの大小関係にある。なお、この実施形態では、3つの印刷モードが用意され、印刷モードに対応する搬送速度が3種類の例を示したが、さらに多くの印刷モードが用意され、印刷処理に適用される媒体99の搬送速度が3種類よりも多くてもよい。この場合も、印刷ジョブで指定された印刷モードに応じた搬送速度に対応する速度でウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われる。また、印刷モードが2種又は1種で、印刷処理に適用される媒体99の搬送速度が2種又は1種であってもよい。
【0065】
制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送として、下流側へ向かう搬送(第1搬送)と、下流側と反対側の上流側へ向かう搬送(第2搬送)とを行う。つまり、制御部60は、ウォーミングアップ動作で、媒体99の下流側の端部99aが、被検出領域H2よりも下流側に位置する範囲RA内に位置する状態で、媒体99を下流側に向かう第1搬送(正搬送)と、上流側に向かう第2搬送(逆搬送)とを含む往復搬送(正逆搬送)を行う。制御部60は、媒体99が搬送される搬送向きが下流側であるか上流側であるかを判定し、その搬送向きの判定結果をフラグの値として記憶部81に記憶する。
【0066】
この媒体99の往復搬送の仕方には、媒体99の往復搬送の範囲の違いによって、以下に示す(A)
図5に示す第1の例と、(B)
図6に示す第2の例との2例がある。
(A)制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送で、所定のタイミングで加熱領域HAの上流側端部(例えば加熱開始位置Hin)に位置する媒体99上の領域を、加熱領域HA(つまり加熱終了位置Hout)よりも下流側の位置まで搬送する。
図5に示すように、媒体99の下流側の端部99aがセット位置A(ウォーミングアップ動作における搬送開始位置)にあるタイミングで加熱領域HAの上流側端部に位置する媒体99上の領域を、制御部60は加熱領域HAよりも下流側の位置まで搬送する。つまり、
図5に示すように、媒体99は、その下流側の端部99aが加熱領域HAよりも下流側に位置するセット位置Aにある状態から、端部99aが被検出領域H2よりも下流側に位置する往復範囲RAの下流側の限界位置である目標位置Bに位置する状態まで搬送される。端部99aがセット位置Aから目標位置Bまで移動するときに媒体99が搬送される長さを示す搬送長さ(搬送経路におけるセット位置Aと目標位置Bとの間の長さ)F1は、加熱領域HAの搬送方向Yにおける長さFHよりも長い(F1>FH)。これにより、端部99aがセット位置Aにあるときに加熱領域HAにある媒体99上の全領域が、加熱領域HAの外へ、一旦出る。また、
図7に示す往復範囲RAの長さは、加熱領域HAの長さFHよりも長い。このため、媒体99を往復範囲RA内で、往復搬送させるときにも、媒体99の搬送向きの切換えタイミングで加熱領域HAにある媒体99上の全領域が加熱領域HAの外へ一旦出る。例えば
図3に示す温度分布が比較的一様で加熱領域HAにあること自体が熱ダメージによる損傷に繋がる場合に特に有効である。なお、往復範囲RAの下流側の限界位置である目標位置Bは、媒体99の下流側の端部99aが床面に接触しない範囲に設定されることが好ましい。
【0067】
(B)制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送で、媒体99の下流側への搬送が開始されるときに、加熱中に媒体表面温度Tsが最高になる位置H2にある媒体99上の領域を、加熱領域HAから外れた位置まで搬送させる。
図6に示すように、ウォーミングアップ動作で媒体99は、下流側の端部99aがセット位置Aにある状態から、端部99aが被検出領域H2よりも下流側に位置する往復範囲RAの下流側の限界位置である目標位置Bまで搬送される。端部99aがセット位置Aから目標位置Bまで移動するときに媒体99を搬送される長さを示す搬送長さ(搬送経路におけるセット位置Aと目標位置Bとの間の長さ)F2は、加熱領域HAの搬送方向Yにおける長さFHよりも短い(F2<FH)。また、
図6に示すように、搬送長さF2は、最高温度になる位置H2と加熱領域HAの下流端位置(
図2に示す加熱終了位置Hout)との間の距離L1よりも長い(F2>L1)。これにより、制御部60は、媒体99の下流側への搬送が開始されるときに加熱中に媒体表面温度Tsが最高になる位置H2にある媒体99上の領域を、加熱領域HAから外れた位置まで搬送させる。また、
図7に示す往復範囲RAの長さは、
図6に示す距離L1よりも長い。このため、媒体99を往復搬送させるときにも、媒体99の搬送向きを上流側から下流側へ切り換えるタイミングで最高温度の位置H2にある媒体99上の領域が加熱領域HAの外へ一旦搬送される。この場合、
図6に示す搬送長さF2は、
図5に示す搬送長さF1よりも短い。例えば
図3に示す温度分布に比較的大きな温度ピークがあり、加熱領域HA内での最低温度と最高温度との温度差が大きく、加熱領域HA内でも温度ピークを避ければ媒体99の熱ダメージによる損傷を回避しやすい場合に特に有効である。
【0068】
