(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984763
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】圧延鋼板の金属組織評価装置、圧延鋼板の金属組織評価方法、鋼材の製造設備、鋼材の製造方法、及び鋼材の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/72 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
G01N27/72
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-552429(P2020-552429)
(86)(22)【出願日】2020年4月17日
(86)【国際出願番号】JP2020016877
(87)【国際公開番号】WO2020218192
(87)【国際公開日】20201029
【審査請求日】2020年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2019-80845(P2019-80845)
(32)【優先日】2019年4月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾関 孝文
(72)【発明者】
【氏名】松井 穣
(72)【発明者】
【氏名】安達 健二
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 純二
【審査官】
小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−318535(JP,A)
【文献】
特開2005−214885(JP,A)
【文献】
特開平09−304346(JP,A)
【文献】
特開平01−269049(JP,A)
【文献】
特開平03−024251(JP,A)
【文献】
特開平06−265525(JP,A)
【文献】
特開2002−350403(JP,A)
【文献】
特開2017−072508(JP,A)
【文献】
特開2003−161724(JP,A)
【文献】
特開平04−331392(JP,A)
【文献】
特開2006−234733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 − G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加し、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する処理を、少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について行うことにより、前記評価対象点について少なくとも2つ以上の異なる磁化方向の磁気特性を計測する磁気特性計測部と、
前記磁気特性計測部によって計測された磁気特性を用いて前記評価対象点における金属組織を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記磁化方向に対する磁気特性の周期的変動成分から前記金属組織の弁別が可能な周期的成分を算出し、該周期的変動成分に基づいて前記評価対象点における金属組織を判定する、圧延鋼板の金属組織評価装置。
【請求項2】
前記磁気特性計測部は、
前記圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加する機構と、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する機構と、を有する少なくとも2つ以上のプローブが、磁化方向が互いに異なるように配列されたプローブ列と、
前記圧延鋼板と前記プローブ列とを相対的に移動させる移動機構と、
を備える、請求項1に記載の圧延鋼板の金属組織評価装置。
【請求項3】
前記磁気特性計測部は、
少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について設けられた、前記圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加する機構と、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する機構と、を有する複数のプローブが、前記圧延鋼板の幅方向に配列されたプローブ列と、
前記圧延鋼板と前記プローブ列とを相対的に移動させる移動機構と、
を備える、請求項1に記載の圧延鋼板の金属組織評価装置。
【請求項4】
圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加し、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する処理を、少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について行うことにより、前記評価対象点について少なくとも2つ以上の異なる磁化方向の磁気特性を計測する磁気特性計測ステップと、
