(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
小型モビリティ(例えば、自動二輪車)は、四輪自動車などに比べて、転倒のリスクが高い。そのため、小型モビリティでは、液式(バルブ式)鉛蓄電池の使用が制限され、近年では制御弁式鉛蓄電池(VRLA)が採用される傾向にある。また、近年、アイドリングストップ(IS)制御される小型モビリティも開発されている。VRLAが搭載され得る小型モビリティとしては、例えば、アイドリングスタートストップ車、マイクロハイブリッド車、マイルドハイブリッド車が挙げられる。これらには、既にIS制御されている小型モビリティがあり、近い将来IS制御される可能性が高い小型モビリティもある。そのため、これらの小型モビリティ用のVRLAでも、PSOC状態で使用されることによる負極板における硫酸鉛の蓄積が問題となる。
【0019】
IS制御される四輪自動車は、搭載される電池の充放電を高精度に制御する必要があるため、BMS(バッテリマネージメントシステム)を備えている。BMSには、鉛蓄電池の充電状態(SOC)を制御する充電状態制御部が内蔵されている。IS制御される四輪自動車用の鉛蓄電池では、減速時の回生充電における高い充電受入性を確保する必要がある。そのため、BMSの充電状態制御部により、鉛蓄電池のSOCが、比較的低く(例えば、70%以上90%未満に)なるように精密に制御されている。これにより、車両の減速時に、回生エネルギーをできるだけ無駄なく鉛蓄電池に充電できるようになる。一方、鉛蓄電池を利用する小型モビリティは、通常、BMSを備えておらず、現状では回生エネルギーの充電制御も行われていない。そのため、このような小型モビリティでは、蓄電システムの充電状態制御部により、IS制御期間中でも、鉛蓄電池のSOCを、四輪自動車用鉛蓄電池に比べて十分に高く(例えば、90%以上に)なるように制御されている。このように高いSOCになるように充電が制御される場合でも、充電不足状態が継続されるため、負極板における硫酸鉛の蓄積の問題が生じる。このように、四輪自動車用の鉛蓄電池と、小型モビリティ用の鉛蓄電池とでは、IS制御の放電モードにおけるSOCが異なる。そのため、四輪自動車用の鉛蓄電池における硫酸鉛の蓄積抑制技術をそのまま小型モビリティ用の鉛蓄電池に適用しても、硫酸鉛の蓄積を抑制できない場合がある。
【0020】
より具体的に説明すると、IS制御される四輪自動車用の鉛蓄電池では、負極電極材料に炭素質材料をある程度含有させると、炭素質材料の高い導電性により、硫酸鉛の蓄積抑制効果が得られる。炭素質材料には、様々なBET法による比表面積(以下、BET比表面積と称する。)を有する炭素質材料がある。しかし、四輪自動車用の鉛蓄電池における上記のような硫酸鉛の蓄積抑制効果は、炭素質材料のBET比表面積によらず、炭素質材料の含有量が多い場合に、より高くなる。そのため、四輪自動車用の鉛蓄電池では、安価なアセチレンブラックなどの比較的小さなBET比表面積を有する炭素質材料が負極板に多用されている。なお、上記の効果は、液式鉛蓄電池およびVRLAの双方において同様に得られる。
【0021】
ところが、IS制御される小型モビリティ用のVRLAにおいて、小さなBET比表面積を有する炭素質材料を比較的多くの量で負極板に用いても、硫酸鉛の蓄積抑制効果が得られないことが明らかとなった。つまり、硫酸鉛の蓄積抑制において、炭素質材料のBET比表面積が示す挙動は、IS制御される四輪自動車用の鉛蓄電池と、IS制御される小型モビリティ用のVRLAとでは異なることが明らかとなった。このような四輪自動車用の鉛蓄電池と小型モビリティ用のVRLAとにおける炭素質材料のBET比表面積が示す挙動の違いは、従来知られていない。
【0022】
このような知見に鑑み、本発明の一側面に係るVRLAは、小型モビリティに用いられ、正極板、負極板、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。正極板は、正極電極材料を備える。負極板は、負極電極材料と負極集電体とを備える。負極電極材料は、炭素質材料を含む。炭素質材料のBET比表面積:Scは、Sc≧650m
2/gを充足する。負極電極材料中の炭素質材料の含有量:Ccは、Cc≧0.5質量%を充足する。
【0023】
本発明の他の側面に係るVRLAは、車両に使用され、この車両は、VRLAのSOCが90%以上の閾値以上の場合にIS制御され、VRLAのSOCが閾値未満の場合にはIS制御されないように構成されている。VRLAは、正極板、負極板、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。正極板は、正極電極材料を備える。負極板は、負極電極材料と負極集電体とを備える。負極電極材料は、炭素質材料を含む。炭素質材料のBET比表面積:Scは、Sc≧650m
2/gを充足する。負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量:Ccは、Cc≧0.5質量%を充足する。
【0024】
本発明には、上記のVRLAを製造する方法も包含される。VRLAの製造方法は、鉛粉、上記の炭素質材料、水、および硫酸を含む負極ペーストを調製する工程と、
負極ペーストを負極集電体に塗布または充填することによって未化成の負極板を形成する工程と、
未化成の負極板を化成することによって、負極電極材料と負極集電体とを備える負極板を得る工程と、を備える。
【0025】
本発明には、上記のVRLAと、VRLAから電力の供給を受ける車両と、VRLAのSOCを制御する充電状態制御部と、を備える蓄電システムも包含される。
【0026】
本発明のさらに他の側面に係る蓄電システムは、VRLAと、VRLAから電力の供給を受ける車両と、VRLAのSOCを制御する充電状態制御部と、を備える。VRLAは、正極板、負極板、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。正極板は、正極電極材料を備える。負極板は、負極電極材料を備える。負極電極材料は、炭素質材料を含む。炭素質材料のBET比表面積:Scは、Sc≧650m
2/gを充足する。負極電極材料中の炭素質材料の含有量:Ccは、Cc≧0.5質量%を充足する。蓄電システムにおいて、車両は、VRLAのSOCが90%以上の閾値以上の場合にIS制御され、VRLAのSOCが閾値未満の場合にはIS制御されない。
【0027】
小型モビリティは、通常、BMSを備えていない。小型モビリティ用のVRLAは、始動用でも、IS用でも、満充電に近いPSOC状態で充放電されるように構成されている。より具体的には、VRLAのSOCが90%以上の閾値以上の場合にIS制御され、閾値未満の場合にはIS制御されないように設計されている。
【0028】
上記のVRLAまたは蓄電システムによれば、負極電極材料が、BET比表面積Sc≧650m
2/gの炭素質材料を、含有量Cc≧0.5質量%で含む。そのため、負極板における硫酸鉛の蓄積を抑制できる。極板における充放電反応がより均一に行われるため、極板の劣化が抑制される。よって、VRLAの寿命性能を高めることができる。
【0029】
それに対し、上記のVRLA(または蓄電システムに含まれるVRLA)の負極電極材料が、Cc<0.5質量%の少量の炭素質材料を含有する場合、Sc<650m
2/gとSc≧650m
2/gとで硫酸鉛の蓄積量はほとんど変わらず、硫酸鉛の蓄積抑制効果もほとんど見られない。また、負極電極材料が、含有量Cc≧0.5質量%でSc<650m
2/gの炭素質材料を含む場合、Ccを多くする効果はほとんど得られず、硫酸鉛の蓄積抑制効果は得られない。
【0030】
四輪自動車用の鉛蓄電池では、負極電極材料が、Cc<0.5質量%の少量の炭素質材料を含有する場合、Sc<650m
2/gとSc≧650m
2/gとで硫酸鉛の蓄積量はほとんど変わらず、硫酸鉛の蓄積抑制効果もほとんど見られない。この場合、上記のVRLAにおける結果とほぼ同じである。負極電極材料が、Cc≧0.5質量%の炭素質材料を含有する場合、Sc<650m
2/gとSc≧650m
2/gの双方で同程度の硫酸鉛の蓄積抑制効果が得られる。つまり、四輪自動車用の鉛蓄電池では、硫酸鉛の蓄積抑制効果は、炭素質材料の含有量Ccにのみ依存し、炭素質材料のBET比表面積Scには依存しない。このような傾向は、四輪自動車用の液式鉛蓄電池でも四輪自動車用のVRLAでも変わらない。それに対し、上記のVRLA(または蓄電システムに含まれるVRLA)では、硫酸鉛の蓄積抑制効果は、炭素質材料の含有量Ccおよび炭素質材料のBET比表面積Scの双方に依存する。
【0031】
上記のようなVRLAと四輪自動車用の鉛蓄電池とで、硫酸鉛の蓄積抑制における炭素質材料のBET比表面積が示す挙動が異なるメカニズムの詳細は、不明であるが、次のように推測される。
【0032】
比較的低いSOCで充放電される四輪自動車用の鉛蓄電池では、高いSOCで充放電される場合に比べて、負極電極材料の導電性が低い。そのため、ある程度の量で炭素質材料を負極電極材料に添加することで、負極電極材料の導電性の向上効果が顕著に現れる。また、BET比表面積Scが高い炭素質材料を用いると、活物質である鉛の周辺に多くの電解液を保持できると考えられる。しかし、比較的低いSOCで充放電される鉛蓄電池では、多くの電解液が鉛の周辺に保持されることによる効果よりも、炭素質材料の添加に伴う負極電極材料の導電性の向上効果の影響が大きいと考えられる。その結果、BET比表面積Scの違いに関係なく、負極電極材料がある程度の量の炭素質材料を含むことで負極板における硫酸鉛の蓄積が抑制されると考えられる。
【0033】
一方、比較的高いSOCで充放電される上記のVRLAでは、負極電極材料が導電性の高い鉛を多く含む状態である。そのため、負極電極材料に炭素質材料を添加したとしても、炭素質材料の添加に伴う導電性の向上効果はほとんど現れない。負極電極材料の導電性が高い状態では、充放電反応は、鉛の周辺の電解液のイオン伝導性に大きく影響されると考えられる。VRLAでは、液式鉛蓄電池に比べて鉛の周辺に存在する電解液が少ない。BET比表面積Scが650m
2/g以上の炭素質材料を含有量Cc0.5質量%以上で用いることで、鉛の周辺に多くの電解液を保持できる。これにより、鉛の周辺のイオン伝導性が高まり、充放電反応がよりスムーズに進行する。つまり、上記のような炭素質材料を用いることにより、鉛と電解液との界面での反応が促進されると言える。その結果、負極板における硫酸鉛の蓄積が抑制されると考えられる。
