(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984746
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20211213BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20211213BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20211213BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20211213BHJP
G06F 3/16 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
G01N30/02 Z
G01N30/86 Q
G01N30/86 C
G01N30/72 C
G01N27/62 D
G01N27/62 C
G06F3/16 650
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-520952(P2020-520952)
(86)(22)【出願日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2018019975
(87)【国際公開番号】WO2019224968
(87)【国際公開日】20191128
【審査請求日】2020年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 真二
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−318565(JP,A)
【文献】
特開2014−130024(JP,A)
【文献】
特開2014−202718(JP,A)
【文献】
特開2004−257740(JP,A)
【文献】
特開平11−311595(JP,A)
【文献】
特開2012−237564(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0051843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N 27/62
G06F 3/16
G06N 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行し、該分析により収集されたデータを処理して出力する分析システムにおいて、
a)使用者が発する音声を受け付ける音声入力部と、
b)前記音声入力部で受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力するものであって、複数の制御情報が記憶されている制御情報記憶部と、音声の認識結果に応じて前記制御情報記憶部から該当する制御情報を選択する制御情報選択部と、を含む音声認識処理部と、
c)前記制御情報に従ったデータ処理を実行するデータ処理実行部と、
を備え、前記収集されたデータは複数の分析対象成分に関連するデータを含み、前記音声認識処理部は、前記複数の分析対象成分の少なくとも一つに関連する情報の音声を認識するものであり、前記制御情報選択部は、その認識結果に対応する分析対象成分に関連するデータを前記収集されたデータから抽出するための制御情報を前記制御情報記憶部から選択することを特徴とする分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の分析システムであって、
前記音声認識処理部が認識する前記分析対象成分に関連する情報は、分析対象成分の名称、部分構造情報、質量電荷比、又は保持時間のいずれかであることを特徴とする分析システム。
【請求項3】
試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行し、該分析により収集されたデータを処理して出力する分析システムにおいて、
a)使用者が発する音声を受け付ける音声入力部と、
b)前記音声入力部で受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力するものであって、複数の制御情報が記憶されている制御情報記憶部と、音声の認識結果に応じて前記制御情報記憶部から該当する制御情報を選択する制御情報選択部と、を含む音声認識処理部と、
c)前記制御情報に従ったデータ処理を実行するデータ処理実行部と、
を備え、前記収集されたデータは該データに対して所定のデータ処理を実行して得られる定量値を含み、前記音声認識処理部は、前記定量値についての値の範囲に関する情報の音声を認識するものであり、前記制御情報選択部は、その認識結果に対応する値の範囲内又は値の範囲外の定量値に対応するデータを前記収集されたデータから抽出するための制御情報を前記制御情報記憶部から選択することを特徴とする分析システム。
【請求項4】
請求項3に記載の分析システムであって、
前記収集されたデータはクロマトグラムデータであることを特徴とする分析システム。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の分析システムであって、
前記データ処理実行部は、所定のデータ処理のための条件、パラメータ又は処理対象のデータを前記制御情報に従って変更したうえで該所定のデータ処理を実行することを特徴とする分析システム。
【請求項6】
請求項5に記載の分析システムであって、
前記音声認識処理部は、前記所定のデータ処理の変更に関連する情報の音声を認識し、その認識結果に対応するデータ処理の変更を実行するための制御情報を出力することを特徴とする分析システム。
【請求項7】
請求項6に記載の分析システムであって、
前記収集されたデータはクロマトグラムデータであり、
前記データ処理の変更に関連する情報は、クロマトグラムデータに対し所定の時間範囲内の信号強度を積算してその積算値に基づいて定量値を取得する際の積算時間範囲の変更に関連するものであることを特徴とする分析システム。
【請求項8】
請求項6に記載の分析システムであって、
前記収集されたデータはクロマトグラムデータであり、
