(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
機械システムを駆動する電動機の回転角に対応したパルス信号を出力する角度検出器を有し、前記電動機の速度指令値に従って前記電動機のトルク指令値を生成して前記電動機の速度制御を行う電動機の制御装置において、
前記トルク指令値と前記電動機に作用する負荷トルクの推定値との合計値で定義された前記電動機に関するトルク情報から前記電動機の運動方程式に基づいて算出された前記電動機の回転加速度を用いて、前記電動機の回転速度および前記回転角をそれぞれ速度推定値および角度推定値として算出する推定部と、
前記推定部が算出した前記速度推定値を用いて前記速度指令値に従うように前記トルク指令値を出力する速度制御器と、
を備え、
前記推定部は、
前記パルス信号のパルス変化後の、設定された期間では、
前記回転加速度と前記パルス信号が換算されて得られた前記回転角とを用いて、オブザーバに基づいて前記速度推定値および前記角度推定値を算出し、
前記設定された期間以外では、
前記回転加速度を用いて、前記オブザーバではなくて前記電動機の前記運動方程式に基づいて前記速度推定値および前記角度推定値を算出する、
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明に係る電動機の制御装置において電動機が駆動する対象である機械システムとしてエレベータ機械システムに適用した場合の、本発明に係るエレベータの制御装置について、各実施の形態にしたがって添付の図面を参照しながら説明する。なお、各実施の形態および各図において、同一または相当する部分には原則、同一の符号を付けて、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本発明は、以下の実施の形態1ないし5のいずれかに限定されることなく、本発明における技術思想を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0011】
実施の形態1.
(1−1)エレベータの制御装置1の構成
図1は本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置が電気的に接続されたエレベータシステムの構成の一例を示す図である。
図1において、1はエレベータの制御装置であり、図中には、スペースの都合上、制御装置と記載しておく。また
図1において、エレベータのかご5とカウンターウェイト6は、互いに主ロープ7で連結されており、軸の周りに回転可能な綱車4に対しつるべ式に吊られている。綱車4は巻上機の一部であって主ロープ7が巻き掛けられ、かご5の駆動用電動機である電動機2に接続されている。電動機2も巻上機の一部である。すなわち、巻上機は、電動機2と綱車4を有する。かご5は電動機2の回転力により昇降する。かご5を昇降させる電動機2は、例えば永久磁石型同期モータである。
【0012】
ここでは、電動機2の回転軸と綱車4の回転軸は同一の軸として、この軸に電動機2の回転角を検出する角度検出器3が取り付けられているものとする。角度検出器3は電動機2の回転角に比例したパルス信号を発生するものであって、例えば、光学式のエンコーダとする。
図1において、エレベータの制御装置1が電気的に接続されたエレベータシステムは、符号2から7の機器を有する。さらに、エレベータシステムのうち、電動機2が駆動する対象である機械システムとしてのエレベータ機械システムとは、符号3から7の機器を指しているものである。なお、角度検出器3が、エンコーダに限らず、例えば、レゾルバや磁気センサのような場合であっても、すなわち、検出信号を処理回路や処理S/Wを通すことでパルス相当の信号を出力するような構成であってもよい。ここで重要なことは、角度検出器3の分解能が比較的に低いものである点である。
【0013】
図2は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置1の構成を説明するための図である。
図2において、破線で囲まれた装置を示す符号1は、エレベータの制御装置である。符号2、3の機器は、エレベータの制御装置1が電気的に接続されたエレベータシステムの一部を示すもので、それぞれ電動機、角度検出器である。なお、エレベータシステムを構成する、その他の機器は図示しない。速度指令発生器11は、電動機2に対する速度指令値を演算して出力する。エレベータの場合には、速度指令発生器11は、例えば、かご5が目的階まで走行するために必要な電動機2の速度指令値を出力する。なお、図示していないが、速度指令発生器11は、位置制御系を含んでいてもよいものとする。
【0014】
速度制御器12は、速度指令発生器11からの出力である速度指令値と、速度推定部16で演算された電動機2の速度推定値とに基づいてトルク指令値または電流指令値を演算して出力する。速度制御器12を実現する制御手法は、PI制御、PD制御、PID制御などの、広く知られている制御手法、さらにはもっと高次の伝達関数で示される周波数特性を有した制御手法であってもよい。また、非線形特性を有した制御手法であってもよい。すなわち、適正な特性を有する制御手法であればどのような制御手法であってもよい。
【0015】
例えば、速度制御器12がPI制御手段で実現された構成であった場合、具体的には、速度指令値に対し速度推定値が追従制御または定値制御されるように、すなわち、速度指令値に対し速度推定値が追従または一致するように、速度指令値から速度推定値を減算した値である制御偏差を、PI制御器を用いてフィードバック制御することによりトルク指令値または電流指令値を演算して出力することになる。
【0016】
電流制御器13は、速度制御器12の出力であるトルク指令値(電流指令値)と電流検出器15により検出された電動機電流とに基づいて電動機2に印加する電圧指令値を演算する。電流制御器13を実現する制御手法も、速度制御器12と同様に、PI制御、PD制御、PID制御などの、広く知られている制御手法、さらにはもっと高次の伝達関数で示される周波数特性を有した制御手法であってもよい。
また、非線形特性を有した制御手法であってもよい。すなわち、適正な特性を有する制御手法であればどのような制御手法であってもよい。
【0017】
電力変換器14は、電流制御器13からの電圧指令値に基づいて、電源電圧(図示せず)を、好ましい可変電圧可変周波数に変換する。電力変換器14は、一般的に販売されているインバータ装置のように、コンバータによって交流電圧を直流電圧に変換した後に、インバータによって直流電圧を交流電圧に変換する電力変換器や、マトリクスコンバータのように、交流電圧を直接交流の可変電圧可変電流に変換する電力変換装置を含む可変電圧可変周波数電力変換器を指す。また、電力変換器14は、上述のインバータに加えて、座標変換の機能を含んでいてもよい。すなわち、電圧指令がd−q軸の電圧指令値である場合には、d−q軸の電圧指令値を相電圧または線間電圧に変換して、指令された電圧指令値に従った電圧に変換する座標変換機能も含めて、ここでは電力変換器14と呼ぶものとする。なお、電力変換器14には、電力変換器14のデッドタイムを補正する装置または補正部が設けられていてもよい。
【0018】
電流検出器15は、電動機2の電流を検出する。例えば、電動機2が三相電動機である場合には、二相の相電流を測定することが一般的であるが、もちろんながら、三相の相電流を測定してもよい。なお、
図2では、電流検出器15が電力変換器14の出力電流を測定する構成を示しているが、この他、電流検出器15は、ワンシャント抵抗による電流測定法のように、電力変換器14の母線電流を測定して、各相電流を推定してもよい。
【0019】
速度推定部16は、速度制御器12の出力であるトルク指令値と角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角とに基づいて電動機2の速度である回転速度を速度推定値として推定する。速度推定部16は、この推定した速度推定値を速度制御器12へ出力する。
【0020】
これまで説明してきた、速度指令発生器11、速度制御器12、電流制御器13、および速度推定部16は、
図2において機能ブロックとして示したものである。これらの機能ブロックは、例えばプロセッサとメモリを含むコンピュータで構成されて、メモリに格納されたプログラムに基づくと共に、処理に必要な種々の設定情報に基づいてプロセッサの指令に従ってそれぞれの処理が実行されるものである。そのため、これらの機能ブロックは、それぞれの機能を実行するデジタル制御で構成できるものである。
【0021】
(1−2)速度推定部16における速度推定方法
次に、速度推定部16において実行する速度推定方法について説明する。上述したように、速度推定部16は、
図2に示される機能ブロックの一つであり、例えば、メモリに格納されたプログラムに基づくと共に、処理に必要な種々の設定情報に基づいてプロセッサの指令に従って実行されるものである。このため、速度推定部16において実行する速度推定方法は、デジタル制御によって実現されるものであるため、本来、離散時間系で表現させるべきものである。しかしながら、ここでは説明を分かりやすいものとする目的で、便宜上、問題にならない範囲で連続時間系で表現された数式を用いて速度推定方法を説明する。
【0022】
さて、速度推定部16における速度推定の具体的な演算は、下記の(1)式で示す、電動機2の運動方程式を基づいて実行する。
【0024】
ここで、θは電動機2の回転角である。τ
Mは電動機2のトルクである。τ
Lは電動機2に作用する負荷トルクである。また、Jは、電動機2の慣性モーメントとする。ここで、電動機2に接続され、電動機2により駆動される、綱車4を含むエレベータ機械システムは、(1)式において、電動機2に作用する負荷トルクτ