【0034】
上記のVRLAは、上述のように、SOCが90%以上の閾値以上の場合にIS制御され、閾値未満の場合にはIS制御されない車両に使用されるVRLAであることが好ましい。この場合、上記のようなVRLAと四輪自動車用の鉛蓄電池とで、硫酸鉛の蓄積抑制における炭素質材料のBET比表面積が示す挙動の違いがより明確になる。そのため、硫酸鉛の蓄積抑制効果がより効果的に発揮される。
【0035】
負極電極材料には、さらに有機防縮剤が添加されていてもよい。VRLAの製造方法では、負極ペーストがさらに有機防縮剤を含んでもよい。有機防縮剤を用いることにより、VRLAの低温ハイレート(HR)放電性能を向上できる。
【0036】
負極電極材料が有機防縮剤を含む場合、有機防縮剤が炭素質材料に吸着されて、有機防縮剤の防縮効果が発揮され難くなる。比表面積Scが大きい炭素質材料を用いると、炭素質材料による有機防縮剤の吸着の影響が現れ易い。より高い低温HR放電性能を確保する観点からは、負極電極材料中の有機防縮剤の添加量:Ce(質量%)が、Ce>0.368Cc+0.054を充足することが好ましい。ただし、この場合、炭素質材料としては、比表面積Scが、650m
2/g≦Sc≦1000m
2/gを充足する炭素質材料が用いられる。また、有機防縮剤の添加量Ceを上記の範囲に制御すると、負極側の水素過電圧が適正な範囲内ではあるが、上昇する傾向がある。そのため、VRLAが比較的高温で使用された場合でも、定電圧充電時の充電電流が低く抑えられる。これに伴い、正極板からの酸素ガス発生が抑制され、負極電極材料による酸素ガスの吸収反応に伴う発熱が抑制される。これにより、電解液の減少を抑制することができるため、優れた寿命性能を確保する観点からも有利である。
【0037】
有機防縮剤の添加量Ceは、0.372Cc+0.092≦Ce≦0.373Cc+0.249を充足することが好ましい。0.372Cc+0.092≦Ceとすることで、低温HR放電性能および電解液の減少を抑制する効果をさらに高めることができる。また、Ce≦0.373Cc+0.249とすることで、炭素質材料および鉛の有機防縮剤による過度な被覆が抑制される。負極電極材料の高い導電性が維持されることで、充電受入性の低下を抑制できる。
【0038】
小型モビリティなどの上記のVRLAが用いられる用途では、四輪自動車とは異なり、通常、BMSが装備されていない。鉛蓄電池の温度の変化に応じた充放電の制御を行うことが難しいため、VRLAの性能は外気温に大きく影響される。小型モビリティは、暑い地域から寒い地域で利用される。そのため、搭載されるVRLAには、広い温度範囲において、硫酸鉛の蓄積抑制と、低温HR放電性能と、充電受入性と、減液抑制効果とのバランスに優れることが求められる。このような複数の特性を高いレベルでバランスよく確保するためには、実際には極めて高い技術が必要となる。それに対し、比表面積Scが650m
2/g≦Sc≦1000m
2/gである炭素質材料を用いるとともに、有機防縮剤の添加量Ceを上記のような式により炭素質材料の含有量Ccに応じて調節することで、上記のような特性のバランスを高精度に調節することができる。よって、世界中の様々な地域で使用しても優れた性能を発揮させることができ、安定した品質が得られる。
【0039】
VRLAには、高い低温HR放電性能が求められる。例えば、自動二輪などの小型モビリティでは、低温環境でVRLAを始動させることがあるため、高い低温HR放電性能が必要である。VRLAにおいて高い低温HR放電性能を確保するには、負極におけるサルフェーションを抑制することが有効である。負極におけるサルフェーションを抑制する観点からは、一般に、負極電極材料の質量の、正極電極材料の質量に対する比:NAM/PAM比を比較的大きくすることが有利である。それに対し、本発明の一側面および他の側面のVRLAでは、NAM/PAM比を比較的小さくすることが好ましい。より具体的には、NAM/PAM比は、NAM/PAM比<1.21を充足することが好ましい。負極電極材料における炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%以上である場合には、硫酸鉛の蓄積が抑制される。そのため、NAM/PAM比<1.21としても、鉛蓄電池を使用しない状態で放置したり、PSOC状態で使用したりした場合でも十分な低温HR放電性能を確保することができる。一方、負極電極材料における炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満である場合には、NAM/PAM比<1.21としても、鉛蓄電池を使用しない状態で放置したり、PSOC状態で使用したりした場合の低温HR放電性能の維持率の低下を抑制できない。これは、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満の場合には、導電パスが少ないことに加え、鉛周辺のイオン伝導性が低いため、硫酸鉛の蓄積を充分に抑制することができず、サルフェーションが進行するためと考えられる。
【0040】
また、NAM/PAM比<1.21とすることで、所定の体積の正極電極材料に含まれる正極活物質の質量を相対的に増加させることができる。これにより、充放電反応により正極電極材料に加わる、正極活物質の単位質量あたりの負荷が軽減される。よって、正極電極材料の劣化が抑制されるとともに、正極に関連する特性が向上すると期待される。
【0041】
近年は、VRLAに、常温HR放電を含む充放電サイクルを繰り返したときのサイクル特性(以下、常温HRサイクル特性と称する)に優れることが求められる場合がある。例えば、エンジンのモーター加速では、常温HR放電が想定される。常温HR放電は、一般的に、正極における反応に大きく影響される。
【0042】
上記のVRLAにおいて、NAM/PAM比<1.21の場合、正極電極材料は、1μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔を含んでいてもよい。本明細書中、正極電極材料中の1μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔を第1細孔と称することがある。正極電極材料中の第1細孔の比率は、9体積%以上であってもよい。第1細孔の比率がこのような範囲である場合、常温HRサイクル特性が大きく向上する。そのため、常温HR放電性能と常温HR放電を含む充放電サイクルを繰り返したときのサイクル特性とのバランスを調節し易くなり、常温HR放電性能とサイクル寿命とを高いレベルで両立させることができる。このような効果が得られるのは、次のような理由によると考えられる。まず、第1細孔の比率が9体積%以上であることで、正極電極材料中に多くの量の電解液を保持することができるとともに、正極電極材料中に多くの反応活性点を確保することができる。よって、高い初期常温HR特性が得られる。また、第1細孔の比率が9体積%以上であることで、正極電極材料における電解液の拡散性が高まる。加えて、NAM/PAM比を1.21未満に調節することで、上記のように正極電極材料の劣化が抑制される。これらの相互作用により、常温HRサイクル特性が大きく向上すると考えられる。
【0043】
(用語の説明)
(負極電極材料)
負極板において、負極電極材料は、通常、負極集電体に保持されている。負極電極材料とは、負極板から負極集電体を除いた部分である。負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれる。負極板が貼付部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板から負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0044】
(BET比表面積)
BET法による比表面積(BET比表面積)とは、窒素ガスを吸着ガスとして用いるガス吸着法によりBET式を用いて求められる比表面積である。
【0045】
(負極電極材料中の炭素質材料の含有量Cc)
炭素質材料の含有量Ccとは、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について求められる、負極電極材料中に含まれる炭素質材料の質量比率(質量%)である。
【0046】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。
【0047】
(有機防縮剤の添加量Ce)
有機防縮剤の添加量Ceとは、負極電極材料または負極ペーストを調製する際に添加された有機防縮剤が、負極電極材料に占める質量割合(質量%)である。
【0048】
(正極電極材料)
正極板において、正極電極材料は、通常、正極集電体に保持されている。正極電極材料とは、正極板から正極集電体を除いた部分である。正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれる。正極板が貼付部材を含む場合には、正極電極材料は、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0049】
(第1細孔の比率)
第1細孔とは、上述のように、正極電極材料に含まれる細孔径が1μm以上10μm以下の細孔を意味する。正極電極材料中の第1細孔の比率とは、正極電極材料の全細孔容積に占める第1細孔の比率(体積%)を意味する。
【0050】
(NAM/PAM比)
NAM/PAM比は、VRLAの1つのセルに含まれる負極電極材料の合計質量の、1つのセルに含まれる正極電極材料の合計質量に対する比である。VRLAが2つ以上のセルを含む場合には、負極電極材料および正極電極材料の合計質量のそれぞれは、2つのセルについて求められる合計質量の平均値である。VRLAが3以上のセルを含む場合には、各平均値は、VRLAの端部に位置する1つのセルと、中央付近に位置する1つセルとから求められる。
【0051】
(充電状態(SOC))
SOCとは、VRLAの満充電時の充電電気量(100%)に対する、充電された電気量の割合を示す。なお、本明細書中、制御弁式の鉛蓄電池の100%の満充電状態とは、JIS D5302:2004の8.2.2(H16年3月20改正)に記載の満充電の条件に従い充電を終了した状態である。
【0052】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0053】
(SOCの閾値)
