特許第6984436号(P6984436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984436
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 13/00 20060101AFI20211213BHJP
   H01R 39/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   H02K13/00 R
   H01R39/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-9797(P2018-9797)
(22)【出願日】2018年1月24日
(65)【公開番号】特開2019-129599(P2019-129599A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】内田 尚克
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−138529(JP,A)
【文献】 特開2013−110880(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/157259(WO,A1)
【文献】 特開平04−200256(JP,A)
【文献】 特開2015−023665(JP,A)
【文献】 特開2002−369459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
H01R 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流子を有する電機子と、
先端が前記整流子に摺接するブラシと、
一対の側壁部及び上壁部を有し、前記ブラシを収容するブラシホルダと、
前記ブラシの後端面を前記整流子の側かつ前記上壁部の側に押圧する押圧部材と、
前記一対の側壁部のうち前記電機子の回転方向の下流側に位置する第一側壁部の内壁面の下部に突出して形成され、前記ブラシの第一側面の下部と接触する突起部と、
前記突起部の上側において、前記第一側壁部の内壁面と、前記ブラシの第一側面の上部との間に形成された間隙と、
を備える回転電機。
【請求項2】
前記突起部は、前記ブラシの第一側面の先端側下部と接触し、
前記間隙は、前記第一側壁部の内壁面と、前記ブラシの第一側面の先端側上部との間に形成されている、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記ブラシの後端面を前記第一側壁部の側に押圧し、
前記ブラシは、前記第一側面の先端側下部が前記突起部と接触する第一接触点と、前記第一側面の後端が前記第一側壁部の内壁面と接触する第二接触点で、前記第一側壁部に支持され、
前記ブラシの中心軸線は、前記ブラシホルダの上面視で前記ブラシホルダの中心軸線に対して傾斜し、
前記ブラシホルダの中心軸線に沿った前記第一接触点と前記第二接触点との間の距離をL、前記ブラシホルダの上面視で前記ブラシホルダの中心軸線と直交する方向に沿った前記第一接触点と前記第二接触点との間の距離をHとした場合に、前記整流子との摺接により前記ブラシの先端が摩耗しても、arctan(H/L)が一定に保たれるように、前記第一側壁部の内壁面は、前記ブラシホルダの上面視で前記ブラシホルダの中心軸線に対して傾斜している、
請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
整流子を有し、双方向に回転する電機子と、
先端が前記整流子に摺接するブラシと、
一対の側壁部及び上壁部を有し、前記ブラシを収容するブラシホルダと、
前記ブラシの後端面を前記整流子の側かつ前記上壁部の側に押圧する押圧部材と、
前記一対の側壁部のうちの第一側壁部の内壁面の下部に突出して形成され、前記電機子が第一方向に回転して前記ブラシが前記第一側壁部の側に押圧された場合に、前記ブラシの第一側面の下部と接触する第一突起部と、
前記第一突起部が前記ブラシの第一側面の下部と接触した状態前記第一突起部の上側において、前記第一側壁部の内壁面と、前記ブラシの第一側面の上部との間に形成される第一間隙と、
前記一対の側壁部のうちの第二側壁部の内壁面の下部に突出して形成され、前記電機子が第二方向に回転して前記ブラシが前記第二側壁部の側に押圧された場合に、前記ブラシの第二側面の下部と接触する第二突起部と、
前記第二突起部が前記ブラシの第二側面の下部と接触した状態前記第二突起部の上側において、前記第二側壁部の内壁面と、前記ブラシの第二側面の上部との間に形成される第二間隙と、
を備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機としては、整流子を有する電機子と、先端が整流子に摺接するブラシと、ブラシを収容するブラシホルダと、ブラシの後端面を整流子の側に押圧する押圧部材とを備えるブラシ付き直流モータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3653036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような回転電機では、ブラシが整流子に摺接することに伴い、ブラシに振動が生じると、ブラシがブラシホルダに衝突し、異音が発生する虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ブラシがブラシホルダに衝突することによる異音の発生を抑制できる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の回転電機は、整流子を有する電機子と、先端が前記整流子に摺接するブラシと、一対の側壁部及び上壁部を有し、前記ブラシを収容するブラシホルダと、前記ブラシの後端面を前記整流子の側かつ前記上壁部の側に押圧する押圧部材と、前記一対の側壁部のうち前記電機子の回転方向の下流側に位置する第一側壁部の内壁面の下部に突出して形成され、前記ブラシの第一側面の下部と接触する突起部と、前記突起部の上側において、前記第一側壁部の内壁面と、前記ブラシの第一側面の上部との間に形成された間隙と、を備える。
