特許第6984730号(P6984730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984730スチレン系熱可塑性樹脂組成物、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造方法、成形品及び成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984730
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】スチレン系熱可塑性樹脂組成物、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造方法、成形品及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20211213BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20211213BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C08L51/04
   C08L25/12
   C08F279/02
【請求項の数】10
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2020-504738(P2020-504738)
(86)(22)【出願日】2020年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2020001196
(87)【国際公開番号】WO2020188978
(87)【国際公開日】20200924
【審査請求日】2021年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2019-48264(P2019-48264)
(32)【優先日】2019年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-206029(P2019-206029)
(32)【優先日】2019年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】菅 貴紀
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/220961(WO,A1)
【文献】 特開2004−339418(JP,A)
【文献】 特開2003−242679(JP,A)
【文献】 特開2001−226547(JP,A)
【文献】 特開2017−193606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/04
C08L 25/12
C08F 279/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系ゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル系単量体およびアクリル酸エステル系単量体を少なくとも含む単量体混合物(a)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)、ならびに、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を少なくとも含み、アクリル酸エステル系単量体を実質的に含有しない単量体混合物(b)を重合して得られるビニル系共重合体(B)を含有してなるスチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、前記スチレン系熱可塑性樹脂組成物はアセトンに溶解しない物質を含み、該アセトン不溶分中には前記アクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を含み、かつ、その含有割合(d1)がアセトン不溶分100質量%に対し1〜7質量%であるスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記単量体混合物(a)が、メタクリル酸エステル系単量体を含んでいることを特徴とする請求項1に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記単量体混合物(b)が、メタクリル酸エステル系単量体を含んでいることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d2。質量%)と、前記スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d3。質量%)との比(d2/d3)が4〜75であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記グラフト共重合体(A)において、該グラフト共重合体(A)はアセトンに溶解しない物質を含み、該アセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)と、該グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分の質量を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)との比(d4/d5)が2.0以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記グラフト共重合体(A)に用いられるアクリル酸エステル系単量体がアクリル酸n−ブチルまたはアクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
アクリル酸エステル系単量体の単独重合体の含有量が、前記スチレン系熱可塑性樹脂組成物の質量を100質量%としたとき、0.0質量%〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項9】
前記グラフト共重合体(A)が乳化重合法により製造されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により得られるスチレン系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品、通信関連機器、一般雑貨および医療関連機器などに適して用いられるスチレン系熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴムなどのゴム質重合体に、(i)スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物と、(ii)アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物と、を共重合したグラフト共重合体を含有して得られるABS樹脂が知られている。このABS樹脂は、耐衝撃性、剛性などの機械強度バランスや、成形加工性や、コストパフォーマンスなどが優れることから、家電製品、自動車部材、住設建材、通信関連機器及び一般雑貨などの用途で幅広く利用されている。
【0003】
さらに(iii)メタクリル酸メチル、アクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物を共重合したグラフト共重合体を含有して得られる透明ABS樹脂が知られている。この透明ABS樹脂は、耐衝撃性、剛性などの機械強度バランスや、成形加工性や、コストパフォーマンスなどに加えて透明性を有することから、家電製品、通信関連機器及び一般雑貨などの、特に製品が透明であることが要される分野において幅広く利用されている。
【0004】
例えば特許文献1では、耐衝撃性、剛性および外観特性を向上させる手法として、共役ジエン系ゴムの不飽和結合のうち7〜70モル%が水添加された部分水素添加ゴム(B)および体積平均粒子系に特徴を有するグラフト共重合体(C)1〜30質量部の存在下に芳香族ビニル単量体を含有する重合性モノマー(A)55〜98質量部を重合させて得られる芳香族ビニル系樹脂組成物が提案されている。特許文献2では、耐衝撃性を向上させる手法として、ゴム質重合体を含むコア部分とグラフト部分とを有するコアシェル型のゴム含有グラフト重合体であって、該グラフト部分は多層で構成され、該グラフト部分の最外層に(メタ)アクリレート単位と芳香族単量体単位とを含むゴム含有グラフト共重合体が提案されている。
【0005】
特許文献3では、成形加工性、透明性を向上させる手法として、ゴム質重合体(a)とスチレン系単量体(b1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c1)とからなり、前記ゴム質重合体(a)、前記スチレン系単量体(b1)及び前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c1)の使用割合(質量基準)が(a)/(b1)/(c1)=8〜20/20〜60/40〜80であるゴム変性スチレン系共重合体(I)と、スチレン系単量体(b2)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c2)とからなり、前記スチレン系単量体(b2)及び前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c2)の使用割合(質量基準)が(b2)/(c2)=20〜60/40〜80であるスチレン系共重合体(II)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c3)の重合体であるアクリル系重合体(III−1)、又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c3)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体(c3)と共重合可能なビニル系単量体(d1)との合計100質量部中に、前記ビニル系単量体(d1)を20質量部以下で含有する単量体類を重合して得られるアクリル系共重合体(III−2)と、スチレン系単量体(b3)と(メタ)アクリル酸系単量体(e)とからなり、前記スチレン系単量体(b3)及び前記(メタ)アクリル酸系単量体(e)の使用割合(質量基準)が(b3)/(e)=80〜95/5〜20である酸変性スチレン系共重合体(IV)と、有機ポリシロキサン(V)と、を含有することを特徴とするスチレン系樹脂組成物が提案されている。
【0006】
特許文献4では、流動性を向上させる手法として、(A)本質的に(A1)メチルメタクリレート、80〜93質量%(Aに対して)、(A2)アクリル酸のC1〜C8−アルキルエステル7〜20質量%(Aに対して)よりなる混合物の、55〜60ml/gの範囲の粘度数(ジメチルホルムアミド中の0.5質量%溶液で、23℃で測定)を選択する条件での重合により得られるメチルメタクリレート−ポリマー 15〜70質量%及び(B)本質的に(B1)ビニル芳香族モノマー 78〜88質量%(Bに対して)(B2)ビニルシアニド 12〜22質量%(Bに対して)よりなる混合物の、60〜80ml/gの範囲の粘度(ジメチルホルムアミド中の0.5%溶液で、23℃で測定)を選択する条件での重合により得られるコポリマー 10〜50質量%及び(C)本質的に(C1)(C11)1,3−ジエン 50〜100質量%及び(C12)ビニル芳香族モノマー 50質量%までよりなるモノマー混合物の重合により得られる核50〜80質量%(C2)核(C1)の存在で(C21)メタクリル酸又はアクリル酸のC1〜C8−アルキルエステル 40〜100質量%及び(C22)ビニル芳香族モノマー0〜60質量%よりなるモノマー混合物の重合により得られるグラフト外殻20〜50質量%からの、グラフトコポリマーの平均粒度(d50)40〜500nmを選択する条件での重合により得られるグラフトコポリマー 20〜50質量%及び(D)常用の添加物 20質量%までからなる混合物を含有する熱可塑性成形材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−348173号公報
【特許文献2】特開2017−193606号公報
【特許文献3】特開2009−235318号公報
【特許文献4】特開平8−073685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、いずれの手法でも流動性、耐衝撃性のバランスが不十分であった。
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題とするものであり、すなわち、耐衝撃性に優れ、良好な流動性を兼ね備えたスチレン系熱可塑性樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ビニル系単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体にゴム質重合体含有グラフト共重合体が分散したスチレン系熱可塑性樹脂組成物を調製するに際し、特定の条件を満たす場合に、耐衝撃性に優れ、良好な流動性を兼ね備えたスチレン系熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の一態様は以下のとおりである。
