(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。但し、本発明は、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得る。また、後述する実施形態および変形例は互いに好適に組み合わせることができる。また、本明細書で特定する数値「A〜B」は、数値Aと数値Aより大きい値および数値Bと数値Bより小さい値を満たす範囲をいう。なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。また、本明細書におけるシートは、フィルム、板状と同義である。本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0015】
(第1実施形態)
[磁性樹脂組成物]
第1実施形態の磁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)および磁性粒子(B)を含有する。磁性粒子(B)として、Fe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用いる。熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85となるように混合する。磁性樹脂組成物は、常温で固形状の混練物とする。本明細書でいう磁性樹脂組成物は、配合成分を混練した樹脂組成物であって、成形前の組成物をいう。成形前の組成物には、例えば、塊状、ペレット状、顆粒状の磁性樹脂組成物を含む。
【0016】
上記磁性樹脂組成物をシート状になるように、当該シートの一主面となる方向(形成されるシートの一主面側の上方向)から15MPaの圧力を均一に、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度で1分かけてシートを作製し、このシートの厚み方向の切断面のうちの長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに以下の(1)、(2)の条件を満たすものを用いる。熱可塑性樹脂(A)を2種以上用いる場合には、融点が最も高い熱可塑性樹脂(A)+15℃の温度でシートを作製する。なお、このシート作製温度は、下記(1)、(2)を満たす温度として規定したものであって、シートをはじめとする各種成形体の作製温度は融点以上であればよく、本磁性樹脂組成物の各種成形の作製温度を何ら限定するものではない。
(1)前記画像処理した磁性粒子(B)の総面積を前記画像処理領域の面積の40〜65%とする。
(2)前記画像処理した磁性粒子(B)の個数を200〜500個とする。
なお、これらの数値は、後述する実施例に記載の方法により得られる値をいう。
【0017】
第1実施形態の磁性樹脂組成物の上記シートの形成方法の模式的説明図を
図1Aに、得られたシートの模式的斜視図を
図1Bに、
図1BのIc-Icの切断面図を
図1Cに示す。まず、第1実施形態の磁性樹脂組成物1を載置台2に置き、シート状になるように、当該シートの一主面となる方向、即ち、形成されるシートの一主面側の上方から均一に15MPaの圧力を、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度で1分かけることにより(
図1A参照)、厚み1mmのシート50を得る(
図1B参照)。磁性樹脂組成物は、塊状の混練物を用いる他、ペレット状の磁性樹脂組成物を用いることができる。この場合には、ペレット状の磁性樹脂組成物をそのまま用いてもよいし、ペレットを熱溶融して
図1Aに示すような塊状にしてからシートを形成してもよい。均一に圧力をかける方法は公知の方法を任意に選択できるが、
図1Aに示すように離形性基材3を介して熱圧着装置により圧力を加える方法が好ましい。シート50は2つの主面51a、51bを有する。
【0018】
シート50の略中央部で膜厚方向に切断することにより、切断面を得る。そして、少なくとも切断面のX方向の両端部をそれぞれ20%ずつカットすることにより、切断面52を有するシート50aを得る(
図1BのIc-Ic切断線および
図1C参照)。上記(1)および(2)を測定する切断面52において、画像処理領域は、厚み0.090mm×長さ0.125mmとする。
図1Cに示すように、磁性粒子(B)53は熱可塑性樹脂(A)54中に分散されている。なお、上記20%ずつカットするのは、上記(1)、(2)の測定領域を求める場合の条件であって、本磁性樹脂組成物のシート等の成形体として、端部20%の領域を排除するものではなく、これらの磁性樹脂組成物の成形体も好適に用いることができる。
【0019】
第1実施形態においては、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、且つ熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の質量比を10/90〜15/85となるように混合してなる磁性樹脂組成物を得、この磁性樹脂組成物から形成したシートが上記(1)、(2)を満たす。即ち、磁性粒子(B)の充填率が高く、且つ緻密性の高いシートを用いることによって、例えば、射出成形により加工しても比透磁率が高い、成形加工性に優れる磁性樹脂組成物を得ることができる。磁性シールドシートなどの磁性シールド用成形体は、上記磁性樹脂組成物を用いて形成することにより得られる。磁性シールド用成形体は、熱溶融により成形する方法が好適である。具体的には、押出成形、射出成形、圧縮成形があり、この中でも射出成形法が比透磁率の安定性や生産性の観点から特に好適である。
【0020】
上記特許文献4,5のように塗液とせずに、常温で固形状であり、熱可塑性樹脂(B)の融点+15℃の温度で上記特定の条件でシートを作製したときに上記(1)、(2)を満たす磁性樹脂組成物を用いることにより、緻密性が高く、配向性にも優れる成形体が得られる。即ち、比透磁率が高く、成形加工性に優れる磁性樹脂組成物が得られる。この磁性樹脂組成物は、射出成形用磁性樹脂組成物として特に好適である。
【0021】
<熱可塑性樹脂(A)>
第1実施形態の磁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含有する。熱可塑性樹脂(A)の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニル樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂が例示できる。これらのうちでも、加工性、機械物性、電気特性、耐熱性に優れる点から、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリカーボネート樹脂が特に好適である。
【0022】
成形体の充填不良(ショートショット)を防止する観点、および得られる成形物の強度低下を抑制する観点から、磁性樹脂組成物の熱分解開始温度が使用する熱可塑性樹脂(A)の融点+20℃以上であることが好ましい。より好ましくは+40℃以上であり、更に好ましくは+50℃以上である。ここで、熱分解開始温度とは、後述する実施例で求める方法により得られた値をいう。ショートショットを防止する観点および得られる成形物の強度低下を抑制する観点からは、熱可塑性樹脂(A)として、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂が好適である。また、後述する添加剤を用いる方法が好適である。
【0023】
熱可塑性樹脂(A)の融点は耐熱性および耐久性の観点から100℃以上であることが好ましく、プロセス性の観点から400℃以下であることが好ましい。融点が100〜400℃の熱可塑性樹脂(A)を上記含有比率で用いることにより、射出成形時に鱗片状粒子である磁性粒子(B)の割れ・欠けをより効果的に抑制することができる。150℃以上であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、成膜性および耐久性の観点から10000〜200000であることが好ましい。重量平均分子量は20000〜150000がより好ましく、30000〜120000が更に好ましい。熱可塑性樹脂(A)は、一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
【0025】
<磁性粒子(B)>
第1実施形態の磁性樹脂組成物は、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)とFe−Si−Al合金が上記特定の質量比となるように配合されている。ここで、鱗片状粒子とは、鱗のような薄板状の粒子であり、フレーク形状または扁平形状の粒子をいう。その平面形状は、円形、楕円形、角形、不定形などを含み得るが、好適には、円形、楕円形である。鱗片状粒子のアスペクト比(平均粒子径D50/厚み)は、比透磁率の観点から5〜100であることが好ましく、10〜90であることがより好ましく、20〜80であることが更に好ましい。鱗片状粒子の平均粒子径D50は、体積平均粒子径をいい、例えば、市販の粒子径分布測定装置(商品名:「LA−300」、堀場製作所製等)を用いて、100個の鱗片状粒子の粒子径およびその体積を求め、これに基づき体積で重みづけをした平均値を得ることで算出することができる。
【0026】
配合する鱗片状粒子の平均粒子径は、優れた比透磁率を得るために、15〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであることがより好ましいく、40〜80μmとすることが更に好ましい。
配合する鱗片状粒子の平均厚みは、割れや欠けを防止する観点から0.5〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましく、1〜5μmが更に好適である。鱗片状粒子の平均厚みは、たとえば、市販の粒子径分布測定装置を用いて、100個の鱗片状粒子の厚みをそれぞれ求め、これらの平均値を得ることで算出することができる。
【0027】
上記(1)の画像処理した磁性粒子(B)の総面積が前記画像処理領域の面積の40〜65%であることが好ましく、45〜60%であることが更に好ましい。また、上記(2)の画像処理した磁性粒子(B)の粒子の個数は200〜500個であることが好ましく、250〜450個であることが更に好ましい。