SOCの「閾値」とは、予め設定された基準SOCであり、「閾値に達する」とは、SOCが、閾値またはその近傍のSOCになることをいう。また、閾値の近傍のSOCとは、閾値以下の所定のSOCおよび閾値より高い所定のSOCをいう。
【0054】
(小型モビリティ用の制御弁式鉛蓄電池および小型モビリティ)
小型モビリティ用のVRLAとは、IEC60095−7:2019の適用範囲、およびJIS D 5302:2004の適用範囲に包含される鉛蓄電池のうち、VRLAを言う。小型モビリティとは、これらのVRLAが適用されるモーターサイクルおよびパワースポーツビークルを言う。小型モビリティには、例えば、自動二輪車、自動三輪車、バギー(三輪および四輪の双方を含む)、水上スキー、スノーモービル、および全地形対応車が包含される。なお、小型モビリティには、エンジンとともに、小型モビリティ用のVRLAが搭載される。
【0055】
(アイドリングストップ(IS))
アイドリングストップ車両(IS車両)とは、アイドリングストップ(IS)制御された車両を言い、アイドリングストップシステム(ISS)を備える。ISSとは、車両を駐車または停車させると、エンジンが停止するように制御されているシステムを言う。ISSにおいて、エンジンが停止している間、車両に必要な電流は、車両に搭載された電池により供給される。ISSでは、エンジンが停止している間、電池のSOCが所定の閾値に達すると、エンジンが再始動される。車両を駐車または停車させることでエンジンが停止してから再始動されるまでの期間を、アイドリングストップ期間(IS期間)と称する。IS期間には、車両の電気系統による消費に対応する負荷電流と、エンジンを再始動させる際の始動電流とが、電池から放電される。
【0056】
以下、本発明の実施形態に係るVRLAおよび蓄電システムについて、より具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0057】
[VRLA]
(負極板)
負極板は、通常、負極集電体と負極電極材料とを含み、負極電極材料は、負極集電体に保持されている。
【0058】
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0059】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb−Ca系合金、Pb−Ca−Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有してもよい。
【0060】
(負極電極材料)
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を必須成分として含む。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。負極電極材料は、さらに炭素質材料を添加剤として含む。負極電極材料は、さらに、炭素質材料以外の添加剤(有機防縮剤、硫酸バリウムなど)を含み得る。
【0061】
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0062】
なお、本明細書では、炭素質材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm
−1以上1350cm
−1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm
−1以上1600cm
−1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比I
D/I
Gが、0以上0.9以下である炭素質材料を、黒鉛と称する。黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0063】
炭素質材料のBET比表面積Scは、650m
2/g以上である。BET比表面積Scが650m
2/g未満の場合、炭素質材料の含有量を0.5質量%以上としても、負極板における硫酸鉛の蓄積を十分に抑制することが難しい。より高い硫酸鉛の蓄積抑制を確保する観点からは、BET比表面積Scは、750m
2/g以上が好ましく、800m
2/g以上であってもよい。より高い硫酸鉛の蓄積抑制を確保する観点から、BET比表面積Scは、1000m
2/g以下が好ましい。
【0064】
炭素質材料のBET比表面積Scを上記のような範囲に制御し易い観点から、炭素質材料は、ファーネスブラック(特に、ケッチェンブラック)を少なくとも含むことが好ましい。炭素質材料は、ファーネスブラック(特に、ケッチェンブラック)とこれ以外の炭素質材料とを含んでもよい。二種類以上の炭素質材料を組み合わせる場合、炭素質材料全体のBET比表面積Scが上記の範囲となるように、組み合わせる炭素質材料の種類を選択したり、比率を調節したりすればよい。
【0065】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量Ccは、0.5質量%以上である。炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満である場合、負極板における硫酸鉛の蓄積抑制効果は、炭素質材料のBET比表面積Scによらない。より高い硫酸鉛の蓄積抑制効果を確保する観点からは、炭素質材料の含有量Ccは、0.75質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量Ccは、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0066】
炭素質材料の含有量Ccは、0.5質量%以上3質量%以下(または2質量%以下)、あるいは0.75質量%以上3質量%以下(または2質量%以下)であってもよい。
【0067】
(有機防縮剤)
有機防縮剤としては、例えば、リグニン化合物および合成有機防縮剤からなる群より選択される少なくとも一種を用いてもよい。
【0068】
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0069】
鉛蓄電池に使用される合成有機防縮剤は、通常、有機縮合物(以下、単に縮合物と称する。)である。縮合物とは、縮合反応を利用して得られ得る合成物である。縮合物は、芳香族化合物のユニット(以下、芳香族化合物ユニットとも称する。)を含んでもよい。芳香族化合物ユニットは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットをいう。すなわち、芳香族化合物ユニットは、芳香族化合物の残基である。縮合物は、芳香族化合物のユニットを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0070】
縮合物としては、例えば、芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。このような縮合物は、芳香族化合物とアルデヒド化合物とを反応させることで合成し得る。ここで、芳香族化合物とアルデヒド化合物との反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、芳香族化合物として硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールS)を用いたりすることで、硫黄元素を含む縮合物を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および硫黄元素を含む芳香族化合物の量の少なくとも一方を調節することで、縮合物中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じてよい。縮合物を得るために縮合させる芳香族化合物は一種でもよく、二種以上でもよい。なお、アルデヒド化合物は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)でもよく、アルデヒドの縮合物(または重合物)などでもよい。アルデヒド縮合物(または重合物)としては、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキシメチレンなどが挙げられる。アルデヒド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。芳香族化合物との反応性が高い観点からは、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0071】
芳香族化合物は、硫黄含有基を有してもよい。すなわち、縮合物は、分子内に複数の芳香環を含むとともに硫黄含有基として硫黄元素を含む有機高分子であってもよい。硫黄含有基は、芳香族化合物が有する芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0072】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合または連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。
【0073】
芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、官能基(ヒドロキシ基、アミノ基など)とを有する化合物が挙げられる。官能基は、芳香環に直接結合していてもよく、官能基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(−OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。芳香族化合物は、芳香環に、硫黄含有基および上記の官能基以外の置換基(例えば、アルキル基、アルコキシ基)を有していてもよい。
【0074】
芳香族化合物ユニットの元となる芳香族化合物は、ビスアレーン化合物および単環式芳香族化合物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0075】
ビスアレーン化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)が挙げられる。中でもビスフェノール化合物が好ましい。
【0076】
ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。例えば、ビスフェノール化合物は、ビスフェノールAおよびビスフェノールSからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。ビスフェノールAまたはビスフェノールSを用いることで、負極電極材料に対する優れた防縮効果が得られる。
【0077】
ビスフェノール化合物は、ビスフェノール骨格を有すればよく、ビスフェノール骨格が置換基を有してもよい。すなわち、ビスフェノールAは、ビスフェノールA骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。ビスフェノールSは、ビスフェノールS骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。
【0078】
単環式芳香族化合物としては、ヒドロキシモノアレーン化合物、アミノモノアレーン化合物などが好ましい。中でもヒドロキシモノアレーン化合物が好ましい。
【0079】
ヒドロキシモノアレーン化合物としては、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが挙げられる。例えば、フェノール化合物であるフェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)を用いることが好ましい。なお、既に述べたように、フェノール性ヒドロキシ基には、フェノール性ヒドロキシ基の塩(−OMe)も包含される。
【0080】
アミノモノアレーン化合物としては、アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)が挙げられる。
【0081】
上述のように、負極電極材料は、BET比表面積Scが比較的大きい炭素質材料を含む。このような炭素質材料を用いると、有機防縮剤が炭素質材料に吸着され、有機防縮剤の効果を効果的に発揮させることが難しい場合がある。有機防縮剤を用いることによる効果をより効果的に発揮させる観点から、負極電極材料中に添加される有機防縮剤の添加量Ceは、炭素質材料のBET比表面積Scに応じて決定することが好ましい。より高い低温HR放電性能を確保する観点から、負極電極材料中の有機防縮剤の添加量Ceは、Ce>0.368Cc+0.054(1)を充足することが好ましい。低温HR放電性能および電解液の減少を抑制する効果をさらに高める観点からは、有機防縮剤の添加量Ceを、0.372Cc+0.092≦Ce(2)とすることが好ましい。また、充電受入性の低下を抑制する効果が高まる観点からは、有機防縮剤の添加量Ceを、Ce≦0.373Cc+0.249(3)とすることが好ましい。なお、これらの関係は、炭素質材料のBET比表面積Scが、650m
2/g以上(または750m
2/g以上もしくは800m
2/g以上)1000m
2/g以下の範囲において成立する。
【0082】
上記の(1)〜(3)の関係は、BET比表面積Scが異なる複数の炭素質材料を用いて、低温HR放電性能、充電受入性、および電解液の減少の各特性を評価した結果から求められる。より具体的には、BET比表面積Scが上記の範囲の炭素質材料を用いるとともに、炭素質材料の含有量Ccおよび有機防縮剤の添加量Ceを変化させて、上記の評価を行う。このときの炭素質材料の含有量Ccと有機防縮剤の添加量Ceとの関係を
図3に示す。
【0083】
なお、各特性の評価は後述の手順で行われる。各特性は、以下の基準で評価される。
(低温HR放電性能)
a:低温HR放電持続時間が200秒以上
b:低温HR放電持続時間が180秒以上200秒未満
c:低温HR放電持続時間が180秒未満
(充電受入性)
a:100秒目電流が0.5A以上0.7A以下
b:100秒目電流が0.7Aを超え0.8A以下
c:100秒目電流が0.8Aより大きい、または0.5A未満
(電解液の減少)
a:電解液の減少量が10質量%未満である。
b:電解液の減少量が10質量%以上15質量%未満である。
c:電解液の減少量が15質量%以上である。
【0084】
図3では、各特性の評価結果を下記の基準で総合的に評価した結果がプロットされる。
A:低温HR放電性能および充電受入性の双方の評価がaであり、電解液の減少についての評価がaまたはbである。
B:低温HR放電性能の評価がbであり、充電受入性の評価がaであり、電解液の減少量についての評価がaまたはbであるか、もしくは低温HR放電性能および充電受入性の双方の評価がbであり、電解液の減少についての評価がaである。
C:上記AおよびBのいずれにも分類されない。
【0085】
プロットされたデータについて、各Ccについて、総合評価がAである上限の点を線形近似した式が、式(3)と関連し、Ce=0.373Cc+0.249である。また、各Ccについて、総合評価がBである点を線形近似した式が、式(2)と関連し、Ce=0.372Cc+0.092である。この式よりも下に位置する点において、総合評価がCである上限の点を線形近似した式が、式(1)と関連し、Ce=0.368Cc+0.054である。
図3に示される各近似式について、R
2で表される数値は、線形近似の剰余項である。
【0086】
図3に示されるように、Ce≦0.368Cc+0.054では、ほとんどのポイントについて低温HR放電持続時間が180秒未満であり、式(1)を充足する場合には180秒以上の低温HR放電持続時間が得られる。式(2)を充足する場合には、さらに高い低温HR放電持続時間が得られるとともに、電解液の減液が抑制される。式(3)を充足する場合には、より高い充電受入性が得られる。
【0087】
(硫酸バリウム)
負極電極材料は、硫酸バリウムを含むことができる。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0088】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0089】
(負極電極材料または構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。
(1)負極電極材料の定量
満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。負極板に貼付部材が含まれている場合、剥離により負極板から貼付部材が除去される。乾燥物(負極板)の質量を測定する。次に、負極集電体から負極電極材料を掻き取って、分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、負極電極材料の構成成分の分析に供される。
【0090】
負極集電体を水中に浸漬した状態で、超音波処理を行うことにより、負極集電体に付着した負極電極材料を除去する。得られる負極集電体を水洗し、乾燥させた後、負極集電体の質量を測定する。負極板の質量から負極集電体の質量を減じることにより、負極電極材料の質量が求められる。セル中の全ての負極板について、負極電極材料の質量を合計することにより、セル中の負極電極材料の質量が求められる。
【0091】
(2)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出物に複数の有機防縮剤が含まれていれば、次に、抽出物から、各有機防縮剤を分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
【0092】
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、または試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0093】
(3)炭素質材料および硫酸バリウムの定量分析
粉砕した試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を鉛イオンとして溶解させる。得られた混合物を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0094】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。得られる試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料(以下、試料Cと称する)である。乾燥後の試料Cとメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、試料Cの質量(M
m)を測定する。その後、乾燥後の試料Cをメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、1300℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(M
B)を求める。質量M
mから質量M
Bを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。それぞれの質量が試料Aに占める比率(質量%)を求め、負極電極材料中の炭素質材料の含有量Ccおよび硫酸鉛の含有量とする。
【0095】
(4)炭素質材料のBET比表面積Sc
(4−1)炭素質材料の分離
粉砕した試料Aを所定量採取し、質量を測定する。この試料Aに、試料A5gあたり、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃±5℃で加熱する。得られる混合物に、試料A5gあたり、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mL、および水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして試料Aに前処理を施す。前処理により得られる分散液を、メンブレンフィルタ(目開き0.1μm)を用いてろ過することにより固形分を回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、サイズが大きな成分(補強材など)を除去して、ふるいを通過した成分を炭素質材料として回収する。
【0096】
(4−2)BET比表面積Scの測定
上記(4−1)で回収した炭素質材料について、ガス吸着法により、BET式を用いてBET比表面積Scを求める。より具体的には、炭素質材料は、窒素フロー中、150℃±5℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した炭素質材料を用いて、下記の装置にて、下記の条件により、BET比表面積を求め、炭素質材料のBET比表面積Scとする。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0097】
