(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984740
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】吸光度検出器、液体クロマトグラフ及び異常判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20211213BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20211213BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
G01N30/74 E
G01N30/86 L
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-513959(P2020-513959)
(86)(22)【出願日】2018年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2018046716
(87)【国際公開番号】WO2019202776
(87)【国際公開日】20191024
【審査請求日】2020年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2018-78088(P2018-78088)
(32)【優先日】2018年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】米倉 拓弥
【審査官】
赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−061199(JP,A)
【文献】
特開2001−201399(JP,A)
【文献】
特開2001−343324(JP,A)
【文献】
特開2012−112975(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/051468(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/049799(WO,A1)
【文献】
米国特許第4990250(US,A)
【文献】
特開2014−186000(JP,A)
【文献】
特開2006−023214(JP,A)
【文献】
特開2017−129460(JP,A)
【文献】
特開2007−240181(JP,A)
【文献】
特開2008−164487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−G01N 21/74
G01N 30/00−G01N 30/96
B01J 20/281−B01J 20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む試料溶液を流通させるための試料セルと、
前記試料セルに対して光を照射するための光源と、
前記試料を通過した光の強度を検出するための光センサと、
前記光源から発せられた光を前記試料セルへ導くとともに前記試料セルを透過した光を前記光センサへ導くための光学系と、
試料の分析ごとに、試料溶液が前記試料セルを流れていないときの前記光センサの検出信号をリファレンス信号として取得するように構成されたリファレンス信号取得部と、
試料の分析が実行されたときに、当該分析において前記光センサで得られる測定信号と当該分析のために取得された前記リファレンス信号とに基づいて前記試料セルを流れる試料の吸光度を求めるように構成された演算部と、
試料の分析において前記演算部により求められた吸光度のデータと当該分析のために取得された前記リファレンス信号のデータとを互いに対応付けて記憶するように構成された分析データ記憶部と、を備え、
同一試料の分析が複数回実行されたときに、前記分析データ記憶部に記憶されている各分析の前記吸光度と前記リファレンス信号から、分析回数の増加に伴う前記吸光度の増減傾向と前記リファレンス信号の増減傾向を求め、前記吸光度の増減傾向と前記リファレンス信号の前記増減傾向との組み合わせから前記試料セル、前記光源、又は前記光学系における異常の有無を判定するように構成された異常判定部を備えている、吸光度検出器。
【請求項2】
前記リファレンス信号の強度が正常か否かを判定するための基準値を設定するように構成された基準値設定部と、
前記リファレンス信号を前記基準値設定部により設定された前記基準値と比較し、前記リファレンス信号が前記基準値以上か否かに基づいて光量の異常を判定するように構成された光量判定部と、を備えている、請求項1に記載の吸光度検出器。
【請求項3】
前記光学系は、前記試料セルを透過した光を波長成分ごとに分光する分光器を含み、
前記光センサは、前記分光器で分光された各波長成分の光をそれぞれ検出する複数の受光素子を有するものであり、
前記分析データ記憶部は、前記光センサの各受光素子で取得される各波長成分の光のリファレンス信号のうち一部の波長成分の光のリファレンス信号のみを記憶するように構成されている、請求項1に記載の吸光度検出器。
【請求項4】
前記光学系は、前記試料セルを透過した光を波長成分ごとに分光する分光器を含み、
前記光センサは、前記分光器で分光された各波長成分の光をそれぞれ検出する複数の受光素子を有するものであり、
前記基準値設定部は、前記試料セルを流れる移動相に応じて選ばれた特定波長についての前記基準値を設定するように構成されており、
