(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板の前記格子領域に凹部が形成されていることにより、前記凹部に対応する部分に前記第2部分が形成されているとともに、前記凹部を取り囲むように前記第1部分が形成されている、請求項4に記載のX線位相イメージング装置。
前記位相格子は、複数の前記第1部分と前記第2部分とを含み、前記第1部分は互いに直交する方向に格子状に延びるとともに、前記複数の第2部分は、前記格子状に延びる前記第1部分に囲まれた領域に設けられている、請求項6に記載のX線位相イメージング装置。
前記制御部は、前記移動機構によるX線の照射方向と直交する方向への前記移動格子の移動中に、前記第1部分の影と影以外の部分との境界が前記X線検出器の画素の境界をまたがないように、前記移動格子の移動の開始位置を調整するように前記移動機構の制御を行う、請求項9に記載のX線位相イメージング装置。
前記制御部は、前記X線検出器により取得されたX線画像において、前記移動格子の前記第1部分の画素値の変化を補正する制御を行う、請求項9に記載のX線位相イメージング装置。
X線源と、照射されたX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器との間に設けられ、基板の一部に格子が形成された格子領域が形成された複数の回折格子とを備えるX線位相イメージング装置において、
前記格子領域内において、第1部分と前記基板の厚みが小さい第2部分とを含み、前記第2部分は、前記格子が形成されていない前記基板の他方側の面に設けられ、移動される前記回折格子を準備するステップと、
前記回折格子の前記第1部分の影の長さが、前記X線検出器の画素ピッチの整数倍となるように前記X線検出器を配置するステップとを備える、X線位相イメージング方法。
前記X線検出器を配置するステップは、前記回折格子の移動の開始位置を、X線の照射方向と直交する方向への前記回折格子の移動中に前記第1部分の影と影以外の部分との境界が前記X線検出器の画素の境界をまたがないように調整する、請求項12に記載のX線位相イメージング方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1〜
図10を参照して、本発明の実施形態によるX線位相イメージング装置100の構成について説明する。
【0014】
(X線位相イメージング装置の構成)
図1に示すように、X線位相イメージング装置100は、被写体10を通過したX線の位相差を利用して、被写体10の内部を画像化する装置である。また、X線位相イメージング装置100は、タルボ(Talbot)効果を利用して、被写体10の内部を画像化する装置である。
【0015】
図1は、X線位相イメージング装置100を上から見た図である。X線位相イメージング装置100は、X線源1と、X線検出器2と、回折格子3とを備えている。なお、本明細書において、X線源1から回折格子3に向かう方向をZ方向とする。また、Z方向と直交する紙面の上下方向をX方向とする。また、Z方向と直交する紙面の手前から奥方向をY方向とする。
【0016】
X線源1は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生されたX線をZ方向に向けて照射するように構成されている。
【0017】
X線検出器2は、X線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。X線検出器2は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。X線検出器2は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期(画素ピッチ)で、X方向およびY方向にアレイ状に配列されている。
【0018】
回折格子3は、位相格子31と、吸収格子32と、線源格子(マルチスリット)33とを含む。位相格子31、吸収格子32および線源格子33のうち、1枚の回折格子3は移動機構4によって、X線の照射方向と直交する方向(X方向またはY方向)に移動する。X線位相イメージング装置100は、回折格子3を移動させることにより、モアレを形成し、被写体10のX線画像を撮影する。被写体10は、線源格子33と位相格子31との間に配置される。そして、被写体10を配置せずに撮影したエア画像と、被写体10を配置して撮影したサンプル画像とから、暗視野像、位相微分像、および吸収像を生成する。このとき、移動機構4により移動される回折格子3を移動格子とし、固定されている回折格子3を固定格子とする。
【0019】
