【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1の半導体素子の構成を示した図である。実施例1の半導体素子は、GaNからなる基板10と、n−GaNからなるn層11と、p−GaNからなるp層12と、n電極13と、p電極14と、によって構成されている。
【0016】
基板10は、Si濃度が1.0×10
18〜1.0×10
20/cm
3 のn+GaNからなり、主面をc面とする。GaNをエピタキシャル成長させることができる導電性基板であれば、他の材料を用いてもよい。たとえば、SiCやSiなどを用いることができる。
【0017】
n層11は、基板10上に位置し、Si濃度が1×10
15〜1×10
17/cm
3 のn−GaNからなる。n層11の厚さは1〜20μmである。
【0018】
p層12は、n層11上に位置し、Mg濃度が5×10
17〜5×10
19/cm
3 のp−GaNからなる。p層12の厚さは0.1〜2μmである。
【0019】
n電極13は、基板10裏面(n層11が設けられている側とは反対側の面)に設けられている。n電極13はオーミック電極であり、Ti/Alからなる。他にもn+GaNに対してオーミック接触可能な任意の材料を用いることができる。
【0020】
p電極14は、p層12上に設けられている。p電極14は、オーミック電極であり、Niからなる。他にもp−GaNに対してオーミック接触可能な任意の材料を用いることができる。たとえばPd、Ptなどを用いることができる。
【0021】
次に、実施例1の半導体素子の製造方法について、
図2、3を参照に説明する。
【0022】
まず、n+GaNからなる基板10上に、MOCVD法によってn−GaNからなるn層11を形成する(
図2(a)参照)。成長温度は1050〜1150℃、V/IIIは1500〜4000とする。ここでV/IIIは、MOCVD法において供給するGa源ガスと窒素源ガスのモル比(流量比)である。Ga源ガスは、たとえばトリメチルガリウム(TMG)であり、窒素源ガスは、たとえばアンモニアである。
【0023】
次に、n層11上に、MOCVD法によってMgドープのGaNからなるp層12を形成する(
図2(b)参照、
図3のステップS1)。成長温度は1050〜1150℃、V/IIIは1000〜4000とする。このV/IIIの制御によってp層12中の不純物濃度を制御することが可能である。そして、p層12中のMgを活性化させる熱処理を行う。特に好ましい成長温度は1100〜1150℃である。この範囲であれば、p層12の結晶品質をより向上させることができる。
【0024】
次に、p層12のPLスペクトルを測定する(
図3のステップS2)。具体的には、p層12表面に励起光を照射し、p層12表面により散乱された光を分光器に導き、そのスペクトルを分光器により測定する。PLスペクトル測定は、室温で行うのが簡便で望ましい。
【0025】
なお、実施例1ではPLスペクトルを測定しているが、p層12の電子を励起して基底状態に戻る際の発光の発光スペクトルを測定する方法であれば任意の方法でよい。たとえばCLスペクトルの測定でもよい。
【0026】
次に、PLスペクトルのバンド端発光強度とブルーバンド帯の発光強度との強度比I
BL/I
NBE を算出する(
図3のステップS3)。つまり、ブルーバンド帯の発光強度をバンド端発光強度で規格化する。PLスペクトルは、波長365nm(3.4eV)に強いピークを有し、このピーク強度がバンド端発光強度である。また、ブルーバンド帯は、430〜450nmとする。ブルーバンド帯の発光強度は、このブルーバンド帯における最も発光強度の高い値とする。
【0027】
この強度比を基に、次工程へ進めるウェハと、ここで作製を取りやめるウェハとを選別する(
図3のステップS4)。選別の基準は、PLスペクトルのバンド端発光強度に対するブルーバンド帯の発光強度の強度比I
BL/I
NBE が0.5以下かどうかであり、強度比が0.5以下のウェハは素子作製の次工程を行い、強度比が0.5よりも大きいウェハは、素子作製を取りやめて回収する。
【0028】
