(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984588
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】植物蛋白質含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20211213BHJP
A23J 3/34 20060101ALI20211213BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20211213BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20211213BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
A23J3/14
A23J3/34
A23J3/16
!C12N9/04 Z
!C12N9/16 D
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-504563(P2018-504563)
(86)(22)【出願日】2017年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2017009297
(87)【国際公開番号】WO2017154992
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2020年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-47334(P2016-47334)
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100169041
【弁理士】
【氏名又は名称】堺 繁嗣
(72)【発明者】
【氏名】東方 由貴
(72)【発明者】
【氏名】小山内 直生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘明
【審査官】
村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−060431(JP,A)
【文献】
特開2011−036237(JP,A)
【文献】
特開2008−061592(JP,A)
【文献】
特開平10−056976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J、C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びホスホリパーゼを添加することを含む、植物蛋白質含有食品の製造方法であって、
植物蛋白質含有食品が肉代替食品であり、
トランスグルタミナーゼの添加量が、前記食品原料1g当たり1.0×10−4U以上であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、前記食品原料1g当たり1.0×10−4U以上であり、ホスホリパーゼの添加量が、前記食品原料1g当たり1.0×10−3U以上である、方法。
【請求項2】
ホスホリパーゼがホスホリパーゼDである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物蛋白質含有食品が、前記植物蛋白質を含有する食品原料を含む結着材料と、そぼろ状の他の食品原料とを混合し、調理して製造されるものであり、トランスグルタミナーゼの添加量が、前記結着材料1g当たり1.0×10−4U以上であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、前記結着材料1g当たり1.0×10−4U以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
植物蛋白質含有食品が、前記植物蛋白質を含有する食品原料を含む結着材料と、そぼろ状の他の食品原料とを混合し、調理して製造されるものであり、トランスグルタミナーゼの添加量が、前記結着材料1g当たり1.0×10−4U以上であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、前記結着材料1g当たり1.0×10−4U以上であり、ホスホリパーゼの添加量が、前記結着材料1g当たり1.0×10−3U以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
植物蛋白質が大豆蛋白質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
植物蛋白質含有食品がハンバーグ様食品である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びホスホリパーゼを含む、植物蛋白質含有食品製造用の酵素製剤であって、
植物蛋白質含有食品が肉代替食品であり、
トランスグルタミナーゼの添加量が、前記植物蛋白質含有食品の食品原料1g当たり1.0×10−4U以上であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、前記植物蛋白質含有食品の食品原料1g当たり1.0×10−4U以上であり、ホスホリパーゼの添加量が、前記植物蛋白質含有食品の食品原料1g当たり1.0×10−3U以上であるように用いられる、酵素製剤。
