(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来技術において、直流成分の発生要因は、電力変換器又は制御部のアンバランスによる。特許文献1の従来技術では、直流成分を抽出するために、積分器を用いて電気角1周期分の電流を積分するため、過渡時の応答性が低下するという問題がある。
【0006】
特許文献2の従来技術において、直流成分の発生要因は、スイッチング素子のオン抵抗のばらつきやインバータ直流中間電圧の変動にある。特許文献2の従来技術では仮想抵抗を用いているため負荷への印加電圧が下がり、電圧利用率が低下する。また、特許文献2の
図4の構成では、直流成分を抽出するために、フィルタを設けて電気角1周期分の電流を処理するため、過渡時の応答性が低下するという問題がある。
【0007】
さらに、電力変換器の出力が変化した過渡応答時に回路のインダクタンスに初期電流が流れていると直流オフセット電流が発生し、3相電流のアンバランスが生じる。しかし、特許文献1、2のいずれにも直流オフセット電流について言及されていない。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、過渡応答時に直流オフセット電流により発生する3相電流アンバランスを高応答に抑制可能な電力変換器制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、直流電力を3相交流電力に変換し、抵抗及びインダクタンスを有する負荷
であるモータ(80)に供給する電力変換器(60)の動作を制御する電力変換器制御装置である。この電力変換器制御装置は、基本電圧指令値演算部(20)と、補償電圧指令値演算部(40)と、ゲート信号生成部(56)と、を備える。
【0010】
基本電圧指令値演算部は、dq軸電流指令値(iq
*、id
*)に基づいてdq軸電圧指令値(Vq
*、Vd
*)を演算し、さらにdq軸電圧指令値を3相変換した基本電圧指令値(Vu
b*、Vv
b*)を演算する。補償電圧指令値演算部は、dq軸電流指令値が3相変換された3相電流指令値(iu
*、iv
*)と、3相電流値(iu、iv)との偏差である3相電流偏差(Δiu、Δiv)
、及び、モータの機器定数である抵抗もしくはインダクタンスに基づいて、補償電圧指令値(Vu
offset*、Vv
offset*)を演算する。ゲート信号生成部は、基本電圧指令値と補償電圧指令値とを加算した電圧指令値(Vu
*、Vv
*)に基づいて、電力変換器に指令するゲート信号を生成する。
【0011】
本発明では、基本電圧指令値に補償電圧指令値を加算することにより、電力変換器の過渡応答時に、直流オフセット電流により発生する3相電流のアンバランスを抑制することができる。このとき補償電圧指令値演算部は、3相電流偏差に基づいて、直流オフセット成分を瞬時に直接制御することができる。したがって、電気角1周期分の電流を処理する必要がある特許文献1、2の従来技術に対し、直流成分を低減する応答性を向上させることができる。
【0012】
例えば補償電圧指令値演算部は、3相電流偏差を入力とするPD制御の比例ゲインに抵抗値を用い、微分ゲインにインダクタンス値を用いて補償電圧指令値を演算する。これにより、最も速く指令値に追従するための電圧指令値を演算することができる。
【0013】
また好ましくは、補償電圧指令値演算部は、さらに3相電流値に基づいて補償電圧指令値を演算する。具体的には、補償電圧指令値演算部は、3相電流偏差が同じならば、3相電流値が大きいほど補償電圧指令値を大きくする。つまり、負荷が低く3相電流値が小さいときは、電流アンバランスの影響が小さいため、制御安定性を重視して補償電圧指令値が小さく設定される。一方、負荷が高く3相電流値が大きいときは、電流アンバランスを抑制するため、高応答性を重視して補償電圧指令値が大きく設定される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、電力変換器制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態及び比較例において、実質的に同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態の電力変換器制御装置は、直流電力を3相交流電力に変換し、抵抗及びインダクタンスを有する負荷に供給する電力変換器の動作を制御する。本実施形態では、モータが負荷に相当し、インバータが「電力変換器」に相当する。また、インバータ制御装置が「電力変換器制御装置」に相当する。
