特許第6984575号(P6984575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984575
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】動力伝達機構の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20211213BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
   F16H59/70
   F16H59/72
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-192045(P2018-192045)
(22)【出願日】2018年10月10日
(65)【公開番号】特開2020-60259(P2020-60259A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2021年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】綾部 篤志
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/017536(WO,A1)
【文献】 特開2010−230131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリシャフトに固定されたプライマリ固定シーブ、及び、前記プライマリシャフトと一体回転するとともに軸方向に相対移動可能なプライマリ可動シーブを有するプライマリプーリと、セカンダリシャフトに固定されたセカンダリ固定シーブ、及び、前記セカンダリシャフトと一体回転するとともに軸方向に相対移動可能なセカンダリ可動シーブを有するセカンダリプーリと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに巻き掛けられた伝動ベルトと、が設けられた無段変速機と、
エンジンからの回転駆動力によって駆動して作動油を吐出するオイルポンプと、
前記オイルポンプから吐出された前記作動油を、前記プライマリ可動シーブ及び前記セカンダリ可動シーブに作用させるための油圧制御装置と、
を備え、
前記プライマリ可動シーブを移動させるためのプライマリ推力と、前記セカンダリ可動シーブを移動させるためセカンダリ推力とを制御する、動力伝達機構の制御装置において、
最大変速比の要求時に、前記セカンダリ推力を発生させるためのセカンダリ目標圧がオイルポンプ吐出能力よりも小さい場合には、前記セカンダリ目標圧がオイルポンプ吐出能力より大きい場合よりも、前記プライマリ推力を発生させるためのプライマリ目標圧を小さくすることを特徴とする動力伝達機構の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達機構の制御装置において、
前記無段変速機は、前記プライマリ可動シーブの移動が機械的に阻止されることにより前記最大変速比が定められるものであり、
前記無段変速機の実際の変速比が既に前記最大変速比となっており、且つ、前記セカンダリ目標圧が前記オイルポンプ吐出能力として前記作動油の油温とエンジン回転数から決まる上限圧以下の場合に、前記プライマリ推力を所定値低くすることを特徴とする動力伝達機構の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力伝達機構の制御装置において、
前記無段変速機の実際の変速比が既に前記最大変速比となっており、且つ、前記セカンダリ目標圧が前記オイルポンプ吐出能力として前記作動油の油温とエンジン回転数から決まる上限圧よりも大きい場合に、前記セカンダリ推力を所定値高くすることを特徴とする動力伝達機構の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、動力伝達機構の制御装置において、ベルト滑りを抑制しつつ最低速側の変速比である最大変速比に維持するために、最大変速比となっている場合にはプライマリ目標推力を小さい値に設定するとともに、最大変速比になっていない場合にはセカンダリ目標推力を高くすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5435137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低車速領域において、最大変速比を維持するためには、プライマリ目標推力よりもセカンダリ目標推力のほうが大きくなる。ところが、この際、セカンダリ目標推力に相当するセカンダリ目標圧が、オイルポンプがオイルを吐出する能力(オイルポンプ吐出能力)よりも大きくなると、要求のセカンダリ推力が出ないため、最大変速比からアップシフトされてしまい、ベルトトルク容量が不足してベルト滑りが発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ベルト滑りの発生を抑制しつつ、最大変速比に維持することができる動力伝達機構の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る動力伝達機構の制御装置は、プライマリシャフトに固定されたプライマリ固定シーブ、及び、前記プライマリシャフトと一体回転するとともに軸方向に相対移動可能なプライマリ可動シーブを有するプライマリプーリと、セカンダリシャフトに固定されたセカンダリ固定シーブ、及び、前記セカンダリシャフトと一体回転するとともに軸方向に相対移動可能なセカンダリ可動シーブを有するセカンダリプーリと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに巻き掛けられた伝動ベルトと、が設けられた無段変速機と、エンジンからの回転駆動力によって駆動して作動油を吐出するオイルポンプと、前記オイルポンプから吐出された前記作動油を、前記プライマリ可動シーブ及び前記セカンダリ可動シーブに作用させるための油圧制御装置と、を備え、前記プライマリ可動シーブを移動させるためのプライマリ推力と、前記セカンダリ可動シーブを移動させるためセカンダリ推力とを制御する、動力伝達機構の制御装置において、最大変速比の要求時に、前記セカンダリ推力を発生させるためのセカンダリ目標圧がオイルポンプ吐出能力よりも小さい場合には、前記セカンダリ目標圧がオイルポンプ吐出能力より大きい場合よりも、前記プライマリ推力を発生させるためのプライマリ目標圧を小さくすることを特徴とするものである。
【0007】
また、上記において、最大変速比に到達しており、且つ、前記セカンダリ目標圧が前記オイルポンプ吐出能力として前記作動油の油温とエンジン回転数から決まる上限圧以下の場合に、前記プライマリ推力からばらつき分の推力を差し引いてもよい。
【0008】
これにより、最大変速比を維持している際のプライマリ推力が下げられるため、燃費向上効果が得られる。
【0009】
また、上記において、最大変速比に到達しており、且つ、前記セカンダリ目標圧が前記オイルポンプ吐出能力として前記作動油の油温とエンジン回転数から決まる上限圧よりも大きい場合に、前記セカンダリ推力にばらつき分の推力を足し込んでもよい。
【0010】
これにより、最大変速比を維持するための推力に対してセカンダリ目標推力を所定値高くすることによって、伝動ベルトの滑りを抑制しつつ、最大変速比に維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る動力伝達機構の制御装置は、オイルポンプ吐出能力不足に起因して、最大変速比からアップシフトされることが抑えられ、ベルト滑りの発生を抑制しつつ、最大変速比に維持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る車両を構成する動力伝達機構の概略構成を示した図である。
