(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
・第1実施形態:
図1は、燃料電池システム10の概略構成図である。燃料電池システム10は、燃料電池スタック20と、酸化剤ガス回路12と、制御部100と、ECU200を備える。なお、燃料電池システム10は、燃料ガス回路と、冷却回路を備えるが、これらについては、図示を省略し、説明も省略する。
【0011】
燃料電池スタック20は、複数の発電ユニット22を積層して構成されており、内部に酸化剤ガスマニホールド24と、燃料ガスマニホールド26と、を備える。発電ユニット22は、燃料ガスマニホールド26から供給された燃料ガスと、酸化剤ガスマニホールド24から供給された酸化剤ガスと、を反応させて発電を行う。本実施形態では、発電ユニット22は、燃料ガスとして水素を用い、酸化剤ガスとして空気を用いる。
【0012】
酸化剤ガス回路12は、酸化剤ガス供給管30と、ターボ式エアコンプレッサ32(以下「ターボコンプレッサ32」と呼ぶ。)と、圧力センサ34、38と、流量センサ36と、ガス排出管40と、調圧弁42と、バイパス管50と、バイパス弁52と、を備える。
【0013】
酸化剤ガス供給管30は、大気と燃料電池スタック20の酸化剤ガスマニホールド24とを接続する管である。酸化剤ガス供給管30には、ターボコンプレッサ32が配置されている。ターボコンプレッサ32は、大気中の空気を圧縮し、酸化剤ガスとして燃料電池スタック20に供給する。酸化剤ガス供給管30には、圧力センサ34、38と、流量センサ36と、が配置されている。圧力センサ34は、ターボコンプレッサ32の上流側に配置され、ターボコンプレッサ32で圧縮される前の酸化剤ガスの圧力Pinを取得する。圧力センサ38は、ターボコンプレッサ32の下流側に配置され、ターボコンプレッサ32で圧縮された後の酸化剤ガスの圧力Poutを取得する。圧力Poutは、燃料電池スタック20における酸化剤ガスの圧力と等しい。流量センサ36は、ターボコンプレッサ32の上流側に配置され、酸化剤ガスの流量Qを取得する。
【0014】
ガス排出管40は、燃料電池スタック20の酸化剤ガスマニホールド24と大気とを接続する管であり、燃料電池スタック20から排出された酸化剤排ガスを大気へ排出するための管である。調圧弁42は、ガス排出管40に配置され、燃料電池スタック20中の酸化剤ガスの圧力を調整する。
【0015】
バイパス管50は、ターボコンプレッサ32の出口側と、調圧弁42の下流側とに接続されており、燃料電池スタック20内の酸化剤ガスマニホールド24をバイパスする管路である。バイパス弁52は、バイパス管50に設けられ、バイパス管50を介して酸化剤ガスをガス排気管40に流すか否かを制御する。
【0016】
ECU200は、燃料電池システム10を搭載する移動体のアクセルペダルの踏量や速度を用いて、燃料電池スタック20に要求される発電量を算出する。
【0017】
制御部100は、目標値設定部105と、ターボコンプレッサ制御部110と、調圧弁制御部120とを備える。目標値設定部105は、燃料電池スタック20に要求される発電量を用いて、燃料電池スタック100に流す酸化剤ガスの流量と圧力比の目標値を設定する。ターボコンプレッサ制御部110は、酸化剤ガスの流量と圧力比の目標値に達するように、ターボコンプレッサ32の回転数を制御する。調圧弁制御部120は、酸化剤ガスの流量と圧力比の目標値に達するように、調圧弁42の開度を制御する。
【0018】
図2は、ターボコンプレッサ32と調圧弁42の制御の概略構成を示す説明図である。目標値設定部105は、燃料電池スタック20に要求される発電量を用いて、酸化剤ガスの流量の目標値QTと圧力比の目標値RTを設定する。酸化剤ガスの流量の目標値QTは、燃料電池スタック20に、要求される発電量を発電させるために必要な酸化剤ガスの流量である。
【0019】
圧力比算出部39は、ターボコンプレッサ32の圧力比R(「圧力比R」と略す。)を算出する。圧力比Rは、ターボコンプレッサ32で圧縮される前の酸化剤ガスの圧力Pinと、ターボコンプレッサ32で圧縮された後の酸化剤ガスの圧力Poutの比(Pout/Pin)である。圧力比算出部39は、圧力センサ34からターボコンプレッサ32の入口における酸化剤ガスの圧力Pinを取得し、圧力センサ38からターボコンプレッサ32の出口における酸化剤ガスの圧力Poutを取得し、圧力比R(=Pout/Pin)を算出する。