また、制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送において、下流側へ向かう第1搬送における第1搬送速度V1よりも、上流側へ向かう第2搬送における第2搬送速度V2が大きい。ここで、第1搬送速度V1は、印刷処理における媒体99の搬送速度に対応する速度である。特に本例では、第1搬送速度V1は印刷処理における媒体99の搬送速度と同じ速度であり、第1搬送速度V1は印刷指令で指定された印刷モードに対応する速度に相当する。本例では第1搬送速度V1より第2搬送速度V2が大きいが、第1搬送速度V1と第2搬送速度V2とが同じ速度であってもよく、また、第1搬送速度V1より第2搬送速度V2が小さくてもよい。
【0069】
次に、乾燥装置40を備えた印刷装置11の作用について説明する。ユーザーは、まず印刷装置11の電源を投入する。電源が投入されると、制御部60は、記憶部81からプログラムPRを読み出して、プログラムPRを実行する。ユーザーは、印刷装置11に印刷を指示する前に、印刷装置11に媒体99をセットする。ユーザーは、ロール体R1から引き出した媒体99を、搬送ローラー17及び加熱領域HAを経由させて、その下流側の端部99aがセット位置Aにある状態に媒体99をセットする。このセット状態では、媒体99は下流側の端部99aが、加熱領域HAにおける被検出領域H2よりも下流側に位置し、媒体99が温度センサー50の被検出領域に位置する。このため、ウォーミングアップ動作の開始時に媒体99がそのセット位置Aに停止した状態であっても、温度センサー50は媒体表面温度Tsを検出できる。
【0070】
こうして媒体99のセットを終えると、次にユーザーは不図示のホスト装置又は操作パネルを操作して、印刷対象の画像データを選択し、必要な印刷条件を設定した後、印刷の開始を指示する。印刷装置11内の制御部60は、例えばホスト装置からユーザーに指示された印刷ジョブ等の印刷指令を受け付ける。
【0071】
以下、
図10を参照して、制御部60がプログラムPRに基づいて実行する温度調整シーケンスについて説明する。
まずステップS11では、制御部60は、印刷指令を受け付けたか否かを判断する。制御部60は、印刷指令を受け付ければステップS12に進み、印刷指令を受け付けていなければ、当該ルーチンを終了する。
【0072】
ステップS12では、制御部60は、ウォーミングアップ動作を開始する。すなわち、制御部60は、発熱体43の加熱を開始するとともに、ファン48の駆動を開始する。
ステップS13では、制御部60は、温度センサーの検出温度に基づく加熱制御を行う。加熱制御では、次の3つの制御方法のうちいずれか1つを採用する。1つめは、発熱体43の通電電流を一定にしつつ、ファン48の回転速度(風速)を制御する方法、2つめは、発熱体43の通電電流とファン48の回転速度(風速)との両方を制御する方法、3つめは、ファン48の回転速度(風速)を一定にしつつ、発熱体43の通電電流を制御する方法である。加熱制御では、制御部60は、温度センサー50が検出した媒体表面温度Tsを、予め設定された昇温プロファイルに従う目標値に近づけるフィードバック制御を行い、媒体表面温度Tsを目標温度である所定の温度範囲(Tp±α℃)まで上昇させる温度制御を行う。この加熱制御は、ウォーミングアップ動作の1つとして行われる。例えば
図3に示すグラフにおいてウォーミングアップ動作開始時は、乾燥装置40の加熱領域HAの温度分布は、加熱前であるため、同グラフに二点鎖線で示すように一様に室温RTとなっている。そして、このステップで、加熱制御が所定の制御サイクルごとに実行されることにより、加熱領域HAにおける被検出領域H2での媒体表面温度Tsが、目標温度である所定の温度範囲(Tp±α℃)に達するまで昇温される。
図3のグラフにおいて実線は、被検出領域H2での媒体表面温度Tsが目標温度である所定の温度範囲(Tp±α℃)に達した状態を示す。
【0073】
ステップS14では、制御部60は、媒体搬送開始条件が成立したか否かを判断する。ここで、媒体搬送開始条件とは、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を開始するための条件である。この媒体搬送開始条件の設定は必須ではないが、節電等の観点から採用されることが好ましく、次の2つの条件がある。
【0074】
1つめの条件は、温度センサー50により検出される媒体表面温度Tsが特定の閾値以上であることである。この条件による制御では、制御部60は、温度センサー50により検出される媒体表面温度Tsが特定温度Tc以上であるときに、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を行う。特定温度Tcは、所定の温度範囲の下限Tp−α℃よりも低い温度であり、室温RTよりも高い温度である(RT<Tc<Tp−α)。よって、媒体99が乾燥装置40で加熱されても、媒体表面温度Tsが特定温度Tcに達する前はウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われず、媒体表面温度Tsが特定温度Tcに達してから、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われる。制御部60は、温度センサー50が検出した媒体表面温度Tsを逐次取得する。そして、制御部60は、媒体表面温度Tsが特定温度Tcより低ければ、媒体搬送開始条件が不成立であると判断し、その媒体表面温度Tsが特定温度Tc以上であれば、媒体搬送開始条件が成立したと判断する。
