(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記循環部品は、金属製であり、および、前記係合凸部は、塑性変形によって前記係合凹部に押し付けられる、かしめ部により構成されている、請求項1に記載のボールねじ装置。
前記固定部は、前記1対の溝壁面に対向するように配置され、それぞれが前記係合凸部を備える、1対の側板部を有する、請求項1〜4のうちのいずれかに記載のボールねじ装置。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットとの間でボールを転がり運動させるため、ねじ軸とナットとを直接接触させるすべりねじ装置に比べて、高い効率が得られる。このため、ボールねじ装置は、電動モータなどの駆動源の回転運動を直線運動に変換するために、自動車の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置などの各種機械装置に組み込まれている。
【0003】
ボールねじ装置は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝とからなる負荷路(負荷ボール転走路)を転動する複数のボールと、負荷路の終点から始点へとボールを戻すための循環部品とを備える。循環部品は、内部に負荷路の始点と終点とをつなぐ循環路(無負荷ボール転走路)を有する。
【0004】
ボールねじ装置は、リターンチューブ(パイプ)式に代表される外部循環式のボールねじ装置と、こま式に代表される内部循環式のボールねじ装置とに大別される。これらのうち、外部循環式のボールねじ装置は、循環路の一部をナットの外部に有しており、大径のボールを使用しやすい、ボールを滑らかに循環させやすいなどの理由から、広く使用されている。
【0005】
たとえば、特開平11−351350号公報には、外部循環式のボールねじ装置の1例が開示されている。
図18は、特開平11−351350号公報に記載された、従来構造のボールねじ装置100を示している。
【0006】
ボールねじ装置100は、ねじ軸101と、ナット102と、複数のボール103と、循環部品104とを備える。なお、本明細書において、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸に関する軸方向、径方向、および円周方向をいう。また、軸方向に関して、ナットの中央側のことを軸方向内側といい、ナットの両端側のことを軸方向外側という。
【0007】
ねじ軸101は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝105を有する。ナット102は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝106を有する。ねじ軸101は、ナット102の内側に挿通され、ナット102と同軸上に配置されている。軸側ボールねじ溝105とナット側ボールねじ溝106とは、径方向に互いに対向するように配置され、螺旋状の負荷路を構成している。
【0008】
負荷路の始点と終点は、ナット102と循環部品104との間に形成された循環路107によりつながっている。負荷路の終点にまで達したボール103は、循環路107を通じて、負荷路の始点まで戻される。なお、負荷路の始点と終点は、ねじ軸101とナット102との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。
【0009】
従来構造のボールねじ装置100は、ナット102の外周面の円周方向一箇所に、平坦面状の座面部108を有する。循環部品104は、座面部108に取り付けられている。座面部108には、1対の貫通孔109が軸方向に離隔して開口している。それぞれの貫通孔109は、ナット102を径方向に貫通しており、ナット102の座面部108および内周面に開口している。
【0010】
循環部品104は、弓形の端面形状を有する部分円柱状の本体部110と、本体部110と一体に備えられた1対の脚部111とを有する。
【0011】
本体部110は、座面部108に対向する径方向内側面に、略S字形に湾曲した本体側凹溝112を有する。本体側凹溝112は、平坦面上の座面部108との間に、循環路107を形成する。本体部110の径方向内側面のうち、本体側凹溝112から外れた部分は、座面部108に対して着座する。
【0012】