図2図2は、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
図3図3は、油圧制御回路のうち無段変速機の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。
図4図4は、電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
図5図5は、電子制御装置が実施する制御の一例を示したフローチャートである。
図6図6は、油温に応じたエンジン回転数とセカンダリ目標圧の上限圧との関係を示したグラフである。
図7図7は、最大変速比判定時におけるプライマリ推力とセカンダリ推力との説明図である。
図8図8は、最大変速比非判定時におけるプライマリ推力とセカンダリ推力との説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る動力伝達機構の制御装置の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、実施形態に係る車両10を構成する動力伝達機構の概略構成を示した図である。図1において、例えば走行用の駆動力源として用いられるエンジン12により発生させられた動力は、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14、前後進切換装置16、車両用無段変速機(CVT)としてのベルト式の無段変速機18、減速歯車装置20、差動歯車装置22などを順次介して、左右の駆動輪24へ伝達される。
【0015】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、及びトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それらのポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間には、ロックアップクラッチ26が設けられており、このロックアップクラッチ26が完全係合させられることによって、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tが一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26のトルク容量を制御したり、前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりするための作動油圧を、エンジン12からの回転駆動力によって駆動されることにより発生させる機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0016】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1と、ダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。トルクコンバータ14のタービン軸30は、サンギヤ16sに一体的に連結されている。無段変速機18のプライマリシャフトである入力軸32は、キャリア16cに一体的に連結されている。また、キャリア16cとサンギヤ16sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結されている。リングギヤ16rは、後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、断続装置に相当するものであり、いずれも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0017】
このように構成された前後進切換装置16では、前進用クラッチC1が係合されるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、タービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立し、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合されるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16では後進用動力伝達経路が成立し、入力軸32がタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)となる。
【0018】
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関にて構成されている。エンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御するための電子スロットル弁40が備えられている。
【0019】
無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材であって有効径が可変の入力側可変プーリであるプライマリプーリ42と、セカンダリシャフトである出力軸44に設けられた出力側部材であって有効径が可変の出力側可変プーリであるセカンダリプーリ46と、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ46との間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46と伝動ベルト48との間の摩擦力によって動力伝達が行われる。
【0020】
プライマリプーリ42は、入力軸32に固定された入力側固定回転体としてのプライマリ固定シーブ42aと、入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としてのプライマリ可動シーブ42bと、それらの間のV溝幅を変更するためのプライマリプーリ42における入力側推力であるプライマリ推力Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのプライマリ油圧シリンダ42cとを備えて構成されている。
【0021】
また、セカンダリプーリ46は、出力軸44に固定された出力側固定回転体としてのセカンダリ固定シーブ46aと、出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としてのセカンダリ可動シーブ46bと、それらの間のV溝幅を変更するためのセカンダリプーリ46における出力側推力であるセカンダリ推力Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのセカンダリ油圧シリンダ46cとを備えて構成されている。
【0022】
そして、プライマリ油圧シリンダ42cへの油圧であるプライマリ圧Pin、及び、セカンダリ油圧シリンダ46cへの油圧であるセカンダリ圧Poutが、油圧制御装置である油圧制御回路100(図3参照)によって各々独立に調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが、各々直接的にあるいは間接的に制御される。これにより、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、これと共に、伝動ベルト48が滑りを生じないように、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46と伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。このように、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることによって、伝動ベルト48の滑りが防止されつつ実際の変速比である実変速比γが目標変速比γとされる。
