【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の説明において、前後左右、上下の方向は、図中に示した方向として説明する。本実施例においては、電動工具の一例としてインパクト工具1を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施例に係るインパクト工具1の外観を示す側面図である。インパクト工具1は、充電可能なパック式のバッテリ90を電源とし、モータを駆動源として出力軸10に回転力と打撃力を与え、装着機構11にて取付穴10aに保持されるドライバビット等の図示しない先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してねじ締めやボルト締め等の作業を行う。インパクト工具1のハウジング2は、モータや動力伝達機構を収容するための略円筒状の筒状の胴体部2aと、胴体部2aの略中央付近から軸線A1と略直交方向に延在するものであって、作業者が片手で把持するためのハンドル部2bと、ハンドル部2bの端部のうち、胴体部2aと反対側に位置する下方側端部(反胴体部側端部)に設けられるバッテリ取付部2cにより構成される。ハンドル部2b内の上部にはトリガレバー7aが前方側に突出するように配設され、トリガレバー7aの後方側には、出力軸10の回転方向を正方向又は逆方向に切り換えるための正逆切替レバー8が設けられる。
【0015】
バッテリ取付部2cはバッテリ90の上面とほぼ同じ横面積を有し、その内部には、リチウムイオン電池等の2次電池からなるバッテリ90が装着される。バッテリ90は着脱可能であって、
図1の状態から取り外す際には、左右両側にあるラッチボタン91を押し込みながらバッテリ90を電動工具本体に対して前方側に相対移動させる。バッテリ取付部2cの内部には前後、左右方向にほぼ水平に配置される制御回路基板(
図2で後述)が配置される。バッテリ取付部2cの上面部分であってハンドル部2bの下端よりも前方部分には、第1のスイッチパネル36が設けられる。第1のスイッチパネル36には、照明装置9を点灯するためのライトスイッチ、バッテリ90の残量を表示するための電池残量表示スイッチと電池残量表示ランプ、打撃強さを表示するための強弱表示ランプが配置される。また、バッテリ取付部2cの左側面部分にも第2のスイッチパネル37が設けられ、打撃強さ(締め付けの強さ)を調整するための強弱切替スイッチ38が設けられる。強弱切替スイッチ38の斜め後下方には、インパクト工具1を作業者の腰ベルトに吊り下げるためのフック50が設けられる。フック50は着脱式であり、
図1のようにバッテリ取付部2cの左側側面に取りつけるだけでなく、右側側面に取りつけることも可能であり、さらには取り外したままとしても良い。
【0016】
ハウジング2の胴体部2aの後端側付近には、スリット状の空気取入口17bが形成され、その前方側であってロータファン15(
図2で後述)の外周付近には、空気排出用のスリット17cが形成される。ハウジング2の前方側には金属製であってカップ状に形成され、先端に出力軸10を貫通させる貫通穴が形成されたハンマケース5が設けられる。ハンマケース5の前方端付近の下側には、LEDを用いた照明装置9が設けられる。
【0017】
図2は本実施例のインパクト工具1の内部構造を示す縦断面図である。モータ3は側面視で略T字状の形状を成すハウジング2の筒状の胴体部2a内に収容される。モータ3はブラシ(整流用刷子)の無いDC(直流)モータであり、4極6スロットのブラシレスDCモータである。モータ3は永久磁石を備えたロータ(回転子)3aと、3相巻線等の複数相の電機子巻線(固定子巻線)を備えたステータ(固定子)3bを含む。モータ3は、ロータ3aの永久磁石の磁力を検出してロータ位置を検出する複数のホールICより構成された位置検出素子13の出力を用いて、バッテリ等から供給される直流電圧を複数の半導体スイッチング素子14によってスイッチングされることにより動作する。モータ3の回転軸4は筒状の胴体部2aの軸線A1と同心に配置され、前側及び後側において2つの軸受16a、16bによってハウジング2に軸支される。ステータ3bの後方側には、3つの位置検出素子13や6つの半導体スイッチング素子14等を搭載するための略円環状のインバータ回路基板12が配置される。インバータ回路基板12はモータ3の外径とほぼ同径の略円環状の両面基板である。半導体スイッチング素子14は6つ設けられてインバータ回路を形成し、各相の固定子巻線への通電を切換える。半導体スイッチング素子14としてFET(電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)等が用いられる。インバータ回路はマイクロコンピュータ(マイコン)により制御され、位置検出素子13によるロータ3aの位置検出結果に基づいて各相の電機子巻線の通電タイミングを設定するので、高度な回転制御が容易となる。
【0018】
ハンマケース5は、内部に減速機構20とインパクト機構21を収容するものであって、ハウジング2の胴体部2aの前方側に設けられる。ハンマケース5は金属の一体品にて製造され、カップ状の底部にあたる前方部分には出力軸10を貫通させるための貫通穴5aが形成される。ハンマケース5の外側であって、出力軸10の先端部分に図示しない先端工具を装着又は取り外しできるための装着機構11が設けられる。
【0019】
ロータ3aと軸受16aの間には、ロータファン15が回転軸4と同軸に取り付けられる。ロータファン15は、例えばプラスチックのモールドにより一体成形されるものであり、後方の内周側から空気を吸引し、前方側の半径方向外側に排出する、いわば遠心ファンである。ロータファン15によって起こされる空気流は、空気取入口17a及びインバータ回路基板12の周囲のハウジング部分に形成された空気取入口17b(
図1参照)から胴体部2aの内部に取り込まれ、主にロータ3aとステータ3bの間を通過するように前方側に流れ、ロータファン15により、ロータファン15の周囲のハウジング部分に形成された後述するスリット17c(
図1参照)からハウジング2の外部に排出される。
【0020】