1対の脚部111は、ナット102に備えられた1対の貫通孔109の内側に、がたつきなく挿入(圧入)される。この状態で、1対の脚部111の先端部は、軸側ボールねじ溝105の内側に配置される。それぞれの脚部111は、負荷路を転動するボール103を掬い上げ、循環路107へと導く機能を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来構造のボールねじ装置100は、ナット102の1対の貫通孔109に、循環部品104の1対の脚部111を挿入することで、ナット102に対する循環部品104の位置決めを図っている。このため、従来構造のボールねじ装置100においては、1対の貫通孔109の形成位置の精度を高くする必要がある。たとえば、いずれかの貫通孔109の形成位置が正規の位置からずれていると、循環部品104に応力が加わり、循環部品104に変形が生じる可能性がある。この結果、循環路107の内側でボール103の詰まりが発生し、ボール103の円滑な循環が妨げられる可能性があるとともに、循環部品104が早期に損傷する可能性がある。
【0015】
また、従来構造のボールねじ装置100は、1対の脚部111を1対の貫通孔109に挿入(圧入)することのみによって、循環部品104をナット102に対して固定している。このため、ナット102に対する循環部品104の固定力が不足し、ボール103から循環部品104に加わる力などにより、循環部品104が座面部108から浮き上がるなどの問題を生じる可能性がある。
【0016】
本発明は、貫通孔の形成位置の精度を緩和することができるとともに、ナットに対する循環部品の固定力を高めることができる構造を有する、ボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様のボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、循環部品と、複数のボールとを備える。
【0018】
前記ねじ軸は、外周面に、螺旋状の軸側ボールねじ溝を有する。
【0019】
前記ナットは、内周面に、螺旋状のナット側ボールねじ溝を有する。
【0020】
前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝は、螺旋状の負荷路を構成する。該負荷路は、始点および終点を有する。
【0021】
前記循環部品は、前記ナットの外周面に取り付けられ、前記負荷路の始点と終点とをつなぐ循環路を、前記ナットとの間に形成する。
【0022】
前記複数のボールは、前記負荷路および前記循環路に転動可能に配置されている。
【0023】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記ナットは、該ナットの前記外周面に形成され、軸方向に直線状に延び、該ナットの軸方向両外側の端面に開口する、収容凹溝を有する。
【0024】
前記収容凹溝は、平坦面状の溝底面と、円周方向に対向する1対の溝壁面とを備える。
【0025】
前記ナットは、前記溝底面に離隔して開口し、該ナットを径方向に貫通する1対の貫通孔を有する。
【0026】
前記1対の溝壁面は、軸方向両外側のそれぞれの端部に、係合凹部を有する。
【0027】
前記循環部品は、前記収容凹溝の内側に配置されており、前記1対の貫通孔に挿入された1対の脚部と、軸方向両外側の端部に備えられた1対の固定部とを有する。
【0028】
前記1対の固定部のそれぞれの固定部は、前記係合凹部と係合することで、前記ナットに対する前記循環部品の径方向外側への変位および円周方向への変位を不能とする、係合凸部を有する。
【0029】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記循環部品を、金属製とし、前記係合凸部を、塑性変形によって前記係合凹部に押し付けられる、かしめ部により構成することができる。
【0030】
前記循環部品を金属製とする場合、前記循環部品を、金属粉末を原料とした射出成形品により構成することができる。すなわち、前記循環部品を、金属粉末射出成形法によって製造された部材により構成することができる。
【0031】
あるいは、前記循環部品を、合成樹脂製とすることもできる。
【0032】
前記循環部品を合成樹脂製とする場合、前記係合凸部を、前記係合凹部に対して、スナップフィットにより係合させることができる。
【0033】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記係合凹部を、前記ナットの軸方向外側の端面に開口させることができる。
【0034】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記1対の固定部を、前記1対の脚部から軸方向外側に外れた位置に配置することができる。