前記光量判定部は、前記光センサの各受光素子で取得された各波長成分の光のリファレンス信号のうち前記特定波長の光のリファレンス信号を前記基準値と比較することにより、光量の異常を判定するように構成されている、請求項2に記載の吸光度検出器。
【請求項5】
前記異常判定部は、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が増加傾向にある一方で、吸光度が減少傾向にある場合には、連続分析が開始される時点において試料セルに汚れがあったものと判断し、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が減少傾向にある一方で、吸光度が増加傾向にある場合には、光源の光量が安定していないと判断し、及び/又は、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が減少傾向にある一方で、吸光度に変動がない場合には、光学系にごみが付着していると判断するように構成されている、請求項1に記載の吸光度検出器。
【請求項6】
移動相の流れる分析流路中に試料を注入するための試料注入部と、
前記分析流路上における前記試料注入部よりも下流に設けられ、前記試料注入部により前記分析流路中に注入された試料を分離するための分離カラムと、
前記分析流路上における前記試料注入部よりも下流に設けられ、前記分離カラムから溶出した試料成分を検出するための、請求項1に記載の吸光度検出器と、を備えた液体クロマトグラフ。
【請求項7】
試料を含む試料溶液を流通させるための試料セルと、前記試料セルに対して光を照射するための光源と、前記試料を通過した光の強度を検出するための光センサと、前記光源から発せられた光を前記試料セルへ導くとともに前記試料セルを透過した光を前記光センサへ導くための光学系と、試料の分析ごとに、試料溶液が前記試料セルを流れていないときの前記光センサの検出信号をリファレンス信号として取得するように構成されたリファレンス信号取得部と、試料の分析が実行されたときに、当該分析において前記光センサで得られる測定信号と当該分析のために取得された前記リファレンス信号とに基づいて前記試料セルを流れる試料の吸光度を求めるように構成された演算部と、を備える液体クロマトグラフにおける異常判定方法であって、
試料の分析において前記演算部により求められた吸光度のデータと当該分析のために取得された前記リファレンス信号のデータとを互いに対応付けて記憶するステップと、
同一試料の分析が複数回実行されたときに、記憶されている各分析の前記吸光度と前記リファレンス信号から、分析回数の増加に伴う前記吸光度の増減傾向と前記リファレンス信号の増減傾向を求めるステップと、
前記吸光度の増減傾向と前記リファレンス信号の前記増減傾向との組み合わせから前記試料セル、前記光源、又は前記光学系における異常の有無を判定するステップとを含む、異常判定方法。
【請求項8】
前記異常の有無を判定するステップは、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が増加傾向にある一方で、吸光度が減少傾向にある場合には、連続分析が開始される時点において試料セルに汚れがあったものと判断し、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が減少傾向にある一方で、吸光度が増加傾向にある場合には、光源の光量が安定していないと判断し、及び/又は、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が減少傾向にある一方で、吸光度に変動がない場合には、光学系にごみが付着していると判断することを含む、請求項7に記載の異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料セルを流れる流体の吸光度変化に基づいて流体中の試料成分を検出する吸光度検出器、及びその吸光度検出器を備える液体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー分析用の検出器として吸光度検出器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に開示されている吸光度検出器は、複数の受光素子を有するフォトダイオードアレイからなる光センサを用いて複数波長の吸光度を同時に測定するマルチチャネル型分光光度計と呼ばれるものである。このような吸光度検出器は、液体クロマトグラフの分離カラムからの溶出液が内部で流通する試料セルに対して光源からの光を照射し、試料セルを透過した光を分光器で波長成分ごとに分光し、分光された各波長成分の光を光センサの各受光素子によって検出するようになっており、試料セルを流れる溶出液の吸光度スペクトルを取得することができる。
【0003】