図1に示すように、線源格子33は、X線源1と位相格子31との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。線源格子33は、各X線透過部331を通過したX線を、各X線透過部331の位置に対応する線光源とするように構成されている。これにより、線源格子33は、X線源1から照射されるX線の可干渉性を高めることが可能である。
【0020】
線源格子33は、X方向に所定の周期(ピッチ)330で配列される複数のX線透過部331およびX線吸収部332を有している。各X線透過部331およびX線吸収部332はY方向に延びるように構成されている。
【0021】
図1に示すように、位相格子31は、線源格子33と、吸収格子32との間に配置されており、線源格子33を通過したX線が照射される。位相格子31は、タルボ効果により、自己像を形成するために設けられている。可干渉性を有するX線が、スリットが形成された格子を通過すると、格子から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、格子の像(自己像)が形成される。これをタルボ効果という。
【0022】
位相格子31は、X方向に所定の周期(ピッチ)310で配列される複数のスリット311および、X線位相変化部312を有している。各スリット311およびX線位相変化部312はそれぞれ、Y方向に延びるように形成されている。
【0023】
図1に示すように、吸収格子32は、位相格子31とX線検出器2との間に配置されており、位相格子31を通過したX線が照射される。また、吸収格子32は、位相格子31からタルボ距離離れた位置に配置される。吸収格子32は、位相格子31の自己像と干渉して、X線検出器2の検出表面上にモアレ縞を形成する。
【0024】
吸収格子32は、X方向に所定の周期(ピッチ)320で配列される複数のX線透過部321およびX線吸収部322を有する。線源格子33、位相格子31、吸収格子32はそれぞれ異なる役割を持つ格子であるが、X線透過部331、スリット311およびX線透過部321はそれぞれX線を透過させる。また、X線吸収部332およびX線吸収部322はそれぞれX線を遮蔽する役割を担っており、X線位相変化部312はスリット311との屈折率の違いによってX線の位相を変化させる。
【0025】
本実施形態では、線源格子33および位相格子31が固定格子であり、吸収格子32が移動格子である場合を例にして、線源格子33、位相格子31および吸収格子32の詳細な構造を以下に説明する。
【0026】
(線源格子)
線源格子33は、X方向、Y方向およびZ方向に延びる直方体である。
図2および
図3に示すように、線源格子33は、基板34aのZ軸方向側の一方の面(表面340a)の格子領域36aにX線透過部331およびX線吸収部332が形成されている。格子領域36aは、たとえば、四角形である。基板34aは、Si(シリカ)である。そして、基板34aの表面340aの一部に溝を形成し、形成した溝にめっきなどにより金などの金属を埋めることにより複数のX線吸収部332が形成されている。X線吸収部332は、Y方向に延びるように形成されているとともに、X方向に等間隔に並べて複数形成されている。
【0027】
線源格子33は、位相格子31および吸収格子32と比べて、X線源1に近い位置に配置されている(
図1参照)。そのため、X線源1に近い線源格子33ではX線の透過領域334が、位相格子31および吸収格子32と比べて小さくなる。そこで、
図2および
図3に示すように、線源格子33に、第1部分37aおよび第2部分38aが設けられている場合、X線透過部331およびX線吸収部332が設けられている面(表面340a)の反対側の面(裏面341a)おけるX線の透過部分に、第2部分38aが形成される。第2部分38aは、機械加工または化学加工によって格子領域36aに形成された凹部39を設けることにより、厚みが小さくされた部分である。第1部分37aは、格子領域36a内において凹部39を取り囲むように形成されている。線源格子33の透過部分は、X線源1からコーンビームが照射されることにより、円形となる。そのため、凹部39は、透過部分の円周に合わせて円形に形成されている。第2部分38aの厚みt2は、第1部分37aの厚みt1よりも小さい。線源格子33では、第1部分37aの面積が大きいため、第2部分38aの厚みt2を従来よりも小さくすることができる。
【0028】
(位相格子)
位相格子31は、X方向、Y方向およびZ方向に延びる直方体である。
図4および
図5に示すように、位相格子31は、基板34bのZ軸方向側の一方の面(表面340b)にスリット311、および、X線位相変化部312が形成されている。格子領域36bは、たとえば、四角形である。基板34bは、Si(シリカ)である。そして、基板34bの表面340bの一部に溝を形成し、形成した溝にめっきなどにより金などの金属を埋めることにより複数のX線位相変化部312が形成されている。X線位相変化部312は、Y方向に延びるように形成されているとともに、X方向に等間隔に並べて複数形成されている。