前記データ処理の変更に関連する情報は、クロマトグラムデータに対するスムージング処理の変更に関連するものであることを特徴とする分析システム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の分析システムであって、
試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行する分析装置本体として、クロマトグラフ又は質量分析装置を用いたことを特徴とする分析システム。
【請求項10】
試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行する一又は複数の分析装置本体と、該一又は複数の分析装置本体とそれぞれ通信線を通して接続され、該分析装置本体をそれぞれ統括的に制御する機能を有する管理装置と、を含む分析システムにおいて、
a)使用者が発する音声を受け付ける音声入力部と、
b)前記音声入力部で受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力する音声認識処理部と、
c)前記制御情報に従って一又は複数の分析装置本体からその装置の状態を示す情報を収集する情報収集部と、
d)前記情報収集部で収集された装置の状態を示す情報に対応する音声を合成する音声合成部と、
e)前記音声合成部で合成された音声を出力する音声出力部と、
を備えることを特徴とする分析システム。
【請求項11】
請求項10に記載の分析システムであって、
前記制御情報に従って一又は複数の分析装置本体の動作を制御する制御部をさらに備えることを特徴とする分析システム。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の分析システムであって、
試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行する分析装置本体として、クロマトグラフ又は質量分析装置を用いたことを特徴とする分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ(LC)、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS)、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)などの機器分析のための分析装置を含む分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LC−MSやGC−MSなどの分析装置を用いた機器分析の目的は非常に多様化しており、それに伴い分析手法も非常に多様化するとともに複雑になっている。そのため、データを収集するための分析装置そのものや分析装置で収集されたデータをコンピュータ上で処理するソフトウェア(例えば非特許文献1参照)も非常に多機能で複雑になっている(以下、本明細書中では、「分析装置で収集されたデータをコンピュータ上で処理するソフトウェア」を単に「ソフトウェア」又は「データ処理用ソフトウェア」という場合がある)。
【0003】
一方、従来、上記のような分析装置を用いた分析作業は、専門知識を有する技術者や大学や研究機関の研究者により行われるのが一般的であった。しかしながら、最近では、分析作業を専門的に請け負う受託分析機関(会社)も増えており、そうした機関では、分析コストの低減やスループットの向上等を図るために、分析に関する専門知識が殆どない作業者が分析作業に携わることも多くなってきている。こうしたことから、分析装置やデータ処理用ソフトウェアに関しては、初心者であっても容易に扱えるという操作の簡易性の要望が非常に高まっている。
【0004】
即ち、分析装置やデータ処理用ソフトウェアはますます高機能化、複雑化しているのに対し、そうした装置やソフトウェアの操作にはより一層の簡易性が求められている。
【0005】
こうした要求に応えるために、従来の分析装置やデータ処理用ソフトウェアでも操作性を改善するための様々な工夫がなされている。例えば一般に上記のようなソフトウェアでは、それに盛り込まれている多数の機能のそれぞれの使用頻度に応じて、使用頻度の高い機能は使用頻度の低い機能に比べて相対的に少ない手間でアクセスできる(つまりは使用可能な状態になる)ように設計されている。
【0006】
しかしながら、多くの機能が搭載されたソフトウェアでは、全ての機能について使用頻度に応じた最適な操作性を実現するようにその操作手順を定めることは難しい。そのため、比較的使用頻度が高いにも拘わらず、複数回のクリック操作によるメニュー探索や選択操作等が必要であるなど、操作性が良好でない機能が含まれることが避けられない。その結果、操作に未熟な作業者にとっては、目的とする機能を使用可能な状態にすることが難しい場合がしばしばある。一方、操作に習熟した作業者にとっても、目的とする機能を使用可能な状態にするまでに複数回のクリック操作等を頻繁に強いられることがあるため、作業効率が悪くスループット低下の要因になる。
【0007】
また従来の分析システムでは次のような問題もある。
一般に、LC、GC等を用いた機器分析では、分析対象の試料を調製するために前処理等の作業を行う必要がある場合が多い。受託分析機関等の特に効率性を重視する現場では、作業者は分析装置を用いた分析の実施と並行して、試料の調製作業を実施することが多い。そのため、効率的に作業を進めるには、作業者は試料調製作業中に、分析装置に空きがあるかどうか、或いは、分析装置が直ぐに分析可能な状態になっているかどうか等の確認を行う必要がある。
【0008】
しかしながら、試料の調製作業は、分析装置や該分析装置用のコンピュータから離れた、専用のドラフト設備が備えられた区画内で行われることが多い。また、そうした作業の際には、作業者は薬品取扱い作業専用の衣服や手袋を装着するのが一般的である。そのため、作業者が分析装置やソフトウェアを操作して分析装置の状況等を確認するには、試料調製の作業を一時的に中断しなければならず、作業に無駄な時間が生じ易い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「LabSolutions Insight GC/MS & LC/MS用 多検体定量支援ソフトウェア LabSolutions Insight」、[平成30年5月16日検索]、株式会社島津製作所、インターネット<URL :https://www.an.shimadzu.co.jp/data-net/labsolutions/insight/index.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の目的とするところは、多様で複雑な機能を有しながら、操作に未熟練で専門的な知識が乏しい作業者であってもミスなく且つ効率的に操作が可能である分析システムを提供することである。