また、熱可塑性樹脂(A)とFe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金は、15/85〜10/90であることが好ましく、15/85〜12/88であることがより好ましい。
【0028】
Fe−Si−Al合金の含有成分の質量比率(%)は任意とすることができるが、好適範囲として82<Fe<86.5、9.0<Si<11.0、4.5<Al<7.0が挙げられ、好ましくは、83<Fe<85.6、9.4<Si<10.6、5.0<Al<6.4が挙げられる。また、Fe−Si−Al合金の好適製品としてセンダストが挙げられる。
【0029】
磁性粒子(B)の表層に、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を向上させるために表面処理を行ってもよい。好適例として、シリカ等のケイ素化合物を被着させた態様が例示できる。ケイ素化合物は、ケイ素系表面処理剤を用いて容易に形成できる。ケイ素化合物は、有機表面処理剤であってもよい。なお、前記(1)の磁性粒子(B)の総面積は、Fe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子の総面積をいい、磁性粒子(B)の表層に形成された被着層は含まない。後述する(3)の総面積においても同様である。
【0030】
上記ケイ素化合物としては、アルコキシシラン、シラザン等のシラン化合物が好適である。アルコキシランの例としてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラオクチルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、シラザンの例としては、ヘキサメチルジシラザン、N−メチル−ヘキサメチルジシラザン、N−エチル−ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチル−N−プロピルジシラザン、パーヒドロポリシラザンを用いた処理が例示できる。
【0031】
また、ケイ素化合物として、ポリシロキサンの側鎖および/または末端の全部または一部がメチル基になっているシリコーン化合物、側鎖の一部が水素原子であるシリコーン化合物、側鎖および/または末端の全部または一部にアミノ基、エポキシ基等の有機基を導入した変性シリコーン化合物、分岐構造を有するシリコーンレジンが挙げられる。なお、シリコーン化合物は直鎖状、環状のいずれの構造でもよい。
【0032】
ポリシロキサンの側鎖および/または末端の全部または一部がメチル基になっているシリコーン化合物としては、例えば、ポリメチルヒドロシロキサン(水素末端)、ポリメチルヒドロシロキサン(トリメチルシロキシ末端)、ポリメチルフェニルシロキサン(水素末端)、ポリメチルフェニルシロキサン(トリメチルシロキシ末端)のようなモノメチルポリシロキサン、例えば、ジメチルポリシロキサン(水素末端)、ジメチルポリシロキサン(トリメチルシロキシ末端)、環状ジメチルポリシロキサンのようなジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0033】
側鎖の一部が水素原子であるシリコーン化合物としては、例えば、メチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(トリメチルシロキシ末端)、メチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(水素末端)、ポリメチルヒドロシロキサン(水素末端)、ポリメチルヒドロシロキサン(トリメチルシロキシ末端)、ポリエチルヒドロシロキサン(トリエチルシロキシ末端)、ポリフェニル−(ジメチルヒドロシロキシ)シロキサン(水素末端)、メチルヒドロシロキサン−フェニルメチルシロキサンコポリマー(水素末端)、メチルヒドロシロキサン−オクチルメチルシロキサンコポリマー・ターポリマーが挙げられる。
【0034】
また、有機基を導入した変性シリコーンとしては、例えば、アミノ基、エポキシ基、メトキシ基、(メタ)アクリロイル基、フェノール基、カルボン酸無水物基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基および水素原子の有機基を導入した反応性シリコーン並びに、例えば、ポリエーテル、アラルキル、フルオロアルキル、長鎖アルキル、長鎖アラルキル、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドおよびポリエーテルメトキシで変性された非反応性シリコーンが挙げられる。
【0035】
ケイ素化合物の磁性粒子(B)の表層への被着処理は、乾式または湿式で行うことができる。好適例として、原料粒子を含有する溶液にケイ素系表面処理剤を添加して、ゾル−ゲル法によって磁性粒子(B)表面にシリカ(SiO
2)等のケイ素化合物を被着させる方法が例示できる。アルコキシシラン、シラザン等のシラン化合物の加水分解を促進するために、ケイ素化合物に塩基を添加してもよい。塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が例示できる。
【0036】
磁性粒子(B)の表層への被着処理に用いるケイ素化合物は、磁性粒子(B)との反応速度や収率の観点からアルコキシシランやシラザン等のシラン化合物が好ましく、アルコキシシランがより好ましい。
【0037】
磁性粒子(B)500質量部に対してケイ素系表面処理剤を5〜50質量部添加するのが好ましく、15〜40質量部がより好ましい。
【0038】
磁性粒子(B)の表層の表面改質処理を行うことによって以下の効果が得られる。まず、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を向上させることができる。それによって、シート状にしたときの磁性粒子(B)の割れや欠けを効果的に防止できる。また、磁性樹脂組成物の流動性を向上できる。その結果、シート状に成形したときの磁性粒子(B)の配向性・面積率を高め、優れた比透磁率を有するシートを得ることができる。また、射出成形を行った場合にも、同様の理由により優れた配向性・面積率を達成し、優れた比透磁率を有する射出成形体を得ることができる。
更に、磁性粒子(B)の表面改質処理により、金属イオンの発生を効果的に抑制することで、渦電流発生による磁気損失を効果的に低減できる。また、磁性樹脂組成物中の樹脂の劣化を抑制して耐熱性・耐熱老化性を改善する効果、および磁性粒子(B)の防錆を効果的に発揮させる効果が得られる。更に、磁性粒子(B)の表層への表面処理を行うことにより、比表面積の低下による磁性粒子(B)の分散性の向上効果も期待できる。
【0039】
<滑剤(C)>
第1実施形態の磁性樹脂組成物は、更に、滑剤(C)を含有させることができる。滑剤(C)を用いることにより、磁性樹脂組成物からシートを作製する際に、樹脂組成物の流動性を向上させ、Fe−Si−Al合金の割れや欠けを効果的に防止することができる。その結果、Fe−Si−Al合金の配向性・面積率を向上させ、比透磁率をより効果的に高めることができる。
【0040】
滑剤(C)としては、エステル系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、アルコール系滑剤、金属石けん類、ワックス類、高分子系滑剤、非イオン界面活性剤系滑剤、モンタン酸エステル部分鹸化物、シリコーン系滑剤等が例示できる。
【0041】
エステル系滑剤としては、脂肪酸の低級アルコールエステル、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル等が挙げられる。具体的には、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモノステアレート等が例示できる。市販品としては、「リケマールS−100」(グリセリンモノステアレート)理研ビタミン社製、「リケマールS−300W」(ソルビタンステアレート)理研ビタミン社製、「リケマールEW−200」(ペンタエリスルトールアジペートステアレート高分子エステル)理研ビタミン社製、「ユニスターH−476」(ペンタエリスリトールテトラステアレート)日本油脂製、「AX−518」(ステアリルリン酸エステル混合物)大協化成工業社製等が挙げられる。
【0042】
脂肪酸系滑剤としては、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸が例示できる。高級脂肪酸は、C12〜35が好ましい。具体的にはオレイン酸、エルカ酸、カプロン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸が例示できる。また、商品としては、「Licowax OP」(モンタン酸ワックス)クラリアント社製、「ルナックS−50V」(ステアリン酸)花王社製が例示できる。
【0043】
脂肪酸アミド系滑剤としては、飽和脂肪酸アミド系滑剤および不飽和脂肪酸アミド系滑剤が例示できる。飽和脂肪酸アミド系滑剤として、ベヘニン酸アミド系滑剤、ステアリン酸アミド系滑剤、ヒドロキシステアリン酸アミド系滑剤、パルミチン酸アミド系滑剤等、ラウリン酸アミド系滑剤が例示できる。不飽和脂肪酸アミド系滑剤として、エルカ酸アミド系滑剤、オレイン酸アミド系滑剤、等が挙げられる。ビス脂肪酸アミド系滑剤として、メチレンビスベヘニン酸アミド系滑剤、メチレンビスステアリン酸アミド系滑剤、メチレンビスオレイン酸アミド系滑剤、エチレンビスステアリン酸アミド系滑剤、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド系滑剤、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド系滑剤、モノアルキロールアミド系滑剤として、N−(2−ヒドロキシエチル)ラウリン酸アミド、N−(2−ヒドロキシエチル)ステアリン酸アミド、N−(2−ヒドロキシメチル)ステアリン酸アミドが例示できる。商品としては、「ライトアマイドWH255」(カルボン酸アマイド系ワックス)共栄社油脂化学工業社製、「脂肪酸アマイドS」(ステアリン酸アミド)花王社製、「脂肪酸アマイドO−N」(オレイン酸アミド)花王社製、「脂肪酸アマイドE」(エルカ酸アミド)花王社製、「カオーワックスEB−P」(エチレンビスステアリン酸アマイド)花王社製が例示できる。