Lとして働く。
【0025】
なお、慣性モーメントJは、上で述べた電動機2の慣性モーメントではなく、例えば、電動機2と綱車4を合わせた回転体の慣性モーメントであってもよい。このときの負荷トルクτ
Lは、電動機2と綱車4を合わせた回転体に作用する負荷トルクとなる。ここで述べたことは、(1)式で示した電動機2の運動方程式に用いた運動モデルを、電動機2のみと考えるか、電動機2と綱車4を合わせた回転体を含めた範囲まで考えるかの違いを指すものである。この違いは、(1)式で示した電動機2の運動方程式における変数である、回転角θや負荷トルクτ
Lに関してそれぞれ比較すると、単に大きさが異なるだけであって、動的な挙動については相似の関係となるものである。このことは、(1)式で示した電動機2の運動方程式から明らかである。つまり、本発明に係るエレベータの制御装置を説明する上で、(1)式で示した電動機2の運動方程式に用いた運動モデルがどこまでの範囲を表現したものなのかという問題は、本質的な問題とはならないことを意味するものである。
【0026】
そこで、以降では、慣性モーメントJは電動機2の慣性モーメントを示すものとして説明を進める。つまり、(1)式で示した電動機2の運動方程式は、慣性モーメントJを電動機2のみの慣性モーメントとした運動モデルに基づいて記述したものとする。
【0027】
なお、慣性モーメントJを電動機2のみの慣性モーメントとした運動モデルを用いることは、次なるメリットがあるために有効である。エレベータ機械システムは設置される建物の物件毎に機械的な仕様が異なることがあるため、結果的に電動機2が駆動する慣性モーメントJの値は物件毎に異なってくる。したがって、慣性モーメントJの値を得るためには、電動機2が駆動するエレベータ機械システムの物件毎の負荷に関する情報が必要になる。例えば、慣性モーメントJの値として、前述のような、電動機2と綱車4の慣性モーメントの合計値を用いる場合には、やはり、慣性モーメントJの一部分を占める、綱車4の慣性モーメントの値が物件毎の機械仕様によって異なってくることになる。
【0028】
これに対し、慣性モーメントJを電動機2のみの慣性モーメントとした運動モデルを用いる場合であれば、電動機2が駆動するエレベータ機械システムの物件毎の負荷の情報を必要としないで、速度推定部16は電動機2の速度を推定することができる。したがって、慣性モーメントJを電動機2のみの慣性モーメントとした運動モデルを用いることは有効である。
【0029】
次に、負荷トルクτ
Lについて説明する。(1)式を変形すると、(2)式を得る。
【0031】
したがって、電動機2に作用する負荷トルクτ
Lは、この(2)式に基づいて演算できることが分かる。よって、負荷トルクτ
Lの演算には、電動機2の慣性モーメントJ、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角θ、および電動機トルクτ
Mの情報が必要である。
【0032】
ここで、電動機2の慣性モーメントJおよび電動機2の回転角θは、共に入手可能な情報であることから既知な情報である。次に、電動機トルクτ
Mは、速度制御器12の出力であるトルク指令値を用いることで既知な情報として扱うことができる。そこで、(2)式の右辺の項の全てが既知な情報となることから、この(2)式に基づいて負荷トルクτ
Lを演算できることになる。
【0033】
なお、(2)式の右辺は、電動機2の回転角θの2回微分を含んでいることから、(2)式に基づいて負荷トルクτ
Lを演算する場合には、この回転角θの2回微分による高周波ノイズの影響を受けて安定した演算結果が得られないという問題が発生する可能性がある。
【0034】
そこで、(2)式の右辺の項を、高周波ノイズを除去可能なフィルタG(s)に通過させた形に対応する(3)式を用いて、負荷トルクの推定値を計算することにする。ここで、(2)式と(3)式との対応関係を比較することにより、(3)式は、漸近的に、(2)式に一致するような対応関係にあることは明らかである。(2)式と(3)式との対応関係については、後ほど詳細に述べる。
【0036】
ここで、記号^が付いたパラメータは、該当するパラメータの推定値を意味する。τ
M*は、速度制御器12の出力であるトルク指令値である。G(s)は、高周波ノイズを除去可能な特性を有するもので、後で説明する
図3に示される負荷トルク演算手段1604の特性をラプラス領域において表現した、フィルタの伝達関数である。このフィルタG(s)の具体例としては、最も簡単には1次のローパスフィルタがある。もちろんながら、フィルタG(s)としては、1次のローパスフィルタでなく、より高次な伝達関数で示されるローパスフィルタを用いてもよい。
【0037】
フィルタG(s)の種類について、さらに言うならば、負荷トルクτ
Lの推定値を演算できる構成であれば、ラプラス領域上でフィルタG(s)の極が実軸上にあるような単純なローパスフィルタに限定する必要は特に無い。例えば、振動的にならない範囲で極が実軸上に存在しないようなフィルタG(s)であってもよい。
【0038】
ここで注意が必要なことは、(2)式と(3)式は、共に連続時間系における等式であるが、厳密に言えば、(2)式は、時間領域において表現された等式であり、一方の(3)式は、ラプラス領域において表現された等式である点である。
【0039】
ただし、連続時間系において、(3)式に記載された各信号の初期値による影響が収束して定常状態にあるとするならば、時間領域とラプラス領域のそれぞれにおける複数の信号に対して成立するそれぞれの領域での等式は、同形になることはよく知られている。
【0040】
したがって、本来は、それぞれ領域が異なる(2)式と(3)式ではあるが、ここで述べたようなそれぞれの領域での等式が同形になることを前提にすれば、(2)式と(3)式との対応関係を実質的に比較することが可能になる。このことから、既に述べているように、(3)式は、漸近的に、(2)式に一致するような対応関係にあることが理解できる。
【0041】
次に、電動機トルクτ
Mは、以下の(4)式に示すように、慣性モーメントがJである電動機2を速度指令発生器11が出力する速度指令値に従って加減速させるために必要なトルクである加減速トルクτ
Sから、電動機2に作用する負荷トルクτ
Lを減算したものとして考えることができる。
【0043】
ここで、前述のように、電動機トルクτ
Mは、速度制御器12の出力であるトルク指令値を用いることで既知な情報として扱うことができる。さらに、負荷トルクτ
Lは、代わりに推定値τ
L^を用いることとする。まず、(4)式を変形して以下の(5)式を得ることができる。ここで、(5)式の右辺が既知となることから、この(5)式に基づいて、電動機2の慣性モーメントJを加減速させるために必要なトルクである加減速トルクτ
Sを演算できることになる。
【0045】
(4)式を用いて、(1)式で示した電動機2の運動方程式を書き換えると、(6)式が得られる。
【0047】
そして、既に述べたように(6)式の右辺にある加減速トルクτ
Sは、(5)式に基づいて演算できる。そこで、(5)式を演算することで得られた加減速トルクτ
Sを、(6)式に基づいて電動機2の慣性モーメントJで除算する。この除算結果を、ここでは電動機の回転加速度と呼ぶ。そして、この除算結果である電動機の回転加速度を積分することによって、電動機の回転速度に関する情報を演算できることが分かる。演算できた電動機の回転速度に関する情報は、電動機の回転速度の推定結果である速度推定値として扱うことができる。
【0048】
しかしながら、ここで、(6)式で示した電動機2の運動方程式に用いた電動機2の運動モデルには、実際の電動機2に対するモデル誤差が含まれていることに注意する必要がある。ここでは、オブザーバを構成し、速度を推定するオブザーバを構成することで対応する。
【0049】
具体的には、次の(7)式のように電動機2の回転速度を推定するオブザーバを構成することで、速度推定を行う。
【0051】
ここで、ωは電動機2の回転速度を示す、K1、K2はそれぞれ第一のゲイン、第二のゲインとしてのオブザーバゲインを示す。
【0052】
(7)式で示されるオブザーバの構造は、次の2つの特徴点を有している。
第1に、(7)式は、速度推定値や角度推定値の演算において、実際の電動機2の運動特性と、(6)式で示した電動機2の運動方程式に用いた電動機2の運動モデルとの誤差(モデル化誤差)を原因として発生する、電動機2の回転角θに関する推定誤差である回転角推定誤差に、オブザーバゲインK1、K2を乗算した結果をフィードバックすることで速度推定値や角度推定値を修正する構造になっている点。(なお、ここでの回転角推定誤差とは、角度推定値と、角度検出器から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角との偏差のことである。)
第2に、(7)式は、加減速トルクτ
Sを電動機2の慣性モーメントJで除算した結果である電動機の回転加速度がオブザーバに対する入力信号として加算されて、速度推定値や角度推定値を演算する構造になっている点。
【0053】
なお、オブザーバゲインK1、K2は、(7)式から求まる、オブザーバの特性方程式である(8)式を用いて決定するものである。
【0055】
例えば、特性方程式(8)の極を、P1(重根)とすると、(9)式が成り立つ。
【0057】
このとき、オブザーバゲインK1、K2は、P1(重根)を用いて次のように求まる。
【0060】
もちろんながら、オブザーバの特性方程式である(8)式の極は重根に限る必要は無い。つまり、極は、ラプラス平面上の任意の場所に配置することも可能である。このように、(8)式におけるオブザーバの極配置の設計を行うことで、オブザーバの収束特性を任意に決めることができる。
