(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面にディンプルが形成された一対の冷却ドラムと一対のサイド堰とによって金属溶湯貯留部を形成し、前記一対の冷却ドラムを回転させながら前記金属溶湯貯留部に貯留された金属溶湯から前記ディンプルにより形成された突起を有する鋳片を鋳造する双ドラム式連続鋳造装置と、
前記双ドラム式連続鋳造装置の下流側に配置され、前記鋳片を冷却する冷却装置と、
前記冷却装置の下流側に配置され、前記鋳片をワークロールにて圧下率10%以上の1パス圧延を行うインラインミルと、
前記インラインミルの下流側に配置され、前記鋳片をコイル状に巻取る巻取装置と、
を備える連続鋳造設備によって鋳片を製造する方法であって、
圧延解析モデルを用いて前記鋳片を圧延する時の圧延荷重及び先進率の実測値から摩擦係数を算出し、前記摩擦係数が所定の範囲内に入るように、前記鋳片の圧延時の潤滑条件を制御し、
前記圧延解析モデルとしてOrowan理論と志田の近似式による変形抵抗モデルの式とを用いて前記圧延荷重及び先進率の実測値から前記摩擦係数を算出した場合に、前記所定の範囲が0.15以上0.25以下である
ことを特徴とする鋳片の製造方法。
表面にディンプルが形成された一対の冷却ドラムと一対のサイド堰とによって金属溶湯貯留部を形成し、前記一対の冷却ドラムを回転させながら前記金属溶湯貯留部に貯留された金属溶湯から前記ディンプルにより形成された突起を有する鋳片を鋳造する双ドラム式連続鋳造装置と、
前記双ドラム式連続鋳造装置の下流側に配置され、前記鋳片を冷却する冷却装置と、
前記冷却装置の下流側に配置され、前記鋳片をワークロールにて圧下率10%以上の1パス圧延を行うインラインミルと、
前記インラインミルの下流側に配置され、前記鋳片をコイル状に巻取る巻取装置と、
前記インラインミルにより圧延される前記鋳片の圧延荷重及び先進率を実測する測定装置と、
圧延解析モデルを用いて、前記圧延荷重及び先進率の実測値から摩擦係数を算出し、前記摩擦係数が所定の範囲内に入るように、前記鋳片の圧延時の潤滑条件を制御する潤滑制御装置と、
を備え、
前記圧延解析モデルとしてOrowan理論と志田の近似式による変形抵抗モデルの式とを用いて前記圧延荷重及び先進率の実測値から前記摩擦係数を算出した場合に、前記所定の範囲が0.15以上0.25以下である
ことを特徴とする連続鋳造設備。
前記潤滑制御装置は、前記摩擦係数を制御するために必要な潤滑油の供給量を計算するとともに、前記インラインミルに供給する潤滑油の供給制御を行う摩擦係数調節器を備える
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載の連続鋳造設備。
【背景技術】
【0002】
双ドラム式連続鋳造装置では、水平方向に対向配置された一対の連続鋳造用冷却ドラム(以下、「冷却ドラム」という。)と一対のサイド堰とによって金属溶湯貯留部を形成し、この金属溶湯貯留部に貯留された金属溶湯を一対の冷却ドラムを回転させて薄肉の鋳片(以下、「鋳片」という。)を鋳造する(例えば、特許文献1)。金属溶湯貯留部に金属溶湯が貯留されると、冷却ドラムは互いに逆方向に回転され、金属溶湯を冷却ドラムの周面で凝固、成長させながら鋳片として下方へ送り出す。冷却ドラムから送り出された鋳片は、ピンチロールによって水平方向へ送り出され、下流のインラインミルによって所望の板厚に調整される。インラインミルによって板厚が調整された鋳片は、インラインミルの下流に設置された巻取装置によってコイル状に巻き取られる。
【0003】
このような双ドラム式連続鋳造装置では、冷却ドラムは、一般的に、鋳造開始前は低温であり、鋳造を開始すると金属溶湯との接触により昇温する。また、冷却ドラムは、内面から冷却媒体(例えば、冷却水)によって所定の温度以上とならないように冷却されている。以下、冷却ドラムの温度が所定の温度に到達して一定となった期間を定常鋳造期間、定常鋳造期間の任意の時点を定常鋳造時、定常鋳造期間での冷却ドラムの温度を定常温度とする。また、定常鋳造期間の状態を定常状態という。
【0004】
冷却ドラムのプロフィルは、鋳造を開始してから定常状態となるまでに経過時間とともに変化する。このため、冷却ドラムのプロフィルは、定常鋳造時における鋳片の板プロフィル(板クラウン)が所望の板プロフィルとなるように設定されている。
【0005】
また、このような双ドラム式連続鋳造装置では、鋳造開始に当たってダミーシートが用いられている。このダミーシートの先端は、コイル巻取機にセットされ、ダミーシートの尾端は双ロールドラムで挟むようにセットされている。
【0006】
鋳片の先端となる溶融した金属は先ず冷えて固まり、前述のダミーシートの尾端と結合する。その後冷却ドラムが回転して、順次鋳造コイルに供給される。ダミーシートの結合部の板厚は、鋳片の板厚よりも遙かに厚いものとなる。この板厚が厚い部分をこぶ(hump)とも称する。こぶをピンチロールまたはインラインミルで強く押さえたり圧延したりすると蛇行または板破断を生じるため、この部分は上下のピンチロールの間隔およびインラインミルのワークロールの間隔(ロールギャップ)を大きく開いた状態で、こぶに圧縮力がかからない状態でピンチロールおよびインラインミルを通過させる。こぶがピンチロールを通過した後にピンチロールのフライングタッチを開始する。インラインミルのフライングタッチはインラインミルの形状制御能力にもよるが、こぶがインラインミルを通過した後、インラインミルの形状制御能力が不足する場合には定常状態になってからフライングタッチを開始し、インラインミルの出側板厚が目標値になるように圧延される。こぶがインラインミルを通過した後、インラインミルの形状制御能力が十分な場合には定常状態になる前の状態からフライングタッチを開始し、インラインミルの出側板厚が目標値になるように圧延される。