前記磁気特性計測ステップにおいて計測された磁気特性を用いて前記評価対象点における金属組織を判定する判定ステップと、を含み、
前記判定ステップは、前記磁化方向に対する磁気特性の周期的変動成分から前記金属組織の弁別が可能な周期的成分を算出し、該周期的変動成分に基づいて前記評価対象点における金属組織を判定するステップを含む、圧延鋼板の金属組織評価方法。
【請求項5】
圧延鋼板の製造設備と、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の圧延鋼板の金属組織評価装置とを備え、前記圧延鋼板の製造設備で製造した圧延鋼板の組織を前記金属組織評価装置で評価しながら鋼材を製造する、鋼材の製造設備。
【請求項6】
請求項4に記載の圧延鋼板の金属組織評価方法を用いて鋼材の金属組織を評価しながら鋼材を製造するステップを含む、鋼材の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の圧延鋼板の金属組織評価方法を用いて鋼材の金属組織に基づいて鋼材を分類することによって鋼材の品質を管理するステップを含む、鋼材の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度圧延鋼板の表層部の金属組織を電磁気計測により評価する圧延鋼板の金属組織評価装置、圧延鋼板の金属組織評価方法、鋼材の製造設備、鋼材の製造方法、及び鋼材の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高強度鋼板は、制御圧延と制御冷却とを組み合わせた、いわゆるTMCP(Thermo-Mechanical Control Process)技術を利用して製造されている。このTMCP技術を利用して鋼板の高強度化を行なうには、制御冷却時の冷却速度を大きくすることが有効である。しかしながら、高冷却速度で制御冷却を行った場合、鋼板の表層部が急冷されるため、鋼板内部に比べて表層部の金属組織にばらつきが生じやすくなる。このため、鋼板特性の均一性を確保する観点で表層部の金属組織が問題となる。このような背景から、特許文献1には、鋼板の金属組織を評価する方法が提案されている。具体的には、特許文献1に記載の方法は、電子顕微鏡を用いたEBSD(Electron Back Scatter Diffraction patterns)法によって加工フェライト分率を評価し、腐食液を用いたエッチング後の光学顕微鏡による観察によってマルテンサイト−オーステナイト混合層の面積率を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−31069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いた金属組織評価方法は、サンプルを採取して行なうオフラインの評価法であり、鋼板のまま非破壊で金属組織を評価することは困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧延鋼板の金属組織を非破壊で評価可能な圧延鋼板の金属組織評価装置及び金属組織評価方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、鋼材の金属組織を非破壊で評価して鋼材の製造歩留まりを向上可能な鋼材の製造設備、製造方法及び品質管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る圧延鋼板の金属組織評価装置は、圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加し、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する処理を少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について行うことにより、前記評価対象点について少なくとも2つ以上の異なる磁化方向の磁気特性を計測する磁気特性計測部と、前記磁気特性計測部によって計測された磁気特性を用いて前記評価対象点における金属組織を判定する判定部と、を備える。
【0007】
前記判定部は、前記磁化方向に対する磁気特性の周期的変動成分から前記金属組織の弁別が可能な周期的成分を算出し、該周期的変動成分に基づいて前記評価対象点における金属組織を判定するとよい。
【0008】
前記判定部は、前記磁化方向毎の磁気特性のうち、磁気特性の変動幅が判断可能な異なる磁化方向の磁気特性の差に基づいて前記評価対象点における金属組織を判定するとよい。
【0009】
前記磁気特性計測部は、前記圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加する機構と、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する機構と、を有する少なくとも2つ以上のプローブが、磁化方向が互いに異なるように配列されたプローブ列と、前記圧延鋼板と前記プローブ列とを相対的に移動させる移動機構と、を備えるとよい。
【0010】
