特許第6984721号(P6984721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984721
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】電動車両の操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20211213BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20211213BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D113:00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-203985(P2020-203985)
(22)【出願日】2020年12月9日
(62)【分割の表示】特願2016-208666(P2016-208666)の分割
【原出願日】2016年10月25日
(65)【公開番号】特開2021-37959(P2021-37959A)
(43)【公開日】2021年3月11日
【審査請求日】2020年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 孝則
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−99848(JP,A)
【文献】 特開2014−51108(JP,A)
【文献】 特開2003−261052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00−6/10
B62D 5/00−5/32
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作ハンドルが接続されて前記操作ハンドルからの操作力を操舵輪へ伝達するステアリングシャフトと、障害物を検出する障害物検出手段と、この障害物検出手段により前記障害物が検出された際に、この障害物を回避するように自動操舵制御を実行する制御手段と、を有する電動車両の操舵装置であって、
前記ステアリングシャフトは、前記操作ハンドルに接続された第1シャフトと、前記操舵輪側に接続された第2シャフトとが、連結手段により解除可能に嵌合されることで連結されて構成され、
前記連結手段を用いて前記第1シャフトを前記第2シャフトに嵌合または嵌合解除させる移動手段を備え、
前記第1シャフトの前方に、前記第1シャフトの回転角度を検出する第1回転角度検出手段が配置され、前記第2シャフトの前方に、前記第2シャフトの回転角度を検出する第2回転角度検出手段が配置され、
前記制御手段は、前記自動操舵制御を実行する際に、前記移動手段により前記第1シャフトと前記第2シャフトとの嵌合を解除させ、前記第2シャフトを回転させることで前記操舵輪を操舵させるよう構成されたことを特徴とする電動車両の操舵装置。
【請求項2】
前記第1回転角度検出手段は、第1シャフトに固着された第1ギアプレートと、車体フレーム側のブレースに設置された第1回転角度センサとを有して構成され、前記第2回転角度検出手段は、第2シャフトに固着された第2ギアプレートと、車体フレーム側のフレームブラケットに設置された第2回転角度センサとを有して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の電動車両の操舵装置。
【請求項3】
前記第1ギアプレートは第1回転角度センサの上端部に位置づけられ、前記第2ギアプレートは第2回転角度センサの上端部に位置づけられたことを特徴とする請求項2に記載の電動車両の操舵装置。
【請求項4】
前記第1シャフトには、操作ハンドルからの操作力により前記第1シャフトが回転することを阻止する固定手段が設けられ、前記固定手段の上方に、第1回転角度検出手段が配置されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電動車両の操舵装置。
【請求項5】
前記第2回転角度検出手段は、車両側面視で操舵輪と重なる位置に配置されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動車両の操舵装置。
【請求項6】
前記第2回転角度検出手段は、第2シャフトをステアリングシャフトの軸回りに回転させて操舵輪を操舵させる操舵用電動モータよりも下方に配置されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電動車両の操舵装置。
【請求項7】
前記連結手段の上方に、第1回転角度検出手段が配置されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電動車両の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、障害物の速度に応じて複数の動作モードから一つの動作モードを設定し、この設定された動作モードによって電動モータを制御することで、障害物の状態に応じた走行支援制御を行う小型電動車両の走行支援方法が開示されている。また、電動車椅子などの小型電動車両には、車載カメラやレーザ等で障害物を検出して、この障害物を回避するように走行を支援する走行支援装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−110207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術における走行支援装置では、障害物を検出したときの回避方法の一つとして、障害物を回避できる方向へ自動で操舵しながら走行する自動操舵制御を用いることが考えられる。