【0020】
ターボコンプレッサ制御部110は、流量センサ36から現在の動作点における酸化剤ガスの流量Q1を取得し、圧力比算出部39から現在の動作点における圧力比R1を取得する。ターボコンプレッサ制御部110は、現在の動作点における酸化剤ガスの流量Q1と、現在の動作点における圧力比R1と、酸化剤ガスの流量の目標値QTとを用いて、ターボコンプレッサ32の回転数の制御指令値NCを取得し、ドライバ111に送る。ドライバ111は、制御指令値NCに基づいて、ターボコンプレッサ32を駆動する。
【0021】
調圧弁制御部120は、現在の動作点における酸化剤ガスの流量Q1と、現在の動作点における圧力比R1と、酸化剤ガスの流量の目標値QTと、圧力比の目標値RTと、を用いて、調圧弁42の開度の制御指令値θCを取得し、ドライバ121に送る。ドライバ121は、制御指令値θCに基づいて、調圧弁42の開度を駆動する。
【0022】
図3は、制御するターボコンプレッサ制御部110を示す説明図である。ターボコンプレッサ制御部110は、第1差分演算部112と、第1偏微分係数取得部114と、第1積算演算部116と、第1フィードバック項演算部118と、第1指令値算出部119と、を備える。
【0023】
第1差分演算部112は、酸化剤ガスの流量の目標値QTと、現在の動作点における酸化剤ガスの流量Q1との流量差dQ(=QT−Q1)を算出する。
【0024】
第1偏微分係数取得部114は、現在の動作点におけるターボコンプレッサ32の回転数N1と、第1偏微分係数を取得する。第1偏微分係数は、現在の動作点における、圧力比Rを一定としたときのターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)
Rである。なお、偏微分では、一定とするパラメータの符号を下付きで付記する場合があるが、以下の表記では、一定とするパラメータの符号を省略する。酸化剤ガスの流量Q及び圧力比Rと、ターボコンプレッサ32の回転数Nとの関係を示す式N=f(Q、R)が既知の場合には、第1偏微分係数取得部114は、現在の動作点におけるターボコンプレッサ32の回転数N1をN=f(Q、R)から算出する。また、第1偏微分係数取得部114は、圧力比Rを一定としてN=f(Q、R)を酸化剤ガスの流量Qで偏微分することで、ターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)を算出する。第1偏微分係数取得部114は、マップを用いて現在の動作点におけるターボコンプレッサ32の回転数N1やその流量偏微分係数(∂N/∂Q)を取得してもよい。マップを用いる場合のターボコンプレッサ32の回転数N1やターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)の取得については、後述する。なお、本実施形態において、「流量偏微分係数(∂N/∂Q)を取得すること」は、演算によりターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)を算出して取得することや、マップを用いてターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)を取得することを含んでいる。後述する他の偏微分係数を取得する場合も、同様に、演算により算出して取得することや、マップを用いて取得することを含んでいる。
【0025】
第1積算演算部116は、ターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)と流量差dQとの積(∂N/∂Q)*dQを算出して、ターボコンプレッサ32の回転数Nの補正量ΔNとする。
【0026】
第1フィードバック項演算部118は、PID制御におけるターボコンプレッサ32の回転数Nの第1フィードバック項ΔNcmを以下の式(1)により演算して算出する。
【数1】
式(1)において、係数k
p1、k
i1、k
d1は、それぞれ、PID制御における比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインである。
【0027】