【請求項8】
ホスホリパーゼがホスホリパーゼDである、請求項7に記載の酵素製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉代替食品等の植物蛋白質含有食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大豆蛋白質等の植物蛋白質を用いて加工された植物蛋白質含有食品の需要が増えている。それらの植物蛋白質含有食品は、肉代替食品として肉に似た食感を付与するため、通常、繊維状の組織に加工される。蛋白質を組織化する方法としては、二軸エクストルーダーを用いた方法が主に使用されており、例えばこの方法によって加工された乾燥大豆蛋白は、粒状大豆蛋白として市販されているが、それらは肉とは若干食感が異なり、多少弾力感やジューシー感に欠ける傾向がある。
【0003】
また、通常のハンバーグは牛肉、豚肉の挽き肉を小麦粉、パン粉や卵でつないだ食品であるが、植物蛋白質を使用したハンバーグ様食品では、挽肉に代わる粒状大豆蛋白質をハンバーグ状にまとめるための結着材料(つなぎ)として適当な植物由来成分を見出すことは困難であった。植物蛋白質含有食品の食感を改善する技術として、組織状植物蛋白素材に糖アルコールを含有させる方法(特許文献1)、及び、粒状大豆蛋白質と、分離大豆蛋白質と小麦粉とを混合した試料をエクストルーダーで加工、細断した組織状蛋白質を混合成型し、マイクロ波を照射して肉代替物を結着する方法(特許文献2)が知られている。
しかし、上記の技術には、未だ食感や操作の簡便さにおいて改善の余地がある。
【0004】
食品を改質する技術として、酵素を用いる方法が開発されている。例えば、トランスグルタミナーゼは、食品素材の接着用酵素として広く使用されている。具体的には、例えば、トランスグルタミナーゼ並びに炭酸塩および/又はグルタチオン等の還元剤を使用し、麺の弾力と粘りを付与する技術(特許文献3)が知られている。また、大豆蛋白素材を含む材料に蛋白質架橋酵素を作用させた後、加熱する、大豆蛋白ゲルの製造方法が開示されており、蛋白質架橋酵素としてトランスグルタミナーゼが用いられている(特許文献4)。
【0005】
さらに、トランスグルタミナーゼと、グルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼとを用いて、米飯食品や麺類等の食品を製造する方法が知られている(特許文献5)。
【0006】
また、ホスホリパーゼは、パンの気泡の発現防止(特許文献6)や、ふっくらとしたボリュームを有するパンの製造(特許文献7)に使用できることが知られている。
【0007】
しかし、トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼを併用することにより、又は、これらの酵素とホスホリパーゼを併用することにより、大豆蛋白質等の植物蛋白質を含有する食品の食感や風味・呈味を向上させ得ることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5198687号
【特許文献2】特開2008−61592号公報
【特許文献3】特開平10−262588号公報
【特許文献4】特許第5577702号
【特許文献5】特開2011−206048号公報
【特許文献6】特開平08−266213号公報
【特許文献7】特開2015−104343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、食感に優れ、好ましい形態では、風味・呈味も良好な植物蛋白質含有食品を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを添加することにより、食感に優れた植物蛋白質含有食品を製造できること、及び、前記食品原料にさらにホスホリパーゼを添加することにより、風味・呈味もより良好になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおり例示できる。
(1)植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ、及びグルコースオキシダーゼを添加することを含む、植物蛋白質含有食品の製造方法。
(2)さらに、前記食品原料にホスホリパーゼを添加することを含む、前記方法。
(3)ホスホリパーゼがホスポリパーゼDである、前記方法。
(4)トランスグルタミナーゼの添加量が、前記食品原料1g当たり1.0×10
-4U以上であり、グルコースオキシダーゼの添加量が、前記食品原料1g当たり1.0×10
-4U以上である、前記方法。
(5)ホスホリパーゼの添加量が、前記食品原料1g当たり1.0×10
-3U以上である、前記方法。
(6)植物蛋白質含有食品が、前記植物蛋白質を含有する食品原料を含む結着材料と、そぼろ状の他の食品原料とを混合し、調理して製造されるものであり、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼの添加量が、結着材料1g当たりの量である、前記方法。