(その他)
鉛蓄電池は、少なくとも上記の負極板を得る工程を備える製造方法により製造できる。
【0098】
負極板は、鉛粉、炭素質材料、水および硫酸を含む負極ペーストを調製する工程と、負極ペーストを用いて未化成の負極板を形成する工程と、未化成の負極板を化成する工程とを備える製造方法により得られる。
【0099】
負極ペーストは、必要に応じて有機防縮剤および各種添加剤を含んでもよい。負極ペーストは、原料を混練することによって調製される。有機防縮剤は、負極電極材料中の有機防縮剤の添加量Ce(質量%)が、上記式(1)(好ましくは上記式(2))の関係を充足するように負極ペーストに添加することが好ましい。また、有機防縮剤は、有機防縮剤の添加量Ceが上記式(3)の関係を充足するように負極ペーストに添加してもよい。
【0100】
未化成の負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填することによって得られる。未化成の負極板を形成する工程は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填することにより得られる塗布物または充填物を、さらに熟成および乾燥する工程を含んでもよい。塗布物または充填物の熟成は、室温より高温かつ高湿度で行うことが好ましい。
【0101】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0102】
(正極板)
正極板は、通常、正極集電体と正極電極材料とを含む。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式の正極板が好適に使用される。
【0103】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0104】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb−Sb系合金、Pb−Ca−Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0105】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0106】
上述のように、正極電極材料中の第1細孔の比率は、9体積%以上が好ましく、15体積%以上であってもよい。第1細孔の比率がこのような範囲である場合、VRLAを長期間保管した後の低温HR放電性能の低下を抑制できるとともに、優れた常温HR放電性能および常温HRサイクル特性を確保することができる。高容量を確保するとともに正極板の劣化を抑制する観点から、第1細孔の比率は、例えば、25体積%以下であり、20体積%以下または14体積%以下であってもよい。
【0107】
正極電極材料中の第1細孔の比率は、9体積%以上(または15体積%以上)25体積%以下、9体積%以上(または15体積%以上)20体積%以下、あるいは9体積%以上14体積%以下であってもよい。
【0108】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。例えば、正極ペーストを調製する際の水の量および酸の量を調節することにより、第1細孔の比率を調節することができる。
【0109】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0110】
NAM/PAM比は、例えば、1.25以下であり、1.21以下であってもよい。上述のように、NAM/PAM比は、1.21未満が好ましい。より高い常温HR放電性能を確保する観点からは、NAM/PAM比は、1.05以下が好ましく、1.04以下がより好ましい。NAM/PAM比の下限は、例えば、0.4以上である。NAM/PAM比は、例えば、極板に含まれる鉛の含有量、電極材料密度、極板の厚み、極板の枚数などを調節することにより調節できる。
【0111】
(正極電極材料の分析)
正極電極材料の分析は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した正極板から採取した正極電極材料を用いて行われる。
【0112】
正極電極材料は、次の手順で正極板から回収される。まず、満充電状態の鉛蓄電池を解体し、入手した正極板を水洗し、正極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した正極板表面にpH試験紙を押し当て、紙片紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した正極板は、60℃±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、正極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により正極板から貼付部材が除去される。このようにして分析用の正極板が得られる。
【0113】
(1)正極電極材料の質量
上記の分析用の正極板を用いる以外は、負極電極材料の定量についての説明に準じて、正極電極材料の質量が求められる。得られる正極電極材料の質量および負極電極材料の質量から、PAM/NAM比が求められる。
【0114】
(2)第1細孔の比率
上記の分析用の正極板を正面から見たときに上下および左右の中央付近から正極電極材料を採取することにより、分析用の正極電極材料(以下、試料Dと称する)が得られる。
【0115】
試料Dを用いて、水銀ポロシメータ((株)島津製作所製、自動ポロシメータ、オートポアIV9505)により、全細孔容積および細孔分布を測定する。この細孔分布において、全細孔容積に占める第1細孔の体積基準の比率(体積%)を求める。この比率が、正極電極材料中の第1細孔の比率(体積%)である。なお、全細孔容積および細孔分布の測定は、以下の条件で行う。
接触角:130°
表面張力:484dyn/cm
細孔直径:170μm
〜0.0055μ
m
【0116】
(セパレータ)
VRLAは、通常、正極板と負極板との間に介在するセパレータを備えている。セパレータは、不織布で構成される。不織布は、ガラス繊維を織らずに絡み合わせたマットである。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は、極間数に応じて選択すればよい。
【0117】
不織布は、繊維を主体とする。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーを含んでもよい。
【0118】
ガラス繊維の平均繊維径は、例えば、0.1μm以上25μm以下が好ましい。
平均繊維径は、10本以上の繊維を任意に選択し、選択された繊維の拡大写真から求めることができる。なお、ガラス繊維は、単一の繊維径のガラス繊維だけでなく、複数の繊維径(例えば、1μmのガラス繊維と10μmのガラス繊維)を混合して用いてもよい。
【0119】
上記の不織布は、ガラス繊維以外に、電解液に不溶性の繊維材料を含んでいてもよい。ガラス繊維以外の繊維材料としては、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。不織布は、例えば、60質量%以上が繊維材料で形成されていることが好ましい。不織布を構成する繊維材料に占めるガラス繊維の割合は、60質量%以上であることが好ましい。また、不織布は、無機粉体、例えば、シリカ粉末、ガラス粉末、珪藻土などを含んでいてもよい。
【0120】
セパレータは、不織布のみで構成してもよい。セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、不織布とこれと同種または異種の素材とを貼り合わせた物、不織布とこれと同種または異種の素材とで凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0121】
微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末およびオイルの少なくとも一方など)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とする微多孔膜が好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。
【0122】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、およびアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0123】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0124】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0125】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。電槽に収容された正極板および負極板の少なくとも一方が未化成である場合、鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含む。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0126】
(鉛蓄電池の評価)
(硫酸鉛の蓄積量)
満充電後の鉛蓄電池について、10℃±2℃の気槽中でPSOCサイクル試験を行う。より具体的には、下記の(a)〜(i)を充電および放電の1サイクルとして、10000サイクル繰り返す。
(a)IS放電(1):定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の2倍の電流値(A)で20秒間放電する。
(b)再始動時相当の放電:定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の6倍の電流値(A)で1秒間放電する。
(c)モーター加速時相当の放電:定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の15倍の電流値(A)で0.5秒間放電する。