ロータ3aは、永久磁石によって形成される磁路を形成する。ステータ3bは、円環状の薄い鉄板の積層構造で製造され、内周側には6つのティース(図示せず)が形成され、各ティースにはエナメル線が巻かれてコイルが形成される。本実施例では、コイルをU、V、W相の3相を有するスター結線としている。
【0021】
ハウジング2の胴体部2aから略直角に一体に延びるハンドル部2b内の上部にはトリガレバー7aが前方側に突出するように配設され、トリガレバー7aの後方にはトリガスイッチ7が設けられる。使用者はハンドル部2bを片手で把持し、人差し指等によってトリガレバー7aを後方に引くことによって、トリガ押込量(操作量)を調整し、モータ3の回転数を制御できる。モータ3の回転方向は、正逆切替レバー8を操作することによって切り替えることができる。ハンドル部2b内の下部は、ハンドル部2bの軸線B1方向と略直交方向に拡径するバッテリ取付部2cが設けられる。バッテリ取付部2cには、モータ3の駆動電源となるバッテリ90が着脱可能に装着される。バッテリ90の上部には、モータ3のインバータ回路基板12を制御するための制御回路部30が設けられる。制御回路部30には、前後左右方向に延びるように設けられる図示しない制御回路基板が収容される。制御回路基板には
図5にて後述するマイコン40が搭載される。制御回路基板31は、信号線を介してインバータ回路基板12と接続される。制御回路基板31の近傍であって、バッテリ取付部2cの上面には、バッテリ90の残量チェックスイッチと残量表示用のLED表示装置と、照明装置9の点灯スイッチを配置するためのスイッチパネル36が設けられる。
【0022】
ハウジング2の胴体部2aは、ハンドル部2b及びバッテリ取付部2cと共に合成樹脂材料の一体成形により製造され、モータ3の回転軸4を通る鉛直面で左右に2分割されるように形成される。組立の際にはハウジング2の左側部材と右側部材を準備し、予め、
図2の断面図で示すような一方のハウジング2(例えば左側のハウジング)に、減速機構20、インパクト機構21を組み込んだハンマケース5とモータ3等の組込みを行い、しかる後、他方のハウジング2(例えば右側のハウジング)を重ねて、複数のネジで締め付ける方法が取られる。
【0023】
インパクト機構21は遊星歯車による減速機構20の出力側に設けられるもので、スピンドル22とハンマ24を備え、後端が軸受18b、前端がメタル18aにより回転可能に保持される。減速機構20とインパクト機構21が、モータ3によって先端工具を駆動するための動力伝達機構を構成する。トリガレバー7aが引かれてモータ3が起動されると、正逆切替レバー8で設定された方向にモータ3が回転を始め、その回転力は減速機構20によって減速されてスピンドル22に伝達され、スピンドル22が所定の速度で回転する。ここで、スピンドル22とハンマ24とはカム機構によって連結され、このカム機構は、スピンドル22の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝23と、ハンマ24の内周面に形成されたハンマカム溝25と、これらのカム溝23、25に係合する2つのスチールボール26によって構成される。ハンマ24は、ハンマスプリング27によって常に前方に付勢されている。ハンマ24とアンビル28の対向する回転平面上の2箇所には軸線A1方向に凸状に突出する打撃爪(
図12で後述するハンマ爪24a、24b)と、打撃爪によって打撃される被打撃爪(
図12で後述するアンビル爪28a、28b)が回転対称に形成されている。
【0024】
スピンドル22が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ24に伝達され、ハンマ24が半回転しないうちにハンマ24の打撃爪がアンビル28の被打撃爪に係合してアンビル28を回転させる。回転時のハンマ24とアンビル28の係合反力によってスピンドル22とハンマ24との間に相対回転が生ずると、ハンマ24はカム機構のスピンドルカム溝23に沿ってハンマスプリング27を圧縮しながらモータ3側へと後退を始める。そして、ハンマ24の後退動によってハンマ24の打撃爪がアンビル28の被打撃爪を乗り越えて両者の係合が解除されると、ハンマ24は、スピンドル22の回転力に加え、ハンマスプリング27に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、ハンマスプリング27の付勢力によって前方へ移動し、ハンマ24の打撃爪がアンビル28の被打撃爪に再び係合して一体に回転し始める。このように強力な回転打撃力がアンビル28に加えられるため、アンビル28と一体に形成された出力軸10の取付穴10aに装着される図示しない先端工具に回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具に回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、木ネジが木材等の図示しない被締め付け部材にねじ込まれる。
【0025】
図3(A)〜(E)は本実施例のインパクト工具1を用いて第1材たる石膏ボードへの木ネジの締め付け手順を説明するための図である。石膏ボード71は、石膏をしん材とし、両面を石膏ボード用原紙で被覆して成型したもので、防火性、遮音性、寸法安定性、工事の容易性等の特徴をもつ建築用内装材料であり、建築物の壁、天井などに広く用いられている。石膏ボードのような軟質のボードは単体の使用では壁材としての強度が不足するため、第2材たる合板の上に石膏ボード71を重ね貼りすることが多い。
図3(A)は合板による下地の上に例えば板厚10mmの石膏ボード71を重ねて、長さ25mmの木ネジ73を締め付ける直前の状態である。ここでは作業者は木ネジ73の先端73dを石膏ボード71に位置決めし、先端工具70を木ネジ73の頭頂面73aの十字溝(図示せず)に嵌合させる。木ネジ73は、径方向に広がる皿部73bと、外周側にネジ山が形成されたネジ部73cにより形成される。ここでは皿部73bの上面たる頭頂面73aは十字溝部分を除いて平坦な形状である。皿部73bの外周面は頭頂面73aから漏斗状になるように軸方向を含む断面外縁が二次曲線状に絞り込まれる形状である。