【0011】
また本発明の第2の目的は、分析装置やそれを制御するコンピュータ等から離れた場所に作業者が居たり、或いは、作業者が分析装置やコンピュータの操作を直ぐには行えない状況にあったりする場合であっても、分析装置の稼働状況などの様々な確認を簡便且つ無駄な時間を費やすことなく行うことができる分析システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の目的を達成するために成された本発明の第1の態様
の一形態は、試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行し、該分析により収集されたデータを処理して出力する分析システムにおいて、
a)使用者が発する音声を受け付ける音声入力部と、
b)前記音声入力部で受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力する
ものであって、複数の制御情報が記憶されている制御情報記憶部と、音声の認識結果に応じて前記制御情報記憶部から該当する制御情報を選択する制御情報選択部と、を含む音声認識処理部と、
c)前記制御情報に従ったデータ処理を実行するデータ処理実行部と、
を備え、
前記収集されたデータは複数の分析対象成分に関連するデータを含み、前記音声認識処理部は、前記複数の分析対象成分の少なくとも一つに関連する情報の音声を認識するものであり、前記制御情報選択部は、その認識結果に対応する分析対象成分に関連するデータを前記収集されたデータから抽出するための制御情報を前記制御情報記憶部から選択することを特徴としている。
この構成において、前記音声認識処理部が認識する前記分析対象成分に関連する情報は、分析対象成分の名称、部分構造情報、質量電荷比、又は保持時間のいずれかであるものとするとよい。
また本発明の第1の態様における別の形態は、試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行し、該分析により収集されたデータを処理して出力する分析システムにおいて、
a)使用者が発する音声を受け付ける音声入力部と、
b)前記音声入力部で受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力するものであって、複数の制御情報が記憶されている制御情報記憶部と、音声の認識結果に応じて前記制御情報記憶部から該当する制御情報を選択する制御情報選択部と、を含む音声認識処理部と、
c)前記制御情報に従ったデータ処理を実行するデータ処理実行部と、
を備え、前記収集されたデータは該データに対して所定のデータ処理を実行して得られる定量値を含み、前記音声認識処理部は、前記定量値についての値の範囲に関する情報の音声を認識するものであり、前記制御情報選択部は、その認識結果に対応する値の範囲内又は値の範囲外の定量値に対応するデータを前記収集されたデータから抽出するための制御情報を前記制御情報記憶部から選択することを特徴としている。
この構成において、前記収集されたデータはクロマトグラムデータであるものとするとよい。
【0013】
また上記第2の目的を達成するために成された本発明の第2の態様は、試料に対する化学的な又は物理的な分析を実行する一又は複数の分析装置本体と、該一又は複数の分析装置本体とそれぞれ通信線を通して接続され、該分析装置本体をそれぞれ統括的に制御する機能を有する管理装置と、を含む分析システムにおいて、
a)使用者が発する音声を受け付ける音声入力部と、
b)前記音声入力部で受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力する音声認識処理部と、
c)前記制御情報に従って一又は複数の分析装置本体からその装置の状態を示す情報を収集する情報収集部と、
d)前記情報収集部で収集された装置の状態を示す情報に対応する音声を合成する音声合成部と、
e)前記音声合成部で合成された音声を出力する音声出力部と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る第1及び第2の態様の分析システムではいずれも、従来は例えば操作パネルのキー操作、或いは、コンピュータ用キーボードのキー入力やマウス等のポインティングデバイスのクリック操作、ドラッグ&ドロップ操作などにより実行されていた各種の操作や入力の作業に代えて、音声認識技術を用いた操作や入力を利用する。そのために、本発明は、使用者が発する音声を受けてこれを電気信号に変換するマイクを含む音声入力部と、受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力する音声認識処理部と、を備える。音声入力部は、入力された音声の背景ノイズを除去するノイズリダクション、音声自体を明瞭化するエコーキャンセルなどの機能を含むことができる。
【0015】
音声認識処理部における音声認識には周知の様々なアルゴリズムを用いることができる。一般的には、入力された、特定のキーワードを一つ以上含む音声を認識して言語化処理を行う。そして、その言語化処理により得られた一又は複数の単語等のキーワードに対応する制御や処理のための制御情報を導出する。この処理にはAI(人工知能)技術を用いることも可能ではあるが、予め用意されているデータベースを用いた検索によって、対応する制御情報を抽出する処理を行うものでもよい。
【0017】
制御情報は例えば実際の処理のためのコマンドであるが、具体的な処理内容を示すコマンドではなく単にコマンドに紐付けされた制御コードでもよい。その場合、或る制御コードに紐付けされているコマンドの処理内容を変更することで、同じ音声に対応して同じ制御コードが出力されたときに、異なる処理を実行することができる。
【0018】