【0061】
ただし、本発明に係るエレベータの制御装置では、速度推定値を用いて速度制御を行うため、オブザーバによる悪影響が速度制御に現れないように、速度制御の帯域よりもオブザーバの帯域を高くするようにオブザーバゲインK1、K2を選ぶ必要がある。すなわち、ラプラス平面上において、オブザーバの特性方程式である(8)式の極を、速度制御器12のカットオフ周波数よりも十分遠くに配置するように、オブザーバゲインK1、K2を選ぶ必要がある。
【0062】
電動機2の回転角θが比較的に低分解能な角度検出器3により検出される場合には、すでに背景技術において述べたように速度推定値は時間遅れ、すなわち無駄時間の影響を受けることになる。そして、この速度推定値を積分した角度推定値も、当然ながら、無駄時間の影響を受けることになる。このように、(7)式で示したオブザーバにより推定される、速度推定値や角度推定値が無駄時間の影響を受けることで、例えば、この無駄時間の影響を受けた速度推定値を用いて電動機2の回転速度をフィードバック制御すると、角度検出器の分解能が比較的に低く、かつ、電動機2の回転速度が比較的に低速のときには、速度制御において、より無駄時間の影響が大きく出てくるために不安定現象が発生する可能性が高まることになる。
【0063】
そこで、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置は、次に示す構成により、不安定現象を回避している。すなわち、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置は、オブザーバを用いた速度推定値や角度推定値の演算において、電動機2の回転角θに関する推定誤差である回転角推定誤差をフィードバックすることで速度推定値や角度推定値を修正するタイミングを、後ほど詳細説明する
図3に示すように、角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)に限定する構成を有する。より正確には、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置は、角度検出器から出力されたパルス信号のパルス変化後の、設定された期間では、オブザーバを用いて、電動機の回転加速度を、回転角推定誤差にオブザーバゲインK1を乗算した結果の第1のフィードバックにより修正した後に速度推定値を算出すると共に、この算出した速度推定値を、回転角推定誤差にオブザーバゲインK2を乗算した結果の第2のフィードバックにより修正した後に角度推定値を算出する。一方、設定された期間以外では、オブザーバを用いないで、回転加速度を用いて電動機の運動方程式である(6)式に基づいて速度推定値および角度推定値を算出する。その結果、本発明に係るエレベータの制御装置は、不安定現象の回避を実現している。
【0064】
続けて、この不安定現象とそれを回避する技術内容について説明する。(7)式に示すオブザーバでは、実際の電動機2の運動特性と、(6)式で示した電動機2の運動方程式に用いた電動機2の運動モデルとの誤差(モデル誤差)を原因として発生する、電動機2の回転角θに関する推定誤差(回転角推定誤差)を、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角を用いて演算することから、速度推定値や角度推定値の演算において、推定誤差(回転角推定誤差)をオブザーバゲインK1、K2を乗算した結果をフィードバックするにあたって、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角(回転角検出値)は、無駄時間を含む場合があることに注意が必要になる。
【0065】
角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角(回転角検出値)は、正確には、無駄時間を含む場合と含まない場合がある。本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置では、この回転角において無断時間を含まない場合を上手く利用するというものである。
【0066】
先の背景技術において述べたように、角度検出器の分解能が比較的に低く、かつ、電動機の回転速度が比較的に低速である場合に、角度検出器の出力であるパルス信号の時間間隔が長くなり、その結果、速度制御を実現する演算周期(制御周期、サンプリング時間)に対し十分な角度情報が得られなくなると共に、回転速度(速度検出値)の検出遅れが長くなるという問題がある。ここでの検出遅れとは、上述の無駄時間に相当するものであることは明らかなことである。このため、回転速度(速度検出値)や速度推定値などの速度に関する情報が無駄時間の影響を受けて、この速度に関する情報をフィードバック制御することで速度制御系を実現する、エレベータの制御装置が不安定になる可能性がある。また、ここで述べた速度に関することに限らず、回転角(回転角検出値)や角度推定値に関する情報についても、同様に、無駄時間の影響を受けることは明らかなことである。
【0067】
しかしながら、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置では、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角を、角度検出器の分解能が比較的に低く、かつ、電動機の回転速度が比較的に低速である場合であっても、速度制御系を大きく不安定にする無駄時間が含まない場合に限って利用することにより、速度制御系の不安定化を回避するというものである。
【0068】
すなわち、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角を、角度検出器3のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)に限定する時間タイミングで利用すれば、その回転角は、電動機の回転速度が比較的に低速な場合であっても、角度検出器3からパルス信号が出力された時点でのデータであることから無駄時間を含まないことから、速度制御系の不安定化を回避するというものである。
【0069】
一方、角度検出器3のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)以外の時には、回転角に関し、角度検出器3からパルス信号がリアルタイムに出力されてこないという意味で、無駄時間を含むと言える。角度検出器3のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)から時間が経過すればするほど、無駄時間の影響を受けた回転速度(速度検出値)や速度推定値によって、電動機の制御装置およびエレベータの制御装置における速度制御系の不安定度がより高まることになる。
【0070】
そこで、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置は、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角に関し、オブザーバを用いた速度推定値や角度推定値の演算において、電動機2の回転角θに関する推定誤差である回転角推定誤差をフィードバックすることで速度推定値や角度推定値を修正するタイミングを、角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)に限定する構成を有する。この構成によれば、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置は、回転速度(速度検出値)や速度推定値などの速度に関する情報が無駄時間の影響を受けることを抑制でき、この速度に関する情報をフィードバック制御することで速度制御系を実現することから、不安定現象を回避できるという効果を奏する。
【0071】
したがって、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置は、たとえ角度検出器の分解能が比較的に低く、かつ、電動機の回転速度が比較的に低速であっても、速度検出値における検出遅れの影響を抑制した速度推定を行うことができ、結果として、この速度推定値を用いて安定した速度制御を実現できる。
【0072】
なお、これまでオブザーバを用いた速度推定値や角度推定値の修正タイミングを、角度検出器から出力されたパルス信号のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)に限定した内容について説明してきた。さらに本発明では、角度検出器から出力されたパルス信号のパルス変化時の瞬間的なタイミングに限ることなく、電動機の速度制御系の不安定度が許容できる範囲で設定された時間幅を持った期間であってもよいとして拡張する。すなわち、この許容できる範囲で設定された時間幅を持った期間、オブザーバによって速度推定値や角度推定値の修正を繰り返してもよいものとする。ここでの設定された時間幅とは、正確には、角度検出器から出力されたパルス信号のパルス変化後の、設定された期間と定める。ここでは、電動機の速度制御系は、デジタル制御によって構成されることを前提にしているため、ここでの設定された時間幅は、デジタル制御の制御周期の所定回数分として設定することができる。
【0073】
(1−3)速度推定部16の構成
図3は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部16の構成図である。速度推定部16は、速度制御器12の出力であるトルク指令τ