【0029】
第1部分37bおよび第2部分38bは、複数のスリット311およびX線位相変化部312が設けられている面(表面340b)と反対の面(裏面341b)に設けられている。位相格子31の裏面341bの一部分には基板34bが、機械加工または化学加工によって除去される基板除去領域40aが、設けられている。基板除去領域40aを設けることにより、基板除去領域40aを囲むように、第1部分37bよりも厚みの凸部50aが形成されるため、基板34bの機械的強度を維持することができる。基板除去領域40aの面積は、格子領域36bよりも面積が大きい。基板除去領域40aは、たとえば四角形である。
【0030】
第1部分37bは、梁のように格子領域36bの一端から他端まで延びるように形成されている。第1部分37bのうち、Y方向に延びるように形成された第1部分37bを第1厚肉部371とし、Y方向と直交するX方向に延びるように形成された第1部分37bを第2厚肉部372とする。第1厚肉部371と第2厚肉部372とが両方設けられることにより、位相格子31の機械的強度が向上する。第1厚肉部371と第2厚肉部372とは、格子領域36b内において、互いに略直交する方向に格子状に延びるように等間隔で形成されている。第2部分38bは、第1厚肉部371と第2厚肉部372とによって囲まれた領域において四角形に形成されている。機械加工または化学加工によって基板34bの一部が除去されることにより、第2部分38bが複数形成されている。第1部分37bは、十分な機械的強度を得ることが可能であれば、X線の減衰を抑えるために第2部分38bよりも設けられる面積が小さいほうが好ましい。また、第2部分38bの厚みt5は、第1部分37bの厚みt4よりも小さい。さらに、第1部分37bの厚みt4は、凸部50aの厚みt3よりも小さい。
【0031】
(吸収格子)
吸収格子32は、X方向、Y方向およびZ方向に延びる直方体である。
図6および
図7に示すように、吸収格子32は、基板34cのZ軸方向側の一方の面(表面340c)にX線透過部321およびX線吸収部322が形成されている。基板34cは、Si(シリカ)である。そして、基板34cの表面340cの一部に溝を形成し、形成した溝にめっきなどにより金などの金属を埋めることにより複数のX線吸収部322が形成されている。X線吸収部322は、Y方向に延びるように形成されているとともに、X方向に等間隔に並べて複数形成されている。吸収格子32の表面340cから裏面341cまでのX線吸収部322を囲む基板34cの一部分の領域を格子領域36cとする。
【0032】
第1部分37cおよび第2部分38cは、X線透過部321およびX線吸収部322が設けられている面(表面340c)と反対の面(裏面341c)に設けられている。吸収格子32の裏面341cには基板34cの一部が、機械加工または化学加工によって除去される基板除去領域40bが、設けられている。基板除去領域40bを設けることにより、基板除去領域40bを囲むように、第1部分37cよりも厚みの凸部50bができるため、基板34cの機械的強度を維持することができる。基板除去領域40bの面積は、格子領域36cよりも面積が大きい。基板除去領域40bおよび、格子領域36cは、たとえば四角形である。第1部分37cは、十分な強度を得ることが可能であれば、X線の減衰を抑えるために第2部分38cよりも設けられる面積が小さいほうが好ましい。また、第2部分38cの厚みt8は、第1部分37cの厚みt7よりも小さい。さらに、第1部分37cの厚みt7は、凸部50bの厚みt6よりも小さい。移動格子である吸収格子32では、固定格子と異なり、第1部分37cの影9による強度変化の影響を少なくするため、第1部分37cは、X方向またはY方向のいずれか一方向に延びるように形成されている。
【0033】
第1部分37cが、移動方向と平行な方向に延びるように吸収格子32に形成されている場合について説明する。第1部分37cがステップ移動の方向と平行であるため、取得するサンプル画像中に現れる第1部分37cの影9の位置は、移動機構4によって吸収格子32が移動したとしてもサンプル画像中の同じ位置に現れる。そのため、影9は、エア画像とサンプル画像との間の抽出計算において消える。
【0034】
第1部分37cが、移動方向と直交する方向に延びるように吸収格子32に形成されている場合について説明する。第1部分37cがステップ移動の方向と平行である場合と異なり、移動機構4によって吸収格子32がステップ移動することによりX線画像中の影9の位置が移動する。
【0035】
図8は、X線検出器2を模式的に表している。
図8の大きい四角形は、X線検出器2の全体を示すとともに、小さい四角形はX線検出器2を構成する1つ1つの画素を表している。そして、ハッチングを施した四角形は、第1部分37cの影9を表す。