【0016】
まず
図1を参照し、モータ駆動システム90の全体構成について説明する。インバータ60は、上下アームの6つのスイッチング素子61−66がブリッジ接続されている。詳しくは、スイッチング素子61、62、63は、それぞれU相、V相、W相の上アームのスイッチング素子であり、スイッチング素子64、65、66は、それぞれU相、V相、W相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子61−66は、例えばIGBTで構成され、低電位側から高電位側へ向かう電流を許容する還流ダイオードが並列に接続されている。
【0017】
平滑コンデンサ15は、インバータ60の入力部に設けられ、バッテリ10の電圧を平滑化する。なお、バッテリ10とインバータ60との間に昇圧コンバータが設けられてもよい。インバータ60は、インバータ制御装置50から指令されるゲート信号UH、UL、VH、VL、WH、WLに従ってスイッチング素子61−66が動作することで、バッテリ10の直流電力を3相交流電力に変換する。そして、インバータ60は、3相電圧Vu、Vv、Vwをモータ80の各相巻線81、82、83に印加する。
【0018】
モータ80は、例えば永久磁石式同期型の3相交流モータであり、典型的には力行及び回生動作可能なモータジェネレータである。モータ80の3相巻線81、82、83のうち2相の巻線に接続される電流経路には、相電流値を検出する電流センサが設けられる。
図1の例では、U相巻線81及びV相巻線82に接続される電流経路に、それぞれU相電流値iu及びV相電流値ivを検出する電流センサ71、72が設けられている。回転角センサ85は、レゾルバ等の回転角センサであり、モータ80の電気角θを検出する。また、電気角θが微分器86で時間微分された角速度が換算され、回転数ωが算出される。
【0019】
インバータ制御装置50は、図示しない上位ECUからのトルク指令、及び、電流センサ71、72や回転角センサ85からのフィードバック情報に基づいて、モータ80に印加する電圧指令値を演算する。そして、演算した電圧指令値に基づいてゲート信号UH、UL、VH、VL、WH、WLを生成し、インバータ60のスイッチング素子61−66に指令する。
【0020】
ここで、dq軸電流フィードバック制御を行う周知のインバータ制御装置509の構成を比較例として
図14に示す。dq軸電流フィードバック制御に係る構成には、他相電流算出部31、3相/dq変換部32、dq軸電流偏差算出部36、制御器371、372等が含まれる。他相電流算出部31は、キルヒホッフの法則を用いて、3相のうち2相の電流値(例えばiu、iv)から他の1相の電流値(例えばiw)を算出する。
【0021】
3相/dq変換部32は、電気角θに基づいて3相電流値iu、iv、iwをdq軸電流値iq、idにdq変換する。以下、図中の上下の順に従い、dq軸電流値等の記号の記載順はq軸電流等を先に記載する。dq軸電流偏差算出部36は、dq軸電流指令値iq
*、id
*とdq軸電流値iq、idとの偏差であるdq軸電流偏差Δiq、Δidを算出する。制御器371、372は、PI制御等により、それぞれq軸電圧指令値Vq
*及びd軸電圧指令値Vd
*を演算する。
【0022】
また、
図14の比較例では、dq軸電流値iq、idに基づきdq軸間の干渉電圧を補償するように非干渉項を演算する非干渉制御部38が設けられている。非干渉制御部38が演算した非干渉項は、非干渉項加算部39で、制御器371、372の出力に加算される。なお、非干渉項の加算前後でのdq軸電圧指令値Vq
*、Vd
*の記号の区別を省略する。
【0023】
dq/3相変換部24は、電気角θに基づいてdq軸電圧指令値Vq
*、Vd
*を3相変換し、U相、V相電圧指令値Vu
*、Vv
*を算出する。他相電圧算出部55は、U相、V相電圧指令値Vu
*、Vv
*から他の1相であるW相の電圧指令値流値Vw
*を算出する。PWM信号生成部56は、3相電圧指令値Vu
*、Vv
*、Vw
*に基づき、PWM制御によりゲート信号を生成し、インバータ60に出力する。
【0024】
比較例のインバータ制御装置509において、トルク指令の変動に伴って電圧指令値が変動すると、3相電流のアンバランスが発生する。この3相電流アンバランスについて、