【0044】
アルコール系滑剤としては、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロールが好適である。具体例として、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、マンニトールが挙げられる。商品としては、「カルコール8098」(ステアリルアルコール)花王社製が例示できる。
【0045】
脂肪酸金属塩系滑剤(金属石けん)としては、炭素数が6〜50の脂肪酸と金属との化合物が好適である。炭素数は10〜40がより好ましく、10〜30が更に好ましい。脂肪酸としては、ラウリン酸、ステアリン酸、コハク酸、ステアリル乳酸、乳酸、フタル酸、安息香酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ナフテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、エルカ酸が好適例として例示でき、金属はLi、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Al、Sn、Pb、Cdが例示できる。好適例として、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸マグネシウムが挙げられる。商品としては、ステアリン酸Mg(和光純薬工業社製)、ステアリン酸亜鉛(和光純薬工業社製)、「SC−100」(ステアリン酸カルシウム)堺化学工業社製、「TSVN−2000E」(ブチルスズマレート)日東化成社製が例示できる。
【0046】
ワックス類としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリオレフィンワックスなどの石油ワックス、カルナウバロウ、モンタンロウ、カンデリラロウ、微晶ロウ、蜜ロウ、松脂等の天然ロウ状物質が挙げられる。ポリオレフィンワックスとしては、低重合のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられる。これらのポリオレフィンワックスの数平均分子量は10,000以下が好ましく、8,000以下がより好ましく、6,000以下が更に好ましい。また、商品としては「ハイワックス420P」(低分子ポリエチレンワックス)三井化学社製、「AC629A」(酸化ポリエチレンワックス)アライドシグナル社製、「ルバックス2191」(マイクロクリスタリンワックス)日本精蝋社製が例示できる。
【0047】
高分子系滑剤としては、例えば、アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物が挙げられる。高分子系滑剤の数平均分子量は3,000以上が好ましく、5,000〜50,000がより好適である。商品としては、「パラロイドK125P」(高分子系滑剤)呉羽化学社製、「メタブレンL−1000」(アクリル系重合体)三菱レイヨン社製が例示できる。
【0048】
非イオン界面活性剤系滑剤としては、エレクトロストリッパ−TS−2、エレクトロストリッパ−TS−3(花王石鹸)が例示できる。
【0049】
シリコーン系滑剤としては、ジメチルポリシロキサン及びその変性物、カルボキシル変性シリコーン、αメチルスチレン変性シリコーン、αオレフィン変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、親水性特殊変性シリコーン、オレフィンポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、アルコール変性シリコーンが例示できる。
【0050】
滑剤(C)の種類は、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を高める観点からは、長鎖アルキルカルボン酸塩、長鎖アルキルアルコール、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステル、 長鎖アルキルカルボン酸エステルワックス、長鎖アルキルカルボン酸アミド、エチレンビスステアリルアマイド、ポリエチレンワックス、パラフィンワックスが好適である。また、熱可塑性樹脂(A)としてポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂を用いる場合には、相溶性の観点から脂肪酸アミド系滑剤を用いることがより好ましく、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂を用いる場合には、相溶性の観点から流動パラフィン、オレフィンワックスを用いることがより好ましい。
【0051】
滑剤(C)の分子量は、耐熱性の観点からは100〜5000が好ましく、300〜4000がより好ましい。
【0052】
滑剤(C)の含有量は、Fe−Si−Al合金の配向性・面積率をより優れたものとする観点から、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1〜10質量部用いることが好ましく、射出成形した場合の配向性・面積率をより優れたものとする観点からは、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.5〜10質量部用いることが好ましい。
【0053】
<その他>
第1実施形態の磁性樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、他の成分を含有していてもよい。例えば、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、着色剤、分散剤、フィラーなどが例示できる。また、潤滑剤として溶剤を添加することができる。熱溶融成形を行う際に、緻密性が高く、透磁率の高い成形体を得る観点から、実質的に溶剤を含まない磁性樹脂組成物が好ましい。実質的に溶剤を含まないとは、不可避的に含み得る溶剤以外を含まないことを意味する。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、熱可塑性樹脂(A)に該当しない熱可塑性樹脂、磁性粒子(B)に該当しない磁性粒子が含まれていてもよい。
他の成分は一種または二種以上を併用することができる。
【0054】
フィラーとして、窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーを好適に含有することができる。但し、黒鉛やカーボンフィラーを添加すると、溶融温度での溶融粘度が高くなり、成形加工性が低下する傾向がある。
【0055】
<磁性樹脂組成物の製造方法>
第1実施形態の磁性樹脂組成物の製造方法の一例を説明する。但し、以下の製造方法に限定されるものではない。
Fe−Si−Al合金を鱗片状粒子とする方法は、公知の方法を適用できる。例えば、Fe−Si−Al系合金からなる原料粉末を、ガスアトマイズ法またはディスクアトマイズ法によって得る工程を行い、次いで、この原料粉末を扁平化する工程を行う。次いで、扁平加工された粉末を真空またはアルゴン雰囲気で、700〜900℃で熱処理する工程を経て鱗片状粒子を製造できる。原料粉末には、マンガン等の微量元素が含まれていてもよい。
【0056】
次いで、熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)および必要に応じて任意成分を混練する。混練する方法は、融点以上の温度で低シェアでの混練法により行う方法が好適である。低シェアでの混練法とは、外圧やせん断を極力発生させない方法であり、本発明においての低シェア混練法での外圧およびせん断とは、混練機中にて測定される樹脂圧力をいう。用いる熱可塑性樹脂(A)の粘度により変わり得るが、樹脂圧力が0.01〜50.0気圧で混練する方法をいう。鱗片状粒子の割れや欠けを防止する観点から、好ましくは0.01〜5.0気圧、より好ましくは1〜1.2気圧で混練することができる。
【0057】
また、磁性樹脂組成物の溶融混練時に磁性粒子(B)の割れや欠けを効果的に防止する観点から、熱可塑性樹脂(A)の融点以上、融点+50℃以下のいずれかの温度において、本磁性樹脂組成物のせん断速度304[1/s]における溶融粘度を溶融粘度10000Pa・s未満とすることが好ましい。より好ましくは、5000Pa・s未満であり、更に好ましくは3000Pa・s未満である。下限値は特に限定されないが、通常、1.0Pa・sである。熱可塑性樹脂(A)を2種以上用いる場合には、融点が高い熱可塑性樹脂(A)の融点以上、融点+50℃以下のいずれかの温度において上記溶融粘度を満たすことが好ましい。溶融粘度は、熱可塑性樹脂(A)の種類および磁性粒子(B)との配合比を代えることにより調整することができる。溶融粘度は、分子量が小さな熱可塑性樹脂(A)を用いたり、溶融混練時の温度を高くすることにより低下する傾向にある。
【0058】
低シェア混練法によれば、Fe−Si−Al合金を磁性粒子として用いる場合であっても鱗片状粒子の割れや欠けを効果的に改善することができる。また、本磁性樹脂組成物によれば、常温で固体状の磁性樹脂組成物とし、これを溶融状態で成形するので、成形体の緻密性を顕著に高めることができる。また、磁性粒子(B)の配向性を兼ね備えた成形体を得ることができる。これらの結果、透磁率の高い磁性粒子を提供することができる。また、塗料を用いる場合よりも、形状の設計自由度を格段に高めることができる。例えば、シートの厚膜化、シート状部を有する所望の形状を有する成形体を自在に製造できる。このため、例えば射出成形により厚膜化を行っても、優れた比透磁率を有する磁性シールドシートを提供することが可能となる。混練する際に、滑剤(C)を含有させることにより、より効果的に鱗片状粒子の割れや欠けを防止することができる。
【0059】
なお、上記(1)、(2)の測定する磁性粒子(B)の対象に、割れや欠けなどにより鱗片状粒子の形状を呈していない粒子も含まれることは言うまでも無い。
【0060】
<特性>