【0007】
このような双ドラム式連続鋳造装置の冷却ドラム表面には、冷却効率または鋳造安定性の向上を目的として、例えば、特許文献2に記載されるように該冷却ドラムの表面に凹形状を形成するディンプル加工が施されている。溶融した金属はこのディンプルに入り込んで固まるため、冷却ドラム後の鋳片の表面には、ディンプルにより形成された突起(以下、単に「突起」と呼ぶ場合がある)が形成される。この突起の形状は、特許文献3に記載の様に、鋳造の安定性を優先して決定され得る。
【0008】
このような突起を有する鋳片をインラインミルで圧延すると、突起の折れ込みが発生する場合がある。一般的には、突起の高さと突起の幅との比(突起の高さ/突起の幅)の値が大きい程、また、インラインミルの圧下率が高い程、突起に折れ込みが生じやすい。ここで、
図1を参照して、折れ込みが発生する突起d1と折れ込みが発生しない突起d10について説明する。
図1は、鋳片に形成された突起の折れ込みを示す概念図である。
図1では、突起の高さbと突起の幅aとの比が異なる2つの突起d1、d10を示している。突起d1の高さbと幅aとの比は、突起d10の高さbと幅aとの比より大きい。
【0009】
高さbと幅aとの比が大きい突起d1は、インラインミルで鋳片を圧延すると折れ込みやすい。突起d1が折れ込んだ折込部eには、鋳片の表面の酸化スケールc1が噛み込まれることもある。一方で、高さbと幅aとの比が小さい突起d10は、インラインミルで圧延しても折れ込みにくい。このため、突起d1のように鋳片に折込部eが発生することもなく、鋳片の表面の酸化スケールc1が噛み込まれることもない。
【0010】
鋳片表面の酸化スケールは、次工程の酸洗工程にて除去される。しかしながら、鋳片の折込部eに噛み込まれた酸化スケールc1は、通常の酸洗では十分に除去できない。このため、酸洗工程の後、鋳片をさらに薄い所定の板厚まで圧延する場合、鋳片の表面に酸化スケールが露出して鋳片の表面性状が悪化し、圧延後の鋳片に表面欠陥が顕在化する場合がある。
【0011】
鋳片の折込部eに噛み込んだ酸化スケールを除去するために、酸洗により突起の折込部eを溶解するためには、通常の倍以上の酸洗時間が必要であり、酸化スケール厚と同等な深さの折れ込み部が生じたとすると、単純に考慮しても酸洗能力は1/2以下となる。そのため、生産性が著しく低下する。また、酸洗前のスケールが付着した鋳片では、突起の折れ込みにより酸化スケールを噛み込んでいるか否かの判断は困難であり、判断を行うには別途に鋳片を切り出して観察用サンプルを作成して断面観察を行う必要がある。そのため、酸洗工程においては、品質保証の観点から、確実に酸化スケールを除去するために鋳片を過溶解する等の手法が取られていた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<1.概要>
本発明者は、双ドラム式連続鋳造設備により製造されディンプルにより形成された突起を有する鋳片をインラインミルで圧延する際に、突起の折れ込みを防止することを可能にする鋳片の製造方法を鋭意研究した。その結果、鋳片をインラインミルで圧延する時に、圧延解析モデルを用いて、圧延荷重及び先進率の実測値から摩擦係数を算出し、摩擦係数が所定の範囲内に入るように、鋳片の圧延時の潤滑条件を制御する方法を想到した。摩擦係数が所定の範囲内に入るように、鋳片の潤滑条件を制御することにより、生産性を損なうことなく、鋳片の表面に形成された突起の折れ込みを防止できる。
【0021】
<2.製造工程>
まず、
図2を参照して、本発明の実施形態に係る鋳片を製造する製造工程の概要を説明する。
図2は、本実施形態に係る鋳片(薄肉鋳片)の製造工程の概略構成を示す説明図である。
【0022】
本実施形態に係る連続鋳造設備1は、
図2に示すように、例えば、タンディッシュ(貯蔵装置)Tと、双ドラム式連続鋳造装置10と、酸化防止装置20と、冷却装置30と、第1のピンチロール装置40と、インラインミル100と、第2のピンチロール装置60と、巻取装置70、とを備えている。
【0023】
(双ドラム式連続鋳造装置)
双ドラム式連続鋳造装置10は、
図2に示すように、例えば、一対の冷却ドラム10a、10bと、一対の冷却ドラム10a、10bの軸方向両側に配置された一対のサイド堰(図示せず。)と、を備える。一対の冷却ドラム10a、10bとサイド堰とは、タンディッシュTから供給される溶融金属を貯留する金属溶湯貯留部15を構成している。双ドラム式連続鋳造装置10は、一対の冷却ドラム10a、10bを互いに逆方向に回転させながら、金属溶湯貯留部15に貯留された金属溶湯から鋳片を鋳造する。
【0024】
