特許第6984443号(P6984443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984443金型摩耗量の予測方法とその予測プログラムおよび摩耗推定式の特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984443
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】金型摩耗量の予測方法とその予測プログラムおよび摩耗推定式の特定方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   B21J13/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-11280(P2018-11280)
(22)【出願日】2018年1月26日
(65)【公開番号】特開2019-126831(P2019-126831A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上山 道明
(72)【発明者】
【氏名】与語 康宏
(72)【発明者】
【氏名】澤村 政敏
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徳利
(72)【発明者】
【氏名】蔵戸 希
(72)【発明者】
【氏名】高村 智之
(72)【発明者】
【氏名】二見 諭
【審査官】 山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−321032(JP,A)
【文献】 特開2014−223653(JP,A)
【文献】 特開2015−013312(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0276993(US,A1)
【文献】 特開2004−263850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩耗測定試験に対応する測定モデルについて数値解析することにより、該測定モデルの加工部に生じる接触面圧(Pm)とすべり速度(Vm)の時間変化を算出する測定解析ステップと、
該すべり速度を一定にする時間軸の伸縮に対応させて該接触面圧を補正した補正面圧(Pma)を算出する補正ステップと、
該摩耗測定試験により実際に得られた二つの実摩耗量(Wm)と、各実摩耗量に対応する該補正面圧とを摩耗推定式(式1)へ代入(W=Wm、Pa=Pma)して得られる連立方程式を解いて摩耗係数(α、β)を求める求解ステップと、
を備える摩耗推定式の特定方法。
W=∫α(Pa)β dt (式1)
W:予測摩耗量、Pa:補正面圧、α、β:摩耗係数
(積分区間:1回の加工時間に対応する範囲)
【請求項2】
前記補正ステップは、前記すべり速度を1にする時間軸の伸縮に対応させて前記補正面圧を算出するステップである請求項1に記載の摩耗推定式の特定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の特定された摩耗推定式を用いて、冷間加工により発生が予測される金型の摩耗量を算出する金型摩耗量の予測方法。
【請求項4】
金型の摩耗量を予測する冷間加工に対応する予測モデルについて数値解析することにより、該予測モデルの加工部に生じる接触面圧(Pe)とすべり速度(Ve)の時間変化を算出する予測解析ステップと、
該すべり速度を一定にする時間軸の伸縮に対応させて該接触面圧を補正した補正面圧(Pea)を算出する補正ステップと、
請求項1または2に記載の特定された摩耗推定式に該補正面圧を適用(Pa=Pea)して、該冷間加工により発生が予測される該金型の摩耗量(W=We)を算出する予測ステップと、
を備える金型摩耗量の予測方法。
【請求項5】
請求項4に記載の各ステップをコンピュータに実行させる金型摩耗量の予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間加工を行う金型の摩耗量を予測できる方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
室温環境で素材(ワーク)を鍛造成形、打抜き、据え込み等する冷間(塑性)加工により製造される製品は多い。冷間加工は、通常、パンチやダイ等の金型を用いてなされるが、冷間加工により生じる金型の摩耗量が予め予測できると、製品の品質安定化やコスト低減等を考慮した製品設計や金型設計等が可能となり好ましい。そこで、金型の摩耗量の予測に関する提案が種々なされており、下記の特許文献等に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−321032号公報
【特許文献2】特開2006−224125号公報
【特許文献3】特開2012−71342号公報