【0023】
なお、入力軸回転速度NINは入力軸32の回転速度であり、出力軸回転速度NOUTは出力軸44の回転速度である。また、本実施形態では、図1からわかるように、入力軸回転速度NINはプライマリプーリ42の回転速度と同一であり、出力軸回転速度NOUTはセカンダリプーリ46の回転速度と同一である。
【0024】
無段変速機18では、例えばプライマリ圧Pinが高められると、プライマリプーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされる。すなわち、無段変速機18がアップシフトされる。また、プライマリ圧Pinが低められると、プライマリプーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされる。すなわち、無段変速機18がダウンシフトされる。したがって、プライマリプーリ42のV溝幅が最大とされることによって、無段変速機18の変速比γとして最大変速比γmax(最低速側変速比、最Low)が形成される。
【0025】
なお、本実施形態では、例えば図3に示すように、入力軸32の軸方向に移動可能なプライマリ可動シーブ42bの端部先端42b1が、ストッパリング42dに当接してプライマリ可動シーブ42bの移動、すなわち、プライマリプーリ42のV溝幅を広くする方向への移動が、機械的に阻止される構造を採用している。これにより、機械的に最Lowを実現している。このように、プライマリプーリ42の有効径を変更するために軸心方向に移動させられるプライマリ可動シーブ42bの移動が、機械的に阻止されることによって、最大変速比γmaxが定められる。
【0026】
図2は、車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両10には、電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUは、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、予めROMに記憶されたプログラムにしたがって信号処理を行うことにより、車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっている。なお、必要に応じて、エンジン制御用、無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成してもよい。
【0027】
電子制御装置50には、クランク軸回転角度ACR、エンジン回転速度N、タービン回転速度N、入力軸回転速度NIN、出力軸回転速度NOUT、スロットル弁開度θ、エンジン12の冷却水温TH、エンジン12の吸入空気量QAIR、アクセル開度Acc、ブレーキオンBON、油温THOIL、レバーポジションPSH、バッテリ温度THBAT、バッテリ入出力電流IBAT、バッテリ電圧VBAT、プライマリ圧Pin、及び、セカンダリ圧Poutをそれぞれ表す信号などが、それぞれ供給される。
【0028】
クランク軸回転角度ACR及びエンジン回転速度Nは、クランク軸13の回転角度及びエンジン12の回転速度であって、エンジン回転速度センサ52によって検出される。タービン回転速度Nは、タービン軸30の回転速度であって、タービン回転速度センサ54により検出される。入力軸回転速度NINは、無段変速機18の入力回転速度であって、入力軸回転速度センサ56によって検出される。出力軸回転速度NOUTは、車速Vに対応する無段変速機18の出力回転速度であって、出力軸回転速度センサ58によって検出される。スロットル弁開度θは、電子スロットル弁40の開度であって、スロットルセンサ60によって検出される。エンジン12の冷却水温THは、冷却水温センサ62によって検出される。エンジン12の吸入空気量QAIRは、エンジン吸入空気量センサ64によって検出される。アクセル開度Accは、運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であって、アクセル開度センサ66によって検出される。ブレーキオンBONは、常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すものであって、フットブレーキスイッチ68によって検出される。油温THOILは、無段変速機18等の作動油の油温であって、CVT油温センサ70によって検出される。レバーポジションPSHは、シフトレバーのポジションであって、レバーポジションセンサ72によって検出される。バッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流IBATやバッテリ電圧VBATは、バッテリセンサ76によって検出される。プライマリ圧Pinは、プライマリプーリ42への供給油圧であって、プライマリ圧センサ78によって検出される。セカンダリ圧Poutは、セカンダリプーリ46への供給油圧であって、セカンダリ圧センサ80によって検出される。
【0029】
なお、電子制御装置50は、例えばバッテリ温度THBAT、バッテリ入出力電流IBAT、及び、バッテリ電圧VBATなどに基づいて、バッテリの充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。また、電子制御装置50は、例えば出力軸回転速度NOUTと入力軸回転速度NINとに基づいて、無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を逐次算出する。
【0030】
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号S、無段変速機18の変速に関する油圧制御のための油圧制御指令信号SCVT等が、それぞれ出力される。具体的には、エンジン出力制御指令信号Sとして、スロットルアクチュエータ38を駆動して電子スロットル弁40の開閉を制御するためのスロットル信号や、燃料噴射装置82から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や、点火装置84によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、油圧制御指令信号SCVTとして、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイド弁SLPを駆動するための指令信号、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、及び、ライン油圧Pを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが、油圧制御回路100へ出力される。
【0031】
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、例えばオイルポンプ28、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ110、セカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112、プライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)114、モジュレータバルブ116、リニアソレノイド弁SLT、リニアソレノイド弁SLP、及び、リニアソレノイド弁SLS等を備えている。