【0007】
この回転電機では、押圧部材によってブラシの後端面がブラシホルダの上壁部の側に押圧されることにより、ブラシの上面がブラシホルダの上壁部に接触する。また、電機子の回転時には、押圧部材によってブラシの後端面が整流子の側に押圧されることにより、ブラシの先端が整流子に摺接し、また、ブラシに作用する整流子の接線方向への摩擦力により、ブラシホルダに形成された一対の側壁部のうち電機子の回転方向の下流側に位置する第一側壁部の側にブラシが押圧される。
【0008】
ここで、第一側壁部の側にブラシが押圧されても、ブラシの製造時の形状誤差等により、第一側壁部の内壁面の全面にブラシの第一側面が接触せずに、ブラシの第一側面の上部が第一側壁部の内壁面に接触し、第一側壁部の内壁面と、ブラシの第一側面の下部との間に間隙が形成される場合が想定される。この場合には、ブラシの上面がブラシホルダの上壁部に支持されると共にブラシの第一側面の上部が第一側壁部の内壁面に支持された状態で、ブラシの下端側が自由状態となる。このため、ブラシが整流子から接線方向への摩擦力を受けた場合に、ブラシの下端側が整流子の接線方向に大きく振動することになり、ブラシがブラシホルダに衝突することで、異音が大きくなる虞がある。
【0009】
しかしながら、この回転電機によれば、一対の側壁部のうち電機子の回転方向の下流側に位置する第一側壁部の内壁面には、ブラシの第一側面の下部と接触する突起部が形成されている。したがって、ブラシの上面がブラシホルダの上壁部に支持されると共に、ブラシの第一側面の下部が第一側壁部の内壁面に支持された状態となる。また、第一側壁部の内壁面と、ブラシの第一側面の上部との間には間隙が形成されるので、ブラシの第一側面の下部が第一側壁部の内壁面に確実に支持される。これにより、電機子が回転しても、ブラシの下端側が第一側壁部の内壁面に支持されるため、ブラシの下端側が整流子の接線方向に振動することを抑制できる。この結果、ブラシがブラシホルダに衝突することによる異音の発生を抑制できる。
【0010】
ところで、ブラシの第一側面と第一側壁部の内壁面との接触部である突起部(支点)が整流子から遠ざかるほど、突起部からのブラシの先端のモーメント長が長くなる。この場合には、ブラシの先端の振動が大きくなり、このブラシの第一側面の先端側下部が第一側壁部と衝突することによって大きな異音が発生する虞がある。
【0011】
そこで、請求項2に記載のように、請求項1に記載の回転電機において、前記突起部が、前記ブラシの第一側面の先端側下部と接触し、前記間隙が、前記第一側壁部の内壁面と、前記ブラシの第一側面の先端側上部との間に形成されていると好適である。
【0012】
この回転電機によれば、突起部が、ブラシの第一側面の先端側下部と接触することにより、突起部からのブラシの先端のモーメント長が短くなるので、ブラシの先端の振動をより一層効果的に抑制できる。これにより、ブラシの第一側面の先端側下部が第一側壁部と衝突することによる大きな異音の発生を抑制することができる。
【0013】
なお、請求項3に記載のように、請求項2に記載の回転電機において、前記押圧部材は、前記ブラシの後端面を前記第一側壁部の側に押圧し、前記ブラシは、前記第一側面の先端側下部が前記突起部と接触する第一接触点と、前記第一側面の後端が前記第一側壁部の内壁面と接触する第二接触点で、前記第一側壁部に支持され、前記ブラシの中心軸線は、前記ブラシホルダの上面視で前記ブラシホルダの中心軸線に対して傾斜し、前記ブラシホルダの中心軸線に沿った前記第一接触点と前記第二接触点との間の距離をL、前記ブラシホルダの上面視で前記ブラシホルダの中心軸線と直交する方向に沿った前記第一接触点と前記第二接触点との間の距離をHとした場合に、前記整流子との摺接により前記ブラシの先端が摩耗しても、arctan(H/L)が一定に保たれるように、前記第一側壁部の内壁面は、前記ブラシホルダの上面視で前記ブラシホルダの中心軸線に対して傾斜していても良い。
【0014】
この回転電機によれば、整流子との摺接によりブラシの先端が摩耗しても、arctan(H/L)が一定に保たれるように、第一側壁部の内壁面が、ブラシホルダの上面視でブラシホルダの中心軸線に対して傾斜している。したがって、整流子との摺接によりブラシの先端が摩耗しても、ブラシホルダの中心軸線に対するブラシの傾斜角度が維持される。これにより、ブラシの摩耗が進行しても、整流子に対するブラシの接触角度を維持することができる。
【0015】