吸光度検出器では、上記のようなマルチチャネル型のものに限らず、試料セルを移動相のみが流れているときの光センサの信号がリファレンス信号として取得され、分析中に光センサから測定信号とリファレンス信号を用いて吸光度が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/129033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸光度検出器では、使用中にノイズの増大やベースラインの不安定化が発生し、分析の再現性が低下することがある。ノイズの増大やベースラインの不安定化の典型的な原因として、光源の光量の不安定化、光学系の汚れ、試料セルの汚れが考えられる。しかし、そのような分析結果の異常が発生した場合に、分析で得られた吸光度データを参照してもその異常の原因を切り分けることは困難であり、異常の原因を解明するために分析後の装置に対して様々な調査を行なう必要があった。そのため、分析結果の異常の原因を解明するのに長時間を要していた。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、吸光度データにおけるノイズの増大やベースラインの不安定化といった分析結果の異常の原因解明を容易にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る吸光度検出器は、試料を含む試料溶液を流通させるための試料セルと、前記試料セルに対して光を照射するための光源と、前記試料を通過した光の強度を検出するための光センサと、前記光源から発せられた光を前記試料セルへ導くとともに前記試料セルを透過した光を前記光センサへ導くための光学系と、試料の分析ごとに、試料溶液が前記試料セルを流れていないときの前記光センサの検出信号をリファレンス信号として取得するように構成されたリファレンス信号取得部と、試料の分析が実行されたときに、当該分析において前記光センサで得られる測定信号と当該分析のために取得された前記リファレンス信号とに基づいて前記試料セルを流れる試料の吸光度を求めるように構成された演算部と、試料の分析において前記演算部により求められた吸光度のデータと当該分析のために取得された前記リファレンス信号のデータとを互いに対応付けて記憶するように構成された分析データ記憶部と、を備えている。
【0008】
従来の吸光度検出器では、吸光度の算出のために取得されたリファレンス信号データは、吸光度の計算がなされるまでは一時的に記憶されているものの、吸光度の計算がなされた後は破棄されていたため、分析データが作成された後でその分析データの作成に使用されたリファレンス信号データを参照することができなかった。これに対し、本発明に係る吸光度検出器では、試料の分析において得られた吸光度データと当該分析のために取得されたリファレンス信号データが互いに対応付けられた状態で保持される。これにより、ユーザは、吸光度データにおけるノイズの増大やベースラインの不安定化といった分析結果の異常が発生したときに、吸光度データとともに当該吸光度データの作成に使用されたリファレンス信号データを参照することができ、異常の原因の解明に利用することができる。
【0009】
また、本発明の吸光度検出器は、同一試料の分析が複数回実行されたときに、前記分析データ記憶部に記憶されている各分析の前記吸光度と前記リファレンス信号から、分析回数の増加に伴う前記吸光度の増減傾向と前記リファレンス信号の増減傾向を求め、前記吸光度の増減傾向及び/又は前記リファレンス信号の前記増減傾向から前記試料セル、前記光源、又は前記光学系における異常の有無を判定するように構成された異常判定部を備えていることが好ましい。そうすれば、分析結果の異常の原因の切り分けが自動的になされ、問題への対処がさらに容易になる。
【0010】
本発明はマルチチャネル型の吸光度検出器に適用することができる。すなわち、前記光学系は、前記試料セルを透過した光を波長成分ごとに分光する分光器を含み、前記光センサは、前記分光器で分光された各波長成分の光をそれぞれ検出する複数の受光素子を有するものとすることができる。この場合、リファレンス信号として得られる全波長成分の光の強度データを保持し続けるとデータが肥大化してしまうため、前記分析データ記憶部は、前記光センサの各受光素子で取得される各波長成分の光のリファレンス信号のうち一部の波長成分の光のリファレンス信号のみを記憶するように構成されていることが好ましい。
【0011】
また、リファレンス信号の強度が正常か否かを判定するための基準値を設定しておけば、リファレンス信号を取得したときにそのリファレンス信号に基づいて光源の発光強度が正常か否かを判定することが可能である。
【0012】
そこで、本発明の吸光度検出器に、前記リファレンス信号の強度が正常か否かを判定するための基準値を設定するように構成された基準値設定部と、前記リファレンス信号を前記基準値設定部により設定された前記基準値と比較し、前記リファレンス信号が前記基準値以上か否かに基づいて光量の異常を判定するように構成された光量判定部と、を備えさせてもよい。
【0013】
上記構成をマルチチャネル型の吸光度検出器に適用する場合、前記基準値設定部は、前記試料セルを流れる移動相、すなわち分析で使用される移動相に応じて選ばれた特定波長についての前記基準値を設定するように構成されており、前記光量判定部は、前記光センサの各受光素子で取得された各波長成分の光のリファレンス信号のうち前記特定波長の光のリファレンス信号を前記基準値と比較することにより、光量の異常を判定するように構成することができる。移動相に応じて選ばれた特定波長とは、例えば移動相によって吸収されない波長として、ユーザにより選択された波長又はユーザにより選択された移動相に基づいて自動的に特定された波長である。
【0014】
本発明に係る液体クロマトグラフは、移動相の流れる分析流路中に試料を注入するための試料注入部と、前記分析流路上における前記試料注入部よりも下流に設けられ、前記試料注入部により前記分析流路中に注入された試料を分離するための分離カラムと、前記分析流路上における前記試料注入部よりも下流に設けられ、前記分離カラムから溶出した試料成分を検出するための、上述の吸光度検出器と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る吸光度検出器では、試料の分析において得られた吸光度データと当該分析のために取得されたリファレンス信号データが互いに対応付けられた状態で保持されるので、分析により得られた吸光度データに異常があったときに、ユーザが吸光度データとともに当該吸光度データの作成に使用されたリファレンス信号データを参照することができ、異常の原因の解明が容易になる。
