特許第6984584号(P6984584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984584負極活物質およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984584
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】負極活物質およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20211213BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20211213BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211213BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20211213BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/133
   H01M4/134
   H01M4/36 E
   H01M4/48
   H01M4/587
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
   H01M10/0566
   H01M10/058
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-503073(P2018-503073)
(86)(22)【出願日】2017年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2017006657
(87)【国際公開番号】WO2017150311
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-36538(P2016-36538)
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-203416(P2016-203416)
(32)【優先日】2016年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】川崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆
(72)【発明者】
【氏名】玉井 卓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 登
(72)【発明者】
【氏名】須藤 信也
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−027897(JP,A)
【文献】 特開2010−092830(JP,A)
【文献】 特開2015−035317(JP,A)
【文献】 特開2015−079621(JP,A)
【文献】 特開2004−139886(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/151047(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/098050(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36 − 4/38
H01M 4/133 − 4/134
H01M 4/48
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子と、結晶性シリコン粒子とを含む負極活物質であって、
前記結晶性シリコン粒子のメジアン径が0.7μm以下であり、
前記黒鉛粒子と前記結晶性シリコン粒子との総重量に対する前記結晶性シリコン粒子の重量割合が、1重量%以上25重量%以下であり、
前記結晶性シリコン粒子のメジアン径をX、前記黒鉛粒子のメジアン径をYとしたとき、X/Yが2.22/100以上46.67/100以下である、負極活物質。
【請求項2】
さらにシリコン酸化物を含む請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記結晶性シリコン粒子の結晶子サイズが50nm以上200nm以下である、請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記結晶性シリコン粒子のメジアン径をX、前記黒鉛粒子のメジアン径をYとしたとき、X/Yが3.33/100以上30/100以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の負極活物質。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の負極活物質を含む負極。
【請求項6】
さらに、ポリアクリル酸および/またはポリイミドを含む負極用結着剤を含む、請求項に記載の負極。
【請求項7】
前記ポリアクリル酸が、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットと、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩に基づくモノマーユニットおよび/または芳香族ビニルに基づくモノマーユニットとを含む、請求項に記載の負極。
【請求項8】
さらに、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩モノマー、スチレン、およびブタジエンの共重合体を含む負極用結着剤を含む、請求項5に記載の負極。
【請求項9】
請求項のいずれか1項に記載の負極を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池を搭載した車両。
【請求項11】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の負極と、正極とを、セパレータを介して積層して電極素子を製造する工程と、
前記電極素子と電解液とを外装体に封入する工程と、
を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、ならびに、これを含む負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高い、自己放電が小さい、長期信頼性に優れている等の利点により、ノート型パソコンや携帯電話などにおいて実用化が進められている。さらに近年では、電子機器の高機能化に加え、電気自動車やハイブリッド車等のモータ駆動の車両の市場の拡大、家庭用及び産業用蓄電システムの開発の加速により、サイクル特性や保存特性等の電池特性に優れ、かつ、容量やエネルギー密度をさらに向上させた、高性能のリチウムイオン二次電池の開発が求められている。
【0003】
高容量のリチウムイオン二次電池を与える負極活物質として、ケイ素、スズ等、それらの合金、およびそれらの金属酸化物等の金属系の活物質が注目を集めている。例えば、特許文献1には、アモルファスシリコンと黒鉛粒子を含む負極を有するリチウムイオン二次電池が記載されている。特許文献2には、シリコン等と黒鉛とを含有する負極活物質を含む負極を有する二次電池が記載されており、具体的には、平均粒径5μmの結晶性Si粒子と平均粒径10μmの黒鉛粒子を用いた二次電池が開示されている。特許文献3には、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料粒子、シリコン等のリチウムと合金化可能な金属粒子、および、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る酸化物粒子を含む活物質層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−185984号公報
【特許文献2】特開2004−362789号公報