(1)共役ジエン系ゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル系単量体、アクリル酸エステル系単量体を少なくとも含む単量体混合物(a)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)、ならびに、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体を少なくとも含み、アクリル酸エステル系単量体を実質的に含有しない単量体混合物(b)を重合して得られるビニル系共重合体(B)を含有してなるスチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、前記スチレン系熱可塑性樹脂組成物はアセトンに溶解しない物質を含み、該アセトン不溶分中には前記アクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を含み、かつ、その含有割合(d1)がアセトン不溶分100質量%に対し1〜7質量%であるスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(2)前記単量体混合物(a)が、メタクリル酸エステル系単量体を含んでいることを特徴とする前記(1)に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(3)前記単量体混合物(b)が、メタクリル酸エステル系単量体を含んでいることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(4)前記アセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d2。質量%)と、前記スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体単位に由来する構造単位の含有割合(d3。質量%)との比(d2/d3)が4〜75であることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(5)前記グラフト共重合体(A)において、該グラフト共重合体(A)はアセトンに溶解しない物質を含み、該アセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)と、該グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分の質量を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)との比(d4/d5)が2.0以下であることを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(6)前記グラフト共重合体(A)に用いられるアクリル酸エステル系単量体がアクリル酸n−ブチルまたはアクリル酸メチルであることを特徴とする前記(1)から(5)のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(7)アクリル酸エステル系単量体の単独重合体が、該スチレン系熱可塑性樹脂組成物の質量を100質量%としたとき、0.0質量%〜0.5質量%であることを特徴とする前記(1)から(6)いずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
(9)前記グラフト共重合体(A)が乳化重合法により製造されることを特徴とする前記(1)から(7)のいずれかに記載のスチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(10)前記(9)に記載の製造方法により得られるスチレン系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐衝撃性に優れ、良好な流動性を兼ね備えたスチレン系熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、好ましい態様によれば、良好な透明性を兼ね備えたスチレン系熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】スチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造装置の一実施様態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の理解を助けるため、以下では、本発明にいう単量体混合物(a)において、メタクリル酸エステル系単量体が含まれない単量体混合物を単量体混合物(a’)とし、本発明にいうグラフト共重合体(A)において、前記単量体混合物(a’)が用いられて得られるグラフト共重合体をグラフト共重合体(A’)とし、また、本発明にいう単量体混合物(a)において、メタクリル酸エステル系単量体を含む単量体混合物を単量体混合物(a”)とし、本発明にいうグラフト共重合体(A)において、前記単量体混合物(a”)が用いられて得られるグラフト共重合体をグラフト共重合体(A”)とし、また、本発明にいう単量体混合物(b)において、メタクリル酸エステル系単量体が含まれない単量体混合物を単量体混合物(b’)とし、本発明にいうビニル系重合体(B)において、前記単量体混合物(b’)が用いられて得られるビニル系共重合体をビニル系共重合体(B’)とし、また、本発明にいう単量体混合物(b)において、メタクリル酸エステル系単量体が含まれる単量体混合物を単量体混合物(b”)とし、本発明にいうビニル系重合体(B)において、前記単量体混合物(b”)が用いられて得られるビニル系共重合体をビニル系共重合体(B”)として、以下に詳細に説明する。
【0015】
なお、本発明において、「グラフト重合して得られる」や「重合して得られる」は、共役ジエン系ゴム質重合体に単量体混合物(a)がグラフト重合された結果としてのグラフト共重合体(A)、あるいは、単量体混合物(b)が重合された結果としてのビニル系共重合体(B)の如く、各々はグラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)の状態を表している。
【0016】
まず、グラフト共重合体(A’)、ビニル系共重合体(B’)を用いる場合について説明する。
【0017】
この場合におけるスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、後述するグラフト共重合体(A’)と後述するビニル系共重合体(B’)を含有する樹脂組成物である。グラフト共重合体(A’)を含有することにより、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させ、耐衝撃性を向上させることができる。また、ビニル系共重合体(B’)を含有することにより、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させることができる。
【0018】
グラフト共重合体(A’)は、共役ジエン系ゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル系単量体、アクリル酸エステル系単量体を少なくとも含む単量体混合物(a’)をグラフト重合して得られる。ここで、グラフト共重合体(A’)はグラフト共重合体(A’)を得る工程において産生する重合体の総称をいい、共役ジエン系ゴム質重合体にグラフト重合されて産生した重合体のほかに、共役ジエン系ゴム質重合体にグラフト重合されずに産生した重合体成分を含む。単量体混合物(a’)は、後述するように共重合可能な他の単量体(但し、メタクリル酸エステル系単量体を除く)をさらに含有してもよい。
【0019】
共役ジエン系ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)(SBR)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、天然ゴムなどが挙げられる。該ゴム質重合体は2種以上が用いられても構わない。該ゴム質重合体のなかでも、耐衝撃性、色調をより向上させる観点から、ポリブタジエン、SBR、天然ゴムを用いることが好ましく、ポリブタジエンを用いることが最も好ましい。
【0020】
グラフト共重合体(A’)に用いられる共役ジエン系ゴム質重合体の量は、共役ジエン系ゴム質重合体および単量体混合物(a’)の総量に対して、20質量%以上80質量%以下とすることが好ましい。用いられる共役ジエン系ゴム質重合体の量が20質量%以上であれば、耐衝撃性をより向上させることができる。該ゴム質重合体の量は、35質量%以上とすることがより好ましい。一方、用いられる共役ジエン系ゴム質重合体)の量が80質量%以下であれば、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性をより向上させることができ、60質量%以下がより好ましい。
【0021】
共役ジエン系ゴム質重合体の質量平均粒子径は、0.15μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.25μm以上であり、0.4μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.35μm以下である。共役ジエン系ゴム質重合体の質量平均粒子径を0.15μm以上とすることにより、耐衝撃性の低下を抑制できる。また、共役ジエン系ゴム質重合体の質量平均粒子径を0.4μm以下とすることにより、流動性が低下することを抑制できる。
【0022】
単量体混合物(a’)に含まれる芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレンなどが挙げられる。単量体混合物(a’)は芳香族ビニル系単量体を2種以上含有してもよい。中でも、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および剛性をより向上させる観点から、スチレンを用いることが好ましい。
【0023】
単量体混合物(a’)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および剛性をより向上させる観点から、単量体混合物(a’)の合計100質量%に対して、45質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、単量体混合物(a’)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、耐衝撃性を向上させる観点から、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
単量体混合物(a’)に含まれるアクリル酸エステル系単量体としては、例えば、炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸とのエステルが挙げられる。炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸とのエステルは、さらに水酸基やハロゲン基などの置換基を有してもよい。炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸とのエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸クロロメチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。単量体混合物(a’)はアクリル酸エステル系単量体を2種以上含有してもよい。中でも、流動性を向上させる観点から、アクリル酸メチルまたはアクリル酸n−ブチルを用いることが好ましく、アクリル酸n−ブチルが最も好ましい。
【0025】
単量体混合物(a’)に含まれるアクリル酸エステル系単量体の量は、流動性を向上させる観点から、単量体混合物(a’)の合計100質量%に対して、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、単量体混合物(a’)に含まれるアクリル酸エステル系単量体の量は、流動性をより向上させる観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
また、単量体混合物(a’)は、本発明の目的を阻害しなければ種々の目的に応じて、共役ジエン系ゴム質重合体に対してグラフト重合可能な他の単量体を含有しうる。そのようなものとしては、例えば、シアン化ビニル系単量体、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。単量体混合物(a’)は係る他の単量体を2種以上含有してもよい。
【0027】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。マレイミド系単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0028】
ビニル系共重合体(B’)は、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体少なくとも含み、アクリル酸エステル系単量体を実質的に含有しない単量体混合物(b’)を重合して得られるものである。単量体混合物(b’)は、共重合可能な他の単量体をさらに含有してもよい。
【0029】
単量体混合物(b’)に含まれる芳香族ビニル系単量体の例としては、前記単量体混合物(a’)について説明した内容をここに引用する。中では、スチレンが好ましい。
【0030】
単量体混合物(b’)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および剛性をより向上させる観点から、単量体混合物(b’)の合計100質量%に対して、45質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、単量体混合物(b’)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、耐衝撃性を向上させる観点から、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
単量体混合物(b’)中は、アクリル酸エステル系単量体を実質的に含有しない。好ましくは全く含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述する分析法によってアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位に帰属される炭素シグナルが観測されないことをいう。
【0032】
単量体混合物(b’)に含まれるシアン化ビニル系単量体の例としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられ、2種以上が含有されていてもよい。中では、耐衝撃性をより向上させる観点から、アクリロニトリルを用いることが好ましい。
【0033】
単量体混合物(b’)に含まれるシアン化ビニル系単量体の量は、耐衝撃性をより向上させる観点から、単量体混合物(b’)の合計100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上である。一方、単量体混合物(b’)に含まれるシアン化ビニル系単量体の含有量は、成形品の色調を向上させる観点から、単量体混合物(b’)の合計100質量%に対して、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0034】