【特許文献4】特開2014−223653号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Prediction of tool wear in the blanking process using updated geometry Sogang University Seunghyeon Cheon et al.wear 352-353 (2016) 160-170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3は熱間加工(鍛造等)に関するものである。特許文献4は冷間鍛造金型の損傷評価方法に関するものであり、摩擦仕事量に基づいて摩耗を評価している。非特許文献1は、ピンオンディスク試験の測定結果に基づいて工具摩耗を予測している。いずれの場合も、代表的な摩耗モデル(Archard wear model)または摩耗量の推定式(Archard's equation)を基礎にしている。
【0006】
それらで考慮されている推定式は、一般的に、W=∫αP(t)β・V(t)γdt(式2)と表される。ここで、W:摩耗量、P:接触面圧、V:すべり速度、α、β、γ:摩耗係数である。各摩耗係数は、実際に摩耗測定試験を行って求めた摩耗量(単に「実摩耗量」という。)と、その摩耗測定試験を模擬した測定モデルを有限要素法(FEM)解析して得られるP、Vとを、上記の推定式に代入した3元連立方程式を数値計算して解くことにより定められる。
【0007】
しかし、本発明者がその推定式について調査研究したところ、摩耗測定試験の加工速度(すべり速度)と予測対象である冷間加工時の加工速度(すべり速度)とが大幅に乖離している場合(例えば、3倍以上または1/3倍以下となっている場合)、妥当な予測結果が得られないことが判明した。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、実摩耗量を求める摩耗測定試験時と予測対象である冷間加工時との加工速度(すべり速度)差が大きい場合でも、金型の摩耗量を適切に予測できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、すべり速度が定数(例えば「1」)となるように時間軸を補正して、推定式中の摩耗係数の特定や摩耗量の算出を行うことを着想した。この着想に基づいて実際に数値解析したところ、すべり速度が摩耗測定試験時と予測対象である冷間加工時とで異なる場合でも、妥当な摩耗量の予測結果が得られることが確認された。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《摩耗推定式の特定方法》
本発明は、摩耗測定試験に対応する測定モデルについて数値解析することにより、該測定モデルの加工部に生じる接触面圧(Pm)とすべり速度(Vm)の時間変化を算出する測定解析ステップと、該すべり速度を一定にする時間軸の伸縮に対応させて該接触面圧を補正した補正面圧(Pma)を算出する補正ステップと、該摩耗測定試験により実際に得られた二つの実摩耗量(Wm)と、各実摩耗量に対応する該補正面圧とを摩耗推定式(式1)へ代入(W=Wm、Pa=Pma)して得られる連立方程式を解いて摩耗係数(α、β)を求める求解ステップと、を備える摩耗推定式の特定方法である。
W=∫α(Pa)β dt (式1)
W:予測摩耗量、Pa:補正面圧、α、β:摩耗係数
(積分区間:1回の加工時間に対応する範囲)
【0011】
《金型摩耗量の予測方法》
本発明は、上記により特定された摩耗推定式を用いた冷間加工用金型の摩耗量の予測方法としても把握できる。例えば、本発明は、金型の摩耗量を予測する冷間加工に対応する予測モデルについて数値解析することにより、該予測モデルの加工部に生じる接触面圧(Pe)とすべり速度(Ve)の時間変化を算出する予測解析ステップと、該すべり速度を一定にする時間軸の伸縮に対応させて該接触面圧を補正した補正面圧(Pea)を算出する補正ステップと、上述の特定された摩耗推定式に該補正面圧を適用(Pa=Pea)して、該冷間加工により発生が予測される該金型の摩耗量(W=We)を算出する予測ステップと、を備える金型摩耗量の予測方法でもよい。
【0012】
《作用効果》
本発明の摩耗推定式(単に「推定式」という。)には、従来の推定式(式2)と異なり、すべり速度の累乗が含まれていない。この推定式(式1)を用いることにより、摩耗測定試験時と予測対象である冷間加工時とで加工速度(すべり速度)が大幅に異なる場合でも、金型の摩耗量を高精度に予測することが可能となる。
【0013】
なお、すべり速度の累乗が含まれていないにも拘わらず、本発明の推定式により摩耗量の予測が可能となる理由は次のように考えられる。予測摩耗量の算出は、通常、摩耗仕事量に基づいてなされ、その算出には加工部(摺動面)における接触面圧(P)に加えて、その接触面圧下における移動距離(すべり距離:Vdt)に関する情報が基本的に必要となる。このため、単に、すべり速度を考慮しないと、すべり距離に関する情報が欠落してしまい、摩耗量を適切に算出することはできない。
【0014】
本発明では、すべり速度が定数(さらには1)となるように時間軸を伸縮させて、これに対応するように接触面圧を補正した補正面圧を、その接触面圧に替えて用いている。換言すると、補正面圧に、すべり距離に関する情報を取り込むことにより、推定式からすべり速度に関する項を省略して、その推定式を用いて予測摩耗量の算出を可能としている。こうして本発明では、測定時と予測時における加工速度(すべり速度)の相違に左右されることなく、予測摩耗量の妥当な算出が可能になったと考えられる。
