(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る高圧タンクの製造方法の実施形態について説明する。
【0012】
図1は高圧タンク製造装置の構成を示す模式図であり、
図2はライナーの構造を示す正面図である。本実施形態の高圧タンク10は、例えば燃料電池車両に搭載され、内部に高圧水素を貯留するための貯留空間を有するライナー11と、該ライナー11の表面に密着する繊維強化樹脂層12とを備えている。このような構造を有する高圧タンク10の製造方法は、主に、ライナー11を用意する第1工程と、ライナー11の表面に繊維強化樹脂層12を形成する第2工程と、繊維強化樹脂層12を熱硬化させる第3工程とを含む。
【0013】
第1工程では、ライナー11が用意される。
図2に示すように、ライナー11は、略円筒状の胴体部13と、胴体部13の両端にそれぞれ設けられた略半球状のドーム部14とを有する中空の容器である。各ドーム部14の頂部はそれぞれ開口されており、その中には口金部15が内挿されている。
【0014】
ライナー11は、例えば、ポリエチレンやナイロン等の樹脂部材を用いて回転・ブロー成形法によって形成されている。なお、ライナー11は、樹脂部材に代えてアルミニウム等の軽金属によって形成されても良い。また、ライナー11は、回転・ブロー成形法のような一体成形の製造方法に代えて、射出・押出成形等により複数に分割された部材を接合することにより形成されても良い。
【0015】
第2工程では、ライナー11の軸Sを中心として該ライナー11を回転させながら、ライナー11の表面に熱硬化性樹脂を含浸した炭素繊維16を繰り返し複数層巻き付けることで繊維強化樹脂層12が形成される。
【0016】
炭素繊維16は、一定の張力が付与された状態で、いわゆるフープ巻きやヘリカル巻き等の巻き方で胴体部13及びドーム部14の表面に密着に巻き付けられる。フープ巻きとは、ライナー11の軸Sと炭素繊維16の巻き付け方向とがなす角度が略垂直になるように、炭素繊維16をライナー11の周方向に巻く方法である。ここで、「略垂直」とは、90度と、炭素繊維16同士が重ならないように炭素繊維16の巻き付け位置をずらすことによって生じ得る90度前後の角度との両方を含むことを意味する。
【0017】
一方、ヘリカル巻きとは、ライナー11の軸Sと炭素繊維16の巻き付け方向とがなす角度が所定の角度となるように、炭素繊維16を螺旋状に巻く方法である。ここでの所定の角度は、任意に定めることができる。例えば、所定の角度を小さくすれば、炭素繊維16が軸Sを一周する前に、ドーム部14における炭素繊維16の巻き付け方向の折り返しが生じる巻き付け方法(すなわち、低角度ヘリカル巻き)を実現できる。一方、所定の角度を大きくすれば、ドーム部14における炭素繊維16の巻き付け方向の折り返しが生じるまでに、胴体部13において炭素繊維16が軸Sを少なくとも一周する巻き付け方法(すなわち、高角度ヘリカル巻き)を実現できる。
【0018】
図1に示す高圧タンク製造装置1は、第2工程に適用される装置であり、ライナー11を回転駆動するための駆動モータ2と、パルス信号を生成するパルス分周器3と、偏光画像を取得するための偏光カメラ4と、各制御及び各解析を行うための制御解析部5と、ライナー11に炭素繊維16を供給するためのアイクチ6とを備えている。
【0019】
駆動モータ2には、図示しない角度エンコーダが備え付けられている。該角度エンコーダのパルスは、パルス分周器3に出力される。パルス分周器3は、例えばライナー11の所定角度θ(すなわち、回転角度であり、以下の説明では、該所定角度θを所定回転角度θと呼ぶ場合がある)回転毎に1パルスを出力するように構成されている。偏光カメラ4は、ライナー11の軸Sの上方にドーム部14に向けて取り付けられ、ドーム部14からの反射光の偏光を取得する。この偏光カメラ4は、パルス分周器3から出力されたパルスをトリガーとし、所定角度θ回転毎に撮像するように構成されている。
【0020】
制御解析部5は、例えば、制御及び解析を実行するためのCPU(Central processing unit)と、制御及び解析のプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read only memory)と、一時記憶装置としてのRAM(Random access memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されている。アイクチ6は、例えばワイヤ駆動によってライナー11の軸S方向に沿って進退できるように(
図1の矢印F参照)形成されている。
【0021】
本実施形態において、第2工程は、更に位相線取得ステップと、偏光画像取得ステップと、3次元座標変換ステップとを含む。この第2工程は、例えば炭素繊維16各層毎に実施される。
【0022】