【0075】
2つめの条件は、ウォーミングアップ動作の開始からの経過時間が所定時間以上であることである。この条件による制御では、制御部60は、ウォーミングアップ動作の開始から所定時間が経過すると、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を行う。所定時間として設定される時間は、例えば、媒体表面温度Tsがその下限温度よりも所定温度Δβだけ低い温度(Tp−α−Δβ)に達することが予備実験又は計算により推定される時間である。本例の所定時間は、例えば1〜5分の間の時間に設定される。例えば目標温度に達するまでの所要時間の10〜80%の範囲内の時間に設定されることが好ましい。また、開始温度(例えば室温)から目標温度までの温度差ΔTの10〜80%の範囲内の所定の温度差を、開始温度に加えた温度に達するまでの所要時間が設定されることが好ましい。制御部60は、第2カウンター83によりウォーミングアップ動作開始時(例えば加熱開始時)からの経過時間を計時する。そして、制御部60は、第2カウンターが計時した経過時間が所定時間より短ければ、媒体搬送開始条件が不成立であると判断し、その経過時間が所定時間以上であれば、媒体搬送開始条件が成立したと判断する。
【0076】
媒体搬送開始条件が不成立である場合(ステップS14で否定判定)、ステップS13に戻り、制御部60は、温度センサー50の検出温度(媒体表面温度Ts)に基づく加熱制御を継続する。
【0077】
そして、制御部60は、ステップS14で媒体搬送開始条件が成立するまで、ステップS13の処理を繰り返し実行する。このため、媒体搬送開始条件が成立するまでは、媒体99が
図4に示すセット位置に停止した状態のまま、媒体表面温度Tsを目標温度まで昇温させる乾燥装置40の温度制御が進められ、加熱領域HAに位置する媒体99上の領域が加熱されることで、媒体表面温度Tsは徐々に上昇する。
【0078】
温度センサー50により検出される媒体表面温度Tsが特定の閾値以上であることが条件として設定される場合、制御部60は、媒体表面温度Tsが特定温度Tc以上であることを検出したときに、媒体搬送開始条件が成立したと判断する(ステップS14で肯定判定)。また、ウォーミングアップ動作の開始からの経過時間が所定時間以上であることが条件として設定される場合、ウォーミングアップ動作が開始してから所定時間が経過したとき、制御部60は、媒体搬送開始条件が成立したと判断する(ステップS14で肯定判定)。そして、制御部60は、媒体搬送開始条件が成立したと判断すれば(ステップS14で肯定判定)、ステップS15に進む。なお、媒体搬送開始条件が設定されていない構成の場合は、ウォーミングアップ動作の開始と共にステップS15が行われる。
【0079】
ステップS15では、制御部60は、搬送向きを判定する。制御部60は、例えば記憶部81のフラグの値を基に、搬送向きが下流側であるか上流側であるかを判断する。制御部60は、搬送向きが上流側であればステップS16に進み、下流側であればステップS18に進む。本例において、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送開始前の段階では、フラグの初期値は下流側を示す値(例えば「1」)である。したがって、制御部60は、ステップS16に進む。
【0080】
ステップS16では、制御部60は、媒体99を下流側へ向かって第1搬送速度で搬送する。本実施形態では、媒体99を下流側へ向かって搬送する第1搬送における媒体99の搬送速度と、上流側へ向かって搬送する第2搬送における媒体99の搬送速度とが異なる。媒体99の下流側の端部99aを被検出領域H2よりも下流側に位置する範囲RA(
図7参照)で往復搬送させる場合、下流側へ向かう第1搬送から上流側へ向かう第2搬送へ切り換える直前に加熱領域HAから下流側の外へ出た領域が、第2搬送への切り換わりにより、直ぐに加熱領域HAに入り、再び最高温度領域に至る。第2搬送が、第1搬送と同じ比較的低速な第1搬送速度V1(印刷処理における媒体99の搬送速度に対応する速度)で行われると、媒体99上に過度に加熱される領域が生じる虞がある。このため、第2搬送時の第2搬送速度V2は、第1搬送時の第1搬送速度V1よりも高速な速度に設定(V1<V2)され、第2搬送の際に媒体99は最高温度の位置H2を高速で通過する。したがって、第1搬送速度と第2搬送速度とが異なることにより媒体99の熱ダメージが低減できる。なお、この場合、媒体99の下流側の端部99aを第2搬送(逆搬送)で高速に復帰位置Cまで搬送し、印刷処理における媒体99の搬送速度に対応する第1搬送速度V1で媒体99を搬送する第1搬送(正搬送)の過程で、目標温度に到達したか否かを判定することが好ましい。
【0081】
ステップS17では、制御部60は、媒体99の下流側の端部99aが
図5又は