M*と、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角とを用いて、電動機2の回転速度を速度推定値として推定する。
図3において、2種類の破線で囲まれた枠は、それぞれの演算を実行するタイミングを示すためのものある。すなわち、速度推定部16は基本的には所定の演算周期(制御周期)毎に実行され、一部の処理は上述のとおり角度検出器3のパルス変化時のみ実行される構成になっている。なお、パルス変化時のみ実行される構成は、既に述べているように、本願発明では、別の構成として、さらにパルス変化後の、設定された期間の間、処理が実行される構成であってもよい。
【0074】
以下では、速度推定部16について、その構成の詳細を説明する。なお、
図3は複数の機能ブロックの集まりであることから、説明の分かりやすさを優先させるために、一部は各機能ブロックをまとめて動作を用いて説明する。その後、あらためて速度推定部16の演算処理についてフローチャートを用いて説明する。
【0075】
さて、
図3において、角度検出器3から出力されたパルス信号は、パルス・角度変換手段1600に入力されて換算されることによって回転角(電動機2の回転角)に変換される。そして、電動機2の回転角は、角度・速度変換手段1601に入力される。角度・速度変換手段1601は電動機2の回転角から電動機2の回転速度(速度検出値)を演算する。角度・速度変換手段1601は、最も簡単には、例えば、電動機2の回転角を時間微分する微分フィルタ回路を有することで回転速度を演算する(実際には、デジタル回路にて、差分演算を用いて演算する)。さらに、ノイズを除去するために平滑化を行う(デジタルフィルタにて実現された)ローパスフィルタが追加された構成を有してもよい。この他、角度・速度変換手段1601は、予め設定された一定時間毎に電動機2の回転速度を演算する構成であってもよい。あるいは、時間を計測するための構成を含んで、予め設定された一定回転角毎に回転速度を演算する構成であってもよい。
【0076】
角度・速度変換手段1601で演算された電動機2の回転速度は、速度・加速度変換手段1602に入力される。速度・加速度変換手段1602は電動機2の回転速度から電動機2の加速度(加速度検出値)を演算する。速度・加速度変換手段1602は、最も簡単には、例えば、電動機2の回転速度を時間微分する微分フィルタ回路を有することで加速度を演算する(実際には、デジタル回路にて、差分演算を用いて演算する)。さらに、ノイズを除去するために平滑化を行う(デジタルフィルタにて実現された)ローパスフィルタが追加された構成を有してもよい。この他、速度・加速度変換手段1602は、予め設定された一定時間毎に電動機2の加速度を演算する構成であってもよい。あるいは、時間を計測するための構成を含んで、予め設定された一定回転角毎に加速度を演算する構成であってもよい。
【0077】
速度・加速度変換手段1602で演算された電動機2の加速度は、ゲイン1603で電動機2の慣性モーメントJが乗算された後に、減算器1610により速度制御器12の出力であるトルク指令値τ
M*が減算される。減算器1610の出力信号が、負荷トルク演算手段1604に入力される。負荷トルク演算手段1604は、(3)式により負荷トルクτ
L^(正確には、負荷トルクの推定値)を演算する。負荷トルク演算手段1604は、最も簡単には、例えば、1次のローパスフィルタで構成される。また、負荷トルク演算手段1604は、1次のローパスフィルタでなく、より高次な伝達関数で示されるローパスフィルタにより構成されてもよい。また、負荷トルクτ
Lを演算できる構成であれば、フィルタの種類もローパスフィルタに限定されない。
【0078】
負荷トルク演算手段1604の出力である負荷トルク推定値は、加算器1611で速度制御器12からの出力であるトルク指令値に加算される。すなわち、加算器1611によって(5)式が演算されることで、慣性モーメントJの電動機2を加減速させるために必要なトルクである加減速トルクτ
Sが出力される。
【0079】
加算器1611で演算された加減速トルクτ
Sは、ゲイン1607で電動機2の慣性モーメントJの逆数が乗算される。これにより、電動機2の加速度情報が得られる。
【0080】
ゲイン1607の出力信号、すなわち、電動機2の加速度情報は、減算器1612を介した後に第一積分器1608に入力される。第一積分器1608は、ゲイン1607からの出力信号(より正確には、ゲイン1607からの出力信号が修正された信号)を積分することで、電動機2の回転速度を推定した値である速度推定値を出力する。
【0081】
第一積分器1608の出力信号である速度推定値は、第二積分器1609に入力される。第二積分器1609は、速度推定値を積分することで、電動機2の回転角を推定した値である角度推定値を出力する。
【0082】
次に、角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)の処理について説明する。角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化時には、第二積分器1609の出力である角度推定値と角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角との偏差を減算器1614で演算する。減算器1614で演算された偏差は、第一のゲイン1605としてのK1が乗算された後に、ゲイン1607からの出力信号から減算されることで、ゲイン1607からの出力信号が修正された形で第一積分器1608に入力される。そして、第一積分器1608で速度推定値が演算される。さらにまた、減算器1614で演算された偏差は、第二ゲイン1606としてのK2が乗算された後に、減算器1613において速度推定値から減算される。そして、第二積分器1609で角度推定値が演算される。
【0083】
なお、ここでの具体的なパルス変化の検出方法としては、例えば、角度検出器3の検出する角度が最小分解能分だけ変化したことを検出してもよいし、角度検出器3のパルスの立ち上がりおよび立ち下がりを直接検出するような処理回路やS/Wにより行ってもよい。角度検出器3から出力されたパルス信号におけるパルス変化の具体的な検出手段はここで述べたものに限定されるものではなく、パルス変化が検出できる検出手段であればどのような構成でもよい。
【0084】
(1−4)速度推定部16の演算処理フロー
以下では、速度推定部16の演算処理についてフローチャートを用いて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部のオブザーバに対する入力信号である加減速トルクの演算処理を示すフローチャートである。本フローチャートに従って、加減速トルクが演算される。以下述べる内容は、
図4と併せて、
図3である、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部の構成図を参照すると、理解しやすくなる。
【0085】
まず、ステップS1801において速度推定部16は角度検出器3から出力されたパルス信号を取り込む。速度推定部16が角度検出器3から出力されたパルス信号を取り込むにあたって、パルス信号はパルス・角度変換手段1600に入力されて換算されて回転角(電動機2の回転角)に変換されて取り込むことになる。そして、ステップS1802において角度・速度変換手段1601は電動機2の回転角から電動機2の回転速度(速度検出値)を演算する。次に、ステップS1803において速度・加速度変換手段1602は電動機2の回転速度から電動機2の加速度(加速度検出値)を演算する。そして、ステップS1804において電動機2の加速度は、ゲイン1603で電動機2の慣性モーメントJが乗算された後に、ステップS1805において減算器1610により速度制御器12の出力であるトルク指令値τ
M*が減算される。次に、ステップS1806において負荷トルク演算手段1604は、(3)式により負荷トルクτ
L^(正確には、負荷トルクの推定値)を演算する。そして、ステップS1807において加算器1611で速度制御器12からの出力であるトルク指令値に加算されることで、(5)式が演算されて、慣性モーメントJの電動機2を加減速させる加減速トルクτ
Sが演算されるために必要なトルクである。
【0086】
ここで演算された加減速トルクτ
Sは速度推定部のオブザーバに入力される。そして、加減速トルクτ
Sが速度推定部のオブザーバに入力された後のオブザーバの演算処理は、角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)であるか否かによって異なってくる。より正確には、既に述べているように、角度検出器から出力されたパルス信号のパルス変化後の、設定された期間では、オブザーバを用いて、電動機の回転加速度を、回転角推定誤差にオブザーバゲインK1を乗算した結果の第1のフィードバックにより修正した後に速度推定値を算出すると共に、この算出した速度推定値を、回転角推定誤差にオブザーバゲインK2を乗算した結果の第2のフィードバックにより修正した後に角度推定値を算出する。一方、設定された期間以外では、オブザーバを用いないで、回転加速度を用いて電動機の運動方程式である(6)式に基づいて速度推定値および角度推定値を算出する。
【0087】
そこで、
図4に示したフローの続きとして、オブザーバでの推定値の修正タイミングが角度検出器のパルス変化後に制御周期が1回のみの場合、および、推定値の修正タイミングが角度検出器のパルス変化後に制御周期が所定回数分の場合について、図を用いて速度推定部のオブザーバの演算処理フローを説明する。
【0088】
具体的には、