【0035】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記固定部は、前記1対の溝壁面に対向するように配置され、それぞれが前記係合凸部を備える、1対の側板部を有することができる。
【0036】
この場合、前記固定部は、前記溝底面に載置され、円周方向両側の端部が前記1対の側板部の径方向内側の端部につながった、基板部を有することができる。
【0037】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記循環部品を、前記収容凹溝から径方向外側に張り出さないように、前記収容凹溝の内側に配置することができる。
【0038】
本発明の一態様のボールねじ装置では、前記循環部品は、軸方向(循環部品の長さ方向)中央部を中心とした回転対称形状を有することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の一態様によれば、貫通孔の形成位置の精度を緩和することができるとともに、ナットに対する循環部品の固定力を高めることができる、ボールねじ装置の構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のボールねじ装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、第1例のボールねじ装置の平面図である。
【
図9】
図9は、第1例のボールねじ装置を構成するナットの斜視図である。
【
図11】
図11は、第1例のボールねじ装置に関して、収容凹溝を構成する1対の溝壁面に係合凹部を形成する作業を説明するための模式図である。
【
図12】
図12は、第1例のボールねじ装置に関して、係合凸部を形成する以前の循環部品の径方向外側から見た斜視図である。
【
図13】
図13は、第1例のボールねじ装置に関して、係合凸部を形成する以前の循環部品の径方向内側から見た斜視図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態の第2例のボールねじ装置の斜視図である。
【
図18】
図18は、従来構造のボールねじ装置の分解斜視図である。
【0041】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1〜
図13を用いて説明する。
【0042】
〔ボールねじ装置の全体構成〕
本例のボールねじ装置1は、自動車用の外部循環式のボールねじ装置であり、たとえば、電動ブレーキブースター装置に組み込まれ、駆動源である電動モータの回転運動を直線運動に変換し、油圧シリンダのピストンを動作させるなどの用途で使用される。
【0043】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、ナット3と、複数のボール4と、循環部品5とを備える。
【0044】
ねじ軸2は、ナット3の内側に挿通され、ナット3と同軸上に配置されている。ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間には、螺旋状の負荷路8が備えられている。負荷路8には、複数のボール4が転動可能に配置されている。ねじ軸2とナット3とを相対回転させると、負荷路8の終点に達したボール4は、ナット3と循環部品5との間に形成された循環路9を通じて、負荷路8の始点へと戻される。ボールねじ装置1は、たとえば、ナット3をねじ軸2に対して相対回転させることで、ねじ軸2をナット3に対して直線運動させる態様で使用される。以下、ボールねじ装置1の各構成部品の構造について説明する。
【0045】
〈ねじ軸〉
ねじ軸2は、金属製で、外周面に一定のリードを持った螺旋状の軸側ボールねじ溝6を有している。軸側ボールねじ溝6は、ねじ軸2の外周面に、研削加工、切削加工、または転造加工を施すことにより形成されている。軸側ボールねじ溝6の条数は、たとえば1条である。軸側ボールねじ溝6の断面の溝形状(溝底形状)は、ゴシックアーチ溝形状またはサーキュラアーク溝形状である。
【0046】
〈ナット〉
ナット3は、金属製で、全体が略円筒状に構成されている。ナット3は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝7を有している。ナット側ボールねじ溝7は、ナット3の内周面に、研削加工、切削加工、転造タップ加工、または切削タップ加工を施すことにより形成されており、軸側ボールねじ6と同じリードを有する。このため、ねじ軸2をナット3の内側に挿通配置した状態で、軸側ボールねじ溝6とナット側ボールねじ溝7とは径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路8を構成する。ナット側ボールねじ溝7の条数は、軸側ボールねじ溝6と同様に、たとえば1条である。ナット側ボールねじ溝7の断面の溝形状(溝底形状)も、軸側ボールねじ溝6と同様に、ゴシックアーチ溝形状またはサーキュラアーク溝形状である。