一対の冷却ドラム10a、10bは、第1冷却ドラム10aと第2冷却ドラム10bとを備えている。第1冷却ドラム10a及び第2冷却ドラム10bは、軸方向中央が僅かに窪んだ凹形状のプロフィルを有している。また、第1冷却ドラム10aと第2冷却ドラム10bとは、製造する鋳片Sの板厚あるいは内部品質に応じて、冷却ドラム10a、10bの間隔を調整可能に構成されている。第1冷却ドラム10a、第2冷却ドラム10bは、内部に冷却媒体(例えば、冷却水)が流通可能に構成されている。冷却ドラム10a、10bの内部に冷却媒体を流通させることによって、冷却ドラム10a、10bを冷却することができる。また、冷却ドラム10a、10bの表面にはディンプルが形成されている。
【0025】
本実施形態では、第1冷却ドラム10a、第2冷却ドラム10bは、例えば、外径800mm、ドラム胴長(幅)1500mm、定常時における鋳片Sの板クラウンが30μmになるように設定(初期加工)されている。また、ディンプルは圧延方向の長さが1.0mm〜2.0mm、深さが50μm〜l00μmであってもよい。すなわち、ディンプルにより形成される突起の圧延方向の長さは1.0mm〜2.0mmであってもよく、ディンプルにより形成される突起の高さは50μm以上100μm以下であってもよい。なお、一対の冷却ドラム10a、10bの外径、ドラム胴長(幅)、及びディンプル形状はこれに限定されない。
【0026】
双ドラム式連続鋳造装置10では、鋳片Sの先端にダミーシート(図示せず。)を接続して、鋳造を開始する。ダミーシートの先端には、鋳片Sよりも厚みを有するダミーバー(図示せず。)が設けられており、ダミーバーによってダミーシートが誘導される。また、鋳片Sの先端とダミーシートとの接続部には、鋳片Sの板厚よりも厚いこぶ(図示せず。)が形成される。インラインミル100における圧延では、このこぶがインラインミル100を通過した後に圧延を開始するフライングタッチと呼ばれる圧延開始方法が行われる。このような圧延開始方法により、鋳片Sの先端部からフライングタッチ開始部分までの鋳片Sは、鋳造されたままの状態となる。
【0027】
(酸化防止装置)
酸化防止装置20は、鋳造直後の鋳片Sの表面が酸化してスケールが発生することを防止するための処理を行う装置である。酸化防止装置20内では、例えば、窒素ガスによって酸素量を調整することが可能である。酸化防止装置20は、鋳造する鋳片Sの鋼種等を考慮し、必要に応じて適用することが好ましい。
【0028】
(冷却装置)
冷却装置30は、双ドラム式連続鋳造装置10の下流側に配置され、酸化防止装置20により酸化防止処理が表面に施された鋳片Sを冷却する装置である。冷却装置30は、例えば、複数のスプレーノズル(図示せず。)を備え、鋼種に応じてスプレーノズルから鋳片Sの表面(上面及び下面)に対して冷却水を噴出し、鋳片Sを冷却する。
【0029】
なお、酸化防止装置20と冷却装置30との間に、一対の送りロール87を配置してもよい。一対の送りロール87は鋳片Sを圧延するものではなく、押付装置(図示せず。)によって鋳片Sを挟むとともに、一対の冷却ドラム10a、10bと送りロール87との間における鋳片Sのループ長を計測しながら、当該ループ長が一定となるように鋳片Sに水平方向の搬送力を付与する。送りロール87は、例えば、ロール径200mm、ロール胴長(幅)2000mmの一対のロールにより構成されている。
【0030】
(第1のピンチロール装置)
第1のピンチロール装置40は、インラインミル100の入側に配置されるピンチロール装置である。第1のピンチロール装置40は鋳片Sを圧延するものではなく、上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bと、ハウジングと、ロールチョックと、圧延荷重検出装置と、押付装置(第1のピンチロール装置40以外はいずれも図示せず。)と、を備えている。上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bは、それぞれ内部に中空流路が形成されており、冷却媒体(例えば、冷却水)が流通可能に構成されている。冷却媒体を流通させることにより、第1のピンチロール装置40を冷却することができる。
【0031】
上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bは、例えば、ロール径400mm、ロール胴長(幅)2000mmとしてもよい。上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bは、ハウジング内のロールチョックを介して配置されており、モータ(図示せず。)によって回転駆動される。また、上ピンチロール40aは、上圧延荷重検出装置(図示せず。)を介してパスライン調整装置(図示せず。)と連結されており、下ピンチロール40bは、押付装置(図示せず。)と接続されている。
【0032】
かかる構成の第1のピンチロール装置40では、下ピンチロール40bが押付装置により上ピンチロール40a側へ押し上げられると、上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bに負荷された押付荷重が検出されるとともに、第1のピンチロール装置40とインラインミル100との間の鋳片Sに張力が発生する。また、第1のピンチロール装置40とインラインミル100との間の鋳片Sに生じる張力が予め設定された張力になるように、一対のピンチロール40a、40bとインラインミル100とにおける鋳片Sの移動速度は制御されている。また、第1のピンチロール装置40とインラインミル100との間の鋳片Sの張力は、テンションロール88aにて検出される。第1のピンチロールの上流側には、鋳片の位置を検出する位置検出装置41が設けられてもよい。