【0032】
ライン油圧PLは、例えばオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ114により、リニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいて、エンジン負荷等に応じた値に調圧される。具体的には、ライン油圧Pは、プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutの高い方の油圧に、所定の余裕分(マージン)を加えた油圧が得られるように設定された制御油圧PSLTに基づいて調圧される。したがって、プライマリ圧コントロールバルブ110及びセカンダリ圧コントロールバルブ112の調圧動作においては、元圧であるライン油圧Pが不足するということが回避されるとともに、ライン油圧Pが不必要に高くされないようにすることが可能である。また、モジュレータ油圧Pは、電子制御装置50によって制御される制御油圧PSLT、リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、及び、リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの各元圧となるものであって、ライン油圧Pを元圧としてモジュレータバルブ116により一定圧に調圧される。
【0033】
プライマリ圧コントロールバルブ110は、スプール弁子110aと、スプリング110bと、油室110cと、フィードバック油室110dと、油室110eとを備えている。スプール弁子110aは、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉して、ライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経てプライマリプーリ42へ供給可能にするものである。スプリング110bは、スプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段である。油室110cは、スプリング110bを収容し、且つ、スプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLPを受け入れるものである。フィードバック油室110dは、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために、出力ポート110tから出力されたライン油圧PLを受け入れるものである。油室110eは、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れるものである。
【0034】
このように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ110は、例えば制御油圧PSLPをパイロット圧としてライン油圧Pを調圧制御し、プライマリプーリ42のプライマリ油圧シリンダ42cに供給する。これにより、プライマリ油圧シリンダ42cに供給されるプライマリ圧Pinが制御される。例えば、プライマリ油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが増大すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが上側に移動する。これにより、プライマリ油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが増大する。一方で、プライマリ油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが低下すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが下側に移動する。これにより、プライマリ油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが低下する。
【0035】
セカンダリ圧コントロールバルブ112は、スプール弁子112aと、スプリング112bと、油室112cと、フィードバック油室112dと、油室112eとを備えている。スプール弁子112aは、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート112iを開閉して、ライン油圧PLを入力ポート112iから出力ポート112tを経て、セカンダリプーリ46へセカンダリ圧Poutとして供給可能にするものである。スプリング112bは、スプール弁子112aを開弁方向へ付勢する付勢手段である。油室112cは、スプリング112bを収容し、且つ、スプール弁子112aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れるものである。フィードバック油室112dは、スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するために、出力ポート112tから出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるものである。油室112eは、スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pを受け入れるものである。
【0036】
このように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ112は、例えば制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧Pを調圧制御し、セカンダリプーリ46のセカンダリ油圧シリンダ46cに供給する。これにより、そのセカンダリ油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutが制御される。例えば、セカンダリ油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが増大すると、セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが上側に移動する。これにより、セカンダリ油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが増大する。一方で、セカンダリ油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが低下すると、セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが下側に移動する。これにより、セカンダリ油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが低下する。
【0037】
このように構成された油圧制御回路100において、例えばリニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pin、及び、リニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Poutは、ベルト滑りを発生させず、且つ、不必要に大きくならないベルト挟圧力を、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46に発生させるように制御される。また、後述するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46の推力比Rw(=Wout/Win)が変更されることによって、無段変速機18の変速比γが変更される。例えば、その推力比Rwが大きくされるほど、変速比γが大きくされる。すなわち、無段変速機18はダウンシフトされる。