図5は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部の加減速トルクを用いた演算処理(その1:推定値の修正タイミングが角度検出器のパルス変化後に制御周期が1回のみの場合)を示すフローチャートである。
図6は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部の加減速トルクを用いた演算処理(その2:推定値の修正タイミングが角度検出器のパルス変化後に制御周期が所定回数分の場合)を示すフローチャートである。
【0089】
まず、オブザーバでの推定値の修正タイミングが角度検出器のパルス変化後に制御周期が1回のみの場合について、
図5を用いて速度推定部のオブザーバの演算処理フローを説明する。
最初に、ステップS1901において加算器1611で演算された加減速トルクτ
Sが入力され、この加減速トルクτ
Sにゲイン1607で電動機2の慣性モーメントJの逆数が乗算されて電動機2の加速度情報が得られる。そして、ステップS1902において、角度検出器から出力されたパルス信号に変化があるか否かを判断する。
【0090】
ステップS1902の判断結果においてパルス信号が変化したときには、ステップS1903において第二積分器1609の出力である角度推定値と角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角との偏差を減算器1614で演算する。次に、ステップS1904において減算器1614で演算された偏差は、第一ゲイン1605での演算としてK1が乗算される。そして、ステップS1905においてこの乗算結果がゲイン1607からの出力信号から減算された後に、ステップS1906において第一積分器1608に入力されて速度推定値が演算される。さらにまた、ステップS1907において減算器1614で演算された偏差は、第二ゲイン1606での演算としてK2が乗算される。そして、ステップS1908においてこの乗算結果が減算器1613での演算として速度推定値から減算される。そして、ステップS1909においてこの減算結果が第二積分器1609で積分されて角度推定値が得られる。
【0091】
また、ステップS1902の判断結果においてパルス信号が変化しなかったときには、ステップS2001において第一積分器1608に入力されて速度推定値が演算される。さらに、ステップ2002において速度推定値が第二積分器1609に入力されて角度推定値が演算される。
【0092】
以上では、
図5を用いて、オブザーバでの推定値の修正タイミングが角度検出器から出力されたパルス信号のパルス変化後に制御周期が1回のみの場合について、速度推定部のオブザーバの演算処理フローを説明した。
【0093】
次に、オブザーバでの推定値の修正タイミングが角度検出器のパルス変化後に制御周期が所定回数分の場合について、
図6を用いて速度推定部16の加速度トルクを用いた演算処理フローを説明する。
図6は、
図5と比較すると、ステップS2102およびステップS2104が追加された点が異なる。そこで、この異なる点である、ステップS2102およびステップS2104を中心に速度推定部のオブザーバの演算処理フローについて、ここでは説明する。
【0094】
最初に、
図4のフローチャートに従って加算器1611で演算された加減速トルクτ
SがステップS2101において入力され、この加減速トルクτ
Sにゲイン1607で電動機2の慣性モーメントJの逆数が乗算されて電動機2の加速度情報が得られる。そして、ステップS2102において、角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化後から設定された期間(設定時間の間)は、1が設定されて維持されるようなフラグFlgを用いて、このフラグFlgが現時点で0(零)か、1かをまず判断する。
【0095】
ここでステップS2102の判断結果においてフラグFlgが0(零)の場合は、ステップS2103に進む。このステップS2103は、
図5におけるステップS1902に対応する。そして、ステップS2103において、角度検出器から出力されたパルス信号に変化があるか否かを判断する。ステップS2103の判断結果においてパルス信号が変化したときには、ステップS2104においてフラグFlgを1にまず設定し、この値を制御周期の所定回数分の間は維持した後にリセットするようなタイマーを起動する。そして、ステップS2105に進む。これ以降は、
図5と同様の演算がなされる。このステップS2105は、
図5におけるステップS1903に対応する。
【0096】
ステップS2103の判断結果においてパルス信号が変化しなかったときには、ステップS2201へ進む。これ以降は、
図5と同様の演算がなされる。このステップS2201は、
図5におけるステップS2001に対応する。
【0097】
また、ステップS2102の判断結果においてフラグFlgが0(零)でない場合は、ステップS2105に進む。これ以降は、
図5と同様の演算がなされる。
【0098】
なお、フラグFlgの設定時間を制御周期の1回分と設定した場合は、
図6で示したフローは、
図5で示したフローと実質的に等しくなる。
【0099】
以上では、
図5と比較して異なる点である、ステップS2102およびステップS2104を中心に速度推定部のオブザーバの演算処理フローについて説明した。
【0100】
ここで、
図7は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部に関連する各種信号を示すタイムチャートである。角度検出器3から出力されたパルス信号と、設定時間を制御周期の1回分および4回分と設定した場合のフラグFlgを示すタイムチャートである。
図5におけるステップS2104で説明したようにパルス信号のパルス変化時(パルスの立ち上がり時および立ち下がり時)に対応してフラグFlgを1にまず設定し、この値を制御周期の所定回数分(この例では、1回分および4回分)の間は維持した後にリセットするタイマーが正しく作動した場合を示したものである。
【0101】
上述した角度検出器3のパルス変化時の処理により、実際の電動機2の運動特性と、(6)式で示した電動機2の運動方程式に用いた電動機2の運動モデルとの誤差(モデル化誤差)を原因とする誤差が修正される。すでに述べたように、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角は、無駄時間を含む場合がある。より正確には、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた回転角は、パルス変化時では無駄時間を含まず、それ以外のタイミングでは無駄時間を含む。角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角に関し、パルスの立ち上がりおよび立ち下がりのタイミング以外のときには、角度検出器3から出力されたパルス信号のパルス変化後の、設定された期間については誤差修正ループを切ることで無駄時間の巡回を防止する。なお、これまで繰り返し述べているように、ここでのパルス変化時とは、パルス変化時の瞬間的なタイミングに限ることなく、パルス変化を検出した後に、速度制御系の不安定度が許容できる範囲で設定された時間幅を持っているものとする。このパルス変化時の具体的な実現方法として、パルス変化を検出してから、誤差修正ループによるモデル化誤差の修正を行う回数を、速度推定部16が演算される演算周期の所定回数と設定することで実現する。最も簡単には、パルス変化が検出されたタイミングの1回の演算周期(制御周期)であるが、それ以上の回数であってもよい。しかしながら、複数回の演算周期(制御周期)の間、誤差修正ループを実行すると、無駄時間の影響を受けて、不安定化する可能性があるため、演算周期(制御周期)の所定回数を設定する場合には注意が必要である。
【0102】
(1−5)エレベータの制御装置1による効果
以上のような構成で、オブザーバによるモデル化誤差の修正動作を観測情報である角度検出器3から出力されたパルス信号におけるパルス変化時の検出毎に(パルスの立ち上がりおよび立ち下がり毎に)限定して実施することで、オブザーバへの入力信号である加減速トルクτ
Sは無駄時間を含まないため、推定結果である速度推定値や角度推定値は無駄時間の影響を受けない。モデル化誤差の修正は、無駄時間を含む角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角を用いるが、無駄時間を含まない、角度検出器3で検出されるパルスの立ち上がり時および立ち下がり時での情報のみを用いて誤差修正を行い、無駄時間を含むときには誤差修正ループを切ることで無駄時間の巡回を防止できる。
【0103】
図8は、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置における速度推定部の性能を示す図である。
図8において、速度推定値と速度検出値を示している。速度推定値は、
図3に示した速度推定部16を用いて推定したものである。速度検出値は、比較的に低分解能な角度検出器3の検出した回転角を用いて演算したものである。
図8からは、以下のことが分かる。速度検出値は、電動機2の回転数が低くなるにつれて速度検出間隔が長くなっている。これに対し、速度推定部16で推定した速度推定値は低速でも滑らかである。速度推定部16は角度検出器3のパルス立ち上がり時および立ち下がり時での情報のみを用いて誤差修正を行う構成である。この構成によって速度検出値の間を補間するような速度推定値を得ることができている。したがって、
図3に示した速度推定部16を用いることによって、低速でも無駄時間の影響が少ない速度情報を得ることができていることが分かる。