第1指令値算出部119は、現在の動作点におけるターボコンプレッサ32の回転数N1と、第1フィードバック項ΔNcmとを加算して、ターボコンプレッサ32の回転数Nの制御指令値NCを算出する。ターボコンプレッサ32の回転数Nの第1フィードバック項ΔNcmは、ターボコンプレッサ32の回転数Nの操作量に対応する。
【0028】
図4は、調圧弁制御部120を示す説明図である。調圧弁制御部120は、第2差分演算部122と、第2偏微分係数取得部124と、第2積算演算部126と、第3差分演算部132と、第3偏微分係数取得部134と、第3積算演算部136と、加算器140と、第2フィードバック項演算部142と、第2指令値算出部144と、を備える。
【0029】
第2差分演算部122は、酸化剤ガスの流量の目標値QTと、現在の動作点における酸化剤ガスの流量Q1との流量差dQ(=QT−Q1)を算出する。第2差分演算部122と第1差分演算部112は、同一の処理を行うので、両者を共用してもよい。第2偏微分係数取得部124は、現在の動作点における調圧弁42の開度θ1と第2偏微分係数を算出する。第2偏微分係数は、現在の動作点における、圧力比Rを一定としたときの調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)である。酸化剤ガスの流量Q及び圧力比Rと、調圧弁42の開度θとの関係を示す式θ=f(Q、R)が既知の場合には、第2差分演算部122は、現在の動作点における調圧弁42の開度θ1を、θ=f(Q、R)から算出する。また、第2差分演算部122は、圧力比Rを一定としてθ=f(Q、R)を酸化剤ガスの流量Qで偏微分することで、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)を算出する。第2偏微分係数取得部124は、マップを用いて調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)を取得してもよい。第2積算演算部126は、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)と流量差dQとの積(∂θ/∂Q)*dQを算出する。
【0030】
第3差分演算部132は、圧力比の目標値RTと、現在の動作点における圧力比R1との圧力比差dR(=RT−R1)を算出する。第3偏微分係数取得部134は、第3偏微分係数を取得する。第3偏微分係数は、現在の動作点における、酸化剤ガスの流量Qを一定としたときの調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)である。酸化剤ガスの流量Q及び圧力比Rと、調圧弁42の開度θとの関係を示す式θ=f(Q、R)が既知の場合には、第3差分演算部132は、酸化剤ガスの流量Qを一定としてθ=f(Q、R)を圧力比Rで偏微分することで、圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を算出する。第3偏微分係数取得部134は、マップを用いて調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を取得してもよい。第3積算演算部136は、調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)と圧力比差dRとの積(∂θ/∂R)*dRを算出する。なお、第3差分演算部132が現在の動作点における調圧弁42の開度θ1を取得しても良い。
【0031】
加算器140は、第2積算演算部126が算出した積(∂θ/∂Q)*dQと、第3積算演算部136が算出した積(∂θ/∂R)*dRと、を加算して、調圧弁42の開度θの補正量Δθを算出する。第2フィードバック項演算部142は、PID制御における調圧弁42の開度θの第2フィードバック項Δθcmを以下の式(2)により演算し、算出する。
【数2】
式(2)において、係数k
p2、k
i2、k
d2は、それぞれ、PID制御における比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインである。
【0032】
第2指令値算出部144は、現在の動作点における調圧弁42の開度θ1と、第2フィードバック項Δθcmとを加算して、調圧弁42の開度θの制御指令値θCを算出する。調圧弁42の開度θの第2フィードバック項Δθcmは、調圧弁42の開度θの操作量に対応する。