位相線取得ステップでは、炭素繊維を巻き付ける前に、ドーム部14の表面においてライナー11の軸S方向に沿う位置基準部材をドーム部14の周方向に所定の間隔で複数貼り付け、貼り付けられた位置基準部材を所定角度θ回転毎に撮像し、撮像した画像に基づいてドーム部14の表面の位相線を取得する。以下、
図3及び
図4を参照して本ステップを詳細に説明する。なお、
図3は、ドット紙の貼り付け位置を示す模式図であって、偏光カメラ4の取付位置(すなわちライナー11の軸S上方)から見たドーム部14の様子を示している。
【0023】
例えばドーム部14の表面に1層目の炭素繊維16を巻き付ける前に、
図3に示すように、まずドーム部14表面の形状に沿って、軸Sの真上の位置に中央ドット紙20を貼り付ける。続いて、ドーム部14の周方向に沿って中央ドット紙20から左側に30度離れた位置に軸S方向に沿う左側ドット紙21、中央ドット紙20から右側に30度離れた位置に軸S方向に沿う右側ドット紙22をそれぞれ貼り付ける。これによって、左側ドット紙21から右側ドット紙22までの所定角度θは60度になる。これらのドット紙は、例えば口金部15から胴体部13とドーム部14との境界線17にかけて延びている。
【0024】
中央ドット紙20、左側ドット紙21及び右側ドット紙22は、特許請求の範囲に記載の「位置基準部材」に相当するものであり、それぞれ細い幅を有する長尺状を呈し、隣接ドットの間隔は等間隔となっている。なお、本実施形態では、位置基準部材としてドット紙を用いるが、ドット紙のほか、長手方向に等間隔のパターンを有する部材、長手方向に規則性のパターンを有する部材を用いても良い。
【0025】
次に、ライナー11を時計回りに60度ずつ回転し、上述のようにドット紙を順次に貼り付ける。そして、ライナー11を一周すると、ドーム部14には12本のドット紙が30度の間隔で貼り付けられる。
【0026】
次に、ライナー11を所定角度θ(すなわち60度)ずつ回転しながら、貼り付けられたドット紙を偏光カメラ4で撮像し、各ドット紙の偏光画像を取得する。続いて、制御解析部5は、取得されたドット紙の偏光画像に基づいて、ドーム部14の位相を示す位相線(
図4中の破線参照)を取得する。
図4の中央位置にある位相線は上述の中央ドット紙20に対応し、その左側の位相線は左側ドット紙21に対応し、右側の位相線は右側ドット紙22に対応している。
【0027】
位相線取得ステップに続く偏光画像取得ステップでは、炭素繊維を巻き付けながら、所定角度θ回転毎に偏光カメラで炭素繊維の偏光画像を取得する。
【0028】
具体的には、駆動モータ2の回転駆動でライナー11が回転し、1層目の炭素繊維16がライナー11の表面に巻き付けられる。このとき、角度エンコーダは、例えばライナー11が0.5度回転する毎に1パルスをパルス分周器3に出力する。
【0029】
分周比が例えば120の場合、パルス分周器3は、ライナー11が60度(すなわち、θ=120×0.5度=60度)回転する毎に1パルスを出力する。一方、偏光カメラ4は、パルス分周器3から出力されたパルス信号を受け、ドーム部14の表面に巻き付けられた炭素繊維16を撮像し、炭素繊維16の偏光画像を取得する。偏光カメラ4は、取得した炭素繊維16の偏光画像を制御解析部5に出力する。なお、偏光カメラ4の撮像は、上述のようにライナー11の所定角度θ(すなわち、60度)回転毎に行われる。従って、ライナー11を一周回転すると、偏光カメラ4の撮像回数は6回となる。
【0030】
偏光画像取得ステップに続く3次元座標変換ステップでは、偏光画像取得ステップで取得された炭素繊維16の偏光画像に基づいて巻き付けられた炭素繊維16を抽出し、抽出した炭素繊維16と位相線取得ステップで取得された位相線との交点座標を求め、ドーム部14の表面における3次元座標に変換する。
【0031】
具体的には、制御解析部5は、偏光カメラ4から出力された炭素繊維16の偏光画像に対して、炭素繊維の配向に応じた偏光を反射させる性質を利用し、ドーム部14の表面に巻き付けられた炭素繊維16の配向を求めることにより、炭素繊維16を抽出する。
【0032】
すなわち、制御解析部5は、偏光角度が炭素繊維16の配向に近い画像のピクセルを白色に、それ以外のピクセルを黒色にする。このとき、偏光画像のノイズの原因で白色領域と黒色領域とは完全に分離できないが、クロージングやオープニング等の画像処理を行うことによってこれらの領域を完全に分離することができる。これによって、
図4に示すような解析画像を得られる。なお、
図4中の白色領域は抽出された炭素繊維16を示す。
【0033】
次に、制御解析部5は、得られた解析画像に基づき、抽出した炭素繊維16と、所定角度θ範囲内にあるドーム部14の位相線(
図4の破線参照)との交点座標(
図4の灰色丸印参照)を求める。
【0034】
なお、位相線取得ステップで取得された位相線は、ドーム部14の位相を示すものだけでなく、ドーム部14の曲面上の定規にもなる。このため、取得された位相線に基づき、ドーム部14の曲面補正を行うことができ、口金部15から距離L離れた位置の座標を求めることができる。ここで、制御解析部5は、