しかしながら、障害物を検出して自動操舵制御を実行する場合に、運転者の意図に反して操作ハンドルが回転して運転者に違和感を生じさせる恐れがある。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、障害物を回避する自動操舵制御の実行時に、運転者の意図に反して操作ハンドルが回転することを防止して、運転者のハンドル操作に関する違和感を解消できる電動車両の操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動車両の操舵装置は、操作ハンドルが接続されて前記操作ハンドルからの操作力を操舵輪へ伝達するステアリングシャフトと、障害物を検出する障害物検出手段と、この障害物検出手段により前記障害物が検出された際に、この障害物を回避するように自動操舵制御を実行する制御手段と、を有する電動車両の操舵装置であって、前記ステアリングシャフトは、前記操作ハンドルに接続された第1シャフトと、前記操舵輪側に接続された第2シャフトとが、連結手段により解除可能に嵌合されることで連結されて構成され、前記連結手段を用いて前記第1シャフトを前記第2シャフトに嵌合または嵌合解除させる移動手段を備え、前記第1シャフトの前方に、前記第1シャフトの回転角度を検出する第1回転角度検出手段が配置され、前記第2シャフトの前方に、前記第2シャフトの回転角度を検出する第2回転角度検出手段が配置され、前記制御手段は、前記自動操舵制御を実行する際に、前記移動手段により前記第1シャフトと前記第2シャフトとの嵌合を解除させ、前記第2シャフトを回転させることで前記操舵輪を操舵させるよう構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステアリングシャフトが、操作ハンドルに接続された第1シャフトと、操舵輪側に接続された第2シャフトとから構成され、自動操舵制御時には、第2シャフトが回転して操舵輪を操舵させ、第1シャフト及び操作ハンドルが回転されない。この結果、障害物を回避する自動操舵制御の実行時に、運転者の意図に反して操作ハンドルが回転することを防止でき、運転者のハンドル操作に関する違和感を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る電動車両の操舵装置における一実施形態が適用された電動車両を示す左側面図。
図2図1のステアリングシャフト周囲を示す左側面図。
図3図2のIII矢視図。
図4図3のIV矢視図。
図5図4のA部である電磁ソレノイド機構の通常操舵時の状態を拡大して示す断面図。
図6図4のB部であるロック機構の通常操舵時の状態を拡大して示す断面図。
図7図4のC部である嵌合部の通常操舵時の状態を拡大して示す断面図。
図8図4のA部である電磁ソレノイド機構の自動操舵制御時の状態を拡大して示す断面図。
図9図4のB部であるロック機構の自動操舵制御時の状態を拡大して示す断面図。
図10図4のC部である嵌合部の自動操舵制御時の状態を拡大して示す断面図。
図11図1に搭載されたが操舵装置のシステム構成を示すブロック図。
図12図11の制御手段が実行する自動操舵制御に関する手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る電動車両の操舵装置における一実施形態が適用された電動車両を示す左側面図である。この図1に示すように、ハンドル形電動車椅子などの電動車両10においては、車体フレーム11に左右一対の前輪12及び後輪13が、図示しないサスペンションを介して支持される。車体フレーム11はその一部を除き、前部カバー14、レッグシールド15、フロアパネル16及び後部カバー17等からなる樹脂製カバーによって覆われる。
【0010】
車体後部の略箱形状の前記後部カバー17は上方に突設され、この後部カバー17の内側に、後輪13を駆動するための走行用電動モータ18、この走行用電動モータ18の出力を車軸19に伝達するギアユニット及びバッテリ(共に図示せず)等が収容される。走行用電動モータ18は、駆動輪としての後輪13に駆動力を付与して電動車両10を走行させるものであり、制御手段20により制御される。
【0011】
後部カバー17の上方には、車体フレーム11から立ち上がる図示しないブラケットを介して、運転者が着座するシート22が搭載される。このシート22は、シートクッション23及びシートバック(背もたれ)24を含む。更に、シートバック24の両側部にはアームレスト26が設けられ、各アームレスト26は、支点27回りに回動可能に支持される。
【0012】
レッグシールド15は車体前部で上下方向に配置され、シート22に着座した運転者の脚まわりを風等があたらないように保護する。このレッグシールド15の内部には、前輪12を操舵するためのステアリングシャフト29が立設され、このステアリングシャフト29の上端にハンドルユニット30が取り付けられる。通常操舵時に、運転者は、シート22に着座してハンドルユニット30を回転操作することで、操舵輪としての前輪12を左右に操舵する。
【0013】
ハンドルユニット30は、図2及び図3に示すように、メインプレート31の左右両側にそれぞれ半円形状の操作ハンドル32が取り付けられ、更にメインプレート31にアクセルレバー33が回動可能に設けられる。メインプレート31は、スイッチボックス34内に収容され、このスイッチボックス34に図示しない電源スイッチや最高速設定スイッチなどが設けられる。
【0014】