また、単量体混合物(b’)に含まれうる共重合可能な他の単量体は、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限はない。そのような他の単量体の例として、例えば、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられ、これらは2種以上が含有されていてもよい。不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。マレイミド系単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0035】
次に、本発明にいう単量体混合物(a)において、メタクリル酸エステル系単量体が含まれた単量体混合物である単量体混合物(a”)から得られるグラフト共重合体(A”)について説明する。
【0036】
グラフト共重合体(A”)は、共役ジエン系ゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体を少なくとも含む単量体混合物(a)をグラフト重合して得られる。ここで、グラフト共重合体(A”)はグラフト共重合体(A”)を得る工程において産生する重合体の総称をいい、共役ジエン系ゴム質重合体にグラフト重合されて産生した重合体のほかに、共役ジエン系ゴム質重合体にグラフト重合されずに産生した重合体成分を含む。単量体混合物(a”)は、後述するように共重合可能な他の単量体をさらに含有してもよい。
【0037】
共役ジエン系ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)(SBR)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、天然ゴムなどが挙げられる。該ゴム質重合体は2種以上が用いられても構わない。該ゴム質重合体のなかでも、耐衝撃性、透明性、色調をより向上させる観点から、ポリブタジエン、SBR、天然ゴムを用いることが好ましく、ポリブタジエンを用いることが最も好ましい。
【0038】
グラフト共重合体(A”)に用いられる共役ジエン系ゴム質重合体の量は、共役ジエン系ゴム質重合体および単量体混合物(a”)の総量に対して、20質量%以上80質量%以下とすることが好ましい。用いられる共役ジエン系ゴム質重合体の量が20質量%以上であれば、耐衝撃性をより向上させることができる。該ゴム質重合体の量は、35質量%以上とすることがより好ましい。一方、用いられる共役ジエン系ゴム質重合体)の量が80質量%以下であれば、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、透明性、流動性をより向上させることができ、60質量%以下がより好ましい。
【0039】
共役ジエン系ゴム質重合体の質量平均粒子径は、0.15μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.25μm以上であり、0.4μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.35μm以下である。共役ジエン系ゴム質重合体の質量平均粒子径を0.15μm以上とすることにより、耐衝撃性の低下を抑制できる。また、共役ジエン系ゴム質重合体の質量平均粒子径を0.4μm以下とすることにより、透明性、流動性が低下することを抑制できる。
【0040】
単量体混合物(a”)に含まれる芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレンなどが挙げられる。単量体混合物(a)は芳香族ビニル系単量体を2種以上含有してもよい。中でも、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および透明性、剛性をより向上させる観点から、スチレンを用いることが好ましい。
【0041】
単量体混合物(a”)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および剛性、透明性をより向上させる観点から、単量体混合物(a”)の合計100質量%に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方、単量体混合物(a”)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、耐衝撃性および透明性を向上させる観点から、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
単量体混合物(a”)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体としては、例えば、炭素数1〜6のアルコールとメタクリル酸のエステルが挙げられる。炭素数1〜6のアルコールとメタクリル酸とのエステルは、さらに水酸基やハロゲン基などの置換基を有してもよい。炭素数1〜6のアルコールとメタクリル酸とのエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸クロロメチル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。単量体混合物(a”)はメタクリル酸エステル系単量体を2種以上含有してもよい。中でも、透明性を向上させる観点から、メタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
【0043】
単量体混合物(a”)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体の量は、透明性を向上させる観点から、単量体混合物(a”)の合計100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、単量体混合物(a”)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体の量は、透明性をより向上させる観点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましい。
【0044】
単量体混合物(a”)に含まれるアクリル酸エステル系単量体としては、例えば、炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸とのエステルが挙げられる。炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸とのエステルは、さらに水酸基やハロゲン基などの置換基を有してもよい。炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸とのエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸クロロメチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。単量体混合物(a”)はアクリル酸エステル系単量体を2種以上含有してもよい。中でも、流動性および透明性を向上させる観点から、アクリル酸メチルまたはアクリル酸n−ブチルを用いることが好ましく、アクリル酸n−ブチルが最も好ましい。
【0045】
単量体混合物(a”)に含まれるアクリル酸エステル系単量体の量は、流動性および透明性を向上させる観点から、単量体混合物(a”)の合計100質量%に対して、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、単量体混合物(a”)に含まれるアクリル酸エステル系単量体の量は、流動性および透明性をより向上させる観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
また、単量体混合物(a”)は、本発明の目的を阻害しなければ種々の目的に応じて、共役ジエン系ゴム質重合体に対してグラフト重合可能な他の単量体を含有しうる。そのようなものとしては、例えば、シアン化ビニル系単量体、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。単量体混合物(a”)は係る他の単量体を2種以上含有してもよい。
【0047】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。マレイミド系単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0048】
グラフト共重合体(A)は、通常、アセトンに対して溶解する成分とアセトンに対して溶解しない成分とからなる。
【0049】
グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の数平均分子量には特に制限はないが、30,000以上が好ましく、35,000以上がより好ましい。グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の数平均分子量が30,000以上であれば、耐衝撃性をより向上させることができる。一方、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の数平均分子量は60,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の数平均分子量が60,000以下であれば、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性をより向上させることができる。
【0050】
ここで、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の数平均分子量は、グラフト共重合体(A)からアセトン不溶分を濾過した濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより採取したアセトン可溶分について、約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解した約0.2質量%の溶液を作製し、この溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリメタクリル酸メチルを標準物質として換算することにより求めることができる。なお、GPC測定は、下記条件により測定することができる。
測定装置:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM−M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM−N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー(株)製)。
【0051】
グラフト共重合体(A)のグラフト率には特に制限はないが、耐衝撃性を向上させる観点から、10%以上100%以下が好ましい。
【0052】
ここで、グラフト共重合体(A)のグラフト率は、以下の方法により求められる。まず、グラフト共重合体(A)約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流する。この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過することにより、アセトン不溶分を得る。得られたアセトン不溶分を80℃で5時間減圧乾燥させた後、その質量(下記式ではnとする)を測定し、下記式よりグラフト率を算出する。ここで、mは、用いたグラフト共重合体(A)のサンプル質量であり、Xはグラフト共重合体(A)中の共役ジエンゴム質重合体の含有量(質量%)である。
【0053】
グラフト率(%)={[(n)−((m)×X/100)]/[(m)×X/100]}×100。
【0054】
また、グラフト重合がされた重合体において、グラフト重合によって化合された部分と共役ジエン系ゴム質重合体の部分との屈折率の差が0.03以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましい。グラフト共重合体(A)のグラフト重合によって化合された部分と共役ジエン系ゴム質重合体の部分との屈折率の差を0.03以下に抑えることで、透明性をいっそう向上させることができる。
【0055】
グラフト共重合体(A)のグラフト重合によって化合された部分の屈折率は、主に原料となる単量体の組成に依存するため、単量体の種類や組成比を適宜選択することにより、屈折率を所望の範囲にすることができる。特に、乳化重合法により、高分子量体転換率を95%以上にする場合、グラフトによって化合された部分における単量体混合物(a)に用いられた各モノマーに由来する構造単位の含有比率は、単量体混合物(a)に用いられた各モノマーの組成比あるいは配合比率とほぼ等しくなる。
【0056】
而して、グラフト共重合体(A)のグラフト重合によって化合された部分の屈折率は、単量体混合物(a)に含まれる単量体の屈折率と含有量を基にして予測することができる。例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルの共重合体の場合には、下記式によりグラフト共重合体(A)のグラフト重合によって化合された部分の屈折率の目安とすることができる。
【0057】
nD(G)=(1.595×MS/100)+(1.490×MM/100)+(1.460×MB/100) 。
【0058】
ここで、nD(G)はグラフト共重合体(A)のグラフト重合によって化合された部分の屈折率を表し、MSはスチレン含有量(質量%)を表し、MMはメタクリル酸メチル含有量(質量%)を表し、MBはアクリル酸n−ブチル含有量(質量%)を表す。1.595はポリスチレンの屈折率を示し、1.490はポリメタクリル酸メチルの屈折率を示し、1.460はポリアクリル酸n−ブチルの屈折率を示す。なお、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸n−ブチルの屈折率は、アッベ屈折率計にて測定することができる。
【0059】
グラフト共重合体(A)の製造にあたっては、共役ジエン系ゴム質重合体の粒子径に対する自由度が高いこと、重合時に生じる熱の除熱が容易であり、重合安定性の制御が容易であることから、乳化重合法を用いることが好ましい。