【0026】
図3(A)の状態にて作業者がトリガレバー7aを引くとモータ3が起動する。モータ3が回転を開始すると先端工具70が回転し、先端工具70と嵌合している木ネジ73が回転し、木ネジ73の先端73dが石膏ボード71にねじ込まれる。
図3(B)は木ネジ73の先端73dが石膏ボード71内に位置する状態である。
図3(B)から先端工具70がさらに回転して木ネジ73が回転すると、木ネジ73の先端73dが合板等の下地72に到達するので、木ネジ73は下地72にねじ込まれるため、先端工具70に必要な締め付け負荷が増大する。尚、本実施例の木ネジ73のネジ部73cは、ネジ山部分を除くと軸線方向にみて径がほぼ一定であるため、締め付けが進むにつれて増大する負荷は、石膏ボード71と下地72との貫通長さにほぼ比例するように徐々に増大する。
【0027】
図3(D)は皿部73bの漏斗状の外周面が石膏ボード71の表面に当接した状態である。このように皿部73bの漏斗状の外周面が石膏ボード71の表面に当接すると、締め付け負荷が急激に増大する。そこでインパクト工具1のマイコン40は、皿部73bの外周面の一部が石膏ボード71の表面に当接した状態(着座状態)になったと検知して、モータ3を停止させる。着座検出のための具体的な方法は、
図6、7にて後述する。ここで、
図3(D)に示すような着座状態が検出されて停止した木ネジ73の状態は、頭頂面73aが石膏ボード71の表面よりも高さSだけ突出している状態にある。理想的にはS=0の時にマイコン40が木ネジ73の回転を停止させるのが好ましい。しかしながら、被締め付け材(石膏ボード71及び下地72)に対する締め付け負荷は一定では無いので、常にS=0に保つのは先端工具70と石膏ボード71の表面の相対位置を検出しない限り困難である。一方で、木ネジ73を締め付けすぎでS<0となることは絶対に避けねばならない。木ネジ73の締め過ぎによって石膏ボード71の板厚が部分的に規定量に満たなくなると木ネジ73による固定力が不足してしまうためである。また、石膏ボードはもろいので、表面の紙を貫いてしまうと固定力がほとんど生まれないためである。そこで、本実施例では、皿部73bの軸方向の長さをT
Sとすると、0≦S<T
Sを満たす状態であって、できるだけS=0に近づく範囲でマイコン40がモータ3を停止できるように制御した。マイコン40は、作業者がトリガレバー7aを引いたままであっても着座状態となって一定の締め付け状態を検知したら、モータ3を強制的に停止させる。すなわち、インパクト機構21が打撃を行う前、言い換えるとインパクト機構21が打撃をせずにハンマとアンビルが接触した状態で回転した状態で木ネジ73を締め付け、木ネジ73が着座したらモータ3を停止させている。
【0028】
図3(D)の状態で先端工具70の回転が停止すると、頭頂面73aが石膏ボード71の表面よりも突出している状態であるため、追加の締め付け(増し締め)が必要となる。そこで、本実施例のインパクト工具1では追加で木ネジ73を締め付けるための新たな制御、即ち“追い締め制御”を追加した。“追い締め制御”は、マイコン40が先端工具70を一定量だけ回転させた後に自動停止させる制御であり、“追い締め制御”における回転量が一定となるように制御される。ここでは、モータ3の駆動時間で追い締め制御の回転量を規定する。マイコン40は、作業者がトリガレバー7aを引いたことで先端工具70の回転を開始し、モータ3が所定の微小時間だけ駆動されたら、作業者のトリガレバー7aの引き状態にかかわらずにモータ3の回転を停止させる。この際の回転量は、木ネジ73の不足する締め付け量を1〜3回の追い締めで完了できる程度とする。
図3(D)から(E)の状態は、先端工具70を頭頂面73aに押し当てたままでトリガレバー7aを引くようにしても良いし、一旦先端工具70を頭頂面73aから離反させて、再び先端工具70を頭頂面73aに押し当ててからトリガレバー7aを再度引くような動作であっても良い。尚、
図3(D)の追い締め制御を実現するために、マイコン40はトリガレバー7aが引かれた直後の初期負荷の量を検出し、大きな負荷があるか否かを判定する。大きな負荷の有無によって、トリガレバー7aが引かれた時の状況が
図3(A)の状態に該当するか、
図3(D)の状態で再度トリガレバー7aが引かれたのかを判定する。この判定の仕方は
図11にて後述する。
【0029】
図4(A)〜(C)は本実施例のインパクト工具1で検知された着座状態と追い締め制御との関係を説明するための図である。また、比較のために
図4(D)に従来のインパクト工具によって締め過ぎとなった状態も示す。
図4(A)は、本実施例のインパクト工具1で検知された着座が最適ネジ締め位置に到達している状態を示すもので、本実施例のインパクト工具1を用いて締め付けをした際に7〜9割程度の締め付けがこの状態になるように制御すると良い。ここでは石膏ボード71の表面と木ネジ73の頭頂面73aが同一面になっている。
【0030】
図4(B)の左側の状態は、インパクト工具1で検知された着座位置が不足している状態を示し、木ネジ73の頭頂面73aが石膏ボード71の表面から距離S
1だけ浮いている。その後に1度だけ追い締めを行うことで右側に図示した最適ネジ締め位置に到達する。
図4(C)の左側の状態は、インパクト工具1で検知された着座位置がさらに不足している別の状態を示し、木ネジ73の頭頂面73aが石膏ボード71の表面から距離S
2(S
2>S
1)だけ浮いている。この場合は1度の追い締めだけでは足りないので、2度の追い締めを行うことで右側のような最適ネジ締め位置に到達する。ここでは先端工具70を頭頂面73aに押し当てたままでトリガレバー7aを引く操作が2回必要になり煩わしさも否めない。しかしながら、
図4(D)のように締め過ぎとなってしまうと石膏ボード71一枚分を張り替えねばならない虞が高いので、トリガレバー7aを再び引く操作が増えるデメリットよりも、締め過ぎが発生するデメリットの方が遙かに大きい。本実施例では、