【特許文献3】特開2003−123740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにアモルファスシリコンとリチウムを合金化すると、結晶性シリコンとリチウムを合金化する場合に比べ、リチウムシリコン合金の結晶相が不均一相、あるいは、不定相となりやすくなる。その結果、負極電位にバラツキが発生し、セルの充電状態とセルの電位の相関性が低下するという問題があった。特許文献2および3においては、シリコン粒子の粒径や、黒鉛粒子との混合条件についての検討が不十分であり、さらなる改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、エネルギー密度が高く、かつ、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を構成する負極活物質、該負極活物質を含む負極、および該負極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の事項に関する。
【0008】
黒鉛粒子と、結晶性シリコン粒子とを含む負極活物質であって、
前記結晶性シリコン粒子のメジアン径が0.7μm以下であり、
前記黒鉛粒子と前記結晶性シリコン粒子との総重量に対する前記結晶性シリコン粒子の重量割合が、1重量%以上25重量%以下である、負極活物質。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、かつ、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一実施形態の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る積層ラミネート型の二次電池の構造を示す模式的断面図である。
図3】フィルム外装電池の基本的構造を示す分解斜視図である。
図4図3の電池の断面を模式的に示す断面図である。
図5】実施例22で製造した負極のSEM画像である。
図6】実施例21で製造した負極のSEM画像である。
図7】比較例1で製造した負極のSEM画像である。
図8】実施例21のリチウムイオン二次電池のサイクル数と容量維持率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の負極活物質、負極およびこれらを含むリチウムイオン二次電池について、その構成ごとに詳細を説明する。
【0012】
[負極]
負極は、集電体上に、負極活物質を含む負極活物質層が形成された構成とすることができる。本実施形態の負極は、例えば、金属箔で形成される負極集電体と、負極集電体の片面又は両面に形成された負極活物質層とを有する。負極活物質層は負極用結着剤によって負極集電体を覆うように形成される。負極集電体は、負極端子と接続する延長部を有するように構成され、この延長部には負極活物質層は形成されない。なお、負極活物質は、リチウムを吸蔵放出し得る物質である。本明細書において、例えば多くの結着剤のように、主体的にリチウムを吸蔵放出しない物質は、負極活物質には含まれない。例えば、結着剤としてポリイミドを用いた場合、初期状態から数回において、リチウムの吸蔵放出が確認されるが、本明細書ではポリイミドは負極活物質には含まれない。
【0013】
(負極活物質)
本実施形態の負極活物質は、黒鉛粒子と、メジアン径(「D50」とも記載する)が0.7μm以下の結晶性シリコン粒子とを含み、黒鉛粒子と結晶性シリコン粒子との総重量に対する結晶性シリコン粒子の重量の割合が、1重量%以上25重量%以下である。本実施形態の負極活物質を用いると、エネルギー密度が高く、かつサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0014】
本実施形態において、負極活物質は、結晶性シリコンを含む。シリコンが結晶性であることは、粉末XRD解析によって確認することができる。粉末状態ではなく、電極中のシリコン粒子であっても、電子線を当てることによる電子線回折解析によって、結晶性を確認することができる。
【0015】
シリコン粒子の結晶性が高いと、活物質容量や充放電効率が大きくなる傾向にある。一方、結晶性が低いと、リチウムイオン電池のサイクル特性が向上する傾向にある。ただし、非晶質状態になると、充電状態における負極の結晶相が複数になる場合があり、負極電位のバラツキが大きくなる。結晶性は、FWHM(Full Width Half Maximum)を用いたシェラーの式(Scherrer equation)による計算から判断することが出来る。好ましい結晶性となるおよその結晶子サイズとしては50nm以上500nm以下が好ましい。さらに好ましくは70nm以上200nm以下である。
【0016】
負極活物質中の結晶性シリコンのメジアン径は、0.7μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましく、0.3μm以下が特に好ましい。結晶性シリコンのメジアン径の下限は特に限定されないが、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。ここで、結晶性シリコンのメジアン径等についての説明は、結晶性シリコンがシリコンと金属との合金からなるときのメジアン径等にも適用する。結晶性シリコンのメジアン径が0.7μm以下であることにより、リチウムイオン二次電池の充放電において、シリコンの粒子ごとの体積の膨張収縮を小さくすることができ、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化がおきにくくなる。これにより、リチウムイオン二次電池の容量維持率等のサイクル特性が向上する。また、シリコンのメジアン径が大きすぎると粒界界面が多くなるため、粒子内不均一反応が増えること以外にも副反応生成物の偏析などが多く確認されるようになる。なお、本発明において、メジアン径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定による体積基準粒径分布によるものである。
【0017】
結晶性シリコンの比表面積(CS)は、好ましくは1m/cm以上、より好ましくは5m/cm以上、さらに好ましくは10m/cm以上である。また、結晶性シリコンの比表面積(CS)は、好ましくは300m/cm以下である。ここで、CS(Calculated Specific Surfaces Area)は、粒子を球と仮定した時の比表面積(単位:m/cm)を意味する。
【0018】
メジアン径が0.7μm以下のシリコンは、化学的合成法により調製してもよく、粗大ケイ素化合物(例えば、10〜100μm程度のシリコン)を粉砕することにより得てもよい。粉砕は、慣用の方法、例えば、ボールミル、ハンマーミルなどの慣用の粉砕機又は微粉末化手段が利用できる。
【0019】
結晶性シリコンは、シリコン単体、および、シリコンと金属との合金からなる群から選ばれる少なくとも一種である。結晶性シリコンがシリコンと金属との合金の場合、金属としては、例えば、Li、B、Al、Ti、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、およびLaからなる群より選択されるのが好ましく、Li、B、Ti、Feからなる群より選択されるのがより好ましい。シリコンと金属との合金中の非シリコン元素の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1〜5重量%であるのが好ましい。シリコンと金属の合金の製造方法としては、例えば、単体ケイ素と金属を混合および溶融する方法、単体ケイ素の表面に金属を蒸着等により被覆する方法が挙げられる。
【0020】
負極活物質は、さらに黒鉛粒子を含む。負極活物質中の黒鉛粒子の種類は、特に限定はされないが、例えば、天然黒鉛および人造黒鉛が挙げられ、これらのうち2種以上を含んでもよい。また、黒鉛粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、塊状、鱗片状等であってもよい。黒鉛は、電気伝導性が高く、金属からなる集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。
【0021】
黒鉛粒子のメジアン径(D50)は、特に限定されないが、下限は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。黒鉛粒子のメジアン径が上記範囲内であることにより、小粒径のシリコン粒子が黒鉛粒子の表層付近に満遍なく均一に付着しやすくなる。
【0022】
黒鉛の比表面積は、特に限定されないが、例えば、BET比表面積が0.5〜9m/gであることが好ましく、0.8〜5m/gであることがより好ましい。
【0023】
黒鉛粒子の結晶構造はリチウムイオンの吸蔵、放出が可能であれば特に限定されない。例えば、面間隔d(002)は、好ましくは0.3354〜0.34nm程度、より好ましくは0.3354〜0.338nm程度であってもよい。