【0104】
従来のエレベータの制御装置では、比較的に低分解能な角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角を用いて電動機2の回転速度を演算し、電動機2の回転速度を制御する場合には回転速度に含まれる無駄時間の影響によって、特に低速において速度制御が不安定化する可能性があった。
【0105】
これに対し、本発明の実施の形態1に係るエレベータの制御装置では、速度推定値を用いて電動機2の回転速度を制御することで、速度推定値は無駄時間の影響を少なくすることができ、低速でも安定した速度制御の実現を実現することができる。
【0106】
実施の形態2.(2−1)エレベータの制御装置1aの構成
図9は、本発明の実施の形態2に係るエレベータの制御装置1の構成を説明するための図である。前述した実施の形態1に係る、エレベータの制御装置1の構成を説明するための図を示す
図2と比較すると明らかであるが、
図9に示す構成は、
図2に示す構成に対し、速度演算部17と残距離演算部18が追加されており、さらにそれぞれの出力信号が速度制御器12aに入力されているものである。
図9において、破線で囲まれた装置を示す符号1aがエレベータの制御装置である。
【0107】
そして、ここでの本発明の実施の形態2は、後ほど示す
図10を用いて説明するように、エレベータのかご5の位置が目的階に近づいた時にのみ、すなわち、かご5の着床間際の低速領域において推定速度を用いて電動機2の回転速度を制御するようにしたものである。以下、本発明の実施の形態2に係るエレベータの制御装置1aについて、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0108】
速度演算部17は、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角を用いて、電動機2の回転速度を演算する。速度演算部17の具体的な構成としては、最も簡単には微分フィルタであって、電動機2の回転角を時間微分することで回転速度を演算するものがある。また、この微分フィルタの構成に、時間微分によって発生したノイズを除去するためのローパスフィルタを追加する構成であってもよい。さらにまた、速度演算部17は、予め設定された一定時間毎に電動機2の回転速度を演算する構成であってもよいし、時間を計測するための構成を含んで、予め設定された一定回転角毎に回転速度を演算する構成であってもよい。
【0109】
残距離演算部18は、角度検出器3から出力されたパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角を用いて、かご5の目的階までの残距離を演算するものである。残距離演算部18は、具体的には、電動機2の回転角に対し、綱車4の半径を乗じることによって移動距離をまず演算する。そして、かご5が走行を開始した位置から目的階までの走行距離から先ほどの移動距離を減算することによって、かご5の目的階までの残距離を演算する。エレベータの制御装置1aは、かご5が走行を開始した位置から目的階までの距離情報を、エレベータの制御装置1aの上位にあるエレベータの運行管理装置などから受け取ることによって目的階までの残距離を演算する。また、かご5の昇降路内での位置を直接的に検出するセンサによってかご5の位置を検出してもよい。さらにまた、かご5の移動距離を、かご5に接続した主ロープ7の移動量に伴う、エンコーダ等の角度検出器で得られる回転角を用いて演算した後に、かご5の目的階までの残距離を演算してもよい。なお、上述した方法以外でも目的階までの残距離を演算できる構成であれば、特に、一つの演算方法や構成は限定されず、どのような方法であっても、本発明に何等影響を与えるものではない。
【0110】
速度演算部17の出力である速度検出値、残距離演算部18の出力である目的階までの残距離、および速度推定部16の出力である速度推定値が、速度制御器12aに入力される。速度制御器12は、残距離演算部18からの出力である目的階までの残距離を基づいて、電動機2の回転速度の制御に用いる速度情報を切り替える。速度制御器12aにおける速度情報の切り替えは、具体的には、次のとおりである。目的階までの残距離が基準値以上である場合には、速度演算部17の出力である速度検出値を用いて電動機2の回転速度を制御する。一方、目的階までの残距離が基準値以下である場合には、速度推定部16の出力である速度推定値を用いて電動機2の回転速度を制御する。なお、ここでの速度情報を切り替えるための、目的階までの残距離の基準値に関するデータは、速度制御器12aの中で記憶しておいてもよいし、外部から入力するようにしてもよい。
【0111】
(2−2)エレベータの制御装置1aにおける速度制御器12aの演算処理フロー
図10は、本発明の実施の形態2に係るエレベータの制御装置1aにおける速度制御器12aの演算処理を示すフローチャートである。かご5が目的階に向けて走行を開始すると、ステップS601において目的階までの残距離が基準値以下であるか否かをまず判断する。目的階までの残距離が基準値以下である場合には、ステップS602に進み、速度制御器12aは速度推定値を使用してトルク指令値(電流指令値)を演算する。また、目的階までの残距離が基準値より大きい場合には、ステップS603に進み、速度制御器12aは速度検出値を使用してトルク指令値(電流指令値)を演算する。そして、ステップS604において、かご5が目的階に到着したか否かを判断する。判断結果においてかご5が到着していないときには、ステップS601に戻って、これまで述べた処理を繰り返し行う。判断結果においてかご5が目的階に到着した場合には走行を終了する。なお、
図10に示すフローチャートに従った演算処理は、速度制御器12aの演算周期毎に実施される。
なお、他の構成および各部の動作などについては、実施の形態1と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0112】
背景技術において説明したように、エンコーダに代表される、電動機の回転角に対応したパルス信号を出力する角度検出器3では、その出力信号は、電動機2の回転速度が高速になればなるほど、より時間間隔の短いパルス信号になり、反対に電動機2の回転速度が低速になればなるほど、より時間間隔の長いパルス信号になる。先ほどの無駄時間は、このパルス信号の時間間隔に対応する。よって、電動機2の回転速度の高低によって無駄時間の長さが変化することになる。電動機の回転速度が比較的に低速で、かつ、角度検出器の分解能が比較的に低い場合には、無駄時間は非常に長くなる。そして、角度検出器の分解能の高低を問わず、電動機の回転速度が相対的に低速であれば、無駄時間は相対的に長くなる。このことから、エレベータのかご5の位置が目的階に近づいた時に、すなわち、かご5の着床間際の低速領域において、もし速度演算部17の出力である速度検出値を用いて電動機2の回転速度を制御すると、速度検出値には無駄時間が長く含まれていることにより、速度制御系が不安定になるという問題が発生することになる。そこで、ここでの速度検出値に替えて、速度推定部16の出力である速度推定値を用いて電動機2の回転速度を制御する。
【0113】
速度検出値と速度推定値との関係は、実施の形態1で既に説明した
図8のとおりである。速度検出値は、電動機2の回転数が低くなるにつれて速度検出間隔が長くなっており、無駄時間を含んでいる波形となっている。一方、速度推定値は速度推定部16で推定したもので、速度検出値の間を補間するような速度推定値を得ることができており、低速でも滑らかな波形となっている。速度推定値は、速度検出値に比べて、低速であっても、より無駄時間を抑制した速度情報になっていることが明らかである。
【0114】
したがって、エレベータのかご5の位置が目的階に近づいた時に、すなわち、かご5の着床間際の低速領域において、速度推定部16の出力である速度推定値を用いて電動機2の回転速度を制御することにより、速度検出値を用いた場合と比べて、速度制御系の安定化を実現できることになる。
【0115】
(2−3)エレベータの制御装置1aによる効果
以上において説明した本発明の実施の形態3では、かご5の目的階までの残距離が長いときには、台形状の速度指令値の時間波形における例えば最大速度で、すなわち、電動機2の回転速度が比較的に高い状態でかご5が走行することになるため、そのときの角度検出器3から出力される時間間隔が比較的に短いパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角は、パルス信号の変化に伴って短時間で更新される。このときの速度検出値に含まれる無駄時間は、実施の形態1で既に説明した
図8によれば、比較的に短くなるため、この速度検出値を用いて電動機2の回転速度を制御しても速度制御系の安定化は容易に実現できる。
【0116】
一方、かご5の目的階までの残距離が短く、かつ、減速のために電動機2の回転速度が比較的に低い状態でかご5が走行することになるため、そのときの角度検出器3から出力される時間間隔が比較的に長いパルス信号が換算されて得られた電動機2の回転角は、パルス信号の変化に伴ってゆっくりと更新される。このときの速度検出値に含まれる無駄時間は、実施の形態1で既に説明した
図8によれば、比較的に長くなるため、この速度検出値を用いて電動機2の回転速度を制御してしまうと、速度制御系が不安定になってしまう可能性がある。そこで、ここでの速度検出値に替えて、速度推定部16の出力である速度推定値を用いて電動機2の回転速度を制御する。これにより、電動機2の回転速度が比較的に低いときの制御性能を向上させ、かご5の目的階における着床動作を安定して行うことができる。
【0117】
実施の形態3.