【0033】
図5は、ターボコンプレッサ32の圧力比R(Pout/Pin)及び酸化剤ガスの流量Qと、ターボコンプレッサ32の回転数N及び調圧弁42の開度θと、の間の関係を示すグラフである。
図5の横軸は、酸化剤ガスの流量Qであり、縦軸は、ターボコンプレッサ32の圧力比Rである。
図5では、ターボコンプレッサ32の回転数Nが一定である等回転数ラインと、調圧弁42の開度θが一定である等開度ラインを図示している。酸化剤ガスの流量Qと、圧力比Rが決まれば、その酸化剤ガスの流量Q及び圧力比Rとするためのターボコンプレッサ32の回転数Nと、調圧弁42の開度θとを決めることができる。
【0034】
図6は、ターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)をマップで求める方法を示す説明図である。便宜上、
図6では、横軸と平行な等圧力比ラインをΔRの間隔で引き、縦軸と平行な等流量ラインをΔQの間隔で引いている。また、
図6には、便宜上、ターボコンプレッサ32の等回転数ラインを図示した。各等圧力比ラインと、各等流量ラインの交点には、その圧力比と酸化剤ガスの流量に対応するターボコンプレッサ32の回転数が数値として設定されている。
【0035】
現在の動作点をS1とする。動作点S1では、酸化剤ガスの流量がQ1、圧力比がR1であり、ターボコンプレッサ32の回転数は、N1である。第1偏微分係数取得部114は、動作点S1におけるターボコンプレッサ32の回転数N1を、
図6に示すマップの数値から取得する。
【0036】
目標動作点をSTとする。目標動作点STにおける酸化剤ガスの流量(目標流量)をQT、圧力比(目標圧力比)をRTとする。
図6に示す例では、QT>Q1であるので、第1偏微分係数取得部114は、圧力比が現在の動作点S1と変わらず、酸化剤ガスの流量がQ1よりもΔQだけ大きい動作点S2におけるターボコンプレッサ32の回転数N2を、
図6に示すマップの数値から取得する。
【0037】
第1偏微分係数取得部114は、(N2−N1)/ΔQの演算により、現在の動作点をS1におけるターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)を算出する。なお、QT<Q1の場合には、第1偏微分係数取得部114は、圧力比が現在の動作点S1と変わらず、酸化剤ガスの流量がQ1よりもΔQだけ小さい動作点S2におけるターボコンプレッサ32の回転数N2を、
図6に示すマップの数値から取得して、(N2−N1)/(−ΔQ)の演算によりターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)を算出する。動作点S1が、各等圧力比ラインと、各等流量ラインの交点にない場合には、第1偏微分係数取得部114は、等流量ラインと等圧力比ラインとが交差する点であって、動作点S1を囲う4つの動作点におけるターボコンプレッサ32の回転数を、
図6に示すマップの数値から取得し、4つの動作点における回転数を用いての補間法により現在の動作点S1におけるターボコンプレッサ32の回転数N1を取得する。第1偏微分係数取得部114は、動作点S2の回転数N2についても、同様に、動作点S2を囲う4つの動作点のターボコンプレッサ32の回転数を、
図6に示すマップの数値から取得し、4つの動作点における回転数を用いての補間法により取得する。第1偏微分係数取得部114は、QT>Q1であれば、(N2−N1)/ΔQの演算により、QT<Q1であれば、(N2−N1)/(−ΔQ)の演算により、現在の動作点をS1におけるターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)を算出する。
【0038】
図7は、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)と、圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)をマップで求める方法を示す説明図である。便宜上、
図7では、
図6と同様に、横軸と平行な等圧力比ラインをΔRの間隔で引き、縦軸と平行な等流量ラインをΔQの間隔で引いている。また、
図7には、便宜上、調圧弁42の等開度ラインを図示している。各等圧力比ラインと、各等流量ラインの交点には、圧力比と酸化剤ガスの流量に対応する調圧弁42の開度が数値として設定されている。