図4(A)の状態が7〜9割程度、(B)の状態が2〜0.5割程度、(C)の状態が1〜0.5割程度、(D)の状況の発生がゼロとなるようにマイコン40がモータ3の回転制御を行うようにできれば好ましい。木ネジ73が着座するとモータ3を停止するが、トリガレバー7aを再操作することで追い締めを行うことができる。この際、木ネジ73の着座が検出できずにモータ3が停止しなかった場合、最初の打撃を検出した後にモータ3を停止するようにしても良い。この構成によれば、最初のトリガレバー7の操作で追い締めまでの動作を実行することができ、木ネジ73の締め過ぎを抑制することができる。
【0031】
次に、モータ3の駆動制御系の構成と作用を
図5を用いて説明する。
図5は本実施例のインパクト工具1の概略ブロック図である。本実施例では電源として二次電池で構成されたバッテリ90を用い、ブラシレスDCモータを制御するために制御回路部(制御装置)30はマイコン40を含み、て複数の半導体スイッチング素子Q1〜Q6により構成されるインバータ回路を駆動する。モータ3は、いわゆるインナーロータ型で、一対のN極およびS極を含むマグネット(永久磁石)を埋め込んで構成されたロータ3aに対向するように、60°毎に配置された3つの位置検出素子13が設けられる。ステータ3bにはスター結線された3相巻線U、V、Wが含まれる。
【0032】
インバータ回路基板12上には、3相ブリッジ形式に接続されたFETなどの6個のスイッチング素子Q1〜Q6が搭載される。制御回路基板31に搭載されるマイコン40は、制御信号出力回路48を介してスイッチング素子Q1〜Q6の駆動制御をする。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御信号出力回路48に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号出力回路48から入力されたスイッチング素子駆動信号(H4、H5、H6等の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路に印加されるバッテリ90の直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
【0033】
6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負電源側のスイッチング素子Q4、Q5、Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6として供給し、制御回路基板31上に搭載されたマイコン40によって、トリガスイッチ7のトリガレバー7aの操作量(ストローク)の検出信号に基づいてPWM信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3の起動/停止と回転速度を制御する。
【0034】
制御回路部30には、マイコン40、電流検出回路41、スイッチ操作検出回路42、印加電圧設定回路43、回転方向設定回路44、回転子位置検出回路45、回転数検出回路46、及び、入出力部49が搭載される。制御回路部30の中核をなすマイコン40は、図示されていないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するためのCPUと、後述するフローチャートに相当するプログラムや制御データを記憶するためのROMと、データを一時記憶するためのRAMと、タイマ等を内蔵するマイコンを含んで構成される。電流検出回路41はシャント抵抗32の両端電圧を測定することによりモータ3に流れる電流を検出する電圧検出手段であって、検出電流はマイコン40に入力される。本実施例ではシャント抵抗32をバッテリ90とインバータ回路の間に設けて半導体スイッチング素子Q1〜Q6に流れる電流値を検出する方式であるが、シャント抵抗32をインバータ回路とモータ3の間に設けてモータ3に流れる電流値を検出するようにしても良い。
【0035】
スイッチ操作検出回路42はトリガレバー7aが引かれているかどうかを検出するもので、少しでも引かれていればオン信号をマイコン40に出力する。印加電圧設定回路43は、トリガレバー7aの移動ストロークに応答してモータ3の印加電圧、すなわちPWM信号のデューティ比を設定するための回路である。回転方向設定回路44は、モータの正逆切替レバー8による正方向回転または逆方向回転の操作を検出してモータ3の回転方向を設定するための回路である。回転子位置検出回路45は、3つの位置検出素子13の出力信号に基づいてロータ3aとステータ3bの電機子巻線U、V、Wとの関係位置を検出するための回路である。回転数検出回路46は、単位時間内にカウントされる回転子位置検出回路45からの検出信号の数に基づいてモータの回転数を検出する回路である。制御信号出力回路48は、マイコン40からの出力に基づいてスイッチング素子Q1〜Q6にPWM信号を供給する。PWM信号のパルス幅の制御によって各電機子巻線U、V、Wへ供給する電力を調整する。
【0036】
マイコン40には動作モードを切り換えるための入出力部49からの信号が入力される。入出力部49から入力される信号は、第1のスイッチパネル36と第2のスイッチパネル37からの入力信号や、その他のセンサ類の入力信号がある。また、マイコン40から入出力部49へ出力される信号は、先端工具付近を照らすための照明装置9を駆動する駆動回路への点灯又は消灯指示信号、第1のスイッチパネル36上のLED表示の点灯信号を含む。
【0037】
図6は、締め付け対象材(石膏ボード+合板)の堅さの違いによる締め付け時間の経過とモータ電流の関係を示す図である。縦軸は電流値I(単位:A)であり、横軸は時間の経過(単位:ミリ秒)である。ここでは、1回の締め付けだけで木ネジ73が
図3(E)の状態まで理想的に締め付けられる場合を示しており、実線で示す電流値61が、石膏ボード71に加えて柔らかい下地72に対する締め付けの状況を示す。また、点線で示す電流値62が、石膏ボード71に加えて硬い下地72に対する締め付けの状況を示す。軟らかい下地の場合、時刻0にて作業者が
図3(A)に示す状態から木ネジ73を締め付けるべくトリガレバー7aを引くと、締め付けの進行と共に電流値61は矢印61aから61bのようにわずかに上昇する。ここではモータ3の始動直後の始動電流の影響の図示を省略しているので注意されたい(後述する