【0016】
本発明に係る液体クロマトグラフは上記吸光度検出器を備えているので、分析で得られた吸光度データに異常があったときの原因の解明が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】液体クロマトグラフの一実施例を示す流路構成図である。
【
図2】同実施例における吸光度検出器の概略構成図である。
【
図3】同実施例の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る吸光度検出器及び液体クロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
まず、液体クロマトグラフの構成について
図1を用いて説明する。
【0020】
液体クロマトグラフは、分析流路2、送液ポンプ4、試料注入部6、分離カラム8及び吸光度検出器10を備えている。送液ポンプ4は分析流路2中において移動相を送液するためのものである。試料注入部6は分析流路2中に試料を注入するためのものである。分離カラム8は分析流路2上における試料注入部6よりも下流に設けられており、試料注入部6により分析流路2中に注入された試料を成分ごとに分離するためのものである。分離カラム8はカラムオーブン12内によって温度制御がなされる。吸光度検出器10は、分析流路2上における分離カラム8よりも下流に設けられており、分離カラム8において分離された試料成分を検出するためのものである。
【0021】
吸光度検出器10の構成について、
図2を用いて説明する。
【0022】
吸光度検出器10は、試料セル14、光源16、光センサ18、集光レンズ20、ミラー22、スリット24、分光器26、及び演算制御装置28を備えている。試料セル14は、分離カラム8からの溶出液を流通させるための空間を内部に有する。光源16は測定用の光を発するものであり、光センサ18は試料セル14を透過した光の強度を検出するためのものである。
【0023】
集光レンズ20は光源16と試料セル14との間に配置されており、光源16から発せられた光を集光して試料セル14に導くためのものである。ミラー22は試料セル14を挟んで集光レンズ20とは反対側の位置に設けられており、試料セル14を透過した光がミラー22で反射する。分光器26はミラー22で反射した光を波長成分ごとに分光して光センサ18へ導くためのものである。ミラー22で反射した光の光路上にスリット24が設けられている。集光レンズ20、ミラー22、スリット24及び分光器26は、光源16からの光を試料セル14に導くとともに、試料セル14を透過した光を光センサ18へ導くための光学系を構成するものである。
【0024】
光センサ18は、分光器26で分光された各波長成分の光をそれぞれ受光するための複数の受光素子を有するフォトダイオードアレイである。光センサ18の各受光素子の検出信号は演算制御装置28に取り込まれる。
【0025】
演算制御装置28は専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現することができる。演算制御装置28は、
図1に示した液体クロマトグラフのシステム全体の動作管理を行なうためのシステムコントローラ又はシステムコントローラに接続されるコンピュータであってもよい。
【0026】
演算制御装置28は、演算部30、リファレンス信号取得部32、基準値設定部34、光量判定部36、異常判定部38及び分析データ記憶部40を備えている。演算部30、リファレンス信号取得部32、基準値設定部34、光量判定部36、異常判定部38は、マイクロコンピュータなどの演算素子がプログラムを実行することによって得られる機能である。また、分析データ記憶部40は演算制御装置28に設けられている記憶装置の一部の記憶領域によって実現される機能である。
【0027】
演算部30は、分析中に得られた光センサ18の各受光素子の検出信号(測定信号)とその分析のために取得されたリファレンス信号とを用いて、試料セル14を流れる試料溶液の吸光度を求めるように構成されている。リファレンス信号とは、試料セル14を移動相のみが流れている状態で取得された光センサ18の各受光素子の信号強度である。
【0028】
リファレンス信号取得部32は、演算制御装置28に対してユーザ入力に基づく分析開始の指示が入力されたときに、その分析のためのリファレンス信号を取得するように構成されている。リファレンス信号取得部32によって取得されたリファレンス信号のデータは、その分析で得られた吸光度データと対応付けられた状態で分析データ記憶部40に記憶される。分析データ記憶部40は、各分析のために取得されたリファレンス信号のデータをすべて記憶するようになっていてもよいが、データ容量の肥大化を防止するために、表1に示されているように、特定の波長成分に関するリファレンス信号のデータのみを記憶するようになっていてもよい。
【0030】