図5に示すように、ドーム部14の形状データを用いて口金部15から距離Lの位置におけるライナー11の3次元座標での位置を算出する。
図5において、横軸の基準点(すなわち、0地点)は口金部15である。なお、ドーム部14の形状データとして、ドーム部14の設計データが用いられる。
【0035】
図6はライナーの3次元座標系を示す図であり、
図6中のzはライナー11の軸S方向、rはドーム部14の半径方向、θは所定回転角度を示す。ここでの所定回転角度θは、上述したように、−30度〜30度の範囲である。このようにドーム部14の形状データを用いることで、口金部15から距離Lの位置にある灰色丸印の座標を求めることができるので、
図4に示す交点座標をドーム部14表面上の3次元座標にそれぞれ変換することが可能になる。
【0036】
続いて、60度ずつ位相がずれた他の偏光画像についても上述の解析を行うと、全ての位相分の炭素繊維16の巻付き位置に関する3次元座標(r,θ,z)を得ることができる。
図7(a)は、得られた3次元座標の結果を基に作成した3次元の画像イメージである。
【0037】
また、このように得られた炭素繊維16の巻付き位置に関する3次元座標に基づき、炭素繊維16の巻き付け幅及び巻き付け角度を更に求めることができる。例えば
図7(a)に示すように、複数の灰色丸印のうち、耐圧強度に効く口金部15首元にあるB点と、B点の上方にあるA点と、A点に隣接する(
図7(a)において、A点の左側)C点をピックアップし、
図7(b)に示すようにA点及びB点を通る直線と、A点及びC点を通る直線とをそれぞれ引くと、両直線がA点で交差する。
【0038】
そして、A点、B点及びC点の3次元直交座標(x,y,z)については、下記式(1)に示すA点のxA、yAのようにそれぞれ求めることができる。なお、zAは上述したように既に求められている。
【0039】
図7(b)に示すよう、A点及びB点を通る直線と、A点及びC点を通る直線とからなる角度をφとした場合、式(1)等で求められたA点、B点及びC点の3次元直交座標(x,y,z)、及びベクトル内積を用いて、sinφを求めることができる(下記式(2)参照)。
【0040】
従って、口金部15首元における炭素繊維16の巻き付け幅は下記式(3)で求められる。
【0041】
一方、巻き付け角度については下記式(4)で求められる。
【0042】
次に、2層目、3層目…N層目の炭素繊維16の巻き付けに対し、上述の位相線取得ステップ、偏光画像取得ステップ及び3次元座標変換ステップを繰り返し実施しながら、繊維強化樹脂層12を形成していく。
【0043】
一方、第3工程では、外周に繊維強化樹脂層12が形成されたライナー11を恒温槽に入れて、例えば85℃程度の温度で加熱し、炭素繊維16中の熱硬化性樹脂を熱硬化させる。これによって、高圧タンク10が製造される。
【0044】
本実施形態に係る高圧タンクの製造方法では、炭素繊維16を巻き付ける前にドーム部14の表面の位相線を取得し、炭素繊維16を巻き付けながら巻き付けられた炭素繊維16の偏光画像を取得し、取得した位相線を基準として炭素繊維16との交点座標を求め、更に交点座標をドーム部14の表面における3次元座標に変換することで、ドーム部14の表面に巻き付けられた炭素繊維16の位置を正確に測定することができる。しかも、炭素繊維16を巻き付けながら上述の測定を行うことができるので、巻き付け終了後に測定する場合と比べて、高圧タンク10の生産サイクルタイムを短縮できるとともに、不良品の後工程への流出を抑制することができる。
【0045】
また、巻き付け終了後に人が手で測定する場合と比べて、炭素繊維16を巻き付けながら全ての炭素繊維16をリアルタイムで測定することができるので、巻き付け終了後からでは見えなくなる内部の炭素繊維16の位置でも測定できる。また、人が装置内に立ち入って行う測定作業が不要になるため、サイクルタイムを更に短縮することができる。また、ドーム部14の曲面形状を補正することにより、ドーム部14の表面上の炭素繊維16の位置を一層正確に測定することができる。
【0046】
なお、本実施形態において、第2工程における位相線取得ステップ、偏光画像取得ステップ及び3次元座標変換ステップを各層毎に行う例を挙げて説明したが、これに限らず、例えば位相線取得ステップを量産前の準備ステップとして行い、量産時に偏光画像取得ステップ及び3次元座標変換ステップのみを行っても良い。このような場合であっても本実施形態と同様な作用効果を得られる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、上述の実施形態では、ドット紙の撮像に偏光カメラ4を用いたが、偏光カメラ以外の通常のカメラを用いても良い。この場合、偏光画像とのずれの発生を防止するために、通常のカメラの取付位置を偏光カメラの取付位置と同じにする必要がある。