図7でも同じ)。そして、時刻t
1において着座初期状態(木ネジ73の皿部73bとネジ部73cの境界位置が石膏ボード71の表面に到達した状態)になると、矢印61cのように急激に電流値が増加する。
【0038】
マイコン40は、着座初期状態を検出した後の適切なタイミング、即ち時刻t
2でモータ3の回転を停止する。硬い下地の場合も同様に、時刻0にて作業者がトリガレバー7aを引くと、締め付けの進行と共に電流値62は矢印62aから62bのように直線的に上昇する。そして、時刻t
1において着座状態になると、矢印62cのように大きく電流値が増加する。マイコン40は着座を検出した後の適切なタイミング、即ち時刻t
2でモータ3の回転を停止する。実際の締め付け動作では、硬い下地と軟らかい下地の場合に出力軸10の回転速度が同じとは限らないため、時刻t
1、t
2がばらつくので、
図6で示したのはあくまでも一例である。この波形図からわかるように、軟らかい下地の場合、矢印61a〜61bに示すような着座前の電流値61の小さい傾きに比べて、矢印61cに示す着座後の傾きの上昇度合いが大きい。一方、硬い下地の場合、矢印62a〜62bに示す着座初期状態よりも前の電流値62の傾きに比べて、矢印62cに示す着座初期状態よりも後の電流値62傾きの上昇度合いが小さい。本実施例では、この着座初期状態前の電流値の傾きに対する、着座初期状態後の電流値の傾きの比率の違いに考慮しながら、モータ3を停止させるための停止閾値TH
S(後述)を最適に設定するようにした。このように本実施例では、締め付け対象材の堅さが異なっても確実に着座を検出してモータ3を停止することができる。
【0039】
図7は締め付け対象材(第1材たる石膏ボード+第2材たる合板)の堅さの違いによる締め付け時間の経過に伴うモータ電流の関係を示す図であって、
図7(A)の縦軸は電流値Iを示し、(B)の縦軸は電流値Iの微分値を示し、(C)の縦軸は電流値Iの二階微分値を示す。
図7(A)は
図6と同一の図である。
図7(B)は
図7(A)の電流値61、62をそれぞれ時間で微分して、dI/dtによる微分値63、64を算出したものである。dI/dtは、
図7(A)のグラフの傾きの大きさを示し、実線で示す軟らかい下地の場合の微分値63は着座前には矢印63aの状態であり、点線で示す硬い下地の場合の微分値64の矢印64aよりも小さい。また、時刻t1の着座初期位置に到達してから木ネジ73の頭頂面73aが石膏ボード71と同一面に至るまでの間におけるdI/dtは、軟らかい下地の場合の微分値63の立ち上がり(矢印63b)が、硬い下地の場合の微分値64の立ち上がり(矢印64b)よりも明らかに大きくなる。本発明者らはこの矢印63aと64aの関係(63a<64a)と、矢印63bと64bの関係(63b>64b)が逆転する事実に注目して、停止閾値TH
Sを設定するようにした。この結果、第2材たる下地材の硬さの違いに応じた最適な停止閾値TH
S(後述)を、各締め付け毎に個別に設定することが可能となった。
【0040】
図7(C)は微分値63、64をさらに微分して、
図7(B)の微分値63、64のグラフの傾きを算出したものである。つまり、
図7(A)からみて二階微分値となり、二階微分値65、66はd
2I/dt
2にて算出される。ここで理解できるように、時刻0から時刻t
1においては、二階微分値65、66はほとんど0であり双方に変わりが無い。一方、時刻t
1から時刻t
2において二階微分値65、66が急激に立ちあがる。この立ち上がり具合に応じてモータ3を停止させるための停止閾値TH
Sを変動させる。考え方としては、下地材が硬くて締め付け負荷が大きい場合は、二階微分値66のようにd
2I/dt
2が時刻t
1からt
2の範囲において小さくなるので、停止閾値TH
Sが小さくなるように設定する。他方、下地材が軟らかくて締め付け負荷が小さい場合は、二階微分値65のようにd
2I/dt
2が時刻t
1からt
2の範囲において大きくなるので、停止閾値TH
Sが大きくなるように設定する。以上のように本実施例では停止閾値TH
Sを着座初期位置到達後のd
2I/dt
2の大きさに応じて矢印81のように上下させる。この上下させることにより、時刻0〜時刻t
1までの微分値63、64の大きさに合わせて停止閾値TH
Sを変動させることができるので、トリガレバー7aを引いてから着座初期位置に到達する間の区間で、停止閾値TH
Sを変動させることが可能となる。
【0041】
図8〜
図10は本実施例のインパクト工具1の石膏ボードモードにおける締め付け手順を示すフローチャートである。インパクト工具1は、バッテリ90が装着され、最初にトリガレバー7aが引かれてトリガスイッチ7がオンになると、マイコン40に電源が供給されるため、マイコン40が起動して
図8〜
図10にて示す各ステップを実行する。
図8〜
図10にて示す各ステップは、マイコン40にあらかじめ格納されたプログラムによってソフトウェア的に実行される。最初に、マイコン40はインパクト工具1の設定されている動作モードを検出する(ステップ101)。本実施例のインパクト工具1の動作モードは、従来から設けられるインパクト動作モード(第1モード)に加えて、「石膏ボードモード(第2モードであって、軟質ボード用の動作モード)」が追加されている。インパクト動作モードでは締め付け強さを複数段階(例えば4段階)にて設定できる。インパクト工具の動作モードは第1モードと第2モードの2つだけに限らずに、その他の動作モード、例えばテクスネジ締め付けモード(第3モード)やその他の動作モードが設けられても良いが、ここでの第3モードやその他の動作モードの説明は省略する。ステップ101では、これらのモードのうち、いずれかが設定されているかをマイコン40が判定する。
【0042】