(d)定電圧充電(1):定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の電流値(A)を最大電流として2.42V±0.03V/セル(約14.52V/6セル)の定電圧で50秒間充電する。
(e)IS放電(2):定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の2倍の電流値(A)で20秒間放電する。
(f)再始動時相当の放電:定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の6倍の電流値(A)で1秒間放電する。
(g)モーター加速時相当の放電:定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の20倍の電流値(A)で0.3秒間放電する。
(h)IS放電(3):定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の8倍の電流値(A)で3秒間放電する。
(i)定電圧充電(2):定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の電流値(A)を最大電流として2.42V±0.03V/セル(約14.52V/6セル)の定電圧で100秒間充電する。
【0127】
サイクル後の鉛蓄電池から、負極板を取り出し、負極板を水洗、大気圧より低い圧力下で乾燥する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。負極板全体から負極電極材料を採取し、粉砕する。次に、硫黄元素分析装置(LECO社製、S−200型)を用いて、粉砕した負極電極材料(粉砕試料)中の硫黄元素の含有量を測定する。そして、下記式に従い、負極電極材料中に蓄積された硫酸鉛中の硫黄元素の含有量を求める。
【0128】
硫酸鉛中の硫黄元素の含有量
=(硫黄元素分析装置で得られる硫黄元素の含有量)−(粉砕試料の質量(g)×有機防縮剤の添加量(g/g)×有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(g/g))
次に、硫酸鉛中の硫黄元素の含有量を、硫酸鉛量に換算し、粉砕試料の単位質量あたりの硫酸鉛濃度(質量%)を求めて、硫酸鉛の蓄積量とする。
【0129】
(低温HR放電性能)
満充電後の鉛蓄電池を、放電電流150Aにて、−15℃±2℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(初期の低温HR放電持続時間)(s)を求める。放電持続時間が長いほど、低温HR放電性能に優れる。
初期の低温HR放電持続時間を測定した後、鉛蓄電池を、20℃±2℃で放置する。放置開始から3ヶ月および6ヶ月の時点の鉛蓄電池について、20℃±2℃にて14.5V/セルの定電圧で16時間充電し、0℃±2℃にて放電電流40Aで端子電圧が1.0V/セルになるまで放電し、このときの放電時間(低温HR放電持続時間)(s)を求める。初期の低温HR放電持続時間(s)を100%としたときの、3ヶ月放置後および6ヶ月放置後の低温HR放電持続時間(s)の比率(%)を求め、3ヶ月放置後の比率から6ヶ月放置後の比率を差し引くことで、3ヶ月間の減少率d(%)を求める。この減少率dを6倍した値を、3ヶ月放置後の比率から差し引くことで、2年間放置したときの鉛蓄電池の低温HR放電持続時間の比率(%)を見積もり、この比率を低温HR放電性能の維持率として低温HR放電性能を評価する。
【0130】
(常温HR放電性能)
満充電後の鉛蓄電池を、放電電流40Aにて、25±2℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(初期の常温HR放電持続時間)(s)および放電容量(初期の放電容量)を求める。放電持続時間が長いほど、常温HR放電性能に優れる。
【0131】
初期の常温HR放電持続時間および放電容量を求めた鉛蓄電池について、下記の充電および放電のサイクルを、放電容量が初期の放電容量の50%になるまで繰り返す。このときのサイクル数を求め、常温HRサイクル特性とする。
【0132】
(充電受入性)
満充電後の鉛蓄電池を、下記の条件で、放電深度(DOD)10%まで放電し、1時間休止した後に、下記の条件で、鉛蓄電池の充電を行う。充電受入性は充電開始後の100秒目の電流値で比較する。なお、定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の0.1倍の電流値(A)で1時間放電した状態をDOD10%とする。
放電:定格10時間率容量(Ah)として記載の数値の0.1倍の電流値(A)で1時間放電する。
充電(充電受入性):定電圧(2.35V±0.02V/セル、最大電流10A)
温度:25℃±2℃
【0133】
(電解液の減少)
満充電後の鉛蓄電池を、50℃±2℃にて100日間、定電圧(2.36V±0.03V/セル、最大電流10A)で充電を行う。この間、電解液の量をモニターし、減少した電解液の質量が初期の電解液の質量に占める割合(百分率)を電解液の減少量として求める。
【0134】
上記のVRLAは、VRLAから電力の供給を受ける車両と、VRLAのSOCを制御する充電状態制御部と組み合わせて蓄電システムを構成し得る。本発明にはこのような蓄電システムも包含される。
【0135】
上記のVRLAは、上述のように、SOCが90%以上の閾値以上の場合にIS制御され、閾値未満の場合にはIS制御されない車両に使用されることが好ましい。この場合、充電状態制御部は、VRLAのSOCが閾値未満の場合に、VRLAを所定のSOCになるまで定電圧で充電する。これにより、車両がBMSを備えていない場合でも、VRLAのSOCを容易に高めることができる。
【0136】
充電状態制御部は、SOCが閾値以下の所定のSOCになった場合にVRLAの充電を開始してもよく、SOCが閾値より高い所定のSOCになった場合にVRLAの充電を開始してもよい。
【0137】
定電圧でのVRLAの充電は、エンジンが駆動している間に行われる。このとき、オルタネータが作動して発電が行われ、VRLAに定電圧充電される。定電圧充電の際には、VRLAへの過充電を避けるため、充電電圧が設定されている。例えば、VRLAのSOCが閾値より大きい値から閾値に達した場合には、車両のエンジンは停止せず、オルタネータからの定電圧充電が継続される。よって、VRLAのSOCは閾値以上を維持するように制御される。
【0138】
上記のVRLAにおいて、定電圧での充電は、2.30V/セル以上(好ましくは2.33V/セル以上)2.45V/セル以下で行ってもよい。例えば、直列された6セルからなる鉛蓄電池の場合、13.80V以上(好ましくは14.0V以上)14.7V以下の定電圧で充電されることが望ましい。
【0139】
定電圧充電の電圧は、VRLAから電力の供給を受ける車両について、VRLAが定電圧充電される時の電池電圧を電圧計(HIOKI社製、メモリーハイロガー、LR8400)で測定し、単セル当たりに換算することで求められる。
【0140】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御弁式の鉛蓄電池の構造を模式的に示す断面図である。
【0141】
図1において、鉛蓄電池1Bは、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽10を具備する。電槽10の上部開口は蓋12Bにより密閉されている。極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。
【0142】
複数の負極板2のそれぞれの上部には、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。複数の正極板3のそれぞれの上部にも、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。そして、負極板2の耳部同士は負極用ストラップ(図示せず)により連結され一体化されている。同様に、正極板3の耳部同士も正極用ストラップ(図示せず)により連結されて一体化されている。負極用ストラップは外部端子となる負極柱(図示せず)に接続され、正極用ストラップは外部端子となる正極柱(図示せず)に接続されている。
【0143】
電槽10は複数(図示例では3個)の互いに独立したセル室10rに区分され、各セル室10rに1つの極板群11が収容されている。蓋12Bは、各セル室と排気孔15を介して連通する一括排気室14rを有し、一括排気室14rはセル室の数より少数(図示例では1個)の排気弁13を備える。一括排気室14rの内圧が所定の上限値を超えると、排気弁13が開き、一括排気室14rからガスを外部に放出する。一括排気室14rの内圧が上限値以下では、正極板3で発生した酸素が任意のセル室10rの負極板2で還元されて水を生成する。
図1では一括排気室14rに1つの排気弁13を備える蓋を用いる場合を示したが、この場合に限らず、セル室毎に独立した排気弁を備える蓋を用いてもよい。
【0144】
図2は、上記構成を有する蓄電システムを模式的に示すブロック図である。蓄電システム20は、制御弁式の鉛蓄電池Aと、鉛蓄電池Aから電力の供給を受ける車両30と、鉛蓄電池AのSOCを制御する充電状態制御部40とを備える。充電状態制御部40は、鉛蓄電池Aの充電を制御する充電制御ユニット41を備える。車両30は、アイドリングストップ(IS)制御部50によるISシステム(ISS)を備えるアイドリングストップ車両(IS車両)である。鉛蓄電池AのSOCが90%以上の閾値を維持するように制御(IS制御)される場合、充電状態制御部40は、IS期間中に鉛蓄電池AのSOCが閾値に達すると、2.30V/セル以上2.45V/セル以下の定電圧で鉛蓄電池Aを充電する。
【0145】
本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池、製造方法、ならびに他の側面に係る蓄電システムを以下にまとめて記載する。
【0146】
(1)制御弁式鉛蓄電池であって、
正極板、負極板、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記正極板は、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極電極材料と負極集電体とを備え、
前記負極電極材料は、炭素質材料を含み、
前記炭素質材料のBET法による比表面積:Scは、Sc≧650m