図1および
図7に示すように、制御部5は移動機構4を制御し、吸収格子32の第1部分37cの影9の幅の長さSxが、X線検出器2の1つの画素の幅(X方向の長さ)である画素ピッチPdの整数倍となるように、吸収格子32の位置を調整する。吸収格子32の位置と影9の幅の長さSxとの関係は以下の式のとおりである。吸収格子32の位置の調整は以下の式に基づいて決定する。以下の式で、Sxは第1部分37cの幅方向の長さ(影9の長さ)、LはX線源1とX線検出器2との距離、L1はX線源1と吸収格子32との距離、Pdは検出器の画素ピッチ、nは、画素ピッチPdのn倍をそれぞれ指す。
【0036】
SxL/L1=nPd(n=1、2、3・・・)
【0037】
たとえば、影9の幅の長さSxを画素ピッチPdの2倍にする場合は、n=2とする。第1部分37cの幅の長さSxと画素ピッチPdとは、用いる回折格子3とX線検出器2により決まっている。そのためX線源1とX線検出器2との距離Lを一定にすることにより、制御部5は、X線源1と吸収格子32との距離L1を算出する。
【0038】
図1および
図9に示すように、移動機構4は、制御部5からの信号に基づいて、移動格子を格子面内(XY面内)において格子方向と直交する方向にステップ移動させるように構成されている。具体的には、移動機構4は、移動格子を等間隔でn回ステップ移動させる。なお、nは正の整数であり、たとえば、n=4である。
【0039】
移動機構4は、吸収格子32を、X方向、Y方向、Z方向、X方向の軸線周りの回転方向、Y方向の軸線周りの回転方向、および、Z方向の軸線周りの回転方向に移動可能に構成されている。移動機構4は、X方向直動機構4aと、Y方向直動機構4bと、Z方向直動機構4cと、直動機構接続部4dと、ステージ支持部駆動部4eと、ステージ支持部4fと、ステージ駆動部4gと、ステージ4hと、を含む。
【0040】
X方向直動機構4a、Y方向直動機構4bおよびZ方向直動機構4cは、それぞれ、X方向、Y方向およびZ方向に移動可能に構成されている。X方向直動機構4a、Y方向直動機構4bおよびZ方向直動機構4cは、たとえば、ステッピングモータなどを含む。移動機構4は、X方向直動機構4a、Y方向直動機構4bおよびZ方向直動機構4cの動作により、それぞれ、吸収格子32を、X方向、Y方向およびZ方向に移動させるように構成されている。
【0041】
ステージ支持部4fは、吸収格子32を載置(または保持)させるためのステージ4hをZ方向から支持している。ステージ駆動部4gは、ステージ4hをX方向に往復移動させるように構成されている。ステージ4hは、底部がステージ支持部4fに向けて凸曲面状に形成されており、X方向に往復移動されることにより、Y方向の軸線周り(Ry方向)に回動するように構成されている。また、ステージ支持部駆動部4eは、ステージ支持部4fをY方向に往復移動させるように構成されている。また、直動機構接続部4dは、Z方向の軸線周り(Rz方向)に回動可能にX方向直動機構4aに設けられている。また、ステージ支持部4fは底部が直動機構接続部4dに向けて凸曲面状に形成されており、Y方向に往復移動されることにより、X方向の軸線周り(Rx方向)に回動するように構成されている。
【0042】
制御部5は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)を含む。制御部5は、X線撮影時に移動格子をステップ移動させるように移動機構4の制御を行う。また、制御部5は、X線源1を制御し、X線を照射させる。
【0043】
制御部5は、算出したL1に基づきX線の照射によって形成される吸収格子32の第1部分37cの影9の長さが、X線検出器2の画素ピッチPdの整数倍となるX線の照射方向における位置に、吸収格子32を移動させるように移動機構4の制御を行う。
【0044】
さらに、制御部5は、吸収格子32の移動の開始位置を調整する制御を行う。移動格子の移動の開始位置においては、第1部分37cの影9が画素21と画素22とに跨って掛かっているが、影9が画素23に掛かっていない場合を例に説明する。移動格子の移動の開始位置によっては、吸収格子32の移動中に第1部分37cの影9が移動した結果、画素22と画素23に影9が跨って掛かり、画素21には影9が掛からなくなることが考えられる。そうすると、画素21および画素23においては、影9の有無による画素値の変化が起きる。そうすると、位相格子31のX線位相変化部312と吸収格子32のX線透過部331との相対位置の変化による画素値の変化を表したステップカーブの形状が変わるため、好ましくない。そこで、制御部5は、移動中に第1部分37cの影9の境界がX線検出器2の画素を跨がない位置になるように吸収格子32の位置を調整するように移動機構4を制御する。具体的には、ステップ移動によって移動する距離分だけ離れた位置に、影9と影9以外の部分との境界が来るように吸収格子32の移動の開始位置を調整する。たとえば、ステップ移動によって9μm移動する場合に画素の境界から9μm離れた位置に開始位置を設定する。