アクセルレバー33は軸方向中央部分の回動軸部33Aから両側にクランク状に屈曲して車両幅方向延び、両先端部に操作部33Bが設けられる。電動車両10の運転者が操作ハンドル32のグリップ部32Aに掌を置き、アクセルレバー33の操作部33Bを指で押下げ操作したときの押下げ量に基づいて制御手段20が走行用電動モータ18を制御して、電動車両10の走行速度が制御される。
【0015】
ところで、本実施形態の電動車両10は、段差や溝などの障害物と電動車両10との距離が危険と判断される距離に至ったときに、前輪12を自動で操舵して障害物を回避する自動操舵制御を、前述の如く運転者がハンドルユニット30を手動で回転操作する通常操舵の他に実施させる操舵装置35が装備されている。この操舵装置35は、図2図4に示すように、操作ハンドル32を備えたハンドルユニット30と、連結手段としての嵌合部36を備えたステアリングシャフト29と、移動手段としての電磁ソレノイド機構37と、固定手段としてのロック機構38と、操舵用電動モータ39と、障害物検出手段40(図1)と、第1回転角度検出手段41及び第2回転角度検出手段42と、制御手段20(図1)と、を有して構成される。
【0016】
ステアリングシャフト29は、図2及び図4に示すように、第1シャフトとしての上側ステアリングシャフト29Aと、第2シャフトとしての下側ステアリングシャフト29Bとが、嵌合部36により解除可能に嵌合(スプライン結合またはセレーション結合;本実施形態ではスプライン結合)されて連結される。上側ステアリングシャフト29Aの上部は、電磁ソレノイド機構37介してハンドルユニット30のメインプレート31に接続されることで、このメインプレート31に取り付けられた操作ハンドル32に接続される。
【0017】
また、下側ステアリングシャフト29Bの下部にはステアリングプレート44が固着され、このステアリングプレート44が、前輪12を軸支するナックルアームにタイロッド(共に図示せず)を介して連結される。これにより、下側ステアリングシャフト29Bが前輪12側に接続される。従って、上側ステアリングシャフト29Aが嵌合部36により下側ステアリングシャフト29Bと嵌合されることで、ハンドルユニット30の操作ハンドル32からの操作力が前輪12へ伝達される。
【0018】
上述の嵌合部36を、図7及び図10を用いて説明する。上側ステアリングシャフト29Aの下端近傍に軸受45が例えば圧入により固定される。また、下側ステアリングシャフト29Bの上端には上端プラグ46が固着され、この上端プラグ46の係合部46Aが軸受45の内側に、ステアリングシャフト29の軸方向に沿って相対移動可能に係合される。更に、上側ステアリングシャフト29Aの下端にスプライン47が、上端プラグ46の胴部46Bにスプライン48がそれぞれ形成され、これらのスプライン47、48がステアリングシャフト29の軸方向に沿って相対移動可能に結合される。
【0019】
ステアリングシャフト29の軸方向に沿う係合部46Aの寸法Aと、ステアリングシャフト29の軸方向に沿うスプライン47、48の寸法Bとの間には、A>Bの関係が成立する。この関係が成立することで、上側ステアリングシャフト29Aが下側ステアリングシャフト29Bに対して図7の状態から図10の状態へと上昇して両スプライン47、48の結合が外れ、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合部36による嵌合が解除された場合でも、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの離脱が防止される。
【0020】
図2に示す電磁ソレノイド機構37は、上側ステアリングシャフト29Aを下側ステアリングシャフト29Bに対してステアリングシャフト29の軸方向に移動させることで、上述の嵌合部36を用いて上側ステアリングシャフト29Aを、下側ステアリングシャフト29Bに嵌合または嵌合解除させるものである。つまり、この電磁ソレノイド機構37は、図5及び図8に示すように、固定鉄心49、可動鉄心50、銅線(コイル)51及びリターンスプリング52を有して構成され、これらがケーシング53内に収容される。このケーシング53は、ハンドルユニット30のメインプレート31にボルト54等を用いて取り付けられる。
【0021】
固定鉄心49と可動鉄心50は上側ステアリングシャフト29A(ステアリングシャフト29)の軸方向に対向して配置され、固定鉄心49がケーシング53に固着される。可動鉄心50は、上側ステアリングシャフト29Aの上端に溶着された上端プラグ55にねじ結合または圧人(本実施形態ではねじ結合)される。また、銅線51は固定鉄心49及び可動鉄心50の周囲に設置され、リターンスプリング52は、固定鉄心49と可動鉄心50との間に介装される。
【0022】
銅線51への通電が停止されるとき(通常操舵時)には、図5に示すように、リターンスプリング52の付勢力によって上側ステアリングシャフト29Aが下降位置に維持される。このとき、嵌合部36では、図7に示すように、上側ステアリングシャフト29Aのスプライン47と下側ステアリングシャフト29Bの上端プラグ46のスプライン48とが結合状態に保持される。従って、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bは嵌合部36により嵌合されて、ステアリングシャフト29の軸回りに一体に回転可能に設けられる。
【0023】