また、前記課題を解決するために、請求項4に記載の回転電機は、整流子を有し、双方向に回転する電機子と、先端が前記整流子に摺接するブラシと、一対の側壁部及び上壁部を有し、前記ブラシを収容するブラシホルダと、前記ブラシの後端面を前記整流子の側かつ前記上壁部の側に押圧する押圧部材と、前記一対の側壁部のうちの第一側壁部の内壁面の下部に突出して形成され、前記電機子が第一方向に回転して前記ブラシが前記第一側壁部の側に押圧された場合に、前記ブラシの第一側面の下部と接触する第一突起部と、前記第一突起部が前記ブラシの第一側面の下部と接触した状態前記第一突起部の上側において、前記第一側壁部の内壁面と、前記ブラシの第一側面の上部との間に形成される第一間隙と、前記一対の側壁部のうちの第二側壁部の内壁面の下部に突出して形成され、前記電機子が第二方向に回転して前記ブラシが前記第二側壁部の側に押圧された場合に、前記ブラシの第二側面の下部と接触する第二突起部と、前記第二突起部が前記ブラシの第二側面の下部と接触した状態前記第二突起部の上側において、前記第二側壁部の内壁面と、前記ブラシの第二側面の上部との間に形成される第二間隙と、を備える。
【0016】
この回転電機によれば、押圧部材によってブラシの後端面がブラシホルダの上壁部の側に押圧されることにより、ブラシの上面がブラシホルダの上壁部に接触する。また、一対の側壁部のうちの第一側壁部の内壁面には、第一突起部が形成されており、電機子が第一方向に回転してブラシが第一側壁部の側に押圧された場合には、第一突起部がブラシの第一側面の下部と接触することにより、ブラシの上面がブラシホルダの上壁部に支持されることに加えて、ブラシの第一側面の下部が第一側壁部の内壁面に支持された状態となる。また、このときには、第一側壁部の内壁面と、ブラシの第一側面の上部との間には間隙が形成されるので、ブラシの第一側面の下部が第一側壁部の内壁面に確実に支持される。これにより、電機子が第一方向に回転しても、ブラシの下端側が第一側壁部の内壁面に支持されるため、ブラシの下端側が整流子の接線方向に振動することを抑制できる。
【0017】
また、一対の側壁部のうちの第二側壁部の内壁面には、第二突起部が形成されており、電機子が第二方向に回転してブラシが第二側壁部の側に押圧された場合には、第二突起部がブラシの第二側面の下部と接触することにより、ブラシの上面がブラシホルダの上壁部に支持されることに加えて、ブラシの第二側面の下部が第二側壁部の内壁面に支持された状態となる。また、このときには、第二側壁部の内壁面と、ブラシの第二側面の上部との間には間隙が形成されるので、ブラシの第二側面の下部が第二側壁部の内壁面に確実に支持される。これにより、電機子が第二方向に回転しても、ブラシの下端側が第二側壁部の内壁面に支持されるため、ブラシの下端側が整流子の接線方向に振動することを抑制できる。以上より、電機子が第一方向及び第二方向のいずれの方向に回転する場合にも、ブラシがブラシホルダに衝突することによる異音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る回転電機の斜視図である。
図2図1の回転電機の縦断面図である。
図3図2のブラシホルダ及びその周辺部を模式的に示す図である。
図4図3のブラシホルダによるブラシの支持位置を模式的に示す図である。
図5図2のフロントハウジングを具体的に示す下面図である。
図6図5のF5−F5線断面図である。
図7】本発明の第二実施形態において電機子が第一方向に回転する場合のブラシホルダ及びその周辺部を模式的に示す図である。
図8】本発明の第二実施形態において電機子が第二方向に回転する場合のブラシホルダ及びその周辺部を模式的に示す図である。
図9】本発明の第三実施形態を比較例と共に説明する図である。
図10】本発明の第三実施形態の効果を説明するグラフである。
図11】比較例に係るブラシホルダ及びその周辺部を模式的に示す図である。
図12図11のブラシホルダによるブラシの支持位置の違いを模式的に示す図である。
図13】ブラシからブラシホルダの第一側壁部に伝わる振動の測定箇所を説明する図である。
図14図13の測定による結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一実施形態]
はじめに、本発明の第一実施形態について説明する。
【0020】
図1に示される本発明の第一実施形態に係る回転電機10は、ブラシ付き直流モータである。なお、図1及び以下の各図において、矢印Z1は、回転電機10の軸方向一方側を示し、矢印Z2は、回転電機10の軸方向他方側を示している。図2図1も適宜参照)に示されるように、回転電機10は、電機子12と、ヨーク14と、マグネット16と、エンドハウジング18と、ブラシ装置20とを備えている。
【0021】
電機子12は、回転子であり、シャフト22と、コア24と、整流子26と、巻線28とを有している。コア24及び整流子26は、シャフト22に固定されている。シャフト22の先端側は、後述するフロントハウジング40に設けられた軸受30によって回転可能に支持されており、シャフト22の後端側は、後述するエンドハウジング18に設けられた軸受32によって回転可能に支持されている。巻線28は、コア24に巻装されると共に、整流子26に接続されている。第一実施形態では、一例として、電機子12が第一方向にのみ回転する仕様とされている。
【0022】
ヨーク14は、筒状に形成されており、このヨーク14の内側には、電機子12が回転可能に収容されている。マグネット16は、ヨーク14の内周面に固定されており、コア24の径方向外側にコア24と対向して配置されている。エンドハウジング18は、ヨーク14におけるブラシ装置20と反対側に設けられており、ヨーク14におけるブラシ装置20と反対側の開口部を塞いでいる。