【0047】
ナット3は、外周面の円周方向一箇所に、収容凹溝10を有する。収容凹溝10は、ねじ軸2の中心軸O
2に沿った方向である、軸方向に直線状に延びている。言い換えれば、収容凹溝10は、ナット3の軸方向両外側の端面に対し直交する方向に伸長している。また、収容凹溝10は、ナット3の軸方向両外側の端面のいずれにも開口している。収容凹溝10の径方向の深さ寸法Rおよび円周方向の幅寸法Hは、軸方向全長にわたり一定である。本例では、
図6に示すように、収容凹溝10の径方向の深さ寸法Rは、収容凹溝10の円周方向の幅寸法Hよりも小さくなっている。収容凹溝10の深さ寸法Rは、ボール4の直径Dの1.0倍〜1.2倍程度であり、収容凹溝10の幅寸法Hは、ボール4の直径Dの1.4倍〜3.0倍程度である。
【0048】
収容凹溝10は、略矩形(長方形)の断面形状を有しており、平坦面状の溝底面11と、平坦面状の1対の溝壁面12とを有する。溝底面11は、ねじ軸2の中心軸O
2と平行に配置されている。1対の溝壁面12は、溝底面11に対し略直角に配置されている。それぞれの溝壁面12同士は、互いに平行に配置されており、円周方向に対向している。本例では、収容凹溝10を、エンドミルなどの切削工具を用いた切削加工により形成している。収容凹溝10は、上述したように、略矩形の断面形状を有し、軸方向に直線状に延びており、形状が複雑でないため、切削加工によって容易に高精度に加工することができる。
【0049】
溝底面11には、
図9に示すように、1対の貫通孔13が軸方向に離隔して開口している。1対の貫通孔13のそれぞれの貫通孔13は、ナット3を径方向に貫通するように形成されており、溝底面11だけでなく、ナット3の内周面にも開口している。具体的には、1対の貫通孔13は、ナット3の内周面のうち、ナット側ボールねじ溝7に開口している。また、それぞれの貫通孔13は、ナット側ボールねじ溝7に沿って伸長した長孔(矩形孔)により構成されている。1対の貫通孔13には、循環部品5に備えられた後述の1対の脚部16が挿入される。
【0050】
図9および
図10に示すように、本例では、1対の溝壁面12のそれぞれの溝壁面12は、軸方向両外側の端部に、係合凹部14を有する。すなわち、係合凹部14は、収容凹溝10の軸方向両外側の端部のそれぞれに、1対ずつ備えられている。1対の係合凹部14を構成するそれぞれの係合凹部14は、略三角形の断面形状を有しており、溝壁面12の径方向中間部ないし径方向外側寄り部分に配置されている。したがって、係合凹部14は、ナット3の外周面には開口していない。ただし、係合凹部14は、ナット3の軸方向外側の端面に開口している。また、
図10に示すように、係合凹部14の軸方向内側部(奥部)は、三角すい形状を有しており、軸方向内側に向かうほど係合凹部14の円周方向深さおよび径方向幅がそれぞれ小さくなる。このため、円周方向に対向する1対の係合凹部14の溝底部(断面三角形状の頂点)同士の円周方向幅は、1対の係合凹部14の軸方向内側部で、軸方向内側に向かうほど狭くなる。
【0051】
図示の例では、係合凹部14の軸方向内側の端部は、貫通孔13の開口部の軸方向内側の端部と、ほぼ同じ軸方向位置に位置している。ただし、本発明を実施する場合には、係合凹部14の軸方向内側の端部を、図示の位置よりも軸方向外側に位置させることもできるし、軸方向内側に位置させることもできる。また、それぞれの溝壁面12の軸方向両外側の端部に備えられた係合凹部14を構成する凹溝同士を、軸方向に連続させることもできる。換言すれば、それぞれの溝壁面12の全長にわたって凹溝を形成し、該凹溝の軸方向両外側部分のそれぞれにより、係合凹部14を構成することもできる。収容凹溝10の軸方向外側の端部のそれぞれに備えられた1対の係合凹部14は、
図11に示すように、たとえばひし形の断面形状(そろばんの珠のごとき断面形状)を有する切削工具27を、収容凹溝10の軸方向の開口部側から軸方向内側に向けて移動させることで、1対の溝壁面12に同時に形成することができる。
【0052】
〈ボール〉
ボール4は、所定の直径を有する鋼球であり、負荷路8および循環路9に転動可能に配置されている。負荷路8に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環路9に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール4に押されて転動する。