第1実施形態の磁性樹脂組成物によれば、熱可塑性樹脂(A)とFe−Si−Al合金の質量比を上記範囲とし、且つ上記(1)、(2)を満たすことにより、その成形体の比透磁率を高くすることができる。比透磁率は高ければ高いほど好ましい。例えば、シート厚が1mmのときに比透磁率が150以上であることが好ましく、シート厚が3mmのときに比透磁率が100以上であることが好ましい。第1実施形態に係る磁性樹脂組成物によれば、例えば、数kW〜1MHzの周波数帯域に対して好適に利用できる。本磁性樹脂組成物によれば、熱溶融により透磁率の高い成形体が得られるので、生産性に優れ、成形体の設計自由度が高い射出成形用磁性樹脂組成物として特に有用である。後述する実施形態のようにシート状部を有する成形体の製造に特に有用であるが、シート状部を有さない成形体にも本発明の磁性樹脂組成物を好適に適用できる。
【0061】
[磁性シールド用射出成形体]
第1実施形態に係る磁性シールド用射出成形体は、熱可塑性樹脂(A)および磁性粒子(B)を含む。磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用いる。熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85となるように混合してなる磁性樹脂組成物の射出成形体である。
【0062】
第1実施形態に係る磁性シールド用射出成形体は、少なくとも一部にシート状部を有する。ここでシート状部とは、2次元の面としての広がりを持ち、厚さが薄い形状を有する部分をいい、平面の他、曲面も含む。このシート状部の厚み方向の切断面において、長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに以下の(3)、(4)の条件を満たす面を有する。シート状部が曲面の場合には、接面(接線)の鉛直方向を厚み方向とし、曲面に沿った長さと厚みの領域を測定領域とする。
(3)前記画像処理した磁性粒子(B)の総面積が前記画像処理領域の面積の40〜65%である。
(4)前記画像処理した磁性粒子(B)の個数が200〜500個である。
なお、上記長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域は、上記
図1Cで説明したように、切断面の両端部をそれぞれ20%ずつカットした領域を測定した。ここで20%ずつカットするのは、上記(3)、(4)の測定領域を求める場合の条件であって、本磁性シールド用射出成形体として、シート状部の端部20%の領域を排除するものではなく、これらの領域の成形体も好適に用いることができる。
【0063】
第1実施形態の磁性シールド用射出成形体として、シートを例として以下に説明する。本磁性シールド用射出成形体の模式的斜視図を
図2Aに、
図2AのIIb−IIb切断面図を
図2Bに示す。シート状の磁性シールド用射出成形体60は、
図2Aに示すように、2つの主面61a、61bを有する。この磁性シールド用射出成形体60の略中央部で膜厚方向に切断することにより、切断面を得る。そして、少なくとも切断面のX方向の両端部をそれぞれ20%ずつカットすることにより、切断面62を有するシート60aを得る(
図2AのIIb-IIb切断線および
図2B参照)。上記(3)および(4)を測定する切断面62の領域(画像処理領域)は、厚み0.090mm×長さ0.125mmとする。
図2Bに示すように、磁性粒子(B)53は熱可塑性樹脂(A)54中に分散配置されてなる。シート60aにおける磁性粒子(B)の測定方法および定義は、上記(1)、(2)で説明したので割愛する。また、磁性樹脂組成物の詳細は、上記実施形態と重複するので割愛する。
【0064】
第1実施形態においては、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、且つ熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の質量比を10/90〜15/85となるように混合してなる磁性樹脂組成物を得、この磁性樹脂組成物の射出成形体からなるシート状部が上記(3)、(4)を満たす面を有する。射出成形は、加熱溶融させた磁性樹脂組成物を金型内に射出注入し、冷却・固化させることにより行われる。射出注入方向は特に限定されないが、磁性粒子(B)の配向性を高める観点からは、樹脂の注入方向がシート状部の面方向と一致することが好ましい。
【0065】
本磁性シールド用射出成形体のシート状部において、上記(3)、(4)を満たす面を有していればよく、シート状部の全ての面において上記(3)、(4)を満たしていなくてもよい。より透磁率の優れた磁性シールド用射出成形体を得る観点からは、シート状部の端部20%の領域を除くいずれの方位においても、上記(3)、(4)を満たしていることが好ましい。
【0066】
本磁性シールド用射出成形体によれば、磁性粒子(B)の充填率が高く、且つ緻密性の高いシート状部を有する射出成形体を用いることによって、射出成形加工によっても比透磁率が高い成形体が得られる。
【0067】
第1実施形態の磁性シールド用射出成形体によれば、シート状の成形体、円筒状の成形体、複雑な形状の成形体などに好適に適用できる。厚み、形状の自由度が高いので、磁性シールド用部材として種々の用途に利用できる。シートとして用いる場合には、単層または複層にして用いられる。また、他のシートと積層して利用することができる。
【0068】
<磁性シールド用射出成形体の製造方法>
第1実施形態の磁性シールドシートの製造方法の一例を説明する。但し、以下の製造方法に限定されるものではない。
磁性樹脂組成物は上述した方法により好適に製造できる。その後、射出成形を行う。射出成形温度は熱可塑性樹脂(A)の融点以上の温度とする。射出成形時の磁性粒子(B)の割れや欠けを効果的に防止する観点から、本磁性樹脂組成物の射出成形温度において、せん断速度304[1/s]における溶融粘度は10000Pa・s以下の磁性樹脂組成物を用いることが好ましい。より好ましくは8000Pa・s以下であり、更に好ましくは5000Pa・s以下である。下限値は特に限定されないが、通常、1.0Pa・sである。射出温度は、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃以上とすることが好ましい。従って、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度において、本磁性樹脂組成物のせん断速度304[1/s]における溶融粘度は10000Pa・s以下とすることが好ましく、8000Pa・s以下がより好ましく、5000Pa・s以下が更に好ましい。
【0069】
例えば、シートの射出成形は、公知の方法により行うことができる。熱可塑性樹脂(A)を溶融させ、射出成形を行う。平均厚みは例えば、0.8〜10mmである。複層とする場合には、多層射出成形、インサート成形、サンドイッチ成形等が例示できる。
【0070】
(第2実施形態)
第2実施形態の磁性樹脂組成物は、更に、酸化防止剤(D)を含む点を除き、基本的な構成および製造方法は上記第1実施形態と同様である。なお、以降の説明において重複する記載は、適宜割愛する。
【0071】
第2実施形態の磁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)および酸化防止剤(D)を含有する。磁性粒子(B)として、Fe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85となるように混合してなる。
【0072】
磁性樹脂組成物をシート状になるように、形成されるシートの一主面側の上方向から15MPaの圧力を均一に、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度で1分かけてシートを作製し、このシートの切断面のうちの長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに以下の(1)、(2)の条件を満たすものを用いる。
(1)前記画像処理した磁性粒子(B)の総面積を前記画像処理領域の面積の40〜65%とする。
(2)前記画像処理した磁性粒子(B)の個数を200〜500個とする。
【0073】
酸化防止剤(D)とは、樹脂の酸化劣化を防止する化合物であり、ラジカル連鎖開始防止剤、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤に大別される。これらのうちでも、金属イオンによる樹脂の劣化防止の観点から、ラジカル連鎖開始防止剤またはラジカル捕捉剤がより好ましい。なお、酸化防止剤(D)には、後述する第3実施形態で特定する金属不活性化剤(E)は含まないものとする。また、滑剤(C)および第1実施形態で挙げた添加剤を含んでいてもよい。
【0074】
酸化防止剤(D)の好適例としては、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤およびエポキシ系酸化防止剤が例示できる。これらのうちでも、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤(D)は一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
【0075】
ホスファイト系酸化防止剤の具体例としては、トリクレジルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイトおよびトリオレイルホスファイトや、ADEKA社製のアデカスタブPEP−8、アデカスタブPEP−36、アデカスタブHP−10、アデカスタブ2112、アデカスタブ2112RG、アデカスタブ1178、アデカスタブ1500、アデカスタブC、アデカスタブ135A、アデカスタブ3010およびアデカスタブTPPが挙げられる。これらに限定されるものではない。
【0076】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤、レスヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0077】
セミヒンダードフェノール系酸化防止剤は、フェノール構造を有し、フェノール構造を構成するOH基(フェノール性水酸基)のオルト位の一方が、嵩高の基(例えば、t−ブチル基)であり、他方がメチル基である酸化防止剤をいう。具体例としては、例えば、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、商品名「アデカスタブAO−80」、ADEKA社製)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](例えば、商品名「イルガノックス245」、BASF社製)、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](例えば、商品名「アデカスタブAO−70」、ADEKA社製)などが挙げられる。