【0060】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、共役ジエン系ゴム質重合体と単量体混合物(a)の仕込み方法は、特に限定されない。例えば、これら全てを初期一括仕込みとしてもよいし、各モノマーの反応性を考慮して、単量体混合物(a)の一部を連続的に仕込んでもよいし、単量体混合物(a)の一部または全てを分割して仕込んでもよい。ここで、単量体混合物(a)の一部を連続的に仕込むとは、単量体混合物(a)の一部を初期に仕込み、残りを経時的に連続して仕込むことを意味する。また、単量体混合物(a)を分割して仕込むとは、単量体混合物(a)を、初期仕込みより後の時点で仕込むことを意味する。なお、各仕込み時の各モノマーの組成比は同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0061】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、乳化剤として各種界面活性剤を用いてもよい。各種界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が特に好ましく、アニオン系界面活性剤を2種以上組み合わせてもよい。なお、ここで言う塩としては、たとえば、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0062】
カルボン酸塩型の乳化剤としては、例えば、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリル酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩などが挙げられる。
【0063】
硫酸エステル塩型の乳化剤としては、例えば、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。
【0064】
スルホン酸塩型の乳化剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物などが挙げられる。
【0065】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、必要に応じて開始剤を添加してもよい。開始剤としては、例えば、過酸化物、アゾ系化合物、水溶性の過硫酸カリウムなどが挙げられ、これらを2種以上組み合わせてもよい。また、開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いてもよい。
【0066】
過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルイソプロピルカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロへキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。過酸化物のなかでも、クメンハイドロパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロへキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサンが特に好ましく用いられる。
【0067】
アゾ系化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチル)バレロニトリル、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチル)バレロニトリル、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−2−シアノブタン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。アゾ系化合物のなかでも、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリルが特に好ましく用いられる。
【0068】
グラフト共重合体(A)を製造するために用いられる開始剤の量に特に制限はないが、グラフト共重合体(A)の数平均分子量を前述の範囲に調整しやすいという観点から、共役ジエン系ゴム質重合体と単量体混合物(a)との合計100質量部に対して、0.05質量部以上0.5質量部以下とすることが好ましい。
【0069】
グラフト共重合体(A)を製造する場合、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤を使用することにより、グラフト率を所望の範囲に容易に調整することができる。連鎖移動剤としては、例えば、(i)n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタンなどのメルカプタン、(ii)テルピノレンなどのテルペンなどが挙げられ、これらを2種以上組み合わせてもよい。連鎖移動剤のなかでも、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0070】
グラフト共重合体(A)を製造するために用いられる連鎖移動剤の量は、特に制限はない。グラフト共重合体(A)のグラフト率を前述の範囲に調整しやすいという観点から、グラフト共重合体(A)を製造するために用いられる連鎖移動剤の添加量は、共役ジエン系ゴム質重合体と単量体混合物(a)の合計100質量部に対して0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上であり、0.8質量部以下が好ましく、より好ましくは0.7質量部以下である。
【0071】
グラフト共重合体(A)を乳化重合により製造する場合、重合温度に特に制限はないが、乳化安定性の観点から、40℃以上80℃以下が好ましい。
【0072】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、グラフト共重合体ラテックスに凝固剤を添加して、グラフト共重合体(A)を回収することが一般的である。凝固剤としては、酸または水溶性塩が好ましく用いられる。
【0073】
凝固剤として用いる酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸などが挙げられる。凝固剤として用いる水溶性塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムなどが挙げられ、これらを2種以上組み合わせてもよい。成形品の色調を向上させる観点から、スチレン系熱可塑性樹脂組成物中に乳化剤を残存させないことが好ましい。このため、乳化剤としてアルカリ脂肪酸塩を用い、酸凝固させ、次いで、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリで中和することにより、乳化剤を除去することが好ましい。
【0074】
本発明にいう単量体混合物(b)において、メタクリル酸エステル系単量体が含まれた単量体混合物である単量体混合物(b”)から得られるビニル系共重合体(B”)について説明する。
【0075】
ビニル系共重合体(B”)は、芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体少なくとも含み、アクリル酸エステル系単量体を実質的に含有しない単量体混合物(b”)を重合して得られるものである。単量体混合物(b”)は、共重合可能な他の単量体をさらに含有してもよい。
【0076】
単量体混合物(b”)に含まれる芳香族ビニル系単量体の例としては、前記単量体混合物(a”)について説明した内容をここに引用する。中では、スチレンが好ましい。
【0077】
単量体混合物(b”)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および剛性、透明性をより向上させる観点から、単量体混合物(b”)の合計100質量%に対して、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、単量体混合物(b”)に含まれる芳香族ビニル系単量体の量は、耐衝撃性および透明性を向上させる観点から、単量体混合物(b”)の合計100質量%に対して、40質量%以下が好ましく、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0078】
単量体混合物(b”)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体の例としては、前記単量体混合物(a”)について説明した内容をここに引用する。中では、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0079】
単量体混合物(b”)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体の量は、透明性を向上させる観点から、単量体混合物(b”)の合計100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。一方、単量体混合物(b”)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体の量は、透明性をより向上させる観点から、単量体混合物(b”)の合計100質量%に対して、85質量%以下が好ましく、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0080】
単量体混合物(b”)中は、アクリル酸エステル系単量体を実質的に含有しない。好ましくは全く含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述する分析法によってアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位に帰属される炭素シグナルが観測されないことをいう。
【0081】
単量体混合物(b”)に含まれるシアン化ビニル系単量体の例としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられ、2種以上が含有されていてもよい。中では、耐衝撃性をより向上させる観点から、アクリロニトリルを用いることが好ましい。
【0082】
単量体混合物(b”)に含まれるシアン化ビニル系単量体の量は、耐衝撃性をより向上させる観点から、単量体混合物(b”)の合計100質量%に対して、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上である。一方、単量体混合物(b”)に含まれるシアン化ビニル系単量体の含有量は、成形品の色調を向上させる観点から、単量体混合物(b”)の合計100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0083】
また、単量体混合物(b”)に含まれうる共重合可能な他の単量体は、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限はない。そのような他の単量体の例として、例えば、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられ、これらは2種以上が含有されていてもよい。不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。マレイミド系単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0084】
不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物が単量体として用いられたグラフト共重合体(A”)とビニル系共重合体(B”)とが含有された樹脂組成物とすることにより、透明性を大幅に向上させることができる。
【0085】
ビニル系共重合体(B)の数平均分子量に特に制限はないが、40,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましい。ビニル系共重合体(B)の数平均分子量を40,000以上とすることにより、耐衝撃性をより向上させることができる。一方、ビニル系共重合体(B)の数平均分子量は100,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましい。ビニル系共重合体(B)の数平均分子量を100,000以下とすることにより、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性をより向上させることができる。数平均分子量が40,000以上100,000以下の範囲にあるビニル系共重合体(B)は、例えば、後述する開始剤や連鎖移動剤を用いること、重合温度を後述の好ましい範囲にすることなどにより、容易に製造することができる。
【0086】
ここで、ビニル系共重合体(B)の数平均分子量は、ビニル系共重合体(B)約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解した約0.2質量%の溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリメタクリル酸メチルを標準物質として換算することにより求めることができる。なお、GPC測定は、下記条件により測定することができる。
測定装置:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM−M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM−N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー(株)製)。
【0087】
ビニル系共重合体(B)の屈折率は、前記した共役ジエン系ゴム質重合体の屈折率との差が0.03以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましい。ビニル系共重合体(B)の屈折率と共役ジエン系ゴム質重合体の屈折率との差を0.03以下に抑えることにより、透明性、色調を向上させることができる。
【0088】
ビニル系共重合体(B)の屈折率は、主に原料となるビニル系単量体の組成に依存するため、単量体の種類や組成比を適宜選択することにより、屈折率を所望の範囲にすることができる。なお、ビニル系共重合体(B)の屈折率は、単量体の屈折率と含有量から推測することができ、例えば、スチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルの共重合体の場合には、下記式によりビニル系共重合体(B)の屈折率を推測することができる。
【0089】
nD(B)=(1.510×MA/100)+(1.595×MS/100)+(1.490×MM/100) 。
【0090】