【0045】
制御部5は、第1部分37cの影9の位置を取得するために複数の回折格子3のうち1枚を90度回転させるように移動機構4を制御する。これにより、X線画像中にはモアレを生じさせずに回折格子3および第1部分37cの影9を撮影することができる。そして取得したX線画像から画素値の変化を取得し、取得した変化をもとにサンプル画像およびエア画像を補正する。
【0046】
移動格子である吸収格子32の位置を調整する場合は、位相格子31のタルボ距離との関係で、位相格子31、吸収格子32、および、線源格子33の位置をすべて調整する必要がある。そこで、移動格子ではなく、X線検出器2の位置を調整する場合について説明する。
【0047】
上記式において、第1部分37cの影9の長さを画素ピッチPdの2倍にする場合は、n=2となる。第1部分37cの幅の長さSxと画素ピッチPdとは、用いる回折格子3とX線検出器2により決まる。そして、X線源1と吸収格子32との距離L1を一定にすることにより、X線源1とX線検出器2との距離Lを算出し、X線検出器2の位置を調整する。X線検出器2の位置調整は、X線検出器2に移動格子に設けられている移動機構4とは別の移動格子を設けて行ってもよく、ユーザが行ってもよい。
【0048】
(X線位相イメージング方法)
図9を用いて、X線位相イメージング方法について説明する。まず、ステップ201として、ユーザは、固定格子と、格子領域内において基板の厚みが大きい第1部分と基板の厚みが小さい第2部分とを含む移動格子を準備する。
【0049】
ステップ202としては、ユーザは、固定格子と移動格子とを配置する。固定格子が、線源格子33と位相格子31とを含む場合は、X線源1の近くに線源格子33を配置し、X線源1から離して位相格子31を配置する。
【0050】
ステップ203としては、ユーザは、位相格子31のタルボ距離に吸収格子32を配置する。そして、ステップ204としては、吸収格子32と位相格子31および線源格子33とを配置したのち、吸収格子32の第1部分37cの影9の長さが、X線検出器2の画素ピッチPdの整数倍となるようにユーザはX線検出器2を配置する。このとき、吸収格子32の移動の開始位置を、X線の照射方向と直交する方向への吸収格子32の移動中に第1部分37cの影9と影9以外の部分との境界がX線検出器2の画素の境界をまたがないように調整する。X線検出器2の配置の際に、上記式を用いて検出器の配置位置を算出する。
【0051】
ステップ205では、ユーザは、被写体10を配置し、X線位相イメージング装置100を操作する。X線位相イメージング装置100は、移動格子をステップ移動させながらX線位相イメージング撮影を行う。
【0052】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0053】
本実施形態では、上記のように、X線位相イメージング装置100は、照射されたX線を検出するX線検出器2と、X線源1とX線検出器2との間に設けられ、基板34a、34b、34cの一部に格子が形成された格子領域36a、36b、36cを含む複数の回折格子3とを備え、複数の回折格子3のうち少なくとも1つは、格子領域36a、36b、36c内において、基板34a、基板34b、基板34cの厚みが大きい第1部分37a、37b、37cと第1部分37a、37b、37cよりも基板34a、34b、34cの厚みが小さい第2部分38a、38b、38cとを含む。これにより、厚みの大きい第1部分37a、37b、37cにより回折格子3の機械的強度を確保することができるため、第2部分38a、38b、38cは、従来よりもさらに厚みを小さくすることができる。その結果、X線の減衰を効果的に抑制することができる。このように、基板34a、34b、34cの厚みが大きい第1部分37a、37b、37cと第1部分37a、37b、37cよりも基板34a、34b、34cの厚みが小さい第2部分38a、38b、38cとを含むことにより、機械的強度の低下を抑制することが可能であるとともにX線の減衰を効果的に抑制することが可能なX線位相イメージング装置100を提供することができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、回折格子3は、第1部分37a、37b、37cが格子領域36a、36b、36cの一端から他端まで連続して延びるように形成されている。これにより、第1部分37a、37b、37cを連続して設けることにより、梁のような役割を果たし、断続的に設ける場合よりも強度が大きくなる。