【0038】
図4は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、エンジン出力制御手段120は、例えばエンジン12の出力制御のためにスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などのエンジン出力制御指令信号SEを、それぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置82や点火装置84へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段120は、アクセル開度Accに応じた駆動力(駆動トルク)が得られるための目標エンジントルクTEを設定し、その目標エンジントルクTEが得られるようにスロットルアクチュエータ38によって、電子スロットル弁40を開閉制御する。また、その他にエンジン出力制御手段120は、燃料噴射装置82によって燃料噴射量を制御したり、点火装置84によって点火時期を制御する。
【0039】
無段変速機制御手段122は、例えば無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機18の目標変速比γを達成するように、プライマリ圧Pinの指令値としてのプライマリ指示圧Pintgtと、セカンダリ圧Poutの指令値としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを決定する。
【0040】
具体的には、無段変速機制御手段122は、無段変速機18の変速後に達成すべき変速比γである目標変速比γを決定する。無段変速機制御手段122は、例えばアクセル開度Accをパラメータとして、出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vと、無段変速機18の目標入力軸回転速度NINとの予め記憶された関係(変速マップ)から、実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて、目標入力軸回転速度NINを設定する。そして、無段変速機制御手段122は、目標入力軸回転速度NINに基づいて、目標変速比γ(=NIN/NOUT)を算出する。変速マップは、変速条件に相当するものであり、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きいほど、大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NINが設定されるようになっている。そして、目標変速比γは、無段変速機18の最小変速比γmin(最高速ギヤ比、最Hi)と最大変速比γmax(最低速ギヤ比、最Low)の範囲内で定められる。
【0041】
次に、無段変速機制御手段122は、例えば無段変速機18の入力トルクTをパラメータとして、ベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと、目標セカンダリ推力Woutとの関係(推力マップ)から、無段変速機18の入力トルクTIN、及び、実変速比γで示される車両状態に基づいて目標セカンダリ推力Woutを設定する。この無段変速機18の入力トルクTINは、例えばエンジントルクTEにトルクコンバータ14のトルク比t(=タービントルクTT/ポンプトルクTP)を乗じたトルク(=TE×t)として電子制御装置50により算出される。また、このエンジントルクTEは、例えばエンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIRをパラメータとして、エンジン回転速度NとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された関係(エンジントルク特性図)から、吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度Nに基づいて、推定エンジントルクTEesとして電子制御装置50により算出される。あるいは、エンジントルクTEは、例えばトルクセンサなどにより検出されるエンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TEなどが用いられても良い。また、トルクコンバータ14のトルク比tは、トルクコンバータ14の速度比e(=タービン回転速度NT/ポンプ回転速度NP)の関数であり、例えば速度比eと、トルク比t、効率η及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された関係から、実際の速度比eに基づいて電子制御装置50により算出される。
【0042】
なお、推定エンジントルクTEesは、実エンジントルクTEそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTEと区別する場合を除き、推定エンジントルクTEesを実エンジントルクTEとしての取り扱うものとする。したがって、推定エンジントルクTEesには実エンジントルクTEも含むものとする。
【0043】
また、無段変速機制御手段122は、例えば予め実験的に設定された目標変速比と推力比Rwとの関係から、目標変速比γに基づいて、推力比Rw(=Wout/Win)を決定する。目標変速比γが大きいほど、推力比Rwが大きくされるものであり、例えば目標変速比γに基づいて決定された推力比Rwは、無段変速機18の変速比γをその目標変速比γで定常的に維持するための推力比Rw、すなわち、変速比γを目標変速比γで一定に維持するための推力比Rwである。
【0044】
そして、無段変速機制御手段122は、例えば決定した推力比Rw及び目標セカンダリ推力Woutに基づいて、目標プライマリ推力Win(=Wout/Rw)を設定する。このように、基本的には、無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機18の目標変速比γを達成するための推力として、目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Woutが設定される。無段変速機制御手段122は、例えば目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Woutを、各油圧シリンダ42c,46cの各受圧面積に基づいて変換して、目標プライマリ圧Pin(=Win/受圧面積)及び目標セカンダリ圧Pout(=Wout/受圧面積)を算出し、プライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを決定する。
【0045】
無段変速機制御手段122は、例えば目標プライマリ圧Pin及び目標セカンダリ圧Poutが得られるように、油圧制御指令信号SCVTとして、プライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、その油圧制御指令信号SCVTにしたがって、リニアソレノイド弁SLPを作動させてプライマリ圧Pinを調圧するとともに、リニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
【0046】