図6に示す目標位置Bに達したか否かを判断する。ここで、媒体99の搬送位置は、エンコーダー52からのパルス信号のパルスエッジを計数する第1カウンター82の計数値から把握される。制御部60は、第1カウンター82の計数値から把握した搬送位置を基に媒体99の下流側の端部99aが目標位置Bに達したか否かを判断する。制御部60は、端部99aが目標位置Bに達していなければステップS21に進み、端部99aが目標位置Bに達すればステップS20に進む。
【0082】
よって、媒体99を下流側へ向かって搬送する第1搬送中は、ステップS21で目標温度に到達したか否かを判断し、その後、ステップS13に戻り、ステップS13〜S17,S21の各処理を繰り返す。こうして制御部60は、媒体表面温度Tsが目標温度に達するか(S21)、媒体99の端部99aが目標位置Bに達するまで、媒体99を下流側へ向かって搬送する。そして、制御部60は、ステップS17において媒体99の端部99aが目標位置Bに達したと判断すると、ステップS20に進む。
【0083】
ステップS20では、制御部60は、搬送向きを切り換える。制御部60は、搬送系のモーター72,73の回転を正転から逆転に切り換え、搬送向きを下流側から上流側へ切り換える。このとき、制御部60は、記憶部81のフラグを下流側の値(例えば「1」)から上流側の値(例えば「0」)に変更する。
【0084】
こうして媒体99が目標位置Bに達しても媒体表面温度Tsが目標温度に到達していなければ(S21で否定判定)、ステップS13に戻って加熱制御を継続し、ステップS14で媒体搬送開始条件が成立中のためステップS15に進む。そして、ステップS15では、制御部60は、記憶部81のフラグの値から搬送向きが上流側であると判定するので、ステップS18に進む。
【0085】
ステップS18では、制御部60は、モーター72,73を制御して、媒体99を上流側へ向かって第2搬送速度で逆搬送させる。制御部60は、こうして媒体99は
図5、
図6に示す目標位置Bで搬送向きを切り換えた後、上流側へ向かって復帰位置Cまで逆搬送する。
【0086】
ステップS19では、制御部60は、媒体99の逆搬送の結果、媒体99の下流側の端部99aが
図7に示す復帰位置Cに達したか否かを判断する。詳しくは、制御部60は、第1カウンター82の計数値から把握した搬送位置に基づき、媒体99の下流側の端部99aが復帰位置Cに達したか否かを判定する。制御部60は、端部99aが復帰位置Cに達していなければステップS21に進み、端部99aが復帰位置Cに達すればステップS20に進む。
【0087】
よって、媒体99を上流側へ向かって搬送する第2搬送中は、ステップS21で目標温度に到達したか否かを判断し、その後、ステップS13に戻り、ステップS13〜S15,S18,S19,S21の各処理を繰り返す。こうして制御部60は、媒体表面温度Tsが目標温度に達するか(S21で肯定判定)、媒体99の端部99aが復帰位置Cに達する(S19で肯定判定)まで、媒体99を上流側へ向かって搬送する。そして、制御部60は、ステップS19において媒体99の端部99aが復帰位置Cに達したと判断すると、ステップS20に進む。なお、本例においては、ステップS19にて否定判定がなされたとき、制御部60はステップS21に進むが、先に述べたとおり、制御部60が目標温度に到達したか否かの判定を、第1搬送速度V1で媒体99を搬送する第1搬送(正搬送)の過程でのみ行う構成であってもよい。この場合、ステップS19にて否定判定がなされたとき、制御部60は、ステップS18に戻り、第2搬送を継続する。
【0088】
ステップS20では、制御部60は、搬送向きを切り換える。制御部60は、搬送系のモーター72,73の回転を逆転から正転に切り換え、搬送向きを上流側から下流側へ切り換える。このとき、制御部60は、フラグを上流側の値(例えば「0」)から下流側の値(例えば「1」)に変更する。
【0089】
こうして媒体99が復帰位置Cに達しても媒体表面温度Tsが目標温度に到達していなければ(S21で否定判定)、ステップS13に戻って加熱制御を継続し、ステップS14で媒体搬送開始条件が成立中のためステップS15に進む。そして、ステップS15では、制御部60は、フラグの値から搬送向きが下流側であると判定するので、ステップS17に進んで、媒体99を下流側へ向かって第1搬送速度V1で目標位置Bまで搬送する。
【0090】
こうして制御部60は、以下同様に、媒体99を下流側へ向かって搬送する第1搬送と、上流側へ向かって搬送する第2搬送とを繰り返す。この結果、
図7に示すように、媒体99の下流側の端部99aが被検出領域H2よりも下流側に位置する範囲RA、つまり位置B〜Cの間の範囲で、媒体99を搬送方向Yに往復移動させる。
【0091】
この媒体99を往復移動させている間、制御部60は加熱制御を継続し、媒体表面温度Tsが上昇して目標温度に到達する。制御部60は、媒体表面温度Tsが所定の温度範囲(Tp±α℃)にある状態が所定の時間に亘り継続したことをもって、目標温度に達したと判断する。そして、制御部60は、媒体表面温度Tsが目標温度に到達したと判断すると、ステップS22に進む。なお、このとき、加熱領域HAには、
図3に実線で示すような温度分布が形成される。