【0024】
黒鉛粒子のラマン分光による黒鉛のラマンバンドとしては、面内振動モードに対応するGバンド(1580〜1600cm−1付近)と、面内の欠陥に由来したDバンド(1360cm−1付近)が観測される。これらのピーク強度をそれぞれI及びIとすると、ピーク強度比I/Iが高いほど黒鉛化度が高いことを意味する。本実施形態に用いる黒鉛粒子のラマン分光特性は、特に限定されないが、例えば、I/Iが2以上、11以下であるのが好ましい。
【0025】
負極活物質中、黒鉛粒子と結晶性シリコン粒子との総重量に対する結晶性シリコンの含有量は、下限は、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、5重量%以上がさらに好ましく、上限は、25重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましく、10重量%以下が特に好ましい。結晶性シリコンの含有量が上記範囲内であると、黒鉛粒子の表面にシリコン粒子が満遍なく均一に付着しやすくなり、これによりリチウムイオン二次電池の容量維持率等のサイクル特性が向上する。結晶性シリコンの含有量が多すぎると、シリコンの凝集が発生しやすくなる。凝集により、一部のシリコンが充放電に寄与しなかったり、シリコンはリチウムの吸蔵と放出に伴う体積変化が大きいことから充放電のサイクル特性を低下させてしまったりするという問題が生じる場合がある。一方、結晶性シリコンの含有量が少なすぎると、十分な充放電容量が得られない場合がある。
【0026】
また、負極活物質の総重量に対し、黒鉛粒子と結晶性シリコン粒子との合計含有量は、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが好ましく、100重量%であってもよい。
【0027】
負極活物質中の結晶性シリコン粒子のメジアン径をXとし、黒鉛のメジアン径をYとすると、X/Yが、2/100〜50/100が好ましく、2/100〜40/100程度であることがより好ましく、2/100〜30/100程度がさらに好ましい。X/Yが上記範囲内であると、黒鉛の表面が小粒径の結晶性シリコンにより均一に被覆されやすくなり、また、リチウムイオン二次電池の充放電時におけるシリコンの膨張および収縮の影響を緩和して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。
【0028】
本実施形態の一例として、負極のSEM画像を図5および図6に示す(詳細は実施例参照)。図5および図6に示されるように、本実施形態の負極中の結晶性シリコンは、メジアン径が0.7μm以下と小さく、このシリコンと黒鉛とが所定の重量比で混合されることにより、黒鉛の表面上にシリコンがほぼ均一に分散して付着した状態になる。
【0029】
負極活物質として、上述の、メジアン径が0.7μm以下の結晶性シリコン粒子と黒鉛粒子に加えて、本願発明の効果が得られる範囲でその他の負極活物質を含んでもよい。その他の負極活物質として、例えば、構成元素としてケイ素を含む材料(ただし、メジアン径が0.7μm以下の結晶性シリコン粒子は除く。以下、ケイ素材料とも呼ぶ。)が挙げられる。ケイ素材料としては、金属ケイ素を含む合金(ただし、メジアン径が0.7μm以下の結晶性シリコン粒子との合金は除く。)、組成式SiO(0<x≦2)として表されるケイ素酸化物などが挙げられる。ケイ素を含む合金に使用される金属は、好ましくは、Li、B、Al、Ti、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laからなる群より選択される。また、負極活物質は、本願発明の効果が得られる範囲で非晶質シリコンを含んでもよい。これらその他の負極活物質の粒径(メジアン径)は1.5μm以下であるのが好ましい。本実施形態の一態様として、負極活物質がSiOを含むのが好ましく、SiOのメジアン径は、特に限定されないが、0.5〜9μm程度であるのが好ましい。また、これらその他の負極活物質の含有量は、特に限定されないが、負極活物質の総量に対して、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、0重量%であってもよい。
【0030】
さらに、別の負極活物質として、ケイ素以外の金属、金属酸化物も挙げられる。金属としては、例えば、Li、B、Al、Ti、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金等が挙げられる。また、これらの金属又は合金は1種以上の非金属元素を含んでもよい。金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物等が挙げられる。また、金属酸化物に、窒素、ホウ素および硫黄の中から選ばれる一種または2種以上の元素を、例えば0.1〜5重量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物の電気伝導性を向上させることができる場合がある。
【0031】
また、負極活物質として、本願発明の効果を損なわない範囲で黒鉛以外の他の炭素材料を含んでもよい。炭素材料としては非晶質炭素、グラフェン、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物等が挙げられる。結晶性の低い非晶質炭素を含むと、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくくなる場合がある。
【0032】
その他の負極活物質は一種を単独で含んでも、二種以上を含んでもよい。
【0033】
(負極用結着剤)
負極用結着剤は、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができ、一種を単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を組み合わせて使用することもできる。これらのうち、結着性に優れるという観点から、SBRとCMCの組合せ、ポリアクリル酸およびポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、ポリアクリル酸を含むことがより好ましい。
【0034】
負極用結着剤の含有量は、特に限定されないが、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質の全質量100質量%に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、上限は20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0035】
以下、本実施形態の一態様として、負極用結着剤としてのポリアクリル酸について詳説するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
負極用結着剤としてのポリアクリル酸は、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットを含む。エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸などが挙げられ、1種または2種以上を用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットのポリアクリル酸中の含有量は、好ましくは50質量%以上である。
【0037】