銅線51への通電が実施されるとき(自動操舵制御時)には、図8に示すように、可動鉄心50がリターンスプリング52の付勢力に抗して固定鉄心49側に引き寄せられ、これにより、上側ステアリングシャフト29Aが下側ステアリングシャフト29Bに対してハンドルユニット30側へ上昇する。このとき、嵌合部36では、図10に示すように、上側ステアリングシャフト29Aのスプライン47と下側ステアリングシャフト29Bの上端プラグ46のスプライン48との結合が外れて、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合部36による嵌合が解除された状態になる。従って、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bは、ステアリングシャフト29の軸回りに別体に回転可能に設けられる。
【0024】
図2に示すロック機構38は、車体フレーム11側に固定されたブレース57に取り付けられたロックプレート58と、上側ステアリングシャフト29Aに例えば固着された円板プレート59とを有して構成される。図6及び図9に示すように、ロックプレート58と円板プレート59とのいずれか一方(本実施形態ではロックプレート58)にロック爪60が、他方(本実施形態では円板プレート59)にロック穴61が、ロックプレート58、円板プレート59の周方向に複数形成される。ロック爪60がロック穴61に係合することで、上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30が固定(ロック)されて、ハンドルユニット30の操作ハンドル32からの操作力によって上側ステアリングシャフト29Aが回転することが阻止される。
【0025】
ロック爪60とロック穴61は、図5及び図6に示すように、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電が停止されたとき(通常操舵時)には、上側ステアリングシャフト29Aが下降状態にあるため非係合状態となる。このとき、図2及び図7に示すように、上側ステアリングシャフト29Aが嵌合部36により下側ステアリングシャフト29Bと嵌合状態にあるため、ハンドルユニット30の操作ハンドル32が操作されることで、上側ステアリングシャフト29A及び下側ステアリングシャフト29Bがステアリングシャフト29の軸回りに一体に回転して、前輪12が操舵される。
【0026】
また、図8及び図10に示すように、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電が実施されたとき(自動操舵制御時)には、上側ステアリングシャフト29Aは、下側ステアリングシャフト29Bに対してハンドルユニット30側へ上昇して、嵌合部36による下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合が解除される。図2及び図9に示すように、この嵌合解除のための上側ステアリングシャフト29Aの上昇に連動して、ロック爪60とロック穴61が係合する。これにより、自動操舵制御時には、上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30(操作ハンドル32)の回転が阻止されることになる。
【0027】
図2に示す操舵用電動モータ39は、車体フレーム11に固定されたフレームブラケット63にモータブラケット64を介して取り付けられる。この操舵用電動モータ39のモータ軸にピニオンギア65が固定され、このピニオンギア65が、下側ステアリングシャフト29Bに固定されたカウンタギア66に噛み合う。従って、操舵用電動モータ39の駆動により、ピニオンギア65及びカウンタギア66を介して下側ステアリングシャフト29Bがステアリングシャフト29の軸回りに回転し、これにより前輪12が操舵される。この操舵用電動モータ39の駆動は、自動操舵制御時のほか、後述の如く下側ステアリングシャフト29Bの回転角度を上側ステアリングシャフト29Aの回転角度に一致させる場合にも実施される。
【0028】
図1及び図11に示す障害物検出手段40は、電動車両10の前方及び後方、即ち前部カバー14の前端部と後部カバー17の後端部にそれぞれ設置される。これらの障害物検出手段40は、カメラや光学式(例えばレーザ式)距離センサ、超音波式距離センサなどであり、段差や溝などの障害物を検出すると共に、この障害物と電動車両10との距離を検出する。この障害物検出手段40にて検出された検出信号は、制御手段20へ送信される。
【0029】
図2及び図11に示す第1回転角度検出手段41は、上側ステアリングシャフト29Aに固着された第1ギアプレート67と、ブレース57に設置された第1回転角度センサ68とを有して構成される。第1ギアプレート67が第1回転角度センサ68の検出部に噛み合うことで、この第1回転角度センサ68により上側ステアリングシャフト29Aの回転角度(操舵角)が検出される。また、第2回転角度検出手段42は、下側ステアリングシャフト29Bに固着された第2ギアプレート69と、フレームブラケット63に設置された第2回転角度センサ70とを有して構成される。第2ギアプレート69が第2回転角度センサ70の検出部に噛み合うことで、この第2回転角度センサ70により下側ステアリングシャフト29Bの回転角度(操舵角)が検出される。これらの第1回転角度検出手段41、第2回転角度検出手段42にてそれぞれ検出された回転角度は、制御手段20へ送信される。
【0030】
図1及び図11に示す制御手段20は、アクセルレバー33の操作部33Bの押下げ操作に基づき走行用電動モータ18を制御して電動車両10の走行速度を制御する走行速度制御機能と、障害物検出手段40により障害物が検出されたときにこの障害物を回避する自動操舵制御機能とを有する。以下、後者の自動操舵制御機能について述べる。