【0039】
先ず、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)の取得について説明する。現在の動作点をS1とする。動作点S1では、酸化剤ガスの流量がQ1、圧力比がR1であり、調圧弁42の開度は、θ1である。第2偏微分係数取得部124は、動作点S1における調圧弁42の開度θ1を、
図7に示すマップの数値から取得する。
【0040】
目標動作点をSTとする。目標動作点STにおける酸化剤ガスの流量(目標流量)をQT、圧力比(目標圧力比)をRTとする。
図7に示す例では、QT>Q1であるので、第2偏微分係数取得部124は、圧力比が現在の動作点S1と変わらず、酸化剤ガスの流量がQ1よりもΔQだけ大きい動作点S2の調圧弁42の開度θ2を、
図7に示すマップの数値から取得する。
【0041】
第2偏微分係数取得部124は、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)を、(θ2−θ1)/ΔQの演算により算出する。なお、QT<Q1の場合や、動作点S1が、各等圧力比ラインと、各等流量ラインの交点にない場合についても、第2偏微分係数取得部124は、同様の方法により、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)を取得できる。
【0042】
次に、調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)の取得について説明する。第3偏微分係数取得部134は、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θ1を、
図7に示すマップの数値から取得する。次いで、第3偏微分係数取得部134は、酸化剤ガスの流量が現在の動作点S1と変わらず、圧力比が現在の動作点における圧力比R1よりもΔRだけ大きい動作点S3の調圧弁42の開度θ3を取得する。第3偏微分係数取得部134は、調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を、(θ3−θ1)/ΔRの演算により算出する。なお、QT<Q1の場合や、動作点S1が、各等圧力比ラインと、各等流量ラインの交点にない場合についても、第3偏微分係数取得部134は、同様の方法により、調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を取得できる。
【0043】
図8は、ターボコンプレッサ32の回転数Nと調圧弁42の開度θの制御フローチャートである。制御部100は、この制御フローを、燃料電池システム10の起動後、一定時間ごとにソフトウエア処理にて繰り返し実行する。なお、制御部100が
図8に示す制御フローチャートを実行する場合には、バイパス弁52は閉じており、ターボコンプレッサ32で圧縮された酸化剤ガスは、全て燃料電池スタック20に供給されるものとする。
【0044】
ステップS100では、制御部100は、燃料電池スタック20に要求される発電量から、酸化剤ガスの流量Qの目標値である流量の目標値QTと、圧力比Rの目標値である圧力比の目標値RTを算出する。ステップS110では、制御部100は、
図2に示す様に、現在の動作点S1における酸化剤ガスの流量Q1と、圧力比R1とを取得する。具体的には、制御部100は、流量センサ36から酸化剤ガスの流量Q1を取得し、2つの圧力センサ34、38から取得した圧力値PinとPoutを用いて圧力比R1を算出する。なお、制御部100は、ステップS100とS110のどちらを先に実行しても良い。
【0045】
ステップS120では、制御部100は、現在の動作点S1における酸化剤ガスの流量Q1と、酸化剤ガスの流量の目標値QTが等しいか否かを判断する。等しい場合には、ステップS125に移行し、等しくない場合には、ステップS130に移行する。
【0046】
ステップS125では、現在の動作点における圧力比R1と、圧力比の目標値RTが等しいか否かを判断する。等しい場合には、ステップS170に移行し、等しくない場合には、ステップS130に移行する。
【0047】
ステップS130では、制御部100は、