【0053】
〈循環部品〉
循環部品5は、金属粉末射出成形法(MIM)によって製造された、金属粉末を原料とする射出成形品であり、ナット3の収容凹溝10の内側に配置されている。循環部品5を構成する金属粉末(MIM用合金)としては、たとえば、Fe−Ni−C(1〜8%Ni〜0.8%C)、Fe−Cr−C(0.5〜2%Cr0.4〜0.8%C)、SCM415、SUS630などを使用することができる。
【0054】
循環部品5は、
図12および
図13に示すように、本体部15と、1対の脚部16と、1対の固定部17とを有する。循環部品5は、長さ方向(軸方向)中央部を中心とした回転対称形状を有する。
【0055】
本体部15は、長尺な板状に構成されており、長さ方向を軸方向に一致させた状態で、ナット3の収容凹溝10の内側に、本体部15に対し負荷の加わらない程度の隙間(微小隙間)を介在させて配置されている。このため、循環部品5を収容凹溝10の内側に配置した状態で、本体部15の円周方向両側面は、1対の溝壁面12に対して隙間を介して対向する。本体部15は、収容凹溝10の円周方向の幅寸法Hよりもわずかに小さい幅寸法を有する。なお、本発明を実施する場合に、本体部を収容凹溝の内側に円周方向のがたつきなく配置する(嵌め込む)ことで、ナットに対する循環部品の円周方向に関する位置決めを図ることもできる。
【0056】
本体部15は、溝底面11に対向する径方向内側面(下面)に、軸方向に直線状に延びた、本体側凹溝18を有している。本体側凹溝18は、溝底面11の軸方向中間部(1対の貫通孔13の開口部同士の間の平坦面部)との間で、循環路9の一部(後述する戻し経路24)を形成する。
図6に示すように、本体側凹溝18の断面の溝形状は、半長円形状である。本体側凹溝18は、ボール4の直径Dよりもわずかに大きな溝幅を有し、ボール4の直径Dよりもわずかに大きな溝深さを有する。本体部15の径方向内側面からの本体側凹溝18の溝深さは、軸方向中間部においては、軸方向にわたり変化しないが、軸方向両外側の端部においては、軸方向外側に向かうほど曲線的に小さくなる。本体部15の径方向内側面のうち、本体側凹溝18から円周方向に外れた部分は、溝底面11に対して着座する。本例では、本体部15を収容凹溝10の内側に配置し、本体部15の径方向内側面の一部を溝底面11に当接させることで、ナット3に対する循環部品5の径方向に関する位置決めを図っている。
【0057】
本体部15の径方向外側面(上面)は、ナット3の外周面から径方向外側に張り出さないように、溝底面11と略平行な平坦面状に構成されている。ただし、本体部15の径方向外側面を、ナット3の外周面の曲率半径とほぼ同じ曲率半径を有する、部分円筒面状に構成することもできる。
【0058】
1対の脚部16を構成するそれぞれの脚部16は、略半筒状に構成されている。1対の脚部16は、本体部15の軸方向両外側の端部の径方向内側面から径方向内側に向けて伸長する。それぞれの脚部16は、ナット3に形成されたそれぞれの貫通孔13の内側に、径方向外側から挿入されている。本例では、脚部16を、貫通孔13の内側に、脚部16に対し負荷の加わらない程度の隙間(微小隙間)を介在させて挿入している。脚部16の先端部(径方向内側の端部)は、負荷路8を転動するボール4を掬い上げ、循環路9へと導くための、舌片状の掬い上げ部19を有する。掬い上げ部19は、軸側ボールねじ溝6の内側に配置される。脚部16には、本体部15に備えられた本体側凹溝18の軸方向外側の端部に滑らかにつながった、脚部側凹溝20が備えられている。脚部側凹溝20は、貫通孔13の内周面のうちで、軸方向外側を向いた部分に対して開口している。
【0059】
本例では、1対の固定部17を構成するそれぞれの固定部17は、略U字形の断面形状を有する。1対の固定部17は、本体部15の軸方向両外側に配置されている。すなわち、1対の固定部17は、
図3および
図4に示すように、1対の脚部16から軸方向外側に外れた、循環部品5の軸方向両外側の端部に配置されている。それぞれの固定部17は、薄肉平板状の基板部21および1対の側板部22を有する。
【0060】
基板部21は、溝底面11に対して隙間なく載置されている。1対の側板部22は、基板部21の円周方向(幅方向)両側に配置されており、基板部21に対し径方向外側に向けて略直角に折れ曲がっている。すなわち、1対の側板部22は、1対の溝壁面12に対向する(重ね合わせる)ように配置されている。また、基板部21の円周方向両側の端部は、1対の側板部22の径方向内側の端部にそれぞれつながっている。1対の側板部22は、後述する1対の係合凸部23を形成する以前の状態では、
図12および