【0033】
(インラインミル)
インラインミル100は、冷却装置30及び第1のピンチロール装置40の下流側に配置され、鋳片Sを1パス圧延して鋳片Sを所望の板厚にする圧延装置である。本実施形態では、インラインミル100は4重圧延機として構成されている。すなわち、インラインミル100は、一対のワークロール101a、101bと、ワークロール101a、101bの上下に配置されたバックアップロール102a、102bとを備える。尚、「1パス圧延」とは、連続鋳造装置10を経た鋳片Sの板厚を有する鋳片Sを、インラインミル100での1回の圧延によって、インラインミル出側で所望の板厚を有するように塑性変形させることを意味する。
【0034】
インラインミル100は、鋳片Sを圧下率10%以上で1パス圧延することで、生産性を損なうことなく鋳片Sを所望の板厚にすることが可能である。圧下率は、好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。
圧下率の上限は特に限定されるべきものではないが、1パス圧延での圧下率が過剰に高い場合には、後述のように摩擦係数を制御しても突起の折れ込みが発生する場合がある。従って、圧下率の上限は40%以下であることが好ましく、35%以下であることが更に好ましい。
尚、圧下率(r)は次式で定義される。
r={(H−h)/H}×100 (%)
ここで、H(mm)は圧延前の鋳片Sの板厚であり、h(mm)は圧延後の鋳片Sの板厚である。
【0035】
インラインミル100は、例えば、ロール径400mmのワークロール101a、101b、ロール径1200mmのバックアップロール102a、102bを用いてもよい。各ロールの胴長は同一であってもよく、例えば2000mmとしてもよい。
【0036】
インラインミル100には、上記構成の他にも、ワークロールまたは鋳片の少なくとも一方に潤滑油を供給する設備等が付帯しており、潤滑条件等を制御することができる。潤滑油の供給に関する詳細な説明は、後述する。
【0037】
(第2のピンチロール装置)
第2のピンチロール装置60は、インラインミル100の出側に配置されている。第2のピンチロール装置60は、第1のピンチロール装置40と同様に、鋳片Sを圧延するものではなく、上ピンチロール及び下ピンチロールと、圧延荷重検出装置と、押付装置(第2のピンチロール60以外は、いずれも図示せず。)と、を備えている。上ピンチロール及び下ピンチロールは、それぞれ内部に中空流路が形成されており、冷却媒体(例えば、冷却水)が流通可能に構成されている。冷却媒体を流通させることにより、ピンチロールを冷却することができる。上ピンチロール及び下ピンチロールは、例えば、ロール径400mm、ロール胴長(幅)2000mmとしてもよい。また、上ピンチロール及び下ピンチロールは、ハウジング内のロールチョックを介して配置されており、モータ(図示せず。)によって回転駆動される。インラインミル100と第2のピンチロール装置60との間には、テンションロール88bが配置されている。
【0038】
(巻取装置)
巻取装置70は、インラインミル100と第2のピンチロール装置60の下流側に配置され、鋳片Sをコイル状に巻き取る装置である。第2のピンチロール装置60と巻取装置70との間には、デフレクターロール89が配置されている。
【0039】
<3.装置構成及び潤滑条件の制御>
突起のある鋳片をインラインミルにて圧延する場合、突起の折れ込みが生じると表面欠陥の発生につながる。そこで、本願発明者は、突起の折れ込みの発生を防止するために検討した結果、インラインミルでの鋳片とワークロールとの間の摩擦係数に応じて突起の折れ込みの発生の有無が変化するとの知見を得た。そして、かかる知見に基づき、インラインミルによる圧延時の潤滑条件を制御することで鋳片とワークロールとの間の摩擦係数を制御し、突起の折れ込みの発生を防止することを想到した。以下、インラインミルによる鋳片の圧延時の潤滑条件の制御により鋳片の突起の折れ込みを発生させないようにするための潤滑条件の制御について、詳細に説明する。なお、ここでは、潤滑条件の制御の一例として、潤滑油の供給量を制御する例を挙げて説明する。
【0040】
(3−1.インラインミルの構成詳細)
インラインミル100による圧延時の潤滑条件の制御を説明するにあたり、
図3を参照して、本実施形態におけるインラインミル100の詳細を説明する。
図3は、インラインミル100の詳細図である。
【0041】
インラインミル100は、一対のワークロール101a、101bと、ワークロール101a、101bの上下に配置されたバックアップロール102a、102bとを備える。
【0042】
インラインミル100の圧延方向の前後には、冷却水供給ノズル103a、103b、104a、104bが設けられ、ワークロール101a、101bに冷却水が供給される。該冷却水により、ワークロール101a、101bは冷却される。また、これらの冷却水が鋳片にかからないように、冷却水供給ノズル103a、103b、104a、104bと鋳片Sとの間には、水切り板106a、106b、107a、107bが設けられる。
【0043】