本発明の第1の態様においてデータ処理実行部は、音声認識処理部から出力された制御情報に従ったデータ処理を実行する。上述したように制御情報が制御コードであり、各種の制御コードに紐付けされたコマンドをデータ処理実行部が有している場合には、受け取った制御コードに対応するコマンドを選択し、該コマンドに従ったデータ処理を実行する。ここでいうデータ処理は、分析により収集されたデータそのものに関する処理のみならず、その処理の結果として得られた分析結果データ、例えば化合物毎の定量値のデータに基づくリストを作成したりグラフを作成したりして表示する際の処理なども含む。
【0023】
また本発明の第1の態様にお
いて、前記データ処理実行部は、所定のデータ処理のための条件、パラメータ又は処理対象のデータを前記制御情報に従って変更したうえで該所定のデータ処理を実行する構成とすることができる。
【0024】
例えば、LCやGCといったクロマトグラフ、又はLC−MSやGC−MSといった該クロマトグラフと結合された質量分析装置はいわゆる多成分一斉分析にしばしば用いられるが、そうした分析では分析対象の化合物の種類が数十から数百に及ぶ場合がある。その場合、一つの試料を分析することで、多数の化合物それぞれについての一つ又は複数のクロマトグラム(抽出イオンクロマトグラム)を構成するデータが収集されるため、測定データの量はかなり多くなるし、その測定データを処理することで得られる定量値データ等の量も多くなる。また、多数の試料についての多成分一斉分析が一度に行われることも多く、その場合には、得られるデータの量はさらに一層膨大となる。そのため、得られた分析結果の中から、使用者(作業者)が着目すべき或いは本当に確認すべきデータを見つけるだけでも、そのための絞り込み条件を選択したり指定したりするために煩雑な操作が必要になる。
【0025】
これに対し上記各形態のシステムにおいて、多量のデータの中から確認したいデータを選択する又は絞り込む条件を音声で入力できるようにしておけば、絞り込み条件を設定するための面倒な操作が不要になる。一般に、詳細な条件を設定したうえでデータの絞り込みを行うには複数段階のメニュー選択が必要になるが、音声入力により絞り込み条件を設定できるようにすることで、操作を大幅に簡略化することができる。
【0026】
また、クロマトグラフや質量分析装置のためのデータ処理用ソフトウェアには、多くの自動処理機能が用意されている。例えば、定量分析の際には、採取されたデータから作成されるクロマトグラムに対し自動波形処理により、目的化合物に由来する信号があると想定される時間領域を切り出す作業が実施される。こうした波形処理では、様々な特性のデータに対応できるように数多くのパラメータが用意されており、使用者はどのようなパラメータが適切であるのかを判断して該パラメータを設定しなければならない。通常、こういったパラメータの設定にも、複数段階のメニュー選択などの煩雑な操作が必要である。
【0027】
これに対し、上記各形態の構成において、データ処理のためのパラメータの変更を音声で指示できるようにしておけば、パラメータを設定するための面倒な操作が不要になる。また、一般に、こうしたデータ処理のためのパラメータは数値情報であるが、数値ではなく、例えば「大きい」、「小さい」、「高い」、「低い」、「広い」、「狭い」といった、具体的な数値を提示しない、方向性や大雑把な傾向を示すキーワードで指示を行うことができるようにしておき、実際のコマンドではその音声に数値をパラメータとして含む処理を対応付けるとよい。これにより、パラメータの意味を十分に理解していない使用者であっても、直感的に操作を行うことができ、その操作に応じた処理の結果を使用者が確認したうえで、必要に応じて追加の操作を行うことができる。これにより、操作の簡易性が一層向上する。
【0028】
本発明の第1の態様の分析システムにおいて、試料に対する分析手法は特に限定されないが、本発明の趣旨から鑑みて、分析やデータ処理における機能が多様で且つ複雑であり、分析により得られるデータの量や分析結果であるデータの量が多くなるような分析手法に本発明が特に有用であることは明らかである。こうした点で、本発明は、GCやLC、特に質量分析装置を検出器とするGC−MSやLC−MSを用いた分析システムに好適である。
【0029】
なお、本発明の第1の態様において、音声認識処理部の機能の少なくとも一部とデータ処理実行部の機能の少なくとも一部はいずれも、コンピュータにインストールされたソフトウェア(プログラム)を該コンピュータで実行することで実現することができるが、それらは必ずしも同じコンピュータである必要はない。
【0030】
本発明の第2の態様の分析システムは、それぞれ通信線を通して接続された一又は複数の分析装置本体と管理装置とを含む。第1の態様の分析システムと同様に、音声入力部は、使用者が発する音声を受けてこれを電気信号に変換するマイクを含み、音声認識処理部は受け付けられた音声を認識し、その認識結果に応じた制御情報を出力する。音声入力部及び音声認識処理部はそれぞれ、分析装置本体又は管理装置の一部であってもよいし、或いはそれらとは別体であってもよい。
【0031】
情報収集部は管理装置の一部であり、音声認識処理部から出力された制御情報に従って、一又は複数の分析装置本体からその装置の状態を示す情報を収集する。具体的には例えば、分析装置本体がその時点でどのようなステータス(稼働中、分析準備が完了した待機中等)であるのかを示す情報、複数の試料を順番に分析する場合に未分析の試料を特定する情報、など様々な情報を収集できるようにするとよい。また、分析装置本体が複数である場合には、その中の特定の分析装置本体の状態を示す情報を収集してもよいし、全ての分析装置本体の状態を示す情報を収集してもよい。
【0032】
装置の状態を示す情報が収集されると、音声合成部は、その情報に対応する音声を合成する。そして、音声出力部は合成された音声をスピーカ等を通して出力する。したがって、本発明の第2の態様では第1の態様とは異なり、使用者が音声入力部を通して自らが確認したい装置の状態を問い合わせるための特定のキーワードを含む発声を行うと、これに応答して音声出力部を通して音声で問い合わせの結果が通知される。
【0033】
また本発明の第2の態様の分析システムでは、前記制御情報に従って一又は複数の分析装置本体の動作を制御する制御部をさらに備える構成とすることができる。
【0034】