図3に示す様に、ターボコンプレッサ制御部110に、ターボコンプレッサ32の回転数Nの補正量ΔNを演算させる。ステップS140では、制御部100は、
図3に示す様に、ターボコンプレッサ制御部110に、ターボコンプレッサ32の回転数Nのフィードバック項ΔNcmを演算させる。
【0048】
ステップS150では、制御部100は、
図4に示す様に、調圧弁制御部120に調圧弁42の開度θの補正量Δθを演算させる。ステップS160では、制御部100は、
図4に示す様に、調圧弁制御部120に、調圧弁42の開度θのフィードバック項Δθcmを演算させる。
【0049】
ステップS170では、制御部100は、
図3に示す様に、ターボコンプレッサ制御部110に、ターボコンプレッサ32の回転数N1に、操作量であるターボコンプレッサ32の回転数Nのフィードバック項ΔNcmを加算させて、ターボコンプレッサ32の回転数Nの制御指令値NCを算出させる。ドライバ111は、制御指令値NCに基づいて、ターボコンプレッサ32を駆動する。また、制御部100は、
図4に示す様に、調圧弁制御部120に、調圧弁42の開度θ1に、調圧弁42の開度θのフィードバック項Δθcmを加算させて、調圧弁42の開度θの制御指令値θCを算出させる。ドライバ121は、制御指令値θCに基づいて、調圧弁42を動作させる。なお、ステップS125からステップS170に移行した場合には、現在の動作点S1と目標の動作点STが同じであるため、酸化剤ガスの流量Qや圧力比Rを変更する必要がない。この場合、ターボコンプレッサ32の回転数N及び調圧弁42の開度θを変更する必要が無い。そのため、制御部100は、ターボコンプレッサ制御部110に対し、現在の動作点S1のターボコンプレッサ32の回転数N1を維持させ、調圧弁制御部120に、現在の動作点S1の調圧弁42の開度θ1を維持させる。すなわち、ターボコンプレッサ32の回転数Nの制御指令値NCは、現在の動作点S1のターボコンプレッサ32の回転数N1と等しく、調圧弁42の開度θの制御指令値θCは、現在の動作点S1の調圧弁42の開度θ1と等しい。
【0050】
なお、ステップS120とステップS125は、省略可能である。この場合、現在の動作点S1における酸化剤ガスの流量Q1と、酸化剤ガスの流量の目標値QTが等しく、かつ、現在の動作点における圧力比R1と、圧力比の目標値RTが等しい場合であってもステップS130以降の処理が実行される。そして、
図3、
図4からわかるように、dQ及びdRがいずれもゼロとなるため、ターボコンプレッサ32の回転数Nのフィードバック項ΔNcmと調圧弁42の開度θのフィードバック項Δθcmもゼロとなる。そのため、ターボコンプレッサ32の回転数Nの制御指令値NCは、現在の動作点S1のターボコンプレッサ32の回転数N1と等しく、調圧弁42の開度θの制御指令値θCは、現在の動作点S1の調圧弁42の開度θ1と等しい。したがって、ステップS170では、制御部100は、ターボコンプレッサ制御部110に現在のターボコンプレッサ32の回転数N1を維持させ、調圧弁制御部120に、現在の調圧弁42の開度θ1を維持させことになる。
【0051】
以上、第1実施形態によれば、調圧弁42の開度θの制御を遅延させること無くターボコンプレッサ32の回転数Nと調圧弁42の開度θとを同時に目標値に近づけることができるので、酸化剤ガスの目標流量と目標圧力に短時間で収束させることができる。
【0052】
第1実施形態によれば、ターボコンプレッサ32の回転数Nの操作量ΔNcmを、現在の動作点S1におけるターボコンプレッサ32の回転数Nの流量偏微分係数(∂N/∂Q)と、流量差dQとを用いて取得し、調圧弁42の開度θの操作量Δθcmを、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)と流量差dQ、および、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)と圧力比差dRを用いて取得する。すなわち、ターボコンプレッサの回転数Nについては、流量差dQのみの偏微分演算により操作量を算出するので、酸化剤ガスの流量を優先して目標流量QTに収束できるとともに、ハンチングを抑制しやすい。
【0053】
・第2実施形態:
図9は、ターボコンプレッサ32の圧力比R(Pout/Pin)及び酸化剤ガスの流量Qと、ターボコンプレッサ32のトルクT及び調圧弁42の開度θと、の間の関係を示すグラフである。