前記磁気特性計測部は、少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について設けられた、前記圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加する機構と、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する機構と、を有する複数のプローブが、前記圧延鋼板の幅方向に配列されたプローブ列と、前記圧延鋼板と前記プローブ列とを相対的に移動させる移動機構と、を備えるとよい。
【0011】
本発明に係る圧延鋼板の金属組織評価方法は、圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加し、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する処理を少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について行うことにより、前記評価対象点について少なくとも2つ以上の異なる磁化方向の磁気特性を計測する磁気特性計測ステップと、前記磁気特性計測ステップにおいて計測された磁気特性を用いて前記評価対象点における金属組織を判定する判定ステップと、を含む。
【0012】
本発明に係る鋼材の製造設備は、圧延鋼板の製造設備と、本発明に係る圧延鋼板の金属組織評価装置とを備え、前記圧延鋼板の製造設備で製造した圧延鋼板の組織を前記金属組織評価装置で評価しながら鋼材を製造する。
【0013】
本発明に係る鋼材の製造方法は、本発明に係る圧延鋼板の金属組織評価方法を用いて鋼材の金属組織を評価しながら鋼材を製造するステップを含む。
【0014】
本発明に係る鋼材の品質管理方法は、本発明に係る圧延鋼板の金属組織評価方法を用いて鋼材の金属組織に基づいて鋼材を分類することによって鋼材の品質を管理するステップを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る圧延鋼板の金属組織評価装置及び金属組織評価方法によれば、圧延鋼板の金属組織を非破壊で評価することができる。また、本発明に係る鋼材の製造設備、製造方法及び品質管理方法によれば、鋼材の金属組織を非破壊で評価して鋼材の製造歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すプローブの変形例の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、図
4に示すステップS1〜S3の処理を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、プローブの回転機構及び昇降機構の構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、プローブ列の構成例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、プローブ列の構成例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、圧延鋼板の磁気特性を磁化方向毎に計測した例を示す図である。
【
図10】
図10は、圧延鋼板の金属組織の評価例を示す図である。
【
図11】
図11は、圧延鋼板の金属組織の評価例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置及び金属組織評価方法について説明する。
【0018】
〔構成〕
まず、
図1〜
図3を参照して、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置の構成を示すブロック図である。
図2(a),(b)は、
図1に示すプローブ2の構成を示す側面図及び平面図である。
図3(a),(b)は、
図2に示すプローブ2の変形例の構成を示す側面図及び平面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置1は、圧延鋼板の表面上の一方向に磁界を印加し、圧延鋼板の表面上の評価対象点の磁気特性を計測する処理を少なくとも2つ以上の異なる磁化方向について行うことにより、評価対象点について少なくとも2つ以上の異なる磁化方向の磁気特性を計測するプローブ2と、プローブ2によって計測された磁気特性を用いて評価対象点における数〜数十mmオーダーの大きさの金属組織を判定する判定装置3と、を備えている。
【0020】
図2(a),(b)に示すように、プローブ2は、磁化ヨーク21及び磁気センサ22を備えている。
【0021】
磁化ヨーク21は、部材21aと部材21aの両端部から圧延鋼板Sの表面に向かって延伸する部材21b,21cとからなるコの字型形状の部材により形成され、部材21aには励磁コイル23が巻回されている。磁化ヨーク21は、励磁コイル23に電流が供給されることによって、圧延鋼板Sの表層部に矢印で示す磁化方向の磁界を印加する。
【0022】
磁気センサ22は、磁化ヨーク21によって磁界が印加された圧延鋼板Sの磁気特性を計測し、計測した磁気特性のデータを判定装置3に出力する。なお、