図13に示すように、それぞれ薄肉平板状に構成されており、本体部15の幅寸法と同じ幅寸法を有する。ただし、1対の側板部22は、循環部品5をナット3に固定した状態では、
図8に示すように、塑性変形によってそれぞれの係合凹部14に押し付けられたかしめ部により構成される、1対の係合凸部23を備える。
【0061】
1対の係合凸部23は、循環部品5を収容凹溝10の内側に配置した状態で、固定部17の径方向外側に配置した図示しないパンチを径方向内側に向けて移動させ、1対の側板部22の径方向外側部を、円周方向(板厚方向)に塑性変形させることで形成されている。すなわち、前記パンチにより、1対の側板部22の径方向外側部を、円周方向に押し広げることで、それぞれの係合凸部23を同時に形成している。1対の係合凸部23は、溝壁面12に備えられた1対の係合凹部14の内側に入り込み、1対の係合凹部14に押し付けられている。これにより、1対の係合凸部23は、1対の係合凹部14に対し径方向外側への変位を不能に係合する。具体的には、それぞれの係合凸部23の円周方向の端部が、それぞれの係合凹部14の径方向外側の端部と係合することで、1対の係合凸部23が、1対の係合凹部14に対し径方向外側へ変位することが阻止される。本例では、循環部品5の軸方向両外側の端部に備えられた、それぞれの固定部17ごとに、1対の係合凸部23を1対の係合凹部14に係合させて、1対の固定部17を、ナット3に対して径方向外側への脱落(変位)を不能にかしめ固定している。また、これにより、ナット3に対する循環部品5の径方向の位置決めを図っている。さらに、それぞれの固定部17ごとに、1対の係合凸部23を1対の係合凹部14に押し付けることで、ナット3に対する循環部品5の円周方向への変位を不能とし、ナット3に対する循環部品5の円周方向の位置決めも図っている。
【0062】
本例では、それぞれの側板部22の径方向外側部のうちの軸方向中間部のみを、円周方向に塑性変形させて、当該部分に係合凸部23を形成している。また、それぞれの側板部22の径方向外側部に係合凸部23を形成することにより、側板部22のうちで係合凸部23から外れた部分を、収容凹溝10の溝壁面12に押し付けている。
【0063】
本例では、循環部品5をナット3に対して取り付けた状態で、循環部品5とナット3との間部分に、循環路9が形成される。すなわち、循環路9は、循環部品5のみではなく、循環部品5とナット3とにより構成されている。具体的には、循環路9は、本体側凹溝18と収容凹溝10の溝底面11との間に形成された断面半長円形状の空間、および、脚部側凹溝20と貫通孔13の内周面との間に形成された断面略円形状の空間により構成されている。循環路9は、負荷路8の始点と終点とにそれぞれ接続される。負荷路8の始点および終点とは、別な言い方をすれば、負荷路8と循環路9との接続点(境界)であり、掬い上げ部19による掬い点である。なお、負荷路8の始点と終点とは、ねじ軸2とナット3との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)が変わり、ボール4の移動方向が変化することに伴って、入れ替わる。
【0064】
本例では、循環路9は、負荷路8との干渉を避けられる経路を有しており、戻し経路24と、1対の掬上経路25と、1対の繋ぎ経路26とを有する。より具体的には、 循環路9は、負荷路8の終点から始点の間に順に配置された、掬上経路25、繋ぎ経路26、戻し経路24、繋ぎ経路26、および掬上経路25により構成されている。すなわち、掬上経路25は、負荷路8および繋ぎ経路26に接続する。繋ぎ経路26は、掬上経路25および戻し経路24に接続する。戻し経路24は、それぞれの繋ぎ経路26に接続する。
【0065】
戻し経路24は、軸方向に関して、負荷路8の始点側へとボール4を戻す役割を有する。戻し経路24は、本体側凹溝18の軸方向中間部と、溝底面11のうち1対の貫通孔13の開口部同士の間の平坦面部分とにより構成されている。戻し経路24は、負荷路8の径方向外側(ナット3の外部)に配置されている。戻し経路24は、軸方向に直線状に延びる、ねじ軸2の中心軸O
2と平行な中心線を有する。これにより、本例では、負荷路8の始点と終点との円周方向に関する位相を近づけ、好ましくは、始点と終点との円周方向に関する位相を一致させて、負荷路8の巻き数を整数に近づけることができる。
【0066】
掬上経路25は、負荷路8の終点においてボール4を掬い上げるとともに、負荷路8の始点にボール4を供給する役割を有する。掬上経路25は、脚部側凹溝20のうちの径方向内側部分と貫通孔13の内周面のうちの径方向内側部分とにより構成されている。掬上経路25の中心線は、軸方向から見て、円弧状に湾曲している。