ポリアクリル酸において、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットに含まれるカルボン酸のすべてまたは一部をカルボン酸塩にしてもよく、これにより、結着強度を向上することができる場合がある。カルボン酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩が挙げられる。塩を形成するアルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムが挙げられ、ナトリウムおよびカリウムが特に好ましい。ポリアクリル酸がエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩に基づくモノマーユニットを含む場合、ポリアクリル酸に含まれるアルカリ金属は、ポリアクリル酸の5000質量ppm以上の量であることが好ましく、上限は特に限定されないが、例えば、100,000質量ppm以下であることが好ましい。また、複数の種類のアルカリ金属が、カルボン酸塩を構成するアルカリ金属として含まれていてもよい。本実施形態の一態様として、ナトリウムがポリアクリル酸の5000質量ppm以上の量でポリアクリル酸中に存在する、及び/または、カリウムがポリアクリル酸の1質量ppm以上5質量ppm以下の量でポリアクリル酸中に存在することが好ましい。ポリアクリル酸中にエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩に基づくモノマーユニットが存在することにより、電極を作製したときに、活物質同士の結着性を向上させるとともに、電極合剤層と集電体との剥離強度を改善できる。このため、膨張収縮による活物質粒子同士の結着構造の破壊等を抑制し、電池のサイクル特性を改善できるものと推察される。
【0038】
ポリアクリル酸は、好ましくは共重合ポリマーである。本実施形態の一態様として、ポリアクリル酸は、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットに加えて、エチレン性不飽和カルボン酸エステルに基づくモノマーユニットおよび/または芳香族ビニルに基づくモノマーユニットを含むことが好ましい。これらのモノマーユニットがポリアクリル酸に含まれることで、電極合剤層と集電体との剥離強度を改善し、電池のサイクル特性を改善できる。
【0039】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、クロトン酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、およびイタコン酸エステルなどが挙げられる。特にアルキルエステルが好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸エステルに基づくモノマーユニットのポリアクリル酸中の含有量は、好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0040】
芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、1種または2種以上を用いることができる。芳香族ビニルに基づくモノマーユニットのポリアクリル酸中の含有量は、好ましくは5質量%以下である。
【0041】
ポリアクリル酸は、その他のモノマーユニットを有してもよい。その他のモノマーユニットとしては、アクリロニトリルおよび共役ジエンなどの化合物に基づくモノマーユニットが挙げられる。
【0042】
ポリアクリル酸の分子量は、特に限定されるものではないが重量平均分子量が1000以上であることが好ましく、1万〜500万の範囲であることがより好ましく、30万〜35万の範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であると、活物質や導電助剤の良好な分散性を維持でき、かつ、スラリー粘度の過度の上昇を抑制できる。
【0043】
本実施形態の一態様として、負極用結着剤の全量に対するポリアクリル酸の含有量は50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、100重量%であってもよい。一般に、大きな比表面積の活物質には多くの量の結着剤を必要とするが、ポリアクリル酸は少量であっても高い結着性を有する。このため、負極用結着剤としてポリアクリル酸を使用した場合、大きな比表面積の活物質を使用する電極であっても、結着剤による抵抗の上昇が少ない。さらに、ポリアクリル酸を含む結着剤は、電池の不可逆容量を低減し、電池を高容量化でき、サイクル特性を向上できる点においても優れている。
【0044】
負極には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を追加して含んでもよい。追加の導電補助材としては、鱗片状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0045】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム(ただし負極電位が高い負極活物質を使用する場合に限る)、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0046】
負極は、通常の方法に従って作製することができる。一態様として、まず、負極活物質としての黒鉛粒子とメジアン径0.7μm以下の結晶性シリコンと、負極用結着剤と、任意成分としての導電補助材とを溶剤に混合し、好ましくは段階的にV型混合器(Vブレンダ―)やメカニカルミリング等により混合してスラリーを調製する。続いて、調製したスラリーを負極集電体に塗布し、乾燥することで負極を作製する。塗布は、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等によって実施できる。
【0047】
[正極]
正極は、集電体上に、正極活物質を含む正極活物質層が形成された構成とすることができる。本実施形態の正極は、例えば、金属箔で形成される正極集電体と、正極集電体の片面又は両面に形成された正極活物質層とを有する。正極活物質層は正極用結着剤によって正極集電体を覆うように形成される。正極集電体は、正極端子と接続する延長部を有するように構成され、この延長部には正極活物質層は形成されない。
【0048】
正極活物質としては、リチウムを吸蔵放出し得る材料であれば特に限定されず、いくつかの観点から選ぶことができる。高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物を含むことが好ましい。高容量の化合物としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO)またはニッケル酸リチウムのNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物が挙げられ、下式(A)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0049】
LiNi(1−x) (A)
(但し、0≦x<1、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Mg、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0050】
高容量の観点では、Niの含有量が高いこと、即ち式(A)において、xが0.5未満が好ましく、さらに0.4以下が好ましい。このような化合物としては、例えば、LiαNiβCoγMnδ(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、LiαNiβCoγAlδ(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6好ましくはβ≧0.7、γ≦0.2)などが挙げられ、特に、LiNiβCoγMnδ(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi0.8Co0.05Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.1Al0.1等を好ましく用いることができる。
【0051】
また、熱安定性の観点では、Niの含有量が0.5を超えないこと、即ち、式(A)において、xが0.5以上であることも好ましい。また特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物としては、LiαNiβCoγMnδ(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi0.4Co0.3Mn0.3(NCM433と略記)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523と略記)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2(NCM532と略記)など(但し、これらの化合物においてそれぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む)を挙げることができる。
【0052】