(7)植物蛋白質含有食品が、前記植物蛋白質を含有する食品原料を含む結着材料と、そぼろ状の他の食品原料とを混合し、調理して製造されるものであり、トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びホスホリパーゼの添加量が、結着材料1g当たりの量である、前記方法。
(8)植物蛋白質が大豆蛋白質である、前記方法。
(9)植物蛋白質含有食品が肉代替食品である、前記方法。
(10)植物蛋白質含有食品がハンバーグ様食品である、前記方法。
(11)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを含む、植物蛋白質含有食品製造用の酵素製剤。
(12)植物蛋白質含有食品が肉代替食品である、前記酵素製剤。
(13)さらに、ホスホリパーゼを含む、前記酵素製剤。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを添加することを含む、植物蛋白質含有食品の製造方法である。「植物蛋白質」とは、植物由来の蛋白質又はそれを含む組成物であり、植物を加工して蛋白質含量が高められたものが含まれる。植物蛋白質として、具体的には、例えば、大豆蛋白質が挙げられる。「食品原料」とは、食品を製造するのに用いられる原料をいう。
【0014】
本発明の方法により製造される植物蛋白質含有食品は、最終製品であってもよく、食品を製造するための食材であってもよい。本明細書において「食材」とは、食品原料から製造されるものであり、主として最終製品の製造に用いられる中間的な材料をいう。なお、食材およびそれを製造するための食品原料は、いずれも、同食材から製造される最終製品に対する食品原料とみなされる。食品原料、食材、最終製品は相対的な概念である。例えば、植物蛋白質を主成分とする肉代替素材(meat substitute、meat analogue。代用肉または肉様食品とも呼ばれる)は、植物蛋白質を原料として製造され、そのまま流通および販売される最終製品でもあり得るが、ハンバーグ様食品を最終製品とした場合に用いられる食材(すなわち、ハンバーグ様食品に対する食品原料)でもあり得る。肉代替素材としては、組織化大豆蛋白質、いわゆる大豆ミート(ソイミート)、が挙げられる。組織化大豆蛋白質として、具体的には、例えば、大豆を加工して蛋白質含量が50重量%以上に高められた大豆蛋白質を組織化したものが挙げられる。また、最終製品としては、特に制限されないが、肉代替食品が挙げられる。本発明において「肉代替食品」とは、通常は原料の少なくとも一部に肉を含む食品において、肉の代わりに肉代替素材を用いたものをいう。肉代替食品としては、ハンバーグ様食品、ミートボール様食品、餃子、焼売等の包餡麺帯食品、ミートソース様食品等が挙げられ、肉代替素材自体も含まれる。これらの食品において、肉代替素材で置き換える肉は、全部であってもよく、一部であってもよい。すなわち、これらの食品は、例えば、肉と肉代替素材の両方を含んでいてもよい。
【0015】
植物蛋白質を含有する食品原料は、植物蛋白質そのものであってもよく、植物蛋白質を好ましくは3重量%以上、より好ましくは6重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上含む食品原料であってもよい。そのような食品原料としては、粉末状植物蛋白質や、組織化植物蛋白質等が挙げられる。組織化植物蛋白質として、具体的には、例えば、組織化大豆蛋白質が挙げられる。また、植物蛋白質を含有する食品原料は、植物蛋白質からなるものであってもよく、さらに調味料成分や水等の他の成分を含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明に用いる食品原料又は製造される食品は、植物蛋白質以外の原料、例えば肉、卵白や、小麦粉、パン粉等は含んでいなくてもよいが、本発明の効果を損なわない限り、含んでいてもよい。本発明により製造される食品として好ましいのは、肉の50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは全部を肉代替素材で置き換えた肉代替食品である。
【0017】
上記のような植物蛋白質を含有する食品原料に、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを添加する。本発明の一形態では、これらの酵素に加えて、さらにホスホリパーゼを添加する。各酵素は、食品原料に同時に添加されてもよく、任意の順序で順次添加されてもよい。また、食品原料の一部に酵素を添加した後に、残りの部分を添加してもよい。食品原料に酵素が添加されると、それらの酵素は食品原料に作用する。したがって、「食品原料に酵素を添加する」とは、食品原料に酵素を作用させると同義である。
【0018】
トランスグルタミナーゼは、蛋白質中のグルタミン残基を供与体、リジン残基を受容体とするアシル基転移反応を触媒する活性を有する酵素をいう。トランスグルタミナーゼとしては、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のものなど、種々の起源のものが知られているが、それらいずれの起源のものを用いてもよい。トランスグルタミナーゼとして、具体的には、味の素(株)より「アクティバ(登録商標)TG」という商品名で市販されている微生物由来のトランスグルタミナーゼ製剤が挙げられる。