図2を参照する。3相電流は、実線、破線、一点鎖線が各相の電流を示す。時刻tx以前は電流指令がi1で一定であり、3相電流はバランスが取れている。時刻txにトルク指令が変動し電流指令がi1からi2に変化すると、3相電流にアンバランスが生じ、実線で示す1相に過電流が発生する。その結果、インバータ60の破損やトルクリプルの発生につながる。また、直流側のバッテリ電流にも無効電流が発生し、バッテリ10や平滑コンデンサ15の発熱により、寿命が低下するおそれがある。
【0025】
3相アンバランスの発生原因及びその解決について、
図3〜
図6を参照して説明する。
図3にU相を例として3相インバータの単相分を抽出した回路モデルを示す。交流記号で示すVuはインバータ出力であり、euは誘起電圧である。U相電流iuは、回路の抵抗R及びインダクタンスLに流れる。インダクタンスLに初期電流が流れているとU相電流iuとは逆向きの電圧VLが発生する。このとき、インバータ出力Vuは、式(1)で表される。なお、数式中の記号Pは微分演算子である。また、以下の数式における記号の下付き文字の表記について、明細書文中又は図中では、見やすさに応じて、下付き文字に対応する部分を通常文字で記載する場合がある。
【0027】
ここで
図4に示すように、インバータ出力Vuが変化する場合を想定する。VaはVuの振幅である。インバータ出力Vuの変化時txにU相電流iuが0の場合、時刻tx後も電流振幅の中心は0のままである。一方、インバータ出力Vuの変化時txにU相電流iuが0でない場合、
図4の例では負方向にオフセット電流ΔIdcが発生し、電流振幅の中心が0からオフセットする。
【0028】
次に、U相電流iuを交流(AC)成分iu_acと直流(DC)成分iu_dcとに分離した回路モデルを
図5に示す。インバータ出力Vuの式(1)は、交流電圧Vuの式(2.1)と、直流オフセット電圧Vdcの式(2.2)とに分離される。
【0030】
U相電流の交流成分iu_acは正弦波状に変化する。また、周知技術である比較例の構成では、直流成分iu_dcは、実線で示すように、オフセット電流−ΔIdcを初期値として、式(3)のようにLR時定数にしたがって減衰する。
【0032】
このように、過渡時にインダクタンスLに初期電流が流れていると直流オフセット電流が発生する。つまり、3相インバータでは過渡時に必ず直流オフセット電流が発生するため、3相電流アンバランスが発生する。そこで、直流成分の式(2.2)から、直流オフセット電圧により直流オフセット電流を制御する点に着目する。そして、
図5の直流成分の回路モデルに破線で示すように、変化時txの次のサンプルタイミングで直流オフセット電流が0となるように直流オフセット電圧Vdcを決定する。このように直流オフセット電流を抑制する制御を「デッドビート制御」という。デッドビート制御は、式(4)で表される。
【0034】
図6に、交流電圧Vuと、デッドビート制御により決定された直流オフセット電圧Vdcとを加算した電圧をインバータに印加したときの電流波形を示す。なお、二点鎖線は、
図4に示すデッドビート制御を行わないときの電流波形である。インバータ出力Vuの変化時txにU相電流iuが0でない場合でも、変化時txにデッドビート制御が行われることで、次のサンプルタイミングにU相電流iuの振幅中心は0に一致する。
【0035】
このように、直流オフセット成分ΔIdcに対しデッドビート制御を適用することで、U相電流iuが瞬時に目標値に到達するように制御することができる。よって、直流オフセット電流に起因する過渡応答時の3相電流アンバランスが抑制される。その結果、過電流によるインバータの破損やトルクリプルの発生、バッテリや平滑コンデンサの発熱等を適切に防止することができる。
【0036】
本実施形態のインバータ制御装置50は、以上の原理を用いて、トルク指令が変動する過渡応答時の3相電流アンバランスを抑制することを目的とするものである。続いて、インバータ制御装置50の構成及び作用について実施形態毎に説明する。各実施形態のインバータ制御装置の符号には、「50」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。
【0037】
(第1実施形態)
第1実施形態について、
図7を参照して説明する。第1実施形態のインバータ制御装置501は、基本電圧指令値演算部201、補償電圧指令値演算部401、「ゲート信号生成部」としてのPWM信号生成部56等を含む。ここで、第1実施形態の基本電圧指令値演算部及び補償電圧指令値演算部の符号には、それぞれ、「20」及び「40」に続く3桁目に「1」を付す。以下の実施形態の基本電圧指令値演算部及び補償電圧指令値演算部の符号については、前述の実施形態と構成が実質的に同じである場合、前述の実施形態の符号を援用する。一方、前述の実施形態と構成が異なる場合、「20」又は「40」に続く3桁目に、新たにその実施形態の番号を付す。