ここで、nD(B)はビニル系共重合体(B)の屈折率を表し、MAはアクリロニトリル含有量(質量%)を表し、MSはスチレン含有量(質量%)を表し、MMはメタクリル酸メチル含有量(質量%)を表す。1.510はポリアクリロニトリルの屈折率を示し、1.595はポリスチレンの屈折率を示し、1.490はポリメタクリル酸メチルの屈折率を示す。なお、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルの屈折率は、いずれもアッベ屈折率計にて測定することができる。
【0091】
また、ビニル系共重合体(B)の屈折率は、アッベ屈折率計にて、測定することができる。
【0092】
ビニル系共重合体(B)を得るための方法には特に制限はないが、得られるスチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性、透明性および色調の観点から、連続塊状重合法または連続溶液重合法が好ましく用いられる。ここで、連続塊状重合法とは、経時的に連続して単量体混合物を投入し、塊状重合したビニル系共重合体を経時的に連続して排出する方法であり、連続溶液重合法とは、経時的に連続して単量体混合物および溶媒を投入し、溶液重合したビニル系共重合体および溶媒からなる溶液を経時的に連続して排出する方法である。
【0093】
連続塊状重合法または連続溶液重合法によりビニル系共重合体(B)を製造する方法としては、任意の方法が採用可能であり、例えば、単量体混合物(b)を重合槽で重合した後、脱モノマー(脱溶媒・脱揮)する方法を挙げることができる。
【0094】
重合槽としては、例えば、パドル翼、タービン翼、プロペラ翼、ブルマージン翼、多段翼、アンカー翼、マックスブレンド翼、ダブルヘリカル翼などの撹拌翼を有する混合タイプの重合槽や、各種の塔式の反応器などを使用することができる。また、多管反応器、ニーダー式反応器および二軸押出機などを重合反応器として使用することもできる(例えば、高分子製造プロセスのアセスメント10「耐衝撃性ポリスチレンのアセスメント」高分子学会、1989年1月26日発行などを参照。)。
【0095】
ビニル系共重合体(B)を製造する際に、上述の重合槽または重合反応器を、2基(槽)以上使用してもよいし、必要に応じて2種以上の重合槽または重合反応器を組み合わせてもよい。ビニル系共重合体(B)の分散度を小さくする観点から、重合槽または重合反応器は2基(槽)以下であることが好ましく、1槽式の完全混合型重合槽がより好ましい。
【0096】
上述の重合槽または重合反応器で重合して得られた反応混合物は、通常、次に脱モノマー工程に供されることにより、モノマーおよび溶媒その他の揮発成分が除去される。脱モノマーを行う方法としては、例えば、ベントを有する一軸または二軸の押出機で加熱下、常圧または減圧下でベント穴より揮発成分を除去する方法、遠心型などのプレートフィン型加熱器をドラムに内蔵する蒸発器で揮発成分を除去する方法、遠心型などの薄膜蒸発器で揮発成分を除去する方法、多管式熱交換器を用いて予熱、発泡して真空槽へフラッシュして揮発成分を除去する方法などが挙げられる。脱モノマーを行う方法の中でも、特に、ベントを有する一軸または二軸の押出機で揮発成分を除去する方法が好ましく用いられる。
【0097】
ビニル系共重合体(B)を製造する場合、適宜開始剤や連鎖移動剤を使用してもよい。開始剤および連鎖移動剤としては、グラフト共重合体(A)の製造方法における説明で例示したものと同じ開始剤および同じ連鎖移動剤が挙げられる。
【0098】
ビニル系共重合体(B)を製造するために用いられる開始剤の量に特に制限はないが、ビニル系共重合体(B)の数平均分子量を前述の範囲に調整しやすいという観点から、単量体混合物(b)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上0.03質量部以下が好ましい。
【0099】
ビニル系共重合体(B)を製造するために用いられる連鎖移動剤の量に特に制限はないが、ビニル系共重合体(B)の数平均分子量を前述の範囲に調整しやすいという観点から、単量体混合物(b)の合計100質量部に対して、0.05質量部以上0.30質量部以下が好ましい。
【0100】
ビニル系共重合体(B)を連続塊状重合法または連続溶液重合法により製造する場合の重合温度に特に制限はないが、ビニル系共重合体(B)の数平均分子量を前述の範囲に調整しやすいという観点から、120℃以上140℃以下が好ましい。
【0101】
ビニル系共重合体(B)を連続溶液重合法により製造する場合、溶媒の量は、生産性の点から、重合溶液中30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。溶媒としては、重合安定性の点から、エチルベンゼンまたはメチルエチルケトンが好ましく、エチルベンゼンが特に好ましく用いられる。
【0102】
ビニル系共重合体(B)は、アクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を実質的に含有せず、好ましくは含有しない。ここで、アクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有量は13C−NMR分析において求めることができ、アクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位に帰属される炭素シグナルの面積でもって求められる。例えば、アクリル酸n−ブチルが用いられた場合には、アルコキシ基のO−CH−の炭素に帰属される64ppmのピークが指標とできる。また適宜、GC/MS法などの分析手段を併用して求めることができる。なおここで、実質的に含有しないとは、アクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位に帰属される炭素シグナルが観測されないことをいう。ビニル系共重合体(B)がアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を含む場合、耐衝撃性が低下する。
【0103】
13C−NMRの測定条件を以下に示す。
装置:(株)JEOL RESONANCE製 ECA−400
測定法:single 13C pulse with inverse gated H decoupling
観測周波数:100.53MHz
溶媒:クロロホルム−d
濃度:100mg/0.65ml(試料/クロロホルム−d)
化学シフト基準:MeSi
温度:室温
観測幅:25126Hz
データ点:32768
パルス幅:4.66μs
遅延時間:10.0s
積算回数:5000回
試料回転数:15.0Hz 。
【0104】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)およびビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して、グラフト共重合体(A)10質量部以上50質量部以下およびビニル系共重合体(B)50質量部以上90質量部以下であることが好ましい。グラフト共重合体(A)が10質量部以上であり、ビニル系共重合体(B)が90質量部以下であることにより、耐衝撃性低下を抑制できる。グラフト共重合体(A)およびビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して、グラフト共重合体(A)を20質量部以上、ビニル系共重合体(B)を80質量部以下とすることがより好ましい。また、グラフト共重合体(A)を70質量部以下、ビニル系共重合体(B)を30質量部以上とすることにより、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が上昇することを抑制しつつ、流動性の低下を抑制し、色調の低下も抑制できることができるので好ましい。また、グラフト共重合体(A”)を70質量部以下、ビニル系共重合体(B”)を30質量部以上とした場合にあっては透明性が良好なものとできる。グラフト共重合体(A)およびビニル系共重合体(B)の合計100質量部に対して、グラフト共重合体(A)40質量部以下、ビニル系共重合体(B)60質量部以上とすることがより好ましい。
【0105】
グラフト共重合体(A”)およびビニル系共重合体(B”)を用いたとき、スチレン系熱可塑性樹脂組成物は、透明である。ここで、透明であるとは厚さ3mmの角板成形品における曇り度(ヘイズ)が5以下であることを意味する。
【0106】
ここで、厚さ3mmの角板成形品は、樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、成形することで得られる。また、東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して、得られた角板成形品のヘイズを測定する。
【0107】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、アセトン不溶分がアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。ここで、アセトン不溶分がアクリル酸エステル系単量体由来単位を含むことは、後述するアセトン不溶分成分に対する13C固体NMR分析においてアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位に帰属される炭素シグナルが観測されることによって確認できる。例えばアクリル酸n−ブチルが用いられた場合には、アルコキシ基の末端に位置するCHの炭素に帰属される15ppmにピークを観測できる。また適宜、GC/MS法などの分析手段を併用して求めることができる。アセトン不溶分がアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を含有することにより、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する。また、アセトン不溶分におけるアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d1)が1質量%以上であれば、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する。一方、アセトン不溶分におけるアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d1)が7質量%以下であれば、耐衝撃性の低下をより抑制することができる。
【0108】
ここで、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分におけるアクリル酸エステル系単量体単位の含有量は、以下の方法により求めることができる。まず、スチレン系熱可塑性樹脂組成物約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、アセトン不溶分を得た。得られたアセトン不溶分は80℃で5時間減圧乾燥した。
【0109】
得られたアセトン不溶分について、13C固体NMR分析を行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各ピークの面積比から成分比を算出した。
【0110】
13C固体NMRの測定条件を以下に示す。
装置: Chemagnetics社製 CMX−300 Infinity
測定法: DD/MAS法
観測周波数: 75.18829MHz
化学シフト基準:ポリジメチルシロキサン
温度:100℃
観測幅: 30003Hz
データ点: 16384
パルス幅:4.2μs
遅延時間: 140s
積算回数: 1200回
試料回転数: 10.0kHz 。
【0111】
本発明においては、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d2。質量%)と、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d3。質量%)との比(d2/d3)が4〜75であることが好ましい。この比(d2/d3)が4以上であれば、耐衝撃性を維持しつつ、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性をより向上させることができる。一方、この比(d2/d3)が75以下であれば、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0112】
アセトン不溶分の質量から該アセトン不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d2。質量%)は、アセトン不溶分に含まれるアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合の決定に採用した条件と同様の条件にて13C固体NMR分析行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各ピークの面積比から成分比を算出した
また、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分を100質量%としたときのアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d3。質量%)は以下の方法により求めることができる。
【0113】
まず、スチレン系熱可塑性樹脂組成物約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、アセトン可溶分を得た。得られたアセトン可溶分は80℃で5時間減圧乾燥した。
【0114】
得られたアセトン可溶分について、前述と同様の条件における13C−NMR分析を行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各ピークの面積比から成分比を算出した。
【0115】
スチレン系熱可塑性樹脂組成物がアセトンに溶解しない物質を含み、該アセトン不溶分中にはアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を含み、かつその含有割合(d1)を前述の範囲とし、かつ該アセトン不溶分の質量から該アセトン不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d2。質量%)と、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d3。質量%)との比(d2/d3)を前述の範囲とする方法としては、例えば、添加する単量体の共重合組成比を考慮し、場合によっては、単量体混合物(a)の仕込みを調整しつつ調製したグラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)からなるスチレン系熱可塑性樹脂組成物を用いることで製造できる。
【0116】