ここで、各種機器には制御上のばらつきが存在する場合があり、本実施形態の無段変速機18の変速に関する油圧制御においてもばらつきがある。例えば、リニアソレノイド弁SLP,SLSへの各制御電流に対する制御油圧PSLP,PSLSのばらつき、その制御電流を出力する駆動回路のばらつき、入力トルクTINの推定誤差等のばらつきが存在する。そのため、このようなばらつきによって、無段変速機18のベルト滑りが生じたり、無段変速機18の目標変速比γを達成できない可能性がある。そこで、無段変速機制御手段122は、例えばセカンダリ圧センサ80により検出されたセカンダリ圧Poutを表す信号であるセカンダリ圧センサ値SPoutが、目標セカンダリ圧Poutとなるように、そのセカンダリ圧センサ値SPoutに基づいて目標セカンダリ推力Wout(目標セカンダリ圧Pout)の設定値を補正する。加えて、無段変速機制御手段122は、例えば実変速比γが目標変速比γと一致するように、実変速比γと目標変速比γとの偏差Δγ(=γ−γ)に基づくフィードバック制御により、目標プライマリ推力Win(目標プライマリ圧Pin)の設定値を補正する。
【0047】
ここで、入力軸回転速度センサ56や出力軸回転速度センサ58等の回転速度センサにおいては、回転速度が極めて零に近い低回転速度領域では回転速度を精度良く検出できない場合がある。例えば、回転速度センサとして、良く知られた電磁ピックアップ式センサを採用した場合、センサの特性上、実際の回転速度が低回転速度領域にある場合には、所定時間内のパルス信号の数にばらつきが生じたり、パルス信号の出力タイミングが遅くなったりして検出精度自体が悪化する可能性がある。つまり、回転速度センサの特性上、例えば低回転速度域では回転速度を精度良く検出できず、回転速度センサによる回転速度の検出値(回転センサ検出値)が実回転速度を反映していない場合がある。そうすると、回転センサ検出値が実回転速度を反映している場合には、実変速比γと目標変速比γとの偏差Δγに基づく目標プライマリ推力Win(目標プライマリ圧Pin)のフィードバック制御によって、目標変速比γを適切に実現できる。
【0048】
しかしながら、回転速度が低回転速度領域となる走行状態であるために、回転センサ検出値が実回転速度を反映していない場合には、目標プライマリ推力Win(目標プライマリ圧Pin)のフィードバック制御が適切に実行できず、上述した制御上のばらつきなどによって、目標変速比γを適切に実現できない可能性がある。特に、入力軸回転速度センサ56や出力軸回転速度センサ58の検出精度自体が悪化する可能性がある低回転速度域では、車両停止時の車両再発進や低車速走行時の再加速性能を確保するために、無段変速機18の変速比γを最大変速比γmaxに維持することが望まれる。
【0049】
ところが、この低回転速度域では、ベルト滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するための目標プライマリ推力Win(目標プライマリ圧Pin)及び目標セカンダリ推力Wout(目標セカンダリ圧Pout)を設定したとしても、上記フィードバック制御が適切に実行できず、制御上のばらつきなどによって、最大変速比γmaxを適切に維持できない可能性がある。したがって、例えば車両減速走行中では、回転センサ検出値が実回転速度を反映している間に、最大変速比γmaxに制御しておくことが望ましいが、ベルト滑り等を考慮した最大の変速速度(変速比の変化速度)で変速を実行しても、急減速走行時などでは最大変速比γmaxまで到達させられない可能性がある。
【0050】
そこで、本実施形態の電子制御装置50は、例えば目標変速比γの実現に際して、実変速比γを算出するために、入力軸回転速度センサ56及び出力軸回転速度センサ58により各々検出される入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値の少なくとも一方が、実回転速度を反映していないと判断した場合には、実変速比γが既に最大変速比γmaxとなっているか否かに基づいて、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するように、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)及びセカンダリ推力Wout(セカンダリ圧Pout)の制御方法を異ならせる。
【0051】
このようなプライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutの制御方法を異ならせることは、例えば車両停止時の車両再発進や低車速走行時の再加速性能を適切に確保するために、ベルト滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持することが望まれるような最大変速比γmaxに向かって制御する車両減速走行中に実行する。また、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するための推力(プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Wout)は、例えば無段変速機18の目標変速比γを最大変速比γmaxとした場合に、無段変速機制御手段122によって、無段変速機18の入力トルクTINに基づいて逐次設定される目標セカンダリ推力Wout、及び、その目標セカンダリ推力Woutと、目標変速比γに基づく推力比Rwとに基づいて逐次設定される目標プライマリ推力Winである。
【0052】
より具体的には、回転センサ値精度判定手段124は、例えば入力軸回転速度センサ56及び出力軸回転速度センサ58により各々検出される入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値のいずれもが、実回転速度を反映しているか否かを、入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値のいずれもが、所定の極低回転速度N’以上となっているか否かに基づいて判定する。この所定の極低回転速度N’は、例えば回転センサ検出値が極低回転速度N’未満となると、センサの特性上、回転センサ検出値が実回転速度を精度良く検出できないために、その回転センサ検出値の信頼度が低下する回転速度域となってしまう回転速度として、予め実験的に求められて設定された極低回転速度判定値である。したがって、回転センサ値精度判定手段124は、例えば入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値の少なくとも一方が、所定の極低回転速度N’未満の回転速度域にあるときに、入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値の少なくとも一方が、実回転速度を反映していないと判断する。また、回転センサ値精度判定手段124は、例えば入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値のいずれもが、実回転速度を反映しているか否かを判定することによって、回転センサ検出値が信用できるか否かを判定するものでもある。
【0053】
なお、所定の極低回転速度N’は、例えば入力軸回転速度センサ56及び出力軸回転速度センサ58などの回転速度センサ毎に各々設定されることが望ましい。
【0054】
無段変速機制御手段122は、例えば回転センサ値精度判定手段124により入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値のいずれもが、実回転速度を反映している(回転センサ検出値が信用できる)と判定された場合には、前述したように、無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機18の目標変速比γを達成するための推力(目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Wout)が得られるように、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)及びセカンダリ推力Wout(セカンダリ圧Pout)を制御する。