基準値設定部34は、リファレンス信号取得部32によって取得されたリファレンス信号の基準値を設定するように構成されている。基準値は、光源16の発光強度が正常か否かをリファレンス信号に基づいて判定するための基準を示す値であり、例えば、光源16が正常であるときに取得された特定波長についてのリファレンス信号に基づいて設定されるものである。特定波長とは、分析に使用される移動相によって吸収されない波長であり、ユーザが直接的に選択したものであってもよいし、ユーザによって選択された移動相に基づいて基準値設定部34が自動的に特定した波長であってもよい。
【0031】
光量判定部36は、リファレンス信号取得部32によりリファレンス信号が取得された後の所望のタイミング、例えばリファレンス信号が取得された直後のタイミングで、特定波長のリファレンス信号を基準値設定部34により設定された基準値と比較し、光源16の発光強度が正常か否かを判定するように構成されている。光量判定部36は、リファレンス信号が基準値以上であれば正常と判定し、リファレンス信号が基準値未満であれば正常でないと判定する。
【0032】
異常判定部38は、同一試料について複数回の連続分析がなされた後で、各分析で得られた吸光度データと各分析のために取得されたリファレンス信号のデータを用いて、一連の連続分析が正常になされたか否か、及び異常があった場合にはその原因の切り分けを行なうための判定を行なうように構成されている。
【0033】
例えば、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が増加傾向にある一方で、吸光度が減少傾向にある場合には、その連続分析が開始される時点において試料セル14に汚れがあったものと判断できる。これは、連続分析が進行し試料セル14を移動相が流れ続けることによって試料セル14内の汚れが落ちて行ったものと考えられるからである。さらに、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が減少傾向にある一方で、吸光度が増加傾向にある場合には、光源16の光量が安定していないと判断できる。また、分析回数を重ねるごとにリファレンス信号の強度が減少傾向にある一方で、吸光度に変動がない場合には、集光レンズ20、ミラー22、分光器26といった光学系にごみが付着している可能性があると判断できる。
【0034】
異常判定部38は、分析データ記憶部40に記憶されている各分析の吸光度データとリファレンス信号の増加又は減少の傾向を把握し、それらの傾向に基づいて上記のような異常原因の判別を自動的に行なうように構成されている。
【0035】
なお、異常判定部38は必ずしも設けられている必要はない。要は、分析データ記憶部40に各分析のリファレンス信号データが吸光度データと対応付けられた状態で記憶されるようになっていればよい。そうすれば、ノイズの増大やベースラインの不安定化といった分析データの異常を発見したときに、ユーザが吸光度データとともにリファレンス信号を参照することで、その異常の原因の切り分けを行なうことが容易になる。
【0036】
同実施例の液体クロマトグラフの分析時における動作の一例について、
図1及び
図2とともに
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0037】
ユーザ入力に基づいて分析開始の指示が演算制御装置28に入力されると(ステップS1)、リファレンス信号取得部30はリファレンス信号を取得する(ステップS2)。リファレンス信号が取得されると、光量判定部36は特定波長のリファレンス信号を予め設定された基準値と比較し(ステップS3)、光源16の光量が正常か否かを判定する(ステップS4)。特定波長のリファレンス信号が基準値未満である場合、光量判定部36は光源16の異常と判定し、ユーザに対して警告を発する(ステップS6)。警告は、例えば演算制御装置28に接続されているディスプレイ(図示は省略)に光源16の光量が不足している旨を表示することによって行なうことができる。光量の判定に用いられる波長及び基準値は、分析開始の指示がなされる前の時点で、基準値設定部34によりユーザ入力に基づいて設定されている。
【0038】
特定波長のリファレンス信号が基準値以上である場合は、光源16が正常であると判定し、試料の分析が開始される(ステップS5)。分析中、演算部30は光センサ18の各受光素子の検出信号と当該分析のために取得されたリファレンス信号とを用いて吸光度を求め、当該分析について吸光度データを作成する。
【0039】
分析が終了した後、表1に示されているような特定の波長についてのリファレンス信号データのみを抽出し(ステップS7)、そのリファレンス信号データを分析で得られた吸光度データと対応付けて分析データ記憶部40に記憶させる(ステップS8)。複数回の分析を連続的に実行する場合には、上記ステップS2〜S8までの動作を繰り返す(ステップS9)。
【0040】
なお、以上において説明した実施例では、マルチチャネル型の吸光度検出器を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものでなく、測定に用いる波長成分の光を抽出して試料セルへ照射し、試料セルを透過した光を単一の受光素子によって検出するように構成された吸光度検出器に対しても、同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
2 分析流路
4 送液ポンプ
6 試料注入部
8 分離カラム
10 吸光度検出器
12 カラムオーブン
14 試料セル
16 光源
18 光センサ
20 集光レンズ
22 ミラー
24 スリット
26 分光器
28 演算制御装置
30 演算部
32 リファレンス信号取得部
34 基準値設定部
36 光量判定部
38 異常判定部
40 分析データ記憶部