この構成によれば、使用者は、分析装置本体の状態を確認したうえで該分析装置本体で何らかの動作を実行させたい場合に、音声の指示により、その動作を開始させるようにすることができる。例えば、或る分析装置本体が自動チューニングの実行開始待ちの状態であることが確認できたならば、自動チューニングを実行するように音声で指示することができる。
【0035】
なお、本発明の第2の態様の分析システムでは、分析装置本体の状態のみならず、分析によって得られたデータやそれに基づく分析結果など、様々な情報を音声で問い合わせ、その応答を音声で得る構成とすることもできる。例えば、分析により収集されたデータが正常であるかどうか、或いは分析結果に基づいて異常であると推定される試料がないかどうか、などの情報を音声で取得するようにすることができる。
【0036】
また、本発明の第2の態様では、音声認識処理部の機能の少なくとも一部、情報収集部の機能の少なくとも一部、及び、音声合成部の機能の少なくとも一部はいずれも、コンピュータにインストールされたソフトウェア(プログラム)を該コンピュータで実行することで実現することができるが、それらは必ずしも同じコンピュータである必要はない。
【発明の効果】
【0037】
本発明の第1の態様の分析システムによれば、機能が多様であったり複雑であったりしても、データ処理のための条件入力やパラメータ設定などの操作を簡略化することができる。それにより、例えば操作に未熟練で専門的な知識が乏しい使用者であっても、データ処理に関する適切な操作を実行して、正確な分析結果を効率的に取得することができる。
【0038】
また本発明の第2の態様の分析システムによれば、使用者が分析装置やコンピュータの操作を直ぐには行えない状況にある場合であっても、分析装置の稼働状況などの様々な情報の確認を即座に且つ簡便に行うことができる。それにより、分析装置の稼働状況などを確認するために無駄な時間を費やすことがなく、分析作業全体のスループットを向上させ分析コストを引き下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第1実施例であるLC−MSシステムの概略ブロック構成図。
【
図2】第1実施例の変形例であるLC−MSシステムの概略ブロック構成図。
【
図3】第1実施例のLC−MSシステムにおける特徴的な動作を説明するための表示画面の一例を示す図。
【
図4】第1実施例のLC−MSシステムにおける特徴的な動作を説明するための表示画面の他の例を示す図。
【
図5】第1実施例のLC−MSシステムにおける特徴的な動作を説明するための表示画面の他の例を示す図。
【
図6】第1実施例のLC−MSシステムにおける特徴的な動作を説明するための表示画面の他の例を示す図。
【
図7】本発明の第2実施例であるLC−MSシステムの概略ブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[第1実施例]
本発明の第1実施例であるLC−MSシステムについて、添付図面を参照して説明する。
図1は第1実施例のLC−MSシステムの概略ブロック構成図である。
【0041】
このLC−MSシステムは、液体クロマトグラフ(LC)部101及び質量分析(MS)部102を含む分析装置本体100と、データ収集部110と、データ処理部120と、表示部130と、操作部140とを備え、さらに音声操作処理部150を備える。
【0042】
音声操作処理部150は、マイクを含む音声入力部151と、音声認識部152と、スピーカを含む音声出力部153と、音声合成部154と、制御情報選択部155と、制御情報データベース(DB)156と、を機能ブロックとして含む。
【0043】
このLC−MSシステムでは、分析装置本体100において液体試料についてのLC/MS分析が実行され、例えば予め決められた多数の化合物にそれぞれ対応する質量電荷比をターゲットとする抽出イオンクロマトグラムを構成するデータが取得される。データ収集部110はデータ格納部を含み、時間経過に伴って分析装置本体100で得られたデータを受けて格納する。データ処理部120は例えば、データ収集部110に格納されたデータに基づいて抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上で観測される目的化合物に対応するピークの面積を求める。そして、予め作成しておいた検量線に得られたピーク面積を適用して、目的化合物の濃度(含有量)を算出する。そうして化合物毎に得られた濃度値をリスト化して表示部130の画面上に表示する。
【0044】
従来の一般的なLC−MSシステムでは、データ処理部120における上述したようなデータ処理に必要なパラメータの設定や変更、処理対象であるデータの選定や変更などは操作部140を通したユーザ(使用者)の手動入力や手動操作により実施される。一般に、データ収集部110やデータ処理部120の実体はパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータであり、該コンピュータにインストールされた専用のソフトウェアを該コンピュータで実行することでデータ処理の機能が達成される。
【0045】
これに対し本実施例のLC−MSシステムでは、音声操作処理部150の機能を利用し、使用者が発する音声での指示や操作によって、データ処理に必要なパラメータの設定や変更、或いは処理対象であるデータの選定や変更などを行うことができる。
【0046】
即ち、音声での指示や操作を行いたい場合、使用者は予め決められた起動キーワードを発声する。音声操作処理部150において音声入力部151は常時、マイクで収集された音声を電気信号に変換し音声認識部152に入力する。入力された音声の認識率を上げるために、音声入力部151はノイズリダクション、エコーキャンセルなどの音声処理を実施する。音声認識部152は入力された音声を解析して起動キーワードであるか否かを繰り返し判定し、起動キーワードが発声された場合にはその旨を制御情報選択部155に通知し、制御情報選択部155を起動させる。なお、ここでは音声認識部152における音声認識のアルゴリズムは特に限定されず、周知のものを適宜採用することができる。
【0047】
起動キーワードに応じて制御情報選択部155が起動されたとき、つまりは実質的に音声操作が可能な状態になったときに、音声合成部154はその旨を報知する音声を合成して、音声出力部153から使用者に通知することができる。
【0048】