【0023】
ブラシ装置20は、複数のブラシ34と、押圧部材36と、保持部材38と、フロントハウジング40とを有している。フロントハウジング40は、樹脂製とされており、ハウジング本体42と複数のブラシホルダ44(ブラシ収容部)とを有している。ハウジング本体42は、ヨーク14の軸方向一方側に設けられており、ヨーク14における軸方向一方側の開口部を塞いでいる。
【0024】
ハウジング本体42の軸芯部には、上述の軸受30を収容する凹状の軸受収容部46が形成されている。また、このハウジング本体42には、軸受収容部46の周囲に拡がる傾斜部48が形成されている。傾斜部48は、フロントハウジング40の縦断面視においてハウジング本体42の径方向外側に向かうに従ってヨーク14側に向かうようにハウジング本体42の径方向に対して傾斜している。
【0025】
ブラシホルダ44は、ハウジング本体42の周方向の一部に形成されると共に、ハウジング本体42からヨーク14と反対側に膨出している。このブラシホルダ44は、一対の側壁部としての第一側壁部50及び第二側壁部52と、第一側壁部50及び第二側壁部52の上端部を繋ぐ上壁部54とを有している(図1参照)。このブラシホルダ44は、ハウジング本体42の径方向に沿って延びている。
【0026】
このブラシホルダ44における軸受収容部46側であって後述するブラシ34の先端が位置する側は、ブラシホルダ44の先端側であり、このブラシホルダ44の先端は、軸受収容部46の周壁部に接続されている。また、このブラシホルダ44は、フロントハウジング40の縦断面視においてハウジング本体42の径方向外側に向かうに従ってヨーク14側に向かうようにハウジング本体42の径方向に対して全体的に傾斜している(図1参照)。
【0027】
このブラシホルダ44における軸受収容部46と反対側であって後述するブラシ34の後端面が位置する側は、ブラシホルダ44の後端側であり、このブラシホルダ44の後端は、フロントハウジング40の外縁部に位置している。
【0028】
ブラシ34は、その先端側から後端側に亘ってブラシホルダ44に収容されている。ブラシ34は、整流子26に対する径方向外側に配置されており、このブラシ34の先端は、整流子26の外周面に接触している。このブラシ34の先端は、電機子12の回転に伴い整流子26と摺接される。
【0029】
保持部材38は、ブラシホルダ44に組み付けられており、ブラシホルダ44の後端開口部を塞ぐ蓋部56を有している。押圧部材36は、一例として、コイルスプリングである。この押圧部材36は、ブラシ34と蓋部56との間に介在しており、蓋部56に対してブラシ34を整流子26の側に押圧している。
【0030】
ところで、冒頭で説明した通り、このような回転電機10では、ブラシ34が整流子26に摺接することに伴い、ブラシ34に振動が生じると、ブラシ34がブラシホルダ44に衝突し、異音が発生する虞がある。そこで、本発明の第一実施形態では、以下のブラシ制振構造が採用される。先ず、本発明の第一実施形態に係るブラシ制振構造の優位性を明確にするために、そのブラシ制振構造を発明するに至った経緯について説明する。
【0031】
図11は、比較例に係るブラシホルダ44及びその周辺部を模式的に示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図、(C)は背面図である。この図11(A)〜(C)では、ブラシホルダ44が断面で示されている。この比較例において、本発明の第一実施形態から後述するブラシ制振構造が省かれた以外は本発明の第一実施形態と同様の構成である。
【0032】
なお、整流子26を含む電機子12は、第一方向の一例として、第二側壁部52から第一側壁部50の側へ向けて回転する。このため、第一側壁部50は、第二側壁部52に対して電機子12の回転方向の下流側に位置する。
【0033】
また、ブラシ34は、第一側面34A、第二側面34B、上面34C、下面34D、及び、後端面34Eを有する。ブラシ34の後端面34Eには、押圧部材36によってブラシ34が上壁部54の側かつ第一側壁部50の側に押圧される向きに傾斜する傾斜面34Fが形成されている。
【0034】
傾斜面34Fは、下面視で第二側壁部52の側に向かうに従ってブラシ34の先側に向かうようにブラシ34の前後方向(矢印A方向)に対して傾斜すると共に、側面視で上壁部54の側に向かうに従ってブラシ34の後側に向かうようにブラシ34の上下方向(矢印B方向)に対して傾斜している。このため、ブラシ34は、押圧部材36によって傾斜面34Fが押圧されることにより、上壁部54の側かつ第一側壁部50の側に押圧される。
【0035】
図12は、図11のブラシホルダ44によるブラシ34の支持位置の違いを模式的に示す図であり、(A)は設計思想を示し、(B)はブラシ34に製造時の形状誤差が生じた場合の例を示す。なお、以下の説明において、ブラシ34の上側は、矢印Z1側に相当し、ブラシ34の下側は、矢印Z2側に相当する。
【0036】
図12(A)の背面視で示されるように、設計思想としては、第一側壁部50の内壁面50Aの全面にブラシ34の第一側面34Aが接触するようにしている。しかしながら、実際には、ブラシ34に製造時の形状誤差が生じる。図12(B)に示される例では、ブラシ34に製造時の形状誤差が生じることにより、第一側壁部50の内壁面50Aの全面にブラシ34の第一側面34Aが接触せずに、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gが第一側壁部50の内壁面50Aに接触し、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hとの間に間隙58が形成される。