次にマイコン40は、正逆切替レバー8の設定を検出することによりモータ3の回転方向を設定する(ステップ102)。次にマイコン40は、ステップ101にて検出された動作モードが、「通常モード(通常のインパクト動作モード)」か、本実施例によって追加された新たな「石膏ボードモード」であるかを判定する(ステップ103)。動作モードが「通常モード」である場合は、マイコン40は従来のインパクト工具と同じ制御たるステップ104〜110の制御を行う。即ち、マイコン40は設定されているインパクト動作による締め付け強さに応じてもモータ3の目標回転数を設定し(ステップ104)、トリガレバー7aが引かれてトリガスイッチ7がオンになったか否かを判定する(ステップ105)。ステップ105にてトリガレバー7aが引かれていない場合は、ステップ101に戻り、トリガレバー7aが引かれている場合は、モータ3の駆動を開始する(ステップ106)。次に、マイコン40はモータ3の回転中においてトリガスイッチ7がオフになったか否かを判定し(ステップ107)、オフになっていなかったらモータ3の回転数を検出し(ステップ109)、ステップ104で設定された目標回転数と検出された現在の回転数を比較し、PWM制御におけるデューティ比を設定し、そのデューティ比となるようにインバータ回路を制御し、ステップ107に戻る(ステップ110)。ステップ107にてトリガレバー7aが戻されてトリガスイッチ7がオフになったら、モータ3の駆動を停止させて締め付け動作を終了する(ステップ108)。以上が、従来から行われてきた通常のインパクト動作モードである。
【0043】
ステップ103において、マイコン40が「石膏ボードモード」に設定されていると判定したら、ステップ111以降のステップを実行する。ステップ111では、マイコン40はモータ3の回転方向が「逆転」に設定されているかを判定する。逆転の場合は、石膏ボード特有の着座検出や追い締め制御は不要なので、ステップ104に進む。ステップ114でマイコン40は、石膏ボードの締め付け用に適するモータ3の目標回転数を設定し(ステップ112)、トリガレバー7aが引かれてトリガスイッチ7がオンになったか否かを判定する(ステップ113)。ステップ113にてトリガレバー7aが引かれていない場合は、ステップ101に戻り、トリガレバー7aが引かれている場合は、モータ3の駆動を開始する(ステップ114)。次に、マイコン40はモータ3の回転中においてトリガスイッチ7がオフになったか否かを判定し(ステップ115)、オフになっていなかったらモータ3の回転数を検出し(ステップ117)、ステップ112で設定された目標回転数と検出された現在の回転数を比較し、PWM制御におけるデューティ比を設定し、そのデューティ比となるようにインバータ回路を制御し、
図9のステップ121に移行する(ステップ118)。ステップ115にてトリガレバー7aが戻されてトリガスイッチ7がオフになったら、モータ3の駆動を停止させて(ステップ116)、締め付け動作を終了する。
【0044】
図9は
図8のステップ118に続く処理手順である。「石膏ボードモード」では、最初にマイコン40が駆動時間の検出を行う(ステップ119)。この検出は一定の間隔毎(例えば1ミリ秒ごと)に行うもので、間隔の計測はマイコン40が有するタイマ機能を用いて行われる。次に、マイコン40は、電流検出回路41(
図5参照)を用いてモータ3に流れる電流値Iを測定する(ステップ120)。次にマイコン40は、測定された電流値I(例えば時刻t
nの電流値I
n)を図示しない内部メモリに一時的に記憶する(ステップ121)。次にマイコン40は、石膏ボードモードにおける「初期負荷判定終了フラグ」が、設定済み(=“1”)であるか未設定(=“0”)であるかを判定する(ステップ122)。ここで、「初期負荷判定終了フラグ」は、石膏ボードモードにおいてトリガレバー7aが引かれた後に、
図3(A)のような締め付け前の状態であるか、
図3(D)の後の状態のような追い締め制御であるかを示す負荷判定が実行されたか否かを示すフラグである。初期負荷判定終了フラグの“1”が検出された場合は、締め付け前の状態か追い締め制御かの判定が済んでいることを示す。初期負荷判定終了フラグ“1”が未検出の場合は、締め付け前の状態か追い締め制御かの判定が済んでいないことを示す。尚、初期負荷判定終了フラグは、作業者がトリガレバー7aを離した際にクリアされて“0”が入力される。
【0045】
ステップ122で初期負荷判定が終了していない場合、即ち初期負荷判定終了フラグの“1”が未検出の場合は、マイコン40が初期負荷状態を検出ための時間が適正範囲(判定時間領域内)であるか否かを判定する(ステップ126)。ここで、
図11を用いて、追い締め制御を実行すべきか否かの負荷検知方法を説明する。
図11はインパクト工具1の締め付け開始時における負荷の有無を検知する方法を説明するための図であり、「石膏ボードモード」において作業者がトリガレバー7aを引いた直後に毎回実行される。グラフの縦軸は電流検出回路41(
図5参照)によって検出される電流値I(単位A)であり、横軸は時間の経過(単位ミリ秒)である。ここでは、電流値68、69の2つの波形を示している。電流値68は
図3(E)の締め付け時のように追い締め用の負荷がある状態であり、電流値69は
図3(A)のように追い締め用の負荷が無い状態である。時刻0において作業者がトリガレバー7aを引くと、モータ3が起動して回転を開始する。モータ3の始動直後には矢印68a、68bのように大きな始動電流が流れるので、この時間内に測定された電流値Iは判断には用いないようにして(不感期間)、始動電流が無くなってモータ3に流れる電流値68、69が安定した頃の所定区間(負荷検知区間)、即ち、矢印68b、69bのように時刻t
a〜t
bの区間の電流値68、69を測定し、それらの値が閾値TH
lを越えているか否かを判定する。ここで、閾値TH
lは負荷検知のために予め設定された閾値であり、閾値TH
lを越えていたら負荷がある、即ち
図3(D)から(E)に至る“追い締め状態”であると判定され、閾値TH
l以下であったら、
図3(A)に示す木ネジ73の締め付け開始時の負荷無しの状態であると判定される。閾値TH
lを越えているか否かは、時刻t
a〜t
bに至る電流値68、69のピーク値で判定しても良いし、平均値で判定しても良いし、フィルタリング処理をしてノイズを除去した後に判定しても良い。この負荷検知区間は、着座が検知される時刻t
1(t
1>t