【0031】
制御手段20は、障害物検出手段40により段差や溝などの障害物が検出され、この障害物と電動車両10との距離が危険と判断される距離に至ったとき(自動操舵開始判定時)に、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電を実施することで、図2に示す上側ステアリングシャフト29Aを下側ステアリングシャフト29Bに対して上昇させる。この上側ステアリングシャフト29Aの上昇によって、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合部36による嵌合が解除されて、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとはステアリングシャフト29の軸回りに相対回転可能になる。と同時に、ブレース57に取り付けられたロックプレート58のロック爪60(図9)が上側ステアリングシャフト29Aに装着された円板プレート59のロック穴61に係合して、上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30(操作ハンドル32)が固定(ロック)されて、それらの回転が阻止される。
【0032】
その後、制御手段20は、操舵用電動モータ39を駆動させて下側ステアリングシャフト29Bを回転させ、障害物を回避すべく前輪12を操舵させる自動操舵制御を実行する。
【0033】
また、図1及び図11に示す制御手段20は、自動操舵制御の実行によって障害物が回避されて障害物検出手段40により障害物が検出されなくなったとき(自動操舵解除判定時)には、第1回転角度検出手段41により検出された上側ステアリングシャフト29Aの回転角度(操舵角)と、第2回転角度検出手段42により検出された下側ステアリングシャフト29Bの回転角度(操舵角)とが一致するように、操舵用電動モータ39を駆動させて下側ステアリングシャフト29Bをその軸回りに回転させる。そして、第1回転角度検出手段41と第2回転角度検出手段42とにより検出されるそれぞれの回転角度が一致した時点で、操舵用電動モータ39を停止させる。
【0034】
この状態で、制御手段20は、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電を停止して図2に示す上側ステアリングシャフト29Aを下降させ、この上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとを嵌合部36により嵌合させて連結し、自動操舵制御を終了する。これにより、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとがステアリングシャフト29の軸回りに一体に回転可能になって、運転者による通常操舵に備える。
【0035】
制御手段20による上述の自動操舵制御に関して、図12のフローチャートを用いて更に説明する。
制御手段20は、障害物検出手段40により障害物が検出され、その障害物と電動車両10との距離が危険と判断される距離に至ったか否かを判断する(S1)。このステップS1で、障害物と電動車両10との距離が危険と判断される距離に至ったと判断したYesの場合に、制御手段20は、電磁ソレノイド機構37の銅線51へ通電を開始し、上側ステアリングシャフト29Aを下側ステアリングシャフト29Bに対して上昇させ、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合部36による嵌合を解除する(S2)。
【0036】
ステップS2の後に、制御手段20は、操舵用電動モータ39を駆動させて自動操舵制御を実行し、前輪12を操舵する(S3)。制御手段20は、ステップS3の自動操舵制御の実行によって障害物が回避されたか否かを障害物検出手段40からの検出信号により判断し(S4)、障害物が回避されるまで自動操舵制御を継続する。
【0037】
制御手段20は、ステップS4において障害物の回避がなされたと判断したときには、第1回転角度検出手段41と第2回転角度検出手段42とがそれぞれ検出した上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの回転角度(操舵角)が一致しているか否かを判断する(S5)。これらの上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bのそれぞれの回転角度が一致していない場合には、制御手段20は、操舵用電動モータ39を駆動して下側ステアリングシャフト29Bを回転させ、この下側ステアリングシャフト29Bの回転角度を上側ステアリングシャフト29Aの回転角度に一致させる(S6)。
【0038】
ステップS5において上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとのそれぞれの回転角度が一致したYesの場合に、制御手段20は、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電を停止して上側ステアリングシャフト29Aを下降させ、この上側ステアリングシャフト29Aを嵌合部36により下側ステアリングシャフト29Bに嵌合させる(S7)。このステップ7の実施によって自動操舵制御が終了し、運転者による通常操舵に備える(S8)。また、ステップS1によって障害物が検出されないNoの場合には、自動操舵制御がなされず、運転者による通常操舵が実施される。
【0039】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(5)を奏する。