【0037】
この場合には、ブラシ34の上面34Cがブラシホルダ44の上壁部54に支持されると共にブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gが第一側壁部50の内壁面50Aに支持された状態で、ブラシ34の下端側が自由状態となる。このため、ブラシ34が整流子26から接線方向への摩擦力を受けた場合に、ブラシ34の下端側が整流子26の接線方向に大きく振動することになり、ブラシ34がブラシホルダ44に衝突することで、異音が大きくなる虞がある。
【0038】
また、図12の下面視で示されるように、ブラシ34の第一側面34Aと第一側壁部50の内壁面50Aとの接触部60(支点)が整流子26から遠ざかるほど、接触部60からのブラシ34の先端のモーメント長Lが長くなる。この場合には、ブラシ34の先端の振動が大きくなり、図12(B)の背面視で示される先端側下部34Hが第一側壁部50と衝突することによって大きな異音が発生する虞がある。
【0039】
続いて、ブラシ34の振動を測定した結果について説明する。図13は、ブラシ34からブラシホルダ44の第一側壁部50に伝わる振動の測定箇所を示す図である。本測定では、一例として、非接触式(レーザ式)振動計測器を用いて振動を測定する。測定箇所P1は、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部に対応し、測定箇所P2は、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部に対応し、測定箇所P3は、ブラシ34の第一側面34Aの後端側上部に対応し、測定箇所P4は、ブラシ34の第一側面34Aの後端側下部に対応する。
【0040】
図14は、図13の測定による結果を示す図である。図14に示されるように、測定箇所P2、すなわち、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部の振動が大きいことが分かる。
【0041】
そこで、本発明の第一実施形態では、以下のブラシ制振構造が採用される。図3は、本発明の第一実施形態におけるブラシホルダ44及びその周辺部を模式的に示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図、(C)は背面図である。この図3(A)〜(C)では、ブラシホルダ44が断面で示されている。
【0042】
図3に示されるように、本発明の第一実施形態において、第一側壁部50の内壁面50Aには、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと対応する位置に突起状の突起部66が突出して形成されている。そして、この突起部66は、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触している。また、突起部66がブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触することにより、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gとの間には、間隙68が形成されている。
【0043】
図4は、図3のブラシホルダ44によるブラシ34の支持位置を模式的に示す図である。図4に示されるように、本発明の第一実施形態では、ブラシ34の上面34Cがブラシホルダ44の上壁部54に支持されると共に、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50の内壁面50A(突起部66)に支持される。また、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gとの間には間隙68が形成され、これにより、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50の内壁面50Aに確実に支持される。
【0044】
また、上述のように、突起部66が、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触することにより、図4の下面視で示される如く、接触部60(突起部66)からのブラシ34の先端のモーメント長Lが短くなっている。
【0045】
図5は、図2のフロントハウジング40を具体的に示す下面図であり、図6は、図5のF5−F5線断面図である。図5図6に示されるように、第一側壁部50の内壁面50Aには、突起状の突起部66が形成されている。第一側壁部50の内壁面50Aに対する突起部66の突出高さHは、例えば、0.15mm程度である。
【0046】
次に、本発明の第一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
以上詳述したように、本発明の第一実施形態に係る回転電機10では、押圧部材36によってブラシ34の後端面34Eがブラシホルダ44の上壁部54の側に押圧されることにより、ブラシ34の上面34Cがブラシホルダ44の上壁部54に接触する。また、電機子12の回転時には、押圧部材36によってブラシ34の後端面34Eが整流子26の側に押圧されることにより、ブラシ34の先端が整流子26に摺接し、また、ブラシ34に作用する整流子26の接線方向への摩擦力及び押圧部材36による第一側壁部50の側への押圧力により、電機子12の回転方向の下流側に位置する第一側壁部50の側にブラシ34が押圧される。