また、本発明にあっては、グラフト共重合体(A)において、該グラフト共重合体(A)はアセトンに溶解しない物質を含み、該アセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)と、該グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分の質量を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)との比(d4/d5)が2.0以下であることが好ましい。この比(d4/d5)が2.0以下であれば、スチレン系熱可塑性樹脂組成物の流動性および耐衝撃性をより向上させることができる。
【0117】
グラフト共重合体(A)のアセトン不溶分の質量から該不溶分中に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)と、グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分の質量を100質量%としたときの該可溶中分に含まれるアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)は以下の方法により求めることができる。まず、グラフト共重合体(A)約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、アセトン不溶分を得た。また、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、アセトン可溶分を得た。得られたアセトン不溶分およびアセトン可溶分をそれぞれ80℃で5時間減圧乾燥した。
【0118】
このアセトン不溶分の質量から共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)は、得られたアセトン不溶分について前述と同様の条件で13C固体NMR分析行い、NMRのスペクトルチャートに表れる各ピークの面積比から成分比を算出した。
【0119】
また、得られたアセトン可溶分について、前述と同様の条件で13C−NMR分析を行い、NMRのスペクトルチャートに表れる各ピークのピーク強度比からグラフト共重合体(A)のアセトン可溶分100質量%におけるアクリル酸エステル系単量体単位含有量(d5)を定量することができる。
【0120】
グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)と、グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分の質量を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)との比(d4/d5)を前述の範囲とする方法としては、例えば、添加する単量体の共重合組成比を考慮し、適宜で、単量体混合物(a)の仕込みを調整しつつ調製したグラフト共重合体(A)を用いることで製造できる。
【0121】
透明性を損なわないで、耐衝撃性、流動性を向上させるには、ガラス転移温度が低くなる効果を有したアクリル酸エステル系単量体を用いることが重要である。
【0122】
グラフト共重合体(A)のアセトン不溶分にアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を導入した場合、グラフト重合がされた重合体において、グラフト重合によって化合された部分のガラス転移温度を下げることができる。
【0123】
グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分にアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位を導入した場合、これにより産生される重合体はガラス転移温度が低く、流動性が高いので、ビニル系共重合体(B)に対する分散性が良好なものとなり、スチレン系樹脂組成物の流動性を向上させることができる。
【0124】
また、グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)と、該グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分の質量を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)の比(d4/d5)を2.0以下とすることで、分散性と流動性をさらに高いレベルで両立でき、また、耐衝撃性向上させることができる。
【0125】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、その質量を100質量%としたとき、アクリル酸エステル系単量体の単独重合体の含有量が0.0質量%〜0.5質量%である。ここで、アクリル酸エステル系単量体の単独重合体とは、アクリル酸エステル系単量体のみからなる重合体を意味する。アクリル酸エステル系単量体の単独重合体の含有量が0.5質量%を超えると、耐衝撃性が低下する場合がある。なお、本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物はアクリル酸エステル系単量体の単独重合体を含まない、すなわち、0.0質量%である、ことが好ましい。
【0126】
ここで、スチレン系熱可塑性樹脂組成物中のアクリル酸エステル系単量体の単独重合体の含有量は以下の方法で求めることができる。
【0127】
まず、凍結粉砕したスチレン系熱可塑性樹脂組成物約2gにメタノール80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、メタノール不溶分を得た。また、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、メタノール可溶分を得た。得られたメタノール不溶分およびメタノール可溶分をそれぞれ80℃で5時間減圧乾燥した。
【0128】
得られたメタノール可溶分について、約0.5gをクロロホルム約100gに溶解した溶液を作製し、この溶液を用いてGPC分取を行った。なお、GPC分取は、下記条件により実施することができる。
測定装置:(株)島津製作所製
ポンプ LC−6A
フラクションコレクター FRC−10A
カラム温度:45℃
検出器:RID−10A(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:2.8ml/分(溶媒:クロロホルム)
カラム:Shodex K2002(20.0mmI.D.×30cm)、Shodex K2003(20.0mmI.D.×30cm)直列(いずれも昭和電工(株)製)。
【0129】
得られたGPC分取物それぞれについて、H−NMR測定を行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各シグナルのピーク面積からアクリル酸エステル系単量体の単独重合体に帰属されるピークの面積を求めて定量することができる。例えば、アクリル酸n−ブチルの単独重合体の場合は、アクリル酸n−ブチルに由来するアルコキシ基のO−CH−の2つの水素に帰属される4ppm付近のピーク面積から含有量を算出した。
【0130】
H−NMRの測定条件を以下に示す。
装置:(株)JEOL RESONANCE製 ECA−400
測定法:single pulse
観測周波数:399.78MHz
溶媒:クロロホルム−d
濃度:各分取物/0.65ml(試料/クロロホルム−d)
化学シフト基準:MeSi
温度:室温
観測幅:8000Hz
データ点:32768
パルス幅:6.45μs
遅延時間:15.0s
積算回数:64回
試料回転数:15.0Hz 。
【0131】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、アルミナ繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、ステンレス繊維、ウィスカ、チタン酸カリウム繊維、ワラステナイト、アスベスト、ハードクレー、焼成クレー、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウムおよび鉱物などの無機充填材;シリコーン化合物などの衝撃改質剤;ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサリシレート系などの紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;高級脂肪酸、酸エステル、酸アミド系または高級アルコールなどの滑剤および可塑剤;モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤;各種難燃剤;難燃助剤;亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤;リン酸、リン酸一ナトリウム、無水マレイン酸、無水コハク酸などの中和剤;核剤;アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤;カーボンブラック、顔料、染料などの着色剤、ブルーイング剤などを含有することができる。
【0132】
次に、本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造方法について例を挙げて説明する。本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、例えば、前述のグラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)および必要に応じてその他成分を溶融混練することにより得ることができる。ビニル系共重合体(B)を連続塊状重合し、さらに連続的にグラフト共重合体(A)および必要に応じてその他成分を溶融混練する方法がより好ましい。
【0133】
図1に本発明に好ましく用いられる製造装置の一実施態様の概略断面図を示す。図1に示すように、この装置では、ビニル系共重合体(B)を製造するための反応槽1と、得られたビニル系共重合体(B)を所定温度に加熱するための予熱機2と、二軸押出機型脱モノマー機3とが、この順に連結されている。さらに、二軸押出機型脱モノマー機3に対してサイドフィードするように、グラフト共重合体(A)を供給するための二軸押出機型フィーダー5が接続されている。反応槽1は撹拌機(ヘリカルリボン翼)7を有し、二軸押出機型脱モノマー機3は未反応の単量体などの揮発成分を除去するためのベント口8を有する。
【0134】
反応槽1から連続的に供給される反応生成物は、予熱機2で所定の温度に加熱され、次いで、二軸押出機型脱モノマー機3に供給される。二軸押出機型脱モノマー機3において、一般的には、150〜280℃程度の温度かつ、常圧または減圧下において、ベント口8から未反応単量体などの揮発成分が系外に除去される。この揮発成分の除去は、一般的には、揮発成分が所定量、例えば10質量%以下、より好ましくは5質量%以下になるまで行われる。また、除去された揮発成分は、反応槽1に再び供給されることが好ましい。
【0135】
二軸押出機型脱モノマー機3の途中の下流側に近い位置に設けられた開口部を通して、二軸押出機型フィーダー5から、グラフト共重合体(A)が供給される。二軸押出機型フィーダー5は、加熱装置を有することが好ましく、グラフト共重合体(A)を半溶融もしくは溶融状態において二軸押出機型脱モノマー機3に供給することにより、良好な混合状態とすることができる。グラフト共重合体(A)の加熱温度は、100〜220℃が一般的である。二軸押出機型フィーダー5としては、例えば、スクリュー、シリンダーおよびスクリュー駆動部からなり、シリンダーが加熱・冷却機能を有する二軸の押出機型フィーダーを挙げることができる。
【0136】
二軸押出機型脱モノマー機3の二軸押出機型フィーダー5と接続される位置においては、その後の未反応単量体を除去する操作によるゴム成分の熱劣化を抑制するために、未反応単量体の含有量が10質量%以下、より好ましくは5質量%以下まで低減されていることが好ましい。
【0137】
二軸押出機型脱モノマー機3の二軸押出機型フィーダー5と接続される位置以降の下流域である溶融混練域4内で、ビニル系共重合体(B)とグラフト共重合体(A)とが溶融混練され、吐出口6からスチレン系熱可塑性樹脂組成物が系外に吐出される。溶融混練域4に水注入口9を設け、所定量の水を添加することが好ましく、注入された水および未反応単量体などの揮発成分はさらに下流に設けられた最終ベント口10から系外に除去される。
【0138】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、任意の成形方法により成形することができる。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、ガスアシスト成形などが挙げられ、射出成形が好ましく用いられる。射出成形時のシリンダー温度は210℃以上320℃以下が好ましく、金型温度は30℃以上80℃以下が好ましい。
【0139】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、任意の形状の成形品として広く用いることができる。成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、他の材料との複合体などが挙げられる。
【0140】
本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性に優れながら、良好な色調を兼ね備えたスチレン系熱可塑性樹脂組成物を得ることができることから、家電製品、通信関連機器、一般雑貨および医療関連機器などの用途として有用である。また、好ましい態様では、高度な透明性を活かしての家電製品、通信関連機器、一般雑貨および医療関連機器などの用途として有用である。
【実施例】
【0141】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。まず、評価方法について説明する。
【0142】
(1)数平均分子量
サンプル約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解し、約0.2質量%の溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリメタクリル酸メチルを標準物質として換算することにより求めた。なお、GPC測定は、下記条件により測定した。