使用者は起動キーワードを発声して音声操作処理部150を動作可能な状態に移行させたあと、指示や操作の内容に応じて予め決められた一又は複数のキーワードを含む音声を発する。音声認識部152は音声入力部151を通して入力された音声を解析し、言語化処理を行うことで一又は複数のキーワード(単語)を抽出する。制御情報選択部155は一又は複数のキーワードを受けて、制御情報データベース156を参照してそのキーワードに対応する制御情報を検索する。この検索のために、制御情報データベース156には、キーワード情報と制御情報とが関連付けてデータベース化されている。
【0049】
制御情報はデータ処理に関する一種のコマンドそのもの又はコマンドに対応する制御コードである。制御情報選択部155は該当する制御情報が見つかった場合には、該制御情報をデータ処理部120に送出する。また、制御情報選択部155から指示を受けた音声合成部154は、見つかった制御情報に対応する処理を実施する旨の音声を合成し、音声出力部153により出力する。これにより、使用者は自らの指示が適切に受け付けられたことを確認することができる。
【0050】
一方、該当する制御情報が見つからなかった場合には、使用者が発した音声が不適切である(キーワードが含まれない)、適切な音声認識ができていない等の原因が考えられる。そこで、制御情報選択部155から指示を受けた音声合成部154は、音声での指示を再度出すよう使用者に促す音声を合成し、音声出力部153により出力する。これにより、使用者は自らの指示が適切に受け付けられなかったことを確認することができる。
【0051】
制御情報選択部155から制御情報を受け取ったデータ処理部120は、該制御情報に従ったデータ処理を実行する。例えば制御情報がコマンドである場合には、データ処理部120はそのコマンドに対応した処理をそのまま実行する。また、上述したように制御情報がコマンドに紐付けされた制御コードである場合には、制御コードとコマンドとの対応表等に基づいて受け取った制御コードに対応するコマンドを取得し、そのコマンドに対応した処理を実行する。このようにして、本実施例のLC−MSシステムでは、操作部140を介しての手動での操作や入力に代えて、音声での操作や入力、或いは指示に従ったデータ処理が行われる。
【0052】
次に、処理の具体例を説明する。
[音声指示による絞り込み条件変更の例]
【0053】
図3(a)は、多成分一斉分析における定量結果表示画面の一例である。これは例えば非特許文献1に記載のデータ処理用ソフトウェアを利用して得られる表示画面の一例である。
【0054】
定量結果表示画面200内には、サンプルリスト表示領域201、化合物定量結果リスト表示領域202、及びグラフ表示領域203が配置されている。サンプルリスト表示領域201には、一度に分析された複数の試料について、サンプルを分析した結果である測定データが格納されたサンプルファイル名、サンプルの種類等の情報を含むリストが表示される。化合物定量結果リスト表示領域202には、サンプルリスト表示領域201に表示されているリスト上の一つのサンプルを分析した結果に基づく、化合物名、質量電荷比(MRM(多重反応モニタリング)トランジション)、保持時間、ピーク面積値などを含む化合物定量結果リストが表示される。また、グラフ表示領域203には、化合物定量結果リストに示されている各化合物の定量に用いられたクロマトグラム波形などが表示される。
【0055】
試料に含まれる残留農薬検査等のスクリーニングなどの場合、通常、一度に多数のサンプルが分析されるし、一つのサンプルについて多数の化合物の定量値が求められる。そのため、得られた定量結果を全て表示すると、
図3(a)に示されているようにサンプルリストや化合物定量結果リストの行数が非常に多く、表示されるグラフの数も膨大になる。その結果、使用者が本当に確認する必要がある分析結果を見落とす又は見間違う可能性がある。そこで、通常、使用者は操作部140を操作することで、表示するサンプルや化合物を所定の条件に従ったもののみに絞り込む。しかしながら、そのためには、マウスのクリック操作等による複数回のメニュー探索や選択指示の操作を行う必要があり、かなり手間が掛かる。
【0056】
一般に、スクリーニングの結果を確認する際には、化合物の定量値が予め設定された許容範囲内に収まっていないもののみを確認したいことが多い。本実施例のLC−MSシステムでは、こうした場合に使用者は「外れ値を表示する」と音声で指示を与える。音声操作処理部150において音声認識部152では、「外れ値」、「表示する」とのキーワードが抽出され、制御情報選択部155ではそれらキーワードに対応する制御情報が選択される。この制御情報を受けたデータ処理部120は、表示する対象のサンプルや化合物を、その定量値が予め設定された許容範囲内に収まっていないと判定されたものだけに絞り込む処理を実行し、絞り込みで残ったデータに基づく表示を行う。
図3(b)はこうして絞り込まれたあとの定量結果表示画面200である。この定量結果表示画面200には、使用者が確認したい項目やグラフのみ表示されるので、見落としや見間違いを無くすことができる。
【0057】
また多成分一斉分析では、特定の化合物についての定量結果を確認したいこともしばしばある。よくあるのは、特定の「基」を部分構造として含む化合物のみを選択的に確認したいような場合である。例えばメチル基を含む化合物のみを表示したい場合、使用者は「メチルでフィルタする」と音声で指示を与える。音声認識部152では、「メチル」、「フィルタ」とのキーワードが抽出され、制御情報選択部155ではそれらキーワードに対応する制御情報が選択される。この制御情報を受けたデータ処理部120は、表示する化合物をメチル基を含む化合物のみに絞り込むような処理を実行し、絞り込みで残ったデータに基づく表示を行う。メチル基を含む特定の化合物の絞り込みは、サンプルリスト表示領域201や化合物定量結果リスト表示領域202に記載されている、化合物名、部分構造名称、質量電荷比、又は保持時間からの推定などに基づいてデータを絞り込むことで実行可能となる。
【0058】
図4(a)はこうした絞り込み前の化合物定量結果リスト、
図4(b)は絞り込み後の化合物定量結果リストの例である。このように、使用者が確認したい化合物のみがリストに表示されるので、リストが見易くなり、使用者による見落としや見間違いを無くすことができる。
【0059】