図5では、ターボコンプレッサ32の等回転数ラインを図示しているのに対し、
図9では、ターボコンプレッサ32の等トルクラインを図示している点が異なる。すなわち、第1実施形態では、制御部100は、ターボコンプレッサ32を回転数制御するのに対し、第2実施形態では、ターボコンプレッサ32をトルク制御する。
【0054】
第2実施形態におけるターボコンプレッサ32のトルク制御では、ターボコンプレッサ制御部110は、第1実施形態と同様に、
(a)ターボコンプレッサ32のトルクTの流量偏微分係数(∂T/∂Q)を算出する。
(b)現在の動作点における流量差dQと、ターボコンプレッサ32のトルクTの流量偏微分係数(∂T/∂Q)と、の積(∂N/∂Q)*dQを算出して、ターボコンプレッサのトルクTの補正量ΔTとする。
(c)PID制御におけるターボコンプレッサ32のトルクTの第3フィードバック項ΔTcmを以下の式(3)により演算する。
【数3】
式(3)において、係数k
p3、k
i3、k
d3は、それぞれ、PID制御における比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインである。
(d)第3フィードバック項ΔTcmをターボコンプレッサ32のトルクTの操作量としてターボコンプレッサ32を制御する。
【0055】
なお、第2実施形態における調圧弁制御部120の制御・動作は、第1実施形態における調圧弁制御部120の制御・動作と同様であるため、説明を省略する。また、制御フローについても、同様であるので、説明を省略する。
【0056】
以上、第2実施形態においても、調圧弁42の開度θの制御を遅延させること無くターボコンプレッサ32のトルクTと調圧弁42の開度θとを同時に目標値に近づけることができるので、酸化剤ガスの目標流量と目標圧力に短時間で収束させることができる。また、ターボコンプレッサ32のトルクTの操作量ΔTcmを、現在の動作点S1におけるターボコンプレッサ32のトルクTの流量偏微分係数(∂T/∂Q)と、流量差dQとを用いて取得し、調圧弁42の開度θの操作量Δθcmを、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)と流量差dQ、および、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)と圧力比差dRを用いて取得する。すなわち、ターボコンプレッサのトルクTについては、流量差dQのみの偏微分演算により操作量を算出するので、酸化剤ガスの流量を優先して目標流量QTに収束できるとともに、ハンチングを抑制しやすい。
【0057】
第1実施形態の回転数制御では、
図5に示す様に、ターボコンプレッサの回転数Nを一定にしたときの酸化剤ガスの流量Qと圧力比Rとは、線形関係になく、酸化剤ガスの流量が多くなると、圧力比Rは急激に減少する。一方、第2実施形態のトルク制御では、
図9に示す様に、ターボコンプレッサのトルクTを一定にしたときの酸化剤ガスの流量Qと圧力比Rとは、線形関係にある。したがって、流量Q及び圧力比Rと、ターボコンプレッサ32のトルクTとの関係を示す式T=f(Q、R)を簡単な式で近似できる。したがって、ターボコンプレッサ32のトルクTの流量偏微分係数(∂T/∂Q)を容易に演算できる。
【0058】
第2実施形態においても、ターボコンプレッサ32のトルクTの流量偏微分係数(∂T/∂Q)と、調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)及び圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を、マップ用いて取得可能である。なお、ターボコンプレッサ32のトルクTの流量偏微分係数(∂T/∂Q)を取得するためのマップは、
図6に示すマップとほぼ同じであるが、各等圧力比ラインと、各等流量ラインの交点には、ターボコンプレッサ32の回転数の代わりに、ターボコンプレッサ32のトルクの数値が設定されている点が異なる。調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)及び圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を求めるためのマップは、