【0048】
ここで、電機子12の回転方向の下流側に位置する第一側壁部50の内壁面50Aには、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触する突起部66が形成されている。したがって、ブラシ34の上面34Cがブラシホルダ44の上壁部54に支持されることに加え、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50の内壁面50Aに支持された状態となる。また、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gとの間には間隙68が形成されるので、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50の内壁面50Aに確実に支持される。
【0049】
これにより、電機子12が回転しても、ブラシ34の下端側が第一側壁部50の内壁面50Aに支持されるため、ブラシ34の下端側が整流子26の接線方向に振動することを抑制できる。この結果、ブラシ34がブラシホルダ44に衝突することによる異音の発生を抑制できる。
【0050】
特に、突起部66が、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触することにより、突起部66(接触部60)からのブラシ34の先端のモーメント長Lが短くなるので、ブラシ34の先端の振動をより一層効果的に抑制できる。これにより、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50と衝突することによる大きな異音の発生を抑制することができる。
【0051】
次に、本発明の第一実施形態の変形例について説明する。
【0052】
上記第一実施形態において、より好ましくは、全てのブラシホルダ44の第一側壁部50の内壁面50Aに突起部66が形成されるが、複数のブラシホルダ44には、第一側壁部50の内壁面50Aに突起部66が形成されていないブラシホルダ44が含まれていても良い。
【0053】
また、上記第一実施形態において、ブラシ34の後端面34Eに形成された傾斜面34Fは、より好ましくは、押圧部材36によってブラシ34が上壁部54の側かつ第一側壁部50の側に押圧される向きに傾斜する。しかしながら、傾斜面34Fは、押圧部材36によってブラシ34が上壁部54の側にのみ押圧される向きに傾斜しても良い。
【0054】
また、上記第一実施形態において、より好ましくは、突起部66が、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと対応して、第一側壁部50の整流子26側の端部に形成され、間隙68が、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gとの間に形成される。しかしながら、突起部66は、ブラシ34の第一側面34Aの下部と対応していれば、第一側壁部50の前後方向のどの位置に形成されても良い。また、間隙68も、突起部66の位置に対応して、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの上部との間に形成されても良い。
【0055】
なお、上記複数の変形例は、適宜、組み合わされて実施されても良い。
【0056】
[本発明の第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
【0057】
図7図8に示される本発明の第二実施形態では、一例として、電機子12が第一方向及び第二方向の双方向に回転する仕様とされている。図7は、本発明の第二実施形態において電機子12が第一方向に回転する場合のブラシホルダ44及びその周辺部を模式的に示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図、(C)は背面図である。また、図8は、本発明の第二実施形態において電機子12が第二方向に回転する場合のブラシホルダ44及びその周辺部を模式的に示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図、(C)は背面図である。図7(A)〜(C)及び図8(A)〜(C)では、ブラシホルダ44が断面で示されている。
【0058】
本発明の第二実施形態では、上述の本発明の第一実施形態に対し、次のように構成が変更されている。すなわち、本発明の第二実施形態では、電機子12が双方向に回転することに対応して、ブラシホルダ44の第二側壁部52が、第一側壁部50と対称に構成されている。そして、この第二側壁部52には、第一側壁部50の突起部66と同様の突起部76が形成されている。
【0059】
第一側壁部50の突起部66は、本発明における「第一突起部」の一例であり、第二側壁部52の突起部76は、本発明における「第二突起部」の一例である。図7に示されるように、突起部66は、第一側壁部50の内壁面50Aに突出して形成され、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触可能となっている。また、図8に示されるように、突起部76は、第二側壁部52の内壁面52Aに突出して形成され、ブラシ34の第二側面34Bの先端側下部34Iと接触可能となっている。