インラインミル100の入側に設置された水切り板107a、107bと鋳片Sとの間には、ワークロール表面または鋳片の少なくとも一方に潤滑油を供給する潤滑油供給ノズル105a、105bが設置される。本実施形態での説明では、これらの潤滑油供給ノズル105a、105bによる潤滑油の供給量を制御することで、潤滑条件を制御する。
【0044】
潤滑油供給ノズル105a、105bから供給される潤滑油は、潤滑油タンク115に貯蔵されている。潤滑油は、例えば、潤滑油タンク115に混入された水と圧延潤滑油とを加熱及び攪拌して作製されたエマルション潤滑油であってもよい。作製されたエマルション潤滑油は、ポンプPによって送液され、配管内を通って潤滑油供給ノズル105a、105bから供給される。
【0045】
なお、潤滑油は、水などの希釈剤を含まずに圧延潤滑油のみであってもよい。また、温水と圧延潤滑油とを別々のタンクにて貯蔵し、それぞれの貯蔵箇所から配管内に個別に供給し、その後に両者を混合及び剪断することによってエマルション潤滑油としてもよい。潤滑油供給ノズル105a、105bによる潤滑油のみの供給方法としては、例えばエアーアトマイズのように潤滑油そのものをワークロールに吹き付けてもよい。また、固体潤滑油を鋳片に対して供給してもよい。潤滑油供給ノズル105a、105bの供給量を変えることによって圧延機入側の鋳片の温度が変化する場合には、潤滑油供給ノズル105a、105bの供給量を変えても圧延機入側の鋳片の温度が変化しないように、冷却装置30の冷却制御により鋳片の温度を制御してもよい。なお、本実施形態では、圧延機入側に冷却水供給ノズル104a、104b、水切り板106a、106b、潤滑油供給ノズル105a、105bを配備した連続鋳造設備を示したが、冷却水供給ノズル104a、104b、水切り板106a、106bは必須ではなく、省略されてもよい。
【0046】
ここで、潤滑油を供給することで潤滑条件を制御する場合には、圧延時の様々なパラメータを測定し、潤滑条件の制御を行う必要がある。このため、例えば、潤滑条件の制御時に必要な情報を測定する測定装置110およびインラインミル100の潤滑条件の制御を行う潤滑制御装置120が設けられる。
【0047】
測定装置110は、ロードセル111および板速度計112を有する。測定装置110では、潤滑条件を制御するために必要な各種値の実測が行われる。ロードセル111は、上バックアップロール102aのロールチョックに配備され、圧延荷重を測定する。板速度計112は、圧延機出側に設けられ、鋳片の板速度(V
0)を測定する。板速度計112は、例えば、非接触型の速度測定器を用いてもよい。
【0048】
潤滑制御装置120は、ワークロール(WR)速度換算器121、演算器122、摩擦係数算出器123及び摩擦係数調節器124を有する。潤滑制御装置120では、測定装置110にて検出及び算出された値に基づいて、摩擦係数μを算出して、潤滑条件を制御する。WR速度換算器121は、モータ116の回転数から、減速機(図示せず。)による比率とワークロール径とを用いてワークロール速度(V
R)を算出する。演算器122は、鋳片の板速度及びワークロール速度から、先進率(fs)を演算する。演算器122では、下記の式(1)から先進率(fs)を演算する。すなわち、演算器122は、板速度(V
o)及びワークロール速度(V
R)に基づき先進率(fs)を求める。
f
S=(V
O/V
R−1)×100・・・(1)
【0049】
摩擦係数算出器123では、演算器122にて演算された先進率(fs)、及び圧延荷重に基づいて、摩擦係数μを算出する。そして、摩擦係数調節器124では、算出された摩擦係数μを用いて摩擦係数μを制御するために必要な潤滑油の供給量を計算する。摩擦係数調節器124は、さらに、算出した摩擦係数μを制御するために必要な潤滑油の供給量となるようにポンプPを制御して、インラインミル100に供給する潤滑油の供給制御を行う。このように、測定装置110及び潤滑制御装置120を用いて、潤滑条件が制御される。
【0050】
(3−2.突起の折れ込み発生と摩擦係数との関係)
図3に示したインラインミル100にて、突起のある鋳片を圧延する場合、突起の折れ込みが生じないように鋳片を圧延するため、インラインミルによる圧延時の潤滑条件の制御が行われる。本実施形態では、鋳片とワークロールとの間の摩擦係数を制御することで、かかる潤滑条件を制御する。
【0051】
突起の折れ込みは、鋳片の圧延時に発生するロールバイト内の変形に起因し、ロールバイト内の表層の剪断力に大きな影響をうける。ここで、剪断力はロールバイト内の圧縮応力(圧延荷重)と摩擦係数μとを乗じて算出される。双ドラム式鋳造装置により鋳造された鋳片を圧延するインラインミルでは、基本的に、鋼種や圧延速度、張力などその条件を変更することなく圧延し、圧下率も同様である。したがって、これらのパラメータの値を変化させることはできないが、摩擦係数μを調整すれば、インラインミルにおけるロールバイト内の表層の剪断力を変化させることができる。そこで、本願発明者は、鋳片の突起の折れ込みを防止することができる圧延時の摩擦係数μの適切な範囲を検討した。
【0052】
鋳片の突起の折れ込みが生じない摩擦係数の範囲を規定するにあたり、突起の幅及び突起の高さを変化させて、圧延後の鋳片の突起の折れ込み状態を検証した。
図4及び
図5を参照してその結果を説明する。本検証では、