2/gを充足し、
前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量:Ccは、Cc≧0.5質量%を充足し、
小型モビリティに用いられる、制御弁式鉛蓄電池。
【0147】
(2)制御弁式鉛蓄電池であって、
正極板、負極板、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記正極板は、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極電極材料と負極集電体とを備え、
前記負極電極材料は、炭素質材料を含み、
前記炭素質材料のBET法による比表面積:Scは、Sc≧650m
2/gを充足し、
前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量:Ccは、Cc≧0.5質量%を充足し、
車両に使用され、
前記車両は、前記制御弁式鉛蓄電池の充電状態:SOCが90%以上の閾値以上の場合にアイドリングストップ制御され、前記制御弁式鉛蓄電池のSOCが前記閾値未満の場合にはアイドリングストップ制御されないように構成されている、制御弁式鉛蓄電池。
【0148】
(3)上記(1)または(2)において、前記負極電極材料には、さらに有機防縮剤が添加されていてもよい。
【0149】
(4)上記(3)において、前記比表面積Scは、650m
2/g≦Sc≦1000m
2/gを充足し、
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の添加量:Ce(質量%)は、Ce>0.368Cc+0.054を充足してもよい。
【0150】
(5)上記(4)において、前記添加量Ceは、0.372Cc+0.092≦Ce≦0.373Cc+0.249を充足してもよい。
【0151】
(6)上記(1)または(2)の制御弁式鉛蓄電池を製造する方法であって、
鉛粉、前記炭素質材料、水、および硫酸を含む負極ペーストを調製する工程と、
前記負極ペーストを前記負極集電体に塗布または充填することによって未化成の負極板を形成する工程と、
前記未化成の負極板を化成することによって、前記負極電極材料と前記負極集電体とを備える前記負極板を得る工程と、を備える、制御弁式鉛蓄電池の製造方法。
【0152】
(7)上記(6)において、前記負極ペーストは、さらに有機防縮剤を含み、
前記比表面積Scは、650m
2/g≦Sc≦1000m
2/gを充足し、
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の添加量:Ce(質量%)は、Ce>0.368Cc+0.054を充足してもよい。
【0153】
(8)上記(7)において、前記添加量Ceは、0.372Cc+0.092≦Ce≦0.373Cc+0.249を充足してもよい。
【0154】
(9)蓄電システムであって、
制御弁式鉛蓄電池と、
前記制御弁式鉛蓄電池から電力の供給を受ける車両と、
前記制御弁式鉛蓄電池の充電状態:SOCを制御する充電状態制御部と、を備え、
前記制御弁式鉛蓄電池は、正極板、負極板、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記正極板は、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極電極材料と負極集電体とを備え、
前記負極電極材料は、炭素質材料を含み、
前記炭素質材料のBET法による比表面積:Scは、Sc≧650m
2/gを充足し、
前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量:Ccは、Cc≧0.5質量%を充足し、
前記車両は、前記制御弁式鉛蓄電池の充電状態:SOCが90%以上の閾値以上の場合にアイドリングストップ制御され、前記制御弁式鉛蓄電池のSOCが前記閾値未満の場合にはアイドリングストップ制御されない、蓄電システム。
【0155】
(10)上記(9)において、前記充電状態制御部は、前記制御弁式鉛蓄電池のSOCが前記閾値未満のときに、定電圧で前記制御弁式鉛蓄電池を充電してもよい。
【0156】
(11)上記(10)において、前記定電圧での充電は、2.30V/セル以上(好ましくは2.33V/セル以上)2.45V/セル以下で行ってもよい。
【0157】
(12)上記(1)〜(11)のいずれか1つにおいて、前記比表面積Scは、750m
2/g以上、または800m
2/g以上であってもよい。
【0158】
(13)上記(1)〜(3)、(6)、および(9)〜(12)のいずれか1つにおいて、前記比表面積Scは、1000m
2/g以下であってもよい。
【0159】
(14)上記(1)〜(13)のいずれか1つにおいて、前記炭素質材料の含有量Ccは、0.75質量%以上であってもよい。
【0160】
(15)上記(1)〜(14)のいずれか1つにおいて、前記炭素質材料の含有量Ccは、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0161】
(16)上記(1)〜(15)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の質量の、前記正極電極材料の質量に対する比:NAM/PAM比は、1.25以下または1.21以下であってもよい。
【0162】
(17)上記(1)〜(16)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の質量の、前記正極電極材料の質量に対する比:NAM/PAM比は、0.4以上であってもよい。
【0163】
(18)上記(1)〜(17)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の質量の、前記正極電極材料の質量に対する比:NAM/PAM比は、NAM/PAM比<1.21を充足してもよい。
【0164】
(19)上記(18)において、前記正極電極材料は、1μm以上10μm以下の細孔径を有する第1細孔を含み、
前記正極電極材料中の前記第1細孔の比率は、9体積%以上であってもよい。
【0165】
(20)上記(19)において、前記第1細孔の比率は、25体積%以下、20体積%以下または14体積%以下であってもよい。
【0166】
(21)上記(19)において、前記第1細孔の比率は、15体積%以上であってもよい。
【0167】
(22)上記(21)において、前記第1細孔の比率は、25体積%以下、または20体積%以下であってもよい。
【0168】
(23)上記(1)〜(22)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、硫酸バリウムを含んでもよい。
【0169】
(24)上記(23)において、前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0170】
(25)上記(23)または(24)において、前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0171】
(26)上記(1)〜(25)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における前記電解液の20℃における比重は、1.20以上、または1.25以上であってもよい。
【0172】
(27)上記(1)〜(26)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における前記電解液の20℃における比重は、1.35以下、または1.32以下であってもよい。
【0173】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0174】
《制御弁式鉛蓄電池A1およびR1〜R3》
以下の手順で、制御弁式鉛蓄電池を作製する。
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、炭素質材料と、有機防縮剤(リグニンスルホン酸ナトリウム)と、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、既述の手順で求められる炭素質材料の含有量が表1に示す値となるように炭素質材料を混合する。炭素質材料としては、既述の手順で求められるBET比表面積Scが表1に示す値となるようなカーボンブラックを用いる。有機防縮剤の添加量Ceは、炭素質材料の含有量Ccと有機防縮剤の添加量Ceとが式(1)および(2)を充足するように調節する。
負極ペーストを、Pb−Ca−Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0175】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb−Ca−Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0176】
(c)鉛蓄電池の組み立て
未化成の負極板4枚と未化成の正極板3枚とを用いて、負極板と正極板の間にセパレータを介在させて、負極板と正極板とを交互に積層することにより、極板群を形成する。セパレータとしては、ガラス繊維の不織布シートを用いる。
【0177】
極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、鉛蓄電池を組み立てる。組み立て後の電池に化成を施し、VRLA(小型モビリティ用VRLA)を完成させる。VRLAの定格電圧は12Vで、定格10時間率容量は5Ahである。化成後の電解液の比重は1.32である。化成後の負極電極材料には、0.5質量%の硫酸バリウムが含まれる。なお、既述の手順で求められる正極電極材料中の第1細孔の比率は、0.9体積%である。また、既述の手順で求められるNAM/PAM比は、1.21である。
【0178】
《液式鉛蓄電池R4〜R7》
鉛蓄電池A1と同様に、未化成の負極板および未化成の正極板を作製する。未化成の負極板をポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容する。これ以外は、鉛蓄電池A1の場合と同様に、極板群を形成し、鉛蓄電池を組み立てる。組み立て後の電池に化成を施し、液式の鉛蓄電池(四輪自動車用鉛蓄電池)を完成させる。鉛蓄電池の定格電圧は12Vで、定格10時間率容量は5Ahである。
【0179】