【0067】
繋ぎ経路26は、掬上経路25と戻し経路24とをつなぐ役割を有する。繋ぎ経路26は、脚部側凹溝20のうちの径方向外側部分と貫通孔13の内周面のうちの径方向外側部分、および、本体側凹溝18の軸方向外側の端部と、溝底面11に開口した貫通孔13の開口縁部のうちの軸方向内側部分とにより構成されている。繋ぎ経路26の中心線は、円周方向から見て、少なくともその一部が円弧状に湾曲している。
【0068】
本例のボールねじ装置1では、1対の貫通孔13の形成位置の精度を緩和することができるとともに、ナット3に対する循環部品5の固定力を高めることができる。
【0069】
すなわち、本例では、循環部品5を、軸方向両外側の端部に備えられた固定部17ごとに、1対の係合凸部23を1対の係合凹部14に対して係合させることで、ナット3に対する循環部品5の径方向外側への変位および円周方向への変位をそれぞれ不能とし、ナット3に対する循環部品5の径方向および円周方向の位置決めを図っている。このため、本例のボールねじ装置1は、従来構造のボールねじ装置とは異なり、循環部品5を構成する1対の脚部16を、ナット3に備えられた1対の貫通孔13に挿入することで、ナット3に対する循環部品5の位置決めを図る必要がない。したがって、1対の貫通孔13を構成するそれぞれの貫通孔13の形成位置の精度を緩和することができる。この結果、いずれかの貫通孔13の形成位置が正規の位置からずれた場合であっても、循環部品5に変形が生じることが抑制される。これにより、循環部品5の変形に起因して、循環路9の内側でボール4の詰まりが発生することを抑制でき、ボール4の円滑な循環を実現することができる。また、貫通孔13の加工コストを低減することもできる。
【0070】
本例では、1対の側板部22のうちで、1対の係合凸部23から外れた部分を1対の溝壁面12に押し付けているため、循環部品5がナット3に対して円周方向に変位することを有効に抑制することができる。
【0071】
本例では、収容凹溝10に備えられた円周方向に対向する1対の係合凹部14の溝底部同士の円周方向幅を、1対の係合凹部14の軸方向内側部で、軸方向内側に向かうほど狭くしている。このため、1対の係合凹部14に対して係合した1対の係合凸部23が、軸方向内側に変位することが制限される。したがって、循環部品5が、ナット3に対して軸方向に変位するのを抑制することもできる。
【0072】
本例では、循環部品5の軸方向両外側の端部に備えられた固定部17ごとに、1対の係合凸部23を1対の係合凹部14に対し係合させて、固定部17を、ナット3に対して径方向外側への脱落を不能にかしめ固定している。このため、本例では、従来構造のように、脚部を貫通孔に挿入(圧入)することのみによって固定力を得る場合に比べて、ナット3に対する循環部品5の固定力を十分に高めることができる。したがって、循環部品5が、収容凹溝10から径方向外側に抜け出る(浮き上がる)ことを有効に防止することができる。また、循環部品5をナット3に固定するために、ビスなどの固定部材を使用しなくて済むため、部品点数が増加することを防止でき、かつ、その製造コストの低減を図ることができる。
【0073】
本例では、固定部17を、脚部16から軸方向に外れた位置に配置しているため、それぞれの固定部17を構成する1対の側板部22にパンチから加えられる力が、それぞれの脚部16に伝わることを制限することができる。このため、1対の側板部22に1対の係合凸部23を形成する際に、脚部16に変形が生じることを抑制することができる。また、1対の係合凸部23を、1対の側板部22の径方向外側部に形成しているため、1対の係合凸部23の円周方向への張り出し量(突出量)を大きく確保できる。さらに、1対の側板部22の径方向外側部のうちの軸方向中間部のみを円周方向に塑性変形させて、当該部分に1対の係合凸部23を形成しているため、1対の係合凸部23を形成することに伴って、ナット3に大きな力が加わることを防止できるため、ナット3に変形が生じることを抑制することができる。
【0074】
本例では、1対の側板部22に1対の係合凸部23を形成する際に、基板部21を溝底面11に載置した状態で、図示しないパンチを径方向内側に向けて移動させるため、溝底面11を受け面として利用できる。このため、パンチから1対の側板部22へと効率良く力を伝えることが可能になり、それぞれの側板部22を十分に塑性変形させられる。したがって、係合凸部23を係合凹部14に向けてしっかりと押し込み、係合させることができる。
【0075】