【0092】
ステップS22では、制御部60は、乾燥装置40の出力を維持し、ウォーミングアップ動作を終了する。すなわち、制御部60は、乾燥装置40の温度制御に用いる制御量を目標温度に到達したときの値に維持し、これにより、乾燥装置40の出力を所定の範囲に維持する。制御部60が用いる制御量としては、発熱体43の通電電流値、及びファン48の動力源であるファンモーター71の回転速度を決める電流指令値が挙げられる。乾燥装置40が、媒体表面温度Tsが目標温度に達したときの出力に維持されることにより、本例では発熱体43の発熱温度が維持されるとともにファンモーター71の回転速度が維持される。乾燥装置40の出力が維持されることにより、その後、媒体99が印刷処理時に第1搬送速度V1で加熱領域HAを搬送された場合、媒体99を媒体表面温度Tsが目標温度(Tp±α℃)になるまで加熱することができる。
【0093】
ステップS23では、制御部60は、媒体を印刷開始位置まで逆搬送する。すなわち、制御部60は、搬送系のモーター72,73を逆転駆動させ、媒体99を逆搬送させる。制御部60は、端部99aが
図8に示す印刷開始位置P1(頭出し位置)に位置するまで逆搬送し、端部99aを印刷開始位置P1に位置させる。
【0094】
ステップS24で、制御部60は、印刷を開始する。すなわち、制御部60は、先に受け付けた印刷指令(印刷ジョブ等)に基づく印刷を開始する。印刷ヘッド22が媒体99に向かって液体を吐出することにより媒体99に印刷画像データに基づく画像等が印刷される。このとき、印刷機構21がシリアル印刷方式である場合、印刷装置11では1走査分の印刷動作と媒体99の次の印刷位置までの搬送動作とが交互に行われ、媒体99は搬送方向Yの下流側へ向かって所定の搬送量ずつ間欠的に搬送される。このときの搬送速度は、ウォーミングアップ動作時の第1搬送速度V1に対応する速度(例えば速度V1)である。なお、印刷機構21がライン印刷方式である場合、媒体99は印刷モードに応じた一定速度で搬送される。このときの搬送速度は、ウォーミングアップ動作時の第1搬送速度V1に対応する速度(例えば速度V1)である。
【0095】
そして、印刷済みの媒体99は、印刷ユニット20よりも下流側の位置において、搬送台31の支持面13C(搬送面)に沿って搬送される。支持面13Cに沿って搬送される過程で、媒体99は乾燥装置40の加熱領域HAを通過する。ここで、ウォーミングアップ動作を終了してから、媒体99が搬入されるまでの間、乾燥装置40は、ウォーミングアップ動作の結果得られた目標温度に到達したときの出力に維持されている。そのため、媒体99が印刷開始位置P1へ逆搬送されたことにより、温度センサー50の被検出領域H2から媒体99が無くなり、温度センサー50が支持面13C上の領域を検出することになっても、乾燥装置40は媒体99の乾燥に適した出力に維持される。このため、媒体99は、乾燥装置40の加熱領域HAを通る過程で、媒体表面温度Tsが目標温度である所定の温度範囲(Tp±α℃)又は乾燥に適した温度になるまで加熱される。
【0096】
そして、印刷が開始されてから媒体99の下流側の端部99aが温度センサー50の被検出領域H2に到達した以後、制御部60は、乾燥装置40の温度制御を再開する。よって、印刷中においては、媒体表面温度Tsは、目標温度である所定の温度範囲(Tp±α℃)に維持される。このとき、液体が付着した状態の媒体99の表面温度Tsが目標温度の所定の温度範囲(Tp±α℃)に維持されるように、乾燥装置40が温度制御される。加熱領域HAでは、発熱体43からの輻射熱と、吹出口46bから吹き出す加熱気流(温風)とによって、媒体99に付着又は浸透した液体(インク)の蒸発が促進される。この結果、媒体99は加熱領域HAを搬送される過程で効果的に乾燥する。なお、印刷開始後、媒体99の乾燥を終えた下流側の端部は、搬送台31の下流端から鉛直下方に垂れ下がる。ユーザーが、垂れ下がった媒体99の下流側の端部を第2回転軸16に装着された不図示の芯材に巻き付けることで、以後、媒体99はロール体R2として巻き取られる。
【0097】
以上詳述した実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)印刷装置11(媒体処理装置の一例)は、媒体99を搬送する搬送機構14(搬送部の一例)と、媒体99を加熱する乾燥装置40(加熱部の一例)と、乾燥装置40による加熱領域HAにおける媒体99の表面温度Tsを検出する温度センサー50と、温度センサー50により検出される媒体表面温度Tsに基づき乾燥装置40を制御する制御部60とを備える。制御部60は、乾燥装置40を制御して媒体表面温度Tsを所定の温度範囲まで上昇させるウォーミングアップ動作を開始し、そのウォーミングアップ動作において温度センサー50による被検出領域H2に媒体99が位置する所定の範囲RAで媒体99を搬送させる。すなわち、制御部60は、ウォーミングアップ動作において媒体99における搬送方向Yの下流側の端部99aが温度センサー50による被検出領域H2より下流側に位置する所定の範囲RAで、媒体99を搬送させる。よって、媒体99の加熱に適した温度まで乾燥装置40を予備加熱するウォーミングアップ動作において、加熱対象として使用した媒体99の熱ダメージによる損傷を防止しつつ、媒体99の表面温度に基づく乾燥装置40の温度制御を適切に行うことができる。