図4に示すように、突起Dの幅Aを1〜3mm、高さBを50〜200μmに変化させて、5つの突起の形状条件を設定した。そして、これらの突起が形成された鋳片を、摩擦係数μを0.10〜0.33の間で変化させて、それぞれ圧延した。摩擦係数μは、以下に示す圧延条件に基づき圧延解析モデルを使用して算出した値である。本検証では、圧延解析モデルとしてOrowan理論と志田の近似式による変形抵抗モデルの式を用いた。
【0053】
本検証での鋳片の圧延は、
図2と同様の構成を備えた鋳片の製造工程において実施した。使用した鋳片は、板厚2mm、板幅1200mmであり、普通鋼であった。鋳造開始からの冷却ドラムの加速レートは150m/min/30秒であり、定常状態の冷却ドラムの回転速度は150m/minであった。なお、冷却ドラムの初期プロフィルは定常状態で鋳片の板クラウンが43μmになるように初期プロフィルを加工した。なお、本検証での鋳片の圧延は、普通鋼で行ったが、圧延される鋼種は普通鋼に限定されない。
【0054】
また、インラインミル100では、板温度1000℃の鋳片を圧下率30%で1パス圧延し、インラインミル出側の鋳片の板厚を1.4mmとした。インラインミル100での圧延は、インラインミル100をダミーシートが通過し、鋳片の板クラウン150μm以下になった後に開始した。本検証では、鋳造開始から15秒後にインラインミル100での圧延が開始された。圧延潤滑油としては合成エステル(ヒンダードコンプレックスエステル)をベース油とした潤滑油(融点0℃)を、エアーアトマイズ方式で供給した。
【0055】
図5では、摩擦係数が0.10〜0.33までの範囲で、突起の幅Aおよび高さBを変化させた5つの条件における鋼板の評価が記載されている。評価は、圧延時に不安定であったり、鋼板に突起の折れ込みが発生したりした鋼板を×で示した。また、圧延が不安定であった等の圧延時の不具合が確認されなかった上、突起が消失し折れ込みが無かった鋼板を○で示した。
【0056】
図5の評価を参照すると、突起の形状に依らず、摩擦係数μが0.25を超えると、突起Dに折れ込みが生じることがわかった。摩擦係数μが0.15以上0.25以下であれば、突起の幅A及び高さBが条件1〜5のいずれの形状であっても、突起Dは消失し、折れ込みが発生することがなかった。摩擦係数μが0.15未満では、突起は消失するものの、摩擦係数が小さく、潤滑過多のために圧延時にスリップが生じ、圧延が不安定となった。なお、潤滑過多は、潤滑油の供給量が必要以上に多いために生じていることもあり、この場合には、潤滑油の原単位が悪化し、鋳片の製造コストが上昇することになる。摩擦係数μが0.25を超えた範囲では、突起Dに折れ込みが生じた。これらの結果より、摩擦係数μの規定範囲は0.15〜0.25の範囲とする。
【0057】
以上より、本実施形態に係るインラインミル100では摩擦係数μの規定範囲を0.15以上0.25以下として圧延時の潤滑条件を制御することにより、鋳片の突起の折れ込みを防止する。尚、従来の設備では、潤滑油を供給されることはなく、ロール冷却を兼ねた水潤滑が行われていた。水潤滑の場合、摩擦係数は高く、圧延解析モデルとしてOrowan理論志田の近似式による変形抵抗モデルの式を用い圧延荷重と先進率の実測値を用いて摩擦係数を計算すると摩擦係数は0.3〜0.4程度の範囲であった。
【0058】
(3−3.潤滑条件の制御方法)
以下、
図6に基づいて、インラインミル100での摩擦係数μを規定範囲とする潤滑条件の制御方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る潤滑条件の制御方法を示すフローチャートである。
【0059】
[S100:事前処理]
潤滑条件としてワークロールに対する潤滑油供給量を制御し、摩擦係数を規定範囲とする場合、まず、予め対象とする設備、すなわち
図3に示すインラインミル100において、定常状態にて潤滑油の供給量を変化させ、潤滑油の供給量と摩擦係数μとの関係を取得する(S100)。
【0060】
(摩擦係数の算出方法)
ここでまず、摩擦係数の算出方法について説明する。摩擦係数μは、圧延解析モデルを使用して算出することができる。用いる圧延解析モデルによって摩擦係数μの値は若干異なる。ここでは圧延解析モデルとして、例えば非特許文献1に開示されているOrowan理論を用いて、摩擦係数μを算出する。また、変形抵抗モデルの式として、同じく非特許文献1に開示されている志田の近似式を用いる。
【0061】
圧延解析モデルにおいて、ロール径、張力、圧延荷重、板厚、圧延速度等は圧延時に実測でき既知数として扱うことができることから、未知数は摩擦係数μ及び変形抵抗となる。したがって、2つの独立した値を用いれば摩擦係数と変形抵抗とは連成問題として算出することができる。そこで、例えば圧延荷重及び先進率の実測値を代入した圧延解析モデルと圧延荷重及び先進率の計算値を代入した圧延解析モデルとにおいて、双方の値が一致するように変形抵抗と摩擦係数を変化させて計算を行うことで、摩擦係数μを求めることができる。
【0062】
本実施形態においては、圧延解析モデルとしてOrowan理論と志田の近似式による変形抵抗モデルの式とを用いたが、かかる例に限定されず、他の圧延解析モデルを用いることにより、摩擦係数μを求めてもよい。
【0063】
また、摩擦係数μと先進率(f
S)とは強い相関があることから、上記の圧延解析モデルにより求めた摩擦係数μと先進率(f
S)との関係を表すデータ群を用いて、実測した先進率(f