(3−1)エレベータの制御装置1bの構成
図11は、本発明の実施の形態3に係るエレベータの制御装置1bが電気的に接続されたエレベータシステムの構成の一例を示す図である。前述した実施の形態1に係るエレベータの制御装置1に接続されたエレベータシステムの構成を示す
図1と比較すると明らかであるが、
図11で示す構成は、
図1に示す構成に対し、ドアゾーンプレート8、ドアゾーンプレート検出手段9が追加されている。ドアゾーンプレート8は、昇降路内の複数の停止階に対応する複数の位置に設置されており、安全な戸開閉が可能な範囲であるドアゾーン内にかご5が位置することを知らせるものである。ドアゾーンプレート検出手段9は、ドアゾーンプレート9を検出し、制御装置1bにその検出信号を出力するようになっている。
【0118】
そして、ここでの実施の形態3は、エレベータのかご5がドアゾーン内にあるときのみ、すなわち、かご5の着床間際におけるかご走行速度が低速領域において推定速度により電動機2の回転速度を制御するようにしたものである。
【0119】
図12は、本発明の実施の形態3に係るエレベータの制御装置1bの構成図である。前述した実施の形態1に係るエレベータの制御装置の構成図である
図2と比較すると明らかであるが、
図2に示す構成に対し、速度演算部17が追加されており、速度制御装置12bに速度演算部17の出力である速度検出値とドアゾーンプレート検出手段9の検出信号が入力されている。
【0120】
以下、本発明の実施の形態3に係るエレベータの制御装置1bについて、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0121】
速度演算部17は、角度検出器3の検出する電動機2の回転角から電動機2の回転速度を演算する。速度演算部17は、最も簡単には、電動機2の回転角の時間微分によって回転速度を演算する。また、時間微分によるノイズを除去するためにローパスフィルタにより平滑化する構成でもよい。さらにまた、微分フィルタにより回転速度を演算する。そして、ノイズを除去するためにローパスフィルタにより平滑化する構成でもよい。さらにまた、速度演算部17は、予め設定された一定時間毎に電動機2の回転速度を演算してもよいし、時間を計測するための構成を含んで、予め設定された一定回転角毎に回転速度を演算してもよい。速度演算部17が演算する電動機2の回転速度は、角度検出器3の検出する回転角を基に演算されているため、無駄時間を含む。
【0122】
速度演算部17が演算した速度検出値、ドアゾーンプレート検出手段9の検出信号、および速度推定部16で演算した速度推定値は、速度制御器12に入力される。速度制御器12b
はドアゾーンプレート検出手段9の検出信号を基に、電動機2の回転速度の制御に使う速度情報を切り替える。ドアゾーンプレート検出手段9がドアゾーンプレート8を検出していない場合には、速度演算部17が演算した速度検出値により電動機2の回転速度を制御する。一方、ドアゾーンプレート検出手段9がドアゾーンプレート8を検出している場合には、速度推定部16が推定した速度推定値により電動機2の回転速度を制御する。なお、ドアゾーンプレート8は昇降路内の複数の停止階に対応する複数の位置に設置されているため、走行中には目的階ではないドアゾーンプレート8をドアゾーンプレート検出手段9が検出することもある。このとき、速度制御器12bは速度演算部17の速度検出値による電動機2の回転速度制御を継続するが、目的階ではないドアゾーンプレート8を検出したことは、例えば、電動機2の回転速度により判断すればよい。すなわち、電動機2の回転速度、つまり、速度演算部17の速度検出値が基準値以上であり、このときにドアゾーンプレート検出手段9がドアゾーンプレート8を検出したときには、目的階ではないと判断する。これにより、速度制御器12がトルク指令値を演算する時に使う電動機2の回転速度情報がドアゾーン毎に切り替わることを防止する。
【0123】
(3−2)エレベータの制御装置1bにおける速度制御器12bの演算処理フロー
図13は本発明の実施の形態3に係るエレベータの制御装置1bにおける速度制御器12bの演算処理を示すフローチャートである。かご5が目的階に向けて走行を開始すると、目的階のドアゾーンプレートを検出したか否かを判断する(ステップS901)。目的階のドアゾーンプレートを検出している場合には、速度制御器12bは速度推定値を使用し(ステップS902)、トルク指令値(電流指令値)を演算する。また、目的階のドアゾーンプレートを検出していない場合には、速度検出値を使用し(ステップS903)、トルク指令値(電流指令値)を演算する。そして、目的階に到着したか否かを判断し(ステップS904)、到着していないときにはステップS901に戻り同じ処理を繰り返し行う。目的階に到着した場合には走行を終了する。なお、
図13のフローチャートによる速度選択処理は、速度制御器12bの演算周期毎に実施される。
【0124】
ここでは、本発明の実施の形態3に係るエレベータの制御装置1bについて、実施の形態1との相違点を中心に説明したが、他の構成および各部の動作などについては、実施の形態1と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0125】
(3−3)エレベータの制御装置1bによる効果
以上において説明した本発明の実施の形態3では、電動機2の回転速度が速く角度検出器3の検出する回転角が短時間で更新されるとき、すなわち、目的階までの残距離が長く目的階のドアゾーンプレート8を検出していないとき、には速度検出値の無駄時間も少ないため速度検出値により電動機2の回転速度を制御する。一方、電動機2の回転速度が遅いとき、すなわち、目的階までの残距離が短く減速しておりドアゾーンプレート8を検出したとき、には角度検出器3の検出する回転角の更新時間が長くなり速度検出値は無駄時間の影響を強く受け、速度制御器12bの不安定化が助長するため、速度推定値により電動機2の回転速度を制御する。これにより、電動機2の回転速度が低いときの制御性能を向上し、かご5の着床を安定して行うことができる。
【0126】
実施の形態4.
(4−1)エレベータの制御装置1cの構成
図14は本発明の実施の形態4に係るエレベータの制御装置1cの構成を説明するための図である。前述した実施の形態1に係るエレベータの制御装置の構成を説明するための図である
図2と比較すると明らかであるが、
図14で示す構成は、
図2に示す構成に対し、速度演算部17が追加されており出力信号が速度制御器12cに入力されている。さらに、速度制御器12cは、速度推定値が異常な場合に、速度推定値の代わりに、速度検出値を用いてトルク指令値を演算するものである。
図14において、破線で囲まれた装置を示す符号1cが、エレベータの制御装置である。
【0127】
そして、ここでの本発明の実施の形態4では角度検出器3の検出する回転角から求めた電動機2の回転速度により速度推定部16の速度推定値を監視するようにしたものである。
【0128】
以下、本発明の実施の形態4に係るエレベータの制御装置1cについて、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0129】
速度演算部17は角度検出器3の検出する電動機2の回転角から電動機2の回転速度を演算する。速度演算部17は、最も簡単には、電動機2の回転角の時間微分によって回転速度を演算する。また、時間微分によるノイズを除去するためにローパスフィルタにより平滑化する構成でもよい。さらにまた、微分フィルタにより回転速度を演算する。そして、ノイズを除去するためにローパスフィルタにより平滑化する構成でもよい。さらにまた、速度演算部17は、予め設定された一定時間毎に電動機2の回転速度を演算してもよいし、時間を計測するための構成を含んで、予め設定された一定回転角毎に回転速度を演算してもよい。
【0130】
図15は速度制御器12cが実施する速度推定値の監視処理における監視速度を示している。速度演算部17で演算された速度検出値に対し、所定の速度マージンを正側と負側に設けた監視速度により、速度推定部16が推定する速度推定値を監視する。速度制御器12cは、速度推定値が監視速度を超えたときには、速度推定部16の推定する速度推定値ではなく速度演算部17の演算する速度検出値によりトルク指令値(電流指令値)を演算する。速度推定値が監視速度以内の場合には、速度推定値によりトルク指令値(電流指令値)を演算する。
【0131】
(4−2)エレベータの制御装置1cにおける速度制御器12cの演算処理フロー
図16は実施の形態4に係るエレベータの制御装置1cにおける速度制御器12cの演算処理のフローチャートを示す図である。かご5が目的階に向けて走行を開始すると、速度推定部16が推定する速度推定値が監視速度以内か否かを判定する(S1201)。速度推定値が監視速度以内の場合には、速度異常フラグをLOWに設定し(ステップ1202)、速度制御器12cは速度推定値を使用し(ステップS1204)、トルク指令値(電流指令値)を演算する。また、速度推定値が監視速度を超えている場合には、速度異常フラグをHIGHに設定し(ステップ1203)、速度制御器12cは速度検出値を使用し(ステップS1205)、トルク指令値(電流指令値)を演算する。そして、目的階に到着したか否かを判定し(ステップS1206)、到着していないときには速度異常フラグがLOWか否かを判定する(ステップS1207)。速度異常フラグがLOWの場合には、ステップS1201に戻り同じ処理を繰り返し行う。速度異常フラグがHIGHの場合には、ステップS1205の処理、すなわち、速度検出値を使用してトルク指令を演算し続ける。目的階に到着した場合には走行を終了する。なお、
図16のフローチャートによる速度監視処理は、速度制御器12cの演算周期毎に実施される。
図16のフローチャートのように、速度推定値が監視速度を超えたときには、速度検出値を使用してトルク指令を演算し続けることで、速度制御の安全性を確保する。検出速度は無駄時間の影響を含むため、着床付近の低速領域の制御性能は速度推定値による制御に比べ劣るが、異常な速度推定値により速度制御を実施するよりも安全にエレベータを走行させることができる。
【0132】
図16のフローチャートでは、速度推定値が1回監視速度を超えたときに、速度制御器12cは速度検出値を用いてトルク指令値(電流指令値)を演算する構成としたが、速度推定値が監視速度を連続して複数回の演算周期で超えた場合に、速度検出値を用いてトルク指令値(電流指令値)を演算するようにしてもよい。
【0133】
ここでは、本発明の実施の形態4に係るエレベータの制御装置1cについて、実施の形態1との相違点を中心に説明したが、他の構成および各部の動作などについては、実施の形態1と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0134】
なお、ここで説明した構成の他に、例えば、実施の形態2や3のように、目的階までの残距離、ドアゾーンプレート信号により速度を切り替えるような構成であっても、本実施の形態4は何等問題なく実施することができる。
【0135】
(4−3)エレベータの制御装置1cによる効果
以上、本発明の実施の形態4では、速度推定部16が推定する速度推定値が検出速度を基に設定された監視速度を超えた場合には、速度検出値によりトルク指令を演算するようにし、速度推定値の推定誤差が大きい場合には異常状態と判定することで安全に速度制御を実施できる。
【0136】
実施の形態5.