【0015】
《その他》
(1)本発明は、上述した各ステップをコンピュータに実行させる摩耗推定式の特定プログラムや金型摩耗量の予測プログラムとしても把握できる。また本発明は、そのプログラムとコンピュータとを備えた摩耗推定式の特定システムまたは金型摩耗量の予測システムとしても把握できる。なお、本明細書でいう「〜ステップ」は、適宜、「〜手段」と言換えることができる。
【0016】
(2)推定式(式1)における積分区間は、1回の加工時間に対応する範囲である。摩耗測定試験または予測対象である冷間加工における1回あたりの加工時間そのものではなく、補正面圧に対応させて、その加工時間を伸縮させた補正時間の範囲を積分区間とするとよい。
【0017】
推定式(式1)で用いる補正面圧は、その積分区間に対応した加工1回分である。但し、特定された推定式から求まる予測摩耗量(W)は、その特定時に用いた実摩耗量(Wm)の加工回数に対応している。例えば、加工N回分毎に得られる実摩耗量を用いて摩耗係数を求めたとき、特定された推定式(式1)により求まる摩耗量(W)は、その加工回数分(N回分)に相当する摩耗量となる。予測摩耗量の算出時に、加工1回分の摩耗量が必要なときは、摩耗量(W)を加工数(N)で除した摩耗量(W/N)で、摩耗量(W)を置換した推定式を用いるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】冷間加工用金型の予測摩耗量を算出するフローチャートである。
図2】冷間加工前・後の金型とワークを示す断面図である。
図3】摩耗測定試験による金型の摩耗状況を示す図である。
図4】測定モデルのFEM解析により求めた金型のエッジ部における接触面圧とすべり距離の推移(時間変化)を示すグラフである。
図5】摩耗測定試験について、その測定結果とそのFEM解析結果との対応関係をまとめた一覧表である。
図6】予測モデルについて、すべり速度を1とする時間補正に対応する補正面圧を示す一例である。
図7】実摩耗量と予測摩耗量を対比した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、各方法のみならず、各プログラムや各システム等にも適宜該当する。
【0020】
《解析ステップ》
(1)測定解析ステップでは、実際に行う摩耗測定試験を模擬した測定モデルに基づいて、摩耗を生じる加工部(摺接面)に生じる接触面圧(Pm)とすべり速度(Vm)の時間変化を、FEM解析等により算出する。この算出は、実摩耗量を考慮した加工部の形態(形状)に基づいてなされると好ましい。例えば、加工部の形状が所定回数の試験により摩耗(形状変化)しているとき、その摩耗後の形状に基づいて解析を行う。そして、そのとき得られた接触面圧およびすべり速度と、その所定回数の試験後の実摩耗量とを対応付ける。
【0021】
(2)予測解析ステップは、実際に行う冷間加工を模擬した予測モデルに基づいて、摩耗を生じる加工部に生じる接触面圧(Pe)とすべり速度(Ve)の時間変化を、FEM解析等により算出する。この算出時に必要となる加工部の形態(形状)は、例えば、特定されている推定式により求まる予測摩耗量を考慮したものであると好ましい。
【0022】
《補正ステップ》
補正ステップでは、測定解析ステップまたは予測解析ステップで得られたすべり速度(Vm、Ve)が一定(例えば「1」)となるように伸縮させた時間軸(時間幅)に対応させて、接触面圧(Pm、Pe)を補正し、補正面圧(Pma、Pea)を得る。すべり速度を一定とするため、その累乗も定数となり、摩耗係数(α)に吸収される。すべり速度が1となるように時間軸を伸縮させて補正面圧を算出すれば、各演算がより簡便となり好ましい。
【0023】
《求解ステップ》
求解ステップでは、摩耗測定試験により実際に得られた二つの実摩耗量(Wm)と、測定解析ステップおよび補正ステップにより、それぞれの実摩耗量を考慮して得られた補正面圧とを、摩耗推定式(式1)へ代入してできた二元連立方程式を解く。こうして未知数であった摩耗係数(α、β)が求まり、摩耗量を予測しようとしている冷間加工系(金型やワークの材質、加工の種類等)における摩耗推定式が特定される。
【0024】
《予測ステップ》
予測ステップは、摩耗量を予測したい冷間加工を模擬した予測モデルについて、予測解析ステップおよび補正ステップにより得られた補正面圧を、既に特定された摩耗推定式に代入することにより、冷間加工1回あたりまたは所定回数あたりにおける金型の摩耗量(We)を算出する。
【実施例】
【0025】
冷間加工で用いる金型の摩耗量を予測する手順(ステップ)を示すフローチャートを図1に示した。各手順に係る具体例に示しつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0026】
《シミュレーション》
(1)冷間加工
本実施例では、図2に示すように、ダイスとパンチ(金型)で円板状(外径12mm×厚さ0.1mm)のワーク(被加工材)を円環状(内径6mm)に打ち抜く冷間加工を取り上げて説明する。ワークの材質:鉄、金型の材質:超硬合金、パンチの外径:5.95mm、ダイスの内径:6mmとした。
【0027】
(2)摩耗測定試験