S)及び圧延荷重とから摩擦係数μを求める近似式を作成してもよい。例えば、摩擦係数μを算出する近似式は、先進率(f
S)と圧延荷重(p)を用いて、下記の式(2)のように表すことができる。必要に応じて鋼種や板厚や圧延温度に応じてテーブル化しても良い。
【0064】
μ=a・f
S+b・p+c・・・(2)
【0065】
式(2)にて表される近似式の定数a、b及びcは、重回帰分析により求めてもよい。この近似式を用いることにより、圧延時に実測される先進率(f
S)及び圧延荷重(p)のみを用いて摩擦係数μを得ることができるため、圧延解析モデルを用いて実測値及び計算値を代入して求めたような摩擦係数μを算出する方法よりも計算負荷を低減することができる。
【0066】
(摩擦係数と潤滑油供給量との関係)
次に、摩擦係数から潤滑油供給量を変更して潤滑条件を制御する場合に必要な摩擦係数と潤滑油供給量との関係を求める。摩擦係数μと潤滑油供給量Qとの関係は、一般には、潤滑油の供給量が増加すると、潤滑油の供給を開始した初期段階では摩擦係数μが大幅に減少する傾向が見られ、その後摩擦係数μの変化が少なくなるとの傾向がある。これより、摩擦係数μと潤滑油供給量Qとの関係は、例えば3次の近似式、すなわち下記式(3)で表すことができる。
【0067】
μ=a・Q
3+b・Q
2+c・Q+d・・・(3)
【0068】
近似式(3)の定数a、b及びcは、例えば重回帰分析を用いて求めてもよい。なお、潤滑油供給量Qは、ワークロールまたは鋳片の少なくとも一方の単位表面面積に供給される正味の潤滑油の供給量をいい、エマルション潤滑油の場合には、混合された水分等の希釈溶媒は含まない。
【0069】
ステップS100では、対象とする設備において、定常状態にて潤滑油の供給量を変化させて、各潤滑油供給量での圧延荷重(p)をロードセルにより取得するとともに、演算器122により板速度(V
o)及びワークロール速度(V
R)に基づき先進率(fs)を求める。そして、摩擦係数算出器123により、圧延荷重及び先進率から、例えば上記式(2)を用いて、各潤滑油供給量での摩擦係数が算出される。複数の潤滑油供給量と摩擦係数との関係が取得されると、これらのデータを用いて、例えば上記近似式(3)で表される潤滑油の供給量と摩擦係数μとの関係が取得される。ステップS100にて取得された潤滑油の供給量と摩擦係数μとの関係に基づき、実操業におけるインラインミル100での潤滑油の供給量の制御が行われる。
【0070】
[S102〜S116:実操業での潤滑条件制御]
実操業におけるインラインミル100での潤滑油の供給量は、ステップS100にて取得された摩擦係数μと潤滑油供給量Qとの関係に基づき制御される。
【0071】
まず、インラインミル100による鋳片の圧延が開始されると、上バックアップロールのロールチョックに配置されるロードセル111により圧延荷重が検出される(ステップS102)。このとき、WR速度換算器121により、ワークロール101a、101bを回転させるモータ116の回転数が検出され、モータ116の回転数と減速機による比率及びワークロール径とに基づき、ワークロール速度が算出される(ステップS104)。さらにこの時、インラインミル100の出側に配置された板速度計112により鋳片Sの板速度が検出される(ステップS106)。なお、
図6では、ステップS102、ステップS104及びステップS106の順序で示しているが、これらの処理は並行して実施されている。
【0072】
次に、ステップS104にて算出されたワークロール速度及びステップS106にて測定された板速度を用いて、演算器122により、先進率が演算される(ステップS108)。そして、検出及び演算された圧延荷重及び先進率に基づいて、摩擦係数算出器123により摩擦係数μが算出される(ステップS110)。摩擦係数μは、例えば上記式(2)を用いて算出してもよい。
【0073】
次に、摩擦係数調節器124により、潤滑油供給量が算出される。摩擦係数調節器124は、まず、ステップS110にて算出された摩擦係数μと目標摩擦係数μ
aimとの差分Δμを求める(ステップS112)。ここで、目標摩擦係数μ
aimは0.15〜0.25の範囲の値に設定される。例えば、実機での圧延では、制御誤差または測定誤差等の影響により、実際の摩擦係数と計算された摩擦係数μとに誤差が生じることもある。これにより、実際の摩擦係数が摩擦係数の規定範囲外となることを確実に回避するために、目標摩擦係数μ
aimは、規定範囲を更に狭めた範囲から設定してもよい。本実施形態のように摩擦係数の規定範囲が0.15以上0.25以下であるとき、目標摩擦係数μ
aimは、例えば0.20としてもよい。
【0074】
次に、摩擦係数調節器124は、ステップS100にて予め取得されている既知の摩擦係数μと潤滑油供給量Qとの関係より、ステップS112にて算出した差分Δμに対応する潤滑油の調整量(以下、「潤滑油調整量ΔQ」ともいう。)を算出する(ステップS114)。
【0075】
摩擦係数μと潤滑油供給量Qとの関係として、例えば式(3)が取得されている場合、ある潤滑油供給量Q
0からΔQだけ潤滑油供給量が変化したときの摩擦係数μの変化量Δμ
vは、下記の式(4)で表される。
【0076】
Δμ
v=dμ/dQ・ΔQ
=(3a・Q
02+2b・Q
0+c)ΔQ ・・・(4)
【0077】
上記式(4)より、ステップS112で算出された摩擦係数μと目標摩擦係数μ