図3(a),(b)に示すように、圧延鋼板Sの磁気特性に伴う励磁コイル23に流れる電流の変化を検出することにより、励磁コイル23を磁気センサ22として用いてもよい。
【0023】
〔方法〕
次に、
図4〜
図9を参照して、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価処理の流れを示すフローチャートである。
図5は、
図3に示すステップS1〜S3の処理を説明するための模式図である。
【0024】
図4に示すように、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価処理では、まず、圧延鋼板Sに所定磁化方向の磁界を印加するようにプローブ2をセットし(ステップS1)、圧延鋼板Sに所定磁化方向の磁界を印加して磁気特性を測定する(ステップS2)。次に、磁気特性を測定すべき少なくとも2つ以上の磁化方向の全てについて磁気特性の測定が完了したか否かを確認し(ステップS3)、測定が完了していない場合(ステップS3:No)、測定していない磁化方向の磁界を印加するようにプローブ2をセットして磁気特性を測定する。一方、測定が完了した場合には(ステップS3:Yes)、判定装置3が、プローブ2によって測定された磁化方向毎の磁気特性から圧延鋼板Sの金属組織を評価(判定)する(ステップS4)。
【0025】
より具体的には、ステップS1〜S3の処理は、
図5に示すように、圧延鋼板Sの表面上の評価対象点Pをプローブ2の中心位置に保ちながら磁化方向を変えるようにプローブ2を水平面内でA度ずつ回転させて磁気特性を測定することを繰り返す。各磁気特性の測定では、例えば特表平2−504077号公報に記載されている方法のように、正弦信号による交流磁界を印加しつつ、時刻毎の接線磁界強さと高周波成分(後述)とを磁気特性として計測し、接線磁界強さの最大値、平均値、保持磁界強さ、及び高周波成分の係数等を算出する。
【0026】
ここで、交流磁界としては、基準となる低周波数(50Hz〜500Hz)の正弦波信号に当該正弦波信号の振幅の1〜1/100の程度の振幅で周波数1KHz〜10KHz程度の範囲内の高周波正弦波信号を重畳した信号を印加する。前述の高周波成分とは、プローブ2で計測される磁化信号(あるいは、プローブ2を使わない場合は観測される電流信号)のうち、この重畳した高周波成分に対する観測信号である。接線磁界強さは、この高周波成分の振幅に相当する。
【0027】
なお、この際、
図6に示すようなプローブ2を水平面内で回転させる回転機構4とプローブ2を昇降する昇降機構5とを用いて、プローブ2を自動で回転させて所定の磁化方向に磁化させるようにして磁気特性を測定するということを所定の磁化方向分繰り返すとよい。また、
図7に示すように、測定したい磁化方向毎にプローブ2を配置したプローブ列を用い、磁化特性を測定しつつ、圧延鋼板Sとプローブ列とを相対的に移動させることを繰り返すことにより、磁化方向毎の磁気特性を測定してもよい。さらに、
図8に示すように、測定したい磁化方向毎に設けられた、複数のプローブ2が圧延鋼板Sの幅方向に配列されたプローブ列を用い、磁化特性を測定しつつ、圧延鋼板Sとプローブ列とを相対的に移動させることを繰り返すことにより、磁化方向毎の磁気特性を測定してもよい。
【0028】
図9(a),(b)は、異なる金属組織を有する圧延鋼板Sの磁気特性を、同一の磁化条件によって、それぞれ、磁化方向毎に測定した例を示す図である。本例では、磁化方向を15°ずつ回転させて、0°,15°,30°,…,345°として15°毎に360°分の磁気特性を測定している。なお、測定の角度ピッチは任意で良く、一定ピッチである必要はない。
図9(a),(b)に示す例では、金属組織の違いにより、磁気特性の磁化方向依存性が大きく異なっている。特に
図9(a)に示す例では、磁化方向90°周期での変化が強く観測され、異方性が強いことがわかる。このことから、この例では周期90°の変化をとらえるために、少なくとも45°毎に1個の測定を行うことが望ましい。また、磁化方向360°分の評価の代わりに180°分、90°分の評価でも良い。
【0029】
次に、ステップS4の処理では、判定装置3が、プローブ2によって測定された磁化方向毎の磁気特性から磁気特性の異方性を判定する。本実施形態では、判定装置3は、磁化方向の角度に対するフーリエ級数展開の成分を算出することにより、磁気特性の異方性を評価する。すなわち、判定装置3は、磁化方向の角度θで測定された磁気特性値をP(θ)とし、フーリエ級数の次数をnとすると、以下の数式(1)で示す成分F(P,n)を算出する。この計算で、例えばn=4に対応する成分F(P,4)は周期90°の変化成分に対応する。そして、判定装置3は、得られた成分F(P,n)に基づいて評価対象点Pの金属組織を判定する。判定方法は事前に対象材の磁気特性と金属組織との対応関係を調査した上で決定する。
図9(a),(b)に示す例では、成分F(P,4)に注目する。具体的には、予め設定された判定閾値T
P,4により、成分F(P,4)の絶対値が予め設定された判定閾値T
P,4以上である場合は評価対象点Pの金属組織は金属組織Aであると判定し、成分F(P,4)が予め設定された判定閾値T