また、式(A)で表される化合物を2種以上混合して使用してもよく、例えば、NCM532またはNCM523とNCM433とを9:1〜1:9の範囲(典型的な例として、2:1)で混合して使用することも好ましい。さらに、式(A)においてNiの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上、例えばNCM433)とを混合することで、高容量で熱安定性の高い電池を構成することもできる。
【0053】
上記以外にも正極活物質として、例えば、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoOまたはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;及びLiFePOなどのオリビン構造を有するもの等が挙げられる。さらに、これらの金属酸化物をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。上記に記載した正極活物質はいずれも、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0054】
正極用結着剤としては、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸等を用いることができる。前記のもの以外にも、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。上記の正極用結着剤は、混合して用いることもできる。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0055】
正極活物質を含む塗工層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、鱗片状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0056】
正極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。特に、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン系のステンレスを用いた集電体が好ましい。
【0057】
正極は、正極集電体上に、正極活物質と正極用結着剤を含む正極合剤層を形成することで作製することができる。正極合剤層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。予め正極合剤層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、正極集電体としてもよい。
【0058】
[電解液]
電解液は特に限定されないが、例えば支持塩を非水溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
【0059】
電解液溶媒としては、電池の動作電位において安定な非水溶媒が好ましい。非水溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類等の非プロトン性有機溶媒、及び、これらの化合物の水素原子の少なくとも一部をフッ素原子で置換したフッ素化非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の環状または鎖状カーボネート類を含むことが好ましい。
【0061】
非水溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
支持塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩が挙げられる。支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。低コスト化の観点からはLiPFが好ましい。
【0063】
電解液は、さらにその他の添加剤を含んでもよく、特に限定はされないが、例えば、不飽和カルボン酸無水物、不飽和環状カーボネート、及び、環状または鎖状ジスルホン酸エステル等が挙げられる。これらの化合物を添加することにより、電池のサイクル特性をさらに改善することができる。これは、これらの添加剤がリチウムイオン二次電池の充放電時に分解して電極活物質の表面に皮膜を形成し、電解液や支持塩の分解を抑制するためと推定される。
【0064】
不飽和カルボン酸無水物は、分子内に炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するカルボン酸無水物である。環状の不飽和カルボン酸無水物が特に好ましい。不飽和カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、メチル無水マレイン酸、エチル無水マレイン酸、3,4−ジメチル無水マレイン酸、3,4−ジエチル無水マレイン酸などの無水マレイン酸およびその誘導体;イタコン酸無水物、ビニル無水コハク酸などのコハク酸誘導体などが挙げられる。
【0065】
不飽和カルボン酸無水物の含有量は、特に制限されるものではないが、電解液中0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.01質量%以上含有することにより十分な皮膜形成効果が得られる。また、含有量が10質量%以下であると不飽和カルボン酸無水物自体の分解によるガス発生を抑制することができる。
【0066】
不飽和環状カーボネートは、分子内に炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する環状カーボネートである。不飽和環状カーボネートとしては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート等のビニレンカーボネート化合物;4−ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−エチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−n−プロピル−4−ビニレンエチレンカーボネート、5−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,4−ジメチル−5−メチレンエチレンカーボネート、4,4−ジエチル−5−メチレンエチレンカーボネート等のビニルエチレンカーボネート化合物等が挙げられる。
【0067】
不飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されるものではないが、電解液中0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.01質量%以上含有することにより十分な皮膜形成効果が得られる。また、含有量が10質量%以下であると不飽和環状カーボネート自体の分解によるガス発生を抑制することができる。
【0068】
環状または鎖状ジスルホン酸エステルとしては、例えば、下記式(C)で表される環状ジスルホン酸エステル、または下記式(D)で表される鎖状ジスルホン酸エステルを挙げることができる。
【0069】
【化1】
式(C)において、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン基、アミノ基からなる群の中から選ばれる置換基である。Rは炭素数1〜5のアルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、炭素数1〜6のフルオロアルキレン基、または、エーテル基を介してアルキレン単位もしくはフルオロアルキレン単位が結合した炭素数2〜6の2価の基を示す。
【0070】
式(C)において、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはハロゲン基であることが好ましく、Rは、炭素数1または2のアルキレン基またはフルオロアルキレン基であることがより好ましい。
【0071】
式(C)で表される環状ジスルホン酸エステルの好ましい化合物としては、例えば以下の式(1)〜(20)で表される化合物を挙げることができる。
【0072】
【化2】
【0073】
【化3】
【0074】