【0060】
この第一変形例では、図7に示されるように、電機子12が第一方向に回転すると、ブラシ34に作用する整流子26の接線方向への摩擦力及び押圧部材36による第一側壁部50の側への押圧力により、ブラシ34が第一側壁部50の側に押圧され、突起部66が、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触する。また、このように突起部66がブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触した状態において、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gとの間には、間隙68が形成される。
【0061】
一方、図8に示されるように、電機子12が第二方向に回転すると、ブラシ34に作用する整流子26の接線方向への摩擦力により、ブラシ34が第二側壁部52の側に押圧され、突起部76が、ブラシ34の第二側面34Bの先端側下部34Iと接触する。また、このように突起部76がブラシ34の第二側面34Bの先端側下部34Iと接触した状態において、第二側壁部52の内壁面52Aと、ブラシ34の第二側面34Bの先端側上部34Jとの間には、間隙78が形成される。間隙68は、本発明における「第一間隙」の一例であり、間隙78は、本発明における「第二間隙」の一例である。
【0062】
この本発明の第二実施形態によれば、図7に示されるように、電機子12が第一方向に回転してブラシ34が第一側壁部50の側に押圧された場合には、突起部66がブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hと接触することにより、ブラシ34の上面34Cがブラシホルダ44の上壁部54に支持されることに加え、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50の内壁面50Aに支持された状態となる。また、このときには、第一側壁部50の内壁面50Aと、ブラシ34の第一側面34Aの先端側上部34Gとの間には間隙68が形成されるので、ブラシ34の第一側面34Aの先端側下部34Hが第一側壁部50の内壁面50Aに確実に支持される。これにより、電機子12が第一方向に回転しても、ブラシ34の下端側が第一側壁部50の内壁面50Aに支持されるため、ブラシ34の下端側が整流子26の接線方向に振動することを抑制できる。
【0063】
また、図8に示されるように、電機子12が第二方向に回転してブラシ34が第二側壁部52の側に押圧された場合には、突起部76がブラシ34の第二側面34Bの先端側下部34Iと接触することにより、ブラシ34の上面34Cがブラシホルダ44の上壁部54に支持されることに加え、ブラシ34の第二側面34Bの先端側下部34Iが第二側壁部52の内壁面52Aに支持された状態となる。また、このときには、第二側壁部52の内壁面52Aと、ブラシ34の第二側面34Bの先端側上部34Jとの間には間隙78が形成されるので、ブラシ34の第二側面34Bの先端側下部34Iが第二側壁部52の内壁面52Aに確実に支持される。これにより、電機子12が第二方向に回転しても、ブラシ34の下端側が第二側壁部52の内壁面52Aに支持されるため、ブラシ34の下端側が整流子26の接線方向に振動することを抑制できる。以上より、電機子12が第一方向及び第二方向のいずれの方向に回転する場合にも、ブラシ34がブラシホルダ44に衝突することによる異音の発生を抑制できる。
【0064】
なお、本発明の第二実施形態では、上記第一実施形態の変形例が適用されても良い。
【0065】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
【0066】
図9(A)は、本発明の第三実施形態に対する比較例を示す上面図である。この比較例では、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aがストレート状に形成されている。第一側壁部50及び第二側壁部52は、対称に構成されている。電機子12が第一方向に回転する場合、ブラシ34は、第一側面34Aの先端側下部34Hが突起部66と接触する第一接触点90と、第一側面34Aの後端が第一側壁部50の内壁面50Aと接触する第二接触点92で、第一側壁部50に支持される。この場合、ブラシ34の中心軸線A1は、ブラシホルダ44の上面視でブラシホルダ44の中心軸線A2に対して傾斜する。
【0067】
この比較例において、ブラシ34の使用初期の段階では、ブラシホルダ44の中心軸線A2に沿った第一接触点90と第二接触点92との間の距離LはL0である。また、ブラシホルダ44の上面視でブラシホルダ44の中心軸線A2と直交する方向に沿った第一接触点90と第二接触点92との間の距離は、第一側壁部50の内壁面50Aに対する突起部66の突出高さに相当するので、距離Hで一定である。そして、ブラシ34の使用初期の段階では、ブラシホルダ44の上面視でブラシホルダ44の中心軸線A2に対するブラシ34の中心軸線A1の傾斜角度θ0は、以下の式(1)で算出される。
θ0=arctan(H/L0)・・・(1)
【0068】