【0055】
最大変速比到達判定手段126は、例えば回転センサ値精度判定手段124により入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値の少なくとも一方が、実回転速度を反映していない(回転センサ検出値が信用できない)と判定された場合には、実変速比γが既に最大変速比γmaxとなっているか否かを判定する。なお、この最大変速比γmaxは、例えば機械的な最Lowに対応する変速比と判断できるための予め求められて設定されている最大変速比判定値である。
【0056】
無段変速機制御手段122は、例えば最大変速比到達判定手段126により実変速比γが既に最大変速比γmaxとなっていると判定された場合には、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するための推力として、目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Woutを設定し、目標プライマリ推力Winのみを所定値低く設定する。
【0057】
一方、無段変速機制御手段122は、例えば最大変速比到達判定手段126により実変速比γが未だ最大変速比γmaxとなっていないと判定された場合には、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するための推力として、目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Woutを設定し、目標セカンダリ推力Woutのみを所定値高く設定する。この所定値は、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutを制御するときに、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するための推力が確実に得られるためのその推力の制御バラツキ分として、予め実験的に求められて設定された値である。この制御バラツキ分は、例えば前述したような無段変速機18の変速に関する油圧制御における制御上のばらつきである。つまり、この制御バラツキ分は、例えばプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtに対して、プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutがどんなにばらついても、少なくとも伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するためのプーリ圧(プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Pout)が得られるための制御上のばらつきである。
【0058】
このように、本実施形態は、入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値の少なくとも一方が、実回転速度を反映していないと判断された場合に、最大変速比γmaxを確実に実現するために、目標プライマリ推力Win(プライマリ指示圧Pintgt)及び目標セカンダリ推力Wout(セカンダリ指示圧Pouttgt)のどちらに、上記制御バラツキ分を乗せるかという観点でなされている。
【0059】
より具体的には、回転センサ検出値が実回転速度を反映していなくとも、実変速比γが最大変速比γmaxであることがわかっている場合には、プライマリ可動シーブ42bはプライマリプーリ42のV溝幅を広くする方向への移動が機械的に阻止されており、それ以上移動しないため、ベルト挟圧がそれ以上低下することはない。したがって、検出精度が良くない回転センサ検出値に基づくプライマリ推力Win(すなわちプライマリ圧Pin)のフィードバック制御を実行することなく、上記制御バラツキ分を考慮して最大変速比γmaxを維持するための設定値からプライマリ指示圧Pintgtを下げても最大変速比γmaxを維持しつつベルト挟圧が確保され、ベルト滑りが発生することはない。また、プライマリ圧Pinを下げることが可能であるため、燃費向上効果も得られる。
【0060】
一方、実変速比γが最大変速比γmaxに到達していない場合には、回転センサ検出値が実回転速度を反映していないことから、プライマリ可動シーブ42bの位置が不明である。そのため、最大変速比γmaxを実現するために、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)を最大変速比γmaxを維持するための設定値から下げると、プライマリ可動シーブ42bが伝動ベルト48を緩める方向に移動してベルト滑りが発生する可能性がある。そのため、最大変速比γmaxを実現するために、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ最大変速比γmaxを維持するための推力(目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Wout)を設定し、最大変速比γmaxに向けて制御しながら、上記制御バラツキ分を目標セカンダリ推力Wout(セカンダリ指示圧Pouttgt)に加算して、ベルト滑りを発生させないように制御する。
【0061】
ここで、低車速領域では、最大変速比γmaxを維持するために、目標プライマリ推力in*よりも目標セカンダリ推力Woutが大きい、すなわち、目標プライマリ圧Pin*よりも目標セカンダリ圧Poutが大きい。このとき、オイルポンプ吐出能力の限界を超えて目標セカンダリ圧Poutを要求すると、オイルポンプ吐出能力不足のため、目標セカンダリ圧Poutどおりに実際の目標セカンダリ推力Woutが出なくなる。そのため、最大変速比γmaxからアップシフトしてしまい、プライマリプーリ42のストッパリング42dからの反力を受けられず、ベルトトルク容量が不足して、ベルト滑りが発生してしまう。
【0062】
図5は、電子制御装置50が実施する制御の一例を示したフローチャートである。なお、この制御は、例えば数[msec」〜数十[msec」程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。なお、図5のフローチャートは、例えば最大変速比γmaxに向かって制御する車両減速走行中であることを前提として実行される。
【0063】
まず、電子制御装置50は、回転数センサ値の精度確保時であるかを判断する(ステップS1)。具体的には、電子制御装置50は、回転センサ値精度判定手段124によって、入力軸回転速度センサ56及び出力軸回転速度センサ58によって各々検出される入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値が、実回転速度を反映しているか、すなわち回転数センサ値の精度を確保できているかを判断する。この際、回転センサ値精度判定手段124は、入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTの検出値が、所定の極低回転速度N’以上となっているか否かに基づいて、回転数センサ値の精度を確保できているか否かを判定する。
【0064】