式(D)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基、−SO(Xは炭素数1〜5のアルキル基)、−SY(Yは炭素数1〜5のアルキル基)、−COZ(Zは水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基)、およびハロゲン原子から選ばれる原子または基を示す。RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、炭素数1〜5のポリフルオロアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、−NX(XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基)、および−NYCONY(Y〜Yは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基)から選ばれる原子または基を示す。
【0075】
式(D)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1もしくは2のアルキル基、炭素数1もしくは2のフルオロアルキル基、またはハロゲン原子であることが好ましく、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、炭素数1〜3のポリフルオロアルキル基、水酸基またはハロゲン原子であることがより好ましい。
【0076】
式(D)で表される鎖状ジスルホン酸エステル化合物の好ましい化合物としては、例えば以下の化合物を挙げることができる。
【0077】
【化4】
【0078】
環状または鎖状ジスルホン酸エステルの電解液中の含有量は、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。含有量が0.01質量%以上であることにより、十分な皮膜効果を得ることができる。また、含有量が10質量%以下であると電解液の粘性の上昇、およびそれに伴う抵抗の増加を抑制することができる。
【0079】
[セパレータ]
セパレータは、正極および負極の導通を抑制し、荷電体の透過を阻害せず、電解液に対して耐久性を有するものであれば、いずれであってもよい。具体的な材質としては、ポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンならびにポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド等(アラミド)が挙げられる。これらは、多孔質フィルム、織物、不織布等として用いることができる。
【0080】
[絶縁層]
正極、負極、およびセパレータの少なくとも1つの表面に絶縁層を形成してもよい。絶縁層の形成方法としては、ドクターブレード法、ディップコーティング法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。正極、負極、セパレータの形成と同時に絶縁層を形成することもできる。絶縁層を形成する物質としては、酸化アルミニウムやチタン酸バリウムなどとSBRやPVDFとの混合物などが挙げられる。
【0081】
[リチウムイオン二次電池の構造]
図1に、本実施形態に係る二次電池の一例として、ラミネートタイプの二次電池を示す。正極活物質を含む正極活物質層1と正極集電体3とからなる正極と、負極活物質層2と負極集電体4とからなる負極との間に、セパレータ5が挟まれている。正極集電体3は正極リード端子8と接続され、負極集電体4は負極リード端子7と接続されている。外装体には外装ラミネート6が用いられ、二次電池内部は電解液で満たされている。なお、電極素子(「電池要素」又は「電極積層体」ともいう)は、図2に示すように、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された構成とすることも好ましい。
【0082】
さらに、別の態様としては、図3および図4のような構造の二次電池としてもよい。この二次電池は、電池要素20と、それを電解質と一緒に収容するフィルム外装体10と、正極タブ51および負極タブ52(以下、これらを単に「電極タブ」ともいう)とを備えている。
【0083】
電池要素20は、図4に示すように、複数の正極30と複数の負極40とがセパレータ25を間に挟んで交互に積層されたものである。正極30は、金属箔31の両面に電極材料32が塗布されており、負極40も、同様に、金属箔41の両面に電極材料42が塗布されている。なお、本発明は、必ずしも積層型の電池に限らず捲回型などの電池にも適用しうる。
【0084】
図1の二次電池は電極タブが外装体の両側に引き出されたものであったが、本発明を適用しうる二次電池は図3のように電極タブが外装体の片側に引き出された構成であってもよい。詳細な図示は省略するが、正極および負極の金属箔は、それぞれ、外周の一部に延長部を有している。負極金属箔の延長部は一つに集められて負極タブ52と接続され、正極金属箔の延長部は一つに集められて正極タブ51と接続される(図4参照)。このように延長部どうし積層方向に1つに集めた部分は「集電部」などとも呼ばれる。
【0085】
フィルム外装体10は、この例では、2枚のフィルム10−1、10−2で構成されている。フィルム10−1、10−2どうしは電池要素20の周辺部で互いに熱融着されて密閉される。図3では、このように密閉されたフィルム外装体10の1つの短辺から、正極タブ51および負極タブ52が同じ方向に引き出されている。
【0086】
当然ながら、異なる2辺から電極タブがそれぞれ引き出されていてもよい。また、フィルムの構成に関し、図3図4では、一方のフィルム10−1にカップ部が形成されるとともに他方のフィルム10−2にはカップ部が形成されていない例が示されているが、この他にも、両方のフィルムにカップ部を形成する構成(不図示)や、両方ともカップ部を形成しない構成(不図示)なども採用しうる。
【0087】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
本実施形態によるリチウムイオン二次電池は、通常の方法に従って作製することができる。積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池を例に、リチウムイオン二次電池の製造方法の一例を説明する。まず、乾燥空気または不活性雰囲気において、正極および負極を、セパレータを介して対向配置して、電極素子を形成する。次に、この電極素子を外装体(容器)に収容し、電解液を注入して電極に電解液を含浸させる。その後、外装体の開口部を封止してリチウムイオン二次電池を完成する。
【0088】
[組電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を複数組み合わせて組電池とすることができる。組電池は、例えば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を2つ以上用い、直列、並列又はその両方で接続した構成とすることができる。直列および/または並列接続することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。組電池が備えるリチウムイオン二次電池の個数については、電池容量や出力に応じて適宜設定することができる。
【0089】
[車両]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池またはその組電池は、車両に用いることができる。本実施形態に係る車両としては、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バス等の商用車、軽自動車等)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)が挙げられる。なお、本実施形態に係る車両は自動車に限定されるわけではなく、他の車両、例えば電車等の移動体の各種電源として用いることもできる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
<実施例1>
本実施例の電池の作製について説明する。
【0092】
(正極)
正極活物質としてのリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.80Mn0.15Co0.05)、導電補助材としてのカーボンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを、90:5:5の質量比で計量し、それらをN−メチルピロリドンを用いて混練し、正極スラリーとした。調製した正極スラリーを、集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し乾燥し、さらにプレスすることで正極を得た。なお、アルミニウム箔への正極塗工量は、単位面積当たりで対抗する負極容量/正極容量の比が1.20になるように調整した。