上記例のように、予め決められた特定のキーワードを使用者が発声することで、表示する画面の全体やその一部を、適宜絞り込んだ新たな画面に切り替えることができる。こうした機能により、操作部140による操作では必要であった、複数回のクリック操作等によるメニューの探索などを実施する手間を省き、効率的に解析作業を進めることができる。
【0060】
[音声指示によるデータ処理用パラメータ変更の例]
上述したようにクロマトグラムに基づいて化合物を定量する場合、通常、該クロマトグラムで観測される目的化合物由来のピークのピーク面積を求める作業が必要である。そのためには、クロマトグラム波形の所定区間(典型的にはピーク開始点とピーク終了点との間の区間)を指定し、その所定区間に亘る信号強度値を積算することが必要である。ピークが孤立しておりベースラインもほぼ水平である場合、デフォルトで決まっているパラメータに従った波形処理により正確なピーク面積が得られる。これに対し、ピークに割れが生じていたり、複数のピークが重なっていたり、或いはベースラインが傾いていたりする場合には、デフォルトのパラメータは適切でなく、使用者が波形処理に関連するパラメータを変更しなければならない。
【0061】
図5(a)はクロマトグラム上のピークに割れが生じている場合の例である。こうしたピーク形状の異常はカラムの汚れや劣化、配管のデッドボリュームなど様々な要因による。ピークの割れと複数のピークの重なりとの区別は難しく、デフォルトのパラメータに従った波形処理を実行した場合、
図5(a)中に示されているように、二つのピークが重なっているとみなされ各ピークについてそれぞれピーク面積が計算される。複数のピークの重なりではなくピーク割れであると推定される場合、使用者が波形処理のパラメータを適宜変更したうえで波形処理を実行する必要がある。
【0062】
これに対し本実施例のLC−MSシステムでは、音声指示により波形処理のパラメータの変更が可能である。但し、ここではパラメータの数値を音声で指示するのではなく、より感覚的にパラメータを変更できるようにしている。具体的には、制御情報データベース156に、「ピーク」、「広く積分する」というキーワードに対応する制御情報で示されるコマンドを、「最小半値幅を10%増加させる」という処理として定義しておく。
【0063】
ピーク割れがあると推測されるピーク全体を一つのピークとして面積を算出したい場合、使用者は「ピークを広く積分する」と音声で指示を与える。すると、音声認識部152では、「ピーク」、「広く積分する」とのキーワードが抽出され、制御情報選択部155ではそれらキーワードに対応する制御情報が選択される。この制御情報を受けたデータ処理部120は、最小半値幅を10%増加させてピーク検出を実行し、検出されたピークについて面積を算出する。これにより、
図5(b)に示すように、ピーク割れがあると推測されるピークを重なりのある二つのピークとして検出する代わりに一つのピークとして検出し、そのピーク全体の面積を算出することができる。
【0064】
また波形処理の別の例として、ピークに重畳している高周波ノイズを除去するためのスムージング処理を音声の指示により実行する場合、制御情報データベース156に、「ピーク」、「なめらかにする」というキーワードに対応する制御情報で示されるコマンドを、「スムージング処理の回数を1回だけ増加させる」という処理として定義しておく。
【0065】
ピークに重畳しているノイズを除去したい場合、使用者は「ピークをなめらかにする」と音声で指示を与える。すると、音声認識部152では、「ピーク」、「なめらかにする」とのキーワードが抽出され、制御情報選択部155ではそれらキーワードに対応する制御情報が選択される。この制御情報を受けたデータ処理部120は、所定のスムージング処理を1回だけ実行する。これにより、
図6(a)に示すようなピーク波形が
図6(b)に示すようになる。
【0066】
このように特定のキーワードに対し制御情報を介して特定の処理を実行するコマンドを定義しておくことで、操作部140による面倒な操作を行うことなく、直感的にパラメータの変更等を行うことができる。
【0067】
図1に示したLC−MSシステムでは、音声操作処理部150は音声に応じた操作や制御を行うために必要な機能ブロックを全て備えている。この音声操作処理部150における音声入力部151及び音声出力部153以外の構成要素は、CPU、ROM、RAM等を含むコンピュータを中心に構成することができる。但し、音声入力部151及び音声出力部153以外の構成要素は、米国グーグル(Google)社などがネットワーク経由で提供しているクラウドサービスを利用して構成することもできる。
図2はそうしたサービスを利用する場合のシステム構成の一例である。
【0068】
図1中の音声操作処理部150に含まれる構成要素は、
図2では、使用者の近傍にある使用者端末160とサーバ170とに分けられており、使用者端末160とサーバ170とはインターネット等のネットワーク180を介して接続されている。送受信部163及び171は主としてネットワーク180を介したデータの授受のための構成要素であり、音声操作処理部における本質的な構成要素ではない。このようにクラウドサービスを利用する場合でも、音声での指示に応じたデータ処理を行う際の動作は上述したものと同じである。
【0069】
[第2実施例]
次に本発明の第2実施例であるLC−MSシステムについて、添付図面を参照して説明する。
図7はこの第2実施例によるLC−MSシステムの概略ブロック構成図である。
このシステムでは複数台(
図7では3台)の分析装置本体300A、300B、300Cが社内LANなどのネットワーク310に接続されている。分析装置本体300A〜300Cは第1実施例と同様に、それぞれがLC−MSでもよいし、異なる種類の分析装置でもよい。
【0070】
ネットワーク310には分析管理装置320が接続されており、分析管理装置320は、音声入力部321、音声認識部322、音声出力部323、音声合成部324、制御情報選択部325、制御情報データベース326、装置状態情報収集部327、分析制御部328を含む。音声入力部321、音声認識部322、音声出力部323、音声合成部324、制御情報選択部325、及び制御情報データベース326は、基本的に、