一方、ブラシ34の寿命末期の段階では、ブラシホルダ44の中心軸線A2に沿った第一接触点90と第二接触点92との間の距離LはL1(L0>L1)となる。そして、ブラシ34の寿命末期の段階では、ブラシホルダ44の上面視でブラシホルダ44の中心軸線A2に対するブラシ34の中心軸線A1の傾斜角度θ1は、以下の式(2)で算出される。
θ1=arctan(H/L1)・・・(2)
【0069】
しかしながら、この比較例のように、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aをストレート状にした場合には、ブラシ34の摩耗に伴って、ブラシホルダ44の中心軸線A2に沿った第一接触点90と第二接触点92との間の距離Lが短くなることにより、傾斜角度がθ0からθ1に増加する(θ0<θ1)。つまり、ブラシ34の摩耗が進行すると、整流子26に対するブラシ34の接触角度が変化する。
【0070】
これに対し、本発明の第三実施形態では、次のように構成される。図9(B)は、本発明の第三実施形態を示す上面図である。本発明の第三実施形態において、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aは、第一側壁部50及び第二側壁部52の後端側に向かうに従って内壁面50A、52Aの間隔が拡がるようにテーパ状に形成されている。第一側壁部50及び第二側壁部52は、対称に構成されている。
【0071】
また、本発明の第三実施形態では、ブラシ34の使用初期の段階と、ブラシ34の寿命末期の段階で傾斜角度θが同じになるように、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aが、ブラシホルダ44の上面視でブラシホルダ44の中心軸線A2に対して傾斜している。
【0072】
つまり、本発明の第三実施形態では、ブラシ34の使用初期の段階では距離L=L0、距離H=H0となり、ブラシ34の寿命末期の段階では距離L=L1、距離H=H1となるが、整流子26との摺接によりブラシ34の先端が摩耗しても、式(3)で示される傾斜角度θが一定に保たれるように、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aは、ブラシホルダ44の上面視でブラシホルダ44の中心軸線A2に対して傾斜している。
θ=arctan(H/L)・・・(3)
【0073】
ここで、図10は、本発明の第三実施形態の効果を説明するグラフである。図10において、縦軸はブラシ34の傾斜角度、横軸はブラシ34の摩耗量を示している。また、グラフG1は、図9(A)のように第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aがストレート状である場合を示し、グラフG2は、図9(B)のように第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aがテーパ状である場合を示している。
【0074】
図10に示されるように、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aがストレート状である場合には、ブラシ34の摩耗に伴い傾斜角度が増加するが、第一側壁部50及び第二側壁部52の内壁面50A、52Aが上述のようにテーパ状である場合には、ブラシ34の先端が摩耗しても、ブラシ34の傾斜角度がほぼ一定に維持される。
【0075】
このように、第三実施形態によれば、整流子26との摺接によりブラシ34の先端が摩耗しても、ブラシホルダ44の中心軸線A2に対するブラシ34の傾斜角度が維持される。これにより、ブラシ34の摩耗が進行しても、整流子26に対するブラシ34の接触角度を維持することができる。
【0076】
なお、本発明の第三実施形態では、第一側壁部50及び第二側壁部52にそれぞれ突起部66、76が形成されているが、電機子12が第一方向にのみ回転する場合には、この第一方向に対応する第一側壁部50にのみ突起部66が形成されていても良い。
【0077】
また、電機子12が第一方向にのみ回転する場合に、この第一方向に対応する第一側壁部50のみが上記式(3)を満たすように傾斜していても良い。
【0078】
また、第三実施形態では、上記第一実施形態の変形例が適用されても良い。
【0079】
以上、本発明の第一乃至第三実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0080】
10…回転電機,12…電機子、14…ヨーク、16…マグネット、18…エンドハウジング、20…ブラシ装置、22…シャフト、24…コア、26…整流子、28…巻線、30、32…軸受、34…ブラシ、34A…第一側面、34B…第二側面、34C…上面、34D…下面、34E…後端面、34F…傾斜面、34G…先端側上部、34H…先端側下部、34I…先端側下部、34J…先端側上部、36…押圧部材、38…保持部材、40…フロントハウジング、42…ハウジング本体、44…ブラシホルダ、46…軸受収容部、48…傾斜部、50…第一側壁部、50A…内壁面、52…第二側壁部、52A…内壁面、54…上壁部、56…蓋部、58…間隙、60…接触部、66…突起部(「突起部」及び「第一突起部」の一例)、68…間隙(「間隙」及び「第一間隙」の一例)、76…突起部(「第二突起部」の一例)、78…間隙(「第二間隙」の一例)、90…第一接触点、92…第二接触点、A1…ブラシの中心軸線、A2…ブラシホルダの中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
図14