【0019】
グルコースオキシダーゼは、グルコースと酸素を基質としてグルコノラクトン(グルコノラクトンは、非酵素的にグルコン酸へと加水分解される)と過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素である。グルコースオキシダーゼとしては、麹菌等の微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、それらいずれのグルコースオキシダーゼを用いてもよい。グルコースオキシダーゼとして、具体的には、「スミチームPGO」という商品名で新日本化学工業(株)より市販されている微生物由来のグルコースオキシダーゼが例示される。
【0020】
ホスホリパーゼは、リン脂質を脂肪酸とその他の親油性物質に加水分解する酵素であり、触媒する反応の種類によりA、B、C、及びDに大きく分類される。本発明においては、いずれのホスホリパーゼも使用することができるが、リン酸エステル基の直前でリン脂質を切断するホスホリパーゼC、及び、リン酸エステル結合を切断し、ホスファチジン酸とアルコールを生成するホスホリパーゼDが好ましく、ホスホリパーゼDがより好ましい。ホスホリパーゼDとしては、植物由来のホスホリパーゼD、例えばキャベツ由来のホスホリパーゼDや、微生物由来のホスホリパーゼD、例えばストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する放線菌が生産するホスホリパーゼD等が挙げられる。
【0021】
上記酵素の添加量は、トランスグルタミナーゼについては、食品原料1g当たり1.0×10
-4U以上、好ましくは1.0×10
-3U以上、より好ましくは1.0×10
-2U以上であることが好ましい。グルコースオキシダーゼについては、食品原料1g当たり1.0×10
-4U以上、好ましくは1.0×10
-3U以上、より好ましくは1.0×10
-2U以上であることが好ましい。ホスホリパーゼについては、食品原料1g当たり1.0×10
-3U以上、好ましくは1.0×10
-2U以上、より好ましくは1.0×10
-1U以上であることが好ましい。
【0022】
酵素の添加量の上限は特に制限されないが、通常、食品原料1g当たり、トランスグルタミナーゼは100U以下、グルコースオキシダーゼは100U以下、ホスホリパーゼは100U以下でよい。
【0023】
酵素活性は、以下のようにして測定することができる。
トランスグルタミナーゼの酵素活性の測定法としては、以下の方法が例示できる。ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質としてトランスグルタミナーゼを作用させ、ヒドロキサム酸を生成させる。ヒドロキサム酸にトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmでの吸光度を測定し、ヒドロキサム酸の量を検量線より求め、酵素活性を算出する。37℃、pH6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義する。
【0024】
グルコースオキシダーゼの酵素活性の測定法としては、以下の方法が例示できる。グルコースを基質として、酸素存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることで過酸化水素を生成させる。生成した過酸化水素にアミノアンチピリン及びフェノール存在下でペルオキシダーゼを作用させることでキノンイミン色素を生成させる。波長500nmでの吸光度を測定し、キノンイミン色素の量を検量線より求め、酵素活性を算出する。37℃、pH7.0で1分間に1μmolのグルコースを酸化する酵素量を1U(ユニット)と定義する。
【0025】
ホスホリパーゼの酵素活性の測定法としては、以下の方法が例示できる。ホスファチジルコリンを基質として、ホスホリパーゼを反応させることでコリンを遊離させ、遊離したコリンにコリンオキシダーゼを反応させることで過酸化水素を生成させる。過酸化水素にペルオキシダーゼを反応させることで、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリンナトリウム(DAOS)と4-アミノアンチピリンとを定量的に酸化縮合させる。600nmでの吸光度を測定し、酸化縮合体の量を検量線より求め、酵素活性を算出する。37℃、pH5.5で1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量を1U(ユニット)と定義する。
【0026】
上記酵素は、少なくとも、植物蛋白質を含有する食品原料に添加される。上記酵素は、例えば、植物蛋白質を含有する食品原料のみに添加されてもよく、当該食品原料と食品の製造に用いられる他の食品原料との混合物に添加されてもよい。本発明の一形態では、植物蛋白質含有食品は、植物蛋白質を含有する食品原料を含む結着材料と、そぼろ状の他の食品原料とを混合し、調理することにより製造される。結着材料は、「つなぎ」とも呼ばれる。例えば、大豆蛋白質を用いたハンバーグ様食品(大豆ハンバーグ)は、典型的には、粒状大豆蛋白質と、それをつなげるための粉状の大豆蛋白質を含む結着材料と、他の食品原料、例えば野菜等を用いて製造される。そのような場合、酵素は好ましくは結着材料に添加される。その場合、「食品原料1g当たり」とは、最終的な食品1g当たりであってもよいが、好ましくは結着材料1g当たりを意味する。結着材料は、植物蛋白質を含有する食品原料からなるものであってもよく、さらに調味料成分や水等の他の成分を含んでいてもよい。