(1)図1及び図2に示すように、ステアリングシャフト29は、操作ハンドル32を備えたハンドルユニット30に接続された上側ステアリングシャフト29Aと、前輪12側に接続された下側ステアリングシャフト29Bとが、嵌合部36によって解除可能に嵌合されることで連結されて構成される。そして、制御手段20は、自動操舵制御を実行する際に、電磁ソレノイド機構37により上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合部36による嵌合を解除させ、操舵用電動モータ39を駆動させて下側ステアリングシャフト29Bを回転させることで前輪12を操舵させる。
【0040】
このため、自動操舵制御の実行時には、上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30(操作ハンドル32)が回転されない。この結果、障害物を回避する自動操舵制御の実行時に、ハンドルユニット30の操作ハンドル32を把持している運転者の意図に反してハンドルユニット30(操作ハンドル32)が回転することを防止でき、運転者のハンドル操作に関する違和感を解消できる。
【0041】
(2)図2図6及び図9に示すように、上側ステアリングシャフト29Aには、ロック爪60がロック穴61に係合することで、上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30を固定(ロック)して、それらの回転を阻止するロック機構38が設けられている。そして、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合が解消されて、下側ステアリングシャフト29Bが操舵用電動モータ39により回転される自動操舵制御時に、上記ロック機構38により上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30の回転が阻止される。
【0042】
このため、自動操舵制御時に上側ステアリングシャフト29Aの不用意な回転が防止されて、運転者は、ハンドルユニット30の操作ハンドル32を把持することで体勢が不安定になることを防止できる。従って、自動操舵制御時における前輪12を最大の操舵角で操舵させることができる。
【0043】
(3)図2図8及び図9に示すように、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電により上側ステアリングシャフト29Aが上昇して、嵌合部36による下側ステアリングシャフト29Bとの嵌合を解除するとき、ロック機構38は、上側ステアリングシャフト29Aの上述の上昇に連動してロック爪60をロック穴61に係合させて、上側ステアリングシャフト29A及びハンドルユニット30を固定(ロック)させる。このように、ロック機構38の作動(ロック)と嵌合部36の嵌合解除とが、同一の駆動源である電磁ソレノイド機構37により実施できる。この結果、ロック機構38と嵌合部36の駆動源を共用化でき、操舵装置35のシステム構成を簡略化できる。
【0044】
(4)図2に示すように、自動操舵制御の終了時には、第1回転角度検出手段41により検出される上側ステアリングシャフト29Aの回転角度と、第2回転角度検出手段42により検出される下側ステアリングシャフト29Bの回転角度とが一致したときに、電磁ソレノイド機構37の銅線51への通電を停止して上側ステアリングシャフト29Aを下降させ、この上側ステアリングシャフト29Aを、嵌合部36により下側ステアリングシャフト29Bに嵌合させて連結するよう構成されている。このため、自動操舵制御を終了した後における運転者による通常操舵において、ハンドルユニット30の操作ハンドル32と前輪12との位置関係が適切になって、この通常操舵を適正に実施できる。
【0045】
(5)図2及び図7に示すように、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとは、嵌合部36のスプライン結合またはセレーション結合によって、解除可能に嵌合されて連結されている。このため、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29Bとを摩擦力を用いて連結する場合に比べて、上側ステアリングシャフト29Aと下側ステアリングシャフト29B間で回転力(操作力)を確実に伝達できる。しかも、嵌合部36は部品点数が少なく、軽量で且つ小型であるため、運転者による操作ハンドル32への操作力を低減でき、また、操舵用電動モータ39を小型化できる。更に、ステアリングシャフト29周りの設計の自由度も拡大できる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
12…前輪(操舵輪)、20…制御手段、29…ステアリングシャフト、29A…上側ステアリングシャフト、29B…下側ステアリングシャフト、30…ハンドルユニット、32…操作ハンドル、35…操舵装置、36…嵌合部(連結手段)、37…電磁ソレノイド機構(移動手段)、38…ロック機構(固定手段)、39…操舵用電動モータ、40…障害物検出手段、41…第1回転角度検出手段、42…第2回転角度検出手段、47、48…スプライン、58…ロックプレート、59…円板プレート、60…ロック爪、61…ロック穴、67…第1ギアプレート、68…第1回転角度センサ、69…第2ギアプレート、70…第2回転角度センサ。
図1
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図12