【0098】
(2)制御部60は、印刷処理(所定処理の一例)を指示する印刷指令(処理指令の一例)を受けたときに、ウォーミングアップ動作を開始し、媒体表面温度Tsが所定の温度範囲まで上昇したと検出したとき、ウォーミングアップ動作を終了し、印刷処理を開始する。よって、ユーザーが印刷処理を指示すると、その印刷指令を受け付けた制御部60は、ウォーミングアップ動作を開始する。制御部60は、乾燥装置40を温度制御して、媒体表面温度Tsが所定の温度範囲まで上昇すると、ウォーミングアップ動作を終了し、印刷処理を開始する。このため、ユーザーは印刷処理を指示すれば、乾燥装置40が媒体表面温度Tsを適切な所定の温度範囲に加熱できる状態になった段階で、媒体99に対する印刷処理を開始させることができる。
【0099】
(3)ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送は、印刷処理における媒体99の搬送速度に対応する速度での媒体99の搬送を含む。このため、ウォーミングアップ動作ではその後実施される印刷処理における媒体99の搬送速度に対応する速度(例えば同速度V1)で媒体99が搬送される。よって、印刷処理が行われるときに媒体99を乾燥装置40により適切な媒体表面温度Tsに加熱することができる。よって、印刷処理における媒体99の搬送速度によらず、媒体表面温度Tsが所定の温度範囲に達したときの温度のばらつきを小さく抑えることで、媒体表面温度Tsの精度が向上し、媒体99を適切に乾燥させることができる。
【0100】
(4)制御部60は、ウォーミングアップ動作を終了した後、乾燥装置40の出力を所定の範囲に維持した状態で、媒体99の下流側の端部99aを加熱領域HAより上流側に搬送させ、加熱領域HAより上流側への搬送が終了した後、印刷処理を開始する。よって、ウォーミングアップ動作を終了した後、媒体99が温度センサー50の被検出領域H2から退避しても、乾燥装置40の出力が、媒体表面温度Tsが目標温度に達したときの所定の範囲に維持される。この結果、乾燥装置40が支持面13Cの表面温度に基づき温度制御されるなど、乾燥装置40の不適切な温度制御による誤作動を防ぐことができる。
【0101】
(5)制御部60は、温度センサー50により検出される媒体表面温度Tsが所定の温度範囲より低い特定温度Tc以上であるときに、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を行う。すなわち、媒体99を乾燥装置40で加熱しても媒体表面温度Tsが特定温度Tcに達する前はウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われず、媒体表面温度Tsが特定温度Tcに達してからウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われる。よって、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送量を減らし節電に寄与できる。この場合、媒体99の搬送開始タイミングを外部環境に左右されない温度センサー50の検出温度(実温度)に基づき決めるため、例えば媒体99の搬送開始タイミングを待機時間で決める構成に比べ、搬送開始タイミングが早すぎたり遅すぎたりすることを回避でき、節電効果及び精度の高い温度制御を実現できる。また、例えば搬送中の媒体99は、搬送速度に応じた風を受けて支持面13Cから浮き上がりやすく、その浮き上がりが温度センサー50による媒体表面温度Tsの検出誤差を生む場合がある。しかし、媒体表面温度Tsが特定温度Tcに達するまでは媒体99は基本的に被検出領域H2に位置する状態で停止しているので、媒体99の浮きによる温度検出誤差の影響を排除しやすい。
【0102】
(6)制御部60は、ウォーミングアップ動作の開始から所定時間を経過すると、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送を行う。すなわち、ウォーミングアップ動作の開始から所定時間を経過する前は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われず、所定時間を経過すると、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が行われる。このため、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送量を減らし節電に寄与できる。また、例えば搬送中の媒体99は、搬送速度に応じた風を受けて支持面13Cから浮き上がりやすく、その浮き上がりが温度センサー50による媒体表面温度Tsの検出誤差を生む場合がある。しかし、所定時間を経過するまでは媒体99は基本的に被検出領域H2に位置する状態で停止しているので、媒体99の浮きによる温度検出誤差の影響を排除しやすい。
【0103】