【0038】
また、本実施形態では電流センサ71、72がU相、V相の2相の電流値iu、ivを検出することに対応して、3相電流値のうちU相、V相の2相の電流値を制御し、他の1相であるW相iwの電流値はキルヒホッフの法則を用いて算出する。他の実施形態では、どの2相を用いてもよく、3相の電流値を検出し制御してもよい。なお、明細書中、U相及びV相の2相の電流値又は電圧値についても「3相電流値」、「3相電圧値」という用語を用いて記す。
【0039】
基本電圧指令値演算部201は、FF制御演算部21及びdq/3相変換部24を有し、フィードフォワード制御により基本電圧指令値Vu
b*、Vv
b*を演算する。FF制御演算部21は、式(5)に示す電圧方程式によりdq軸電圧指令値Vq
*、Vd
*を演算する。dq/3相変換部24は、電気角θに基づいてdq軸電圧指令値Vq
*、Vd
*を3相変換し、U相、V相の基本電圧指令値Vu
b*、Vv
b*を算出する。
【0041】
補償電圧指令値演算部401は、dq/3相変換部41、3相電流偏差算出部42、及び、3相電流制御器431、432を有する。dq/3相変換部41は、電気角θに基づいてdq軸電流指令値iq
*、id
*を3相変換し、3相電流指令値iu
*、iv
*を算出する。3相電流偏差算出部42は、3相電流指令値iu
*、iv
*と、電流センサ71、72が検出した3相電流値iu、ivとの偏差である3相電流偏差Δiu、Δivを算出する。
【0042】
U相電流制御器431及びV相電流制御器432は、それぞれU相及びV相の電流偏差Δiu、Δivに基づいてU相及びV相の補償電圧指令値Vu
offset*、Vv
offset*を演算する。電流偏差Δiu、Δivは、過渡応答時の直流オフセット成分に相当する。つまり、補償電圧指令値演算部401の技術的意義は、3相電流制御器431、432により直流オフセット成分を直接制御する点にある。
【0043】
各相の電流偏差を包括してΔi、補償電圧指令値を包括してV
offset*と表し、補償電圧指令値V
offset*の演算方法について説明する。補償電圧指令値V
offset*の演算は、一般に、式(6.1)によるPD制御、又は、式(6.2)によるP制御により行われる。ここで、Kpは比例ゲイン、Kdは微分ゲインであり、(Δi/Δt)は3相電流偏差Δiの時間微分値である。P制御の式(6.2)は、PD制御の式(6.1)の微分項Kd(Δi/Δt)を0とみなしたものに相当する。
【0045】
また、上述のデッドビート制御では、モータ80の機器定数である抵抗R及びインダクタンスLを含む式(4)により、直流オフセット電流Δidcを抑制するように直流オフセット電圧Vdcが決定される。3相電流制御器431、432は、式(4)の右辺にゲインK(K≦1)を乗じた式(7)により補償電圧指令値V
offset*を演算してもよい。モータ80の機器定数を用いることで、最も早く指令値に追従するための電圧指令値を演算することができる。
【0047】
式(7)は、PD制御の式(6.1)における微分ゲインKdを(K×L)とし、比例ゲインKpを(K×R)とした式とみなすことができる。また、式(7)の微分項を無視すると、比例ゲインKpを(K×R)としたP制御の式となる。
【0048】
補償電圧加算部54は、U相、V相毎に基本電圧指令値Vu
b*、Vv
b*と補償電圧指令値Vu
offset*、Vv
offset*とを加算し、加算後の電圧指令値Vu
*、Vv
*を出力する。他相電圧算出部55は、U相、V相電圧指令値Vu
*、Vv
*から他の1相であるW相の電圧指令値流値Vw
*を算出する。
【0049】
PWM信号生成部56は、3相電圧指令値Vu
*、Vv
*、Vw
*に基づき、PWM制御によりゲート信号を生成し、インバータ60に出力する。なお他の実施形態では、ゲート信号生成部は、PWM制御に限らず、予め設定された複数の電圧出力パターンから適当なパターンを選択するパルスパターン方式等によりゲート信号を生成してもよい。
【0050】
以上のように第1実施形態では、基本電圧指令値演算部201によるフィードフォワード制御で交流成分を制御し、補償電圧指令値演算部401による3相電流フィードバック制御で直流オフセット分を制御することで高応答化が可能となる。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態について、