【0027】
前記酵素を食品原料に作用させるには、食品原料を含む画分(例えば、食品原料、それを含む結着材料、又は食品原料もしくは結着材料と他の食品原料との混合物)は、水分を20〜90重量%、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは60〜80重量%含むことが好ましい。
【0028】
酵素を添加された食品原料は、必要に応じて、次の製造工程の前に放置されてもよい。酵素を添加された食品原料は、具体的には、例えば、必要に応じて、混合され、成型され、次の製造工程の前に放置されてもよい。放置時間は、1分以上、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは30分〜12時間、温度は0℃〜80℃、好ましくは10℃〜60℃、より好ましくは20℃〜50℃であることが好ましい。
【0029】
酵素を添加された食品原料から、所定の製造工程を経て、植物蛋白質含有食品(例えば最終製品)を製造することができる。酵素を作用させた食品原料は、具体的には、例えば、必要に応じて、他の食品原料と混合され、加工され、さらに加熱調理され、以て植物蛋白質含有食品(例えば最終製品)を製造することができる。本発明による食品の製造は、植物蛋白質を含有する食品原料に酵素が添加され、必要に応じて放置される以外は、その食品の製造に通常用いられる方法と同様にして製造することができる。また、植物蛋白質含有食品の製造に用いる食品原料も、植物蛋白質を含有する食品原料を用いる以外は、通常その食品の製造に使用される食品原料を用いることができる。植物蛋白質を含有する食品原料は、主としては肉の代わりに用いられるが、肉と併用してもよい。また、通常は肉を含まない食品に植物蛋白質を含有する食品原料を加えてもよい。
【0030】
本発明の方法により製造された植物蛋白質含有食品は、生の状態で、又は加熱調理後に、冷凍されてもよい。加熱調理としては、焼く、煮込む、蒸す等の方法が挙げられる。
【0031】
次に、植物蛋白質含有食品として、大豆ハンバーグを一例としてその製造方法を説明する。挽肉に代わるものとして大豆そぼろを用意する。大豆そぼろは、粒状大豆蛋白質を湯戻し、脱水したものに水又は調味液を添加して吸水させることにより、調製することができる。水又は調味液の添加量は、脱水大豆蛋白質に対して、重量比で、好ましくは1倍〜5倍、より好ましくは2倍〜4倍が好ましい。一方、組織状又は粉末大豆蛋白質、水又は調味液、及び酵素を混合して結着材料を調製し、放置する。水又は調味液の添加量は、組織状又は粉末大豆蛋白質に対して、重量比で、好ましくは1倍〜5倍、より好ましくは2倍〜4倍である。
【0032】
大豆そぼろ、結着材料、及び炒め玉ねぎ等の野菜を混合し、パテに成形する。放置時間及び温度は前記したとおりである。このパテを加熱調理すれば、加熱済み大豆ハンバーグが製造される。加熱調理は、フライパンやオーブンによる焼成でもよく、煮込みであってもよい。
【0033】
本発明の方法により、植物蛋白質含有食品の食感を向上させることができる。食感としては、粒感やつなぎ硬さ等が挙げられる。また、本発明の好ましい形態によれば、さらに、植物蛋白質含有食品の風味・呈味を向上させることができる。風味・呈味としては、大豆臭のような植物臭の弱さ、肉質感、ジューシー感等が挙げられる。
【0034】
本発明の他の形態は、植物蛋白質を含有する食品原料と、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを含む、植物蛋白質含有食品である。植物蛋白質含有食品は、好ましくはさらにホスホリパーゼを含む。本発明の他の形態は、植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを作用させることにより製造される植物蛋白質含有食品である。植物蛋白質含有食品は、好ましくは、食品原料にさらにホスホリパーゼを作用させたものである。また、本発明の他の形態は、植物蛋白質を含有する食品原料を含む結着材料と、そぼろ状の他の食品原料とを混合、調理して製造される植物蛋白質含有食品であって、前記結着材料にトランスグルタミナーゼ、及びグルコースオキシダーゼが添加された、植物蛋白質含有食品である。植物蛋白質含有食品は、好ましくは、さらに前記結着材料にさらにホスホリパーゼが添加される。さらに、本発明の他の形態は、植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを添加することを含む、植物蛋白質含有食品の食感及び/又は風味・呈味を向上させる方法である。食品原料には、好ましくはさらにホスホリパーゼを添加する。上記の各形態における食品原料および各酵素については、本発明の製造方法において記載したのと同様である。
【0035】