機器:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM−M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM−N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー(株)製)。
【0143】
(2)グラフト共重合体(A)のグラフト率
グラフト共重合体(A)約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流する。この溶液を8000r.p.m(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過することにより、アセトン不溶分を得た。得られたアセトン不溶分を80℃で5時間減圧乾燥させた後、その質量(下記式ではnとする)を測定し、下記式よりグラフト率を算出した。ここで、mは、用いたグラフト共重合体(A)のサンプル質量であり、Xはグラフト共重合体(A)に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体相当部の含有量(質量%)である。
グラフト率(%)={[(n)−((m)×X/100)]/[(m)×X/100]}×100。
【0144】
(3)スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分に含まれるアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の13C固体NMRにおけるピークの有無、またアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有量(d1)
樹脂組成物約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、アセトン不溶分を得た。得られたアセトン不溶分は80℃で5時間減圧乾燥した。
【0145】
得られたアセトン不溶分について、13C固体NMR分析を行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各ピークの面積比から成分比を算出した。
【0146】
13C固体NMRの測定条件を以下に示す。
装置: Chemagnetics社製 CMX−300 Infinity
測定法: DD/MAS法
観測周波数: 75.18829MHz
化学シフト基準:ポリジメチルシロキサン
温度:100℃
観測幅: 30003Hz
データ点: 16384
パルス幅:4.2μs
遅延時間: 140s
積算回数: 1200回
試料回転数: 10.0kHz 。
【0147】
(4)スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた成分を100質量%としたときの該不溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d2。質量%)
上記(3)の手法によって得られたアセトン不溶分について前述と同様の条件における13C固体NMR分析行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各ピークの面積比から成分比を算出した
(5)スチレン系熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d3。質量%)
樹脂組成物約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、アセトン可溶分を得た。得られたアセトン可溶分は80℃で5時間減圧乾燥した。
【0148】
得られたアセトン可溶分について、13C−NMR分析を行い、NMRのスペクトルチャートに現れる各ピークの面積比から成分比を算出した。
【0149】
13C−NMRの測定条件を以下に示す。
装置:(株)JEOL RESONANCE製 ECA−400
測定法:single 13C pulse with inverse gated H decoupling
観測周波数:100.53MHz
溶媒:クロロホルム−d
濃度:100mg/0.65ml(試料/クロロホルム−d)
化学シフト基準:MeSi
温度:室温
観測幅:25126Hz
データ点:32768
パルス幅:4.66μs
遅延時間:10.0s
積算回数:5000回
試料回転数:15.0Hz 。
【0150】
(6)グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン不溶分の質量から該不溶分に含まれる共役ジエン系ゴム質重合体に相当する質量を除いた質量を100質量%としたときのアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d4。質量%)
グラフト共重合体(A)約1gにアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、アセトン不溶分を得た。また、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、アセトン可溶分を得た。得られたアセトン不溶分およびアセトン可溶分をそれぞれ80℃で5時間減圧乾燥した。
【0151】
得られたアセトン不溶分について上記(3)と同様の条件における13C固体NMR分析行い、NMRのスペクトルチャートに表れる各ピークの面積比から成分比を算出した。
【0152】
(7)グラフト共重合体(A)に含まれるアセトン可溶分を100質量%としたときの該可溶分中のアクリル酸エステル系単量体に由来する構造単位の含有割合(d5。質量%)
得られたアセトン可溶分について、上記(5)と同様の条件で13C−NMR分析を行い、NMRのスペクトルチャートに表れる各ピーク強度比から求めた。
【0153】
(8)スチレン系熱可塑性樹脂組成物に含まれるアクリル酸エステル系単量体の単独重合体の有無の確認および含有量(質量%)
凍結粉砕したスチレン系熱可塑性樹脂組成物約2gにメタノール80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を12000r.p.mで20分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、メタノール不溶分を得た。また、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、メタノール可溶分を得た。得られたメタノール不溶分およびメタノール可溶分をそれぞれ80℃で5時間減圧乾燥した。
【0154】
得られたメタノール可溶分について、約0.5gをクロロホルム約100gに溶解した溶液を作製し、この溶液を用いてGPC分取を行った。なお、GPC分取は、下記条件により実施した。
測定装置:(株)島津製作所製
ポンプ LC−6A
フラクションコレクター FRC−10A
カラム温度:45℃
検出器:RID−10A(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:2.8ml/分(溶媒:クロロホルム)
カラム:Shodex K2002(20.0mmI.D.×30cm)、Shodex K2003(20.0mmI.D.×30cm)直列(いずれも昭和電工(株)製)。
【0155】
得られたGPC分取物それぞれについて、H−NMR測定を行い、NMRのスペクトルチャートに表れる各ピーク強度からアクリル酸エステル系単量体の単独重合体の有無を確認し、存在する場合はその量を求めた。
【0156】
H−NMRの測定条件を以下に示す。
装置:(株)JEOL RESONANCE製 ECA−400
測定法:single pulse
観測周波数:399.78MHz
溶媒:クロロホルム−d
濃度:各分取物/0.65ml(試料/クロロホルム−d)
化学シフト基準:MeSi
温度:室温
観測幅:8000Hz
データ点:32768
パルス幅:6.45μs
遅延時間:15.0s
積算回数:64回
試料回転数:15.0Hz 。
【0157】
(9)透明性(曇り度(ヘイズ)、全光線透過率)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、即時に厚さ3mmの角板成形品を成形した。東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して、得られた角板成形品各5枚について、ヘイズ、全光線透過率を測定し、その数平均値を算出した。
【0158】
(10)耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、即時に厚さ4mmのダンベル試験片を成形した。得られたダンベル試験片各7個について、ISO179に準拠した方法でシャルピー衝撃強度を測定し、その数平均値を算出した。
【0159】
(11)流動性(メルトフローレート)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、ISO1133に準拠し、220℃、98Nの条件でメルトフローレートを測定した。
【0160】
(製造例1)グラフト共重合体(A−1)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン5.1質量部、メタクリル酸メチル12.9質量部、アクリル酸n−ブチル2.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0161】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤としてラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン11.1質量部、メタクリル酸メチル24.9質量部、アクリル酸n−ブチル4.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−1)(単量体比率:スチレン27質量%、メタクリル酸メチル63質量%、アクリル酸n−ブチル10質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−1)のグラフト率は70%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は43,000であった。
【0162】
(製造例2)グラフト共重合体(A−2)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン5.2質量部、メタクリル酸メチル12質量部、アクリル酸n−ブチル2.0質量部、アクリロニトリル0.8質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0163】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン10.5質量部、メタクリル酸メチル23.9質量部、アクリル酸n−ブチル4.0質量部、アクリロニトリル1.6質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−1)(単量体比率:スチレン26質量%、メタクリル酸メチル60質量%、アクリル酸n−ブチル10質量%、アクリロニトリル4質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−2)のグラフト率は73%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は46,000であった。
【0164】
(製造例3)グラフト共重合体(A−3)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン6.2質量部、メタクリル酸メチル12.8質量部、アクリル酸n−ブチル1.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0165】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン10.1質量部、メタクリル酸メチル24.9質量部、アクリル酸n−ブチル5.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−3)(単量体比率:スチレン27質量%、メタクリル酸メチル63質量%、アクリル酸n−ブチル10質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−3)のグラフト率は71%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は44,000であった。
【0166】
(製造例4)グラフト共重合体(A−4)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン5.1質量部、メタクリル酸メチル11.9質量部、アクリル酸n−ブチル3.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0167】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン11.1質量部、メタクリル酸メチル25.9質量部、アクリル酸n−ブチル3.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−5)(単量体比率:スチレン27質量%、メタクリル酸メチル63質量%、アクリル酸n−ブチル10質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−5)のグラフト率は65%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は41,000であった。
【0168】
(製造例5)グラフト共重合体(A−5)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン4.5質量部、メタクリル酸メチル15.5質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0169】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部の開始剤混合物を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン10質量部、メタクリル酸メチル30質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−5)(単量体比率:スチレン27質量%、メタクリル酸メチル63質量%、アクリル酸n−ブチル10質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−5)のグラフト率は71%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は45,000であった。