【0078】
レスヒンダードフェノール系酸化防止剤は、フェノール構造を有し、フェノール性水酸基のオルト位の一方が、嵩高の基(例えば、t−ブチル基)であり、他方が水素である酸化防止剤である。具体例としては、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ターシャリーブチルフェニル)ブタン(例えば、商品名「アデカスタブAO−30」、ADEKA社製)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)(例えば、商品名「アデカスタブAO−40」、ADEKA社製)、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)(例えば、商品名「スミライザーWX−R」、住友化学社製)などが挙げられる。
【0079】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、フェノール構造を有し、フェノール性水酸基のオルト位の両方が、嵩高の基(例えば、t−ブチル基)である酸化防止剤である。例えば、ペンタエリスリートールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]、4,6‐ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、N−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンとの反応生成物、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌラート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマート、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−4−tert−ブチル−3−ヒドロキシベンジル)イソシアヌラート、3,5−ジ(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)メシトール、3,6−ジオキサオクタメチレンビス(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマート)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス〔2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ)エチル〕イソシアヌラート、チオジエチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマート)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、n−オクタデシル3ジ−n−オクタデシル3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホナート、オクタデシル−3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。
【0080】
硫黄系酸化防止剤の具体例としては、テトラキス[メチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネート]メタン、ビス(メチル−4−[3−n−アルキル(C12/C14)チオプロピオニルオキシ]5−tert−ブチルフェニル)スルファイド、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ラウリル/ステアリルチオジプロピオネート、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、2,2’−チオビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)、ジステアリル−ジサルファイドが例示できる。
【0081】
これらのうちでも、耐熱性を向上させる観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤である。酸化防止剤(D)としてヒンダードフェノール系酸化防止剤または/およびセミヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることにより、加工時の樹脂の酸化劣化が抑制でき、射出成形時の流動性や成形物の機械物性、透磁率がより優れたものとなる。
【0082】
酸化防止剤(D)の含有量は特に限定されないが、磁性樹脂組成物100質量%に対して例えば0.01〜5.00質量%とすることができる。加工性の観点からは、0.05〜1.00質量%とすることが好ましい。
【0083】
酸化防止剤(D)を本磁性樹脂組成物に配合することにより、組成物内で発生したラジカルを速やかに捕捉することができる。その結果、第1実施形態で述べた効果に加え、更に、耐熱性および耐熱老化性をより向上させることができる。この効果は、酸化防止剤(D)に更にケイ素化合物により表面処理を行った磁性粒子(B)を組み合わせることにより、より効果的に高めることができる。
【0084】
(第3実施形態)
第3実施形態の磁性樹脂組成物は、更に、金属不活性化剤(E)を含む点を除き、基本的な構成および製造方法は上記第1実施形態と同様である。第2実施形態と第3実施形態は組み合わせてもよい。即ち、第3実施形態の磁性樹脂組成物に、更に、酸化防止剤(D)を含有させてもよい。また、滑剤(C)および第1実施形態で挙げた添加剤を含んでいてもよい。
【0085】
第3実施形態の磁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)および金属不活性化剤(E)を含有する。磁性粒子(B)として、Fe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85となるように混合してなる。
【0086】
磁性樹脂組成物をシート状になるように、形成されるシートの一主面側の上方向から15MPaの圧力を均一に、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度で1分かけてシートを作製し、このシートの切断面において、長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに以下の(1)、(2)の条件を満たすものを用いる。
(1)前記画像処理した磁性粒子(B)の総面積を前記画像処理領域の面積の40〜65%とする。
(2)前記画像処理した磁性粒子(B)の個数を200〜500個とする。
【0087】
金属不活性化剤(E)とは、金属と樹脂が接触することにより発生する、樹脂の変色や劣化を抑制する化合物である。具体例としては、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のサリチル酸誘導体、2,2’−オキサミド−ビス[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロオキシフェニル)プロピオネート]等のシュウ酸誘導体、N,N‘−ビス[3(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン等のヒドラジド誘導体が挙げられる。金属不活性化剤(E)は一種または二種以上を併用できる。商品名としては、アデカスタブCDA−1(ADEKA社製)、アデカスタブCDA−10(ADEKA社製)、ナウガードXL−1(AccuStandard社製)などが例示できる。
【0088】
これらのうちでも、耐熱性の観点から、ヒドラジド誘導体またはサリチル酸誘導体が好ましく、より好ましくはヒドラジド誘導体である。金属不活性化剤(E)としてヒドラジド誘導体を用いることにより、金属フィラーによる樹脂の劣化を抑制でき、成形物の耐熱性や耐候性がより優れたものとなる。
【0089】
金属不活性化剤(E)の含有量は特に限定されないが、磁性樹脂組成物100質量%に対して例えば0.01〜5.00質量%とすることができる。加工性の観点からは、0.05〜1.00質量%とすることが好ましい。
【0090】
金属不活性化剤(E)を磁性樹脂組成物に配合することにより、磁性粒子(B)の錆を効果的に防止することができる。また、金属不活性化剤(E)と、ケイ素化合物により表面処理を行った磁性粒子(B)とを組み合わせた本磁性樹脂組成物を用いることにより、より効果的に耐熱性、耐熱老化性および防錆効果を高めることができる。また、耐熱性および耐熱老化性を更に効果的に高める観点から、金属不活性化剤(E)と酸化防止剤(D)の併用がより好適である。
【0091】
(第4実施形態)
第4実施形態の磁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)、滑剤(C)、酸化防止剤(D)および金属不活性化剤(E)を含む。そして、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85となるように混合してなる。
熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)および滑剤(C)は第1実施形態と共通し、酸化防止剤(D)は第2実施形態と共通し、金属不活性化剤(E)は第3実施形態と共通する。第4実施形態の磁性樹脂組成物は、第1実施形態等で述べた(1)、(2)の条件(磁性樹脂組成物をシート状になるように、形成されるシートの一主面側の上方向から15MPaの圧力を均一に、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度で1分かけてシートを作製し、このシートの切断面のうちの長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに第1実施形態で述べた(1)、(2)の条件)を必須としない点を除き、基本的な構成および製造方法は上記第1〜3実施形態と同様である。