aimとの差分Δμにより調整すべき潤滑油の供給量(すなわち、潤滑油供給量)ΔQが算出される。
【0078】
そして、摩擦係数調節器124は、現在設定されている潤滑油供給量Qを、摩擦係数μと目標摩擦係数μ
aimとの差分Δμに応じた潤滑油調整量ΔQにより調整し、潤滑油供給量Q+ΔQに変更する(ステップS116)。摩擦係数調節器124は、ポンプPを制御して、潤滑油供給ノズル105a、105bによる潤滑油の供給量が潤滑油供給量Q
0+ΔQとなるようにする。これにより、摩擦係数μが目標摩擦係数μ
aimとなるようにする。
【0079】
ステップS102〜S116の処理は、鋳片の圧延中は繰り返し実施される(S118)。鋳片の圧延が終了すると(ステップS118/Yes)は、インラインミル100における潤滑条件の制御が終了する。一方、鋳片の圧延中であれば(ステップS118/No)、再度、ロードセルにより圧延荷重を検出するステップ202から再度処理が開始して、潤滑油供給量を調整するステップS116までの処理が繰り返し行われる。
【0080】
以上、本実施形態に係る潤滑条件の制御方法を説明した。本実施形態においては、ワークロールに対する潤滑油供給量に関して説明を行ったが、摩擦係数μを変化させることができれば、潤滑条件は潤滑油の供給量に限られない。例えば、潤滑油の種類、エマルション潤滑油における潤滑油及び水の比率、潤滑油の供給温度等、他の方法にて潤滑条件を制御してもよい。
【0081】
例えば、本実施形態における潤滑油としては、合成エステルや合成エステルに植物油を混ぜたものを基油としたものでも良い。また、必要に応じて、固体潤滑剤や極圧添加剤を添加しても良い。なお、潤滑油の流動点が0℃以上であると、冬期に潤滑油が固化するので、潤滑油の流動点は0℃未満であることが好ましい。
【実施例】
【0082】
本発明の効果を確認するために、
図2に示した本実施形態に係る連続鋳造設備1と同様の設備を用いて、ディンプルにより形成された鋳片の突起の折れ込みの発生の有無等を調査した。実施例及び比較例共に、圧延方向の幅2mm、高さ130μmの突起を有する鋳片を使用した。
【0083】
本実施例は、
図2と同様の構成を備えた鋳片の製造工程において実施した。本実施例では、板厚2mm、板幅1200mmの普通鋼を使用した。鋳造開始からの冷却ドラムの加速レートは150m/min/30秒であり、定常状態の冷却ドラムの回転速度は150m/minであった。なお、冷却ドラムの初期プロフィルは定常状態で鋳片の板クラウンが43μmになるように初期プロフィルを加工した。なお、本実施例において、鋳片の圧延は、普通鋼で行ったが、圧延される鋼種は普通鋼に限定されない。
【0084】
また、インラインミルでは、板温度1000℃の鋳片を圧下率30%で1パス圧延し、インラインミル出側の鋳片の板厚を1.4mmとした。インラインミルでの圧延は、インラインミルをダミーシートが通過し、鋳片の板クラウン150μm以下になった後に開始した。本検証では、鋳造開始から15秒後にインラインミルでの圧延が開始された。圧延潤滑油としては合成エステル(ヒンダードコンプレックスエステル)をベース油とした潤滑油(融点0℃)を、エアーアトマイズ方式で供給した。
【0085】
本実施例では、摩擦係数μは、圧延時の圧延荷重(p)及び先進率(fs)を測定し上記式(2)を用いて求めた。本実施例では、上記式(2)にて求めた摩擦係数μと、上記式(3)で表される摩擦係数μ及び潤滑油供給量Qの関係に基づき、上記式(4)より潤滑油調整量ΔQを算出し、潤滑油の供給量を制御して、目標摩擦係数μ
aim0.21として潤滑油の供給量を制御した。その結果、摩擦係数μは0.19〜0.23の範囲となるように鋳片は圧延された。圧延後の鋳片を酸洗工程において酸洗した後、さらに直径60mmのゼンジマー圧延機で板厚0.2mmまで多パス圧延した。酸洗工程では10μmの溶削を行った。
【0086】
一方、比較例においては、潤滑油を供給せずに、実施例と同様の圧延を行ってから酸洗工程において酸洗を行った後、実施例と同様の圧延を行った。このときの摩擦係数μは、圧延解析モデルとしてOrowan理論と志田の近似式による変形抵抗モデルの式とを用いて算出したところ、0.38であった。また、酸洗工程では、10μmの溶削を行った。
【0087】
実施例及び比較例を合わせて50コイル分の圧延を行い、それぞれゼンジマー圧延機による圧延後の鋳片の表面観察を行った。表面観察の結果、実施例では、鋳片には表面欠陥が確認されなかった。一方、比較例においては、鋳片に表面欠陥が確認された。再度、比較例の条件で同様の圧延を行ったところ、表面欠陥を解消するためには酸洗工程では30μmの溶削が必要であることが確認できた。すなわち、比較例では実施例の3倍の溶削を鋳片に対して行う必要があることが確認できた。これらの結果より、鋳片を圧延する際に摩擦係数μの範囲を適切に制御することにより、突起の折れ込みの発生を防止でき、更には従来技術より酸洗効率を3倍に向上できることがわかった。
【0088】
以上のことから、双ドラム式連続鋳造設備により鋳片を製造する際に、圧延時における鋳片表面の突起の折れ込みを防止し、酸洗効率を向上させた上で、次工程の圧延にて顕在化する表面欠陥を防止し、製造コストが低減できることが確認された。
【0089】
添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。