図8を参照して説明する。第2実施形態のインバータ制御装置502では、基本電圧指令値演算部202は、フィードフォワード制御とdq軸電流フィードバック制御との複合により基本電圧指令値Vu
b*、Vv
b*を演算する。なお、補償電圧指令値演算部401の構成は、第1実施形態と同様である。
【0052】
基本電圧指令値演算部202のうちフィードフォワード制御に係る構成は、第1実施形態の基本電圧指令値演算部201と同様である。FF制御演算部21は、電圧方程式によりdq軸電圧指令値のフィードフォワード項Vq
*ff、Vd
*ffを演算する。
【0053】
dq軸電流フィードバック制御に係る構成には、他相電流算出部31、3相/dq変換部32、ローパスフィルタ(図中及び以下文中で「LPF」)34、dq軸電流偏差算出部36、制御器371、372等が含まれる。LPF34以外は、
図14の比較例の構成と実質的に同一である。
【0054】
LPF34は、dq軸電流値iq、idの所定周波数以上の高周波成分し、LPF処理後のdq軸電流値iq
LPF、id
LPFを出力する。言い換えれば、LPF34は、dq軸電流値iq、idの直流オフセット分を除き、交流成分のみをdq軸電流指令値iq
*、id
*に対してフィードバックする。つまり、LPF34は、dq軸電流値iq、idの直流成分を抽出する「直流成分抽出部」に相当する。
【0055】
dq軸電流偏差算出部36は、dq軸電流指令値iq
*、id
*とLPF処理後のdq軸電流値iq
LPF、id
LPFとの偏差であるdq軸電流偏差Δiq、Δidを算出する。制御器371、372は、PI制御等により、それぞれq軸電圧指令値のフィードバック項Vq
*fb、及び、d軸電圧指令値のフィードバック項Vd
*fbを演算する。電圧指令値加算部22は、dq軸電圧指令値のフィードフォワード項Vq
*ff、Vd
*ffとフィードバック項Vq
*fb、Vd
*fbとを加算する。
【0056】
このように第2実施形態の基本電圧指令値演算部202は、LPF34により直流オフセット分を除いた交流成分のみをフィードバックすることで、定常時の制御性を向上させることができる。すなわち、直流オフセット電流が発生するとdq軸電流iq、idが振動するため、フィルタを用いて直流成分のみを抽出し、dq軸電流iq、idを制御し、所望のトルクを実現する。よって第2実施形態では、補償電圧指令値演算部401による直流オフセット分を除いた電流のフィードバック制御と、基本電圧指令値演算部20による直流オフセット電流のフィードバック制御とを組み合わせることで、高応答かつ定常偏差のない制御を実現できる。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態について、
図9、
図10を参照して説明する。第3実施形態のインバータ制御装置503の補償電圧指令値演算部403は、第1、第2実施形態の補償電圧指令値演算部401に対し、U相電流制御器431及びV相電流制御器432にそれぞれU相電流値iu、V相電流値ivが入力される点が異なり、それ以外の構成は同一である。U相電流制御器431は、U相電流偏差Δiuに加え、さらにU相電流値iuに基づいて、U相補償電圧指令値Vu
offset*を演算する。V相電流制御器432は、V相電流偏差Δivに加え、さらにV相電流値ivに基づいて、V相補償電圧指令値Vv
offset*を演算する。
【0058】
例えば式(7)によるデッドビート制御を実施する構成において、補償電圧指令値演算部403は、U相電流値iu、V相電流値ivに応じて、3相電流制御器431、432のゲインKを0から1までの範囲で変更する。好ましくは、3相電流値iu、ivが大きいほどゲインKが大きく設定される。
【0059】
つまり、負荷が低く3相電流値iu、ivが小さいときは、電流アンバランスの影響が小さいため、制御安定性を重視して補償電圧指令値V
offset*が小さくなるように、ゲインKが減少される。一方、負荷が高く3相電流値iu、ivが大きいときは、電流アンバランスを抑制するため、高応答性を重視して補償電圧指令値V
offset*が大きくなるように、ゲインKが増加される。
【0060】
図10(a)、(b)に、3相電流値iu、ivに応じたゲインKの変更パターンを示す。
図10(a)の例では、3相電流値iu、ivが飽和電流値Isat未満の領域で、ゲインKは、3相電流値iu、ivの増加につれて1まで単調増加する。3相電流値iu、ivが飽和電流値Isat以上の領域ではゲインKは1である。