(7)制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送として、下流側へ向かう搬送と、下流側と反対側の上流側へ向かう搬送とを行う。よって、ウォーミングアップ動作で搬送される媒体99のうち乾燥装置40の加熱対象となる部分の長さを短く抑えることができる。また、上流側へ向かう搬送が含まれることでウォーミングアップ動作を終えた後、媒体99を印刷開始位置P1まで上流側へ向かって搬送される搬送量(例えば頭出し搬送量)を相対的に短くできる頻度が増す。このため、ウォーミングアップ動作終了から、媒体99が印刷開始位置P1に到達して印刷を開始するまでの平均所要時間を相対的に短くすることができる。この結果、印刷スループットの向上に寄与する。
【0104】
(8)制御部60は、少なくとも下流側へ向かう搬送を印刷処理時の搬送速度に対応する速度(例えば速度V1)で行う。よって、印刷処理時の媒体の搬送方向である下流側へ向かう搬送を印刷処理時の搬送速度に対応する速度で行うので、乾燥装置40を印刷処理時の媒体99の熱処理に適した温度に温度制御できる。特に本実施形態では、下流側へ向かう搬送における第1搬送速度V1よりも、上流側へ向かう搬送における第2搬送速度V2が大きい。よって、媒体99が下流側へ向かう搬送で加熱領域HAから外へ出たばかりの領域が、上流側へ向かう搬送に切り換わって直ぐに加熱領域HAに入っても、そのとき媒体99は第1搬送速度V1よりも大きな第2搬送速度V2で上流側へ搬送されるので、媒体99のその領域が受ける熱ダメージによる損傷を防止できる。
【0105】
(9)制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送で、媒体99の下流側への搬送が開始されるときに乾燥装置40の加熱中において媒体表面温度Tsが最高になる位置H2にある当該媒体99上の領域を、加熱領域HAから外れた位置まで搬送させる。よって、媒体99の下流側へ向かう搬送と、上流側へ向かう搬送とが行われても、媒体表面温度Tsが最高になる位置H2にある当該媒体99上の領域が加熱領域HAの外へ一旦出てある程度の温度に放冷された後、搬送向きの切り換えにより再び加熱領域HAに入ることになるので、媒体99の一部の熱ダメージによる損傷も効果的に防止できる。
【0106】
(10)制御部60は、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送で、所定のタイミングで加熱領域HAの上流側端部に位置する当該媒体99の領域を、加熱領域HAよりも下流側の位置まで搬送する。よって、所定のタイミングで加熱領域HAにある媒体99上の領域の全てが加熱領域HAの外へ一旦出る。このため、乾燥装置40により加熱された媒体99上の領域は全て一旦ある程度の温度まで放冷されるので、媒体99の熱ダメージによる損傷を一層効果的に防止できる。
【0107】
(11)印刷装置11(媒体処理装置の一例)の制御方法では、乾燥装置40の加熱制御を開始して媒体表面温度Tsを所定の温度範囲まで上昇させるウォーミングアップ動作を開始する。このウォーミングアップ動作中に、媒体99の下流側の端部99aが温度センサー50による被検出領域H2より下流側に位置する範囲RAで媒体99を搬送させる。よって、ウォーミングアップ動作において、媒体99の熱ダメージによる損傷を抑えつつ、乾燥装置40を適切な温度に温度制御することができる。
【0108】
上記実施形態は、以下に示す変更例のように変更してもよい。上記実施形態に含まれる構成と、下記変更例に含まれる構成とを任意に組み合わせてもよいし、下記変更例に含まれる構成同士を任意に組み合わせてもよい。
【0109】
・ウォーミングアップ動作では、媒体99を搬送方向Yの下流側へ搬送し続けてもよい。つまり、ウォーミングアップ動作では、媒体99の搬送方向Yの上流側へ向かう搬送は行わない構成でもよい。この場合、媒体99の下流側の端部99aが、温度センサー50の被検出領域H2よりも下流側に位置する範囲は、媒体99の下流側の端部99aが下流側へ搬送され続ける範囲となる。
【0110】
・第1搬送速度V1と第2搬送速度V2とが同じ速度でもよい。例えば第1搬送速度V1及び第2搬送速度V2を共に印刷処理における搬送速度と同じ速度に設定するなど、印刷処理における媒体99の搬送速度に対応する速度とすることが好ましい。
【0111】
・ユーザーが加熱領域よりも加熱領域の全長に相当する距離だけ下流側の位置に、媒体99の下流側の端部99aが位置する状態に媒体99をセットするようにし、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送では、媒体99を上流側に向かって搬送を開始してもよい。この場合、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が、上流側へ向かう搬送と、下流側へ向かう搬送とを含んでもよい。この場合、上流側へ向かう搬送と、下流側へ向かう搬送とのうち少なくとも一方の搬送を、所定処理における媒体の搬送速度と対応する速度で搬送することが望ましい。この場合、上流側へ向かう搬送と下流側へ向かう搬送とで搬送速度を同じにしてもよいが、例えば所定処理における媒体の搬送速度に対応する速度である一方の第1搬送速度を、他方の第2搬送速度よりも高速に設定することが好ましい。