【0170】
(製造例6)グラフト共重合体(A−6)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン9.75質量部、アクリル酸n−ブチル2.0質量部、アクリロニトリル3.25質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0171】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤としてラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン30.75質量部、アクリル酸n−ブチル4.0質量部、アクリロニトリル10.25質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−6)(単量体比率:スチレン67.5質量%、アクリル酸n−ブチル10質量%、アクリロニトリル22.5質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−6)のグラフト率は62%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は40,000であった。
【0172】
(製造例7)グラフト共重合体(A−7)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン11.25質量部、アクリロニトリル3.75質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0173】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤としてラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン33.75質量部、アクリル酸n−ブチル4質量部、アクリロニトリル11.25質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−7)(単量体比率:スチレン75質量%、アクリロニトリル25質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−7)のグラフト率は64%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は41,000であった。
【0174】
上述のグラフト重合体の詳細を、表1に示す。
【0175】
(製造例8)グラフト共重合体(A−8)
撹拌翼を備えた反応槽に、ポリブタジエンラテックス40質量部(固形分換算)、純水90質量部、ラウリン酸ナトリウム0.4質量部、ブドウ糖0.4質量部、ピロリン酸ナトリウム0.3質量部、硫酸第一鉄0.005質量を仕込み、窒素置換後、60℃に温度調節し、撹拌しながら、スチレン6.0質量部、メタクリル酸メチル10.0質量部、アクリル酸n−ブチル4.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部の単量体混合物を45分間かけて初期添加した。
【0176】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.2質量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.6質量部および純水30質量部の開始剤混合物を4時間かけて連続添加した。同時に並行して、スチレン10.0質量部、メタクリル酸メチル29.0質量部、アクリル酸n−ブチル1.0質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.25質量部の単量体混合物を3時間かけて連続添加した。単量体混合物追添加後、1時間保持して重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5質量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−8)(単量体比率:スチレン26.7質量%、メタクリル酸メチル65質量%、アクリル酸n−ブチル8.3質量%)を得た。得られたグラフト共重合体(A−8)のグラフト率は63%であった。また、アセトン可溶分の数平均分子量は42,000であった。
【0177】
【表1】
【0178】
(製造例9)アクリル酸エステル系単量体の単独重合体
アクリル酸n−ブチルを懸濁重合して得られたスラリーを洗浄・脱水・乾燥工程を経て、アクリル酸n−ブチルの単独重合体を得た。得られたアクリル酸n−ブチルの単独重合体の数平均分子量は13,000であった。
【0179】
[実施例1]
単量体蒸気の蒸発乾留用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2mの完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機と、2軸押出機型脱モノマー機と、脱モノマー機の下流(出口)側先端から1/3長手前のバレル部にサイドフィードするように接続された2軸押出機型フィーダーとからなる連続式塊状重合装置を用いて、以下の方法によりビニル系共重合体(B−1)およびスチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造を実施した。
【0180】
まず、スチレン23.5質量部、アクリロニトリル4.5質量部、メタクリル酸メチル72質量部、n−オクチルメルカプタン0.26質量部および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.015質量部からなる単量体混合物を、150kg/時で完全混合型重合槽に連続的に供給し、重合温度を130℃、槽内圧を0.08MPaに保ちながら連続塊状重合させた。完全混合型重合槽出口における重合反応混合物の重合率は65±3%に制御した。
【0181】
次に、重合反応混合物を単軸押出機型予熱機により予熱した後、2軸押出機型脱モノマー機に供給し、未反応単量体を2軸押出機型脱モノマー機のベント口から減圧蒸発回収した。回収した未反応単量体は、連続的に完全混合型重合槽へ還流させた。2軸押出機型脱モノマー機の下流側先端より全長に対して1/3手前の所で見かけの重合率が99%以上となったスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体150kg/時に、2軸押出機型フィーダーにより、フェノール系安定剤であるt−ブチルヒドロキシトルエン0.225kg/時、リン系安定剤であるトリ(ノニルフェニル)ホスファイト0.225kg/時、製造例1で製造したグラフト共重合体(A−1)の半溶融状態物69kg/時を供給し、2軸押出機型脱モノマー機中でスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体と溶融混練した。その溶融混練工程中、2軸押出機型脱モノマー機の下流側先端より全長に対して1/6手前の所で水2kg/時を供給した。この水およびその他の揮発分は、2軸押出機型脱モノマー機のさらに下流に設置したベント口より減圧蒸発させて除去した。その後、溶融混練物をストランド状に吐出させ、カッターにより切断してスチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0182】
また、2軸押出機型フィーダーからの供給を止め、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体を吐出し、サンプリングした。得られた、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体およびスチレン系熱可塑性樹脂組成物の特性を上述した方法で評価した。
【0183】
[実施例2]
製造例1で製造したグラフト共重合体(A−1)に代えて製造例2で製造したグラフト共重合体(A−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0184】
[実施例3]
製造例1で製造したグラフト共重合体(A−1)に代えて製造例3で製造したグラフト共重合体(A−3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0185】
参考例1
製造例1で製造したグラフト共重合体(A−1)に代えて製造例4で製造したグラフト共重合体(A−4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0186】
[実施例5]
2軸押出機型フィーダーにより、製造例9で製造したアクリル酸エステル系単量体の単独重合体を0.6kg/時で供給した以外は実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
【0187】
[実施例6]
2軸押出機型フィーダーにより、製造例9で製造したアクリル酸エステル系単量体の単独重合体を1.8kg/時で供給した以外は実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
【0188】
[実施例7]
単量体蒸気の蒸発乾留用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2mの完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機と、2軸押出機型脱モノマー機と、脱モノマー機の下流(出口)側先端から1/3長手前のバレル部にサイドフィードするように接続された2軸押出機型フィーダーとからなる連続式塊状重合装置を用いて、以下の方法によりビニル系共重合体(B−2)およびスチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造を実施した。
【0189】
まず、スチレン75.0質量部、アクリロニトリル25.0質量部、n−オクチルメルカプタン0.26質量部および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.015質量部からなる単量体混合物を、150kg/時で完全混合型重合槽に連続的に供給し、重合温度を130℃、槽内圧を0.08MPaに保ちながら連続塊状重合させた。完全混合型重合槽出口における重合反応混合物の重合率は65±3%に制御した。
【0190】
次に、重合反応混合物を単軸押出機型予熱機により予熱した後、2軸押出機型脱モノマー機に供給し、未反応単量体を2軸押出機型脱モノマー機のベント口から減圧蒸発回収した。回収した未反応単量体は、連続的に完全混合型重合槽へ還流させた。2軸押出機型脱モノマー機の下流側先端より全長に対して1/3手前の所で見かけの重合率が99%以上となったスチレン/アクリロニトリル共重合体150kg/時に、2軸押出機型フィーダーにより、フェノール系安定剤であるt−ブチルヒドロキシトルエン0.225kg/時、リン系安定剤であるトリ(ノニルフェニル)ホスファイト0.225kg/時、製造例1で製造したグラフト共重合体(A−6)の半溶融状態物69kg/時を供給し、2軸押出機型脱モノマー機中でスチレン/アクリロニトリル共重合体と溶融混練した。その溶融混練工程中、2軸押出機型脱モノマー機の下流側先端より全長に対して1/6手前の所で水2kg/時を供給した。この水およびその他の揮発分は、2軸押出機型脱モノマー機のさらに下流に設置したベント口より減圧蒸発させて除去した。その後、溶融混練物をストランド状に吐出させ、カッターにより切断してスチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
[実施例8]
製造例1で製造したグラフト共重合体(A−1)に代えて製造例8で製造したグラフト共重合体(A−8)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0191】
[比較例1]
製造例1で製造したグラフト共重合体(A−1)に代えて製造例5で製造したグラフト共重合体(A−5)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0192】
[比較例2]
ビニル系共重合体(B−1)に代えて、単量体混合物の組成をスチレン26.3質量%、アクリロニトリル4.0質量%、メタクリル酸メチル59.7質量%、アクリル酸n−ブチル10.0質量%としたこと以外は実施例1記載のビニル系共重合体の製造方法と同様の方法により得たビニル系共重合体(B−3)を用いて、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0193】
[比較例3]
製造例6で製造したグラフト共重合体(A−6)に代えて製造例7で製造したグラフト共重合体(A−7)を用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、スチレン系熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0194】
得られたスチレン系熱可塑性樹脂組成物の組成を表2に、評価結果を表3に示す。
【0195】
【表1】
【0196】
【表2】
【0197】
実施例1〜3、5〜8の評価結果に示されるとおり、本発明のスチレン系熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性に優れ、良好な流動性を兼ね備えた成形品とできることがわかる。
【0198】
一方、比較例1、3はアクリル酸エステル系単量体を単量体として用いていないグラフト共重合体が用いられていることから、流動性に劣るものであった。また、比較例2はアクリル酸エステル系単量体を単量体として用いたビニル系共重合体が用いられていることから、耐衝撃性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本実施形態のスチレン系熱可塑性樹脂組成物および成形品は、家電製品、通信関連機器、一般雑貨および医療関連機器などの用途に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0200】
1…反応槽、2…予熱機、3…二軸押出機型脱モノマー機、4…溶融混練域、5…二軸押出機型フィーダー、6…吐出口、7…撹拌機(ヘリカルリボン翼)、8…ベント口、9…水注入口、10…最終ベント口
図1