【0093】
(負極)
炭素材(a)としての人造黒鉛粒子(メジアン径:1.5μm、d(002)値:0.336nm、G/D比≧9)と、結晶性シリコン粒子(メジアン径0.7μm、結晶子サイズ100nm)を、100×〔結晶性シリコン粒子/(人造黒鉛粒子+結晶性シリコン粒子)〕が25wt%となるように混合して負極活物質を調製した。調製した活物質、導電補助材としてのカーボンブラック、結着剤としてのポリアクリル酸系重合体(住友精化製)を、95:1:4の質量比で計量し、それらを蒸留水にて混練し、負極スラリーとした。調製した負極スラリーを、集電体としての厚み15μmの銅箔に片面10mg/cmの目付け量にて塗布、乾燥し、さらにプレスすることで負極を得た。この負極を用いた場合の1C電流値は、77mAhである。
【0094】
負極容量は以下のようにして算出した。電極面積を30mm×28mmとし、上記負極活物質を10mg/cmで片面に塗工したときの初回充電容量は92mAhであった。負極活物質容量は、
372(mAh/g)×75/100+3500(mAh/g)×25/100=1154(mAh/g)である。よって、負極容量は、
1154×0.95×10/1000×3×2.8=92(mAh)
となる。
【0095】
(セパレータ)
セパレータとして、20μmの厚みを有するPP(ポリプロピレン)製微多孔フィルムと、20μmの厚みを有するアラミド不織布フィルムを重ね、130℃で熱ロールプレスを施したPPアラミド複合セパレータ用いた。
【0096】
(電極素子)
作製した正極片面1層と負極片面1層とを、セパレータを挟み積層した(単セル初充電容量92mAh)。正極活物質に覆われていない正極集電体および負極活物質に覆われていない負極集電体の端部をそれぞれ溶接し、さらにその溶接箇所に、アルミニウム製の正極端子およびニッケル製の負極端子をそれぞれ溶接して、平面的な積層構造を有する電極素子を得た。
【0097】
(電解液)
非水溶媒としてのEC(エチレンカーボネート)とFEC(フルオロエチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)の混合溶媒(体積比:EC/FEC/DEC=20/10/70)に、支持塩としてのLiPFを電解液中1Mとなるように溶解して電解液を調製した。
【0098】
(電池の作製)
上記電極素子を外装体としてのアルミニウムラミネートフィルムで包み、内部に電解液を注液後、0.1気圧まで減圧しつつ封止することで、二次電池を作製した。
【0099】
[二次電池の評価]
作製した二次電池を、0.1C電流値で12時間充電後、1Cで放電した。その後、45℃にて、1C充電と1C放電によるサイクル試験を行った。この充放電を50回繰り返し、50サイクル後の容量維持率を、下記式:
{(50サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)}×100(単位:%)
により算出した。
【0100】
<実施例2>
結晶性シリコン粒子の混合量を、結晶性シリコン粒子/(人造黒鉛粒子+結晶性シリコン粒子)の比10wt%で混合したこと以外は、実施例1と同様に二次電池を作製、評価した。
【0101】
<実施例3>
負極用結着剤を、ポリイミド系重合体(宇部興産製)にしたこと以外は、実施例2と同様に二次電池を作製、評価した。
【0102】
<実施例4>
結晶性シリコン粒子の混合量を、結晶性シリコン粒子/(人造黒鉛粒子+結晶性シリコン粒子)の比1wt%で混合したこと以外は、実施例1と同様に二次電池を作製、評価した。
【0103】
<実施例5>
結晶性シリコン粒子と人造黒鉛粒子とシリコン酸化物粒子(メジアン径:5μm)の混合量を、結晶性シリコン粒子/人造黒鉛粒子/シリコン酸化物粒子の混合比を25/74/1(wt%)で混合したこと以外は、実施例1と同様に二次電池を作製、評価した。
【0104】
<実施例6>
結晶性シリコン粒子と人造黒鉛粒子とシリコン酸化物粒子とを、結晶性シリコン粒子/人造黒鉛粒子/シリコン酸化物粒子の混合比を10/89/1(wt%)で混合したこと以外は、実施例2と同様に二次電池を作製、評価した。
【0105】
<実施例7>
結晶性シリコン粒子と人造黒鉛粒子とシリコン酸化物粒子とを、結晶性シリコン粒子/人造黒鉛粒子/シリコン酸化物粒子の混合比を10/89/1(wt%)で混合したこと以外は、実施例3と同様に二次電池を作製、評価した。
【0106】
<実施例8>
結晶性シリコン粒子と人造黒鉛粒子とシリコン酸化物粒子とを、結晶性シリコン粒子/人造黒鉛粒子/シリコン酸化物粒子の混合比を1/98/1(wt%)で混合したこと以外は、実施例4と同様に二次電池を作製、評価した。
【0107】
<実施例9>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.2μm(結晶子サイズ:50nm)とし、人造黒鉛粒子のメジアン径を9μmにしたこと以外は、実施例5と同様に二次電池を作製、評価した。
【0108】
<実施例10>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.2μmとし、人造黒鉛粒子のメジアン径を9μmにしたこと以外は、実施例6と同様に二次電池を作製、評価した。
【0109】
<実施例11>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.2μmとし、人造黒鉛粒子のメジアン径を9μmにしたこと以外は、実施例7と同様に二次電池を作製、評価した。
【0110】
<実施例12>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.2μmとし、人造黒鉛粒子のメジアン径を9μmにしたこと以外は、実施例8と同様に二次電池を作製、評価した。
【0111】
<実施例13>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.7μm(結晶子サイズ:100nm)としたこと以外は、実施例9と同様に二次電池を作製、評価した。
【0112】
<実施例14>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.7μm(結晶子サイズ:100nm)としたこと以外は、実施例10と同様に二次電池を作製、評価した。
【0113】
<実施例15>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.7μm(結晶子サイズ:100nm)としたこと以外は、実施例11と同様に二次電池を作製、評価した。
【0114】
<実施例16>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.7μm(結晶子サイズ:100nm)としたこと以外は、実施例12と同様に二次電池を作製、評価した。
【0115】
<実施例17>
人造黒鉛粒子のメジアン径を2μmとしたこと以外は、実施例13と同様に二次電池を作製、評価した。
【0116】
<実施例18>
人造黒鉛粒子のメジアン径を2μmとしたこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0117】
<実施例19>
人造黒鉛粒子のメジアン径を2μmとしたこと以外は、実施例15と同様に二次電池を作製、評価した。
【0118】
<実施例20>
人造黒鉛粒子のメジアン径を2μmとしたこと以外は、実施例16と同様に二次電池を作製、評価した。
【0119】
<実施例21>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.5μmとしたこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0120】
<実施例22>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.3μmとしたこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0121】