【0092】
Fe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子の好適な平均粒子径の好適範囲、平均厚みの好適範囲は第1実施形態と同様である。また、熱可塑性樹脂(A)とFe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の好適範囲、Fe−Si−Al合金の各元素の含有率の好適範囲も第1実施形態と同様である。磁性粒子(B)は、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を向上させるために、その表層の一部にシリカ等のケイ素化合物を被着させてもよい。ケイ素化合物は、ケイ素系表面処理剤を用いて容易に形成できる。ケイ素化合物は、有機表面処理剤であってもよい。
【0093】
ケイ素化合物の好適例は、第1実施形態で述べた化合物が例示できる。また、磁性粒子(B)へのケイ素化合物の被着処理方法は、第1実施形態で述べた方法が例示できる。磁性粒子(B)への被着処理に用いるケイ素化合物は、磁性粒子(B)との反応速度や収率の観点からアルコキシシランやシラザン等のシラン化合物が好ましく、アルコキシシランがより好ましい。磁性粒子(B)500質量部に対してケイ素系表面処理剤を5〜50質量部添加するのが好ましく、15〜40質量部がより好ましい。磁性粒子(B)の表面改質処理によって、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0094】
熱可塑性樹脂(A)の好適例として第1実施形態で例示した樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂(A)の融点、重量平均分子量の好適例も第1実施形態と同様である。熱可塑性樹脂(A)は、一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
【0095】
滑剤(C)の好適例は、第1実施形態と同様の化合物が例示できる。滑剤(C)の分子量および含有量の好適範囲は第1実施形態で述べた通りである。滑剤(C)を用いることにより、磁性樹脂組成物からシートを作製する際に、樹脂組成物の流動性を向上させ、Fe−Si−Al合金の割れや欠けを効果的に防止することができる。その結果、Fe−Si−Al合金の配向性・面積率を向上させ、比透磁率をより効果的に高めることができる。
【0096】
酸化防止剤(D)は限定されないが、好適例として第2実施形態で述べた化合物が挙げられる。即ち、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤およびエポキシ系酸化防止剤が例示できる。これらのうちでも、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤(D)は一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
金属不活性化剤(E)は限定されないが、好適例として第3実施形態で述べた化合物が挙げられる。
【0097】
第4実施形態の磁性樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、他の成分を含有していてもよい。例えば、溶剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、着色剤、分散剤、フィラーなどが例示できる。これらは単独または併用することができる。第4実施形態の磁性樹脂組成物の製造方法は限定されないが、好適例として第1実施形態で例示した方法が挙げられる。第4実施形態に係る磁性樹脂組成物は、第1実施形態と同様の方法により磁性シールドシートを製造できる。
【0098】
第4実施形態においては、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、且つ熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の質量比を10/90〜15/85となるように混合してなる磁性樹脂組成物を形成することによって、射出成形加工によっても比透磁率が高い、成形加工性に優れる磁性樹脂組成物を得ることができる。第4実施形態の磁性シールドシートは、単層または複層にして用いられる。また、他のシートと積層して利用することができる。
【0099】
また、第4実施形態に係る磁性樹脂組成物によれば、滑剤(C)により磁性樹脂組成物の流動性を向上させ、酸化防止剤(D)によって樹脂の酸化劣化を効果的に防止し、更に、金属不活性化剤(E)を用いることによって、金属と樹脂が接触することにより発生する樹脂の変色や劣化を効果的に抑制させることができる。その結果、第4実施形態の磁性樹脂組成物によれば、射出成形性に優れるのみならず、比透磁率が優れ、耐熱性、耐熱老化性および防錆効果を兼ね備えることができる。
【0100】
(第5実施形態)
第5実施形態の磁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)およびケイ素化合物を被着させた磁性粒子(B)を含む。そして、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85となるように混合してなる。
熱可塑性樹脂(A)、およびケイ素化合物を被着させた磁性粒子(B)は第1実施形態と共通する。第5実施形態の磁性樹脂組成物は、第1実施形態等で述べた(1)、(2)の条件(磁性樹脂組成物をシート状になるように、形成されるシートの一主面側の上方向から15MPaの圧力を均一に、熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃の温度で1分かけてシートを作製し、このシートの切断面のうちの長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに第1実施形態で述べた(1)、(2)の条件)を必須としない点を除き、基本的な構成(組成)および製造方法は上記第1実施形態と同様である。
【0101】
Fe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子の好適な平均粒子径の好適範囲、平均厚みの好適範囲は第1実施形態と同様である。また、熱可塑性樹脂(A)とFe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の好適範囲、Fe−Si−Al合金の各元素の含有率の好適範囲も第1実施形態と同様である。磁性粒子(B)は、熱可塑性樹脂(A)との相溶性を向上させるために、その表層の一部にシリカ等のケイ素化合物を被着させることを必須とする。ケイ素化合物は、ケイ素系表面処理剤を用いて容易に形成できる。ケイ素化合物は、有機表面処理剤であってもよい。
【0102】
ケイ素化合物の好適例は、第1実施形態で述べた化合物が例示できる。また、ケイ素化合物の磁性粒子(B)への被着処理方法は、第1実施形態で述べた方法が例示できる。磁性粒子(B)への被着処理に用いるケイ素化合物は、磁性粒子(B)との反応速度や収率の観点からアルコキシシランやシラザン等のシラン化合物が好ましく、アルコキシシランがより好ましい。磁性粒子(B)500質量部に対してケイ素系表面処理剤を5〜50質量部添加するのが好ましく、15〜40質量部がより好ましい。
【0103】
熱可塑性樹脂(A)の好適例として第1実施形態で例示した樹脂が挙げられる。特に好ましくはポリアミド樹脂である。熱可塑性樹脂(A)の融点、重量平均分子量の好適例も第1実施形態と同様である。熱可塑性樹脂(A)は、一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
【0104】
第5実施形態に係る磁性樹脂組成物は、更に酸化防止剤(D)を含有させてもよい。酸化防止剤(D)は第2実施形態と共通する。本磁性樹脂組成物に酸化防止剤(D)を添加することにより、射出成形性に優れ、更に、耐熱性、耐熱老化性および防錆効果を兼ね備えた磁性樹脂組成物を提供できる。酸化防止剤(D)は特に限定されないが、好適例として第2実施形態で述べた化合物が挙げられる。即ち、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤およびエポキシ系酸化防止剤が例示できる。これらのうちでも、フェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤(D)は一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
【0105】
第5実施形態に係る磁性樹脂組成物は、更に金属不活性化剤(E)を含有させてもよい。金属不活性化剤(E)は第3実施形態と共通する。本磁性樹脂組成物に金属不活性化剤(E)を添加することにより、射出成形性に優れたものとし、更に、耐熱性、耐熱老化性および防錆効果を兼ね備えた磁性樹脂組成物を提供できる。金属不活性化剤(E)は限定されないが、好適例として第3実施形態で述べた化合物が挙げられる。
【0106】
第5実施形態の磁性樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、他の成分を含有していてもよい。例えば、溶剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、着色剤、分散剤、フィラーなどが例示できる。これらは単独または併用することができる。第4実施形態の磁性樹脂組成物の製造方法は限定されないが、好適例として第1実施形態で例示した方法が挙げられる。第5実施形態に係る磁性樹脂組成物は、第1実施形態と同様の方法により磁性シールドシートを製造できる。
【0107】
第5実施形態においては、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、且つ熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の質量比を10/90〜15/85となるように混合してなる磁性樹脂組成物を形成することによって、射出成形加工によっても比透磁率が高い、成形加工性に優れる磁性樹脂組成物を得ることができる。第5実施形態の磁性シールドシートは、単層または複層にして用いられる。また、他のシートと積層して利用することができる。