図10(b)の例ではさらに、3相電流値iu、ivが臨界値Icrt以下の領域でゲインKは0である。Kが0であるということは、直流オフセット電流抑制制御をしないことに等しい。
【0061】
また、式(6.1)によるPD制御を実施する構成では、比例ゲインKp、微分ゲインKdがそれぞれ、3相電流値iu、ivが大きいほど大きく設定される。式(6.2)によるP制御を実施する構成では、3相電流値iu、ivが大きいほど比例ゲインKpが大きく設定される。
【0062】
また、補償電圧指令値V
offset*はゲインKを用いた数式で演算される構成に限らず、
図10(c)に示すような3相電流値iu、ivと3相電流偏差Δiu、Δivとを入力とするマップにより直接演算されてもよい。このマップでは、3相電流値iu、ivが大きいほど、また、3相電流偏差Δiu、Δivが大きいほど、補償電圧指令値V
offset*は大きくなる。なお、マップの特性線は、
図10(c)に示すような直線に限らず、折線や曲線であってもよい。
【0063】
(第4実施形態)
第4実施形態について、
図11を参照して説明する。第4実施形態のインバータ制御装置504では基本電圧指令値演算部204は、フィードフォワード制御を行わず、dq軸電流フィードバック制御のみにより基本電圧指令値Vu
b*、Vv
b*を演算する。なお、補償電圧指令値演算部401の構成は、第1実施形態と同様である。
【0064】
dq軸電流フィードバック制御に係る構成は第2、第3実施形態と同様である。また、
図11の例では、14の比較例と同様に、dq軸電流値iq、idに基づきdq軸間の干渉電圧を補償するように非干渉項を演算する非干渉制御部38が設けられている。なお、
図11においてLPF34及びdq軸電流偏差算出部36を含む枠で囲った部分Exは、
図12に示す第5実施形態の説明で引用される部分である。第4実施形態では、「直流成分抽出部」としてのLPF34により、直流オフセット分を除いた交流分をフィードバック制御することで、定常時の制御性を向上させることができる。
【0065】
(第5実施形態)
第5実施形態について、
図12、
図13を参照して説明する。第5実施形態の基本電圧指令値演算部205は、第4実施形態の基本電圧指令値演算部204に対し
図11のEx部に対応する構成のみが異なる。それ以外の構成は
図11と同一であるため図示を省略する。基本電圧指令値演算部205には、切替判定部33、LPF34及び移動平均算出部35を含む直流成分抽出部330が設けられる。
【0066】
LPF34は、第4実施形態と同様にdq軸電流値iq、idの所定周波数以上の高周波成分を除去するLPF処理を行い、LPF処理後のdq軸電流値iq
LPF、id
LPFを出力する。移動平均算出部35は、dq軸電流値iq、idの所定電気角範囲又は所定時間における移動平均を算出する移動平均処理を行い、移動平均処理後のdq軸電流値id
MVAVR、iq
MVAVRを出力する。切替判定部33は、モータの回転数に応じて、直流成分の抽出処理として、LPF処理と移動平均処理とを切り替える。
【0067】
直流成分抽出構成としてLPF34のみを有する第4実施形態では、カットオフ周波数が固定される。したがって、回転周波数ωの6次成分等であるdq軸電流値iq、idの交流成分の周波数がカットオフ周波数以下となる周波数領域では、直流成分を抽出することができず、定常時の制御が不安定となる。また、広い回転数領域でLPF34を機能させるためにカットオフ周波数を下げすぎると、過渡応答後の収束性が悪化する。そこで、
図13に示すように、dq軸電流値iq、idの交流成分の周波数がLPF34のカットオフ周波数以下となる低回転数領域では、切替判定部33は、LPF処理から移動平均処理に切り替えるように判定する。なお、移動平均処理の区間は、例えば回転周波数の6次成分等の1周期分に相当する所定電気角範囲又は所定時間に設定される。
【0068】
このように第5実施形態では、基本電圧指令値演算部205のdq軸電流フィードバック制御において、モータの回転数に応じて、カットオフ周波数より大きい高回転数領域ではLPF処理、低回転数領域では移動平均処理により直流成分が抽出されるように処理が切り替えられる。したがって、定常時の制御安定性と過渡応答後の収束性とを適切に両立することができる。
【0069】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。