<実施例23>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.1μm(結晶子サイズ:50nm)とし、人造黒鉛粒子のメジアン径を2μmにしたこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0122】
<実施例24>
負極用結着剤を、ポリアクリル酸系重合体とSBR(スチレンブタジエンラバー)の混合物(重量比で4:1)にしたこと以外は、実施例21と同様に二次電池を作製、評価した。負極用結着剤のSBRは以下のように合成した。乳化重合剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5重量部を溶解した水溶液、原料モノマーとしてブタジエン75重量部、スチレン25重量部およびレドックス触媒をオートクレーブに仕込み、10℃に温度調整した後、重合開始剤としてクメンハイドロオキサイド0.01重量部を加え、重合転化率85%まで乳化重合を実施した。次いで、反応停止剤N,N−ジエチルヒドロキシルアミンを添加したのち、これを精製し、共重合エマルジョンを合成した。これをSBRとして用いた。
【0123】
<実施例25>
負極用結着剤を、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩モノマー、スチレンおよびブタジエンとの共重合体にしたこと以外は、実施例21と同様に二次電池を作製、評価した。前記の共重合体は、以下のように合成した。乳化重合剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5重量部を溶解した水溶液、原料モノマーとしてブタジエン50部、スチレン25重量部、アクリル酸25重量部およびレドックス触媒をオートクレーブに仕込み、10℃に温度調整した後、重合開始剤としてクメンハイドロオキサイド0.01重量部を加え、重合転化率85%まで乳化重合を実施した。次いで、反応停止剤N,N−ジエチルヒドロキシルアミンを添加し、水酸化ナトリウムでカルボン酸をナトリウム置換したのち、これを精製し、共重合エマルジョンを合成した。これを負極用結着剤として用いた。
【0124】
<実施例26>
ポリイミド系重合体をNMP(n−メチルピロリドン)系ワニスを用いた材料(宇部興産製)に変更するため、負極スラリー製造時の溶剤をNMPにしたこと以外は、実施例15と同様に二次電池を作製、評価した。
【0125】
<実施例27>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.5μmとしたこと以外は、実施例26と同様に二次電池を作製、評価した。
【0126】
<比較例1>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を1μmとしたこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0127】
<比較例2>
結晶性シリコン粒子と人造黒鉛粒子とシリコン酸化物粒子を、結晶性シリコン粒子/人造黒鉛粒子/シリコン酸化物粒子の混合比を30/69/1(wt%)で混合したこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0128】
<参考例3>
結晶性シリコン粒子のメジアン径を0.1μmとしたこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。
【0129】
<比較例4>
結晶性シリコン粒子を非晶質性シリコン粒子に変更したこと以外は、実施例14と同様に二次電池を作製、評価した。本比較例で製造した二次電池は、電圧検出にバラツキがあり、放電容量の測定が不可能であった。
【0130】
各実施例および比較例の負極の特徴および二次電池の評価結果等を表1に示す。
【0131】
実施例22、21、および比較例1の負極のSEM画像を、それぞれ、図5、6および7に示す。実施例22および21の負極は、比較例1の負極に比べてシリコン粒子が黒鉛粒子の表面に満遍なく付着していた。
【0132】
実施例21で製造した二次電池のサイクルごとの放電容量維持率(%)を図8に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
図5図6図7で示されるとおり、シリコン粒子のメジアン径が0.7μm以下であると、黒鉛粒子の表面にシリコン粒子が均一に満遍なく付着していた。また、表1に示されるように、結晶性シリコン粒子のメジアン径、結晶性シリコン粒子の含有量、ならびに結晶性シリコン粒子および黒鉛粒子のメジアン径の比を変えることにより、容量維持率が変化し、これらの間に相関関係があることがわかった。さらに、特定の結着剤を用いて、結晶性シリコン粒子と黒鉛粒子の配合比およびメジアン径比を特定の割合にした時に、特異な効果が得られることを見出した。
【0135】
(大型リチウムイオン二次電池の製造)
実施例1と同様の手法で、大型セルを作製した。両面塗工した正極5層(電極塗工部は125mm×65mm)と、両面塗工した負極6層(電極塗工部は130mm×69mm)とを、セパレータを挟みつつ交互に積層した。正極活物質に覆われていない正極集電体および負極活物質に覆われていない負極集電体の端部をそれぞれ溶接し、さらにその溶接箇所に、アルミニウム製の正極端子およびニッケル製の負極端子をそれぞれ溶接して、平面的な積層構造を有する電極素子を得た。大型リチウムイオン二次電池でも、小型リチウムイオン二次電池と同様の傾向が得られた。
【0136】
この出願は、2016年2月29日に出願された日本出願特願2016−036538および2016年10月17日に出願された日本出願特願2016−203416を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
(付記1)
黒鉛粒子と、結晶性シリコン粒子とを含む負極活物質であって、
前記結晶性シリコン粒子のメジアン径が0.7μm以下であり、
前記黒鉛粒子と前記結晶性シリコン粒子との総重量に対する前記結晶性シリコン粒子の重量割合が、1重量%以上25重量%以下である、負極活物質。
(付記2)
さらにシリコン酸化物を含む付記1に記載の負極活物質。
(付記3)
前記結晶性シリコン粒子のメジアン径をX、前記黒鉛粒子のメジアン径をYとしたとき、X/Yが2/100以上40/100以下である、付記1または2に記載の負極活物質。
(付記4)
付記1〜3のいずれか1項に記載の負極活物質を含む負極。
(付記5)
さらに、ポリアクリル酸および/またはポリイミドを含む負極用結着剤を含む、付記4に記載の負極。
(付記6)
前記ポリアクリル酸が、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットと、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩に基づくモノマーユニットおよび/または芳香族ビニルに基づくモノマーユニットとを含む、付記5に記載の負極。
(付記7)
付記4〜6のいずれか1項に記載の負極を備えたリチウムイオン二次電池。
(付記8)
付記7に記載のリチウムイオン二次電池を搭載した車両。
(付記9)
付記4に記載の負極と、正極とを、セパレータを介して積層して電極素子を製造する工程と、
前記電極素子と電解液とを外装体に封入する工程と、
を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、例えば、電源を必要とするあらゆる産業分野、ならびに電気的エネルギーの輸送、貯蔵および供給に関する産業分野において利用することができる。具体的には、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器の電源;電気自動車、ハイブリッドカー、電動バイク、電動アシスト自転車等を含む電動車両、電車、衛星、潜水艦等の移動・輸送用媒体の電源;UPS等のバックアップ電源;太陽光発電、風力発電等で発電した電力を貯める蓄電設備;等に、利用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 正極活物質層
2 負極活物質層
3 正極集電体
4 負極集電体
5 セパレータ
6 外装ラミネート
7 負極リード端子
8 正極リード端子
10 フィルム外装体
20 電池要素
25 セパレータ
30 正極
40 負極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8