ステップS1にて、回転数センサ値の精度確保時であると判断した場合(ステップS1にてYes)、電子制御装置50は、目標変速比γを実現し、ベルト滑りが発生しないための推力でプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutを制御する(ステップS2)。具体的には、電子制御装置50は、無段変速機制御手段122によって、無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつ、無段変速機18の目標変速比γを達成するための推力(目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Wout)が得られるように、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路100へ出力し、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)及びセカンダリ推力Wout(セカンダリ圧Pout)を制御する。この際、無段変速機18の変速に関する油圧制御におけるばらつきを考慮して、例えば、セカンダリ圧センサ値SPoutが目標セカンダリ圧Poutとなるように、そのセカンダリ圧センサ値SPoutに基づいて、目標セカンダリ推力Wout(目標セカンダリ圧Pout)の設定値が補正される。次に、電子制御装置50は、プライマリ推力Winを目標変速比γ*と比較してフィードバックを行う(ステップS3)。具体的には、電子制御装置50は、実変速比γが目標変速比γと一致するように、実変速比γと目標変速比γとの偏差Δγに基づくフィードバック制御によって、目標プライマリ推力Win(目標プライマリ圧Pin)の設定値を補正する。
【0065】
一方、ステップS1にて、回転数センサ値の精度確保時ではないと判断した場合(ステップS1にてNo)、電子制御装置50は、最大変速比γmaxに達しているかを判断する(ステップS4)。具体的には、電子制御装置50は、最大変速比到達判定手段126によって、実変速比γが既に最大変速比γmaxとなっているか否かの判定に基づいて、最大変速比γmaxに達しているか否かを判断する。
【0066】
ステップS4にて、最大変速比γmaxに達していると判断した場合(ステップS4にてYes)、電子制御装置50は、最大変速比仮判定とし、セカンダリ目標圧(目標セカンダリ圧Pout)が油温THOILとエンジン回転数(エンジン回転速度N)とから決まる上限圧以下であるかを判断する(ステップS5)。この際、例えば、図6に示すようなグラフのように、常温、常温より少し高い、常温よりかなり高い、の3水準の油温THOILに対して、エンジン回転数(エンジン回転速度N)とセカンダリ目標圧(目標セカンダリ圧Pout)の上限圧との関係を予め設定しておく。なお、セカンダリ目標圧の上限圧はポンプ吐出能力によって決定されるものであり、ポンプ吐出能力は油温THOILとエンジン回転数(エンジン回転速度N)とによって求まるものである。
【0067】
ステップS5にて、セカンダリ目標圧が油温THOILとエンジン回転数とから決まる上限圧以下であると判断した場合(ステップS5にてYes)、電子制御装置50は、最大変速比判定時として、目標変速比γ(最大変速比γmax)を実現し、ベルト滑りが発生しないための推力で、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとを制御する(ステップS6)。具体的には、電子制御装置50は、無段変速機制御手段122によって、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ、最大変速比γmaxを維持するための推力(目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Wout)が得られるように、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)及びセカンダリ推力Wout(セカンダリ圧Pout)を制御する。この際、セカンダリ圧センサ値SPoutが目標セカンダリ圧Poutとなるように、そのセカンダリ圧センサ値SPoutに基づいて目標セカンダリ推力Wout(目標セカンダリ圧Pout)の設定値が補正される。次に、電子制御装置50は、プライマリ推力Winからばらつき分の推力を差し引く(ステップS7)。具体的に、電子制御装置50は、図7に示すように、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ、最大変速比γmaxを確実に維持するために、最大変速比γmaxを維持するための推力に対して、上下にばらつく制御バラツキ分のうち上側ばらつき分を差し引き、プライマリ推力Win(目標プライマリ推力Win*、目標プライマリ指示圧intgt)を設定する。
【0068】
一方、ステップS5にて、セカンダリ目標圧が油温THOILとエンジン回転数とから決まる上限圧以下ではないと判断した場合(ステップS5にてNo)、電子制御装置50は、最大変速比仮判定を取り消し、最大変速比非判定時として、目標変速比γ(最大変速比γmax)を実現し、ベルト滑りが発生しないための推力で、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとを制御する(ステップS8)。また、同様に、ステップS4にて、最大変速比γmaxに達していないと判断した場合(ステップS4にてNo)、電子制御装置50は、最大変速比非判定時として、目標変速比γ(最大変速比γmax)を実現し、ベルト滑りが発生しないための推力で、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとを制御する(ステップS8)。
【0069】
ステップS8では、具体的に、電子制御装置50が、無段変速機制御手段122によって、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ、最大変速比γmaxを維持するための推力(目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Wout)が得られるように、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)及びセカンダリ推力Wout(セカンダリ圧Pout)を制御する。次に、電子制御装置50は、セカンダリ推力Woutにばらつき分の推力を足し込む(ステップS9)。具体的に、電子制御装置50は、図8に示すように、伝動ベルト48の滑りを防止しつつ、最大変速比γmaxを確実に維持するために、最大変速比γmaxを維持するための推力に対して、セカンダリ推力Wout(目標セカンダリ推力Wout、セカンダリ指示圧Pouttgt)が制御ばらつき分高く設定される。加えて、セカンダリ圧センサ値SPoutが目標セカンダリ圧Poutとなるように、そのセカンダリ圧センサ値SPoutに基づいて目標セカンダリ推力Wout(目標セカンダリ圧Pout)の設定値が更に補正される。
【0070】
本実施形態においては、電子制御装置50が、最大変速比γmaxの要求時に、目標セカンダリ圧Poutがオイルポンプ吐出能力よりも小さい場合に、目標セカンダリ圧Poutがオイルポンプ吐出能力より大きい場合よりも目標プライマリ圧Pinを小さくする。これにより、目標セカンダリ圧Poutに対するオイルポンプ吐出能力不足に起因して、最大変速比γmaxからアップシフトされることが抑えられ、ベルト滑りの発生を抑制しつつ、最大変速比γmaxに維持することができる。
【符号の説明】
【0071】
12 エンジン
18 無段変速機
28 オイルポンプ
32 入力軸
42 プライマリプーリ
42a プライマリ固定シーブ
42b プライマリ可動シーブ
44 出力軸
46 セカンダリプーリ
46a セカンダリ固定シーブ
46b セカンダリ可動シーブ
50 電子制御装置
100 油圧制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8