このようにp層12のPLスペクトルを測定し、ブルーバンド帯の発光強度を見ることにより、p層12の結晶品質を評価することができる。特に、p層12表面の結晶品質を評価することができる。発明者の検討によると、p−GaNの場合、従来のようなイエローバンド帯の発光強度(不純物による準位形成に起因する発光)による評価では、その結晶品質を十分に評価することができず、コンタクト抵抗やリーク電流の大きな素子となる場合があった。これは、p−GaNでは不純物により形成される準位よりも、他の要因(たとえば点欠陥、転位などの結晶欠陥)により形成される準位の方が、p−GaN表面での電流リークなどに効いてくるためであると推察される。一方、ブルーバンド帯の発光強度による評価では、不純物以外の準位形成による発光を評価することができる。そのため、実施例1のように、ブルーバンド帯の発光強度を評価することで、p層12表面の結晶品質を評価することができる。
【0029】
また、ウェハの選別基準として、PLスペクトルのバンド端発光強度に対するブルーバンド帯の発光強度の強度比I
BL/I
NBE が0.5以下としたのは、強度比0.5以下のウェハを用いて作製した半導体素子は、強度比0.5より大きいウェハを用いて作製した半導体素子に比べて、リーク電流、コンタクト抵抗を大きく低減することができるからである。
【0030】
次に、選別したウェハについて、p層12側からドライエッチングして素子分離溝(図示しない)を作製する。そして、p層12上にp電極14、基板10裏面にn電極13をそれぞれ蒸着やスパッタなどの方法によって形成する(
図3のステップS5)。以上により、
図1に示す実施例1の半導体素子を作製する。
【0031】
以上、実施例1の半導体素子の製造方法によれば、実際に素子作製を行うウェハを用いてp層12の結晶品質を評価することができ、その評価に基づきウェハを選別することで、コンタクト抵抗やリーク電流の低減された半導体素子を作製することができる。また、p層12のホール濃度も制御することができる。特に、従来は不純物以外の準位の評価を短時間、低コストで行うことができなかったが、実施例1のp層12の結晶品質評価では、短時間で行うことができ、また低コストで行うことができる。
【0032】
なお、実施例1の半導体素子はpnダイオードであったが、本発明はこれに限らず、p−GaNを有した構造であれば任意の半導体素子に適用できる。たとえば、FETなどにも本発明は適用できる。また、実施例1の半導体素子は、縦方向に導通を取る素子であったが、横方向に導通を取る素子であってもよい。
【0033】
また、p層12のPLスペクトル測定は、p層12の形成後、n電極13およびp電極14の形成前であればどのタイミングで行ってもよいが、ウェハの選別はなるべく製造工程の前段で行うことが好ましいので、PLスペクトル測定もなるべく製造工程の前段で行うことが好ましい。したがって、実施例1のように、GaNの結晶成長終了直後のタイミングが好ましく、素子分離の工程前が好ましい。
【0034】
また、実施例1では、MOCVD法においてp型ドーパントガスを供給することでGaN結晶中にMgを導入しているが、イオン注入によって目的の領域に直接Mgを導入してもよいし、目的の領域とは別の領域にMgをイオン注入後、熱処理してMgを拡散させることにより目的の領域にMgを導入してもよい。
【0035】
イオン注入によりp層12を形成する場合の工程を
図4に示す。まず、基板10上にn層11を形成し(
図4のステップS10)、その後、n層11表面にMgをイオン注入する(
図4のステップS11)。次に、注入したMgを活性化させるための熱処理を行い、p層12を形成する(
図4のステップS12)。その後は
図2のステップS2以降と同様である。
【0036】
(各種実験例)
次に、実施例1に関する各種実験例について説明する。
【0037】
(実験例1)
まず、基板10上にMOCVD法によってn層11、p層12を順に積層した。n層11形成時のV/IIIは2500とし、Si濃度は1×10
16/cm
3 、厚さは10μmとした。また、p層12形成時のV/IIIは1500とし、Mg濃度は2×10
18/cm