冷間加工を繰り返し行い、パンチのエッジ部(円柱端部/図3(a)参照)の摩耗状況を観察および測定した。エッジ部は、加工回数(Shot数)が増加するにつれて摩耗し、図3(b)に示すように変形した。なお、図3(b)に示すエッジ部の形状はレーザー顕微鏡により計測したものである。
【0028】
エッジ部の幾何学的な端点(仮想点)から、エッジ部の実際の加工面までの距離(45°方向の距離:L値/μm)を測定した。そのL値(L−value)と加工回数(Number of shots)との関係を図3(c)にまとめて示した。
【0029】
(3)測定モデル解析
図2に示した金型(パンチとダイス)およびワークを模擬した測定モデルを作成して、その測定モデルについてFEM解析を行った(測定解析ステップ)。その一例として、パンチのエッジ部を初期形状(図3(b)の”Initial”形状)としたときの算出結果を図4に示した。このようなFEM解析により、摩耗量の予測対象であるパンチのエッジ部に、加工中に作用する接触面圧(Normal stress on edge)P(MPa)の時間変化と、その加工中にエッジ部がワークと接触しつつ移動する距離(すべり距離/sliding distance)D(mm)の時間変化が求まる。なお、すべり距離(D)を時間微分すると、すべり速度(V=dD/dtとなる。
【0030】
摩耗測定試験と測定モデルのFEM解析により得られた各結果を対応付けてまとめると、図5に示すようになる。ここでは、加工回数:100万ショット毎の摩耗量を例示していた。図5に示した「L値増分」が100万ショット毎の実摩耗量に相当する。また、FEM解析結果に示した接触面圧およびすべり距離が加工回数の増加に伴って減少している理由は、摩耗によるエッジ部の形状変化が考慮されているためである。
【0031】
(4)接触面圧の補正
上述したように、FEM解析で求まったすべり距離の推移(時間変化)から、すべり速度の推移(時間変化)も求まる。この様子を図6に示した。各算出点間毎に求まったすべり速度が1(mm/s)となるように、時間軸を伸縮(時間補正)する。例えば、FEMの解析結果に基づいて直接的に算出されるすべり速度が0.06mm/sであるとき、すべり距離が等しくなるようにするためには、時間幅を0.06倍するとよい。同様に、FEMの解析結果から算出されたすべり速度が0.03mm/sであるとき、補正後の時間幅は0.03倍すればよい。
【0032】
このように、すべり速度が1(mm/s)となるように変更した時間軸に合わせて、接触面圧も時間補正する。こうして得られる補正面圧の一例を図6に併せて示した。
【0033】
(5)摩耗推定式の特定
図5の対応表から2つのshots数に対応する測定結果とFEM解析結果を抽出し、それぞれの実摩耗量(L値増分)と各実摩耗量に対応する補正面圧とを組合わせて、摩耗推定式(式1)に代入する。こうして得られた二元連立方程式を数値計算により解く。これにより摩耗係数(α、β)が求まり、本実施例の冷間加工系における摩耗推定式が特定される。
【0034】
(6)予測モデル解析
測定モデル解析と同様に、図2に示した金型(パンチとダイス)およびワークを模擬した予測モデルに基づいてFEM解析を行う。そして、加工1回毎(または所定回数毎)に、接触面圧とすべり距離(さらにはすべり速度)の時間変化を算出すると共に、そのすべり速度が1(mm/s)となるように時間補正した後の補正面圧を算出する。こうして得られた補正面圧を、既に特定されている推定式へ代入して、その加工回数時の摩耗量を算出する。こうして得られた摩耗量(累積摩耗量)を次回の摩耗量の算出に反映させる。これを繰り返すことにより、所定回数の冷間加工を行ったときの予測摩耗量(累積値)が算出される。
【0035】
なお、本実施例では、本発明の有効性確認の便宜を図るため、敢えて、測定モデルと同一な予測モデルについて予測摩耗量を算出している。しかし、通常、両モデルは異なることが多い。また、摩耗量の予測対象である冷間加工は、摩耗測定試験と加工の形態や条件が異なってもよい。
【0036】
《評価》
図1に示した冷間加工(せん断加工)を50万回(ショット)行ったときの実摩耗量と、上述した方法で特定した推定式に基づいて算出した予測摩耗量(実施例)と、従来の方法で特定した推定式(式2)に基づいて算出した予測摩耗量(比較例)とを図7に対比して示した。
【0037】
なお、実摩耗量は、実際の冷間加工(摩耗測定試験)を20回/秒(加工速度:約650mm/s)で行ったときの値である。一方、予測摩耗量は、冷間加工を2回/秒(加工速度:約65mm/s)で行う場合を想定して算出した値である。
【0038】
図7から明らかなように、摩耗測定時と摩耗量予測時との加工速度が10倍(1/10倍)も異なる場合でも、実施例に係る予測摩耗量は実摩耗量にほぼ近く、妥当な数値となった。一方、比較例に係る予測摩耗量は、実摩耗量に対して正に桁違いに大きく乖離した数値となった。
【0039】
以上のように、本発明の方法により摩耗推定式を特定し、その摩耗推定式を用いて摩耗量を算出することにより、摩耗測定時と摩耗量予測時との加工速度が乖離しているときでも、実際の冷間加工により生じる摩耗量が適切に予測可能であることが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7