その結果、回折格子3の強度をより向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、X線の照射方向と直交する方向に複数の回折格子3のうち少なくとも1つを移動可能な移動機構4をさらに備え、複数の回折格子3は、移動機構4により移動される移動格子(吸収格子32)と、固定された固定格子(位相格子31、線源格子33)とを含み、固定格子が、第1部分37a、37bと第2部分38a、38bと含む。これにより、固定格子(位相格子31、線源格子33)は移動しないため、第1部分37a、37bにX線が照射されることによりできる影9の位置が変化しない。そのため、被写体10を配置して撮影したサンプル画像と、被写体10なしで撮影したエア画像との同じ位置に影9が映るため、サンプル画像からエア画像を抽出計算することにより容易に影9を消すことができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、固定格子は、X線源1側に配置されるX線の透過領域334が小さい線源格子33と、位相格子31とを含み、線源格子33の格子領域36aのうち基板34aのX線の透過部分に第2部分38aが形成されている。これにより、X線が透過する部分だけに第2部分38aを設けることにより、第2部分38aの面積を小さくすることができるため、第1部分37aの面積を第2部分38aよりも大きくすることができる。その結果、第2部分38aの面積が大きいため、線源格子33の強度の低下を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、基板34aの格子領域36aに凹部39が形成されていることにより、凹部39に対応する部分に第2部分38aが形成されているとともに、凹部39を取り囲むように第1部分37aが形成されている。これにより、線源格子33の基板34aに凹部39を設けることにより第1部分37aと第2部分38aとを形成することができるため、第1部分37aと第2部分38aとを容易に形成することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記のように、固定格子は、X線源1側に配置される線源格子33と、位相格子31とを含み、位相格子31の格子領域36bの一端から他端にわたる範囲に、第1部分37bと第2部分38bとが設けられている。これにより、位相格子31の格子領域36bの全体にわたって第1部分37bを形成することができるため、位相格子31の強度の低下を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、上記のように、位相格子31は、複数の第1部分37bと第2部分38bとを含み、第1部分37bは互いに直交する方向に格子状に延びるとともに、複数の第2部分38bは、格子状に延びる第1部分37bに囲まれた領域に設けられている。これにより、第1部分37bを互いに略直交する方向に格子状に延びるように形成するため、位相格子31の強度をより向上させることができる。また、複数の第2部分38bを設けることにより、第1部分37bを形成することができるため、第1部分37bと第2部分38bとを容易に形成することができる。
【0060】
また、本実施形態では、上記のように、移動格子は、第1部分37cと第2部分38cとを含む吸収格子32であり、吸収格子32の第1部分37cは、吸収格子32の移動方向と平行な方向に延びるように形成されている。これにより、吸収格子32に第1部分37cを設けた場合でも、第1部分37cにX線が当たることにより生じる影9は、吸収格子32が移動したとしてもX線画像中の同じ位置に現れる。そのため、サンプル画像からエア画像を抽出計算することにより、容易に影9を消すことができる。
【0061】
また、本実施形態では、上記のように、移動格子は、第1部分37cと第2部分38cとを含む吸収格子32であり、吸収格子32の第1部分37cが、吸収格子32の移動方向と直交する方向に延びるように形成されており、X線の照射によって形成される吸収格子32の第1部分37cの影9の長さSxが、X線検出器2の画素ピッチPdの整数倍となるX線の照射方向における位置に、回折格子3を移動させるように移動機構4の制御を行う制御部5をさらに備える。これにより、X線の照射によって形成される吸収格子32の第1部分37cの影9の長さSxが、X線検出器2の画素ピッチPdの整数倍であるため、第1部分37cが複数ある場合に、1つの第1部分37cの位置を合わせることにより他の第1部分37cの位置を合わせることができる。
【0062】