【0108】
第5実施形態に係る磁性樹脂組成物によれば、磁性粒子(B)の表層を表面改質処理することによって、射出成形性を優れたものとしつつ、比透磁率を高めることができることに加え、優れた防錆効果を得ることができる。その結果、第5実施形態の磁性樹脂組成物によれば、射出成形性に優れるのみならず、比透磁率が優れ、耐熱性、耐熱老化性および防錆効果を兼ね備えた磁性樹脂組成物を提供することができる。
【実施例】
【0109】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は、本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、特に断りがない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0110】
実施例で使用した原料は、以下のとおりである。
<熱可塑性樹脂>
・(A1)ポリアミド樹脂:6−ナイロン、アミランCM−1007(東レ社製、融点:225℃)
・(A2)ポリカーボネート樹脂:PC、ユーピロンE2000(MEP社製、融点:220℃)
・(A3)スチレン樹脂:GPPS、HF77(日本ポリスチレン社製、融点:240℃)
・(A4)ポリエステル樹脂:MA−2101M(ユニチカ社製、融点:166℃)
<磁性粒子>
・(B1)センダスト:平均粒子径50μm、厚み1μm、鱗片状。
・(B2)センダスト:平均粒子径80μm、厚み1μm、鱗片状。
・(B3)センダスト:平均粒子径50μm、厚み1μm、鱗片状。TEOS処理。
・(B4)センダスト:平均粒子径50μm、厚み1μm、鱗片状。ポリシラザン処理。
・(B5)センダスト:平均粒子径50μm、球状。
・(B6)センダスト:平均粒子径50μm、厚み1μm、鱗片状。メチコン処理。
・(B7)センダスト:平均粒子径50μm、厚み1μm、鱗片状。TEOS処理。
・(B8)センダスト:平均粒子径50μm、厚み1μm、鱗片状。TEOS処理。
なお、平均粒子径はD50平均粒子径である。
<滑剤>
・(C1)エステル系滑剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート
・(C2)カルボン酸アマイド系ワックス:ライトアマイド WH−215(協栄社化学社製)
・(C3)カルボン酸アマイド系ワックス:ライトアマイド WH−255(協栄社化学社製)
<酸化防止剤>
・(D1)イルガノックス1010(BASF社製)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤。
・(D2)アデカスタブAO−80(ADEKA社製)、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤。
・(D3)アデカスタブPEP−36(ADEKA社製)、ホスファイト系酸化防止剤。
<金属不活性化剤>
・(E1)アデカスタブCDA−1(ADEKA社製)、サリチル酸誘導体。
・(E2)アデカスタブCDA−10(ADEKA社製)、ヒドラジド誘導体。
・(E3)ナウガードXL−1(AccuStandard社製)、シュウ酸誘導体。
<その他>
・(F1)CB100(日本黒鉛工業製 平均粒径:80μm)
・(F2)カーボンブラック#30(三菱ケミカル製 平均粒径:30nm)
【0111】
(センダスト(B3)の製造方法)
センダスト(B1)500質量部と、テトラエトキシシラン(TEOS)15質量部と、イソプロピルアルコール500質量部と、水65質量部とを混合し、25℃にて3時間攪拌した。その後、28%アンモニア水を1質量部添加し、pH9.5に調整した後、50℃にて5時間攪拌した後、120℃で3時間乾燥させ、表面がケイ素化合物で被覆されたセンダスト(B3)を得た。
【0112】
(センダスト(B4)の製造方法)
センダスト(B1)500質量部と、パーヒドロポリシラザン(アクアミカ NP−110)15質量部と、ジブチルエーテル100質量部とを混合し、25℃にて3時間攪拌した。その後、70℃にて5時間攪拌した後、120℃で3時間乾燥させ、表面がケイ素化合物で被覆されたセンダスト(B4)を得た。
【0113】
(センダスト(B6)の製造方法)
センダスト(B1)500質量部と、メチルハイドロジェンシリコーンオイル15質量部と、イソプロピルアルコール500質量部とを混合し、25℃にて3時間攪拌した。その後、70℃にて5時間攪拌した後、120℃で3時間乾燥させ、表面がケイ素化合物で被覆されたセンダスト(B6)を得た。
【0114】
(センダスト(B7)の製造方法)
センダスト(B1)500質量部と、テトラエトキシシラン(TEOS)5質量部と、イソプロピルアルコール500質量部と、水65質量部とを混合し、25℃にて3時間攪拌した。その後、28%アンモニア水を1質量部添加し、pH9.5に調整した後、50℃にて5時間攪拌した後、120℃で3時間乾燥させ、表面がケイ素化合物で被覆されたセンダスト(B7)を得た。
【0115】
(センダスト(B8)の製造方法)
センダスト(B1)500質量部と、テトラエトキシシラン(TEOS)25質量部と、イソプロピルアルコール500質量部と、水65質量部とを混合し、25℃にて3時間攪拌した。その後、28%アンモニア水を1質量部添加し、pH9.5に調整した後、50℃にて5時間攪拌した後、120℃で3時間乾燥させ、表面がケイ素化合物で被覆されたセンダスト(B8)を得た。
【0116】
[実施例1]
(磁性樹脂組成物1の製造)
ポリアミド樹脂(A1)15%およびセンダスト(B1)85%を計量し、オープンニーダーに投入した後、260℃で10分間混練した。その後、フィーダルーダーを通して、ペレタイズを行い、ペレット状の磁性樹脂組成物1を得た。そして、比透磁率、および磁性粒子(B)の面積率と個数を以下の方法により測定した。結果を表4に示す。
【0117】
(磁性樹脂組成物の比透磁率の測定)
得られたペレット状の磁性樹脂組成物1をシート状になるように、前記シートの一主面となる方向から15MPaの圧力を均一に熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃(240℃)で1分プレスして、縦200mm・横200mm・厚み1.0mmのプレスシートを作製した。その後、外形11.0mm、内径6.5mm、厚み1.0mmのリング形状に加工し、インピーダンスアナライザ(E4990A、KEYSIGHT社製)を用いて、周波数f=1MHz時のインダクタンスを測定し、短絡同軸管法から比透磁率を測定した。評価基準は以下の通りとした。
+++:150以上。
++:100以上150未満。
+:50以上100未満。
NG:50未満。
【0118】
(磁性樹脂組成物のプレスシートの磁性粒子(B)の面積率および個数の測定)
得られたペレット状の磁性樹脂組成物1をシート状になるように、前記シートの一主面となる方向から15MPaの圧力を均一に熱可塑性樹脂(A)の融点+15℃(240℃)で1分プレスして、縦200mm・横200mm・厚み1.0mmのプレスシートを作製した。そして、シートの中央で切断面を作製し、切断面の端部20%をカットした。そして、得られた切断面を2500倍の視野角(厚み0.090mm×長さ0.125mmの領域)をビデオマイクロスコープVHX7000(キーエンス社製、粒子解析モード)により50か所測定した後、画像処理した。そして、画像処理した磁性粒子(B)の面積率(平均値)、および画像処理した磁性粒子(B)の個数(平均値)を求めた。
【0119】
(耐熱性)
磁性樹脂組成物のプレスシート片を熱重量示差熱分析装置(TG−DTA)にて、ドライエアー雰囲気下、40℃〜500℃の温度範囲で5℃/minの昇温速度で加熱し、熱重量減少を測定し、耐熱性を評価した。評価基準は以下の通りである。なお、上記測定で得られた重量減衰曲線において、重量変化の開始点温度における接線と、重量減少速度(%/℃)が最大となる温度における接線との交点の温度を分解開始温度とする。
+++:分解開始温度が熱可塑性樹脂(A)の融点+50℃以上である。
++:分解開始温度が熱可塑性樹脂(A)の融点+50℃未満、+40℃以上である。
+:分解開始温度が熱可塑性樹脂(A)の融点+40℃未満、+20℃以上である。
NG:分解開始温度が熱可塑性樹脂(A)の融点+20℃未満である。
【0120】
(耐熱老化性)
磁性樹脂組成物のプレスシート片を送風乾燥機にて150℃で10日間、加熱処理を行った。加熱前のプレスシートに対する衝撃強度に対し、以下の式を用いて加熱試験後の衝撃強度を求め、保持率を求めた。衝撃強度は、振り子式衝撃試験機を使用し、JIS K 7111:1996に基づいて求めた。
保持率[%]=t1/t0*100
式中のt0は加熱前のプレスシートの衝撃強度であり、t1は加熱後のプレスシートの衝撃強度である。
評価基準は以下の通りである。
+++:保持率が100%。
++:保持率が50%以上、100%未満。
+:保持率が50%未満。
NG:保持率の算出不可。
【0121】
(防錆効果)
磁性樹脂組成物のプレスシート片を、純水を満たした容量50mLのガラス容器に入れ、90℃の恒温槽中に24時間放置した。その後、目視にて磁性粒子(B)の錆を観察した。評価基準は以下の通りである。
+++:錆の発生が認められない。
++:錆の発生は認められないが、表面の光沢感がなくなり曇る磁性粒子(B)がある。
+:僅かに錆の発生が認められる磁性粒子(B)があるが、全面がわずかに褐色を帯びる程度である。
NG:錆の発生が認められる磁性粒子(B)があり、全面が黄褐色に変色している。
【0122】
[実施例2〜34]
実施例1の熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)、滑剤(C)を表1、2に記載された原料および配合量に変更し、実施例1と同様に行うことでそれぞれ磁性樹脂組成物2〜34を作製し、実施例1と同様の方法によりプレスシートを作製し、それぞれ比透磁率、および磁性粒子(B)の面積率と個数を測定した。評価結果を表4に示す。なお、表面処理したセンダスト(B3)等の配合量は、表層の被着層の質量を含まないFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子の質量である。以下同様とする。
【0123】
[比較例1]
(磁性樹脂組成物35の製造)