図1に示したシステムにおける音声入力部151、音声認識部152、音声出力部153、音声合成部154、制御情報選択部155、及び制御情報データベース156と同じである。但し、制御情報データベース156に格納されている制御情報がどのようなコマンドに対応するかという情報内容は異なる。
【0071】
本実施例のLC−MSシステムでは、分析装置本体300A〜300Cと分析管理装置320とが離れて設置されている場合でも、分析管理装置320に搭載されている音声操作処理機能を利用して装置の分析装置本体300A〜300Cの稼働状況を確認したり、或いは分析装置本体300A〜300Cを稼働させたりすることができる。
【0072】
具体的には、制御情報データベース326には、分析装置本体300A〜300Cの識別番号を含む所定のキーワードに対応付けて装置状態情報収集部327や分析制御部328で実行すべき処理内容が格納されている。使用者が特定の分析装置本体の稼働状況などを確認したい場合、その確認したい内容に応じて予め決められたキーワードを発声する。ここで、音声操作により確認が可能な情報は様々であり、例えば以下のようなものを含む。
【0073】
(1)分析装置本体のステータス(分析実行中、分析実行が直ぐに可能である待機動作中、直ぐに分析を実行することができない自動チューニング動作中など)の確認。
(2)稼働中である分析装置本体について、分析が終了する大凡の時刻や残り時間の確認。
(3)稼働中である分析装置本体について、未分析のサンプルの数の確認。
(4)稼働中である分析装置本体について、LCの移動相等の消耗品の残量の確認。
(5)稼働中である分析装置本体で採取されたデータに異常なデータが含まれないかどうかの確認。
【0074】
例えば識別番号が1番である分析装置本体が使用可能な状態であるかを確認したい場合、使用者は「1番の装置は使用可能か?」と音声を発する。音声認識部322では、音声入力部321を介して入力された音声から「1番の装置」、「使用可能か」とのキーワードが抽出され、制御情報選択部325ではそれらキーワードに対応する制御情報が選択される。この制御情報を受けた装置状態情報収集部327は指示内容を把握し、ネットワーク310を通して1番である分析装置本体300Aにアクセスし、その時点での該装置のステータス情報を収集する。そして、収集したステータス情報から指示内容に応じた情報を選択し、それに対応する音声を合成するように音声合成部324に指示を与える。
音声合成部324は、指示に応じて例えば「1番の装置は現在準備中です」、或いは「1番の装置は現在使用中です」といった音声を合成する。そして、音声出力部323はこの合成された音声を出力することで、使用者の問いかけに応答する。
【0075】
また本実施例のLC−MSシステムでは、音声の指示により、分析装置本体300A〜300Cにおける一部の動作を制御することもできる。例えば分析装置本体300A〜300Cでは、一連の分析を終了したあと次の分析を行う前に例えば直前の分析の際に生じたチャージアップを解消する処理を実施したり、或いは各部のパラメータの最適な状態に調整したりするために自動チューニング処理を実行する必要がある。そこで、稼働中でなくまた準備終了若しくは準備中でもない分析装置があることが確認できた場合、使用者は装置番号を指定したうえで所定の時間経過後又は所定の時刻に使用可能な状態になるように自動チューニングの実行を行うよう音声で指示を発する。
【0076】
音声認識部322は入力された音声から所定のキーワードを抽出し、制御情報選択部325ではそれらキーワードに対応する制御情報を選択する。この制御情報を受けた分析制御部328は指示内容を把握し、ネットワーク310を通して指定された分析装置本体にアクセスし、指定されたで時間経過後又は指定された時刻に使用可能な状態になるように自動チューニング処理を起動させる。
【0077】
以上のようにして本実施例のLC−MSシステムでは、使用者が分析装置本体300A〜300Bから離れた場所に居る場合や、使用者の手が塞がっていて直ぐに手動での操作を行うことができない場合であっても、分析管理装置320に対して音声で操作を行ったり指示を与えたりすることにより、分析装置本体についての情報を取得したり分析装置本体の動作を制御したりすることができる。これにより、例えばクリーンルームのような出入りに手間のかかる環境からでも、別室の分析装置本体の状況を確認したり動作させたりすることができるので、分析装置本体の無駄な待機時間を削減するとともに、使用者の無駄な作業に掛かる時間を減らすことができる。
【0078】
図7に示した構成では、音声操作処理のための全ての構成要素が分析管理装置320に含まれているが、
図2を参照して説明したように、ネットワーク経由で提供されるクラウドサービスを利用して音声認識やジョブ管理を行ってもよい。特に第2実施例のLC−MSシステムでは、音声操作を行いたい使用者が分析装置本体を制御したり管理したりするためのコンピュータから離れた場所に居るケースも想定される。そこで、スマートホンやタブレット型PCなどの可搬型の端末に音声入力部321及び音声出力部323の機能を搭載し、ブルートゥース(Bluetooth:登録商標)やワイヤレスLANなどの近距離無線通信を利用して、その可搬型端末と管理装置とを接続する構成としてもよい。これにより、使用者は可搬型端末を持ち運び、任意の場所から任意の時点で分析装置本体の状態などを確認することができる。
【0079】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0080】
具体的には、上記実施例は本発明をLC−MSを用いたシステムに適用した例であるが、分析装置本体の種類は適宜に変更することができる。
【符号の説明】
【0081】
100、300A、300B、300C…分析装置本体
101…液体クロマトグラフ部
102…質量分析部
110…データ収集部
120…データ処理部
130…表示部
140…操作部
150…音声操作処理部
151、321…音声入力部
152、322…音声認識部
153、323…音声出力部
154、324…音声合成部
155、325…制御情報選択部
156、326…制御情報データベース
160…使用者端末
161、171…送受信部
170…サーバ
180、310…ネットワーク
200…定量結果表示画面
201…サンプルリスト表示領域
202…化合物定量結果リスト表示領域
203…グラフ表示領域
320…分析管理装置
327…装置状態情報収集部
328…分析制御部