本例では、循環部品5の全体を収容凹溝10の内側に配置しているため、ナット3の外周面に収容凹溝10を形成することに伴って、ナット3の剛性が低下することを抑制することができる。また、循環部品5を、収容凹溝10から径方向外側に張り出さないように、収容凹溝10の内側に配置しているため、ボールねじ装置1が大型化することを抑制することができる。
【0076】
本例では、循環部品5は、軸方向中央部を中心とした回転対称形状を有しているため、循環部品5の組み付け方向の制約を緩和することができる。このため、組み立て工数を低減することができ、組立コストを低減する上で有利になる。
【0077】
なお、本例では、1対の溝壁面12の軸方向両外側のそれぞれの端部に、1対の係合凹部14を設け、1対の固定部17のそれぞれに1対の係合凸部23を設けて、収容凹溝10の軸方向両外側のそれぞれの端部において、1対の係合凹部14と1対の係合凸部23とを係合させている。ただし、係合凹部と係合凸部との係合により、ナットに対する循環部品の径方向外側への変位および円周方向への変位を不能とすることが可能である限り、本発明は、この図示の例に限定されることはない。たとえば、1対の溝壁面12の軸方向両外側のそれぞれの端部に、1個の係合凹部14を設け、1対の固定部17のそれぞれに1個の係合凸部23を設けて、収容凹溝10の軸方向両外側のそれぞれの端部において、1個ずつの係合凹部14と係合凸部23とを係合させることも可能である。より具体的には、一方の溝壁面の軸方向一方側の端部に、1個の係合凹部を設け、他方の溝壁面の軸方向他方側の端部に、1個の係合凹部を設け、軸方向一方側に配置される固定部の1対の側板部のうち、前記一方の溝壁面側に配置された側板部のうちの、軸方向一方側の係合凹部に対応する部分にのみ係合凸部を形成し、かつ、軸方向他方側に配置される固定部の1対の側板部のうち、前記他方の溝壁面側に配置された側板部のうちの、軸方向他方側の係合凹部に対応する部分にのみ係合凸部を形成することも可能である。このような構成も、本発明の範囲に含められる。
【0078】
[第2例]
本発明の実施の形態に第2例について、
図14〜
図17を用いて説明する。
【0079】
本例のボールねじ装置1aでは、循環部品5aが備える1対の固定部17aの構成を、第1例の構造から変更している。具体的には、1対の固定部17aを構成するそれぞれの固定部17aは、収容凹溝10の1対の溝壁面12に対して対向する(重ね合わせる)ように配置される、1対の側板部22のみから構成されている。すなわち、それぞれの固定部17aは、収容凹溝10の溝底面11に載置される基板部を備えていない。
【0080】
本例のボールねじ装置1aでは、1対の側板部22を1対の溝壁面12に対して強く押し付けることが可能になるため、循環部品5aがナット3に対して円周方向に変位することをより有効に抑制することができる。また、第1例の構造に比べて、2つの基板部が省略されているため、循環部品5aの軽量化を図ることもできる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0081】
本発明を実施する場合に、上記の実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【0082】
本発明を実施する場合に、収容凹溝を構成する1対の溝壁面は、互いに平行な構成に限らず、たとえば、径方向外側に向かうほど円周方向に関して互いに離れる方向に傾斜した構成を採用することもできる。このような構成を採用した場合には、収容凹溝の断面形状は、台形状となる。
【0083】
本発明を実施する場合に、循環部品を合成樹脂製とすることもできる。この場合には、合成樹脂として、たとえばポリアミド66樹脂に、グラスファイバーを適宜加えた繊維強化ポリアミド樹脂材料を使用することができる。また、必要に応じて、ポリアミド樹脂に、非晶性芳香族ポリアミド樹脂(変性ポリアミド6T/6I)、低吸水脂肪族ポリアミド樹脂(ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアミド612樹脂)を適宜加えることで、より耐水性を向上させることもできる。循環部品を合成樹脂製とする場合には、固定部に備える係合凸部を、ナットの収容凹溝に備えられた係合凹部に対して、スナップフィットにより係合させることができる。
ナット(3)の外周面に、軸方向に直線状に延び、ナット(3)の軸方向両外側の端面に開口する収容凹溝(10)が設けられる。循環部品(5)は、収容凹溝(10)の内側に配置される。循環部品(5)は、その軸方向両外側のそれぞれの端部に備えられた固定部(17)の係合凸部(23)を、収容凹溝(10)の軸方向両外側のそれぞれの端部に備えられた係合凹部に係合させることで、ナット(3)に対する循環部品(5)の径方向外側への変位および円周方向への変位を不能としている。