本発明の酵素製剤は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを含む、物蛋白質含有食品製造用の酵素製剤である。酵素製剤は、さらにホスホリパーゼを含むことが好ましい。酵素製剤は、これらの酵素を含む混合物であってもよく、2種又は3種の酵素を別体として含むキットであってもよい。本発明の酵素製剤は、本発明の植物蛋白質含有食品の製造に好適に使用することができる。
【0036】
酵素製剤は、本発明の効果を損なわない限り、酵素以外の原料(以下、「他の原料」ともいう)を含有してもよい。他の原料としては、例えば、調味料や飲食品に配合して利用されるものを利用できる。他の原料としては、グルコース、デキストリン、澱粉、加工澱粉、還元麦芽糖等の賦形剤、植物蛋白、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、グルタミン酸ナトリウム、動物エキス、魚介エキス、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物等の調味料、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、焼成カルシウム等のアルカリ剤(pH調整剤)、グルコン酸、クエン酸塩等のキレート剤、アスコルビン酸ナトリウム、グルタチオン、システイン等の酸化還元剤、アルギン酸、かんすい、油脂、色素、酸味料、香料等その他の食品添加物等が挙げられる。他の原料としては、1種の原料を用いてもよく、2種またはそれ以上の原料を組み合わせて用いてもよい。酵素製剤は、例えば、有効成分を適宜これら他の原料と混合して製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0038】
表1に記載の組成により大豆ハンバーグを調製した。表1中、配合量は重量%である。
粒状大豆蛋白質及び粉末状大豆蛋白質は、大豆を加工して蛋白質含量を50重量%以上に高め、粒状又は粉末状にしたものであり、各々、不二精油社製 粒状大豆たん白、及び、不二精油社製 粉末状分離大豆たん白を使用した。
【0039】
【表1】
【0040】
粒状大豆蛋白質は、湯戻しした後、脱水し、調味料区分混合物(水を含む)の40重量%を吸わせて、大豆そぼろとした。
【0041】
残りの調味料区分混合物全量に、試験試料を加えて混合し、その混合物と粉末大豆蛋白質を加えて混合して、つなぎ区分とした。試験試料として、酵素液、又は水を、表1に記載の原料全量に対して0.1重量%となる量を加えた。使用した酵素は以下のとおりである。酵素活性は、各々前記した方法により測定した。製品重量に対する酵素量を、表2に示す。
【0042】
トランスグルタミナーゼ(TG):「アクティバ(登録商標)TG」味の素(株)製
グルコースオキシダーゼ(GO):「スミチ−ムPGO」新日本化学工業社
ホスホリパーゼD(PLD):「PLD」長瀬産業社
【0043】
【表2】
【0044】
上記のようにして調製した大豆そぼろ、つなぎ区分、及び炒め玉ねぎを混合した。混合物65gを、直径8.0cm、厚さ1cmのパテに成型した。混合には、フードプロセッサー(バーミックスM300、スピードカッター MK-K3、松下電器製)を使用した。パテを37℃で1時間インキュベート後、コンベアオーブン(インピンジャー、リンカーン フードサービス プロダクツ社)にて216℃で片面4分15秒ずつ焼成した。完全に冷却した後、真空シーラー(真空度5500Pa、シール強度1.8s)を用い真空シールし、冷凍保存した。冷凍保存したサンプルを、流水解凍後、160℃のホットプレートにて両面1.5分ずつ温め、十分に訓練された4名の専門パネルにて食感及び風味・呈味を官能評価した。
【0045】
食感については、そぼろの肉粒感様の食感を「粒感」、パテの保形性の強さを「つなぎ硬さ」と定義した。風味・呈味については、パテの大豆臭の弱さを「大豆臭の弱さ」、肉様の香り及び味の強さを「肉質感」、脂様の味及びべた付きを「ジューシー感」とした。粒感及びつなぎ硬さの評点が高いと肉様食感になる。また、ジューシー感及び肉質感の評点が高く、且つ大豆臭が弱いと肉様の味になる。各々の項目について、表3に示す評価基準により評価した。尚、比較区及び試験区1〜7については食感を、試験区7〜9についてはさらに風味・呈味を評価した。結果を表4及び表5に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
トランスグルタミナーゼ、及びグルコースオキシダーゼを大豆ハンバーグに配合すると粒感、つなぎ硬さのような食感が向上し、さらにホスホリパーゼを配合することにより大豆臭の弱さ、肉質感、ジューシー感のような風味・呈味も向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、食感に優れた植物蛋白質含有食品を製造することができる。また、好ましい形態では、食感に加え、風味・呈味もより良好な植物蛋白質含有食品を製造することができる。本発明の方法は、特殊な装置や複雑な工程を必要とせず、簡便である。また、植物蛋白質含有食品の製造に結着材料が必要な場合でも、卵白、パン粉、澱粉等を用いなくても製造することができる。本発明は、食品製造業や外食産業で有用である。