また、本実施形態では、上記のように、制御部5は、移動機構4によるX線の照射方向と直交する方向への吸収格子32の移動中に、第1部分37cの影9と影9以外の部分との境界がX線検出器2の画素の境界をまたがないように、移動格子の移動の開始位置を調整するように移動機構4の制御を行う。これにより、撮影開始の時点では、影9による画素値の変化が起きていない画素に、影9が移動することを抑制することができる。その結果、X線撮影を通して、影9による画素値の変化が生じる画素と変化が生じない画素とを分けることができるため、取得したX線画像から影9を消す補正を容易に行うことができる。
【0063】
また、本実施形態では、制御部5は、X線検出器2により取得されたX線画像において、吸収格子32の第1部分37cの画素値の変化を補正する制御を行う。これにより、制御部5が、X線画像を補正するため、画素値の変化がない鮮明なX線画像を取得することができる。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように、X線源1と、照射されたX線を検出するX線検出器2と、X線源1とX線検出器2との間に設けられ、基板34a、34b、34cの一部に格子が形成された格子領域36a、36b、36cが形成された複数の回折格子3とを備えるX線位相イメージング装置100において、格子領域36c内において基板34cの厚みが大きい第1部分37cと基板34cの厚みが小さい第2部分38cとを含む、移動される吸収格子32を準備するステップと、吸収格子32の第1部分37cの影9の長さが、X線検出器2の画素ピッチPdの整数倍となるようにX線検出器2を配置するステップとを備える。これにより、吸収格子32を移動させなくとも、容易にX線の照射によって形成される吸収格子32の第1部分37cの影9の長さをX線検出器2の画素ピッチPdの整数倍にすることができる。また、X線の照射によって形成される吸収格子32の第1部分37cの影9の長さSxが、X線検出器2の画素ピッチPdの整数倍であるため、第1部分37cが複数ある場合でも1つの第1部分37cの位置を合わせることにより他の第1部分37cの位置を合わせることができる。
【0065】
また、本実施形態では、上記のように、X線検出器2を配置するステップは、吸収格子32の移動の開始位置を、X線の照射方向と直交する方向への吸収格子32の移動中に第1部分37cの影9と影9以外の部分との境界がX線検出器2の画素の境界をまたがないように調整する。これにより、撮影開始の時点では影9による画素値の変化が起きていない画素に、影9が移動することを抑制することができる。その結果、X線撮影を通して、影9による画素値の変化が生じる画素と変化が生じない画素とを分けることができるため、取得したX線画像から影9を消す補正を容易に行うことができる。
【0066】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0067】
たとえば、上記一実施形態では、線源格子を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、X線源の可干渉性が十分に高い場合、線源格子を設けなくてもよい。
【0068】
また、上記一実施形態では、第1部分が格子領域の一端から他端まで連続して延びるように形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、格子領域の中心に向かってテーパー形状であってもよい。
【0069】
また、上記一実施形態では、位相格子に第1部分を設ける場合に、第1部分は互いに略直交する方向に格子状に延びるように形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1部分は、格子領域の一端から他端を結ぶようにして筋交いのように構成されていてもよい。また、第1部分は、等間隔に設けなくてもよい。
【0070】
また、上記一実施形態では、固定格子が線源格子と位相格子を含み、吸収格子が移動格子である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、線源格子または位相格子を、移動格子にし、残りの回折格子を移動格子としてもよい。その場合、吸収格子は、位相格子が固定格子である場合と同様に第1部分および第2部分が形成されている。
【0071】
また、上記一実施形態では、すべての回折格子に形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。第1部分および第2部分は、線源格子、位相格子および吸収格子のいずれか1つに設けられていてもよい。また、線源格子および位相格子、線源格子および吸収格子、または、位相格子および吸収格子の組み合わせで第1部分と第2部分とが3つの回折格子のうち2つに設けられてもよい。なお、第1部分と第2部分とは、固定格子に設けられていることが好ましい。また、吸収格子に第1部分と第2部分とが設けられている場合、第1部分と第2部分との面積が大きくなるため、位相格子または線源格子に第1部分および第2部分が設けられているのが好ましい。