e)よりも十分前の区間にあるので、木ネジ73のそれぞれの締め付けの初期段階でマイコン40は負荷あり、負荷無しの状態を判断できる。尚、“負荷あり”であって時刻t
bを越えた後、一定の時間経過後の時刻t
eに、マイコン40はモータ3を停止させる。ここで、時刻0から時刻t
eに至る所定時間の設定値は80ms程度であり、木ネジを約90度回転させる程度である。“負荷なし”と判断された場合は、マイコン40は
図7で示したように着座検出をして時刻t
2にてモータ3を停止する。
【0046】
図8のステップ126に戻る。ステップ126にて、電流値が検出された時刻が初期負荷検出のための検知時間内であるかを判断し、負荷検知時間未満にあるとき、即ち
図12の時刻0からt
aの間にあるときは
図8のステップ115に戻る。ステップ126にて、電流値が検知時間内である時は、検出された電流値Iが、負荷検知の閾値TH
lを越えているか否かを判定する(ステップ127)。負荷検知の閾値TH
lを越えている場合にマイコン40は、初期負荷状態(負荷あり)が検出されたと判定して、初期負荷の判定フラグを“1(=負荷あり)”と判定するとともに、初期負荷の判定終了フラグを“1(=判定済み)”に変更し(ステップ128、129)、
図8のステップ115に戻る。ステップ127において負荷検知の閾値TH
lを越えていない場合は、マイコン40は初期負荷状態(負荷なし)が検出されたと判定して、初期負荷の判定フラグを“0(=負荷なし)”と判定する(ステップ130)とともに、初期負荷の判定終了フラグを“1(=判定済み)”に変更し(ステップ129)、
図8のステップ115に戻る。
【0047】
図9のステップ122にて、初期負荷の判定終了フラグが“1(=判定済み)”である場合は、判定された結果が負荷ありか、負荷無しかを判定し(ステップ123)、負荷が無い場合は石膏ボードモードによる追い締めでない通常の締め付けを実行すべく
図10のステップ131に移行する。ステップ123にて負荷がある場合は、マイコン40は追い締めを行うためにモータ3を一定時間だけ駆動し、一定時間に到達しない間は
図8のステップ115に戻る。一定時間が経過したら、マイコン40はモータの回転を停止し、石膏ボードモードによる締め付け動作を終了する。尚、ステップ125でモータを停止する場合であっても、
図4(C)の中央の状態である場合もある。その場合は、作業者は再度トリガレバー7aを引くことによって更なるの追い締めを行う。
【0048】
図10は、
図9のステップ123の“負荷無し”の場合の続きの処理手順を示すフローチャートである。ここでマイコン40は、ハンマ24によるアンビル28への打撃が行われそうか否かを検出する(ステップ131)。ここでは加速度センサを用いて実際に打撃が行われた後に検出する方法としても良いが、モータ3の電流値Iを検出することにより、ハンマ24が後退してアンビル28との係合状態が外れた離脱状態になったことを検出する。この離脱状態の検出について、
図12と
図13を用いて説明する。
【0049】
図12は、正転時のハンマ24によるアンビル28への打撃が行われる状況を示す図であって、アンビル28とハンマ24の2つを軸線A1(
図2参照)の前方側から見た図である。
図12(A)は、モータ3が回転してハンマ24が正転方向に回転し、ハンマ爪(打撃爪)24a、24bがアンビル28のアンビル爪(被打撃爪)28a、28bを回転方向後方から押すような形となるためアンビル28がハンマ24と同じ方向に回転する。この状態で先端工具70(
図3参照)から受ける負荷が増加すると、スピンドルカム機構によってハンマ24がハンマスプリング27(
図2参照)を圧縮しながら後退を初めて、ついにはハンマ爪24a、24bとアンビル爪28a、28bの軸線A1方向の接触長さが0となる。この結果、
図12(B)に示すようにハンマ爪24a、24bがアンビル爪28a、28bの後方側をすり抜けるようにして、図中の“ハンマ駆動”で示す矢印方向に回転する。この際、ハンマ爪24a、24bはアンビル爪28a、28bと回転方向に接触していないため、
図12(B)に示すハンマ24の後退時のモータ3の負荷は大きく低下するので、その時の電流値Iも小さくなる。
図12(C)は、ハンマ爪24a、24bがアンビル爪28a、28bの後方側をすり抜けて、ハンマスプリング27(
図2参照)の付勢力によって前方側に移動しながら矢印方向に回転する。この回転は、ハンマ爪24a、24bがアンビル爪28a、28bと接触していない空転状態にあるため、モータ3には締め付けの負荷がかからないことになり、電流値Iがさらに低下する。この
図12(A)〜(C)に至る際のモータ3の電流値Iを示すのが
図13である。
【0050】
図13は本実施例のインパクト工具1の締め付け動作中おいて、ハンマ24がアンビル28に対して離脱する際のモータ3の電流波形を示す図である。縦軸は電流検出回路41(
図5参照)で検出されるモータ3の電流値I(単位A)であり、横軸は時間の経過である。横軸の時刻t
A、t
Bは、
図12(A)、(B)の状態の時刻である。
図3(A)〜(C)で示したように、木ネジ73(
図3参照)の締め付け時には着座に至るまでにモータ3の電流値69は、矢印69cのように徐々に増加する。矢印69cで示す電流値69の上昇は、ハンマ爪24a、24bがアンビル爪28a、28bを回転方向後方から押すようにして回転するためである。この状態で
図12(B)で示すようにハンマ爪24a、24bが後方側に離脱して、アンビル爪28a、28bとの係合が解消されると、ハンマ24に加わる負荷が急激に減少するため、矢印69dのように電流値69が急激に低下する。この矢印69dの時点でモータ3への電流の供給を続けると、モータ3は加速してハンマ爪24a、24bをアンビル爪28a、28bに勢いよく打撃させることなる。しかしながら、本実施例では石膏ボード71(
図3参照)という軟質部材への締め付けであるため、インパクト工具1の打撃動作を伴う締め付け作業はトルクが高すぎて締め過ぎ状態(
図4(4))を招く恐れが高い。そこで本実施例では、マイコン40が電流値69の急激な低下を検出することによって、打撃が行われる状態を事前に検知し、打撃が行われる前、例えば時刻t