熱可塑性樹脂(A)15%およびセンダスト(B1)85%を計量し、加圧ニーダーに投入した後、260℃で10分間混練した。その後、フィーダルーダーを通して、ペレタイズを行い、ペレット状の磁性樹脂組成物35を得た。それ以外の方法は、実施例1と同様にプレスシートを作製し、比透磁率、および磁性粒子(B)の面積率と個数を測定した。評価結果を表6に示す。
【0124】
[比較例2、3]
(磁性樹脂組成物36、37の製造)
表3に記載された原料および配合量に変更し、比較例1と同様に加圧ニーダーで磁性樹脂組成物36、37を作製した。その後、実施例1と同様にプレスシートを作製し、比透磁率、および磁性粒子(B)の面積率と個数を測定した。評価結果を表6に示す。
【0125】
[比較例4〜10]
(磁性樹脂組成物38〜44の製造)
表3に記載された原料および配合量に変更し、実施例1と同様にオープンニーダーにて磁性樹脂組成物38〜44を作製した。その後、実施例1と同様にプレスシートを作製し、比透磁率、磁性粒子(B)の面積率と個数を測定した。評価結果を表6に示す。
【0126】
[比較例11]
磁性粒子(B1)を85部、熱可塑性樹脂(A4)を15部、溶媒としてトルエン200部をプラネタリーミキサーにて混合し、スラリー状の磁性樹脂組成物を得た。得られた磁性樹脂組成物をドクターブレード法により厚み100μmに成膜し、溶媒を除去して磁性シートを得た。得られた磁性シートを実施例1のプレスシートと同様に評価した。
【0127】
図3に実施例3のプレスシートの切断部断面の顕微鏡像を、
図4に比較例2のプレスシートの切断部断面の顕微鏡像を示す。同図に示すように、磁性粒子(B)の充填率が高く、且つ磁性粒子(B)の個数が少ないシートを用いることによって、厚膜可能な成形性を有し、且つ比透磁率が高いシートが得られることがわかる。
【0128】
(溶融粘度の測定)
各実施例および比較例に係る磁性樹脂組成物の溶融粘度を溶融粘度測定装置(東洋精機製作所製 キャピログラフ1C)にて測定した。測定温度は、260℃(実施例9および比較例11については200℃)において、本磁性樹脂組成物のせん断速度304[1/s]における溶融粘度を求めた。比較例11は、比較例11の磁性樹脂組成物より得られた磁性シートを破砕してから溶融粘度を求めた。
+++:3000Pa・s未満。
++:3000Pa・s以上、5000Pa・s未満。
+:5000Pa・s以上、10000Pa・s未満。
NG:10000Pa・s以上。
【0129】
(磁性シールド用成形体の作製)
各実施例および比較例1−10の磁性樹脂組成物1〜44を、射出成形機(東芝機械社製IS−100F型、最大射出成形圧力200MPa)を用いて270℃で射出成形を行い、縦100mm×横100mm×厚み3mmの直方体形状の磁性シールド用成形体1〜44を作製した。金型は、縦100mm×横100mm×厚み3mmの直方体を用い、ゲート径は1mm×3mmとした。なお、金型締め圧力を50tとした。
各実施例および比較例の射出成形時にかかる磁性樹脂組成物への圧力は、後述するヒケ等が生じずに、成形できる最小圧力で行った。
比較例11については、比較例11に係る磁性樹脂組成物より得られた磁性シートを破砕し、射出成形機に供給可能な形状に加工し、実施例1と同様に射出成形機にて100mm×100mm×3mmの直方体磁性シールドシートを作製した。
【0130】
(磁性シールド用成形体の射出成形性の評価)
各実施例および比較例の磁性樹脂組成物に対し、射出成形圧力を変えて成形し、以下の評価基準により評価した。本明細書において「ヒケ等」とは射出成形品表面に発生する凹凸や気泡の発生、充填不足による成形不良のことを指し、目視により判断した。評価結果を表5、7に示す。
+++:射出成形圧力が最大射出成形圧力の50%未満で射出成形してもヒケ等なく成形ができる。
++:射出成形圧力が最大射出成形圧力の50%未満ではヒケ等が生じるが、50%以上、75%未満であればヒケ等なく成形ができる。
+:射出成形圧力が最大射出成形圧力の50%以上、75%未満で射出成形するとヒケ等が生じるが、75%以上、95%未満であればヒケ等なく成形ができる。
NG:射出成形圧力が最大射出成形圧力の75%以上、95%未満で射出成形するとヒケ等が生じるが、95%以上で射出成形するとヒケ等が生じずに成形できる、或いは成形することができない。
【0131】
(磁性シールド用成形体(シート)の磁性粒子(B)の面積率および個数の測定)
各実施例および比較例において、ヒケ等が生じない圧力(表5,7の射出成形性の評価結果に該当する範囲の圧力)により作製したそれぞれの上記直方体状の磁性シールド用成形体の中央で切断面を作製し、切断面の端部20%をカットした。そして、得られた切断面を2500倍の視野角(厚み0.090mm×長さ0.125mmの領域)をビデオマイクロスコープVHX7000(キーエンス社製、粒子解析モード)により50か所測定した後、画像処理した。そして、画像処理した磁性粒子(B)の面積率(平均値)、および画像処理した磁性粒子(B)の個数(平均値)を求めた。
【0132】
(磁性シールド用成形体の比透磁率の測定)
各実施例および比較例において、ヒケ等が生じない圧力(表5,7の射出成形性の評価結果に該当する範囲の圧力)により作製した、それぞれの上記直方体状の磁性シールド用成形体を外形11.0mm、内径6.5mm、厚み3.0mmのドーナツ状に加工し、インピーダンスアナライザ(E4990A、KEYSIGHT社製)を用いて、周波数f=1MHz時のインダクタンスを測定し、短絡同軸管法から比透磁率を測定した。比透磁率は、以下の評価基準により評価した。評価結果を表5、7に示す。
+++:150以上。
++:100以上150未満。
+:50以上100未満。
NG:50未満。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
表4〜7の結果から、本発明の磁性樹脂組成物を用いた実施例は比透磁率が優れる成形体が得られることが確認できた。更に、射出成形性に優れることを確認した。条件(1)、(2)を満たさない比較例1は、実施例1と同様の配合成分の樹脂組成物であるが比透磁率が満足できる値ではないことが確認された。実施例3と同様の配合成分である比較例2についても同様の結果であることを確認した。
【0141】
[比透磁率の保持率]
実施例3,10,33,34のプレスシート片の初期、90℃の温水中に6時間浸漬した後、90℃の温水中に24時間浸漬した後の比透磁率をそれぞれ求め、比透磁率の保持率を求めた。その結果を
図5に示す。
図5中の実施例3は、表面処理を行っていない磁性粒子(センダスト(B1))を用いた例であり、実施例10は、磁性粒子(センダスト(B3))100質量部に対し、TEOSを3質量部用いた例である。実施例33は磁性粒子(センダスト(B7))を用いた以外は実施例10と同様の方法により、実施例34は磁性粒子(センダスト(B8))を用いた以外は実施例10と同様の方法により、磁性樹脂組成物を作製した。同図に示すように、磁性粒子(B)の表面処理を行うことにより、比透磁率の保持率が高められることが確認された。また、磁性粒子(B)の表面処理により防錆効果が認められた。
【0142】
[付記]
本明細書は、上記実施形態から把握される以下に示す技術思想の発明も開示する。
(付記1)
熱可塑性樹脂(A)、磁性粒子(B)、滑剤(C)、酸化防止剤(D)および金属不活性化剤(E)を含み、
磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85である磁性樹脂組成物。
(付記2)
熱可塑性樹脂(A)および磁性粒子(B)を含み、
磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85であり、
磁性粒子(B)は、その表層の少なくとも一部にケイ素化合物が被着している磁性樹脂組成物。
(付記3)
更に、酸化防止剤(D)を含む付記2に記載の磁性樹脂組成物。
(付記4)
更に、金属不活性化剤(E)を含む付記2または3に記載の磁性樹脂組成物。
(付記5)
熱可塑性樹脂(A)および磁性粒子(B)を含む磁性樹脂組成物であって、
磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、熱可塑性樹脂(A)および前記Fe−Si−Al合金の質量比、熱可塑性樹脂(A)/前記Fe−Si−Al合金が10/90〜15/85であり、
前記磁性樹脂組成物がシート状になるように、形成されるシートの一主面側の上方向から15MPaの圧力を均一に240℃で1分かけて前記シートを作製し、当該シートの切断面において、長さ0.125mm×厚み0.090mmの領域を2500倍の顕微鏡像によって画像処理したときに以下の(1)、(2)の条件を満たす磁性樹脂組成物。
(1)前記画像処理した磁性粒子(B)の総面積が前記画像処理領域の面積の40〜65%である。
(2)前記画像処理した磁性粒子(B)の個数が200〜500個である。
(付記6)
更に滑剤(C)を含む付記5に記載の磁性樹脂組成物。
(付記7)
磁性粒子(B)の表層の少なくとも一部にケイ素化合物が被着している付記5または6に記載の磁性樹脂組成物。
(付記8)
熱可塑性樹脂(A)は、ポリアミド樹脂を含む付記5〜7のいずれかに記載の磁性樹脂組成物。
(付記9)
更に、酸化防止剤(D)を含む付記5〜8のいずれかに記載の磁性樹脂組成物。
(付記10)
更に、金属不活性化剤(E)を含む付記5〜9のいずれかに記載の磁性樹脂組成物。
(付記11)
付記1〜10のいずれかに記載の磁性樹脂組成物から形成してなる磁性シールドシート。
【0143】
[産業上の利用可能性]
本発明の磁性シールドシートおよび磁性樹脂組成物は、磁気シールド特性が必要な用途全般に対して利用できる。例えば、磁界共鳴方式の非接触送電を利用したワイヤレス電力伝送システムの受電コイル側の磁性シールドシートとして好適に利用できる。また、VHF帯の電波を利用するアンテナに搭載する磁性シールドシートとして好適に利用できる。また、本発明の磁性樹脂組成物は、基材にマイクロストリップライン等のパターンを形成して用いることも可能である。
【解決手段】本発明の磁性樹脂組成物は、磁性粒子(B)としてFe−Si−Al合金からなる鱗片状粒子を用い、融点が100〜400℃の熱可塑性樹脂(A)/Fe−Si−Al合金の質量比を10/90〜15/85とし、磁性樹脂組成物から形成したシートの厚み方向の切断面が(1)、(2)の条件を満たす。