[硫酸鉛の蓄積量]
制御弁式鉛蓄電池(VRLA)A1およびR1〜R3については、既述の手順で、PSOCサイクルを含む充放電を行い、負極板における硫酸鉛の蓄積量を測定する。
【0180】
液式鉛蓄電池R4〜R7については、満充電後、10℃±2℃で、PSOCサイクル試験を行う。より具体的には、下記の(a)〜(f)を1サイクルとして10サイクル繰り返す。鉛蓄電池を解体して、負極板における硫酸鉛の蓄積量を求める。蓄積量は、上記のVRLAの場合と同様にして求める。なお、IS時の充放電は(b)および(c)に相当する。
(a)放電深度(DOD)調整(DOD50%):定格20時間率容量(Ah)の数値の4倍の電流値(A)で2.5時間放電する。
(b)定電圧充電:定格容量(好ましくは定格20時間率容量)(Ah)の数値の電流値(A)を最大電流として2.35V±0.02V/セルの定電圧で40分間充電する。
(c)放電(DOD17.5%):定格20時間率容量(Ah)の数値の7倍の電流値(A)で30分間放電する。
(d)満充電:定格20時間率容量(Ah)の数値の2倍の電流値(A)を最大電流として2.67V±0.03V/セルの定電圧で18時間充電する。
(e)20時間率放電:定格容量(好ましくは定格20時間率容量)(Ah)の数値の電流値(A)で終止電圧が1.75V/セルになるまで放電する。
(f)満充電:定格容量(好ましくは定格20時間率容量)(Ah)の数値の2倍の電流値(A)を最大電流として2.67V±0.03V/セルの定電圧で24時間充電する。
【0181】
鉛蓄電池A1およびR1〜R7の結果を表1に示す。A1は実施例であり、R1〜R7は比較例である。
【0183】
表1に示されるように、四輪自動車用の液式鉛蓄電池では、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満の場合および0.5質量%以上の場合の双方において、炭素質材料のBET比表面積Scによって硫酸鉛の蓄積量にはほとんど違いが見られない(R4とR5との比較、R6とR7との比較)。四輪自動車用の液式鉛蓄電池では、炭素質材料の含有量Ccが多くなると、炭素質材料のBET比表面積Scによらず、硫酸鉛の蓄積量が低減される(R4およびR5とR6およびR7との比較)。なお、これらの結果は、液式鉛蓄電池における結果であるが、四輪自動車用のVRLAの場合にも同様の傾向が得られる。
【0184】
それに対し、小型モビリティ用のVRLAでは、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満の場合には、炭素質材料のBET比表面積Scによる硫酸鉛の蓄積量における違いはほとんど見られない(R2とR3との比較)。また、BET比表面積Scが
650m
2/g未満の場合には、炭素質材料の含有量Ccを多くしても、硫酸鉛の蓄積量はほとんど変わらない(R3とR1との比較)。ところが、BET比表面積Scが
650m
2/g以上の炭素質材料を0.5質量%以上の含有量Ccで用いると、硫酸鉛の蓄積量を大幅に低減できる(A1とR1との比較、A1とR2との比較)。
【0185】
このように、比較的低い
SOCでIS制御される四輪自動車用の鉛蓄電池と比較的高いSOCでIS制御される小型モビリティ用のVRLAとでは、硫酸鉛の蓄積抑制に及ぼすBET比表面積Scが示す挙動は大きく異なる。
【0186】
《制御弁式鉛蓄電池A2〜A7およびR8〜R9》
既述の手順で求められる炭素質材料の含有量Ccが表2に示す値となるように炭素質材料を混合する。炭素質材料としては、既述の手順で求められるBET比表面積Scが800m
2/gとなるようなカーボンブラックを用いる。有機防縮剤の添加量Ceは、炭素質材料の含有量Ccと有機防縮剤の添加量Ceとが式(1)および(2)を充足するように調節する。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして制御弁式鉛蓄電池を作製し、硫酸鉛の蓄積量を評価する。結果を表2および
図4に示す。A2〜A7は実施例であり、R8およびR9は比較例である。
【0188】
表2および
図4に示されるように、負極電極材料中の炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%以上の場合、高い硫酸鉛の蓄積抑制効果が得られる。これらの結果と表1の結果とから、四輪自動車用の鉛蓄電池と小型モビリティ用のVRLAとにおける、硫酸鉛の蓄積抑制効果に及ぼす上述のようなBET比表面積Scの挙動の相違は、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%以上で得られると考えられる。
【0189】
《制御弁式鉛蓄電池A8〜A11およびR10〜R12》
既述の手順で求められる炭素質材料の含有量Ccが表3に示す値となるように炭素質材料を混合する。炭素質材料としては、既述の手順で求められるBET比表面積Scが表3の値となるように、カーボンブラック、またはカーボンブラックおよび黒鉛を用いる。有機防縮剤の添加量Ceは、炭素質材料の含有量Ccと有機防縮剤の添加量Ceとが式(1)および(2)を充足するように調節する。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして鉛蓄電池を作製し、硫酸鉛の蓄積量を評価する。結果を表3および
図5に示す。A8〜A11は実施例であり、R10〜R12は比較例である。
【0191】
表3および
図5に示されるように、炭素質材料のBET比表面積Scが650m
2/g以上1000m
2/g以下の範囲では、負極板における硫酸鉛の蓄積量が少なく、ほぼ一定である。そのため、負極電極材料が、BET比表面積Scがこのような範囲である炭素質材料を含む場合、HR放電性能、充電受入性、および電解液の減少抑制などの電池特性のバランスを取りやすい。
【0192】
《制御弁式鉛蓄電池A21〜A56およびR21》
既述の手順で求められる炭素質材料の含有量Ccおよび有機防縮剤の添加量Ceが表4に示す値となるように炭素質材料および有機防縮剤を混合する。炭素質材料としては、既述の手順で求められるBET比表面積Scが表4の値となるようなカーボンブラックを用いる。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして鉛蓄電池を作製する。鉛蓄電池について、既述の手順で、低温HR放電性能(低温HR放電持続時間(秒))、充電受入性(100秒目電流(A))、および電解液の減少を評価する。電解液の減少については、下記のA〜Cの基準で評価する。
A:電解液の減少量が10質量%未満である。
B:電解液の減少量が10質量%以上15質量%未満である。
C:電解液の減少量が15質量%以上である。
【0193】
結果を表4および
図3に示す。表4に示す各鉛蓄電池の負極電極材料について、有機防縮剤の添加量Ceと炭素質材料の含有量Ccとの関係をプロットしたグラフが
図3である。A21〜A56は実施例であり、R21は比較例である。
【0195】
表4および
図3から、高い低温HR放電性能(具体的には、180秒以上の低温HR放電持続時間)を確保する観点からは、Ce>0.368Cc+0.054が好ましい。より高い低温HR放電性能を確保しながら、電解液の減少を抑制する観点からは、0.372Cc+0.092≦Ceとすることが好ましい。より高い充電受入性を確保する観点からは、Ce≦0.373Cc+0.249とすることが好ましい。
【0196】
《制御弁式鉛蓄電池A61〜A66およびR31〜R36》
既述の手順で求められる炭素質材料の含有量Ccが表5に示す値となるように炭素質材料および有機防縮剤を混合する。炭素質材料としては、既述の手順で求められるBET比表面積Scが表5の値となるようなカーボンブラックを用いる。有機防縮剤の添加量Ceは、0.372Cc+0.092≦Ce≦0.373Cc+0.249の範囲で調節される。負極ペーストを調製する際の硫酸水溶液の濃度および量を調節することで、第1細孔の比率が表1に示す値となるように調節する。既述の手順で求められるNAM/PAMを表5に示すように調節する。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして鉛蓄電池を作製し、既述の手順で、低温HR放電性能、充電受入性、電解液の減少、低温HR放電性能の維持率、初期の常温HR放電性能、および常温HRサイクル特性を評価する。電解液の減少は、上述の基準で評価する。結果を表5に示す。なお、常温HR放電性能および常温HRサイクル特性は、鉛蓄電池R31の結果を100%とした値で示す。A61〜A66は実施例であり、R31〜R36は比較例である。
【0198】
表5に示されるように、負極電極材料が、650m
2/g以上のBET比表面積を有する炭素質材料を0.5質量%以上の含有量Ccで含み、かつNAM/PAM比≦1.21の場合、低温HR放電性能の高い維持率を確保できる。つまり、長期間使用しても、高い低温HR放電性能を維持することができる。NAM/PAM比を小さく(例えば、NAM/PAM比<1.21に)しても高い低温HR放電性能が得られるため、正極電極材料の体積比率を相対的に大きくでき、常温HR放電特性を向上することができる。正極電極材料に含まれる正極活物質の利用率が低下することで、常温HRサイクル特性を向上できる。一方、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満の場合には、NAM/PAM比が小さくなると、低温HR放電性能の維持率が低下する。
【0199】
また、負極電極材料が、650m
2/g以上のBET比表面積を有する炭素質材料を0.5質量%以上の含有量Ccで含む場合、正極電極材料中の第1細孔の比率が8体積%の場合には、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%未満の場合と比べて常温HRサイクル特性が低下する。しかし、第1細孔の比率が9体積%以上になると、炭素質材料の含有量Ccが0.5質量%以上の場合に、より高い常温HRサイクル特性を確保できる。
【解決手段】制御弁式鉛蓄電池は、正極板3、負極板2、および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、前記正極板は、正極電極材料を備え、前記負極板は、負極電極材料を備える。前記負極電極材料は、炭素質材料を含み、前記炭素質材料のBET法による比表面積:Scは、Sc≧650m