図7に示すマップと同じである。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、マップを用いて、現在の動作点におけるターボコンプレッサ32のトルクT1及びその流量偏微分係数(∂T/∂Q)と、現在の動作点における調圧弁42の開度θ1とその流量偏微分係数(∂θ/∂Q)及び圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)を取得可能である。
【0059】
以上、第1実施形態と、第2実施形態とをまとめると、調圧弁42の開度θの制御を遅延させること無くターボコンプレッサ32の駆動量X(駆動量Xは、「回転数N」または「トルクT」を意味する)と調圧弁42の開度θとを同時に目標値に近づけることができるので、目標流量と目標圧力に短時間で収束させることができる。また、ターボコンプレッサ32の駆動量の操作量ΔXcmを、現在の動作点S1におけるターボコンプレッサ32の駆動量Xの流量偏微分係数(∂X/∂Q)と、流量差dQとを用いて取得し、調圧弁42の開度θの操作量Δθcmを、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θの流量偏微分係数(∂θ/∂Q)と流量差dQ、および、現在の動作点S1における調圧弁42の開度θの圧力比偏微分係数(∂θ/∂R)と圧力比差dRを用いて取得する。すなわち、ターボコンプレッサ32の駆動量Xについては、流量差dQのみの偏微分演算を用いて操作量を算出するので、酸化剤ガスの流量Qを優先して目標流量QTに収束できるとともに、ハンチングを抑制しやすい。
【0060】
・他の実施形態1:
上述した第1実施形態、第2実施形態では、ターボコンプレッサ32の圧力比を用いている。ここでターボコンプレッサ32によって圧縮される前の酸化剤ガスの圧力Pinは、大気圧、すなわち、ほぼ1気圧であるので、
図5、
図6、
図7、
図9において、縦軸を圧力比ではなく、ターボコンプレッサ32で圧縮された後の酸化剤ガスの圧力Poutで示してもよい。また、この場合、ターボコンプレッサ32の上流側の圧力センサ34は、省略可能である。
【0061】
・他の実施形態2:
上述した第1実施形態では、ターボコンプレッサ制御部110、調圧弁制御部120は、それぞれPID制御におけるフィードバック項ΔNcm、Δθcmを取得しているが、PI制御におけるフィードバック項を取得しても良い。この場合、(dΔN/dt)、(dΔθ/dt)を算出しない、あるいは、PID制御の微分ゲインk
d1、k
d2をゼロとしてもよい。第2実施形態でも同様に、PID制御におけるフィードバック項の代わりに、PI制御におけるフィードバック項を取得しても良い。
【0062】
・他の実施形態3:
第1、第2実施形態では、バイパス弁52を閉じている状態での制御を説明したが、バイパス弁52の開度が一定の場合でも同様に制御できる。すなわち、バイパス弁52の開度が一定の場合でも、酸化剤ガスの流量Qと、圧力比Rが決まれば、制御部100は、ターボコンプレッサ32の駆動量X(回転数NまたはトルクT)と、調圧弁42の開度θを決めることができる。したがって、制御部100は、バイパス弁52の開度が一定の場合でも同様に制御できる。この場合、制御部100は、バイパス弁52の開度に応じた複数のマップを有していても良い。なお、他の構成であっても、ターボコンプレッサ32の駆動量Xと、1つの弁の開度によって、酸化剤ガスの流量Qと圧力比Rを制御する構成であれば、本願の手法を適用できる。
【0063】
・他の実施形態4:
第1、第2実施形態では、ターボコンプレッサ制御部110は、ターボコンプレッサの回転数Nについては、流量差dQのみの偏微分演算を用いて操作量を算出しているが、流量差dQの偏微分演算と圧力比差dRの偏微分演算の両方を用いて操作量ΔNcmを算出してもよい。調圧弁42の開度θの制御を遅延させること無くターボコンプレッサ32の回転数Nと調圧弁42の開度θとを同時に目標値に近づけることができるので、目標流量と目標圧力に短時間で収束させることができる。
【0064】
本発明は、上述の実施形態や他の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、他の実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。