【0112】
・印刷指令等の処理指令をトリガーとしてウォーミングアップ動作を開始する構成に限定されず、例えばユーザーがウォーミングアップ動作を指令する操作をすると、ウォーミングアップ動作を開始する構成でもよい。また、印刷装置の電源投入をトリガーとして初期処理動作の1つとしてウォーミングアップ動作を行ってもよい。
【0113】
・ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送が、媒体99を上流側へ向かう搬送のみで構成されてもよい。例えば媒体99の下流側の端部を加熱領域HAよりも下流側へ所定長さだけ引き出したセット位置に配置し、そのセット位置から媒体99を上流側へ向かって搬送する。
【0114】
・ウォーミングアップ動作において所定処理における媒体99の搬送速度と対応する速度とは、所定処理における媒体99の搬送速度と同じ速度でなくてもよい。ウォーミングアップ動作では目標温度に昇温するまでに加熱領域HAで加熱される媒体99の総加熱時間が、所定処理が行われるときに比べ長いことを考慮し、ウォーミングアップ動作時における媒体99の搬送速度を所定処理における媒体99の搬送速度よりも少し高速に設定してもよい。また、ウォーミングアップ動作では媒体99に液体が付着していないのに対して、印刷処理では、媒体に液体が付着していることを考慮し、ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送速度を印刷処理における媒体99の搬送速度よりも高速に設定してもよい。
【0115】
・所定処理における媒体99の搬送速度に対応する速度で搬送する構成に限定されず、例えばウォーミングアップ動作専用の搬送速度を設定してもよい。
・ウォーミングアップ動作における媒体99の搬送は、所定のタイミングで媒体99上の最高温度の位置にある領域を被検出領域H2からずらすだけでもよい。例えば媒体上の最高温度の位置にある領域を、加熱領域HAの温度分布における所定温度未満の低温域内の位置に移動させる構成でもよい。
【0116】
・加熱部は、加熱気流を吹き付ける機構(送風機47及び送気路46)のない乾燥装置でもよい。加熱部は、例えば、発熱体の輻射熱によってのみ印刷済みの媒体を加熱する構成でもよい。また、加熱部は、加熱気流(例えば温風)のみを印刷済みの媒体に吹き付ける乾燥装置でもよい。
【0117】
・加熱部が備える発熱体は、ヒーター管に限らず、電熱線などでもよい。
・印刷装置は、シリアル印刷方式やライン印刷方式に限らず、印刷ヘッドが主走査方向と副走査方向との2方向に移動可能なラテラルスキャン方式でもよい。
【0118】
・媒体99は、ロール紙等の長尺状の媒体に限らず、ある程度の長さを有する媒体であれば単票紙でもよい。この場合、単票紙は、
図6における距離L1よりも長ければよい。特に単票紙は搬送方向Yの長さが加熱領域HAの長さFHよりも長いことが好ましい。
【0119】
・媒体は、紙に限定されず、合成樹脂製のシートやフィルム、布、ホイル等であってもよく、例えば、転写フィルム等のプラスチックフィルム又は薄い板材等でもよいし、捺染装置などに用いられる布帛でもよい。
【0120】
・印刷装置11は、印刷技術(インクジェット技術)を用いて電子部品の一部を製造する工業用の印刷装置でもよい。例えば、印刷機構21が液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられ、電極材または色材(画素材料)などを液体の吐出により形成してもよい。さらに印刷装置は、下地のシート(媒体の一例)に樹脂液等の液体を吐出して3次元造形物を製造する3次元用インクジェットプリンターでもよい。下地のシート上に3次元造形物を形成した後、シート上の造形物を加熱部で加熱する構成でもよい。
【0121】
・媒体処理装置は、印刷ユニット20を備える装置に限定されない。媒体処理装置は、例えば印刷ユニット20を備える装置とは別体かつ単独で用いられてもよい。例えば、印刷ユニット20を備える装置の下流側の位置に媒体処理装置を配置し、印刷ユニット20備える装置から排出された媒体99を受け取ってその媒体を乾燥させる構成でもよい。さらに印刷以外の目的で、吐出、塗付、スプレー、転写、浸漬等により液体が付着する媒体99を乾燥させる媒体処理装置であってもよい。印刷以外の目的としては、媒体の表面へのコート層の形成(塗装(塗膜形成)を含む)、媒体の着色、媒体への処理液又は処理材(例えば粒子)の含浸、媒体の皺伸ばし処理などが挙げられる。このように媒体処理装置は印刷物以外の媒体の加熱処理(乾燥を含む)に用いてもよい。
【0122】
・所定処理は印刷処理に限定されない。所定処理は、例えば媒体の表面に水等の液体を吹き付ける処理であり、液体吹き付け済みの媒体を乾燥装置で加熱して乾燥することにより、媒体の皺を延ばすものでもよい。また、所定処理は、媒体の表面に熱硬化樹脂液を付着させる処理であり、熱硬化樹脂液付着済みの媒体を加熱装置(加熱部の一例)で加熱してその表面に付着した熱硬化樹脂液を熱硬化させるものでもよい。なお、媒体の所定処理後の処理面に接触しても問題ない所定処理であれば、温度センサーは媒体の表面に接触してその表面温度を検出可能な接触式でもよい。