(5−1)エレベータの制御装置1dの構成
図17は、本発明の実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dが電気的に接続されたエレベータシステムの構成の一例を示す図である。前述した実施の形態1に係るエレベータの制御装置1に接続されたエレベータシステムの構成を示す
図1と比較すると明らかであるが、
図17で示す構成は、
図1に示す構成に対し、秤装置10が追加されている。秤装置10はかご5の内部の荷重を測定し、制御装置1にその検出信号を出力するものである。
図17において、破線で囲まれた装置を示す符号1dが、エレベータの制御装置である。
【0137】
そして、ここでの実施の形態5ではかご5の荷重を測定する秤装置の検出信号により速度演算部16で計算される負荷トルク推定値を監視するようにしたものである。
【0138】
また、
図18は実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dの構成を説明するための図である。前述した実施の形態1に係るエレベータの制御装置に接続されたエレベータシステムの構成を示す
図1と比較すると明らかであるが、
図18で示す構成は、
図2に示す構成に対し、速度演算部17が追加されている。さらに、速度推定部16dは、秤装置10の検出信号が入力され、その結果として、速度推定値と負荷トルク監視フラグとを速度制御器12dに出力している。
【0139】
以下、本発明の実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dについて、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0140】
速度演算部17は角度検出器3の検出する電動機2の回転角から電動機2の回転速度を演算する。速度演算部17は、最も簡単には、電動機2の回転角の時間微分によって回転速度を演算する。また、時間微分によるノイズを除去するためにローパスフィルタにより平滑化する構成でもよい。さらにまた、微分フィルタにより回転速度を演算する。そして、ノイズを除去するためにローパスフィルタにより平滑化する構成でもよい。さらにまた、速度演算部17は、予め設定された一定時間毎に電動機2の回転速度を演算してもよいし、時間を計測するための構成を含んで、予め設定された一定回転角毎に回転速度を演算してもよい。
【0141】
図19は実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dにおける速度推定部16dが実施する負荷トルク推定値の監視処理における監視トルクを示す図である。エレベータでは、かご5の質量はカウンターウェイト6の質量に比べて軽い。かご5は定格積載量が決められており、一般的には、定格積載量の半分の荷重がかご5にかかるときに、カウンターウェイト6とかご5が釣り合うような設計となっている。したがって、電動機2にはかご5とカウンターウェイト6の質量差によるアンバランストルクが負荷トルクとして作用する。かご5が走行を開始する前には、電動機2にはかご5とカウンターウェイト6の質量差によるアンバランストルクのみが負荷トルクとして作用するが、かご5が走行を開始すると、エレベータ全体の慣性と加速度の積で表わされる加速度分の負荷トルクが作用する。なお、ここでのエレベータ全体の慣性とは、かご5内の乗客の体重から換算される慣性も含むものである。したがって、走行中に電動機2に作用する負荷トルクは、アンバランストルクと加速度分の負荷トルクの和となる。秤装置10により検出できるのはかご5の荷重であるから、秤装置10の検出値からはかご5とカウンターウェイト6のアンバランストルクを演算することができる。そのアンバランストルクに対して、所定のトルクマージンを正側と負側に設けた監視トルクにより、速度推定部16dが推定する負荷トルク推定値を監視する。速度推定部16dは、負荷トルク推定値が監視トルクを超えたときには、速度制御器12dに対し負荷トルク異常フラグをHIGHにして出力する。負荷トルク推定値が監視トルクを超えていないときには負荷トルク異常フラグはLOWである。そして、速度制御器12dは、負荷トルク異常フラグがHIGHのときには、速度推定部16dの推定する速度推定値ではなく速度演算部17の演算する速度検出値によりトルク指令値(電流指令値)を演算する。負荷トルク異常フラグがLOWの場合には、速度推定値によりトルク指令値(電流指令値)を演算する。
【0142】
(5−2)エレベータの制御装置1dにおける速度推定部16dの演算処理フロー
図20は実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dにおける速度推定部16dの演算処理を示すフローチャートである。かご5が目的階に向けて走行を開始すると、速度推定部16dが推定する負荷トルク推定値が監視トルク以内か否かを判定する(S1601)。負荷トルク推定値が監視トルク以内の場合には、負荷トルク監視フラグをLOWに設定し(ステップ1602)、速度制御器12dに出力する。また、負荷トルク推定値が監視トルクを超えている場合には、負荷トルク監視フラグをHIGHに設定し(ステップ1603)、速度制御器12dに出力する。そして、目的階に到着したか否かを判定し(ステップS1604)、到着していないときには負荷トルク監視フラグがLOWか否かを判定する(ステップS1605)。負荷トルク監視フラグがLOWの場合には、ステップS1601に戻り同じ処理を繰り返し行う。負荷トルク監視フラグがHIGHの場合には、ステップS1603の処理、すなわち、負荷トルク監視フラグをHIGHにし続ける。目的階に到着した場合には走行を終了する。なお、
図20のフローチャートによる速度監視処理は、速度推定部16dの演算周期毎に実施される。
【0143】
(5−3)エレベータの制御装置1dにおける速度制御器12dの演算処理フロー
図21は実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dにおける速度制御器12dの演算処理を示すフローチャートである。かご5が目的階に向けて走行を開始すると、負荷トルク監視フラグがLOWか否かを判定する(ステップS1701)。負荷トルク監視フラグがLOWの場合には、速度制御器12dは速度推定値を使用し(ステップS1702)、トルク指令値(電流指令値)を演算する。また、負荷トルク監視フラグがLOWでない、すなわち、負荷トルク監視フラグがHIGH場合には、速度検出値を使用し(ステップS1703)、トルク指令値(電流指令値)を演算する。そして、目的階に到着したか否かを判断し(ステップS1704)、到着していないときにはステップS1701に戻り同じ処理を繰り返し行う。目的階に到着した場合には走行を終了する。なお、
図21のフローチャートによる速度選択処理は、速度制御器12dの演算周期毎に実施される。
【0144】
なお、他の構成および各部の動作などについては、実施の形態1と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0145】
(5−4)エレベータの制御装置1dによる効果
以上において説明した本発明の実施の形態5では、
図20、
図21のフローチャートのように、負荷トルク推定値が監視トルクを超えたときには速度推定値も異常な値となっているため、この速度推定値の代わりに速度検出値を用いてトルク指令を演算することで、速度制御の安全性を確保することができる。速度検出値は無駄時間の影響を含むため、着床付近の低速領域の制御性能は速度推定値による制御に比べて劣るものの、異常な速度推定値を用いて速度制御を実施するよりも安全にエレベータを走行させることができる。
【0146】
図20のフローチャートでは、負荷トルク推定値が1回監視トルクを超えたときに、速度制御器12dは速度検出値を用いてトルク指令値(電流指令値)を演算する構成としたが、負荷トルク推定値が監視トルクを連続して複数回の演算周期で超えた場合に、速度検出値を用いてトルク指令値(電流指令値)を演算するようにしてもよい。
【0147】
ここでは、本発明の実施の形態5に係るエレベータの制御装置1dについて、実施の形態1との相違点を中心に説明したが、他の構成および各部の動作などについては、実施の形態1と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0148】
なお、ここで説明した構成の他に、例えば、目的階までの残距離、ドアゾーンプレート信号により速度を切り替えるような構成であっても、本実施の形態は何等問題なく実施することができる。
【0149】
なお、秤装置10は
図16に示したようなかご5に直接取り付けられているものではなく、主ロープ7に作用する荷重を測定するような方式でもよい。本発明を実施するための秤装置10の構成は限定されない。
【0150】
本明細書では、本発明において記載された具体的な例に対してのみ詳細に説明したが、その他の例として、例えば本発明の技術範囲でブロック図の変形や修正が可能であることは当事者にとって明白であり、このような変形や修正が本発明に含まれることは言うまでもない。
【0151】
なお、エレベータの全体の機器のレイアウト及びローピング方式等は、
図1、
図11および
図17の例に限定されるものではない。例えば、本発明は、2:1ローピングのエレベータにも適用できる。また、例えば電動機1からなる巻上機の位置も
図1の例に限定されない。また、本発明は、例えば機械室レスエレベータ、ダブルデッキエレベータ、ワンシャフトマルチカー方式のエレベータ、又は斜行エレベータなど、種々のタイプのエレベータに適用できる。