【0072】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0073】
(項目1)
X線源と、
照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線源と前記X線検出器との間に設けられ、基板の一部に格子が形成された格子領域を含む複数の回折格子とを備え、
前記複数の回折格子のうち少なくとも1つは、前記格子領域内において、前記基板の厚みが大きい第1部分と前記第1部分よりも前記基板の厚みが小さい第2部分とを含む、X線位相イメージング装置。
【0074】
(項目2)
前記回折格子は、前記第1部分が前記格子領域の一端から他端まで連続して延びるように形成されている、項目1に記載のX線位相イメージング装置。
【0075】
(項目3)
X線の照射方向と直交する方向に前記複数の回折格子のうち少なくとも1つを移動可能な移動機構をさらに備え、
前記複数の回折格子は、前記移動機構により移動される移動格子と、固定された固定格子とを含み、
前記固定格子が、前記第1部分と前記第2部分と含む、項目1または2に記載のX線位相イメージング装置。
【0076】
(項目4)
前記固定格子は、前記X線源側に配置されるX線の透過領域が小さい線源格子と、位相格子とを含み、
前記線源格子の前記格子領域のうち前記基板のX線の透過部分に前記第2部分が形成されている、項目3に記載のX線位相イメージング装置。
【0077】
(項目5)
前記基板の前記格子領域に凹部が形成されていることにより、前記凹部に対応する部分に前記第2部分が形成されているとともに、前記凹部を取り囲むように前記第1部分が形成されている、項目4に記載のX線位相イメージング装置。
【0078】
(項目6)
前記固定格子は、前記X線源側に配置される線源格子と、位相格子とを含み、
前記位相格子の前記格子領域の一端から他端にわたる範囲に、前記第1部分と前記第2部分とが設けられている、項目3に記載のX線位相イメージング装置。
【0079】
(項目7)
前記位相格子は、複数の前記第1部分と前記第2部分とを含み、前記第1部分は互いに直交する方向に格子状に延びるとともに、前記複数の第2部分は、前記格子状に延びる前記第1部分に囲まれた領域に設けられている、項目6に記載のX線位相イメージング装置。
【0080】
(項目8)
前記移動格子は、前記第1部分と前記第2部分とを含む回折格子であり、
前記移動格子の前記第1部分は、前記移動格子の移動方向と平行な方向に延びるように形成されている、項目3〜7のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【0081】
(項目9)
前記移動格子は、前記第1部分と前記第2部分とを含む回折格子であり、
前記移動格子の前記第1部分が、前記移動格子の移動方向と直交する方向に延びるように形成されており、
X線の照射によって形成される前記移動格子の前記第1部分の影の長さが、前記X線検出器の画素ピッチの整数倍となるX線の照射方向における位置に、前記回折格子を移動させるように前記移動機構の制御を行う制御部をさらに備える、項目3〜8のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【0082】
(項目10)
前記制御部は、前記移動機構によるX線の照射方向と直交する方向への前記移動格子の移動中に、前記第1部分の影と影以外の部分との境界が前記X線検出器の画素の境界をまたがないように、前記移動格子の移動の開始位置を調整するように前記移動機構の制御を行う、項目9に記載のX線位相イメージング装置。
【0083】
(項目11)
前記制御部は、前記X線検出器により取得されたX線画像において、前記移動格子の前記第1部分の画素値の変化を補正する制御を行う、項目9または10に記載のX線位相イメージング装置。
【0084】
(項目12)
X線源と、照射されたX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器との間に設けられ、基板の一部に格子が形成された格子領域が形成された複数の回折格子とを備えるX線位相イメージング装置において、
前記格子領域内において前記基板の厚みが大きい第1部分と前記基板の厚みが小さい第2部分とを含む、移動される前記回折格子を準備するステップと、
前記回折格子の前記第1部分の影の長さが、前記X線検出器の画素ピッチの整数倍となるように前記X線検出器を配置するステップとを備える、X線位相イメージング方法。
【0085】
(項目13)
前記X線検出器を配置するステップは、前記回折格子の移動の開始位置を、X線の照射方向と直交する方向への前記回折格子の移動中に前記第1部分の影と影以外の部分との境界が前記X線検出器の画素の境界をまたがないように調整する、項目12に記載のX線位相イメージング方法。