P,4未満である場合は評価対象点Pの金属組織は金属組織Bであると判定する。なお、ここでは、周期90°の例を示したが、金属組織の違いが判定できればよいことから、周期90°以外であっても差が明確であれば、その他の成分であっても構わない。すなわち、金属組織の違いが判別できる(弁別可能な)角度の周期成分の強度を利用すればよい。
【0031】
また、以下の数式(2)に示す磁化方向毎の磁気特性値の集合{P(θ)}
θについて、その中のP(θ)の値の変動幅を評価して、金属組織を判定する方法が考えられる。例えば、最大値maxP及び最小値minPを算出し、以下の数式(3)により最大値maxPと最小値minPとの差ΔPを算出し、差ΔPが予め設定された判定閾値T
ΔP以上である場合は評価対象点Pの金属組織は金属組織Aであると判定し、差ΔPが予め設定された判定閾値T
ΔP未満である場合は評価対象点Pの金属組織は金属組織Bであると判定するようにしてもよい。ここで、差ΔPとして、最大値maxPと最小値minPとの差を算出するとしたが、これに限定されない。P(θ)の値がどの程度変動するかが評価できればよく、磁気特性の変動幅が判断可能な、特定角度間のP(θ)の差を評価しても構わない。
【0034】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置1は、磁気特性の磁化方向依存性が金属組織によって異なることに着目し、少なくとも2つ以上の磁化方向について磁気特性を計測し、磁気特性の磁化方向依存性を算出することにより圧延鋼板Sの金属組織を判定するので、圧延鋼板Sの金属組織を非破壊で評価することができる。
【0035】
〔実施例1〕
実施例1では、125Hzの正弦波磁界を鋼板に印加し、磁気特性として接線磁界強さの平均値を測定した。磁化方向は圧延方向に対して15°ピッチで、0°,15°,30°,…,345°の24方向とした。周期90°の変化成分に対応する成分
F(P,4)を評価した。そして、判定閾値T
P,4を0.07とし、成分F(P,4)の絶対値が判定閾値T
P,4以下である場合は評価対象点Pの金属組織はベイナイト組織であると判定し、成分F(P,4)の絶対値が判定閾値T
P,4を超えるである場合は評価対象点Pの金属組織は磁気異方性の強いフェライト+ベイナイト組織であると判定した。また、上記評価対象点Pに対応させて顕微鏡観察により隣接部の金属組織観察を行ない、金属組織の分類を行なった。評価対象点の金属組織を表1に、評価対象点毎の成分F(P,4)の値を
図10に示す。
図10に示すように、磁気特性の磁化方向依存性の評価により金属組織を判定できる。
【0037】
〔実施例2〕
実施例2では、測定対象及び磁気特性の測定方法は実施例1と同じとして、上述した差ΔPを算出し、判定閾値T
ΔPの値を0.03とした。そして、差ΔPが判定閾値T
ΔP以上である場合は評価対象点Pの金属組織はフェライト+ベイナイト組織であると判定し、差ΔPが判定閾値T
ΔP未満である場合は評価対象点Pの金属組織はベイナイト組織であると判定した。評価対象点毎の差ΔPの値を
図11に示す。
図11に示すように、磁気特性の磁化方向依存性の評価により金属組織を判定できる。
【0038】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置1を既知又は未知の圧延鋼板の製造設備に備え付け、圧延鋼板の製造設備で製造した圧延鋼板の金属組織を評価しながら鋼材を製造することにより圧延鋼板の製造歩留まりを向上させることができる。また、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置1を備えた圧延鋼板の製造設備を、既知又は未知の鋼材の製造設備に備え付け、圧延鋼板の製造設備で製造した圧延鋼板の金属組織を評価しながら鋼材を製造することにより、鋼材の製造歩留まりを向上させることができる。また、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置1及び金属組織評価方法を利用して、鋼材(特に、鋼材を製造途中又は製造済の圧延鋼板)の金属組織を評価しながら鋼材を製造することにより鋼材の製造歩留まりを向上させることができる。また、本発明の一実施形態である圧延鋼板の金属組織評価装置1及び金属組織評価方法を利用して、鋼材(特に、鋼材を製造途中又は製造済の圧延鋼板)の金属組織に基づいて鋼材を分類することによって鋼材の品質を管理することができる。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、圧延鋼板の金属組織を非破壊で評価可能な圧延鋼板の金属組織評価装置及び金属組織評価方法を提供することができる。また、本発明によれば、鋼材の金属組織を非破壊で評価して鋼材の製造歩留まりを向上可能な鋼材の製造設備、製造方法及び品質管理方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 圧延鋼板の金属組織評価装置
2 プローブ
3 判定装置
4 回転機構
5 昇降機構
21 磁化ヨーク
21a,21b,21c 部材
22 磁気センサ
23 励磁コイル
P 評価対象点
S 圧延鋼板