3 、厚さは1μmとした。また、n層11およびp層12の成長温度が、1040〜1180℃の間で段階的に異なる複数のウェハを作製した。そして、p層12中のMgを活性化させる熱処理を行った。この熱処理は、温度700℃、5分間、窒素と酸素の混合ガス(混合ガス中の酸素の体積割合が5%)雰囲気で行った。
【0038】
このようにして作製したp層12のPLスペクトルを測定した。励起光源にはHe−Cdレーザー(波長325nm、出力4mW)を用いた。ただし、成長温度を1040℃とした場合は、p層12表面にピットが発生し、成長温度が1180℃の場合にはp層12表面に荒れが生じたため、PLスペクトル測定は行わなかった。
【0039】
また、p層12のホール濃度を四端子法により測定した。ホール濃度測定用の電極は、厚さ100nmのNiとし、電極のアロイは550℃、5分間、窒素雰囲気で行った。
【0040】
図5は、p層12のPLスペクトルを示したグラフである。
図6は、PLスペクトルのバンド端発光強度とブルーバンド帯(430〜450nm)の発光強度との強度比(I
BL/I
NBE )と、成長温度との関係を示したグラフである。
【0041】
図5のように、バンド端発光を示す365nmのピークが見られ、430〜450nmのブルーバンド帯にも発光が見られた。ブルーバンド帯の発光は、不純物による発光(イエローバンド帯)とは波長帯が異なることから、不純物以外の要因による発光と推察される。
【0042】
また、
図6のように、成長温度が高いほどI
BL/I
NBE が減少していることがわかった。これは、成長温度が高いほど不純物以外の要因、たとえば点欠陥や転位などの結晶欠陥による準位が低減されるためと推察される。
【0043】
図7は、I
BL/I
NBE とホール濃度の関係を示したグラフである。I
BL/I
NBE が大きくなるとホール濃度は低下していくが、特にI
BL/I
NBE が0.5を超えるとホール濃度が大きく低下することがわかった。このことから、I
BL/I
NBE が0.5を超えるとp層12のホール濃度制御性が悪化してしまうことがわかった。
【0044】
(実験例2)
実験例1と同様にして基板10上にn層11、p層12を積層し、PLスペクトルを測定後、ドライエッチングにより素子分離溝を形成し、p層12上にp電極14、基板10裏面にn電極13を形成した。n層11およびp層12の成長温度が、1040〜1180℃の間で段階的に異なる複数の素子を作製した。以上により作製したpnダイオードのリーク電流を測定した。また、p電極14のコンタクト抵抗を測定した。
【0045】
図8は、pnダイオードに逆方向電圧を印加したときの逆方向電流(リーク電流)を示したグラフである。また、
図9は、逆方向電圧が300VのときのI
BL/I
NBE とリーク電流の関係を示したグラフである。
【0046】
図8のように、成長温度が低いほどリーク電流が大きくなる傾向にあることがわかった。また、
図9のように、I
BL/I
NBE が0.5以下ではリーク電流が1×10
-12 A以下の低いレベルを保っているが、I
BL/I
NBE が0.5を超えると急激にリーク電流が増加し、1×10
-11 Aを超えるリーク電流が発生することがわかった。なお、本実験においてリーク電流の測定下限は1×10
-13 Aであり、これより小さな値は不確かさがある。
【0047】
図10は、I
BL/I
NBE とp電極14のコンタクト抵抗との関係を示したグラフである。
図10のように、コンタクト抵抗についてもリーク電流と同様の傾向があり、I
BL/I
NBE が0.5以下ではコンタクト抵抗が低いレベルを保っているが、I
BL/I
NBE が0.5を超えると急激にコンタクト抵抗が増加することがわかった。
【0048】
実験例1、2から、I
BL/I
NBE はp層12の結晶品質評価の指標として適しており、I
BL/I
NBE が0.5以下のウェハを選別して素子作製を行えば、pnダイオードのリーク電流、コンタクト抵抗を低減できることがわかった。また、I
BL/I
NBE によってp層12のホール濃度も制御可能であり、I
BL/I
NBE が0.5以下であれば適切にホール濃度を制御できることがわかった。