fにおいて、モータ3への駆動電流の供給を停止するようにした。
【0051】
再び
図12に戻る。
図12(C)に示すようにハンマ24が空転しているときにマイコン40がモータ3への駆動電流の供給を停止したとしても、モータ3は慣性により回転を続けるため、
図12(D)に示すようにハンマ爪24a、24bがアンビル爪28b、28aを打撃することになる。しかしながら、この打撃の際にはモータ3には駆動電流が流れていないため、打撃の力は弱くなり、被締め付け材(
図4に示す石膏ボード71)に加わる締め付け力も小さくなるため、締め過ぎ状態の発生を効果的に防止できる。以上のように制御してハンマ爪24a、24bがアンビル爪28a、28bを乗り上げて後退するようなハンマバック状態が起きたらマイコン40はモータ3への駆動電流の供給を停止して、通常の打撃動作が行われないように制御する。この制御により、打撃動作では締め付けトルクが高すぎてしまうような軟弱部材へのネジの締め付けを良好に行うことができる。尚、
図13に示したように、本実施例ではハンマ24の後退時にモータ3への駆動電流の供給を完全に停止しているが、完全に停止しなくても大幅に低減させて、例えば
図11の電流値69が30%未満となるように低減させるように回転を継続するように構成しても良い。
【0052】
図10に戻る。
図10のステップ132において、マイコン40は打撃の検出を行うと、駆動電流の供給を停止することによって、モータ3の駆動を停止して処理を終了する(ステップ139)。尚、モータ3は急に停止せずに慣性にて回転するため1回だけ打撃が行われることになるが、打撃直前に電源が遮断されているので、打撃の実行による木ネジ73の締め過ぎ状態が発生する虞はない。
【0053】
ステップ132において、マイコン40は打撃の検出ができない場合、即ち
図13の矢印69dのように電流値Iの大幅な低下が検出できない場合は、検出された現在の電流値Iの変化量を検出する(ステップ133)。
図7で示した本実施例での原理では、電流値Iの微分値と、二階微分値を算出して、それらを元に判定しているが、マイコン40での実際異の判定は
図14に示すような方法で行う。
図14は、本実施例のインパクト工具1のソフトウェアによる着座判定の仕方を説明するための図である。ここでは電流値60が
図13のように上昇したとする。この際、マイコン40は一定の時間間隔毎、ここでは時間Tごとにモータ3へ流れる電流値を測定し、測定したn番目の電流値(nは自然数)をI
nとする。つまりI
nが測定された電流値であり、電流値I
n−1が時間Tだけ前の時刻t
n−1に測定されたものであり、電流値I
n−2が時間2Tだけ前の時刻t
n−2に測定されたものである。これらI
n、I
n−1、I
n−2は、マイコン40の内部メモリ内に一時的に格納される。時刻t
nにおいて電流値I
nの測定が終了したら、マイコン40は(I
n−I
n−1)−(I
n−1−I
n−2)の値を算出することにより、電流値60の単位時間あたりの傾きを検出する。この検出結果が、閾値TH
Sを越えたらマイコン40は木ネジ73が着座していると判断してモータ3の駆動を停止させる。
【0054】
図14において、ステップ133では現在の電流I
nと、その直前に測定された電流I
n−1を比較する。次にマイコン40の内部メモリ内に一次記憶されている電流I
n−1が測定された直前に測定された電流値I
n−2の電流量を検出する(ステップ134)。次に、現測定区間の電流値の変化量(I
n−I
n−1)と、現測定区間の1つ前の測定区間の電流値の変化量、即ち過去の電流値の変化量(I
n−1−I
n−2)の差を算出する(ステップ135)。次にマイコン40は、ステップ135で算出された電流値の変化量からモータ3を停止させるための閾値(停止閾値TH
S)を設定する。この停止閾値TH
Sの設定方法を
図15を用いて説明する。
【0055】
図15は縦軸が閾値TH
Sの大きさであり、横軸が電流値Iの値(単位A)である。ネジが着座をしたとしてモータ3を停止させるための停止閾値80は、電流I
min〜I
maxの範囲の内でリニアに変更する。ここはI
min<I<I
maxの範囲においては、TH
s=αI+βの式で閾値TH
Sを設定するようにした。α、βは係数である。TH
Sを算出するための電流値Iは、時刻1〜nまでのうち所定の範囲内の任意の電流値を用いることができるが、例えば、複数区間の電流の平均値を用いるようにすれば良い。
【0056】
図10のステップ136に戻り、ステップ136において、
図15で示した式を用いてモータ3の停止閾値80が決定したら、ステップ135にて算出した変化量の差が、設定された停止閾値TH
Sを越えたか否かを判定する(ステップ137)。ステップ135にて算出した変化量の差が停止閾値TH
Sを越えていない場合は、
図8のステップ115に戻り、停止閾値TH
Sを越えている場合はマイコン40はモータ3の駆動を停止して処理を終了する(ステップ138)。以上のようにマイコン40が停止閾値TH
Sを用いて締め付け制御をするので、木ネジ73が着座をしていて、かつ締め過ぎにならない状態でモータ3を停止させることができる。しかも、作業者がトリガレバー7aを引いたままであってもマイコン40が自動的にモータを停止するので、石膏ボード71のような軟質部材に対してのねじ締めであっても理想的な締め付けを実施できる。また、作業者は締め付けが不足しているような場合には、再度トリガレバー7aを引くことで、一定回転分の追い締めができるので、理想的な締め付け状態に到達させることができる。
【0057】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では軟質ボードの締め付けモードとして、石膏ボードを締め付ける例で説明したが、石膏ボード以外の軟質のボードや、軟質の部材をねじ締める場合にも同様に適用できる。また、電動工具としてはバッテリを用いたインパクト工具だけに限られずに、AC商用電源を用いたインパクト工具であっても良い。また、打撃機構(インパクト機構)は、ハンマとアンビルを用いた機械的なインパクト機構だけでなく、オイルパルス機構を用いた電動工具であっても良い。